説明

非アミノ有機酸の製造方法

【課題】コハク酸などの非アミノ有機酸を効率よく製造する。
【解決手段】グルタメートシンターゼ及び/又はグルタミンシンセターゼの活性が該酵素の非改変株に比べて30%以下に低減するように改変された細菌であって、グルタメートデヒドロゲナーゼ活性が該酵素の非改変株に比べて30%以下に低減していない細菌、あるいはその処理物を、炭酸イオン若しくは重炭酸イオン又は二酸化炭素ガスを含有する反応液中で有機原料に作用させることによって非アミノ有機酸を生成させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コリネ型細菌等の細菌を用いた非アミノ有機酸の製造法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
コハク酸などの非アミノ有機酸を発酵により生産する場合、通常、Anaerobiospirillum(アナエロビオスピリラム)属、Actinobacillus(アクチノバチルス)属等の嫌気性細菌が用いられている(例えば、特許文献1又は2、非特許文献1参照)。嫌気性細菌を用いる場合は、生産物の収率が高いが、その一方では、増殖するために多くの栄養素を要求するために、培地中に多量のCSL(コーンスティープリカー)などの有機窒素源を添加する必要がある。これらの有機窒素源を多量に添加することは培地コストの上昇をもたらすだけでなく、生産物を取り出す際の精製コストの上昇にもつながり経済的でない。
【0003】
また、コリネ型細菌のような好気性細菌を好気性条件下で一度培養し、菌体を増殖させた後、集菌、洗浄し、静止菌体として酸素を通気せずに非アミノ有機酸を生産する方法も知られている(例えば、特許文献3又は4参照)。この場合、菌体を増殖させるに当たっては、有機窒素の添加量が少なくてよく、簡単な培地で十分増殖できるため経済的ではあるが、目的とする有機酸の生成量、生成濃度、及び菌体当たりの生産速度の向上、製造プロセスの簡略化等、改善の余地があった。また、好気性細菌を用いた場合に、目的の非アミノ有機酸以外にアミノ酸が副生するということも、非アミノ有機酸の収量をさらに向上させる上での改善すべき点であった。また、非アミノ有機酸の製造に用いる微生物については、遺伝子改変微生物(特許文献4又は5参照)も報告されていたが、非アミノ有機酸の収量などのさらなる改善のために、新たな微生物の創出が求められていた。
【0004】
グルタミン酸生合成系はコハク酸の前駆体の一つであるα‐ケトグルタル酸を基質としてグルタミン酸を合成する。
一般に、微生物は、アンモニアを同化してグルタミン酸を生成するために少なくとも以下の2種類の生合成経路を持つことが知られている。前者はグルタメートデヒドロゲナーゼ(GDH)によりアンモニアとα−ケトグルタル酸からグルタミン酸を生成する経路(GDH経路)で、後者は、先ずグルタミンシンセターゼ(GS)によりアンモニアとグルタミン酸からグルタミンを生成し、生じたグルタミンとα−ケトグルタル酸からグルタメートシンターゼ(GOGAT)によって2分子のグルタミン酸を生成する経路(GS-GOGAT経路)である(例えば、非特許文献2参照)。
GOGAT及びGSのいずれか一方又は両方の活性、並びにGDH活性がそれぞれ非改変株に比べて30%以下に低減化するように改変された細菌またはその処理物を用いて非アミノ有機酸を製造する方法が報告されている(特許文献6)。この文献では非アミノ有機酸の生産向上にはGOGAT及び/又はGS、並びにGDHの活性低下が重要との認識のもとに研究がなされており、GOGAT及び/又はGSの活性低下のみで非アミノ有機酸の生産が向上するとは予想されていなかった。
実際、コリネ型細菌のGOGAT遺伝子単独の欠損株(例えば、非特許文献3参照)が報告されているが、この株はグルタミン酸要求性を示さず、非欠損株と比較してもグルタミン酸生成において大きな変化はなかった。さらに、コハク酸生合成系は複雑であって、コハク酸はα‐ケトグルタル酸以外にもフマル酸やイソクエン酸などを前駆体として合成されるため、GOGAT遺伝子単独を破壊してもコハク酸などの非アミノ有機酸の生成が向上するとは予想できず、GOGAT遺伝子単独の欠損株が非アミノ有機酸の製造に用いられることはなかった。
【特許文献1】米国特許第5,143,834号公報
【特許文献2】米国特許第5,504,004号公報
【特許文献3】特開平11−113588号公報
【特許文献4】特開平11−196888号公報
【特許文献5】特開平11−206385号公報
【特許文献6】特開2005−168401号公報
【非特許文献1】International Journal of Systematic Bacteriology, vol. 49, p207-216、 1999年
【非特許文献2】Gottschalk G.著、Spriner-Verlag 2nd ed., New York, N.Y.、1986年
【非特許文献3】Beckers G., Nolden L., Burkovski A.著、 Microbiology、 vol. 147、p2961-2970、2001年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、コハク酸などの非アミノ酸有機酸を効率よく製造する新規な方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討を行った。その結果、グルタメートデヒドロゲナーゼ(GDH)活性を一定以上保持し、グルタメートシンターゼ及び/又はグルタミンシンセターゼの活性が低減するように改変された細菌あるいはその処理物を、炭酸イオン、重炭酸イオンまたは二酸化炭素ガスを含有する反応液中で有機原料に作用させることにより、非アミノ有機酸の生成量が増大することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち本発明によれば、以下の発明が提供される。
(1)グルタメートシンターゼ及び/又はグルタミンシンセターゼの活性が該酵素の非改変株に比べて30%以下に低減するように改変された細菌であって、グルタメートデヒドロゲナーゼ活性が該酵素の非改変株に比べて30%以下に低減していない細菌、あるいはその処理物を、炭酸イオン、重炭酸イオン又は二酸化炭素ガスを含有する反応液中で有機原料に作用させることによって非アミノ有機酸を生成させ、該非アミノ有機酸を採取することを特徴とする非アミノ有機酸の製造方法。
