説明

静電気放電発生箇所可視化方法及び可視化装置

【課題】被測定物において静電気放電が発生する状況をビデオ画像上で分かりやすく可視化する手段を提供する。
【解決手段】
静電気放電に伴う電磁波を受信するための4本以上のアンテナと、被測定物の様子を動画像で撮影するためのビデオカメラと、ビデオカメラの撮影範囲を調べるための方位・仰角基準版を取り付けた支持体を被測定物の近傍に設置し、被測定物で発生した静電気放電に伴う電磁波が各アンテナへ到達する時間の差から、双曲線法によって、被測定物において静電気放電が発生した位置を算出し、被測定物のビデオ画像上に、静電気放電源の位置を示すマ−キング表示や、静電気放電が発生するまでの残り時間表示や、静電気放電源の位置を数値で示す表示等を重ね表示することで、被測定物において静電気放電が発生する様子をビデオ画像で可視化する手段を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被測定物において静電気放電が発生した位置を、双曲線法によって算出し、被測定物のビデオ画像上に、静電気放電源の位置を示すマ−キング表示や、静電気放電が発生するまでの残り時間表示や、静電気放電源の位置を数値で示す表示等を重ね表示することで、被測定物において静電気放電が発生する状況をビデオ画像上で分かりやすく可視化するための方法及び装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の放電発生位置の探査方法及び探査装置には、広範囲に設けられた配線設備の部分放電発生箇所を短時間で、精度良く、しかも容易に探査することのできるものがある(特許文献1参照。)。
【0003】
以下、特許文献1で示した従来の配電線部分放電発生位置の探査方法及び探査装置について説明する。
【0004】
この方法は、「第1の測定点で部分放電による電波信号を2本1組となる複数組の受信アンテナで受信し、組を構成する2本の受信アンテナへの電波信号の各到達時間差より、双曲線法を介して部分放電発生源の方向を検出すると共に第1の測定点の緯度、経度情報をGPSにより取り込み、その後、第2の測定点に移動し、第2の測定点で同様の方法で部分放電発生源の方向を検出すると共に第2の測定点の緯度、経度情報をGPSにより取り込み、GPSから取り込んだ各測定点の位置情報と、各測定点で検出された各測定点からの部分放電発生源の方向とを利用して表示装置に表示された配電線路が記録された地図情報上に部分放電発生源の位置を特定し、配電線路と部分放電発生源の位置とを比較して配電線設備の部分放電か否かを判別することを特徴とする配電線部分放電発生位置の探査方法」であり、「移動体に測定点の緯度、経度情報を得るためのGPSアンテナと、部分放電により生じた電波信号を受信するための3本以上の受信アンテナが備えられており、組となる2本の受信アンテナの部分放電発生源からの電波信号の到達時間差を2組分求め、双曲線法を介して部分放電発生源の方向を検出する演算装置と、配電線路が記録された地図情報上に2カ所の各測定点から演算装置により得られた部分放電発生源方向へ伸ばした直線、又は該2本の直線の交点を表示可能な表示装置を備えていることを特徴とする配電線部分放電発生位置の探査装置」とされている。
【0005】
この方法の場合、探索装置を搭載した自動車を移動して、少なくとも2カ所で測定した上で、配電線路を記録された地図情報上に放電源の位置が表示され、その地図情報をもとに作業者が放電源とされる場所に赴き、放電源の位置を特定することになる。
【0006】
しかし、静電気放電の場合、物質どおしの接触や剥離など、動的な現象で主に発生するため、放電を検知してから時間をおいて静電気放電源の位置を特定しても、静電気放電源の状況が変わっている場合が多く、放電原因の特定に手間取る場合もある。
