非侵襲性の出生前診断のために有用な、母体サンプル由来の胎児核酸のメチル化に基づく濃縮のためのプロセスおよび組成物
母体とその胎児との間で差次的にメチル化されたゲノム領域を利用して、母体サンプルから胎児核酸を分離するか、単離するか、または濃縮する組成物およびプロセスが提供される。本明細書中に記載される組成物およびプロセスは、染色体異数性(chromosomal aneuplodies)の検出を含む非侵襲性の出生前診断に有用である。本技術は、とりわけ、胎児の遺伝形質の非侵襲的検出に有用なヒト後成的バイオマーカーを提供し、その遺伝形質としては、胎児核酸の存在または非存在、胎児核酸の絶対量または相対量、胎児の性別、および異数性などの胎児の染色体異常が挙げられるがこれらに限定されない。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願)
本願は、発明者がMathias Ehrichであり、代理人整理番号がSEQ−6022−PVである、「PROCESSES AND COMPOSITIONS FOR METHYLATION−BASED ENRICHMENT OF FETAL NUCLEIC ACID FROM A MATERNAL SAMPLE USEFUL FOR NON INVASIVE PRENATAL DIAGNOSES」と題された、2008年9月16日に出願された米国仮特許出願第61/192,264号の利益を主張する。この米国仮特許出願の全体の内容は、あらゆる文章、表および図面を含めて、本明細書中に参考として援用される。
【0002】
分野
バイオマーカーが、ある特定の実施形態において提供される。いくつかの実施形態において、提供されるバイオマーカーは、胎児の遺伝形質の非侵襲的検出に有用である。ある特定の胎児の遺伝形質としては、胎児核酸の存在または非存在が挙げられるがこれらに限定されない。
【背景技術】
【0003】
背景
非侵襲性の出生前検査は、急速に関心が寄せられている分野になっている。妊娠関連の状態(妊娠中の合併症および胎児の遺伝的欠陥を含む)の早期発見によって、母体と胎児の両方の安全にとって必要な早期の医学的介入が可能になるので、その早期発見は、非常に重要である。出生前診断は、絨毛生検(chorionic villus sampling)(CVS)または羊水穿刺などの手技によって胎児から単離された細胞を用いて行われている。しかしながら、これらの従来法は、侵襲性であり、母体と胎児の両方に対してかなりのリスクをもたらす。National Health Serviceは、現在、侵襲性の羊水穿刺検査後および絨毛生検(CVS)検査後の1〜2パーセントの流産率を言及している。
【0004】
循環無細胞胎児核酸が母体の血漿中および血清中で検出され得るという発見(非特許文献1;および特許文献1)の後、これらの侵襲性アプローチに代わるものが、例えば、胎児の異常を検出する出生前スクリーニングのために開発されている。循環無細胞胎児核酸(cffNA)は、それを非侵襲性の出生前検査に適用可能にするいくつかの利点を有する。例えば、無細胞核酸は、胎児の細胞よりも高いレベルで、かつ遺伝子解析に十分な濃度で、存在する。また、cffNAは、分娩後、数時間以内に母体の血流から取り除かれ、これにより、前回の妊娠からの混入が予防される。
【0005】
母体の血漿中または血清中の胎児DNAを検出することによって行われる出生前検査の例としては、胎児のrhesus D(RhD)ジェノタイピング(非特許文献2)、胎児の性別判定(非特許文献3)およびいくつかの胎児の障害の診断(非特許文献4;非特許文献5;および非特許文献6)が挙げられる。さらに、母体の血漿/血清中の胎児DNAの量的異常は、子癇前症(非特許文献7および非特許文献8)、胎児のトリソミー21(非特許文献9および非特許文献10)および妊娠悪阻(非特許文献11)において報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第6,258,540号明細書
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Loら、Lancet 350:485−487,1997
【非特許文献2】Loら、N.Engl.J.Med.339:1734−1738,1998
【非特許文献3】Costaら、N.Engl.J.Med.346:1502,2002
【非特許文献4】Amicucciら、Clin.Chem.46:301−302,2000
【非特許文献5】Saitoら、Lancet 356:1170,2000
【非特許文献6】Chiuら、Lancet 360:998−1000,2002
【非特許文献7】Loら、Clin.Chem.45:184−188,1999
【非特許文献8】Zhongら、Am.J.Obstet.Gynecol.184:414−419,2001
【非特許文献9】Loら、Clin.Chem.45:1747−1751,1999
【非特許文献10】Zhongら、Prenat.Diagn.20:795−798,2000
【非特許文献11】Sekizawaら、Clin.Chem.47:2164−2165,2001
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
要約
本技術は、とりわけ、胎児の遺伝形質の非侵襲的検出に有用なヒト後成的バイオマーカーを提供し、その遺伝形質としては、胎児核酸の存在または非存在、胎児核酸の絶対量または相対量、胎児の性別、および異数性などの胎児の染色体異常が挙げられるがこれらに限定されない。本技術のヒト後成的バイオマーカーは、胎児と母体との間で差次的なCpGメチル化パターンを示すゲノムDNAである。本技術の組成物およびプロセスは、母体サンプル中の胎児核酸のメチル化状態に基づいて前記サンプル中の胎児核酸の検出および定量を可能にする。より詳細には、母体サンプル由来の胎児核酸の量が、存在する核酸の総量に対して測定され、それにより、そのサンプル中の胎児核酸のパーセンテージが提供され得る。さらに、胎児核酸の量は、配列特異的(または遺伝子座特異的)様式で、かつ十分な感度で、測定され得ることにより、正確な染色体量決定(chromosomal dosage)解析(例えば、胎児の異数性の有無の検出)が可能になる。
【0009】
本技術のある態様において、胎児核酸と母体核酸との間の差次的なメチル化に基づいて母体の生物学的サンプルから胎児核酸を濃縮するための方法が提供され、その方法は:(a)サンプル由来の標的核酸およびサンプル由来のコントロール核酸をメチル化特異的結合タンパク質に結合する工程;および(b)メチル化の状態に基づいて、結合した核酸を溶出する工程(ここで、差次的にメチル化された核酸は、少なくとも部分的に別個の画分に溶出される)を包含する。ある実施形態において、その核酸配列は、配列番号1〜89のポリヌクレオチド配列の1つ以上を含む。配列番号1〜89は、表4に提供されている。本技術は、配列番号1〜89の配列およびそれに対するバリエーションを含む。別の実施形態では、コントロール核酸を工程(a)に含めない。
【0010】
関連実施形態において、母体サンプルから胎児核酸を濃縮するための方法が提供され、その方法は、以下の工程:(a)女性から生物学的サンプルを得る工程;(b)そのサンプル中のCpG含有ゲノム配列のメチル化の状態に基づいて、胎児核酸および母体核酸を分離する工程(ここで、胎児由来のゲノム配列と女性由来ゲノム配列とは、差次的にメチル化されており、それにより、サンプル中の女性由来のゲノム配列と胎児由来のゲノム配列とが区別される)を包含する。別の実施形態において、そのゲノム配列は、少なくとも1つのシトシンを含む少なくとも15ヌクレオチド長であり、さらに、その領域は、(1)表1から選択されるゲノム遺伝子座;および(2)その遺伝子座から10kb以下だけ上流および/または下流のDNA配列を有する。実施形態において、女性から生物学的サンプルを得る工程は、本技術の範囲を限定しない。この得る工程は、女性からサンプルを実際に回収すること(例えば、採血)または他の場所(例えば、クリニックまたは病院)からサンプルを受け取ること、およびある方法の工程を行うことを指し得る。
【0011】
別の関連実施形態において、母体サンプルから胎児核酸を濃縮するための方法が提供され、その方法は、以下の工程:(a)女性から生物学的サンプルを得る工程;(b)そのサンプル中のCpG含有ゲノム配列のメチル化の状態に基づいて、母体核酸を消化するかまたは除去する工程(ここで、胎児由来のゲノム配列と女性由来のゲノム配列とは、差次的にメチル化されており、それにより、サンプル中の胎児由来のゲノム配列が濃縮される)を包含する。母体核酸は、メチル化の状態に基づいて母体核酸を選択的に消化するかまたは切断する1つ以上のメチル化感受性制限酵素を用いて消化され得る。別の実施形態において、そのゲノム配列は、少なくとも1つのシトシンを含む少なくとも15ヌクレオチド長であり、さらに、その領域は、(1)表1から選択されるゲノム遺伝子座;および(2)その遺伝子座から10kb以下だけ上流および/または下流のDNA配列からなる。
【0012】
本技術の別の態様において、胎児核酸のヌクレオチド配列を有する核酸を調製するための方法が提供され、その方法は、以下の工程:(a)妊婦からサンプルを得る工程;(b)胎児核酸と母体核酸対応物との間の異なるメチル化の状態に従って、その妊婦のサンプル由来の母体核酸から胎児核酸を分離する工程(ここで、胎児核酸のヌクレオチド配列は、配列番号1〜89のポリヌクレオチド配列の1つを含む遺伝子または遺伝子座由来のポリヌクレオチド配列内に配列番号1〜89のポリヌクレオチド配列の1つ以上に由来する1つ以上のCpG部位を含む);および(c)パート(b)において分離された胎児核酸を鋳型として利用する増幅プロセスによって胎児核酸のヌクレオチド配列を含む核酸を調製する工程を包含する。別の実施形態において、胎児核酸のヌクレオチド配列を有する核酸を調製するための方法が提供され、その方法は、以下の工程:(a)妊婦からサンプルを得る工程;(b)胎児核酸と母体核酸対応物との間の異なるメチル化の状況に従って、妊婦のサンプルから母体核酸を消化するかまたは除去する工程(ここで、胎児核酸のヌクレオチド配列は、配列番号1〜89のポリヌクレオチド配列の1つを含む遺伝子由来のポリヌクレオチド配列内に配列番号1〜89のポリヌクレオチド配列の1つ以上に由来する1つ以上のCpG部位を含む);および(c)胎児核酸のヌクレオチド配列を含む核酸を調製する工程を包含する。工程(c)の調製プロセスは、パート(b)において分離された胎児核酸を鋳型として利用する、ハイブリダイゼーションプロセス、捕捉プロセスまたは増幅プロセスであり得る。また、母体核酸を消化する上記の実施形態において、その母体核酸は、メチル化の状態に基づいて母体核酸を選択的に消化するかまたは切断する1つ以上のメチル化感受性制限酵素を用いて消化され得る。いずれかの実施形態において、配列番号1〜89のポリヌクレオチド配列は、配列番号1〜89のポリヌクレオチド配列の1つを含むCpGアイランド由来のポリヌクレオチド配列内に存在し得る。配列番号1〜89のポリヌクレオチド配列は、さらに、配列番号1〜89に提供されているポリヌクレオチド配列と重複するCpGアイランドの特定をはじめとした特徴づけが本明細書中の表1〜3において行われている。別の実施形態において、パート(c)によって調製された核酸は、溶液中に存在する。なおも別の実施形態において、この方法は、工程(c)の増幅プロセス由来の胎児核酸を定量する工程をさらに包含する。
【0013】
本技術の別の態様において、母体核酸に関して、妊婦由来のサンプルから胎児核酸を濃縮するための方法が提供され、その方法は、以下の工程:(a)妊婦からサンプルを得る工程;および(b)胎児核酸と母体核酸との間で異なるメチル化の状況に従って、その妊婦のサンプル由来の母体核酸から胎児核酸を分離するかまたは捕捉する工程(ここで、胎児核酸のヌクレオチド配列は、配列番号1〜89のポリヌクレオチド配列の1つを含む遺伝子由来のポリヌクレオチド配列内に配列番号1〜89のポリヌクレオチド配列の1つ以上に由来する1つ以上のCpG部位を含む)を包含する。別の実施形態において、配列番号1〜89のポリヌクレオチド配列は、配列番号1〜89のポリヌクレオチド配列の1つを含むCpGアイランド由来のポリヌクレオチド配列内に存在し得る。配列番号1〜89のポリヌクレオチド配列は、本明細書中の表1において特徴づけられている。別の実施形態において、パート(b)によって分離された核酸は、溶液中に存在する。なおも別の実施形態において、その方法は、さらに、工程(b)の分離プロセスからの胎児核酸を増幅するおよび/または定量する工程を包含する。
【0014】
本技術の別の態様において、妊婦の胎児由来の単離された核酸を含む組成物が提供され、ここで、その核酸のヌクレオチド配列は、配列番号1〜89のポリヌクレオチド配列の1つ以上を含む。1つの実施形態において、そのヌクレオチド配列は、遺伝子のヌクレオチド配列またはその一部から本質的になる。別の実施形態において、そのヌクレオチド配列は、CpGアイランドのヌクレオチド配列またはその一部から本質的になる。配列番号1〜89のポリヌクレオチド配列は、表1においてさらに特徴づけられている。別の実施形態において、その核酸は、溶液中に存在する。別の実施形態において、胎児由来の核酸は、母体核酸に対して濃縮される。別の実施形態において、その組成物は、メチル化ヌクレオチドに結合する作用物質をさらに含む。例えば、その作用物質は、メチル−CpG結合タンパク質(MBD)またはそのフラグメントであり得る。
【0015】
本技術の別の態様において、妊婦の胎児由来の単離された核酸を含む組成物が提供され、ここで、その核酸のヌクレオチド配列は、配列番号1〜89のポリヌクレオチド配列の1つを含む遺伝子由来のポリヌクレオチド配列内またはその一部内に配列番号1〜89のポリヌクレオチド配列の1つ以上に由来する1つ以上のCpG部位を含む。別の実施形態において、その核酸のヌクレオチド配列は、配列番号1〜89のポリヌクレオチド配列の1つを含むCpGアイランド由来のポリヌクレオチド配列内またはその一部内に配列番号1〜89のポリヌクレオチド配列の1つ以上に由来する1つ以上のCpG部位を含む。配列番号1〜89のポリヌクレオチド配列は、表1においてさらに特徴づけられている。別の実施形態において、その核酸は、溶液中に存在する。別の実施形態において、胎児由来の核酸は、母体核酸に対して濃縮される。本技術の高メチル化核酸配列および低メチル化核酸配列は、表1において特定されている。別の実施形態において、その組成物は、さらに、メチル化ヌクレオチドに結合する作用物質を含む。例えば、その作用物質は、メチル−CpG結合タンパク質(MBD)またはそのフラグメントであり得る。
【0016】
いくつかの実施形態において、本技術のヌクレオチド配列は、3つ以上のCpG部位を含む。別の実施形態において、本ヌクレオチド配列は、5つ以上のCpG部位を含む。別の実施形態において、本ヌクレオチド配列は、PRC2ドメインを含む遺伝子領域由来である(表3を参照のこと)。別の実施形態において、本ヌクレオチド配列は、発生に関わる遺伝子領域由来である。例えば、SOX14(本技術の後成的マーカーである(表1を参照のこと))は、胚発生の制御および細胞運命の決定に関与する転写因子のSOX(SRY関連HMGボックス)ファミリーのメンバーである。
【0017】
いくつかの実施形態において、女性由来のゲノム配列は、メチル化されており、胎児由来のゲノム配列は、メチル化されていない。他の実施形態において、女性由来のゲノム配列は、メチル化されておらず、胎児由来のゲノム配列が、メチル化されている。別の実施形態において、胎児由来のゲノム配列は、母体由来のゲノム配列と比べて高メチル化されている。母体のゲノム配列と比べて高メチル化されていると見出された胎児のゲノム配列は、配列番号1〜59に提供されている。あるいは、胎児由来のゲノム配列は、母体由来のゲノム配列と比べて低メチル化されている。母体のゲノム配列と比べて低メチル化されていると見出された胎児のゲノム配列は、配列番号60〜85に提供されている。本技術のメチル化感受性制限酵素は、低メチル化核酸または高メチル化核酸に感受性であり得る。
【0018】
別の実施形態において、胎児核酸は、細胞外の核酸である。一般に、細胞外の胎児核酸は、約500、400、300、250、200または150(またはこの間に存在する任意の数の)ヌクレオチド塩基以下である。別の実施形態において、消化された母体核酸は、約90、100、110、120、130、140または150塩基対未満である。関連実施形態において、胎児核酸は、サイズに基づいて、消化された母体核酸からまたは消化された母体核酸に対して選択的に増幅されるか、捕捉されるか、または分離される。例えば、PCRプライマーは、約75、80、85、90、95、100、105、110、115または120(またはこの間に存在する任意の数の)塩基対より大きい核酸を増幅することにより、胎児核酸および未消化の母体核酸を増幅するように設計され得る。別の実施形態において、核酸は、本技術のある特定の方法(methodss)の前に、断片化に供される。核酸を断片化する方法の例としては、超音波処理および制限酵素消化が挙げられるがこれらに限定されない。いくつかの実施形態において、胎児核酸は、胎盤から得られる。他の実施形態において、胎児核酸は、アポトーシスにおけるものである。
【0019】
いくつかの実施形態において、本技術は、サンプルが、以下:母体の全血、母体の血漿または血清、羊水、絨毛サンプル、着床前の胚由来の生検材料、母体の血液から単離された胎児の有核細胞または胎児の細胞レムナント、母体の尿、母体の唾液、雌性生殖輸管の洗液、および体腔穿刺(celocentesis)または肺洗浄によって得られたサンプルから選択されるメンバーである方法を提供する。ある特定の実施形態において、生物学的サンプルは、母体の血液である。いくつかの実施形態において、生物学的サンプルは、絨毛サンプルである。ある特定の実施形態において、母体サンプルは、本技術のある特定の方法の前に胎児核酸について濃縮される。胎児の濃縮方法の例は、PCT公開番号WO/2007140417A2、WO2009/032781A2およびUS公開番号20050164241に提供されている。
【0020】
いくつかの実施形態において、本技術のある特定の方法を実施する前に、有核細胞および無核細胞の集団をサンプルから取り出す(例えば、実質的にすべての有核細胞および無核細胞の集団を取り出す)。いくつかの実施形態において、サンプルは、そのサンプル中に存在する胎児核酸の品質の低下(degradation or the quality)を最小にする当業者に公知の様式で、回収されるか、保存されるか、または輸送される。
【0021】
そのサンプルは、任意の動物に由来し得、それらとしては、ヒト、非ヒト、哺乳動物、爬虫類、ウシ、ネコ、イヌ、ヤギ、ブタ(swine)、ブタ(pig)、サル、類人猿、ゴリラ、雄ウシ、ウシ、クマ、ウマ、ヒツジ、家禽類、マウス、ラット、魚類、イルカ、クジラおよびサメ、または検出可能な妊娠関連障害もしくは染色体異常を有し得る任意の動物もしくは生物が挙げられるが、これらに限定されない。
【0022】
いくつかの実施形態において、サンプルを、メチル化DNAおよび非メチル化DNAを異なって改変する試薬で処理する。例えば、その試薬は、亜硫酸水素塩を含み得るか;またはその試薬は、メチル化DNAを優先的に切断する1つ以上の酵素を含み得るか;または、その試薬は、非メチル化DNAを優先的に切断する1つ以上の酵素を含み得る。メチル化感受性制限酵素の例としては、HhaIおよびHpaIIが挙げられるが、これらに限定されない。
【0023】
1つの実施形態において、胎児核酸は、胎児核酸中のメチル化ヌクレオチドに特異的に結合する作用物質によって母体核酸から分離される。別の実施形態において、胎児核酸は、母体核酸対応物中のメチル化ヌクレオチドに特異的に結合する作用物質によって母体核酸から分離されるかまたは除去される。ある実施形態において、メチル化ヌクレオチドに結合する作用物質は、メチル−CpG結合タンパク質(MBD)またはそのフラグメントである。
【0024】
本技術の別の態様において、差次的にメチル化された母体DNAおよび胎児DNAを含む母体サンプル中の胎児DNAの量またはコピー数を測定するための方法が提供される。その方法は、a)差次的なメチル化の状態に基づいて、母体DNAと胎児DNAとを区別する工程;およびb)工程a)の胎児DNAを定量する工程によって行われる。特定の実施形態において、その方法は、a)1つ以上のメチル化感受性制限酵素を用いて母体サンプル中の母体DNAを消化し、それにより、胎児DNAを濃縮する工程;およびb)工程a)からの胎児DNAの量を測定する工程を包含する。胎児DNAの量は、とりわけ、胎児核酸の存在または非存在を確定するため、胎児の性別を判定するため、胎児の疾患を診断するために使用され得るか、または感度もしくは特異性を改善するために他の胎児の診断法とともに使用され得る。1つの実施形態において、胎児DNAの量を測定するための方法は、多型配列の使用を必要としない。例えば、対立遺伝子比を用いずに、工程b)における胎児DNAが定量される。別の実施形態において、胎児DNAの量を測定するための方法は、シトシン残基をウラシルに変換する亜硫酸水素塩によるDNAの処理を必要としない。亜硫酸水素塩は、DNAを分解することにより、母体サンプル中に存在する、すでに限定的な胎児核酸をさらに減少させると知られている。1つの実施形態において、工程b)において胎児DNAの量を測定することは、既知濃度の1つ以上の競合物質を導入することによって行われる。別の実施形態において、工程b)において胎児DNAの量を測定することは、RT−PCR、プライマー伸長、配列決定またはカウントによって行われる。関連実施形態において、核酸の量は、米国特許公開番号US20070065823に記載されているようなBEAMing技術を用いて測定される。別の実施形態において、制限効率(restriction efficiency)が、測定され、その効率比(efficiency rate)を用いて、さらに胎児DNAの量が測定される。差次的にメチル化された例示的な核酸は、配列番号1〜89に提供されている。
【0025】
本技術の別の態様において、母体サンプル中の胎児DNAの濃度を測定するための方法が提供され(ここで、母体サンプルは、差次的にメチル化された母体DNAおよび胎児DNAを含む)、その方法は、a)母体サンプル中に存在するDNAの総量を測定する工程;b)1つ以上のメチル化感受性制限酵素を用いて母体サンプル中の母体DNAを選択的に消化することにより、胎児DNAを濃縮する工程;c)工程b)からの胎児DNAの量を測定する工程;およびd)工程c)からの胎児DNAの量を工程a)からのDNAの総量と比較することにより、母体サンプル中の胎児DNAの濃度を測定する工程を包含する。胎児DNAの濃度は、とりわけ、感度または特異性を改善するために他の胎児の診断法とともに使用され得る。1つの実施形態において、胎児DNAの量を測定するための方法は、多型配列の使用を必要としない。例えば、対立遺伝子比を用いずに、工程b)における胎児DNAが定量される。別の実施形態において、胎児DNAの量を測定するための方法は、シトシン残基をウラシルに変換する亜硫酸水素塩によるDNAの処理を必要としない。1つの実施形態において、工程b)において胎児DNAの量を測定することは、既知濃度の1つ以上の競合物質を導入することによって行われる。別の実施形態において、工程b)において胎児DNAの量を測定することは、RT−PCR、配列決定またはカウントによって行われる。別の実施形態において、制限効率が測定され、それを用いて、さらに全DNAおよび胎児DNAの量が測定される。差次的にメチル化された例示的な核酸は、配列番号1〜89に提供されている。
【0026】
本技術の別の態様において、母体サンプル由来の胎児DNAを用いて胎児の異数性の有無を判定するための方法が提供され(ここで、母体サンプルは、差次的にメチル化された母体DNAおよび胎児DNAを含む)、その方法は、a)1つ以上のメチル化感受性制限酵素を用いて母体サンプル中の母体DNAを選択的に消化することにより、胎児DNAを濃縮する工程;b)標的染色体由来の胎児DNAの量を測定する工程;c)参照染色体由来の胎児DNAの量を測定する工程;およびd)工程b)からの胎児DNAの量を工程c)からの胎児DNAの量と比較する工程(ここで、標的胎児DNAの量と参照胎児DNAの量との間の生物学的または統計学的に有意な差は、胎児の異数性の存在を示す)を包含する。1つの実施形態において、胎児DNAの量を測定するための方法は、多型配列の使用を必要としない。例えば、対立遺伝子比を用いずに、工程b)における胎児DNAが定量される。別の実施形態において、胎児DNAの量を測定するための方法は、シトシン残基をウラシルに変換する亜硫酸水素塩によるDNAの処理を必要としない。1つの実施形態において、工程b)およびc)における胎児DNAの量を測定することは、既知濃度の1つ以上の競合物質を導入することによって行われる。別の実施形態において、工程b)およびc)において胎児DNAの量を測定することは、RT−PCR、配列決定またはカウントによって行われる。別の実施形態において、工程b)において測定された標的染色体由来の胎児DNAの量は、標準コントロール、例えば、正倍数性の妊娠からの標的染色体由来の胎児DNAの量と比較される。別の実施形態において、制限効率が測定され、それを用いてさらに標的染色体由来および参照染色体由来の胎児DNAの量が測定される。差次的にメチル化された例示的な核酸は、配列番号1〜89に提供されている。
【0027】
本技術の別の態様において、差次的にメチル化された核酸のサンプル由来の標的核酸およびコントロール核酸の量またはコピー数を解析することによって染色体異常の有無を検出するための方法が提供され、その方法は:(a)メチル化の状況に基づいて、サンプルから標的核酸およびサンプルからコントロール核酸を濃縮する工程;(b)少なくとも1つの画分中の濃縮された標的核酸のコピー数の解析を行う工程;(c)少なくとも1つの画分中の濃縮されたコントロール核酸のコピー数の解析を行う工程;(d)工程(b)からのコピー数を工程(c)からのコピー数と比較する工程;および(e)工程(d)における比較に基づいて染色体異常が存在するか否かを判定する工程(ここで、標的核酸およびコントロール核酸は、同じまたは実質的に同じメチル化の状態を有する)を包含する。関連実施形態において、差次的にメチル化された核酸のサンプル由来の標的核酸およびコントロール核酸の量またはコピー数を解析することによって染色体異常の有無を検出するための方法が提供され、その方法は:(a)サンプル由来の標的核酸およびサンプル由来のコントロール核酸を結合剤に結合する工程;(b)メチル化の状態に基づいて、結合した核酸を溶出する工程(ここで、差次的にメチル化された核酸は、少なくとも部分的に別個の画分に溶出される);(c)少なくとも1つの画分中の溶出された標的核酸のコピー数の解析を行う工程;(d)少なくとも1つの画分中の溶出されたコントロール核酸のコピー数の解析を行う工程;(e)工程(c)からのコピー数を工程(d)からのコピー数と比較する工程;および(f)工程(e)における比較に基づいて染色体異常が存在するか否かを判定する工程(ここで、標的核酸およびコントロール核酸は、同じまたは実質的に同じメチル化の状態を有する)を包含する。差次的にメチル化された核酸は、配列番号1〜89に提供されている。
【0028】
本技術の別の態様において、差次的にメチル化された核酸のサンプル由来の標的核酸およびコントロール核酸の対立遺伝子比を解析することによって染色体異常の有無を検出するための方法が提供され、その方法は:(a)サンプル由来の標的核酸およびサンプル由来のコントロール核酸を結合剤に結合する工程;(b)メチル化の状態に基づいて、結合した核酸を溶出する工程(ここで、差次的にメチル化された核酸は、少なくとも部分的に別個の画分に溶出される);(c)少なくとも1つの画分中の溶出された標的核酸の対立遺伝子比の解析を行う工程;(d)少なくとも1つの画分中の溶出されたコントロール核酸の対立遺伝子比の解析を行う工程;(e)工程cからの対立遺伝子比を工程dからの対立遺伝子比と比較する工程;および(f)工程(e)における比較に基づいて染色体異常が存在するか否かを判定する工程(ここで、標的核酸およびコントロール核酸は、同じまたは実質的に同じメチル化の状態を有する)を包含する。差次的にメチル化された核酸は、配列番号1〜89に提供されており、差次的にメチル化された核酸内のSNPは、表2に提供されている。この方法は、妊娠関連障害を検出するためにも有用であり得る。
【0029】
本技術の別の態様において、母体核酸の量は、本技術のメチル化に基づく方法を用いて測定される。例えば、胎児核酸が、サンプル中の母体核酸から分離され得(例えば、メチル化感受性酵素を用いて消化され得)、母体核酸が、本技術の方法を用いて定量され得る。母体核酸の量が測定されると、その量をサンプル中の核酸の総量から減算することにより、胎児核酸の量が決定され得る。胎児核酸の量は、本明細書中に記載されるような、胎児の異数性を含む胎児の形質を検出するために使用され得る。
【0030】
本明細書中に記載される技術の態様および実施形態について、上記方法は、妊娠関連障害を検出するためにも有用であり得る。いくつかの実施形態において、サンプルは、胎児核酸、または胎児核酸および母体核酸を含む。サンプルが、胎児核酸および母体核酸を含む場合、その胎児核酸および母体核酸は、異なるメチル化の状態を有し得る。異なるメチル化の状態を有する核酸種は、当該分野で公知の任意の方法によって区別され得る。ある実施形態において、胎児核酸は、メチル化感受性制限酵素による母体核酸の選択的消化によって濃縮される。別の実施形態において、胎児核酸は、同じアッセイにおいて2つ以上のメチル化感受性制限酵素を用いる母体核酸の選択的消化によって濃縮される。ある実施形態において、標的核酸とコントロール核酸の両方が、胎児由来である。別の実施形態において、胎児核酸の平均サイズは、約100塩基長〜約500塩基長である。別の実施形態において、染色体異常は、トリソミー21などの異数性である。いくつかの実施形態において、標的核酸は、異常であり得る染色体の少なくとも一部であり、コントロール核酸は、非常にまれに異常である染色体の少なくとも一部である。例えば、標的核酸が、21番染色体に由来するとき、コントロール核酸は、21番染色体以外の染色体、好ましくは、別の常染色体由来である。別の実施形態において、結合剤は、MBD−Fcなどのメチル化特異的結合タンパク質である。また、濃縮された核酸または溶出された核酸は、当該分野で公知の任意の方法によって増幅および/または定量される。ある実施形態において、胎児DNAは、多型配列の使用を必要としない方法を用いて定量される。例えば、対立遺伝子比を用いずに、胎児DNAが定量される。別の実施形態において、胎児DNAの量を定量するための方法は、シトシン残基をウラシルに変換する亜硫酸水素塩によるDNAの処理を必要としない。
【0031】
いくつかの実施形態において、本技術の方法は、サンプル中の1つ以上のY染色体特異的配列の量を測定する追加工程を包含する。関連実施形態では、本技術のメチル化に基づく方法を用いることによって測定されるサンプル中の胎児核酸の量が、存在するY染色体核酸の量と比較される。
【0032】
メチル化の状態に基づいて核酸を区別するための方法としては、メチル化感受性捕捉、例えば、MBD2−Fcフラグメントを用いるもの;亜硫酸水素塩変換法、例えば、MSP(メチル化感受性PCR)、COBRA、メチル化感受性単一ヌクレオチドプライマー伸長(Ms−SNuPE)またはSequenom MassCLEAVETM技術;およびメチル化感受性制限酵素の使用が挙げられるが、これらに限定されない。明示的に述べられる場合を除いて、メチル化の状態に基づいて核酸を区別するための任意の方法が、本技術の組成物および方法とともに用いられ得る。
【0033】
いくつかの実施形態において、本技術の方法は、増幅工程をさらに包含し得る。増幅工程は、メチル化特異的PCRなどのPCRによって行われ得る。別の実施形態において、増幅反応は、例えば、米国特許第6,143,496号および同第6,440,706号(両方が本明細書中で参考として援用される)にさらに説明されているデジタルPCRによって、単一分子に対して行われる。他の実施形態において、本方法は、増幅を必要としない。例えば、濃縮された胎児DNAの量は、フローサイトメーターを用いて胎児DNA(またはそれに付着された配列タグ)をカウントすることによって、または増幅を必要としない配列決定手段によって、測定され得る。別の実施形態において、胎児DNAの量は、消化された母体核酸より大きいアンプリコンを生成する増幅反応によって胎児核酸をさらに濃縮することによって、測定される。
【0034】
配列解析を必要とする実施形態の場合、以下の配列決定技術:プライマー伸長法(例えば、iPLEX(登録商標);Sequenom,Inc.)、ダイレクトDNAシークエンス、制限酵素断片長多型(RFLP解析)、対立遺伝子特異的オリゴヌクレオチド(ASO)解析、メチル化特異的PCR(MSPCR)、パイロシークエンス解析、アシクロプライム(acycloprime)解析、リバースドットブロット、遺伝子チップマイクロアレイ、動的対立遺伝子特異的ハイブリダイゼーション(DASH)、ペプチド核酸(PNA)プローブおよびロックト(locked)核酸(LNA)プローブ、TaqMan、分子ビーコン、インターカレート色素、FRETプライマー、蛍光タグ化dNTP/ddNTP、AlphaScreen、SNPstream、遺伝的ビット(genetic bit)解析(GBA)、マルチプレックスミニシークエンシング、SNaPshot、GOODアッセイ、マイクロアレイminiseq、アレイ化プライマー伸長(arrayed primer extension)(APEX)、マイクロアレイプライマー伸長、タグアレイ、コード化ミクロスフェア(Coded microspheres)、鋳型特異的取り込み(Template−directed incorporation)(TDI)、蛍光偏光、比色オリゴヌクレオチドライゲーションアッセイ(OLA)、配列コード化OLA、マイクロアレイライゲーション、リガーゼ連鎖反応、パドロックプローブ、InvaderTMアッセイ、少なくとも1つのプローブを用いるハイブリダイゼーション、少なくとも1つの蛍光標識プローブを用いるハイブリダイゼーション、電気泳動、例えば、454プラットフォーム(Roche)(Margulies,M.ら、2005 Nature 437,376−380)、Illumina Genome Analyzer(またはSolexaプラットフォーム)またはSOLiD System(Applied Biosystems)において行われるような、クローニングおよびシークエンシング、またはHelicos True Single Molecule DNA配列決定技術(Harris T Dら、2008 Science,320,106−109)、Pacific Biosciencesの1分子リアルタイム(SMRT.TM.)技術、またはナノポアに基づく配列決定(Soni GV and Meller A.2007 Clin Chem 53:1996−2001)のうちのいずれか1つおよびそれらの組み合わせが使用され得る。ナノポアに基づく方法は、ナノポアを用いて核酸を配列決定する工程、またはナノポアを用いて、例えば、サイズに基づいて核酸分子をカウントする工程(ここで、配列情報は決定されない)を含み得る。
【0035】
1つ以上の核酸の絶対コピー数は、例えば、絶対コピー数測定のための競合的PCRアプローチを用いる系である質量分析を用いて決定され得る。例えば、Ding C,Cantor CR(2003)A high−throughput gene expression analysis technique using competitive PCR and matrix−assisted laser desorption ionization time−of−flight MS.Proc Natl Acad Sci USA 100:3059−3064および米国特許公開番号20040081993として公開された米国特許出願番号10/655762(この両方が本明細書中で参考として援用される)を参照のこと。
【0036】
いくつかの実施形態において、ゲノム配列の量は、標準コントロールと比較され、ここで、標準コントロールからの増加または減少が、妊娠関連障害の存在または進行を示す。例えば、胎児核酸の量は、サンプル中に存在するDNAの総量と比較され得る。または、胎児の異数性の有無を検出するとき、標的染色体由来の胎児核酸の量は、参照染色体由来の胎児核酸の量と比較され得る。好ましくは、参照染色体は、異数性の割合の低い別の常染色体である。標的胎児核酸と参照胎児核酸との比は、正常な正倍数性の妊娠からの同じ比と比較され得る。例えば、コントロール比は、染色体異常を有しない健常な胎児を有する女性から得られたDNAサンプルから決定され得る。好ましくは、コントロールサンプルのパネルが使用される。ある特定の染色体異常が既知である場合、特定の疾患または状態を示す基準も有し得る。したがって、例えば、妊婦の母体血漿中の3つの異なる染色体異数性についてスクリーニングするために、好ましくは、例えば、13番、18番または21番染色体のトリソミーを有する胎児を有すると判明している母体および染色体異常を有しない胎児を妊娠している母体から単離されたコントロールDNAのパネルが使用される。
【0037】
いくつかの実施形態において、本技術は、標的核酸由来およびコントロール核酸由来の対立遺伝子が配列変異(sequence variation)によって区別される方法を提供する。その配列変異は、単一ヌクレオチド多型(SNP)または挿入/欠失多型であり得る。ある実施形態において、胎児核酸は、染色体異常の有無を評価するために、核酸の対立遺伝子比の決定を可能にする少なくとも1つの高頻度のヘテロ接合性多型を含むべきである(例えば、約2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、11%、12%、13%、14%、15%、16%、17%、18%、19%、20%、25%またはそれ以上の頻度率)。例示的なSNPのリストは、表2に提供されているが、しかしながら、これは、本技術の一部として使用され得る多型対立遺伝子の完全なリストを表しているわけではない。以下の基準を満たす任意のSNPもまた考慮に入れられ得る:(a)SNPは、約2%より高いヘテロ接合性頻度を有する(好ましくは、一連の異なる集団にわたって)、(b)SNPは、ヘテロ接合性の遺伝子座である;および(c)(i)SNPは、本明細書中に記載される核酸配列内に存在するか、または(c)(iii)SNPは、本明細書中に記載されるSNPの約5〜約2000塩基対以内(例えば、本明細書中に記載されるSNPの約5、10、15、20、25、30、40、50、60、70、80、90、100、200、300、400、500、600、700、800、900、1000、1250、1500、1750または2000塩基対以内)に存在する。
【0038】
他の実施形態において、配列変異は、短いタンデム反復(STR)多型である。いくつかの実施形態において、配列変異は、制限酵素認識部位内に含まれ、ここで、1つの対立遺伝子は、制限酵素による消化を受けやすく、他の1つ以上の対立遺伝子は、そうではない。いくつかの実施形態において、配列変異は、メチル化部位である。
【0039】
いくつかの実施形態において、対立遺伝子比の解析の実施は、妊婦から核酸含有生物学的サンプルを得ることによって、その妊婦の胎児由来の標的核酸およびコントロール核酸の対立遺伝子比を測定する工程(ここで、その生物学的サンプルは、胎児核酸を含む)、差次的なメチル化に基づいて母体核酸から胎児核酸を部分的または全体的に分離する工程、対立遺伝子を標的核酸およびコントロール核酸と識別した後、対立遺伝子比を測定する工程、および対立遺伝子比に基づいて胎児内の染色体障害の有無を検出する工程(ここで、正常な正倍数性の比よりも高いまたは低い比は、染色体障害を示す)を包含する。1つの実施形態において、標的核酸は、疑いのある異数性染色体(例えば、21番染色体)由来のものであり、コントロール核酸は、同じ胎児の正倍数性染色体由来のものである。
【0040】
いくつかの実施形態において、本技術は、複数の染色体異常の有無を検出するために、他の胎児マーカーと併用され、ここで、染色体異常は、以下:トリソミー21、トリソミー18およびトリソミー13またはそれらの組み合わせから選択される。いくつかの実施形態において、染色体障害は、X染色体またはY染色体が関与する。
【0041】
いくつかの実施形態において、本組成物またはプロセスは、単一反応において多重化され得る。例えば、胎児核酸の量は、ゲノム全体にわたる複数の遺伝子座において測定され得る。または、胎児の異数性の有無を検出するとき、胎児核酸の量は、1つ以上の標的染色体(例えば、13、18または21番染色体)上および1つ以上の参照染色体上の複数の遺伝子座において測定され得る。対立遺伝子比が用いられる場合、表2の1つ以上の対立遺伝子が、同時に検出され、識別され得る。対立遺伝子比を測定する際、多重化実施形態は、多型遺伝子座における遺伝子型が不明であるときに特に重要である。いくつかの場合において、例えば、母体および子が、多型遺伝子座においてホモ接合性であるとき、そのアッセイは、情報的に有益でないかもしれない。1つの実施形態において、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、25、30、35、40、50、100、200、300または500を超えるレベルおよび任意の中間のレベルに、本技術のポリヌクレオチド配列が、本技術の方法に従って濃縮され、分離され、そして/または調べられる。標的核酸およびコントロール核酸のコピー数を解析することによって染色体異常を検出するとき、染色体異常の有無を正確に検出するためには、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13または14個未満のポリヌクレオチド配列が解析される必要があり得る。別の実施形態において、本技術の組成物またはプロセスは、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、25、30、35、40、50、100もしくはそれ以上の複製物または単一分子等価物に分けられたサンプルをアッセイするために使用され得る。単一分子解析を含む、複製物中の母体サンプル由来の胎児核酸を解析するための方法は、米国特許公開番号US2007−0207466A1として公開された米国出願番号11/364,294(本明細書中で参考として援用される)に提供されている。
【0042】
さらなる実施形態において、本技術は、比較工程が、対立遺伝子比または標的核酸の絶対コピー数が標準コントロール配列から1標準偏差高いまたは低い場合に、染色体障害を有する高リスクの胎児を示す方法を提供する。いくつかの実施形態において、比較工程は、対立遺伝子比または標的核酸の絶対コピー数が、標準コントロール配列から2標準偏差高いまたは低い場合に、染色体障害を有する高リスクの胎児を示す。他のいくつかの実施形態において、比較工程は、対立遺伝子比または標的核酸の絶対コピー数が、標準コントロール配列から3標準偏差高いまたは低い場合に、染色体障害を有する高リスクの胎児を示す。いくつかの実施形態において、比較工程は、対立遺伝子比または標的核酸の絶対コピー数が、コントロールから統計学的に有意な標準偏差よりも高いまたは低い場合に、染色体障害を有する高リスクの胎児を示す。1つの実施形態において、標準コントロールは、母体の参照であり、別の実施形態において、標準コントロールは、胎児の参照染色体(例えば、トリソミーでない常染色体)である。
【0043】
いくつかの実施形態において、本技術の方法は、染色体異常を診断するための他の方法と併用され得る。例えば、ある非侵襲性の診断法は、女の胎児についての性別検査またはRhD陰性母体におけるRhD陰性の女の胎児を確定するためなど、胎児核酸の存在または非存在の確定を必要とし得る。別の実施形態において、胎児核酸のパーセンテージが既知であることが必要である別の診断法を可能にするために、本技術の組成物および方法を用いることにより、母体サンプル中の胎児核酸のパーセンテージが決定され得る。例えば、サンプルがある特定の閾値濃度の必要条件を満たしているか?対立遺伝子比を決定することにより母体サンプルから胎児の異数性を診断するとき、胎児核酸の量または濃度が、所与の感度および特異性で診断するために必要とされ得る。他の実施形態において、染色体異常を検出するための本技術の組成物および方法は、他の公知の方法と併用されることにより、その検出方法の全体的な感度および特異性が改善され得る。例えば、数学的モデルは、母体の年齢(MA)、項部浮腫(NT)の厚さ、無血清ベータ−hCGおよび血清中PAPP−Aを利用する妊娠第一期スクリーニングプログラムの併用が、侵襲性の検査では5%という比率であるのに対して、80%を超えるダウン症候群を有する胎児を検出し得ることを示唆している(Wald and Hackshaw,Prenat Diagn 17(9):921−9(1997))。しかしながら、本明細書中に記載される非侵襲性の胎児核酸に基づく方法と組み合わされる通常使用される異数性検出方法の併用は、より低い偽陽性率で精度を改善し得る。併用される診断法の例は、本明細書中で参考として援用されるPCT公開番号WO2008157264A2(本出願人に譲渡)に記載されている。いくつかの実施形態において、本技術の方法は、細胞ベースの方法と併用され得、ここで、胎児の細胞は、侵襲的または非侵襲的に獲得され得る。
【0044】
ある特定の実施形態において、染色体異常に対する高リスクは、本明細書中に提供される組成物または方法からもたらされた成果または結果に基づく。成果の例は、正倍数性の絶対コピー数または対立遺伝子比からのずれであり、それは、染色体異数性の存在を示す。この標準コントロールからの絶対コピー数または比の増加または減少は、染色体異常(例えば、トリソミー21)を有する胎児を有する高リスクを示す。本明細書中に記載される方法に関係する情報(例えば、トリソミーまたは異数性の成果、結果またはリスク)は、例えば、任意の適当な媒体に焼き付けられ(transfixed)得、解釈表現され得、記録され得、および/または表示され得る。例えば、成果は、その成果を保存するか、格納するか、共有するか、通信するか、または別途解析するために媒体に焼き付けられ得る。媒体は、有形(例えば、紙)または無形(例えば、電子媒体)であり得、媒体の例としては、コンピュータ媒体、データベース、カルテ、患者カルテ、記録、患者記録、グラフおよび表ならびに他の任意の表現媒体が挙げられるが、これらに限定されない。その情報は、時折、コンピュータ読み取り可能な形態で保存および/または解釈表現され、時折、データベース内に保存され、整理される。ある特定の実施形態において、その情報は、物理的媒体(例えば、紙)またはコンピュータ可読媒体(例えば、光学的記憶装置および/もしくは磁気記憶装置または伝送媒体、フロッピー(登録商標)ディスク、ハードディスク、ランダムアクセス記憶装置、コンピュータプロセシングユニット、ファクシミリ信号、衛星信号、インターネットを利用した伝送もしくはワールドワイドウェブを利用した伝送)を用いて、1つの場所から別の場所に移され得る。
【0045】
CpGアイランドは、いくつかの場合においてCpG含有ゲノム配列として使用され得る一方、他の場合では、CpG含有ゲノム配列は、CpGアイランドでないかもしれない。いくつかの実施形態において、本技術は、本技術の方法を行うためのキットを提供する。そのキットの1つの構成要素は、メチル化感受性結合剤である。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】図1は、差次的にメチル化されたDNAを分離するために使用される組換えMBD−Fcタンパク質の構造を示している。
【図2】図2は、メチル−CpGに結合する抗体様タンパク質が、好ましくは、CpGジヌクレオチドにおいてメチル化DNAである、その「抗原」に対して高親和性および高アビディティーを有することを示している。
【図3】図3は、MBD−FCのメチル結合ドメインが、メチル化の状態に関係なくDNA分子に結合することを示している。このタンパク質/DNA相互作用の強度は、DNAメチル化のレベルによって定義される。ゲノムDNAに結合した後、溶出溶液の塩濃度を徐々に高くすることにより、非メチル化DNAとメチル化DNAとが分画され得、管理された分離が可能になる。
【図4】図4は、組換えMBD−Fcタンパク質およびマイクロアレイを用いて、胎児および母体由来の差次的にメチル化されたDNAを同定するために使用される実験を示している。
【図5】図5は、図4に図示された実験からもたらされた結果を検証するために使用されたSequenom(登録商標)EpiTYPERTM法によってもたらされた代表的な結果を示している。
【図6】図6は、マイクロアレイ解析から得られたlog比(x軸)とEpiTYPER解析によって得られたメチル化の差(y軸)との相関関係を示している。各データポイントは、測定されたすべてのサンプルに対する1つの領域についての平均である。母体DNAの高度にメチル化された画分が、胎盤DNAの高度にメチル化された画分とハイブリダイズするので、マイクロアレイ解析は、本質的には相対的なものである。正の値は、胎盤サンプルのより高いメチル化を示す。質量分析では、各サンプルを個別に測定する。本発明者らは、まず、胎盤のメチル化の値から母体のメチル化の値を減じることによって、メチル化の差を計算した。この結果をマイクロアレイデータと比較するために、本発明者らは、すべての母体/胎盤DNA対についての差の平均を計算した。
【図7】図7は、母体のメチル化の平均と胎盤のメチル化の平均との差をマイクロアレイの結果を比較している。
【図8】図8は、予想されたgDNA分子の数と、質量分析と併用の競合PCRによって測定された分子の数との相関関係を示している。この実験において、本発明者らは、全血に由来するDNA(黒色十字の記号)および市販の完全にメチル化されたDNA(赤色十字)を90対10の比で使用した。本発明者らは、非メチル化DNAの画分とメチル化DNAの画分とを分離するためにMBD−FC融合タンパク質を使用した。各画分を、質量分析の読み出しとともに、競合PCR解析に供した。この方法は、コピー数のばらつきの解析について先に報告されており、遺伝子発現解析について商業的に利用可能である。このアプローチは、既知濃度の合成オリゴヌクレオチドの助けによってDNA分子の絶対的な定量を可能にする。この実験では、本発明者らは、ここで用いられた全血サンプル中でメチル化されていなかったMGMT遺伝子座を標的にした。合計300コピーのgDNAを投入したとき、本発明者らは、270コピーの非メチル化DNAおよび30コピーのメチル化DNAがみられると予想する。測定されるコピー数は、期待値とおおむね一致する。600コピーの投入DNAにおけるデータポイントは、この反応の偏りを示唆しており、このアッセイが使用され得る前に、この実験コンセプトの最初の証明が、より開発的な研究によって追跡される必要があることを示している。しかしながら、この最初のデータは、過剰量の非メチル化DNA種の存在下において数コピーのメチル化DNAを捕捉するためおよび定量するためのアプローチの実行可能性を示唆している。
