説明

非コードRNA発現アッセイを用いた方法

生体系への介入を実施する工程と、介入に起因する生体系中の非コードRNA発現プロフィールを測定する工程と、測定された発現プロフィールから誘導される発現データセットを保存する工程とをそれぞれ含む、複数の異なる介入と複数の異なる生体系との片方または双方に関する複数の発現アッセイを実施するステップと、得られた発現データセットを分析して、異なる介入または異なる生体系の片方または双方に関する2つ以上の発現アッセイ群におけるそれぞれの介入の非コードRNA発現プロフィールに対する効果間の相関を判定するステップを含む方法が開示される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非コードRNA発現アッセイを用いる方法に関する。本発明の実施態様は、2つ以上の介入が生体系に影響を及ぼす機序の類似性を判定すること、試験薬の治療的用途の候補を同定すること、そして1つ以上の適応症について以前臨床試験の対象であった治療薬の新たな用途を同定することをはじめとするが、これに限定されるものではない問題に対処する。
【背景技術】
【0002】
マイクロRNA(miRNA)発現アッセイの利用に言及して本発明に関わる論点をここで検討するが、本発明では、その他の非コードRNA分子に関する発現アッセイを用いてもよい。
【0003】
miRNAは、21〜23ヌクレオチド前後の長さを有する一本鎖RNA分子である。miRNAは最初1993年にVictor Ambrosによって記載され、それ以来miRNAの論題で2,000を超える論文が公開されている。ヒトでは約1,000のmiRNAが予測されており、今までにその中のほぼ600が記載され実験的に検証されているが、その数を数万と推定する者もいる。しかし様々なヒトおよび齧歯類の組織および細胞系中のmiRNAの発現アトラスの作成を模索する最近の報告は、検出される全miRNAの97%をおよそ300のmiRNAが占めると報告した。
【0004】
miRNAはタンパク質に翻訳されないが、その代わりに1つ以上のその他の遺伝子の発現を調節する。既知の生物学は、現在、microRNAが特定の個々のメッセンジャーRNA(mRNA)またはmRNA群を標的にして、それによってそれらの翻訳を妨げ、またはそれほど頻繁ではないがRNAの分解を加速することを示す。成熟一本鎖miRNA分子は、RNA誘導サイレンシング複合体(RISC)タンパク質と複合体を形成し、その標的遺伝子のタンパク質コーディングmRNAの3’非翻訳領域(3’−UTR)内の部分的相補的配列に結合する。さらなるタンパク質が動員されてサイレンシング複合体が形成され、標的遺伝子産物の発現はmRNAの翻訳をブロックする機序によって阻止される。
【0005】
miRNAの生物学、およびサイレンシング複合体の組成および機序に関して未だ発見されていないことは多いが、miRNAが多数の遺伝子の制御に関与することは明白である。miRNAは、翻訳レベルで全遺伝子の30%を調節すると考えられている(Xieら、2005)。miRNAは複数の遺伝子を調節し得て、各遺伝子は複数のmiRNAによって調節され得る。miRNAの組織特異的発現は、組織を分化させ、および/または組織同一性を能動的に保つことへの細胞の傾倒を先導すると考えられる。この幅広い影響および異なるmiRNA間の相互作用は、単一miRNAまたはmiRNAの小さなサブセットの調節解除された発現が、複雑な疾患形質をもたらすかもしれないことを示唆する(Limら、2005,Nature)。既知のヒトmiRNAの50%以上が、癌細胞への変化をこうむりがちなゲノム領域に存在する(Calinら、2004 PNAS,101,299−3004)。当然のことながらmiRNAの発現パターンは、癌およびその他の疾患状態において変化する。この情報は、癌幹細胞中の特定のmiRNA発現パターンを定義できるようにすることで、癌を類別して病期分類し、予後および応答の生物マーカーを明らかにして、治療的介入を導くための主要な決定因子を提供し、化学的感受性を説明して化学療法抵抗性機序を提供するのに使用され始めている。
【0006】
可能な新しい治療法の研究開発に対するmiRNAの応用は、典型的に、それによってmiRNAの発現およびプロセッシングが制御される機序、およびそれによって特定のmiRNAがmRNA翻訳を調節する機序の詳細かつ時間がかかる分析からもたらされている。特定の薬剤標的が同定されており、これらの薬剤標的と関連した研究が継続している。しかし徹底的ではあるけれども、この研究パラダイムは時間がかかり高価である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって本発明は、介入の作用機序の詳細な理解も特定の薬剤標的の同定も要さない、治療薬投与などの介入の実用的応用を発見する代案の方法を提供することを目標としている。本発明のいくつかの実施態様は、既知の治療物質の新しい適応症を判定し、または試験薬の毒物学的プロフィールの側面などの薬理学的特性を予測する問題に対処する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明の要約
本発明に従って、
(1)生体系への介入を実施する工程と、介入に起因する生体系中の非コードRNA発現プロフィールを測定する工程と、測定された発現プロフィールから誘導される発現データセットを保存する工程をそれぞれ含む、複数の異なる介入と複数の異なる生体系との片方または双方に関する複数の発現アッセイを実施するステップと、
(2)得られた発現データセットを分析して、異なる介入または異なる生体系の片方または双方に関する2つ以上の発現アッセイ群におけるそれぞれの介入の非コードRNA発現プロフィールに対する効果間の相関を判定するステップ
を含む方法が提供される。
【0009】
発現データセットを分析して、実施された介入と、それに対して介入が実施された生体系との片方または双方に関して異なる、2つ以上の発現アッセイ群における非コードRNA発現プロフィールに対する介入の効果間の類似性を判定することで、それによって1つ以上の介入が1つ以上の生体系中の非コードRNA発現プロフィールに影響を及ぼす機序を判定する必要なしに、相関を判定してもよい。
【0010】
したがって既知の治療的妥当性がある第1の介入の効果と関連付けられている非コードRNA発現プロフィールに対して、第2の介入が効果を有することが分かった場合、第2の介入は同一のまたは同様の治療的応用の候補として扱い得る。第1および第2の介入が、同一の、同様の、または関連した作用機序を有する可能性は、少なくともいくらかある。この方法論は、治療的介入を発見するために、特定の標的(タンパク質、核酸または液体分子など)が同定されて分析され、標的の生物学が深く研究され、標的の1つ以上の活性を調節するのに適した治療的介入が合理なおよび/または組み合わせによる方法によって開発される、既知の戦略とは、全く対照的である。
【0011】
