説明

非ヒトトランスジェニック動物におけるヒトまたはヒト化免疫グロブリンの発現強化

本発明は、ヒト(化)免疫グロブリンローカスならびにヒト(化)Igαおよび/またはIgβ配列をコードする導入遺伝子を有するトランスジェニック動物について記載する。特に関心対象であるのは、Igならびに/または内因性Igαおよび/もしくはIgβ配列の内因生産性が抑制されている、多様化されたヒト(化)抗体レパートリーを産生することのできるトランスジェニック重鎖および軽鎖免疫グロブリンローカスを有する動物である。ヒト(化)免疫グロブリンならびにヒト(化)Igαおよび/またはIgβの同時発現は、正常なB細胞発生、親和性成熟およびヒト(化)抗体の効率的な発現を招く。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、正常B細胞の発生を促進することにより、およびヒト(化)免疫グロブリンローカスを持つ非ヒト動物におけるヒト(化)抗体の発現を維持することにより非ヒトトランスジェニック動物におけるヒト(化)免疫グロブリンの発現を改善する方法に関する。特に、本発明は、B細胞レセプターの構成要素であるヒト化Igαおよび/またはIgβをコードする導入遺伝子ならびに一つまたは複数のヒト(化)免疫グロブリンローカスをコードする導入遺伝子の同時発現に関する。この方法は、例えばトランスジェニック非ヒト動物の血液、乳汁または卵にヒト(化)抗体を優位に発現させる。
【0002】
関連技術の説明
抗体は、ガン、アレルギー疾患、移植拒絶の予防および宿主対移植片病などの様々なヒト疾患および状態の処置にうまく使用されてきた重要な種類の医薬品である。
【0003】
非ヒト動物から得られた抗体調製物の主な問題は、ヒト患者における非ヒト免疫グロブリンの内因性免疫原性である。非ヒト抗体の免疫原性を減らすために、動物可変(V)領域エキソンをヒト定常(C)領域エキソンと融合させることにより、キメラ抗体遺伝子が得られることが示された。このようなキメラまたはヒト化抗体は、ヒトに最小限の免疫原性を有し、ヒト対象の治療上の処置に使用するために適する。
【0004】
ヒト化モノクローナル抗体が開発され、臨床応用されている、しかし、キメラ、ヒト化またはヒトのいずれにせよ、一般にガンまたは毒性病原体感染などの壊滅的な疾患を処置するためのモノクローナル抗体の使用は、これらの疾患の複雑性、多因性の原因および適応性により限定される。単独に確定されたターゲットに対するモノクローナル抗体は、これらのターゲットが変化、進化および突然変異すると通常は作用しなくなる。例えば、悪性腫瘍は、標準的なモノクローナル抗体療法に対する耐性を獲得するおそれがある。この問題の解決は、複数の進化中のターゲットをターゲティングする能力を有するポリクローナル抗体を使用することである。ポリクローナル抗体は、細菌毒素またはウイルス毒素を中和することができ、病原体を殺滅および除去する免疫反応を命じる。
【0005】
したがって、高力価高親和性ヒト化ポリクローナルおよびモノクローナル抗体の大規模生産に適した方法の大きな臨床的必要性がある。さらに、ウサギ、ニワトリ、ヒツジおよびウシなどの比較的大型のトランスジェニック動物での抗体の生産は、抗体の収率の観点から好都合であり、導入遺伝子がコードする産物を多量に発現する比較的大型の創始動物の創出もまた大いに望ましい。
【0006】
ヒト化モノクローナル抗体は、いくつかのCDR残基および可能性のあることはいくつかのFR残基が、非ヒト動物の、例えばげっ歯類の抗体における類似部位由来の残基により置換されている、典型的にはヒト抗体である。ヒト化は、Winterおよび共同研究者らの方法(Jones et al., Nature, 321: 522 (1986); Riechmann et al., Nature, 332: 323 (1988); Verhoeyen et al., Science, 239: 1534 (1988))に従って、ヒトモノクローナル抗体の対応する配列から非ヒト動物CDRまたはCDR配列(例えばげっ歯動物のもの)に置換することにより本質的に行うことができる。
【0007】
動物においてヒト化抗体を製造する間に遭遇する一問題は、トランスジェニック抗体を超える宿主抗体の内因性産生であり、これは抑制する必要がある。キメラおよび生殖細胞系突然変異マウスにおけるその抗体の重鎖J領域(JH)遺伝子のホモ接合型欠失は、内因性抗体産生の完全な阻害を招くと記載されている。このような生殖細胞系突然変異マウスへのヒト生殖細胞系免疫グロブリン遺伝子アレイの導入は、抗原誘発時にヒト抗体の産生を招くものである。例えば、Jakobovits et al., Proc. Natl. Acad. Sci USA, 90: 2551 (1993);Jakobovits et al., Nature, 362: 255 (1993);Bruggemann et al., Year in Immunol, 7: 33 (1993);2006年6月20日に発行された米国特許第7,064,244号を参照されたい。これらの開示は、その全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【0008】
マウスゲノムへのヒト免疫グロブリン遺伝子の導入は、これらの遺伝子操作されたマウスにおける多様化されたヒト抗体レパートリーの発現を招く。ヒト−マウスキメラ抗体を発現するマウスの作製は、Pluschke et al., Journal of Immunological Methods 215: 27-37 (1998)に記載されている。ヒト免疫グロブリンポリペプチドを発現するマウスの作製は、Neuberger et al., Nature 338: 350-2 (1989);Lonberg et al., Int. Rev. Immunol. 13(l):65-93 (1995);およびBruggemann et al., Curr. Opin. Biotechnol, 8(4): 455-8 (1997);米国特許第5,545,806号(1996年8月発行);米国特許第5,545,807号(1996年8月発行)ならびに米国特許第5,569,825号(1996年10月発行)に記載されており、これらの開示は、その全体が参照により本明細書に組み入れられる。ヒト抗体を発現するウシの作製は、Kuroiwa et al., Nature Biotech 20(9): 889-894 (2002)に記載されている。ヒト(化)免疫グロブリントランスローカスを発現する非ヒトトランスジェニック動物の産生およびこのようなトランスジェニック動物からの抗体の産生は、PCT公報WO92/03918、WO02/12437、ならびに米国特許第5,814,318号および第5,570,429号にもまた詳細に記載されており、これらの開示は、本明細書によりその全体が参照により明白に組み入れられる。得られたヒト化抗体は、ヒトに最小限の免疫原性を有し、ヒト対象の治療上の処置に使用するために適する。
【0009】
上に引用した遺伝子操作アプローチは、遺伝子操作マウスにヒト免疫グロブリンポリペプチドの発現を招くが、ヒト免疫グロブリンの発現レベルは通常よりも低い。これは、免疫グロブリンの効率的な発現に必要な、免疫グロブリンローカス中の種特異的レギュレーションエレメント(regulatory element)が原因のおそれがある。トランスフェクションされた細胞系で実証されたように、ヒト免疫グロブリン遺伝子に存在するレギュレーションエレメントは、非ヒト動物では適正に機能できないおそれがある。免疫グロブリン遺伝子中のいくつかのレギュレーションエレメントが記載されている。特に重要なのは、重鎖定常領域下流(3’)のエンハンサーおよび軽鎖遺伝子中のイントロンエンハンサーである。加えて、まだ確認されていない他のコントロールエレメントが免疫グロブリン遺伝子に存在するおそれがある。マウスにおける研究は、膜型免疫グロブリン分子の膜部および細胞質尾部がヒトCγ1遺伝子ホモ接合性マウスの血清中のヒト−マウスキメラ抗体の発現レベルに重要な役割を果たすことを示した。したがって、動物に異種免疫グロブリン遺伝子を発現させるために、エンハンサーエレメントと、膜貫通部および細胞質尾部をコードするエキソン(それぞれM1エキソンおよびM2エキソン)とを含有する配列を、その動物において類似の位置に通常みられる配列に交換することが望ましい。
【0010】
これらの遺伝子操作された動物でのヒト免疫グロブリンの発現は、ヒトまたはヒト化免疫グロブリンローカスを保持する非ヒトB細胞のB細胞発生によってもまた影響されうる。B細胞発生に及ぼすB細胞レセプター(BCR)の影響は、マウスで広く研究されてきた。しかし、トランスジェニック動物においてヒトまたは部分的ヒト抗体がどのように組み合わせられて機能的BCRを形成するか、およびこのようなBCRがヒト(化)Igを発現している非ヒトB細胞の発生および生存に効率的に影響するかどうか(これは、次には抗体の収率にもまた影響する)は不明であった。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、ヒトIgαポリペプチド配列(配列番号1)と他の非ヒトIgα配列(配列番号2〜6)とのアミノ酸アライメントを示す図である。
【図2】図2は、ヒトIgβポリペプチド配列(配列番号7)と他の非ヒトIgβ配列(配列番号8〜12)とのアミノ酸アライメントを示す図である。
【0012】
発明の概要
一局面では、本発明は、BCRのキメラIgαサブユニットをコードする導入遺伝子構築物を提供し、ここで、キメラIgαサブユニットは、非ヒトIgαポリペプチド配列の細胞内ドメイン配列および膜貫通ドメイン配列、ならびにさらに配列番号1のヒトIgαの細胞外ドメインと少なくとも85%の配列同一性を有するポリペプチドを含む。
【0013】
第2の局面では、本発明は、BCRのキメラIgβサブユニットをコードする導入遺伝子構築物を提供し、ここで、キメラIgβサブユニットは、非ヒトIgβポリペプチド配列の細胞内ドメイン配列および膜貫通ドメイン配列、ならびにさらに配列番号7のヒトIgβの細胞外ドメインと少なくとも85%の配列同一性を有するポリペプチドを含む。
【0014】
