説明

静電紡糸法により高分子化合物繊維構造体を製造する装置

【課題】静電紡糸法により得られる高分子化合物繊維構造体の厚みが均一となる装置を提供することにある。
【解決手段】正または負の高電圧を印加した高分子化合物含有溶液を紡出する、少なくとも一つの紡出部(A)より、当該部位とは逆の極性の高電圧を印加した、もしくは接地した、少なくとも一つの回転する円柱状もしくは円筒状電極(B)に向けて高分子化合物含有溶液を吐出し、当該円柱状もしくは円筒状電極(B)上に当該高分子化合物よりなる繊維構造体を堆積させる繊維構造体の製造装置であって、当該円柱状もしくは円筒状電極(B)の回転軸に対し、当該紡出部(A)を平行に等速揺動する機能を有し、さらに当該円柱状もしくは円筒状電極(B)の外径D(mm)および回転軸の振れ幅W(mm)が、特定の範囲内であることを特徴とする高分子化合物繊維構造体の製造装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は静電紡糸法により高分子化合物繊維構造体を製造する装置、さらに詳しくは、均一な厚みを有する高分子化合物繊維構造体を製造することが可能な装置に関する。また本発明は当該装置を用いた繊維構造体の製造方法、および該方法により得られる厚みが均一な繊維構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
人工的に培養した細胞や組織を利用し、損傷を受けた臓器や骨、神経、血管等の機能を修復する「再生医療技術」が近年目覚しい進歩を遂げている。これに併せ、細胞および細胞成長因子と共に、再生医療に必要な要素とされている足場材料(Scaffold)の開発も活発化している。再生対象組織によって様々な形状の足場材料を提供する必要があり、繊維や膜、多孔体など様々な3次元構造を有する材料について検討が為されている。
【0003】
例えば特許文献1および2では、高分子化合物含有溶液を凍結した後に真空減圧下に置き、含有溶媒を揮発させる凍結乾燥法を利用した高分子多孔体の作製方法が開示されている。これら多孔体は広大な比表面積を有する構造であり、細胞の組織形成や分化誘導、また除放薬剤の担体としても利用できるが、一般に凍結乾燥には高真空度が要求されるため、高価な真空乾燥装置や揮発した溶媒を冷却捕捉する容器等が必要となる。またこれら装置には、継続的かつ高度なメンテナンスが必要となるため、これらに要する設備コストおよび維持コストの増大を避けることはできない。
【0004】
凍結乾燥法を介さずに高分子化合物の多孔体を作製する方法としては特許文献3を例示することができる。本公報によると、高分子化合物含有溶液を凍結させて凍結体を作製し、これに高分子化合物に対して貧、溶媒に対して良なる抽出溶剤を加え、当該凍結体より溶媒を除去することで、高価な凍結乾燥装置を用いることなく、安価な製造コストで多孔体を得ることができる。しかしながら本法によると、溶液に含まれる溶媒以外に抽出溶剤を加えることから、多孔体内に残留する溶媒の問題が深刻化する可能性が高く、最終的に加熱乾燥や真空乾燥等の他の乾燥方法を併用する必要が出てくる。このことは設備コストの増大だけでなく、運転コストの増大をも招く。
【0005】
また繊維を作製する方法としては、溶融状態の高分子化合物をノズルより紡出させ、これを大気中もしくはある種の気体中で冷却・固化させて繊維を得る「溶融紡糸法」や、高分子化合物含有溶液をノズルより紡出させ、これより溶媒成分を蒸発させて繊維を得る「乾式紡糸法」、同様にノズルより紡出された繊維状高分子化合物を凝固液中で固化させて繊維を得る「湿式紡糸法」などが一般的に知られている。
【0006】
さらに不織布を作製する方法としては、「乾式法」や「湿式法」の他に、溶融紡糸後に延伸・開繊の工程を経て不織布を得る「スパンボンド法」や、溶融紡糸ノズル口に高温高圧空気流を吹き当て、繊維状高分子化合物を延伸・開繊して不織布を得る「メルトブローン法」などが一般的に知られている。
【0007】
細胞成長や生分解性能、また得られる繊維構造体の柔軟性の観点から、既述の再生医療の足場材料を構成する繊維としては、サブミクロンやナノスケールの直径を有する繊維が好適であると考えられているが、既述の繊維作製技術および不織布作製技術を利用して得られた繊維の直径、および不織布を構成する繊維の直径は、既存の繊維と同等の直径(数〜数十μm程度)であり、好適な直径を有する繊維を製造することは困難である。また、高圧下での高分子化合物の押し出しや繊維状高分子化合物の冷却・固化に供される設備は複雑かつ高価であり、製造コストの増大や安定した製品供給を阻害する。
【0008】
そこで、新しい紡糸技術として、特許文献4および5で例示される「静電紡糸法(electrospinning)」が注目を集めている。本法は、高分子化合物含有溶液を正または負に帯電させ、これとは逆の極性に帯電させた、もしくは接地させた繊維状高分子化合物堆積部に対し、ノズルやニードルを介して紡出する方法である。本法によると、数nmの直径を有する繊維の製造が可能となる。また、様々な形状の繊維状高分子化合物堆積部を用いることで様々な形状の繊維構造体を得ることができ、例えば平板状の堆積部を用いることで平面状の不織布が、円柱状や直方体の堆積部を用いることで3次元構造を有する繊維構造体が得られる。
【0009】
