説明

静電容量式タッチパッド入力装置

【課題】駆動電極及び検出電極の敷設密度のばらつきに係わらず、操作面内における物体の検出感度のばらつきが良好に抑制される静電容量式タッチパッド入力装置の提供。
【解決手段】静電容量式タッチパッド入力装置は、入力信号及び出力信号に基づき、操作面上に検出物体が存在すると推定される座標を算出するとともに前記座標における静電容量の変化量に対応する検出値を算出し、検出値を前記座標に割り当てられた閾値と比較して操作面上の検出物体の有無を判定する制御手段を備える。閾値は座標毎に割り当てられ、閾値のうち、駆動電極(34)及び検出電極(35)のうち少なくとも一方の敷設密度が小さい領域の座標に割り当てられる閾値は、敷設密度が大きい領域の座標に割り当てられる閾値に比べて小さい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物体の触れた位置に応じて外部機器に命令を入力する静電容量式タッチパッド入力装置に関する。
【背景技術】
【0002】
静電容量式タッチパッド入力装置は、例えば、パーソナルコンピュータの入力装置として広く使用されており、近年では、車両用ナビゲーションシステム等の入力装置としても使用されている。
静電容量式タッチパッド入力装置はパネル部材を有し、パネル部材の裏側には電極群が配置されている。電極群は、例えば、駆動電極としてのX電極及びY電極と、検出電極とからなり、駆動電極及び検出電極は、フィルム基板によって支持されている。
【0003】
そして、フィルム基板の裏側には、プリント基板が配置され、プリント基板には、駆動電極及び検出電極と協働してパネル部材に接触した物体の位置を検出するための制御回路が設けられている。
具体的には、指などの誘電体がパネル部材に触れると、駆動電極と検出電極の間の静電容量が変化し、静電容量の変化に応じた出力が検出電極から得られる。この出力に基づいて、制御回路は、パネル部材上の誘電体の接触位置を特定し、そして、この位置に応じた命令をパーソナルコンピュータ等の外部機器に入力する。
【0004】
この種の静電容量式タッチパッド入力装置では、パネル部材に透明な文字等を描いておき、パネル部材の裏側から文字に光を照射して文字を浮かびあがらせることが行われている。そのために、フィルム基板には、光を通過させるための切抜孔が設けられ、駆動電極及び検出電極は切抜孔を避けるように形成される。
ただし、切抜孔に重なる操作面の文字等の領域では、他の領域に比べて物体の検出感度が低下してしまう。そこで、文字等の領域での検出感度の低下を抑えて操作面内での物体の検出感度のばらつきを抑制するために、駆動電極及び検出電極に補助電極を一体に形成することが行われている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−12110号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
確かに、従来技術のように、駆動電極や検出電極の形状に変更を加えて補助電極を設けることによって、フィルム基板に切抜孔を設けた場合でも、操作面内における検出感度の平均化が図られ、位置検出精度が向上するものと考えられる。
しかしながら、切抜孔の面積や形状によっては、充分な長さの補助電極を設けられないことがある。このような場合、切抜孔に重なる操作面の領域における検出感度の低下を補助電極のみでは補いきれない。
【0007】
また、フィルム基板の周縁に重なる操作面の領域でも、検出感度は低くなり易いが、フィルム基板の周縁では、駆動電極や検出電極の形状の設計変更によって検出感度を高めることは困難である。
つまり、駆動電極及び検出電極の敷設密度にばらつきがある場合、駆動電極や検出電極の形状の設計変更のみでは、操作面内における検出感度の平均化を更に図ることは困難である。
【0008】