(2)前記細菌が、さらに、ラクテートデヒドロゲナーゼ活性が低減するように改変された細菌である、(1)の非アミノ有機酸の製造方法。
(3)前記細菌が、さらに、ピルビン酸カルボキシラーゼ活性が増強するように改変された細菌である、(1)又は(2)の非アミノ有機酸の製造方法。
(4)前記細菌が、コリネ型細菌、バチルス属細菌、リゾビウム属細菌、エシェリヒア属細菌、ラクトバチルス属細菌、およびサクシノバチルス属細菌よりなる群から選ばれるいずれかの細菌である、(1)〜(3)のいずれかの非アミノ有機酸の製造方法。
(5)有機原料を嫌気的雰囲気下で作用させることを特徴する、(1)〜(4)のいずれかの非アミノ有機酸の製造方法。
(6)有機原料が、グルコースまたはシュークロースである、(1)〜(5)のいずれかの非アミノ有機酸の製造方法。
(7)非アミノ有機酸が、コハク酸である、(1)〜(6)のいずれかの非アミノ有機酸の製造方法。
(8)(1)〜(7)のいずれかの方法により非アミノ有機酸を製造する工程、及び前記工程で得られた非アミノ有機酸を原料として重合反応を行う工程を含む、非アミノ有機酸含有ポリマーの製造方法。
【発明の効果】
【0008】
グルタメートデヒドロゲナーゼ(GDH)活性を一定以上保持し、グルタメートシンターゼ活性及び/又はグルタミンシンセターゼ活性が低減するように改変された細菌あるいはその処理物を用いて非アミノ有機酸を製造することにより、副生アミノ酸を減少させ、非アミノ有機酸の生成量を増大させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
1.本発明に使用する細菌
本発明の製造方法に用いることのできる細菌は、グルタメートデヒドロゲナーゼ(以下、GDHとも呼ぶ)の活性を一定以上保持する細菌であって、グルタメートシンターゼ(以下、GOGATとも呼ぶ)活性とグルタミンシンセターゼ(以下、GSとも呼ぶ)活性のいずれか又は両方が低減化するように改変された細菌であり、非アミノ有機酸生産能を有する細菌である。
ここで、「非アミノ有機酸生産能を有する」とは、該細菌を培地中で培養したときに該培地中に非アミノ有機酸を生成蓄積することができることをいう。非アミノ有機酸はアミノ酸以外の有機酸を意味するが、コハク酸、リンゴ酸、フマル酸、クエン酸、イソクエン酸、2−オキソグルタル酸、シス−アコニット酸およびピルビン酸が好ましく、コハク酸がより好ましい。
このような細菌は、本来的に非アミノ有機酸生産能を有する細菌又は育種により非アミノ有機酸生産能を付与された細菌において、GOGAT及び/又はGS活性を低減させる改変を行ったものでもよいし、GOGAT及び/又はGS活性を低減させる改変を行うことにより非アミノ有機酸生産能を有するようになったものでもよい。育種により非アミノ有機酸生産能を付与する手段としては、変異処理、遺伝子組換え処理などが挙げられ、より具体的には、後述するようなラクテートデヒドロゲナーゼ活性を低減するような改変やピルビン酸カルボキシラーゼ活性を増強するような改変などが挙げられる。
【0010】
「GDHの活性を一定以上保持する」とは、本発明の細菌におけるGDHの活性がこの酵素遺伝子の非改変株における活性の30%以下に低下しないことを意味し、例えば、GDHの酵素活性が非改変株における活性の30%より高い活性を示すように改変されていてもよいが、GDHをコードする遺伝子について遺伝子破壊や活性を低下するような変異導入などの改変がなされておらず、野生型GDH遺伝子を保持し、非改変株と同程度のGDH活性を有している細菌が好ましい。
【0011】
本発明に用いる細菌は、以下に示すような細菌を親株として用い、該親株を改変することによって得ることができる。親株の種類は特に限定されないが、コリネ型細菌(Coryneform Bacterium)、バチルス(Bacillus)属細菌、リゾビウム(Rhizobium)属細菌、エシェリヒア(Escherichia)属細菌、ラクトバチルス(Lactobacillus)属細菌又はサクシノバチルス(Succinobacillus)属細菌が好ましく、この中ではコリネ型細菌がより好ましい。
エシェリヒア属細菌としてはエシェリヒア・コリなどが挙げられ、ラクトバチルス属細菌としてはラクトバチルス・ヘルヴェチカスなどが挙げられ(J Appl Microbiol, 2001, 91, p846-852、バチルス属細菌としては、バチルス・ズブチリス、バチルス・アミロリケファシエンス、バチルス・プミルス、バチルス・ステアロサーモフィルス等が挙げられ、リゾビウム属細菌としては、リゾビウム・エトリ(Rhizobium etli)などが挙げられる。
コリネ型細菌は、これに分類されるものであれば特に制限されないが、コリネバクテリウム属に属する細菌、ブレビバクテリウム属に属する細菌又はアースロバクター属に属する細菌などが挙げられ、このうち好ましくは、コリネバクテリウム属又はブレビバクテリ
ウム属に属するものが挙げられ、更に好ましくは、コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)、ブレビバクテリウム・フラバム(Brevibacterium flavum)、ブレビバクテリウム・アンモニアゲネス(Brevibacterium ammoniagenes)又はブレビバクテリウム・ラクトファーメンタム(Brevibacterium lactofermentum)に分類される細菌が挙げられる。
【0012】
本発明に用いる細菌の親株の特に好ましい具体例としては、ブレビバクテリウム・フラバムMJ−233(FERM BP−1497)、同MJ−233 AB−41(FERM BP−1498)、ブレビバクテリウム・アンモニアゲネス ATCC6872、コリネバクテリウム・グルタミカム ATCC31831、及びブレビバクテリウム・ラクトファーメンタムATCC13869等が挙げられる。なお、ブレビバクテリウム・フラバムは、現在、コリネバクテリウム・グルタミカムに分類される場合もあることから(Lielbl, W., Ehrmann, M., Ludwig, W. and Schleifer, K. H., International Journal of
