説明

非ハロゲン難燃性帯電防止性ポリエステル系樹脂組成物、及びその成形体

【課題】本発明の目的は、樹脂の機械的特性を維持しつつ、難燃性、及び帯電防止性が付与された非ハロゲン難燃性帯電防止性ポリエステル系樹脂組成物を提供することである。
【解決手段】本発明の樹脂組成物は、熱可塑性ポリエステル系樹脂100重量部、及び分子量4000〜12000、かつ、常温で固体の有機リン系難燃剤10〜100重量部を含む非ハロゲン難燃性帯電防止性ポリエステル系樹脂組成物であって、前記熱可塑性ポリエステル系樹脂100重量%が、ポリエステル−ポリエーテル共重合体70〜100重量%、及びポリエステル樹脂0〜30重量%からなることを特徴とする非ハロゲン難燃性帯電防止性ポリエステル系樹脂組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非ハロゲン難燃性帯電防止性ポリエステル系樹脂組成物、及びその樹脂組成物を成形してなる成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性ポリエステル樹脂は、その優れた特性から、電気および電子部品、自動車部品などに広く使用されている。近年、特に家電、電気およびOA関連部品では、火災に対する安全性を確保するため、高度な難燃性が要求される例が多く、このため、種々の難燃剤の配合が検討されている。
【0003】
熱可塑性ポリエステル樹脂に難燃性を付与する場合、一般的に、難燃剤としてハロゲン系難燃剤を使用し、必要に応じて三酸化アンチモン等の難燃助剤を併用することにより、高度な難燃効果と優れた機械的強度、耐熱性等を有する樹脂組成物が得られていた。しかしながら、今般、海外向け製品を中心として、ハロゲン系難燃剤に対する規制が発令されつつあり、難燃剤の非ハロゲン化が検討されている。
【0004】
一方、ほこりの付着等の静電気による障害を防止した電気・電子部品用の成形体となるように、帯電防止性を付与が付与された熱可塑性ポリエステル樹脂が検討されている。
【0005】
このような非ハロゲン難燃性、かつ、帯電防止性のポリエステル系樹脂組成物として、例えば、特許文献1には、ポリブチレンテレフタレート樹脂、または、ポリブチレンテレフタレート樹脂およびポリエチレンテレフタレート樹脂からなる混合物に非ハロゲン系難燃剤を配合して、優れた流動性と衝撃強度を有し、とくに永久制電性を必要とする械機構部品、電気電子部品または自動車部品に好適な難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物として、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂、または、ポリブチレンテレフタレート樹脂およびポリエチレンテレフタレート樹脂からなる混合物100重量部に対し、(B)燐酸エステル1〜70重量部、および(C)制電ポリマー1〜60重量部を配合してなる難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物であって、好ましくは、前記(C)制電ポリマーがポリエーテルエステルアミド共重合体および/またはポリエーテルエステル共重合体からなる樹脂組成物が開示されている。
【0006】
しかし、特許文献1のような現有のリン系難燃剤を用いた難燃化技術では、リン系難燃剤の難燃効果がハロゲン系難燃剤難燃効果と比べて小さい為、リン系難燃剤の添加部数を多量に添加する必要があり、そのため、樹脂本来の物性、特に機械的特性が低下してしまったり、帯電防止性の付与が困難だったりする問題があった。
【0007】
また、耐電防止性を付与するために繊維状導電性フィラーを配合する技術も知られているが、特有の着色が出て製品の色調が制限されたり、難燃化が困難であったりするという問題があった。
【0008】
さらに、難燃性を付与するために赤リンを非ハロゲン系難燃剤として配合する技術も知られているが、成形品に独特の赤味が出て製品の色調が制限されたり、成形中に独特の臭いが発生したりする等の問題があった。
【0009】
即ち、非ハロゲン系難燃剤を使用した従来技術では、樹脂本来の機械的特性を維持しつつ、難燃性、帯電防止性を両立させることは困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2004−091693号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