当該堆積部にロール状電極を用いた例が特許文献6および7に開示されている。これら公報によると、繊維の原料となる高分子化合物含有溶液を吐出する紡糸ノズル、当該ノズルに連続的に高分子化合物含有溶液を供給する供給機、および当該紡糸ノズルに対向してロール状電極が配設されており、紡糸ノズル先端に高電圧を印加することで、当該電極上に繊維構造体を得ることができる。さらにロール上で当該繊維構造体を切開することにより不織布が、また当該電極の幅方向に当該不織布を抜き取ることで円筒状の繊維構造体が得られる。
【0010】
ところがこれらの手法では、一点に固定されている紡糸ノズルに対し、ロール状電極が回転軸方向に長さを有していることから、当該電極上において、当該紡糸ノズルと当該電極の距離が最も近くなる部位により多くの繊維状高分子化合物が堆積するため、最終的に当該電極上で得られる不織布や繊維構造体の厚みは不均一になりやすい。また、例示されたロール状電極のような回転体に多く見受けられる回転軸の偏心回転により、当該電極上で得られる不織布や繊維構造体の厚みはさらに不均一さを増す。
【0011】
さらに本手法によると、紡糸ノズルへの高分子化合物含有溶液の供給を供給機で行っているが、当該紡糸ノズルにて消費される高分子化合物含有溶液は極微量であり、当該供給機の供給精度にも依存するが、高分子化合物含有溶液の紡出量と供給量の収支を精度よく一致させることは非常に困難である。一度この収支が崩れると、高分子化合物含有溶液による紡糸ノズル先端の閉塞や液垂れといった諸問題を引き起こす可能性が高くなり、これは既述の不織布や繊維構造体の厚みの不均一さを悪化させる要因となる。
【0012】
このように得られる不織布や繊維構造体の厚みが不均一になると、例えばこれらをフィルター基材に用いた場合、圧力損失量が不均一になることから濾過不良を起こす可能性が高く、また既述の再生医療の足場材料に用いた場合は細胞成長や生分解性能に悪影響を及ぼす。
【0013】
【特許文献1】特開2000−329761号公報
【特許文献2】特開2002−146084号公報
【特許文献3】特開2005−046538号公報
【特許文献4】米国特許第6106913号公報
【特許文献5】米国特許第6110590号公報
【特許文献6】特開2004−256973号公報
【特許文献7】特開2004−256974号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の目的は、静電紡糸法により高分子化合物繊維構造体を製造する装置、さらに詳しくは、均一な厚みを有する高分子化合物繊維構造体を製造することが可能な装置を提供することにある。また本発明は当該装置を用いた繊維構造体の製造方法、および該方法により得られる厚みが均一な繊維構造体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
発明者らは既述の問題を解消するために鋭意検討し、以下の発明に至った。
1. 正または負の高電圧を印加した高分子化合物含有溶液を紡出する、少なくとも一つの紡糸部(A)、
(A)とは逆の極性の高電圧を印加した、もしくは接地した、少なくとも一つの回転する円柱状もしくは円筒状電極(B)、
紡糸部(A)を電極(B)の回転軸に対し平行に等速揺動させる装置(C)、および電極(B)の回転駆動装置(D)とからなる、
紡糸部(A)から電極(B)に向けて高分子化合物含有溶液を吐出し、当該円柱状もしくは円筒状電極(B)上に当該高分子化合物よりなる繊維構造体を堆積させる繊維構造体の製造装置であって、
当該円柱状もしくは円筒状電極(B)の外径D(mm)および回転軸の振れ幅W(mm)が、下記式(1)〜(3)を満たすことを特徴とする高分子化合物繊維構造体の製造装置。
W<5/D (ただし0<D≦10) (1)
W<D/20 (ただし10<D≦100) (2)
W<5 (ただし100<D) (3)
2. 紡糸部(A)において、紡糸部(A)と円柱状もしくは円筒状電極(B)の間に生じる電気的引力、および/または紡糸部(A)にて保持する当該高分子化合物含有溶液の液頭にかかる圧力によって、高分子化合物含有溶液を供給することを特徴とする1に記載の製造装置。
3. 円柱状もしくは円筒状電極(B)の下部に存在する架台等の構造物(E)について、電極(B)の下端部と架台等の構造物(E)との距離Hが100mm以上であることを特徴とする1または2に記載の製造装置。
4. 当該紡糸部(A)、電極(B)、紡糸部(A)を等速揺動させる装置(C)、および電極(B)の回転駆動装置(D)を保持する、および/または包囲する製造装置架台等の構造物の体積固有抵抗率が1010〜1020Ω・mの範囲にあることを特徴とする1〜3のいずれかに記載の製造装置。
5. 正または負の高電圧を印加した高分子化合物含有溶液を紡出する、少なくとも一つの紡出部(A)より、当該部位とは逆の極性の高電圧を印加した、もしくは接地した、少なくとも一つの回転する円柱状もしくは円筒状電極(B)に向けて高分子化合物含有溶液を吐出し、当該円柱状もしくは円筒状電極(B)上に当該高分子化合物よりなる繊維構造体を堆積させ、回転軸と平行に当該繊維構造体を押し出して円筒状の繊維構造体を得ることを特徴とする繊維構造体の製造方法であって、製造装置が当該円柱状もしくは円筒状電極(B)の回転軸に対し、当該紡出部(A)を平行に等速揺動する機能を有し、さらに当該円柱状もしくは円筒状電極(B)の外径D(mm)および回転軸の振れ幅W(mm)が、下記式(1)〜(3)を満たすことを特徴とする高分子化合物繊維構造体の製造方法。
W<5/D (ただし0<D≦10) (1)
W<D/20 (ただし10<D≦100) (2)
W<5 (ただし100<D) (3)