Systematic Bacteriology, 1991, vol. 41, p255-260)、本発明においては、ブレビバクテリウム・フラバムMJ−233株、及びその変異株MJ−233 AB−41株はそれぞれ、コリネバクテリウム・グルタミカムMJ−233株及びMJ−233 AB−41株と同一の株であるものとする。
ブレビバクテリウム・フラバムMJ−233は、1975年4月28日に通商産業省工業技術院微生物工業技術研究所(現独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センター)(〒305-8566 日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1 中央第6)に受託番号FERM P-3068として寄託され、1981年5月1日にブダペスト条約に基づく国際寄託に移管され、FERM BP-1497の受託番号で寄託されている。
なお、親株として用いられる上記細菌は、野生株だけでなく、UV照射やNTG処理等の通常の変異処理により得られる変異株、細胞融合もしくは遺伝子組換え法などの遺伝学的手法により誘導される組換え株などのいずれの株であってもよい。
【0013】
本発明に用いる細菌は、上記のような株を、GOGAT及び/又はGS活性が低減するように改変することによって得ることができる。なお、上述したとおり、GDHについてはこの酵素の活性が非改変株における活性の30%より高い値を示すように改変してもよいが、GDH活性を非改変株と同程度の活性に保つためには特に改変操作を行う必要はない。
【0014】
本発明において、「GOGAT活性」とはグルタミンとα−ケトグルタル酸から2分子のグルタミン酸を生成する反応を触媒する活性を言い、「GS活性」とはグルタミン酸とアンモニアからグルタミンを生成する反応を触媒する活性を言い、「GDH活性」とはα−ケトグルタル酸とアンモニアからグルタミン酸を生成する反応を触媒する活性を言う。
なお、GOGAT活性は特開2005−168401号公報に記載の方法によって測定することができる。また、GDH活性およびGS活性は、Journal of Fermentation and Bioengineering vol 70, p182-184(1990年)に記載の方法によって測定することができる。また、GDHの活性は、特開2005−168401号公報に記載の方法によっても測定することができる。
【0015】
「GOGAT及び/又はGS活性が低減する」とは、これらの酵素をコードする遺伝子の非改変株と比較してこれらの酵素活性が低減されていることをいう。GOGAT及び/又はGS活性は、非改変株の30%以下に低減化されていることが好ましく、10%以下に低減化されていることがより好ましい。GOGAT及び/又はGS活性は検出限界以下に低減されていてもよい。なお、本明細書において、「非改変株」とは、改変株の元になった株そのものである必要はなく、同種の野生株や上述したような親株であってもよい。
【0016】
GOGAT及び/又はGSの活性が低下した株は、親株をN−メチル−N'−ニトローN−ニトロソグアニジン(NTG)や亜硝酸等の通常変異処理に用いられている変異剤によって処理
し、上記酵素の活性が低下した株を選択することによって得ることができる。また、GOGAT及び/又はGSをコードする遺伝子を用いて改変することによって、酵素活性を低下させてもよい。具体的には、染色体上のGOGAT及び/又はGSをコードする遺伝子を破壊したり、プロモーターやシャインダルガルノ(SD)配列等の発現調節配列を改変したりすることなどによって達成される。
【0017】
以下に、コリネ型細菌においてGOGAT遺伝子を破壊する方法について例示する。染色体上のGOGAT遺伝子としては、例えば、配列番号3(大サブユニット)または5(小サブユニット)(それぞれGenBank:Cgl0184、Cgl0185)に示す塩基配列を含むDNAを挙げることができる。GOGAT遺伝子の取得は、上記配列に基づき、合成オリゴヌクレオチドを合成し、コリネバクテリウム・グルタミカムの染色体DNAを鋳型としてPCR反応を行うことによってクローニングできる。染色体DNAは、DNA供与体である細菌から、例えば、斎藤、三浦の方法(H. Saito and K.Miura, Biochem.B iophys. Acta, 72, 619 (1963)、生物工学実験書、日本生物工学会編、97〜98頁、培風館、1992年参照)等により調製することができる。
【0018】
上記のようにして調製したGOGAT遺伝子又はその一部を遺伝子破壊に使用することができる。ただし、遺伝子破壊に用いる遺伝子は破壊対象のコリネ型細菌の染色体DNA上のGOGAT遺伝子と相同組換えを起こす程度の相同性を有していればよいため、配列番号3または5と相同性を有する相同遺伝子も使用することができる。ここで、相同組換えを起こす程度の相同性とは、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上である。また、上記遺伝子とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得るDNA同士であれば、相同組換えは起こり得る。「ストリンジェントな条件」とは、いわゆる特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいう。この条件を明確に数値化することは困難であるが、一例を示せば、65℃、1×SSC,0.1%SDS、好ましくは、0.1×SSC、0.1%SDSに相当する塩濃度で、1回より好ましくは2〜3回洗浄する条件が挙げられる。
【0019】
上記のような遺伝子を使用し、例えば、GOGAT遺伝子の部分配列を欠失し、正常に機能するGOGATを産生しないように改変した欠失型GOGAT遺伝子を作製し、該遺伝子を含むDNAでコリネ型細菌を形質転換し、欠失型遺伝子と染色体上の遺伝子で組換えを起こさせることにより、染色体上のGOGAT遺伝子を破壊することが出来る。このような相同組換えを利用した遺伝子置換による遺伝子破壊は既に確立しており、直鎖状DNAを用いる方法や温度感受性複製起点を含むプラスミドを用いる方法などがある(米国特許第6303383号明細書、又は特開平05-007491号公報)。また、上述のような相同組換えを利用した遺伝子置換による遺伝子破壊は、宿主上で複製能力を持たないプラスミドを用いても行うことが出来、コリネ型細菌内で複製能を持たないプラスミドとしては、エシェリヒア・コリで複製能力を持つプラスミドが好ましく、例えば、pHSG299(宝バイオ社製)pHSG399(宝バイオ社製)等が挙げられる。