このようなことから、本発明の目的は、樹脂の機械的特性を維持しつつ、難燃性、及び帯電防止性が付与された非ハロゲン難燃性帯電防止性ポリエステル系樹脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らが鋭意検討を重ねた結果、特許文献1のような組成物で、難燃性を付与するためにリン系難燃剤の添加部数を多くした場合に、機械的特性が低下し、かつ、帯電防止性の付与が困難となるのは、ポリブチレンテレフタレート樹脂やポリエチレンテレフタレート樹脂等のポリエステル樹脂が本質的に耐衝撃性等の機械的物性に劣り、また、帯電防止性を有していないことが原因であることを見出した。
【0013】
そして、本発明者らは、特定の熱可塑性ポリエステル系樹脂、及び特定の有機リン系難燃剤を含む非ハロゲン難燃性帯電防止性ポリエステル系樹脂組成物とすることで、ハロゲン系難燃剤や赤リンを用いることなく、また、導電性フィラーを用いることなく、樹脂の機械的特性を維持しつつ、難燃性、及び帯電防止性が付与され、好ましくは、その成形体の体積固有抵抗値が1.0×1012〜1.0×1014Ω・cmとなる樹脂組成物が得られることを見いだし、本発明を完成した。
【0014】
すなわち、本発明の樹脂組成物は、熱可塑性ポリエステル系樹脂100重量部、及び分子量4000〜12000、かつ、常温で固体の有機リン系難燃剤10〜100重量部を含む非ハロゲン難燃性帯電防止性ポリエステル系樹脂組成物であって、前記熱可塑性ポリエステル系樹脂100重量%が、ポリエステル−ポリエーテル共重合体70〜100重量%、及びポリエステル樹脂0〜30重量%からなることを特徴とする非ハロゲン難燃性帯電防止性ポリエステル系樹脂組成物である。
【0015】
好ましい実施態様は、前記ポリエステル−ポリエーテル共重合体100重量%を、芳香族ポリエステル単位95〜45重量%、及びポリエーテル単位5〜55重量%からなるポリエステル−ポリエーテル共重合体とすることである。
【0016】
好ましい実施態様は、前記ポリエーテル単位を、下記一般式1で表される変性ポリエーテル単位とすることである。
【0017】
【化1】

【0018】
(式中、−A−は、−O−、−S−、−SO−、−SO2−、−CO−、炭素数1〜20のアルキレン基、又は炭素数6〜20のアルキリデン基であり、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、およびR8は、いずれも水素原子、ハロゲン原子、または炭素数1〜5の1価の炭化水素基であり、R9、R10はいずれも炭素数1〜5の2価の炭化水素基であり、それらはそれぞれ同一であっても異なっていても良い。m、及びnはオキシアルキレン単位の繰り返し単位数を示し、18≦m+n≦50である。)
好ましい実施態様は、前記本発明の樹脂組成物であって、さらに、メラミン・シアヌル酸付加物、トリアジン系化合物、メラム、及びメレムからなる群から選ばれる1種以上の窒素化合物10〜100重量部を含む非ハロゲン難燃性帯電防止性ポリエステル系樹脂組成物とすることである。
【0019】
好ましい実施態様は、前記本発明の樹脂組成物であって、さらに、さらに、非導電性無機フィラー10〜100重量部を含む非ハロゲン難燃性帯電防止性ポリエステル系樹脂組成物とすることである。
【0020】
また、本発明は、本発明の樹脂組成物を成形してなる成形体であって、その成形体の体積固有抵抗値が1.0×1012〜1.0×1014Ω・cmである成形体に関する。
【発明の効果】
【0021】
本発明の樹脂組成物は、樹脂の機械的特性を維持しつつ、難燃性、及び帯電防止性が付与された非ハロゲン難燃性帯電防止性ポリエステル系樹脂組成物である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
(非ハロゲン難燃性帯電防止性ポリエステル系樹脂組成物)
本発明の非ハロゲン難燃性帯電防止性ポリエステル系樹脂組成物熱可塑性は、ポリエステル系樹脂100重量部、及び分子量4000〜12000、かつ、常温で固体の有機リン系難燃剤10〜100重量部を含む非ハロゲン難燃性帯電防止性ポリエステル系樹脂組成物であって、前記熱可塑性ポリエステル系樹脂100重量%が、ポリエステル−ポリエーテル共重合体70〜100重量%、及びポリエステル樹脂0〜30重量%からなることを特徴とする非ハロゲン難燃性帯電防止性ポリエステル系樹脂組成物である。
【0023】