6. 当該円柱状もしくは円筒状電極(B)の回転速度が0.5〜100rpmの範囲にあることを特徴とする5に記載の製造方法。
7. 当該円筒状の繊維構造体の管壁構造が蛇腹状であることを特徴とする5または6に記載の製造方法。
8. 当該紡出部(A)より紡出した当該高分子化合物の繊維、および/または当該円柱状もしくは円筒状電極(B)上の当該高分子化合物の繊維構造体に対し、除電処理を行うことを特徴とする5〜7のいずれかに記載の製造方法。
9. 当該紡出部(A)の揺動範囲において、当該円筒状の繊維構造体の、50箇所以上の任意点における管壁厚みの標準偏差σ(μm)が15未満の範囲内にあることを特徴とする、5〜8のいずれかに記載の製造方法により得られる高分子化合物繊維構造体。
【発明の効果】
【0016】
静電紡糸法を利用した既述の高分子化合物繊維構造体の製造装置を用いることで、均一な厚みを有する高分子化合物繊維構造体を得ることが可能となる。こうして得られた繊維構造体は、例えば再生医療に必要な要素とされている足場材料に用いることができ、その厚みが均一であることから、細胞成長や生分解性能の面で非常に効果的な材料となりうる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下に本発明における製造装置について詳述する。
本発明の装置は、正または負の高電圧を印加した高分子化合物含有溶液を紡出する、少なくとも一つの紡糸部(A)、
(A)とは逆の極性の高電圧を印加した、もしくは接地した、少なくとも一つの回転する円柱状もしくは円筒状電極(B)、
紡糸部(A)を電極(B)の回転軸に対し平行に等速揺動させる装置(C)、および電極(B)の回転駆動装置(D)とからなる。
【0018】
紡糸部(A)は紡糸ノズルを具備した高分子化合物含有溶液紡出に係る部位であり、高電圧印加が可能となるよう、当該ノズル内には高電圧印加用電極が内挿されている。
また円柱状もしくは円筒状電極(B)は、その表面上にて当該高分子化合物よりなる繊維構造体得るための金属製丸棒もしくはパイプ材である。また高電圧印加に伴って生じる電気的引力により当該高分子化合物の紡出が可能となるよう、紡糸ノズルに印加した極性とは逆の極性の電圧を印加させるか、もしくは接地させるための電極としての役割も併せ持つ。
【0019】
また紡糸部(A)を電極(B)の回転軸に対し平行に等速揺動させる装置(C)は、当該紡糸部(A)を水平揺動させるべく具備された紡糸ノズル揺動用モーターを主とする装置であり、当該紡糸部(A)は当該揺動用モーター上に固定されている。
また電極(B)の回転駆動装置(D)は、その中心に回転軸が具備された回転モーターであり、当該回転軸と当該電極(B)をカップリングで接続し、当該回転軸を回転させることにより、当該電極(B)を当該回転軸と同等に回転せしめる装置である。
【0020】
図1は、この発明の一実施形態による高分子化合物繊維構造体を製造する装置を示す側面概略図であり、図2は同装置を示す平面概略図である。また図3は、当該装置において紡糸部(A)と円柱状もしくは円筒状電極(B)の間に除電装置を配設した例を示す側面概略図であり、図4は当該装置において円柱状もしくは円筒状電極(B)を挟んで紡糸部(A)とは反対側の位置に除電装置を配設した例を示す側面概略図である。以下これらの図を用いて本発明を詳しく具体的に説明するが、これにより本発明の範囲は限定されるものではない。
【0021】
高分子化合物含有溶液を紡出する紡糸部(A)、すなわち図1および2に記載の紡糸ノズル1は紡糸ノズル用ホルダー2に取り付けられており、内部には高電圧印加用電極3を具備している。当該紡糸ノズル1を水平揺動させるべく、スライドレール5を具備した紡糸ノズル揺動用モーター4に、紡糸ノズル用ホルダー支持部6で当該ホルダー2が固定されている。これらの構成部品は全て紡糸ノズル部用ベースプレート7上に在り、当該モーター4の駆動による振動等で各構成部品の配置に悪影響が出ないよう、例えば当該モーター4は当該ベースプレート7に、また当該ベースプレート7は任意の水平面に固定されている。当該電極3の末端には高電圧印加用配線結束部8が設けられており、ここで結束された高電圧印加用配線9は高電圧供給装置10へと伸びている。尚、当該ホルダー2の揺動に伴い、当該結束部8も同様に揺動するため、固定された当該高電圧供給装置10に対し、当該配線9は伸縮動作を繰り返す。そこで当該配線9はコイル状の配線、もしくは当該結束部8〜当該高電圧供給装置10間の距離の数倍の長さを有する配線が用いられる。
【0022】
円柱状もしくは円筒状電極(B)、すなわち図1および2に記載の円柱状もしくは円筒状電極14の一方の端点は、円柱状もしくは円筒状電極用軸受11で、もう一方の端点は円柱状もしくは円筒状電極用ホルダー15で固定されている。当該軸受11は円柱状もしくは円筒状電極用軸受支持部12で支持されており、また当該ホルダー15は円柱状もしくは円筒状電極用回転モーター16と直結している。これらの構成部品は全て繊維構造体回収部用ベースプレート13上に在り、円柱状もしくは円筒状電極用回転モーター16の駆動による振動等で各構成部品の配置に悪影響が出ないよう、例えば当該モーター16は当該ベースプレート13に、また当該ベースプレート13は任意の水平面に固定されている。当該ホルダー15内には、当該電極14と接触する接地配線17が具備されており、当該配線17は接地極18へと伸びている。さらに繊維構造体の飛散量の低減、および飛散した繊維構造体の装置構成部品への付着防止を目的として、当該軸受支持部12と当該モーター16に対し、円柱状もしくは円筒状電極用軸受支持部防護カバー19および回転モーター防護カバー20が具備されている。