【図9】図9A〜9Cは、ゲノム位置に関する、マイクロアレイ解析(黒色の棒)および質量分析(薄灰色の棒)から得られたメチル化の差の棒グラフのプロットを示している。マイクロアレイによって差次的にメチル化されていると同定された85個の領域の各々について、個別のプロットが提供されている。各プロットに対するx軸は、その領域の染色体の位置を示している。y軸は、log比(log ration)(マイクロアレイの場合)およびメチル化の差(質量分析の結果の場合)を示している。マイクロアレイについては、その領域における各ハイブリダイゼーションプローブが、1本の黒色(または濃い灰色)の棒として示されている。質量分析の結果については、各CpG部位が、薄灰色の棒として示されている。0より大きい値を示している棒は、母体DNAと比べて胎盤サンプル中のDNAメチル化が高いことを示唆している。いくつかの遺伝子について、差は小さい(すなわち、RB1またはDSCR6)にもかかわらず、統計学的に有意である。それらの領域は、胎児DNA濃縮ストラテジーにはあまり適切でない。
【図10】図10は、胎児の定量方法(Fetal Quantifier Method)の一実施形態を示している。母体核酸を選択的に消化し、残りの胎児核酸を、既知濃度の競合物質を用いて定量する。この模式図では、被検体を分離し、そして質量分析計(mass spectromter)によって定量している。
【図11】図11は、メチル化に基づく胎児の診断法の一実施形態を示している。母体核酸を選択的に消化し、残りの胎児核酸を、3つの異なる染色体(13、18および21)について定量する。この図のパート2および3は、消化の前後のサンプル中の核酸のサイズ分布を図示している。この増幅反応は、消化された母体核酸よりも長い未消化の胎児核酸が好まれることにより胎児核酸がさらに濃縮されるように、サイズ特異的(例えば、100塩基対を超えるアンプリコン)であり得る。この図の下のスペクトルは、トリソミー21を示す、胎児の21番染色体の核酸の量が増加していることを示している。
【図12】図12は、非妊婦の血液から単離された4つの異なるDNAサンプルからの増幅可能なゲノムコピーの総数を示している。1反応物あたり約2500、1250、625または313コピーを含むように各サンプルを希釈した。2つの総コピー数アッセイ(表XにおけるALBおよびRNAseP)から得られたDNA/競合物質の平均比を得ることによって、各測定値を得た。図12に示されるように、総コピー数は、様々なサンプルにわたって正確かつ安定であるので、この競合物質ベースのアプローチの有用性が確認された。
【図13A】様々な量の男児のメチル化胎盤DNAがスパイクインされ、一定数の非メチル化母体DNAを含むモデルシステムが作製された。それらのサンプルには、非メチル化母体DNAに対して約0〜25%の範囲の男児の胎盤の量が加えられた。総コピー数アッセイと比較したときのメチル化アッセイ(図13A)およびY染色体マーカー(図13B)から得られた比を用いて、胎盤DNAの割合が計算された。メチル化マーカーおよびY染色体マーカーは、表Xに提供されている。
【図13B】様々な量の男児のメチル化胎盤DNAがスパイクインされ、一定数の非メチル化母体DNAを含むモデルシステムが作製された。それらのサンプルには、非メチル化母体DNAに対して約0〜25%の範囲の男児の胎盤の量が加えられた。総コピー数アッセイと比較したときのメチル化アッセイ(図13A)およびY染色体マーカー(図13B)から得られた比を用いて、胎盤DNAの割合が計算された。メチル化マーカーおよびY染色体マーカーは、表Xに提供されている。
【図14】図14AおよびBは、血漿サンプルからの総コピー数アッセイの結果を示している。図14Aでは、各サンプルに対するコピー数が示されている。2つのサンプル(25および26番)は、他のすべてのサンプルよりも著しく高い総コピー数を有する。約1300個の増幅可能なコピー/ml血漿という平均を得た(766〜2055の範囲)。図14Bは、それらの結果を要約している所与の値の箱ひげ図を示している。
【図15】男の胎児を妊娠している妊婦から採取された33個の異なる血漿サンプル由来の胎児核酸の量(またはコピー数)がプロットされている。得られたコピー数は、表Xに提供されるアッセイを用いて、メチル化マーカーおよびY染色体特異的マーカーを使用して計算された。図15Bに見られるように、所与の値の箱ひげ図は、2つの異なる測定値間の最小の差を示しており、ゆえに、この方法の正確度および安定性が確認された。
【図16】図16は、図15Aからのメチル化マーカー 対 Y染色体マーカーを用いて得られた結果間の対をなした相関関係を示している。
【図17】図17は、コントロール 対 競合物質に対する消化の比を用い、この値を平均総コピー数アッセイと比べたときの制限酵素の消化効率を示している。サンプル26は別として、すべての反応が、約99%より高い効率を示している。
【図18】図18は、男児を妊娠している場合はY染色体特異的マーカーを用いて、およびすべての妊娠の場合(胎児の性別に関係なく)にはメチル化画分の平均を用いて、サンプル中の胎児DNAの画分(または濃度)を計算するための特定の方法を提供している。
【図19】図19は、Y染色体特異的マーカーを用いずにサンプル中の胎児DNAの画分(または濃度)を計算するための特定の方法を提供している。代わりに、メチル化を定量するためのアッセイだけを用いて、胎児DNAの濃度が測定された。
【図20】図20は、本技術の方法を用いて、シミュレートされたトリソミー21診断に対するt検定の検出力計算を示している。この図は、x軸の変動係数(CV)と、単純なt検定を用いてアッセイ集団を識別する検出力(y軸)との関係を示している。このデータは、すべての場合の99%において、この2つの集団(正倍数性 対 異数性)が、5%またはそれ以下のCVをもたらす0.001という有意水準で識別され得ることを示唆している。
【発明を実施するための形態】
【0047】
定義
用語「妊娠関連障害」は、本願において使用される場合、妊婦、胎児または妊婦と胎児の両方に影響し得る任意の状態または疾患のことを指す。そのような状態または疾患は、限られた期間中、例えば、妊娠中もしくは分娩中にその症状を顕わし得るか、または出生後の胎児の全生涯期間において継続し得る。妊娠関連障害のいくつかの例としては、子宮外妊娠、子癇前症、早産、RhD不適合、トリソミー21などの胎児の染色体異常、および遺伝学的に遺伝する胎児の障害(例えば、嚢胞性線維症、ベータ−サラセミアまたは他の単一遺伝子障害)が挙げられる。母体サンプルから胎児核酸(fetal nucleic)を濃縮できることは、常染色体劣性遺伝病の非侵襲性出生前診断にとって特に有用たらしめ得る(例えば、母親と父親とが同一の疾患原因変異を共有するときに、母体の血漿に基づく非トリソミー出生前診断のために調べて予め了解しておく場合)。
【0048】
用語「染色体異常」または「異数性」は、本明細書中で使用される場合、対象染色体の構造と正常な相同染色体の構造との間のずれのことを指す。用語「正常」とは、特定の種の健常個体に見られる優勢の核型またはバンディングパターン、例えば、正倍数性のゲノム(ヒトでは、46XXまたは46XY)のことを指す。染色体異常は、数的または構造的であり得、それらとしては、異数性、倍数性、逆位、トリソミー、モノソミー、重複、欠失、染色体の一部の欠失、付加、染色体の一部の付加、挿入、染色体のフラグメント、染色体の領域、染色体再編成および転座が挙げられるが、これらに限定されない。染色体異常は、1つ以上の染色体の一部が、例えば、染色体転座に起因して通常の半数体の数の正確な倍数でない染色体異常の状況のことも指し得る。染色体転座(例えば、14番染色体の一部が余分な21番染色体によって置き換えられる、21番染色体と14番染色体との間の転座)は、部分的トリソミー21を引き起こし得る。染色体異常は、病的状態の存在または病的状態を発症する素因と相関し得る。染色体異常は、核酸の定量的解析によって検出され得る。
【0049】
用語「核酸」および「核酸分子」は、本開示全体にわたって交換可能に使用され得る。これらの用語は、DNA(例えば、相補DNA(cDNA)、ゲノムDNA(gDNA)など)、RNA(例えば、メッセージRNA(mRNA)、低分子阻害性(short inhibitory)RNA(siRNA)、リボソームRNA(rRNA)、tRNA、マイクロRNA、胎児または胎盤によって高度に発現されるRNAなど)および/またはDNAアナログもしくはRNAアナログ(例えば、塩基アナログ、糖アナログおよび/または非天然の骨格を含むものなど)、RNA/DNAハイブリッドならびにポリアミド核酸(PNAs)などに由来する任意の組成の核酸のことを指し、これらのすべては、一本鎖または二本鎖の形態であり得、別段限定されない限り、天然に存在するヌクレオチドと同様の様式で機能し得る天然のヌクレオチドの公知のアナログを含み得る。例えば、配列番号1〜89に提供される核酸(表4を参照のこと)は、本明細書中のプロセスを行うために有用な任意の形態(例えば、線状、環状、スーパーコイル、一本鎖、二本鎖など)であり得るか、または本技術の一部としてその有用性を変化させない変異(例えば、挿入、欠失または置換)を含み得る。核酸は、ある特定の実施形態において、プラスミド、ファージ、自律複製配列(ARS)、セントロメア、人工染色体、染色体、あるいはインビトロまたは宿主細胞、細胞、細胞核もしくは細胞の細胞質において複製することができるかまたは複製されることができる他の核酸であり得るか、またはそれらに由来し得る。鋳型核酸は、いくつかの実施形態において、単一染色体に由来し得る(例えば、核酸サンプルは、二倍体生物から得られたサンプルの1本の染色体に由来し得る)。明確に限定されない限り、この用語は、参照核酸と同様の結合特性を有し、かつ天然に存在するヌクレオチドと類似の様式で代謝される、天然のヌクレオチドの公知のアナログを含む核酸を包含する。別段示されない限り、特定の核酸配列は、その保存的に改変されたバリアント(例えば、縮重コドン置換)、対立遺伝子、オルソログ、単一ヌクレオチド多型(SNPs)および相補的配列ならびに明示的に示された配列も暗黙的に包含する。具体的には、縮重コドン置換は、1つ以上の選択された(またはすべての)コドンの3番目の位置が混合塩基および/またはデオキシイノシン残基で置換されている配列を生成することによって達成され得る(Batzerら、Nucleic Acid Res.19:5081(1991);Ohtsukaら、J.Biol.Chem.260:2605−2608(1985);およびRossoliniら、Mol.Cell.Probes 8:91−98(1994))。核酸という用語は、遺伝子座、遺伝子、cDNAおよびある遺伝子によってコードされるmRNAと交換可能に使用される。この用語は、ヌクレオチドアナログから合成されたRNAまたはDNAの等価物、誘導体、バリアントおよびアナログとして、一本鎖(「センス」または「アンチセンス」、「プラス」鎖または「マイナス」鎖、「順方向」読み枠または「逆方向」読み枠)および二本鎖ポリヌクレオチドも含み得る。デオキシリボヌクレオチドには、デオキシアデノシン、デオキシシチジン、デオキシグアノシンおよびデオキシチミジンが含まれる。RNAの場合、塩基シトシンは、ウラシルで置き換えられる。鋳型核酸は、被験体から得られた核酸を鋳型として用いて調製され得る。
【0050】
「1つ以上のCpG部位を含む核酸」または「CpG含有ゲノム配列」は、本明細書中で使用される場合、ヒト胎児または妊婦などの個体のゲノム内の規定の位置におけるDNA配列のセグメントのことを指す。代表的には、「CpG含有ゲノム配列」は、少なくとも15ヌクレオチド長であり、少なくとも1つのシトシンを含む。好ましくは、CpG含有ゲノム配列は、少なくとも30、50、80、100、150、200、250または300ヌクレオチド長であり得、少なくとも2、5、10、15、20、25または30個のシトシンを含む。所与の位置における、例えば、所与の遺伝子座を中心にした領域内におけるいずれか1つの「CpG含有ゲノム配列」(表1を参照のこと)について、ヌクレオチド配列変異は、個体ごとに、および同じ個体であっても対立遺伝子ごとに存在し得る。代表的には、規定の遺伝子座を中心にしたそのような領域(例えば、CpGアイランド)は、その遺伝子座ならびに上流および/または下流の配列を含む。上流または下流の配列の各々(それぞれ、遺伝子座の5’または3’境界線から数えて)は、10kbもの長さであり得、他の場合では、5kb、2kb、1kb、500bp、200bpまたは100bpの長さであり得る。さらに、「CpG含有ゲノム配列」は、タンパク質生成のために転写されるかまたは転写されないヌクレオチド配列を含み得、そのヌクレオチド配列は、遺伝子間配列、遺伝子内配列、タンパク質コード配列、非タンパク質コード配列(例えば、転写プロモーター)またはそれらの組み合わせであり得る。
【0051】
本明細書中で使用される場合、「メチル化ヌクレオチド」または「メチル化ヌクレオチド塩基」とは、ヌクレオチド塩基上におけるメチル部分の存在のことを指し、ここで、そのメチル部分は、認められている代表的なヌクレオチド塩基には存在しない。例えば、シトシンは、そのピリミジン環上にメチル部分を含まないが、5−メチルシトシンは、そのピリミジン環の5位にメチル部分を含む。ゆえに、シトシンは、メチル化ヌクレオチドではなく、5−メチルシトシンが、メチル化ヌクレオチドである。別の例では、チミンは、そのピリミジン環の5位にメチル部分を含むが、しかしながら、本明細書中の目的について、チミンは、DNAの代表的なヌクレオチド塩基であるので、DNAに存在しても、メチル化ヌクレオチドであると考えられない。DNAに対する代表的なヌクレオシド塩基は、チミン、アデニン、シトシンおよびグアニンである。RNAに対する代表的な塩基は、ウラシル、アデニン、シトシンおよびグアニンである。それに対応して、「メチル化部位」は、メチル化が起きているかまたは起きる可能性のある標的遺伝子核酸領域における位置である。例えば、CpGを含む位置は、メチル化部位であり、ここで、シトシンは、メチル化されていてもよいし、されていなくてもよい。
【0052】
本明細書中で使用される場合、「CpG部位」または「メチル化部位」は、インビボにおいて天然に生じる事象またはインビトロにおいてヌクレオチドを化学的にメチル化するように行われる事象によってメチル化を受けやすい核酸内のヌクレオチドである。
【0053】
本明細書中で使用される場合、「メチル化核酸分子」とは、メチル化されている1つ以上のメチル化ヌクレオチドを含む核酸分子のことを指す。
【0054】
「CpGアイランド」は、本明細書中で使用される場合、機能的または構造的に逸脱したCpG密度を含むDNA配列のセグメントのことを記載する。例えば、Yamadaら(Genome Research 14:247−266,2004)は、CpGアイランドを判定するための基準のセットを報告した:CpGアイランドは、少なくとも400ヌクレオチド長でなければならず、50%超のGC含有量および0.6を超えるOCF/ECF比を有する。その他の者(Takaiら、Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.99:3740−3745,2002)は、少なくとも200ヌクレオチド長、50%超のGC含有量、および0.6を超えるOCF/ECF比を有する配列として、より厳密ではなくCpGアイランドを定義している。
【0055】
用語「後成的状況」または「後成的状態」は、本明細書中で使用される場合、1次ヌクレオチド配列以外の核酸(例えば、DNAまたはRNA)の分子レベルにおける任意の構造的特徴のことを指す。例えば、ゲノムDNAの後成的状況は、例えば、そのメチル化パターンまたは細胞のタンパク質との会合によって決定されるかまたは影響されるその二次構造または三次構造を含み得る。
【0056】
用語「メチル化プロファイル」「メチル化の状況」または「メチル化の状態」は、ゲノム配列のメチル化の状況を記載するために本明細書中で使用される場合、特定のゲノム遺伝子座におけるDNAセグメントの、メチル化に関する特性のことを指す。そのような特性としては、このDNA配列内のシトシン(C)残基のいずれかがメチル化されているか否か、メチル化されたC残基の位置、任意の特定の長さの残基におけるメチル化されたCのパーセンテージ、および例えば、対立遺伝子の起源の差に起因する、対立遺伝子のメチル化の差が挙げられるが、これらに限定されない。用語「メチル化プロファイル」または「メチル化の状態」は、生物学的サンプル中の任意の特定の長さの残基におけるメチル化されたCまたはメチル化されていないCの相対的濃度または絶対的濃度のことも指す。例えば、あるDNA配列内のシトシン(C)残基が、メチル化されている場合、その残基は、「高メチル化されている」と言及され得る;一方、あるDNA配列内のシトシン(C)残基が、メチル化されていない場合、その残基は、「低メチル化されている」と言及され得る。同様に、あるDNA配列(例えば、胎児核酸)内のシトシン(C)残基が、異なる領域由来または異なる個体由来の別の配列と比べて(例えば、母体核酸と比べて)メチル化されている場合、その配列は、その他の配列と比べて高メチル化されていると考えられる。あるいは、あるDNA配列内のシトシン(C)残基が、異なる領域由来または異なる個体(例えば、母体)由来の別の配列と比べてメチル化されていない場合、その配列は、その他の配列と比べて低メチル化されていると考えられる。これらの配列は、「差次的にメチル化されている」と言われ、より詳細には、メチル化の状態が、母体と胎児との間で異なるとき、それらの配列は、「差次的にメチル化された母体核酸および胎児核酸」と考えられる。
【0057】
用語「メチル化ヌクレオチドに結合する作用物質」は、本明細書中で使用される場合、メチル化された核酸に結合することができる物質のことを指す。その作用物質は、天然に存在するものであっても合成のものであってもよく、改変されていてもよいし、改変されていなくてもよい。1つの実施形態において、その作用物質は、異なる核酸種の分離をそれぞれのメチル化の状況に従って可能にする。メチル化ヌクレオチドに結合する作用物質の例は、WO06056480A2として公開され、本明細書中で参考として援用されるPCT特許出願番号PCT/EP2005/012707に記載されている。その記載された作用物質は、メチルCpG結合タンパク質(MBD)のファミリーに属するタンパク質のDNA結合ドメインおよび抗体のFc部分を含む二機能性ポリペプチドである(図1を参照のこと)。その組換えメチルCpG結合抗体様タンパク質は、好ましくは、CpGメチル化DNAに抗体様の様式で結合し得る。それは、そのメチルCpG結合抗体様タンパク質が、その「抗原」(好ましくは、CpGジヌクレオチドにおいてメチル化されているDNAである)に対して高親和性かつ高ビディティーを有することを意味する。その作用物質は、多価MBDでもあり得る(図2を参照のこと)。
【0058】
用語「多型」は、本明細書中で使用される場合、同じゲノム配列の様々な対立遺伝子内の配列変異のことを指す。多型を含む配列は、「多型配列」と考えられる。1つ以上の多型の検出は、単一ゲノム配列の異なる対立遺伝子の区別または2つ以上の個体間の区別を可能にする。本明細書中で使用される場合、用語「多型マーカー」または「多型配列」とは、個体間のDNA配列における遺伝的変異を示すゲノムDNAのセグメントのことを指す。そのようなマーカーとしては、単一ヌクレオチド多型(SNP)、制限酵素断片長多型(RFLP)、ジ−、トリ−またはテトラ−ヌクレオチドリピートなどの短いタンデム反復(STR)などが挙げられるが、これらに限定されない。本技術に記載の多型マーカーは、濃縮された胎児核酸サンプル中の母系対立遺伝子と父系対立遺伝子とを特異的に区別するために使用され得る。
【0059】
用語「単一ヌクレオチド多型」または「SNP」は、本明細書中で使用される場合、同じゲノム配列の様々な対立遺伝子内の単一ヌクレオチド残基に存在するポリヌクレオチド配列変異のことを指す。この変異は、そのゲノム配列がタンパク質生成時に転写される場合、ゲノム配列のコード領域または非コード領域(すなわち、プロモーターまたはイントロン領域)内に存在し得る。1つ以上のSNPの検出は、単一ゲノム配列の様々な対立遺伝子の区別または2つ以上の個体間の区別を可能にする。
【0060】
用語「対立遺伝子」は、本明細書中で使用される場合、染色体上の同じ位置を占めるDNAの遺伝子または非コード領域のいくつかの代替の形態のうちの1つである。対立遺伝子という用語は、任意の生物(細菌、ウイルス、真菌、原生動物、カビ、酵母、植物、ヒト、非ヒト、動物および古細菌(archeabacteria)を含むがこれらに限定されない)由来のDNAを記載するために使用され得る。
【0061】
用語「対立遺伝子の比」または「対立遺伝子比」は、本明細書中で使用される場合、サンプル中の一方の対立遺伝子の集団と他方の対立遺伝子の集団との比のことを指す。いくつかのトリソミーの場合において、胎児が特定の遺伝子座について3対立遺伝子であり得る可能性がある。そのような場合において、用語「対立遺伝子の比」とは、他方の対立遺伝子のうちの1つに対するいずれか1つの対立遺伝子または他方の2つの対立遺伝子に対するいずれか1つの対立遺伝子の集団の比のことを指す。
【0062】
用語「多型に基づかない定量方法」は、本明細書中で使用される場合、多型マーカーまたは多型配列の使用を必要としない、被検体(例えば、全核酸、Y染色体核酸または胎児核酸)の量を測定するための方法のことを指す。多型が、配列内に存在し得るにもかかわらず、前記多型は、その配列を定量するために必要ではない。多型に基づかない定量方法の例としては、RT−PCR、デジタルPCR、アレイに基づく方法、配列決定法、ナノポアに基づく方法、核酸に結合したビーズに基づくカウント方法および競合物質に基づく方法(ここで、1つ以上の競合物質が、既知濃度で導入されることにより、1つ以上の被検体の量が測定される)が挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態において、上記の例示的な方法のうちのいくつか(例えば、配列決定法)は、1つ以上の多型を調べないように積極的に改変されるかまたは設計される必要があり得る。
【0063】
用語「絶対量」または「コピー数」は、本明細書中で使用される場合、被検体(例えば、核酸全体または胎児核酸)の量または数のことを指す。本技術は、混合された母体サンプル中の胎児核酸の絶対量を測定するための組成物およびプロセスを提供する。絶対量または絶対コピー数は、検出に利用可能な分子の数のことであり、単位あたりのゲノム等価物として表され得る。用語「濃度」とは、混合物中または溶液中の物質の量または割合(例えば、母体核酸と胎児核酸との混合物を含む母体サンプル中の胎児核酸の量)のことを指す。その濃度は、どれくらい大量/少量であるかを表すために用いられる、別の量に対する100分率としてのパーセンテージとして表され得る。被検体(例えば、標的核酸)の数または量を測定するためのプラットフォームとしては、質量分析(mass spectrometery)、デジタルPCR、合成プラットフォームによる配列決定(例えば、パイロシークエンス)、蛍光分光法およびフローサイトメトリーが挙げられるが、これらに限定されない。
【0064】
用語「サンプル」は、本明細書中で使用される場合、核酸を含む検体のことを指す。サンプルの例としては、組織、体液(例えば、血液、血清、血漿、唾液、尿、涙、腹膜液、腹水、膣分泌物、乳汁(breast fluid)、母乳、リンパ液、脳脊髄液または粘膜分泌物)、臍帯血、絨毛、羊水、胚、2細胞期胚、4細胞期胚、8細胞期胚、16細胞期胚、32細胞期胚、64細胞期胚、128細胞期胚、256細胞期胚、512細胞期胚、1024細胞期胚、胚組織、リンパ液、脳脊髄液、粘膜分泌物もしくは他の身体滲出物、糞便、個別の細胞、または当該分野において十分に確立されたプロトコルを用いて、核酸を含むそのような起源およびミトコンドリアなどの細胞内構造物を抽出した物が挙げられるが、これらに限定されない。
【0065】
胎児DNAは、母体の血液、母体の血清、母体の血漿、胎児の細胞、臍帯血、絨毛、羊水、尿、唾液、肺洗浄液、細胞または組織を含むがこれらに限定されない起源から得ることができる。
【0066】
用語「血液」は、本明細書中で使用される場合、妊婦由来または妊娠の可能性を検査している女性由来の血液サンプルまたは血液調製物のことを指す。この用語は、全血または血液の任意の画分(例えば、慣習的に定義されるような血清および血漿)を包含する。
【0067】
用語「亜硫酸水素塩」は、本明細書中で使用される場合、メチル化されたシトシンを化学的に改変せずにシトシン(C)をウラシル(U)に化学的に変換することができる任意の適当なタイプの亜硫酸水素塩(例えば、亜硫酸水素ナトリウム)を包含し、ゆえに、DNAのメチル化の状態に基づいてDNA配列を差次的に改変するために使用され得る。
【0068】
本明細書中で使用される場合、メチル化DNAまたは非メチル化DNAを「差次的に改変する」試薬は、メチル化DNAおよび非メチル化DNAから識別可能な産物を生じさせることによってDNAのメチル化の状態の識別を可能にするプロセスにおいて、メチル化DNAおよび/または非メチル化DNAを改変する任意の試薬を包含する。そのようなプロセスとしては、化学反応(例えば、亜硫酸水素塩によるCからUへの変換)および酵素処理(例えば、メチル化依存性エンドヌクレアーゼによる切断)が挙げられ得るが、これらに限定されない。したがって、メチル化DNAを優先的に切断するかまたは消化する酵素は、そのDNAがメチル化されているときにより高効率でDNA分子を切断するかまたは消化することができる酵素であり、一方、非メチル化DNAを優先的に切断するかまたは消化する酵素は、そのDNAがメチル化されていないときに著しく高い効率を示す。
【0069】
用語「亜硫酸水素塩に基づかない方法」および「亜硫酸水素塩に基づかない定量方法」は、本明細書中で使用される場合、亜硫酸水素塩の使用を必要としない、メチル化核酸または非メチル化核酸を定量するための任意の方法のことを指す。これらの用語は、亜硫酸水素塩処理を必要としない、定量される核酸を調製するための方法のことも指す。亜硫酸水素塩に基づかない方法の例としては、1つ以上のメチル化感受性酵素を用いて核酸を消化するための方法およびメチル化の状態に基づいて核酸に結合する作用物質を用いて核酸を分離するための方法が挙げられるが、これらに限定されない。
【0070】
用語「メチル感受性酵素」および「メチル化感受性制限酵素」は、活性についてDNA認識部位のメチル化の状況に依存する、DNA制限エンドヌクレアーゼである。例えば、DNA認識配列がメチル化されていない場合に限り、そのDNA認識配列において切断するかまたは消化するメチル感受性酵素が存在する。したがって、非メチル化DNAサンプルは、メチル化DNAサンプルよりも小さいフラグメントに切られる。同様に、高メチル化DNAサンプルは、切断されない。対照的に、DNA認識配列がメチル化されている場合に限り、そのDNA認識配列において切断するメチル感受性酵素が存在する。本明細書中で使用される場合、用語「切断する」、「切る」および「消化する」は、交換可能に使用される。
【0071】
用語「標的核酸」は、本明細書中で使用される場合、その核酸が妊娠関連障害または染色体異常の一部であるか否かを判定する本明細書中に開示される方法を用いて調べられる核酸のことを指す。例えば、21番染色体由来の標的核酸は、ダウン症候群を検出する本技術の方法を用いて調べられ得る。
【0072】
用語「コントロール核酸」は、本明細書中で使用される場合、その核酸が染色体異常の一部であるか否かを判定する本明細書中に開示される方法に従って、参照核酸として使用される核酸のことを指す。例えば、21番染色体以外の染色体(本明細書中で「参照染色体」と呼ばれる)由来のコントロール核酸は、ダウン症候群を検出するための参照配列であり得る。いくつかの実施形態において、コントロール配列は、既知または所定の量を有する。
【0073】
用語「配列特異的」または「遺伝子座特異的方法」は、本明細書中で使用される場合、配列組成に基づいてゲノム内の特定の位置(または遺伝子座)における核酸を調べる(例えば、定量する)方法のことを指す。配列特異的方法または遺伝子座特異的方法は、特定の領域または染色体の定量を可能にする。
【0074】
用語「遺伝子」は、ポリペプチド鎖の生成に関与するDNAのセグメントを意味する;これは、遺伝子産物の転写/翻訳および転写/翻訳の制御に関与するコード領域の前および後の領域(リーダーおよびトレーラー(trailer))ならびに個別のコーディングセグメント(エキソン)間の介在配列(イントロン)を含む。
【0075】
本願において、用語「ポリペプチド」、「ペプチド」および「タンパク質」は、アミノ酸残基のポリマーのことを指すために本明細書中で交換可能に使用される。これらの用語は、1つ以上のアミノ酸残基が、対応する天然に存在するアミノ酸の人工的な化学模倣物であるアミノ酸ポリマー、ならびに天然に存在するアミノ酸ポリマーおよび天然に存在しないアミノ酸ポリマーに適用される。本明細書中で使用される場合、これらの用語は、完全長タンパク質(すなわち、抗原)を含む任意の長さのアミノ酸鎖を包含し、ここで、そのアミノ酸残基は、共有結合性のペプチド結合によって連結される。
【0076】
用語「アミノ酸」とは、天然に存在するアミノ酸および合成アミノ酸、ならびに天然に存在するアミノ酸に類似の様式で機能するアミノ酸アナログおよびアミノ酸模倣物のことを指す。天然に存在するアミノ酸は、遺伝暗号によってコードされるアミノ酸、ならびに後に改変されるアミノ酸、例えば、ヒドロキシプロリン、.ガンマ.−カルボキシグルタミン酸およびO−ホスホセリンである。
【0077】
アミノ酸は、本明細書中では、通常知られている3文字の記号、またはIUPAC−IUB Biochemical Nomenclature Commissionによって推奨されている1文字の記号で言及され得る。同様に、ヌクレオチドも、通常認められている1文字コードによって言及され得る。
【0078】
「プライマー」は、本明細書中で使用される場合、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)などの増幅方法において使用されることにより、様々なメチル化の状態における特定のゲノム配列(例えば、21番染色体上のCpGアイランドCGI137、PDE9AまたはCGI009内に位置する配列)に対応するポリヌクレオチド配列に基づいてヌクレオチド配列を増幅し得るオリゴヌクレオチドのことを指す。ポリヌクレオチド配列を増幅するためのPCRプライマーのうちの少なくとも1つは、その配列に対して配列特異的である。
【0079】
用語「鋳型」とは、本技術における増幅に使用され得る任意の核酸分子のことを指す。天然には二本鎖ではないRNAまたはDNAが、鋳型DNAとして使用されるために、二本鎖DNAにされ得る。任意の二本鎖DNA、または複数の様々な二本鎖DNA分子を含む調製物が、鋳型DNAとして使用されることにより、その鋳型DNAに含まれる目的の遺伝子座が増幅され得る。
【0080】
用語「増幅反応」は、本明細書中で使用される場合、核酸を1回以上コピーするためのプロセスのことを指す。実施形態において、増幅方法としては、ポリメラーゼ連鎖反応、自家持続配列反応、リガーゼ連鎖反応、RACE法(rapid amplification of cDNA ends)、ポリメラーゼ連鎖反応およびリガーゼ連鎖反応、Q−ベータファージ増幅、鎖置換増幅またはスプライスオーバーラップ伸長ポリメラーゼ連鎖反応が挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態において、単一分子の核酸が、例えば、デジタルPCRによって増幅される。
【0081】
用語「感度」は、本明細書中で使用される場合、真陽性の数値+偽陰性の数値で除された真陽性の数値のことを指し、ここで、感度(sens)は、0≦sens≦1の範囲内であり得る。理想的には、本明細書中の方法実施形態は、被験体が、実際は少なくとも1つの染色体異常または他の遺伝的障害を有するときに、少なくとも1つの染色体異常または他の遺伝的障害を有しないと誤って同定されないように、0に等しいかまたは0に近い偽陰性の数値を有する。逆に、評価は、しばしば、感度に対する補完的な測定である予測アルゴリズムが正しく陰性を分類する能力から構成されている。用語「特異性」は、本明細書中で使用される場合、真陰性の数値+偽陽性の数値で除された真陰性の数値のことを指し、ここで、感度(spec)は、0≦spec≦1の範囲内であり得る。理想的には、本明細書中の方法実施形態は、被験体が、評価される染色体異常、他の遺伝的障害を有しないときに、少なくとも1つの染色体異常、他の遺伝的障害を有すると誤って同定されないように、0に等しいかまたは0に近い偽陽性の数値を有する。ゆえに、1、すなわち100%に等しい感度および特異性を有する方法が、時折、選択される。
【0082】
1つ以上の予測アルゴリズムが、有意性を判定するため、または互いから独立してもしくは互いに依存して重みづけられ得る変数条件下において収集された検出データに意味を与えるために、使用され得る。用語「変数」は、本明細書中で使用される場合、値または値のセットを有するアルゴリズムの係数、数または関数のことを指す。例えば、変数は、増幅された核酸種のセットの設計、増幅された核酸種のセットの数、試験される胎児の遺伝的関与のパーセント、試験される母体の遺伝的関与のパーセント、アッセイされる染色体異常のタイプ、アッセイされる遺伝的障害のタイプ、アッセイされる伴性異常のタイプ、母体の年齢などであり得る。用語「独立」は、本明細書中で使用される場合、別のものによって影響を受けないことまたは別のものによって調節されないことを指す。用語「依存」は、本明細書中で使用される場合、別のものによって影響を受けることまたは別のものによって調節されることを指す。例えば、特定の染色体と、生存可能であることをもたらすその特定の染色体について生じるトリソミー事象とは、互いに依存した変数である。
【0083】
当業者は、許容可能な感度および/または特異性の範囲内で本技術のデータに対して有意性を与えるために任意のタイプの方法または予測アルゴリズムを使用し得る。例えば、予測アルゴリズム(例えば、カイ二乗検定、z検定、t検定、ANOVA(分散分析)、回帰分析、ニューラルネット、ファジー論理、隠れマルコフモデル、マルチプルモデル状態推定(multiple model state estimation)など)が、使用され得る。1つ以上の方法または予測アルゴリズムが、本技術の様々な独立変数および/または従属変数を有するデータに有意性を与えるように決定され得る。そして1つ以上の方法または予測アルゴリズムが、本技術の様々な独立変数および/または従属変数を有するデータに有意性を与えないように決定され得る。1つ以上の予測アルゴリズムの結果に基づいて本明細書中に記載される方法の様々な変数のパラメータが設定され得るか、または変更され得る(例えば、各セットにおける、解析されるセットの数、ヌクレオチド種のタイプ)。例えば、カイ二乗検定を検出データに適用することにより、特定の範囲の母体の年齢が、特定の染色体異常を有する出生児を有する可能性がより高いことと相関し、ゆえに、母体の年齢という変数は、他の変数が重みづけられるのとは異なって重みづけられ得ることが示唆され得る。
【0084】
ある特定の実施形態において、いくつかのアルゴリズムが選択されて、試験され得る。これらのアルゴリズムは、生データを用いて訓練され得る。新しい各々の生データサンプルについて、訓練されたアルゴリズムが、そのサンプルに対する分類(すなわち、トリソミーまたは正常)を割り当てる。その新しい生データサンプルの分類に基づいて、訓練されたアルゴリズムの性能が、感度および特異性に基づいて評価され得る。最終的には、最高の感度および/もしくは特異性またはそれらの組み合わせを有するアルゴリズムが、特定され得る。
【0085】
詳細な説明
緒言
母体血漿中の胎児核酸の存在は、1997年に初めて報告され、単に母体の血液サンプルの解析による非侵襲性出生前診断の可能性をもたらした(Loら、Lancet 350:485−487,1997)。現在までに、数多くの潜在的な臨床応用法が開発された。特に、母体血漿中の胎児核酸、例えば、DNAの濃度の量的異常が、子癇前症、早産、分娩前出血、侵襲性の胎盤形成、胎児のダウン症候群および他の胎児の染色体異数性をはじめとしたいくつかの妊娠関連障害と関連することが見出された。ゆえに、母体血漿中の胎児核酸解析は、母子の福祉をモニターするための強力な機構である。
【0086】
しかしながら、胎児DNAは、母体血漿中にバックグラウンドの母体DNAと共に存在する。ゆえに、Y染色体配列が、母体のDNAと最も都合良く識別可能であるので、報告されているほとんどの適用が、Y染色体配列の検出に依存している。そのようなアプローチでは、既存のアッセイが全妊娠の50%にしか適用できない(すなわち、男の胎児の場合にしか適用できない)。したがって、母体サンプルから胎児核酸を濃縮し、解析するための、性別から独立した組成物および方法の開発が非常に求められている。また、胎児核酸を定量するために多型マーカーに依存する方法は、異なる民族性において様々なヘテロ接合性の割合により適用性が限定されること(例えば、必要とされるマーカーの数を増加させることによって)に影響されやすい場合がある。
【0087】
胎児DNAおよび母体DNAが、メチル化の状態の差によって識別され得ることが以前に証明されている(米国特許第6,927,028号(本明細書中で参考として援用される))。メチル化は、後成的現象であり、DNA配列の変更を伴わずに表現型を変更するプロセスのことを指す。母体と胎児との間のDNAのメチル化の状態の差を活用することによって、母体核酸のバックグラウンド中における胎児核酸の検出および解析が成功し得る。
【0088】
本発明者らは、胎児由来(例えば、胎盤由来)の胎児DNAと母体由来、例えば、末梢血細胞由来の母体DNAとの間で差次的にメチル化された新規ゲノムポリヌクレオチドを提供する。したがって、この発見は、非侵襲性の出生前診断のために使用され得る、胎児のゲノムDNAと母体のゲノムDNAとを識別するための新規アプローチおよび胎児核酸を正確に定量するための新規方法を提供する。
【0089】
方法論
本技術の実施は、分子生物学の分野における日常的な手法を利用する。本技術において有用な一般的な方法を開示している基礎的な教科書としては、Sambrook and Russell,Molecular Cloning,A Laboratory Manual(3rd ed.2001);Kriegler,Gene Transfer and Expression:A Laboratory Manual(1990);およびCurrent Protocols in Molecular Biology(Ausubelら、eds.,1994))が挙げられる。
【0090】
核酸について、サイズは、キロベース(kb)または塩基対(bp)という単位で与えられる。これらは、アガロースゲル電気泳動もしくはアクリルアミドゲル電気泳動、配列決定された核酸、または公開されたDNA配列から得られる推定値である。タンパク質について、サイズは、キロダルトン(kDa)またはアミノ酸残基数という単位で与えられる。タンパク質サイズは、ゲル電気泳動、配列決定されたタンパク質、得られたアミノ酸配列または公開されたタンパク質配列から推定される。
【0091】
商業的に入手可能でないオリゴヌクレオチドは、Van Devanterら、Nucleic Acids Res.12:6159−6168(1984)に記載されているように自動合成装置を用いて、例えば、Beaucage & Caruthers,Tetrahedron Lett.22:1859−1862(1981)によって初めて報告された固相ホスホルアミダイトトリエステル法に従って、化学的に合成され得る。オリゴヌクレオチドの精製は、当該分野において認められた任意のストラテジー、例えば、未変性アクリルアミドゲル電気泳動、またはPearson & Reanier,J.Chrom.255:137−149(1983)に記載されているような陰イオン交換高速液体クロマトグラフィ(HPLC)を用いて行われる。
【0092】
血液サンプルの取得およびDNAの抽出
本技術は、妊娠に関連する状態もしくは障害の存在を検出するためおよび/またはその進行をモニターするための非侵襲性手段としての、母体血液中に見られる胎児DNAの分離、濃縮および解析に関する。したがって、本技術を実施する第1の工程は、妊婦から血液サンプルを得ることおよびそのサンプルからDNAを抽出することである。
【0093】
A.血液サンプルの取得
本技術の方法を用いる検査に適した在胎期間に、血液サンプルを妊婦から得る。その適当な在胎期間は、以下で述べられるように、検査される障害に応じて異なり得る。女性からの血液の回収は、病院またはクリニックが通常従う標準的なプロトコルに従って行われる。適切な量、例えば、代表的には5〜50mlの末梢血が回収され、さらなる調製の前に標準的な手順に従って保存され得る。血液サンプルは、サンプル中に存在する核酸の品質の低下を最小にする当業者に公知の様式で回収され得るか、保存され得るか、または輸送され得る。
【0094】
B.血液サンプルの調製
本技術に従う母体血液中に見られる胎児DNAの解析は、例えば、全血、血清または血漿を用いて行われ得る。母体の血液から血清または血漿を調製するための方法は、当業者に周知である。例えば、妊婦の血液は、血液凝固を防ぐために、EDTAを含むチューブまたはVacutainer SST(Becton Dickinson,Franklin Lakes,N.J.)などの専門の製品に入れられ得、次いで、遠心分離によって全血から血漿が得られ得る。他方、血清は、血液凝固後の遠心分離を用いて、または用いずに、得られ得る。遠心分離が用いられる場合、遠心分離は、代表的には、適切な速度、例えば、1,500〜3,000×gで行われるが、これに限らない。血漿または血清は、DNA抽出に向けて新しいチューブに移される前に、追加の遠心分離工程に供され得る。
【0095】
DNAは、全血の無細胞部分に加えて、女性由来の全血サンプルの遠心分離および血漿の除去の後に得られ得るバフィーコート部分に濃縮された細胞画分からも回収され得る。
【0096】
C.DNAの抽出
血液を含む生物学的サンプルからDNAを抽出するための公知の方法が数多く存在する。DNA調製の一般的な方法(例えば、Sambrook and Russell,Molecular Cloning:A Laboratory Manual 3d ed.,2001に記載されている方法)に従い得る;商業的に入手可能な様々な試薬またはキット(例えば、QiagenのQIAamp Circulating Nucleic Acid Kit、QiaAmp DNA Mini KitまたはQiaAmp DNA Blood Mini Kit(Qiagen,Hilden,Germany)、GenomicPrepTMBlood DNA Isolation Kit(Promega,Madison,Wis.)およびGFXTMGenomic Blood DNA Purification Kit(Amersham,Piscataway,N.J.))もまた、妊婦由来の血液サンプルからDNAを得るために使用され得る。これらの方法の2つ以上の組み合わせも使用され得る。
【0097】
いくつかの実施形態において、まず、1つ以上の方法によって、胎児核酸についてサンプルが濃縮され得るか、または相対的に濃縮され得る。例えば、胎児DNAと母体DNAとの識別は、本技術の組成物およびプロセス単独を用いて、または他の識別因子と組み合わせて、行われ得る。これらの因子の例としては、X染色体とY染色体との間の単一ヌクレオチドの差異、Y染色体特異的配列、ゲノムの他の場所に位置する多型、胎児DNAと母体DNAとの間のサイズの差および母体組織と胎児組織におけるメチル化パターンの差が挙げられるが、これらに限定されない。
【0098】
特定の種の核酸についてサンプルを濃縮するための他の方法は、2007年5月30日出願のPCT特許出願番号PCT/US07/69991、2007年6月15日出願のPCT特許出願番号PCT/US2007/071232、米国仮出願番号60/968,876および60/968,878(本出願人に譲渡)、(2005年11月28日出願のPCT特許出願番号PCT/EP05/012707)(これらのすべてが本明細書中で参考として援用される)に記載されている。ある特定の実施形態において、母体核酸が、サンプルから選択的に除去される(部分的に、実質的に、ほぼ完全に、または完全に)。
【0099】
核酸のメチル化特異的分離
本明細書中に提供される方法は、差次的にメチル化されたDNAのメチル化特異的分離に基づいて胎児DNAを濃縮するための代替アプローチを提供する。発生の制御に関与する多くの遺伝子が、胚性幹細胞におけるエピジェネティクスによって調節されることが最近、発見された。その結果として、複数の遺伝子が、胎児起源の核酸と母体起源の核酸との間で差次的なDNAメチル化を示すと予想され得る。いったん、これらの領域が同定されると、メチル化DNAを捕捉する手法を用いて、胎児DNAを特異的に濃縮することができる。差次的にメチル化された領域を同定するために、新規アプローチを用いて、メチル化DNAが捕捉された。このアプローチは、MBD2のメチル結合ドメインが抗体のFcフラグメントに融合されたタンパク質(MBD−FC)(Gebhard C,Schwarzfischer L,Pham TH,Schilling E,Klug M,Andreesen R,Rehli M(2006)Genomewide profiling of CpG methylation identifies novel targets of aberrant hypermethylation in myeloid leukemia.Cancer Res 66:6118−6128)を用いる。この融合タンパク質は、従来のメチル化特異的抗体よりもいくつかの利点を有する。MBD−FCは、メチル化DNAに対してより高い親和性を有し、二本鎖DNAに結合する。最も重要なことには、この2つのタンパク質は、それらがDNAに結合する方法が異なる。メチル化特異的抗体は、確率論的にDNAに結合し、これは、二成分の答えだけを得ることができることを意味する。他方、MBD−FCのメチル結合ドメインは、メチル化の状態に関係なく、DNA分子に結合する。このタンパク質−DNA相互作用の強度は、DNAのメチル化のレベルによって定義される。ゲノムDNAに結合した後、溶出液の塩濃度を徐々に高くすることにより、非メチル化DNAおよびメチル化されたDNAを分画することができ、これにより、より管理された分離が可能になる(Gebhard C,Schwarzfischer L,Pham TH,Andreesen R,Mackensen A,Rehli M(2006)Rapid and sensitive detection of CpG−methylation using methyl−binding(MB)−PCR.Nucleic Acids Res 34:e82)。その結果として、メチル−CpG免疫沈降(MCIP)と呼ばれるこの方法は、メチル化レベルに従ってゲノムDNAを濃縮することができるだけでなく、ゲノムDNAを分画することができ、これは、非メチル化DNA画分も同様に調査されるべきであるときに、特に役立つ。
【0100】
メチル化感受性制限酵素消化
本技術は、母体サンプル由来の胎児核酸の量を測定するための組成物およびプロセスも提供する。本技術は、少なくとも1つの胎児核酸領域について母体サンプルを濃縮するために、母体核酸を選択的かつ完全にまたは実質的に消化する酵素を用いて母体サンプル由来の核酸を選択的に消化することによって前記母体サンプル中の胎児核酸領域の濃縮を可能にする。好ましくは、消化効率は、約75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%超である。濃縮の後、多型配列または亜硫酸水素塩処理を必要としないことにより、女の胎児に対してもおよび様々な民族性に対しても等しく十分機能する溶液がもたらされ、そしてサンプル中に存在するコピー数の少ない胎児核酸を保存する定量方法によって、胎児核酸の量が測定され得る。
【0101】
例えば、DNA認識配列がメチル化されていない場合にそのDNA認識配列において優先的または実質的に切断するかまたは消化するメチル感受性酵素が存在する。したがって、非メチル化DNAサンプルは、メチル化DNAサンプルよりも小さいフラグメントに切られる。同様に、高メチル化DNAサンプルは、切断されない。対照的に、DNA認識配列がメチル化されている場合にだけそのDNA認識配列で切断するメチル感受性酵素が存在する。
【0102】
本技術の方法における使用に適した、非メチル化DNAを消化するメチル感受性酵素としては、HpaII、HhaI、MaeII、BstUIおよびAciIが挙げられるが、これらに限定されない。使用され得る酵素は、メチル化されていない配列CCGGだけを切るHpaIIである。使用され得る別の酵素は、メチル化されていない配列GCGCだけを切るHhaIである。両方の酵素が、New England BioLabs(登録商標),Incから入手可能である。非メチル化DNAだけを消化する2つ以上のメチル感受性酵素の組み合わせもまた使用され得る。メチル化DNAだけを消化する適当な酵素としては、認識配列GATCにおいて切るDpnI、およびAAA.sup.+タンパク質のファミリーに属し、修飾シトシンを含むDNAを切り、認識部位5’...Pu.sup.mC(N.sub.40−3000)Pu.sup.mC ...3’で切るMcrBC(New England BioLabs,Inc.,Beverly,Mass.)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0103】
特定の部位においてDNAを切るための、選択された制限酵素に対する切断の方法および手順は、当業者に周知である。例えば、New England BioLabs、Pro−Mega Biochems、Boehringer−Mannheimなどをはじめとした制限酵素の多くの供給業者が、条件、および特定の制限酵素によって切られるDNA配列のタイプに関する情報を提供している。Sambrookら(Sambrookら、Molecular Biology:A laboratory Approach,Cold Spring Harbor,N.Y.1989を参照のこと)は、制限酵素および他の酵素を用いるための方法の一般的な説明を提供している。本技術の方法において、酵素は、約95%〜100%の効率、好ましくは、約98%〜100%の効率で母体DNAの切断を可能にする条件下で使用されることが多い。
【0104】
メチル化解析のための他の方法
様々なメチル化解析手順が、当該分野で公知であり、本技術とともに使用され得る。これらのアッセイは、DNA配列内の1つまたは複数のCpGアイランドのメチル化の状況の判定を可能にする。さらに、それらの方法は、メチル化された核酸を定量するために使用され得る。そのようなアッセイは、他の手法の中でも、亜硫酸水素塩で処理されたDNAのDNA配列決定、PCR(配列特異的増幅のため)、サザンブロット解析およびメチル化感受性制限酵素の使用を含む。
【0105】