本発明の樹脂組成物は、ハロゲン系難燃剤を用いずに難燃性を付与するために、分子量4000〜12000、かつ、常温で固体の有機リン系難燃剤を含むが、本発明者らは、このような本発明に係る有機リン系難燃剤は比較的難燃性付与効果は高いものの、成形体中で脆性部分となるので、ポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレート等の通常のポリエステル樹脂を主成分とする樹脂組成物の成形体とした場合には機械的特性、特に耐衝撃性を低下させることを見出した。
【0024】
この非ハロゲン難燃性付与に伴う機械的強度の低下の問題を解決しつつ、帯電防止性、即ち、適度な導電性を安定的に付与する方法を見出したのが本発明である。
【0025】
即ち、本発明の樹脂組成物は、ポリエステル−ポリエーテル共重合体70〜100重量%、及びポリエステル樹脂0〜30重量%からなる特定のポリエステル系樹脂を樹脂成分とし、このようなポリエステル−ポリエーテル共重合体は靱性に優れ、本発明に係る有機リン系難燃剤の脆性を吸収し、また、その構造中に含まれるエーテル結合に起因して適度な導電性を有するので、その組成物の成形体は、樹脂の機械的特性を維持しつつ、難燃性、及び帯電防止性が付与された成形体となる。
【0026】
本発明に係るポリエステル−ポリエーテル共重合体中の前記ポリエーテル単位は、上述の靱性、及び導電性を十分に発現せしめる観点から下記一般式1で表される変性ポリエーテル単位であることが好ましい。
【0027】
【化2】

【0028】
(式中、−A−は、−O−、−S−、−SO−、−SO2−、−CO−、炭素数1〜20のアルキレン基、又は炭素数6〜20のアルキリデン基であり、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、およびR8は、いずれも水素原子、ハロゲン原子、または炭素数1〜5の1価の炭化水素基であり、R9、R10はいずれも炭素数1〜5の2価の炭化水素基であり、それらはそれぞれ同一であっても異なっていても良い。m、及びnはオキシアルキレン単位の繰り返し単位数を示し、18≦m+n≦50である。)
【0029】
本発明の非ハロゲン難燃性帯電防止性ポリエステル系樹脂組成物は、難燃性をさらに高める観点から、さらに、メラミン・シアヌル酸付加物、トリアジン系化合物、メラム、及びメレムからなる群から選ばれる1種以上の窒素化合物10〜100重量部を含む非ハロゲン難燃性帯電防止性ポリエステル系樹脂組成物とすることが好ましく、耐トラッキング性や押出加工性の観点から、より好ましくは20〜80重量部である。
【0030】
本発明の非ハロゲン難燃性帯電防止性ポリエステル系樹脂組成物は、寸法安定性をさらに高める観点から、さらに、非導電性無機フィラー10〜100重量部を含む非ハロゲン難燃性帯電防止性ポリエステル系樹脂組成物とすることが好ましく、成形品の表面性の観点から、より好ましくは50〜80重量部である。
【0031】
(添加剤)
本発明の樹脂組成物には、耐衝撃性改良材、安定剤、可塑剤、滑剤、離型剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、顔料・染料等を配合しうる。
【0032】
前記耐衝撃改良剤としては、コア/シェル型グラフト重合体やポリオレフィン系重合体、オレフィン−不飽和カルボン酸エステル共重合体、熱可塑性ポリエステル系エラストマー等を挙げることができる。
【0033】
前記安定材としては、フェノール系安定材やリン系安定材、硫黄系安定材等を挙げることができる。
【0034】
(混練)
本発明の樹脂組成物の製造は任意の方法で行なうことができる。たとえば、ブレンダー、スーパーミキサーなどを用いての混合、単軸または多軸のスクリュー押出機などでの混練により製造される。
【0035】
(用途・成形体)
このようにして得られた本発明の樹脂組成物は、既知の種々の方法、たとえば射出成形法、押出し成形法等により、自動車部品、電気・電子部品、雑貨等に成形され、その成形品は、樹脂の機械的特性を維持しつつ、難燃性、及び帯電防止性が付与されたものとなり、好ましくはその体積固有抵抗値が1.0×1012〜1.0×1014Ω・cmの成形体なので、静電気による障害が防止された、即ち、帯電防止された成形体として、テレビや複写機等の電器・電子部材、及び摺動部を有する機械的機構部材として好適に用いられる。
【0036】
(熱可塑性ポリエステル系樹脂)
本発明に係る熱可塑性ポリエステル系樹脂100重量%は、ポリエステル−ポリエーテル共重合体70〜100重量%、及びポリエステル樹脂0〜30重量%からなることを要するが、本発明に係る帯電防止性能を十分に発揮せしめる観点からは、ポリエステル−ポリエーテル共重合体を80重量%以上とし、かつ、ポリエステル樹脂20重量%以下とすることである。