【特許文献1】特開2001−33510公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明は、被測定物において静電気放電が発生した位置を、双曲線法によって算出し、被測定物のビデオ画像上に、静電気放電源の位置を示すマ−キング表示や、静電気放電が発生するまでの残り時間表示や、静電気放電源の位置を数値で示す表示等を重ね表示することで、被測定物において静電気放電が発生する状況をビデオ画像上で分かりやすく可視化することのできる手段を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の静電気放電発生箇所可視化方法は、静電気放電に伴う電磁波を受信するための4本以上のアンテナと、被測定物で静電気放電が発生する様子を動画で撮影するためのビデオカメラと、ビデオカメラの撮影範囲を調べるための方位・仰角基準板を一つの支持体に取り付けて被測定物の近傍に設置し、被測定物における静電気放電の発生を監視する。全てのアンテナで受信した静電気放電に伴う電磁波を同一時間軸で記録できる計測器に全てのアンテナを接続し、その計測器で静電気放電に伴う電磁波を検知すると、全てのアンテナで受信した静電気放電に伴う電磁波を同一時間軸で記録する。記録した電磁波の波形を制御用コンピュータで解析して、各アンテナへ電磁波が到達した時間差を求め、双曲線法を用いて、受信アンテナの配置を基準とした3次元空間における静電気放電源の座標を算出する。静電気放電の発生を監視するのと並行して、ビデオカメラで撮影したビデオ画像も制御用コンピュータに取り込み、算出された静電気放電源の座標とビデオカメラのカメラ基準点との位置関係を元に、ビデオ画像における静電気放電源の位置を制御用コンピュータで算出し、該当する画素の部分にマ−キング表示を行うことで、静電気放電源の位置をビデオ画像上で可視化する。ビデオカメラで撮影されるビデオ画像に映る範囲はズ−ムの度合い等で変化するため、予め、方位・仰角基準板をビデオカメラで撮影し、撮影したビデオ画像の各画素が、カメラ基準点に対して、どの方位と仰角の物体を映すのか予め明らかにしておく。この際、静電気放電を検知してからビデオ画像にマ−キング表示するまでの遅延時間が発生するので、制御用コンピュ−タへのビデオ画像の取り込みを、マ−キング表示までの遅延時間に応じて遅らせることで、静電気放電が発生する瞬間のビデオ画像にマ−キング表示をするタイミングを合わせることができる。さらに、マ−キング表示に伴う遅延時間よりも多くの時間分、制御用コンピュ−タへのビデオ画像の取り込みを遅らせることで、静電気放電が発生する以前のビデオ画像から、静電気放電源の位置を示すマ−キング表示や、静電気放電が発生するまでの残り時間表示や、静電気放電源の位置を数値で示す表示等をビデオ画像上に重ね表示することが可能となる。以上の手法を用いることで、被測定物において静電気放電が発生する状況をビデオ画像上で分かりやすく可視化することを特徴とする。
【0009】
これによれば、被測定物に対して、受信アンテナとビデオカメラと方位・仰角基準板が一体化された支持体を向けて、ビデオ撮影と静電気放電の発生の監視をしておき、静電気放電の発生を検知すると、静電気放電が発生する以前のビデオ画像から、静電気放電源の位置を示すマ−キング表示や、静電気放電が発生するまでの残り時間表示、静電気放電源の位置を数値で示す表示等をビデオ画像上に重ね表示され、静電気放電の瞬間に、放電源でどんな現象が起きているかを確認することができるため、放電の発生原因の究明が非常に容易になる。
【0010】
また、被測定物に対して、受信アンテナとビデオカメラと方位・仰角基準板が一体化された支持体を正確に位置合わせする必要もないため、可視化装置の設置が非常に容易である。
【0011】
請求項2の静電気放電発生箇所可視化装置は、静電気放電に伴う電磁波を受信するための4本以上のアンテナと、被測定物のビデオ画像を撮影するためのビデオカメラと、ビデオカメラの撮影範囲を調べるための方位・仰角基準板と、それらを取り付けるための支持体と、全てのアンテナで受信した電磁波の電圧波形を同一時間軸で観測し、記録するための計測器と、その計測器の制御や、双曲線法による放電位置の算出や、ビデオ画像の取り込みや、その画像上に静電気放電源の位置を示すマ−キング等を重ね表示したり、その画像を記録するための制御用コンピュ−タと、ビデオカメラで撮影したビデオ画像を制御用コンピュ−タに任意の時間分遅れて取り込ませるための画像遅延装置と、制御パソコンにおいて、ビデオ画像上に、静電気放電源の位置を示すマ−キング表示などを重ね表示させるためのス−パ−インポ−ズボ−ドと、マ−キング表示などが重ね表示されたビデオ画像を記録、再生するための画像記録装置やビデオモニタ−装置などからなり、被測定物において静電気放電が発生する状況をビデオ画像上で分かりやすく可視化することを特徴とする。
【0012】
これによれば請求項1の可視化方法を実施するために必要な、静電気放電に伴い発生する電磁波を受信するための複数の受信アンテナやビデオカメラの設置や、双曲線法による静電気放電源の座標の算出や、静電気放電源の位置の特定が容易であるので、請求項1に記載の可視化方法を容易に行うことができる。