【0020】
なお、GS活性の低減も同様にして行うことができる。用いるGS遺伝子は例えば配列番号9または11の塩基配列を有する遺伝子が挙げられる。また、GS活性を有するタンパク質をコードする限り、上記塩基配列を有するDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNA、または上記塩基配列と90%以上、好ましくは95%以上、より好ましくは99%以上の相同性を有するDNAのようなホモログであってもよい。GS活性低減によってもGOGAT活性低減と同様にコハク酸などの非アミノ有機酸生成効率が上昇する。
【0021】
また、GOGAT及び/又はGS活性の低減化は、PCR法や変異剤処理などの公知の変異導入法によっても行うことができる。具体的には、PCR法によって酵素の活性部位をコードする
領域に変異を導入し、得られた変異遺伝子を親株に導入することによって得ることができる。
【0022】
本発明に使用する細菌は、GOGAT及び/又はGS活性の低減化に加えて、ラクテートデヒドロゲナーゼ(以下、LDHとも呼ぶ)活性が低減化するように改変された細菌であってもよい。このような細菌は、非アミノ有機酸がコハク酸である場合に特に有効である。このような細菌は、例えば、LDH遺伝子が破壊された細菌を作製し、さらに該細菌のGOGAT及び/又はGS遺伝子を上述の方法により破壊することにより得ることができる。ただし、LDH活性低減化のための改変操作と、GOGAT及び/又はGS活性低減化のための改変操作はいずれを先に行ってもよい。
【0023】
「LDH活性が低減された」とは、LDH遺伝子非改変株と比較してLDH活性が低下していることをいう。LDH活性は、非改変株と比較して、菌体当たり10%以下に低減化されていることが好ましい。また、LDH活性は完全に消失していてもよい。LDH活性が低減されたことは、公知の方法(L.Kanarek and R.L.Hill, J. Biol. Chem.239, 4202 (1964))によりLDH活性を測定することによって確認することができる。コリネ型細菌のLDH活性の低減した株の具体的な製造方法としては、特開平11−206385号公報に記載されている染色体への相同組換えによる方法、あるいは、sacB遺伝子を用いる方法(Schafer, A. et al. Gene 145 (1994) 69-73)等が挙げられる。
【0024】
また、本発明に用いる細菌は、GOGAT及び/又はGS活性の低減に加えて、ピルビン酸カルボキシラーゼ(以下、PCとも呼ぶ)の活性が増強するように改変された細菌であってもよい。「PC活性が増強される」とは、PC活性が野生株又は親株等の非改変株に対して好ましくは100%以上、より好ましくは300%以上増加していることをいう。PC活性が増強されたことは、公知の方法(Magasanikの方法[J.Bacteriol., 158, 55-62, (1984)])によりPC活性を測定することによって確認することができる。
このような細菌は、例えば、GOGAT及び/又はGS遺伝子を破壊されたコリネ型細菌に、PC遺伝子を導入することにより得ることができる。なお、PC遺伝子の導入とGOGAT及び/又はGS活性低減のための改変操作はいずれの操作を先に行ってもよい。
【0025】
PC遺伝子の導入は、例えば、特開平11−196888号公報に記載の方法と同様にして、ピルビン酸カルボキシラーゼ(PC)遺伝子をコリネ型細菌中で高発現させることにより行うことができる。具体的なPC遺伝子遺伝子としては、例えば、コリネバクテリウム・グルタミカム由来のPC遺伝子(Peters-Wendisch, P.G. et al. Microbiology, vol.144 (1998) p915-927(配列番号7))などを用いることができる。PC遺伝子は、PC活性を実質的に損なうことがない限り、配列番号7の塩基配列において、一部の塩基が他の塩基と置換されていてもよく、又は欠失していてもよく、或いは新たに塩基が挿入されていてもよく、塩基配列の一部が転位されているものであってもよく、これらの誘導体のいずれもが、本発明に用いることができる。さらに、配列番号7の塩基配列を有するDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNA、または配列番号7の塩基配列と90%以上、好ましくは95%以上、より好ましくは99%以上の相同性を有するDNAであって、PC活性を有するタンパク質をコードするDNAも好適に用いることができる。
【0026】
また、コリネバクテリウム・グルタミカム以外の細菌、または他の細菌又は動植物由来のPC遺伝子を使用することもできる。特に、以下に示す細菌または動植物由来のPC遺伝子は、その配列が既知(以下に文献を示す)であり、上記と同様にしてハイブリダイゼーンションにより、あるいはPCR法によりそのORF部分を増幅することによって、取得することができる。
ヒト [Biochem.Biophys.Res.Comm., 202, 1009-1014, (1994)]
マウス[Proc.Natl.Acad.Sci.USA., 90, 1766-1779, (1993)]
ラット[GENE, 165, 331-332, (1995)]
酵母;サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)
[Mol.Gen.Genet., 229, 307-315, (1991)]
シゾサッカロマイセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)
[DDBJ Accession No.; D78170]
バチルス・ステアロサーモフィルス(Bacillus stearothermophilus)
[GENE, 191, 47-50, (1997)]