本発明のある態様では、非ヒトIgαポリペプチド配列の種類には、ウシ(配列番号2)、マウス(配列番号3)、イヌ(配列番号4)、霊長類(配列番号5)、ウサギ(配列番号6)または他の非ヒト配列が挙げられるが、それに限定されるわけではない。本発明の別の態様では、非ヒトIgβポリペプチド配列の種類には、イヌ(配列番号8)、ラット(配列番号9)、ウシ(配列番号10)、マウス(配列番号11)、ニワトリ(配列番号12)または他の非ヒト配列が挙げられるが、それに限定されるわけではない。
【0015】
第3の局面では、非ヒトトランスジェニック動物は、(a)配列番号1の完全長ヒトIgαサブユニットもしくは上に定義したキメラIgαサブユニットのいずれかをコードする導入遺伝子構築物、および/または(b)配列番号7の完全長ヒトIgβサブユニットもしくは上に定義したキメラIgβサブユニットのいずれかをコードする導入遺伝子構築物、ならびに(c)ヒト(化)免疫グロブリンローカスをコードする導入遺伝子構築物を含み、ここで、結果として生じる導入遺伝子産物は、組み合わされてヒト(化)B細胞レセプター複合体を形成する。
【0016】
この局面の一態様では、非ヒトトランスジェニック動物の任意の内因性Ig産生の発現ならびに/または内因性Igαおよび/もしくは内因性Igβサブユニットの発現は実質的に減少する。
【0017】
別の態様では、非ヒトトランスジェニック動物は、ウサギ、マウス、ラット、ブタ、ヒツジ、ヤギ、トリ、ウマ、ロバおよびウシからなる群より選択される。好ましい態様では、非ヒトトランスジェニック動物はウサギである。
【0018】
第4の局面では、本発明は、上に定義された非ヒトトランスジェニック動物から単離されたヒト(化)免疫グロブリンもまた提供し、これは、抗体または抗体フラグメントのいずれかである。この局面のある態様では、単離されたヒト(化)免疫グロブリンは、ポリクローナルもしくはモノクローナル抗体、または抗体フラグメントのいずれかである。抗体フラグメントは、ポリクローナルまたはモノクローナル抗体のいずれか由来でありうる。さらに、抗体または抗体フラグメントはラベルすることができるし、毒素と融合させて免疫毒素を形成させることができるし、治療剤と結合させることができるし、当技術分野において明確であり、使用されている任意の異種アミノ酸配列に融合させることができる。いくつかの態様では、抗体フラグメントは、Fc、Fv、Fab、Fab’またはF(ab’)2フラグメントである。
【0019】
第5の局面では、本発明は、上に定義された非ヒトトランスジェニック動物から単離されたB細胞を提供し、ここでこのB細胞は、ネイティブなヒトIgαサブユニットもしくはキメラIgαサブユニットのいずれかおよび/またはネイティブなヒトIgβサブユニットもしくはキメラIgβサブユニットのいずれかを発現し、さらに、ヒト(化)免疫グロブリンローカスもまた発現する。ある態様では、このB細胞は不死化されており、好ましい態様では、ウサギ由来である。
【0020】
第6の局面では、本発明は、上記のような抗体または抗体フラグメントを含む抗体調製物を提供する。
【0021】
第7の局面では、本発明は、薬学的に許容される成分との混合物中に、上記のような抗体または抗体フラグメントを含む薬学的組成物を提供する。薬学的組成物は、モノクローナル抗体もしくはそのフラグメント、または一つもしくは複数のポリクローナル抗体もしくはそのフラグメントのいずれかを含むことがある。
【0022】
第8の局面では、本発明は、非ヒト動物においてヒト(化)抗体を産生させるための方法を提供し、その方法は、(a)ネイティブなヒトIgαサブユニットもしくはキメラIgαサブユニットのいずれかをコードする導入遺伝子構築物、および/またはネイティブなヒトIgβサブユニットもしくはキメラIgβサブユニットのいずれかをコードする導入遺伝子構築物を非ヒト動物に導入および発現させること、(b)ヒト(化)免疫グロブリンローカスをコードする導入遺伝子構築物を非ヒト動物に導入および発現させること、(c)その動物を抗原刺激に供すること、ならびに(d)その動物からヒト(化)抗体を単離することを含む。この局面のある態様では、抗体は、ポリクローナルもしくはモノクローナル抗体、またはポリクローナルもしくはモノクローナル抗体のフラグメントのいずれかである。さらに、抗体または抗体フラグメントは、ラベルすること、または毒素と融合させて免疫毒素を形成させること、または治療剤と結合させること、または任意の異種アミノ酸配列に融合させることのいずれかができる。
【0023】
第9の局面では、本発明は、ヒト(化)抗体を発現している非ヒト動物を産生させるための方法を提供し、この方法は、(a)ネイティブなヒトIgαサブユニットもしくはキメラIgαサブユニットのいずれかをコードする導入遺伝子構築物および/またはネイティブなヒトIgβサブユニットもしくはキメラIgβサブユニットのいずれかをコードする導入遺伝子構築物を非ヒト動物のB細胞に導入および発現させること;ならびに(b)ヒト(化)免疫グロブリンローカスをコードする導入遺伝子構築物を非ヒト動物に導入および発現させることを含み、ここで、結果として生じる導入遺伝子産物を組み合わせてヒト(化)B細胞レセプター複合体を形成させる。一態様では、ヒト(化)抗体を発現している非ヒト動物は、遺伝子変換および/または体細胞超突然変異により抗体多様性を創出する動物である。好ましい態様では、この動物はウサギである。
【0024】
発明の詳細な説明
定義
別に定義しない限り、本明細書に使用する技術用語および科学用語は、本発明が属する技術分野の技術者に通例了解されるものと同じ意味を有する。Singleton et al., Dictionary of Microbiology and Molecular Biology 2nd ed., J. Wiley & Sons (New York, NY 1994)およびMarch, Advanced Organic Chemistry Reactions, Mechanisms and Structure 4th ed., John Wiley & Sons (New York, NY 1992)は、本出願に使用される用語の多くについて全般的な指針を当業者に与える。
【0025】
当業者は、本明細書に記載されるものと類似または等価の多数の方法および材料を認識しているものであり、それらを本発明の実施に使用することができよう。実際に、本発明は、記載された方法および材料に決して限定されない。本発明のために、以下の用語を下に定義する。
【0026】
本明細書に定義する「導入遺伝子構築物または発現構築物」は、関心対象の少なくとも一つの導入遺伝子についてのコード配列を、非ヒトトランスジェニック動物のターゲット細胞内の関心対象の導入遺伝子の、時間的、細胞特異的、および/または強化された発現に必要な適切なレギュレーション配列と一緒に有するDNA分子を表す。
【0027】
「B細胞」は、免疫グロブリン遺伝子セグメントの再構成を受けることができ、その生活環のある段階で免疫グロブリン遺伝子を発現することができるB系列細胞と定義される。これらの細胞には、早期プロB細胞、後期プロB細胞、大型プレB細胞、小型プレB細胞、未熟B細胞、成熟B細胞、記憶B細胞、形質細胞などが挙げられるが、それに限定されるわけではない。
【0028】
本明細書に定義される「B細胞レセプター(BCR)複合体」は、B細胞上に発現される多サブユニット免疫認識レセプターを表し、これには、以下のサブユニット、すなわち抗原(Ag)レセプター、膜結合型免疫グロブリン(mIg)、IgαサブユニットおよびIgβサブユニットが挙げられる。B細胞レセプター、その構成要素、および五つの免疫グロブリンクラスとのその関連が、Wienands et al., EMBO J. 9(2): 449-455 (1990)、Venkitaraman et al., Nature 352: 777-781 (1991)、Herren et al., Immunologic Res. 26(1-3): 35-43 (2002)に記載されている。加えて、クローニングおよびシーケンシングされたがその機能は未知のままであり、BCRの構成要素としてのその役割が疑われているいくつかのBCR関連タンパク質(BAP)がある。BCR関連タンパク質は、Adachi et al., EMBO J 15(7): 1534-1541 (1996)およびSchamel et al., PNAS 100(17): 9861-9866 (2003)に記載されている。
【0029】
「ネイティブなIgαまたはIgβサブユニット」は、天然IgαまたはIgβポリペプチド配列を表し、これには、所与の種類の動物または近縁種に見出される、IgαまたはIgβサブユニットの天然アレルが含まれる。これらは、「完全長IgαまたはIgβ配列」とも呼ばれる。ヒトIgαポリペプチド配列は、Flaswinkelら(Immunogenetics 36 (4): 266-69 (1992);アクセッション番号M74721)(図1、配列番号1)によりクローニングされた。ヒトIgβポリペプチド配列は、Muellerら(Eur. J. Biochem. 22, 1621-25 (1992);アクセッション番号M80461)(図2、配列番号7)によりクローニングされた。
【0030】
「ヒト(化)」という用語は、完全なヒト配列または一つもしくは複数のヒト配列を有する配列を表す。したがって、本明細書に使用する用語には、ヒト配列およびヒト化配列が含まれる。
【0031】
「キメラIgα」サブユニットまたはタンパク質またはポリペプチドは、動物(例えば、ラット、マウス、ヒト、ウサギ、ニワトリなど)由来のIgαポリペプチド配列を表し、この配列で、Igαポリペプチドの一つまたは複数のドメインは、別の動物または種の、異なるIgαポリペプチド由来の一つまたは複数の対応するドメインに、あるいは異なるアレルIgαバージョン由来の、または一つもしくは複数のアミノ酸置換を有する変異型Igα配列由来の、または所与のIgα配列の対応するドメインと少なくとも85%の配列同一性を有する変異型Igα配列由来の一つまたは複数の対応するドメインに交換されている。「キメラIgα」および「ヒト(化)Igα」という用語は、本明細書にわたり相互交換可能に使用される。いくつかの非ヒト動物由来のIgαポリペプチド配列(配列番号2〜6)もまた図1に定義する。
【0032】