【発明の効果】
【0013】
以上述べたように、本発明により、被測定物において静電気放電が発生した位置を、双曲線法によって算出し、被測定物のビデオ画像上に、静電気放電源の位置を示すマ−キング表示や、静電気放電が発生するまでの残り時間表示や、静電気放電源の位置を数値で示す表示等を重ね表示することで、被測定物において静電気放電が発生する状況をビデオ画像上で分かりやすく可視化する手段を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を好適な実施例を用いて説明する。
【実施例】
【0015】
図1は、本発明の可視化装置の構成を説明する図である。
図1において、静電気放電の発生源を特定したい被測定物aの近くの任意の場所に、受信アンテナ2a、2b、2c、2dとビデオカメラ4と方位・仰角基準板5を取り付けた支持体1を設置する。受信アンテナ2a、2b、2c、2dは、それぞれ同軸ケ−ブル3a、3b、3c、3dを介してデジタルオシロスコ−プ6の入力1〜4にそれぞれ接続する。デジタルオシロスコ−プ6は制御用コンピュ−タ9とデジタルインタ−フェ−スケ−ブル9aで接続されており、制御用コンピュ−タ9によってデジタルオシロスコ−プ6を制御する。
【0016】
ビデオカメラ4では、被測定物aの様子を動画で撮影し、そのビデオ画像を、リアルタイムに、ビデオケ−ブル4b、画像遅延装置7、ビデオケ−ブル7a、オ−バ−レイボ−ド8を介して、制御用コンピュ−タ9に取り込む。
【0017】
図1の支持体1において、受信アンテナ2aを取り付けた位置を可視化装置の測定基準点cとし、受信アンテナ2aに対して、それぞれ方角が90度異なる任意の場所に受信アンテナ2b、2c、2dを取り付ける。図1の場合、測定基準点cに対して、受信アンテナ2bを通過する軸線をX軸、受信アンテナ2cを通過する軸線をY軸、受信アンテナ2dを通過する軸線をZ軸とする。なお、XYZの各軸をどの受信アンテナの向きにするかは特に限定されない。
【0018】
図2は、受信アンテナ2a、2b、2c、2dの配置を基準とした3次元空間の概念図である。
【0019】
この3次元空間において、測定基準点cの存在するXY平面での測定基準点cからの向きを方位とし、測定基準点cの存在するXY平面に対する垂直方向の傾きの度合いを仰角とする。実施例1の場合、+Y軸の向きを方位0度とし、+X軸側(右側)に右回転するに従って方位が増加することとし、仰角については、測定基準点cの存在するXY平面に向いている時を仰角0度とし、+Z軸の向きの時の仰角を+90度、−Z軸の向きの時の仰角を−90度とする。
【0020】
図1において、受信アンテナ2a、2b、2c、2dは、高周波伝達経路である同軸ケ−ブル3a、3b、3c、3dを介して、4チャンネル入力のデジタルオシロスコ−プ6の入力チャンネル1〜4に、それぞれ接続するが、このとき各同軸ケ−ブルの長さや電気的特性を同一にしておくと、受信アンテナ2a、2b、2c、2dからデジタルオシロスコ−プ6まで電気信号が到達する時間が同じになり、各チャンネル間で静電気放電に伴い発生する電磁波の到達時間差を算出する際に、時間軸の補正が不要である。
【0021】
一方、各アンテナからデジタルオシロスコ−プ6への電気信号の伝達時間が異なる場合、その差分をなくすために、各アンテナからデジタルオシロスコ−プへの電気信号の到達時間の差分を予め明らかにしておき、各チャンネル間で静電気放電に伴い発生する電磁波の到達時間差を算出する際に、各チャンネルにおける、各アンテナからデジタルオシロスコ−プ6への電気信号の到達時間の差分を補正する。
【0022】
デジタルオシロスコ−プ6は制御用コンピュ−タ9とデジタルインタ−フェ−スケ−ブル9aで接続され、制御用コンピュ−タ9でデジタルオシロスコ−プ6の初期化と測定条件の設定を行う。なお、制御用コンピュ−タ9とデジタルオシロスコ−プ6とを接続する際の通信インタフェ−ス方式は、GP−IB、RS−232C、LAN、USB等、デジタルオシロスコ−プ6の制御やデ−タの受け渡しができるものであれば方式を問わない。
【0023】
その上で、静電気放電に伴い発生する電磁波を、受信アンテナ2a、2b、2c、2dのいずれかで受信するとデジタルオシロスコ−プ6のトリガが掛かる状態にして、静電気放電の発生を監視する。デジタルオシロスコ−プ6のトリガ機能には、ある一定電位を超える入力があった場合にトリガの掛かるエッジトリガや、入力信号のパルス幅がある一定時間内であるときにトリガが掛かるパルス幅トリガ、それらを複数の入力チャンネルで組み合わせたパタ−ントリガなどがあり、どのようなトリガ条件にするかは、測定現場の状況に応じて調整し、選択する。