ゲノムの配列決定は、亜硫酸水素塩処理を用いることによる、DNAのメチル化パターンおよび5−メチルシトシンの分布の解析のために単純化された手法である(Frommerら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89:1827−1831,1992)。さらに、亜硫酸水素塩によって変換されたDNAから増幅されたPCR産物の制限酵素消化、例えば、Sadri & Hornsbyによって報告されている方法(Nucl.Acids Res.24:5058−5059,1996)またはCOBRA(組み合わされた亜硫酸水素塩制限解析(Combined Bisulfite Restriction Analysis))(Xiong & Laird,Nucleic Acids Res.25:2532−2534,1997)が、用いられ得る。
【0106】
COBRA解析は、少量のゲノムDNAにおいて特定の遺伝子の遺伝子座におけるDNAメチル化レベルを測定するために有用な定量的メチル化アッセイである(Xiong & Laird,Nucleic Acids Res.25:2532−2534,1997)。簡潔には、制限酵素消化を用いることにより、亜硫酸水素ナトリウムで処理されたDNAのPCR産物中のメチル化依存的配列の差が明らかになる。まず、Frommerらによって報告されている手順(Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89:1827−1831,1992)に従う標準的な亜硫酸水素塩処理によって、メチル化依存的配列の差をゲノムDNAに導入する。次いで、亜硫酸水素塩で変換されたDNAのPCR増幅を、関心のあるCpGアイランドに特異的なプライマーを用いて行った後、制限エンドヌクレアーゼ消化、ゲル電気泳動、および標識された特異的なハイブリダイゼーションプローブを用いた検出を行う。もとのDNAサンプル中のメチル化レベルは、広範囲のDNAメチル化レベルにわたって直線的な定量的様式で消化済および未消化のPCR産物の相対量によって表される。さらに、この手法は、顕微解剖されたパラフィン包埋組織サンプルから得られたDNAに確実に適用され得る。COBRA解析のための代表的な試薬(例えば、代表的なCOBRAベースキットに見られるような試薬)としては:特定の遺伝子(またはメチル化が変更されたDNA配列またはCpGアイランド)に対するPCRプライマー;制限酵素および適切な緩衝液;遺伝子ハイブリダイゼーションオリゴ;コントロールハイブリダイゼーションオリゴ;オリゴプローブ用のキナーゼ標識キット;および放射性ヌクレオチドが挙げられ得るが、これらに限定されない。さらに、亜硫酸水素塩変換試薬としては:DNA変性緩衝液;スルホン化緩衝液;DNA回収試薬またはキット(例えば、沈殿、限外濾過、アフィニティーカラム);脱スルホン化緩衝液;およびDNA回収成分が挙げられ得る。
【0107】
MethyLightTMアッセイは、PCR工程後にさらなる操作を必要としない蛍光ベースのリアルタイムPCR(TaqMan.RTM.)技術を利用するハイスループット定量的メチル化アッセイである(Eadsら、Cancer Res.59:2302−2306,1999)。簡潔には、MethyLight.TM.プロセスは、標準的な手順に従って、亜硫酸水素ナトリウム反応においてメチル化依存的配列の差の混合プールに変換されたゲノムDNAの混合サンプルから始まる(亜硫酸水素塩プロセスは、メチル化されていないシトシン残基をウラシルに変換する)。次いで、「偏りのない」(既知のCpGメチル化部位と重複しないプライマーを用いる)PCR反応または「偏りのある」(既知のCpGジヌクレオチドと重複するPCRプライマーを用いる)反応において蛍光ベースのPCRを行う。配列の識別は、増幅プロセスのレベルもしくは蛍光検出プロセスのレベルまたはその両方で生じ得る。
【0108】
MethyLightアッセイは、ゲノムDNAサンプル中のメチル化パターンについての定量的試験として使用され得、ここで、配列の識別は、プローブハイブリダイゼーションのレベルで生じる。この定量的バージョンにおいて、このPCR反応は、特定の推定メチル化部位と重複する蛍光プローブの存在下において偏りのない増幅をもたらす。投入DNAの量について偏りのないコントロールは、プライマーとプローブの両方がいかなるCpGジヌクレオチド上にも存在しない反応によって提供される。あるいは、ゲノムのメチル化についての定性試験は、既知のメチル化部位を「包含」しないコントロールオリゴヌクレオチド(「MSP」法の蛍光ベースのバージョン)または潜在的なメチル化部位を包含するオリゴヌクレオチドを用いて、偏りのあるPCRプールをプロービングすることによって達成される。
【0109】
MethyLightプロセスは、増幅プロセスにおいて「TaqMan」プローブとともに使用され得る。例えば、二本鎖ゲノムDNAが、亜硫酸水素ナトリウムで処理され、そしてTaqMan.RTM.プローブを使用して;例えば、偏りのあるプライマーおよびTaqMan.RTM.プローブ、または偏りのないプライマーおよびTaqMan.RTM.プローブを用いる、PCR反応の2セットのうちの1つに供される。そのTaqMan.RTM.プローブは、蛍光「レポーター」および「クエンチャー」分子で二重標識され、また、比較的高いGC含有量領域に特異的であるように設計され、それにより、そのプローブは、PCRサイクルにおいて順方向または逆方向プライマーよりも約10℃高い温度で融解する。これにより、TaqMan.RTM.プローブが、PCRのアニーリング/伸長工程中に完全にハイブリダイズしたままになる。Taqポリメラーゼは、PCR中に新しい鎖を酵素的に合成するので、そのTaqポリメラーゼは、最終的に、アニールしたTaqMan.RTM.プローブに達する。次いで、そのTaqポリメラーゼの5’から3’へのエンドヌクレアーゼ活性が、TaqMan.RTM.プローブを消化することによってそのプローブが無くなることにより、もはやクエンチされていないシグナルを、リアルタイム蛍光検出システムを用いて定量的検出するための蛍光レポーター分子が放出される。
【0110】
MethyLight.TM.解析のための代表的な試薬(例えば、代表的なMethyLight.TM.ベースのキットにおいて見られるような試薬)としては:特定の遺伝子(またはメチル化が変更されたDNA配列またはCpGアイランド)に対するPCRプライマー;TaqMan.RTM.プローブ;最適化されたPCR緩衝液およびデオキシヌクレオチド;ならびにTaqポリメラーゼが挙げられ得るが、これらに限定されない。
【0111】
Ms−SNuPE法は、DNAの亜硫酸水素塩処理の後の、単一ヌクレオチドプライマー伸長に基づいて、特定のCpG部位におけるメチル化の差を評価するための定量的方法である(Gonzalgo & Jones、Nucleic Acids Res.25:2529−2531、1997)。
【0112】
簡潔には、5−メチルシトシンは変化させないままメチル化されていないシトシンをウラシルに変換する亜硫酸水素ナトリウムとゲノムDNAを反応させる。次いで、亜硫酸水素塩によって変換されたDNAに特異的なPCRプライマーを用いて、所望の標的配列の増幅を行い、得られた生成物を単離し、それを目的のCpG部位をメチル化解析するための鋳型として使用する。
【0113】
少量のDNAが解析され得(例えば、顕微解剖された病理切片)、この手法は、CpG部位におけるメチル化の状態を判定するための制限酵素の利用を回避する。
【0114】
Ms−SNuPE解析のための代表的な試薬(例えば、代表的なMs−SNuPEベースのキットにおいて見られるような試薬)としては:特定の遺伝子(またはメチル化が変更されたDNA配列またはCpGアイランド)に対するPCRプライマー;最適化されたPCR緩衝液およびデオキシヌクレオチド;ゲル抽出キット;ポジティブコントロールプライマー;特定の遺伝子に対するMs−SNuPEプライマー;反応緩衝液(Ms−SNuPE反応用);ならびに放射性ヌクレオチドが挙げられ得るが、これらに限定されない。さらに、亜硫酸水素塩変換試薬としては:DNA変性緩衝液;スルホン化緩衝液;DNA回収試薬(recovery regents)またはキット(例えば、沈殿、限外濾過、アフィニティーカラム);脱スルホン化緩衝液;およびDNA回収成分が挙げられ得る。
【0115】
MSP(メチル化特異的PCR)は、メチル化感受性制限酵素の使用から独立した、CpGアイランド内の実質的に任意の群のCpG部位のメチル化の状態の評価を可能にする(Hermanら、Proc.Nat.Acad.Sci.USA 93:9821−9826,1996;米国特許第5,786,146号)。簡潔には、メチル化されていないシトシンをウラシルに変換するが、メチル化されたシトシンをウラシルに変換しない亜硫酸水素ナトリウムによってDNAを改変し、続いて、非メチル化(umnethylated)DNAに対してメチル化DNAに特異的なプライマーを用いて増幅する。MSPは、ほんの少量のDNAを必要とし、所与のCpGアイランド遺伝子座のうち0.1%のメチル化対立遺伝子に感受性であり、パラフィン包埋サンプルから抽出されたDNAに対して行われ得る。MSP解析のための代表的な試薬(例えば、代表的なMSPベースのキットにおいて見られるような試薬)としては:特定の遺伝子(またはメチル化が変更されたDNA配列またはCpGアイランド)に対する、メチル化PCRプライマーおよび非メチル化PCRプライマー、最適化されたPCR緩衝液およびデオキシヌクレオチド、ならびに特定のプローブが挙げられ得るが、これらに限定されない。
【0116】
MCA法は、ゲノムDNA内の変更されたメチル化パターンについてスクリーニングするためおよびこれらの変更に関連する特定の配列を単離するために使用され得る方法である(Toyotaら、Cancer Res.59:2307−12,1999)。簡潔には、認識部位においてシトシンのメチル化に対して異なる感度を有する制限酵素を用いることにより、原発腫瘍、細胞株および正常組織由来のゲノムDNAが消化された後、任意にプライムされるPCR増幅を行う。そのPCR産物を高分解能ポリアクリルアミドゲルにおいて分離した後、差次的なメチル化を示すフラグメントをクローニングし、配列決定する。次いで、クローニングされたフラグメントをサザン解析用のプローブとして使用することにより、これらの領域の差次的なメチル化を確かめる。MCA解析のための代表的な試薬(例えば、代表的なMCAベースのキットにおいて見られるような試薬)としては:ゲノムDNAを任意にプライミングするためのPCRプライマー;PCR緩衝液およびヌクレオチド、制限酵素および適切な緩衝液;遺伝子ハイブリダイゼーションオリゴまたはプローブ;コントロールハイブリダイゼーションオリゴまたはプローブが挙げられ得るが、これらに限定されない。
【0117】
メチル化部位を解析するための別の方法は、その後に質量分析を用いるプライマー伸長ジェノタイピング解析のために、増幅された標的を生成する最適化されたPCR増幅反応を含む、プライマー伸長アッセイである。このアッセイは、多重でも行われ得る。この方法(特に、それがジェノタイピング単一ヌクレオチド多型に関係するとき)は、PCT公開WO05012578A1およびUS公開US20050079521A1に詳細に記載されている。メチル化解析について、このアッセイは、亜硫酸水素塩によって導入された、メチル化依存的なCからTへの配列変更を検出するために採用され得る。これらの方法は、単一ウェル内において多重増幅反応および多重プライマー伸長反応(例えば、多重均一プライマー質量伸長(hME)アッセイ)を行うことにより、プライマー伸長反応に対する処理能力をさらに上げ、1反応あたりのコストを低下させるために特に有用である。
【0118】
DNAメチル化解析のための追加の4つの方法としては、制限ランドマークゲノムスキャニング法(restriction landmark genomic scanning)(RLGS,Costelloら、2000)、メチル化感受性表示差異解析(methylation−sensitive−representational difference analysis)(MS−RDA)、メチル化特異的AP−PCR(MS−AP−PCR)および部分的に融解された分子のメチル−CpG結合ドメインカラム/隔離(MBD/SPM)が挙げられる。
【0119】
本技術とともに使用され得るさらなるメチル化解析法は、以下の論文:Laird,P.W.Nature Reviews Cancer 3,253−266(2003);Biotechniques;Uhlmann,K.ら、Electrophoresis 23:4072−4079(2002)−PyroMeth;Colellaら、Biotechniques.2003 Jul;35(1):146−50;Dupont JM,Tost J,Jammes H,and Gut IG.Anal Biochem,Oct 2004;333(1):119−27;およびTooke N and Pettersson M.IVDT.Nov 2004;41に記載されている。
【0120】
ポリヌクレオチド配列の増幅および測定
メチル化差次的様式で核酸を分離した後、その核酸は、配列ベースの解析に供され得る。さらに、胎児起源の1つの特定のゲノム配列が、母体の対応物と比べて高メチル化されているかまたは低メチル化されていることが判明すると、この胎児ゲノム配列の量が、測定され得る。続いて、この量は、標準コントロール値と比較され得、ある特定の妊娠関連障害の可能性についての指標として機能し得る。
【0121】
A.ヌクレオチド配列の増幅
多くの例において、当該分野で周知のいくつかの核酸増幅手順(上に列挙したものおよび以下でさらに詳細に記載されるもの)のうちのいずれかを用いて本技術の核酸配列を増幅することが望ましい。具体的には、核酸増幅は、増幅される核酸配列に相補的な配列を含む核酸アンプリコン(コピー)の酵素的合成である。核酸増幅は、サンプル中に存在する標的配列の量が非常に少ないときに特に有益である。目的の生物またはウイルスに属するサンプル中の核酸の検出をより確実にするためにアッセイの開始時にはより少ない標的配列が必要とされるので、このアッセイの感度は、標的配列を増幅し、合成されたアンプリコンを検出することによって、大幅に改善され得る。
【0122】
種々のポリヌクレオチド増幅法が、十分に確立されており、頻繁に研究において用いられている。例えば、ポリヌクレオチド配列増幅のためのポリメラーゼ連鎖反応(PCR)の一般的な方法は、当該分野で周知であるので、本明細書中で詳細に記載しない。PCRの方法、プロトコルおよびプライマーを設計する際の原理の概説については、例えば、Innisら、PCR Protocols:A Guide to Methods and Applications,Academic Press,Inc.N.Y.,1990を参照のこと。PCRの試薬およびプロトコルは、Roche Molecular Systemsなどの商業的供給業者からも入手可能である。
【0123】
PCRは、最も一般的には、熱安定酵素を用いて、自動化されたプロセスとして行われる。このプロセスでは、反応混合物の温度は、変性領域、プライマーアニーリング領域および伸長反応領域を自動的に繰り返す。この目的のために特別に適合された機械が市販されている。
【0124】
ポリヌクレオチド配列のPCR増幅は、代表的には、本技術の実施において使用されるが、 当業者は、母体の血液サンプル中に見られるゲノム配列の増幅が、任意の公知の方法(例えば、リガーゼ連鎖反応(LCR)、転写媒介性の増幅および自家持続配列複製または核酸配列ベースの増幅(NASBA)(これらの各々は、十分な増幅をもたらす))によって達成され得ることを認識する。最近開発された分岐DNA技術もまた、特定のメチル化パターンである本技術の特定のゲノム配列の存在を定性的に証明するため、または母体血液中のこの特定のゲノム配列の量を定量的に測定するために使用され得る。臨床サンプル中の核酸配列を直接定量するための分岐DNAシグナル増幅の概説については、Nolte,Adv.Clin.Chem.33:201−235,1998を参照のこと。
【0125】
本技術の組成物およびプロセスは、デジタルPCRを用いて実施される場合、特に有用である。デジタルPCRは、Kalininaおよび共同研究者らによって初めて開発され(Kalininaら、“Nanoliter scale PCR with TaqMan detection.”Nucleic Acids Research.25;1999−2004,(1997))、さらにVogelsteinおよびKinzlerによって発展された(Digital PCR.Proc Natl Acad Sci USA.96;9236−41,(1999))。胎児の診断法とともに使用するためのデジタルPCRの適用は、Cantorらによって初めて報告され(PCT特許公開番号WO05023091A2)、続いてQuakeらによって報告された(US 特許公開番号US20070202525)(両方ともが本明細書中で参考として援用される)。デジタルPCRは、単一分子レベルにおける核酸(DNA、cDNAまたはRNA)増幅を活用し、低コピー数の核酸を定量するための非常に感度の高い方法を提供する。Fluidigm(登録商標)Corporationは、核酸のデジタル解析のためのシステムを提供している。
【0126】
B.ポリヌクレオチド配列の決定
ポリヌクレオチド配列を決定するための手法もまた、十分に確立されており、関連性のある研究分野において広く実施されている。例えば、ポリヌクレオチドを配列決定するための基本原理および一般的な手法は、分子生物学および組換え遺伝学に対する様々な研究報告および学術論文(例えば、Wallaceら、前出;SambrookおよびRussell,前出およびAusubelら、前出)に記載されている。手動または自動的に研究室において日常的に行われているDNA配列決定方法は、本技術を実施するために使用され得る。本技術の方法を実施するためのポリヌクレオチド配列の変化の検出に適したさらなる手段としては、質量分析、プライマー伸長、ポリヌクレオチドハイブリダイゼーション、リアルタイムPCRおよび電気泳動が挙げられるがこれらに限定されない。
【0127】
プライマー伸長反応の使用もまた、本技術の方法において適用され得る。プライマー伸長反応は、例えば、デオキシヌクレオチドおよび/またはジデオキシヌクレオチドを、SNP部位に隣接した領域にハイブリダイズするプライマー伸長プライマーに組み込むことによって、SNP対立遺伝子を識別することによって作用する。そのプライマーは、ポリメラーゼによって伸長される。プライマーによって伸長されたSNPは、質量分析またはビオチンなどのタグ部分によって物理的に検出され得る。そのSNP部位は、特定の標識によってタグ化された相補的なデオキシヌクレオチドまたはジデオキシヌクレオチドによってのみ伸長されるか、または特定の質量を有するプライマー伸長産物を生成するので、そのSNP対立遺伝子は、識別され得、定量され得る。
【0128】
逆転写された核酸および増幅された核酸は、改変された核酸であり得る。改変された核酸は、ヌクレオチドアナログを含み得、ある特定の実施形態において、検出可能な標識および/または捕捉剤を含み得る。検出可能な標識の例としては、フルオロフォア、放射性同位体、比色(colormetric)物質、発光物質、化学発光物質、光散乱物質、酵素などが挙げられるが、これらに限定されない。捕捉剤の例としては、抗体/抗原、抗体/抗体、抗体/抗体フラグメント、抗体/抗体レセプター、抗体/プロテインAまたはプロテインG、ハプテン/抗ハプテン、ビオチン/アビジン、ビオチン/ストレプトアビジン、葉酸/葉酸結合タンパク質、ビタミンB12/内因子、化学反応基/相補的化学反応基(例えば、スルフヒドリル/マレイミド、スルフヒドリル/ハロアセチル誘導体、アミン/イソトリオシアネート、アミン/スクシンイミジルエステルおよびアミン/スルホニルハロゲン化物)対などから選択される結合対由来の作用物質が挙げられるが、これらに限定されない。捕捉剤を有する改変された核酸が、ある特定の実施形態において、固体支持体に固定化され得る。
【0129】
質量分析は、本技術のポリヌクレオチド、例えば、PCRアンプリコン、プライマー伸長産物または標的核酸から切断される検出プローブを検出するために特に有効な方法である。そのポリヌクレオチド配列の存在は、検出されたシグナルの質量を目的のポリヌクレオチドの予想質量と比較することによって確認される。特定のポリヌクレオチド配列に対する相対的なシグナル強度、例えば、スペクトルに対する質量ピークは、特定の対立遺伝子の相対的な集団を示唆し、ゆえに、そのデータから直接対立遺伝子比を計算することが可能になる。Sequenom(登録商標)標準的iPLEXTMアッセイおよびMassARRAY(登録商標)技術を用いるジェノタイピング方法の概説については、Jurinke,C.,Oeth,P.,van den Boom,D.,“MALDI−TOF mass spectrometry:a versatile tool for high−performance DNA analysis.”Mol.Biotechnol.26,147−164(2004);およびOeth,P.ら、“iPLEXTM Assay:Increased Plexing Efficiency and Flexibility for MassARRAY(登録商標)System through single base primer extension with mass−modified Terminators.”SEQUENOM Application Note(2005)(両方が、本明細書中で参考として援用される)を参照のこと。増幅プロセス中に切断され、質量分析によって検出される切断可能な検出プローブを用いた標的核酸(target nucleic)の検出および定量の概説については、2007年12月4日に出願され、本明細書中で参考として援用される、米国特許出願番号11/950,395を参照のこと。
【0130】
配列決定技術は、処理能力およびコストに関して改善されている。配列決定技術(例えば、454プラットフォーム(Roche)(Margulies,M.ら、2005 Nature 437,376−380)、Illumina Genome Analyzer(またはSolexaプラットフォーム)もしくはSOLiD System(Applied Biosystems)またはHelicos True Single Molecule DNA配列決定技術(Harris T Dら、2008 Science,320,106−109)、Pacific Biosciencesの単一分子リアルタイム(SMRT.TM.)技術およびナノポアシーケンシング(Soni GV and Meller A.2007 Clin Chem 53:1996−2001)において達成可能な配列決定技術)によって、平行した様式での高次の多重化において、検体から単離された多くの核酸分子の配列決定が可能になる(Dear Brief Funct Genomic Proteomic 2003;1:397−416)。
【0131】
これらのプラットフォームの各々は、核酸フラグメントのクローン的に増加されたまたは増幅されていない単一分子の配列決定を可能にする。ある特定のプラットフォームは、例えば、(i)色素で修飾されたプローブのライゲーションによる配列決定(周期性のライゲーションおよび切断を含む)、(ii)パイロシークエンスおよび(iii)1分子シーケンシングを含む。ヌクレオチド配列種、増幅核酸種およびそれらから生成された検出可能な産物は、そのような配列解析プラットフォームによってヌクレオチド配列を解析する目的の「研究核酸」と考えられ得る。
【0132】
ライゲーションによる配列決定は、塩基対形成のミスマッチに対するDNAリガーゼの感度に依存する核酸配列決定法である。DNAリガーゼは、正しく塩基対形成されたDNA末端をつなげる。DNAリガーゼが、正しく塩基対形成されたDNA末端だけをつなげる能力を、蛍光標識されたオリゴヌクレオチドまたはプライマーの混合プールと組み合わせることにより、蛍光検出による配列決定が可能になる。より長い配列の読み取りは、標識が同定された後に切断され得る切断可能な結合を含むプライマーを含めることによって、得られ得る。リンカーにおける切断は、標識を除去し、ライゲーションしたプライマーの末端に5’ホスフェートを再生することにより、次回のライゲーションのためのプライマーが調製される。いくつかの実施形態において、プライマーは、2つ以上の蛍光標識(例えば、1つの蛍光標識、2、3または4つの蛍光標識)で標識され得る。
【0133】
当業者が使用し得る、ライゲーションによる配列決定に基づくシステムの例は、一般に、以下の工程を含む。研究核酸(「鋳型」)、増幅反応成分、ビーズおよびプライマーを含むエマルジョンマイクロリアクター内で、ビーズのクローン集団を調製し得る。増幅後、鋳型を変性し、ビーズの濃縮を行うことにより、望まれないビーズ(例えば、伸長していない鋳型を有するビーズ)から、伸長した鋳型を有するビーズが分離される。選択されたビーズ上の鋳型が、3’修飾を受けることにより、スライドへの共有結合が可能になり、そして修飾されたビーズは、スライドガラス上に沈着され得る。沈着チャンバーは、ビーズ充填プロセス中に、スライドを1、4または8つのチャンバーに分ける能力を付与する。配列解析にむけて、プライマーをアダプター配列にハイブリダイズさせる。4色の色素で標識されたプローブのセットは、配列決定プライマーへのライゲーションについて競合する。プローブライゲーションの特異性は、ライゲーションシリーズ中のすべての4番目および5番目の塩基を調べることによって達成される。5〜7回のライゲーション、検出および切断によって、すべての5番目の位置の色が記録される(回数は、使用されるライブラリーのタイプによって決定される)。各回のライゲーションの後、5’方向に1塩基だけ相殺された新しい相補的(complimentary)プライマーが、新たなライゲーションのために置かれる。プライマーのリセットおよびライゲーションの回(1回あたり5〜7ライゲーションサイクル)が、続けて5回繰り返されることにより、1つのタグについて25〜35塩基対の配列が生成される。メイトペア(mate−paired)シーケンシングの場合、このプロセスは、第2のタグについて繰り返される。そのようなシステムは、例えば、異種核酸を、本明細書中に記載されるプロセスによって生成された第1の増幅産物にライゲートし、第1の増幅産物を生成するために最初に使用された固体支持体と同じまたは異なる固体支持体を用いてエマルジョン増幅を行うことによって、本明細書中に記載されるプロセスによって生成された増幅産物を指数関数的に増幅するために使用され得る。そのようなシステムは、指数関数的な増幅プロセスを迂回してスライドガラス上で本明細書中に記載される固体支持体を直接選別することによって、本明細書中に記載されるプロセスによって直接生成された増幅産物を解析するためにも使用され得る。
【0134】
パイロシークエンスは、合成による配列決定に基づいた核酸配列決定法であり、ヌクレオチド取り込み時に放出されるピロホスフェートの検出に依存する。一般に、合成による配列決定は、配列を調べられている鎖に相補的なDNA鎖を、1回につき1ヌクレオチドで合成する工程を包含する。研究核酸は、固体支持体に固定化され、配列決定プライマーとハイブリダイズされ、DNAポリメラーゼ、ATPスルフリラーゼ(sulfurylase)、ルシフェラーゼ、アピラーゼ、アデノシン5’ホスホ硫酸およびルシフェリンとともにインキュベートされ得る。ヌクレオチド溶液を連続的に加え、除去する。ヌクレオチドが正しく取り込まれるとピロホスフェートが放出され、それが、ATPスルフリラーゼと相互作用し、アデノシン5’ホスホ硫酸の存在下においてATPを生成することにより、ルシフェリン反応物に燃料供給され、その反応物が化学発光シグナルを生成することにより、配列決定が可能になる。
【0135】
当業者によって使用され得る、パイロシークエンスに基づくシステムの例は、一般に、以下の工程:アダプター核酸を研究核酸にライゲートし、その研究核酸をビーズにハイブリダイズする工程;エマルジョン内で研究核酸中のヌクレオチド配列を増幅する工程;ピコリットルのマルチウェル固体支持体を用いてビーズを選別する工程;および増幅されたヌクレオチド配列をパイロシークエンス法によって配列決定する工程を含む(例えば、Nakanoら、“Single−molecule PCR using water−in−oil emulsion;”Journal of Biotechnology 102:117−124(2003))。そのようなシステムは、例えば、異種核酸を、本明細書中に記載されるプロセスによって生成される第1の増幅産物にライゲートすることによって、本明細書中に記載されるプロセスによって生成される増幅産物を指数関数的に増幅するために使用され得る。
【0136】
ある特定の1分子シーケンシング実施形態は、合成による配列決定の原理に基づくものであり、ヌクレオチド取り込みが成功した結果として光子を放射する機構として一対の蛍光共鳴エネルギー転移(一対FRET)を利用するものである。放射された光子は、全反射顕微鏡(total internal reflection microscopy)(TIRM)とともに増感または高感度の冷却電荷結合素子を用いて検出されることが多い。導入された反応溶液が、配列決定プロセスの結果として合成される成長中の核酸鎖に取り込むための正しいヌクレオチドを含むときだけ、光子が放射される。FRETに基づく1分子シーケンシングでは、エネルギーが、長距離の双極子相互作用によって2つの蛍光色素間、時折、ポリメチンシアニン色素Cy3とCy5との間を転移する。ドナーは、その特定の励起波長において励起され、その励起状態エネルギーが、アクセプター色素に非放射的に転移され、そしてそのアクセプター色素が励起される。そのアクセプター色素は、最終的には光子の放射放出によって基底状態に戻る。このエネルギー転移プロセスにおいて使用される2つの色素は、一対FRETにおいて「一対」である。Cy3は、ドナーフルオロフォアとして使用されることが多く、1つ目の標識ヌクレオチドとして取り込まれることが多い。Cy5は、アクセプターフルオロフォアとして使用されることが多く、1つ目のCy3標識ヌクレオチドが取り込まれた後の、次のヌクレオチド付加用のヌクレオチド標識として使用される。これらのフルオロフォアは、通常、各々10ナノメートル以内に存在することにより、エネルギー転移が成功する。
【0137】
1分子シーケンシングに基づいて使用され得るシステムの例は、通常、プライマーを研究核酸にハイブリダイズすることにより、複合体を生成する工程;その複合体を固相と会合させる工程;蛍光分子でタグ化されたヌクレオチドによってプライマーを繰り返し伸長する工程;および各反復後に蛍光共鳴エネルギー転移シグナルの像を捕捉する工程を含む(例えば、米国特許第7,169,314号;Braslavskyら、PNAS 100(7):3960−3964(2003))。そのようなシステムは、本明細書中に記載されるプロセスによって生成される増幅産物を直接配列決定するために使用され得る。いくつかの実施形態において、放出された線状増幅産物は、例えば、固体支持体、ビーズまたはスライドガラス上に存在する固定化された捕捉配列に相補的な配列を含むプライマーにハイブリダイズされ得る。プライマーと放出された線状増幅産物とのハイブリダイゼーションによって、固定化された捕捉配列と複合体が形成され、合成による一対FRETベースの配列決定のために、放出された線状増幅産物が固体支持体に固定化される。固定化された核酸を含むスライド表面の最初の参照像が生成され得るように、そのプライマーは、蛍光性であることが多い。その最初の参照像は、真のヌクレオチド取り込みが生じている位置を判定するために有用である。「プライマーのみ」の参照像において最初に同定されなかったアレイ位置において検出される蛍光シグナルは、非特異的蛍光として無視される。プライマーと放出された線状増幅産物との複合体を固定化した後、結合された核酸は、しばしば以下の反復工程、a)1種の蛍光標識ヌクレオチドの存在下におけるポリメラーゼ伸長、b)適切な顕微鏡、例えば、TIRMを用いた蛍光の検出、c)蛍光ヌクレオチドの除去、およびd)異なる蛍光標識ヌクレオチドを用いる工程に戻る工程によって並行して配列決定される。
【0138】
いくつかの実施形態において、ヌクレオチド配列決定は、固相1ヌクレオチド配列決定法およびプロセスによるものであり得る。固相1ヌクレオチド配列決定法は、サンプル核酸と固体支持体とを、1分子のサンプル核酸が1分子の固体支持体とハイブリダイズする条件下で接触させる工程を包含する。そのような条件は、固体支持体分子および1分子のサンプル核酸を「マイクロリアクター」内に提供することを含み得る。そのような条件は、サンプル核酸分子が固体支持体上の固相核酸にハイブリダイズし得る混合物を提供することも含み得る。本明細書中に記載される実施形態において有用な1ヌクレオチド配列決定法は、2008年1月17日出願の米国仮特許出願番号61/021,871に記載されている。
【0139】
ある特定の実施形態において、ナノポアシーケンシング検出法は、(a)配列決定のための核酸(「ベース核酸」、例えば、連結プローブ分子)を配列特異的検出物質と、その検出物質がそのベース核酸の実質的に相補的な部分配列に特異的にハイブリダイズする条件下において、接触させる工程;(b)検出物質からのシグナルを検出する工程および(c)検出されたシグナルに従ってベース核酸の配列を決定する工程を包含する。ある特定の実施形態では、ベース核酸がポアを通過するときに検出物質がナノポア構造を干渉すると、ベース核酸にハイブリダイズされた検出物質は、ベース核酸から解離され(例えば、連続的に解離され)、そのベース配列から解離された検出物質が、検出される。いくつかの実施形態において、ベース核酸から解離された検出物質は、検出可能なあるシグナルを放射し、ベース核酸にハイブリダイズされている検出物質は、異なる検出可能なシグナルを放射するか、または検出可能なシグナルを放出しない。ある特定の実施形態において、ある核酸(例えば、連結プローブ分子)内のヌクレオチドは、特定のヌクレオチドに対応する特定のヌクレオチド配列(「ヌクレオチド代表体(nucleotide representatives)」)で置換されることにより、増大された核酸が生じ(例えば、米国特許第6,723,513号)、検出物質は、増大された核酸内のヌクレオチド代表体にハイブリダイズし、それが、ベース核酸として機能する。そのような実施形態において、ヌクレオチド代表体は、2成分またはより高次の配列で配置され得る(例えば、Soni and Meller,Clinical Chemistry 53(11):1996−2001(2007))。いくつかの実施形態において、核酸は、増大されず、増大された核酸を生じず、ベース核酸として直接働き(例えば、連結プローブ分子が、増大されないベース核酸として働き)、検出物質が、そのベース核酸と直接接触される。例えば、第1の検出物質は、第1の部分配列にハイブリダイズし得、第2の検出物質は、第2の部分配列にハイブリダイズし得、ここで、第1の検出物質および第2の検出物質の各々は、互いに識別され得る検出可能な標識を有し、第1の検出物質および第2の検出物質からのシグナルは、それらの検出物質がベース核酸から解離されると、互いに識別され得る。ある特定の実施形態において、検出物質は、約3〜約100ヌクレオチド長(例えば、約4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、25、30、35、40、50、55、60、65、70、75、80、85、90または95ヌクレオチド長)であり得るベース核酸にハイブリダイズする領域(例えば、2つの領域)を含む。検出物質は、ベース核酸にハイブリダイズしない1つ以上のヌクレオチド領域も含み得る。いくつかの実施形態において、検出物質は、分子ビーコンである。検出物質は、本明細書中に記載されるものから独立して選択される1つ以上の検出可能な標識を含むことが多い。検出可能な標識の各々は、各標識(例えば、磁気的、電気的、化学的、光学的標識など)によって生成されるシグナルを検出することができる任意の好都合な検出プロセスによって検出され得る。例えば、CDカメラを用いることにより、検出物質に連結された1つ以上の識別可能な量子ドットからシグナルが検出され得る。
【0140】
ある特定の配列解析実施形態において、読み出し結果(reads)を用いることにより、より長いヌクレオチド配列が構築され得、それは、異なる読み出し結果内の重複配列を同定することおよびその読み出し結果内の識別配列を使用することによって促進され得る。読み出し結果からより長い配列を構築するためのそのような配列解析法および配列解析ソフトウェアは、当業者に公知である(例えば、Venterら、Science 291:1304−1351(2001))。特定の読み出し結果、部分的なヌクレオチド配列構築物および完全なヌクレオチド配列構築物が、ある特定の配列解析実施形態において、サンプル核酸内のヌクレオチド配列間で比較されてもよいし(すなわち、内部比較)、参照配列と比較されてもよい(すなわち、参照比較)。内部比較は時折、サンプル核酸が、複数のサンプル、または配列変異を含む単一サンプル起源から調製される状況において行われる。参照比較は時折、参照ヌクレオチド配列が既知であるとき、およびその目的が、サンプル核酸が参照ヌクレオチド配列と実質的に類似もしくは全く同じまたは異なるヌクレオチド配列を含むか否かを判定することであるときに、行われる。配列解析は、当業者に公知の配列解析装置および配列解析成分によって促進される。
【0141】
本明細書中に提供される方法は、複数の核酸における核酸種(例えば、ヌクレオチド配列種、増幅された核酸種および前述のものから生成された検出可能な産物)のハイスループット検出を可能にする。多重化とは、2つ以上の核酸種の同時検出のことを指す。質量分析とともに多重反応を行うための一般的な方法は、公知である(例えば、米国特許第6,043,031号、同第5,547,835号および国際PCT出願番号WO97/37041を参照のこと)。多重化は、各個別の標的核酸種に対して別個の質量分析を行わなければならないものと比べて、複数の核酸種(例えば、異なる配列変異を有するいくつかの核酸種)が、わずか1つの質量スペクトルにおいて同定され得るという利点を提供する。本明細書中に提供される方法は、いくつかの実施形態において、高速かつ正確に配列変異を解析するための高度に自動化されたハイスループットプロセスに適している。いくつかの実施形態において、本明細書中の方法は、単一反応において高レベルで多重化され得る。
【0142】
ある特定の実施形態において、多重化される核酸種の数としては、
【0143】
【化1】
が挙げられるがこれらに限定されない。
【0144】
多重アッセイを用いて質量スペクトルの分解を達成するための設計方法としては、プライマーおよびオリゴヌクレオチドの設計方法ならびに反応設計方法が挙げられ得る。例えば、表XおよびYに提供されている多重スキームを参照のこと。多重アッセイにおけるプライマーおよびオリゴヌクレオチドの設計については、誤ったプライミングおよびプライマーダイマーを回避することなどの一重反応に対するプライマー設計用と同じ一般的ガイドラインが、適用され、より多くのプライマーが、多重反応のために含められるだけである。質量分析に適用するために、1つのアッセイに対する質量スペクトルにおける被検体ピーク(ポージング(pausing)ピークおよび他の任意の副産物ピークを含む)は、そのアッセイと多重化される任意のアッセイの産物から十分に解明される。また、被検体ピークは、ユーザーによって指定された質量ウィンドウ、例えば、5,000〜8,500Daの範囲内に最適に入る。いくつかの実施形態において、多重解析は、例えば、染色体異常の質量分析検出に適合され得る。ある特定の実施形態において、多重解析は、本明細書中に記載される様々な1ヌクレオチド配列決定法またはナノポアベースのシーケンシング法に適合され得る。商業的に作製されている微量反応チャンバーまたはデバイスまたはアレイまたはチップを使用することにより、多重解析が容易になり得、それらは、商業的に入手可能である。
【0145】
胎児の異数性の検出
胎児の異数性を検出するために、いくつかの方法が、母親から遺伝した対立遺伝子と父親から遺伝した対立遺伝子との比の測定に依存する。しかしながら、染色体の変化を定量する能力は、無細胞核酸の母体の寄与によって損なわれ、それにより、測定の前に母体DNA由来のサンプルを枯渇させる必要がある。有望なアプローチは、胎児および母体のDNAの異なるサイズ分布を利用するか、またはもっぱら胎児によって発現されるRNAを測定する(例えば、US20060252071として公開され、本明細書中で参考として援用される米国特許出願番号11/384128を参照のこと)。胎児DNAが、母体の血漿中のすべての無細胞DNAの約5%しか構成しないと仮定すると、トリソミーサンプルと健常コントロールとの間には1.6%からたった約1.2%への比の差の減少しか存在しない。その結果として、対立遺伝子比の変化の信頼度が高い検出には、例えば、本技術の組成物および方法を用いて無細胞DNAの胎児画分を濃縮することが必要である。
【0146】
いくつかの方法が、母親から遺伝した対立遺伝子と父親から遺伝した対立遺伝子との比の測定によって母体の血漿から胎児の染色体異数性を検出することに依存する。二倍体セットは、1:1の比をもたらし、トリソミーは、2:1の比として検出され得る。この差の検出は、胎児DNAが少量であること、血漿サンプル中の過剰な母体DNAの存在、および測定手法のばらつきに起因して、統計的サンプリング法によって弱まる。後者は、デジタルPCRまたは質量分析のような高い測定精度を有する方法を用いることによって対処される。サンプル中の無細胞DNAの胎児画分を濃縮することは、現在、サイズ排除によって母体DNAを枯渇させることまたは胎児発現RNAのような胎児特異的核酸に焦点を当てることによって、達成されている。胎児DNAを区別する別の特徴は、そのDNAメチル化パターンである。したがって、胎児と母体との間の差次的なメチル化に基づいて胎児核酸を正確に定量するための新規組成物および方法が、本明細書中に提供される。それらの方法は、母体サンプルの胎児核酸部分を定量することにより胎児の形質の出生前検出が可能になる感度の高い絶対コピー数の解析に依存する。本技術の方法は、母体DNAと胎児DNAとの間で差次的にメチル化された、ゲノム内の約3000個のCpGリッチ領域を同定した。選択された領域は、測定されたすべてのサンプルにおいて、高度に保存された差次的なメチル化を示した。さらに、その領域のセットは、発生の制御において重要な遺伝子について濃縮されていることから、これらの領域の後成的制御が、生物学的に関連性があるプロセスであり、かつ生物学的に一貫したプロセスであることが示唆される(表3を参照のこと)。胎児DNAの濃縮は、現在、本発明者らのMBD−FCタンパク質を用いて無細胞DNA(例えば、実質的にすべての無細胞DNA)を捕捉し、次いで、高度にメチル化されたDNA画分を高塩濃度で溶出することによって達成され得る。低塩の溶出画分を用いると、MBD−FCは、同様に、メチル化されていない胎児DNAを濃縮することができる。
【0147】
本技術は、母体のメチル化レベルが低く、かつ胎児のメチル化レベルが高いと確認された、13、18および21番染色体上の63個のゲノム領域を提供する。これらの領域を捕捉した後、SNPを用いることにより、上述の対立遺伝子比が測定され得る。高頻度のSNPが用いられるとき、両親が対立するホモ接合体遺伝子型を有し、子供がヘテロ接合体遺伝子型を有する少なくとも1つのSNPを高信頼度で発見するために、約10個のマーカーが、測定される必要がある。
【0148】
別の実施形態において、絶対コピー数の定量を利用して染色体異常を検出するための方法が提供される。二倍体染色体セットは、すべての染色体にわたって差次的にメチル化された領域に対して同じコピー数を示すが、例えば、トリソミー21サンプルは、21番染色体上の差次的にメチル化された領域に対して1.5倍多いコピーを示し得る。二倍体染色体セットに対するゲノムDNA量の正規化は、変化していない常染色体を参照として使用することによって達成され得る(本明細書中にも提供される。表1を参照のこと)。他のアプローチと同様に、全体のコピー数が少ないので、単一マーカーが、この差の検出に十分である可能性は低い。代表的には、妊娠10〜12週の1mlの母体の血漿には約100〜200コピーの胎児DNAが存在する。しかしながら、本技術の方法は、異数性染色体セットに対して二倍体染色体セットの非常に信頼性の高い識別を可能にする検出可能なマーカーの重複をもたらす。
【0149】
データ処理および染色体異常の有無の同定
染色体異常の「検出」という用語は、本明細書中で使用される場合、増幅された核酸種、ヌクレオチド配列種、または前述のものから生成された検出可能な産物(集合的に「検出可能な産物」)のセットを検出することから生じたデータを処理することによる、染色体の不均衡の同定のことを指す。任意の適当な検出デバイスおよび検出方法が、本明細書中で扱われる検出可能な産物の1つ以上のセットを識別するために使用され得る。染色体異常の有無に関係する成果は、被験体またはサンプルに対する染色体異常の存在に関連する、確率(例えば、オッズ比、p値)、尤度、パーセンテージ、閾値に対する値または危険因子を含むがこれらに限定されない任意の適当な形態で表され得る。成果は、ある特定の実施形態において、感度、特異性、標準偏差、変動係数(CV)および/もしくは信頼水準、または前述のものの組み合わせの1つ以上によって提供され得る。
【0150】
検出可能な産物の1つ以上のセットに基づく染色体異常の検出は、感度、特異性、標準偏差、変動係数(CV)、閾値、信頼水準、スコア、確率および/またはそれらの組み合わせを含むがこれらに限定されない1つ以上の計算された変数に基づいて同定され得る。いくつかの実施形態において、(i)診断法に対して選択されたセットの数、および/または(ii)診断法に対して選択された各セットの特定のヌクレオチド配列種が、そのような計算された変数の1つ以上に従って、部分的または全体的に、測定される。
【0151】
ある特定の実施形態において、感度、特異性および/または信頼水準の1つ以上が、パーセンテージとして表される。いくつかの実施形態において、そのパーセンテージは、各変数に対して独立して、約90%超(例えば、約90、91、92、93、94、95、96、97、98もしくは99%、または99%超(例えば、約99.5%またはそれ以上、約99.9%またはそれ以上、約99.95%またはそれ以上、約99.99%またはそれ以上))である。変動係数(CV)は、いくつかの実施形態において、パーセンテージとして表され、そのパーセンテージは、時折、約10%またはそれ以下(例えば、約10、9、8、7、6、5、4、3、2もしくは1%、または1%未満(例えば、約0.5%またはそれ以下、約0.1%またはそれ以下、約0.05%またはそれ以下、約0.01%またはそれ以下))である。確率(例えば、アルゴリズムによって測定される特定の成果が偶然に起因しない確率)は、ある特定の実施形態において、p値として表され、そのp値は、時折、約0.05またはそれ以下(例えば、約0.05、0.04、0.03、0.02もしくは0.01、または0.01未満(例えば、約0.001またはそれ以下、約0.0001またはそれ以下、約0.00001またはそれ以下、約0.000001またはそれ以下))である。
【0152】
例えば、スコアリングまたはスコアは、特定の染色体異常が被験体/サンプル中に実際に存在するかまたは存在しない確率を計算することを指し得る。スコアの値は、例えば、実際の染色体異常に対応し得る増幅された核酸(nucleic)の検出可能な産物の変動、差異または比を決定するために使用され得る。例えば、検出可能な産物から陽性スコアが計算されることにより、単一サンプルの解析に特に関連性のある染色体異常が同定され得る。
【0153】
ある特定の実施形態において、シミュレートされた(またはシミュレーション)データは、例えば、アルゴリズムを訓練するかまたはアルゴリズムを試験することによって、データ処理を助け得る。シミュレートされたデータは、例えば、血清、血漿などにおける様々な濃度の胎児および母体の核酸の様々な仮定のサンプルを含み得る。シミュレートされたデータは、現実の集団から予想され得るものに基づき得るか、またはアルゴリズムを試験するためおよび/もしくはシミュレートされたデータセットに基づいて正確な分類を割り当てるために偏っている場合がある。シミュレートされたデータは、本明細書中で「仮想」データとも呼ばれる。サンプル内における胎児/母体の寄与が、数の表もしくはアレイとして(例えば、参照生体分子または増幅された核酸配列の切断産物の質量シグナルに対応するピークのリストとして)、質量スペクトルとして、ゲル上のバンドパターンとして、または質量分布を測定する任意の手法の表示として、シミュレートされ得る。シミュレーションは、ほとんどの例において、コンピュータプログラムによって行われ得る。シミュレートされたデータセットを使用する際の1つのありうる工程は、同定された結果の信頼度、すなわち、選択された陽性/陰性が、どれくらい十分にそのサンプルに当てはまっているか、およびそれに加わる変動があるか否かを評価することである。通常のアプローチは、選択されたものよりも良いスコアを有するランダムなサンプルの確率を推定する確率値(p値)を計算することである。p値の計算が、ある特定の状況で許容され得ない場合、経験的なモデルが評価されてもよく、この経験的なモデルでは、少なくとも1つのサンプルが(変動の分解の有無にかかわらず)基準となるサンプルに当てはまると仮定される。あるいは、ポアソン分布などの他の分布が、確率分布を説明するために使用され得る。
【0154】
ある特定の実施形態において、アルゴリズムが、計算された真陽性、真陰性、偽陽性および偽陰性に対して信頼度の値を割り当て得る。染色体異常発生の尤度の割り当てもまた、ある特定の確率モデルに基づき得る。
【0155】
シミュレートされたデータは、しばしば、インシリコプロセスにおいて生成される。本明細書中で使用される場合、用語「インシリコ」とは、コンピュータを用いて行われる調査および実験のことを指す。インシリコ方法としては、分子モデリング研究、核型分析、遺伝的計算、生体分子ドッキング実験および分子構造の仮想表現、ならびに/または分子相互作用などのプロセスが挙げられるが、これらに限定されない。
【0156】
本明細書中で使用される場合、「データ処理ルーチン」とは、取得したデータの生物学的意義(すなわち、アッセイの最終結果)を決定する、ソフトウェアに含まれ得るプロセスのことを指す。例えば、データ処理ルーチンは、収集されたデータに基づいて各ヌクレオチド配列種の量を決定し得る。データ処理ルーチンは、決定された結果に基づいて、機器および/またはデータ収集ルーチンも管理し得る。データ処理ルーチンおよびデータ収集ルーチンは、統合されることが多く、その機器によるデータ取得を操作するフィードバックを提供し、ゆえに、本明細書中に提供されるアッセイベースの判断方法が提供される。
【0157】
本明細書中で使用される場合、ソフトウェアは、コンピュータによって実行されるときにコンピュータ操作を行うコンピュータ可読のプログラム命令のことを指す。代表的には、ソフトウェアは、コンピュータ可読媒体上に記録されたプログラム命令を含むプログラム製品において提供され、そのコンピュータ可読媒体としては、フロッピー(登録商標)ディスク、ハードディスクおよび磁気テープを含む磁気媒体;ならびにCD−ROMディスク、DVDディスク、光磁気ディスクを含む光学媒体、ならびにプログラム命令が記録され得る他のそのような媒体が挙げられるがこれらに限定されない。