本発明の目的は、駆動電極及び検出電極の敷設密度のばらつきに係わらずに、操作面内における物体の検出感度のばらつきが良好に抑制される静電容量式タッチパッド入力装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様によれば、表側を操作面とするパネル部材と、前記パネル部材の裏側に敷設され、入力信号が印加される駆動電極と、前記パネル部材の裏側に前記駆動電極と静電的に結合可能なように敷設され、前記入力信号に基づいて、前記駆動電極との間の静電容量に対応する出力信号を出力する検出電極と、前記入力信号及び前記出力信号に基づき、前記操作面上に検出物体が存在すると推定される座標を算出するとともに前記座標における静電容量の変化量に対応する検出値を算出し、前記検出値を前記座標に割り当てられた閾値と比較して前記操作面上の前記検出物体の有無を判定する制御手段とを備える静電容量式タッチパッド入力装置であって、前記閾値は座標毎に割り当てられ、前記閾値のうち、前記駆動電極及び前記検出電極のうち少なくとも一方の敷設密度が小さい領域の座標に割り当てられる閾値は、前記敷設密度が大きい領域の座標に割り当てられる閾値に比べて小さいことを特徴とする静電容量式タッチパッド入力装置が提供される(請求項1)。
【0010】
一態様の静電容量式タッチパッド入力装置では、駆動電極及び検出電極のうち少なくとも一方の敷設密度が小さい領域の座標には、小さい閾値が割り当てられる。このため、駆動電極及び検出電極の敷設密度の違いに基づいて検出電極の出力信号にばらつきがあっても、操作面上の検出物体の有無の判定が、操作面の全域に渡って的確に実行される。換言すれば、この静電容量式タッチパッド入力装置によれば、操作面における物体の検出感度のばらつきが良好に抑制される。この結果として、この静電容量式タッチパッド入力装置は、物体の位置検出精度において優れ、ひいては操作性においても優れている。
【0011】
好ましくは、前記駆動電極及び前記検出電極が敷設される少なくとも1つの電極基板と、前記電極基板に対し前記パネル部材とは反対側に配設され、前記電極基板を通して前記パネル部材に向かって光を照射する発光体とを更に備え、前記駆動電極及び前記検出電極は、前記発光体が発する光の光路を避けるように敷設され、前記閾値のうち前記光路に相当する座標に割り当てられる閾値は、前記光路に相当しない座標に割り当てられる閾値よりも小さい。(請求項2)。
【0012】
好ましい態様の静電容量式タッチパッド入力装置では、発光体の光路の面積や形状に関わらず、発光体の光路に相当する領域での検出感度の低下が防止され、検出感度のばらつきが的確に抑制される。
【0013】
好ましくは、前記閾値のうち前記操作面の周縁部の座標に割り当てられる閾値は、前記操作面の中央部の座標に割り当てられる閾値よりも小さい(請求項3)。
【0014】
好ましい態様の静電容量式タッチパッド入力装置では、操作面の周縁部での検出感度の低下が防止され、検出感度のばらつきが的確に抑制される。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、駆動電極及び検出電極の敷設密度のばらつきに係わらず、操作面内における物体の検出感度のばらつきが良好に抑制される静電容量式タッチパッド入力装置及び当該装置のための接触位置検出方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】車両の車室の前側における一実施形態の静電容量式タッチパッド入力装置の配置を例示する概略的な斜視図である。
【図2】図1の静電容量式タッチパッド入力装置の概略的な斜視図である。
【図3】図2の静電容量式タッチパッド入力装置の概略的な分解斜視図である。
【図4】図2のIV-IV線に沿う概略的な断面図である。
【図5】図2の静電容量式タッチパッド入力装置に用いられたフィルム基板の概略的な平面図である。
【図6】図2のタッチパッド入力装置の電気回路を示すブロック図である。
【図7】図2のタッチパッド入力装置が実行する接触位置検出方法の概略的なフローチャートである。
【図8】図7の検出方法を説明するための図である。
