非天然コラーゲン様タンパク質及びその応用
本発明は、配列が(Gly−X−Y)nである非天然コラーゲン様タンパク質を提供し、うちXとYはそれぞれCysを除く天然のアミノ酸残基であり、nは20〜300である。当該非天然コラーゲン様タンパク質は薬物タンパク質と融合することで、より高い親水性とより長い半減期を備える融合タンパク質を生成可能である。これより、本発明は、当該融合タンパク質、その核酸、発現ベクター、宿主細胞、生成方法及び製薬への応用についても提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はタンパク質分野に関し、更に具体的には、新型で且つ生物活性とより長い半減期を有する組換え融合タンパク質、及びその生成と応用に関する。
【背景技術】
【0002】
腎臓、肝臓及び分解など複数の要因の作用により、臨床応用されている大部分の生物活性ポリペプチド/タンパク質は体内で急速に消失することが多く、通常、半減期はわずか数分から数時間である。よって、治療においては、多量且つ頻繁な注射を施すことで有効な薬物濃度を維持する必要があるが、このことは患者にとって苦痛であるだけでなく、薬物の血漿中濃度が変動することで治療効果が低減し、中毒性副作用を増加させる。
【0003】
現在、これら生物活性ポリペプチド/タンパク質の体内での半減期を延長可能とする様々な方法が報告されている。例えば、水溶性高分子(例えば、ポリグリコール、グルコサン等)によって生物活性ポリペプチド/タンパク質を修飾する方法の応用に成功しており、PEG−ADAやPEG−IFNα等はその一例である。修飾により、体内での半減期延長、安定性と溶解度の向上、免疫原性の低減等が実現される。しかし、あいにくこうした修飾手法にも多くの課題がある。まず、タンパク質/ポリペプチドを化学修飾すると、通常これら生体高分子の活性は著しく低下し、完全に消失することもある(Veronese FM,Biomaterials,22:405−417,2001)。次に、高分子化合物はいずれもタンパク質/ポリペプチド表面のアミノ基、メルカプト基、イミダゾール基といった基と反応し、共有結合によってタンパク質/ポリペプチド分子と結合する。しかし、タンパク質/ポリペプチドの分子量は膨大で構造が複雑なため、潜在的に活性PEGと反応可能な基の数もまた膨大となる。PEGとの結合位置によって、生成物の安定性や生物活性等の性質は異なる。更には、化学合成された大部分の高重合体、例えばPEG等は生体で分解されることがない。例えば、長期的に大量のPEG−インターフェロン(PEG−IFNα2a)を注射した場合の腎臓への蓄積が発見されている(Conover CD et al.,Artificial Organs.,21:369−378,1997;Bendele.A et al.,Toxicol Sci.,42:152−157,1998)。薬物設計的には、こうした蓄積薬物がない方が安全なのは明らかである。一方で、PEG修飾されたタンパク質はPEG抗体(多機能ハプテンと定義される。)を生じ、薬物の半減期に影響することが発見されている(Caliceti P & Veronese FM,Adv Drug Deliv Rev.,55:1261−1277,2003)。
【0004】
以上のような技術的課題のために、化学修飾の手法によってタンパク質/ポリペプチドの体内における薬物代謝特性を改善する技術が提案されて久しいにも拘わらず、真に臨床応用可能な製品は極めて少ない。
【0005】
また、特定のキャリアタンパク質と融合することで生物活性ポリペプチド/タンパク質の体外安定性又は体内半減期を高める方法もある。例えば、米国特許第5876969号、同第576688号及び同第7176278号は、アルブミン、抗体Fc断片、トランスフェリン(トランスフェリンの突然変異体及びその断片)と融合することで、生物活性ポリペプチド/タンパク質の半減期が延長されると記載している。これらタンパク質と融合することで半減期が延長される主な理由としては、これらタンパク質がいずれもFcRn受容体媒介の循環作用によって、それ自体の体内安定性を高めて半減期を延長するからである。融合タンパク質キャリアとして理想的なタンパク質は、(1)それ自体が体内において比較的長い半減期を持つこと、(2)免疫原性を持たないこと、(3)半減期の延長とは無関係の生体効果を一切持たないこと、(4)治療用タンパク質の生物活性に影響しないこと、という特徴を備えなければならない。しかし、現在開示されている技術方案では、これら全ての条件を満たすことはできない。中でも最大の課題は免疫原性の増加であり、例えば、Fc断片は構造自体が非保存的で複数の配列を有するため、免疫原性が生じやすい。また、これらキャリアタンパク質は、通常いくらかの生物学的効果をもたらす。例えば、抗体Fc断片は、補体と結合し、Fc受容体との結合によるアレルギー反応、食作用の調節、抗体による細胞殺傷作用といった幅広い生理機能を有するし、HSAはそれ自体が多くの正常な体内生理機能を有し、多数の物質の輸送や代謝に関与する。こうした生物学的特性は、融合タンパク質キャリアとしては不利である。更に、これらキャリアタンパク質はそれ自体が複雑な空間構造を有しており、活性タンパク質と融合すると、立体障害効果によって活性タンパク質の生物活性を著しく低減させてしまう(Baggio LL et al.,Diabetes.,53:2492−2500,2004;Huang YS et al.,Eur J Pharm Biopharm.,67:301−308,2007)。
【0006】
総括すると、活性タンパク質の体内半減期を改善する従来の方案には、(1)生成物が均一でなく、複雑な手順が要求される、(2)修飾物が生体に分解されずに体内に蓄積される、(3)免疫原性が増加する、(4)タンパク質の生物活性が著しく低下し、完全に消失することもある、(5)不要な生物活性機能をもたらすおそれがある、といった弊害があった。化学修飾、タンパク質融合の別に拘わらず、活性タンパク質の体内外での半減期を改善する方案は、いずれも上記の弊害を完全には回避できていない。
【0007】
アルブミン、Fc断片等の天然キャリアタンパク質に存在する弊害を回避するために、キャリアタンパク質としてアミノ酸配列を人工的に構築する試みもなされており、例えば、GlyやGluを豊富に含有するアミノ酸重合体を構築し、これを融合キャリアとしてタンパク質の薬物半減期を延長する試みがある。David W.Leungらは、化学合成されたポリグルタミン酸を模倣し、人工的にポリグルタミン酸配列を合成して融合キャリアとし、タンパク質の薬物半減期を延長させている(US20080176288)。或いは、人工的にポリグリシン配列を合成して融合キャリアとする試み(Schlapschy M et al.,Protein Eng Des Sel.,20:273−284,2007)の他、完全な人工設計の試み、例えばGly、Asp、Glu、Ser等の親水性アミノ酸を選択して人工的にアミノ酸重合体を構築し、これを融合キャリアタンパク質として薬物半減期を延長させるという試みもなされている。しかし、こうした完全に再設計されたアミノ酸重合体を融合キャリアとした場合には実際の効果を予測し難く、多くの課題が存在する。例えば、(1)人工設計の配列は、理論上は多くの親水性アミノ酸を含有するが、タンパク質構造と機能との関係の複雑さから、従来技術では完全な人工設計配列について空間構造(例えば、二次構造や三次構造等)を予測し難く、よって潜在的な生物学的機能や免疫原性は未知である。(2)人工的に設計された反復配列は自然進化に伴って生成されたタンパク質配列とは異なり、特に反復配列における極めて高頻度の断片については組換え発現が難しく、実際の発現量は極めて低くなることが多いため、実用的ではない。発明者は、David W.Leungらが提示する方法(US20080176288)に基づき、ポリグルタミン酸を組換え発現して融合キャリアとしてタンパク質の薬物半減期延長を試みたが、実際には、当該方法が言うような配列は発現されなかった。
【0008】
よって、当該分野では、タンパク質/ポリペプチドの体内外における安定性を効果的で簡便に改善し、且つ他の副作用が全く或いはほとんどない技術方案を開発することが急がれている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、効果的且つ簡便にタンパク質/ポリペプチドの体内半減期を改善すると共に、従来技術よりも多くの利点を持つ方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、第1の観点として、タンパク質の体内半減期を延長するための組換えゼラチン様ユニットを提供するもので、当該組換えゼラチン様ユニットは(Gly−X−Y)n構造を持つポリペプチドであり、うち、Glyはグリシン残基であり、XとYはそれぞれ20種類の天然アミノ酸のうちCysを除く任意のアミノ酸残基であり、nは20〜300であり、且つ、前記組換えゼラチン様ユニットは、(a)当該組換えゼラチン様ユニットのうち、親水性アミノ酸Asn、Asp、Gln、Glu、Lys、Pro、Ser、Hyp、Argのアミノ酸含有量パーセンテージの総和が40%〜2/3(66.7%)であり、(b)前記組換えゼラチン様ユニットのうち、Pro数とHyp数の和とnの比が0.6以上であり、(c)Gly数の和とnの比が1.15以下(より好ましくは1.05以下)であり、付加条件として、前記組換えゼラチンユニットは天然のゼラチンタンパク質ではないことを特徴とする。
【0011】
また、別の好ましい実施例として、前記組換えゼラチン様ユニットは、(d)等電点が3〜7(好ましくは3.2〜6であり、より好ましくは3.2〜5.5)であり、(e)コラスカー及びトンガオンカー法で算出した平均抗原指数が0.98以下であり、(f)ProtParam式で計算した場合、親水性を表すGRAVY値が−1.1に満たない(好ましくは−1.4より小さく、より好ましくは−1.5より小さい)。
【0012】
また、別の好ましい実施例として、前記組換えゼラチン様ユニットの配列はゼラチン由来又はゼラチンからの派生である。例えば、X,Y位置を置換し、天然ゼラチンの一部又は全部の疎水性アミノ酸Ile、Leu、Met、Phe、Val等を親水性アミノ酸に突然変異させる。好ましくは、Ala、Asn、Gln、Glu、Lys、Pro、Ser、Hyp、Argのいずれか1つ及び/又は複数に突然変異させ、GRAVY値を−1.4より小さくする。
【0013】
また、別の好ましい実施例として、前記組換えゼラチン様ユニットの分子量は10〜100kDaである。
【0014】
本発明は、第2の観点として、第1の観点の前記組換えゼラチン様ユニットをコードするポリヌクレオチドを提供する。
【0015】
本発明は、第3の観点として組換え融合タンパク質を提供し、当該組換え融合タンパク質は、生物活性ポリペプチド、及び第1の観点のゼラチン様ユニットを融合してなる。
【0016】
また、別の好ましい実施例として、前記組換えゼラチン様ユニットを含有しない生物活性ポリペプチドに比べ、前記組換え融合タンパク質の体内半減期は少なくとも2倍である。より好ましくは、半減期を少なくとも2倍、3倍、4倍、5倍、6倍又は10倍延長する。
【0017】
また、別の好ましい実施例として、前記組換え融合タンパク質の見かけ分子量(分子篩測定法)と理論分子量の比は1.25以上であり、より好ましくは1.5以上、最適には2以上である。
【0018】
また、別の好ましい実施例として、生物活性ポリペプチドの分子量は0.5〜70Kdaであり、より好ましくは1〜66Kdaである。
【0019】
また、別の好ましい実施例として、前記組換えゼラチンユニットは前記組換え融合タンパク質のアミノ末端、カルボキシル末端、両端、又は中間に位置することを特徴とする。
【0020】
また、別の好ましい実施例として、前記組換え融合タンパク質は単量体又は重合体である。
【0021】
また、別の好ましい実施例として、前記組換え融合タンパク質は、{GLK}p−R−{GLK}q(化学式I)が示す単量体又はその重合体であり、うち、GLKは本発明の第1の観点で述べた組換えゼラチンユニットを表し、pとqは各々が0又は1であり、且つpとqは同時に0とはならず、Rは前記組換えゼラチンユニットを含有しない、生物学的機能を持つタンパク質であり、且つ前記Rはゼラチンタンパク質ではなく、“−”はペプチド結合を表す。
【0022】
また、別の好ましい実施例として、前記組換え融合タンパク質内のすべての(Gly−X−Y)n領域に含まれるnの総和は20より大きく300より小さい。
【0023】
また、別の好ましい実施例として、前記組換え融合タンパク質の分子量は20〜500Kdaである。
【0024】
また、別の好ましい実施例として、前記組換え融合タンパク質は重合体であり、且つ化学式Iにおける各RとGLKは同じであっても異なっていてもよい。
【0025】
本発明は、第4の観点としてポリヌクレオチドを提供し、当該ポリヌクレオチドは、第3の観点で述べた組換え融合タンパク質をコードする。
【0026】
本発明は、第5の観点として、第4の観点で述べたポリヌクレオチドの配列を含む発現ベクターを提供する。
【0027】
本発明は、第6の観点として組換え宿主細胞を提供し、当該組換え宿主細胞は第5の観点で述べた発現ベクターを含むか、或いは染色体に第4の観点で述べたポリヌクレオチドを保有する。
【0028】
本発明は第7の観点として、(1)第6の観点に記載の組換え宿主細胞を培養して、前記組換え融合タンパク質を発現するステップと、(2)前記組換え融合タンパク質を分離するステップを含む前記組換え融合タンパク質を生成する方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】図1は、組換えゼラチン様融合タンパク質の代表的な基本構造を示す。
【図2】図2は、発現プラスミドpPIC−GLK1164の構築フローである。
【図3】図3は、発現プラスミドpPIC−GLK1164/G−CSFの構築フローである。
【図4】図4は、rGLK1164/G−CSF精製過程におけるSDS−PAGE電気泳動(8%)分析の結果、精製による最終製品が一本鎖で、見かけの分子量が66KD〜97KDであったことを示す。左より、レーン1:低分子量タンパク質マーカー、レーン2:発酵液の上澄み、レーン3:SPカラム溶出ピーク、レーン4:Qカラム溶出ピークである。
【図5】図5は、精製したrGLK1164/G−CSFのSEC−HPLC分析を示す。SEC−HPLCにはTSK Gel G3000 Swxlカラムを用い、緩衝液を50mM PB、0.25M NaCl、pH7.0とし、検出波長を214nm、流速を0.8ml/minとした。
【図6】図6は、精製したrGLK1164/G−CSFの逆相高速液体クロマトグラフィー(RP−HPLC)分析を示す。RP−HPLCにはVYDAC proteinのC4 TP5415カラムを用い、移動相Aを0.1%TFA含有水溶液、移動相Bを0.1%TFA含有アセニトリル水溶液(アセニトリル:水溶液=9:1)とし、検出波長を214nm、流速を0.8ml/minとした。
【図7】図7は、rGLK1164/G−CSFの免疫ブロット分析結果を示す。一次抗体としては、抗マウスG−CSFポリクロナル抗体を用いた。
【図8】図8は、rhG−CSF依存性株NSF60を用いて測定した融合タンパク質rGLK1164/G−CSFの体外における生物活性を示す。
【図9】図9は、SEC−HPLCでrhG−CSFとrGLK1164/G−CSFの体外安定性を分析した研究結果を示す。
【図10】図10は、rGLK1164とrGLK1164/G−CSFをマウスに連続注射後の血清抗体の測定結果である。AはG−CSFコーティング、BはrGLK1164コーティングを示す。
【図11】図11は、rGLK1164/G−CSF融合タンパク質、rhG−CSF、rHSA/G−CSF及びrGLK1164の分量を変えた場合の正常な成年SDラット体内における薬効研究結果を示す。
【図12】図12は、rGLK1164/G−CSF融合タンパク質、rhG−CSF及びrHSA/G−CSFの分量を変えた場合の正常な成年SDラット体内における薬物動態の研究結果を示す。
【図13】図13は、発現プラスミドpPIC−GLK1164/IFNαの構築フローである。
【図14】図14は、rGLK1164/IFNα精製過程におけるSDS−PAGE電気泳動(8%)分析の結果、精製による最終製品が一本鎖で、見かけ分子量が約85KDであったことを示す。左より、レーン1:低分子量タンパク質マーカー、レーン2:発酵液の上澄み、レーン3:Qカラム溶出ピークである。
【図15】図15は、rGLK1164/IFNαのアカゲザル体内における薬物動態の研究結果を示す。
【図16】図16は、発現プラスミドpPIC−Exendin−4/GLK1046及びpPIC−Exendin−4/GLK1076の構築フローである。Exendin−4はエクセナチドである。
【図17】図17は、rExendin−4/GLK1046精製過程におけるSDS−PAGE電気泳動(10%)分析の結果、見かけ分子量が66KD〜97KDであったことを示す。左より、レーン1:低分子量タンパク質マーカー、レーン2:発酵液の上澄み、レーン3:SPカラム溶出ピーク、レーン4:Qカラム溶出ピークである。
【図18】図18は、GLP−1Rを安定導入されたBHK細胞を用いて、融合タンパク質rExendin−4/GLK1046及びrExendin−4/GLK1076の体外における生物活性を測定した図である。
【図19】図19は、rExendin−4/GLK1046とrExendin−4/GLK1076の正常な成年アカゲザル体内における薬物動態の研究結果を示す。
【図20】図20は、発現プラスミドpCEP4−EPO/GLK1074の構築フローである。
【図21】図21は、融合タンパク質rEPO/GLK1074とrhEPOの分量を変えた場合の、正常なBALB/cマウス体内における薬効の研究結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本願発明者は、広範且つ詳細な研究と大量のスクリーニングの結果、組換えゼラチン様タンパク質(gelatinlike protein,GLK)とその突然変異体が、融合タンパク質の融合キャリアとして非常に適していることを初めて発見した。本発明者が、ゼラチン様ユニットを融合キャリアとして活性タンパク質に融合させたところ、生物活性ポリペプチド/タンパク質の有機体内における半減期が大幅に延長された。これに基づき、本発明はなされた。
【0031】
具体的には、試験の結果、生物活性を有するタンパク質にゼラチン様ユニットを融合発現して得られた組換えゼラチン様融合タンパク質が、生物活性タンパク質の体外における安定性を大きく改善することが分かった。また、より重要な点として、融合タンパク質の体内消失速度を大幅に降下させ、活性タンパク質の体内における薬物代謝分布を変化させることで、活性タンパク質の体内半減期を延長可能なことが明らかとなった。
【0032】