【0158】
異常または正常を予測する様々な方法が、様々なタイプの結果をもたらし得る。任意の所与の予測について、可能性のある4つのタイプの成果:真陽性、真陰性、偽陽性または偽陰性が存在する。用語「真陽性」は、本明細書中で使用される場合、染色体異常を有すると正しく診断された被験体のことを指す。用語「偽陽性」は、本明細書中で使用される場合、染色体異常を有すると誤って同定された被験体のことを指す。用語「真陰性」は、本明細書中で使用される場合、染色体異常を有しないと正しく同定された被験体のことを指す。用語「偽陰性」は、本明細書中で使用される場合、染色体異常を有しないと誤って同定された被験体のことを指す。任意の所与の方法に対する2つの性能の測定値は、これらの発生頻度の比に基づいて計算され得る:(i)感度の値、すなわち、陽性であると正しく同定される予測陽性の割合(例えば、そのように正しくまたは誤って同定されたすべてのヌクレオチド配列セットに対して染色体異常を示すような、レベル比較検出/測定によって正しく同定されるヌクレオチド配列セットの割合)であって、これにより、染色体異常を検出する際の結果の正確度が反映される、値;および(ii)特異性の値、すなわち、陰性であると正しく同定される予測陰性の割合(そのように正しくまたは誤って同定されたすべてのヌクレオチド配列セットに対して染色体正常を示すような、レベル比較検出/測定によって正しく同定されるヌクレオチド配列セットの割合)によって、染色体異常を検出する際の結果の正確度が反映される、値。
【実施例】
【0159】
以下の実施例は、限定目的ではなく、例示という目的だけで提供される。当業者は、本質的に同じまたは類似の結果をもたらすように変更され得るかまたは改変され得る種々の重要でないパラメータを容易に認識する。
【0160】
下記の実施例1では、本出願人は、CpGアイランドアレイと組み合わせて、メチル化DNAを捕捉する新規融合タンパク質を使用することにより、胎児の胎盤組織と母体の血液との間で差次的にメチル化されたゲノム領域を同定した。厳密な統計学的アプローチを用いることにより、サンプル間でほとんどばらつきを示さず、ゆえに根底にある生物学的メカニズムを示す領域だけが選択された。主に13、18および21番染色体上に位置する85個の差次的にメチル化されたゲノム領域が確認された。この確認について、これらの85領域を網羅する261個のPCRアンプリコンを調べる定量的質量分析ベースのアプローチを用いた。それらの結果は、非常に良く一致していることから(95%確認)、このアプローチの実行可能性が証明される。
【0161】
次に、本出願人は、対立遺伝子比ではなく絶対コピー数の測定に依存する、異数性検査用の画期的なアプローチを提供する。
【0162】
実施例1
下記の実施例では、10個の母体DNAと胎盤DNAとのサンプル対を用いることにより、差次的にメチル化された領域を同定した。これらの結果は、質量分析ベースの定量的メチル化アッセイを用いて確認された。第1に、母体のバフィーコート由来および対応する胎盤組織由来のゲノムDNAをまず抽出した。次に、MBD−FCを用いることにより、各DNAサンプルのメチル化された画分を捕捉した。図1〜3を参照のこと。2つの組織画分を異なる蛍光色素で標識し、Agilent(登録商標)CpG Islandマイクロアレイにハイブリダイズさせた。図4を参照のこと。これを行うことにより、出生前診断に利用され得る差次的にメチル化された領域が同定された。それゆえ、2つの基準を使用することにより、潜在的な濃縮マーカーとしてのゲノム領域が選択された:観察されたメチル化の差は、試験されたすべてのサンプル対に存在しなければならないし、その領域は、200bpを超える長さでなければならなかった。
【0163】
DNAの調製および断片化
母体のバフィーコート由来および胎盤組織由来のゲノムDNA(gDNA)をそれぞれ、Qiagen(登録商標)(Hilden,Germany)製のQIAamp DNA Mini KitTMおよびQIAamp DNA Blood Mini KitTMを用いて調製した。MCIpのために、NanoDrop ND 1000TM分光光度計(Thermo Fisher(登録商標),Waltham,MA,USA)を用いてgDNAを定量した。Branson Digital Sonifier450TM(Danbury,CT,USA)を以下の設定:振幅20%、超音波処理時間110秒、パルスオン/パルスオフ時間1.4/0.6秒を用いて、500μlのTE緩衝液中で2.5μgのDNAを300〜500bpの平均フラグメントサイズに超音波処理した。フラグメントの範囲を、ゲル電気泳動を用いてモニターした。
【0164】
メチル−CpG免疫沈降
1サンプルあたり、56μgの精製MBD−Fcタンパク質および150μlのProtein A Sepharose 4 Fast Flowビーズ(Amersham Biosciences(登録商標),Piscataway,NJ,USA)を15mlのTBS中において4℃で一晩回転させた。次いで、そのMBD−Fcビーズ(150μl/アッセイ)を移し、2mlのUltrafree−CL遠心濾過デバイス(Millipore(登録商標),Billerica,MA,USA)中で分散させ、BufferA(20mM Tris−HCl,pH8.0、2mM MgCl2、0.5mM EDTA 300mM NaCl、0.1%NP−40)で3回、遠心分離によって洗浄した。2mlのBufferA中の洗浄されたMBD−Fcビーズに超音波処理されたDNA(2μg)を加え、4℃で3時間回転させた。ビーズを遠心分離することにより、未結合のDNAフラグメント(300mMの画分)を回収し、続いて増加性のNaCl濃度(400、500、550、600および1000mM)を含む600μlの緩衝液で2回洗浄した。各洗浄工程のフロースルーを別個のチューブに回収し、MinElute PCR Purification KitTM(Qiagen(登録商標))を用いて脱塩した。並行して、MinElute PCR Purification KitTM(Qiagen(登録商標))を用いて、200ngの超音波処理された投入DNAをコントロールとして処理した。
【0165】
マイクロアレイの操作および解析
マイクロアレイハイブリダイゼーション用の蛍光標識DNAを生成するために、各サンプルについての600mMおよび1MのNaCl画分(濃縮されたメチル化DNA)を併せ、BioPrime Total Genomic Labeling SystemTM(Invitrogen(登録商標),Carlsbad,CA,USA)を用いてAlexa Fluor 555−aha−dCTP(母体)またはAlexa Fluor 647−aha−dCTP(胎盤)で標識した。この標識反応は、製造者のマニュアルに従って行われた。対応する母体/胎盤対の異なって標識されたゲノムDNAフラグメントを、50μgのCot−1DNA(Invitrogen(登録商標))、52μlのAgilent10×ブロッキング試薬(Agilent Technologies(登録商標),Santa Clara,CA,USA)、78μlの脱イオンホルムアミドおよび260μlのAgilent2×ハイブリダイゼーション緩衝液が補充された最終体積80μlになるように併せた。そのサンプルを3分間95℃に加熱し、混合し、続いて37℃において30分間インキュベートした。次いで、Agilent CpG Island Microarray KitTMにおけるハイブリダイゼーションを、Agilent SureHybTMチャンバーおよびAgilentハイブリダイゼーションオーブンを使用して67℃において40時間行った。スライドを、室温において5分間、Wash I(6×SSPE、0.005%N−ラウロイルサルコシン)中で洗浄し、37℃においてさらに5分間、Wash II(0.06×SSPE)中で洗浄した。次に、そのスライドをアセトニトリルおよびAgilent Ozone Protection SolutionTM中に、それぞれ30秒間浸漬した。直ちにAgilent DNA Microarray ScannerTMを用いて像をスキャンし、解析した。Feature Extraction Software v9.5および標準的なCGHプロトコルを用いて、マイクロアレイ像を処理した。
【0166】
亜硫酸水素塩処理
ゲノムDNAの亜硫酸水素ナトリウム変換を、EZ−96 DNA Methylation KitTM(ZymoResearch,Orange County,CA)を用いて行った。製造者のプロトコルに従って、1μgのゲノムDNAおよび交互変換プロトコル(2温度のDNA変性)を用いた。
【0167】
定量的メチル化解析
SequenomのMassARRAY(登録商標)Systemを用いることにより、定量的メチル化解析を行った。このシステムは、飛行時間型マトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI−TOF)質量分析をRNA塩基特異的切断(Sequenom(登録商標)MassCLEAVETM)と組み合わせて利用する。次いで、検出可能なパターンをメチル化の状態について解析した。Sequenom(登録商標)EpiDESIGNERTM(www.epidesigner.com)を用いて、PCRプライマーを設計した。85個の標的領域を網羅する合計261個のアンプリコンを、確認のために使用した(増幅長中央値=367bp、最小値=108、最大値=500;1アンプリコンあたりのCpG数の中央値=23、最小値=4、最大値=65)。各逆方向プライマーについてはインビボ転写用の追加のT7プロモータータグ、ならびに順方向プライマーには融解温度の差について調整する10merのタグが付加された。MassCLEAVE(tm)生化学を以前に報告されているように行った(Ehrich M,ら、(2005)Quantitative high−throughput analysis of DNA methylation patterns by base specific cleavage and mass spectrometry.Proc Natl Acad Sci USA 102:15785−15790)。MassARRAYTMCompact MALDI−TOF(Sequenom(登録商標),San Diego)を用いて質量スペクトルを取得し、メチル化の比をEpiTYPERTMソフトウェアv1.0(Sequenom(登録商標),San Diego)によって生成した。
【0168】
統計解析
すべての統計的計算を、R統計学的ソフトウェアパッケージ(www.r−project.org)を用いて行った。まず、アレイプローブをそれらのゲノム位置に基づいてグループ分けした。続いて、1000bp以上離れていないプローブを一緒にグループ分けした。差次的にメチル化された領域を同定するために、コントロールサンプルを参照として使用した。コントロールサンプルにおいて、血液由来コントロールDNAのメチル化画分を、それ自体に対してハイブリダイズさせた。理想的には、このサンプルは、およそ0の2色チャネルlog比を示すべきである。しかしながら、ハイブリダイゼーション挙動のばらつきが原因で、それらのプローブは、0.02という平均log比および0.18という標準偏差を示す。次に、本発明者らのサンプルにおいて観察されたlog比をコントロールサンプルと比較した。二元配置の(two way)対応のあるt検定を用いることにより、それらのグループが同一であるという帰無仮説を試験した。4つ未満のプローブを含むグループをこの解析から除外した。4または5つのプローブを含むグループについては、すべてのプローブを対応のあるt検定に使用した。6つ以上のプローブを含むグループについては、1回につき5つのプローブからなるスライディングウィンドウ検定(sliding window test)を用い、ここで、そのウィンドウを、プローブ1つ分ずつ移動させた。各試験サンプルをコントロールサンプルと比較し、p値を記録した。10個中8個のサンプルがp値<0.01を示すか、または10個中6個のサンプルがp値<0.001を示す場合に、ゲノム領域を、差次的にメチル化されているとして選択した。そのグループの8個未満のサンプルがp値<0.01を示し、6個未満のサンプルがp値<0.001を示すとき、そのゲノム領域を差次的にメチル化されていないと分類した。いずれのカテゴリーにも入らなかったサンプルは、この解析から除外した。差次的にメチル化されていると同定されたゲノム領域のサブセットについて、その結果を、定量的メチル化解析を用いて確かめた。
【0169】
オンラインのGOstatツール(http://gostat.wehi.edu.au/cgibin/−goStat.pl)を用いてGo解析を行った。フィッシャーの正確検定を用いてP値を計算した。
【0170】
マイクロアレイに基づいたマーカー発見結果
差次的にメチル化された領域を同定するために、単球のメチル化DNA画分をそれ自体に対してハイブリダイズさせた標準的なサンプルを使用した。この標準物質は、あるゲノム領域における蛍光測定値のばらつきについての参照を提供した。次いで、この標準に対する10個の胎盤/母体サンプルの各々のlog比を比較することによって、差次的にメチル化された領域を同定した。本研究の目的は、母体DNAと胎児DNAとの信頼度の高い分離を可能にするマーカーを同定することであるので、標的の選択は、ある連続した一続きのゲノムDNAにわたって安定して一貫したメチル化の差を示す遺伝子に限定された。これにより、その解析の焦点が、複数のプローブが差次的なメチル化を示すゲノム領域に当てられた。その選択は、個体間の差が大きいサンプルを除くすべてのサンプルが差次的なメチル化を示す標的領域にも限定された。これらのサンプルのうちの2つが、このマイクロアレイ解析において概して低いlog比を示した。対応のある検定を標的選択に使用したので、これは、その結果に対して否定的に影響しなかった。
【0171】
これらの選択基準に基づいて、母体DNAと胎児DNAとの間で差次的にメチル化された3043個のゲノム領域が同定された。21778個の領域が、メチル化の差を示さなかった。差次的にメチル化された領域の分布における染色体間の偏りは、観察されなかった。差次的にメチル化された領域は、2159個の既知遺伝子に隣接して位置していたか、またはそれらの既知遺伝子内に位置していた。その差次的にメチル化された領域の大部分は、プロモーター領域(18%)およびコード領域内部(68%)に位置しており、ほんのわずかな領域が、遺伝子の下流(7%)またはプロモーターからコード領域への移行部(7%)に位置している。差次的なメチル化を示さなかった領域は、プロモーター(13%)および下流(5%)の位置に対して同様の分布を示したが、プロモーターからコード領域への移行部に位置する領域の割合は、より高く(39%)、コード領域内の割合は、より低かった(43%)。
【0172】
ポリコーム抑制複合体(polycomb repressive complex)2(PRC2)によって標的化される遺伝子が、発生を制御する遺伝子を多く含むことが、胚性幹細胞(ES)において示されている(Lee TI,ら、(2006)Control of developmental regulators by Polycomb in human embryonic stem cells.Cell 125:301−313)。差次的にメチル化された遺伝子が、多くの癌タイプにおいて、PRC2によって標的化される遺伝子を多く含むことも示されている(Ehrich M,ら、(2008)Cytosine methylation profiling of cancer cell lines.Proc Natl Acad Sci USA 105:4844−48)。本研究において差次的にメチル化されていると同定された遺伝子のセットもまた、PRC2によって標的化される遺伝子を多く含む(p値<0.001、オッズ比=3.6、オッズ比に対する95%CI=3.1〜4.2)。差次的にメチル化された遺伝子のセットのGO解析により、このセットが、発生中の重要な機能を有意に多く含むことが明らかになる。最も多く含まれた10個の機能のうち6個が、発生または形態形成のプロセスを含む[解剖学的構造の形態形成(GO:0009653,p値=0)、発生プロセス(GO:0032502,p値=0)、多細胞生物の発生(GO:0007275,p値=0)、器官の発生(GO:0048513,p値=0)、器官系の発生(GO:0048731,p値=0)および解剖学的構造の発生(GO:0048856,p値=0)]。
【0173】
Sequenom(登録商標)EpiTYPERTMを用いた確認
マイクロアレイの知見を確認するために、13、18および21番染色体由来の63個の領域ならびに他の常染色体由来の追加の26個の領域を、異なる技術によって確かめるために選択した。母体および胎盤のサンプル中のDNAメチル化を定量的に測定するために、Sequenom EpiTYPERTM技術を使用した。EpiTYPERTM法の説明については、Ehrich M,Nelson MR,Stanssens P,Zabeau M,Liloglou T,Xinarianos G,Cantor CR,Field JK,van den Boom D(2005)Quantitative high−throughput analysis of DNA methylation patterns by base specific cleavage and mass spectrometry.Proc Natl Acad Sci USA 102:15785−15790)を参照のこと。標的領域内の各個別のCpG部位について、すべての母体DNAサンプルおよびすべての胎盤サンプルにおける平均メチル化値を計算した。次いで、母体のメチル化の平均と胎盤のメチル化の平均との差をマイクロアレイの結果と比較した。この2つの技術による結果は、よく一致していた(図7を参照のこと)。85個の標的領域について、定量的結果が、マイクロアレイの結果を裏付ける(95%の確認率)。すべてが18番染色体上に位置する4つの標的領域については、結果を確認できなかった。この矛盾の理由は、現在のところ不明である。
【0174】
メチル化の差の同定に焦点を合わせたマイクロアレイとは対照的に、DNAメチル化の定量的測定は、絶対的なメチル化値の解析を可能にした。確認された85個の差次的にメチル化された領域の確認セットにおいて、26個の領域のサブセットが、母体DNAサンプル中でよりメチル化されており、59個の領域が、胎盤サンプル中でよりメチル化されている(表1を参照のこと)。興味深いことに、胎盤サンプル中の低メチル化された遺伝子は、胎盤サンプル中の高メチル化された遺伝子よりも大きなメチル化の差を示す傾向がある(低メチル化遺伝子に対するメチル化の差の中央値=39%、高メチル化遺伝子に対するメチル化の差の中央値=20%)。
【0175】
実施例2
実施例2では、胎児の形質(例えば、胎児の性別またはRhD適合性)を検出するかもしくは確かめるため、またはトリソミー21などの染色体異常を診断するため(両方が、本明細書中で「メチル化に基づく胎児の診断法」と呼ばれる)に使用され得る、母体サンプル中に存在する胎児核酸の量を検出するための非侵襲性のアプローチ(本明細書中で「胎児の定量方法」と呼ばれる)が記載される。図10は、胎児の定量方法の1つの実施形態を示しており、図11は、メチル化に基づく胎児の診断法の1つの実施形態を示している。両方のプロセスが、母体サンプルから得られた胎児DNAを使用する。そのサンプルは、差次的にメチル化されている母体核酸および胎児核酸を含む。例えば、そのサンプルは、母体の血漿または血清であり得る。胎児DNAは、母体血漿中に約2〜30%の全DNAを含む。サンプル中に存在する全核酸に対する胎児の寄与の実際の量は、妊娠ごとに異なり、在胎期間、母体の健康状態および胎児の健康状態を含むがこれらに限定されないいくつかの因子に基づいて変化し得る。
【0176】
本明細書中に記載されるように、母体血漿中の胎児DNAの解析によって引き起こされる技術的障害は、胎児DNAを、同時に存在する母体のバックグラウンドDNAと識別できる必要があるという点にある。本技術の方法は、そのような差、例えば、胎児DNAと母体DNAとの間に見られる差次的なメチル化を、母体由来のサンプル中に存在する比較的低いパーセンテージの胎児DNAについて濃縮する手段として利用する。本アプローチの非侵襲性の性質は、従来の出生前診断の方法(例えば、羊水穿刺、絨毛生検(chronic villus sampling)および臍帯穿刺(これらは、胎児が死亡するリスクは低いが有限のリスクに関連する))に対して大きな利点を提供する。また、この方法は、任意の特定の細胞分裂の相にある胎児の細胞に依存しないので、この方法は、染色体異常の存在および性質を判定する迅速な検出手段を提供する。さらに、このアプローチは、性別非依存的(すなわち、Y染色体の存在を必要としない)および多型非依存的(すなわち、対立遺伝子比を測定しない)である。したがって、本技術の組成物および方法は、母体サンプル中に存在する胎児核酸の量を正確に測定するための、改善された普遍的な非侵襲性のアプローチである。
【0177】
アッセイの設計および利点
母体サンプルから非侵襲的に単離された胎児DNAを正確に検出および定量する必要がある。本技術は、母体の血漿中または血清中の循環無細胞胎児核酸(ccfDNA)の存在を利用する。商業的および臨床的に実施するために、本技術の方法は、利用可能な少量の限られた胎児DNAだけを消費すべきである。例えば、サンプルの50%、40%、30%、25%、20%、15%、10%、5%未満またはそれ以下。さらに、このアプローチは、好ましくは、以下のアッセイの1つ以上(好ましくは、すべて)が含まれる多重アッセイ形式で開発されるべきである:
・サンプル中に存在するゲノム等価物の全量を検出するためのアッセイ、すなわち、母体と胎児の両方のDNA種を認識するアッセイ;
・男児を妊娠している女性から単離された胎児DNA、すなわち、Y染色体に特異的な配列を検出するためのアッセイ;
・胎児と母体との間で差次的にメチル化されていると同定された領域に特異的なアッセイ;または
・調査されるすべての組織において低メチル化されていると知られている領域に特異的なアッセイ(制限効率に対するコントロールとして機能し得る)。
【0178】
このアッセイの他の特徴は、以下の1つ以上を含み得る:
・各アッセイについて、標的配列に対する1つ以上のヌクレオチド差などの競合物質の識別性の特徴ではなく、標的配列と同一または実質的に同一である、標的特異的な競合オリゴヌクレオチド。このオリゴヌクレオチドは、PCR反応物に加えられると、標的と同時に増幅され、これらの2つのPCRアンプリコンから得られる比は、母体サンプル中に存在する標的特異的なDNA配列の数(例えば、特定の遺伝子座由来の胎児DNA)を示唆し得る。
・アンプリコンの長さは、好ましくは、より短いフラグメントに対する増幅に偏らないように同様の長さであるべきである。しかしながら、増幅効率がほぼ等しい限り、様々な長さが使用され得る。
・差次的にメチル化された標的は、表1、または母体と胎児との間で差次的にメチル化されていると知られている他の任意の標的から選択され得る。これらの標的は、非妊婦から単離されたDNAでは低メチル化され得、胎児サンプルから得られたサンプル中では高メチル化され得る。これらのアッセイは、制限効率のコントロールとして機能し得る。
・様々なアッセイから得られた結果は、以下の1つ以上を定量するために使用され得る:
○サンプル中に存在する増幅可能なゲノムの総数(ゲノム等価物の総量);
○増幅可能なゲノムのうちの胎児画分(胎児の濃度またはパーセンテージ);または
○胎児から得られたDNA配列間の(例えば、胎児の21番染色体と3番染色体などの参照染色体との間の)コピー数の差。
【0179】
本試験において使用されるアッセイの例
下記は、例えば、図10に提供されているような、本技術の方法を行うために用いられる反応工程の概要である。この概要は、本技術の範囲を限定すると意図されない。むしろ、この概要は、Sequenom(登録商標)MassARRAY(登録商標)技術を用いる本技術の1つの実施形態を提供する。
1)血漿サンプルからのDNAの単離。
2)メチル化感受性制限酵素(例えば、HhaIおよびHpaII)を用いたDNA標的の消化。
各反応について、利用可能なDNAを水と混合して、25μlの最終容積にした。10単位のHhaI、10単位のHpaIIおよび反応緩衝液からなる10μlの反応混合物を加えた。そのサンプルを制限酵素に対する最適温度においてインキュベートした。HhaIおよびHpaIIは、非メチル化DNAを消化する(そして、ヘミメチル化DNAまたは完全にメチル化されたDNAを消化しない)。消化の後、加熱工程を用いて、それらの酵素を変性させた。
3)ゲノム増幅−PCR試薬(緩衝液、dNTP、プライマーおよびポリメラーゼ)を加えることによって50μlの総体積中でPCRを行った。例示的なPCRおよび伸長プライマーは、以下に提供される。さらに、既知濃度の合成競合オリゴヌクレオチドを加えた。
4)複製(任意)−本試験のPCR後の工程中に導入されるばらつきを最小にするために、PCRの後、50μlの反応物を5μlの対応反応物に分けた(複製物)。PCR後の工程は、SAP、プライマー伸長(MassEXTEND(登録商標)技術)、樹脂処理、スペクトロチップ(spectrochip)の調製およびMassARRAYを含む。
5)増幅可能なゲノムの定量−Sequenom MassARRAY(登録商標)技術を用いることにより、各アッセイに対する増幅産物の量を測定した。PCRの後、一塩基伸長アッセイを用いることにより、増幅された領域(工程3において導入された競合オリゴヌクレオチドを含む)を調べた。目的の部位に直接隣接してハイブリダイズするように設計された特異的な伸長プライマーを導入した。以下に提供される伸長プライマーを参照のこと。これらのDNAオリゴヌクレオチドは、iPLEX(登録商標)MassEXTEND(登録商標)プライマーと呼ばれる。伸長反応において、iPLEXプライマーは、相補DNA鋳型にハイブリダイズし、DNAポリメラーゼによって伸長された。酵素および緩衝液とともに、様々な組み合わせのデオキシヌクレオチド三リン酸およびジデオキシヌクレオチド三リン酸を含む特別な終結混合物が、iPLEXプライマーの限定的な伸長を指示した。相補的なジデオキシヌクレオチドが組み込まれるまで、プライマー伸長が起きる。伸長反応は、各々が独特の分子量を有する様々な長さのプライマー産物を生成した。結果として、そのプライマー伸長産物は、MassARRAY(登録商標)Analyzer Compactにおける飛行時間型マトリックス支援レーザー脱離/イオン化(MALDI−TOF)質量分析を用いて同時に分離および検出され得る。この分離および検出の後、SEQUENOM専売ソフトウェアが、データを自動的に解析する。
6)胎児核酸の量および濃度の計算−差次的にメチル化された標的に基づいて、サンプル中に存在するゲノム等価物の総量、男児を妊娠している女性から単離された胎児核酸の量(および濃度)、および胎児核酸の量(および濃度)を計算するための方法は、下記ならびに図18および19に提供される。
【0180】
上記プロトコルは、以下に記載されるアッセイの1つ以上を行うために使用され得る。すぐ下に提供される配列に加えて、複数を調べる多重スキームが、下記の表Xに提供される。
【0181】
1)サンプル中の増幅可能なゲノム等価物の総数を定量するためのアッセイ
13、18、21番染色体、XまたはY染色体に位置しないハウスキーピング遺伝子において標的を選択した。その標的は、1コピー遺伝子として存在するべきであり、メチル化感受性制限酵素に対するいかなる認識部位も含まないべきである。
【0182】
下線の配列は、PCRプライマー部位であり、イタリック体は、一塩基伸長プライマーに対する部位であり、太字(C)は、ヒトDNA上で伸長されるヌクレオチドである。
【0183】
【化2】
【0184】
【化3】
2)サンプル中のY染色体の配列の総数を定量するためのアッセイ
ゲノム内の他の位置に類似配列またはパラログ配列を有しない、Y染色体に特異的な標的を選択した。それらの標的は、好ましくは、1コピー遺伝子として存在するべきであり、メチル化感受性制限酵素に対するいかなる認識部位も含まないべきである。
【0185】
下線の配列は、PCRプライマー部位であり、イタリック体のヌクレオチドは、一塩基伸長プライマーに対する部位であり、太字(C)は、ヒトDNAにおいて伸長されるヌクレオチドである。
【0186】
【化4】
3)サンプル中に存在する胎児のメチル化DNA配列を定量するためのアッセイ
母体DNAと胎児DNAとの間で差次的にメチル化されていると知られている領域において標的を選択した。メチル化感受性酵素に対するいくつかの制限酵素認識部位を含む配列を選択した。本研究の場合、HhaI(GCGC)およびHpaII(CCGG)酵素を使用した。
【0187】
下線の配列は、PCRプライマー部位であり、イタリック体は、一塩基伸長プライマーに対する部位であり、太字(C)は、ヒトDNA上で伸長されるヌクレオチドであり、小文字は、メチル化感受性制限酵素に対する認識部位である。
【0188】
【化5】
4)酵素の制限効率についてのコントロールアッセイ
調査される任意の組織においてメチル化されていると知られていない領域において標的を選択した。使用される各制限酵素に対する1つ以下の部位を含む配列を選択した。
【0189】
下線の配列は、PCRプライマー部位であり、イタリック体のヌクレオチドは、一塩基伸長プライマーに対する部位であり、太字(G)は、ヒトDNAにおいて伸長される逆方向ヌクレオチドであり、小文字は、メチル化感受性制限酵素に対する認識部位である。
【0190】
【化6】
確認実験
本技術の感度および正確度を、モデルシステムと臨床サンプルの両方を用いて測定した。様々なサンプルにおいて、総コピー数を定量するための2つのアッセイ、メチル化を定量するための3つのアッセイ、Y染色体に特異的な1つのアッセイ、および1つの消化コントロールアッセイを含む多重アッセイを行った。表X1およびX2を参照のこと。さらなるアッセイを含む別の多重スキームが、表Y1およびY2に提供されている。
【0191】
【表5】
【0192】
【表6】
ゲノムDNAを用いるモデルシステム
サンプル中の増幅可能なゲノムコピーの総数を測定するときの方法の感度および正確度を測定するために、非妊婦の血液から単離された様々なDNAサンプルのサブセットを検査した。1反応物あたり約2500、1250、625または313コピーを含むように各サンプルを希釈した。3つの総コピー数アッセイから得られた平均DNA/競合物質比を取得することによって、増幅可能なゲノムコピーの総数を得た。4つの異なるサンプルからの結果を図12に示す。
【0193】
反応を最適化するために、血漿から単離されたDNAサンプルをシミュレートするモデルシステムを開発した。これらのサンプルは、一定数のメチル化されていない母体DNAを含み、様々な量の男児のメチル化胎盤DNAと混合されていた。そのサンプルは、非メチル化母体DNAに対して約0〜25%の範囲の量と混合されていた。結果を図13AおよびBに示す。メチル化アッセイ(図13A)、SRYマーカー(図13B)および総コピー数アッセイから得られた比を用いて、胎盤DNAの割合を計算した。メチル化アッセイ(TBX)、Y染色体アッセイ(SRY)および総コピー数(APOE)のためのプライマー配列は、上に提供されている。このモデルシステムから、メチル化に基づく方法が、Y染色体の方法(SRYマーカー)と等しく行われることが証明され、ゆえに、メチル化に基づく方法が、性別に依存しない胎児の定量方法と確認された。
【0194】
血漿サンプル
臨床サンプルにおいて上記方法の感度および正確度を調査するために、男の胎児を妊娠している女性から得られた33個の血漿サンプルを、表Xの多重スキームを用いて調査した。全サンプルの一部だけを使用するという重要な要件を満たすために、各反応について、4mlの抽出物から得られたDNAの4分の1を使用した。
【0195】
総コピー数の定量
総コピー数の定量の結果は、図14AおよびBに見られる。図14Aでは、各サンプルに対するコピー数が示されている。2つのサンプル(25および26番)が、他のすべてのサンプルよりも著しく多い総コピー数を有する。概して、約1300個の増幅可能なコピー/ml血漿の平均値が得られた(766〜2055の範囲)。図14Bは、所与の値の箱ひげ図を示しており、結果を要約している。
【0196】
メチル化マーカーおよびY染色体マーカーから得られた結果の相関関係
図15AおよびBでは、各サンプルについての胎児のコピー数がプロットされている。すべてのサンプルが男児妊娠に由来した。得られたコピー数は、メチル化特異的マーカーまたはY染色体特異的マーカーを用いて計算され得る。図15Bに見られるように、所与の値の箱ひげ図は、2つの異なる測定値間の最小の差を示した。
【0197】
メチル化マーカーから得られた結果とY染色体マーカー(SRY)から得られた結果との相関関係を示している結果が、図16に示されている。また、メチル化に基づく方法がY染色体法(SRYマーカー)と同様に行われ、そのメチル化に基づく方法が、性別に依存せず、かつ多型に依存しない胎児の定量方法であるとさらに確認された。表Xに開示されている多重アッセイを用いることにより、胎児核酸の量が測定された。
【0198】
最後に、コントロール 対 競合物質に対する消化の比を使用し、この値を平均総コピー数アッセイと比較することによって、消化効率が測定された。図17を参照のこと。サンプル26は別として、すべての反応物が、99%を超える効率を示している。
【0199】
データ解析
Typer4(Sequenomソフトウェア製品)を用いて、質量スペクトル解析を行った。各個別のDNA被検体および競合物質アッセイに対するピークの高さ(ノイズに対するシグナル)を測定し、さらなる解析のためにエクスポートした。
【0200】
DNA特異的ピークを競合物質特異的ピークで除して比を得ることによって、各アンプリコンについて存在する分子の総数を計算した。(図18および19中の「DNA」ピークは、所与のアッセイに対する被検体ピークと考えられ得る)。反応物中に加えられる競合分子の数は、既知であるので、DNA分子の総数は、加えられた競合分子の数でその比を乗じることによって決定され得る。
【0201】
男児妊娠についてはY染色体特異的マーカーを用い、すべての妊娠についてはメチル化された画分の平均値を用いて、各サンプル中の胎児DNAの割合(または濃度)を計算した。簡潔には、Y染色体の場合、被検体(DNA)ピークを競合物質ピークで除して、そしてこの比を反応物中に加えられた競合分子の数で乗じることによって比を得た。この値を、増幅可能なゲノム等価物測定の総数から得られた同様の比で除した(総量についてのアッセイを用いて)。図18を参照のこと。サンプル中に存在する核酸の総量は、母体核酸と胎児核酸との合計であるので、胎児の寄与は、より多い母体のバックグラウンド寄与の一部分であると考えられ得る。それゆえ、これを図18に示される方程式に翻訳して、サンプル中に存在する総核酸の胎児の割合(k)は、方程式:k=2×R/(1−2R)(ここで、Rは、Y染色体の量と総量との比である)に等しい。Y染色体は、半数体であり、総量に対するアッセイは、二倍体の標的を用いて測定されるので、この計算は、母体の割合の50%より少ない胎児の割合に限定される。
【0202】
図19には、メチル化特異的マーカーを使用することによる同様の胎児濃度の計算が示されている(メチル化定量に対するアッセイを参照のこと)。Y染色体特異的マーカーとは対照的に、これらのマーカーは、二倍体の標的に由来するので、Y染色体特異的アッセイについて述べられた限定は、除外され得る。したがって、胎児の割合(k)は、方程式:k=R(1−R)(ここで、Rは、メチル化アッセイと総アッセイとの比である)を用いて決定され得る。
【0203】
シミュレーション
21番染色体由来の20個のマーカーおよび1つ以上の他の常染色体由来の20個のマーカーを使用する測定システムを仮定する第1の単純な検出力計算を行った。100コピーの胎児DNA、25コピーという測定値標準偏差、および0.001より小さい第1種の過誤に対する確率から出発して、本技術の方法が、すべての場合の99.5%において、三倍体の染色体セットから二倍体を区別することができることが見出された。そのようなアプローチの実際の実行は、例えば、絶対コピー数の測定のために競合PCRアプローチを用いる系である質量分析を用いて達成され得る。この方法は、1つの反応において20のアッセイを行い得、繰り返された測定のおよそ3〜5%において標準偏差を有すると示されている。この方法は、メチル化核酸と非メチル化核酸とを区別するための既知の方法(例えば、核酸を分離するためにメチル結合剤を用いる方法、または母体核酸を消化するためにメチル化感受性酵素を用いる方法)と組み合わせて使用された。図8には、メチル化されていない過剰のDNAの存在下において、メチル化DNAを捕捉し、それにより分離するためのMBD−FCタンパク質(メチル結合剤)の有効性が示されている(図8を参照のこと)。
【0204】
本明細書中に記載されるメチル化に基づく胎児の診断法の実施形態の予測力を評価する第2の統計的検出力解析を行った。そのシミュレーションは、三染色体の21番染色体に特異的なマーカーの群を参照マーカーの群(例えば、21番染色体を除く常染色体)と区別する尤度を証明するように設計された。多くのパラメータが、2つのマーカー集団を確実に識別する能力に影響する。本シミュレーションの場合、実験法に基づいて生じる可能性が最も高いと示されている各パラメータに対する値が選択された。以下のパラメータおよび各値を使用した:
コピー数
母体のコピー数=2000
21番、XおよびY以外の染色体について胎児のコピー数=200
正倍数性の胎児の場合の21番染色体に対する胎児のコピー数=200
異数性T21胎児の場合の21番染色体に対する胎児のコピー数=300
パーセント胎児DNA(メチル化に基づく濃縮の前)=10%(上記を参照のこと)
メチル化頻度
母体DNAに対する標的領域における平均メチル化パーセンテージ=10%
胎児DNAに対する標的領域における平均メチル化パーセンテージ=80%
メチル化されておらず、消化されていない母体DNAの平均パーセンテージ(すなわち、制限効率の関数(とりわけ)=5%
21番染色体を標的にしているアッセイの数=10
21番、XおよびY以外の染色体を標的にしているアッセイの数=10
結果は、図20に示されている。x軸における変動係数(CV)と、単純なt検定を用いてアッセイ集団を識別する能力(y軸)との間の関係が、示されている。このデータから、すべての場合の99%において、5%またはそれ以下のCVを提供する0.001の有意水準で2つの集団(正倍数性 対 異数性)が識別され得ることが示唆される。このシミュレーションに基づくと、本方法は、性別に依存せず、すべての民族性において機能する(すなわち、対立遺伝子の偏りがない)胎児異数性の出生前検出のための強力な非侵襲性の診断法である。
【0205】
【表1−1】
【0206】
【表1−2】
【0207】
【表1−3】
【0208】
【表1−4】
【0209】
【表1−5】
【0210】
【表1−6】
【0211】
【表2−1】
【0212】
【表2−2】
【0213】
【表2−3】
【0214】
【表3】
【0215】
【表4−1】
【0216】
【表4−2】
【0217】
【表4−3】
【0218】
【表4−4】
【0219】
【表4−5】
【0220】
【表4−6】
【0221】
【表4−7】
【0222】
【表4−8】
【0223】
【表4−9】
【0224】
【表4−10】
【0225】
【表4−11】
【0226】
【表4−12】
【0227】
【表4−13】
【0228】
【表4−14】
【0229】
【表4−15】
【0230】
【表4−16】
【0231】
【表4−17】
【0232】
【表4−18】
【0233】
【表4−19】
【0234】
【表4−20】
【0235】
【表4−21】
【0236】
【表4−22】
【0237】
【表4−23】
【0238】
【表4−24】
本明細書中で参照される特許、特許出願、刊行物および文書の各々の全体が、参考として援用される。上記の特許、特許出願、刊行物および文書の引用は、前述のもののいずれかが、適切な従来技術であることを認めるものではなく、また、これらの刊行物または文書の内容または日付に関するいかなる承認を構成するものでもない。
【0239】
本発明の基本的な態様から逸脱することなく、前述のものに対して改変がなされ得る。本発明は、1つ以上の特定の実施形態に照らして実質的に詳細に記載されてきたが、当業者は、本願において具体的に開示された実施形態に対して変更がなされ得るが、これらの改変および改善が、本発明の範囲および精神の範囲内であることを認識する。
【0240】
適切に本明細書中に例示的に記載される本発明は、本明細書中に具体的に開示されていない任意のエレメントの非存在下において実施され得る。したがって、例えば、本明細書中の各例において、用語「含む」、「〜から本質的になる」および「〜からなる」のいずれかは、その他の2つの用語のいずれかで置き換えられ得る。使用された用語および表現は、説明の用語であって限定ではない用語として使用され、そのような用語および表現の使用は、示されるおよび記載される特徴またはその一部の任意の等価物を除外せず、特許請求される本発明の範囲内で様々な改変がありうる。用語「a」または「an」は、それらが修飾するエレメントのうちの1つまたはそれらのエレメントのうちの2つ以上が記載されていることが文脈上明らかでない限り、それらのエレメントのうちの1つまたは複数のことを指し得る(例えば、「試薬(a reagent)」は、1つ以上の試薬を意味し得る)。用語「約」は、本明細書中で使用される場合、基礎をなすパラメータの10%以内(すなわち、プラスまたはマイナス10%)の値のことを指し、一連の値の始めにおける用語「約」の使用は、その各値を修飾する(すなわち、「約1、2および3」とは、約1、約2および約3のことを指す)。例えば、「約100グラム」という重量は、90グラム〜110グラムの重量を含み得る。さらに、値の列挙(例えば、約50%、60%、70%、80%、85%または86%)が本明細書中に記載される場合、その列挙は、そのすべての中間の値および小数値(例えば、54%、85.4%)を含む。したがって、本発明は、代表的な実施形態および任意の特徴によって具体的に開示されてきたが、本明細書中に開示される概念の改変およびバリエーションが、当業者によって用いられ得、そのような改変およびバリエーションは、本発明の範囲内であると考えられることが理解されるべきである。
【0241】
本発明のある特定の実施形態が、以下の請求項に示される。
【技術分野】
【0001】
(関連出願)
本願は、発明者がMathias Ehrichであり、代理人整理番号がSEQ−6022−PVである、「PROCESSES AND COMPOSITIONS FOR METHYLATION−BASED ENRICHMENT OF FETAL NUCLEIC ACID FROM A MATERNAL SAMPLE USEFUL FOR NON INVASIVE PRENATAL DIAGNOSES」と題された、2008年9月16日に出願された米国仮特許出願第61/192,264号の利益を主張する。この米国仮特許出願の全体の内容は、あらゆる文章、表および図面を含めて、本明細書中に参考として援用される。
【0002】
分野
バイオマーカーが、ある特定の実施形態において提供される。いくつかの実施形態において、提供されるバイオマーカーは、胎児の遺伝形質の非侵襲的検出に有用である。ある特定の胎児の遺伝形質としては、胎児核酸の存在または非存在が挙げられるがこれらに限定されない。
【背景技術】
【0003】
背景
非侵襲性の出生前検査は、急速に関心が寄せられている分野になっている。妊娠関連の状態(妊娠中の合併症および胎児の遺伝的欠陥を含む)の早期発見によって、母体と胎児の両方の安全にとって必要な早期の医学的介入が可能になるので、その早期発見は、非常に重要である。出生前診断は、絨毛生検(chorionic villus sampling)(CVS)または羊水穿刺などの手技によって胎児から単離された細胞を用いて行われている。しかしながら、これらの従来法は、侵襲性であり、母体と胎児の両方に対してかなりのリスクをもたらす。National Health Serviceは、現在、侵襲性の羊水穿刺検査後および絨毛生検(CVS)検査後の1〜2パーセントの流産率を言及している。
【0004】
循環無細胞胎児核酸が母体の血漿中および血清中で検出され得るという発見(非特許文献1;および特許文献1)の後、これらの侵襲性アプローチに代わるものが、例えば、胎児の異常を検出する出生前スクリーニングのために開発されている。循環無細胞胎児核酸(cffNA)は、それを非侵襲性の出生前検査に適用可能にするいくつかの利点を有する。例えば、無細胞核酸は、胎児の細胞よりも高いレベルで、かつ遺伝子解析に十分な濃度で、存在する。また、cffNAは、分娩後、数時間以内に母体の血流から取り除かれ、これにより、前回の妊娠からの混入が予防される。
【0005】
母体の血漿中または血清中の胎児DNAを検出することによって行われる出生前検査の例としては、胎児のrhesus D(RhD)ジェノタイピング(非特許文献2)、胎児の性別判定(非特許文献3)およびいくつかの胎児の障害の診断(非特許文献4;非特許文献5;および非特許文献6)が挙げられる。さらに、母体の血漿/血清中の胎児DNAの量的異常は、子癇前症(非特許文献7および非特許文献8)、胎児のトリソミー21(非特許文献9および非特許文献10)および妊娠悪阻(非特許文献11)において報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第6,258,540号明細書
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Loら、Lancet 350:485−487,1997
【非特許文献2】Loら、N.Engl.J.Med.339:1734−1738,1998
【非特許文献3】Costaら、N.Engl.J.Med.346:1502,2002
【非特許文献4】Amicucciら、Clin.Chem.46:301−302,2000
【非特許文献5】Saitoら、Lancet 356:1170,2000
【非特許文献6】Chiuら、Lancet 360:998−1000,2002
【非特許文献7】Loら、Clin.Chem.45:184−188,1999
【非特許文献8】Zhongら、Am.J.Obstet.Gynecol.184:414−419,2001
【非特許文献9】Loら、Clin.Chem.45:1747−1751,1999
【非特許文献10】Zhongら、Prenat.Diagn.20:795−798,2000
【非特許文献11】Sekizawaら、Clin.Chem.47:2164−2165,2001
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
要約
本技術は、とりわけ、胎児の遺伝形質の非侵襲的検出に有用なヒト後成的バイオマーカーを提供し、その遺伝形質としては、胎児核酸の存在または非存在、胎児核酸の絶対量または相対量、胎児の性別、および異数性などの胎児の染色体異常が挙げられるがこれらに限定されない。本技術のヒト後成的バイオマーカーは、胎児と母体との間で差次的なCpGメチル化パターンを示すゲノムDNAである。本技術の組成物およびプロセスは、母体サンプル中の胎児核酸のメチル化状態に基づいて前記サンプル中の胎児核酸の検出および定量を可能にする。より詳細には、母体サンプル由来の胎児核酸の量が、存在する核酸の総量に対して測定され、それにより、そのサンプル中の胎児核酸のパーセンテージが提供され得る。さらに、胎児核酸の量は、配列特異的(または遺伝子座特異的)様式で、かつ十分な感度で、測定され得ることにより、正確な染色体量決定(chromosomal dosage)解析(例えば、胎児の異数性の有無の検出)が可能になる。
【0009】
本技術のある態様において、胎児核酸と母体核酸との間の差次的なメチル化に基づいて母体の生物学的サンプルから胎児核酸を濃縮するための方法が提供され、その方法は:(a)サンプル由来の標的核酸およびサンプル由来のコントロール核酸をメチル化特異的結合タンパク質に結合する工程;および(b)メチル化の状態に基づいて、結合した核酸を溶出する工程(ここで、差次的にメチル化された核酸は、少なくとも部分的に別個の画分に溶出される)を包含する。ある実施形態において、その核酸配列は、配列番号1〜89のポリヌクレオチド配列の1つ以上を含む。配列番号1〜89は、表4に提供されている。本技術は、配列番号1〜89の配列およびそれに対するバリエーションを含む。別の実施形態では、コントロール核酸を工程(a)に含めない。
【0010】
関連実施形態において、母体サンプルから胎児核酸を濃縮するための方法が提供され、その方法は、以下の工程:(a)女性から生物学的サンプルを得る工程;(b)そのサンプル中のCpG含有ゲノム配列のメチル化の状態に基づいて、胎児核酸および母体核酸を分離する工程(ここで、胎児由来のゲノム配列と女性由来ゲノム配列とは、差次的にメチル化されており、それにより、サンプル中の女性由来のゲノム配列と胎児由来のゲノム配列とが区別される)を包含する。別の実施形態において、そのゲノム配列は、少なくとも1つのシトシンを含む少なくとも15ヌクレオチド長であり、さらに、その領域は、(1)表1から選択されるゲノム遺伝子座;および(2)その遺伝子座から10kb以下だけ上流および/または下流のDNA配列を有する。実施形態において、女性から生物学的サンプルを得る工程は、本技術の範囲を限定しない。この得る工程は、女性からサンプルを実際に回収すること(例えば、採血)または他の場所(例えば、クリニックまたは病院)からサンプルを受け取ること、およびある方法の工程を行うことを指し得る。
【0011】
別の関連実施形態において、母体サンプルから胎児核酸を濃縮するための方法が提供され、その方法は、以下の工程:(a)女性から生物学的サンプルを得る工程;(b)そのサンプル中のCpG含有ゲノム配列のメチル化の状態に基づいて、母体核酸を消化するかまたは除去する工程(ここで、胎児由来のゲノム配列と女性由来のゲノム配列とは、差次的にメチル化されており、それにより、サンプル中の胎児由来のゲノム配列が濃縮される)を包含する。母体核酸は、メチル化の状態に基づいて母体核酸を選択的に消化するかまたは切断する1つ以上のメチル化感受性制限酵素を用いて消化され得る。別の実施形態において、そのゲノム配列は、少なくとも1つのシトシンを含む少なくとも15ヌクレオチド長であり、さらに、その領域は、(1)表1から選択されるゲノム遺伝子座;および(2)その遺伝子座から10kb以下だけ上流および/または下流のDNA配列からなる。
【0012】