【図9】図5中の検出領域に割り当てられた閾値の分布を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の一実施形態に係る静電容量式タッチパッド入力装置(以下では、単にタッチパッド入力装置ともいう)10について、図面を参照して説明する。なお、図面においては、タッチパッド入力装置10の構成を理解しやすくするために、部材の大きさや厚さが適宜変更して描かれている。
【0018】
図1は、車両の車室の前側を部分的に示している。タッチパッド入力装置10は、ナビゲーション装置、空調装置、及び、オーディオ装置等を乗員が操作するための入力装置としての機能を有する。このため、タッチパッド入力装置10は、乗員が操作し易い位置、例えば、インストルメントパネル12からセンターコンソールまでの適当な位置に固定される。
タッチパッド入力装置10は、パネル部材14を有し、例えば、パネル部材14が表出した状態にて、インストルメントパネル12に埋め込まれる。乗員は、操作面としてのパネル部材14の表面に触ることによって、ナビゲーション装置、空調装置、及び、オーディオ装置等の外部機器を操作可能である。
【0019】
図2は、タッチパッド入力装置10の外観を示す概略的な斜視図である。パネル部材14は透明若しくは半透明の樹脂製であり、図2に示されるように、例えば、ハウジング15の一部を一体に構成している。ハウジング15は、ボックス形状、即ち中空の直方体形状を有し、ハウジング15の1つの面は開口している。開口とは反対側のパネル部材14の表面が操作面となっている。
【0020】
パネル部材14の表面には、任意の文字、記号又は図形が直接描かれていてもよく、あるいは、文字、記号又は図形が描かれたシールが貼られていてもよい。例えば本実施形態では、“A”、“B”、“C”及び“D”の4つの文字16の部分を除き、パネル部材14の表面の略全面に黒色塗装17が施されている。4つの文字16は、レーザエッチングにより黒色塗装17を部分的に除去することによって描かれている。
なお、本明細書では、パネル部材14の表面に付与された塗装やシールも、パネル部材14の表面の一部とみなす。
【0021】
パネル部材14の四つの辺縁には、周壁18が直角にそれぞれ一体に連なっている。周壁18の外面には、複数の突出部20が一体に形成され、突出部20には螺子孔22がそれぞれ形成されている。螺子孔22は、インストルメントパネル12に対してタッチパッド入力装置10を螺子で固定するために使用される。
また、周壁18のパネル部材14とは反対側には、複数の係合孔24が形成されている。
【0022】
図3は、タッチパッド入力装置10を分解して示す概略的な斜視図であり、図4は、図2のIV-IV線に沿う概略的な断面図である。なお、図2及び図3においては、説明の都合上、パネル部材14における文字16の色と文字16以外の部分の色が反転している。
図3及び図4に示されるように、ハウジング15の内側には、フィルム基板30、ホルダ40、第1のプリント基板50、及び、第2のプリント基板60が収容されている。
【0023】
フィルム基板30は絶縁性を有する樹脂製のシートからなり、パネル部材14の形状に略等しい長方形の外径形状を有する。フィルム基板30には、“A”、“B”、“C”及び“D”の4つの文字16の配列に対応して、4つの四角形の開口部32a,32b,32c,32dが形成されている。これらのうち開口部32b,32dの形状は略正方形であるのに対し、開口部32a,32cの形状は長方形である。なお以下では、これらの開口部32a,32b,32c,32dを区別せずに、まとめて開口部32とも称する。
また、フィルム基板30には、リード33が一体に連なっている。リード33は長方形形状を有し、フィルム基板30の外縁から第2のプリント基板60まで延びている。
【0024】
ここで図5に示されるように、フィルム基板30には、複数の駆動電極34及び一つの検出電極35が一体に形成されている。換言すれば、フィルム基板30は、駆動電極34及び検出電極35を支持している。そして、駆動電極34及び検出電極35は、パネル部材14の表面に接触した物体の位置を検出するために、所定のパターンにて、フィルム基板30の全域に渡ってそれぞれ延びている。