【0037】
(ポリエステル−ポリエーテル共重合体)
本発明に係るポリエステル−ポリエーテル共重合体100重量%は、靱性付与の観点、耐電防止性能付与の観点、成形性の改善効果の観点、及び耐熱性維持の観点から、芳香族ポリエステル単位95〜45重量%、及び前記一般式1で表される変性ポリエーテル単位5〜55重量%からなる重合体であることが好ましく、より好ましくは芳香族ポリエステル単位90〜50重量%、及び前記変性ポリエーテル単位10〜50重量%からなる重合体とすることである。
【0038】
前記ポリエステル−ポリエーテル共重合体の分子量としては、テトラクロロエタン/フェノール=50/50(重量比)の混合溶剤中、25℃、0.5g/dlでの対数粘度(IV)が0.3〜2.0の範囲にあるような分子量であることが好ましく、より好ましくは0.5〜1.5の範囲である。
【0039】
このような本発明に係るポリエステル−ポリエーテル共重合体の製造方法は、好ましくはゲルマニウム化合物の触媒を用いて、(1)芳香族ジカルボン酸、ジオール、変性ポリエーテルの三者の直接エステル化法、(2)芳香族ジカルボン酸ジアルキル、ジオール、変性ポリエーテル、及び/又は、変性ポリエーテルのエステルの三者のエステル交換法、(3)芳香族ジカルボン酸ジアルキル、ジオールのエステル交換中、又は、エステル交換後に変性ポリエーテルを加えて、重縮合する方法、(4)高分子の芳香族ポリエステルを用い、変性ポリエーテルと混合後、溶融減圧下でエステル交換する方法等が好ましいく、より好ましくは、組成コントロール性の観点から、前記(4)の製造法とすることである。
【0040】
本発明に係るポリエステル−ポリエーテル共重合体を製造するための触媒をアンチモン化合物とした場合には、成形等の加熱時に、組成物中に残存したアンチモン化合物により樹脂が加水分解され、その結果、得られた成形体の外観に、銀条や発泡が発生する怖れがあるので、ポリエステル−ポリエーテル共重合体を製造するための触媒としては、アンチモン化合物と同程度以上の活性を有し、アンチモン化合物で発生する樹脂の加水分解の問題を起きない触媒であるゲルマニウム化合物が好ましい。
【0041】
前記ゲルマニウム系化合物としては、二酸化ゲルマニウム等のゲルマニウム酸化物、ゲルマニウムテトラエトキシド、ゲルマニウムテトライソプロポキシド等のゲルマニウムアルコキシド、水酸化ゲルマニウム及びそのアルカリ金属塩、ゲルマニウムグリコレート、塩化ゲルマニウム、酢酸ゲルマニウム等が挙げられ、これらは単独又は2種以上組み合わせて用いられる。これらのゲルマニウム系化合物の中では、二酸化ゲルマニウムが特に好ましい。重合時に投入する二酸化ゲルマニウム触媒量は、反応速度の観点、及び経済的観点から、樹脂量の50〜2000ppmとするのが好ましく、より好ましくは100〜1000ppmとすることである。このように好ましくはゲルマニウム化合物を触媒として製造されたポリエステル−ポリエーテル共重合体を主成分とする本発明の樹脂組成物は、組成物中に好ましくはゲルマニウム原子を5重量ppm以上、2000ppm以下含む。
【0042】
前記芳香族ジカルボン酸は、特にテレフタル酸が好ましく、その他イソフタル酸、ジフエニルジカルボン酸、ジフエノキシエタンジカルボン酸等が例示される。これら芳香族ジカルボン酸の他に、少ない割合(15%以下)のオキシ安息香酸等の他の芳香族オキシカルボン酸、あるいは、アジピン酸、セバチン酸、シクロヘキサン1・4−ジカルボン酸等の脂肪族、又は肪環族ジカルボン酸を併用してもよい。
【0043】
前記ジオールは、エステル単位を形成する低分子量グリコール成分であり、炭素数2〜10の低分子量グリコール、例えば、エチレングリコール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ヘキサンジオール、デカンジオール、シクロヘキサンジメタノール等である。特にエチレングリコール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコールが、入手のし易さの点から好ましい。
【0044】
前記芳香族ジカルボン酸ジアルキルのアルキル基としては、メチル基がエステル交換反応性の観点から好ましい。
【0045】
前記高分子の芳香族ポリエステルの溶液粘度としては、得られる成形品の耐衝撃性、耐薬品性や成形加工性の観点から、フェノール/テトラクロロエタン=1/1(重量比)混合溶媒中、25℃で濃度0.5g/dlにおける対数粘度(IV)が0.3〜2.0、さらには0.5〜1.5の範囲のものが好ましい。