本発明におけるタンパク質、ヌクレオチド配列及び各方法について述べる前に、本発明はこれら特定の方法、操作規定、細胞株、キャリア及び試薬に限定されるものではないと解釈される。なぜなら、これらは変動し得るからである。また、本願で用いる用語は特定の実施例を述べるためのものにすぎず、本発明の範囲を限定する意図はない。また、特に限定しない限り、本願における全ての技術及び使用される科学用語は、当業者の一般的理解と等しいものとする。本発明の記載は、好ましい方法、機器及び材料にすぎず、本発明の記載に類似又は相当する他の方法及び材料も、本発明の実践或いは測定に適用可能である。
【0033】
ゼラチン様ユニット
本願で使用される「ゼラチン様ユニット」「ゼラチン様タンパク質」又は「GLK(gelatin−likeprotein)」の用語は、互いに言い換え可能である。
【0034】
天然ゼラチンは、コラーゲン由来のタンパク質の一種であり、コラーゲンの変性によって得られる生成物である。基本構造としてGly−X−Yの繰り返しを複数有し、構造式を(Gly−X−Y)nとする。うち、XとYはプロリンとヒドロキシプロリン残基であることが多く、且つプロリンとヒドロキシプロリン残基の含有量の割合はその構造と融点に影響する。X,Y位置のアミノ酸組成の違いは、コラーゲンの親水性、等電点、二次構造、免疫原性等の特性に影響し得る。
【0035】
ゼラチンは、動物の骨や毛皮を処理することによって抽出される。しかし、動物由来のゼラチンには侵襲性ウィルス(invasive virus)が残存してしまうことが多い。また、動物由来のゼラチンを人に適用する場合、生体適合性も問題となる。
【0036】
分子生物学技術の発展は、遺伝子組換技術によって、ヒト由来ゼラチンに基づいた、生理特性が安定し且つ均質性の高い組換えゼラチンの獲得を可能とした。現在、ヒト由来の組換えコラーゲン又はゼラチンの微生物、動物細胞或いは植物内における発現について、多くの報告がある(米国特許US5593859、US6,428978、US6617431,Werten MW et al.,Yeast,15:1087−1096,1999)。コラーゲン遺伝子における使用断片の違いによって、生物化学特性の異なる組換えゼラチンを獲得可能であり、多くの研究結果によれば、メタノール資化酵母(Pichia pastoris)発現系は、由来の異なる独自の生物化学特性を備えた組換えゼラチン又はゼラチン類の生成に利用可能である(Olsen D et al.,Adv Drug Deliv Rev.,55:1547−1567,2003)。組換えゼラチンは、コラーゲンを加水分解して得られる天然ゼラチンと同様にタンパク質を安定させる作用を持ち、ワクチンの安定剤として用いられている(US2006/0204511A1)。
【0037】
本発明において、ゼラチン様ユニットとは、配列が天然ゼラチン由来又は天然ゼラチンから誘導され、且つ組換えにより発現されたポリペプチド断片であると共に、天然ゼラチンの構造的特徴(Gly−X−Y)nを備えた突然変異によるゼラチン様配列を含むものである。
【0038】
本発明では、ゼラチン様ユニットの長さ又は分子量は特に制限されない。長さについては、各ゼラチンユニットは通常60〜1500のアミノ酸残基を含み、好ましくは200〜1000のアミノ酸残基を含む。分子量については、各ゼラチンユニットは通常6〜150KDaであり、より好ましくは20〜80KDaである。
【0039】
組換えゼラチン様融合タンパク質
本発明は、新型の組換えゼラチン様融合タンパク質に関し、当該組換えゼラチン様融合タンパク質は、1つ/複数の天然由来或いは人工で且つ生物学的機能を有したタンパク質及びゼラチン様ユニットから構成され、診断/治療/ターゲッティング(targeting)機能を備える。組換えゼラチン様融合タンパク質の基本構造は、{GLK}p−R−{GLK}q構造を有する単量体(monomer)又は重合体(polymer)である。うち、GLKはゼラチン様ユニットを表し、pとqは0又は1であり、且つpとqは同時に0とはならず、Rは前記ゼラチンユニットを含有しない、生物学的機能を持つタンパク質であり、且つ前記Pはゼラチンタンパク質ではない。組換えゼラチン様融合タンパク質は、重合体の場合には、{GLK1}p−R1−{GLK2}q−{GLK3}p−R2、{GLK1}p−R1−{GLK2}q−{GLK3}p−R2−{GLK4}q、{GLK1}p−R1−{GLK2}q−{GLK3}p−R2−{GLK4}q−{GLK5}p−R1−{GLK6}q等の構造となり、うち、R1〜4は同じでも異なっていてもよく、GLK1〜GLK6は同じでも異なっていてもよいが、少なくとも1のGLK構造と1の生物活性機能を有するタンパク質/ポリペプチドユニット(例えばR1又はR2)を含有する。図1は、代表的な組換えゼラチン様融合タンパク質の構造を表す。
【0040】
本発明は、1又は複数の生物活性タンパク質及びその断片を、一定分子量を有する1又は複数のセグメントのゼラチン様タンパク質GLK(gelatin−like protein)と融合発現することで実現される。融合発現用のGLKは免疫原性を持たず、生理的条件下において極めて良好な水溶性を備える。本発明で生成する組換えゼラチン様融合タンパク質は、より良好な体外安定性と体内半減期を実現するだけでなく、従来のタンパク質修飾又は融合技術に比べて構造が均一であり、予想外に高い生物活性を備える。更に、融合キャリアとしてのGLK部分は生体適合性があり、免疫原性を持たず、生分解可能で体内に蓄積されない等の利点がある。
【0041】
ここで、「組換えゼラチン様融合タンパク質」とは、基本構造{GLK}p−R−{GLK}qを有する融合タンパク質であり、タンパク質/ポリペプチドRと(Gly−X−Y)nはペプチド結合によって直接連結されている。更に、RとGLKはスペーサーによって連結されてもよい。「スペーサー」の用語は1又は複数の分子を示し、例えばアミノ酸、核酸又は化学分子、例えばポリエチレングリコール(PEG)であって、即ち1又は複数の成分ドメインを挿入可能である。スペーサーは、操作の便宜上、必要成分間の標的位置の提供や、活性タンパク質の空間構造の維持、或いは活性タンパク質と標的分子(Target Molecule)の相互作用に用いられる。本発明のスペーサーとしては、短リンカーペプチド、例えばGlyやSerを豊富に含有する短リンカーペプチドや、nが1〜10の間である(GlyGlyGlyGlySer)nが最適である。また、リンカーペプチドとして、現在汎用されている他のリンカーペプチド、例えばDaming Shanが提示するペプチド断片(Shan D et al.,JI mmunol.,162:6589-6595,1999)を用いてもよい。なお、GLK自体を1つのセグメントのリンカーペプチドとして使用してもよいことは言うまでもない。また、タンパク質/ポリペプチド部分は繰り返し現れてもよく、これによりスペーサーの作用を果たして、例えばR1−R1−GLK、R1−R1−GLK−R2、GLK−R1−R1、R1−GLK−R2−R2、R1−R1−GLK−R2−R2等の構造が形成されることは容易に理解される。図1に示されるのは組換えゼラチン様融合タンパク質の代表的な構造にすぎず、本発明の精神に基づけば、図1の構造のみに限定されない。
【0042】
組換えゼラチン様融合タンパク質に含有されるGLKは、ゼラチン構造の特徴(Gly−X−Y)nを有する高度反復のタンパク質配列であって、その配列は全部或いは一部が天然ゼラチン由来であっても、天然ゼラチンの一部配列断片の単純反復であっても、最適化されたGly−X−Y特徴を持つ人工配列であってもよい。ゼラチン配列は種が異なっても相同性の差が小さいため、GLKの配列は、David Olsen(Olsen D et al.,Adv Drug Deliv Rev.,55:1547−1567,2003)が提示するα1(I)コラーゲン配列の領域のように、非ヒト由来のゼラチン配列であってもヒト由来ゼラチン配列であってもよい。GLK配列は、完全に天然の配列と同じであってもよいし、天然配列を一部選択して単純反復させることで本発明に必要な大きさを得てもよい。選択可能なGLK配列源は極めて広範囲に渡り、天然由来の配列か人工合成で、特徴として(Gly−X−Y)nを有するゼラチン様配列かは問わず、例えばUS5801045、US6150081、US6428978、WO01/34646A2等に記載のゼラチン領域を選択してもよい。免疫原性さえなければ、40℃未満の水に溶解可能な配列はいずれも組換えゼラチン様融合タンパク質の生成に使用可能である。
【0043】
更に、本発明の効果をより良好に得るために、発明者らは以下の原則に基づき、天然ゼラチンにおけるGly−X−Y反復ユニットを元に新たな組み換えゼラチン様配列を設計した。
(1)天然ゼラチン配列のうち出現頻度の高いGly−X−Y反復ユニット、例えばGly−Pro−Hyp、Gly−Pro−Ala、Gly−Ala−Hyp、Gly−Glu−Lys、Gly−Pro−Lys、Gly−Glu−Hyp、Gly−Ser−Hyp、Gly−Gln−Hyp、Gly−Glu−Arg及びGly−Pro−Arg等をできるだけ選択し、新たに組み合わせた。
(2)親水性アミノ酸を豊富に含むGly−X−Y反復ユニットをできるだけ選択し、新たに組み合わせた。好ましくは、X、Yは親水性アミノ酸であり、より好ましくはAla、Asn、Gln、Glu、Lys、Pro、Ser、Hyp、Argのいずれか1つ及び/又は複数とした。
(3)新たに設計したGLK配列には、免疫原性を持つ既知の配列はできるだけ含まないようにした。従来開示されている技術文書は、免疫原性を持つ位置をすでに明らかにしており、例えばH.Horiらは、Ile−Pro−Gly−Glu−Phe−Gly−Leu−Pro−Gly−Proを報告している(Hori H et al.,J.Allergy Clin Immunol.,110:652−657,2002)。
(4)新たに設計されたGLK配列には、既知のプロテアーゼ作用点、例えばシグナルペプチダーゼKEX−2の位置など既知のプロテアーゼ作用点をできるだけ含まないようにした。
(5)新たに設計された組換えゼラチン様配列は、コラスカー及びトンガオンカー(Kolaskar−Tongaonkar)法で算出した平均抗原指数(Average antigenic propensity)が0.98以下であった。
【0044】
構造組み換え後の人工配列は親水性アミノ酸を豊富に含み、代表的な配列はSEQ ID NO.2,19,21等を含むが、これに限定されるわけではない。
【0045】
組換えゼラチン様融合タンパク質{GLK}p−R−{GLK}qのうち、GLKの基本構造であるGly−X−Y反復ユニットの数(n)、即ちGLKの分子量範囲は可変である。本発明の目的を達成するためには、まず、組換えゼラチン様融合タンパク質が腎臓でのろ過により除去されないよう適切な分子量を有する必要がある。組換えゼラチン様融合タンパク質の分子量は、タンパク質/ポリペプチド部分R及びGLKの双方によって決定されるが、特定の活性組換えゼラチン様融合タンパク質については、活性タンパク質Rの分子量が確定しており、更に数も確定している場合は、組換えゼラチン様融合タンパク質の分子量はGLKの大きさ及び数により決定される。タンパク質/ポリペプチドR部分の分子量が少ない場合(例えば、20KD未満の場合)、組換えゼラチン様融合タンパク質が腎臓糸球体(glomerulus)にろ過されるのを防ぐために、GLKの分子量は少なくとも15〜70KDとすべきである。但し、分子量が多いほど組換えゼラチン様融合タンパク質の有機体内における半減期延長が有利になるとは限らず、逆に組換発現に不利となる上、プロテアーゼにより分解されやすくなり、予想外に免疫原性の制御も困難となる。よって、適切なGLK分子量は6〜150KDであり、より好ましくは20〜80KDである。R部分が元々大きい場合、或いは二量体又は重合体を形成可能な場合には、GLK分子量の範囲は更に拡大してもよく、1kDa〜150KDaの範囲内、例えば約1000〜2000Da、約2〜20kDa、約20〜50kDa、約50〜100kDa、約100〜150kDa、約150〜200kDaとしてもよい。
【0046】
組換えゼラチン様融合タンパク質の分子量は特に限定されず、通常は20〜500KDa、好ましくは25〜300KDaである。
【0047】
生物活性タンパク質/ポリペプチド
「生物活性タンパク質/ポリペプチド」とは、タンパク質、抗体、ポリペプチド及びその断片と変異体をいい、1又は複数の薬理活性及び/又は生物活性、或いは標的ガイダンス(targeting guidance)、重合等の機能を備える。これらは自然界に存在するものであっても、人工的に構築したものでもよい。「生物活性タンパク質/ポリペプチド」は、酵素、酵素抑制剤、抗原、抗体、ホルモン、血液凝固因子、インターフェロン、サイトカイン、成長因子、分化因子、骨組織の成長関連因子、骨質因子の吸収関連因子、化学走化性因子(chemotactic factors)、細胞運動因子(cell motility factors)、移動因子(migration factors)、細胞静止因子(cytostatic factors)、殺菌因子、抗真菌因子、血漿接着分子、細胞間質接着分子、細胞外基質、及び受容体リガンドとその断片等を含む。
【0048】
本発明における生物活性タンパク質/ポリペプチド、特に「治療活性」を奏するタンパク質/ポリペプチド、又は「治療上活性を有する」タンパク質/ポリペプチドといったタンパク質/ポリペプチドは、1以上の既知の生物活性及び/又は治療活性を有する。これら活性は、1以上の本願に記載又はその他の既知の治療用タンパク質に関連する。限定を意図しない例として、「治療用タンパク質」は疾病や状況又は機能の乱れの治療、予防又は改善に有用なタンパク質である。また、限定を意図しない例として、「治療用タンパク質」とは、特定タイプの細胞(正常(例えばリンパ細胞)或いは異常(例えば癌細胞))と特異的に結合し、化合物(薬物或いは細胞傷害性薬剤)を当該タイプの細胞に対し特異的に位置付けるためのタンパク質である。
【0049】
また、限定を意図しない別の例として、「治療用タンパク質」は生物活性を有するタンパク質であって、特に疾病の治療、予防及び改善に有用な生物活性タンパク質を指す。限定を意図しない例としての治療用タンパク質は、例えば、血管新生の増進、血管新生の抑制、造血機能の調整、神経発育の促進、免疫反応の向上、免疫反応の抑制といった生物活性を有するタンパク質を含む。
【0050】
上述したように、「治療活性」又は「活性」とは、ヒト、非ヒト哺乳動物又は他の生体において理想的な治療結果と一致するような効果を得られる活性といえる。治療活性は、体内又は体外で測定可能である。
【0051】
本発明において、組換えゼラチン様融合タンパク質の治療性タンパク質部分に対応する治療性タンパク質は、VEGF受容体、TNF受容体、HER−2/神経膜受容体、ヒトErbB3受容体分泌形態異性体、トランスフォーミング成長因子bIII型受容体細胞外ドメイン、トランスフォーミング成長因子bII型受容体細胞外ドメイン、IL−1受容体、IL−4受容体、ウロキナーゼ、β−グルコセレブロシダーゼ、アルギニンデイミナーゼ、アルギナーゼ(arginase)、ハースタチン(herstatin)、上皮成長因子、FGF−1、線維芽細胞成長因子−2、普通繊維細胞成長因子、神経成長因子、血小板由来成長因子、VEGF−1、IL−1、IL−2、IL−3、IL−4、IL−6、IL−8、IL−10、IL−11、IL−12、IL−18、IL−21、IL−24、IL−1RA、RANKL、RANK、OPG、LEPTIN、インターフェロンα、インターフェロンβ、インターフェロンγ、インターフェロンΩ、TGF−β、TGF−β−1、TGF−β−3、TNFα、心房性ナトリウム利尿ペプチド、B型ナトリウム利尿ペプチド、性腺刺激ホルモン、ヒト黄体化ホルモン(human luteinizing hormone)、卵胞刺激ホルモン(follicle−stimulating hormone)、ヒト成長ホルモン、EPO、G−CSF、GM−CSF、TPO、M−CSF、SCF、VEGF、EPOミミックペプチド、TPOミミックペプチド、FLT3リガンド、Apo2リガンド、骨細胞阻害因子、及びBMP−2、BMP−7、GLP−1とその類似物、Exendin−3、Exendin−4、インシュリン及びその類似物、GIP、グルカゴン、エンドスタチン、プラスミノゲンクリングル1ドメイン、プラスミノゲンクリングル5ドメイン、アンギオスタチン等を含むが、これらに限定はされない。治療性タンパク質は、単鎖抗体scFv等の抗体及びその断片であってもよい。これらタンパク質及びこれらタンパク質をコードする核酸配列はいずれも周知であり、CAS(Chemical Abstracts Services)データベース(例えばCASレジストリ)、ジェンバンク(GenBank)、GenSeqといった公共のデータベースから検索可能である。当業者にとって、本発明の精神に基づき、従来発見されているほとんどの生物活性タンパク質を本発明に適用可能であることは容易に理解される。なお、本発明以降に新たに発見される生物活性を備えたタンパク質/ポリペプチドについても、同様に本発明に適用可能であると解釈すべきことは言うまでもない。
【0052】
本発明における組換えゼラチン様融合タンパク質の生物活性タンパク質は、非グリコシル化及びグリコシル化のいずれであってもよく、例えば一部のサイトカイン、細胞表面タンパク質及び分泌性タンパク質は、1又は複数のオリゴ糖基と結合されて修飾されることが多い。グリコシル化には、一般的に主なタイプとして、結合位置がセリン又はスレオニン残基である0−結合型オリゴ糖グリコシル化と、結合位置がAsn−X−Ser/Thr配列のアスパラギン酸残基であるN−結合型オリゴ糖グリコシル化の二種類があり、うちXはプロリン以外であればどのアミノ酸であってもよい。
【0053】
グリコシル化異性体は、グリコシル化部位を除去又は導入することによって得られる。例えば、アスパラギン酸をグルタミン酸に置き換えるように、アミノ酸残基を置換又は除去したり、或いは、グリコシル化タンパク質を発生させない宿主細胞、例えば大腸菌又はグリコシル化欠損酵母において、非グリコシル化組換えタンパク質を発現させたりする。
【0054】
作用メカニズム
ポリペプチド/タンパク質が体内において急速に除去されるメカニズムは多岐に渡り、腎臓糸球体のろ過、受容体依存性エンドサイトーシス、プロテアーゼの作用、リンパ系による除去、肝臓による除去等複数のメカニズムを含む。活性タンパク質がIgGのFc断片又はアルブミンと融合した後に比較的長い半減期を維持できるのは、体内に特殊なFcRn介在性の循環作用が護られているからである。
【0055】
