説明

静電集塵装置の高圧側電極用樹脂組成物

【課題】解決しようとする課題は、静電集塵装置の高圧側電極に用いる成形材料として、芳香族系樹脂を使用しないで成形性、耐衝撃性、集塵能力が優れたものである樹脂組成物を新規に提供することである。
【解決手段】本発明の静電集塵装置の高圧側電極用樹脂組成物は、ポリプロピレン樹脂50〜95重量部及び吸水性樹脂5〜50重量部、からなり、かつ、体積固有抵抗値が10〜1013Ω・cmのオーダーであることを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静電集塵装置に使用される高圧側電極用樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、特開平8−71451号公報によって開示された静電集塵装置が知られている。この特許文献では、気流中の微粒子に対して電荷を与えるアイオナイザー部と、荷電した粒子を静電力によって捕集する集塵側電極と高圧側電極とを備えるコレクタ部とを有する静電集塵装置であって、該高圧側電極が、体積固有抵抗値が1010〜1013Ωcmのオーダーである吸湿性樹脂からなる静電集塵装置が開示されており、高圧側電極に用いる吸湿性樹脂は、体積固有抵抗値が下記式1を満たす樹脂であると記載されている。
ΔlogR/ΔlogV≧−1 式1
(ただし、式1において、Rは体積固有抵抗値、Vは印加電圧である)
さらに、静電集塵装置の高圧側電極に用いる吸湿性樹脂はABS樹脂を基材として吸水性樹脂を配合してなる樹脂またはフェノール樹脂を基材とした樹脂であることを特徴とするものであると、記載されている。
【特許文献1】特開平8−71451号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
解決しようとする課題は、芳香族系樹脂を使用しないで静電集塵装置の高圧側電極用樹脂を新規に提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、静電集塵装置の高圧側電極用樹脂組成物として芳香族系樹脂を使用せずポリプロピレンを基材として吸水性樹脂を配合してなる樹脂組成物であることを最も主要な特徴とする。
【0005】
請求項1に係わる発明は、(A)ポリプロピレン樹脂50〜95重量部及び(B)吸水性樹脂5〜50重量部、からなり、体積固有抵抗値が10〜1013Ω・cmのオーダーであることを特徴とする静電集塵装置の高圧側電極用樹脂組成物である。
【0006】
請求項2に係わる発明は、樹脂組成物の23℃におけるアイゾット衝撃強度が30J/m以上であり、かつ、230℃におけるメルトフローレート(MFR)が2〜50g/10minであることを特徴とする請求項1記載の静電集塵装置の高圧側電極用樹脂組成物である。
【0007】
請求項3に係わる発明は、(A)ポリプロピレン樹脂がエチレンとプロピレンとの共重合体であるブロックコポリマーを含有していることを特徴とする請求項1または2記載の静電集塵装置の高圧側電極用樹脂組成物である。
【0008】
請求項4に係わる発明は、(B)吸水性樹脂がポリアミド系樹脂、ポリエーテル系樹脂、アクリル酸塩系樹脂から選ばれた単独または複数の樹脂からなる請求項1〜3記載の静電集塵装置の高圧側電極用樹脂組成物である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の静電集塵装置の高圧側電極用樹脂組成物を用いた静電集塵装置の高圧側電極によれば、芳香族系樹脂を使用しないで作成することが可能となる。廃棄、焼却時において芳香族化合物由来の有害物質の発生を起こさない。また、得られる高圧側電極成形品は従来品に比べ柔軟性が良好であるため部品同士の嵌め込みが容易で、成形品が割れる危険がない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を詳述する。
【0011】
本発明の静電集塵装置の高圧側電極用樹脂組成物は、(A)ポリプロピレン樹脂及び(B)吸水性樹脂とからなる。
【0012】
本発明の静電集塵装置の高圧側電極用樹脂組成物は、体積固有抵抗値が10〜1013Ω・cmのオーダーである。体積固有抵抗値がこの範囲内にあると、静電集塵装置の高圧側電極の成形材として用いたときに良好な集塵性能が発揮され、使用することができる。集塵性能は集塵側電極と高圧側電極との組合せにより決定するが、発明者らの検討結果、高圧側電極の体積固有抵抗値は10〜1013Ω・cmのオーダーであると、良好な集塵性能が得られる。
【0013】
本発明に係わる樹脂組成物は23℃におけるアイゾット衝撃強度が30J/m以上であり、かつ、230℃におけるメルトフローレート(MFR)が2〜50g/10minである。アイゾット衝撃強度がこの範囲にある樹脂組成物を用いると、静電集塵装置の高圧側電極として射出成形した場合において、割れ、欠け等がない良好な成形品として電極を得ることができる。また、メルトフローレート(MFR)がこの範囲にある樹脂組成物を用いると、静電集塵装置の高圧側電極のように込み入った形状の成形品を充填不足等のトラブルを起こさずに安定して生産することができる。これらの条件を満足させるため、本発明に用いられる(A)ポリプロピレン樹脂は、23℃におけるアイゾット衝撃強度が50J/m以上であることが好ましい。
【0014】
本発明に用いられる(A)ポリプロピレン樹脂としては、ホモポリマー(プロピレン単独重合体)、エチレンとプロピレンとの共重合体であるランダムコポリマー、ブロックコポリマー及びこれらのポリマーの混合物が挙げられる。これらのポリプロピレン樹脂を用いると、例えばラダー型の電極を成形する際に割れる等の不具合が発生せずに良好に使用できるため好ましい。特に、エチレンとプロピレンとの共重合体であるブロックコポリマーは衝撃強度が優れているため、(A)成分として単独または併用することが好ましい。
【0015】
本発明に用いられる(B)吸水性樹脂としては、ポリアミド系樹脂、ポリエーテル系樹脂、アクリル酸塩系樹脂から選ばれた単独または複数の樹脂から選択することができる。
【0016】
本発明に係わる樹脂組成物は、(A)ポリプロピレン樹脂が50〜95、好ましくは70〜95重量部、(B)吸水性樹脂が50〜5、好ましくは30〜5重量部とからなっている。この範囲内であると、製品である静電集塵装置の高圧側電極とした場合に必要とされる性能である抵抗値を良好に得ることができる。さらに、成形性及び成形品の物理的強度をバランス良く得ることも可能となる。これら本発明に係わる樹脂組成物から得られる成形品はABS等を基材とした電極よりも優れた柔軟性が得られるため、部品同士の嵌め込みが容易で、成形品が割れる危険が小さい。
【0017】
本発明に係わる樹脂組成物には、必要に応じて酸化防止剤、光安定剤、耐光性安定剤、マイカ・タルク等の充填剤、難燃剤、顔料、染料、滑剤等の添加剤を、本発明の目的を阻害しない範囲で配合することができる。
【0018】
本発明に係わる樹脂組成物は、(A)ポリプロピレン樹脂、(B)吸水性樹脂、必要に応じてその他の添加剤を前記した配合量範囲で、ヘンシェルミキサー、タンブラーブレンダー、リボンブレンダー、V−ブレンダー等の混合機を用いて混合した後、単軸押出機、二軸押出機、ニーダー、バンバリーミキサー等で溶融混練りすることにより、均一組成の組成物を得ることができる。
【実施例】
【0019】
次に実施例により本発明を説明するが、本発明はそれら実施例に限定されるものではない。実施例、比較例で用いた樹脂及び添加剤について表−1に示す。
【0020】
【表1】