なお、本発明において、パネル部材14の表面に接触するという表現には、現実に接触している場合のみならず、パネル部材14の表面近傍まで接近した場合も含まれる。
【0025】
より詳しくは、検出電極35は、図5において実線で示され、略櫛歯形状を有する。ただし、検出電極35の櫛の歯に相当する直線部35aには、直交する複数の枝部35bが設けられるとともに、開口部32b,32dを囲む角張ったCの字形状の迂回部35c,35cが介挿されている。迂回部35c,35cを設けることによって、検出電極35は、フィルム基板30の開口部32b,32dを回避している。また、検出電極35の枝部35bのうち、フィルム基板30の開口部32a,32c近傍の枝部35bの長さは、開口部32a,32cを回避するように、他の枝部35bの長さに比べて短縮されている。
【0026】
駆動電極34は、図5において実線で示された複数のY電極36と、図5において破線で示された複数のX電極37、例えば4本のX電極37a,37b,37c,37dとを含む。フィルム基板30において、複数のY電極36及び検出電極35が同じ層内に形成され、X電極37は、Y電極36及び検出電極35とは別の層内に形成されている。則ち、フィルム基板30は多層構造を有する。
【0027】
Y電極36は、検出電極35の直線部35aと噛み合うように直線部35a同士の間に配列され、直線部35aと並行に延びている。
X電極37は、フィルム基板30において、検出電極35の直線部35a及びY電極36に対して直交する方向に延びている。従って、検出電極35の直線部35a及びY電極36は、X電極37の長手方向にて相互に離間している。X電極37は開口部32を避けて配列され、X電極37同士は、Y電極36の長手方向にて相互に離間している。
なお、以下では、検出電極35の直線部35a及びY電極36の長手方向をX方向ともいい、X電極37の長手方向をY方向ともいう。
【0028】
リード33には、複数の信号線38が形成され、信号線38は、駆動電極34及び検出電極35とリード33の先端に形成されたコネクタ端子39とを繋いでいる。なお、図5においては、X電極37に繋がる信号線38も破線で示されている。
【0029】
再び図3及び図4を参照すると、ホルダ40は、樹脂からなるステージ41を含んでいる。ステージ41は、フィルム基板30と略同じ長方形の平面視形状を有し、ステージ41にも、文字16の配列に対応して、複数の開口部42a,42b,42c,42dが形成されている。これらの開口部42a,42b,42c,42dについても、以下では相互に区別せずに、まとめて開口部42とも称する。
開口部32,42は、フィルム基板30及びステージ41の積層方向にて相互に重なり合い、略同じ輪郭を有する。
【0030】
そして、ホルダ40は、ステージ41と一体に形成された複数の弾性片43を有する。弾性片43は、積層方向にて、ステージ41の外縁から、パネル部材14とは反対側に向けて延びている。弾性片43の先端側は、ステージ41の外縁よりも外側に向けて斜めに曲げられており、弾性片43の先端は、ハウジング15の係合孔24に受け容れられる。
【0031】
ハウジング15内にホルダ40を配置する際、ハウジング15の開口からパネル部材14に向けてホルダ40が押し込まれるのに連れて、弾性片43は周壁18によって押されて弾性変形する。そして、弾性片43の先端が係合孔24に受け容れられたときに、弾性片43の弾性変形が緩和される。かくして弾性片43の先端が係合孔24に受け容れられると、弾性片43の先端が係合孔24と係合する。
【0032】
弾性片43の先端と係合孔24の係合は解除可能であるが、当該係合を解除しない限り、ハウジング15内にホルダ40を更に押し込むことはできず、また、ハウジング15からホルダ40を取り出すこともできない。つまり、弾性片43及び係合孔24は、ハウジング15に対してホルダ40を固定する固定手段を構成している。
【0033】
第1のプリント基板50は、ステージ41よりも小の長方形形状を有し、第1のプリント基板50のステージ41側には、文字16の配列に対応して、発光素子としての4つのLED51が配置されている。