ゼラチン配列と活性タンパク質を融合発現した後に活性タンパク質の半減期が延長される確かなメカニズムについては、まだ明らかとなっていない。現在のところ、類似の受容体が機能することは発見されていない。また、GLK配列自体は、FcRnと結合しない。本発明の発明者らは、ヒト血清をエライサ(ELISA)プレートにコーティングし、融合タンパク質GLK/G−CSFを加えて(なお、G−CSFを陰性対照とした)、保温・培養(incubation)・洗浄の後にビオチン標識G−CSF(Abcam plc.)抗体を結合させ、HRP発色によってGLK融合タンパク質が血清中のどの成分とも結合しないことを証明した。これにより、「GLK融合タンパク質が血清中の何らかの成分と結合し合う」という可能性が排除された。なお、単純に融合後の分子量が増加したことで半減期が延長されたのでないことは確かである。従来研究では、単純に融合タンパク質の分子量を増加させても、体内での半減期を延長できるとは限らないことが発見されている。例えば、Carlos A.(Buscaglia CA et al.,Blood.,93:2025−2032,1999)の研究では、分子量の多いTSacタンパク質(76KD)の体内半減期(約数時間)は、これより分子量の少ないGST−Ag36(60KD)(約30時間)よりも遥かに短いことが発見されている。実施例7のデータも、同様の活性ポリペプチドが、配列は異なるが分子量は近いゼラチン様ユニットを融合キャリアとして用いた場合に、最終的に得られた融合タンパク質の半減期が異なったことを示している。
【0056】
なお、本発明が保護する範囲は作用メカニズムの制限を受けないと解釈されるべきである。発明者らが以下のようなメカニズムを提示したのは、本発明について一層の理解を促すためである。融合された組換えゼラチン様融合タンパク質が活性タンパク質の体内外における安定性及び半減期を増進可能な理由としては、以下が考えられる。
(1)GLKのGly−X−Y構造におけるY位置のPro(Hyp)が大量に存在することで、生理的環境下で緩やかな構造が維持されるようになり、結果として、活性タンパク質が体内のプロテアーゼに分解されないよう保護する障壁が形成された。
(2)GLK構造は親水性アミノ酸を豊富に含むため、水和分子半径が大きくなり、腎臓でのろ過・排出が防止された。理論分子量約55KDの融合タンパク質rGLK1164/G−CSFを分子篩で分析すると、見かけ分子量は約154KD(見かけ分子量:理論分子量=2.8)であった。
(3)融合タンパク質におけるGLKに特有の帯電性によって、組換えゼラチン様融合タンパク質は体内に更に長時間留まることになった。本発明のGLKはやや低い等電点を有し、通常の生理的条件下では負の電荷を持つ。血漿タンパク質の多くは負の電荷を持つと共に輸送機能を備えているため、負の電荷を持つ組換えゼラチン様融合タンパク質はこれら血漿タンパク質と結合し合う可能性が低くなり、血漿中により長時間留まることが可能となった。
(4)血管壁の内皮細胞表面を覆う多糖類−タンパク質複合物(グリコカリックス)の存在により、組換えゼラチン様融合タンパク質の除去率が低下した。血管壁の多糖類−タンパク質は、血管内と周辺基質間との物質輸送を制御する(Simionescu M,Simionescu N,Annu.Rev.Physiol.,48:279−293,1986)。多糖類−タンパク質複合物は、通常の生理状態下では負の電荷を有するのに対し、組換えゼラチン様融合タンパク質もまた負の電荷を有する。このため、同電荷間の排斥によって、組換えゼラチン様融合タンパク質とグリコカリックスの相互作用が減少し、結果として組換えゼラチン様融合タンパク質の血管から組織への浸透が減少した。
【0057】
組換えゼラチン様融合タンパク質の生成
本発明の融合タンパク質は、固相法でペプチドを直接合成することによって生成してもよいし、本発明におけるタンパク質の各断片をそれぞれ化学合成してから、化学的手法で結合することで分子の全長を生成してもよい。好ましくは、本発明の融合タンパク質は組換え法で生成される。
【0058】
組換え法によるゼラチン融合タンパク質の生成は、原核宿主、真核宿主、植物又は動物において、組換え目的ゼラチン融合タンパク質をコーディングするヌクレオチドを発現し、及び組換えゼラチン様融合タンパク質を獲得する過程を含む。原核、真核、トランスジェニック動植物系を含む全ての組換えタンパク質発現系は、本発明に適用可能である。例えば、米国特許US6548653に記載される融合タンパク質を発現するための方法は、全て本願発明に適用される。
【0059】
より詳細には、組換え法によって目的の組換えゼラチン様融合タンパク質を得るには、まずコーディングに要する組換えゼラチン様融合タンパク質のヌクレオチドを取得する必要がある。うち、コーディング用の目的のヌクレオチド配列は複数の一般的な方法を用いて生成すればよい。また、上記配列から誘導又は変異した配列を得るためには、例えば遺伝子工学技術を用いてヌクレオチド配列を修飾し又は変化させればよい。
【0060】
より好ましくは、本発明の過程において、ヌクレオチド配列は転写開始領域(プロモーター配列)の発現カセット(Expression Cassette)の一部を含み、宿主細胞においてこの転写開始領域がヌクレオチド配列の発現を制御すると共に、本発明のポリペプチドをコードする。当該領域は、使用される宿主細菌のうち高度に発現される構造遺伝子又は調節遺伝子のプロモーター領域であってもよい。例えば酵母においては、アルコールオキシダーゼ(AOX)、ホスホグリセリン酸キナーゼ(PGK)及び類似の遺伝子のプロモーターであってもよい。発現カセットは、使用される宿主細菌のうち機能を有する転写終了領域を含んでもよく、本発明のポリペプチドをコードするヌクレオチド配列の下流に緊密に結合されてもよい。
【0061】
より好ましくは、本発明のポリペプチドをコードするヌクレオチド配列の前にシグナルペプチド配列を持ち、新たに生成されるポリペプチドをその宿主における分泌ルートに導く。
【0062】
発現カセットの他、1又は複数の組換え宿主細菌をスクリーニングする標識(Tag)、例えば出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae)のURA3遺伝子、ピキア(pichia)酵母のG418耐性遺伝子、又はその他あらゆる選択可能な標識を挿入してもよい。発現カセット及びスクリーニング標識からなるユニットは、宿主細胞に直接導入されてもよいし、或いは機能的に自己複製する発現ベクターに予め挿入されてもよい。使用可能な発現ベクター源は極めて広範囲に渡り、クリベロマイセス(Kluyveromyces)酵母に常用される発現プラスミドpKD1、サッカロミケス(Saccharomyces)属酵母に望ましい2μプラスミド、ピキア(pichia)属に常用されるpPIC9、pPIC9K、pPICZα発現プラスミド等を含むが、これに限定されない。
【0063】
上記の組換え発現プラスミドを構築した後、一般的な分子生物学文献、例えば『分子クローニング実験指南』第3版(Sambrook J,Russell DW,“Molecular cloning:A laboratory manual.”3rd edition,New York:Cold Spring Harkbor Laboratory Press,2001)や企業により提供される一般的な技術に基づき、組換えプラスミドを選択した宿主細胞に導入し、組換えプラスミドをうまく組み込んだ宿主細菌細胞をスクリーニングすればよい。また、外来DNAを細胞に導入するための一般的な方法、例えば形質転換、エレクトロポレーション(electroporation)、接合(conjugation)等、あらゆる方法が実用可能である。原核、真核、トランスジェニック動植物系を含む全ての組換えタンパク質発現系が、本発明に適用可能である。
【0064】
形質転換細胞をスクリーニングした後、上記融合タンパク質を発現した細菌又は細胞が接種培養される。融合タンパク質は、連続培養過程における細胞の成長段階で取得されるが、成長後期の培養段階で取得されてもよく、宿主細胞の発現特性によって決定すればよい。融合タンパク質は例えば大部分の原核発現系に対し宿主細菌内部において発現してもよいし、培地に分泌してもよい。例えば、酵母や動物細胞の発現系に対し、融合タンパク質は通常は細胞外に分泌される。そして、遠心分離、細菌破壊、限外ろ過、沈殿、クロマトグラフィー等複数の方法を適切に組み合わせることで、高度に精製された組換えゼラチン様タンパク質又は組換えゼラチン様タンパク質と活性タンパク質との融合タンパク質が得られる。精製された融合タンパク質は、構造評価、体内外における生物活性の測定、又は薬物代謝動力学等に用いられる。
【0065】
発現ベクターと宿主細菌の違いから、真核系によっては、発現される組換えゼラチン様タンパク質構造におけるProの一部又は全てがHypに形質転換されることがあるが、このような変化は本発明の実施効果に影響しない。通常、酵母にはプロリル‐4‐ヒドロキシラーゼ(P4H,prolyl 4−hydroxylase)は存在しないが、特殊な手段を利用すると、酵母系でも一部又は全てのPro部分がHypに形質転換し得る。例えば、Vuorela(Vuorela et al.,EMBO J.,16:6702−6712,1997)とVaughan(Vaughan et al.,DNA cell Biol.,17:511−518,1998)の研究では、出芽酵母又はピキア酵母においてゼラチン及びプロリル−4−ヒドロキシラーゼ(P4H)遺伝子を同時発現することで、ヒドロキシル化ゼラチンを得られるとしている。
【0066】
組換えゼラチン様融合タンパク質の性質
(a)物理化学特性
本発明の融合タンパク質における前記ゼラチン様ユニット(Gly−X−Y)nは、以下の物理化学特性の一部又は全部を備える。
(1)親水性アミノ酸Asn、Asp、Gln、Glu、Lys、Pro、Ser、Hyp、Argのアミノ酸含有量パーセンテージが高く、合計で40%〜2/3(66.7%)である。
(2)Pro数とHyp数との和とnの比が0.6以上である。
(3)Gly数の和とnの比が1.15以下(より好ましくは1.05以下)である。
(4)等電点が3〜7(好ましくは3.2〜6であり、より好ましくは3.2〜5.5)である。
(5)コラスカー及びトンガオンカー法(Kolaskar−Tongaonkar method)で算出した平均抗原指数が0.98以下である。
(6)ProtParam式で計算した場合、親水性を表すGRAVY値が−1.1より小さい(好ましくは−1.4より小さく、より好ましくは−1.5より小さい)。
【0067】
【表1】
a.GRAVY値:ポリペプチド又はタンパク質における全てのアミノ酸の親水性値の平均値(親水性値の総和:アミノ酸数の総和)(Kyte J,Doolittle RF,J Mol Biol.,157:105−132,1982)。
b.SGly/n:GLK配列におけるGlyの総数とnの比。
c.S(Pro+Hyp)/n:GLK配列におけるProとHypの総数とnの比。
d.各アミノ酸が既知のエピトープの一部に露出する確率に基づき算出。最少予測残基数は8である。報告によると、予測の正確さは約75%である(Kolaskar AS,Tongaonkar PC報告の方法で算出(FEBS Lett.,276:172−174,1990))。
【0068】
(b)生物活性
従来、融合発現によって活性タンパク質の体外における安定性を高める技術案は、活性タンパク質の生物活性を犠牲にするものが多かった。これは、融合キャリアとなるタンパク質、例えばアルブミンやFc断片が、往々にして分子量が多く、立体障害が大きいために、融合後に生物活性タンパク質と反応リガンド(effective ligand)との結合を妨げるからである。例えば、Huang YSら(Huang YS et al.,Eur J Pharm Biopharm.,67:301‐308,2007)が生成した融合タンパク質HSA/IFNαでは、IFNαが従来備えていた活性のわずか1.7%しか保持できなかった(モル比換算)。しかし、本発明の組換えゼラチン様融合タンパク質では、予想外に高い生物活性が保持された。例えば実施例3で述べるように、融合発現された融合タンパク質rGLK1164/G−CSFの体外活性は、未融合であるG−CSFの約146%に達した。また、本発明の融合タンパク質rGLK1164/IFNαの体外活性は、従来の“アルブミン−IFNα”融合タンパク質の体外における活性の7倍以上であった。
【0069】
良好な体外活性は、臨床においてより少ない投薬量で済み、コスト・治療効果の両面で改善が得られることを意味する。組換えゼラチン様融合タンパク質が体外においてより高い活性を保持できるメカニズムについてはまだ研究されていないが、GLK配列が生理的状態下で高次構造を形成せずに緩やかな構造を維持し、立体障害が小さくなることと関係すると考えられる。
【0070】
(c)体外安定性
本発明の組換えゼラチン様融合タンパク質は、体内での半減期を改善する以外にも、発現融合後に生物活性タンパク質の体外での安定性を高めることが予想外に発見された。実施例3で述べるように、未融合であるrhG−CSFと融合タンパク質rGLK1164/G−CSFの溶液を、いずれも40℃で48時間振動させ、分子篩で分析したところ、rhG−CSFサンプルには大量の重合体が出現し、更にタンパク質の含有総量が著しく低下したのに対し、融合タンパク質rGLK1164/G−CSFについてはこれら指標に大きな変化はなく、GLKとの融合後に生物活性タンパク質の体外における安定性が大きく向上することが分かった。
【0071】
組換えゼラチン様融合タンパク質が生物活性タンパク質の体外での安定性を高める作用メカニズムとしては、ゼラチン配列が、部分的に折り畳みタンパク質を除去した露出部分と互いに作用することで、折り畳まれていない生物活性タンパク質の集中が避けられるためと考えられる。融合後に体外での安定性が高まり、生成及び保存期間におけるタンパク質重合体の形成が減少することで治療用タンパク質薬物の免疫原性が低減することは、臨床的に極めて意義がある。
【0072】
ゼラチンと融合された活性タンパク質は体外での安定性が大幅に向上し、製剤にあたってHSA等の安定剤を添加する必要がなくなるため、HSA添加による抗体の発生や中和といったリスクが減少する。
【0073】
(d)免疫原性
半減期を延長するための融合タンパク質のキャリアタンパク質は、免疫原性を持たないことが必須であり、そうでない場合は、キャリアタンパク質の抗体に対して抗体‐融合タンパク質免疫複合体が生じ、融合タンパク質の体内消失が加速すると共に、その他の望ましくない反応が引き起こされる。ゼラチンが製剤補助材料として既に広く用いられていることは、ゼラチンに免疫原性がないことを証明している。実施例4でも、組換えゼラチンそのものかゼラチン融合タンパク質かに拘わらず、有機体において抗体の発生を誘発しないことが証明されている。更なる利点としては、ゼラチン配列自体に種差の問題がないため、従来の融合発現法よりも、各種動物モデルにおける治療効果や安全性の評価に便利である。
【0074】
(f)体内での生物活性と半減期
本発明で生成される組換えゼラチン様融合タンパク質によれば、体内での半減期を大きく改善可能である。実施例5では、rhG−CSF、rHSA/G−CSF、rGLK1164/G−CSFという3種類のタンパク質のSDラット体内における薬物代謝及び薬効を比較した。異なる分量のrGLK1164/G−CSFをそれぞれ一回皮下注射したところ、白血球の増加を急進させる効果があった他、体内半減期がrhG−CSFを大きく上回った。rHSA/G−CSFもほぼ同様であった。実施例10でも、コラーゲンと融合したExendin−4がアカゲザル体内において半減期を大きく延長させることがわかった。
【0075】
組換えゼラチン様融合タンパク質の用途
融合タンパク質のゼラチン部分自体には生物活性又は薬理活性がないため、本発明で生成される組換えゼラチン様融合タンパク質の用途は融合タンパク質中の非コラーゲン部分により決定される。即ち、組換えゼラチン様融合タンパク質{GLK}p−R−{GLK}qの生物学的機能はR部分により決定され、GLK部分の導入は、体外安定性と体内消失速度とを変化させるだけである。生物活性タンパク質/ポリペプチドRの性質は、組換えゼラチン様融合タンパク質の用途、用法及び用量を決定する。例えば、造血因子EPO、G−CSF、IL−11、M−CSFをそれぞれ赤血球、好中球、血小板及び乾細胞の増殖に用いる場合、GLKと融合して生成されたEPO/GLK、GLK/G−CSF、GLK/GM−CSF、GLK/M−CSFは、同様にそれらの効果を有する。これらは当業者にとって自明である。
【0076】
薬用組成物
本発明の組換えゼラチン様融合タンパク質は、それ自体に良好な安定性が備わってはいるが、保存、運搬及び臨床への応用の便宜を考慮し、本発明では上記組換えゼラチン様融合タンパク質と薬学的に受け入れ可能なキャリアとを含む薬用組成物についても開示する。なお、薬用組成物は一般的な添加剤を更に含有してもよく、例えば希釈剤、保護剤、防腐剤を含有して得られる薬用組成物は、有機体、特に人体における疾病又は望ましくない症状の治療、予防、緩和或いは診断に用いられる。薬効を上げるため、本発明の融合タンパク質は、より良好な治療効果を得られるように他の薬物と共に使用してもよい。
【0077】
本発明は、主に以下のような利点を有する。
1.高分子(例えばPEG)による修飾法とは異なり、組換え発現によって生成されるゼラチン融合タンパク質は構造が均一で製造方法も簡単であり、且つ有機体で分解可能なため体内に蓄積されることがない。
2.キャリアタンパク質(例えばFc又はアルブミン)による融合法とは異なり、本発明のゼラチン様ユニットは親水性を高め、等電点を下げ、免疫原性が全く又はほぼなく、且つ余分な生物活性を持たない。
3.GLKは、複雑な構造ではなく線状高分子(例えばPEG等)と類似した線状構造を持ち、融合後の立体障害が小さいので、従来の融合法と比較して、組換えゼラチン様融合タンパク質の方が活性タンパク質の生物活性保持に有利である。
【0078】
本発明の技術方案は、高分子化合物による修飾とタンパク質融合技術双方の利点を備えながらも双方の欠点を回避するものであって、組換えタンパク質薬物の体内半減期を変化させる一層優れた方法である。
【0079】
次に、具体的な実施例と合わせて、更に本発明について詳述する。なお、以下の実施例は本発明を説明するためのもので、本発明の範囲を制限するものではないと解釈すべきである。特に記載がない限り、本発明は、分子生物学、微生物学、DNA組み換え及び免疫学において当業者に周知の一般的な技術を用いて実施される。これら技術は、例えば、『分子クローニング実験指南』第3版(Sambrook J,Russell D.W.,“Molecular cloning:A laboratory manual.”3rd edition,New York:Cold Spring Harkbor Laboratory Press,2001)や、『タンパク質精製:原理と実践』第3版(Scopes RK,Protein Purification:Principles and Practice,3rd edition,New York:Springer−Verlag,1994)等の文献に詳述されており、或いは試薬メーカーが提供する説明書に基づき実施可能である。メタノール資化酵母(Pichia pastoris)の操作に関しては、特に指示がない場合には、インビトロジェン(Invitrogen)社製のピキア発現キット(Pichia Expression Knit)やピキア酵母発酵ガイドの操作説明に基づき実施される。また、以下の全ての配列においては、特に説明がない限り、下線部分は全て酵素切断識別点、イタリック部分はシグナルペプチド配列を表す。