【0024】
例えば、微弱な静電気放電を検出したい場合には、トリガの掛かる電位を下げ、周囲の静電気放電以外の電磁ノイズの影響を軽減したい場合には、静電気放電に伴い発生する電磁波がGHz帯にまで及ぶ高周波成分を含んでいることを利用して、パルス幅トリガの設定でトリガの掛かるパルス幅を極力狭くする方法や、静電気放電に伴い発生する電磁波の周波数成分だけが通過できるバンドパスフィルタ等をデジタルオシロスコ−プ6の入力部に取り付けてもよい。
【0025】
受信アンテナの種類や仕様については特に限定しないが、アンテナの設置位置の誤差を少なくするには、物理的なサイズがなるべく小さい方が好ましい。
【0026】
静電気放電に伴い発生する電磁波を受信してデジタルオシロスコ−プ6のトリガが掛かると、受信アンテナ2a、2b、2c、2dで受信した静電気放電に伴い発生する電磁波の電圧的変化が、デジタルオシロスコ−プ6のチャンネル1〜4のデジタルデ−タとして記録される。
【0027】
デジタルオシロスコ−プ6において記録されるデジタルデ−タとは、デジタルオシロスコ−プ6において、その各チャンネルに入力された電圧の時間的変化を離散的に高速AD(アナログ値からデジタル値へ)変換して得られた電圧値を、設定したポイントの数だけ時系列に記録したデ−タ群のことである。
【0028】
デジタルオシロスコ−プ6のトリガが掛かかると、そのことを制御用コンピュ−タ9で検知し、静電気放電の発生時刻として記録する。そして、デジタルオシロスコ−プ6で記録された4チャンネル分のデジタルデ−タを制御用コンピュ−タ9で読み込み、各チャンネルにおける電磁波到達基準点を見つけだす。
【0029】
電磁波到達基準点とは、図3に示すように、静電気放電に伴い発生する電磁波が各アンテナに到達した時刻を比較するための基準点のことで、デジタルオシロスコ−プ6に記録された静電気放電に伴う電磁波の波形デ−タの中で、静電気放電に伴い発生する電磁波によって発生した最初の電圧パルスのピ−クを示す測定ポイントを電磁波到達基準点(P_2a、P_2b、P_2c、P_2d)とする。
【0030】
測定ポイントとは、デジタルオシロスコ−プ6において時系列に記録されたデジタルデ−タの中の何番目のデ−タであるかを示すものである。
【0031】
もし、その電圧パルスのピ−ク部分がデジタルオシロスコ−プ6の表示範囲を超えていた場合、超えていた区間の中間の測定ポイントを電磁波到達基準点とする。(例えば、図3のP_2b)
【0032】
そして、ある任意の2つの受信アンテナ間において、電磁波到達基準点を示す測定ポイントの差分に、計測時のデジタルオシロスコ−プ6のサンプリングレ−トの逆数を掛けると、その2つの受信アンテナ間での、静電気放電に伴い発生する電磁波の到達時間差が算出される。
【0033】
サンプリングレ−トとは、デジタルオシロスコ−プ6において電圧等の時間的変化を離散的に測定する際の、1秒間に測定する回数のことであり、サンプリングレ−トの逆数とは、離散的に測定する間隔の時間を意味する。
【0034】
双曲線法とは、静電気放電に伴う電磁波を、設置場所の異なる4台以上のアンテナで受信し、各アンテナに電磁波が到達する時間差とアンテナの設置位置の関係から、組み合わせの異なる任意の2本の受信アンテナ間における双曲線をそれぞれ算出し、それらの双曲線の交点を求めることで、電磁波の発生源の位置を特定する手法である。
【0035】
図4に示すように、静電気放電源b及び受信アンテナ2a、2bが全て同じ2次元空間に存在する場合、静電気放電源bで発生した静電気放電に伴う電磁波を、受信アンテナ2aと2bで受信すると、静電気放電源bと受信アンテナ2a、2bの設置場所との距離の差に応じて電磁波の受信時刻差t_baが生じる。受信アンテナ2a、2bに対して受信時間差がt_baとなる点を結んだ線が、アンテナ2a、2bに対する双曲線t_baとなるが、双曲線t_ba上のどの点が放電の発生源であるかは特定できない。そこで、もう一つの受信アンテナ2cを用意し、アンテナ2a、2b、2cで、電磁波を受信することで、双曲線t_baと双曲線t_caを求めると、その交点として静電気放電源bの位置を特定することができる。
【0036】