LED51は、積層方向にて相互に連通する開口部42,32を通じて、パネル部材14の文字16に向けて光を出射する。パネル部材14は透明若しくは半透明であり、文字16の部分では、黒色塗装17が除去されているため、LED51が光を出射すると、文字16がパネル部材14の表面に浮かび上がる。
なお、LED51が消灯状態にあるときは、ハウジング15内は暗いため、パネル部材14において文字16は目立たない。
【0034】
なお、ステージ41には第1のプリント基板50側に複数の爪66が一体に形成されており、爪66が第1のプリント基板50の外縁に係合することで、第1のプリント基板50がステージ41に対し固定される。
【0035】
更に、第1のプリント基板50のステージ41とは反対側には、LED51を点灯させる点灯回路を構成する電気部品(図示せず)と、点灯回路を外部と接続するためのコネクタ55が搭載されている。
【0036】
第2のプリント基板60は、第1のプリント基板50と略同じ長方形形状を有する。ただし、第2のプリント基板60には、リード33の通過を許容する切欠きが形成されている。
第2のプリント基板60の第1のプリント基板50とは反対側には、リード33が接続されるコネクタ61が搭載されている。そして、第2のプリント基板60には、駆動電極34と検出電極35の間の静電容量の変化に基づいて物体の位置を検出するための位置検出回路若しくは制御回路を構成するICチップ62等の電気部品が搭載されている。更に、第2のプリント基板60には、コネクタ61と同じ側に、タッチパッド入力装置10を外部機器と接続するための他のコネクタ63が搭載されている。
【0037】
一方、第2のプリント基板60の第1のプリント基板50側には、更に別のコネクタ64が搭載され、コネクタ64は、第1のプリント基板50に搭載されたコネクタ55に連結される。
これらコネクタ55及びコネクタ64を介して、第2のプリント基板60は、第1のプリント基板50によって支持されるのみならず、位置検出回路と点灯回路とが接続される。
なお、ホルダ40のステージ41には、複数の支柱47が一体に設けられ、支柱47は、積層方向にて、パネル部材14とは反対方向に向けて延びている。各支柱47は、第2のプリント基板60の外縁に当接しており、支柱47によって、第1のプリント基板50に対する第2のプリント基板60の傾斜が防止される。
【0038】
図6は、位置検出回路及び点灯回路の構成を示している。なお、図6においては、X電極37a,37b,37c,37dの各々が描かれている。Y電極36もX電極37と同様であるが、ここでは省略する。
位置検出回路は、制御部70を備え、制御部70は、入力信号として駆動電極34に印加される電圧を走査する。
そして、制御部70は、検出電極35からの出力信号として、駆動電極34の各々と検出電極35の間の静電容量、則ち、駆動電極34の各々と検出電極35の間に蓄えられる電気エネルギーの量に対応する電圧を取得する。そして、制御部70は、取得した検出電極35からの出力に基づいて、パネル部材14における物体の接触位置を演算し、演算結果に基づいて、外部機器に向けて命令を出力する。
一方、制御部70は、必要に応じてLED51を点灯させる。
【0039】
以下、タッチパッド入力装置10が実行する操作面に対する物体の接触位置検出方法について、図7及び図8を用いて説明する。
まず、制御部70は、Y電極36及びX電極37に順々に電圧を印加し、この間、Y電極36及びX電極37の各々と検出電極35との間の静電容量に対応する出力を取得する(ステップS10)。
【0040】
ここで、図8には、時間Tがt1、t2、t3及びt4と変化するのに伴い、X電極37a,37b,37c,37dの入力が順次変化する様子が示されている。なお、図8に示したように、X電極37a,37b,37c,37dのX方向での座標は、それぞれx1,x2,x3,x4である。そして、図8の最下段には、取得された検出電極35の出力が棒グラフにて示されている。
なお、図8では、X電極37についてのみ例示されている。