「キメラIgβ」サブユニットまたはタンパク質またはポリペプチドは、動物(例えば、ラット、マウス、ヒト、ウサギ、ニワトリなど)由来のIgβポリペプチド配列を表し、この配列で、Igβポリペプチドの一つまたは複数のドメインは、別の動物または種の、異なるIgβポリペプチド由来の一つまたは複数の対応するドメインに、あるいは異なるアレルIgβバージョン由来の、または一つもしくは複数のアミノ酸置換を有する変異型Igβ配列由来の、または所与のIgβ配列の対応するドメインと少なくとも85%の配列同一性を有する変異型Igβ配列由来の一つまたは複数の対応するドメインに交換されている。「キメラIgβ」および「ヒト(化)Igβ」という用語は、本明細書にわたり相互交換可能に使用される。いくつかの非ヒト動物からのIgβポリペプチド配列(配列番号8〜12)は図2に定義される。
【0033】
「細胞内ポリペプチドもしくはドメイン」または「細胞質尾部」は、細胞の範囲内に存在する所与の膜結合型タンパク質またはサブユニットのポリペプチド配列のその部分を表す。通常は、タンパク質の細胞内ドメインはシグナル伝達を担う。
【0034】
IgαまたはIgβサブユニットの「細胞内ドメイン配列」により、細胞の範囲内に通常存在するIgαもしくはIgβポリペプチド、またはそのフラグメントのポリペプチド配列を意味する。
【0035】
IgαまたはIgβサブユニットの「膜貫通ドメイン配列」は、原形質膜、オルガネラ膜、または脂質二重層などの生体膜を貫通するIgαもしくはIgβポリペプチド、またはそのフラグメントのポリペプチド配列を意味する。本明細書に定義する「膜貫通ドメイン配列」には、天然膜貫通ポリペプチドが含まれるし、膜貫通ドメイン配列は、非天然コンセンサス配列またはそのフラグメントのこともある。
【0036】
「細胞外ポリペプチドまたはドメイン」は、通常は細胞の範囲外に存在する所与の膜結合型タンパク質またはサブユニットのポリペプチド配列のその部分を表す。「IgαまたはIgβの細胞外ドメイン」により、細胞の範囲外に存在するIgαもしくはIgβポリペプチド、またはそのフラグメントのポリペプチド配列を意味する。
【0037】
本明細書に使用する「ヒト(化)免疫グロブリンローカス」という用語には、ヒト免疫グロブリン(Ig)遺伝子ローカスまたはそのセグメントの天然配列と、ヒトIg遺伝子ローカスまたはそのセグメントの天然配列の縮重型と、ヒトIg遺伝子ローカスまたはそのセグメントの天然配列によりコードされるポリペプチドと実質的に同一のポリペプチド配列をコードする合成配列との三者が含まれる。特定の態様では、ヒトIg遺伝子セグメントは、免疫グロブリン分子をヒトに非免疫原性にする。本明細書で、「ヒト(化)またはヒト化免疫グロブリン(Ig)重鎖および/または軽鎖ローカス」または「ヒトまたはヒト(化)免疫グロブリン(Ig)ローカス」という用語は相互交換可能に使用される。
【0038】
本明細書に使用する「ヒト(化)B細胞レセプター(BCR)複合体」という用語は、IgαサブユニットがネイティブなヒトIgαサブユニットまたは上記のヒトもしくはヒト化Igα配列を有するキメラIgαサブユニットのいずれかであり、かつ/あるいはさらにIgβサブユニットがネイティブなヒトIgβサブユニットまたは上記のヒトもしくはヒト化Igβ配列を有するキメラIgβサブユニットのいずれかであり、かつさらに、膜結合型免疫グロブリン(mIg)が上記のヒト(化)免疫グロブリンのものである多サブユニットBCR複合体を表す。用語「ヒト抗体」および「ヒト免疫グロブリン」は、本明細書において抗体および完全ヒト配列を含む免疫グロブリン分子を表すために使用される。
【0039】
本明細書に使用する用語「ヒト化抗体」および「ヒト化免疫グロブリン」は、ヒト免疫グロブリンポリペプチド配列(またはヒト免疫グロブリン遺伝子セグメントによりコードされるポリペプチド配列)の少なくとも一部を含む免疫グロブリン分子を意味する。本発明のヒト化免疫グロブリン分子は、ヒト化免疫グロブリン分子を産生するように操作されたトランスジェニック非ヒト動物から単離することができる。このようなヒト化免疫グロブリン分子は、動物から調製された、または動物由来の細胞から調製された非ヒト化免疫グロブリン分子よりも霊長類に、特にヒトに免疫原性が低い。ヒト化免疫グロブリンまたは抗体には、遺伝子変換動物における遺伝子変換および体細胞超突然変異によりさらに多様化された免疫グロブリン(Ig)および抗体が挙げられる。このようなヒト化Igまたは抗体は、ヒトにより自然に製造されないことから、それらは「ヒト」ではないが(ヒトは遺伝子変換により自己の抗体レパートリーを多様化しないため)、それでもなお、ヒト化Igまたは抗体は、その構造にヒトIg配列を有することから、それらはヒトに免疫原性ではない。
【0040】
「実質的に減少した」内因性Ig産生ならびに/またはIgαおよび/もしくはIgβサブユニットの発現という用語は、トランスジェニック動物における内因性Ig単独の産生、または追加的に内因性Igαおよび/もしくはIgβの発現のいずれかの程度が、好ましくは少なくとも約30%〜49%、またはより好ましくは少なくとも約50%〜79%、またはなおいっそう好ましくは少なくとも約80〜89%、または最も好ましくは約90〜100%だけ減少していることを意味する。
【0041】
「モノクローナル抗体」という用語は、単クローンのB細胞により合成される抗体分子を表すために使用される。
【0042】
「ポリクローナル抗体」という用語は、B細胞集団により合成される抗体分子集団を表すために使用される。
【0043】
遺伝子再編成および遺伝子変換を受ける能力を有する「免疫グロブリン(Ig)ローカス」は、本明細書において「機能的」Igローカスとも呼ばれ、機能的Igローカスにより作製される多様性を有する抗体は、本明細書において「機能的」抗体または抗体の「機能的」レパートリーとも呼ばれる。
【0044】
本明細書に使用する用語「非ヒト(トランスジェニック)動物」には、哺乳類、例えば非ヒト霊長類、げっ歯類(例えばマウスおよびラット)、非げっ歯類哺乳類、例えばウサギ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ウシ、ブタ、ウマおよびロバ、ならびに鳥類(例えばニワトリ、シチメンチョウ、アヒル、ガチョウなど)が挙げられるが、それに限定されるわけではない。本明細書に使用される「非霊長動物」という用語には、上に具体的に挙げた哺乳類を非限定的に含む、霊長類以外の哺乳類が挙げられるが、それに限定されるわけではない。
【0045】
詳細な説明
本発明は、非ヒトトランスジェニック動物におけるヒトまたはヒト化免疫グロブリン(免疫グロブリン鎖を含む)の産生が、その動物のB細胞におけるヒトまたはヒト化Igαおよび/またはIgβを同時発現することにより顕著に増加することができるという認識に少なくとも部分的に基づく。トランスジェニック動物のB細胞にヒトまたはヒト化Igαおよび/またはIgβが含まれることは、B細胞レセプタータンパク質間の相互作用を再構成および改善することにより、そのような導入遺伝子を保持するB細胞の抗原認識、B細胞発生および生存を高めると考えられる。ヒトまたはヒト化Igαおよび/またはIgβ導入遺伝子をすでに保持するトランスジェニック動物におけるヒト化免疫グロブリンの同時発現は、ヒト化免疫グロブリン産生を大いに改善するであろう。好ましくは内因性Igと内因性Igαおよび/またはIgβの両方のノックアウトバックグラウンドに対してヒトまたはヒト化Igαおよび/またはIgβ導入遺伝子と、ヒト化免疫グロブリン導入遺伝子との両方を発現させることが追加的に望ましいであろう。
【0046】
B細胞レセプターおよびその関連タンパク質
B細胞レセプターは、膜結合型免疫グロブリンと、IgαおよびIgβと呼ばれる二つのジスルフィド結合糖タンパク質からなるシグナル伝達性ヘテロ二量体とからなる。加えて、BCR関連タンパク質(BAP)が記載されている。
【0047】
BCRの発現は、B細胞の発生、選択および生存に重要である。これらの過程は、Igα/Igβヘテロ二量体によるBCRシグナル伝達に依存する。これらの分子の細胞質ドメインは、数個のチロシン残基がいわゆるITAM(immunoreceptor tyrosine-based activation motif)に集合したものを有する配列モチーフを保持し、このITAMは、BCRがトリガーされるとリン酸化される。
【0048】
遺伝子ターゲティング実験から、Igα/Igβヘテロ二量体の細胞質ドメインがB細胞の発生に重大であることが示された。Igα/Igβヘテロ二量体により伝達されるシグナルは、発生途中のB細胞の正の選択および負の選択との両方に関与する。
【0049】
膜結合型免疫グロブリン(mIg)分子は、ホモ二量体を形成している2本の重鎖および2本の軽鎖からなり、各軽鎖は重鎖の1本に共有結合している。N末端で重鎖はVHドメインを保持し、アイソタイプに応じて、このVHドメインに4個(IgM、IgE)、3個(IgG、IgA)または2個(IgD)のCドメインが続く。抗原結合部位は、VH:VL対の超可変領域により形成される。したがって、各mIg分子は二つの抗原結合部位を有する。
【0050】
mIgM分子は、分泌型IgMが10個の潜在的抗原結合部位を有する五量体を形成する点で分泌型IgMと異なる。五量体化は、分泌されたμs鎖のC末端部分の配列により制御される。この部分はアミノ酸22個からなり、膜結合型μm鎖に存在せず、その代わりに、M1およびM2エキソンによりコードされるC末端アミノ酸48個を保持する。
【0051】
この配列のμm特異的部分は、IgM分子全体のうち最も進化的に保存されている部分である。この部分は、マウス、ウサギおよびヒトmIgMの間でほぼ同一であり、この保存は、マウスをサメmIgMと比べてもなお明白である。mIgMのC末端配列をマウスの他のmIgアイソタイプのC末端配列と比べた場合にもまた、アミノ酸の保存が明らかである。この発見は、保存された膜貫通アミノ酸がH鎖ホモ二量体において相互に相互作用するか、またはIgαおよびIgβサブユニットと相互作用するかのいずれかであるという証拠を提供する。
【0052】
IgαおよびIgβの両方は、アミノ酸22個の膜貫通セグメントに続き、チロシン残基数個を有するアミノ酸約40〜70個のC末端細胞質尾部を有する。N末端では、両タンパク質はリーダーペプチドに続いて細胞外ドメインを保持し、細胞外ドメインは、システイン残基、トリプトファン1個、およびIgスーパーファミリーのタンパク質にみられる他の保存されたアミノ酸数個を有する。これは、IgαおよびIgβサブユニット両方の細胞外部分がIg様ドメインを形成することを示唆している。ドメイン内ジスルフィド結合を形成するシステイン以外に、IgαおよびIgβ配列は追加のシステインを有し、このシステインは、IgαとIgβサブユニットの間で鎖間ジスルフィド結合をおそらく形成する。