図5に示すように、静電気放電源bが3次元空間に存在する場合、Z軸上に更に受信アンテナ2dを追加し、受信アンテナ2aと2dで得られる双曲線t_daをZ軸線を軸として360度回転させた曲面を算出する。同じように、受信アンテナ2aと受信アンテナ2bによる双曲線t_baもX軸線を軸として360度回転させた曲面を算出し、受信アンテナ2aと受信アンテナ2cによる双曲線t_caはY軸線を軸として360度回転させた曲面を算出し、それら3つの曲面が一つに交わる点を求めることで、受信アンテナ2a、2b、2c、2dの配置を基準とした3次元空間における静電気放電源bの座標を算出することができる。
【0037】
支持体1に取り付ける受信アンテナの数を4本より、さらに増やし、既存の受信アンテナ2a、2b、2c、2dとは異なる場所に取り付け、算出する双曲線の数を増やすことで、測定誤差が軽減され、静電気放電源の算出精度を向上させることもできる。
【0038】
次に、算出された静電気放電bの位置を、ビデオカメラ4で撮影したビデオ画像上でマ−キング表示する方法について説明する。
【0039】
本装置では、図1に示すように、アンテナ群によって、静電気放電の発生を監視するのと並行して、ビデオカメラ4で、被測定物aで静電気放電が発生する様子をビデオ画像で撮影する。
【0040】
ビデオカメラ4で撮影されるビデオ画像には、ビデオカメラ4の撮像素子4aの焦点の中心であるカメラ基準点dを基点とした、ある方位と仰角の範囲に存在する被測定物aの領域が映り、ビデオ画像上の個々の画素には、その領域内の、ある特定の方位と仰角に存在する被測定物aの部位が映る。
【0041】
そこで、カメラ基準点dに対する静電気放電源bの方位と仰角を算出し、ビデオカメラ4で撮影したビデオ画像において、その方位と仰角が該当する画素の部分にマ−キング表示をすることで、静電気放電源bの場所をビデオ画像上で可視化する。
【0042】
ビデオカメラ4で撮影される方位と仰角の範囲は、図6の右図に示すように、ビデオカメラ4のズ−ムの度合いで変化する。そこで、静電気放電の監視を開始する前に、ビデオ基準点dに対する方位と仰角の基準点が描かれた方位・仰角基準板5をビデオカメラ4で撮影し、撮影される方位や仰角の範囲を調べるとともに、撮影したビデオ画像の各画素が、どの方位と仰角の物体を映すのか計算する式のパラメ−タを求める。
【0043】
方位・仰角基準板5には、図7に示すように、カメラ基準点dから、カメラ画像中心線eの線上で直線距離Aの位置で、カメラ画像中心線eに垂直な平面における、カメラ基準点dを基点とした様々な方位と仰角を示す点が描かれている。
【0044】
カメラ画像中心線eとは、カメラ基準点を基点とし、ビデオカメラ4の撮像素子4aが向いている方角を示す線である。
【0045】
方位・仰角基準板5には、カメラ画像中心線eと方位・仰角基準板5との交点で、方位・仰角基準板5における方位と仰角の原点である原点fから、カメラ画像の水平方向に延びる方位軸線pや、カメラ画像の垂直方向に延びる仰角軸線q、方位軸線p上の任意の方位を示す数値、仰角軸線q上の任意の仰角を示す数値、方位軸線pに平行な線、仰角軸線qに平行な線なども描かれている。
【0046】
方位・仰角基準板5に描く任意の方位と仰角を示す点の位置を算出する場合、図7に示すように、カメラ基準点dを基点とし、カメラ画像中心線eに対して方位:θref_h度、仰角:0度の向きに延びる直線と方位・仰角基準板5との交点を点jとし、カメラ基準点dを基点とし、カメラ画像中心線eに対して方位:θref_h度、仰角:θref_v度の向きに延びる直線と方位・仰角基準板5との交点を点kとし、線分dfの長さをA、線分fjの長さをB、線分djの長さをC、線分jkの長さをDとして、下記の数1〜数4で算出する。
【数1】


【数2】


【数3】


【数4】

【0047】
実際の方位・仰角基準板5は、自立可能な平板で、任意の様々な方位と仰角を示す点や数値、直線などの表示が分かりやすければよく、材質や表示の描写方法は特に限定しない。
樹脂やガラス等の平板に油性ペンなどで、表示を直接描く方法や、OHPシ−ト等に表示を印刷したものを、樹脂やガラス等の平板に貼り付けるなどの方法等がある。
【0048】
方位・仰角基準板5を支持体1に取り付ける際は、図6に示すように、ビデオカメラ4のカメラ画像中心線eの線上でカメラ基準点dから直線距離Aの位置に、カメラ画像中心線eに対して垂直になるよう取り付ける。その際、ビデオ画像の中心部Fに方位・仰角基準板5の原点fが写り、ビデオ画像の中心部を横切る方位軸線Pの線上に、方位・仰角基準板5の方位軸線pが映るように方位・仰角基準板5を位置合わせする。