【0023】
当該ベースプレート13上への当該軸受支持部12および当該モーター16の取り付け、および位置決めには高い精度が要求され、これら構成部品に支持されている、もしくは直結している当該軸受11、当該電極14、当該ホルダー15、および当該モーター16の各回転軸の中心は、通常、±0.05mm以内の範囲で一直線上に並んでいる。
【0024】
ところが当該モーター16の駆動を開始させると、当該電極14の直径や長さ、重さ、またその際の回転数等により、回転軸の半径方向に遠心力が働き、特に回転軸の中心付近で回転軸に歪が発生する。当該モーター16の回転中、回転軸にこのような振れ幅W(mm)の歪が発生すると、紡糸ノズル1の先端〜当該電極14の表面までの距離(紡糸距離と称する)が最大でW(mm)変化することになる。紡糸距離のこのような変化は、電気的引力の大きさ、引いては当該紡糸ノズル1より紡出される高分子化合物含有溶液の紡出量に悪影響を及ぼすため、当該電極14の表面上で得られる不織布や繊維構造体の厚みは実に不均一なものになる。
【0025】
この振れ幅Wを最小限に留める手法としては種々のものが例示できるが、特に限定されるものではない。例えば、当該モーター16の回転数を極力抑えることも好適な手法である。
【0026】
ただ既述のように、回転軸の両端が高い精度で、かつ強固に固定されていることが、逆にこのような偏心回転を拡大させる要因となる場合もあり、運転条件如何では回転軸の固定点にある程度の自由を与えることも考慮しなければならない。
【0027】
例えば当該軸受11に、汎用されている転がり玉軸受を使用せず、単に樹脂を円筒状に加工した部品を用いることも好適な手法である。当該円筒状部品の内部に当該電極14を圧入し、これを当該軸受支持部12に装備し、当該電極14を回転させることで、既述の回転軸の歪に係る不要な力を当該円筒状部品が大半吸収するため、当該電極14の振れ幅Wはより小さなものになる。
【0028】
その他、当該軸受支持部12を当該ベースプレート13に固定する際に、固定に用いるボルトの下部にスプリングを設置する手法も好適である。当該軸受支持部12を当該ベースプレート13に固定する際、当該ボルトにて完全に固定するのではなく、当該スプリングにより当該軸受支持部12に一定の保持力が働くように固定する。当該電極14を回転させた際に生じる回転軸の歪に係る不要な力は、完全には固定されていない当該軸受支持部12の微小な動きに吸収され、当該電極14の振れ幅Wはより小さなものになる。
【0029】
回転軸の偏心回転を抑制する上記手法を施すことで、既述した紡糸距離はほぼ一定となり、当該電極14上で得られる不織布や繊維構造体の厚みは均一なものになる。このような繊維構造体の均一な厚みを達成できる回転軸の振れ幅W(mm)としては、当該電極14の外径をD(mm)として、下記式(1)〜(3)で与えられる範囲となる。
W<5/D (ただし0<D≦10) (1)
W<D/20 (ただし10<D≦100) (2)
W<5 (ただし100<D) (3)
【0030】
また、得られる不織布や繊維構造体の厚みを均一にする手法としては、紡糸ノズル1を回転軸方向に水平揺動させながら紡糸を行う手法も好ましい。そこで本発明では、当該紡糸ノズル1を紡糸ノズル用ホルダー2に取り付け、さらに当該ホルダー2を、紡糸ノズル用ホルダー支持部6を介してスライドレール5に取り付ける。紡糸ノズル揺動用モーター4は当該スライドレール5を水平方向に揺動させる機能を有しており、当該スライドレール5の両端の限界点に達した際に、当該スライドレール5の送り方向が逆転するようにプログラミングされている。
【0031】
上記した手法により、紡糸ノズル1を回転軸方向に水平揺動させることが可能となるが、その揺動機構は上記に限定されるものではない。例えばスライドレール5は長尺のねじ付シャフトでも代替できるし、回転するカムを用いても水平往復動を発現させることは可能である。
【0032】
紡糸ノズル1には、その断面積が1〜8000mm、好ましくは1〜400mmの円形もしくは四角形で、両端が開放されている管が用いられる。尚、当該管は、一方の端点の断面積が0.005〜80mm、好ましくは0.005〜1mmとなるように、当該管の途中より当該端点に向かって内径が減衰されており、この内径が減衰された端点側より高分子化合物含有溶液が紡出する。
【0033】
高分子化合物繊維構造体を製造する際には、当該紡糸ノズル1に高分子化合物含有溶液を投入し、さらに高電圧印加用電極3を具備した紡糸ノズル用ホルダー2に取り付け、高電圧供給装置10より当該電極3を介して当該溶液に高電圧を印加する。静電場に生じる電気的引力が、当該紡糸ノズル1の先端に形成される当該溶液の液滴の表面張力より大きくなると、当該紡糸ノズル1の先端より当該溶液が紡出される。この時の紡出量は、当該紡糸ノズル1で例示されるような紡糸ノズル単体当りで数十μg〜数g/分と極微量である。
【0034】
