説明

非アルコール性肝疾患治療薬

【課題】生体の細胞内に普遍的に存在している物質やそれへと代謝し得る生理活性物質を、有効成分として含み、副作用がなく安全で長期間の服用が可能である非アルコール性肝疾患治療薬を提供する。
【解決手段】非アルコール性肝疾患治療薬は、ピルビン酸、ピルビン酸エステル、ピルビン酸アミド、及び薬学的に許容し得るそれらの塩の少なくとも何れかを、非アルコール性の脂肪肝及び脂肪肝炎から選ばれる肝疾患治療の有効成分として含むものである。非アルコール性肝疾患治療薬は、抗酸化剤を含んでいてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、代謝性疾患や遺伝性疾患によって発症する非アルコール性の脂肪肝・脂肪肝炎のような肝疾患の治療の際に用いられる非アルコール性肝疾患治療薬に関するものである。
【背景技術】
【0002】
非アルコール性脂肪肝炎(NASH)は、アルコールの摂取習慣がないが、その病理学的所見がアルコール性脂肪肝炎のそれと類似している進行性の肝臓疾患である。
【0003】
非アルコール性脂肪肝炎の発症は、脂質や糖の分解能の低下によって、肝臓に脂肪が沈着して脂肪肝を発症するという第一段階と、その後、その脂肪肝に脂質の過酸化のような酸化ストレスが加わり、この酸化ストレスが肝細胞を損傷したり、炎症を起こしたりして、肝臓全体に肝細胞の損傷や炎症が広がって、非アルコール性脂肪肝炎を発症するという第二段階とを経ると考えられている。
【0004】
多くの非アルコール性脂肪肝炎患者のその第一段階に至る主要な病因は、肥満やインスリン抵抗性糖尿病のような代謝性疾患である。近年、生活習慣病の患者数の増加により、非アルコール性脂肪肝炎の患者数も増加している。また、このような第一段階に至る別な病因は、肝細胞のミトコンドリアに局在するタンパク質であるシトリンの欠損に起因する肝内胆汁鬱滞性新生児肝炎(NICCD)や成人型シトルリン血症(CTLN2)のような遺伝性疾患である。CTLN2患者は、高い確率で脂肪肝や脂肪肝炎を合併しており、しばしば肝臓への脂肪の沈着が非常に深刻となる。CTLN2患者の肝臓での病理学的所見は、通常の非アルコール性脂肪肝炎患者のそれと一致している。
【0005】
病因が代謝性疾患か遺伝性疾患かに関わらず、非アルコール性脂肪肝炎は、放置すると肝硬変や肝臓がんの原因となりうる進行性の疾患なので、進行を防ぐための治療方法の確立が重要となっている。
【0006】
非アルコール性脂肪肝炎に有効な化合物として、非特許文献1にアンギオテンシンII 1型受容体拮抗剤、非特許文献2にHMG−CoAレダクターゼ阻害剤、非特許文献3に抗酸化剤であるビタミンE及びウルソデオキシコール酸が、夫々開示されている。これらの化合物を用いた治療方法は未だ確立していない。しかも、アンギオテンシンII 1型受容体拮抗剤及びHMG−CoAレダクターゼ阻害剤は、もともと生体内に存在している物質でないため、患者に副作用を惹き起す危険性がある。また非アルコール性脂肪肝炎を短期間で劇的に根治し得ないので、長期間、治療薬を服用しなければならず、極めて安全であることが求められる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】ヘパトロジー(Hepatology)、2004年、第40巻、p.1222−1225
【非特許文献2】アテロスクレローシス(Atherosclerosis)、2004年、第174巻、p.193−196
【非特許文献3】ジャーナル オブ ペディアトリクス(Journal of Pediatrics)、2000年、第136巻、p.734−738
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は前記の課題を解決するためになされたもので、生体の細胞内に普遍的に存在している物質やそれへと代謝し得る生理活性物質を、有効成分として含み、副作用がなく安全で長期間の服用が可能である非アルコール性肝疾患治療薬を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記の目的を達成するためになされた、特許請求の範囲の請求項1に記載された非アルコール性肝疾患治療薬は、ピルビン酸、ピルビン酸エステル、ピルビン酸アミド、及び薬学的に許容し得るそれらの塩の少なくとも何れかを、非アルコール性の脂肪肝及び脂肪肝炎から選ばれる肝疾患治療の有効成分として含むことを特徴とする。