【実施例1】
【0080】
タンパク質rGLK1164の発現と精製
1.GLK1164遺伝子のクローンニング
本発明のGLK1164遺伝子は、4つの同じ単量体(配列についてはSEQ ID NO.1を参照)を直列して構成された。うち、単量体はGLK1161と称され、116のアミノ酸(配列についてはSEQ ID NO.2を参照)をコードしたもので、上海英駿生物技術有限公司(インビトロジェン社)により合成された。合成時には、5'末端に酵母GS115のα因子シグナルペプチド配列(SEQ ID NO.1の1〜24位がXhoI部位を有する)を挿入し、直後を制限酵素DraIIIの認識部位とし、3'末端にVan91IとEcoRI認識部位を備えてクローニングベクターpMD18−T(タカラ社製)に連結し、プラスミドpGLK1161−Tを構成した。
【0081】
GLK1162二量体を獲得するため、まずプラスミドpGLK1161−TをVan91I/DraIIIでダブルダイジェスト(double digestion)した。そして、1%アガロースゲルで電気泳動を行い、約330bpの大きさの断片(即ち、GLK1161)を切り出し回収し、カラム遠心分離式少量ゲル回収キットを用いて精製して(上海華舜生物工程有限公司)、−20℃で保存し使用に備えた。同時に、プラスミドpGLK1161−TをVan91Iで切断した。切断したプラスミドは前述のように切り出し回収し、30μlのTE溶液に溶解させた。続いて、アルカリフォスファターゼ(Alkaline Phosphatase BAP,タカラ社製)を用いて処理した。
【0082】
リン酸化処理したpGLK1161−Tと、Van91I/DraIIIでダブルダイジェストして回収したGLK1161断片とを、T4DNAリガーゼを用いてモル比1:10で連結した。そして、連結した生成物をE.coliDH5α形質転換受容性細胞に形質転換した。
【0083】
形質転換プレート(Transformation plate)からモノクローンをピック-アップし、アンピシリン耐性のLB液体培地にいれて培養し、一般的な方法によってプラスミドを抽出し、XhoI/EcoRIを用いてダブルダイジェスト評価を行った。DNA塩基配列決定法(DNA sequencing)を用いて陽性クローンを確認した。
【0084】
上記と同様に、GLK1162をpGLK1162−Tに連結したところ、4つの単量体GLK1161を含有する目的遺伝子GLK1164(配列についてはSEQ ID NO.3を参照)が構築された。
【0085】
2.発現プラスミドpPIC−GLK1164の構築
図2を参照する。pPIC9(インビトロジェン社製)を発現プラスミドとして用い、XhoI/EcoRIで切断した後に、1%アガロースゲル電気泳動を行い、断片を回収した。pGLK1164−TをXhoI/EcoRIで切断し、約1200bpのGLK1164の目的断片を回収した。GLK1164とpPIC9の切断片をT4DNAリガーゼで結合させた。そして、結合した生成物をE.coliDH5α形質転換受容性細胞に形質転換し、評価した。
【0086】
3.タンパク質rGLK1164を発現する酵母の構築
メタノール資化酵母(Pichia pastor)GS115(His‐)を発現宿主細菌とし、電気的形質転換(electroporation)によって、線形化プラスミドpPIC−GLK1164をGS115に形質転換した。そして、シングルコロニーが現れるまで30℃で3日間培養した。
【0087】
4.rGLK1164タンパク質の発現スクリーニング
上記のように形質転換した組換え酵母のシングルコロニーを10mlのBMGY液体培地に接種し、30℃、250rpmで24時間培養してから一晩放置し、上澄みを捨て、1%メチルアルコールを含有した10mlのBMMY液体培地に加え、30℃、250rpmで発現を誘導した。そして、発現が相対的に良好な菌株を発現株とした。
【0088】
5.タンパク質rGLK1164の発酵と精製
ステップ4で得た発現株を液体YPD培地に接種し、30℃、250rpm振動で、OD600が約20となるまで一晩培養し、これを発酵槽へ放置する種培養液体とした。培養した液体はビー・ブラウン社製の発酵槽BIOSTATC−10に入れ、培地はインビトロジェン社製のピキア酵母発酵ガイドに基づき配置した。接種量を10%とし、発酵温度30℃、pH5.0に設定し、グリセリンが消耗されてからメチルアルコールの追加を開始し、発現を誘導した。発現段階では発酵温度を25℃に制御し、発酵槽に72時間放置して誘導した。
【0089】
高速遠心分離で菌体を取り除き、発酵上澄みを1リットル取り、予め氷で冷やしたアセトンを4℃下で最終濃度40%になるまで加え、30分攪拌し、遠心分離を行い、沈殿物を廃棄した。上澄み中に、予め氷で冷やしたアセトンを最終濃度80%になるまで再度添加し、30分攪拌し、遠心分離を行って沈殿物を収集した。得られた組換えゼラチン様融合タンパク質の沈殿物を100ミリリットルの純水中に再懸濁(resuspend)させて、20mM PB、pH7.0、4℃で一晩透析した。
【0090】
透析したゼラチン融合タンパク質溶液を、予め緩衝液A(20m MPB、pH7.0)で平衡化したQ Sepharose FFカラム(GEヘルスケア社製XK26/20、カラム体積50ml)に装填し、その後カラム体積2倍の緩衝液Aで未結合のタンパク質を溶出し、続いて線状勾配、10カラム体積、0〜100%緩衝液B(20mM PB、0.5M NaCl、pH7.0)で溶出した。
【0091】
溶出したrGLK1164を、タンパク質濃度約10mg/mlまで限外ろ過濃縮し(ミリポア社製MWCO10KD使用)、続いてSephadex G25カラム(GEヘルスケア社製XK26/20使用。カラム体積50ml)で脱塩した。緩衝液は10mM PB、pH7.0で、凍結乾燥した。
【0092】
タンパク質濃度の測定にはブラッドフォード法(Bradford method)を用いた。測定の結果、発酵もろみ液1リットルにつき約40mgのrGLK1164が生成された。精製収率は約20%で、RP−HPLC分析によると純度は98%であった。
【実施例2】
【0093】
融合タンパク質rGLK1164/G−CSFの発現、精製及び評価
1.hG−CSF遺伝子の合成
hG−CSF遺伝子(配列についてはSEQ ID NO.4を参照)は上海沢衡生物技術有限公司(Shanghai Zeheng Biotechnology Co.,Ltd.)により合成され、pMD18−Tベクターにクローニングされて、プラスミドpG−CSF−Tを構築した。G−CSFの5'末端はDraIIIの認識部位、3'末端はEcoRIの認識部位とした。
【0094】
2.発現プラスミドpPIC−GLK1164/G−CSFの構築
基本的には実施例1と同様である。発現プラスミドの構築フローは図3に示した。GLK1164/G−CSFのDNAコード配列、及び融合タンパク質GLK1164/G−CSFの成熟アミノ酸配列については、SEQ ID NO.5とSEQ ID NO.6の通りである。
【0095】
3.融合タンパク質rGLK1164/G−CSFを発現する酵母の構築
pPIC−GLK1164/G−CSFのメタノール資化酵母(Pichia pastor)GS115(His‐)の形質転換、プラスミドの線形化処理、GS115形質転換受容性細胞の生成、及び電気的形質転換の方法については、実施例1と同様である。
【0096】
4.融合タンパク質rGLK1164/G−CSFの発現
形質転換した組換え酵母シングルコロニーを10mlのBMGY液体培地へ接種し、発現を誘導する過程は実施例1と同様である。
【0097】
5.融合タンパク質rGLK1164/G−CSFの精製
実施例1を参照して発酵を行い、発酵液を遠心分離によって菌体除去し、遠心分離後に1リットルの上澄みを取り、0.45μmのフィルタでろ過除菌した。除菌後の上澄みをpH3.0に調節し、注射用水でコンダクタンス5ms/cm未満まで希釈した。そして、このように処理した上澄みを予め緩衝液A(20mM NaAc、pH3.0)で平衡化したSP Sepharose FFカラム(GEヘルスケア社製XK26/20。カラム体積50ml)に装填し、装填後にカラム体積2倍の緩衝液Aで未結合のタンパク質を溶出し、続いて緩衝液B(20mM NaAc、0.3M NaCl、pH3.0)で溶出して、溶出ピークを収集した。
【0098】
溶出したrGLK1164/G−CSFをSephadex G25(GEヘルスケア社製XK50/30、カラム体積600ml)で脱塩した。緩衝液は20mM Tris、pH8.5を用いた。脱塩後のGLK1164/G−CSF溶液を、予め緩衝液C(20mM Tris、pH8.5)で平衡化したQ Sepharose FFカラム(GEヘルスケア社製XK16/20、カラム体積20ml)に装填し、装填後にカラム体積2倍の緩衝液Cで未結合のタンパク質を溶出してから、線状勾配、10カラム体積、0〜100%緩衝液D(20mM Tris、0.5M NaCl、pH8.5)でGLK1164/G−CSFを溶出した。
【0099】
溶出したGLK1164/G−CSFを、タンパク質濃度10mg/mlまで限外ろ過濃縮し(ミリポア社製MWCO10KD使用)、続いてSephadex G25カラム(GEヘルスケア社製XK26/20使用。カラム体積50ml)で脱塩した。緩衝液は10mM PB、pH7.0で、凍結乾燥した。
【0100】
タンパク質濃度の測定にはブラッドフォード法を用い、発酵上澄み1リットルにつき30mgのGLK1164/G−CSFが生成された。精製収率は約28%であった。分析結果は表4に示す。
【実施例3】
【0101】
rGLK1164/G−CSFの分析・同定
1.SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)
8%SDS−PAGE電気泳動で、得られたrGLK1164/G−CSFの純度を分析したところ、見かけ分子量が66KD〜97KDの一本鎖(single band)(図4参照)であることがわかった。
【0102】
2.分子ふるいクロマトグラフィー―高速液体クロマトグラフィー(SEC−HPLC)
SEC−HPLCにはTSK Gel G3000 Swxlカラムを用い、緩衝液を50mM PB、0.25M NaCl、pH7.0とした。結果を図5に示す。見かけ分子量は、約154KD(見かけ分子量:理論分子量=2.8)であった。
【0103】
3.逆相クロマトグラフィー―高速液体クロマトグラフィー(RP−HPLC)
RP−HPLCにはVYDAC protein C4 TP5415カラムを用い、移動相Aを0.1%TFA含有水溶液、移動相Bを0.1%TFA含有アセニトリル水溶液(アセニトリル:水溶液=9:1)とした。図6に結果を示す。
【0104】
4.ウェスタンブロット(Western blot)分析
G−CSFを比較対象とし、使用する一次抗体を抗マウスG−CSFポリクロナル抗体(ANTIGENIX)として、得られたGLK1164/G−CSFに対し免疫ブロット分析を行った。実験結果(図7)より、90KD付近に陽性バンド(Positive band)があった。
【0105】
5.体外活性測定
rGLK1164/G−CSFの体外活性測定にはG−CSF依存性細胞株NFS60を用い、MTT法により生物活性を測定した(『中華人民共和国薬典』,2005版,3部)。
【0106】
うち、代表的な活性測定結果を図8に示した。
【0107】
rGLK1164/G−CSF活性は約3.3×107IU/mgであり、モル比換算でG−CSF生物活性の約146%に相当した。
【0108】
6.体外安定性
rhG−CSF標準品とrGLK1164/G−CSFを、20mM PB、pH6.0の溶液に、タンパク質濃度が1mg/mlになるまで溶解した。無菌ろ過を行って無菌ペニシリン瓶に充填し、40℃で48時間振動させた後、SEC−HPLC法で重合体と含有量を分析した。その結果(表2及び図9参照)、rhG−CSFサンプルについては大量の重合体が現れ、タンパク質の総含有量も著しく低下したが、融合タンパク質rGLK1164/G−CSFについてはこれら指標の変化はわずかであった。これは、GLKと融合後に生物活性タンパク質の体外での安定性が大幅に高まったことを示している。
【0109】
【表2】
【実施例4】
【0110】
rGLK1164と融合タンパク質rGLK1164/G−CSFのマウス体内における免疫原性研究
動物免疫:4群のBalc/Cマウスを用いた。各群は体重約25gの3匹のマウスからなる。マウスの背の一点に、週1回4度の皮下注射を実施した。薬剤量は、融合タンパク質rGLK1164/G−CSF、rGLK1164共に2.5nmolとした。なお、ブランク対照群については同体積の生理食塩水を注射した。免疫第4周及び第8回の免疫終了1週間後に採血し、血清を分離して-70℃で保存した。
【0111】
投薬4回後の血清抗体価分析
タンパク質rGLK1164又はG−CSFを0.2Mの炭酸塩緩衝液(pH9.6)で1μg/mlに調製し、エライサプレートの各孔に100μlずつ充填した後、エライサプレートの各孔を4℃で一晩コーティングした。続いて、PBSTで3回洗浄し(毎回につき、5分間続けた)、5%の脱脂粉乳を用いて1時間振動、密封した後、PBSTで3回洗浄した(毎回につき、5分間続けた)。各群の血清を1:50、1:200、1:800の比率で取り、37℃で1時間インキュベートした後、二次抗体としてHRP標識(HRP−conjugated)ヤギ抗マウス抗体を加えて1時間インキュベートし、脱水後にPBSTで洗浄し、TMB−HCLで発色し、マイクロプレートリーダー(Microplate Reader)を用いて450nm波長で測定を行った。同時に、200ng/mlのウサギ抗ヒトG−CSF抗体を陽性対照とした。
【0112】
結果を図10に示す。G−CSFコーティング群は、融合タンパク質rGLK1164/G−CSF投薬群と陽性対照群のみに高い吸収値がみられ、rGLK1164コーティング群は、全ての血清サンプルで吸収値が低く、投薬4週間後に生成された抗体はいずれも抗G−CSFであり、抗rGLK1164抗体は生成されなかった。このことは、本発明のゼラチン様ユニットに免疫原性がないことを示している。
【実施例5】
【0113】
融合タンパク質rGLK4/G−CSFの薬効学及び薬物動態学研究
rhG−CSF対象製品(米国アムジェン社製フィルグラスチム)、rHSA/G−CSF(米国特許第5876969号に基づき作成)、rGLK1164/G−CSF及びrGLK1164の4種類のタンパク質についてSDラット体内における薬物代謝及び薬効情況を比較した。
【0114】
中国科学院上海動物試験センターのSPF級成年SDラット(約300〜350グラム)を用い、表3のようにグループ分け、注射を行い、尾静脈から血液をサンプルリングし、白血球数をカウントした。そして、3000rpmで5分間の遠心分離を行って血清を分離し、−20℃で保存した。
【0115】
薬物動態の測定においては、二重抗体サンドイッチエライサ法(double antibody sandwich ELISA method)を用い、サンプル中のrhG−CSF、rGLK1164/G−CSF及びrHSA/G−CSFの血漿中濃度を測定した。具体的な操作については、Human G−CSF Duo Setキット、Human G−CSF ELISA Construction Kit(ANTIGENIX)の操作手順書を参照した。そして、Micro Cal Originの4パラメーター論理曲線を用いて基準曲線を描写し、回帰方程式及び関連統計パラメーターを求めた。また、Microsoft Excel 2003を用い、サンプルデータを基準曲線の回帰方程式に代入して関連数値を算出した。最後に、3P87ソフトウェアで曲線あてはめ(curve fitting)を行い、主要な薬物動態学パラメーターを算出した。
【0116】
【表3】
【0117】
薬効についての結果を図11に示す。フィルグラスチム(Filgrastim)を1回注射した群と比較すると、rGLK1164/G−CSF群とrHSA/G−CSF群は投薬48時間後に白血球が明らかに増加し、且つその増加幅と持続時間はrhG−CSF群を大きく上回った。投薬量の異なるrGLK1164/G−CSF群間では、投薬量の増加に伴って白血球の増え幅は明らかに増加し、白血球増加持続時間も長くなった。これに対し、投薬量を同じとしたrGLK1164/G−CSFとrHSA/G−CSFでは、白血球増加の効果及び持続時間に明らかな違いはなかった。
【0118】
薬物代謝についての結果を図12に示した。血漿中濃度‐時間曲線のグラフから明らかなように、rhG−CSFは皮下注射後に急速に代謝され、24時間後には検出できなくなったが、rGLK1164/G−CSF群とrHSA/G−CSFは72時間経っても検出可能であった。皮下投薬したrGLK1164/G−CSFのラット体内末端における半減期は10時間程度であり、rHSA/G−CSFよりやや長かった。
【実施例6】
【0119】
タンパク質GLK/G−CSFの構造別性質比較
同様の方法を用いて、構造の異なるタンパク質GLK/G−CSFを構築し、その活性、半減期(SDラット)等の関連データを比較した。
【0120】
【表4】
【0121】
うち、GLK420はヒト由来のCOL5A1型コラーゲン配列のうち1150−1569位置から選択した。全配列については、それぞれSEQ ID NO.7、SEQ ID NO.8の通りである。また、GLK420/G−CSFをコードするDNA及びアミノ酸配列については、それぞれSEQ ID NO.9、SEQ ID NO.10の通りである。
【実施例7】
【0122】
融合タンパク質rGLK1164/IFNαの発現と精製
1.インターフェロンα2b(IFNα)遺伝子の合成
IFNα遺伝子は上海沢衡生物有限公司により合成され(配列についてはSEQ ID NO.11参照)、pMD18−Tベクターにクローニングされて、プラスミドpIFNα−Tを構築した。IFNαの5'末端はDraIII認識部位、3'末端はEcoRI認識部位とされた。
【0123】
2.発現プラスミドpPIC−GLK1164/IFNαの構築
構築フローを図13に示す。完全なGLK1164/IFNαのDNA配列及び成熟融合タンパク質rGLK1164/IFNαのアミノ酸配列は、それぞれSEQ ID NO.12及びSEQ ID NO.13の通りである。
【0124】