【0053】
マウスおよびヒトIgα配列の間の比較から、Igドメインおよび鎖間結合の情報に重要な全ての残基が、二つの種のIgαの間で保存されていることが示される。しかし、この比較は、細胞外部分の配列保存がわずか約56%に達するが、膜貫通部および細胞質尾部はそれぞれ100%および87%の保存を示す。後者は、分子のC末端部分内の残基の重要性を反映している。
【0054】
mIgM分子とIgα/Igβヘテロ二量体との集合は、mIgMの表面発現に必要である。この必要性は、μm鎖の膜貫通部分の突然変異により無効にすることができる。例えば、μm鎖の膜貫通部位からH−2KK分子の膜貫通部分への交換は、Igα/Igβに依存せずにmIgMの表面発現を招く。これらのデータは、μmの膜貫通領域がμm鎖とIgα/Igβヘテロ二量体との間の特異的相互作用に必要なことを実証している。加えて、B細胞は、ERからの、膜貫通タンパク質複合体の単一構成要素または不完全に集合した構成要素の輸送を阻害する制御メカニズムを有する。
【0055】
BCRの膜貫通部分は、BCR複合体の形成に必要となる、おそらく最も重要な構造であり、IgαおよびIgβの細胞外Igドメインもまた、mIgM分子の結合に役割を果たすことが示唆されている。例えば、マウスIgαを発現しないマウス細胞系J558Lμmでは、Igα導入遺伝子を用いたトランスフェクションにより、mIgMの表面発現が回復する。関心対象には、マウスIgα遺伝子を用いたトランスフェクションは、ヒトIgα遺伝子を用いたトランスフェクションに比べて10倍高い発現を招いた。このデータは、Igαの細胞外ドメインが追加的にmIgMの細胞外部分と相互作用しうることを示唆している。他方で、ヒト免疫グロブリンローカスを有するトランスジェニックマウスは、実際にヒト免疫グロブリンを発現する。トランスジェニック非ヒト動物におけるB細胞の発生、B細胞の生存またはヒト(化)mIgMの発現がヒト(化)mIgM遺伝子を保持するB細胞でのヒトIgαおよび/またはヒトIgβの同時発現により影響されるかどうかは不明なままである。
【0056】
加えて、クローニングおよびシーケンシングされたが、機能が未知のままであるいくつかのBCR関連タンパク質(BAP)がある。これらのタンパク質はBCRと関連するにもかかわらず、BCRの構成要素としてのその役割は疑われている。そのうえ、BAPの遍在性発現および強い進化上の保存は、可能性があることには一般的な細胞過程にこれらが重要な役割を果たすに違いないことを示唆しており、いくつかの推定上の機能が提案されている。例えば、これらのタンパク質は、BCRから細胞骨格への結合または小胞輸送の制御に関与しうる。最後に、これらはシャペロンとして機能して膜貫通タンパク質のフォールディングおよび集合を助けると提案されている。
【0057】
関連文献
B細胞レセプター、その構成要素、および五つの免疫グロブリンクラスとのその関連は、Wienands et al., EMBO J. 9(2): 449-455 (1990)、Venkitaraman et al., Nature 352: 777-781 (1991)、Herren et al., Immunologic Res. 26(1-3): 35-43 (2002)に記載されている。BCR関連タンパク質は、Adachi et al., EMBO J 15(7): 1534-1541 (1996)およびSchamel et al., PNAS 100(17): 9861-9866 (2003)に記載されている。B細胞の発生および生存にB細胞レセプターが及ぼす影響は、Reth, Annual Reviews of Immunology 10: 97-121 (1992)、Kraus et al., Cell 117(6): 787-800 (2004)、Sayegh et al., Immunological Reviews 175: 187-200 (2000)、Reichlin et al., Journal of Experimental Medicine 193(1): 13-23 (2001)、Pike et al., Journal of Immunology 172: 2210-2218 (2004)、Pelanda et al., Journal of Immunology 169: 865-872 (2002)により記載されている。BCRシグナル伝達のレギュレーションならびにB細胞の発生およびアポトーシスにおけるその影響は、Cronin et al., J. Immunology 161 : 252-259 (1998)、Muller et al., PNAS 97 (15): 8451-8454 (2000)、Cragg et al., Blood 100: 3068-3076 (2002)、Wang et al., J. Immunology 171 : 6381-6388 (2003)、Fuentes-Panana et al., J. Immunology 174: 1245-1252 (2005)に記載されている。上に引用した参考文献の開示は、その全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【0058】
したがって、本発明は、特にトランスジェニック動物の、B細胞にヒト(化)Igαおよび/またはヒト(化)Igβを同時発現させるための方法を対象とし、この方法は、このようなトランスジェニック動物に多様化したヒト(化)抗体レパートリーを産生させ、B細胞の生存を改善することができる。動物の種類には、ウサギ、トリ、ニワトリ、ヒツジ、ヤギ、ウシ、ブタ、ウマおよびロバなどの比較的大型の非ヒト動物が挙げられる。これらの動物がIgトランスローカスを発現する場合には、動物の大きさが比較的大きいことから、その抗体収率もまた比較的大きいはずである。したがって、本発明は、B細胞の発生および生存の増強により比較的多量のヒト(化)免疫グロブリンを産生する比較的大型の創始動物を創出することを目的とする。
【0059】
したがって、本発明は、下にさらに定義するような完全長ヒトIgαおよびIgβポリペプチドをコードする導入遺伝子構築物、またはキメラもしくはヒト化Igαポリペプチドおよびキメラもしくはヒト化Igβポリペプチドをコードするキメラ導入遺伝子構築物を対象とする。
【0060】
「ヒトIgαおよび/またはIgβポリペプチドをコードする導入遺伝子または導入遺伝子構築物」により、それぞれネイティブな完全長ヒトIgαおよび/またはIgβ DNA配列、ならびにIgαまたはIgβの機能的に等価のポリペプチドをコードするが、コドン縮重に基づき異なるDNA配列を有する任意の変異型のコドン最適化DNA配列を意味する。この概念をさらに下に詳細に論じる。ネイティブな完全長ヒトIgαポリペプチド配列は、配列番号1(図1)に定義されている。ネイティブな完全長ヒトIgβポリペプチド配列は配列番号7(図1)に定義されている。
【0061】
「キメラまたはヒト(化)Igαをコードする核酸分子または導入遺伝子または導入遺伝子構築物」もまた本明細書に参照される。「キメラIgα」サブユニットまたはタンパク質またはポリペプチドは、動物(例えばラット、マウス、ヒト、ウサギ、ニワトリなど)由来のIgαポリペプチド配列を表し、ここで、Igαポリペプチドの一つまたは複数のドメインは、別の動物または種の、異なるIgαポリペプチドからの一つもしくは複数の対応するドメインに、あるいは異なるアレルIgαバージョン由来の、または一つもしくは複数のアミノ酸置換を有する変異型Igα配列由来の、または所与のIgα配列の対応するドメインと少なくとも85%の配列同一性を有する変異型Igα配列由来の一つまたは複数の対応するドメインに交換されている。「キメラIgα」および「ヒト(化)Igα」という用語は、本明細書にわたり相互交換可能に使用される。細胞内および/または膜貫通ドメイン配列を得ることができる非ヒトIgαポリペプチド配列には、例えばウシ(配列番号2);マウス(配列番号3);イヌ(配列番号4);霊長類(配列番号5);ウサギ(配列番号6)または他の非ヒト配列が挙げられるが、それに限定されるわけではない。
【0062】
「キメラまたはヒト(化)Igβをコードする核酸分子または導入遺伝子または導入遺伝子構築物」もまた本明細書に参照される。「キメラIgβ」サブユニットまたはタンパク質またはポリペプチドは、動物(例えばラット、マウス、ヒト、ウサギ、ニワトリなど)由来のIgβポリペプチド配列を表し、ここで、Igβポリペプチドの一つまたは複数のドメインは、別の動物または種の、異なるIgβポリペプチド由来の一つもしくは複数の対応するドメインに、あるいは異なるアレルIgβバージョン由来の、または一つもしくは複数のアミノ酸置換を有する変異型Igβ配列由来の、または所与のIgβ配列の対応するドメインと少なくとも85%の配列同一性を有する変異型Igβ配列由来の一つまたは複数の対応するドメインに交換されている。用語「キメラIgβ」および「ヒト(化)Igβ」は、本明細書にわたり相互交換可能に使用される。細胞内および/または膜貫通ドメイン配列を得ることができる非ヒトIgβポリペプチド配列には、例えばイヌ(配列番号8);ラット(配列番号9);ウシ(配列番号10);マウス(配列番号11);ニワトリ(配列番号12)または他の非ヒト配列が挙げられるが、それに限定されるわけではない。
【0063】
したがって、簡潔にはキメラIgαまたはIgβ導入遺伝子は、1)ヒトIgαまたはIgβの細胞外ドメインをそれぞれコードするヌクレオチド配列、ならびに2)宿主トランスジェニック動物由来のIgαまたはIgβの膜貫通および細胞内ドメインをそれぞれコードするヌクレオチド配列からなる。
【0064】
さらなる態様では、本発明は、2003年1月23に公開された米国特許公報第2003−0017534号および2006年2月2日に公開された米国特許公報第2006−0026696号として現在入手することのできる、以前に提出された米国出願(これらの開示は、本明細書によりその全体が参照により組み入れられる)に記載されているような、ヒト(化)免疫グロブリンまたはローカスをコードするトランスジェニック構築物もまた対象にする。それから作製されるトランスジェニック動物、B細胞または細胞系、およびそこに開示される関連方法論もまた、本発明の局面を形成する。
【0065】