【0010】
請求項2に記載の非アルコール性肝疾患治療薬は、請求項1に記載されたもので、前記塩が、ピルビン酸アルカリ金属塩、及び/又はピルビン酸アルカリ土類金属塩であることを特徴とする。
【0011】
請求項3に記載の非アルコール性肝疾患治療薬は、請求項1に記載されたもので、抗酸化剤を含むことを特徴とする。
【0012】
請求項4に記載の非アルコール性肝疾患治療薬は、請求項3に記載されたもので、前記抗酸化剤が、ビタミンEであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明の非アルコール性肝疾患治療薬によれば、脂肪肝から非アルコール性脂肪肝炎への進行を抑えたり、重度の非アルコール性脂肪肝炎の症状を改善したりして、非アルコール性脂肪肝炎を治療することができる。
【0014】
この非アルコール性肝疾患治療薬は、細胞のミトコンドリア内でエネルギーを産生するのに必須な物質であるピルビン酸、生体内で代謝されてピルビン酸となるピルビン酸の誘導体、及び薬学的に許容し得るそれらの塩のようなピルビン酸類を、有効成分として含んでいる。このようなピルビン酸類は、体内での熱エネルギー発生の際の回路により細胞内で素早く代謝されるものであるから、この非アルコール性肝疾患治療薬は、副作用がなく、安全で長期間の服用が可能である。
【0015】
この非アルコール性肝疾患治療薬によれば、さらに抗酸化剤が含まれることによって、肝臓に沈着した脂質の過酸化を防止し、酸化ストレスの生成を抑制して、非アルコール性脂肪肝炎の進行を一層効果的に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明を適用する非アルコール性肝疾患治療薬での治療前と治療後1年半経過時との患者の肝生検で得られた肝臓組織の顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の発明を実施するための形態を詳細に説明するが、本発明の範囲はこの範囲に限定されるものではない。
【0018】
本発明の非アルコール性肝疾患治療薬は、ピルビン酸ナトリウムを非アルコール性の脂肪肝や脂肪肝炎のような肝疾患の治療の有効成分として含むものである。
【0019】
この非アルコール性肝疾患治療薬は、その有効成分としてピルビン酸ナトリウムの1日あたりの投与量を、3〜9gとすることが好ましい。この投与量は、患者の体重や年齢に応じて、適宜増減してもよい。
【0020】
ピルビン酸ナトリウムの例を挙げたが、遊離のピルビン酸、ピルビン酸エチルのようなピルビン酸エステル、ピルビン酸アミド、及び薬学的に許容し得るそれらの塩の少なくとも何れかが含まれていてもよい。
【0021】
薬学的に許容し得るそれらの塩は、例えばナトリウム塩、カリウム塩のようなアルカリ金属塩、カルシウム塩のようなアルカリ土類金属塩、又はアンモニウム塩が挙げられる。中でも、ピルビン酸アルカリ金属塩やピルビン酸アルカリ土類金属塩が好ましい。これらの塩は、一種類だけが含まれていてもよく、複数含まれていてもよい。
【0022】
この非アルコール性肝疾患治療薬には、抗酸化剤が含まれていてもよい。抗酸化剤は、例えばビタミンEが挙げられる。これらの抗酸化剤は、一種類だけが含まれていてもよく、複数含まれていてもよい。
【0023】
この非アルコール性肝疾患治療薬には、必要に応じて、賦形剤、安定剤、保存剤が含まれていてもよい。
【0024】
この非アルコール性肝疾患治療薬の剤形は、例えば散剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、丸剤、シロップ剤、注射剤、エリキシル剤、リモナーデ剤、懸濁剤、乳剤、坐剤、トローチ剤が挙げられる。
【0025】
この非アルコール性肝疾患治療薬の投与方法は、例えば経口投与、静脈注射や点滴による投与が挙げられる。中でも患者に負担の少ない経口投与が好ましい。1日に単回、又は食後・就寝前などに複数回に分けて投与してもよい。