リゾビウム・エトリ(Rhizobium etli)
[J.Bacteriol., 178, 5960-5970, (1996)]
【0027】
上述したようなPC遺伝子を含むDNA断片を、適当なプラスミド、例えばコリネ型細菌内でプラスミドの複製増殖機能を司る遺伝子を少なくとも含むプラスミドベクターに導入することにより、コリネ型細菌内でPCの高発現可能な組換えプラスミドを得ることができる。ここで、上記組み換えプラスミドにおいて、PC遺伝子を発現させるためのプロモーターはコリネ型細菌が保有するプロモーターであることができるが、それに限られるものではなく、PC遺伝子の転写を開始させるための塩基配列であればいかなるプロモーターであっても良い。例えば、tacプロモーターや、trcプロモーターなどが挙げられる。
【0028】
PC遺伝子を導入することができるプラスミドベクターとしては、宿主細菌内での複製増殖機能を司る遺伝子を少なくとも含むものであれば特に制限されない。コリネ型細菌に遺伝子を導入するために使用できるプラスミドの具体例としては、例えば、特開平3−210184号公報に記載のプラスミドpCRY30;特開平2−72876号公報及び米国特許5,185,262号明細書公報に記載のプラスミドpCRY21、pCRY2KE、pCRY2KX、pCRY31、pCRY3KE及びpCRY3KX;特開平1−191686号公報に記載のプラスミドpCRY2およびpCRY3;特開昭58−67679号公報に記載のpAM330;特開昭58−77895号公報に記載のpHM1519;特開昭58−192900号公報に記載のpAJ655、pAJ611及びpAJ1844;特開昭57−134500号公報に記載のpCG1;特開昭58−35197号公報に記載のpCG2;特開昭57−183799号公報に記載のpCG4およびpCG11等を挙げることができる。それらの中でもコリネ型細菌の宿主−ベクター系で用いられるプラスミドベクターとしては、コリネ型細菌内でプラスミドの複製増殖機能を司る遺伝子とコリネ型細菌内でプラスミドの安定化機能を司る遺伝子とを有するものが好ましく、例えば、プラスミドpCRY30、pCRY21、pCRY2KE、pCRY2KX、pCRY31、pCRY3KEおよびpCRY3KX等が好適に使用される。
【0029】
このようなプラスミドベクターの適当な部位にPC遺伝子を挿入して得られる組み換えベクターで、コリネ型細菌、例えばブレビバクテリウム・フラバム(Brevibacterium flavum)MJ-233株(FERM BP−1497)を形質転換することにより、PC遺伝子の発現が増強されたコリネ型細菌が得られる。なお、PC活性の増強は、公知の相同組換え法によって染色体上でPC遺伝子を導入、置換、増幅等によって高発現化させることによっても行うことができる。形質転換は、例えば、電気パルス法(Res. Microbiol., Vol.144, p.181-185, 1993)等によって行うことができる。
なお、PC活性の増強は染色体上でPC遺伝子のプロモーター領域を強力なプロモーターに置換することによっても達成されうる。
なお、DNAの切断、連結、その他、染色体DNAの調製、PCR、プラスミドDNAの調製、形質転換、プライマーとして用いるオリゴヌクレオチドの設定等の方法は、当業者によく知られている通常の方法を採用することができる。これらの方法は、Sambrook, J., Fritsch, E. F., and Maniatis, T., "Molecular Cloning A Laboratory Manual, Second Edition", Cold Spring Harbor Laboratory Press, (1989)等に記載されている。
【0030】
2.非アミノ有機酸の製造方法
本発明の非アミノ有機酸の製造方法は、上記細菌またはその処理物を、炭酸イオン、重炭酸イオンまたは二酸化炭素ガスを含有する反応液中で有機原料に作用させ、非アミノ有機酸を生成させ、これを採取する事を特徴とする非アミノ有機酸の製造方法である。製造する非アミノ有機酸はコハク酸、フマル酸、リンゴ酸又はピルビン酸が好ましく、コハク酸がより好ましい。
【0031】
非アミノ有機酸の製造に上記細菌を用いるに当たっては、寒天培地等の固体培地で斜面培養したものを直接反応に用いても良いが、上記細菌を予め液体培地で培養(種培養)したものを用いるのが好ましい。種培養に用いる培地は、細菌の培養に用いられる通常の培地を用いることができる。例えば、硫酸アンモニウム、リン酸カリウム、硫酸マグネシウム等の無機塩からなる組成に、肉エキス、酵母エキス、ペプトン等の天然栄養源を添加した一般的な培地を用いることができる。種培養後の菌体は、遠心分離、膜分離等によって回収した後に、非アミノ有機酸の製造反応に用いることが好ましい。なお、種培養した細菌を有機原料を含む培地で増殖させながら、有機原料と反応させることによって非アミノ有機酸を製造してもよいし、予め増殖させて得られた菌体を有機原料を含む反応液中で有機原料と反応させることによっても非アミノ有機酸を製造してもよい。
【0032】
本発明では細菌の菌体の処理物を使用することもできる。菌体の処理物としては、例えば、菌体をアクリルアミド、カラギーナン等で固定化した固定化菌体、菌体を破砕した破砕物、その遠心分離上清、又はその上清を硫安処理等で部分精製した画分等が挙げられる。
【0033】
本発明の製造方法に用いる有機原料としては、本細菌が資化してコハク酸を生成させうる炭素源であれば特に限定されないが、通常、ガラクトース、ラクトース、グルコース、フルクトース、グリセロール、シュークロース、サッカロース、デンプン、セルロース等の炭水化物;グリセリン、マンニトール、キシリトール、リビトール等のポリアルコール類等の発酵性糖質が用いられ、このうちグルコース又はシュークロースが好ましく、特にグルコースが好ましい。
【0034】
また、上記発酵性糖質を含有する澱粉糖化液、糖蜜なども使用される。これらの発酵性糖質は、単独でも組み合わせても使用できる。上記有機原料の使用濃度は特に限定されないが、コハク酸の生成を阻害しない範囲で可能な限り高くするのが有利であり、通常、5〜30%(W/V)、好ましくは10〜20%(W/V)の範囲内で反応が行われる。また、反応の進行に伴う上記有機原料の減少にあわせ、有機原料の追加添加を行っても良い。