【0021】
(実施例1〜6)前記した樹脂及び添加剤を表2記載の配合割合(重量部)で準備し、その後タンブラーミキサー中で均一混合する。次いで、株式会社池貝製、二軸押出機(製品名:PCM−30)を用いて、樹脂温度210℃にて溶融混練し、その混練物を押し出してペレタイザーによりカットし本発明の樹脂組成物ペレットを得る。このペレットを射出成形し試験片作成する。
【0022】
このペレット及び試験片を用いて、次の方法で各種物性を調べる。
(a)メルトフローレート(MFR);ASTM D−1238,230℃、2.16kg荷重、単位はg/10min。
(b)アイゾット衝撃強度;ノッチ付きの試験片を用い、23℃にて、ASTM D−256に準じる。単位はJ/m。
(c)体積固有抵抗値;プレートの試験片を温度23℃、湿度50%雰囲気下48時間後に、高抵抗率計(三菱化学株式会社製、ハイレスターUP MCP−HT450)により、印加電圧500V、測定時間1minで測定。単位はΩ・cm。
【0023】
各種物性値の、評価基準は次の通りである。評価結果は表2に記す。
(成形性)
○:メルトフローレート(MFR)が2〜50であり、良好な成形性である
△:メルトフローレート(MFR)が50以上であり、安定した成形物が継続して得難い
×:メルトフローレート(MFR)が2未満であり、充填不良等のため安定して成形物が得られない
(耐衝撃性)
○:アイゾット衝撃強度が30以上であり、衝撃性に優れた良好な成形品が得られる
△:アイゾット衝撃強度が10〜30であり、割れ、欠け等に対する強度が不十分な成形品が得られる
×:アイゾット衝撃強度が10以下であり、電極として成形し使用した際に割れ、欠けを起こす
(抵抗値)
○:体積固有抵抗値が10〜1013のオーダーであり、高圧側電極として使用した際に良好な集塵性能を発揮する
×:体積固有抵抗値が10〜1013のオーダー以外であり、高圧側電極として集塵性能が足らない
【0024】
【表2】