【0026】
この非アルコール性肝疾患治療薬は、その原因が代謝性疾患か遺伝性疾患かに関わらず、広く非アルコール性脂肪肝炎を発症している患者に投与することができるものである。代謝性疾患は、例えば肥満や糖尿病が挙げられ、遺伝性疾患は、CTLN2が挙げられる。その患者を一例に、治療機序について説明する。
【0027】
CTLN2患者が非アルコール性脂肪肝・脂肪肝炎を合併する理由は、以下の通りである。
【0028】
CTLN2は、ミトコンドリア膜蛋白であるシトリンの欠損により引き起こされる。シトリン欠損症は、常染色体劣性遺伝性疾患であり、SLC25A13遺伝子の変異に起因している。
【0029】
シトリンは、肝臓の細胞内で、アスパラギン酸をミトコンドリアから細胞質へ、グルタミン酸を細胞質からミトコンドリアへ、夫々輸送する肝臓型ミトコンドリア アスパラギン酸(Asp)−グルタミン酸(Glu)キャリア(AGC)である。このAGCは、リンゴ酸やアスパラギン酸をミトコンドリアや細胞質へ輸送するリンゴ酸−アスパラギン酸シャトルの機能を維持している。このシャトルは、細胞質中で還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NADH)によりオキサロ酢酸を還元してリンゴ酸を産生し、そのリンゴ酸でミトコンドリア内の酸化型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)を還元させてNADHを産生することにより、ミトコンドリアへ細胞質NADH還元当量を輸送している。
【0030】
シトリン欠損により、細胞質からミトコンドリアへNADH還元当量を輸送できなくなると、細胞質のNADHの割合が増えて、NADの割合が減る。過剰なNADHを酸化してNADを産生するため、肝細胞中のリンゴ酸−アスパラギン酸シャトルの代償として、クエン酸−リンゴ酸シャトルを活性化することで、細胞質のNADHは処理される。クエン酸−リンゴ酸シャトルは脂肪酸の産生に関与していて、肝細胞で脂肪酸が過剰に産生され、その脂肪酸が肝細胞に沈着して、脂肪肝が誘導され、その後、酸化ストレスが加わって、非アルコール性脂肪肝炎が誘導される。
【0031】
この非アルコール性肝疾患治療薬が、非アルコール性脂肪肝・脂肪肝炎のような肝疾患の進行を抑えたり、症状を改善したりする理由は、以下のように考えられる。
【0032】
この非アルコール性肝疾患治療薬の有効成分であるピルビン酸は、細胞質中でグルコースを分解する解糖系の最終産物で、ミトコンドリア内の電子伝達系で生体のエネルギー源となるアデノシン三リン酸(ATP)を産生するために必要な物質である。ピルビン酸が十分に存在すると、肝細胞中の解糖系で糖を分解し、ピルビン酸を産生する必要はなくなる。十分なピルビン酸の存在下で、肝細胞中の解糖系は抑制され、グルコースをピルビン酸に分解する際に生じる細胞質のNADHは産生されなくなる。リンゴ酸−アスパラギン酸シャトルやクエン酸−リンゴ酸シャトルにより、細胞質のNADHの割合は少しずつ減少し、細胞質のNADの割合が増えることで、クエン酸−リンゴ酸シャトルの活性化は抑制される。脂肪酸の産生が減少して、肝細胞への脂肪酸の沈着が減少する。肝脂肪沈着が、非アルコール性脂肪肝炎の第一段階であるため、脂肪沈着の減少は、非アルコール性脂肪肝炎への進行を抑制し、また非アルコール性脂肪肝炎を改善する。また、ピルビン酸が直接、酸化ストレス軽減に作用している可能性も示唆されている(モレキュラ− ジェネティクス アンド メタボリズム(Molecular Genetics and Metabolism)、2010年、第100巻、p.559−564)。
【0033】
細胞質のNADHの割合が増えて、NADの割合が減るというシトリン欠損は、非アルコール性脂肪肝炎の原因となることを説明したが、高アンモニア血症の原因にもなる。
【0034】