1つ以上の(そして場合により全ての)前記介入は、1つ以上の試験薬の生体系への、同時または逐次のどちらかの適用を含んでもよい。1つ以上の試験薬は、例えば2,000ダルトン未満、1,000ダルトン未満、または500ダルトン未満の分子量を有する分子などの化学物質であってもよい。化学物質は非ポリマー性であってもよい。1つ以上の試験物質は、例えば脂質、オリゴヌクレオチド、またはタンパク質(例えば酵素、抗体、または抗体断片、ヒト化抗体または抗体断片、ファージまたはリボソームディスプレイタンパク質断片、またはプリオン)などの生体高分子のような生物学的物質であってもよい。生物学的物質はウィルスまたは細菌であってもよい。したがって発現アッセイのいくつかまたはそれぞれは、生体系中の非コードRNA発現プロフィールに対する試験薬の効果を測定してもよい。
【0012】
1つ以上の前記試験薬は治療薬であってもよい。1つ以上の前記試験薬は、既知の病状の治療または予防に対する既知の用途を有する治療薬であってもよい。1つ以上の前記試験薬は、1つ以上の適応症に関して(成功裏であるかどうかに関わらず)臨床試験の対象とされている治療薬であってもよい。しかし1つ以上の(そして場合により全ての)前記介入は、電離放射、連続またはパルス電磁放射(例えば可視光、紫外線、赤外線)、(空気または液状媒体を通じて送達される)音響エネルギー、機械的介入(例えば加圧)、電気、温度変化、容積モル浸透圧濃度変化、増殖培地の張性またはpH、磁界、流体力学の変化、および機械化学的な情報伝達を含む群の1つ以上の生体系に対する適用を含んでもよい。したがって少なくともいくつかの介入は、生体系に有害であることが知られている介入であってもよい。このような有害な介入に起因する発現プロフィールは、有害効果を覆しまたは予防する薬剤を同定するのに有用かもしれない。
【0013】
1つ以上の前記生体系は、例えばヒト、ウサギ、または齧歯類(例えばマウスまたはラット)細胞のような哺乳類細胞、または培養昆虫、両生類または魚細胞系などの細胞を含んでもよい。1つ以上の前記生体系は、細胞型の混合物を含んでもよい。介入は、典型的に培養哺乳類細胞に対して実施される。哺乳類細胞は、幹細胞または前駆細胞であってもよい。幹細胞とは、自己再生して少なくとも1つの別の特殊な細胞型に分化できる細胞を指す。しかし1つ以上の前記生体系は、生物全体、生体外組織、合成系または形質転換細胞であってもよい。1つ以上の前記生体系は、遺伝子導入されていてもよい。培養細胞は、同期または非同期の細胞周期を有してもよい。1つ以上の前記介入は、幹細胞または前駆細胞の分化または脱分化状態を変化させ、または幹細胞または前駆細胞の特殊化を引き起こし、または特定の細胞系統または分化状態の特徴を保ちながら複製を引き起こす介入であってもよい。
【0014】
発現アッセイを繰り返してもよく、分析される発現データセットは、同等な生体系に対する同等な介入を使用して、いくつかのまたは全ての反復実験から集計してもよい。
【0015】
相関は典型的に、どの発現データが発現データセットに保存されるかとの関連で、非コードRNAのサブセットの発現の間にある。非コードRNA発現プロフィールに対する効果間の相関は典型的に、2つ以上の発現アッセイ間の1つまたは少数の(例えば2、3、5または5未満の、または10または10未満の)非コードRNA発現の変化における、正または負であってもよい相関である。正相関は、2つの各発現アッセイにおける1つ以上の非コードRNA発現の増大を含んでもよい。正相関は、2つの各発現アッセイにおける1つ以上の非コードRNA発現の減少を含んでもよい。負相関は、第1の発現アッセイにおける1つ以上の非コードRNA発現の増大と、第2の発現アッセイにおける同一の1つ以上の非コードRNA発現の減少とを含んでもよい。
【0016】
それぞれの介入の非コードRNA発現プロフィールに対する効果間の相関を判定するために、方法は、例えばそれぞれの介入が実施されない対照アッセイ、またはそれぞれの介入を実施する前に生体系における非コードRNA発現プロフィールを測定するステップを含む対照アッセイなどの適切な対照アッセイにおいて、非コードRNA発現プロフィールを測定するステップをさらに含んでもよい。発現アッセイおよび対応する対照アッセイにおける非コードRNA発現プロフィール間の違いを判定してもよい。保存された発現データセットは、測定された発現プロフィールおよび対応する対照アッセイの発現プロフィールに由来してもよい。得られた発現データを分析するステップは、対照アッセイからの発現プロフィールを考慮に入れてもよい。しかしいくつかの用途では、対照アッセイを実施しなくてもよい。例えば同等な生体系に対して複数の介入を実施する場合、それぞれの介入の非コードRNA発現プロフィールに対する効果間の相関を判定するためには、各発現アッセイに起因する発現プロフィールだけに由来するデータセットを分析することのみが必要であるかもしれない。
【0017】
例えば2つ以上の発現アッセイ群におけるそれぞれの介入の非コードRNA発現に対する効果間の類似性など、少なくとも前記相関のいくつかは正相関であってもよい。相関を判定するために、得られた発現データセットを分析するステップは、発現アッセイに起因する発現データセット間の類似性に基づいて発現アッセイを分類するステップ(例えばクラスター形成または組分け)を含んでもよい。有利には、これは、共通する機序の性質を理解することを要せずして、2つ以上の異なる介入が(典型的に同一または同等な生体系の)非コードRNA発現プロフィールに対して直接にまたは間接的に効果を有する機序の類似性を同定し得るようにするかもしれない。
【0018】
したがって方法は、2つ以上の介入が、1つ以上の非コードRNA発現に対して同様の効果を有することを判定する方法であってもよい。第1の介入は、少なくとも1つの既知の第1の治療的用途を有する第1の治療物質の適用であってもよく、方法は、第2の治療物質の適用を含む第2の介入の非コードRNA発現に対する効果間に正相関があるかどうかを判定する方法であってもよい。したがって方法は、既知の治療物質(第2の治療物質)について、可能な新しい治療的用途(第1の治療的用途)を判定する方法であってもよい。方法は、第2の介入が、前記既知の第1の治療的用途の応用に適用できるかどうかを試験するステップをさらに含んでもよい。
【0019】
第1の介入は、既知の第1の治療的用途はないが、治療法としての展開に適した薬理学的および毒物学的プロフィールを有することが知られている物質の適用であってもよい。したがって方法は、毒物学試験に合格したが、臨床試験において有効である、または対照治療物質よりも有効であることが分からなかった治療物質の可能な新しい治療的用途を判定する方法であってもよい。
【0020】
前記相関の少なくともいくつかは負相関であってもよく、例えば2つ以上の介入が1つ以上の非コードRNA発現に対して逆の効果を有すると判定されてもよい。有利には、第1の介入および第2の介入の非コードRNA発現プロフィールに対する効果間の負相関は、第2の介入が治療法において第1の介入の1つ以上の効果を逆転させるのに恐らく有用たり得ることを示唆するかもしれない。したがって第1の介入は、生体系に対して悪影響を有することが知られている介入であってもよく、例えば第1の介入は毒素の適用であってもよい。この場合、方法は、第1の介入によって引き起こされることが知られている病状を治療または予防する候補として、第2の介入を同定するステップを含んでもよい。
【0021】
したがって複数の介入は、毒素の投与または生体系に有害な処置を含んでもよい。したがって方法は、1つ以上のその他の介入によって引き起こされることが知られている病状を治療、または予防するかもしれない介入候補(例えば治療物質候補)を判定する方法の一部であってもよい。方法は、既知の治療的介入(例えば治療物質または放射線療法の適用)の副作用を治療または予防する候補を判定する方法の一部であってもよい。