3.融合タンパク質rGLK1164/IFNαを発現する酵母の構築及びスクリーニング
実施例1種類と同様の方法を用いた。
【0125】
4.融合タンパク質rGLK1164/IFNαのメタノール資化酵母GS115における発現及び精製
発酵と精製の方法は実施例1と同様であり、精製した生成物には8%SDS−PAGE電気泳動分析を用いた。図14にその結果を示す。
【0126】
5.体外活性測定
融合タンパク質rGLK1164/IFNαの体外生物活性の測定には、通常の細胞変性抑制法(WISH細胞)を用いた(『中華人民共和国薬典』,2005版,3部)。
【0127】
細胞変性抑制法により測定した融合タンパク質rGLK1164/IFNαの体外活性は、約2.2×107IU/mgIFNαであった。モル比換算すると未融合時の約11%であり、「アルブミン−IFNα」融合タンパク質の体外活性(わずか1.4%)の7倍以上に達した。
【0128】
6.薬効学研究
研究はアカゲザルの体内で行われた。アカゲザルは全15匹で、オス・メス半々とし(3〜4才、4.2〜4.8キログラム)、中国軍事医学研究院動物センターから購入した。各群を3匹とし、5群に分けて皮下注射を行った。サンプルはPBSで希釈した。融合タンパク質rGLK1164/IFNα3群の分量は、それぞれ0.36pmol/kg、1.0pmol/kg、3.6pmol/kgとした。また、IFNα群の分量は0.36pmol/kg、ブランク対照群であるタンパク質rGLK1164の分量は0.36pmol/kgであった。0時間、1時間、2時間、4時間、8時間、10時間、14時間でそれぞれ血清を取り、2',5'−OAS放射性免疫検定キット(日本国東京栄研化学社製)を用いて血清中の2',5'−OAS活性を測定した。
【0129】
図15に示すように、アカゲザル体内の2',5'−OAS濃度には明らかな分量依存性があった。2',5'−OASの体内活性は、2日後にピーク値に達した。融合タンパク質rGLK1164/IFNα群は、体内において14日後でも検出可能であったが、IFNα群は6日後にはブランク値に近くなり、同量のrGLK1164/IFNαの2',5'−OAS活性はIFNαよりも明らかに高かった。このことは、融合タンパク質の半減期が大幅に延長されたことを示している。
【0130】
性質の異なるGLK配列を用い、同様の方法で性質の異なるGLK/IFNα融合タンパク質を構築し、構造上の特徴、半減期(SDラット)等の関連データを比較した結果は、表5に示す通りである。
【0131】
【表5】
【0132】
表中の4本のGLK配列の長さは類似していたが、融合後の最終的な半減期は異なっていた。
GLK1162P−とGLK1162を比較すると、元の配列における全てのProとHypをSerに置換した後、親水性の変化は大きくなかったが、半減期は大きく低減した。
GLK302配列はProとHypを含まず、GGSGGS反復を基本配列とした。GLK1162P−と比較すると、GLK302配列はより多くのGlyを含み(Gly総数とnの比は2.02)、両者の分子量と等電点は近似していたが、GLK302の方が疎水性が強く(GRAVY値が増加)、体内半減期もGLK1162P−より短かった。このことは、Gly総計とnの比は1.5以下が適しており、好ましくは1.15以下であり、より好ましくは1.05以下であることを示している。
【0133】
GLK1162N−とGLK1162を比較すると、元の配列の全てのAsnをGluに置換した後、親水性の変化は大きくないが、等電点は明らかに低減し、体内半減期は大幅に延長された。
【0134】
GLK1162/IFNα、GLK1162P−/IFNα、GLK302/IFNα、GLK1162N−/IFNαの構築方法は実施例1及び実施例2と同様であり、成熟ペプチドのアミノ酸配列は、SEQ ID NO.14〜17に示す通りである。
【実施例8】
【0135】
rExendin−4/rGLKの発現及び精製
GLK1046遺伝子は6つの同じ単量体GLK1041(単量体の配列はSEQ ID NO.18を参照)を直列してなる。うち、単量体はGLK1041と称され、104のアミノ酸(配列はSEQ ID NO.19を参照)をコードする。GLK1076遺伝子は6つの同じ単量体GLK1071(単量体の配列はSEQ ID NO.20を参照)を直列してなる。うち、単量体はGLK1071と称され、107のアミノ酸(配列はSEQ ID NO.21を参照)をコードするDNAは上海英駿馬生物技術有限公司(インビトロジェン社)により合成された。構築方法は実施例1と同様であった。GLK1042とGLK1072をそれぞれpGLK1044−T、pGLK1074−Tに結合すると、6つの単量体GLK1041、GLK1071を含むプラスミドpGLK1046−T、pGLK1074−Tが構築された。
【0136】
1.Exendin−4遺伝子のクローン
Exendin−4遺伝子は上海沢衡生物技術有限公司により合成された。そのDNA配列は、SEQ ID NO.22の通りである。
【0137】
合成後にpMD18−Tベクターにクローニングし、プラスミドpExendin−4−Tを構築した。Exendin−4の5'末端はα因子シグナルペプチド配列(XhoI部位を含む)を持ち、3'末端はDraIII認識部位とされた。
【0138】
2.発現プラスミドpPIC−Exendin−4/GLK1046とpPIC−Exendin−4/GLK1076の構築を図16に示した
SEQ ID NO.23〜26は、それぞれExendin−4/GLK1046とExendin−4/GLK1076のDNA配列及び成熟融合タンパク質のアミノ酸配列である。
【0139】
3.融合タンパク質rExendin−4/GLK1046、rExendin−4/GLK1076を発現する酵母の構築及びスクリーニング
実施例1に同じである。
【0140】
4.融合タンパク質rExendin−4/GLK1046、rExendin−4/GLK1076の発酵と精製
発酵方法と精製方法は実施例1と同様であり、溶出、精製によって得たrExendin−4/GLK1046とrExendin−4/GLK1076は、それぞれタンパク質濃度10mg/mlとなるまで限外ろ過濃縮され(ミリポア社製MWCO 10KD使用)、続いてSephadex G25カラム(GEヘルスケア社製XK26/20使用。カラム体積50ml)で脱塩した。緩衝液は10mM PB、pH7.0で、凍結乾燥した。電気泳動の分析結果は図17に示した。
【実施例9】
【0141】
融合タンパク質rExendin−4/GLK1046とrExendin−4/GLK1076の生物活性
GLP−1Rを安定導入されたBHK細胞(babyhamster kidney cell)は、GLP−1及びアゴニストの信号刺激を受容して細胞内のcAMP含有量を増加させることが可能である。よって、cAMPの放出量を測定することは、間接的に融合タンパク質rExendin−4の生物活性を反映することになる。BHK−GLP−1R細胞の培養方法は、前述のLi Yらの方法(Li Y et al.,J Biol Chem.,278:471−478,2003)の通りである。
【0142】
結果として、rExendin−4/GLKは、BHK−GLP−1Rにおいて分量依存的に細胞内のcAMPの発生を刺激可能であり、Exendin−4標準品と類似の体外受容体結合活性を備えることがわかった(図18において、Exendin−4 EC50=0.017nM、rExendin−4/GLK1046 EC50=0.095nM、rExendin−4/GLK1076 EC50=0.113nM)。
【実施例10】
【0143】
rExendin−4/GLK1046とrExendin−4/GLK1076の薬物動態学
融合タンパク質の薬物動態学研究はアカゲザルの体内で行われた。アカゲザルは全6匹で、オス・メス各3匹とし(3〜4才、4.2〜4.8キログラム)、中国軍事医学研究院動物センターから購入した。動物は、実験動物に対する通常の方法で飼育した(浙江大学実験動物センター)。各群は3匹からなり、皮下注射を行った。サンプルは、PBSで4mg/kgに希釈した。そして、0.5時間、1時間、4時間、8時間、12時間、24時間、48時間、72時間、96時間、120時間、144時間、192時間、240時間、288時間、336時間でそれぞれ血液をサンプリングし、予めEDTAを充填した採取管に採集した。高感度Ex−4RIAキット(米国Phoenix pharmaceuticals社製)を用い、血漿中の融合タンパク質の濃度を測定した。実験では、ブランク血漿を用いて希釈調整した。
【0144】
結果は図19に示すように、rExendin−4/GLK1046とrExendin−4/GLK1076の皮下注射後、サル体内の末端半減期はそれぞれ70.4時間及び45.4時間であった。rExendin−4/rGLK1046を皮下注射して48時間後には最高濃度に達し、この時の濃度は36,980ng/mlであった。半減期は15倍以上となった(注:Exendin−4の半減期はわずか2.4時間にとどまった)。
【実施例11】
【0145】
rEPO/GLK1074融合タンパク質の発現と精製
1.EPO遺伝子のクローンニング
EPO遺伝子は上海沢衡生物技術有限公司により合成された。そのDNA配列はSEQ ID NO.27に示す通りである。
【0146】
合成後、pMD18−Tにクローニングし、プラスミドpEPO−Tを構築した。EPO5'末端はNheI認識部位とKozak配列を持ち、3'末端はDraIII認識部位を持った。なお、イタリック部分はEPOの天然シグナルペプチド配列である。
【0147】
2.GLK1074遺伝子のクローンニング
GLK1074遺伝子配列に基づき、プライマーGLK1074/P1(SEQ ID NO.28)、GLK1074/P2(SEQ ID NO.29)を合成した。プライマーGLK10741はDraIII認識部位を持ち、プライマーGLK10742はNotI認識部位を持った。pGLK1074−Tを鋳型とした。また、通常のPCRを用いて増幅産物を得た。
【0148】
3.発現プラスミドpCEP4−EPO/GLK1074の構築
構築フローは図20に示す通りである。rEPO/GLK1074のDNA配列と成熟融合タンパク質のアミノ酸配列とは、それぞれSEQ ID NO.30とSEQ ID NO.31に示す通りである。
【0149】
4.組換えタンパク質rEPO/GLK1074の発現細胞株の構築
pCEP4−EPO/GLK1074プラスミドは、超高純度プラスミド抽出キット(Marligen社より購入)を用いて抽出した。中国キヌゲネズミの卵巣細胞(Chinese Hamster Ovary,CHO)を宿主細胞として、通常のリポフェクションを行った。その後、エライサ法でEPO活性を測定した。陽性クローンは、メトトレキサート加圧(MTX selective pressure)によってスクリーニングされた。うち、陽性細胞を1株取り、CD CHO無血清培地(GIBCO社から購入)で徐々に培養した(Debeljak N et al.,Anal Biochem.,359:216-223,2006)。
【0150】
5.組換えタンパク質rEPO/GLK1074の発現
ステップ4で得た発現細胞株を無血清培地で蘇生させると、細胞は、細胞培養用回転瓶125ml、500ml、1000mlの順で増殖した。これをB.Braun Biostart培養槽に接種し、細胞密度が1.5×106/mlを超えると、毎日10%の10倍濃縮培地を補充し、15日程度培養した。そして、毎日サンプリングして細胞密度をカウントし、ローリー法(lowry method)で目的タンパク質の発現量を測定した。発酵培養終了後、組換え発現細胞を収集し、6000r/minで遠心分離を5分間行い、上澄みを収集した。そして、8%SDS−PAGE電気泳動分析を行った。
【0151】
6.組換えタンパク質rEPO/GLK1074の精製
精製方法は実施例1と同様である。
【実施例12】
【0152】
融合タンパク質rEPO/GLK1074の正常なマウス体内における赤血球生成増進作用
マウス体内において、融合タンパク質rEPO/GLK1074とrEPO標準品(アムジェン社製EPOGENR)の赤血球生成増進活性を比較した。実験では、中国科学院上海動物試験センターからのBALB/cマウス(オス、6〜8週齢、18〜20g/匹)を用いた。下表のようにグループ分け、注射、尾静脈血サンプリングを行った。比色法で、ヘモグロビン(Hb)含有量を分析した。
【0153】
【表6】
【0154】
週1度の皮下投薬によって、rEPO/GLK1074の赤血球生成増進作用を研究した。結果は図21に示すように、rEPO/GLK1074の分量を変えた群間で、分量の増加に応じてHbレベルも上がることが分かった。同様に、rEPOも赤血球生成増進作用を示したが、モル数が近い条件下では、活性は明らかにrEPO/GLK1074よりも低かった。即ち、rEPOに比べて、rEPO/GLK1074は投薬周期を延長可能なだけでなく、赤血球生成増進作用の強化も可能であった。
【実施例13】
【0155】
薬用組成物
以下のように、融合タンパク質rGLK1164/G−CSFを含有する注射用水を生成した。
【0156】
タンパク質濃度が15.5mg/mLで且つ10mmol/Lリン酸緩衝液(pH6.5)を含むrGLK1164/G−CSF融合タンパク質原液を200ミリリットル採取した。次に、7.13グラムのグリシンを原液中に完全に溶解させ、更にpHが6.5の0.5mol/Lリン酸緩衝液を2.2ミリリットル加え、10%Na0Hでph6.5まで調節した。最後に、適量の注射用水を310ミリリットルまで加え、均一になるまで混合した後、0.22ミクロンのろ過膜を使って当該調合剤を無菌ろ過し、ペニシリン瓶に充填した。最終的な調合剤成分は、融合タンパク質rGLK1164/G−CSF濃度10mg/mL、リン酸緩衝液濃度10mmol/L、pH6.5、グリシン含有量2.3%(重量比)となった。
【0157】
【表6】
【0158】
本発明が提示した全ての文献は、各文献が単独で参考引用されるように、本願において参考のために引用した。なお、当業者は、本発明の上述の内容を読了後、本発明に各種の変更又は修正を加えてもよく、これら等価形態は同様に本願の特許請求の範囲が限定する範囲に含まれると解釈すべきである。
【技術分野】
【0001】
本発明はタンパク質分野に関し、更に具体的には、新型で且つ生物活性とより長い半減期を有する組換え融合タンパク質、及びその生成と応用に関する。
【背景技術】
【0002】
腎臓、肝臓及び分解など複数の要因の作用により、臨床応用されている大部分の生物活性ポリペプチド/タンパク質は体内で急速に消失することが多く、通常、半減期はわずか数分から数時間である。よって、治療においては、多量且つ頻繁な注射を施すことで有効な薬物濃度を維持する必要があるが、このことは患者にとって苦痛であるだけでなく、薬物の血漿中濃度が変動することで治療効果が低減し、中毒性副作用を増加させる。
【0003】
現在、これら生物活性ポリペプチド/タンパク質の体内での半減期を延長可能とする様々な方法が報告されている。例えば、水溶性高分子(例えば、ポリグリコール、グルコサン等)によって生物活性ポリペプチド/タンパク質を修飾する方法の応用に成功しており、PEG−ADAやPEG−IFNα等はその一例である。修飾により、体内での半減期延長、安定性と溶解度の向上、免疫原性の低減等が実現される。しかし、あいにくこうした修飾手法にも多くの課題がある。まず、タンパク質/ポリペプチドを化学修飾すると、通常これら生体高分子の活性は著しく低下し、完全に消失することもある(Veronese FM,Biomaterials,22:405−417,2001)。次に、高分子化合物はいずれもタンパク質/ポリペプチド表面のアミノ基、メルカプト基、イミダゾール基といった基と反応し、共有結合によってタンパク質/ポリペプチド分子と結合する。しかし、タンパク質/ポリペプチドの分子量は膨大で構造が複雑なため、潜在的に活性PEGと反応可能な基の数もまた膨大となる。PEGとの結合位置によって、生成物の安定性や生物活性等の性質は異なる。更には、化学合成された大部分の高重合体、例えばPEG等は生体で分解されることがない。例えば、長期的に大量のPEG−インターフェロン(PEG−IFNα2a)を注射した場合の腎臓への蓄積が発見されている(Conover CD et al.,Artificial Organs.,21:369−378,1997;Bendele.A et al.,Toxicol Sci.,42:152−157,1998)。薬物設計的には、こうした蓄積薬物がない方が安全なのは明らかである。一方で、PEG修飾されたタンパク質はPEG抗体(多機能ハプテンと定義される。)を生じ、薬物の半減期に影響することが発見されている(Caliceti P & Veronese FM,Adv Drug Deliv Rev.,55:1261−1277,2003)。
【0004】
以上のような技術的課題のために、化学修飾の手法によってタンパク質/ポリペプチドの体内における薬物代謝特性を改善する技術が提案されて久しいにも拘わらず、真に臨床応用可能な製品は極めて少ない。
【0005】
また、特定のキャリアタンパク質と融合することで生物活性ポリペプチド/タンパク質の体外安定性又は体内半減期を高める方法もある。例えば、米国特許第5876969号、同第576688号及び同第7176278号は、アルブミン、抗体Fc断片、トランスフェリン(トランスフェリンの突然変異体及びその断片)と融合することで、生物活性ポリペプチド/タンパク質の半減期が延長されると記載している。これらタンパク質と融合することで半減期が延長される主な理由としては、これらタンパク質がいずれもFcRn受容体媒介の循環作用によって、それ自体の体内安定性を高めて半減期を延長するからである。融合タンパク質キャリアとして理想的なタンパク質は、(1)それ自体が体内において比較的長い半減期を持つこと、(2)免疫原性を持たないこと、(3)半減期の延長とは無関係の生体効果を一切持たないこと、(4)治療用タンパク質の生物活性に影響しないこと、という特徴を備えなければならない。しかし、現在開示されている技術方案では、これら全ての条件を満たすことはできない。中でも最大の課題は免疫原性の増加であり、例えば、Fc断片は構造自体が非保存的で複数の配列を有するため、免疫原性が生じやすい。また、これらキャリアタンパク質は、通常いくらかの生物学的効果をもたらす。例えば、抗体Fc断片は、補体と結合し、Fc受容体との結合によるアレルギー反応、食作用の調節、抗体による細胞殺傷作用といった幅広い生理機能を有するし、HSAはそれ自体が多くの正常な体内生理機能を有し、多数の物質の輸送や代謝に関与する。こうした生物学的特性は、融合タンパク質キャリアとしては不利である。更に、これらキャリアタンパク質はそれ自体が複雑な空間構造を有しており、活性タンパク質と融合すると、立体障害効果によって活性タンパク質の生物活性を著しく低減させてしまう(Baggio LL et al.,Diabetes.,53:2492−2500,2004;Huang YS et al.,Eur J Pharm Biopharm.,67:301−308,2007)。