シトリンは、尿素回路中でアスパラギン酸とシトルリンとを反応させてアルギニノコハク酸を合成するための肝臓アルギニノコハク酸合成酵素(ASS)へ、アスパラギン酸を供給する。シトリン欠損により、リンゴ酸−アスパラギン酸シャトルが働かなくなると、ミトコンドリアから細胞質へアスパラギン酸を輸送できなくなり、細胞質内のアスパラギン酸の量が減少する。アスパラギン酸の量が減少すると、肝臓ASSが減少し、アスパラギン酸は尿素回路に供給されず、アルギニノコハク酸は合成できなくなる。アルギニノコハク酸の不足で尿素回路は障害を起こし、尿素回路で処理されるはずのシトルリンやアンモニアが蓄積して、血漿中のシトルリン値やアンモニア値が高くなる。そして、CTLN2患者は、高アンモニア血症による意識障害のような脳症を発症する。
【実施例】
【0035】
以下、本発明の非アルコール性肝疾患治療薬を、非アルコール性脂肪肝炎を合併しているCTLN2患者二人に投与して治療に用いた実施例について、詳細に説明する。
【0036】
(実施例1)
一人目の患者は、意識障害を起こした状態で搬入されそのまま入院し、治療が開始された。血液検査の結果、血漿アンモニア値が正常値よりも高くなっていた。この患者は、タンパク質制限食(40g/日)と分岐アミノ酸の点滴とによる治療を受けた。この治療の後も、頻繁に意識障害が起き、血液検査の結果、シトルリンと、アルギニノコハク酸の分解物であるアルギニンとの血漿中の値が正常値よりも高くなっていた。また、SLC25A13遺伝子のDNA分析で、この患者のシトリン遺伝子の欠損を確認した。治療開始1ヶ月後に行われた1回目の肝臓の磁気共鳴画像法による検査の結果、この時点でこの患者は脂肪肝ではなかった。
【0037】
この時に、アルギニンとアルギニン塩酸塩とで構成されている製剤の投与が開始された。CTLN2患者が炭水化物を多く摂取すると、その炭水化物由来の糖を解糖系で分解する過程で、NADHが多く生成されてしまう。そこで、この患者に、炭水化物制限食が与えられ、炭水化物が制限された分のエネルギー不足を高脂肪食で補うようにした。毎日の全食事中の炭水化物のエネルギー割合は、50%以下になるように調整された。
【0038】
この患者の意識状態は少しずつ改善し、血漿アンモニア値は減少した。治療開始4ヶ月後に、2回目の磁気共鳴画像法による検査が行われ、その結果、この患者は脂肪肝となっていた。また、同じ時期に行われた1回目の肝生検の結果、この患者は、非アルコール性脂肪肝炎となっていた。意識障害を起こす程の重度のCTLN2患者にとって、肝臓移植は、最も有効な治療法であるが、ドナー候補者がいなかったため、この患者は肝臓移植を受けられなかった。
【0039】
そこで、治療開始の5ヶ月後から、ピルビン酸ナトリウムの経口単回投与(3g/日)が始められた。その毎日の服用量は、約1年かけて徐々に、7.5g/日まで増加された。治療開始11ヶ月後と1年5ヶ月後とに行われた3回目と4回目との磁気共鳴画像法による検査の結果、この患者の非アルコール性脂肪肝は緩やかに改善していた。この患者の血漿アンモニア値は、100μg/dl以下で安定した。
【0040】
その後に行われた肝機能試験の結果は、正常であった。治療開始1年11ヶ月後、すなわちピルビン酸ナトリウムの経口投与開始1年半後に2回目の肝生検が行われ、この患者の非アルコール性脂肪肝は、顕著に改善していた。
【0041】
ピルビン酸ナトリウムの経口投与による治療前に行われた1回目の肝生検と、それによる治療の1年半後に行われた2回目の肝生検とで得られた肝臓の顕微鏡写真を図1に示す。上段はヘマトキシリン・エオシン染色(H−E染色)の顕微鏡写真、下段はアザン染色(Azan染色)の顕微鏡写真である。治療前の顕微鏡写真では、矢印で示すように、肝臓に多数の脂肪滴が観察され、治療後の顕微鏡写真では、その脂肪が消失していた。
【0042】
また、肝生検で得られたこの患者の治療前後の肝臓組織の検体を、夫々電気泳動用に調製し、それらをゲル電気泳動で泳動して、ゲル中の物質をメンブレン上に転写し、ウェスタンブロット分析でメンブレン上の物質を抗ヒトASS抗体で検出し、治療前後での肝臓ASSの量を比較した。その結果、この患者の肝臓ASSの量は、治療前後で変化していなかった。
【0043】