本発明においては、紡糸部(A)において、紡糸部(A)と円柱状もしくは円筒状電極(B)の間に生じる電気的引力、および/または紡糸部(A)にて保持する当該高分子化合物含有溶液の液頭にかかる圧力によって、当該高分子化合物含有溶液を供給することが好ましい。従来の紡糸法では、紡糸ノズルにて消費された当該溶液を補充すべく、ポンプや空圧等により当該溶液を送液する手法が採用されている。また静電紡糸法においても、極少量の当該溶液を送液できるようなポンプ等を採用している場合が多い。しかしこれら手法では、当該溶液の送液を強制的に行うことから、当該紡糸ノズル1の先端にて保持可能な液滴を形成させることが極めて困難である。送液不足が原因で、当該紡糸ノズル1の先端で当該溶液の液滴形成が確認できない場合、静電場に生じる電気的引力に対し、当該溶液の表面張力が過剰となるため、当該紡糸ノズル1より当該溶液は紡出されない。また送液が過剰となった場合は、当該紡糸ノズル1の先端で液滴が保持されず、液垂れを起こし、場合によっては液滴の状態で円柱状もしくは円筒状電極14に到達する。これは得られる高分子化合物繊維構造体の厚みを不均一にするだけでなく、表面性状にも悪影響を及ぼす。
【0035】
また既述のポンプ類は、送液動作の機構上、独特の脈動を生じる場合が多い。脈動により、極微量ではあるが、単位時間当りの送液量が変化するため、極微量の紡出量を取り扱う場合、紡出量に及ぼす影響は甚大である。
【0036】
限定された品種の繊維構造体を大量に製造する場合は、これら実在する問題点を加味した送液機構を採用する必要があるが、少量多品種を扱うような場合、大掛かりな装置や投資額を必要としない、簡便かつ精巧な送液機構を採用することが好ましい。
【0037】
そこで本発明では、紡糸ノズル1の両端点を開放し、当該紡糸ノズル1内に保持している高分子化合物含有溶液の液頭にかかる圧力、および/または静電場に生じる電気的引力のみで当該溶液の供給を行う。当該溶液の消費により、当該紡糸ノズル1内に保持している当該溶液の液頭にかかる圧力は若干変化するが、紡糸ノズル1の先端での液滴形成および保持を阻害するような大きな変化ではない。本法によれば、当該紡糸ノズル1の先端で適切な液滴を保持することができ、安定した当該溶液の紡出が可能となる。
【0038】
また本発明においては、円柱状もしくは円筒状電極(B)の下部に存在する架台等の構造物(E)について、電極(B)の下端部と架台等の構造物(E)との距離Hを適度に設けることが好ましい。紡糸ノズル1より紡出された高分子化合物は、回転する円柱状もしくは円筒状電極14上に堆積し、高分子化合物繊維構造体を形成する。ところが、当該繊維構造体が堆積する面積が紡出量に対して充分でない場合、つまり当該電極14の外径Dが小さい場合、当該電極14上に堆積できなかった当該繊維構造体は、当該電極14の下部に位置する別の製造装置架台等の構造物上に堆積する。当該電極14上に堆積しなかったこれら堆積物が、そのまま当該製造装置架台等の構造物上に留まっていれば大きな問題にはならないが、当該電極14の下端部より、さらに下部に位置する当該製造装置架台等の構造物(E)までの距離Hが充分に確保できていない場合、電気的引力に関係なく、回転する当該電極14に機械的に巻き上げられる場合がある。これも既述と同様、得られる高分子化合物繊維構造体の厚みを不均一にする要因となる。
【0039】
そこで本発明では、当該電極14の下端部より、さらに下部に位置する製造装置架台等の構造物(E)までの距離Hを100mm以上とする。さらに好ましい範囲は200mm≦Hである。
【0040】
さらに本発明においては、紡糸部(A)、円柱状もしくは円筒状電極(B)、紡糸部(A)を等速揺動させる装置(C)、および電極(B)の回転駆動装置(D)を保持する、および/または包囲する製造装置架台等の構造物の体積固有抵抗率が適度な範囲内にあることが好ましい。既述のとおり、本発明による高分子化合物繊維構造体の製造装置は数多くの部品より構成されており、例えば、感電といった人体に悪影響を及ぼす危険を回避することを考慮した場合、紡糸ノズル用ホルダー2は、帯電する紡糸ノズル1と金属製の紡糸ノズル揺動用モーター4の間を絶縁するような材料が好適であるし、円柱状もしくは円筒状電極14上での高分子化合物繊維構造体の捕集率を向上させることを考慮した場合、当該電極以外の接地箇所は極力失くすべきであり、繊維構造体回収部用ベースプレート13や円柱状もしくは円筒状電極用軸受支持部12等も絶縁材料を選定することが好ましい。また構造上の問題で、導体を材料として用いる場合でも、本発明で例示しているような円柱状もしくは円筒状電極用軸受支持部および回転モーターの防護カバー19、20を絶縁材料で加工し、設置することが好ましい。
【0041】
そこで本発明では、紡糸部(A)、円柱状もしくは円筒状電極(B)、等速揺動させる装置(C)、および回転駆動装置(D)を保持する、および/または包囲する製造装置架台等の構造物の体積固有抵抗率を1010〜1020Ω・mとすることが好ましい。対象となる製造装置架台等の構造物は、図1および2において、紡糸ノズル用ホルダー2、紡糸ノズル部用ベースプレート7、繊維構造体回収部用ベースプレート13、円柱状もしくは円筒状電極用軸受支持部防護カバー19、および円柱状もしくは円筒状電極用回転モーター防護カバー20を例示できるが、これらに限定されるものではない。
【0042】
また既述の体積固有抵抗率を有する材料としては、ポリアセタール、超高分子量ポリエチレン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート、アクリル、テフロン(登録商標)、MCナイロン(登録商標)等を例示でき、これらより選ばれる少なくとも1種が用いられるが、これらに限定されるものではない。
【0043】
次いで以下では、既述した製造装置を用いた円筒状の高分子化合物繊維構造体の製造方法について詳述する。
まず紡糸ノズル1に高分子化合物含有溶液を投入し、当該紡糸ノズル1を紡糸ノズル用ホルダー2に固定する。