【0022】
方法は、例えば、第1の介入に起因する非コードRNA発現プロフィールが、生体系に対して悪影響を有することが知られている介入の発現プロフィールと正に相関し、またはその毒物学の1つ以上の側面が知られている薬剤の投与を含む介入の発現プロフィールと正に相関することを検出することで、試験薬の毒性の1つ以上の側面を予測する方法であってもよい。
【0023】
方法は、非コードRNA発現プロフィールに対する、第1の試験薬および第2の試験薬の効果、または標的分子の既知の作動薬または拮抗薬である試験薬の効果間のそれぞれの相関を判定することによって、第1の試験薬が第2の試験薬または特定の標的高分子の作動薬候補または拮抗薬候補であることを判定する方法であってもよい。
【0024】
方法は、非コードRNA発現に対して同様の効果を有する介入を組分けするステップを含んでもよい。得られた発現プロフィールは、さらなる治療物質を同定するさらなる研究の有用な出発点になるかもしれない。方法は、例えば一群の治療物質である、一群の介入と関連付けられている非コードRNA中の発現プロフィールの変化を判定する方法であってもよい。したがって方法は、化学または生物学的物質が生体系に対して作用機序を有し、それが生体系に対する別の化学または生物学的物質の作用機序に関連することを判定する方法であってもよい。グループは、分類体系によって順序付けられてもよい。
【0025】
介入が生体系に対する第2の試験薬の適用であって、非コードRNA発現プロフィールに対する第2の試験薬の適用の効果が、第1の病状の治療または予防に有用であることが知られている別の第1の試験薬の生体系に対する効果と(正または負)相関性があることが分かった場合、第2の試験薬、または第2の試験薬を変性することによって得られる試験薬を第1の病状または第1の病状に関連する病状の治療または予防における有効性について試験してもよい。第1の病状または第1の病状に関連する病状の治療または予防に有効であることが分かった試験薬は、妥当な病状の治療または予防から展開してもよい。
【0026】
いくつかの実施態様では、複数の異なる生体系に対して同一の介入または介入群が実施される発現アッセイが実施される。したがって方法は、複数の異なる生体系のいくつかのみに存在する介入効果間の相関を発見できるようにしてもよい。いくつかの実施態様では、複数の異なる生体系は、例えば異なる発達段階などの、異なる分化または脱分化状態にある幹細胞である。したがって方法は、特定の分化または脱分化状態にある幹細胞に対する介入効果間の相関を発見できるようにしてもよい。この情報は、発達機序、および幹細胞または前駆細胞の分化および脱分化を研究するのに有用である。複数の異なる生体系は、異なる疾患状態にある哺乳類細胞を含んでもよい。介入は、幹細胞または前駆細胞の分化または脱分化を引き起こし、または特定の分化状態の獲得を推進し、または特定の分化状態にある幹細胞または前駆細胞の安定性を保つ介入であってもよい。
【0027】
発現プロフィールは、少なくとも1つの、そして典型的に複数の非コードRNA、好ましくは少なくとも10、またはより好ましくは少なくとも100の非コードRNA発現に関連している。発現プロフィールは、マーカーとして機能する1つ以上の遺伝子導入非コードRNA発現に関連していてもよい。発現プロフィールは、1つ以上の非コードRNAの発現レベルの定量的または定性的測定を含んでもよい。1つ以上の前記非コードRNA発現レベルは、例えば、特定の生体系中で生体系ゲノムに組み込まれ、またはエピソームに保持される、遺伝子導入レポーターコンストラクトなどのレポーターコンストラクト活性化の量またはレベルの測定を通じて間接的に判定されてもよい。発現プロフィールは、典型的に、例えば1つ以上の非コードRNAの定常状態またはピーク量など、生体系中の少なくともいくつかの状況で発現される1つ以上の非コードRNAの量に関連する。しかし発現プロフィールは、例えば1つ以上の非コードRNA発現の変化率に関連するかもしれない。いくつかの実施態様では、発現プロフィールはマイクロアレイを使用して得られる。
【0028】
非コードRNAは、典型的にmicroRNA(miRNA)を含み、miRNA前駆体および成熟miRNAの片方または双方を含んでもよい。非コードRNAは、低分子干渉RNA(siRNA)、piwi相互作用RNA(piRNA)、低分子核内RNA(snRNA)、および低分子ヘアピン型RNA(shRNA)の1つ以上を含んでもよい。非コードRNAは遺伝子導入されていてもよい。RNAのいくつかまたは全ては、例えば非コードRNA発現のレポーターとして機能する遺伝子導入RNAであってもよい。非コードRNAはエピソームRNAであってもよく、方法は、例えばウィルスを用いた生体系の感染によってエピソームDNAを生体系に導入するステップを含んでもよく、エピソームDNAが転写されて、解析された非コードRNAの全部または一部を構成する非コードRNAを生成し得る。
【0029】
発現プロフィールは一群の非コードRNA中で各非コードRNAについて測定してもよく、方法は、複数の介入がそれに対して相関効果を有する発現プロフィールを有する、個々の非コードRNA、または非コードRNA群の下位集団を同定するステップを含んでもよい。
【0030】
相関効果を有する複数の介入は本発明の方法によって同定されてもよく、したがって複数の介入によって影響される発現レベルを有する、一群の非コードRNA、および群中の個々の非コードRNAまたは非コードRNA下位集団の発現プロフィールに対して相関効果を有する双方の介入が、同定できるようになる。
【0031】
相関効果を有する複数の介入は、関連作用機序を有することが以前に知られている介入であってもよく、例えば、複数の介入は、例えば薬物群のような、同一のまたは同様の作用機序を有することが知られているか、または有すると考えられている薬剤の投与を含んでもよい。したがって本発明は、複数の介入によって影響される発現レベルを有する、個々の非コードRNAまたは非コードRNA下位集団を同定する方法を提供する。
【0032】
次に低減された非コードRNA群の発現プロフィールが測定されるさらなる発現アッセイで使用するために、得られた同定された個々の非コードRNAまたは同定された非コードRNA下位集団を選択してもよく、低減された非コードRNA群は、少なくとも同定された個々の非コードRNAまたは同定された非コードRNA下位集団を含み、または場合によりそれからなる、非コードRNA群のいくつかのみを含む。その結果、低減された非コードRNA群の発現プロフィールに対するさらなる介入の効果、および低減された非コードRNA群の発現プロフィールに対するさらなる介入の効果と、低減された非コードRNA群の発現プロフィールに対する前記複数の介入の効果との間の相関を判定し得る。したがって引き続くアッセイおよび試験ではより少ない非コードRNAを用いてもよく、経費が低減されて処理能力が増大する。例えば治療薬群がそれに対して相関効果を有する発現レベルを有する低減された非コードRNA群を使用して、新しい治療的に有用な薬剤を発見するために、または既知の治療薬について新しい適応症を同定するために、薬剤候補をスクリーニングしてもよい。
【0033】