【0006】
総括すると、活性タンパク質の体内半減期を改善する従来の方案には、(1)生成物が均一でなく、複雑な手順が要求される、(2)修飾物が生体に分解されずに体内に蓄積される、(3)免疫原性が増加する、(4)タンパク質の生物活性が著しく低下し、完全に消失することもある、(5)不要な生物活性機能をもたらすおそれがある、といった弊害があった。化学修飾、タンパク質融合の別に拘わらず、活性タンパク質の体内外での半減期を改善する方案は、いずれも上記の弊害を完全には回避できていない。
【0007】
アルブミン、Fc断片等の天然キャリアタンパク質に存在する弊害を回避するために、キャリアタンパク質としてアミノ酸配列を人工的に構築する試みもなされており、例えば、GlyやGluを豊富に含有するアミノ酸重合体を構築し、これを融合キャリアとしてタンパク質の薬物半減期を延長する試みがある。David W.Leungらは、化学合成されたポリグルタミン酸を模倣し、人工的にポリグルタミン酸配列を合成して融合キャリアとし、タンパク質の薬物半減期を延長させている(US20080176288)。或いは、人工的にポリグリシン配列を合成して融合キャリアとする試み(Schlapschy M et al.,Protein Eng Des Sel.,20:273−284,2007)の他、完全な人工設計の試み、例えばGly、Asp、Glu、Ser等の親水性アミノ酸を選択して人工的にアミノ酸重合体を構築し、これを融合キャリアタンパク質として薬物半減期を延長させるという試みもなされている。しかし、こうした完全に再設計されたアミノ酸重合体を融合キャリアとした場合には実際の効果を予測し難く、多くの課題が存在する。例えば、(1)人工設計の配列は、理論上は多くの親水性アミノ酸を含有するが、タンパク質構造と機能との関係の複雑さから、従来技術では完全な人工設計配列について空間構造(例えば、二次構造や三次構造等)を予測し難く、よって潜在的な生物学的機能や免疫原性は未知である。(2)人工的に設計された反復配列は自然進化に伴って生成されたタンパク質配列とは異なり、特に反復配列における極めて高頻度の断片については組換え発現が難しく、実際の発現量は極めて低くなることが多いため、実用的ではない。発明者は、David W.Leungらが提示する方法(US20080176288)に基づき、ポリグルタミン酸を組換え発現して融合キャリアとしてタンパク質の薬物半減期延長を試みたが、実際には、当該方法が言うような配列は発現されなかった。
【0008】
よって、当該分野では、タンパク質/ポリペプチドの体内外における安定性を効果的で簡便に改善し、且つ他の副作用が全く或いはほとんどない技術方案を開発することが急がれている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、効果的且つ簡便にタンパク質/ポリペプチドの体内半減期を改善すると共に、従来技術よりも多くの利点を持つ方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、第1の観点として、タンパク質の体内半減期を延長するための組換えゼラチン様ユニットを提供するもので、当該組換えゼラチン様ユニットは(Gly−X−Y)n構造を持つポリペプチドであり、うち、Glyはグリシン残基であり、XとYはそれぞれ20種類の天然アミノ酸のうちCysを除く任意のアミノ酸残基であり、nは20〜300であり、且つ、前記組換えゼラチン様ユニットは、(a)当該組換えゼラチン様ユニットのうち、親水性アミノ酸Asn、Asp、Gln、Glu、Lys、Pro、Ser、Hyp、Argのアミノ酸含有量パーセンテージの総和が40%〜2/3(66.7%)であり、(b)前記組換えゼラチン様ユニットのうち、Pro数とHyp数の和とnの比が0.6以上であり、(c)Gly数の和とnの比が1.15以下(より好ましくは1.05以下)であり、付加条件として、前記組換えゼラチンユニットは天然のゼラチンタンパク質ではないことを特徴とする。
【0011】
また、別の好ましい実施例として、前記組換えゼラチン様ユニットは、(d)等電点が3〜7(好ましくは3.2〜6であり、より好ましくは3.2〜5.5)であり、(e)コラスカー及びトンガオンカー法で算出した平均抗原指数が0.98以下であり、(f)ProtParam式で計算した場合、親水性を表すGRAVY値が−1.1に満たない(好ましくは−1.4より小さく、より好ましくは−1.5より小さい)。
【0012】
また、別の好ましい実施例として、前記組換えゼラチン様ユニットの配列はゼラチン由来又はゼラチンからの派生である。例えば、X,Y位置を置換し、天然ゼラチンの一部又は全部の疎水性アミノ酸Ile、Leu、Met、Phe、Val等を親水性アミノ酸に突然変異させる。好ましくは、Ala、Asn、Gln、Glu、Lys、Pro、Ser、Hyp、Argのいずれか1つ及び/又は複数に突然変異させ、GRAVY値を−1.4より小さくする。
【0013】
また、別の好ましい実施例として、前記組換えゼラチン様ユニットの分子量は10〜100kDaである。
【0014】
本発明は、第2の観点として、第1の観点の前記組換えゼラチン様ユニットをコードするポリヌクレオチドを提供する。
【0015】
本発明は、第3の観点として組換え融合タンパク質を提供し、当該組換え融合タンパク質は、生物活性ポリペプチド、及び第1の観点のゼラチン様ユニットを融合してなる。
【0016】
また、別の好ましい実施例として、前記組換えゼラチン様ユニットを含有しない生物活性ポリペプチドに比べ、前記組換え融合タンパク質の体内半減期は少なくとも2倍である。より好ましくは、半減期を少なくとも2倍、3倍、4倍、5倍、6倍又は10倍延長する。
【0017】
また、別の好ましい実施例として、前記組換え融合タンパク質の見かけ分子量(分子篩測定法)と理論分子量の比は1.25以上であり、より好ましくは1.5以上、最適には2以上である。
【0018】
また、別の好ましい実施例として、生物活性ポリペプチドの分子量は0.5〜70Kdaであり、より好ましくは1〜66Kdaである。
【0019】
また、別の好ましい実施例として、前記組換えゼラチンユニットは前記組換え融合タンパク質のアミノ末端、カルボキシル末端、両端、又は中間に位置することを特徴とする。
【0020】
また、別の好ましい実施例として、前記組換え融合タンパク質は単量体又は重合体である。
【0021】
また、別の好ましい実施例として、前記組換え融合タンパク質は、{GLK}p−R−{GLK}q(化学式I)が示す単量体又はその重合体であり、うち、GLKは本発明の第1の観点で述べた組換えゼラチンユニットを表し、pとqは各々が0又は1であり、且つpとqは同時に0とはならず、Rは前記組換えゼラチンユニットを含有しない、生物学的機能を持つタンパク質であり、且つ前記Rはゼラチンタンパク質ではなく、“−”はペプチド結合を表す。
【0022】
また、別の好ましい実施例として、前記組換え融合タンパク質内のすべての(Gly−X−Y)n領域に含まれるnの総和は20より大きく300より小さい。
【0023】
また、別の好ましい実施例として、前記組換え融合タンパク質の分子量は20〜500Kdaである。
【0024】
また、別の好ましい実施例として、前記組換え融合タンパク質は重合体であり、且つ化学式Iにおける各RとGLKは同じであっても異なっていてもよい。
【0025】
本発明は、第4の観点としてポリヌクレオチドを提供し、当該ポリヌクレオチドは、第3の観点で述べた組換え融合タンパク質をコードする。
【0026】
本発明は、第5の観点として、第4の観点で述べたポリヌクレオチドの配列を含む発現ベクターを提供する。
【0027】
本発明は、第6の観点として組換え宿主細胞を提供し、当該組換え宿主細胞は第5の観点で述べた発現ベクターを含むか、或いは染色体に第4の観点で述べたポリヌクレオチドを保有する。
【0028】
本発明は第7の観点として、(1)第6の観点に記載の組換え宿主細胞を培養して、前記組換え融合タンパク質を発現するステップと、(2)前記組換え融合タンパク質を分離するステップを含む前記組換え融合タンパク質を生成する方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】図1は、組換えゼラチン様融合タンパク質の代表的な基本構造を示す。
【図2】図2は、発現プラスミドpPIC−GLK1164の構築フローである。
【図3】図3は、発現プラスミドpPIC−GLK1164/G−CSFの構築フローである。
【図4】図4は、rGLK1164/G−CSF精製過程におけるSDS−PAGE電気泳動(8%)分析の結果、精製による最終製品が一本鎖で、見かけの分子量が66KD〜97KDであったことを示す。左より、レーン1:低分子量タンパク質マーカー、レーン2:発酵液の上澄み、レーン3:SPカラム溶出ピーク、レーン4:Qカラム溶出ピークである。
【図5】図5は、精製したrGLK1164/G−CSFのSEC−HPLC分析を示す。SEC−HPLCにはTSK Gel G3000 Swxlカラムを用い、緩衝液を50mM PB、0.25M NaCl、pH7.0とし、検出波長を214nm、流速を0.8ml/minとした。
【図6】図6は、精製したrGLK1164/G−CSFの逆相高速液体クロマトグラフィー(RP−HPLC)分析を示す。RP−HPLCにはVYDAC proteinのC4 TP5415カラムを用い、移動相Aを0.1%TFA含有水溶液、移動相Bを0.1%TFA含有アセニトリル水溶液(アセニトリル:水溶液=9:1)とし、検出波長を214nm、流速を0.8ml/minとした。
【図7】図7は、rGLK1164/G−CSFの免疫ブロット分析結果を示す。一次抗体としては、抗マウスG−CSFポリクロナル抗体を用いた。
【図8】図8は、rhG−CSF依存性株NSF60を用いて測定した融合タンパク質rGLK1164/G−CSFの体外における生物活性を示す。
【図9】図9は、SEC−HPLCでrhG−CSFとrGLK1164/G−CSFの体外安定性を分析した研究結果を示す。
【図10】図10は、rGLK1164とrGLK1164/G−CSFをマウスに連続注射後の血清抗体の測定結果である。AはG−CSFコーティング、BはrGLK1164コーティングを示す。
【図11】図11は、rGLK1164/G−CSF融合タンパク質、rhG−CSF、rHSA/G−CSF及びrGLK1164の分量を変えた場合の正常な成年SDラット体内における薬効研究結果を示す。
【図12】図12は、rGLK1164/G−CSF融合タンパク質、rhG−CSF及びrHSA/G−CSFの分量を変えた場合の正常な成年SDラット体内における薬物動態の研究結果を示す。
【図13】図13は、発現プラスミドpPIC−GLK1164/IFNαの構築フローである。
【図14】図14は、rGLK1164/IFNα精製過程におけるSDS−PAGE電気泳動(8%)分析の結果、精製による最終製品が一本鎖で、見かけ分子量が約85KDであったことを示す。左より、レーン1:低分子量タンパク質マーカー、レーン2:発酵液の上澄み、レーン3:Qカラム溶出ピークである。
【図15】図15は、rGLK1164/IFNαのアカゲザル体内における薬物動態の研究結果を示す。
【図16】図16は、発現プラスミドpPIC−Exendin−4/GLK1046及びpPIC−Exendin−4/GLK1076の構築フローである。Exendin−4はエクセナチドである。
【図17】図17は、rExendin−4/GLK1046精製過程におけるSDS−PAGE電気泳動(10%)分析の結果、見かけ分子量が66KD〜97KDであったことを示す。左より、レーン1:低分子量タンパク質マーカー、レーン2:発酵液の上澄み、レーン3:SPカラム溶出ピーク、レーン4:Qカラム溶出ピークである。
【図18】図18は、GLP−1Rを安定導入されたBHK細胞を用いて、融合タンパク質rExendin−4/GLK1046及びrExendin−4/GLK1076の体外における生物活性を測定した図である。
【図19】図19は、rExendin−4/GLK1046とrExendin−4/GLK1076の正常な成年アカゲザル体内における薬物動態の研究結果を示す。
【図20】図20は、発現プラスミドpCEP4−EPO/GLK1074の構築フローである。
【図21】図21は、融合タンパク質rEPO/GLK1074とrhEPOの分量を変えた場合の、正常なBALB/cマウス体内における薬効の研究結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本願発明者は、広範且つ詳細な研究と大量のスクリーニングの結果、組換えゼラチン様タンパク質(gelatinlike protein,GLK)とその突然変異体が、融合タンパク質の融合キャリアとして非常に適していることを初めて発見した。本発明者が、ゼラチン様ユニットを融合キャリアとして活性タンパク質に融合させたところ、生物活性ポリペプチド/タンパク質の有機体内における半減期が大幅に延長された。これに基づき、本発明はなされた。
【0031】
具体的には、試験の結果、生物活性を有するタンパク質にゼラチン様ユニットを融合発現して得られた組換えゼラチン様融合タンパク質が、生物活性タンパク質の体外における安定性を大きく改善することが分かった。また、より重要な点として、融合タンパク質の体内消失速度を大幅に降下させ、活性タンパク質の体内における薬物代謝分布を変化させることで、活性タンパク質の体内半減期を延長可能なことが明らかとなった。
【0032】
本発明におけるタンパク質、ヌクレオチド配列及び各方法について述べる前に、本発明はこれら特定の方法、操作規定、細胞株、キャリア及び試薬に限定されるものではないと解釈される。なぜなら、これらは変動し得るからである。また、本願で用いる用語は特定の実施例を述べるためのものにすぎず、本発明の範囲を限定する意図はない。また、特に限定しない限り、本願における全ての技術及び使用される科学用語は、当業者の一般的理解と等しいものとする。本発明の記載は、好ましい方法、機器及び材料にすぎず、本発明の記載に類似又は相当する他の方法及び材料も、本発明の実践或いは測定に適用可能である。
【0033】
ゼラチン様ユニット
本願で使用される「ゼラチン様ユニット」「ゼラチン様タンパク質」又は「GLK(gelatin−likeprotein)」の用語は、互いに言い換え可能である。
【0034】
天然ゼラチンは、コラーゲン由来のタンパク質の一種であり、コラーゲンの変性によって得られる生成物である。基本構造としてGly−X−Yの繰り返しを複数有し、構造式を(Gly−X−Y)nとする。うち、XとYはプロリンとヒドロキシプロリン残基であることが多く、且つプロリンとヒドロキシプロリン残基の含有量の割合はその構造と融点に影響する。X,Y位置のアミノ酸組成の違いは、コラーゲンの親水性、等電点、二次構造、免疫原性等の特性に影響し得る。
【0035】
ゼラチンは、動物の骨や毛皮を処理することによって抽出される。しかし、動物由来のゼラチンには侵襲性ウィルス(invasive virus)が残存してしまうことが多い。また、動物由来のゼラチンを人に適用する場合、生体適合性も問題となる。
【0036】
分子生物学技術の発展は、遺伝子組換技術によって、ヒト由来ゼラチンに基づいた、生理特性が安定し且つ均質性の高い組換えゼラチンの獲得を可能とした。現在、ヒト由来の組換えコラーゲン又はゼラチンの微生物、動物細胞或いは植物内における発現について、多くの報告がある(米国特許US5593859、US6,428978、US6617431,Werten MW et al.,Yeast,15:1087−1096,1999)。コラーゲン遺伝子における使用断片の違いによって、生物化学特性の異なる組換えゼラチンを獲得可能であり、多くの研究結果によれば、メタノール資化酵母(Pichia pastoris)発現系は、由来の異なる独自の生物化学特性を備えた組換えゼラチン又はゼラチン類の生成に利用可能である(Olsen D et al.,Adv Drug Deliv Rev.,55:1547−1567,2003)。組換えゼラチンは、コラーゲンを加水分解して得られる天然ゼラチンと同様にタンパク質を安定させる作用を持ち、ワクチンの安定剤として用いられている(US2006/0204511A1)。
【0037】
本発明において、ゼラチン様ユニットとは、配列が天然ゼラチン由来又は天然ゼラチンから誘導され、且つ組換えにより発現されたポリペプチド断片であると共に、天然ゼラチンの構造的特徴(Gly−X−Y)nを備えた突然変異によるゼラチン様配列を含むものである。
【0038】
本発明では、ゼラチン様ユニットの長さ又は分子量は特に制限されない。長さについては、各ゼラチンユニットは通常60〜1500のアミノ酸残基を含み、好ましくは200〜1000のアミノ酸残基を含む。分子量については、各ゼラチンユニットは通常6〜150KDaであり、より好ましくは20〜80KDaである。
【0039】
組換えゼラチン様融合タンパク質
本発明は、新型の組換えゼラチン様融合タンパク質に関し、当該組換えゼラチン様融合タンパク質は、1つ/複数の天然由来或いは人工で且つ生物学的機能を有したタンパク質及びゼラチン様ユニットから構成され、診断/治療/ターゲッティング(targeting)機能を備える。組換えゼラチン様融合タンパク質の基本構造は、{GLK}p−R−{GLK}q構造を有する単量体(monomer)又は重合体(polymer)である。うち、GLKはゼラチン様ユニットを表し、pとqは0又は1であり、且つpとqは同時に0とはならず、Rは前記ゼラチンユニットを含有しない、生物学的機能を持つタンパク質であり、且つ前記Pはゼラチンタンパク質ではない。組換えゼラチン様融合タンパク質は、重合体の場合には、{GLK1}p−R1−{GLK2}q−{GLK3}p−R2、{GLK1}p−R1−{GLK2}q−{GLK3}p−R2−{GLK4}q、{GLK1}p−R1−{GLK2}q−{GLK3}p−R2−{GLK4}q−{GLK5}p−R1−{GLK6}q等の構造となり、うち、R1〜4は同じでも異なっていてもよく、GLK1〜GLK6は同じでも異なっていてもよいが、少なくとも1のGLK構造と1の生物活性機能を有するタンパク質/ポリペプチドユニット(例えばR1又はR2)を含有する。図1は、代表的な組換えゼラチン様融合タンパク質の構造を表す。
【0040】
本発明は、1又は複数の生物活性タンパク質及びその断片を、一定分子量を有する1又は複数のセグメントのゼラチン様タンパク質GLK(gelatin−like protein)と融合発現することで実現される。融合発現用のGLKは免疫原性を持たず、生理的条件下において極めて良好な水溶性を備える。本発明で生成する組換えゼラチン様融合タンパク質は、より良好な体外安定性と体内半減期を実現するだけでなく、従来のタンパク質修飾又は融合技術に比べて構造が均一であり、予想外に高い生物活性を備える。更に、融合キャリアとしてのGLK部分は生体適合性があり、免疫原性を持たず、生分解可能で体内に蓄積されない等の利点がある。