【0044】
尚、本発明で用いられる高分子化合物としては、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリエチレンオキサイド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリ−m−フェニレンテレフタレート、ポリ−p−フェニレンイソフタレート、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン−アクリレート共重合体、ポリアクリロニトリル、ポリアクリロニトリル−メタクリレート共重合体、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリエステルカーボネート、ナイロン、アラミド、ポリカプロラクトン、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリヒドロキシ酪酸、ポリ酢酸ビニル、ポリペプチド等を例示でき、これらより選ばれる少なくとも1種が用いられるが、特にこれらに限定されるものではない。
【0045】
また、本発明で用いられる溶媒としては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、テトラエチレングリコール、トリエチレングリコール、メチルイソブチルケトン、メチル−n−ヘキシルケトン、メチル−n−プロピルケトン、ジイソプロピルケトン、ジイソブチルケトン、アセトン、フェノール、ギ酸メチル、ギ酸エチル、ギ酸プロピル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸プロピル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジプロピル、塩化メチル、塩化エチル、塩化メチレン、o−クロロトルエン、p−クロロトルエン、クロロホルム、四塩化炭素、1,1−ジクロロエタン、1,2−ジクロロエタン、ジクロロプロパン、ジブロモエタン、ジブロモプロパン、臭化メチル、臭化エチル、臭化プロピル、ベンゼン、トルエン、ヘキサン、シクロヘキサン、シクロペンタン、o−キシレン、p−キシレン、m−キシレン、水等を例示でき、これらより選ばれる少なくとも1種が用いられるが、特にこれらに限定されるものではない。
【0046】
次いで円柱状もしくは円筒状電極14を設置した円柱状もしくは円筒状電極用回転モーター16の駆動を開始させる。当該円柱状もしくは円筒状電極14の回転速度の好適な範囲は0.5〜100rpmであり、上記式(1)〜(3)を満たすように設定される。既述範囲以下では当該モーター16の回転が不安定となり、また既述範囲以上では上記式(1)〜(3)を満たすことが困難になる。
【0047】
次いで紡糸ノズル揺動用モーター4の揺動速度を設定し、駆動を開始させ、さらに高電圧印加装置10にて印加電圧を設定し、高電圧の印加を開始させる。紡糸ノズル1の先端より高分子化合物が紡出され、回転する当該電極14上に当該高分子化合物の繊維構造体が堆積する。
【0048】
一定時間放置後、全ての電源を遮断し、本装置より当該電極14を取り外す。そして、堆積した高分子化合物繊維構造体を回転軸と平行となる方向へ押し出し、円筒状の高分子化合物繊維構造体を得る。
【0049】
尚、既述の高分子化合物繊維構造体の押し出し操作の際、当該電極14上に堆積した当該繊維構造体の回転軸方向の両端点、および任意点全てに対し、均等な力を与えながら押し出した場合、当該繊維構造体の管壁構造は平面に近い構造となるが、本発明によれば、当該電極14上に堆積した当該繊維構造体の回転軸方向の一方の端点を固定し、もう一方の端点より均等な力を与えながら押し出すことで、管壁構造が蛇腹状のものも製造することができる。
【0050】
また、既述の高分子化合物繊維構造体を製造する過程において、紡糸ノズル1と当該電極14の間、すなわち図3のごとく、および/または当該電極14上に、すなわち図4のごとく、連続的に、もしくは間歇的に当該繊維構造体の除電処理を施すことも可能である。除電処理を行うことで、通常の製造過程では達成できない繊維径や目付量を有する高分子化合物繊維構造体が製造できる。例えば間歇的な処理を施すことにより、多層構造を有する当該繊維構造体を得ることができる。
【0051】
既述の手法で製造した高分子化合物繊維構造体の厚みは、紡糸ノズル1の揺動範囲において実に均一なものになる。本発明によれば、当該紡糸ノズル1の揺動範囲において、円筒状の高分子化合物繊維構造体の、50箇所以上の任意点における管壁厚みの標準偏差σ(μm)は15未満の範囲内となる。
【実施例】
【0052】
以下に実施例を挙げて本発明を詳述するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0053】
[実施例1]