生物学的介入効果を識別するための、非コードRNA群または下位集団の発現レベルの妥当性を判定してもよい。方法は、生物学的介入効果の間の識別に対するそれらの妥当性にしたがって、群または下位集団中で非コードRNAを格付けするステップを含んでもよい。方法は、非コードRNA発現に対して相関効果を有する、生物学的介入または一群の生物学的介入の非コードRNA発現に対する効果を非コードRNA群または下位集団中で格付けするステップを含んでもよい。得られた格付けを使用して、生物学的介入効果間の相関を同定してもよい。
【0034】
相関は、例えば主成分分析などの統計学的数学的方法によって同定してもよい。複数の各特定の非コードRNA発現に対する生物学的介入効果に、それぞれの非コードRNA発現に対する生物学的介入効果の特性を示す一群のコードの1つを割り当ててもよい。得られたコードを分析して、相関を同定してもよい。
【0035】
本発明はまた、本発明の方法によって得られる、前記低減された非コードRNA群からなる非コードRNAを有するアッセイ装置(例えば試験キット、またはそれに固定化された非コードRNAを有する固相担体)にも及ぶ。
【0036】
ここで以下の図に言及して、本発明の実施形態の例を例証する。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の方法に従った流れ図である。
【図2a】1つの生物学的介入についての主成分分析からの結果のプロットである。
【図2b】1つの変数についての主成分分析からの結果のプロットである。
【図3】p値およびq値による11個のmiRNAの統計学的格付けを示す表である。
【図4a】標識された識別miRNAの下位集団を示す主成分分析からのデータプロットである。
【図4b】異なる介入タイプからの発現データがどのようにクラスター形成するかを示す、4つの介入タイプからのデータを示す主成分分析からのデータプロットである。
【発明を実施するための形態】
【0038】
実施形態例の詳細な説明
本発明の実例応用において、miRNA発現データセットのデータベース(非コードRNA発現プロフィールに由来する発現データセットの一例)を作成する。図1に言及すると、既知の方法によって適切なヒト細胞を培養し(2)、試験薬を培養細胞に投与する(4)。次に介入実施後の1つ以上の期間中に、処理細胞のサンプルを使用してmiRNA発現プロフィールを測定し(6)、処理細胞中のいくつかの各miRNAの発現レベルを判定する。
【0039】
miRNA発現プロフィールを測定する2つの代案の方法であるマイクロアレイ分析法、および定性的リアルタイムPCR分析法について下で述べる。
【0040】
(1)miRNAマイクロアレイおよびデータ分析法
Vedbaek,DenmarkのExiqon A/Sからのカラムベースのキットを使用して、薬剤処理(n = 3)および対照処理細胞(n = 3)からの全RNAを単離する。miRNAマイクロアレイによって、各サンプルからの全RNAの2μgを分析する。標識、ハイブリダイゼーション、スキャニング、正規化、およびデータ分析を含むmiRNAマイクロアレイ分析は、例えばExiqon A/Sなどのようないくつかの供給元から市販される。簡単に述べると、Bioanalyser 2100 マイクロ流体プラットフォーム(BioanalyserはAgilent Technologiesの商標である)を使用して、RNA品質管理を実施する。AgilentからのComplete Labelling Hyb Kitを使用し、提供される説明書に従ってサンプルを標識する。
【0041】
(2)定量的リアルタイムPCR法
上のオプション(1)同様、Exiqonからのカラムベースキットを使用し、製造業者の使用説明書に従って全ての細胞性RNAを抽出した。TaqManリアルタイムPCRによるmiRNAの定量化は、製造業者(Applied Biosystems(Foster City,California,USA))によって記載されるように実施する(TaqManはRoche Molecular Systems,Inc.の商標である)。簡単に述べると、TaqMan MicroRNA逆転写キットおよびmiRNA特異的ステムループプライマー(Applied Biosystems)を使用して、10ngのRNAを逆転写(RT)のテンプレートとして使用する。20μlのPCR反応にRT生成物のアリコート(1.5μl)を装入し、それをABI7900HTサーモサイクラー(Applied Biosystems)上の96ウェルプレート内において、95℃で10分間、続いて95℃で15秒間および60℃で1分間を40サイクルでインキュベートする。U48 RNA(小型非コードRNA)(またはU48が薬物療法によって変動することが分かればGAPDH)発現の値に基づいて、異なるサンプル間で標的遺伝子発現を正規化する。
【0042】
いずれの場合にも、得られるmiRNA発現レベルを発現データセットとして保存する(8)。多数の発現アッセイを好ましくは実施する。このようにして、典型的に多数(例えば数百または数千)の試験薬を細胞培養物に装入し、分析してmiRNA発現データのデータベースを作り出す。
【0043】
miRNA発現データセットの適切に大きなデータベースが利用できるようになったら、発現データセットを分析し(10)、miRNA発現に対する各試験薬の効果間の相関を判定して、miRNA発現プロフィールに対して同様の効果を有する試験薬の階層的なクラスターを作り出す。
【0044】
核酸発現データセット間の相関を判定する方法は、当業者に良く知られている。例えば一方法は、GPR形式でExiqon A/Sから得られるマイクロアレイデータをスプレッドシートにインポートすることである(GPRは、Molecular Devices(Union City,California,USA)から入手できるGenepix6ソフトウェアによって使用されるデータ形式であり、GenepixはMolecular Devicesの商標である)。各miRNAのスポット強度を品質対照に対して分析し、較正スポットをmiRNA配列上に提供する(Genepix6ソフトウェアによって負のフラグとして示される)。シグナル強度50未満の値は0とする。各miRNA捕捉プローブ種の4つの各複製スポットについてバックグラウンド補正スポット強度の中央値を計算し、階層的クラスター形成および/または当業者に良く知られているその他の統計学的分析を実施する、TMeVマイクロアレイ分析ソフトウェアにインポートする(TMeVは、Dana−Farber Cancer InstituteによってURL www.tm4.orgで提供される)。
【0045】
代案としては、Agilent Technologiesから入手できるGRP形式の発現データをGenespring GXソフトウェアにインポートしてもよく(Genespring GXはAgilent Technologiesの商標である)、75パーセンタイル数に正規化し、次に階層的クラスター形成およびGenespring GXに組み込まれているその他の統計学的ツールを使用して処理する。
【0046】