【0041】
次に、制御部70は、検出電極35の出力のX方向における分布関数Vx(x)及びY方向における分布関数Vy(y)を求める(ステップS12)。なお、図8の最下段には、X方向における分布関数Vx(x)が曲線にて示されている。
【0042】
それから、制御部70は、求めた分布関数Vx(x),Vy(y)に基づいて、操作面に対して物体が接触していると推定される位置(以下、推定接触位置という)の座標(xe,ye)を求める(ステップS14)。そして、制御部70は、座標(xe,ye)に対応する分布関数Vx(x)の関数値Vx(xe)を求める(ステップS16)。
例えば、座標(xe,ye)は、分布関数Vx(x)の関数値が最小となる座標であり、この場合、座標(xe,ye)及び関数値Vx(xe)が同時に求められることになる。
【0043】
この後、制御部70は、推定接触位置に物体が接触したことによる、関数値Vx(xe)の変化量(検出値)ΔVx(xe)を推定する(ステップS18)。
本実施形態では、制御部70は、検出電極35からの出力の最大値Vxmaxと関数値Vx(xe)との差を変化量ΔVx(xe)として演算する。最大値Vxmaxは、実際に測定された、X電極37に電圧が印加されたときの検出電極35の出力の最大値である。なお、検出電極35の出力の最大値は、分布関数Vx(x)の最大値に略等しい。また、物体の接触を判定するにあたり、変化量ΔVx(xe)が得られれば十分であるので、変化量ΔVy(ye)は求めない。
【0044】
それから、制御部70は、変化量ΔVx(xe)と閾値Th(xe,ye)を比較する(ステップS20)。
ステップS20の比較の結果、変化量ΔVx(xe)が閾値Th(xe,ye)よりも大きければ、制御部70は、推定接触位置に対し物体が接触していると判定し、当該位置に対応する命令を外部機器に送信し(ステップS22,S24,S26)、そして、ステップS10に戻る。
【0045】
一方、ステップS20の比較の結果、変化量ΔVx(xe)が閾値Th(xe,ye)以下であれば、制御部70は、推定接触位置に対し物体が接触していないと判定し(ステップS22,S28)、外部機器に命令を送信することなく、ステップS10に戻る。
【0046】
ここで、閾値Th(x,y)は、図9に例示したように、フィルム基板30、Y電極36、X電極37及び検出電極35の構成に基づいて、X方向及びY方向での座標(x,y)毎に割り当てられている。そして、変化量ΔVx(xe)と比較される閾値Th(xe,ye)は、接触推定位置の座標(xe,ye)に割り当てられた閾値である。
【0047】
本実施形態では、図5に一点鎖線で示した検出領域80が、13×13の区画に区分され、各区画に、5,7,9の3段階にて閾値Th(x,y)が割り当てられている。検出領域80の大きさは、操作面の大きさに対応する。
より詳しくは、開口部32に重なる検出領域80の区画及び当該区画に隣接する区画には、閾値Th(x,y)として5が割り当てられている。そして、各開口部32から遠い区画ほど、より大きな閾値Th(x,y)が割り当てられている。このため、検出領域80の中央の区画には、閾値Th(x,y)として9が割り当てられている。一方、検出領域80の周縁部の区画には、中央部の区画よりも小さい閾値Th(x,y)が割り当てられている。
【0048】
閾値Th(x,y)の設定に際して考慮される構成には、フィルム基板30における開口部32の形状、大きさ及び位置が含まれる。また、閾値Th(x,y)の設定に際して考慮される構成には、Y電極36、X電極37及び検出電極35の各々の形状、長さ及び位置が含まれ、更には、開口部32、Y電極36、X電極37及び検出電極35間の相対的な位置関係も含まれる。
なお、閾値Th(x,y)は、予め実験により求め、制御部70のメモリーに読み出し可能に記憶させておくことができる。
【0049】