ガラス製容器(内容積:50mL)内にポリアクリロニトリル2gを投入し、さらにエタノール6gとN,N−ジメチルホルムアミド12gを投入した。当該容器を密栓した後、70℃の温水浴内で振盪攪拌し、ポリアクリロ二トリルが既述溶媒に均一溶解したことを確認した。当該容器を開放し、既述手法で調製した溶液を吸引ゴム栓付きガラスピペットで5mL吸い上げ、これをガラス管で作製した紡糸ノズル1(全長:120mm、紡出側端部断面積:0.2mm、他方端部断面積:20mm)に全量投入した。当該紡糸ノズル1を、図1および2に例示した装置の紡糸ノズル用ホルダー2に取り付け、さらに直径が8mmであるSUS316製円柱状電極14を、電極用軸受11および電極用ホルダー15間に取り付け、当該紡糸ノズル1の揺動速度が10mm/秒、円柱状電極14の回転速度が60rpm、調製溶液への印加電圧が10kVとなるように、紡糸ノズル揺動用モーター4、電極用回転モーター16、および高電圧供給装置10の出力値を調整した。尚、既述円柱状電極14と繊維構造体回収部用ベースプレート13までの距離Hは200mmとし、当該ホルダー2の材質はテフロン(登録商標)(体積固有抵抗率:1018Ω・m)、ベースプレート7および13の材質はMCナイロン(登録商標)(体積固有抵抗率:1013Ω・m)、当該電極用軸受支持部防護カバー19および当該電極用回転モーター防護カバー20の材質はアクリル(体積固有抵抗率:1015Ω・m)とした。全てのモーター駆動用電源および高電圧供給装置10の電源を投入し、高分子化合物繊維構造体の製造を開始した。紡糸ノズル1の先端では調製溶液が紡出する様子が、また当該円柱状電極14上では極細繊維が堆積し、繊維構造体が形成される様子が確認できた。また当該繊維構造体の製造の間、当該円柱状電極14の回転の様子を超高速度カメラ(撮影速度:35万コマ/秒)で終始撮影し、得られる静止画像から最大の振れ幅Wを特定した。製造時間を3分間とし、製造開始から3分経過した時点で全ての電源を遮断し、当該円柱状電極14を当該装置より取り外した。当該電極14の一方の端点を固定し、もう一方の端点より均等な力を与えながら得られた繊維構造体を押し出したところ、管壁構造が蛇腹状である円筒状の繊維構造体が得られた。そして当該繊維構造体の管壁厚みの均一性を確認すべく、当該繊維構造体を円筒の中心軸方向に切開し、任意点50箇所の厚みをマイクロゲージで測定し、これらの平均値tavおよび標準偏差σを算出した。当該平均値tav、標準偏差σ、および既述の50の実測値より無作為に抽出した10の管壁厚みの代表値t〜t10、さらに回転軸の振れ幅Wは表1のとおりであった。
【0054】
[実施例2]
除電装置を併用すべく、図4に記載の製造装置を用いること、および円柱状電極14の直径Dを120mm、回転速度を10rpm、当該円柱状電極14と繊維構造体回収部用ベースプレート13までの距離Hを150mm、製造時間を5分とする以外は実施例1と同様に実施した。得られた繊維構造体の任意点50箇所の管壁厚み(実測値)の平均値tav、標準偏差σ、および既述の50の実測値より無作為に抽出した10の管壁厚みの代表値t〜t10、さらに回転軸の振れ幅Wは表1のとおりであった。
【0055】
[実施例3]
円柱状電極14の直径Dを12mm、回転速度を20rpm、製造時間を3分とする以外は実施例2と同様に実施した。得られた繊維構造体の任意点50箇所の管壁厚み(実測値)の平均値tav、標準偏差σ、および既述の50の実測値より無作為に抽出した10の管壁厚みの代表値t〜t10、さらに回転軸の振れ幅Wは表1のとおりであった。
【0056】
[実施例4]
円柱状電極14の直径Dを3mmとする以外は実施例1と同様に実施した。得られた繊維構造体の任意点50箇所の管壁厚み(実測値)の平均値tav、標準偏差σ、および既述の50の実測値より無作為に抽出した10の管壁厚みの代表値t〜t10、さらに回転軸の振れ幅Wは表1のとおりであった。
【0057】
[実施例5]
円柱状電極14と繊維構造体回収部用ベースプレート13までの距離Hを50mm、製造時間を8分とする以外は実施例2と同様に実施した。得られた繊維構造体の任意点50箇所の管壁厚み(実測値)の平均値tav、標準偏差σ、および既述の50の実測値より無作為に抽出した10の管壁厚みの代表値t〜t10、さらに回転軸の振れ幅Wは表1のとおりであった。
【0058】
[実施例6]
円柱状電極用軸受支持部防護カバー19および当該電極用回転モーター防護カバー20の材質をSUS304に変更し、当該電極14と繊維構造体回収部用ベースプレート13までの距離Hを200mmとする以外は実施例3と同様に実施した。得られた繊維構造体の任意点50箇所の管壁厚み(実測値)の平均値tav、標準偏差σ、および既述の50の実測値より無作為に抽出した10の管壁厚みの代表値t〜t10、さらに回転軸の振れ幅Wは表1のとおりであった。
【0059】
[比較例1]
実施例1で使用した装置より、円柱状電極用軸受11および当該軸受支持部12を取り外し、円柱状電極14が当該電極用ホルダー15のみで支持されるように当該装置の変更を行い、当該電極14の回転速度を100rpmとする以外は実施例4と同様に実施した。得られた繊維構造体の任意点50箇所の管壁厚み(実測値)の平均値tav、標準偏差σ、および既述の50の実測値より無作為に抽出した10の管壁厚みの代表値t〜t10、さらに回転軸の振れ幅Wは表1のとおりであった。
【0060】
[比較例2]
円柱状電極14の直径Dを5mm、回転速度を400rpmとする以外は実施例1と同様に実施した。得られた繊維構造体の任意点50箇所の管壁厚み(実測値)の平均値tav、標準偏差σ、および既述の50の実測値より無作為に抽出した10の管壁厚みの代表値t〜t10、さらに回転軸の振れ幅Wは表1のとおりであった。
【0061】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明における製造装置の一例の側面概略図である。
【図2】本発明における製造装置の一例の平面概略図である。
【図3】本発明における製造装置で、紡糸部(A)と円柱状もしくは円筒状電極(B)の間に除電装置を配設した例の側面概略図である。