1つ以上のmiRNAの発現に対して、2つ以上の試験薬の効果間に正相関が見つかった場合、これは試験薬が同一のまたは関連した作用機序を共有する徴候であるかもしれない。したがって病状の治療法として知られている薬剤と同様の効果をmiRNA発現プロフィールに対して有することが分かった試験薬は、同一のまたは関連した病状を治療する候補として同定し得る(12)。これは既に1つの治療的応用に潜在的に有用であると同定された薬剤の再配置を促進するのに、有用であるかもしれない。候補試験薬を試験して、それらが同一のまたは関連した病状の治療に有用かどうか、またはさらなる研究の出発点として使用できるかどうかを判定し得る。例えばそれらを合理的なまたは組み合わせによる設計法を使用して修飾し、模倣剤化合物を調製して試験等ができるかもしれない。候補試験薬を試験して(14)、それらが治療物質として使用するのに適するか判定し、もしそうであれば治療物質として採用し得る(16)。
【0047】
miRNA発現に対する効果による分類は、直接または間接的であるかどうかにかかわらず、miRNA発現レベルに対する同様のまたは関連した作用機序に反映されるかもしれないので、1つ以上のmiRNA発現に対して同様の効果を有する試験薬を組分けすることは特に有用である。
【0048】
負相関が同定された場合、1つの試験薬が、さらなる試験薬またはその他の介入の1つ以上の望ましくない影響を予防、軽減、または除去する候補として同定されるかもしれない。したがって望ましくない効果を有する別の試験薬に対する1つ以上のmiRNAの発現に対して反対の効果を有することが知られている試験薬は、望ましくない効果を治療または予防する物質候補として考慮し得る。
【0049】
有利にはmiRNA発現アッセイを実施して、化学または生物学的物質投与以外の介入をはじめとする一連の介入の効果を評価する。例えば紫外線、電離放射、音波、および細胞に有害なその他の介入を用いて細胞を処理してもよい。このような介入の効果と負に相関する、1つ以上のmiRNAの発現に対する効果を有する試験薬を同定し得る場合、その試験薬は対応する生体内介入に起因する望ましくない効果の治療候補または予防候補であってもよい。これは紫外線によって、または放射線療法の副作用として、引き起こされる損傷を予防する薬剤を同定するのに有用かもしれない。
【0050】
方法は、多数の試験薬の高処理能力スクリーニングに応用し得る(例えば小型の化学物質、ペプチド、ペプチド模倣薬またはポリ核酸の組み合わせライブラリー)。新しい発現アッセイが実施されると、得られた発現データセットをあらかじめ保存された発現データセットと比較して、スクリーンされた試験薬の効果と、あらかじめアッセイされた薬剤の効果間の相関を探し得る。
【0051】
方法は、典型的に、miRNA発現データセットの大きなデータベースを使用して用いるのが最適である。しかしいくつかの特定用途では、新しいアッセイに起因するmiRNA発現データセットとの比較のために利用できる、少数のmiRNA発現データセット、または1つのmiRNA発現データセットを有することのみを要するかもしれない。これは、例えばmiRNA発現に対して顕著な効果を有することが知られており、またはそれが疑われる薬剤の効果などの特定の同定された効果と正または負相関を有するmiRNA発現に対する効果を有する薬剤を見いだす高処理能力スクリーニングにおいて、妥当かもしれない。
【0052】
したがって本発明は、試験薬がmiRNA発現プロフィールに影響を及ぼす機序の理解を要せずして、試験薬(化学物質および生物製剤)の作用機序における類似性、ひいては実用的用途が、miRNA(そして潜在的にその他の非コードRNA)の発現に対するそれらの効果の比較分析を通じて発見されるかもしれないという原理に基づく。これは、その中で作用機序が深く研究されて、薬剤標的と所望の相互作用を有する薬剤を発見するためのスクリーニングアッセイで使用される薬剤標的が同定される、従来の創薬および薬剤再配置戦略とは全く対照的である。
【0053】
実験的発見およびそれらの意味合い
記載される方法を使用して、我々はmiRNA発現データの組分けに基づいて、介入の潜在的な治療的用途の様式を判定することが可能であると判断した。さらに方法を使用して、スクリーニングされる介入の特定の治療的用途の指標となる発現レベルを有する、特定のmiRNAを同定し得る。このような指標となるmiRNAは将来、miRNAライブラリー全体でなく、miRNA発現レベルの比較的小さな群を分析して、スクリーニングされる介入の潜在的治療用途を同定するためのさらなる介入スクリーニングができるようにする。
【0054】
選択されたmiRNAの小さな群を使用して、介入の潜在的治療用途を判定する一例を下に示す。
【0055】
本明細書で記載される実験では、対照として、一群の細胞をジメチルスルホキシドまたはDMSO、およびリン酸緩衝食塩水を含む薬剤溶剤ミックスで処理した。薬剤溶剤ミックスは、miRNA発現に対する効果を有さないと仮定され、もし効果があれば、それは試験される薬剤に関連付けられているパターンのいずれにも一致しないと仮定された。しかし薬剤溶剤ミックスは、HDAC阻害剤に一致するmiRNA発現パターンを有することが分かった。後に文献レビューから、DMSOはHDAC阻害剤であるとされていることが分かり、薬剤の未知の潜在的治療特性が、本発明の方法を使用して判定され得ることが確認された。
【0056】
材料と方法
HeLa細胞は標準法を使用して培養した。細胞はDMEM培地中で分割させた。
【0057】
培地を吸引して、細胞単層を適量のリン酸緩衝食塩水(PBS、800mlの蒸留水に溶解された8gのNaCl、0.2gKCl、1.44gのNaHPO、および0.24gのKHPO)で洗浄した。PBSを吸引した。
【0058】
試験対象の試験薬を細胞に投与して、48時間にわたりインキュベートした。
RNA抽出
Exiqonからのカラムベースのキットを使用して、以下の手順でこれらの細胞からRNAを単離精製した。
【0059】
細胞が成長した培地を吸引して、細胞単層を適量のPBSで洗浄した。PBSをさらに吸引した。
【0060】
350μLの溶菌液を培養プレートに直接添加した。培養皿を穏やかに叩いて緩衝液をプレート表面で5分間旋回させ、細胞を溶解した。次に溶解産物を微小遠心管に移した。
【0061】
200μLの95〜100%エタノールを溶解産物に添加し、10秒間ボルテックスして混合した。
【0062】
キット中で提供される管の1本を使用して、カラムを組み立てた。600μLの溶解産物/エタノールをカラムに装入し、14,000×gで1分間遠心分離した。通過物を廃棄し、その収集管を用いてスピンカラムを再び組み立てた。
【0063】
提供される洗浄溶液の400μLをカラムに装入して、14,000×gで1分間遠心分離した。通過物を廃棄し、その収集管を用いてスピンカラムを再び組み立てた。
【0064】
別の400μLの洗浄溶液を添加して14,000×gで1分間遠心分離し、カラムをさらに2回洗浄した。通過物を廃棄し、その収集管を用いてスピンカラムを再び組み立てた。
【0065】
カラムを14,000×gで2分間遠心分離して樹脂を完全に乾燥させ、収集管を廃棄した。
【0066】
キットで提供される1.7mL溶出管にカラムをアセンブルし、50μLの溶出緩衝液をカラムに添加して、200×gで2分間、続いて14,000×gで1分間遠心分離した。
【0067】
得られた精製RNAサンプルは、−20℃で数日間保存し得た。サンプルの長期保存のためには、−70℃で保存した。
【0068】
(1)miRNAマイクロアレイおよびデータ分析法