本技術の別の態様において、胎児核酸のヌクレオチド配列を有する核酸を調製するための方法が提供され、その方法は、以下の工程:(a)妊婦からサンプルを得る工程;(b)胎児核酸と母体核酸対応物との間の異なるメチル化の状態に従って、その妊婦のサンプル由来の母体核酸から胎児核酸を分離する工程(ここで、胎児核酸のヌクレオチド配列は、配列番号1〜89のポリヌクレオチド配列の1つを含む遺伝子または遺伝子座由来のポリヌクレオチド配列内に配列番号1〜89のポリヌクレオチド配列の1つ以上に由来する1つ以上のCpG部位を含む);および(c)パート(b)において分離された胎児核酸を鋳型として利用する増幅プロセスによって胎児核酸のヌクレオチド配列を含む核酸を調製する工程を包含する。別の実施形態において、胎児核酸のヌクレオチド配列を有する核酸を調製するための方法が提供され、その方法は、以下の工程:(a)妊婦からサンプルを得る工程;(b)胎児核酸と母体核酸対応物との間の異なるメチル化の状況に従って、妊婦のサンプルから母体核酸を消化するかまたは除去する工程(ここで、胎児核酸のヌクレオチド配列は、配列番号1〜89のポリヌクレオチド配列の1つを含む遺伝子由来のポリヌクレオチド配列内に配列番号1〜89のポリヌクレオチド配列の1つ以上に由来する1つ以上のCpG部位を含む);および(c)胎児核酸のヌクレオチド配列を含む核酸を調製する工程を包含する。工程(c)の調製プロセスは、パート(b)において分離された胎児核酸を鋳型として利用する、ハイブリダイゼーションプロセス、捕捉プロセスまたは増幅プロセスであり得る。また、母体核酸を消化する上記の実施形態において、その母体核酸は、メチル化の状態に基づいて母体核酸を選択的に消化するかまたは切断する1つ以上のメチル化感受性制限酵素を用いて消化され得る。いずれかの実施形態において、配列番号1〜89のポリヌクレオチド配列は、配列番号1〜89のポリヌクレオチド配列の1つを含むCpGアイランド由来のポリヌクレオチド配列内に存在し得る。配列番号1〜89のポリヌクレオチド配列は、さらに、配列番号1〜89に提供されているポリヌクレオチド配列と重複するCpGアイランドの特定をはじめとした特徴づけが本明細書中の表1〜3において行われている。別の実施形態において、パート(c)によって調製された核酸は、溶液中に存在する。なおも別の実施形態において、この方法は、工程(c)の増幅プロセス由来の胎児核酸を定量する工程をさらに包含する。
【0013】
本技術の別の態様において、母体核酸に関して、妊婦由来のサンプルから胎児核酸を濃縮するための方法が提供され、その方法は、以下の工程:(a)妊婦からサンプルを得る工程;および(b)胎児核酸と母体核酸との間で異なるメチル化の状況に従って、その妊婦のサンプル由来の母体核酸から胎児核酸を分離するかまたは捕捉する工程(ここで、胎児核酸のヌクレオチド配列は、配列番号1〜89のポリヌクレオチド配列の1つを含む遺伝子由来のポリヌクレオチド配列内に配列番号1〜89のポリヌクレオチド配列の1つ以上に由来する1つ以上のCpG部位を含む)を包含する。別の実施形態において、配列番号1〜89のポリヌクレオチド配列は、配列番号1〜89のポリヌクレオチド配列の1つを含むCpGアイランド由来のポリヌクレオチド配列内に存在し得る。配列番号1〜89のポリヌクレオチド配列は、本明細書中の表1において特徴づけられている。別の実施形態において、パート(b)によって分離された核酸は、溶液中に存在する。なおも別の実施形態において、その方法は、さらに、工程(b)の分離プロセスからの胎児核酸を増幅するおよび/または定量する工程を包含する。
【0014】
本技術の別の態様において、妊婦の胎児由来の単離された核酸を含む組成物が提供され、ここで、その核酸のヌクレオチド配列は、配列番号1〜89のポリヌクレオチド配列の1つ以上を含む。1つの実施形態において、そのヌクレオチド配列は、遺伝子のヌクレオチド配列またはその一部から本質的になる。別の実施形態において、そのヌクレオチド配列は、CpGアイランドのヌクレオチド配列またはその一部から本質的になる。配列番号1〜89のポリヌクレオチド配列は、表1においてさらに特徴づけられている。別の実施形態において、その核酸は、溶液中に存在する。別の実施形態において、胎児由来の核酸は、母体核酸に対して濃縮される。別の実施形態において、その組成物は、メチル化ヌクレオチドに結合する作用物質をさらに含む。例えば、その作用物質は、メチル−CpG結合タンパク質(MBD)またはそのフラグメントであり得る。
【0015】
本技術の別の態様において、妊婦の胎児由来の単離された核酸を含む組成物が提供され、ここで、その核酸のヌクレオチド配列は、配列番号1〜89のポリヌクレオチド配列の1つを含む遺伝子由来のポリヌクレオチド配列内またはその一部内に配列番号1〜89のポリヌクレオチド配列の1つ以上に由来する1つ以上のCpG部位を含む。別の実施形態において、その核酸のヌクレオチド配列は、配列番号1〜89のポリヌクレオチド配列の1つを含むCpGアイランド由来のポリヌクレオチド配列内またはその一部内に配列番号1〜89のポリヌクレオチド配列の1つ以上に由来する1つ以上のCpG部位を含む。配列番号1〜89のポリヌクレオチド配列は、表1においてさらに特徴づけられている。別の実施形態において、その核酸は、溶液中に存在する。別の実施形態において、胎児由来の核酸は、母体核酸に対して濃縮される。本技術の高メチル化核酸配列および低メチル化核酸配列は、表1において特定されている。別の実施形態において、その組成物は、さらに、メチル化ヌクレオチドに結合する作用物質を含む。例えば、その作用物質は、メチル−CpG結合タンパク質(MBD)またはそのフラグメントであり得る。
【0016】
いくつかの実施形態において、本技術のヌクレオチド配列は、3つ以上のCpG部位を含む。別の実施形態において、本ヌクレオチド配列は、5つ以上のCpG部位を含む。別の実施形態において、本ヌクレオチド配列は、PRC2ドメインを含む遺伝子領域由来である(表3を参照のこと)。別の実施形態において、本ヌクレオチド配列は、発生に関わる遺伝子領域由来である。例えば、SOX14(本技術の後成的マーカーである(表1を参照のこと))は、胚発生の制御および細胞運命の決定に関与する転写因子のSOX(SRY関連HMGボックス)ファミリーのメンバーである。
【0017】
いくつかの実施形態において、女性由来のゲノム配列は、メチル化されており、胎児由来のゲノム配列は、メチル化されていない。他の実施形態において、女性由来のゲノム配列は、メチル化されておらず、胎児由来のゲノム配列が、メチル化されている。別の実施形態において、胎児由来のゲノム配列は、母体由来のゲノム配列と比べて高メチル化されている。母体のゲノム配列と比べて高メチル化されていると見出された胎児のゲノム配列は、配列番号1〜59に提供されている。あるいは、胎児由来のゲノム配列は、母体由来のゲノム配列と比べて低メチル化されている。母体のゲノム配列と比べて低メチル化されていると見出された胎児のゲノム配列は、配列番号60〜85に提供されている。本技術のメチル化感受性制限酵素は、低メチル化核酸または高メチル化核酸に感受性であり得る。
【0018】
別の実施形態において、胎児核酸は、細胞外の核酸である。一般に、細胞外の胎児核酸は、約500、400、300、250、200または150(またはこの間に存在する任意の数の)ヌクレオチド塩基以下である。別の実施形態において、消化された母体核酸は、約90、100、110、120、130、140または150塩基対未満である。関連実施形態において、胎児核酸は、サイズに基づいて、消化された母体核酸からまたは消化された母体核酸に対して選択的に増幅されるか、捕捉されるか、または分離される。例えば、PCRプライマーは、約75、80、85、90、95、100、105、110、115または120(またはこの間に存在する任意の数の)塩基対より大きい核酸を増幅することにより、胎児核酸および未消化の母体核酸を増幅するように設計され得る。別の実施形態において、核酸は、本技術のある特定の方法(methodss)の前に、断片化に供される。核酸を断片化する方法の例としては、超音波処理および制限酵素消化が挙げられるがこれらに限定されない。いくつかの実施形態において、胎児核酸は、胎盤から得られる。他の実施形態において、胎児核酸は、アポトーシスにおけるものである。
【0019】
いくつかの実施形態において、本技術は、サンプルが、以下:母体の全血、母体の血漿または血清、羊水、絨毛サンプル、着床前の胚由来の生検材料、母体の血液から単離された胎児の有核細胞または胎児の細胞レムナント、母体の尿、母体の唾液、雌性生殖輸管の洗液、および体腔穿刺(celocentesis)または肺洗浄によって得られたサンプルから選択されるメンバーである方法を提供する。ある特定の実施形態において、生物学的サンプルは、母体の血液である。いくつかの実施形態において、生物学的サンプルは、絨毛サンプルである。ある特定の実施形態において、母体サンプルは、本技術のある特定の方法の前に胎児核酸について濃縮される。胎児の濃縮方法の例は、PCT公開番号WO/2007140417A2、WO2009/032781A2およびUS公開番号20050164241に提供されている。
【0020】
いくつかの実施形態において、本技術のある特定の方法を実施する前に、有核細胞および無核細胞の集団をサンプルから取り出す(例えば、実質的にすべての有核細胞および無核細胞の集団を取り出す)。いくつかの実施形態において、サンプルは、そのサンプル中に存在する胎児核酸の品質の低下(degradation or the quality)を最小にする当業者に公知の様式で、回収されるか、保存されるか、または輸送される。
【0021】
そのサンプルは、任意の動物に由来し得、それらとしては、ヒト、非ヒト、哺乳動物、爬虫類、ウシ、ネコ、イヌ、ヤギ、ブタ(swine)、ブタ(pig)、サル、類人猿、ゴリラ、雄ウシ、ウシ、クマ、ウマ、ヒツジ、家禽類、マウス、ラット、魚類、イルカ、クジラおよびサメ、または検出可能な妊娠関連障害もしくは染色体異常を有し得る任意の動物もしくは生物が挙げられるが、これらに限定されない。
【0022】
いくつかの実施形態において、サンプルを、メチル化DNAおよび非メチル化DNAを異なって改変する試薬で処理する。例えば、その試薬は、亜硫酸水素塩を含み得るか;またはその試薬は、メチル化DNAを優先的に切断する1つ以上の酵素を含み得るか;または、その試薬は、非メチル化DNAを優先的に切断する1つ以上の酵素を含み得る。メチル化感受性制限酵素の例としては、HhaIおよびHpaIIが挙げられるが、これらに限定されない。
【0023】
1つの実施形態において、胎児核酸は、胎児核酸中のメチル化ヌクレオチドに特異的に結合する作用物質によって母体核酸から分離される。別の実施形態において、胎児核酸は、母体核酸対応物中のメチル化ヌクレオチドに特異的に結合する作用物質によって母体核酸から分離されるかまたは除去される。ある実施形態において、メチル化ヌクレオチドに結合する作用物質は、メチル−CpG結合タンパク質(MBD)またはそのフラグメントである。
【0024】
本技術の別の態様において、差次的にメチル化された母体DNAおよび胎児DNAを含む母体サンプル中の胎児DNAの量またはコピー数を測定するための方法が提供される。その方法は、a)差次的なメチル化の状態に基づいて、母体DNAと胎児DNAとを区別する工程;およびb)工程a)の胎児DNAを定量する工程によって行われる。特定の実施形態において、その方法は、a)1つ以上のメチル化感受性制限酵素を用いて母体サンプル中の母体DNAを消化し、それにより、胎児DNAを濃縮する工程;およびb)工程a)からの胎児DNAの量を測定する工程を包含する。胎児DNAの量は、とりわけ、胎児核酸の存在または非存在を確定するため、胎児の性別を判定するため、胎児の疾患を診断するために使用され得るか、または感度もしくは特異性を改善するために他の胎児の診断法とともに使用され得る。1つの実施形態において、胎児DNAの量を測定するための方法は、多型配列の使用を必要としない。例えば、対立遺伝子比を用いずに、工程b)における胎児DNAが定量される。別の実施形態において、胎児DNAの量を測定するための方法は、シトシン残基をウラシルに変換する亜硫酸水素塩によるDNAの処理を必要としない。亜硫酸水素塩は、DNAを分解することにより、母体サンプル中に存在する、すでに限定的な胎児核酸をさらに減少させると知られている。1つの実施形態において、工程b)において胎児DNAの量を測定することは、既知濃度の1つ以上の競合物質を導入することによって行われる。別の実施形態において、工程b)において胎児DNAの量を測定することは、RT−PCR、プライマー伸長、配列決定またはカウントによって行われる。関連実施形態において、核酸の量は、米国特許公開番号US20070065823に記載されているようなBEAMing技術を用いて測定される。別の実施形態において、制限効率(restriction efficiency)が、測定され、その効率比(efficiency rate)を用いて、さらに胎児DNAの量が測定される。差次的にメチル化された例示的な核酸は、配列番号1〜89に提供されている。
【0025】
本技術の別の態様において、母体サンプル中の胎児DNAの濃度を測定するための方法が提供され(ここで、母体サンプルは、差次的にメチル化された母体DNAおよび胎児DNAを含む)、その方法は、a)母体サンプル中に存在するDNAの総量を測定する工程;b)1つ以上のメチル化感受性制限酵素を用いて母体サンプル中の母体DNAを選択的に消化することにより、胎児DNAを濃縮する工程;c)工程b)からの胎児DNAの量を測定する工程;およびd)工程c)からの胎児DNAの量を工程a)からのDNAの総量と比較することにより、母体サンプル中の胎児DNAの濃度を測定する工程を包含する。胎児DNAの濃度は、とりわけ、感度または特異性を改善するために他の胎児の診断法とともに使用され得る。1つの実施形態において、胎児DNAの量を測定するための方法は、多型配列の使用を必要としない。例えば、対立遺伝子比を用いずに、工程b)における胎児DNAが定量される。別の実施形態において、胎児DNAの量を測定するための方法は、シトシン残基をウラシルに変換する亜硫酸水素塩によるDNAの処理を必要としない。1つの実施形態において、工程b)において胎児DNAの量を測定することは、既知濃度の1つ以上の競合物質を導入することによって行われる。別の実施形態において、工程b)において胎児DNAの量を測定することは、RT−PCR、配列決定またはカウントによって行われる。別の実施形態において、制限効率が測定され、それを用いて、さらに全DNAおよび胎児DNAの量が測定される。差次的にメチル化された例示的な核酸は、配列番号1〜89に提供されている。
【0026】
本技術の別の態様において、母体サンプル由来の胎児DNAを用いて胎児の異数性の有無を判定するための方法が提供され(ここで、母体サンプルは、差次的にメチル化された母体DNAおよび胎児DNAを含む)、その方法は、a)1つ以上のメチル化感受性制限酵素を用いて母体サンプル中の母体DNAを選択的に消化することにより、胎児DNAを濃縮する工程;b)標的染色体由来の胎児DNAの量を測定する工程;c)参照染色体由来の胎児DNAの量を測定する工程;およびd)工程b)からの胎児DNAの量を工程c)からの胎児DNAの量と比較する工程(ここで、標的胎児DNAの量と参照胎児DNAの量との間の生物学的または統計学的に有意な差は、胎児の異数性の存在を示す)を包含する。1つの実施形態において、胎児DNAの量を測定するための方法は、多型配列の使用を必要としない。例えば、対立遺伝子比を用いずに、工程b)における胎児DNAが定量される。別の実施形態において、胎児DNAの量を測定するための方法は、シトシン残基をウラシルに変換する亜硫酸水素塩によるDNAの処理を必要としない。1つの実施形態において、工程b)およびc)における胎児DNAの量を測定することは、既知濃度の1つ以上の競合物質を導入することによって行われる。別の実施形態において、工程b)およびc)において胎児DNAの量を測定することは、RT−PCR、配列決定またはカウントによって行われる。別の実施形態において、工程b)において測定された標的染色体由来の胎児DNAの量は、標準コントロール、例えば、正倍数性の妊娠からの標的染色体由来の胎児DNAの量と比較される。別の実施形態において、制限効率が測定され、それを用いてさらに標的染色体由来および参照染色体由来の胎児DNAの量が測定される。差次的にメチル化された例示的な核酸は、配列番号1〜89に提供されている。
【0027】
本技術の別の態様において、差次的にメチル化された核酸のサンプル由来の標的核酸およびコントロール核酸の量またはコピー数を解析することによって染色体異常の有無を検出するための方法が提供され、その方法は:(a)メチル化の状況に基づいて、サンプルから標的核酸およびサンプルからコントロール核酸を濃縮する工程;(b)少なくとも1つの画分中の濃縮された標的核酸のコピー数の解析を行う工程;(c)少なくとも1つの画分中の濃縮されたコントロール核酸のコピー数の解析を行う工程;(d)工程(b)からのコピー数を工程(c)からのコピー数と比較する工程;および(e)工程(d)における比較に基づいて染色体異常が存在するか否かを判定する工程(ここで、標的核酸およびコントロール核酸は、同じまたは実質的に同じメチル化の状態を有する)を包含する。関連実施形態において、差次的にメチル化された核酸のサンプル由来の標的核酸およびコントロール核酸の量またはコピー数を解析することによって染色体異常の有無を検出するための方法が提供され、その方法は:(a)サンプル由来の標的核酸およびサンプル由来のコントロール核酸を結合剤に結合する工程;(b)メチル化の状態に基づいて、結合した核酸を溶出する工程(ここで、差次的にメチル化された核酸は、少なくとも部分的に別個の画分に溶出される);(c)少なくとも1つの画分中の溶出された標的核酸のコピー数の解析を行う工程;(d)少なくとも1つの画分中の溶出されたコントロール核酸のコピー数の解析を行う工程;(e)工程(c)からのコピー数を工程(d)からのコピー数と比較する工程;および(f)工程(e)における比較に基づいて染色体異常が存在するか否かを判定する工程(ここで、標的核酸およびコントロール核酸は、同じまたは実質的に同じメチル化の状態を有する)を包含する。差次的にメチル化された核酸は、配列番号1〜89に提供されている。
【0028】
本技術の別の態様において、差次的にメチル化された核酸のサンプル由来の標的核酸およびコントロール核酸の対立遺伝子比を解析することによって染色体異常の有無を検出するための方法が提供され、その方法は:(a)サンプル由来の標的核酸およびサンプル由来のコントロール核酸を結合剤に結合する工程;(b)メチル化の状態に基づいて、結合した核酸を溶出する工程(ここで、差次的にメチル化された核酸は、少なくとも部分的に別個の画分に溶出される);(c)少なくとも1つの画分中の溶出された標的核酸の対立遺伝子比の解析を行う工程;(d)少なくとも1つの画分中の溶出されたコントロール核酸の対立遺伝子比の解析を行う工程;(e)工程cからの対立遺伝子比を工程dからの対立遺伝子比と比較する工程;および(f)工程(e)における比較に基づいて染色体異常が存在するか否かを判定する工程(ここで、標的核酸およびコントロール核酸は、同じまたは実質的に同じメチル化の状態を有する)を包含する。差次的にメチル化された核酸は、配列番号1〜89に提供されており、差次的にメチル化された核酸内のSNPは、表2に提供されている。この方法は、妊娠関連障害を検出するためにも有用であり得る。
【0029】
本技術の別の態様において、母体核酸の量は、本技術のメチル化に基づく方法を用いて測定される。例えば、胎児核酸が、サンプル中の母体核酸から分離され得(例えば、メチル化感受性酵素を用いて消化され得)、母体核酸が、本技術の方法を用いて定量され得る。母体核酸の量が測定されると、その量をサンプル中の核酸の総量から減算することにより、胎児核酸の量が決定され得る。胎児核酸の量は、本明細書中に記載されるような、胎児の異数性を含む胎児の形質を検出するために使用され得る。
【0030】
本明細書中に記載される技術の態様および実施形態について、上記方法は、妊娠関連障害を検出するためにも有用であり得る。いくつかの実施形態において、サンプルは、胎児核酸、または胎児核酸および母体核酸を含む。サンプルが、胎児核酸および母体核酸を含む場合、その胎児核酸および母体核酸は、異なるメチル化の状態を有し得る。異なるメチル化の状態を有する核酸種は、当該分野で公知の任意の方法によって区別され得る。ある実施形態において、胎児核酸は、メチル化感受性制限酵素による母体核酸の選択的消化によって濃縮される。別の実施形態において、胎児核酸は、同じアッセイにおいて2つ以上のメチル化感受性制限酵素を用いる母体核酸の選択的消化によって濃縮される。ある実施形態において、標的核酸とコントロール核酸の両方が、胎児由来である。別の実施形態において、胎児核酸の平均サイズは、約100塩基長〜約500塩基長である。別の実施形態において、染色体異常は、トリソミー21などの異数性である。いくつかの実施形態において、標的核酸は、異常であり得る染色体の少なくとも一部であり、コントロール核酸は、非常にまれに異常である染色体の少なくとも一部である。例えば、標的核酸が、21番染色体に由来するとき、コントロール核酸は、21番染色体以外の染色体、好ましくは、別の常染色体由来である。別の実施形態において、結合剤は、MBD−Fcなどのメチル化特異的結合タンパク質である。また、濃縮された核酸または溶出された核酸は、当該分野で公知の任意の方法によって増幅および/または定量される。ある実施形態において、胎児DNAは、多型配列の使用を必要としない方法を用いて定量される。例えば、対立遺伝子比を用いずに、胎児DNAが定量される。別の実施形態において、胎児DNAの量を定量するための方法は、シトシン残基をウラシルに変換する亜硫酸水素塩によるDNAの処理を必要としない。
【0031】
いくつかの実施形態において、本技術の方法は、サンプル中の1つ以上のY染色体特異的配列の量を測定する追加工程を包含する。関連実施形態では、本技術のメチル化に基づく方法を用いることによって測定されるサンプル中の胎児核酸の量が、存在するY染色体核酸の量と比較される。
【0032】
メチル化の状態に基づいて核酸を区別するための方法としては、メチル化感受性捕捉、例えば、MBD2−Fcフラグメントを用いるもの;亜硫酸水素塩変換法、例えば、MSP(メチル化感受性PCR)、COBRA、メチル化感受性単一ヌクレオチドプライマー伸長(Ms−SNuPE)またはSequenom MassCLEAVETM技術;およびメチル化感受性制限酵素の使用が挙げられるが、これらに限定されない。明示的に述べられる場合を除いて、メチル化の状態に基づいて核酸を区別するための任意の方法が、本技術の組成物および方法とともに用いられ得る。
【0033】
いくつかの実施形態において、本技術の方法は、増幅工程をさらに包含し得る。増幅工程は、メチル化特異的PCRなどのPCRによって行われ得る。別の実施形態において、増幅反応は、例えば、米国特許第6,143,496号および同第6,440,706号(両方が本明細書中で参考として援用される)にさらに説明されているデジタルPCRによって、単一分子に対して行われる。他の実施形態において、本方法は、増幅を必要としない。例えば、濃縮された胎児DNAの量は、フローサイトメーターを用いて胎児DNA(またはそれに付着された配列タグ)をカウントすることによって、または増幅を必要としない配列決定手段によって、測定され得る。別の実施形態において、胎児DNAの量は、消化された母体核酸より大きいアンプリコンを生成する増幅反応によって胎児核酸をさらに濃縮することによって、測定される。
【0034】
配列解析を必要とする実施形態の場合、以下の配列決定技術:プライマー伸長法(例えば、iPLEX(登録商標);Sequenom,Inc.)、ダイレクトDNAシークエンス、制限酵素断片長多型(RFLP解析)、対立遺伝子特異的オリゴヌクレオチド(ASO)解析、メチル化特異的PCR(MSPCR)、パイロシークエンス解析、アシクロプライム(acycloprime)解析、リバースドットブロット、遺伝子チップマイクロアレイ、動的対立遺伝子特異的ハイブリダイゼーション(DASH)、ペプチド核酸(PNA)プローブおよびロックト(locked)核酸(LNA)プローブ、TaqMan、分子ビーコン、インターカレート色素、FRETプライマー、蛍光タグ化dNTP/ddNTP、AlphaScreen、SNPstream、遺伝的ビット(genetic bit)解析(GBA)、マルチプレックスミニシークエンシング、SNaPshot、GOODアッセイ、マイクロアレイminiseq、アレイ化プライマー伸長(arrayed primer extension)(APEX)、マイクロアレイプライマー伸長、タグアレイ、コード化ミクロスフェア(Coded microspheres)、鋳型特異的取り込み(Template−directed incorporation)(TDI)、蛍光偏光、比色オリゴヌクレオチドライゲーションアッセイ(OLA)、配列コード化OLA、マイクロアレイライゲーション、リガーゼ連鎖反応、パドロックプローブ、InvaderTMアッセイ、少なくとも1つのプローブを用いるハイブリダイゼーション、少なくとも1つの蛍光標識プローブを用いるハイブリダイゼーション、電気泳動、例えば、454プラットフォーム(Roche)(Margulies,M.ら、2005 Nature 437,376−380)、Illumina Genome Analyzer(またはSolexaプラットフォーム)またはSOLiD System(Applied Biosystems)において行われるような、クローニングおよびシークエンシング、またはHelicos True Single Molecule DNA配列決定技術(Harris T Dら、2008 Science,320,106−109)、Pacific Biosciencesの1分子リアルタイム(SMRT.TM.)技術、またはナノポアに基づく配列決定(Soni GV and Meller A.2007 Clin Chem 53:1996−2001)のうちのいずれか1つおよびそれらの組み合わせが使用され得る。ナノポアに基づく方法は、ナノポアを用いて核酸を配列決定する工程、またはナノポアを用いて、例えば、サイズに基づいて核酸分子をカウントする工程(ここで、配列情報は決定されない)を含み得る。
【0035】
1つ以上の核酸の絶対コピー数は、例えば、絶対コピー数測定のための競合的PCRアプローチを用いる系である質量分析を用いて決定され得る。例えば、Ding C,Cantor CR(2003)A high−throughput gene expression analysis technique using competitive PCR and matrix−assisted laser desorption ionization time−of−flight MS.Proc Natl Acad Sci USA 100:3059−3064および米国特許公開番号20040081993として公開された米国特許出願番号10/655762(この両方が本明細書中で参考として援用される)を参照のこと。
【0036】
いくつかの実施形態において、ゲノム配列の量は、標準コントロールと比較され、ここで、標準コントロールからの増加または減少が、妊娠関連障害の存在または進行を示す。例えば、胎児核酸の量は、サンプル中に存在するDNAの総量と比較され得る。または、胎児の異数性の有無を検出するとき、標的染色体由来の胎児核酸の量は、参照染色体由来の胎児核酸の量と比較され得る。好ましくは、参照染色体は、異数性の割合の低い別の常染色体である。標的胎児核酸と参照胎児核酸との比は、正常な正倍数性の妊娠からの同じ比と比較され得る。例えば、コントロール比は、染色体異常を有しない健常な胎児を有する女性から得られたDNAサンプルから決定され得る。好ましくは、コントロールサンプルのパネルが使用される。ある特定の染色体異常が既知である場合、特定の疾患または状態を示す基準も有し得る。したがって、例えば、妊婦の母体血漿中の3つの異なる染色体異数性についてスクリーニングするために、好ましくは、例えば、13番、18番または21番染色体のトリソミーを有する胎児を有すると判明している母体および染色体異常を有しない胎児を妊娠している母体から単離されたコントロールDNAのパネルが使用される。
【0037】
いくつかの実施形態において、本技術は、標的核酸由来およびコントロール核酸由来の対立遺伝子が配列変異(sequence variation)によって区別される方法を提供する。その配列変異は、単一ヌクレオチド多型(SNP)または挿入/欠失多型であり得る。ある実施形態において、胎児核酸は、染色体異常の有無を評価するために、核酸の対立遺伝子比の決定を可能にする少なくとも1つの高頻度のヘテロ接合性多型を含むべきである(例えば、約2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、11%、12%、13%、14%、15%、16%、17%、18%、19%、20%、25%またはそれ以上の頻度率)。例示的なSNPのリストは、表2に提供されているが、しかしながら、これは、本技術の一部として使用され得る多型対立遺伝子の完全なリストを表しているわけではない。以下の基準を満たす任意のSNPもまた考慮に入れられ得る:(a)SNPは、約2%より高いヘテロ接合性頻度を有する(好ましくは、一連の異なる集団にわたって)、(b)SNPは、ヘテロ接合性の遺伝子座である;および(c)(i)SNPは、本明細書中に記載される核酸配列内に存在するか、または(c)(iii)SNPは、本明細書中に記載されるSNPの約5〜約2000塩基対以内(例えば、本明細書中に記載されるSNPの約5、10、15、20、25、30、40、50、60、70、80、90、100、200、300、400、500、600、700、800、900、1000、1250、1500、1750または2000塩基対以内)に存在する。
【0038】
他の実施形態において、配列変異は、短いタンデム反復(STR)多型である。いくつかの実施形態において、配列変異は、制限酵素認識部位内に含まれ、ここで、1つの対立遺伝子は、制限酵素による消化を受けやすく、他の1つ以上の対立遺伝子は、そうではない。いくつかの実施形態において、配列変異は、メチル化部位である。
【0039】
いくつかの実施形態において、対立遺伝子比の解析の実施は、妊婦から核酸含有生物学的サンプルを得ることによって、その妊婦の胎児由来の標的核酸およびコントロール核酸の対立遺伝子比を測定する工程(ここで、その生物学的サンプルは、胎児核酸を含む)、差次的なメチル化に基づいて母体核酸から胎児核酸を部分的または全体的に分離する工程、対立遺伝子を標的核酸およびコントロール核酸と識別した後、対立遺伝子比を測定する工程、および対立遺伝子比に基づいて胎児内の染色体障害の有無を検出する工程(ここで、正常な正倍数性の比よりも高いまたは低い比は、染色体障害を示す)を包含する。1つの実施形態において、標的核酸は、疑いのある異数性染色体(例えば、21番染色体)由来のものであり、コントロール核酸は、同じ胎児の正倍数性染色体由来のものである。
【0040】
いくつかの実施形態において、本技術は、複数の染色体異常の有無を検出するために、他の胎児マーカーと併用され、ここで、染色体異常は、以下:トリソミー21、トリソミー18およびトリソミー13またはそれらの組み合わせから選択される。いくつかの実施形態において、染色体障害は、X染色体またはY染色体が関与する。
【0041】
いくつかの実施形態において、本組成物またはプロセスは、単一反応において多重化され得る。例えば、胎児核酸の量は、ゲノム全体にわたる複数の遺伝子座において測定され得る。または、胎児の異数性の有無を検出するとき、胎児核酸の量は、1つ以上の標的染色体(例えば、13、18または21番染色体)上および1つ以上の参照染色体上の複数の遺伝子座において測定され得る。対立遺伝子比が用いられる場合、表2の1つ以上の対立遺伝子が、同時に検出され、識別され得る。対立遺伝子比を測定する際、多重化実施形態は、多型遺伝子座における遺伝子型が不明であるときに特に重要である。いくつかの場合において、例えば、母体および子が、多型遺伝子座においてホモ接合性であるとき、そのアッセイは、情報的に有益でないかもしれない。1つの実施形態において、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、25、30、35、40、50、100、200、300または500を超えるレベルおよび任意の中間のレベルに、本技術のポリヌクレオチド配列が、本技術の方法に従って濃縮され、分離され、そして/または調べられる。標的核酸およびコントロール核酸のコピー数を解析することによって染色体異常を検出するとき、染色体異常の有無を正確に検出するためには、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13または14個未満のポリヌクレオチド配列が解析される必要があり得る。別の実施形態において、本技術の組成物またはプロセスは、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、25、30、35、40、50、100もしくはそれ以上の複製物または単一分子等価物に分けられたサンプルをアッセイするために使用され得る。単一分子解析を含む、複製物中の母体サンプル由来の胎児核酸を解析するための方法は、米国特許公開番号US2007−0207466A1として公開された米国出願番号11/364,294(本明細書中で参考として援用される)に提供されている。
【0042】
さらなる実施形態において、本技術は、比較工程が、対立遺伝子比または標的核酸の絶対コピー数が標準コントロール配列から1標準偏差高いまたは低い場合に、染色体障害を有する高リスクの胎児を示す方法を提供する。いくつかの実施形態において、比較工程は、対立遺伝子比または標的核酸の絶対コピー数が、標準コントロール配列から2標準偏差高いまたは低い場合に、染色体障害を有する高リスクの胎児を示す。他のいくつかの実施形態において、比較工程は、対立遺伝子比または標的核酸の絶対コピー数が、標準コントロール配列から3標準偏差高いまたは低い場合に、染色体障害を有する高リスクの胎児を示す。いくつかの実施形態において、比較工程は、対立遺伝子比または標的核酸の絶対コピー数が、コントロールから統計学的に有意な標準偏差よりも高いまたは低い場合に、染色体障害を有する高リスクの胎児を示す。1つの実施形態において、標準コントロールは、母体の参照であり、別の実施形態において、標準コントロールは、胎児の参照染色体(例えば、トリソミーでない常染色体)である。
【0043】
いくつかの実施形態において、本技術の方法は、染色体異常を診断するための他の方法と併用され得る。例えば、ある非侵襲性の診断法は、女の胎児についての性別検査またはRhD陰性母体におけるRhD陰性の女の胎児を確定するためなど、胎児核酸の存在または非存在の確定を必要とし得る。別の実施形態において、胎児核酸のパーセンテージが既知であることが必要である別の診断法を可能にするために、本技術の組成物および方法を用いることにより、母体サンプル中の胎児核酸のパーセンテージが決定され得る。例えば、サンプルがある特定の閾値濃度の必要条件を満たしているか?対立遺伝子比を決定することにより母体サンプルから胎児の異数性を診断するとき、胎児核酸の量または濃度が、所与の感度および特異性で診断するために必要とされ得る。他の実施形態において、染色体異常を検出するための本技術の組成物および方法は、他の公知の方法と併用されることにより、その検出方法の全体的な感度および特異性が改善され得る。例えば、数学的モデルは、母体の年齢(MA)、項部浮腫(NT)の厚さ、無血清ベータ−hCGおよび血清中PAPP−Aを利用する妊娠第一期スクリーニングプログラムの併用が、侵襲性の検査では5%という比率であるのに対して、80%を超えるダウン症候群を有する胎児を検出し得ることを示唆している(Wald and Hackshaw,Prenat Diagn 17(9):921−9(1997))。しかしながら、本明細書中に記載される非侵襲性の胎児核酸に基づく方法と組み合わされる通常使用される異数性検出方法の併用は、より低い偽陽性率で精度を改善し得る。併用される診断法の例は、本明細書中で参考として援用されるPCT公開番号WO2008157264A2(本出願人に譲渡)に記載されている。いくつかの実施形態において、本技術の方法は、細胞ベースの方法と併用され得、ここで、胎児の細胞は、侵襲的または非侵襲的に獲得され得る。
【0044】
ある特定の実施形態において、染色体異常に対する高リスクは、本明細書中に提供される組成物または方法からもたらされた成果または結果に基づく。成果の例は、正倍数性の絶対コピー数または対立遺伝子比からのずれであり、それは、染色体異数性の存在を示す。この標準コントロールからの絶対コピー数または比の増加または減少は、染色体異常(例えば、トリソミー21)を有する胎児を有する高リスクを示す。本明細書中に記載される方法に関係する情報(例えば、トリソミーまたは異数性の成果、結果またはリスク)は、例えば、任意の適当な媒体に焼き付けられ(transfixed)得、解釈表現され得、記録され得、および/または表示され得る。例えば、成果は、その成果を保存するか、格納するか、共有するか、通信するか、または別途解析するために媒体に焼き付けられ得る。媒体は、有形(例えば、紙)または無形(例えば、電子媒体)であり得、媒体の例としては、コンピュータ媒体、データベース、カルテ、患者カルテ、記録、患者記録、グラフおよび表ならびに他の任意の表現媒体が挙げられるが、これらに限定されない。その情報は、時折、コンピュータ読み取り可能な形態で保存および/または解釈表現され、時折、データベース内に保存され、整理される。ある特定の実施形態において、その情報は、物理的媒体(例えば、紙)またはコンピュータ可読媒体(例えば、光学的記憶装置および/もしくは磁気記憶装置または伝送媒体、フロッピー(登録商標)ディスク、ハードディスク、ランダムアクセス記憶装置、コンピュータプロセシングユニット、ファクシミリ信号、衛星信号、インターネットを利用した伝送もしくはワールドワイドウェブを利用した伝送)を用いて、1つの場所から別の場所に移され得る。
【0045】
CpGアイランドは、いくつかの場合においてCpG含有ゲノム配列として使用され得る一方、他の場合では、CpG含有ゲノム配列は、CpGアイランドでないかもしれない。いくつかの実施形態において、本技術は、本技術の方法を行うためのキットを提供する。そのキットの1つの構成要素は、メチル化感受性結合剤である。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】図1は、差次的にメチル化されたDNAを分離するために使用される組換えMBD−Fcタンパク質の構造を示している。
【図2】図2は、メチル−CpGに結合する抗体様タンパク質が、好ましくは、CpGジヌクレオチドにおいてメチル化DNAである、その「抗原」に対して高親和性および高アビディティーを有することを示している。
【図3】図3は、MBD−FCのメチル結合ドメインが、メチル化の状態に関係なくDNA分子に結合することを示している。このタンパク質/DNA相互作用の強度は、DNAメチル化のレベルによって定義される。ゲノムDNAに結合した後、溶出溶液の塩濃度を徐々に高くすることにより、非メチル化DNAとメチル化DNAとが分画され得、管理された分離が可能になる。
【図4】図4は、組換えMBD−Fcタンパク質およびマイクロアレイを用いて、胎児および母体由来の差次的にメチル化されたDNAを同定するために使用される実験を示している。
【図5】図5は、図4に図示された実験からもたらされた結果を検証するために使用されたSequenom(登録商標)EpiTYPERTM法によってもたらされた代表的な結果を示している。
【図6】図6は、マイクロアレイ解析から得られたlog比(x軸)とEpiTYPER解析によって得られたメチル化の差(y軸)との相関関係を示している。各データポイントは、測定されたすべてのサンプルに対する1つの領域についての平均である。母体DNAの高度にメチル化された画分が、胎盤DNAの高度にメチル化された画分とハイブリダイズするので、マイクロアレイ解析は、本質的には相対的なものである。正の値は、胎盤サンプルのより高いメチル化を示す。質量分析では、各サンプルを個別に測定する。本発明者らは、まず、胎盤のメチル化の値から母体のメチル化の値を減じることによって、メチル化の差を計算した。この結果をマイクロアレイデータと比較するために、本発明者らは、すべての母体/胎盤DNA対についての差の平均を計算した。
【図7】図7は、母体のメチル化の平均と胎盤のメチル化の平均との差をマイクロアレイの結果を比較している。
【図8】図8は、予想されたgDNA分子の数と、質量分析と併用の競合PCRによって測定された分子の数との相関関係を示している。この実験において、本発明者らは、全血に由来するDNA(黒色十字の記号)および市販の完全にメチル化されたDNA(赤色十字)を90対10の比で使用した。本発明者らは、非メチル化DNAの画分とメチル化DNAの画分とを分離するためにMBD−FC融合タンパク質を使用した。各画分を、質量分析の読み出しとともに、競合PCR解析に供した。この方法は、コピー数のばらつきの解析について先に報告されており、遺伝子発現解析について商業的に利用可能である。このアプローチは、既知濃度の合成オリゴヌクレオチドの助けによってDNA分子の絶対的な定量を可能にする。この実験では、本発明者らは、ここで用いられた全血サンプル中でメチル化されていなかったMGMT遺伝子座を標的にした。合計300コピーのgDNAを投入したとき、本発明者らは、270コピーの非メチル化DNAおよび30コピーのメチル化DNAがみられると予想する。測定されるコピー数は、期待値とおおむね一致する。600コピーの投入DNAにおけるデータポイントは、この反応の偏りを示唆しており、このアッセイが使用され得る前に、この実験コンセプトの最初の証明が、より開発的な研究によって追跡される必要があることを示している。しかしながら、この最初のデータは、過剰量の非メチル化DNA種の存在下において数コピーのメチル化DNAを捕捉するためおよび定量するためのアプローチの実行可能性を示唆している。
【図9】図9A〜9Cは、ゲノム位置に関する、マイクロアレイ解析(黒色の棒)および質量分析(薄灰色の棒)から得られたメチル化の差の棒グラフのプロットを示している。マイクロアレイによって差次的にメチル化されていると同定された85個の領域の各々について、個別のプロットが提供されている。各プロットに対するx軸は、その領域の染色体の位置を示している。y軸は、log比(log ration)(マイクロアレイの場合)およびメチル化の差(質量分析の結果の場合)を示している。マイクロアレイについては、その領域における各ハイブリダイゼーションプローブが、1本の黒色(または濃い灰色)の棒として示されている。質量分析の結果については、各CpG部位が、薄灰色の棒として示されている。0より大きい値を示している棒は、母体DNAと比べて胎盤サンプル中のDNAメチル化が高いことを示唆している。いくつかの遺伝子について、差は小さい(すなわち、RB1またはDSCR6)にもかかわらず、統計学的に有意である。それらの領域は、胎児DNA濃縮ストラテジーにはあまり適切でない。
【図10】図10は、胎児の定量方法(Fetal Quantifier Method)の一実施形態を示している。母体核酸を選択的に消化し、残りの胎児核酸を、既知濃度の競合物質を用いて定量する。この模式図では、被検体を分離し、そして質量分析計(mass spectromter)によって定量している。
【図11】図11は、メチル化に基づく胎児の診断法の一実施形態を示している。母体核酸を選択的に消化し、残りの胎児核酸を、3つの異なる染色体(13、18および21)について定量する。この図のパート2および3は、消化の前後のサンプル中の核酸のサイズ分布を図示している。この増幅反応は、消化された母体核酸よりも長い未消化の胎児核酸が好まれることにより胎児核酸がさらに濃縮されるように、サイズ特異的(例えば、100塩基対を超えるアンプリコン)であり得る。この図の下のスペクトルは、トリソミー21を示す、胎児の21番染色体の核酸の量が増加していることを示している。
【図12】図12は、非妊婦の血液から単離された4つの異なるDNAサンプルからの増幅可能なゲノムコピーの総数を示している。1反応物あたり約2500、1250、625または313コピーを含むように各サンプルを希釈した。2つの総コピー数アッセイ(表XにおけるALBおよびRNAseP)から得られたDNA/競合物質の平均比を得ることによって、各測定値を得た。図12に示されるように、総コピー数は、様々なサンプルにわたって正確かつ安定であるので、この競合物質ベースのアプローチの有用性が確認された。
【図13A】様々な量の男児のメチル化胎盤DNAがスパイクインされ、一定数の非メチル化母体DNAを含むモデルシステムが作製された。それらのサンプルには、非メチル化母体DNAに対して約0〜25%の範囲の男児の胎盤の量が加えられた。総コピー数アッセイと比較したときのメチル化アッセイ(図13A)およびY染色体マーカー(図13B)から得られた比を用いて、胎盤DNAの割合が計算された。メチル化マーカーおよびY染色体マーカーは、表Xに提供されている。
【図13B】様々な量の男児のメチル化胎盤DNAがスパイクインされ、一定数の非メチル化母体DNAを含むモデルシステムが作製された。それらのサンプルには、非メチル化母体DNAに対して約0〜25%の範囲の男児の胎盤の量が加えられた。総コピー数アッセイと比較したときのメチル化アッセイ(図13A)およびY染色体マーカー(図13B)から得られた比を用いて、胎盤DNAの割合が計算された。メチル化マーカーおよびY染色体マーカーは、表Xに提供されている。
【図14】図14AおよびBは、血漿サンプルからの総コピー数アッセイの結果を示している。図14Aでは、各サンプルに対するコピー数が示されている。2つのサンプル(25および26番)は、他のすべてのサンプルよりも著しく高い総コピー数を有する。約1300個の増幅可能なコピー/ml血漿という平均を得た(766〜2055の範囲)。図14Bは、それらの結果を要約している所与の値の箱ひげ図を示している。
【図15】男の胎児を妊娠している妊婦から採取された33個の異なる血漿サンプル由来の胎児核酸の量(またはコピー数)がプロットされている。得られたコピー数は、表Xに提供されるアッセイを用いて、メチル化マーカーおよびY染色体特異的マーカーを使用して計算された。図15Bに見られるように、所与の値の箱ひげ図は、2つの異なる測定値間の最小の差を示しており、ゆえに、この方法の正確度および安定性が確認された。
【図16】図16は、図15Aからのメチル化マーカー 対 Y染色体マーカーを用いて得られた結果間の対をなした相関関係を示している。
【図17】図17は、コントロール 対 競合物質に対する消化の比を用い、この値を平均総コピー数アッセイと比べたときの制限酵素の消化効率を示している。サンプル26は別として、すべての反応が、約99%より高い効率を示している。
【図18】図18は、男児を妊娠している場合はY染色体特異的マーカーを用いて、およびすべての妊娠の場合(胎児の性別に関係なく)にはメチル化画分の平均を用いて、サンプル中の胎児DNAの画分(または濃度)を計算するための特定の方法を提供している。
【図19】図19は、Y染色体特異的マーカーを用いずにサンプル中の胎児DNAの画分(または濃度)を計算するための特定の方法を提供している。代わりに、メチル化を定量するためのアッセイだけを用いて、胎児DNAの濃度が測定された。
【図20】図20は、本技術の方法を用いて、シミュレートされたトリソミー21診断に対するt検定の検出力計算を示している。この図は、x軸の変動係数(CV)と、単純なt検定を用いてアッセイ集団を識別する検出力(y軸)との関係を示している。このデータは、すべての場合の99%において、この2つの集団(正倍数性 対 異数性)が、5%またはそれ以下のCVをもたらす0.001という有意水準で識別され得ることを示唆している。
【発明を実施するための形態】
【0047】
定義
用語「妊娠関連障害」は、本願において使用される場合、妊婦、胎児または妊婦と胎児の両方に影響し得る任意の状態または疾患のことを指す。そのような状態または疾患は、限られた期間中、例えば、妊娠中もしくは分娩中にその症状を顕わし得るか、または出生後の胎児の全生涯期間において継続し得る。妊娠関連障害のいくつかの例としては、子宮外妊娠、子癇前症、早産、RhD不適合、トリソミー21などの胎児の染色体異常、および遺伝学的に遺伝する胎児の障害(例えば、嚢胞性線維症、ベータ−サラセミアまたは他の単一遺伝子障害)が挙げられる。母体サンプルから胎児核酸(fetal nucleic)を濃縮できることは、常染色体劣性遺伝病の非侵襲性出生前診断にとって特に有用たらしめ得る(例えば、母親と父親とが同一の疾患原因変異を共有するときに、母体の血漿に基づく非トリソミー出生前診断のために調べて予め了解しておく場合)。
【0048】
用語「染色体異常」または「異数性」は、本明細書中で使用される場合、対象染色体の構造と正常な相同染色体の構造との間のずれのことを指す。用語「正常」とは、特定の種の健常個体に見られる優勢の核型またはバンディングパターン、例えば、正倍数性のゲノム(ヒトでは、46XXまたは46XY)のことを指す。染色体異常は、数的または構造的であり得、それらとしては、異数性、倍数性、逆位、トリソミー、モノソミー、重複、欠失、染色体の一部の欠失、付加、染色体の一部の付加、挿入、染色体のフラグメント、染色体の領域、染色体再編成および転座が挙げられるが、これらに限定されない。染色体異常は、1つ以上の染色体の一部が、例えば、染色体転座に起因して通常の半数体の数の正確な倍数でない染色体異常の状況のことも指し得る。染色体転座(例えば、14番染色体の一部が余分な21番染色体によって置き換えられる、21番染色体と14番染色体との間の転座)は、部分的トリソミー21を引き起こし得る。染色体異常は、病的状態の存在または病的状態を発症する素因と相関し得る。染色体異常は、核酸の定量的解析によって検出され得る。
【0049】
用語「核酸」および「核酸分子」は、本開示全体にわたって交換可能に使用され得る。これらの用語は、DNA(例えば、相補DNA(cDNA)、ゲノムDNA(gDNA)など)、RNA(例えば、メッセージRNA(mRNA)、低分子阻害性(short inhibitory)RNA(siRNA)、リボソームRNA(rRNA)、tRNA、マイクロRNA、胎児または胎盤によって高度に発現されるRNAなど)および/またはDNAアナログもしくはRNAアナログ(例えば、塩基アナログ、糖アナログおよび/または非天然の骨格を含むものなど)、RNA/DNAハイブリッドならびにポリアミド核酸(PNAs)などに由来する任意の組成の核酸のことを指し、これらのすべては、一本鎖または二本鎖の形態であり得、別段限定されない限り、天然に存在するヌクレオチドと同様の様式で機能し得る天然のヌクレオチドの公知のアナログを含み得る。例えば、配列番号1〜89に提供される核酸(表4を参照のこと)は、本明細書中のプロセスを行うために有用な任意の形態(例えば、線状、環状、スーパーコイル、一本鎖、二本鎖など)であり得るか、または本技術の一部としてその有用性を変化させない変異(例えば、挿入、欠失または置換)を含み得る。核酸は、ある特定の実施形態において、プラスミド、ファージ、自律複製配列(ARS)、セントロメア、人工染色体、染色体、あるいはインビトロまたは宿主細胞、細胞、細胞核もしくは細胞の細胞質において複製することができるかまたは複製されることができる他の核酸であり得るか、またはそれらに由来し得る。鋳型核酸は、いくつかの実施形態において、単一染色体に由来し得る(例えば、核酸サンプルは、二倍体生物から得られたサンプルの1本の染色体に由来し得る)。明確に限定されない限り、この用語は、参照核酸と同様の結合特性を有し、かつ天然に存在するヌクレオチドと類似の様式で代謝される、天然のヌクレオチドの公知のアナログを含む核酸を包含する。別段示されない限り、特定の核酸配列は、その保存的に改変されたバリアント(例えば、縮重コドン置換)、対立遺伝子、オルソログ、単一ヌクレオチド多型(SNPs)および相補的配列ならびに明示的に示された配列も暗黙的に包含する。具体的には、縮重コドン置換は、1つ以上の選択された(またはすべての)コドンの3番目の位置が混合塩基および/またはデオキシイノシン残基で置換されている配列を生成することによって達成され得る(Batzerら、Nucleic Acid Res.19:5081(1991);Ohtsukaら、J.Biol.Chem.260:2605−2608(1985);およびRossoliniら、Mol.Cell.Probes 8:91−98(1994))。核酸という用語は、遺伝子座、遺伝子、cDNAおよびある遺伝子によってコードされるmRNAと交換可能に使用される。この用語は、ヌクレオチドアナログから合成されたRNAまたはDNAの等価物、誘導体、バリアントおよびアナログとして、一本鎖(「センス」または「アンチセンス」、「プラス」鎖または「マイナス」鎖、「順方向」読み枠または「逆方向」読み枠)および二本鎖ポリヌクレオチドも含み得る。デオキシリボヌクレオチドには、デオキシアデノシン、デオキシシチジン、デオキシグアノシンおよびデオキシチミジンが含まれる。RNAの場合、塩基シトシンは、ウラシルで置き換えられる。鋳型核酸は、被験体から得られた核酸を鋳型として用いて調製され得る。