【0035】
上記有機原料を含む反応液としては特に限定されず、例えば、細菌を培養するための培地であってもよいし、リン酸緩衝液等の緩衝液であってもよい。反応液は、窒素源や無機塩などを含む水溶液であることが好ましい。ここで、窒素源としては、本細菌が資化してコハク酸を生成させうる窒素源であれば特に限定されないが、具体的には、アンモニウム塩、硝酸塩、尿素、大豆加水分解物、カゼイン分解物、ペプトン、酵母エキス、肉エキス、コーンスティープリカーなどの各種の有機、無機の窒素化合物が挙げられる。無機塩としては各種リン酸塩、硫酸塩、マグネシウム、カリウム、マンガン、鉄、亜鉛等の金属塩が用いられる。また、ビオチン、パントテン酸、イノシトール、ニコチン酸等のビタミン類、ヌクレオチド、アミノ酸などの生育を促進する因子を必要に応じて添加する。また、反応時の発泡を抑えるために、培養液には市販の消泡剤を適量添加しておくことが望ましい。
【0036】
反応液には、例えば上記した有機原料、窒素源、無機塩などのほかに、炭酸イオン、重
炭酸イオン又は二酸化炭素ガス(炭酸ガス)を含有させる。炭酸イオン又は重炭酸イオンは、中和剤としても用いることのできる炭酸マグネシウム、炭酸ナトリウム、重炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、重炭酸カリウムなどから供給されるが、必要に応じて、炭酸若しくは重炭酸又はこれらの塩或いは二酸化炭素ガスから供給することもできる。炭酸又は重炭酸の塩の具体例としては、例えば炭酸マグネシウム、炭酸アンモニウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、重炭酸アンモニウム、重炭酸ナトリウム、重炭酸カリウム等が挙げられる。そして、炭酸イオン、重炭酸イオンは、1~500mM、好ましくは2~300mM、さらに好ましくは3〜200mMの濃度で添加する。二酸化炭素ガスを含有させる場合は、溶液1L当たり50mg〜25g、好ましくは100mg〜15g、さらに好ましくは150mg〜10gの二酸化炭素ガスを含有させる。
【0037】
反応液のpHは、炭酸ナトリウム、重炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、重炭酸カリウム、炭酸マグネシウム、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム等を添加することによって調製することができる。本反応におけるpHは、通常、pH5〜10、好ましくはpH6〜9.5であることが好ましいので、反応中も必要に応じて反応液のpHはアルカリ性物質、炭酸塩、尿素などによって上記範囲内に調節する。
【0038】
本反応に用いる細菌の生育至適温度は、通常、25℃〜35℃である。反応時の温度は、通常、25℃〜40℃、好ましくは30℃〜37℃である。反応に用いる菌体の量は、特に規定されないが、1〜700g/L、好ましくは10〜500g/L、さらに好ましくは20〜400g/Lが用いられる。反応時間は1時間〜168時間が好ましく、3時間〜72時間がより好ましい。
【0039】
細菌の種培養時は、通気、攪拌し酸素を供給することが必要である。一方、コハク酸など非アミノ有機酸の生成反応は、通気、攪拌して行ってもよいが、通気せず、酸素を供給しない嫌気的雰囲気下で行ってもよい。ここで言う嫌気的雰囲気下は、例えば容器を密閉して無通気で反応させる、窒素ガス等の不活性ガスを供給して反応させる、二酸化炭素ガス含有の不活性ガスを通気する等の方法によって得ることができる。
【0040】
以上のような細菌反応により、コハク酸、フマル酸、リンゴ酸又はピルビン酸などの非アミノ有機酸が反応液中に生成蓄積する。反応液(培養液)中に蓄積した非アミノ有機酸は、常法に従って、反応液より採取することができる。具体的には、例えば、遠心分離、ろ過等により菌体等の固形物を除去した後、イオン交換樹脂等で脱塩し、その溶液から結晶化あるいはカラムクロマトグラフィーにより精製するなどして、非アミノ有機酸を採取することができる。
【0041】
さらに本発明においては、上記した本発明の方法によりコハク酸などの非アミノ有機酸を製造した後に、得られた非アミノ有機酸を原料として重合反応を行うことにより非アミノ有機酸含有ポリマーを製造することができる。近年、環境に配慮した工業製品が数を増す中、植物由来の原料を用いたポリマーに注目が集まってきており、特に、本発明において製造されるコハク酸は、ポリエステルやポリアミドといったポリマーに加工されて用いる事が出来る。コハク酸含有ポリマーとして具体的には、ブタンジオールやエチレングリコールなどのジオールとコハク酸を重合させて得られるコハク酸ポリエステル、ヘキサメチレンジアミンなどのジアミンとコハク酸を重合させて得られるコハク酸ポリアミドなどが挙げられる。
また、本発明の製造法により得られる非アミノ有機酸または該非アミノ有機酸を含有する組成物は食品添加物や医薬品、化粧品などにも用いることができる。
【0042】
[実施例]
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により制限されるものではない。
【実施例1】
【0043】
<GOGAT欠損株の作製>
(A)MJ233株ゲノムDNAの抽出
A培地[尿素 2g、(NH42SO4 7g、KH2PO4 0.5g、K2HPO4 0.5g、MgSO4・7H2O 0.5g、FeSO4・7H2O 6mg、MnSO4・4−5H2O6mg、ビオチン 200μg、チアミン 100μg、イーストエキストラクト 1g、カザミノ酸 1g、グルコース 20g、蒸留水1Lに溶解]10mLに、ブレビバクテリウム・フラバムMJ−233株を対数増殖期後期まで培養し、遠心分離(10000g、5分)により菌体を集めた。得られた菌体を10mg/mLの濃度にリゾチームを含む10mM NaCl/20mMトリス緩衝液(pH8.0)/1mM EDTA・2Na溶液0.15mLに懸濁した。次に、上記懸濁液にプロテナーゼKを、最終濃度が100μg/mLになるように添加し、37℃で1時間保温した。さらにドデシル硫酸ナトリウムを最終濃度が0.5%になるように添加し、50℃で6時間保温して溶菌した。この溶菌液に、等量のフェノール/クロロフォルム溶液を添加し、室温で10分間ゆるやかに振盪した後、全量を遠心分離(5,000×g、20分間、10〜12℃)し、上清画分を分取し、酢酸ナトリウムを0.3Mとなるように添加した後、2倍量のエタノールを加え混合した。遠心分離(15,000×g、2分)により回収した沈殿物を70%エタノールで洗浄した後、風乾した。得られたDNAに10mMトリス緩衝液(pH7.5)−1mM EDTA・2Na溶液5mLを加え、4℃で一晩静置し、以後のPCRの鋳型DNAに使用した。