標識
Agilentからの標識キットを使用して、精製RNAサンプルを標識した。
【0069】
全RNAサンプルを1×TE pH7.5中で50ng/μLに希釈した。2μLの希釈全RNAを1.5mL微小遠心管に入れ、氷上にのせた。使用直前に、0.4μLの10×仔ウシ腸管ホスファターゼ緩衝液、1.1μLのヌクレアーゼ非含有水、および0.5μLの仔ウシ腸管ホスファターゼを穏やかに混合して、仔ウシ腸管アルカリホスファターゼマスターミックスを調製した。
【0070】
2μLの仔ウシ腸管アルカリホスファターゼマスターミックスを各サンプル管に入れて総反応体積を4μLにし、ピペット操作により穏やかに混合した。反応体積を循環する水浴内において37℃で30分間インキュベートした。
【0071】
2.8μLの100%DMSOを各サンプルに添加した。サンプルを循環水浴内において100℃で5〜10分間インキュベートし、次に即座に氷浴に移した。
【0072】
10×T4 RNAリガーゼ緩衝液を37℃に暖め、全ての沈殿物が溶解するまで回転させた。使用直前に、1μLの10×T4 RNAリガーゼ緩衝液、3μLのシアニン3−pCp、および0.5μLのT4 RNAリガーゼを穏やかに混合してライゲーションマスターミックスを作成し、氷上に置いた。
【0073】
4.5μLのライゲーションマスターミックスを各サンプル管に添加して、総反応体積を11.3μLにした。サンプルをピペット操作により穏やかに混合し、遠心分離した。次に循環する水浴内において、サンプルを16℃で2時間インキュベートした。次に真空濃縮器を使用して45〜55℃でサンプルを乾燥させ、管を弾いてペレットが動いたり分散したりしなければ、サンプルは乾燥していると判定された。
【0074】
ハイブリダイゼーション
Agilentキットで提供される凍結乾燥10×GEブロック剤を含有するバイアルに、125μLのヌクレアーゼ非含有水を添加して混合した。
【0075】
乾燥サンプルを18μLのヌクレアーゼ非含有水に再懸濁した。4.5μLの10×GEブロック剤を各サンプルに添加した。22.5μLの2×Hi−RPMハイブリダイゼーション緩衝液を各サンプルに添加して、よく混合した。得られたサンプルを100℃で5分間インキュベートし、次に即座に氷浴に移してさらに5分間インキュベートした。
【0076】
清潔なガスケットスライドをAgilent SureHybチャンバーベースに装入し、ガスケットスライドがチャンバーベースと確実にぴったり重なるようにした。確実に気泡がないようにして、ハイブリダイゼーションサンプルをガスケットウェルに分注した。
【0077】
アレイを活性面を下向きにしてSureHybガスケットスライドにのせ、SureHybチャンバーカバーを用いてアセンブルしてアセンブルチャンバーを形成した。アセンブルチャンバーを55℃に設定したハイブリダイゼーションオーブンに入れ、その温度で20時間、20rpmで回転させた。
【0078】
引き続いて、提供されたGE洗浄緩衝液を使用してスキャン前に配列を洗浄した。
(2)定量的なリアルタイムPCR
RT反応マスターミックスの調製
構成要素を氷上で解凍した。0.15μLのdNTP(100mM)、1μLのMultiScribe逆転写酵素(MultiScribeはApplera Corporationの商標である)(50U/μL)、1.5μLの10×逆転写緩衝液、0.19μLのRNase阻害剤(20U/μL)、4.16μLのヌクレアーゼ非含有水を混合して、RT反応マスターミックスを調製し、次に氷上で保存した。上述の体積は15μLのRT反応あたりのもので、実施したRT反応の数に応じて増大させたことに留意されたい。
【0079】
RT反応の調製
各15μLのRT反応毎に、7μLのRTマスターミックスを5μLの全RNAと合わせた。RTプライマーを氷上で解凍し、3μLのRTプライマーを96ウェルプレートのウェル中の12μLのRTマスターミックス/全RNAに添加した。充填するまでプレートを氷上に保ち、次にサーマルサイクラーに入れた。
サーマルサイクラーステップ:
16℃で30分間
42℃で30分間
85℃で5分間
4℃で都合がつく限り長時間
PCR増幅
各ウェル毎に、10μLのTaqman 2×Universal PCRマスターミックスを7.67μLヌクレアーゼ−非含有水、1μLの20×Taqman MicroRNAアッセイミックス、および先行ステップからの1.33μLのRT生成物に混合した。全てのウェルが充填されたら、オプティカル接着カバーを用いてプレートを密封し、遠心分離してあらゆる気泡を除去した。
【0080】
次にプレートをリアルタイム対応サーマルサイクラー/PCR機に装入し、以下のプログラムに従った。
95℃で10分間(AmpliTaq Gold酵素の活性化)
40×(95℃で15秒間、60℃で60秒間)
データ分析
これらの技術の双方からのデータは、各プレートの急上昇miRNAスポットに対して正規化し、別個の配列からのデータを比較できるようにした。
【0081】
当業者に良く理解されている標準技術である主成分分析を使用して正規化データを分析し、miRNA発現プロフィール間の相関と、元の細胞に適用された特定試験薬の個々のmiRNA発現に対する作用の帰結であると判定された、観察されたあらゆるデータの組分けとを同定した。
【0082】
図1は、microRNAの発現プロフィールを得る方法の流れ図である。
図2は、主成分分析後の発現プロフィールの一例を示す。パート(a)は、miRNA発現の総多次元発現データセットの3つの主成分の三次元投影を示し、1つの処置タイプについてのmiRNA発現データのクラスター形成を図示する。パート(b)は、単一miRNA発現実験のデータ拡散を示す。
【0083】
図3は、has−miR−1からhas−miR−11と標識された11の識別miRNAの統計学的格付けを示す。p値は結果が統計的に有意であるか、または偶然の結果(一般に0.05以下のp値として示される)であるかどうかの標準統計学的試験値であり、q値は複数試験について補正されたp値であり、偽発見率の測定を提供する。示されるp値は全て、0.05よりもはるかに小さい。
【0084】
図4(a)は、複数miRNAのmiRNA発現の多次元データセットの3つの主成分の投射と、潜在的治療的用途の指示miRNAのクラスター形成とを示す。(b)は複数miRNAのmiRNA発現の多次元データセットの3つの主成分の投射を示し、個々のmiRNAは網掛け表示されて、それらの発現に適用される生物学的介入が使用される、治療的用途が示唆される。
【0085】
以上のように結果は明白に組分けされ、この組分けは、その中でmiRNAが発現された細胞に適用された生物学的介入の治療用途に準じている。換言すれば、組分けされた生物学的介入は、それらが適用された細胞に対して同様の作用機序を有し、そしてその共通の機序がmiRNA発現レベルに同様の効果をもたらしたかもしれないと判定することが可能である。
【0086】
同様の作用機序がある生物学的介入はまた、同様の治療的特性も有してもよく、したがってそれらは同様の治療的用途を有してもよい。図3および4に提示されるデータは、試験された生物学的介入では、同様の治療的用途の生物学的介入(例えば抗代謝産物)のmiRNA発現の多次元データセットの3つの主成分の投影が実際にグループにまとまり、異なる治療用途がある生物学的介入の組分け(例えば後成的変更因子)は別のグループにまとまることを実証する。