【0049】
ビデオカメラ4で撮影される方位と仰角の範囲は、図6の右図に示すように、ビデオカメラ4のズ−ムの度合いに応じて変化するので、撮影したビデオ画像の個々の画素が、どの方位と仰角の画像を映すのかもズ−ムの度合いに応じて変化するため、ビデオカメラ4で撮影された画像の各画素が、ビデオ基準点dに対して、どの方位と仰角を示すのか計算する必要がある。
【0050】
基本的な考え方は、方位・仰角基準板5に描く任意の方位と仰角を示す点を求める際に用いた数1から数4の考え方と同じである。方位・仰角基準板5に描く任意の方位と仰角を示す点を求める際には、カメラ基準点dと方位・仰角基準板5との直線距離Aによって、任意の方位と仰角を示す点を描く位置が決まったのに対して、ビデオカメラ4で撮影された画像の各画素が、どの方位と仰角を示すのか計算する式の場合、図6に示すように、ビデオカメラ4で撮影された方位・仰角基準板5の画像に映っている、方位軸線上にある任意の方位基準点n(方位:θm)の画素が、ビデオ画像の中央部の画素から何画素目(画素数:m_pix)にあるかを数5に代入してA’の値を決め、その値を数6や数7に代入して、求めたい方位:θh度と仰角:θv度を示す画素の位置(画素X、画素Y)を算出する。
【数5】


【数6】


【数7】

【0051】
なお、数5から数7においては、ビデオ画像の横方向をX軸、縦方向をY軸とし、算出する画素のX軸の値を画素X、Y軸の値を画素Y、ビデオ画像の横方向の画素数の半分の数値を画像X中央座標、ビデオ画像の縦方向の画素数の半分の数値を画像Y中央座標とした。
【0052】
次に、ビデオカメラ4を支持体1に取り付ける方法と、ビデオカメラ基準点dに対する静電気放電源bの方位と仰角を算出する方法を説明する。
【0053】
ビデオカメラ4を支持体1に取り付ける場合、図9に示すように、測定基準点cに対してカメラ基準点dが仰角:0度、方位:θc度の向きで、アンテナ2aと物理的に干渉しない位置にビデオカメラ4を取り付ける。
その際、ビデオカメラ4のカメラ画像中心線e向きも、仰角:0度、方位:θc度に合わせ、ビデオ画像の方位軸線Pが、測定基準点cの存在するXY平面と一致するように取り付ける。
【0054】
そして、三角関数に基づき下記の数8から数10で、ビデオカメラ基準点dに対する静電気放電源bの方位:θh度と仰角:θv度を算出する。
なお、受信アンテナ2a、2b、2c、2dの配置を基準とした3次元空間において、カメラ基準点dを通り、Y軸線と平行な直線上で、Y軸の値が静電気放電源bのY座標と同じ点をgとし、受信アンテナ2a、2b、2c、2dの配置を基準とした3次元空間において、X軸、Y軸の値が静電気放電源bの座標X、Yと同じでZ軸の値が0の点をhとし、線分ghの長さをdb_x、線分dgの長さをdb_y、線分dhの長さをdb_xy、線分bhの長さをdb_zとする。
【数8】


【数9】


【数10】

【0055】
但し、db_x≠0でかつ、db_y=0の時は、数8は計算せずに、「θh=90−θc、θv=(数10の結果)」とし、db_x=0でかつ、db_y≠0時は、数8は計算せずに、「θh=−θc、θv=(数10の結果)」とし、db_x=0でかつ、db_y=0でかつ、db_z≠0の時は、数8〜数10とも計算せずに、「θh=値なし、θv=90°(db_z>0の場合)」もしくは、「θh=値なし、θv=−90°(db_z<0の場合)」とする。そして、db_x=0でかつ、db_y=0でかつ、db_z=0の時は、数8〜数10とも計算せずに、「θh=値なし、θv=値なし」とする。
【0056】
なお、算出された静電気放電源bの方位と仰角が、ビデオカメラ4で撮影したビデオ画像で表示可能な範囲を超えていた場合、撮影画像に対して、算出された静電気放電源bの方位や仰角が、ビデオカメラ4で撮影したビデオ画像で表示可能な範囲を超えている旨の文章や、撮影画像のどちら側に静電気放電源bが存在しているかを示す矢印などを、ビデオカメラ4で撮影したビデオ画像上に表示することもできる。
【0057】
以上の方法によって、静電気放電源bの位置をビデオカメラ4で撮影したビデオ画像上の該当する画素の位置にマ−キング表示することが可能となるが、デジタルオシロスコ−プ6で静電気放電を検知してからビデオ画像にマ−キング表示をするための処理時間の分、ビデオ画像にマ−キング表示するタイミングが遅れてしまう。