上に言及した局面の代替アプローチでは、本発明は、1996年8月に発行された米国特許第5,545,806号;1996年8月に発行された米国特許第5,545,807号および1996年10月に発行された米国特許第5,569,825号、2006年6月20日に発行された米国特許第7,064,244号;またはPCT公報WO92/03918、WO02/12437、ならびに米国特許第5,814,318号および第5,570,429号に記載されているような、ヒト(化)免疫グロブリンまたはIg鎖もしくはローカスをコードするトランスジェニック構築物もまた対象にするが、Jakobovits et al., Proc. Natl. Acad. Sci USA, 90: 2551 (1993);Jakobovits et al., Nature, 362: 255 (1993);Bruggemann et al., Year in Immunol, 7: 33 (1993);Pluschke et al., Journal of Immunological Methods 215: 27-37 (1998);Neuberger et al., Nature 338: 350-2 (1989);Lonberg et al., Int. Rev. Immunol. 13(l):65-93 (1995);およびBruggemann et al., Curr. Opin. Biotechnol., 8(4): 455-8 (1997);およびKuroiwa et al., Nature Biotech 20(9): 889-894 (2002)もまた参照されたく、これらの開示は、その全体が本明細書により参照により組み入れられる。それから作製されるトランスジェニック動物、B細胞または細胞系、およびそこに開示される関連方法論もまた、本発明の局面を形成する。
【0066】
導入遺伝子または導入遺伝子構築物は、多様な技法により動物のゲノムに導入することができ、その技法には、前核のマイクロインジェクション、トランスフェクション、核移植クローニング、精子介在性遺伝子導入、精巣介在性遺伝子導入などが挙げられる。
【0067】
一態様では、ヒトIgαおよび/またはIgβ遺伝子は、免疫特異的プロモーター、好ましくはB細胞特異的プロモーターによりトランスジェニック動物のB細胞に好ましくは発現される。このヒトIgαまたはIgβ遺伝子発現は、好ましくはB細胞のみの中で起こり、B細胞発生の増強および非ヒトトランスジェニック動物の生存をもたらす。「B細胞特異的プロモーター」により、B細胞に発現する遺伝子の発現を通常制御する、任意のB細胞特異的遺伝子のプロモーター/エンハンサー配列および/またはその変異体もしくは操作された部分を意味し、その例には、CD19、CD20、CD21、CD22、CD23、CD24、CD40、CD72、Blimp−1、CD79b(B29またはIgβとしても知られている)、mb−1(Igαとしても知られている)、チロシンキナーゼblk、VpreB、免疫グロブリン重鎖、免疫グロブリンκ軽鎖、免疫グロブリンλ軽鎖、免疫グロブリンJ鎖などのプロモーター/エンハンサーが挙げられるが、それに限定されるわけではない。好ましい態様では、CD79a、CD79b、またはκ軽鎖のプロモーター/エンハンサーは、ヒトIgαおよび/またはIgβ遺伝子のB細胞特異的発現を推進する。
【0068】
なお別の態様では、ヒトIgαおよび/またはIgβ遺伝子をコードする核酸分子を含む導入遺伝子構築物は、外因性免疫グロブリンまたは免疫グロブリン(Ig)鎖導入遺伝子ローカスを含む導入遺伝子構築物と共に同時発現される。この態様では、Ig導入遺伝子ローカスとヒトIgαおよび/またはIgβ導入遺伝子との両方が、同一のトランスジェニック発現ベクター上に存在することもあり、二つの異なるトランスジェニック発現ベクター上に存在することもある。後者の場合、二つのトランスジェニック発現ベクターを、同時または連続的のいずれかで非ヒトトランスジェニック動物に導入してもよい。
【0069】
本発明によると、IgαまたはIgβのヒト完全長または細胞外ドメイン単独の変異体が本明細書に包含される。これにより、遺伝コードの縮重を見込んだ核酸配列、機能的に等価な残基のアミノ酸置換を含むポリペプチド配列をコードする核酸配列および/または細胞外ドメインの機能性を高める突然変異が意味される。「細胞外ドメインの機能性」には、シグナル伝達可能なBCRの形成が挙げられるが、それに限定されるわけではない。
【0070】
遺伝コードの縮重を見込むことにより、本発明はヒトIgαおよびヒトIgβの細胞外ポリペプチド配列と少なくとも約70%、さらに通常には約80〜85%。好ましくは少なくとも約90%、そして最も好ましくは約95%の配列同一性を有する配列を包含する。
【0071】
生物学的に機能的に等価という用語は、当技術分野において十分に了解されており、さらに本明細書に詳細に定義される。したがって、アミノ酸レベルで約70%〜約80%、またはさらに好ましくは約81%〜約90%、またはなおいっそう好ましくは約91%〜約99%の同一性を有する配列は、そのタンパク質の生物学的活性が維持されるならば、ヒトIgαおよびIgβに機能的に等価であるとみなされる。
【0072】
機能的に等価なコドンという用語は、本明細書においてアルギニンまたはセリンについての六つのコドンなどの、同一のアミノ酸をコードするコドンを表すために使用され、生物学的に等価のアミノ酸をコードするコドンもまた表す。
【0073】
以下は、等価の第二世代分子または改良までもされている第二世代分子を創出するための、タンパク質のアミノ酸変更に基づく考察である。例えば、抗体の抗原結合領域または基質分子上の結合部位などの、構造に伴う相互作用性結合能をあまり損失せずに、例えばタンパク質構造中のある種のアミノ酸を別のアミノ酸に置換することができる。タンパク質の生物学的機能的活性を規定するのがタンパク質の相互作用能および性質であることから、ある種のアミノ酸置換をタンパク質配列および基礎となるDNAコード配列に加え、それでもなお類似の特性を有するタンパク質を産生させることができる。したがって、下に論じるように遺伝子の生物学的有用性も活性もあまり損失せずに、その遺伝子のDNA配列に様々な変更を加えられることが、本発明者らにより考えられている。
【0074】
このような変更を加えるときに、アミノ酸のハイドロパシー指標もまた考慮することができる。タンパク質に相互作用性生物学的機能を付与する上でのハイドロパシーアミノ酸指標の重要性は、当技術分野において一般に了解されている(Kyte & Doolittle, 1982)。アミノ酸の相対的ハイドロパシー性は、結果として生じるタンパク質の二次構造の一因となり、それが、次にはタンパク質と、例えば酵素、基質、レセプター、DNA、抗体、抗原などの他の分子との相互作用もまた規定すると受け入れられている。
【0075】
類似のアミノ酸の置換は親水性に基づき効果的に行うことができることもまた、当技術分野において了解されている。参照により本明細書に組み入れられる米国特許第4,554,101号は、隣接アミノ酸の親水性により支配される、タンパク質の最大局所平均親水性が、そのタンパク質の生物学的特性と相関すると述べている。米国特許第4,554,101号に詳述されるように、アミノ酸残基に以下の親水性値が割り付けられている:アルギニン(+3.0);リシン(+3.0)、アスパラギン酸(+3.0±0.1)、グルタミン酸(+3.0±0.1)、セリン(+0.3)、アスパラギン(+0.2)、グルタミン(+0.2)、グリシン(0)、トレオニン(−0.4)、プロリン(−0.5±0.1)、アラニン(−0.5)、ヒスチジン(−0.5)、システイン(−1.0)、メチオニン(−1.3)、バリン(−1.5)、ロイシン(−1.8)、イソロイシン(−1.8)、チロシン(−2.3)、フェニルアラニン(−2.5)、トリプトファン(−3.4)。
【0076】
アミノ酸は、類似の親水性値を有する別のものに置換してもなお、生物学的に等価で、かつ免疫学的に等価のタンパク質を産生できることが了解されている。このような変更では、親水性値が±0.2以内のアミノ酸置換が好ましく、±0.1以内のものが特に好ましく、±0.05以内のものがなおいっそう特に好ましい。
【0077】
本明細書に概略するように、アミノ酸置換は、一般的にアミノ酸側鎖置換の相対的類似性、例えばそれらの疎水性、親水性、電荷、大きさなどに基づく。様々な前述の特徴を考慮する置換の例は当業者に周知であり、それらには、アルギニンおよびリシン、グルタミン酸およびアスパラギン酸、セリンおよびトレオニン、グルタミンおよびアスパラギン、ならびにバリン、ロイシンおよびイソロイシンが挙げられる。
【0078】
本発明によりポリペプチドを調製するための別の態様は、ペプチド模倣体の使用である。模倣体は、タンパク質二次構造のエレメントを模倣するペプチド含有分子である(Johnson 1993)。ペプチド模倣体の使用の基礎となる原理は、タンパク質のペプチド主鎖が、抗体および抗原の分子相互作用のような分子相互作用を促進する方法で、主にアミノ酸側鎖を配向させるために存在することである。ペプチド模倣体は、自然分子に類似した分子相互作用を許すと考えられる。これらの原理を上に概要した原理と共に使用して、変化および改良された特徴と共に、ヒトIgαまたはIgβの自然特性の多くを有する第二世代分子を操作することができる。
【0079】
したがって、ヒトIgαまたはIgβ、およびヒトIgαまたはIgβの機能的に等価なポリペプチドをコードする変異型核酸配列は、本発明に有用である。
【0080】
関心対象の遺伝子を有するトランスジェニックベクターは、一つもしくは複数のレシピエント細胞に導入し、次にランダム組み込みまたはターゲティングした組み込みにより一つまたは複数のレシピエント細胞のゲノムに組み込むことができる。
【0081】
ランダム組み込みのために、標準的なトランスジェニック技法によりヒトIgαまたはIgβを有するトランスジェニックベクターを動物レシピエントに導入することができる。例えば、トランスジェニックベクターは、受精した卵母細胞の前核に直接注射することができる。トランスジェニックベクターは、卵母細胞の受精前に精子をトランスジェニックベクターと共インキュベーションすることによってもまた導入することができる。トランスジェニック動物は、受精した卵母細胞から発育させることができる。トランスジェニックベクターを導入する別の方法は、胚性幹細胞にトランスフェクションし、続いて発生途中の胚に遺伝子改変胚性幹細胞を注射することによる。または、トランスジェニックベクター(ネイキッドで、または促進試薬と共に)を発生途中の胚に直接注射することができる。最後に、ヒト(化)Ig導入遺伝子がトランスジェニック動物の少なくとも一部の体細胞のゲノムに組み込まれたものを有する胚からキメラトランスジェニック動物を産生させる。