【0087】
miRNA発現パターンのデータベースは、多数の生物学的介入を実施して、miRNA発現プロフィール中で得られた変化を分析することで構築し得る。このようなデータベースは、未試験の生物学的介入とデータベース中の生物学的介入との間でmiRNA発現プロフィールを比較し、前記発現プロフィールが治療的用途の組分けの1つに入るかどうかを判定することで、前記未試験の生物学的介入の治療用途、または潜在的な将来の治療用途を同定できるようにする。このような相関が生じた場合、未試験の生物学的介入を特定の治療的用途について考慮してもよい。
【0088】
さらにmiRNA発現データのデータベースを構築することは、特定の治療的用途の特徴を示す特定のmiRNAサブセットを明らかにするかもしれない。ひとたび指示miRNAの前記サブセットが同定されたならば、その細胞によって生成されるmiRNAの全範囲でなく、指示miRNA発現プロフィールのサブセットの発現プロフィールを見ることで、潜在的な治療的用途を見つけるための新しい生物学的介入の将来の試験、または新しい治療的用途のための既知の生物学的介入の試験を実施し得る。
【0089】
miRNA発現データのデータベースはまた、その発現レベルが同様の作用様式を有することが知られているか、または仮定される、生物学的介入、または生物学的介入群を識別するのに最も有用な特定のmiRNAのサブセットを判定するのに用いてもよい。miRNAは、同様の作用様式を有することが知られているか、または仮定される、生物学的介入、または生物学的介入群を識別するそれらの発現レベルの妥当性の順に格付けされてもよい。miRNAには、同様の作用様式を有することが知られているか、または仮定される、生物学的介入、または生物学的介入群を識別するそれらの発現レベルの妥当性を示す数値を割り当ててもよい。例えば数値は、主成分の分散に対するmiRNAの発現レベルの貢献に関連してもよい。
【0090】
主成分分析などの統計学的方法を使用したmiRNA発現プロフィール比較の代替えとして、またはそれに加えて、限定的な(例えば10〜50の)各miRNA群の発現に対する生物学的介入の効果を同定し使用して、それぞれのmiRNA発現に対する生物学的介入効果に対して一群のコードから選択されるコードを割り当ててもよい。得られたコードを比較して、実質的な類似性を同定してもよい。
【0091】
例えば次に基づいて、各生物学的介入について(例えばスクリーニングされた各化合物について)、格付けされた各miRNAに対するコードとして3桁の2進数を割り当ててもよい。
1.生物学的介入に応えてmiRNAの発現に変化がなければ(実験変動の正常限界内)、第1の桁は0に設定される。発現が顕著に変化すれば、第1の桁は1に設定される。
2.発現レベルの変化が同定されて変化が増大するならば、第2の桁は1に設定される。生物学的介入に起因する変化が減少すれば、第2の桁は0に設定される。
3.発現レベルが4倍を超えれば第3の桁は1に設定され、さもなければそれは0に設定される。
【0092】
したがってmiRNAの発現に対する生物学的介入レベルの効果に、5つの可能な値の1つを有するコードが割り当てられる。
1.発現の変化なし−000
2.発現の大きな増大−111
3.発現の小さな増大−110
4.発現の大きな減少−101
5.発現の小さな減少−100
一群のmiRNAの発現レベルに対する生物学的介入(例えば特定化合物の投与)の効果は関連コードによって特徴付けられてもよく、主成分分析からはすぐに分からない発現レベルの変化が同定できるようになり、生物学的介入の類似性を採点する代案の方法を可能にして、得られた発現データが外観検査によって理解できるようになる。
【0093】
生物学的介入効果を特徴付けて、異なる生物学的介入のmiRNA発現に対する効果間の相関を判定する別のやり方は、発現アッセイを実施して各miRNA群(典型的に10〜50)の発現に対する生物学的介入効果を判定し、例えば発現が最も増大した群中のmiRNAから発現が最も減少した群中のmiRNAの順で、またはその逆で、その群中のmiRNAを効果順に格付けすることである。得られた格付けは、特定の生物学的介入効果の特徴を示す。したがってmiRNA群に対するその他の生物学的介入の効果を測定して、郡中のmiRNAを効果の順に格付けしてもよい。得られた格付けを比較して、同定される生物学的介入効果間の相関を可能にしてもよい。
【0094】
指示miRNAサブセットを試験するのに使用できるプレートを含むキットを提供して、潜在的な新しい治療的用途について生物学的介入をスクリーニングし得る効率および速度を顕著に増大させてもよい。
【0095】
本明細書に開示される本発明の範囲内で、さらなる変更および修正を加えてもよい。
参考文献
1.Xie,X.,et al.,Systematic discovery of regulatory motifs in human promoters and 3’−UTRs by comparison of several mammals.Nature,2005.434(7031):p.338−45
2.Lim,L.P.,et al.,Microarray analysis shows that some microRNAs downregulate large numbers of target mRNAs.Nature,2005.433(7072):p.769−73
3.Calin,G.A.,et al.,MicroRNA profiling reveals distinct signatures in B cell chronic lymphocytic leukemias.Proc Natl Acad Aci USA,2004.101(32):p. 11755−60

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)生体系への介入を実施する工程と、前記介入に起因する生体系中の非コードRNA発現プロフィールを測定する工程と、前記測定された発現プロフィールから誘導される発現データセットを保存する工程をそれぞれ含み、複数の異なる介入と複数の異なる生体系との片方または双方に関する複数の発現アッセイを実施するステップと、
(2)前記得られた発現データセットを分析して、異なる介入または異なる生体系の片方または双方に関する2つ以上の発現アッセイ群におけるそれぞれの介入の非コードRNA発現プロフィールに対する効果間の相関を判定するステップ
を含む方法。
【請求項2】
1つ以上の前記介入が生体系に対する試験薬の適用を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
介入が生体系に対する複数の試験薬の前記適用を含む、請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項4】
1つ以上の前記生体系が培養細胞を含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
少なくともいくつかの前記相関が正相関である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