【0041】
ここで、「組換えゼラチン様融合タンパク質」とは、基本構造{GLK}p−R−{GLK}qを有する融合タンパク質であり、タンパク質/ポリペプチドRと(Gly−X−Y)nはペプチド結合によって直接連結されている。更に、RとGLKはスペーサーによって連結されてもよい。「スペーサー」の用語は1又は複数の分子を示し、例えばアミノ酸、核酸又は化学分子、例えばポリエチレングリコール(PEG)であって、即ち1又は複数の成分ドメインを挿入可能である。スペーサーは、操作の便宜上、必要成分間の標的位置の提供や、活性タンパク質の空間構造の維持、或いは活性タンパク質と標的分子(Target Molecule)の相互作用に用いられる。本発明のスペーサーとしては、短リンカーペプチド、例えばGlyやSerを豊富に含有する短リンカーペプチドや、nが1〜10の間である(GlyGlyGlyGlySer)nが最適である。また、リンカーペプチドとして、現在汎用されている他のリンカーペプチド、例えばDaming Shanが提示するペプチド断片(Shan D et al.,JI mmunol.,162:6589-6595,1999)を用いてもよい。なお、GLK自体を1つのセグメントのリンカーペプチドとして使用してもよいことは言うまでもない。また、タンパク質/ポリペプチド部分は繰り返し現れてもよく、これによりスペーサーの作用を果たして、例えばR1−R1−GLK、R1−R1−GLK−R2、GLK−R1−R1、R1−GLK−R2−R2、R1−R1−GLK−R2−R2等の構造が形成されることは容易に理解される。図1に示されるのは組換えゼラチン様融合タンパク質の代表的な構造にすぎず、本発明の精神に基づけば、図1の構造のみに限定されない。
【0042】
組換えゼラチン様融合タンパク質に含有されるGLKは、ゼラチン構造の特徴(Gly−X−Y)nを有する高度反復のタンパク質配列であって、その配列は全部或いは一部が天然ゼラチン由来であっても、天然ゼラチンの一部配列断片の単純反復であっても、最適化されたGly−X−Y特徴を持つ人工配列であってもよい。ゼラチン配列は種が異なっても相同性の差が小さいため、GLKの配列は、David Olsen(Olsen D et al.,Adv Drug Deliv Rev.,55:1547−1567,2003)が提示するα1(I)コラーゲン配列の領域のように、非ヒト由来のゼラチン配列であってもヒト由来ゼラチン配列であってもよい。GLK配列は、完全に天然の配列と同じであってもよいし、天然配列を一部選択して単純反復させることで本発明に必要な大きさを得てもよい。選択可能なGLK配列源は極めて広範囲に渡り、天然由来の配列か人工合成で、特徴として(Gly−X−Y)nを有するゼラチン様配列かは問わず、例えばUS5801045、US6150081、US6428978、WO01/34646A2等に記載のゼラチン領域を選択してもよい。免疫原性さえなければ、40℃未満の水に溶解可能な配列はいずれも組換えゼラチン様融合タンパク質の生成に使用可能である。
【0043】
更に、本発明の効果をより良好に得るために、発明者らは以下の原則に基づき、天然ゼラチンにおけるGly−X−Y反復ユニットを元に新たな組み換えゼラチン様配列を設計した。
(1)天然ゼラチン配列のうち出現頻度の高いGly−X−Y反復ユニット、例えばGly−Pro−Hyp、Gly−Pro−Ala、Gly−Ala−Hyp、Gly−Glu−Lys、Gly−Pro−Lys、Gly−Glu−Hyp、Gly−Ser−Hyp、Gly−Gln−Hyp、Gly−Glu−Arg及びGly−Pro−Arg等をできるだけ選択し、新たに組み合わせた。
(2)親水性アミノ酸を豊富に含むGly−X−Y反復ユニットをできるだけ選択し、新たに組み合わせた。好ましくは、X、Yは親水性アミノ酸であり、より好ましくはAla、Asn、Gln、Glu、Lys、Pro、Ser、Hyp、Argのいずれか1つ及び/又は複数とした。
(3)新たに設計したGLK配列には、免疫原性を持つ既知の配列はできるだけ含まないようにした。従来開示されている技術文書は、免疫原性を持つ位置をすでに明らかにしており、例えばH.Horiらは、Ile−Pro−Gly−Glu−Phe−Gly−Leu−Pro−Gly−Proを報告している(Hori H et al.,J.Allergy Clin Immunol.,110:652−657,2002)。
(4)新たに設計されたGLK配列には、既知のプロテアーゼ作用点、例えばシグナルペプチダーゼKEX−2の位置など既知のプロテアーゼ作用点をできるだけ含まないようにした。
(5)新たに設計された組換えゼラチン様配列は、コラスカー及びトンガオンカー(Kolaskar−Tongaonkar)法で算出した平均抗原指数(Average antigenic propensity)が0.98以下であった。
【0044】
構造組み換え後の人工配列は親水性アミノ酸を豊富に含み、代表的な配列はSEQ ID NO.2,19,21等を含むが、これに限定されるわけではない。
【0045】
組換えゼラチン様融合タンパク質{GLK}p−R−{GLK}qのうち、GLKの基本構造であるGly−X−Y反復ユニットの数(n)、即ちGLKの分子量範囲は可変である。本発明の目的を達成するためには、まず、組換えゼラチン様融合タンパク質が腎臓でのろ過により除去されないよう適切な分子量を有する必要がある。組換えゼラチン様融合タンパク質の分子量は、タンパク質/ポリペプチド部分R及びGLKの双方によって決定されるが、特定の活性組換えゼラチン様融合タンパク質については、活性タンパク質Rの分子量が確定しており、更に数も確定している場合は、組換えゼラチン様融合タンパク質の分子量はGLKの大きさ及び数により決定される。タンパク質/ポリペプチドR部分の分子量が少ない場合(例えば、20KD未満の場合)、組換えゼラチン様融合タンパク質が腎臓糸球体(glomerulus)にろ過されるのを防ぐために、GLKの分子量は少なくとも15〜70KDとすべきである。但し、分子量が多いほど組換えゼラチン様融合タンパク質の有機体内における半減期延長が有利になるとは限らず、逆に組換発現に不利となる上、プロテアーゼにより分解されやすくなり、予想外に免疫原性の制御も困難となる。よって、適切なGLK分子量は6〜150KDであり、より好ましくは20〜80KDである。R部分が元々大きい場合、或いは二量体又は重合体を形成可能な場合には、GLK分子量の範囲は更に拡大してもよく、1kDa〜150KDaの範囲内、例えば約1000〜2000Da、約2〜20kDa、約20〜50kDa、約50〜100kDa、約100〜150kDa、約150〜200kDaとしてもよい。
【0046】
組換えゼラチン様融合タンパク質の分子量は特に限定されず、通常は20〜500KDa、好ましくは25〜300KDaである。
【0047】
生物活性タンパク質/ポリペプチド
「生物活性タンパク質/ポリペプチド」とは、タンパク質、抗体、ポリペプチド及びその断片と変異体をいい、1又は複数の薬理活性及び/又は生物活性、或いは標的ガイダンス(targeting guidance)、重合等の機能を備える。これらは自然界に存在するものであっても、人工的に構築したものでもよい。「生物活性タンパク質/ポリペプチド」は、酵素、酵素抑制剤、抗原、抗体、ホルモン、血液凝固因子、インターフェロン、サイトカイン、成長因子、分化因子、骨組織の成長関連因子、骨質因子の吸収関連因子、化学走化性因子(chemotactic factors)、細胞運動因子(cell motility factors)、移動因子(migration factors)、細胞静止因子(cytostatic factors)、殺菌因子、抗真菌因子、血漿接着分子、細胞間質接着分子、細胞外基質、及び受容体リガンドとその断片等を含む。
【0048】
本発明における生物活性タンパク質/ポリペプチド、特に「治療活性」を奏するタンパク質/ポリペプチド、又は「治療上活性を有する」タンパク質/ポリペプチドといったタンパク質/ポリペプチドは、1以上の既知の生物活性及び/又は治療活性を有する。これら活性は、1以上の本願に記載又はその他の既知の治療用タンパク質に関連する。限定を意図しない例として、「治療用タンパク質」は疾病や状況又は機能の乱れの治療、予防又は改善に有用なタンパク質である。また、限定を意図しない例として、「治療用タンパク質」とは、特定タイプの細胞(正常(例えばリンパ細胞)或いは異常(例えば癌細胞))と特異的に結合し、化合物(薬物或いは細胞傷害性薬剤)を当該タイプの細胞に対し特異的に位置付けるためのタンパク質である。
【0049】
また、限定を意図しない別の例として、「治療用タンパク質」は生物活性を有するタンパク質であって、特に疾病の治療、予防及び改善に有用な生物活性タンパク質を指す。限定を意図しない例としての治療用タンパク質は、例えば、血管新生の増進、血管新生の抑制、造血機能の調整、神経発育の促進、免疫反応の向上、免疫反応の抑制といった生物活性を有するタンパク質を含む。
【0050】
上述したように、「治療活性」又は「活性」とは、ヒト、非ヒト哺乳動物又は他の生体において理想的な治療結果と一致するような効果を得られる活性といえる。治療活性は、体内又は体外で測定可能である。
【0051】
本発明において、組換えゼラチン様融合タンパク質の治療性タンパク質部分に対応する治療性タンパク質は、VEGF受容体、TNF受容体、HER−2/神経膜受容体、ヒトErbB3受容体分泌形態異性体、トランスフォーミング成長因子bIII型受容体細胞外ドメイン、トランスフォーミング成長因子bII型受容体細胞外ドメイン、IL−1受容体、IL−4受容体、ウロキナーゼ、β−グルコセレブロシダーゼ、アルギニンデイミナーゼ、アルギナーゼ(arginase)、ハースタチン(herstatin)、上皮成長因子、FGF−1、線維芽細胞成長因子−2、普通繊維細胞成長因子、神経成長因子、血小板由来成長因子、VEGF−1、IL−1、IL−2、IL−3、IL−4、IL−6、IL−8、IL−10、IL−11、IL−12、IL−18、IL−21、IL−24、IL−1RA、RANKL、RANK、OPG、LEPTIN、インターフェロンα、インターフェロンβ、インターフェロンγ、インターフェロンΩ、TGF−β、TGF−β−1、TGF−β−3、TNFα、心房性ナトリウム利尿ペプチド、B型ナトリウム利尿ペプチド、性腺刺激ホルモン、ヒト黄体化ホルモン(human luteinizing hormone)、卵胞刺激ホルモン(follicle−stimulating hormone)、ヒト成長ホルモン、EPO、G−CSF、GM−CSF、TPO、M−CSF、SCF、VEGF、EPOミミックペプチド、TPOミミックペプチド、FLT3リガンド、Apo2リガンド、骨細胞阻害因子、及びBMP−2、BMP−7、GLP−1とその類似物、Exendin−3、Exendin−4、インシュリン及びその類似物、GIP、グルカゴン、エンドスタチン、プラスミノゲンクリングル1ドメイン、プラスミノゲンクリングル5ドメイン、アンギオスタチン等を含むが、これらに限定はされない。治療性タンパク質は、単鎖抗体scFv等の抗体及びその断片であってもよい。これらタンパク質及びこれらタンパク質をコードする核酸配列はいずれも周知であり、CAS(Chemical Abstracts Services)データベース(例えばCASレジストリ)、ジェンバンク(GenBank)、GenSeqといった公共のデータベースから検索可能である。当業者にとって、本発明の精神に基づき、従来発見されているほとんどの生物活性タンパク質を本発明に適用可能であることは容易に理解される。なお、本発明以降に新たに発見される生物活性を備えたタンパク質/ポリペプチドについても、同様に本発明に適用可能であると解釈すべきことは言うまでもない。
【0052】
本発明における組換えゼラチン様融合タンパク質の生物活性タンパク質は、非グリコシル化及びグリコシル化のいずれであってもよく、例えば一部のサイトカイン、細胞表面タンパク質及び分泌性タンパク質は、1又は複数のオリゴ糖基と結合されて修飾されることが多い。グリコシル化には、一般的に主なタイプとして、結合位置がセリン又はスレオニン残基である0−結合型オリゴ糖グリコシル化と、結合位置がAsn−X−Ser/Thr配列のアスパラギン酸残基であるN−結合型オリゴ糖グリコシル化の二種類があり、うちXはプロリン以外であればどのアミノ酸であってもよい。
【0053】
グリコシル化異性体は、グリコシル化部位を除去又は導入することによって得られる。例えば、アスパラギン酸をグルタミン酸に置き換えるように、アミノ酸残基を置換又は除去したり、或いは、グリコシル化タンパク質を発生させない宿主細胞、例えば大腸菌又はグリコシル化欠損酵母において、非グリコシル化組換えタンパク質を発現させたりする。
【0054】
作用メカニズム
ポリペプチド/タンパク質が体内において急速に除去されるメカニズムは多岐に渡り、腎臓糸球体のろ過、受容体依存性エンドサイトーシス、プロテアーゼの作用、リンパ系による除去、肝臓による除去等複数のメカニズムを含む。活性タンパク質がIgGのFc断片又はアルブミンと融合した後に比較的長い半減期を維持できるのは、体内に特殊なFcRn介在性の循環作用が護られているからである。
【0055】
ゼラチン配列と活性タンパク質を融合発現した後に活性タンパク質の半減期が延長される確かなメカニズムについては、まだ明らかとなっていない。現在のところ、類似の受容体が機能することは発見されていない。また、GLK配列自体は、FcRnと結合しない。本発明の発明者らは、ヒト血清をエライサ(ELISA)プレートにコーティングし、融合タンパク質GLK/G−CSFを加えて(なお、G−CSFを陰性対照とした)、保温・培養(incubation)・洗浄の後にビオチン標識G−CSF(Abcam plc.)抗体を結合させ、HRP発色によってGLK融合タンパク質が血清中のどの成分とも結合しないことを証明した。これにより、「GLK融合タンパク質が血清中の何らかの成分と結合し合う」という可能性が排除された。なお、単純に融合後の分子量が増加したことで半減期が延長されたのでないことは確かである。従来研究では、単純に融合タンパク質の分子量を増加させても、体内での半減期を延長できるとは限らないことが発見されている。例えば、Carlos A.(Buscaglia CA et al.,Blood.,93:2025−2032,1999)の研究では、分子量の多いTSacタンパク質(76KD)の体内半減期(約数時間)は、これより分子量の少ないGST−Ag36(60KD)(約30時間)よりも遥かに短いことが発見されている。実施例7のデータも、同様の活性ポリペプチドが、配列は異なるが分子量は近いゼラチン様ユニットを融合キャリアとして用いた場合に、最終的に得られた融合タンパク質の半減期が異なったことを示している。
【0056】
なお、本発明が保護する範囲は作用メカニズムの制限を受けないと解釈されるべきである。発明者らが以下のようなメカニズムを提示したのは、本発明について一層の理解を促すためである。融合された組換えゼラチン様融合タンパク質が活性タンパク質の体内外における安定性及び半減期を増進可能な理由としては、以下が考えられる。
(1)GLKのGly−X−Y構造におけるY位置のPro(Hyp)が大量に存在することで、生理的環境下で緩やかな構造が維持されるようになり、結果として、活性タンパク質が体内のプロテアーゼに分解されないよう保護する障壁が形成された。
(2)GLK構造は親水性アミノ酸を豊富に含むため、水和分子半径が大きくなり、腎臓でのろ過・排出が防止された。理論分子量約55KDの融合タンパク質rGLK1164/G−CSFを分子篩で分析すると、見かけ分子量は約154KD(見かけ分子量:理論分子量=2.8)であった。
(3)融合タンパク質におけるGLKに特有の帯電性によって、組換えゼラチン様融合タンパク質は体内に更に長時間留まることになった。本発明のGLKはやや低い等電点を有し、通常の生理的条件下では負の電荷を持つ。血漿タンパク質の多くは負の電荷を持つと共に輸送機能を備えているため、負の電荷を持つ組換えゼラチン様融合タンパク質はこれら血漿タンパク質と結合し合う可能性が低くなり、血漿中により長時間留まることが可能となった。
(4)血管壁の内皮細胞表面を覆う多糖類−タンパク質複合物(グリコカリックス)の存在により、組換えゼラチン様融合タンパク質の除去率が低下した。血管壁の多糖類−タンパク質は、血管内と周辺基質間との物質輸送を制御する(Simionescu M,Simionescu N,Annu.Rev.Physiol.,48:279−293,1986)。多糖類−タンパク質複合物は、通常の生理状態下では負の電荷を有するのに対し、組換えゼラチン様融合タンパク質もまた負の電荷を有する。このため、同電荷間の排斥によって、組換えゼラチン様融合タンパク質とグリコカリックスの相互作用が減少し、結果として組換えゼラチン様融合タンパク質の血管から組織への浸透が減少した。
【0057】
組換えゼラチン様融合タンパク質の生成
本発明の融合タンパク質は、固相法でペプチドを直接合成することによって生成してもよいし、本発明におけるタンパク質の各断片をそれぞれ化学合成してから、化学的手法で結合することで分子の全長を生成してもよい。好ましくは、本発明の融合タンパク質は組換え法で生成される。
【0058】
組換え法によるゼラチン融合タンパク質の生成は、原核宿主、真核宿主、植物又は動物において、組換え目的ゼラチン融合タンパク質をコーディングするヌクレオチドを発現し、及び組換えゼラチン様融合タンパク質を獲得する過程を含む。原核、真核、トランスジェニック動植物系を含む全ての組換えタンパク質発現系は、本発明に適用可能である。例えば、米国特許US6548653に記載される融合タンパク質を発現するための方法は、全て本願発明に適用される。
【0059】
より詳細には、組換え法によって目的の組換えゼラチン様融合タンパク質を得るには、まずコーディングに要する組換えゼラチン様融合タンパク質のヌクレオチドを取得する必要がある。うち、コーディング用の目的のヌクレオチド配列は複数の一般的な方法を用いて生成すればよい。また、上記配列から誘導又は変異した配列を得るためには、例えば遺伝子工学技術を用いてヌクレオチド配列を修飾し又は変化させればよい。
【0060】
より好ましくは、本発明の過程において、ヌクレオチド配列は転写開始領域(プロモーター配列)の発現カセット(Expression Cassette)の一部を含み、宿主細胞においてこの転写開始領域がヌクレオチド配列の発現を制御すると共に、本発明のポリペプチドをコードする。当該領域は、使用される宿主細菌のうち高度に発現される構造遺伝子又は調節遺伝子のプロモーター領域であってもよい。例えば酵母においては、アルコールオキシダーゼ(AOX)、ホスホグリセリン酸キナーゼ(PGK)及び類似の遺伝子のプロモーターであってもよい。発現カセットは、使用される宿主細菌のうち機能を有する転写終了領域を含んでもよく、本発明のポリペプチドをコードするヌクレオチド配列の下流に緊密に結合されてもよい。