【0050】
「1つ以上のCpG部位を含む核酸」または「CpG含有ゲノム配列」は、本明細書中で使用される場合、ヒト胎児または妊婦などの個体のゲノム内の規定の位置におけるDNA配列のセグメントのことを指す。代表的には、「CpG含有ゲノム配列」は、少なくとも15ヌクレオチド長であり、少なくとも1つのシトシンを含む。好ましくは、CpG含有ゲノム配列は、少なくとも30、50、80、100、150、200、250または300ヌクレオチド長であり得、少なくとも2、5、10、15、20、25または30個のシトシンを含む。所与の位置における、例えば、所与の遺伝子座を中心にした領域内におけるいずれか1つの「CpG含有ゲノム配列」(表1を参照のこと)について、ヌクレオチド配列変異は、個体ごとに、および同じ個体であっても対立遺伝子ごとに存在し得る。代表的には、規定の遺伝子座を中心にしたそのような領域(例えば、CpGアイランド)は、その遺伝子座ならびに上流および/または下流の配列を含む。上流または下流の配列の各々(それぞれ、遺伝子座の5’または3’境界線から数えて)は、10kbもの長さであり得、他の場合では、5kb、2kb、1kb、500bp、200bpまたは100bpの長さであり得る。さらに、「CpG含有ゲノム配列」は、タンパク質生成のために転写されるかまたは転写されないヌクレオチド配列を含み得、そのヌクレオチド配列は、遺伝子間配列、遺伝子内配列、タンパク質コード配列、非タンパク質コード配列(例えば、転写プロモーター)またはそれらの組み合わせであり得る。
【0051】
本明細書中で使用される場合、「メチル化ヌクレオチド」または「メチル化ヌクレオチド塩基」とは、ヌクレオチド塩基上におけるメチル部分の存在のことを指し、ここで、そのメチル部分は、認められている代表的なヌクレオチド塩基には存在しない。例えば、シトシンは、そのピリミジン環上にメチル部分を含まないが、5−メチルシトシンは、そのピリミジン環の5位にメチル部分を含む。ゆえに、シトシンは、メチル化ヌクレオチドではなく、5−メチルシトシンが、メチル化ヌクレオチドである。別の例では、チミンは、そのピリミジン環の5位にメチル部分を含むが、しかしながら、本明細書中の目的について、チミンは、DNAの代表的なヌクレオチド塩基であるので、DNAに存在しても、メチル化ヌクレオチドであると考えられない。DNAに対する代表的なヌクレオシド塩基は、チミン、アデニン、シトシンおよびグアニンである。RNAに対する代表的な塩基は、ウラシル、アデニン、シトシンおよびグアニンである。それに対応して、「メチル化部位」は、メチル化が起きているかまたは起きる可能性のある標的遺伝子核酸領域における位置である。例えば、CpGを含む位置は、メチル化部位であり、ここで、シトシンは、メチル化されていてもよいし、されていなくてもよい。
【0052】
本明細書中で使用される場合、「CpG部位」または「メチル化部位」は、インビボにおいて天然に生じる事象またはインビトロにおいてヌクレオチドを化学的にメチル化するように行われる事象によってメチル化を受けやすい核酸内のヌクレオチドである。
【0053】
本明細書中で使用される場合、「メチル化核酸分子」とは、メチル化されている1つ以上のメチル化ヌクレオチドを含む核酸分子のことを指す。
【0054】
「CpGアイランド」は、本明細書中で使用される場合、機能的または構造的に逸脱したCpG密度を含むDNA配列のセグメントのことを記載する。例えば、Yamadaら(Genome Research 14:247−266,2004)は、CpGアイランドを判定するための基準のセットを報告した:CpGアイランドは、少なくとも400ヌクレオチド長でなければならず、50%超のGC含有量および0.6を超えるOCF/ECF比を有する。その他の者(Takaiら、Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.99:3740−3745,2002)は、少なくとも200ヌクレオチド長、50%超のGC含有量、および0.6を超えるOCF/ECF比を有する配列として、より厳密ではなくCpGアイランドを定義している。
【0055】
用語「後成的状況」または「後成的状態」は、本明細書中で使用される場合、1次ヌクレオチド配列以外の核酸(例えば、DNAまたはRNA)の分子レベルにおける任意の構造的特徴のことを指す。例えば、ゲノムDNAの後成的状況は、例えば、そのメチル化パターンまたは細胞のタンパク質との会合によって決定されるかまたは影響されるその二次構造または三次構造を含み得る。
【0056】
用語「メチル化プロファイル」「メチル化の状況」または「メチル化の状態」は、ゲノム配列のメチル化の状況を記載するために本明細書中で使用される場合、特定のゲノム遺伝子座におけるDNAセグメントの、メチル化に関する特性のことを指す。そのような特性としては、このDNA配列内のシトシン(C)残基のいずれかがメチル化されているか否か、メチル化されたC残基の位置、任意の特定の長さの残基におけるメチル化されたCのパーセンテージ、および例えば、対立遺伝子の起源の差に起因する、対立遺伝子のメチル化の差が挙げられるが、これらに限定されない。用語「メチル化プロファイル」または「メチル化の状態」は、生物学的サンプル中の任意の特定の長さの残基におけるメチル化されたCまたはメチル化されていないCの相対的濃度または絶対的濃度のことも指す。例えば、あるDNA配列内のシトシン(C)残基が、メチル化されている場合、その残基は、「高メチル化されている」と言及され得る;一方、あるDNA配列内のシトシン(C)残基が、メチル化されていない場合、その残基は、「低メチル化されている」と言及され得る。同様に、あるDNA配列(例えば、胎児核酸)内のシトシン(C)残基が、異なる領域由来または異なる個体由来の別の配列と比べて(例えば、母体核酸と比べて)メチル化されている場合、その配列は、その他の配列と比べて高メチル化されていると考えられる。あるいは、あるDNA配列内のシトシン(C)残基が、異なる領域由来または異なる個体(例えば、母体)由来の別の配列と比べてメチル化されていない場合、その配列は、その他の配列と比べて低メチル化されていると考えられる。これらの配列は、「差次的にメチル化されている」と言われ、より詳細には、メチル化の状態が、母体と胎児との間で異なるとき、それらの配列は、「差次的にメチル化された母体核酸および胎児核酸」と考えられる。
【0057】
用語「メチル化ヌクレオチドに結合する作用物質」は、本明細書中で使用される場合、メチル化された核酸に結合することができる物質のことを指す。その作用物質は、天然に存在するものであっても合成のものであってもよく、改変されていてもよいし、改変されていなくてもよい。1つの実施形態において、その作用物質は、異なる核酸種の分離をそれぞれのメチル化の状況に従って可能にする。メチル化ヌクレオチドに結合する作用物質の例は、WO06056480A2として公開され、本明細書中で参考として援用されるPCT特許出願番号PCT/EP2005/012707に記載されている。その記載された作用物質は、メチルCpG結合タンパク質(MBD)のファミリーに属するタンパク質のDNA結合ドメインおよび抗体のFc部分を含む二機能性ポリペプチドである(図1を参照のこと)。その組換えメチルCpG結合抗体様タンパク質は、好ましくは、CpGメチル化DNAに抗体様の様式で結合し得る。それは、そのメチルCpG結合抗体様タンパク質が、その「抗原」(好ましくは、CpGジヌクレオチドにおいてメチル化されているDNAである)に対して高親和性かつ高ビディティーを有することを意味する。その作用物質は、多価MBDでもあり得る(図2を参照のこと)。
【0058】
用語「多型」は、本明細書中で使用される場合、同じゲノム配列の様々な対立遺伝子内の配列変異のことを指す。多型を含む配列は、「多型配列」と考えられる。1つ以上の多型の検出は、単一ゲノム配列の異なる対立遺伝子の区別または2つ以上の個体間の区別を可能にする。本明細書中で使用される場合、用語「多型マーカー」または「多型配列」とは、個体間のDNA配列における遺伝的変異を示すゲノムDNAのセグメントのことを指す。そのようなマーカーとしては、単一ヌクレオチド多型(SNP)、制限酵素断片長多型(RFLP)、ジ−、トリ−またはテトラ−ヌクレオチドリピートなどの短いタンデム反復(STR)などが挙げられるが、これらに限定されない。本技術に記載の多型マーカーは、濃縮された胎児核酸サンプル中の母系対立遺伝子と父系対立遺伝子とを特異的に区別するために使用され得る。
【0059】
用語「単一ヌクレオチド多型」または「SNP」は、本明細書中で使用される場合、同じゲノム配列の様々な対立遺伝子内の単一ヌクレオチド残基に存在するポリヌクレオチド配列変異のことを指す。この変異は、そのゲノム配列がタンパク質生成時に転写される場合、ゲノム配列のコード領域または非コード領域(すなわち、プロモーターまたはイントロン領域)内に存在し得る。1つ以上のSNPの検出は、単一ゲノム配列の様々な対立遺伝子の区別または2つ以上の個体間の区別を可能にする。
【0060】
用語「対立遺伝子」は、本明細書中で使用される場合、染色体上の同じ位置を占めるDNAの遺伝子または非コード領域のいくつかの代替の形態のうちの1つである。対立遺伝子という用語は、任意の生物(細菌、ウイルス、真菌、原生動物、カビ、酵母、植物、ヒト、非ヒト、動物および古細菌(archeabacteria)を含むがこれらに限定されない)由来のDNAを記載するために使用され得る。
【0061】
用語「対立遺伝子の比」または「対立遺伝子比」は、本明細書中で使用される場合、サンプル中の一方の対立遺伝子の集団と他方の対立遺伝子の集団との比のことを指す。いくつかのトリソミーの場合において、胎児が特定の遺伝子座について3対立遺伝子であり得る可能性がある。そのような場合において、用語「対立遺伝子の比」とは、他方の対立遺伝子のうちの1つに対するいずれか1つの対立遺伝子または他方の2つの対立遺伝子に対するいずれか1つの対立遺伝子の集団の比のことを指す。
【0062】
用語「多型に基づかない定量方法」は、本明細書中で使用される場合、多型マーカーまたは多型配列の使用を必要としない、被検体(例えば、全核酸、Y染色体核酸または胎児核酸)の量を測定するための方法のことを指す。多型が、配列内に存在し得るにもかかわらず、前記多型は、その配列を定量するために必要ではない。多型に基づかない定量方法の例としては、RT−PCR、デジタルPCR、アレイに基づく方法、配列決定法、ナノポアに基づく方法、核酸に結合したビーズに基づくカウント方法および競合物質に基づく方法(ここで、1つ以上の競合物質が、既知濃度で導入されることにより、1つ以上の被検体の量が測定される)が挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態において、上記の例示的な方法のうちのいくつか(例えば、配列決定法)は、1つ以上の多型を調べないように積極的に改変されるかまたは設計される必要があり得る。
【0063】
用語「絶対量」または「コピー数」は、本明細書中で使用される場合、被検体(例えば、核酸全体または胎児核酸)の量または数のことを指す。本技術は、混合された母体サンプル中の胎児核酸の絶対量を測定するための組成物およびプロセスを提供する。絶対量または絶対コピー数は、検出に利用可能な分子の数のことであり、単位あたりのゲノム等価物として表され得る。用語「濃度」とは、混合物中または溶液中の物質の量または割合(例えば、母体核酸と胎児核酸との混合物を含む母体サンプル中の胎児核酸の量)のことを指す。その濃度は、どれくらい大量/少量であるかを表すために用いられる、別の量に対する100分率としてのパーセンテージとして表され得る。被検体(例えば、標的核酸)の数または量を測定するためのプラットフォームとしては、質量分析(mass spectrometery)、デジタルPCR、合成プラットフォームによる配列決定(例えば、パイロシークエンス)、蛍光分光法およびフローサイトメトリーが挙げられるが、これらに限定されない。
【0064】
用語「サンプル」は、本明細書中で使用される場合、核酸を含む検体のことを指す。サンプルの例としては、組織、体液(例えば、血液、血清、血漿、唾液、尿、涙、腹膜液、腹水、膣分泌物、乳汁(breast fluid)、母乳、リンパ液、脳脊髄液または粘膜分泌物)、臍帯血、絨毛、羊水、胚、2細胞期胚、4細胞期胚、8細胞期胚、16細胞期胚、32細胞期胚、64細胞期胚、128細胞期胚、256細胞期胚、512細胞期胚、1024細胞期胚、胚組織、リンパ液、脳脊髄液、粘膜分泌物もしくは他の身体滲出物、糞便、個別の細胞、または当該分野において十分に確立されたプロトコルを用いて、核酸を含むそのような起源およびミトコンドリアなどの細胞内構造物を抽出した物が挙げられるが、これらに限定されない。
【0065】
胎児DNAは、母体の血液、母体の血清、母体の血漿、胎児の細胞、臍帯血、絨毛、羊水、尿、唾液、肺洗浄液、細胞または組織を含むがこれらに限定されない起源から得ることができる。
【0066】
用語「血液」は、本明細書中で使用される場合、妊婦由来または妊娠の可能性を検査している女性由来の血液サンプルまたは血液調製物のことを指す。この用語は、全血または血液の任意の画分(例えば、慣習的に定義されるような血清および血漿)を包含する。
【0067】
用語「亜硫酸水素塩」は、本明細書中で使用される場合、メチル化されたシトシンを化学的に改変せずにシトシン(C)をウラシル(U)に化学的に変換することができる任意の適当なタイプの亜硫酸水素塩(例えば、亜硫酸水素ナトリウム)を包含し、ゆえに、DNAのメチル化の状態に基づいてDNA配列を差次的に改変するために使用され得る。
【0068】
本明細書中で使用される場合、メチル化DNAまたは非メチル化DNAを「差次的に改変する」試薬は、メチル化DNAおよび非メチル化DNAから識別可能な産物を生じさせることによってDNAのメチル化の状態の識別を可能にするプロセスにおいて、メチル化DNAおよび/または非メチル化DNAを改変する任意の試薬を包含する。そのようなプロセスとしては、化学反応(例えば、亜硫酸水素塩によるCからUへの変換)および酵素処理(例えば、メチル化依存性エンドヌクレアーゼによる切断)が挙げられ得るが、これらに限定されない。したがって、メチル化DNAを優先的に切断するかまたは消化する酵素は、そのDNAがメチル化されているときにより高効率でDNA分子を切断するかまたは消化することができる酵素であり、一方、非メチル化DNAを優先的に切断するかまたは消化する酵素は、そのDNAがメチル化されていないときに著しく高い効率を示す。
【0069】
用語「亜硫酸水素塩に基づかない方法」および「亜硫酸水素塩に基づかない定量方法」は、本明細書中で使用される場合、亜硫酸水素塩の使用を必要としない、メチル化核酸または非メチル化核酸を定量するための任意の方法のことを指す。これらの用語は、亜硫酸水素塩処理を必要としない、定量される核酸を調製するための方法のことも指す。亜硫酸水素塩に基づかない方法の例としては、1つ以上のメチル化感受性酵素を用いて核酸を消化するための方法およびメチル化の状態に基づいて核酸に結合する作用物質を用いて核酸を分離するための方法が挙げられるが、これらに限定されない。
【0070】
用語「メチル感受性酵素」および「メチル化感受性制限酵素」は、活性についてDNA認識部位のメチル化の状況に依存する、DNA制限エンドヌクレアーゼである。例えば、DNA認識配列がメチル化されていない場合に限り、そのDNA認識配列において切断するかまたは消化するメチル感受性酵素が存在する。したがって、非メチル化DNAサンプルは、メチル化DNAサンプルよりも小さいフラグメントに切られる。同様に、高メチル化DNAサンプルは、切断されない。対照的に、DNA認識配列がメチル化されている場合に限り、そのDNA認識配列において切断するメチル感受性酵素が存在する。本明細書中で使用される場合、用語「切断する」、「切る」および「消化する」は、交換可能に使用される。
【0071】
用語「標的核酸」は、本明細書中で使用される場合、その核酸が妊娠関連障害または染色体異常の一部であるか否かを判定する本明細書中に開示される方法を用いて調べられる核酸のことを指す。例えば、21番染色体由来の標的核酸は、ダウン症候群を検出する本技術の方法を用いて調べられ得る。
【0072】
用語「コントロール核酸」は、本明細書中で使用される場合、その核酸が染色体異常の一部であるか否かを判定する本明細書中に開示される方法に従って、参照核酸として使用される核酸のことを指す。例えば、21番染色体以外の染色体(本明細書中で「参照染色体」と呼ばれる)由来のコントロール核酸は、ダウン症候群を検出するための参照配列であり得る。いくつかの実施形態において、コントロール配列は、既知または所定の量を有する。
【0073】
用語「配列特異的」または「遺伝子座特異的方法」は、本明細書中で使用される場合、配列組成に基づいてゲノム内の特定の位置(または遺伝子座)における核酸を調べる(例えば、定量する)方法のことを指す。配列特異的方法または遺伝子座特異的方法は、特定の領域または染色体の定量を可能にする。
【0074】
用語「遺伝子」は、ポリペプチド鎖の生成に関与するDNAのセグメントを意味する;これは、遺伝子産物の転写/翻訳および転写/翻訳の制御に関与するコード領域の前および後の領域(リーダーおよびトレーラー(trailer))ならびに個別のコーディングセグメント(エキソン)間の介在配列(イントロン)を含む。
【0075】
本願において、用語「ポリペプチド」、「ペプチド」および「タンパク質」は、アミノ酸残基のポリマーのことを指すために本明細書中で交換可能に使用される。これらの用語は、1つ以上のアミノ酸残基が、対応する天然に存在するアミノ酸の人工的な化学模倣物であるアミノ酸ポリマー、ならびに天然に存在するアミノ酸ポリマーおよび天然に存在しないアミノ酸ポリマーに適用される。本明細書中で使用される場合、これらの用語は、完全長タンパク質(すなわち、抗原)を含む任意の長さのアミノ酸鎖を包含し、ここで、そのアミノ酸残基は、共有結合性のペプチド結合によって連結される。
【0076】
用語「アミノ酸」とは、天然に存在するアミノ酸および合成アミノ酸、ならびに天然に存在するアミノ酸に類似の様式で機能するアミノ酸アナログおよびアミノ酸模倣物のことを指す。天然に存在するアミノ酸は、遺伝暗号によってコードされるアミノ酸、ならびに後に改変されるアミノ酸、例えば、ヒドロキシプロリン、.ガンマ.−カルボキシグルタミン酸およびO−ホスホセリンである。
【0077】
アミノ酸は、本明細書中では、通常知られている3文字の記号、またはIUPAC−IUB Biochemical Nomenclature Commissionによって推奨されている1文字の記号で言及され得る。同様に、ヌクレオチドも、通常認められている1文字コードによって言及され得る。
【0078】
「プライマー」は、本明細書中で使用される場合、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)などの増幅方法において使用されることにより、様々なメチル化の状態における特定のゲノム配列(例えば、21番染色体上のCpGアイランドCGI137、PDE9AまたはCGI009内に位置する配列)に対応するポリヌクレオチド配列に基づいてヌクレオチド配列を増幅し得るオリゴヌクレオチドのことを指す。ポリヌクレオチド配列を増幅するためのPCRプライマーのうちの少なくとも1つは、その配列に対して配列特異的である。
【0079】
用語「鋳型」とは、本技術における増幅に使用され得る任意の核酸分子のことを指す。天然には二本鎖ではないRNAまたはDNAが、鋳型DNAとして使用されるために、二本鎖DNAにされ得る。任意の二本鎖DNA、または複数の様々な二本鎖DNA分子を含む調製物が、鋳型DNAとして使用されることにより、その鋳型DNAに含まれる目的の遺伝子座が増幅され得る。
【0080】
用語「増幅反応」は、本明細書中で使用される場合、核酸を1回以上コピーするためのプロセスのことを指す。実施形態において、増幅方法としては、ポリメラーゼ連鎖反応、自家持続配列反応、リガーゼ連鎖反応、RACE法(rapid amplification of cDNA ends)、ポリメラーゼ連鎖反応およびリガーゼ連鎖反応、Q−ベータファージ増幅、鎖置換増幅またはスプライスオーバーラップ伸長ポリメラーゼ連鎖反応が挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態において、単一分子の核酸が、例えば、デジタルPCRによって増幅される。
【0081】
用語「感度」は、本明細書中で使用される場合、真陽性の数値+偽陰性の数値で除された真陽性の数値のことを指し、ここで、感度(sens)は、0≦sens≦1の範囲内であり得る。理想的には、本明細書中の方法実施形態は、被験体が、実際は少なくとも1つの染色体異常または他の遺伝的障害を有するときに、少なくとも1つの染色体異常または他の遺伝的障害を有しないと誤って同定されないように、0に等しいかまたは0に近い偽陰性の数値を有する。逆に、評価は、しばしば、感度に対する補完的な測定である予測アルゴリズムが正しく陰性を分類する能力から構成されている。用語「特異性」は、本明細書中で使用される場合、真陰性の数値+偽陽性の数値で除された真陰性の数値のことを指し、ここで、感度(spec)は、0≦spec≦1の範囲内であり得る。理想的には、本明細書中の方法実施形態は、被験体が、評価される染色体異常、他の遺伝的障害を有しないときに、少なくとも1つの染色体異常、他の遺伝的障害を有すると誤って同定されないように、0に等しいかまたは0に近い偽陽性の数値を有する。ゆえに、1、すなわち100%に等しい感度および特異性を有する方法が、時折、選択される。
【0082】
1つ以上の予測アルゴリズムが、有意性を判定するため、または互いから独立してもしくは互いに依存して重みづけられ得る変数条件下において収集された検出データに意味を与えるために、使用され得る。用語「変数」は、本明細書中で使用される場合、値または値のセットを有するアルゴリズムの係数、数または関数のことを指す。例えば、変数は、増幅された核酸種のセットの設計、増幅された核酸種のセットの数、試験される胎児の遺伝的関与のパーセント、試験される母体の遺伝的関与のパーセント、アッセイされる染色体異常のタイプ、アッセイされる遺伝的障害のタイプ、アッセイされる伴性異常のタイプ、母体の年齢などであり得る。用語「独立」は、本明細書中で使用される場合、別のものによって影響を受けないことまたは別のものによって調節されないことを指す。用語「依存」は、本明細書中で使用される場合、別のものによって影響を受けることまたは別のものによって調節されることを指す。例えば、特定の染色体と、生存可能であることをもたらすその特定の染色体について生じるトリソミー事象とは、互いに依存した変数である。
【0083】
当業者は、許容可能な感度および/または特異性の範囲内で本技術のデータに対して有意性を与えるために任意のタイプの方法または予測アルゴリズムを使用し得る。例えば、予測アルゴリズム(例えば、カイ二乗検定、z検定、t検定、ANOVA(分散分析)、回帰分析、ニューラルネット、ファジー論理、隠れマルコフモデル、マルチプルモデル状態推定(multiple model state estimation)など)が、使用され得る。1つ以上の方法または予測アルゴリズムが、本技術の様々な独立変数および/または従属変数を有するデータに有意性を与えるように決定され得る。そして1つ以上の方法または予測アルゴリズムが、本技術の様々な独立変数および/または従属変数を有するデータに有意性を与えないように決定され得る。1つ以上の予測アルゴリズムの結果に基づいて本明細書中に記載される方法の様々な変数のパラメータが設定され得るか、または変更され得る(例えば、各セットにおける、解析されるセットの数、ヌクレオチド種のタイプ)。例えば、カイ二乗検定を検出データに適用することにより、特定の範囲の母体の年齢が、特定の染色体異常を有する出生児を有する可能性がより高いことと相関し、ゆえに、母体の年齢という変数は、他の変数が重みづけられるのとは異なって重みづけられ得ることが示唆され得る。
【0084】
ある特定の実施形態において、いくつかのアルゴリズムが選択されて、試験され得る。これらのアルゴリズムは、生データを用いて訓練され得る。新しい各々の生データサンプルについて、訓練されたアルゴリズムが、そのサンプルに対する分類(すなわち、トリソミーまたは正常)を割り当てる。その新しい生データサンプルの分類に基づいて、訓練されたアルゴリズムの性能が、感度および特異性に基づいて評価され得る。最終的には、最高の感度および/もしくは特異性またはそれらの組み合わせを有するアルゴリズムが、特定され得る。
【0085】
詳細な説明
緒言
母体血漿中の胎児核酸の存在は、1997年に初めて報告され、単に母体の血液サンプルの解析による非侵襲性出生前診断の可能性をもたらした(Loら、Lancet 350:485−487,1997)。現在までに、数多くの潜在的な臨床応用法が開発された。特に、母体血漿中の胎児核酸、例えば、DNAの濃度の量的異常が、子癇前症、早産、分娩前出血、侵襲性の胎盤形成、胎児のダウン症候群および他の胎児の染色体異数性をはじめとしたいくつかの妊娠関連障害と関連することが見出された。ゆえに、母体血漿中の胎児核酸解析は、母子の福祉をモニターするための強力な機構である。
【0086】
しかしながら、胎児DNAは、母体血漿中にバックグラウンドの母体DNAと共に存在する。ゆえに、Y染色体配列が、母体のDNAと最も都合良く識別可能であるので、報告されているほとんどの適用が、Y染色体配列の検出に依存している。そのようなアプローチでは、既存のアッセイが全妊娠の50%にしか適用できない(すなわち、男の胎児の場合にしか適用できない)。したがって、母体サンプルから胎児核酸を濃縮し、解析するための、性別から独立した組成物および方法の開発が非常に求められている。また、胎児核酸を定量するために多型マーカーに依存する方法は、異なる民族性において様々なヘテロ接合性の割合により適用性が限定されること(例えば、必要とされるマーカーの数を増加させることによって)に影響されやすい場合がある。
【0087】
胎児DNAおよび母体DNAが、メチル化の状態の差によって識別され得ることが以前に証明されている(米国特許第6,927,028号(本明細書中で参考として援用される))。メチル化は、後成的現象であり、DNA配列の変更を伴わずに表現型を変更するプロセスのことを指す。母体と胎児との間のDNAのメチル化の状態の差を活用することによって、母体核酸のバックグラウンド中における胎児核酸の検出および解析が成功し得る。
【0088】
本発明者らは、胎児由来(例えば、胎盤由来)の胎児DNAと母体由来、例えば、末梢血細胞由来の母体DNAとの間で差次的にメチル化された新規ゲノムポリヌクレオチドを提供する。したがって、この発見は、非侵襲性の出生前診断のために使用され得る、胎児のゲノムDNAと母体のゲノムDNAとを識別するための新規アプローチおよび胎児核酸を正確に定量するための新規方法を提供する。
【0089】
方法論
本技術の実施は、分子生物学の分野における日常的な手法を利用する。本技術において有用な一般的な方法を開示している基礎的な教科書としては、Sambrook and Russell,Molecular Cloning,A Laboratory Manual(3rd ed.2001);Kriegler,Gene Transfer and Expression:A Laboratory Manual(1990);およびCurrent Protocols in Molecular Biology(Ausubelら、eds.,1994))が挙げられる。
【0090】
核酸について、サイズは、キロベース(kb)または塩基対(bp)という単位で与えられる。これらは、アガロースゲル電気泳動もしくはアクリルアミドゲル電気泳動、配列決定された核酸、または公開されたDNA配列から得られる推定値である。タンパク質について、サイズは、キロダルトン(kDa)またはアミノ酸残基数という単位で与えられる。タンパク質サイズは、ゲル電気泳動、配列決定されたタンパク質、得られたアミノ酸配列または公開されたタンパク質配列から推定される。
【0091】
商業的に入手可能でないオリゴヌクレオチドは、Van Devanterら、Nucleic Acids Res.12:6159−6168(1984)に記載されているように自動合成装置を用いて、例えば、Beaucage & Caruthers,Tetrahedron Lett.22:1859−1862(1981)によって初めて報告された固相ホスホルアミダイトトリエステル法に従って、化学的に合成され得る。オリゴヌクレオチドの精製は、当該分野において認められた任意のストラテジー、例えば、未変性アクリルアミドゲル電気泳動、またはPearson & Reanier,J.Chrom.255:137−149(1983)に記載されているような陰イオン交換高速液体クロマトグラフィ(HPLC)を用いて行われる。
【0092】
血液サンプルの取得およびDNAの抽出
本技術は、妊娠に関連する状態もしくは障害の存在を検出するためおよび/またはその進行をモニターするための非侵襲性手段としての、母体血液中に見られる胎児DNAの分離、濃縮および解析に関する。したがって、本技術を実施する第1の工程は、妊婦から血液サンプルを得ることおよびそのサンプルからDNAを抽出することである。
【0093】
A.血液サンプルの取得
本技術の方法を用いる検査に適した在胎期間に、血液サンプルを妊婦から得る。その適当な在胎期間は、以下で述べられるように、検査される障害に応じて異なり得る。女性からの血液の回収は、病院またはクリニックが通常従う標準的なプロトコルに従って行われる。適切な量、例えば、代表的には5〜50mlの末梢血が回収され、さらなる調製の前に標準的な手順に従って保存され得る。血液サンプルは、サンプル中に存在する核酸の品質の低下を最小にする当業者に公知の様式で回収され得るか、保存され得るか、または輸送され得る。
【0094】
B.血液サンプルの調製
本技術に従う母体血液中に見られる胎児DNAの解析は、例えば、全血、血清または血漿を用いて行われ得る。母体の血液から血清または血漿を調製するための方法は、当業者に周知である。例えば、妊婦の血液は、血液凝固を防ぐために、EDTAを含むチューブまたはVacutainer SST(Becton Dickinson,Franklin Lakes,N.J.)などの専門の製品に入れられ得、次いで、遠心分離によって全血から血漿が得られ得る。他方、血清は、血液凝固後の遠心分離を用いて、または用いずに、得られ得る。遠心分離が用いられる場合、遠心分離は、代表的には、適切な速度、例えば、1,500〜3,000×gで行われるが、これに限らない。血漿または血清は、DNA抽出に向けて新しいチューブに移される前に、追加の遠心分離工程に供され得る。
【0095】
DNAは、全血の無細胞部分に加えて、女性由来の全血サンプルの遠心分離および血漿の除去の後に得られ得るバフィーコート部分に濃縮された細胞画分からも回収され得る。
【0096】
C.DNAの抽出
血液を含む生物学的サンプルからDNAを抽出するための公知の方法が数多く存在する。DNA調製の一般的な方法(例えば、Sambrook and Russell,Molecular Cloning:A Laboratory Manual 3d ed.,2001に記載されている方法)に従い得る;商業的に入手可能な様々な試薬またはキット(例えば、QiagenのQIAamp Circulating Nucleic Acid Kit、QiaAmp DNA Mini KitまたはQiaAmp DNA Blood Mini Kit(Qiagen,Hilden,Germany)、GenomicPrepTMBlood DNA Isolation Kit(Promega,Madison,Wis.)およびGFXTMGenomic Blood DNA Purification Kit(Amersham,Piscataway,N.J.))もまた、妊婦由来の血液サンプルからDNAを得るために使用され得る。これらの方法の2つ以上の組み合わせも使用され得る。
【0097】
いくつかの実施形態において、まず、1つ以上の方法によって、胎児核酸についてサンプルが濃縮され得るか、または相対的に濃縮され得る。例えば、胎児DNAと母体DNAとの識別は、本技術の組成物およびプロセス単独を用いて、または他の識別因子と組み合わせて、行われ得る。これらの因子の例としては、X染色体とY染色体との間の単一ヌクレオチドの差異、Y染色体特異的配列、ゲノムの他の場所に位置する多型、胎児DNAと母体DNAとの間のサイズの差および母体組織と胎児組織におけるメチル化パターンの差が挙げられるが、これらに限定されない。
【0098】
特定の種の核酸についてサンプルを濃縮するための他の方法は、2007年5月30日出願のPCT特許出願番号PCT/US07/69991、2007年6月15日出願のPCT特許出願番号PCT/US2007/071232、米国仮出願番号60/968,876および60/968,878(本出願人に譲渡)、(2005年11月28日出願のPCT特許出願番号PCT/EP05/012707)(これらのすべてが本明細書中で参考として援用される)に記載されている。ある特定の実施形態において、母体核酸が、サンプルから選択的に除去される(部分的に、実質的に、ほぼ完全に、または完全に)。
【0099】
核酸のメチル化特異的分離
本明細書中に提供される方法は、差次的にメチル化されたDNAのメチル化特異的分離に基づいて胎児DNAを濃縮するための代替アプローチを提供する。発生の制御に関与する多くの遺伝子が、胚性幹細胞におけるエピジェネティクスによって調節されることが最近、発見された。その結果として、複数の遺伝子が、胎児起源の核酸と母体起源の核酸との間で差次的なDNAメチル化を示すと予想され得る。いったん、これらの領域が同定されると、メチル化DNAを捕捉する手法を用いて、胎児DNAを特異的に濃縮することができる。差次的にメチル化された領域を同定するために、新規アプローチを用いて、メチル化DNAが捕捉された。このアプローチは、MBD2のメチル結合ドメインが抗体のFcフラグメントに融合されたタンパク質(MBD−FC)(Gebhard C,Schwarzfischer L,Pham TH,Schilling E,Klug M,Andreesen R,Rehli M(2006)Genomewide profiling of CpG methylation identifies novel targets of aberrant hypermethylation in myeloid leukemia.Cancer Res 66:6118−6128)を用いる。この融合タンパク質は、従来のメチル化特異的抗体よりもいくつかの利点を有する。MBD−FCは、メチル化DNAに対してより高い親和性を有し、二本鎖DNAに結合する。最も重要なことには、この2つのタンパク質は、それらがDNAに結合する方法が異なる。メチル化特異的抗体は、確率論的にDNAに結合し、これは、二成分の答えだけを得ることができることを意味する。他方、MBD−FCのメチル結合ドメインは、メチル化の状態に関係なく、DNA分子に結合する。このタンパク質−DNA相互作用の強度は、DNAのメチル化のレベルによって定義される。ゲノムDNAに結合した後、溶出液の塩濃度を徐々に高くすることにより、非メチル化DNAおよびメチル化されたDNAを分画することができ、これにより、より管理された分離が可能になる(Gebhard C,Schwarzfischer L,Pham TH,Andreesen R,Mackensen A,Rehli M(2006)Rapid and sensitive detection of CpG−methylation using methyl−binding(MB)−PCR.Nucleic Acids Res 34:e82)。その結果として、メチル−CpG免疫沈降(MCIP)と呼ばれるこの方法は、メチル化レベルに従ってゲノムDNAを濃縮することができるだけでなく、ゲノムDNAを分画することができ、これは、非メチル化DNA画分も同様に調査されるべきであるときに、特に役立つ。
【0100】
メチル化感受性制限酵素消化
本技術は、母体サンプル由来の胎児核酸の量を測定するための組成物およびプロセスも提供する。本技術は、少なくとも1つの胎児核酸領域について母体サンプルを濃縮するために、母体核酸を選択的かつ完全にまたは実質的に消化する酵素を用いて母体サンプル由来の核酸を選択的に消化することによって前記母体サンプル中の胎児核酸領域の濃縮を可能にする。好ましくは、消化効率は、約75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%超である。濃縮の後、多型配列または亜硫酸水素塩処理を必要としないことにより、女の胎児に対してもおよび様々な民族性に対しても等しく十分機能する溶液がもたらされ、そしてサンプル中に存在するコピー数の少ない胎児核酸を保存する定量方法によって、胎児核酸の量が測定され得る。
【0101】
例えば、DNA認識配列がメチル化されていない場合にそのDNA認識配列において優先的または実質的に切断するかまたは消化するメチル感受性酵素が存在する。したがって、非メチル化DNAサンプルは、メチル化DNAサンプルよりも小さいフラグメントに切られる。同様に、高メチル化DNAサンプルは、切断されない。対照的に、DNA認識配列がメチル化されている場合にだけそのDNA認識配列で切断するメチル感受性酵素が存在する。
【0102】
本技術の方法における使用に適した、非メチル化DNAを消化するメチル感受性酵素としては、HpaII、HhaI、MaeII、BstUIおよびAciIが挙げられるが、これらに限定されない。使用され得る酵素は、メチル化されていない配列CCGGだけを切るHpaIIである。使用され得る別の酵素は、メチル化されていない配列GCGCだけを切るHhaIである。両方の酵素が、New England BioLabs(登録商標),Incから入手可能である。非メチル化DNAだけを消化する2つ以上のメチル感受性酵素の組み合わせもまた使用され得る。メチル化DNAだけを消化する適当な酵素としては、認識配列GATCにおいて切るDpnI、およびAAA.sup.+タンパク質のファミリーに属し、修飾シトシンを含むDNAを切り、認識部位5’...Pu.sup.mC(N.sub.40−3000)Pu.sup.mC ...3’で切るMcrBC(New England BioLabs,Inc.,Beverly,Mass.)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0103】
特定の部位においてDNAを切るための、選択された制限酵素に対する切断の方法および手順は、当業者に周知である。例えば、New England BioLabs、Pro−Mega Biochems、Boehringer−Mannheimなどをはじめとした制限酵素の多くの供給業者が、条件、および特定の制限酵素によって切られるDNA配列のタイプに関する情報を提供している。Sambrookら(Sambrookら、Molecular Biology:A laboratory Approach,Cold Spring Harbor,N.Y.1989を参照のこと)は、制限酵素および他の酵素を用いるための方法の一般的な説明を提供している。本技術の方法において、酵素は、約95%〜100%の効率、好ましくは、約98%〜100%の効率で母体DNAの切断を可能にする条件下で使用されることが多い。
【0104】
メチル化解析のための他の方法
様々なメチル化解析手順が、当該分野で公知であり、本技術とともに使用され得る。これらのアッセイは、DNA配列内の1つまたは複数のCpGアイランドのメチル化の状況の判定を可能にする。さらに、それらの方法は、メチル化された核酸を定量するために使用され得る。そのようなアッセイは、他の手法の中でも、亜硫酸水素塩で処理されたDNAのDNA配列決定、PCR(配列特異的増幅のため)、サザンブロット解析およびメチル化感受性制限酵素の使用を含む。
【0105】
ゲノムの配列決定は、亜硫酸水素塩処理を用いることによる、DNAのメチル化パターンおよび5−メチルシトシンの分布の解析のために単純化された手法である(Frommerら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89:1827−1831,1992)。さらに、亜硫酸水素塩によって変換されたDNAから増幅されたPCR産物の制限酵素消化、例えば、Sadri & Hornsbyによって報告されている方法(Nucl.Acids Res.24:5058−5059,1996)またはCOBRA(組み合わされた亜硫酸水素塩制限解析(Combined Bisulfite Restriction Analysis))(Xiong & Laird,Nucleic Acids Res.25:2532−2534,1997)が、用いられ得る。
【0106】
COBRA解析は、少量のゲノムDNAにおいて特定の遺伝子の遺伝子座におけるDNAメチル化レベルを測定するために有用な定量的メチル化アッセイである(Xiong & Laird,Nucleic Acids Res.25:2532−2534,1997)。簡潔には、制限酵素消化を用いることにより、亜硫酸水素ナトリウムで処理されたDNAのPCR産物中のメチル化依存的配列の差が明らかになる。まず、Frommerらによって報告されている手順(Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89:1827−1831,1992)に従う標準的な亜硫酸水素塩処理によって、メチル化依存的配列の差をゲノムDNAに導入する。次いで、亜硫酸水素塩で変換されたDNAのPCR増幅を、関心のあるCpGアイランドに特異的なプライマーを用いて行った後、制限エンドヌクレアーゼ消化、ゲル電気泳動、および標識された特異的なハイブリダイゼーションプローブを用いた検出を行う。もとのDNAサンプル中のメチル化レベルは、広範囲のDNAメチル化レベルにわたって直線的な定量的様式で消化済および未消化のPCR産物の相対量によって表される。さらに、この手法は、顕微解剖されたパラフィン包埋組織サンプルから得られたDNAに確実に適用され得る。COBRA解析のための代表的な試薬(例えば、代表的なCOBRAベースキットに見られるような試薬)としては:特定の遺伝子(またはメチル化が変更されたDNA配列またはCpGアイランド)に対するPCRプライマー;制限酵素および適切な緩衝液;遺伝子ハイブリダイゼーションオリゴ;コントロールハイブリダイゼーションオリゴ;オリゴプローブ用のキナーゼ標識キット;および放射性ヌクレオチドが挙げられ得るが、これらに限定されない。さらに、亜硫酸水素塩変換試薬としては:DNA変性緩衝液;スルホン化緩衝液;DNA回収試薬またはキット(例えば、沈殿、限外濾過、アフィニティーカラム);脱スルホン化緩衝液;およびDNA回収成分が挙げられ得る。
【0107】
MethyLightTMアッセイは、PCR工程後にさらなる操作を必要としない蛍光ベースのリアルタイムPCR(TaqMan.RTM.)技術を利用するハイスループット定量的メチル化アッセイである(Eadsら、Cancer Res.59:2302−2306,1999)。簡潔には、MethyLight.TM.プロセスは、標準的な手順に従って、亜硫酸水素ナトリウム反応においてメチル化依存的配列の差の混合プールに変換されたゲノムDNAの混合サンプルから始まる(亜硫酸水素塩プロセスは、メチル化されていないシトシン残基をウラシルに変換する)。次いで、「偏りのない」(既知のCpGメチル化部位と重複しないプライマーを用いる)PCR反応または「偏りのある」(既知のCpGジヌクレオチドと重複するPCRプライマーを用いる)反応において蛍光ベースのPCRを行う。配列の識別は、増幅プロセスのレベルもしくは蛍光検出プロセスのレベルまたはその両方で生じ得る。
【0108】
MethyLightアッセイは、ゲノムDNAサンプル中のメチル化パターンについての定量的試験として使用され得、ここで、配列の識別は、プローブハイブリダイゼーションのレベルで生じる。この定量的バージョンにおいて、このPCR反応は、特定の推定メチル化部位と重複する蛍光プローブの存在下において偏りのない増幅をもたらす。投入DNAの量について偏りのないコントロールは、プライマーとプローブの両方がいかなるCpGジヌクレオチド上にも存在しない反応によって提供される。あるいは、ゲノムのメチル化についての定性試験は、既知のメチル化部位を「包含」しないコントロールオリゴヌクレオチド(「MSP」法の蛍光ベースのバージョン)または潜在的なメチル化部位を包含するオリゴヌクレオチドを用いて、偏りのあるPCRプールをプロービングすることによって達成される。
【0109】
MethyLightプロセスは、増幅プロセスにおいて「TaqMan」プローブとともに使用され得る。例えば、二本鎖ゲノムDNAが、亜硫酸水素ナトリウムで処理され、そしてTaqMan.RTM.プローブを使用して;例えば、偏りのあるプライマーおよびTaqMan.RTM.プローブ、または偏りのないプライマーおよびTaqMan.RTM.プローブを用いる、PCR反応の2セットのうちの1つに供される。そのTaqMan.RTM.プローブは、蛍光「レポーター」および「クエンチャー」分子で二重標識され、また、比較的高いGC含有量領域に特異的であるように設計され、それにより、そのプローブは、PCRサイクルにおいて順方向または逆方向プライマーよりも約10℃高い温度で融解する。これにより、TaqMan.RTM.プローブが、PCRのアニーリング/伸長工程中に完全にハイブリダイズしたままになる。Taqポリメラーゼは、PCR中に新しい鎖を酵素的に合成するので、そのTaqポリメラーゼは、最終的に、アニールしたTaqMan.RTM.プローブに達する。次いで、そのTaqポリメラーゼの5’から3’へのエンドヌクレアーゼ活性が、TaqMan.RTM.プローブを消化することによってそのプローブが無くなることにより、もはやクエンチされていないシグナルを、リアルタイム蛍光検出システムを用いて定量的検出するための蛍光レポーター分子が放出される。
【0110】
MethyLight.TM.解析のための代表的な試薬(例えば、代表的なMethyLight.TM.ベースのキットにおいて見られるような試薬)としては:特定の遺伝子(またはメチル化が変更されたDNA配列またはCpGアイランド)に対するPCRプライマー;TaqMan.RTM.プローブ;最適化されたPCR緩衝液およびデオキシヌクレオチド;ならびにTaqポリメラーゼが挙げられ得るが、これらに限定されない。
【0111】
Ms−SNuPE法は、DNAの亜硫酸水素塩処理の後の、単一ヌクレオチドプライマー伸長に基づいて、特定のCpG部位におけるメチル化の差を評価するための定量的方法である(Gonzalgo & Jones、Nucleic Acids Res.25:2529−2531、1997)。
【0112】
簡潔には、5−メチルシトシンは変化させないままメチル化されていないシトシンをウラシルに変換する亜硫酸水素ナトリウムとゲノムDNAを反応させる。次いで、亜硫酸水素塩によって変換されたDNAに特異的なPCRプライマーを用いて、所望の標的配列の増幅を行い、得られた生成物を単離し、それを目的のCpG部位をメチル化解析するための鋳型として使用する。
【0113】
少量のDNAが解析され得(例えば、顕微解剖された病理切片)、この手法は、CpG部位におけるメチル化の状態を判定するための制限酵素の利用を回避する。
【0114】
Ms−SNuPE解析のための代表的な試薬(例えば、代表的なMs−SNuPEベースのキットにおいて見られるような試薬)としては:特定の遺伝子(またはメチル化が変更されたDNA配列またはCpGアイランド)に対するPCRプライマー;最適化されたPCR緩衝液およびデオキシヌクレオチド;ゲル抽出キット;ポジティブコントロールプライマー;特定の遺伝子に対するMs−SNuPEプライマー;反応緩衝液(Ms−SNuPE反応用);ならびに放射性ヌクレオチドが挙げられ得るが、これらに限定されない。さらに、亜硫酸水素塩変換試薬としては:DNA変性緩衝液;スルホン化緩衝液;DNA回収試薬(recovery regents)またはキット(例えば、沈殿、限外濾過、アフィニティーカラム);脱スルホン化緩衝液;およびDNA回収成分が挙げられ得る。
【0115】
MSP(メチル化特異的PCR)は、メチル化感受性制限酵素の使用から独立した、CpGアイランド内の実質的に任意の群のCpG部位のメチル化の状態の評価を可能にする(Hermanら、Proc.Nat.Acad.Sci.USA 93:9821−9826,1996;米国特許第5,786,146号)。簡潔には、メチル化されていないシトシンをウラシルに変換するが、メチル化されたシトシンをウラシルに変換しない亜硫酸水素ナトリウムによってDNAを改変し、続いて、非メチル化(umnethylated)DNAに対してメチル化DNAに特異的なプライマーを用いて増幅する。MSPは、ほんの少量のDNAを必要とし、所与のCpGアイランド遺伝子座のうち0.1%のメチル化対立遺伝子に感受性であり、パラフィン包埋サンプルから抽出されたDNAに対して行われ得る。MSP解析のための代表的な試薬(例えば、代表的なMSPベースのキットにおいて見られるような試薬)としては:特定の遺伝子(またはメチル化が変更されたDNA配列またはCpGアイランド)に対する、メチル化PCRプライマーおよび非メチル化PCRプライマー、最適化されたPCR緩衝液およびデオキシヌクレオチド、ならびに特定のプローブが挙げられ得るが、これらに限定されない。
【0116】