発現アッセイから得られる前記発現データセットの間の類似性に基づいて、発現アッセイを分類する前記ステップをさらに含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
2つ以上の異なる介入が、同様の機序によって前記非コードRNA発現プロフィールに対して直接または間接的効果を有することを判定する前記ステップをさらに含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
第1の介入が少なくとも1つの既知の第1の治療的用途を有する第1の治療物質の生体系に対する前記適用であって、前記方法が、第2の治療物質の前記適用を含む第2の介入の非コードRNA発現に対する前記効果間に正相関があることを判定する前記ステップを含む、請求項5〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記第2の治療物質が前記第1の治療的用途に応用可能かどうかを試験するステップをさらに含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
少なくともいくつかの前記相関が負相関である、請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
第1の介入が前記生体系に悪影響を及ぼす介入であって、前記第1の介入の効果と負相関を有する、前記非コードRNA発現プロフィールに対する効果を有すると判定された第2の介入が、前記第1の介入によって引き起こされることが知られている病状の前記治療候補または予防候補として同定される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記生物学的介入の効果間の識別に対する、非コードRNA群の前記発現レベルの妥当性を判定するステップを含む、請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
複数の各生物学的介入について、前記各非コードRNAの前記発現に対する前記各生物学的介入の前記効果によって、非コードRNA群中で前記非コードRNAを格付けするステップと、前記得られた格付けを比較して、前記非コードRNA発現に対する生物学的介入の前記効果間の相関を同定するステップを含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
請求項1〜13のいずれか一項に記載の方法を含む、既知の治療的介入の副作用の前記治療または予防のための治療物質候補を判定する方法。
【請求項15】
請求項1〜14のいずれか一項に記載の方法を含む、試験薬の毒物学の1つ以上の側面を予測する方法。
【請求項16】
請求項1〜14のいずれか一項に記載の方法を含む、第1の試験薬が、第2の試験薬または特定の標的高分子の作動薬候補または拮抗薬候補であることを判定する方法。
【請求項17】
同一の介入または介入群が複数の異なる生体系に対して実施される、複数の発現アッセイが実施される、請求項1〜16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記異なる生体系が、異なる分化段階または脱分化段階にある哺乳類の幹細胞を含む、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記発現プロフィールが複数の前記非コードRNA発現に関連する、請求項1〜18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記非コードRNAがmiRNAである、請求項1〜19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記発現プロフィールが非コードRNA群中の各非コードRNAについて測定され、方法が、複数の介入がそれに対して相関効果を有する発現プロフィールを有する前記非コードRNA群の個々の非コードRNA、または下位集団を同定するステップを含む、請求項1〜20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
前記複数の介入によって影響される発現レベルを有する、非コードRNA群、前記群中の前記個々の非コードRNAまたは非コードRNA下位集団の前記発現プロフィールに対して相関効果を有する、双方の介入が同定される、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
相関効果を有する前記複数の介入が、関連作用機序を有することが以前に知られている介入であり、前記方法が、前記複数の介入によって影響される発現レベルを有する個々の非コードRNAまたは非コードRNA下位集団を同定する方法である、請求項21または請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記得られた同定された個々の非コードRNAまたは同定されたRNA下位集団が、低減された非コードRNA群の発現プロフィールを測定するさらなる発現アッセイで使用するために選択され、前記低減された非コードRNA群が、少なくとも前記同定された個々の非コードRNAまたは同定された非コードRNA下位集団を含む、前記非コードRNA群のいくつかのみを含む、請求項21〜23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
新しい治療的に有用な物質を発見するため、または既知の治療物質の新しい適応症を同定するために、選択された低減された非コードRNA群を用いて物質候補をスクリーニングする、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
請求項25に記載の方法によって得られた前記低減された非コードRNA群からなる非コードRNAを有するアッセイ装置。

【図1】
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【図2a】
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【図2b】
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【図3】
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【図4a】
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【図4b】
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【公表番号】特表2012−514994(P2012−514994A)
【公表日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−545794(P2011−545794)
【出願日】平成22年1月19日(2010.1.19)
【国際出願番号】PCT/GB2010/000076
【国際公開番号】WO2010/082039
【国際公開日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【出願人】(511174719)システミック・スコットランド・リミテッド (1)
【氏名又は名称原語表記】SISTEMIC SCOTLAND LIMITED
【Fターム(参考)】