【0025】
表2に示す通り、実施例1〜6の評価結果は、成形性、耐衝撃性、抵抗値の全てにおいて静電集塵装置の高圧側電極用組成物としての性能を満たしており、静電集塵装置の高圧側電極として良好に使用できる。
【0026】
(比較例1〜4)表2に記載した樹脂を用いた以外は実施例と同様に行い、ペレット及び試験片を得る。その後、物性を調べ、評価結果を表2に併せて記した。比較例1においては、吸水性樹脂の配合量が必要量に達せずに良好な抵抗値が得られない。比較例2においては、用いたポリプロピレン樹脂のメルトフローレートが0.5g/10minであるため、成形において流動性が悪く、良好な成形性が得られない。比較例3においては、アイゾット衝撃強度が25J/mのホモタイプポリプロピレン樹脂を用いたため、良好な耐衝撃性が得られない。比較例4においては、ポリプロピレン樹脂と吸水性樹脂との組合せにおいて混練した組成物としての評価が悪く、メルトフローレートが大きすぎて連続した成形時に安定した形状の成形物が得られず、かつ、アイゾット衝撃強度が20J/mで耐衝撃性に劣り良好な電極を得ることができない。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明の静電集塵装置の高圧側電極用樹脂組成物を用いた成形物は静電集塵装置の高圧側電極として良好に使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ポリプロピレン樹脂50〜95重量部及び(B)吸水性樹脂5〜50重量部、からなり、体積固有抵抗値が10〜1013Ω・cmのオーダーであることを特徴とする静電集塵装置の高圧側電極用樹脂組成物。
【請求項2】
樹脂組成物の23℃におけるアイゾット衝撃強度が30J/m以上であり、かつ、230℃におけるメルトフローレート(MFR)が2〜50g/10minであることを特徴とする請求項1記載の静電集塵装置の高圧側電極用樹脂組成物。
【請求項3】
(A)ポリプロピレン樹脂がエチレンとプロピレンとの共重合体であるブロックコポリマーを含有していることを特徴とする請求項1または2記載の静電集塵装置の高圧側電極用樹脂組成物。
【請求項4】
(B)吸水性樹脂がポリアミド系樹脂、ポリエーテル系樹脂、アクリル酸塩系樹脂から選ばれた単独または複数の樹脂からなる請求項1〜3記載の静電集塵装置の高圧側電極用樹脂組成物。

【公開番号】特開2006−199802(P2006−199802A)
【公開日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−12235(P2005−12235)
【出願日】平成17年1月20日(2005.1.20)
【出願人】(000219912)東京インキ株式会社 (120)
【Fターム(参考)】