MCA法は、ゲノムDNA内の変更されたメチル化パターンについてスクリーニングするためおよびこれらの変更に関連する特定の配列を単離するために使用され得る方法である(Toyotaら、Cancer Res.59:2307−12,1999)。簡潔には、認識部位においてシトシンのメチル化に対して異なる感度を有する制限酵素を用いることにより、原発腫瘍、細胞株および正常組織由来のゲノムDNAが消化された後、任意にプライムされるPCR増幅を行う。そのPCR産物を高分解能ポリアクリルアミドゲルにおいて分離した後、差次的なメチル化を示すフラグメントをクローニングし、配列決定する。次いで、クローニングされたフラグメントをサザン解析用のプローブとして使用することにより、これらの領域の差次的なメチル化を確かめる。MCA解析のための代表的な試薬(例えば、代表的なMCAベースのキットにおいて見られるような試薬)としては:ゲノムDNAを任意にプライミングするためのPCRプライマー;PCR緩衝液およびヌクレオチド、制限酵素および適切な緩衝液;遺伝子ハイブリダイゼーションオリゴまたはプローブ;コントロールハイブリダイゼーションオリゴまたはプローブが挙げられ得るが、これらに限定されない。
【0117】
メチル化部位を解析するための別の方法は、その後に質量分析を用いるプライマー伸長ジェノタイピング解析のために、増幅された標的を生成する最適化されたPCR増幅反応を含む、プライマー伸長アッセイである。このアッセイは、多重でも行われ得る。この方法(特に、それがジェノタイピング単一ヌクレオチド多型に関係するとき)は、PCT公開WO05012578A1およびUS公開US20050079521A1に詳細に記載されている。メチル化解析について、このアッセイは、亜硫酸水素塩によって導入された、メチル化依存的なCからTへの配列変更を検出するために採用され得る。これらの方法は、単一ウェル内において多重増幅反応および多重プライマー伸長反応(例えば、多重均一プライマー質量伸長(hME)アッセイ)を行うことにより、プライマー伸長反応に対する処理能力をさらに上げ、1反応あたりのコストを低下させるために特に有用である。
【0118】
DNAメチル化解析のための追加の4つの方法としては、制限ランドマークゲノムスキャニング法(restriction landmark genomic scanning)(RLGS,Costelloら、2000)、メチル化感受性表示差異解析(methylation−sensitive−representational difference analysis)(MS−RDA)、メチル化特異的AP−PCR(MS−AP−PCR)および部分的に融解された分子のメチル−CpG結合ドメインカラム/隔離(MBD/SPM)が挙げられる。
【0119】
本技術とともに使用され得るさらなるメチル化解析法は、以下の論文:Laird,P.W.Nature Reviews Cancer 3,253−266(2003);Biotechniques;Uhlmann,K.ら、Electrophoresis 23:4072−4079(2002)−PyroMeth;Colellaら、Biotechniques.2003 Jul;35(1):146−50;Dupont JM,Tost J,Jammes H,and Gut IG.Anal Biochem,Oct 2004;333(1):119−27;およびTooke N and Pettersson M.IVDT.Nov 2004;41に記載されている。
【0120】
ポリヌクレオチド配列の増幅および測定
メチル化差次的様式で核酸を分離した後、その核酸は、配列ベースの解析に供され得る。さらに、胎児起源の1つの特定のゲノム配列が、母体の対応物と比べて高メチル化されているかまたは低メチル化されていることが判明すると、この胎児ゲノム配列の量が、測定され得る。続いて、この量は、標準コントロール値と比較され得、ある特定の妊娠関連障害の可能性についての指標として機能し得る。
【0121】
A.ヌクレオチド配列の増幅
多くの例において、当該分野で周知のいくつかの核酸増幅手順(上に列挙したものおよび以下でさらに詳細に記載されるもの)のうちのいずれかを用いて本技術の核酸配列を増幅することが望ましい。具体的には、核酸増幅は、増幅される核酸配列に相補的な配列を含む核酸アンプリコン(コピー)の酵素的合成である。核酸増幅は、サンプル中に存在する標的配列の量が非常に少ないときに特に有益である。目的の生物またはウイルスに属するサンプル中の核酸の検出をより確実にするためにアッセイの開始時にはより少ない標的配列が必要とされるので、このアッセイの感度は、標的配列を増幅し、合成されたアンプリコンを検出することによって、大幅に改善され得る。
【0122】
種々のポリヌクレオチド増幅法が、十分に確立されており、頻繁に研究において用いられている。例えば、ポリヌクレオチド配列増幅のためのポリメラーゼ連鎖反応(PCR)の一般的な方法は、当該分野で周知であるので、本明細書中で詳細に記載しない。PCRの方法、プロトコルおよびプライマーを設計する際の原理の概説については、例えば、Innisら、PCR Protocols:A Guide to Methods and Applications,Academic Press,Inc.N.Y.,1990を参照のこと。PCRの試薬およびプロトコルは、Roche Molecular Systemsなどの商業的供給業者からも入手可能である。
【0123】
PCRは、最も一般的には、熱安定酵素を用いて、自動化されたプロセスとして行われる。このプロセスでは、反応混合物の温度は、変性領域、プライマーアニーリング領域および伸長反応領域を自動的に繰り返す。この目的のために特別に適合された機械が市販されている。
【0124】
ポリヌクレオチド配列のPCR増幅は、代表的には、本技術の実施において使用されるが、 当業者は、母体の血液サンプル中に見られるゲノム配列の増幅が、任意の公知の方法(例えば、リガーゼ連鎖反応(LCR)、転写媒介性の増幅および自家持続配列複製または核酸配列ベースの増幅(NASBA)(これらの各々は、十分な増幅をもたらす))によって達成され得ることを認識する。最近開発された分岐DNA技術もまた、特定のメチル化パターンである本技術の特定のゲノム配列の存在を定性的に証明するため、または母体血液中のこの特定のゲノム配列の量を定量的に測定するために使用され得る。臨床サンプル中の核酸配列を直接定量するための分岐DNAシグナル増幅の概説については、Nolte,Adv.Clin.Chem.33:201−235,1998を参照のこと。
【0125】
本技術の組成物およびプロセスは、デジタルPCRを用いて実施される場合、特に有用である。デジタルPCRは、Kalininaおよび共同研究者らによって初めて開発され(Kalininaら、“Nanoliter scale PCR with TaqMan detection.”Nucleic Acids Research.25;1999−2004,(1997))、さらにVogelsteinおよびKinzlerによって発展された(Digital PCR.Proc Natl Acad Sci USA.96;9236−41,(1999))。胎児の診断法とともに使用するためのデジタルPCRの適用は、Cantorらによって初めて報告され(PCT特許公開番号WO05023091A2)、続いてQuakeらによって報告された(US 特許公開番号US20070202525)(両方ともが本明細書中で参考として援用される)。デジタルPCRは、単一分子レベルにおける核酸(DNA、cDNAまたはRNA)増幅を活用し、低コピー数の核酸を定量するための非常に感度の高い方法を提供する。Fluidigm(登録商標)Corporationは、核酸のデジタル解析のためのシステムを提供している。
【0126】
B.ポリヌクレオチド配列の決定
ポリヌクレオチド配列を決定するための手法もまた、十分に確立されており、関連性のある研究分野において広く実施されている。例えば、ポリヌクレオチドを配列決定するための基本原理および一般的な手法は、分子生物学および組換え遺伝学に対する様々な研究報告および学術論文(例えば、Wallaceら、前出;SambrookおよびRussell,前出およびAusubelら、前出)に記載されている。手動または自動的に研究室において日常的に行われているDNA配列決定方法は、本技術を実施するために使用され得る。本技術の方法を実施するためのポリヌクレオチド配列の変化の検出に適したさらなる手段としては、質量分析、プライマー伸長、ポリヌクレオチドハイブリダイゼーション、リアルタイムPCRおよび電気泳動が挙げられるがこれらに限定されない。
【0127】
プライマー伸長反応の使用もまた、本技術の方法において適用され得る。プライマー伸長反応は、例えば、デオキシヌクレオチドおよび/またはジデオキシヌクレオチドを、SNP部位に隣接した領域にハイブリダイズするプライマー伸長プライマーに組み込むことによって、SNP対立遺伝子を識別することによって作用する。そのプライマーは、ポリメラーゼによって伸長される。プライマーによって伸長されたSNPは、質量分析またはビオチンなどのタグ部分によって物理的に検出され得る。そのSNP部位は、特定の標識によってタグ化された相補的なデオキシヌクレオチドまたはジデオキシヌクレオチドによってのみ伸長されるか、または特定の質量を有するプライマー伸長産物を生成するので、そのSNP対立遺伝子は、識別され得、定量され得る。
【0128】
逆転写された核酸および増幅された核酸は、改変された核酸であり得る。改変された核酸は、ヌクレオチドアナログを含み得、ある特定の実施形態において、検出可能な標識および/または捕捉剤を含み得る。検出可能な標識の例としては、フルオロフォア、放射性同位体、比色(colormetric)物質、発光物質、化学発光物質、光散乱物質、酵素などが挙げられるが、これらに限定されない。捕捉剤の例としては、抗体/抗原、抗体/抗体、抗体/抗体フラグメント、抗体/抗体レセプター、抗体/プロテインAまたはプロテインG、ハプテン/抗ハプテン、ビオチン/アビジン、ビオチン/ストレプトアビジン、葉酸/葉酸結合タンパク質、ビタミンB12/内因子、化学反応基/相補的化学反応基(例えば、スルフヒドリル/マレイミド、スルフヒドリル/ハロアセチル誘導体、アミン/イソトリオシアネート、アミン/スクシンイミジルエステルおよびアミン/スルホニルハロゲン化物)対などから選択される結合対由来の作用物質が挙げられるが、これらに限定されない。捕捉剤を有する改変された核酸が、ある特定の実施形態において、固体支持体に固定化され得る。
【0129】
質量分析は、本技術のポリヌクレオチド、例えば、PCRアンプリコン、プライマー伸長産物または標的核酸から切断される検出プローブを検出するために特に有効な方法である。そのポリヌクレオチド配列の存在は、検出されたシグナルの質量を目的のポリヌクレオチドの予想質量と比較することによって確認される。特定のポリヌクレオチド配列に対する相対的なシグナル強度、例えば、スペクトルに対する質量ピークは、特定の対立遺伝子の相対的な集団を示唆し、ゆえに、そのデータから直接対立遺伝子比を計算することが可能になる。Sequenom(登録商標)標準的iPLEXTMアッセイおよびMassARRAY(登録商標)技術を用いるジェノタイピング方法の概説については、Jurinke,C.,Oeth,P.,van den Boom,D.,“MALDI−TOF mass spectrometry:a versatile tool for high−performance DNA analysis.”Mol.Biotechnol.26,147−164(2004);およびOeth,P.ら、“iPLEXTM Assay:Increased Plexing Efficiency and Flexibility for MassARRAY(登録商標)System through single base primer extension with mass−modified Terminators.”SEQUENOM Application Note(2005)(両方が、本明細書中で参考として援用される)を参照のこと。増幅プロセス中に切断され、質量分析によって検出される切断可能な検出プローブを用いた標的核酸(target nucleic)の検出および定量の概説については、2007年12月4日に出願され、本明細書中で参考として援用される、米国特許出願番号11/950,395を参照のこと。
【0130】
配列決定技術は、処理能力およびコストに関して改善されている。配列決定技術(例えば、454プラットフォーム(Roche)(Margulies,M.ら、2005 Nature 437,376−380)、Illumina Genome Analyzer(またはSolexaプラットフォーム)もしくはSOLiD System(Applied Biosystems)またはHelicos True Single Molecule DNA配列決定技術(Harris T Dら、2008 Science,320,106−109)、Pacific Biosciencesの単一分子リアルタイム(SMRT.TM.)技術およびナノポアシーケンシング(Soni GV and Meller A.2007 Clin Chem 53:1996−2001)において達成可能な配列決定技術)によって、平行した様式での高次の多重化において、検体から単離された多くの核酸分子の配列決定が可能になる(Dear Brief Funct Genomic Proteomic 2003;1:397−416)。
【0131】
これらのプラットフォームの各々は、核酸フラグメントのクローン的に増加されたまたは増幅されていない単一分子の配列決定を可能にする。ある特定のプラットフォームは、例えば、(i)色素で修飾されたプローブのライゲーションによる配列決定(周期性のライゲーションおよび切断を含む)、(ii)パイロシークエンスおよび(iii)1分子シーケンシングを含む。ヌクレオチド配列種、増幅核酸種およびそれらから生成された検出可能な産物は、そのような配列解析プラットフォームによってヌクレオチド配列を解析する目的の「研究核酸」と考えられ得る。
【0132】
ライゲーションによる配列決定は、塩基対形成のミスマッチに対するDNAリガーゼの感度に依存する核酸配列決定法である。DNAリガーゼは、正しく塩基対形成されたDNA末端をつなげる。DNAリガーゼが、正しく塩基対形成されたDNA末端だけをつなげる能力を、蛍光標識されたオリゴヌクレオチドまたはプライマーの混合プールと組み合わせることにより、蛍光検出による配列決定が可能になる。より長い配列の読み取りは、標識が同定された後に切断され得る切断可能な結合を含むプライマーを含めることによって、得られ得る。リンカーにおける切断は、標識を除去し、ライゲーションしたプライマーの末端に5’ホスフェートを再生することにより、次回のライゲーションのためのプライマーが調製される。いくつかの実施形態において、プライマーは、2つ以上の蛍光標識(例えば、1つの蛍光標識、2、3または4つの蛍光標識)で標識され得る。
【0133】
当業者が使用し得る、ライゲーションによる配列決定に基づくシステムの例は、一般に、以下の工程を含む。研究核酸(「鋳型」)、増幅反応成分、ビーズおよびプライマーを含むエマルジョンマイクロリアクター内で、ビーズのクローン集団を調製し得る。増幅後、鋳型を変性し、ビーズの濃縮を行うことにより、望まれないビーズ(例えば、伸長していない鋳型を有するビーズ)から、伸長した鋳型を有するビーズが分離される。選択されたビーズ上の鋳型が、3’修飾を受けることにより、スライドへの共有結合が可能になり、そして修飾されたビーズは、スライドガラス上に沈着され得る。沈着チャンバーは、ビーズ充填プロセス中に、スライドを1、4または8つのチャンバーに分ける能力を付与する。配列解析にむけて、プライマーをアダプター配列にハイブリダイズさせる。4色の色素で標識されたプローブのセットは、配列決定プライマーへのライゲーションについて競合する。プローブライゲーションの特異性は、ライゲーションシリーズ中のすべての4番目および5番目の塩基を調べることによって達成される。5〜7回のライゲーション、検出および切断によって、すべての5番目の位置の色が記録される(回数は、使用されるライブラリーのタイプによって決定される)。各回のライゲーションの後、5’方向に1塩基だけ相殺された新しい相補的(complimentary)プライマーが、新たなライゲーションのために置かれる。プライマーのリセットおよびライゲーションの回(1回あたり5〜7ライゲーションサイクル)が、続けて5回繰り返されることにより、1つのタグについて25〜35塩基対の配列が生成される。メイトペア(mate−paired)シーケンシングの場合、このプロセスは、第2のタグについて繰り返される。そのようなシステムは、例えば、異種核酸を、本明細書中に記載されるプロセスによって生成された第1の増幅産物にライゲートし、第1の増幅産物を生成するために最初に使用された固体支持体と同じまたは異なる固体支持体を用いてエマルジョン増幅を行うことによって、本明細書中に記載されるプロセスによって生成された増幅産物を指数関数的に増幅するために使用され得る。そのようなシステムは、指数関数的な増幅プロセスを迂回してスライドガラス上で本明細書中に記載される固体支持体を直接選別することによって、本明細書中に記載されるプロセスによって直接生成された増幅産物を解析するためにも使用され得る。
【0134】
パイロシークエンスは、合成による配列決定に基づいた核酸配列決定法であり、ヌクレオチド取り込み時に放出されるピロホスフェートの検出に依存する。一般に、合成による配列決定は、配列を調べられている鎖に相補的なDNA鎖を、1回につき1ヌクレオチドで合成する工程を包含する。研究核酸は、固体支持体に固定化され、配列決定プライマーとハイブリダイズされ、DNAポリメラーゼ、ATPスルフリラーゼ(sulfurylase)、ルシフェラーゼ、アピラーゼ、アデノシン5’ホスホ硫酸およびルシフェリンとともにインキュベートされ得る。ヌクレオチド溶液を連続的に加え、除去する。ヌクレオチドが正しく取り込まれるとピロホスフェートが放出され、それが、ATPスルフリラーゼと相互作用し、アデノシン5’ホスホ硫酸の存在下においてATPを生成することにより、ルシフェリン反応物に燃料供給され、その反応物が化学発光シグナルを生成することにより、配列決定が可能になる。
【0135】
当業者によって使用され得る、パイロシークエンスに基づくシステムの例は、一般に、以下の工程:アダプター核酸を研究核酸にライゲートし、その研究核酸をビーズにハイブリダイズする工程;エマルジョン内で研究核酸中のヌクレオチド配列を増幅する工程;ピコリットルのマルチウェル固体支持体を用いてビーズを選別する工程;および増幅されたヌクレオチド配列をパイロシークエンス法によって配列決定する工程を含む(例えば、Nakanoら、“Single−molecule PCR using water−in−oil emulsion;”Journal of Biotechnology 102:117−124(2003))。そのようなシステムは、例えば、異種核酸を、本明細書中に記載されるプロセスによって生成される第1の増幅産物にライゲートすることによって、本明細書中に記載されるプロセスによって生成される増幅産物を指数関数的に増幅するために使用され得る。
【0136】
ある特定の1分子シーケンシング実施形態は、合成による配列決定の原理に基づくものであり、ヌクレオチド取り込みが成功した結果として光子を放射する機構として一対の蛍光共鳴エネルギー転移(一対FRET)を利用するものである。放射された光子は、全反射顕微鏡(total internal reflection microscopy)(TIRM)とともに増感または高感度の冷却電荷結合素子を用いて検出されることが多い。導入された反応溶液が、配列決定プロセスの結果として合成される成長中の核酸鎖に取り込むための正しいヌクレオチドを含むときだけ、光子が放射される。FRETに基づく1分子シーケンシングでは、エネルギーが、長距離の双極子相互作用によって2つの蛍光色素間、時折、ポリメチンシアニン色素Cy3とCy5との間を転移する。ドナーは、その特定の励起波長において励起され、その励起状態エネルギーが、アクセプター色素に非放射的に転移され、そしてそのアクセプター色素が励起される。そのアクセプター色素は、最終的には光子の放射放出によって基底状態に戻る。このエネルギー転移プロセスにおいて使用される2つの色素は、一対FRETにおいて「一対」である。Cy3は、ドナーフルオロフォアとして使用されることが多く、1つ目の標識ヌクレオチドとして取り込まれることが多い。Cy5は、アクセプターフルオロフォアとして使用されることが多く、1つ目のCy3標識ヌクレオチドが取り込まれた後の、次のヌクレオチド付加用のヌクレオチド標識として使用される。これらのフルオロフォアは、通常、各々10ナノメートル以内に存在することにより、エネルギー転移が成功する。
【0137】
1分子シーケンシングに基づいて使用され得るシステムの例は、通常、プライマーを研究核酸にハイブリダイズすることにより、複合体を生成する工程;その複合体を固相と会合させる工程;蛍光分子でタグ化されたヌクレオチドによってプライマーを繰り返し伸長する工程;および各反復後に蛍光共鳴エネルギー転移シグナルの像を捕捉する工程を含む(例えば、米国特許第7,169,314号;Braslavskyら、PNAS 100(7):3960−3964(2003))。そのようなシステムは、本明細書中に記載されるプロセスによって生成される増幅産物を直接配列決定するために使用され得る。いくつかの実施形態において、放出された線状増幅産物は、例えば、固体支持体、ビーズまたはスライドガラス上に存在する固定化された捕捉配列に相補的な配列を含むプライマーにハイブリダイズされ得る。プライマーと放出された線状増幅産物とのハイブリダイゼーションによって、固定化された捕捉配列と複合体が形成され、合成による一対FRETベースの配列決定のために、放出された線状増幅産物が固体支持体に固定化される。固定化された核酸を含むスライド表面の最初の参照像が生成され得るように、そのプライマーは、蛍光性であることが多い。その最初の参照像は、真のヌクレオチド取り込みが生じている位置を判定するために有用である。「プライマーのみ」の参照像において最初に同定されなかったアレイ位置において検出される蛍光シグナルは、非特異的蛍光として無視される。プライマーと放出された線状増幅産物との複合体を固定化した後、結合された核酸は、しばしば以下の反復工程、a)1種の蛍光標識ヌクレオチドの存在下におけるポリメラーゼ伸長、b)適切な顕微鏡、例えば、TIRMを用いた蛍光の検出、c)蛍光ヌクレオチドの除去、およびd)異なる蛍光標識ヌクレオチドを用いる工程に戻る工程によって並行して配列決定される。
【0138】
いくつかの実施形態において、ヌクレオチド配列決定は、固相1ヌクレオチド配列決定法およびプロセスによるものであり得る。固相1ヌクレオチド配列決定法は、サンプル核酸と固体支持体とを、1分子のサンプル核酸が1分子の固体支持体とハイブリダイズする条件下で接触させる工程を包含する。そのような条件は、固体支持体分子および1分子のサンプル核酸を「マイクロリアクター」内に提供することを含み得る。そのような条件は、サンプル核酸分子が固体支持体上の固相核酸にハイブリダイズし得る混合物を提供することも含み得る。本明細書中に記載される実施形態において有用な1ヌクレオチド配列決定法は、2008年1月17日出願の米国仮特許出願番号61/021,871に記載されている。
【0139】
ある特定の実施形態において、ナノポアシーケンシング検出法は、(a)配列決定のための核酸(「ベース核酸」、例えば、連結プローブ分子)を配列特異的検出物質と、その検出物質がそのベース核酸の実質的に相補的な部分配列に特異的にハイブリダイズする条件下において、接触させる工程;(b)検出物質からのシグナルを検出する工程および(c)検出されたシグナルに従ってベース核酸の配列を決定する工程を包含する。ある特定の実施形態では、ベース核酸がポアを通過するときに検出物質がナノポア構造を干渉すると、ベース核酸にハイブリダイズされた検出物質は、ベース核酸から解離され(例えば、連続的に解離され)、そのベース配列から解離された検出物質が、検出される。いくつかの実施形態において、ベース核酸から解離された検出物質は、検出可能なあるシグナルを放射し、ベース核酸にハイブリダイズされている検出物質は、異なる検出可能なシグナルを放射するか、または検出可能なシグナルを放出しない。ある特定の実施形態において、ある核酸(例えば、連結プローブ分子)内のヌクレオチドは、特定のヌクレオチドに対応する特定のヌクレオチド配列(「ヌクレオチド代表体(nucleotide representatives)」)で置換されることにより、増大された核酸が生じ(例えば、米国特許第6,723,513号)、検出物質は、増大された核酸内のヌクレオチド代表体にハイブリダイズし、それが、ベース核酸として機能する。そのような実施形態において、ヌクレオチド代表体は、2成分またはより高次の配列で配置され得る(例えば、Soni and Meller,Clinical Chemistry 53(11):1996−2001(2007))。いくつかの実施形態において、核酸は、増大されず、増大された核酸を生じず、ベース核酸として直接働き(例えば、連結プローブ分子が、増大されないベース核酸として働き)、検出物質が、そのベース核酸と直接接触される。例えば、第1の検出物質は、第1の部分配列にハイブリダイズし得、第2の検出物質は、第2の部分配列にハイブリダイズし得、ここで、第1の検出物質および第2の検出物質の各々は、互いに識別され得る検出可能な標識を有し、第1の検出物質および第2の検出物質からのシグナルは、それらの検出物質がベース核酸から解離されると、互いに識別され得る。ある特定の実施形態において、検出物質は、約3〜約100ヌクレオチド長(例えば、約4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、25、30、35、40、50、55、60、65、70、75、80、85、90または95ヌクレオチド長)であり得るベース核酸にハイブリダイズする領域(例えば、2つの領域)を含む。検出物質は、ベース核酸にハイブリダイズしない1つ以上のヌクレオチド領域も含み得る。いくつかの実施形態において、検出物質は、分子ビーコンである。検出物質は、本明細書中に記載されるものから独立して選択される1つ以上の検出可能な標識を含むことが多い。検出可能な標識の各々は、各標識(例えば、磁気的、電気的、化学的、光学的標識など)によって生成されるシグナルを検出することができる任意の好都合な検出プロセスによって検出され得る。例えば、CDカメラを用いることにより、検出物質に連結された1つ以上の識別可能な量子ドットからシグナルが検出され得る。
【0140】
ある特定の配列解析実施形態において、読み出し結果(reads)を用いることにより、より長いヌクレオチド配列が構築され得、それは、異なる読み出し結果内の重複配列を同定することおよびその読み出し結果内の識別配列を使用することによって促進され得る。読み出し結果からより長い配列を構築するためのそのような配列解析法および配列解析ソフトウェアは、当業者に公知である(例えば、Venterら、Science 291:1304−1351(2001))。特定の読み出し結果、部分的なヌクレオチド配列構築物および完全なヌクレオチド配列構築物が、ある特定の配列解析実施形態において、サンプル核酸内のヌクレオチド配列間で比較されてもよいし(すなわち、内部比較)、参照配列と比較されてもよい(すなわち、参照比較)。内部比較は時折、サンプル核酸が、複数のサンプル、または配列変異を含む単一サンプル起源から調製される状況において行われる。参照比較は時折、参照ヌクレオチド配列が既知であるとき、およびその目的が、サンプル核酸が参照ヌクレオチド配列と実質的に類似もしくは全く同じまたは異なるヌクレオチド配列を含むか否かを判定することであるときに、行われる。配列解析は、当業者に公知の配列解析装置および配列解析成分によって促進される。
【0141】
本明細書中に提供される方法は、複数の核酸における核酸種(例えば、ヌクレオチド配列種、増幅された核酸種および前述のものから生成された検出可能な産物)のハイスループット検出を可能にする。多重化とは、2つ以上の核酸種の同時検出のことを指す。質量分析とともに多重反応を行うための一般的な方法は、公知である(例えば、米国特許第6,043,031号、同第5,547,835号および国際PCT出願番号WO97/37041を参照のこと)。多重化は、各個別の標的核酸種に対して別個の質量分析を行わなければならないものと比べて、複数の核酸種(例えば、異なる配列変異を有するいくつかの核酸種)が、わずか1つの質量スペクトルにおいて同定され得るという利点を提供する。本明細書中に提供される方法は、いくつかの実施形態において、高速かつ正確に配列変異を解析するための高度に自動化されたハイスループットプロセスに適している。いくつかの実施形態において、本明細書中の方法は、単一反応において高レベルで多重化され得る。
【0142】
ある特定の実施形態において、多重化される核酸種の数としては、
【0143】
【化1】
が挙げられるがこれらに限定されない。
【0144】
多重アッセイを用いて質量スペクトルの分解を達成するための設計方法としては、プライマーおよびオリゴヌクレオチドの設計方法ならびに反応設計方法が挙げられ得る。例えば、表XおよびYに提供されている多重スキームを参照のこと。多重アッセイにおけるプライマーおよびオリゴヌクレオチドの設計については、誤ったプライミングおよびプライマーダイマーを回避することなどの一重反応に対するプライマー設計用と同じ一般的ガイドラインが、適用され、より多くのプライマーが、多重反応のために含められるだけである。質量分析に適用するために、1つのアッセイに対する質量スペクトルにおける被検体ピーク(ポージング(pausing)ピークおよび他の任意の副産物ピークを含む)は、そのアッセイと多重化される任意のアッセイの産物から十分に解明される。また、被検体ピークは、ユーザーによって指定された質量ウィンドウ、例えば、5,000〜8,500Daの範囲内に最適に入る。いくつかの実施形態において、多重解析は、例えば、染色体異常の質量分析検出に適合され得る。ある特定の実施形態において、多重解析は、本明細書中に記載される様々な1ヌクレオチド配列決定法またはナノポアベースのシーケンシング法に適合され得る。商業的に作製されている微量反応チャンバーまたはデバイスまたはアレイまたはチップを使用することにより、多重解析が容易になり得、それらは、商業的に入手可能である。
【0145】
胎児の異数性の検出
胎児の異数性を検出するために、いくつかの方法が、母親から遺伝した対立遺伝子と父親から遺伝した対立遺伝子との比の測定に依存する。しかしながら、染色体の変化を定量する能力は、無細胞核酸の母体の寄与によって損なわれ、それにより、測定の前に母体DNA由来のサンプルを枯渇させる必要がある。有望なアプローチは、胎児および母体のDNAの異なるサイズ分布を利用するか、またはもっぱら胎児によって発現されるRNAを測定する(例えば、US20060252071として公開され、本明細書中で参考として援用される米国特許出願番号11/384128を参照のこと)。胎児DNAが、母体の血漿中のすべての無細胞DNAの約5%しか構成しないと仮定すると、トリソミーサンプルと健常コントロールとの間には1.6%からたった約1.2%への比の差の減少しか存在しない。その結果として、対立遺伝子比の変化の信頼度が高い検出には、例えば、本技術の組成物および方法を用いて無細胞DNAの胎児画分を濃縮することが必要である。
【0146】
いくつかの方法が、母親から遺伝した対立遺伝子と父親から遺伝した対立遺伝子との比の測定によって母体の血漿から胎児の染色体異数性を検出することに依存する。二倍体セットは、1:1の比をもたらし、トリソミーは、2:1の比として検出され得る。この差の検出は、胎児DNAが少量であること、血漿サンプル中の過剰な母体DNAの存在、および測定手法のばらつきに起因して、統計的サンプリング法によって弱まる。後者は、デジタルPCRまたは質量分析のような高い測定精度を有する方法を用いることによって対処される。サンプル中の無細胞DNAの胎児画分を濃縮することは、現在、サイズ排除によって母体DNAを枯渇させることまたは胎児発現RNAのような胎児特異的核酸に焦点を当てることによって、達成されている。胎児DNAを区別する別の特徴は、そのDNAメチル化パターンである。したがって、胎児と母体との間の差次的なメチル化に基づいて胎児核酸を正確に定量するための新規組成物および方法が、本明細書中に提供される。それらの方法は、母体サンプルの胎児核酸部分を定量することにより胎児の形質の出生前検出が可能になる感度の高い絶対コピー数の解析に依存する。本技術の方法は、母体DNAと胎児DNAとの間で差次的にメチル化された、ゲノム内の約3000個のCpGリッチ領域を同定した。選択された領域は、測定されたすべてのサンプルにおいて、高度に保存された差次的なメチル化を示した。さらに、その領域のセットは、発生の制御において重要な遺伝子について濃縮されていることから、これらの領域の後成的制御が、生物学的に関連性があるプロセスであり、かつ生物学的に一貫したプロセスであることが示唆される(表3を参照のこと)。胎児DNAの濃縮は、現在、本発明者らのMBD−FCタンパク質を用いて無細胞DNA(例えば、実質的にすべての無細胞DNA)を捕捉し、次いで、高度にメチル化されたDNA画分を高塩濃度で溶出することによって達成され得る。低塩の溶出画分を用いると、MBD−FCは、同様に、メチル化されていない胎児DNAを濃縮することができる。
【0147】
本技術は、母体のメチル化レベルが低く、かつ胎児のメチル化レベルが高いと確認された、13、18および21番染色体上の63個のゲノム領域を提供する。これらの領域を捕捉した後、SNPを用いることにより、上述の対立遺伝子比が測定され得る。高頻度のSNPが用いられるとき、両親が対立するホモ接合体遺伝子型を有し、子供がヘテロ接合体遺伝子型を有する少なくとも1つのSNPを高信頼度で発見するために、約10個のマーカーが、測定される必要がある。
【0148】
別の実施形態において、絶対コピー数の定量を利用して染色体異常を検出するための方法が提供される。二倍体染色体セットは、すべての染色体にわたって差次的にメチル化された領域に対して同じコピー数を示すが、例えば、トリソミー21サンプルは、21番染色体上の差次的にメチル化された領域に対して1.5倍多いコピーを示し得る。二倍体染色体セットに対するゲノムDNA量の正規化は、変化していない常染色体を参照として使用することによって達成され得る(本明細書中にも提供される。表1を参照のこと)。他のアプローチと同様に、全体のコピー数が少ないので、単一マーカーが、この差の検出に十分である可能性は低い。代表的には、妊娠10〜12週の1mlの母体の血漿には約100〜200コピーの胎児DNAが存在する。しかしながら、本技術の方法は、異数性染色体セットに対して二倍体染色体セットの非常に信頼性の高い識別を可能にする検出可能なマーカーの重複をもたらす。
【0149】
データ処理および染色体異常の有無の同定
染色体異常の「検出」という用語は、本明細書中で使用される場合、増幅された核酸種、ヌクレオチド配列種、または前述のものから生成された検出可能な産物(集合的に「検出可能な産物」)のセットを検出することから生じたデータを処理することによる、染色体の不均衡の同定のことを指す。任意の適当な検出デバイスおよび検出方法が、本明細書中で扱われる検出可能な産物の1つ以上のセットを識別するために使用され得る。染色体異常の有無に関係する成果は、被験体またはサンプルに対する染色体異常の存在に関連する、確率(例えば、オッズ比、p値)、尤度、パーセンテージ、閾値に対する値または危険因子を含むがこれらに限定されない任意の適当な形態で表され得る。成果は、ある特定の実施形態において、感度、特異性、標準偏差、変動係数(CV)および/もしくは信頼水準、または前述のものの組み合わせの1つ以上によって提供され得る。
【0150】
検出可能な産物の1つ以上のセットに基づく染色体異常の検出は、感度、特異性、標準偏差、変動係数(CV)、閾値、信頼水準、スコア、確率および/またはそれらの組み合わせを含むがこれらに限定されない1つ以上の計算された変数に基づいて同定され得る。いくつかの実施形態において、(i)診断法に対して選択されたセットの数、および/または(ii)診断法に対して選択された各セットの特定のヌクレオチド配列種が、そのような計算された変数の1つ以上に従って、部分的または全体的に、測定される。
【0151】
ある特定の実施形態において、感度、特異性および/または信頼水準の1つ以上が、パーセンテージとして表される。いくつかの実施形態において、そのパーセンテージは、各変数に対して独立して、約90%超(例えば、約90、91、92、93、94、95、96、97、98もしくは99%、または99%超(例えば、約99.5%またはそれ以上、約99.9%またはそれ以上、約99.95%またはそれ以上、約99.99%またはそれ以上))である。変動係数(CV)は、いくつかの実施形態において、パーセンテージとして表され、そのパーセンテージは、時折、約10%またはそれ以下(例えば、約10、9、8、7、6、5、4、3、2もしくは1%、または1%未満(例えば、約0.5%またはそれ以下、約0.1%またはそれ以下、約0.05%またはそれ以下、約0.01%またはそれ以下))である。確率(例えば、アルゴリズムによって測定される特定の成果が偶然に起因しない確率)は、ある特定の実施形態において、p値として表され、そのp値は、時折、約0.05またはそれ以下(例えば、約0.05、0.04、0.03、0.02もしくは0.01、または0.01未満(例えば、約0.001またはそれ以下、約0.0001またはそれ以下、約0.00001またはそれ以下、約0.000001またはそれ以下))である。
【0152】
例えば、スコアリングまたはスコアは、特定の染色体異常が被験体/サンプル中に実際に存在するかまたは存在しない確率を計算することを指し得る。スコアの値は、例えば、実際の染色体異常に対応し得る増幅された核酸(nucleic)の検出可能な産物の変動、差異または比を決定するために使用され得る。例えば、検出可能な産物から陽性スコアが計算されることにより、単一サンプルの解析に特に関連性のある染色体異常が同定され得る。
【0153】
ある特定の実施形態において、シミュレートされた(またはシミュレーション)データは、例えば、アルゴリズムを訓練するかまたはアルゴリズムを試験することによって、データ処理を助け得る。シミュレートされたデータは、例えば、血清、血漿などにおける様々な濃度の胎児および母体の核酸の様々な仮定のサンプルを含み得る。シミュレートされたデータは、現実の集団から予想され得るものに基づき得るか、またはアルゴリズムを試験するためおよび/もしくはシミュレートされたデータセットに基づいて正確な分類を割り当てるために偏っている場合がある。シミュレートされたデータは、本明細書中で「仮想」データとも呼ばれる。サンプル内における胎児/母体の寄与が、数の表もしくはアレイとして(例えば、参照生体分子または増幅された核酸配列の切断産物の質量シグナルに対応するピークのリストとして)、質量スペクトルとして、ゲル上のバンドパターンとして、または質量分布を測定する任意の手法の表示として、シミュレートされ得る。シミュレーションは、ほとんどの例において、コンピュータプログラムによって行われ得る。シミュレートされたデータセットを使用する際の1つのありうる工程は、同定された結果の信頼度、すなわち、選択された陽性/陰性が、どれくらい十分にそのサンプルに当てはまっているか、およびそれに加わる変動があるか否かを評価することである。通常のアプローチは、選択されたものよりも良いスコアを有するランダムなサンプルの確率を推定する確率値(p値)を計算することである。p値の計算が、ある特定の状況で許容され得ない場合、経験的なモデルが評価されてもよく、この経験的なモデルでは、少なくとも1つのサンプルが(変動の分解の有無にかかわらず)基準となるサンプルに当てはまると仮定される。あるいは、ポアソン分布などの他の分布が、確率分布を説明するために使用され得る。
【0154】
ある特定の実施形態において、アルゴリズムが、計算された真陽性、真陰性、偽陽性および偽陰性に対して信頼度の値を割り当て得る。染色体異常発生の尤度の割り当てもまた、ある特定の確率モデルに基づき得る。
【0155】
シミュレートされたデータは、しばしば、インシリコプロセスにおいて生成される。本明細書中で使用される場合、用語「インシリコ」とは、コンピュータを用いて行われる調査および実験のことを指す。インシリコ方法としては、分子モデリング研究、核型分析、遺伝的計算、生体分子ドッキング実験および分子構造の仮想表現、ならびに/または分子相互作用などのプロセスが挙げられるが、これらに限定されない。
【0156】
本明細書中で使用される場合、「データ処理ルーチン」とは、取得したデータの生物学的意義(すなわち、アッセイの最終結果)を決定する、ソフトウェアに含まれ得るプロセスのことを指す。例えば、データ処理ルーチンは、収集されたデータに基づいて各ヌクレオチド配列種の量を決定し得る。データ処理ルーチンは、決定された結果に基づいて、機器および/またはデータ収集ルーチンも管理し得る。データ処理ルーチンおよびデータ収集ルーチンは、統合されることが多く、その機器によるデータ取得を操作するフィードバックを提供し、ゆえに、本明細書中に提供されるアッセイベースの判断方法が提供される。
【0157】
本明細書中で使用される場合、ソフトウェアは、コンピュータによって実行されるときにコンピュータ操作を行うコンピュータ可読のプログラム命令のことを指す。代表的には、ソフトウェアは、コンピュータ可読媒体上に記録されたプログラム命令を含むプログラム製品において提供され、そのコンピュータ可読媒体としては、フロッピー(登録商標)ディスク、ハードディスクおよび磁気テープを含む磁気媒体;ならびにCD−ROMディスク、DVDディスク、光磁気ディスクを含む光学媒体、ならびにプログラム命令が記録され得る他のそのような媒体が挙げられるがこれらに限定されない。
【0158】
異常または正常を予測する様々な方法が、様々なタイプの結果をもたらし得る。任意の所与の予測について、可能性のある4つのタイプの成果:真陽性、真陰性、偽陽性または偽陰性が存在する。用語「真陽性」は、本明細書中で使用される場合、染色体異常を有すると正しく診断された被験体のことを指す。用語「偽陽性」は、本明細書中で使用される場合、染色体異常を有すると誤って同定された被験体のことを指す。用語「真陰性」は、本明細書中で使用される場合、染色体異常を有しないと正しく同定された被験体のことを指す。用語「偽陰性」は、本明細書中で使用される場合、染色体異常を有しないと誤って同定された被験体のことを指す。任意の所与の方法に対する2つの性能の測定値は、これらの発生頻度の比に基づいて計算され得る:(i)感度の値、すなわち、陽性であると正しく同定される予測陽性の割合(例えば、そのように正しくまたは誤って同定されたすべてのヌクレオチド配列セットに対して染色体異常を示すような、レベル比較検出/測定によって正しく同定されるヌクレオチド配列セットの割合)であって、これにより、染色体異常を検出する際の結果の正確度が反映される、値;および(ii)特異性の値、すなわち、陰性であると正しく同定される予測陰性の割合(そのように正しくまたは誤って同定されたすべてのヌクレオチド配列セットに対して染色体正常を示すような、レベル比較検出/測定によって正しく同定されるヌクレオチド配列セットの割合)によって、染色体異常を検出する際の結果の正確度が反映される、値。
【実施例】
【0159】
以下の実施例は、限定目的ではなく、例示という目的だけで提供される。当業者は、本質的に同じまたは類似の結果をもたらすように変更され得るかまたは改変され得る種々の重要でないパラメータを容易に認識する。
【0160】
下記の実施例1では、本出願人は、CpGアイランドアレイと組み合わせて、メチル化DNAを捕捉する新規融合タンパク質を使用することにより、胎児の胎盤組織と母体の血液との間で差次的にメチル化されたゲノム領域を同定した。厳密な統計学的アプローチを用いることにより、サンプル間でほとんどばらつきを示さず、ゆえに根底にある生物学的メカニズムを示す領域だけが選択された。主に13、18および21番染色体上に位置する85個の差次的にメチル化されたゲノム領域が確認された。この確認について、これらの85領域を網羅する261個のPCRアンプリコンを調べる定量的質量分析ベースのアプローチを用いた。それらの結果は、非常に良く一致していることから(95%確認)、このアプローチの実行可能性が証明される。
【0161】
次に、本出願人は、対立遺伝子比ではなく絶対コピー数の測定に依存する、異数性検査用の画期的なアプローチを提供する。
【0162】
実施例1
下記の実施例では、10個の母体DNAと胎盤DNAとのサンプル対を用いることにより、差次的にメチル化された領域を同定した。これらの結果は、質量分析ベースの定量的メチル化アッセイを用いて確認された。第1に、母体のバフィーコート由来および対応する胎盤組織由来のゲノムDNAをまず抽出した。次に、MBD−FCを用いることにより、各DNAサンプルのメチル化された画分を捕捉した。図1〜3を参照のこと。2つの組織画分を異なる蛍光色素で標識し、Agilent(登録商標)CpG Islandマイクロアレイにハイブリダイズさせた。図4を参照のこと。これを行うことにより、出生前診断に利用され得る差次的にメチル化された領域が同定された。それゆえ、2つの基準を使用することにより、潜在的な濃縮マーカーとしてのゲノム領域が選択された:観察されたメチル化の差は、試験されたすべてのサンプル対に存在しなければならないし、その領域は、200bpを超える長さでなければならなかった。
【0163】
DNAの調製および断片化
母体のバフィーコート由来および胎盤組織由来のゲノムDNA(gDNA)をそれぞれ、Qiagen(登録商標)(Hilden,Germany)製のQIAamp DNA Mini KitTMおよびQIAamp DNA Blood Mini KitTMを用いて調製した。MCIpのために、NanoDrop ND 1000TM分光光度計(Thermo Fisher(登録商標),Waltham,MA,USA)を用いてgDNAを定量した。Branson Digital Sonifier450TM(Danbury,CT,USA)を以下の設定:振幅20%、超音波処理時間110秒、パルスオン/パルスオフ時間1.4/0.6秒を用いて、500μlのTE緩衝液中で2.5μgのDNAを300〜500bpの平均フラグメントサイズに超音波処理した。フラグメントの範囲を、ゲル電気泳動を用いてモニターした。
【0164】
メチル−CpG免疫沈降
1サンプルあたり、56μgの精製MBD−Fcタンパク質および150μlのProtein A Sepharose 4 Fast Flowビーズ(Amersham Biosciences(登録商標),Piscataway,NJ,USA)を15mlのTBS中において4℃で一晩回転させた。次いで、そのMBD−Fcビーズ(150μl/アッセイ)を移し、2mlのUltrafree−CL遠心濾過デバイス(Millipore(登録商標),Billerica,MA,USA)中で分散させ、BufferA(20mM Tris−HCl,pH8.0、2mM MgCl2、0.5mM EDTA 300mM NaCl、0.1%NP−40)で3回、遠心分離によって洗浄した。2mlのBufferA中の洗浄されたMBD−Fcビーズに超音波処理されたDNA(2μg)を加え、4℃で3時間回転させた。ビーズを遠心分離することにより、未結合のDNAフラグメント(300mMの画分)を回収し、続いて増加性のNaCl濃度(400、500、550、600および1000mM)を含む600μlの緩衝液で2回洗浄した。各洗浄工程のフロースルーを別個のチューブに回収し、MinElute PCR Purification KitTM(Qiagen(登録商標))を用いて脱塩した。並行して、MinElute PCR Purification KitTM(Qiagen(登録商標))を用いて、200ngの超音波処理された投入DNAをコントロールとして処理した。
【0165】
マイクロアレイの操作および解析
マイクロアレイハイブリダイゼーション用の蛍光標識DNAを生成するために、各サンプルについての600mMおよび1MのNaCl画分(濃縮されたメチル化DNA)を併せ、BioPrime Total Genomic Labeling SystemTM(Invitrogen(登録商標),Carlsbad,CA,USA)を用いてAlexa Fluor 555−aha−dCTP(母体)またはAlexa Fluor 647−aha−dCTP(胎盤)で標識した。この標識反応は、製造者のマニュアルに従って行われた。対応する母体/胎盤対の異なって標識されたゲノムDNAフラグメントを、50μgのCot−1DNA(Invitrogen(登録商標))、52μlのAgilent10×ブロッキング試薬(Agilent Technologies(登録商標),Santa Clara,CA,USA)、78μlの脱イオンホルムアミドおよび260μlのAgilent2×ハイブリダイゼーション緩衝液が補充された最終体積80μlになるように併せた。そのサンプルを3分間95℃に加熱し、混合し、続いて37℃において30分間インキュベートした。次いで、Agilent CpG Island Microarray KitTMにおけるハイブリダイゼーションを、Agilent SureHybTMチャンバーおよびAgilentハイブリダイゼーションオーブンを使用して67℃において40時間行った。スライドを、室温において5分間、Wash I(6×SSPE、0.005%N−ラウロイルサルコシン)中で洗浄し、37℃においてさらに5分間、Wash II(0.06×SSPE)中で洗浄した。次に、そのスライドをアセトニトリルおよびAgilent Ozone Protection SolutionTM中に、それぞれ30秒間浸漬した。直ちにAgilent DNA Microarray ScannerTMを用いて像をスキャンし、解析した。Feature Extraction Software v9.5および標準的なCGHプロトコルを用いて、マイクロアレイ像を処理した。
【0166】
亜硫酸水素塩処理
ゲノムDNAの亜硫酸水素ナトリウム変換を、EZ−96 DNA Methylation KitTM(ZymoResearch,Orange County,CA)を用いて行った。製造者のプロトコルに従って、1μgのゲノムDNAおよび交互変換プロトコル(2温度のDNA変性)を用いた。
【0167】
定量的メチル化解析
SequenomのMassARRAY(登録商標)Systemを用いることにより、定量的メチル化解析を行った。このシステムは、飛行時間型マトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI−TOF)質量分析をRNA塩基特異的切断(Sequenom(登録商標)MassCLEAVETM)と組み合わせて利用する。次いで、検出可能なパターンをメチル化の状態について解析した。Sequenom(登録商標)EpiDESIGNERTM(www.epidesigner.com)を用いて、PCRプライマーを設計した。85個の標的領域を網羅する合計261個のアンプリコンを、確認のために使用した(増幅長中央値=367bp、最小値=108、最大値=500;1アンプリコンあたりのCpG数の中央値=23、最小値=4、最大値=65)。各逆方向プライマーについてはインビボ転写用の追加のT7プロモータータグ、ならびに順方向プライマーには融解温度の差について調整する10merのタグが付加された。MassCLEAVE(tm)生化学を以前に報告されているように行った(Ehrich M,ら、(2005)Quantitative high−throughput analysis of DNA methylation patterns by base specific cleavage and mass spectrometry.Proc Natl Acad Sci USA 102:15785−15790)。MassARRAYTMCompact MALDI−TOF(Sequenom(登録商標),San Diego)を用いて質量スペクトルを取得し、メチル化の比をEpiTYPERTMソフトウェアv1.0(Sequenom(登録商標),San Diego)によって生成した。