【図4】本発明における製造装置で、円柱状もしくは円筒状電極(B)を挟んで紡糸部(A)とは反対側の位置に除電装置を配設した例の側面概略図である。
【符号の説明】
【0063】
1. 紡糸ノズル
2. 紡糸ノズル用ホルダー
3. 高電圧印加用電極
4. 紡糸ノズル揺動用モーター
5. スライドレール
6. 紡糸ノズル用ホルダー支持部
7. 紡糸ノズル部用ベースプレート
8. 高電圧印加用配線結束部
9. 高電圧印加用配線
10. 高電圧供給装置
11. 円柱状もしくは円筒状電極用軸受
12. 円柱状もしくは円筒状電極用軸受支持部
13. 繊維構造体回収部用ベースプレート
14. 円柱状もしくは円筒状電極
15. 円柱状もしくは円筒状電極用ホルダー
16. 円柱状もしくは円筒状電極用回転モーター
17. 接地配線
18. 接地極
19. 円柱状もしくは円筒状電極用軸受支持部用防護カバー
20. 円柱状もしくは円筒状電極回転モーター用防護カバー
21. 除電装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正または負の高電圧を印加した高分子化合物含有溶液を紡出する、少なくとも一つの紡糸部(A)、
(A)とは逆の極性の高電圧を印加した、もしくは接地した、少なくとも一つの回転する円柱状もしくは円筒状電極(B)、
紡糸部(A)を電極(B)の回転軸に対し平行に等速揺動させる装置(C)、および電極(B)の回転駆動装置(D)とからなる、
紡糸部(A)から電極(B)に向けて高分子化合物含有溶液を吐出し、当該円柱状もしくは円筒状電極(B)上に当該高分子化合物よりなる繊維構造体を堆積させる繊維構造体の製造装置であって、
当該円柱状もしくは円筒状電極(B)の外径D(mm)および回転軸の振れ幅W(mm)が、下記式(1)〜(3)を満たすことを特徴とする高分子化合物繊維構造体の製造装置。
W<5/D (ただし0<D≦10) (1)
W<D/20 (ただし10<D≦100) (2)
W<5 (ただし100<D) (3)
【請求項2】
紡糸部(A)において、紡糸部(A)と円柱状もしくは円筒状電極(B)の間に生じる電気的引力、および/または紡糸部(A)にて保持する当該高分子化合物含有溶液の液頭にかかる圧力によって、高分子化合物含有溶液を供給することを特徴とする請求項1に記載の製造装置。
【請求項3】
円柱状もしくは円筒状電極(B)の下部に存在する架台等の構造物(E)について、電極(B)の下端部と架台等の構造物(E)との距離Hが100mm以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の製造装置。
【請求項4】
当該紡糸部(A)、電極(B)、紡糸部(A)を等速揺動させる装置(C)、および電極(B)の回転駆動装置(D)を保持する、および/または包囲する製造装置架台等の構造物の体積固有抵抗率が1010〜1020Ω・mの範囲にあることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の製造装置。
【請求項5】
正または負の高電圧を印加した高分子化合物含有溶液を紡出する、少なくとも一つの紡出部(A)より、当該部位とは逆の極性の高電圧を印加した、もしくは接地した、少なくとも一つの回転する円柱状もしくは円筒状電極(B)に向けて高分子化合物含有溶液を吐出し、当該円柱状もしくは円筒状電極(B)上に当該高分子化合物よりなる繊維構造体を堆積させ、回転軸と平行に当該繊維構造体を押し出して円筒状の繊維構造体を得ることを特徴とする繊維構造体の製造方法であって、製造装置が当該円柱状もしくは円筒状電極(B)の回転軸に対し、当該紡出部(A)を平行に等速揺動する機能を有し、さらに当該円柱状もしくは円筒状電極(B)の外径D(mm)および回転軸の振れ幅W(mm)が、下記式(1)〜(3)を満たすことを特徴とする高分子化合物繊維構造体の製造方法。
W<5/D (ただし0<D≦10) (1)
W<D/20 (ただし10<D≦100) (2)
W<5 (ただし100<D) (3)
【請求項6】
当該円柱状もしくは円筒状電極(B)の回転速度が0.5〜100rpmの範囲にあることを特徴とする請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
当該円筒状の繊維構造体の管壁構造が蛇腹状であることを特徴とする請求項5または6に記載の製造方法。
【請求項8】
当該紡出部(A)より紡出した当該高分子化合物の繊維、および/または当該円柱状もしくは円筒状電極(B)上の当該高分子化合物の繊維構造体に対し、除電処理を行うことを特徴とする請求項5〜7のいずれかに記載の製造方法。
【請求項9】
当該紡出部(A)の揺動範囲において、当該円筒状の繊維構造体の、50箇所以上の任意点における管壁厚みの標準偏差σ(μm)が15未満の範囲内にあることを特徴とする、請求項5〜8のいずれかに記載の製造方法により得られる高分子化合物繊維構造体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−308820(P2007−308820A)
【公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−137521(P2006−137521)
【出願日】平成18年5月17日(2006.5.17)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【Fターム(参考)】