【0044】
(B)GOGAT破壊用プラスミドの構築
MJ233株GOGAT遺伝子の取得は、実施例1(A)で調製したDNAを鋳型とし、全ゲノム配列が報告されているコリネバクテリウム・グルタミカム ATCC13032株の該遺伝子の配列(GenBank Database Accession No.BA000036)を基に設計した合成DNA(配列番号1および配列番号2)を用いたPCRによって行った。反応液組成:鋳型DNA1μL、PfxDNAポリメラーゼ(インビトロジェン社製) 0.2μL、1倍濃度添付バッファー、0.3μM各々プライマー、1mM MgSO4、 0.25μMdNTPsを混合し、全量を20μLとした。反応温度条件:DNAサーマルサイクラー PTC−200(MJResearch社製)を用い、94℃で20秒、60℃で20秒、72℃で2分からなるサイクルを35回繰り返した。但し、1サイクル目の94℃での保温は1分20秒、最終サイクルの72℃での保温は5分とした。増幅産物の確認は、0.75%アガロース(SeaKem GTG agarose:FMCBioProducts製)ゲル電気泳動により分離後、臭化エチジウム染色により可視化することにより行い、約1.7kbの断片を検出した。ゲルからの目的DNA断片の回収は、QIAQuick Gel Extraction Kit(QIAGEN製)を用いて行った。回収したDNA断片は、T4 ポリヌクレオチドキナーゼ(T4 Polynucleotide Kinase:宝バイオ製)により5'末端をリン酸化した後、ライゲーションキットver.2(宝バイオ製)を用いて大腸菌ベクターpHSG396(宝バイオ製)のHincII部位に結合し、得られたプラ
スミドDNAで大腸菌(DH5α株)を形質転換した。この様にして得られた組換え大腸菌を34μg/mLクロラムフェニコールおよび50μg/mLX-Galを含むLB寒天培地に塗抹した。この培地上で白色のコロニーを形成したクローンを、常法により液体培養した後、プラスミドDNAを精製した。得られたプラスミドDNAを制限酵素XhoIおよびBamHIで切断することにより、約1.7kbの挿入断片が認められ、これをpGOGAT/396と命名した。
次に、pGOGAT/396を制限酵素PstIで切断することにより0.43kbか
らなるGOGAT遺伝子のコーディング領域を切り出した。残った約3.5kbのDNA断片の末端をクレノウフラグメントにて平滑化し、ライゲーションキットver.2(宝バイオ製)を用いて環状化させ、大腸菌(DH5α株)を形質転換した。この様にして得られた組換え大腸菌を50μg/mLアンピシリンを含むLB寒天培地に塗抹した。この培地上で生育した株を、常法により液体培養した後、プラスミドDNAを精製した。得られたプラスミドDNAを制限酵素XhoIおよびBamHIで切断することにより、約1.2kbの挿入断片が認められたクローンを選抜し、これをpGOGAT/396−pstと命名した。
次に、上記pGOGAT/396−pstを制限酵素XhoIおよびBamHIにて切断して生じる約1.2kbのDNA断片を、0.75%アガロースゲル電気泳動により分離、回収し、欠損領域を含むGOGAT遺伝子断片を調製した。このDNA断片を、制限酵素XhoIおよびBamHIにて切断したpKMB1(sacB遺伝子を含む:特開2005−95169号公報)と混合し、ライゲーションキットver.2(宝バイオ製)を用いて連結後、得られたプラスミドDNAで大腸菌(DH5α株)を形質転換した。この様にして得られた組換え大腸菌を50μg/mLカナマイシンおよび50μg/mLX-Galを含むLB寒天培地に塗抹した。この培地上で白色のコロニーを形成したクローンを、常法により液体培養した後、プラスミドDNAを精製した。得られたプラスミドDNAを制限酵素XhoIおよびBamHIで切断することにより、約1.2kbの挿入断片が認められたものを選抜し、これをpKMB1/ΔGOGAT(図1)と命名した。
【0045】
(C)GOGAT遺伝子破壊株の作製
ブレビバクテリウム・フラバムMJ233/ΔLDH株(LDH遺伝子が破壊された株:特開2005−95169)の形質転換に用いるプラスミドDNAは、pKMB1/ΔGOGATを用いて塩化カルシウム法(Journal of Molecular Biology,53,159,1970)により形質転換した大腸菌JM110株から調製した。GOGAT遺伝子破壊の供試菌株は、ブレビバクテリウム・フラバムMJ233/ΔLDH株とした。電気パルス法(Res.Microbiol.、Vol.144, p.181-185, 1993)によってプラスミドを導入し、得られた形質転換体をカナマイシン 50μg/mLを含むLBG(LB+グルコース)寒天培地に塗抹した。この培地上に生育した株は、pKMB1/ΔGOGATがブレビバクテリウム・フラバムMJ233株菌体内で複製不可能なプラスミドであるため、該プラスミドのGOGAT遺伝子とブレビバクテリウム・フラバムMJ233株ゲノム上の同遺伝子との間で相同組み換えを起こした結果、同ゲノム上に該プラスミドに由来するカナマイシン耐性遺伝子およびsacB遺伝子が挿入されているはずである。次に、上記相同組み換え株をカナマイシン50μg/mLを含むLBG培地にて液体培養した。この培養液の菌体数約100万相当分を10%ショ糖含有LBG培地に塗抹にした結果、2回目の相同組み換えによりsacB遺伝子が脱落しショ糖非感受性となったと考えられる株を数十個得た。この様にして得られた2回目の相同組み換え株の中には、そのGOGAT遺伝子がpKMB1/ΔGOGATに由来する変異型に置き換わったものと野生型に戻ったものが含まれる。GOGAT遺伝子が変異型であるか野生型であるかの確認は、GOGAT遺伝子をPCR増幅するためのプライマー(配列番号1および配列番号2)を用いて分析すると、野生型では1659bp、欠失領域を持つ変異型では1229bpのDNA断片を認めるはずである。上記方法にてショ糖非感受性となった菌株を分析した結果、変異型遺伝子のみを有する株を選抜し、該株をブレビバクテリウム・フラバムMJ233/ΔGOGAT/ΔLDHと命名した。