【0046】
(芳香族ポリエステル単位)
前記芳香族ポリエステル単位は、芳香族ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体とジオールまたはそのエステル形成性誘導体とから得られる重合体ないし共重合体であって、通常、交互重縮合体である。
【0047】
前記芳香族ポリエステル単位の好ましい具体例としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート共重合体、ポリテトラメチレンテレフタレート、ポリテトラメチレンテレフタレート共重合体、ポリトリメチレンテレフタレート、あるいはポリトリメチレンテレフタレート共重合体が挙げられ、より好ましくは、ポリエチレンテレフタレート単位、ポリブチレンテレフタレート単位、及びポリプロピレンテレフタレート単位よりなる群から選ばれる1種以上である。
【0048】
(変性ポリエーテル単位)
前記ポリエーテル単位は、好ましくは、前記一般式1で表される変性ポリエーテル単位であり、一般式1中のオキシアルキレン単位の繰り返し単位数m、nにつき、(m+n)の数平均が18未満では、靱性の付与効果、即ち、耐衝撃性の改善効果が小さく、(m+n)の数平均が50を越えると、成形性が悪くなるので、18以上、50以下であることが好ましく、更に、好ましくは25以上、40以下である。
【0049】
前記変性ポリエーテル単位は、入手のし易さの観点から、好ましくは下記一般式2で表される単位であり、(m+n)が18の場合の式量は1018、(m+n)が50の場合の式量は2426である。従って、一般式2で表される単位を分子として本発明に係るポリエステル−ポリエーテル共重合体に導入する場合の好ましい分子量は1020以上、2430以下であり、さらに好ましくは、1330以上、2000以下である。
【0050】
【化3】

【0051】
(ポリエステル樹脂)
本発明に係るポリエステル樹脂は、上述の本発明に係るポリエステル−ポリエーテル共重合体と同様に、ゲルマニウム化合物の触媒により重合されてなるものであることが、上述の理由と同じ理由で好ましく、具体的には、ポリメチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリテトラメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリヘキサメチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリ乳酸、ポリヒドロキシ酪酸、ポリ(ヒドロキシ酪酸−ヒドロキシヘキサン酸)、ポリコハク酸エチレン、ポリコハク酸ブチレン、ポリアジピン酸ブチレン、ポリ−ε−カプロラクトン、ポリ(α−オキシ酸)、及びこれらの共重合体、並びにこれらのブレンド物が例示され、加工性・コスト面の観点から、好ましくはポリブチレンテレフタレート、及びポリエチレンテレフタレートから選ばれる1種以上である。
【0052】
(有機リン系難燃剤)
本発明に係る有機リン系難燃剤は、分子中にリン原子を含む化合物であって、上述したように、分子量4000〜12000、かつ、常温で固体であることを要し、本発明に係る難燃性付与効果を十分に発揮せしめる観点から、下記一般式3で表される化合物であることが好ましい。
【0053】
一般式3中の繰り返し単位数nにつき、その下限値はn=2であり、好ましくは、n=3、特に好ましくはn=5であり、過度に分子量を高めると分散性等に悪影響を及ぼす傾向にあるため、上限値は、n=20であり、好ましくは、n=15、特に好ましくはn=13である。n=2未満であると、ポリエステル樹脂の結晶化を阻害したり、機械的強度が低下したりする傾向がある。
【0054】
【化4】

【0055】
このような一般式3の有機リン系難燃剤は、一般的な重縮合反応によって得られ、例えば、9,10−ジヒドロー9−オキサー10−フォスファフェナントレンー10−オキシドに対し、等モル量のイタコン酸およびイタコン酸に対し2倍モル以上のエチレングリコールを混合し、窒素ガス雰囲気下、120〜200℃の間で加熱・攪拌することによりリン系難燃剤溶液を得て、そこに、三酸化アンチモンおよび酢酸亜鉛を加え、1Torr以下の真空減圧下にて温度を220℃に維持しエチレングリコールを留出しながら重縮合反応させ、約5時間後エチレングリコールの留出量が極端に減少した時点で反応終了とすることで、分子量4000〜12000の固体であり、リン含有量が約8%程度である有機リン系難燃剤を得ることができる。