【0058】
そこで、図1に示すように、制御用コンピュ−タにビデオ画像を取り込む際に、画像遅延装置7で、放電検知からマ−キング表示までにかかる処理時間の分、ビデオ画像を遅延させ、そのビデオ画像上にマ−キング表示することで、静電気放電の起きた瞬間のビデオ画像に、マ−キング表示をすることができる。
【0059】
この際、マ−キング表示までにかかる処理時間よりも多くの時間分、ビデオ画像を遅延させることで、静電気放電が発生する以前のビデオ画像から、静電気放電源bの位置を示すマ−キング表示12や静電気放電が発生するまでの残り時間表示13、静電気放電源の位置を数値で示す表示14等を表示し始めることも可能であり、被測定物aにおいて、静電気放電が発生する様子を、より分かりやすく可視化することがことができる。
【0060】
なお、マ−キング表示までに掛かる処理時間が非常に短い場合や、画像遅延装置7がない場合には、画像遅延装置7を用いず、放電発生直後の画像にマ−キング表示する方法でも良い。
【0061】
このように、本発明を用いることで、被測定物において静電気放電が発生する状況をビデオ画像上で分かりやすく可視化することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】実施例1における測定システムの構成例。
【図2】受信アンテナ2a、2b、2c、2dの配置を基準とした3次元空間の 概念図。
【図3】電磁波到達基準点や到達時間差の算出方法について説明した図。
【図4】2次元空間における双曲線法による静電気放電発生箇所の特定方法。
【図5】3次元空間における双曲線法による静電気放電発生箇所の特定方法。
【図6】ビデオカメラ4で方位・仰角基準板5を撮影する際にカメラの機種やズ−ム の度合い等で撮影される画像が異なることを示した図。
【図7】方位・仰角基準板5に表示する、様々な任意の方位と仰角を示す点の位置を 算出する方法。
【図8】方位・仰角基準板5の作成例
【図9】カメラ基準点dに対する静電気放電源bの方位と仰角を算出する際に用いる 点や線や角度を示した図。
【符号の説明】
【0063】
a 被測定物
b 静電気放電源
c 測定基準点
d カメラ基準点
db_x 線分ghの長さ
db_y 線分dgの長さ
db_xy 線分dhの長さ
db_z 線分bhの長さ
e カメラ画像中心線
f 方位・仰角基準板5に表記する、方位と仰角の原点(カメラ画像中心線eと
方位・仰角基準板5との交点)
g 受信アンテナ2a、2b、2c、2dの配置を基準とした3次元空間におい
て、カメラ基準点dを通り、Y軸線と平行な直線上で、Y軸の値が静電気放
電源bのY座標と同じ点
h 受信アンテナ2a、2b、2c、2dの配置を基準とした3次元空間におい
て、X軸、Y軸の値が静電気放電源bのX座標、Y座標と同じでZ軸の値が
0の点
j カメラ基準点dを基点とし、カメラ画像中心線eに対して方位:
θref_h度、仰角:0度の向きに延びる直線と方位・仰角基準板5との
交点
k カメラ基準点dを基点とし、カメラ画像中心線eに対して方位:
θref_h度、仰角:θref_v度の向きに延びる直線と方位・仰角基
準板5との交点
m ビデオカメラで撮影される領域
m_pix ビデオ画像の中央部の画素から方位基準点nまでの画素数
n ビデオカメラ4で撮影された方位・仰角基準板5の画像に映っている、方位
軸線上にある任意の方位基準点
p 方位・仰角基準板5の方位軸線
q 方位・仰角基準板5の仰角軸線
t_ba 受信アンテナ2bと2aにおける電磁波到達基準点の時間差
t_ca 受信アンテナ2cと2aにおける電磁波到達基準点の時間差
t_da 受信アンテナ2dと2aにおける電磁波到達基準点の時間差
x1,y1,z1 3次元空間に存在する静電気放電源bの座標例
A 線分dfの長さ
B 線分fjの長さ
C 線分djの長さ
D 線分jkの長さ
F ビデオ画像の中心部
P ビデオ画像の中心部を横切る方位軸線
P_2a 受信アンテナ2aの受信波形の電磁波到達基準点
P_2b 受信アンテナ2bの受信波形の電磁波到達基準点
P_2c 受信アンテナ2cの受信波形の電磁波到達基準点
P_2d 受信アンテナ2dの受信波形の電磁波到達基準点
θc 受信アンテナ2a、2b、2c、2dの配置を基準とした3次元空間におけ
る+Y軸線と線分cdやカメラ画像中心線eとの角度
θh カメラ画像中心線eと線分dhとの角度
θm ビデオカメラ4で撮影したビデオ画像に映った方位基準点nの角度