【0082】
特定の態様では、ヒトIgαまたはIgβを有する導入遺伝子を、内因性IgαまたはIgβの発現障害を有する動物系統由来のレシピエント細胞(例えば、受精した卵母細胞または発生途中の胚)のゲノムにランダムに組み込む。このような動物系統の使用は、ヒト(化)トランスジェニックIgローカスからの免疫グロブリン分子の優先的発現を許す。または、ヒト(化)Igαおよび/またはIgβ導入遺伝子を有するトランスジェニック動物を、内因性Igαおよび/またはIgβの発現障害を有する動物系統と交配させることができる。障害Igαおよび/またはIgβならびにヒト(化)Igαおよび/またはIgβについてホモ接合性の子孫を得ることができる。または、アンチセンス技法、細胞内抗Igαおよび/またはIgβの発現などを使用して、内因性Igαおよび/またはIgβの発現を阻害または低下させることができる。一態様では、宿主動物のIgαおよび/またはIgβの内因性産生をノックダウンするためのえり抜きの方法は、RNA干渉(RNAi)法であり、この方法は、細胞内ホスト動物Igαおよび/またはIgβ核酸配列を有するB細胞に二本鎖RNA(dsNA)またはさらに好ましくは短鎖または小分子干渉性RNA二本鎖(siRNA)のいずれかを導入する。これは、Invitrogen CorpからのBlock iT(商標)またはStealth(商標)RNAキットを非限定的に含む市販のキットを使用して実現することができる。
【0083】
ターゲティングした組み込みのために、トランスジェニックベクターは、胚性幹細胞またはすでに分化した体細胞などの適切な動物レシピエント細胞に導入することができる。その後、導入遺伝子が動物ゲノムに組み込まれ、相同組換えにより対応する内因性遺伝子を交換された細胞を、標準的な方法により選択することができる(例えば、Kuroiwa et al., Nature Genetics 2004, June 6を参照されたい)。次に、選択された細胞を、除核された核移植ユニット細胞、例えば卵母細胞または胚性幹細胞と融合させることができ、このユニット細胞は全能性であり、機能的新生仔を形成することができる。十分に確立された通例技法により融合を行う。卵母細胞の除核および核移植は、注入ピペットを使用した顕微手術によってもまた行うことができる(例えば、Wakayama et al., Nature (1998) 394:369を参照されたい)。次に、結果として生じた卵子を適切な培地中で培養し、トランスジェニック動物を作製するために同期化したレシピエントに移植する。または、発生途中の胚に選択された遺伝子改変細胞を注射して、この胚を続いてキメラ動物に発育させることができる。
【0084】
さらに、本発明により、本明細書上記の一つまたは複数の組換えベクター(その一つは、内因性Igαおよび/またはIgβ遺伝子セグメントのフランキング配列に相同な5’および3’フランキング配列に連結したヒトIgαおよび/またはIgβ遺伝子セグメントを保持する)を一つまたは複数のレシピエント細胞に導入し、次に相同組換えにより内因性Igαおよび/またはIgβ遺伝子セグメントをヒトIgαおよび/またはIgβ遺伝子セグメントに交換された細胞を選択し、選択された一つまたは複数の遺伝子改変レシピエント細胞から動物を得ることによってもまた、ヒト(化)Igαおよび/またはIgβを産生することのできるトランスジェニック動物を製造することができる。
【0085】
トランスジェニックベクターのターゲット挿入に類似して、この手順でレシピエント細胞として使用するために適した細胞には、胚性幹細胞またはすでに分化した体細胞が挙げられる。ヒトIgαおよび/またはIgβ遺伝子セグメントを保持する組換えベクターは、任意の実行可能な手段、例えばトランスフェクションによりこのようなレシピエント細胞に導入することができる。その後、相同組換えにより、ヒトIgαおよび/またはIgβ遺伝子セグメントが、対応する内因性Igαおよび/またはIgβ遺伝子セグメントの代わりに置き換わった細胞を標準的な方法により選択することができる。これらの遺伝子改変細胞は、トランスジェニック動物をクローニングするための核移植手順において核ドナー細胞として役立つことができる。または、選択された遺伝子改変胚性幹細胞を発生途中の胚に注射することができ、続いてその胚をキメラ動物に発育させることができる。
【0086】
具体的な態様では、本発明の導入遺伝子構築物は、胚に導入遺伝子を直接注射することにより、または妊娠した母親もしくは産卵期のメンドリに導入遺伝子を注射することにより間接的に、胚期のトランスジェニック動物に導入することができる。前記方法のうち任意のものにより産生されるトランスジェニック動物は、本発明の別の態様を形成する。トランスジェニック動物は、ゲノムに少なくとも一つ、すなわち一つまたは複数のヒト(化)Igαおよび/またはIgβ遺伝子を有し、この動物から機能的ヒト(化)Igαおよび/またはIgβタンパク質を産生させることができる。
【0087】
さらに、本発明の導入遺伝子構築物、すなわちヒトまたはヒト化Igαおよび/またはIgβ導入遺伝子ならびにヒト化免疫グロブリン導入遺伝子は、内因性Igならびに内因性Igαおよび/またはIgβノックアウトのうち一つまたはさらに好ましくはその両方のいずれかのノックアウトバックグラウンドに対して好ましくは発現される。したがって、本発明のトランスジェニック動物は、ヒト(化)Igローカスを再編成することができ、実質的に減少した内因性Ig発現ならびにさらに好ましくは実質的に減少した内因性Igαおよび/またはIgβを同様に有するバックグラウンドに対してヒト(化)抗体の機能的レパートリーを効率的に発現することができる。この文脈では、「実質的に」により、内因性Igの発現単独または追加的に内因性Igαおよび/もしくはIgβの発現のいずれかの内因性産生の程度が、好ましくは少なくとも約30%〜49%、またはさらに好ましくは少なくとも約50%〜79%、またはなおさらに好ましくは少なくとも約80〜89%、または最も好ましくは約90〜100%だけ減少していることを意味する。
【0088】
本発明は、ヒト(化)Igローカスを再編成および遺伝子変換することができ、ヒト(化)抗体の機能的レパートリーを発現することができる一つまたは複数のヒト(化)Igローカスならびにヒト(化)Igαおよび/またはIgβを発現するトランスジェニックウサギを提供する。好ましくは追加的に、これらのウサギは、実質的な量の機能的内因性ウサギ免疫グロブリンも、機能的内因性ウサギIgαおよび/またはIgβも産生しない。
【0089】
本発明は、一つまたは複数のヒト(化)Igローカスならびにヒト(化)Igαおよび/またはIgβを発現する鳥類、げっ歯類およびウシ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ロバ、ウマなどの農用動物を非限定的に含む比較的大型のトランスジェニック動物もまた提供する。また好ましくは、これらの動物は、追加的に実質的な量の機能的内因性免疫グロブリンも機能的内因性Igαおよび/またはIgβも産生しない。したがって、これらのトランスジェニック動物は、ヒト(化)Igローカスを再編成することができ、ヒト(化)抗体の機能的レパートリーを増大した収率で効率的に発現することができる。
【0090】
本発明は、ヒト(化)Igαおよび/またはIgβ遺伝子ならびにヒト(化)免疫グロブリンローカスを発現する、上記の異なる種類のトランスジェニック動物から単離されたB細胞もまた対象とする。さらに、このようなB細胞は、ウイルストランスフォーメーションなどの使用を非限定的に含む公知の通常法を使用して不死化させることができ、当業者はこれを使用することができる。
【0091】
抗原を用いた免疫処置は、前記トランスジェニック動物に同一抗原に対するヒト(化)抗体の産生をもたらす。
【0092】
本発明の好ましい態様は、ヒト(化)Igローカスを有するトランスジェニック動物を対象とするものの、霊長類化Igローカスおよび霊長類化ポリクローナル抗血清を有するトランスジェニック動物もまた本発明の精神内に属することを了解されたい。ヒト(化)ポリクローナル抗血清組成物と同様に、霊長類化ポリクローナル抗血清組成物は、ヒト個体において減少した免疫原性を有する見込みがある。
【0093】
多様化したヒト(化)免疫グロブリン分子を産生することができるトランスジェニック非ヒト動物が(下記にさらに示すように)ひとたび製造されれば、抗原に対するヒト(化)免疫グロブリンおよびヒト(化)抗体調製物は、その動物に抗原を免疫処置することにより容易に得ることができる。多様な抗原を使用して、トランスジェニック宿主動物を免疫処置することができる。このような抗原には、生存、弱毒化もしくは死滅した微生物、例えばウイルスおよび単細胞生物(細菌および真菌など)、微生物のフラグメント、またはその微生物から単離された抗原分子が挙げられる。
【0094】
動物を免疫処置するときに使用するために好ましい細菌抗原には、スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)由来精製抗原、例えば莢膜多糖5および8型、α−毒素などのリコンビナントバージョンの病原性因子、アドヘシン結合タンパク質、コラーゲン結合タンパク質、ならびにフィブロネクチン結合タンパク質が挙げられる。好ましい細菌抗原には、弱毒化バージョンのS. aureus、シュードモナス・エルギノーザ(Pseudomonas aeruginosa)、エンテロコッカス、エンテロバクター、およびクラブシエラ・ニューモニアエ(Klebsiella pneumoniae)、またはこれらの細菌細胞からの培養上清もまた挙げられる。免疫処置に使用することのできる他の細菌抗原には、Pseudomonas aeruginosa、エンテロコッカス、エンテロバクター、およびKlebsiella pneumoniae由来の精製リポ多糖(LPS)、莢膜抗原、莢膜多糖および/またはリコンビナントバージョンの外膜タンパク質、フィブロネクチン結合タンパク質、エンドトキシン、およびエキソトキシンが挙げられる。
【0095】