上述した一実施形態の静電容量式タッチパッド入力装置10及び当該装置10が用いる接触位置検出方法では、フィルム基板30、X電極37、Y電極36及び検出電極35の構成に基づいて、座標毎に閾値Th(x,y)が割り当てられる。換言すれば、駆動電極34及び検出電極の敷設密度に基づいて、座標毎に閾値Th(x,y)が割り当てられる。具体的には、フィルム基板30の開口部32、X電極37、Y電極36及び検出電極35の大きさ、形状、位置、及び、これらの間の相対的な位置関係に起因して、物体が操作面に接触したときの検出電極35からの出力の変化量ΔVx(x)が操作面内においてばらつくときに、当該ばらつきに応じて比較対象である閾値Th(x,y)が設定される。
【0050】
例えば、物体が接触したときに分布関数Vx(x)の関数値の変化量ΔVx(x)が小さい操作面の位置に対応する座標(x,y)には、小さい閾値Th(x,y)が割り当てられ、物体が接触したときに関数値の変化量ΔVx(x)が大きい操作面の位置に対応する座標(x,y)には、大きい閾値Th(x,y)が割り当てられる。
【0051】
このため、検出電極35の出力の変化量ΔVx(x)のばらつきにかかわらず、物体が接触面に接触しているか否かの判定が、操作面の全域に渡って的確に実行される。換言すれば、この静電容量式タッチパッド入力装置10及び接触位置検出方法によれば、操作面における物体の検出感度のばらつきが良好に抑制される。この結果として、この静電容量式タッチパッド入力装置10及び接触位置検出方法は、物体の位置検出精度において優れ、ひいては、静電容量式タッチパッド入力装置10は操作性においても優れている。
【0052】
上述した一実施形態の静電容量式タッチパッド入力装置10では、検出電極35からの出力の最大値Vxmaxと推定接触位置での関数値Vx(xe)の差が変化量ΔVx(xe)として求められる。最大値Vxmaxは、推定接触位置に物体が接触していないときの、推定接触位置の座標(xe,ye)に対応する分布関数Vx(xe)の関数値に最も近く、変化量ΔVx(xe)が高い精度にて的確に推定される。
このように変化量ΔVx(xe)が的確に推定されることで、閾値Th(xe,ye)との比較による判定精度が向上し、検出感度のばらつきが的確に抑制される。
【0053】
また、一実施形態の静電容量式タッチパッド入力装置10では、X電極37、Y電極36及び検出電極35がフィルム基板30の開口部32を避けるように延びている。開口部32は、LED51からの光を通過させるための透光部であり、透光部に重なる操作面の領域では、物体が接触したときの関数値の変化量ΔVx(xe)が相対的に小さくなる。
【0054】
このような関数値の変化量ΔVx(xe)の局所的な減少に対応して、この静電容量式タッチパッド入力装置10では、透光部の座標に割り当てられる閾値Th(x,y)が相対的に小さく設定されている。このように、関数値の変化量ΔVx(xe)が小さくなることに合わせて、閾値Th(x,y)が小さく設定されることで、透光部の形状、大きさ及び位置にかかわらず、透光部に重なる操作面の領域に対する物体の接触が的確に判定され、検出感度のばらつきが抑制される。
【0055】
更に、一実施形態の静電容量式タッチパッド入力装置10では、操作面の周縁部の座標(x,y)に割り当てられる閾値が相対的に小さく設定されている。
一般に、操作面の周縁部では検出感度が低下し易く、関数値の変化量ΔVx(xe)が局所的に小さくなり易い。このように、関数値の変化量ΔVx(xe)が小さくなることに合わせて、周縁部の座標(x,y)に割り当てられる閾値Th(x,y)が相対的に小さく設定されることで、操作面の周縁部に対する物体の接触が的確に判定され、検出感度のばらつきが抑制される。
【0056】
本発明は、上述した一実施形態に限定されず、特許請求の範囲を逸脱しない範囲で、一実施形態に種々の変更を加えた形態も含む。
例えば、フィルム基板30における開口部32の数、形状、大きさ及び位置は、一実施形態に限定されることはなく、開口部32が形成されていなくてもよい。
【0057】
そして、駆動電極34及び検出電極35の構成は、上記一実施形態に限定されない。