これは、投与されたピルビン酸ナトリウムにより、細胞質のオキサロ酢酸からアスパラギン酸が生産され、アスパラギン酸が肝臓ASSに供給されて、肝臓ASSの減少が抑えられたと考えられる。そして、肝臓ASSの減少が抑えられたこの患者では、肝臓ASSでアルギニノコハク酸が合成されて、尿素回路が正常に機能し、血漿アンモニア値が安定したと考えられる。
【0044】
(実施例2)
二人目の患者は、昏睡状態で搬入されそのまま入院し、治療が開始された。血液検査の結果、この患者の血漿アンモニア値は、132μg/dlと高く、シトルリンとアルギニンとの血漿値も高かった。また、DNA分析の結果、この患者はCTLN2と診断された。この患者は、低タンパク質食(40g/日)とアルギニンの静脈点滴との治療を受けた。一時的に、この患者の意識状態は改善したが、再びすぐにひどく悪化した。この患者に、分岐アミノ酸粉末、カナマイシン(1.5g/日)、及びアルギニンとアルギニン塩酸塩とで構成されている製剤(3g/日)の投与を開始した。食事として、炭水化物制限食、高脂肪食(80g/日)及び高タンパク質食(80g/日)が与えられた。毎日の全食事中の炭水化物のエネルギー割合は、50%以下に調整された。その後、この患者の血漿アンモニア値は、約100μg/dlで安定した。ドナー候補者がいなかったため、この患者は肝臓移植を受けられなかった。
【0045】
治療開始3ヶ月後に、1回目の肝生検が行われ、この患者は、非アルコール性脂肪肝炎となっていた。それから、抗酸化療法としてのビタミンE(300mg/日)の経口投与が始められた。血漿アンモニア値は、治療開始1年4ヶ月後に342μg/dlに再び上昇した。治療開始1年5ヶ月後から、ピルビン酸ナトリウム(4g/日)の投与を開始した。その後は、アンモニアも100μg/dl以下となり、脳症の意識障害も起こらなかった。
【0046】
その後に行われた肝機能試験は、ほとんど正常だった。治療開始3年4ヶ月後、すなわちピルビン酸ナトリウムの経口投与開始約2年後に2回目の肝生検が行われ、非アルコール性脂肪肝炎は顕著に改善していた。
【0047】
なおこの治療手順は、信州大学倫理委員会により承認されており、両患者からインフォームドコンセントが得られている。
【0048】
これら実施例1及び2の結果から、本発明の非アルコール性肝疾患治療薬は、非アルコール性脂肪肝及び非アルコール性脂肪肝炎から選ばれる肝疾患の治療に有効であることが、明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明の非アルコール性肝疾患治療薬は、非アルコール性脂肪肝から非アルコール性脂肪肝炎への進行を抑えたり、非アルコール性脂肪肝炎、肝硬変、肝臓がんの症状を改善し又は治療したりするのに用いられる。
【0050】
この非アルコール性肝疾患治療薬は、シトリン欠損患者の非アルコール性脂肪肝炎を治療するとともに、その患者の血漿アンモニア値を下げて、意識障害のような脳症を改善するのに用いられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピルビン酸、ピルビン酸エステル、ピルビン酸アミド、及び薬学的に許容し得るそれらの塩の少なくとも何れかを、非アルコール性の脂肪肝及び脂肪肝炎から選ばれる肝疾患治療の有効成分として含むことを特徴とする非アルコール性肝疾患治療薬。
【請求項2】
前記塩が、ピルビン酸アルカリ金属塩、及び/又はピルビン酸アルカリ土類金属塩であることを特徴とする請求項1に記載の非アルコール性肝疾患治療薬。
【請求項3】
抗酸化剤を含むことを特徴とする請求項1に記載の非アルコール性肝疾患治療薬。
【請求項4】
前記抗酸化剤が、ビタミンEであることを特徴とする請求項3に記載の非アルコール性肝疾患治療薬。

【図1】
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【公開番号】特開2011−236160(P2011−236160A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−109438(P2010−109438)
【出願日】平成22年5月11日(2010.5.11)
【出願人】(504180239)国立大学法人信州大学 (759)
【Fターム(参考)】