【0046】
(D)PC増強株の作製
PC増強株の作製は、上記(C)で作製したブレビバクテリウム・フラバムMJ233/ΔGOGAT/ΔLDHにpMJPC1(PC増強用プラスミド:特開2005−95169)を導入することによって行った。
形質転換は大腸菌DH5α株から調製したpMJPC1プラスミドDNAを、上記(C
)に記載した電気パルス法により導入することによって行った。得られた形質転換体をカナマイシン25μg/mLを含むLBG寒天培地に塗抹し、この培地上に生育した株から、常法により液体培養した後、プラスミドDNAを抽出、制限酵素切断による解析を行った結果、同株がpMJPC1を保持していることを確認し、これをブレビバクテリウム・フラバムMJ233/PC/ΔGOGAT/ΔLDHと命名した。
【実施例2】
【0047】
<GOGAT欠損株の評価>
100mLの種培養培地(尿素:4g、硫酸アンモニウム:14g、リン酸1カリウム:0.5g、リン酸2カリウム0.5g、硫酸マグネシウム・7水和物:0.5g、硫酸第一鉄・7水和物:20mg、硫酸マンガン・水和物:20mg、D−ビオチン:200μg、塩酸チアミン:200μg、酵母エキス:1g、カザミノ酸:1g、及び蒸留水:1000mLの培地100mL)を500mLの三角フラスコにいれ、120℃、20分加熱滅菌した。これを室温まで冷やし、あらかじめ滅菌した50%グルコース水溶液を4mL、無菌濾過した5%カナマイシン水溶液を50μL添加し、実施例1の(C)で作製したブレビバクテリウム・フラバムMJ233/PC/ΔGOGAT/ΔLDHを接種して24時間30℃にて培養した。
得られた全培養液を10000g、5分の遠心分離により集菌し、菌体懸濁培地(硫酸マグネシウム・7水和物:1g、硫酸第一鉄・7水和物:40mg、硫酸マンガン・水和物:40mg、D−ビオチン:400μg、塩酸チアミン:400μg、リン酸一アンモニウム:0.8g、リン酸二アンモニウム:0.8g、塩化カリウム:0.3g、硫酸アンモニウム66g、及び蒸留水:1000mL)にOD660の吸光度が80になるように懸濁した。4ml反応器に前記の菌体懸濁液0.5mlおよび基質溶液(グルコース:200g、炭酸マグネシウム:194g、及び蒸留水:1000mL)0.5mLを加えて、20%炭酸ガス、80%窒素雰囲気下、35℃で8時間反応させた後、上述の条件で遠心分離し、上清の有機酸濃度を分析した結果、コハク酸46.9g/L、アラニン2.5g/L、バリン0.79g/L、グルタミン酸0.20g/Lが蓄積していた。
一方、ブレビバクテリウム・フラバムMJ233/PC/ΔLDH(LDH遺伝子が破壊され、さらにPCが増強された株:特開2005−95169)を上記と同様にして反応させた結果、コハク酸43.5g/L、アラニン3.4g/L、バリン1.2g/L、グルタミン酸0.41g/Lが蓄積していた。GOGATの欠損によって、明らかなコハク酸蓄積向上効果とアミノ酸低減効果が見られた。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】プラスミドpKMB1/ΔGOGATの構築手順を示す図。下線のついた数字は各配列番号のプライマーを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
グルタメートシンターゼ及び/又はグルタミンシンセターゼの活性が該酵素の非改変株に比べて30%以下に低減するように改変された細菌であって、グルタメートデヒドロゲナーゼ活性が該酵素の非改変株に比べて30%以下に低減していない細菌、あるいはその処理物を、炭酸イオン、重炭酸イオン又は二酸化炭素ガスを含有する反応液中で有機原料に作用させることによって非アミノ有機酸を生成させ、該非アミノ有機酸を採取することを特徴とする非アミノ有機酸の製造方法。
【請求項2】
前記細菌が、さらに、ラクテートデヒドロゲナーゼ活性が低減するように改変された細菌である、請求項1に記載の非アミノ有機酸の製造方法。
【請求項3】
前記細菌が、さらに、ピルビン酸カルボキシラーゼ活性が増強するように改変された細菌である、請求項1又は2に記載の非アミノ有機酸の製造方法。
【請求項4】
前記細菌が、コリネ型細菌、バチルス属細菌、リゾビウム属細菌、エシェリヒア属細菌、ラクトバチルス属細菌、およびサクシノバチルス属細菌よりなる群から選ばれるいずれかの細菌である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の非アミノ有機酸の製造方法。
【請求項5】
有機原料を嫌気的雰囲気下で作用させることを特徴する、請求項1〜4のいずれか一項に記載の非アミノ有機酸の製造方法。
【請求項6】
有機原料が、グルコースまたはシュークロースである、請求項1〜5のいずれか一項に記載の非アミノ有機酸の製造方法。
【請求項7】
非アミノ有機酸がコハク酸である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の非アミノ有機酸の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法により非アミノ有機酸を製造する工程、及び前記工程で得られた非アミノ有機酸を原料として重合反応を行う工程を含む、非アミノ有機酸含有ポリマーの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2008−67624(P2008−67624A)
【公開日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−248021(P2006−248021)
【出願日】平成18年9月13日(2006.9.13)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【出願人】(000000066)味の素株式会社 (887)
【Fターム(参考)】