【0168】
統計解析
すべての統計的計算を、R統計学的ソフトウェアパッケージ(www.r−project.org)を用いて行った。まず、アレイプローブをそれらのゲノム位置に基づいてグループ分けした。続いて、1000bp以上離れていないプローブを一緒にグループ分けした。差次的にメチル化された領域を同定するために、コントロールサンプルを参照として使用した。コントロールサンプルにおいて、血液由来コントロールDNAのメチル化画分を、それ自体に対してハイブリダイズさせた。理想的には、このサンプルは、およそ0の2色チャネルlog比を示すべきである。しかしながら、ハイブリダイゼーション挙動のばらつきが原因で、それらのプローブは、0.02という平均log比および0.18という標準偏差を示す。次に、本発明者らのサンプルにおいて観察されたlog比をコントロールサンプルと比較した。二元配置の(two way)対応のあるt検定を用いることにより、それらのグループが同一であるという帰無仮説を試験した。4つ未満のプローブを含むグループをこの解析から除外した。4または5つのプローブを含むグループについては、すべてのプローブを対応のあるt検定に使用した。6つ以上のプローブを含むグループについては、1回につき5つのプローブからなるスライディングウィンドウ検定(sliding window test)を用い、ここで、そのウィンドウを、プローブ1つ分ずつ移動させた。各試験サンプルをコントロールサンプルと比較し、p値を記録した。10個中8個のサンプルがp値<0.01を示すか、または10個中6個のサンプルがp値<0.001を示す場合に、ゲノム領域を、差次的にメチル化されているとして選択した。そのグループの8個未満のサンプルがp値<0.01を示し、6個未満のサンプルがp値<0.001を示すとき、そのゲノム領域を差次的にメチル化されていないと分類した。いずれのカテゴリーにも入らなかったサンプルは、この解析から除外した。差次的にメチル化されていると同定されたゲノム領域のサブセットについて、その結果を、定量的メチル化解析を用いて確かめた。
【0169】
オンラインのGOstatツール(http://gostat.wehi.edu.au/cgibin/−goStat.pl)を用いてGo解析を行った。フィッシャーの正確検定を用いてP値を計算した。
【0170】
マイクロアレイに基づいたマーカー発見結果
差次的にメチル化された領域を同定するために、単球のメチル化DNA画分をそれ自体に対してハイブリダイズさせた標準的なサンプルを使用した。この標準物質は、あるゲノム領域における蛍光測定値のばらつきについての参照を提供した。次いで、この標準に対する10個の胎盤/母体サンプルの各々のlog比を比較することによって、差次的にメチル化された領域を同定した。本研究の目的は、母体DNAと胎児DNAとの信頼度の高い分離を可能にするマーカーを同定することであるので、標的の選択は、ある連続した一続きのゲノムDNAにわたって安定して一貫したメチル化の差を示す遺伝子に限定された。これにより、その解析の焦点が、複数のプローブが差次的なメチル化を示すゲノム領域に当てられた。その選択は、個体間の差が大きいサンプルを除くすべてのサンプルが差次的なメチル化を示す標的領域にも限定された。これらのサンプルのうちの2つが、このマイクロアレイ解析において概して低いlog比を示した。対応のある検定を標的選択に使用したので、これは、その結果に対して否定的に影響しなかった。
【0171】
これらの選択基準に基づいて、母体DNAと胎児DNAとの間で差次的にメチル化された3043個のゲノム領域が同定された。21778個の領域が、メチル化の差を示さなかった。差次的にメチル化された領域の分布における染色体間の偏りは、観察されなかった。差次的にメチル化された領域は、2159個の既知遺伝子に隣接して位置していたか、またはそれらの既知遺伝子内に位置していた。その差次的にメチル化された領域の大部分は、プロモーター領域(18%)およびコード領域内部(68%)に位置しており、ほんのわずかな領域が、遺伝子の下流(7%)またはプロモーターからコード領域への移行部(7%)に位置している。差次的なメチル化を示さなかった領域は、プロモーター(13%)および下流(5%)の位置に対して同様の分布を示したが、プロモーターからコード領域への移行部に位置する領域の割合は、より高く(39%)、コード領域内の割合は、より低かった(43%)。
【0172】
ポリコーム抑制複合体(polycomb repressive complex)2(PRC2)によって標的化される遺伝子が、発生を制御する遺伝子を多く含むことが、胚性幹細胞(ES)において示されている(Lee TI,ら、(2006)Control of developmental regulators by Polycomb in human embryonic stem cells.Cell 125:301−313)。差次的にメチル化された遺伝子が、多くの癌タイプにおいて、PRC2によって標的化される遺伝子を多く含むことも示されている(Ehrich M,ら、(2008)Cytosine methylation profiling of cancer cell lines.Proc Natl Acad Sci USA 105:4844−48)。本研究において差次的にメチル化されていると同定された遺伝子のセットもまた、PRC2によって標的化される遺伝子を多く含む(p値<0.001、オッズ比=3.6、オッズ比に対する95%CI=3.1〜4.2)。差次的にメチル化された遺伝子のセットのGO解析により、このセットが、発生中の重要な機能を有意に多く含むことが明らかになる。最も多く含まれた10個の機能のうち6個が、発生または形態形成のプロセスを含む[解剖学的構造の形態形成(GO:0009653,p値=0)、発生プロセス(GO:0032502,p値=0)、多細胞生物の発生(GO:0007275,p値=0)、器官の発生(GO:0048513,p値=0)、器官系の発生(GO:0048731,p値=0)および解剖学的構造の発生(GO:0048856,p値=0)]。
【0173】
Sequenom(登録商標)EpiTYPERTMを用いた確認
マイクロアレイの知見を確認するために、13、18および21番染色体由来の63個の領域ならびに他の常染色体由来の追加の26個の領域を、異なる技術によって確かめるために選択した。母体および胎盤のサンプル中のDNAメチル化を定量的に測定するために、Sequenom EpiTYPERTM技術を使用した。EpiTYPERTM法の説明については、Ehrich M,Nelson MR,Stanssens P,Zabeau M,Liloglou T,Xinarianos G,Cantor CR,Field JK,van den Boom D(2005)Quantitative high−throughput analysis of DNA methylation patterns by base specific cleavage and mass spectrometry.Proc Natl Acad Sci USA 102:15785−15790)を参照のこと。標的領域内の各個別のCpG部位について、すべての母体DNAサンプルおよびすべての胎盤サンプルにおける平均メチル化値を計算した。次いで、母体のメチル化の平均と胎盤のメチル化の平均との差をマイクロアレイの結果と比較した。この2つの技術による結果は、よく一致していた(図7を参照のこと)。85個の標的領域について、定量的結果が、マイクロアレイの結果を裏付ける(95%の確認率)。すべてが18番染色体上に位置する4つの標的領域については、結果を確認できなかった。この矛盾の理由は、現在のところ不明である。
【0174】
メチル化の差の同定に焦点を合わせたマイクロアレイとは対照的に、DNAメチル化の定量的測定は、絶対的なメチル化値の解析を可能にした。確認された85個の差次的にメチル化された領域の確認セットにおいて、26個の領域のサブセットが、母体DNAサンプル中でよりメチル化されており、59個の領域が、胎盤サンプル中でよりメチル化されている(表1を参照のこと)。興味深いことに、胎盤サンプル中の低メチル化された遺伝子は、胎盤サンプル中の高メチル化された遺伝子よりも大きなメチル化の差を示す傾向がある(低メチル化遺伝子に対するメチル化の差の中央値=39%、高メチル化遺伝子に対するメチル化の差の中央値=20%)。
【0175】
実施例2
実施例2では、胎児の形質(例えば、胎児の性別またはRhD適合性)を検出するかもしくは確かめるため、またはトリソミー21などの染色体異常を診断するため(両方が、本明細書中で「メチル化に基づく胎児の診断法」と呼ばれる)に使用され得る、母体サンプル中に存在する胎児核酸の量を検出するための非侵襲性のアプローチ(本明細書中で「胎児の定量方法」と呼ばれる)が記載される。図10は、胎児の定量方法の1つの実施形態を示しており、図11は、メチル化に基づく胎児の診断法の1つの実施形態を示している。両方のプロセスが、母体サンプルから得られた胎児DNAを使用する。そのサンプルは、差次的にメチル化されている母体核酸および胎児核酸を含む。例えば、そのサンプルは、母体の血漿または血清であり得る。胎児DNAは、母体血漿中に約2〜30%の全DNAを含む。サンプル中に存在する全核酸に対する胎児の寄与の実際の量は、妊娠ごとに異なり、在胎期間、母体の健康状態および胎児の健康状態を含むがこれらに限定されないいくつかの因子に基づいて変化し得る。
【0176】
本明細書中に記載されるように、母体血漿中の胎児DNAの解析によって引き起こされる技術的障害は、胎児DNAを、同時に存在する母体のバックグラウンドDNAと識別できる必要があるという点にある。本技術の方法は、そのような差、例えば、胎児DNAと母体DNAとの間に見られる差次的なメチル化を、母体由来のサンプル中に存在する比較的低いパーセンテージの胎児DNAについて濃縮する手段として利用する。本アプローチの非侵襲性の性質は、従来の出生前診断の方法(例えば、羊水穿刺、絨毛生検(chronic villus sampling)および臍帯穿刺(これらは、胎児が死亡するリスクは低いが有限のリスクに関連する))に対して大きな利点を提供する。また、この方法は、任意の特定の細胞分裂の相にある胎児の細胞に依存しないので、この方法は、染色体異常の存在および性質を判定する迅速な検出手段を提供する。さらに、このアプローチは、性別非依存的(すなわち、Y染色体の存在を必要としない)および多型非依存的(すなわち、対立遺伝子比を測定しない)である。したがって、本技術の組成物および方法は、母体サンプル中に存在する胎児核酸の量を正確に測定するための、改善された普遍的な非侵襲性のアプローチである。
【0177】
アッセイの設計および利点
母体サンプルから非侵襲的に単離された胎児DNAを正確に検出および定量する必要がある。本技術は、母体の血漿中または血清中の循環無細胞胎児核酸(ccfDNA)の存在を利用する。商業的および臨床的に実施するために、本技術の方法は、利用可能な少量の限られた胎児DNAだけを消費すべきである。例えば、サンプルの50%、40%、30%、25%、20%、15%、10%、5%未満またはそれ以下。さらに、このアプローチは、好ましくは、以下のアッセイの1つ以上(好ましくは、すべて)が含まれる多重アッセイ形式で開発されるべきである:
・サンプル中に存在するゲノム等価物の全量を検出するためのアッセイ、すなわち、母体と胎児の両方のDNA種を認識するアッセイ;
・男児を妊娠している女性から単離された胎児DNA、すなわち、Y染色体に特異的な配列を検出するためのアッセイ;
・胎児と母体との間で差次的にメチル化されていると同定された領域に特異的なアッセイ;または
・調査されるすべての組織において低メチル化されていると知られている領域に特異的なアッセイ(制限効率に対するコントロールとして機能し得る)。
【0178】
このアッセイの他の特徴は、以下の1つ以上を含み得る:
・各アッセイについて、標的配列に対する1つ以上のヌクレオチド差などの競合物質の識別性の特徴ではなく、標的配列と同一または実質的に同一である、標的特異的な競合オリゴヌクレオチド。このオリゴヌクレオチドは、PCR反応物に加えられると、標的と同時に増幅され、これらの2つのPCRアンプリコンから得られる比は、母体サンプル中に存在する標的特異的なDNA配列の数(例えば、特定の遺伝子座由来の胎児DNA)を示唆し得る。
・アンプリコンの長さは、好ましくは、より短いフラグメントに対する増幅に偏らないように同様の長さであるべきである。しかしながら、増幅効率がほぼ等しい限り、様々な長さが使用され得る。
・差次的にメチル化された標的は、表1、または母体と胎児との間で差次的にメチル化されていると知られている他の任意の標的から選択され得る。これらの標的は、非妊婦から単離されたDNAでは低メチル化され得、胎児サンプルから得られたサンプル中では高メチル化され得る。これらのアッセイは、制限効率のコントロールとして機能し得る。
・様々なアッセイから得られた結果は、以下の1つ以上を定量するために使用され得る:
○サンプル中に存在する増幅可能なゲノムの総数(ゲノム等価物の総量);
○増幅可能なゲノムのうちの胎児画分(胎児の濃度またはパーセンテージ);または
○胎児から得られたDNA配列間の(例えば、胎児の21番染色体と3番染色体などの参照染色体との間の)コピー数の差。
【0179】
本試験において使用されるアッセイの例
下記は、例えば、図10に提供されているような、本技術の方法を行うために用いられる反応工程の概要である。この概要は、本技術の範囲を限定すると意図されない。むしろ、この概要は、Sequenom(登録商標)MassARRAY(登録商標)技術を用いる本技術の1つの実施形態を提供する。
1)血漿サンプルからのDNAの単離。
2)メチル化感受性制限酵素(例えば、HhaIおよびHpaII)を用いたDNA標的の消化。
各反応について、利用可能なDNAを水と混合して、25μlの最終容積にした。10単位のHhaI、10単位のHpaIIおよび反応緩衝液からなる10μlの反応混合物を加えた。そのサンプルを制限酵素に対する最適温度においてインキュベートした。HhaIおよびHpaIIは、非メチル化DNAを消化する(そして、ヘミメチル化DNAまたは完全にメチル化されたDNAを消化しない)。消化の後、加熱工程を用いて、それらの酵素を変性させた。
3)ゲノム増幅−PCR試薬(緩衝液、dNTP、プライマーおよびポリメラーゼ)を加えることによって50μlの総体積中でPCRを行った。例示的なPCRおよび伸長プライマーは、以下に提供される。さらに、既知濃度の合成競合オリゴヌクレオチドを加えた。
4)複製(任意)−本試験のPCR後の工程中に導入されるばらつきを最小にするために、PCRの後、50μlの反応物を5μlの対応反応物に分けた(複製物)。PCR後の工程は、SAP、プライマー伸長(MassEXTEND(登録商標)技術)、樹脂処理、スペクトロチップ(spectrochip)の調製およびMassARRAYを含む。
5)増幅可能なゲノムの定量−Sequenom MassARRAY(登録商標)技術を用いることにより、各アッセイに対する増幅産物の量を測定した。PCRの後、一塩基伸長アッセイを用いることにより、増幅された領域(工程3において導入された競合オリゴヌクレオチドを含む)を調べた。目的の部位に直接隣接してハイブリダイズするように設計された特異的な伸長プライマーを導入した。以下に提供される伸長プライマーを参照のこと。これらのDNAオリゴヌクレオチドは、iPLEX(登録商標)MassEXTEND(登録商標)プライマーと呼ばれる。伸長反応において、iPLEXプライマーは、相補DNA鋳型にハイブリダイズし、DNAポリメラーゼによって伸長された。酵素および緩衝液とともに、様々な組み合わせのデオキシヌクレオチド三リン酸およびジデオキシヌクレオチド三リン酸を含む特別な終結混合物が、iPLEXプライマーの限定的な伸長を指示した。相補的なジデオキシヌクレオチドが組み込まれるまで、プライマー伸長が起きる。伸長反応は、各々が独特の分子量を有する様々な長さのプライマー産物を生成した。結果として、そのプライマー伸長産物は、MassARRAY(登録商標)Analyzer Compactにおける飛行時間型マトリックス支援レーザー脱離/イオン化(MALDI−TOF)質量分析を用いて同時に分離および検出され得る。この分離および検出の後、SEQUENOM専売ソフトウェアが、データを自動的に解析する。
6)胎児核酸の量および濃度の計算−差次的にメチル化された標的に基づいて、サンプル中に存在するゲノム等価物の総量、男児を妊娠している女性から単離された胎児核酸の量(および濃度)、および胎児核酸の量(および濃度)を計算するための方法は、下記ならびに図18および19に提供される。
【0180】
上記プロトコルは、以下に記載されるアッセイの1つ以上を行うために使用され得る。すぐ下に提供される配列に加えて、複数を調べる多重スキームが、下記の表Xに提供される。
【0181】
1)サンプル中の増幅可能なゲノム等価物の総数を定量するためのアッセイ
13、18、21番染色体、XまたはY染色体に位置しないハウスキーピング遺伝子において標的を選択した。その標的は、1コピー遺伝子として存在するべきであり、メチル化感受性制限酵素に対するいかなる認識部位も含まないべきである。
【0182】
下線の配列は、PCRプライマー部位であり、イタリック体は、一塩基伸長プライマーに対する部位であり、太字(C)は、ヒトDNA上で伸長されるヌクレオチドである。
【0183】
【化2】
【0184】
【化3】
2)サンプル中のY染色体の配列の総数を定量するためのアッセイ
ゲノム内の他の位置に類似配列またはパラログ配列を有しない、Y染色体に特異的な標的を選択した。それらの標的は、好ましくは、1コピー遺伝子として存在するべきであり、メチル化感受性制限酵素に対するいかなる認識部位も含まないべきである。
【0185】
下線の配列は、PCRプライマー部位であり、イタリック体のヌクレオチドは、一塩基伸長プライマーに対する部位であり、太字(C)は、ヒトDNAにおいて伸長されるヌクレオチドである。
【0186】
【化4】
3)サンプル中に存在する胎児のメチル化DNA配列を定量するためのアッセイ
母体DNAと胎児DNAとの間で差次的にメチル化されていると知られている領域において標的を選択した。メチル化感受性酵素に対するいくつかの制限酵素認識部位を含む配列を選択した。本研究の場合、HhaI(GCGC)およびHpaII(CCGG)酵素を使用した。
【0187】
下線の配列は、PCRプライマー部位であり、イタリック体は、一塩基伸長プライマーに対する部位であり、太字(C)は、ヒトDNA上で伸長されるヌクレオチドであり、小文字は、メチル化感受性制限酵素に対する認識部位である。
【0188】
【化5】
4)酵素の制限効率についてのコントロールアッセイ
調査される任意の組織においてメチル化されていると知られていない領域において標的を選択した。使用される各制限酵素に対する1つ以下の部位を含む配列を選択した。
【0189】
下線の配列は、PCRプライマー部位であり、イタリック体のヌクレオチドは、一塩基伸長プライマーに対する部位であり、太字(G)は、ヒトDNAにおいて伸長される逆方向ヌクレオチドであり、小文字は、メチル化感受性制限酵素に対する認識部位である。
【0190】
【化6】
確認実験
本技術の感度および正確度を、モデルシステムと臨床サンプルの両方を用いて測定した。様々なサンプルにおいて、総コピー数を定量するための2つのアッセイ、メチル化を定量するための3つのアッセイ、Y染色体に特異的な1つのアッセイ、および1つの消化コントロールアッセイを含む多重アッセイを行った。表X1およびX2を参照のこと。さらなるアッセイを含む別の多重スキームが、表Y1およびY2に提供されている。
【0191】
【表5】
【0192】
【表6】
ゲノムDNAを用いるモデルシステム
サンプル中の増幅可能なゲノムコピーの総数を測定するときの方法の感度および正確度を測定するために、非妊婦の血液から単離された様々なDNAサンプルのサブセットを検査した。1反応物あたり約2500、1250、625または313コピーを含むように各サンプルを希釈した。3つの総コピー数アッセイから得られた平均DNA/競合物質比を取得することによって、増幅可能なゲノムコピーの総数を得た。4つの異なるサンプルからの結果を図12に示す。
【0193】
反応を最適化するために、血漿から単離されたDNAサンプルをシミュレートするモデルシステムを開発した。これらのサンプルは、一定数のメチル化されていない母体DNAを含み、様々な量の男児のメチル化胎盤DNAと混合されていた。そのサンプルは、非メチル化母体DNAに対して約0〜25%の範囲の量と混合されていた。結果を図13AおよびBに示す。メチル化アッセイ(図13A)、SRYマーカー(図13B)および総コピー数アッセイから得られた比を用いて、胎盤DNAの割合を計算した。メチル化アッセイ(TBX)、Y染色体アッセイ(SRY)および総コピー数(APOE)のためのプライマー配列は、上に提供されている。このモデルシステムから、メチル化に基づく方法が、Y染色体の方法(SRYマーカー)と等しく行われることが証明され、ゆえに、メチル化に基づく方法が、性別に依存しない胎児の定量方法と確認された。
【0194】
血漿サンプル
臨床サンプルにおいて上記方法の感度および正確度を調査するために、男の胎児を妊娠している女性から得られた33個の血漿サンプルを、表Xの多重スキームを用いて調査した。全サンプルの一部だけを使用するという重要な要件を満たすために、各反応について、4mlの抽出物から得られたDNAの4分の1を使用した。
【0195】
総コピー数の定量
総コピー数の定量の結果は、図14AおよびBに見られる。図14Aでは、各サンプルに対するコピー数が示されている。2つのサンプル(25および26番)が、他のすべてのサンプルよりも著しく多い総コピー数を有する。概して、約1300個の増幅可能なコピー/ml血漿の平均値が得られた(766〜2055の範囲)。図14Bは、所与の値の箱ひげ図を示しており、結果を要約している。
【0196】
メチル化マーカーおよびY染色体マーカーから得られた結果の相関関係
図15AおよびBでは、各サンプルについての胎児のコピー数がプロットされている。すべてのサンプルが男児妊娠に由来した。得られたコピー数は、メチル化特異的マーカーまたはY染色体特異的マーカーを用いて計算され得る。図15Bに見られるように、所与の値の箱ひげ図は、2つの異なる測定値間の最小の差を示した。
【0197】
メチル化マーカーから得られた結果とY染色体マーカー(SRY)から得られた結果との相関関係を示している結果が、図16に示されている。また、メチル化に基づく方法がY染色体法(SRYマーカー)と同様に行われ、そのメチル化に基づく方法が、性別に依存せず、かつ多型に依存しない胎児の定量方法であるとさらに確認された。表Xに開示されている多重アッセイを用いることにより、胎児核酸の量が測定された。
【0198】
最後に、コントロール 対 競合物質に対する消化の比を使用し、この値を平均総コピー数アッセイと比較することによって、消化効率が測定された。図17を参照のこと。サンプル26は別として、すべての反応物が、99%を超える効率を示している。
【0199】
データ解析
Typer4(Sequenomソフトウェア製品)を用いて、質量スペクトル解析を行った。各個別のDNA被検体および競合物質アッセイに対するピークの高さ(ノイズに対するシグナル)を測定し、さらなる解析のためにエクスポートした。
【0200】
DNA特異的ピークを競合物質特異的ピークで除して比を得ることによって、各アンプリコンについて存在する分子の総数を計算した。(図18および19中の「DNA」ピークは、所与のアッセイに対する被検体ピークと考えられ得る)。反応物中に加えられる競合分子の数は、既知であるので、DNA分子の総数は、加えられた競合分子の数でその比を乗じることによって決定され得る。
【0201】
男児妊娠についてはY染色体特異的マーカーを用い、すべての妊娠についてはメチル化された画分の平均値を用いて、各サンプル中の胎児DNAの割合(または濃度)を計算した。簡潔には、Y染色体の場合、被検体(DNA)ピークを競合物質ピークで除して、そしてこの比を反応物中に加えられた競合分子の数で乗じることによって比を得た。この値を、増幅可能なゲノム等価物測定の総数から得られた同様の比で除した(総量についてのアッセイを用いて)。図18を参照のこと。サンプル中に存在する核酸の総量は、母体核酸と胎児核酸との合計であるので、胎児の寄与は、より多い母体のバックグラウンド寄与の一部分であると考えられ得る。それゆえ、これを図18に示される方程式に翻訳して、サンプル中に存在する総核酸の胎児の割合(k)は、方程式:k=2×R/(1−2R)(ここで、Rは、Y染色体の量と総量との比である)に等しい。Y染色体は、半数体であり、総量に対するアッセイは、二倍体の標的を用いて測定されるので、この計算は、母体の割合の50%より少ない胎児の割合に限定される。
【0202】
図19には、メチル化特異的マーカーを使用することによる同様の胎児濃度の計算が示されている(メチル化定量に対するアッセイを参照のこと)。Y染色体特異的マーカーとは対照的に、これらのマーカーは、二倍体の標的に由来するので、Y染色体特異的アッセイについて述べられた限定は、除外され得る。したがって、胎児の割合(k)は、方程式:k=R(1−R)(ここで、Rは、メチル化アッセイと総アッセイとの比である)を用いて決定され得る。
【0203】
シミュレーション
21番染色体由来の20個のマーカーおよび1つ以上の他の常染色体由来の20個のマーカーを使用する測定システムを仮定する第1の単純な検出力計算を行った。100コピーの胎児DNA、25コピーという測定値標準偏差、および0.001より小さい第1種の過誤に対する確率から出発して、本技術の方法が、すべての場合の99.5%において、三倍体の染色体セットから二倍体を区別することができることが見出された。そのようなアプローチの実際の実行は、例えば、絶対コピー数の測定のために競合PCRアプローチを用いる系である質量分析を用いて達成され得る。この方法は、1つの反応において20のアッセイを行い得、繰り返された測定のおよそ3〜5%において標準偏差を有すると示されている。この方法は、メチル化核酸と非メチル化核酸とを区別するための既知の方法(例えば、核酸を分離するためにメチル結合剤を用いる方法、または母体核酸を消化するためにメチル化感受性酵素を用いる方法)と組み合わせて使用された。図8には、メチル化されていない過剰のDNAの存在下において、メチル化DNAを捕捉し、それにより分離するためのMBD−FCタンパク質(メチル結合剤)の有効性が示されている(図8を参照のこと)。
【0204】
本明細書中に記載されるメチル化に基づく胎児の診断法の実施形態の予測力を評価する第2の統計的検出力解析を行った。そのシミュレーションは、三染色体の21番染色体に特異的なマーカーの群を参照マーカーの群(例えば、21番染色体を除く常染色体)と区別する尤度を証明するように設計された。多くのパラメータが、2つのマーカー集団を確実に識別する能力に影響する。本シミュレーションの場合、実験法に基づいて生じる可能性が最も高いと示されている各パラメータに対する値が選択された。以下のパラメータおよび各値を使用した:
コピー数
母体のコピー数=2000
21番、XおよびY以外の染色体について胎児のコピー数=200
正倍数性の胎児の場合の21番染色体に対する胎児のコピー数=200
異数性T21胎児の場合の21番染色体に対する胎児のコピー数=300
パーセント胎児DNA(メチル化に基づく濃縮の前)=10%(上記を参照のこと)
メチル化頻度
母体DNAに対する標的領域における平均メチル化パーセンテージ=10%
胎児DNAに対する標的領域における平均メチル化パーセンテージ=80%
メチル化されておらず、消化されていない母体DNAの平均パーセンテージ(すなわち、制限効率の関数(とりわけ)=5%
21番染色体を標的にしているアッセイの数=10
21番、XおよびY以外の染色体を標的にしているアッセイの数=10
結果は、図20に示されている。x軸における変動係数(CV)と、単純なt検定を用いてアッセイ集団を識別する能力(y軸)との間の関係が、示されている。このデータから、すべての場合の99%において、5%またはそれ以下のCVを提供する0.001の有意水準で2つの集団(正倍数性 対 異数性)が識別され得ることが示唆される。このシミュレーションに基づくと、本方法は、性別に依存せず、すべての民族性において機能する(すなわち、対立遺伝子の偏りがない)胎児異数性の出生前検出のための強力な非侵襲性の診断法である。
【0205】
【表1−1】
【0206】
【表1−2】
【0207】
【表1−3】
【0208】
【表1−4】
【0209】
【表1−5】
【0210】
【表1−6】
【0211】
【表2−1】
【0212】
【表2−2】
【0213】
【表2−3】
【0214】
【表3】
【0215】
【表4−1】
【0216】
【表4−2】
【0217】
【表4−3】
【0218】
【表4−4】
【0219】
【表4−5】
【0220】
【表4−6】
【0221】
【表4−7】
【0222】
【表4−8】
【0223】
【表4−9】
【0224】
【表4−10】
【0225】
【表4−11】
【0226】
【表4−12】
【0227】
【表4−13】
【0228】
【表4−14】
【0229】
【表4−15】
【0230】
【表4−16】
【0231】
【表4−17】
【0232】
【表4−18】
【0233】
【表4−19】
【0234】
【表4−20】
【0235】
【表4−21】
【0236】
【表4−22】
【0237】
【表4−23】
【0238】
【表4−24】
本明細書中で参照される特許、特許出願、刊行物および文書の各々の全体が、参考として援用される。上記の特許、特許出願、刊行物および文書の引用は、前述のもののいずれかが、適切な従来技術であることを認めるものではなく、また、これらの刊行物または文書の内容または日付に関するいかなる承認を構成するものでもない。
【0239】
本発明の基本的な態様から逸脱することなく、前述のものに対して改変がなされ得る。本発明は、1つ以上の特定の実施形態に照らして実質的に詳細に記載されてきたが、当業者は、本願において具体的に開示された実施形態に対して変更がなされ得るが、これらの改変および改善が、本発明の範囲および精神の範囲内であることを認識する。
【0240】
適切に本明細書中に例示的に記載される本発明は、本明細書中に具体的に開示されていない任意のエレメントの非存在下において実施され得る。したがって、例えば、本明細書中の各例において、用語「含む」、「〜から本質的になる」および「〜からなる」のいずれかは、その他の2つの用語のいずれかで置き換えられ得る。使用された用語および表現は、説明の用語であって限定ではない用語として使用され、そのような用語および表現の使用は、示されるおよび記載される特徴またはその一部の任意の等価物を除外せず、特許請求される本発明の範囲内で様々な改変がありうる。用語「a」または「an」は、それらが修飾するエレメントのうちの1つまたはそれらのエレメントのうちの2つ以上が記載されていることが文脈上明らかでない限り、それらのエレメントのうちの1つまたは複数のことを指し得る(例えば、「試薬(a reagent)」は、1つ以上の試薬を意味し得る)。用語「約」は、本明細書中で使用される場合、基礎をなすパラメータの10%以内(すなわち、プラスまたはマイナス10%)の値のことを指し、一連の値の始めにおける用語「約」の使用は、その各値を修飾する(すなわち、「約1、2および3」とは、約1、約2および約3のことを指す)。例えば、「約100グラム」という重量は、90グラム〜110グラムの重量を含み得る。さらに、値の列挙(例えば、約50%、60%、70%、80%、85%または86%)が本明細書中に記載される場合、その列挙は、そのすべての中間の値および小数値(例えば、54%、85.4%)を含む。したがって、本発明は、代表的な実施形態および任意の特徴によって具体的に開示されてきたが、本明細書中に開示される概念の改変およびバリエーションが、当業者によって用いられ得、そのような改変およびバリエーションは、本発明の範囲内であると考えられることが理解されるべきである。
【0241】
本発明のある特定の実施形態が、以下の請求項に示される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
胎児核酸を調製するための方法であって、該方法は:
a)妊婦からサンプルを得る工程;
b)胎児核酸と母体核酸対応物との間の異なるメチル化状態に従って、該妊婦のサンプル由来の該母体核酸から該胎児核酸を分離する工程であって、ここで、該胎児核酸は、配列番号1〜89のポリヌクレオチド配列の1つ以上からの1つ以上のCpG部位を含む、工程;および
c)パート(b)において分離された胎児核酸を鋳型として利用するプロセスによって、胎児核酸を含む核酸を調製する工程
を包含する、方法。
【請求項2】
前記胎児核酸が、メチル化ヌクレオチドに特異的に結合する作用物質によって前記母体核酸から分離される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
メチル化ヌクレオチドに結合する前記作用物質が、メチル−CpG結合タンパク質(MBD)またはそのフラグメントである、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
メチル化ヌクレオチドに結合する前記作用物質が、メチル化された胎児核酸に結合する、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
メチル化ヌクレオチドに結合する前記作用物質が、メチル化された母体核酸に結合する、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
前記胎児核酸が、非メチル化ヌクレオチドに特異的に結合する作用物質によって前記母体核酸から分離される、請求項2に記載の方法。
【請求項7】
前記胎児核酸が、メチル化されていない母体核酸を特異的に消化する作用物質によって前記母体核酸から分離される、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
メチル化されていない母体核酸を特異的に消化する前記作用物質が、メチル化(methyaltion)感受性制限酵素である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
2つ以上のメチル化感受性制限酵素が、同じ反応において使用される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記工程c)のプロセスが、増幅反応である、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記工程c)のプロセスが、胎児核酸の絶対量を測定するための方法である、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
配列番号1〜89のポリヌクレオチド配列のうちの3つ以上が、調製される、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
母体サンプル中の胎児核酸の絶対量を測定するための方法であって、ここで、該母体サンプルは、差次的にメチル化された母体核酸および胎児核酸を含み、該方法は:
a)1つ以上のメチル化感受性制限酵素を用いて母体サンプル中の該母体核酸を消化することにより、該胎児核酸を濃縮する工程;および
b)多型に基づかない定量方法および亜硫酸水素塩に基づかない定量方法を用いて工程a)からの胎児核酸の絶対量を測定する工程
を包含する、方法。
【請求項14】
胎児核酸の前記絶対量または濃度が、胎児の形質を判定する診断法とともに用いられ、ここで、該診断法は、ある特定の臨床的感度または臨床的特異性の必要条件を満たす所与の絶対量または濃度の胎児核酸を必要とする、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
母体サンプル中の胎児核酸の濃度を測定するための方法であって、ここで、該母体サンプルは、差次的にメチル化された母体核酸および胎児核酸を含み、該方法は:
a)該母体サンプル中に存在する核酸の総量を測定する工程;
b)メチル化感受性制限酵素を用いて母体サンプル中の該母体核酸を消化することにより、該胎児核酸を濃縮する工程;
c)多型に基づかない定量方法および亜硫酸水素塩に基づかない定量方法を用いて工程b)からの胎児核酸の量を測定する工程;および
d)工程c)からの胎児核酸の量を工程a)からの核酸の総量と比較することにより、該母体サンプル中の胎児核酸の濃度を測定する工程
を包含する、方法。
【請求項16】
胎児核酸の前記絶対量または濃度が、胎児の形質を判定する診断法とともに用いられ、ここで、該診断法は、ある特定の臨床的感度または臨床的特異性の必要条件を満たす所与の絶対量または濃度の胎児核酸を必要とする、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
母体サンプル由来の胎児核酸を用いて胎児の異数性の有無を判定するための方法であって、ここで、該母体サンプルは、差次的にメチル化された母体核酸および胎児核酸を含み、該方法は:
a)メチル化感受性制限酵素を用いて母体サンプル中の該母体核酸を消化することにより、該胎児核酸を濃縮する工程;
b)多型に基づかない定量方法および亜硫酸水素塩に基づかない定量方法を用いて標的染色体由来の胎児核酸の量を測定する工程;
c)多型に基づかない定量方法および亜硫酸水素塩に基づかない定量方法を用いて参照染色体由来の胎児核酸の量を測定する工程;
d)工程b)からの胎児核酸の量を工程c)からの胎児核酸の量と比較する工程であって、ここで、標的の胎児核酸の量と参照の胎児核酸の量との間の統計学的有意差は、胎児の異数性の存在を示す、工程
を包含する、方法。
【請求項18】
前記標的染色体および参照染色体の各々における3から15遺伝子座における胎児核酸の量が、測定される、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記メチル化感受性制限酵素の消化効率が、測定される、請求項13、15または17に記載の方法。
【請求項20】
前記定量を行うための、多型に基づかない方法および亜硫酸水素塩に基づかない方法は、胎児核酸の量を測定するために競合物質に基づく方法を用いる、請求項13、15または17に記載の方法。
【請求項21】
前記方法が、母体サンプル中に存在するY染色体核酸の有無を判定する工程をさらに包含する、請求項13、15または17に記載の方法。
【請求項22】
母体サンプル中に存在する前記Y染色体核酸の量が、男の胎児に対して測定される、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記胎児核酸の量が、前記Y染色体核酸の量と比較される、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、30、40、50またはそれ以上の遺伝子座における胎児核酸の量が測定される、請求項13または15に記載の方法。
【請求項25】
母体サンプル中に存在する核酸の総量が測定される、請求項13または17に記載の方法。
【請求項26】
前記核酸の総量および男の胎児に対するY染色体核酸の量が、測定される、請求項13、15または17に記載の方法。
【請求項27】
前記核酸の総量、男の胎児に対するY染色体核酸の量、および前記メチル化感受性制限酵素の消化効率のすべてが、測定される、請求項13、15または17に記載の方法。
【請求項28】
2つ以上のアッセイが、核酸の総量を測定するために用いられ、1つ以上のアッセイが、男の胎児に対するY染色体核酸の量を測定するために用いられ、そして1つ以上のアッセイが、前記メチル化感受性制限酵素の消化効率を測定するために用いられる、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
3またはそれ以上の遺伝子座における胎児核酸の量が測定される、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記胎児核酸の量が、消化された母体核酸の平均長より大きいアンプリコンを生成する増幅反応によって測定され、それにより、該胎児核酸がさらに濃縮される、請求項13、15または17に記載の方法。
【請求項1】
胎児核酸を調製するための方法であって、該方法は:
a)妊婦からサンプルを得る工程;
b)胎児核酸と母体核酸対応物との間の異なるメチル化状態に従って、該妊婦のサンプル由来の該母体核酸から該胎児核酸を分離する工程であって、ここで、該胎児核酸は、配列番号1〜89のポリヌクレオチド配列の1つ以上からの1つ以上のCpG部位を含む、工程;および
c)パート(b)において分離された胎児核酸を鋳型として利用するプロセスによって、胎児核酸を含む核酸を調製する工程
を包含する、方法。
【請求項2】
前記胎児核酸が、メチル化ヌクレオチドに特異的に結合する作用物質によって前記母体核酸から分離される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
メチル化ヌクレオチドに結合する前記作用物質が、メチル−CpG結合タンパク質(MBD)またはそのフラグメントである、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
メチル化ヌクレオチドに結合する前記作用物質が、メチル化された胎児核酸に結合する、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
メチル化ヌクレオチドに結合する前記作用物質が、メチル化された母体核酸に結合する、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
前記胎児核酸が、非メチル化ヌクレオチドに特異的に結合する作用物質によって前記母体核酸から分離される、請求項2に記載の方法。
【請求項7】
前記胎児核酸が、メチル化されていない母体核酸を特異的に消化する作用物質によって前記母体核酸から分離される、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
メチル化されていない母体核酸を特異的に消化する前記作用物質が、メチル化(methyaltion)感受性制限酵素である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
2つ以上のメチル化感受性制限酵素が、同じ反応において使用される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記工程c)のプロセスが、増幅反応である、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記工程c)のプロセスが、胎児核酸の絶対量を測定するための方法である、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
配列番号1〜89のポリヌクレオチド配列のうちの3つ以上が、調製される、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
母体サンプル中の胎児核酸の絶対量を測定するための方法であって、ここで、該母体サンプルは、差次的にメチル化された母体核酸および胎児核酸を含み、該方法は:
a)1つ以上のメチル化感受性制限酵素を用いて母体サンプル中の該母体核酸を消化することにより、該胎児核酸を濃縮する工程;および
b)多型に基づかない定量方法および亜硫酸水素塩に基づかない定量方法を用いて工程a)からの胎児核酸の絶対量を測定する工程
を包含する、方法。
【請求項14】
胎児核酸の前記絶対量または濃度が、胎児の形質を判定する診断法とともに用いられ、ここで、該診断法は、ある特定の臨床的感度または臨床的特異性の必要条件を満たす所与の絶対量または濃度の胎児核酸を必要とする、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
母体サンプル中の胎児核酸の濃度を測定するための方法であって、ここで、該母体サンプルは、差次的にメチル化された母体核酸および胎児核酸を含み、該方法は:
a)該母体サンプル中に存在する核酸の総量を測定する工程;
b)メチル化感受性制限酵素を用いて母体サンプル中の該母体核酸を消化することにより、該胎児核酸を濃縮する工程;
c)多型に基づかない定量方法および亜硫酸水素塩に基づかない定量方法を用いて工程b)からの胎児核酸の量を測定する工程;および
d)工程c)からの胎児核酸の量を工程a)からの核酸の総量と比較することにより、該母体サンプル中の胎児核酸の濃度を測定する工程
を包含する、方法。
【請求項16】
胎児核酸の前記絶対量または濃度が、胎児の形質を判定する診断法とともに用いられ、ここで、該診断法は、ある特定の臨床的感度または臨床的特異性の必要条件を満たす所与の絶対量または濃度の胎児核酸を必要とする、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
母体サンプル由来の胎児核酸を用いて胎児の異数性の有無を判定するための方法であって、ここで、該母体サンプルは、差次的にメチル化された母体核酸および胎児核酸を含み、該方法は:
a)メチル化感受性制限酵素を用いて母体サンプル中の該母体核酸を消化することにより、該胎児核酸を濃縮する工程;
b)多型に基づかない定量方法および亜硫酸水素塩に基づかない定量方法を用いて標的染色体由来の胎児核酸の量を測定する工程;
c)多型に基づかない定量方法および亜硫酸水素塩に基づかない定量方法を用いて参照染色体由来の胎児核酸の量を測定する工程;
d)工程b)からの胎児核酸の量を工程c)からの胎児核酸の量と比較する工程であって、ここで、標的の胎児核酸の量と参照の胎児核酸の量との間の統計学的有意差は、胎児の異数性の存在を示す、工程
を包含する、方法。
【請求項18】
前記標的染色体および参照染色体の各々における3から15遺伝子座における胎児核酸の量が、測定される、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記メチル化感受性制限酵素の消化効率が、測定される、請求項13、15または17に記載の方法。
【請求項20】
前記定量を行うための、多型に基づかない方法および亜硫酸水素塩に基づかない方法は、胎児核酸の量を測定するために競合物質に基づく方法を用いる、請求項13、15または17に記載の方法。
【請求項21】
前記方法が、母体サンプル中に存在するY染色体核酸の有無を判定する工程をさらに包含する、請求項13、15または17に記載の方法。
【請求項22】
母体サンプル中に存在する前記Y染色体核酸の量が、男の胎児に対して測定される、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記胎児核酸の量が、前記Y染色体核酸の量と比較される、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、30、40、50またはそれ以上の遺伝子座における胎児核酸の量が測定される、請求項13または15に記載の方法。
【請求項25】
母体サンプル中に存在する核酸の総量が測定される、請求項13または17に記載の方法。
【請求項26】
前記核酸の総量および男の胎児に対するY染色体核酸の量が、測定される、請求項13、15または17に記載の方法。
【請求項27】
前記核酸の総量、男の胎児に対するY染色体核酸の量、および前記メチル化感受性制限酵素の消化効率のすべてが、測定される、請求項13、15または17に記載の方法。
【請求項28】
2つ以上のアッセイが、核酸の総量を測定するために用いられ、1つ以上のアッセイが、男の胎児に対するY染色体核酸の量を測定するために用いられ、そして1つ以上のアッセイが、前記メチル化感受性制限酵素の消化効率を測定するために用いられる、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
3またはそれ以上の遺伝子座における胎児核酸の量が測定される、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記胎児核酸の量が、消化された母体核酸の平均長より大きいアンプリコンを生成する増幅反応によって測定され、それにより、該胎児核酸がさらに濃縮される、請求項13、15または17に記載の方法。
【図6】
【図7】
【図8】
【図9A】
【図9B】
【図9C】
【図9D】
【図9E】
【図9F】
【図9G】
【図9H】
【図9I】
【図9J】
【図9K】
【図9L】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13A】
【図13B】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図7】
【図8】
【図9A】
【図9B】
【図9C】
【図9D】
【図9E】
【図9F】
【図9G】
【図9H】
【図9I】
【図9J】
【図9K】
【図9L】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13A】
【図13B】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【公表番号】特表2012−502631(P2012−502631A)
【公表日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−527069(P2011−527069)
【出願日】平成21年9月16日(2009.9.16)
【国際出願番号】PCT/US2009/057215
【国際公開番号】WO2010/033639
【国際公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【出願人】(504159534)セクエノム, インコーポレイテッド (5)
【出願人】(511066908)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年9月16日(2009.9.16)
【国際出願番号】PCT/US2009/057215
【国際公開番号】WO2010/033639
【国際公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【出願人】(504159534)セクエノム, インコーポレイテッド (5)
【出願人】(511066908)
【Fターム(参考)】
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