具体的には、一実施形態では、X電極37及びY電極36とは別に、検出電極35が設けられていたが、X電極37に電圧を印加するときには、Y電極を36を検出電極として機能させ、Y電極36に電圧を印加するときには、X電極37を検出電極として機能させてもよい。つまり、X電極37及びY電極36が駆動電極及び検出電極を兼ねていてもよい。
また、駆動電極34及び検出電極35の数、形状、長さ及び位置も、上記一実施形態に限定されない。
更に、駆動電極34及び検出電極35は、1つのフィルム基板30に形成されていたが、2つ以上のフィルム基板に別々に形成されていてもよい。
【0058】
上述した一実施形態では、変化量ΔVx(xe)のみを求めて物体の接触を判定したが、変化量ΔVy(ye)も求めて、より高精度な判定を行うようにしてもよい。
【0059】
上記した一実施形態では、タッチパッド入力装置10が、車両のナビゲーション装置、空調装置、及び、オーディオ装置等の操作に供されているが、タッチパッド入力装置10は、車載される機器以外の機器のための入力装置にも適用可能である。例えば、タッチパッド入力装置10は、パーソナルコンピュータ、自動販売機、現金自動預払機(ATM)、携帯用機器、又は、テレビジョン受像機を遠隔操作可能なリモートコントローラ等の機器にも適用可能である。
【符号の説明】
【0060】
10 静電容量式タッチパッド入力装置
14 パネル部材
15 ハウジング
16 文字(発光部)
17 黒色塗装
18 周壁
24 係合孔(係合部)
30 フィルム基板(電極基板)
32 フィルム基板の開口部
33 リード
34 駆動電極
35 検出電極
36 Y電極
37 X電極
40 ホルダ
41 ステージ
42 ステージの開口部
50 第1のプリント基板
51 LED(発光素子)
60 第2のプリント基板(制御基板)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表側を操作面とするパネル部材と、
前記パネル部材の裏側に敷設され、入力信号が印加される駆動電極と、
前記パネル部材の裏側に前記駆動電極と静電的に結合可能なように敷設され、前記入力信号に基づいて、前記駆動電極との間の静電容量に対応する出力信号を出力する検出電極と、
前記入力信号及び前記出力信号に基づき、前記操作面上に検出物体が存在すると推定される座標を算出するとともに前記座標における静電容量の変化量に対応する検出値を算出し、前記検出値を前記座標に割り当てられた閾値と比較して前記操作面上の前記検出物体の有無を判定する制御手段とを備える静電容量式タッチパッド入力装置であって、
前記閾値は座標毎に割り当てられ、
前記閾値のうち、前記駆動電極及び前記検出電極のうち少なくとも一方の敷設密度が小さい領域の座標に割り当てられる閾値は、前記敷設密度が大きい領域の座標に割り当てられる閾値に比べて小さい
ことを特徴とする静電容量式タッチパッド入力装置。
【請求項2】
前記駆動電極及び前記検出電極が敷設される少なくとも1つの電極基板と、
前記電極基板に対し前記パネル部材とは反対側に配設され、前記電極基板を通して前記パネル部材に向かって光を照射する発光体とを更に備え、
前記駆動電極及び前記検出電極は、前記発光体が発する光の光路を避けるように敷設され、
前記閾値のうち前記光路に相当する座標に割り当てられる閾値は、前記光路に相当しない座標に割り当てられる閾値よりも小さい
ことを特徴とする請求項1に記載の静電容量式タッチパッド入力装置。
【請求項3】
前記閾値のうち前記操作面の周縁部の座標に割り当てられる閾値は、前記操作面の中央部の座標に割り当てられる閾値よりも小さいことを特徴とする請求項1又は2に記載の静電容量式タッチパッド入力装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2011−103022(P2011−103022A)
【公開日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−256933(P2009−256933)
【出願日】平成21年11月10日(2009.11.10)
【出願人】(000010098)アルプス電気株式会社 (4,263)
【Fターム(参考)】