真菌に対する抗体を作製するための好ましい抗原には、弱毒化バージョンの真菌またはその外膜タンパク質が挙げられ、この真菌には、カンジダ・アルビカンス(Candida albicans)、カンジダ・パラサイロシス(Candida parapsilosis)、カンジダ・トロピカリス(Candida tropicalis)、およびクリプトコッカス・ネオフォルマンス(Cryptococcus neoformans)が挙げられるが、それに限定されるわけではない。
【0096】
ウイルスに対する抗体を作製するための免疫処置に使用するための好ましい抗原には、ウイルスのエンベロープタンパク質および弱毒化バージョンが挙げられ、そのウイルスには、呼吸器合胞体ウイルス(RSV)(特にF−タンパク質)、C型肝炎ウイルス(HCV)、B型肝炎ウイルス(HBV)、サイトメガロウイルス(CMV)、EBV、およびHSVが挙げられるが、それに限定されるわけではない。
【0097】
トランスジェニック動物に単離された腫瘍細胞、腫瘍細胞系、または腫瘍関連抗原を免疫処置することにより、ガンの処置のための治療用抗体を作製することができ、腫瘍関連抗原には、Her−2−neu抗原(これに対する抗体は、乳ガンの治療に有用である);CD19、CD20、CD22およびCD53抗原(これに対する抗体は、B細胞リンパ腫の治療に有用である)、(3)前立腺特異膜抗原(PMSA)(これに対する抗体は、前立腺ガンの処置に有用である)、および17ー1A分子(これに対する抗体は、大腸ガンの処置に有用である)が挙げられるが、それに限定されるわけではない。
【0098】
抗原は、アジュバントの存在下または不在下で任意の好都合な方法でトランスジェニック宿主動物に投与することができ、予定されたスケジュールに従って投与することができる。
【0099】
免疫処置後に、免疫処置されたトランスジェニック動物の血清または乳汁を分画して、抗原に特異的な医薬品等級のポリクローナル抗体の精製に供することができる。トランスジェニックトリの場合、抗体は、卵黄の分画によってもまた製造することができる。濃縮、精製された免疫グロブリン画分は、クロマトグラフィー(アフィニティー、イオン交換、ゲルろ過など)、硫酸アンモニウムなどの塩を用いた選択的沈殿、エタノールなどの有機溶媒、またはポリエチレングリコールなどのポリマーにより得ることができる。
【0100】
分画されたヒト(化)抗体は、ヒトに静脈内投与するために適した無毒性、無発熱性媒質、例えば滅菌緩衝食塩水に溶解または希釈してもよい。
【0101】
投与に使用される抗体調製物は、0.1〜100mg/ml、さらに通常には1〜10mg/mlの免疫グロブリン濃度を有することにより全般的に特徴付けられる。抗体調製物は、様々なアイソタイプの免疫グロブリンを含有してもよい。または、抗体調製物は、一つのアイソタイプだけの抗体またはいくつかの選択されたアイソタイプを含有してもよい。
【0102】
ヒト(化)モノクローナル抗体を製造するために、動物の内因性免疫グロブリンを発現しているB細胞が枯渇した、免疫処置されたトランスジェニック動物から脾臓細胞を単離する。単離された脾臓細胞が、ハイブリドーマを産生するためのトランスフォーメーションされた細胞系との細胞融合に使用されるか、または抗体をコードするcDNAが標準的な分子生物学的技法によりクローニングされ、トランスフェクションされた細胞に発現されるかのいずれかである。モノクローナル抗体を製造するための手順は、当技術分野で十分に確立されている。例えば、欧州特許出願0583980A1("Method For Generating Monoclonal Antibodies From Rabbits")、米国特許第4,977,081号("Stable Rabbit-Mouse Hybridomas And Secretion Products Thereof")、WO97/16537("Stable Chicken B-Cell Line And Method of Use Thereof")、およびEP0491057B1("Hybridoma Which Produces Avian Specific Immunoglobulin G")を参照されたく、これらの開示は、参照により本明細書に組み入れられる。クローニングされたcDNA分子からのモノクローナル抗体のin vitro産生は、Andris-Widhopf et al., "Methods for the generation of chicken monoclonal antibody fragments by phage display", J Immunol Methods 242:159 (2000)およびBurton, D. R., "Phage display", Immunotechnology 1:87 (1995)に記載されており、これらの開示は参照により本明細書に組み入れられる。
【0103】
たいていの場合には、抗体調製物は、未改変免疫グロブリン、すなわち動物から調製された、例えば化学物質または酵素による追加の改変を有さないヒト(化)抗体からなる。または、免疫グロブリン画分は、酵素分解(例えばペプシン、パパイン、プラスミン、グリコシダーゼ、ヌクレアーゼなどを用いた分解)、加熱などの処理に供し、かつ/またはさらに分画して「抗体フラグメント」を作製することができる。
【0104】
本発明には、上に定義した方法により得られる抗体またはそのフラグメントを含む薬学的組成物または抗体調製物もまた含まれる。本明細書に使用する「薬学的に許容されうる成分」または「製剤」という用語は、特定の量の請求された活性成分、すなわちヒト(化)抗体または抗体フラグメントを含む産物、および特定の量の特定の活性成分の組み合わせから直接または間接的に生じる任意の産物を包含することが意図される。このような用語は、活性成分および担体を構成する不活性成分を含む産物と、任意の二つ以上の成分の組み合わせ、複合体形成もしくは凝集から、または一つもしくは複数の成分の解離から、または一つもしくは複数の成分の他種の反応もしくは相互作用から、直接または間接的に生じる任意の産物とを包含することが意図される。したがって、本発明の「薬学的組成物」は、本発明の任意の活性化合物および薬学的に許容されうる担体を混合することにより製造される任意の組成物を包含する。
【0105】
化合物の「投与」または化合物を「投与すること」という用語は、処置を必要とする個体に、任意の製剤中の本発明の任意の活性化合物を提供することを意味することを了解すべきである。
本発明の化合物を投与するための薬学的組成物は、投薬ユニット形態で好都合に提示してもよく、薬剤学の分野で周知の方法により調製してもよい。使用に適した方法および担体は、当技術分野で十分に説明されたもの、例えばRemington, The Science and Practice of Pharmacy, ed. Gennaro et al., 20th Ed. (2000)に説明されたものであるものの、免疫学分野の専門家は、他の方法が公知であり、本発明の組成物の調製に適することを容易に認識している。全ての方法は、活性成分を、一つまたは複数の補助成分を構成する担体と関連させるステップを含む。全般に、薬学的組成物は、活性成分を、液体担体もしくは微粉化固体担体またはその両方と均一および密接に関連させ、次に必要に応じてその産物を所望の製剤に形作ることにより調製される。薬学的組成物において、活性成分は、疾患の過程または状態に所望の効果を生じるために十分な、上に論じた有効量で含められる。さらに、抗体分子の持続性長時間放出のための製剤は、米国特許第6,706,289号に記載されており、この方法は、参照により本明細書に組み入れられる。
【0106】
したがって、上記方法を使用して作製されるトランスジェニック構築物、導入遺伝子構築物を含むベクターおよびトランスジェニック動物は、全て本発明の態様である。
【0107】
以下の実施例により本発明をさらに例証するが、本発明はこの実施例により決して限定されることはない。
【0108】
実施例1
ヒトIgαおよびIgβを用いたウサギB細胞系のトランスフェクション
ウサギB細胞におけるヒトmIgMの発現にヒトIgαおよびIgβが及ぼす効果を実証するために、ヒトIgαもしくはIgβまたはヒトmIgMをコードする発現ベクターをこの細胞にトランスフェクションする。
【0109】
ヒトIgαおよびヒトIgβおよびヒトIgMをコードする遺伝子を発現ベクターにクローニングする。
【0110】
不死化ウサギB細胞系に発現ベクターをトランスフェクションし、ネオマイシン存在下の培地中で培養し、安定トランスフェクタントの選択に供する。ヒトIgMならびにヒトIgαおよび/またはIgβに特異的な抗体を使用するフローサイトメトリーにより耐性細胞を分析する。ヒトIgMをコードする発現ベクターを用いたウサギB細胞のトランスフェクションは、ヒトIgMの低い細胞表面発現を招く。ヒトIgαおよび/またはIgβを用いた同時トランスフェクションは、ヒトmIgMの高い細胞表面発現を招く。これは、ヒトIgαおよび/またはIgβがヒト(化)またはキメラmIgMの高い細胞表面発現に必要かつ十分であるであることを実証している。
【0111】
実施例2
ヒトIgαおよびIgβを用いた任意の動物由来B細胞系のトランスフェクション
動物由来B細胞におけるヒトmIgMの発現にヒトIgαおよびIgβが及ぼす効果を実証するために、ニワトリ(DT40)、ウシおよびブタ由来B細胞に、ヒトIgαもしくはIgβまたはヒトmIgMをコードする発現ベクターをトランスフェクションする。
【0112】
不死化B細胞系に発現ベクターをトランスフェクションし、ネオマイシン存在下の培地中で培養し、安定トランスフェクタントの選択に供する。ヒトIgMならびにヒトIgαおよび/またはIgβに特異的な抗体を使用したフローサイトメトリーにより耐性細胞を分析する。ヒトIgMをコードする発現ベクターを用いたウサギB細胞のトランスフェクションは、ヒトIgMの低い細胞表面発現を招く。ヒトIgαおよび/またはIgβを用いた同時トランスフェクションは、ヒトmIgMの高い細胞表面発現を招く。これは、ヒトIgαおよび/またはIgβがヒト(化)またはキメラmIgMの高い細胞表面発現に必要かつ十分であるであることを実証している。
【0113】
実施例3
ヒトIgαおよび/またはIgβの存在下または不在下でヒト化免疫グロブリン軽鎖および/または重鎖導入遺伝子を発現するトランスジェニックウサギ