【0056】
(窒素化合物)
前記窒素化合物は、上述したように、メラミン・シアヌル酸付加物、トリアジン系化合物、メラム、及びメレムからなる群から選ばれる1種以上の窒素化合物であるが、本発明に係る機械的強度維持の観点から、メラミン・シアヌル酸付加物が好ましい。
【0057】
前記メラミン・シアヌル酸付加物は、メラミン(2,4,6-トリアミノ-1,3,5-トリアジン)、及びとシアヌル酸(2,4,6-トリヒドロキシ-1,3,5-トリアジン)とから合成される化合物であり、具体的には、メラミンの溶液とシアヌル酸の溶液とを混合して塩を形成させる方法等によって得ることができる。メラミンとシアヌル酸の混合比としては、本発明の樹脂組成物の成形体の熱安定性を維持する観点から、等モルに近い方がよく、特に等モルであることが好ましく、その平均粒子径は、得られる組成物の成形加工性や、その成形体の強度特性の観点から、0.01〜250μmが好ましく、より好ましくは0.5〜200μmである。
【0058】
前記トリアジン化合物は、前記メラミンや前記シアヌル酸を含む、炭素3個、及び窒素を3個からなる不飽和の6員環構造のトリアジン環を有する化合物である。
【0059】
前記メラムは前記メラミンの2量体、前記メレムは前記メラミンの3量体である。
【0060】
(非導電性無機フィラー)
前記非導電性無機フィラーは、本発明の樹脂組成物の成形体の線膨張性を小さくするための成分であり、シリカやアルミナをその材料の主成分とする非導電性の無機物であり、マイカ、タルク、モンモリロナイト、セリサイト、カオリン、ガラスフレーク、ガラスファイバー、板状アルミナ、及び合成ハイドロタルサイトからなる群から選ばれる1種以上が好ましく、寸法安定性を向上させる観点から、ガラスファイバー、及びタルクからなる群から選ばれる1種以上がより好ましい。
【実施例】
【0061】
以下、本発明の樹脂組成物を実施例に基づき具体的に説明する。
【0062】
まず、使用した材料、及び評価方法につき以下説明する。
【0063】
(ポリエステル−ポリエーテル共重合体の製造)
攪拌機、ガス排出出口を備えた反応器に、アンチモン系触媒で製造されたポリエチレンテレフタレート(IV=0.66)を70重量部と変性ポリエーテルとしてビスオール18EN(一般式2の構造における(m+n)の数平均が18のもの)を30重量部の合計100重量部に対し、重合触媒として三酸化アンチモンを300ppm、安定剤(チバ・スペシャリティーケミカルズ製のイルガノックス1010)を0.2部、仕込み270℃で2時間保持した後、真空ポンプで減圧し、1torrで3時間保持した後、製造されたポリエステル−ポリエーテル共重合体を取り出し、更に、水槽で冷却したストランドを粉砕器に投入してペレット化する事で、ペレット状態のポリエステル−ポリエーテル共重合体を得た。
【0064】
(有機リン系難燃剤の製造)
蒸留管、精留管、窒素導入管、及び攪拌基を有する縦型重合器に、9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10ホスファフェナントレン−10−オキシド(製品名:HCA、三光株式会社製)、このHCAに対して等モルのイタコン酸60重量部、及びイタコン酸に対し2倍モル以上のエチレングリコール160重量部を投入し、窒素ガス雰囲気下、120〜200℃まで徐々に昇温加熱し、約10時間攪拌した。
【0065】
次いで、三酸化アンチモンおよび酢酸亜鉛0.1重量部を加え、1Torr以下の真空減圧にて、温度220℃で維持し、エチレングリコールを留出させながら重縮合反応させた。約5時間後、エチレングリコールの留出量が極端に減少したことで、反応終了とみなした。得られた有機リン系難燃剤の重量平均分子量(Mw)は9600であり、体積平均分子量(Mn)との比、Mw/Mnは1.6であり、ガラス転移温度(Tg)は81℃であり、リン含量は7.2重量%であった。
【0066】
(窒素化合物)
窒素化合物としては、メラミン・シアヌル酸付加物であり、平均粒子径がD50=10〜16μmであり、メラミン及びシアヌル酸を等モルで反応させた生成物である、日産化学工業株式会社製のMC−4000を用いた。
【0067】
(非導電性無機フィラー)
非導電性無機フィラーとしては、ガラスファイバー(日本電気硝子株式会社製のT−187H)、及びタルク(日本タルク株式会社製のローズタルク)も用いた。
【0068】