θref_h 角fdjの角度
θref_v 角jdkの角度
θv 角bdhの角度
1 支持体
2a、2b、2c、2d 受信アンテナ
3a、3b、3c、3d 同軸ケ−ブル
4 ビデオカメラ
4a ビデオカメラの撮像素子
4b ビデオケ−ブル
5 方位・仰角基準板
6 デジタルオシロスコ−プ
7 画像遅延装置
7a ビデオケ−ブル
8 オ−バ−レイボ−ド
9 制御用コンピュ−タ
9a デジタルインタ−フェ−スケ−ブル
9b ビデオケ−ブル
9c モニタ−出力ケ−ブル
9d モニタ−装置
10 画像記録装置
10a ビデオケ−ブル
11 ビデオモニタ−装置
12 静電気放電源bの位置を示すマ−キング表示
13 放電発生までの残り時間を示す表示
14 静電気放電源の位置を数値で示す表示


【特許請求の範囲】
【請求項1】
静電気放電に伴う電磁波を受信するための4本以上のアンテナと、被測定物で静電気放電が発生する様子を動画で撮影するためのビデオカメラと、ビデオカメラの撮影範囲を調べるための方位・仰角基準板を一つの支持体に取り付けて被測定物の近傍に設置し、被測定物における静電気放電の発生を監視する。全てのアンテナで受信した静電気放電に伴う電磁波を同一時間軸で記録できる計測器に全てのアンテナを接続し、その計測器で静電気放電に伴う電磁波を検知すると、全てのアンテナで受信した静電気放電に伴う電磁波を同一時間軸で記録する。記録した電磁波の波形を制御用コンピュータで解析して、各アンテナへ電磁波が到達した時間差を求め、双曲線法を用いて、受信アンテナの配置を基準とした3次元空間における静電気放電源の座標を算出する。静電気放電の発生を監視するのと並行して、ビデオカメラで撮影したビデオ画像も制御用コンピュータに取り込み、算出された静電気放電源の座標とビデオカメラのカメラ基準点との位置関係を元に、ビデオ画像における静電気放電源の位置を制御用コンピュータで算出し、該当する画素の部分にマ−キング表示を行うことで、静電気放電源の位置をビデオ画像上で可視化する。ビデオカメラで撮影されるビデオ画像に映る範囲はズ−ムの度合い等で変化するため、予め、方位・仰角基準板をビデオカメラで撮影し、撮影したビデオ画像の各画素が、カメラ基準点に対して、どの方位と仰角の物体を映すのか予め明らかにしておく。この際、静電気放電を検知してからビデオ画像にマ−キング表示するまでの遅延時間が発生するので、制御用コンピュ−タへのビデオ画像の取り込みを、マ−キング表示までの遅延時間に応じて遅らせることで、静電気放電が発生する瞬間のビデオ画像にマ−キング表示をするタイミングを合わせることができる。さらに、マ−キング表示に伴う遅延時間よりも多くの時間分、制御用コンピュ−タへのビデオ画像の取り込みを遅らせることで、静電気放電が発生する以前のビデオ画像から、静電気放電源の位置を示すマ−キング表示や、静電気放電が発生するまでの残り時間表示や、静電気放電源の位置を数値で示す表示等をビデオ画像上に重ね表示することが可能となる。以上の手法を用いることで、被測定物において静電気放電が発生する状況をビデオ画像上で分かりやすく可視化することを特徴とする静電気放電発生箇所可視化方法。
【請求項2】
静電気放電に伴う電磁波を受信するための4本以上のアンテナと、被測定物のビデオ画像を撮影するためのビデオカメラと、ビデオカメラの撮影範囲を調べるための方位・仰角基準板と、それらを取り付けるための支持体と、全てのアンテナで受信した電磁波の電圧波形を同一時間軸で観測し、記録するための計測器と、その計測器の制御や、双曲線法による放電位置の算出や、ビデオ画像の取り込みや、その画像上に静電気放電源の位置を示すマ−キング等を重ね表示したり、その画像を記録するための制御用コンピュ−タと、ビデオカメラで撮影したビデオ画像を制御用コンピュ−タに任意の時間分遅れて取り込ませるための画像遅延装置と、制御パソコンにおいて、ビデオ画像上に、静電気放電源の位置を示すマ−キング表示などを重ね表示させるためのス−パ−インポ−ズボ−ドと、マ−キング表示などが重ね表示されたビデオ画像を記録、再生するための画像記録装置やビデオモニタ−装置などからなり、被測定物において静電気放電が発生する状況をビデオ画像上で分かりやすく可視化することを特徴とする静電気放電発生箇所可視化装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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