Fanら(Pathol. Int. 49: 583-594, 1999)により記載されるようにトランスジェニックウサギを作製した。簡潔には、標準法を使用して雌ウサギから過剰排卵させ、雄ウサギと交配させた。前核段階の接合子を輸卵管から集め、20%ウシ胎仔血清を補充したDulbeccoリン酸緩衝食塩水などの適切な培地に入れた。一対のマニピュレーターの助けを借りて、外因性DNA(例えばヒト(化)免疫グロブリンローカスまたはヒトIgαもしくはヒトIgβを有する発現ベクター)を前核にマイクロインジェクションした。形態学的に生存している接合子を偽妊娠ウサギの輸卵管に移植した。偽妊娠は、ヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)の注射により誘導した。注射された接合子の約0.1〜1%が生きたトランスジェニックウサギに発育した。ゲノムへの導入遺伝子の組み込みは、PCRおよびFISHにより確認した。
【0114】
トランスジェニック創始ウサギの血清中にヒトIgGおよび/またはヒトκ軽鎖抗原決定基を有する抗体が存在することは、ELISAアッセイを使用して判定した。B細胞表面での抗体発現は、フローサイトメトリーにより分析した。ヒト(化)免疫グロブリン重鎖ローカスをコードする導入遺伝子を有するウサギは、1〜10ug/mlのヒトIgMを発現した。若い動物(6〜9週齢)は100〜4000ug/mlのヒトIgGを発現した。しかし、ヒトIgGの発現は、10〜100ug/mlのレベルに急速に低下した。末梢血中のB細胞のフローサイトメトリー分析は、少数のヒトmIgM+細胞(1〜2%)が存在することを明らかにした。若いウサギの虫垂は、最大10%のヒトmIgM+細胞を含有したが、これは齢と共に急速に消滅した。
【0115】
ヒトIgαおよび/またはIgβをコードする導入遺伝子の導入は、血清中に100〜2000ug/mlのヒト(化)IgMの発現および2000〜12000ug/mlのヒト(化)IgGの安定発現を招く。虫垂では、30〜70%のリンパ球がヒト(化)mIgM+である。末梢血では、等しい数のB細胞がウサギおよびヒト(化)mIgMまたはmIgGを発現する。
【0116】
本開示にわたり引用された全ての参考文献は、そこに引用された参考文献と共に、本明細書より参照により明白に組み入れられる。
【0117】
本発明を特定の態様を参照することにより例示するが、本発明はそれに限定されない。当業者は、様々な改変を容易に利用することができ、本発明が役立つ方法に実質的な変更を加えずに実施できることを了解しているものである。このような全ての改変は、本明細書に請求される本発明の範囲内に属することが具体的に意図される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
BCRのキメラIgαサブユニットをコードする導入遺伝子構築物であって、該キメラIgαサブユニットが、
(a)非ヒトIgαポリペプチド配列の細胞内ドメイン配列および膜貫通ドメイン配列;ならびに
(b)配列番号1のヒトIgαの細胞外ドメインと少なくとも85%の配列同一性を有するポリペプチド
を含む導入遺伝子構築物。
【請求項2】
BCRのキメラIgβサブユニットをコードする導入遺伝子構築物であって、該キメラIgβサブユニットが、
(a)非ヒトIgβサブユニットの細胞内ドメイン配列および膜貫通ドメイン配列;ならびに
(b)配列番号7のヒトIgβの細胞外ドメインと少なくとも85%の配列同一性を有するポリペプチド
を含む導入遺伝子構築物。
【請求項3】
非ヒトIgαポリペプチド配列に、ウシ(配列番号2)、マウス(配列番号3)、イヌ(配列番号4)、霊長類(配列番号5)、ウサギ(配列番号6)または他の非ヒト配列が含まれる、請求項1記載の導入遺伝子構築物。
【請求項4】
非ヒトIgβポリペプチド配列に、イヌ(配列番号8)、ラット(配列番号9)、ウシ(配列番号10)、マウス(配列番号11)、ニワトリ(配列番号12)または他の非ヒト配列が含まれる、請求項2記載の導入遺伝子構築物。
【請求項5】
(a)配列番号1の完全長ヒトIgαサブユニットもしくは請求項1記載のキメラIgαサブユニットのいずれかをコードする導入遺伝子構築物、および/または
(b)配列番号7の完全長ヒトIgβサブユニットもしくは請求項2記載のキメラIgβサブユニットのいずれかをコードする導入遺伝子構築物、ならびに
(c)ヒト(化)免疫グロブリンローカスをコードする導入遺伝子構築物
を含む非ヒトトランスジェニック動物であって、結果として生じる導入遺伝子産物が組み合わされてヒト(化)B細胞レセプター複合体を形成する非ヒトトランスジェニック動物。
【請求項6】
任意の内因性Ig産生ならびに/またはIgαおよび/もしくはIgβサブユニットの発現が、実質的に減少している、請求項5記載の非ヒトトランスジェニック動物。
【請求項7】
ウサギ、マウス、ラット、ブタ、ヒツジ、ヤギ、鳥類、ウマ、ロバおよびウシからなる群より選択される、請求項5記載の非ヒトトランスジェニック動物。
【請求項8】
ウサギである、請求項5記載の非ヒトトランスジェニック動物。
【請求項9】
抗体または抗体フラグメントのいずれかである、請求項5記載の非ヒトトランスジェニック動物由来の単離されたヒト(化)免疫グロブリン。
【請求項10】
抗体がポリクローナルまたはモノクローナル抗体である、請求項9記載の単離されたヒト(化)免疫グロブリン。
【請求項11】
抗体フラグメントがポリクローナルまたはモノクローナル抗体のフラグメントである、請求項9記載の単離されたヒト(化)免疫グロブリン。
【請求項12】
抗体または抗体フラグメントがラベルされている、請求項9記載の単離されたヒト(化)免疫グロブリン。
【請求項13】
抗体または抗体フラグメントが、毒素と融合されて免疫毒素を形成するか、または治療剤と結合される、請求項9記載の単離されたヒト(化)免疫グロブリン。
【請求項14】
抗体または抗体フラグメントが、異種アミノ酸配列と融合される、請求項9記載の単離されたヒト(化)免疫グロブリン。
【請求項15】
抗体フラグメントが、Fc、Fv、Fab、Fab’またはF(ab’)2フラグメントである、請求項11記載の単離されたヒト(化)免疫グロブリン。
【請求項16】
ネイティブなヒトIgαサブユニットもしくはキメラIgαサブユニットのいずれかおよび/またはネイティブなヒトIgβサブユニットもしくはキメラIgβサブユニットのいずれか、ならびにヒト(化)免疫グロブリンローカスを発現する、請求項5記載の非ヒトトランスジェニック動物由来の単離されたB細胞。
【請求項17】
不死化されている、請求項16記載の単離されたB細胞。
【請求項18】
B細胞がウサギ由来である、請求項16または17記載の単離されたB細胞。
【請求項19】
請求項9記載の抗体または抗体フラグメントを含む抗体調製物。
【請求項20】
薬学的に許容されうる成分との混合物中の、請求項19記載の抗体調製物を含む薬学的組成物。
【請求項21】
モノクローナル抗体またはそのフラグメントを含む、請求項20記載の薬学的組成物。
【請求項22】
一つまたは複数のポリクローナル抗体またはそのフラグメントを含む、請求項20記載の薬学的組成物。
【請求項23】
非ヒト動物においてヒト(化)抗体を産生させるための方法であって、以下:
(a)ネイティブなヒトIgαサブユニットもしくはキメラIgαサブユニットのいずれかをコードする導入遺伝子構築物、および/またはネイティブなヒトIgβサブユニットもしくはキメラIgβサブユニットのいずれかをコードする導入遺伝子構築物を該非ヒト動物に導入し、そして発現させること;
(b)ヒト(化)免疫グロブリンローカスをコードする導入遺伝子構築物を該非ヒト動物に導入し、そして発現させること;
(c)該動物を抗原刺激に供すること;ならびに
(d)該動物からヒト(化)抗体を単離すること
を含む方法。
【請求項24】
抗体がポリクローナルまたはモノクローナル抗体である、請求項23記載のヒト(化)抗体を産生させるための方法。
【請求項25】
抗体フラグメントがポリクローナルまたはモノクローナル抗体のフラグメントである、請求項23記載のヒト(化)抗体を産生させるための方法。
【請求項26】
抗体または抗体フラグメントがラベルされている、請求項23記載のヒト(化)抗体を産生させるための方法。
【請求項27】
抗体または抗体フラグメントが毒素と融合されて免疫毒素を形成するか、または治療剤と結合される、請求項23記載のヒト(化)抗体を産生させるための方法。
【請求項28】
抗体または抗体フラグメントが、異種アミノ酸配列と融合される、請求項23記載のヒト(化)抗体を産生させるための方法。
【請求項29】
ヒト(化)抗体を発現する非ヒト動物を産生させるための方法であって、
(a)ネイティブなヒトIgαサブユニットもしくはキメラIgαサブユニットのいずれかをコードする導入遺伝子構築物、および/またはネイティブなヒトIgβサブユニットもしくはキメラIgβサブユニットのいずれかをコードする導入遺伝子構築物を該非ヒト動物のB細胞に導入し、そして発現させること;ならびに
(b)ヒト(化)免疫グロブリンローカスをコードする導入遺伝子構築物を該非ヒト動物に導入し、そして発現させること
を含み、ここで結果として生じる導入遺伝子産物が組み合わされてヒト(化)B細胞レセプター複合体を形成する、方法。
【請求項30】
請求項27記載のヒト(化)抗体を発現する非ヒト動物を産生させるための方法であって、該動物が、遺伝子変換および/または体細胞超突然変異により抗体多様性を創出する方法。
【請求項31】
動物がウサギである、請求項27記載のヒト(化)抗体を発現する非ヒト動物を産生させるための方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2010−502188(P2010−502188A)
【公表日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−526893(P2009−526893)
【出願日】平成19年8月29日(2007.8.29)
【国際出願番号】PCT/US2007/077143
【国際公開番号】WO2008/027986
【国際公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【出願人】(509058025)セラピューティック・ヒューマン・ポリクローナルズ・インコーポレーテッド (1)
【氏名又は名称原語表記】THERAPEUTIC HUMAN POLYCLONALS,INC.
【Fターム(参考)】