(アイゾット衝撃値)
ASTM D−256、1/4インチ、ノッチ付、23℃で測定した。
【0069】
(体積固有抵抗値)
ASTM D−257に準拠し、具体的には、下記実施例・比較例で得られた120角厚み3mmの平板形状試験片を用いて測定した。
【0070】
(難燃性)
UL94基準V試験に準拠し、具体的には、下記実施例・比較例で得られた厚さ1/16インチのバー形状試験片を用いて燃焼性を評価した。
【0071】
(実施例1〜4、及び比較例1〜2)
表2に示す原料、及び配合組成(単位:重量部)で各原料をドライブレンドすることで各混合物を得た。前記混合物を、ベント式44mmφ同方向2軸押出機(日本製鋼所(株)製、TEX44)を用いて、そのホッパー孔から供給し、シリンダー設定温度250〜280℃にて溶融混練することでペレット化した。得られたペレットを120℃で3時間乾燥後、射出成形機(JS36SS型締め圧:35トン)を用い、シリンダー設定温度250℃〜280℃および金型温度60℃の条件にて射出成形を行い、127mm×12.7mm×厚み1/16インチの試験片を得て、前記記載の評価方法にて評価した。
【0072】
各実施例、及び各比較例における評価結果を表2に併せて示す。
【0073】
【表1】

【0074】
実施例、比較例から、本発明の樹脂組成物は、樹脂の機械的特性を維持しつつ、難燃性、及び帯電防止性が付与された非ハロゲン難燃性帯電防止性ポリエステル系樹脂組成物であることが判る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性ポリエステル系樹脂100重量部、及び分子量4000〜12000、かつ、常温で固体の有機リン系難燃剤10〜100重量部を含む非ハロゲン難燃性帯電防止性ポリエステル系樹脂組成物であって、
該熱可塑性ポリエステル系樹脂100重量%が、ポリエステル−ポリエーテル共重合体70〜100重量%、及びポリエステル樹脂0〜30重量%からなることを特徴とする非ハロゲン難燃性帯電防止性ポリエステル系樹脂組成物。
【請求項2】
前記ポリエステル−ポリエーテル共重合体100重量%が、芳香族ポリエステル単位95〜45重量%、及びポリエーテル単位5〜55重量%からなる請求項1に記載の非ハロゲン難燃性帯電防止性ポリエステル系樹脂組成物。
【請求項3】
前記ポリエーテル単位が、下記一般式1で表される変性ポリエーテル単位である、請求項1、又は2に記載の非ハロゲン難燃性帯電防止性ポリエステル系樹脂組成物。
【化5】

(式中、−A−は、−O−、−S−、−SO−、−SO2−、−CO−、炭素数1〜20のアルキレン基、又は炭素数6〜20のアルキリデン基であり、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、およびR8は、いずれも水素原子、ハロゲン原子、または炭素数1〜5の1価の炭化水素基であり、R9、R10はいずれも炭素数1〜5の2価の炭化水素基であり、それらはそれぞれ同一であっても異なっていても良い。m、及びnはオキシアルキレン単位の繰り返し単位数を示し、18≦m+n≦50である。)
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の非ハロゲン難燃性帯電防止性ポリエステル系樹脂組成物であって、さらに、メラミン・シアヌル酸付加物、トリアジン系化合物、メラム、及びメレムからなる群から選ばれる1種以上の窒素化合物10〜100重量部を含む非ハロゲン難燃性帯電防止性ポリエステル系樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の非ハロゲン難燃性帯電防止性ポリエステル系樹脂組成物であって、さらに、非導電性無機フィラー10〜100重量部を含む非ハロゲン難燃性帯電防止性ポリエステル系樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の非ハロゲン難燃性帯電防止性ポリエステル系樹脂組成物を成形してなる成形体であって、該成形体の体積固有抵抗値が1.0×1012〜1.0×1014Ω・cmである成形体。

【公開番号】特開2011−144237(P2011−144237A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−4882(P2010−4882)
【出願日】平成22年1月13日(2010.1.13)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】