【0061】
より好ましくは、本発明のポリペプチドをコードするヌクレオチド配列の前にシグナルペプチド配列を持ち、新たに生成されるポリペプチドをその宿主における分泌ルートに導く。
【0062】
発現カセットの他、1又は複数の組換え宿主細菌をスクリーニングする標識(Tag)、例えば出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae)のURA3遺伝子、ピキア(pichia)酵母のG418耐性遺伝子、又はその他あらゆる選択可能な標識を挿入してもよい。発現カセット及びスクリーニング標識からなるユニットは、宿主細胞に直接導入されてもよいし、或いは機能的に自己複製する発現ベクターに予め挿入されてもよい。使用可能な発現ベクター源は極めて広範囲に渡り、クリベロマイセス(Kluyveromyces)酵母に常用される発現プラスミドpKD1、サッカロミケス(Saccharomyces)属酵母に望ましい2μプラスミド、ピキア(pichia)属に常用されるpPIC9、pPIC9K、pPICZα発現プラスミド等を含むが、これに限定されない。
【0063】
上記の組換え発現プラスミドを構築した後、一般的な分子生物学文献、例えば『分子クローニング実験指南』第3版(Sambrook J,Russell DW,“Molecular cloning:A laboratory manual.”3rd edition,New York:Cold Spring Harkbor Laboratory Press,2001)や企業により提供される一般的な技術に基づき、組換えプラスミドを選択した宿主細胞に導入し、組換えプラスミドをうまく組み込んだ宿主細菌細胞をスクリーニングすればよい。また、外来DNAを細胞に導入するための一般的な方法、例えば形質転換、エレクトロポレーション(electroporation)、接合(conjugation)等、あらゆる方法が実用可能である。原核、真核、トランスジェニック動植物系を含む全ての組換えタンパク質発現系が、本発明に適用可能である。
【0064】
形質転換細胞をスクリーニングした後、上記融合タンパク質を発現した細菌又は細胞が接種培養される。融合タンパク質は、連続培養過程における細胞の成長段階で取得されるが、成長後期の培養段階で取得されてもよく、宿主細胞の発現特性によって決定すればよい。融合タンパク質は例えば大部分の原核発現系に対し宿主細菌内部において発現してもよいし、培地に分泌してもよい。例えば、酵母や動物細胞の発現系に対し、融合タンパク質は通常は細胞外に分泌される。そして、遠心分離、細菌破壊、限外ろ過、沈殿、クロマトグラフィー等複数の方法を適切に組み合わせることで、高度に精製された組換えゼラチン様タンパク質又は組換えゼラチン様タンパク質と活性タンパク質との融合タンパク質が得られる。精製された融合タンパク質は、構造評価、体内外における生物活性の測定、又は薬物代謝動力学等に用いられる。
【0065】
発現ベクターと宿主細菌の違いから、真核系によっては、発現される組換えゼラチン様タンパク質構造におけるProの一部又は全てがHypに形質転換されることがあるが、このような変化は本発明の実施効果に影響しない。通常、酵母にはプロリル‐4‐ヒドロキシラーゼ(P4H,prolyl 4−hydroxylase)は存在しないが、特殊な手段を利用すると、酵母系でも一部又は全てのPro部分がHypに形質転換し得る。例えば、Vuorela(Vuorela et al.,EMBO J.,16:6702−6712,1997)とVaughan(Vaughan et al.,DNA cell Biol.,17:511−518,1998)の研究では、出芽酵母又はピキア酵母においてゼラチン及びプロリル−4−ヒドロキシラーゼ(P4H)遺伝子を同時発現することで、ヒドロキシル化ゼラチンを得られるとしている。
【0066】
組換えゼラチン様融合タンパク質の性質
(a)物理化学特性
本発明の融合タンパク質における前記ゼラチン様ユニット(Gly−X−Y)nは、以下の物理化学特性の一部又は全部を備える。
(1)親水性アミノ酸Asn、Asp、Gln、Glu、Lys、Pro、Ser、Hyp、Argのアミノ酸含有量パーセンテージが高く、合計で40%〜2/3(66.7%)である。
(2)Pro数とHyp数との和とnの比が0.6以上である。
(3)Gly数の和とnの比が1.15以下(より好ましくは1.05以下)である。
(4)等電点が3〜7(好ましくは3.2〜6であり、より好ましくは3.2〜5.5)である。
(5)コラスカー及びトンガオンカー法(Kolaskar−Tongaonkar method)で算出した平均抗原指数が0.98以下である。
(6)ProtParam式で計算した場合、親水性を表すGRAVY値が−1.1より小さい(好ましくは−1.4より小さく、より好ましくは−1.5より小さい)。
【0067】
【表1】
a.GRAVY値:ポリペプチド又はタンパク質における全てのアミノ酸の親水性値の平均値(親水性値の総和:アミノ酸数の総和)(Kyte J,Doolittle RF,J Mol Biol.,157:105−132,1982)。
b.SGly/n:GLK配列におけるGlyの総数とnの比。
c.S(Pro+Hyp)/n:GLK配列におけるProとHypの総数とnの比。
d.各アミノ酸が既知のエピトープの一部に露出する確率に基づき算出。最少予測残基数は8である。報告によると、予測の正確さは約75%である(Kolaskar AS,Tongaonkar PC報告の方法で算出(FEBS Lett.,276:172−174,1990))。
【0068】
(b)生物活性
従来、融合発現によって活性タンパク質の体外における安定性を高める技術案は、活性タンパク質の生物活性を犠牲にするものが多かった。これは、融合キャリアとなるタンパク質、例えばアルブミンやFc断片が、往々にして分子量が多く、立体障害が大きいために、融合後に生物活性タンパク質と反応リガンド(effective ligand)との結合を妨げるからである。例えば、Huang YSら(Huang YS et al.,Eur J Pharm Biopharm.,67:301‐308,2007)が生成した融合タンパク質HSA/IFNαでは、IFNαが従来備えていた活性のわずか1.7%しか保持できなかった(モル比換算)。しかし、本発明の組換えゼラチン様融合タンパク質では、予想外に高い生物活性が保持された。例えば実施例3で述べるように、融合発現された融合タンパク質rGLK1164/G−CSFの体外活性は、未融合であるG−CSFの約146%に達した。また、本発明の融合タンパク質rGLK1164/IFNαの体外活性は、従来の“アルブミン−IFNα”融合タンパク質の体外における活性の7倍以上であった。
【0069】
良好な体外活性は、臨床においてより少ない投薬量で済み、コスト・治療効果の両面で改善が得られることを意味する。組換えゼラチン様融合タンパク質が体外においてより高い活性を保持できるメカニズムについてはまだ研究されていないが、GLK配列が生理的状態下で高次構造を形成せずに緩やかな構造を維持し、立体障害が小さくなることと関係すると考えられる。
【0070】
(c)体外安定性
本発明の組換えゼラチン様融合タンパク質は、体内での半減期を改善する以外にも、発現融合後に生物活性タンパク質の体外での安定性を高めることが予想外に発見された。実施例3で述べるように、未融合であるrhG−CSFと融合タンパク質rGLK1164/G−CSFの溶液を、いずれも40℃で48時間振動させ、分子篩で分析したところ、rhG−CSFサンプルには大量の重合体が出現し、更にタンパク質の含有総量が著しく低下したのに対し、融合タンパク質rGLK1164/G−CSFについてはこれら指標に大きな変化はなく、GLKとの融合後に生物活性タンパク質の体外における安定性が大きく向上することが分かった。
【0071】
組換えゼラチン様融合タンパク質が生物活性タンパク質の体外での安定性を高める作用メカニズムとしては、ゼラチン配列が、部分的に折り畳みタンパク質を除去した露出部分と互いに作用することで、折り畳まれていない生物活性タンパク質の集中が避けられるためと考えられる。融合後に体外での安定性が高まり、生成及び保存期間におけるタンパク質重合体の形成が減少することで治療用タンパク質薬物の免疫原性が低減することは、臨床的に極めて意義がある。
【0072】
ゼラチンと融合された活性タンパク質は体外での安定性が大幅に向上し、製剤にあたってHSA等の安定剤を添加する必要がなくなるため、HSA添加による抗体の発生や中和といったリスクが減少する。
【0073】
(d)免疫原性
半減期を延長するための融合タンパク質のキャリアタンパク質は、免疫原性を持たないことが必須であり、そうでない場合は、キャリアタンパク質の抗体に対して抗体‐融合タンパク質免疫複合体が生じ、融合タンパク質の体内消失が加速すると共に、その他の望ましくない反応が引き起こされる。ゼラチンが製剤補助材料として既に広く用いられていることは、ゼラチンに免疫原性がないことを証明している。実施例4でも、組換えゼラチンそのものかゼラチン融合タンパク質かに拘わらず、有機体において抗体の発生を誘発しないことが証明されている。更なる利点としては、ゼラチン配列自体に種差の問題がないため、従来の融合発現法よりも、各種動物モデルにおける治療効果や安全性の評価に便利である。
【0074】
(f)体内での生物活性と半減期
本発明で生成される組換えゼラチン様融合タンパク質によれば、体内での半減期を大きく改善可能である。実施例5では、rhG−CSF、rHSA/G−CSF、rGLK1164/G−CSFという3種類のタンパク質のSDラット体内における薬物代謝及び薬効を比較した。異なる分量のrGLK1164/G−CSFをそれぞれ一回皮下注射したところ、白血球の増加を急進させる効果があった他、体内半減期がrhG−CSFを大きく上回った。rHSA/G−CSFもほぼ同様であった。実施例10でも、コラーゲンと融合したExendin−4がアカゲザル体内において半減期を大きく延長させることがわかった。
【0075】
組換えゼラチン様融合タンパク質の用途
融合タンパク質のゼラチン部分自体には生物活性又は薬理活性がないため、本発明で生成される組換えゼラチン様融合タンパク質の用途は融合タンパク質中の非コラーゲン部分により決定される。即ち、組換えゼラチン様融合タンパク質{GLK}p−R−{GLK}qの生物学的機能はR部分により決定され、GLK部分の導入は、体外安定性と体内消失速度とを変化させるだけである。生物活性タンパク質/ポリペプチドRの性質は、組換えゼラチン様融合タンパク質の用途、用法及び用量を決定する。例えば、造血因子EPO、G−CSF、IL−11、M−CSFをそれぞれ赤血球、好中球、血小板及び乾細胞の増殖に用いる場合、GLKと融合して生成されたEPO/GLK、GLK/G−CSF、GLK/GM−CSF、GLK/M−CSFは、同様にそれらの効果を有する。これらは当業者にとって自明である。
【0076】
薬用組成物
本発明の組換えゼラチン様融合タンパク質は、それ自体に良好な安定性が備わってはいるが、保存、運搬及び臨床への応用の便宜を考慮し、本発明では上記組換えゼラチン様融合タンパク質と薬学的に受け入れ可能なキャリアとを含む薬用組成物についても開示する。なお、薬用組成物は一般的な添加剤を更に含有してもよく、例えば希釈剤、保護剤、防腐剤を含有して得られる薬用組成物は、有機体、特に人体における疾病又は望ましくない症状の治療、予防、緩和或いは診断に用いられる。薬効を上げるため、本発明の融合タンパク質は、より良好な治療効果を得られるように他の薬物と共に使用してもよい。
【0077】
本発明は、主に以下のような利点を有する。
1.高分子(例えばPEG)による修飾法とは異なり、組換え発現によって生成されるゼラチン融合タンパク質は構造が均一で製造方法も簡単であり、且つ有機体で分解可能なため体内に蓄積されることがない。
2.キャリアタンパク質(例えばFc又はアルブミン)による融合法とは異なり、本発明のゼラチン様ユニットは親水性を高め、等電点を下げ、免疫原性が全く又はほぼなく、且つ余分な生物活性を持たない。
3.GLKは、複雑な構造ではなく線状高分子(例えばPEG等)と類似した線状構造を持ち、融合後の立体障害が小さいので、従来の融合法と比較して、組換えゼラチン様融合タンパク質の方が活性タンパク質の生物活性保持に有利である。
【0078】
本発明の技術方案は、高分子化合物による修飾とタンパク質融合技術双方の利点を備えながらも双方の欠点を回避するものであって、組換えタンパク質薬物の体内半減期を変化させる一層優れた方法である。
【0079】
次に、具体的な実施例と合わせて、更に本発明について詳述する。なお、以下の実施例は本発明を説明するためのもので、本発明の範囲を制限するものではないと解釈すべきである。特に記載がない限り、本発明は、分子生物学、微生物学、DNA組み換え及び免疫学において当業者に周知の一般的な技術を用いて実施される。これら技術は、例えば、『分子クローニング実験指南』第3版(Sambrook J,Russell D.W.,“Molecular cloning:A laboratory manual.”3rd edition,New York:Cold Spring Harkbor Laboratory Press,2001)や、『タンパク質精製:原理と実践』第3版(Scopes RK,Protein Purification:Principles and Practice,3rd edition,New York:Springer−Verlag,1994)等の文献に詳述されており、或いは試薬メーカーが提供する説明書に基づき実施可能である。メタノール資化酵母(Pichia pastoris)の操作に関しては、特に指示がない場合には、インビトロジェン(Invitrogen)社製のピキア発現キット(Pichia Expression Knit)やピキア酵母発酵ガイドの操作説明に基づき実施される。また、以下の全ての配列においては、特に説明がない限り、下線部分は全て酵素切断識別点、イタリック部分はシグナルペプチド配列を表す。
【実施例1】
【0080】
タンパク質rGLK1164の発現と精製
1.GLK1164遺伝子のクローンニング
本発明のGLK1164遺伝子は、4つの同じ単量体(配列についてはSEQ ID NO.1を参照)を直列して構成された。うち、単量体はGLK1161と称され、116のアミノ酸(配列についてはSEQ ID NO.2を参照)をコードしたもので、上海英駿生物技術有限公司(インビトロジェン社)により合成された。合成時には、5'末端に酵母GS115のα因子シグナルペプチド配列(SEQ ID NO.1の1〜24位がXhoI部位を有する)を挿入し、直後を制限酵素DraIIIの認識部位とし、3'末端にVan91IとEcoRI認識部位を備えてクローニングベクターpMD18−T(タカラ社製)に連結し、プラスミドpGLK1161−Tを構成した。
【0081】
GLK1162二量体を獲得するため、まずプラスミドpGLK1161−TをVan91I/DraIIIでダブルダイジェスト(double digestion)した。そして、1%アガロースゲルで電気泳動を行い、約330bpの大きさの断片(即ち、GLK1161)を切り出し回収し、カラム遠心分離式少量ゲル回収キットを用いて精製して(上海華舜生物工程有限公司)、−20℃で保存し使用に備えた。同時に、プラスミドpGLK1161−TをVan91Iで切断した。切断したプラスミドは前述のように切り出し回収し、30μlのTE溶液に溶解させた。続いて、アルカリフォスファターゼ(Alkaline Phosphatase BAP,タカラ社製)を用いて処理した。
【0082】
リン酸化処理したpGLK1161−Tと、Van91I/DraIIIでダブルダイジェストして回収したGLK1161断片とを、T4DNAリガーゼを用いてモル比1:10で連結した。そして、連結した生成物をE.coliDH5α形質転換受容性細胞に形質転換した。
【0083】
形質転換プレート(Transformation plate)からモノクローンをピック-アップし、アンピシリン耐性のLB液体培地にいれて培養し、一般的な方法によってプラスミドを抽出し、XhoI/EcoRIを用いてダブルダイジェスト評価を行った。DNA塩基配列決定法(DNA sequencing)を用いて陽性クローンを確認した。
【0084】
上記と同様に、GLK1162をpGLK1162−Tに連結したところ、4つの単量体GLK1161を含有する目的遺伝子GLK1164(配列についてはSEQ ID NO.3を参照)が構築された。
【0085】
2.発現プラスミドpPIC−GLK1164の構築
図2を参照する。pPIC9(インビトロジェン社製)を発現プラスミドとして用い、XhoI/EcoRIで切断した後に、1%アガロースゲル電気泳動を行い、断片を回収した。pGLK1164−TをXhoI/EcoRIで切断し、約1200bpのGLK1164の目的断片を回収した。GLK1164とpPIC9の切断片をT4DNAリガーゼで結合させた。そして、結合した生成物をE.coliDH5α形質転換受容性細胞に形質転換し、評価した。
【0086】
3.タンパク質rGLK1164を発現する酵母の構築
メタノール資化酵母(Pichia pastor)GS115(His‐)を発現宿主細菌とし、電気的形質転換(electroporation)によって、線形化プラスミドpPIC−GLK1164をGS115に形質転換した。そして、シングルコロニーが現れるまで30℃で3日間培養した。
【0087】
4.rGLK1164タンパク質の発現スクリーニング
上記のように形質転換した組換え酵母のシングルコロニーを10mlのBMGY液体培地に接種し、30℃、250rpmで24時間培養してから一晩放置し、上澄みを捨て、1%メチルアルコールを含有した10mlのBMMY液体培地に加え、30℃、250rpmで発現を誘導した。そして、発現が相対的に良好な菌株を発現株とした。
【0088】
5.タンパク質rGLK1164の発酵と精製
ステップ4で得た発現株を液体YPD培地に接種し、30℃、250rpm振動で、OD600が約20となるまで一晩培養し、これを発酵槽へ放置する種培養液体とした。培養した液体はビー・ブラウン社製の発酵槽BIOSTATC−10に入れ、培地はインビトロジェン社製のピキア酵母発酵ガイドに基づき配置した。接種量を10%とし、発酵温度30℃、pH5.0に設定し、グリセリンが消耗されてからメチルアルコールの追加を開始し、発現を誘導した。発現段階では発酵温度を25℃に制御し、発酵槽に72時間放置して誘導した。
【0089】
高速遠心分離で菌体を取り除き、発酵上澄みを1リットル取り、予め氷で冷やしたアセトンを4℃下で最終濃度40%になるまで加え、30分攪拌し、遠心分離を行い、沈殿物を廃棄した。上澄み中に、予め氷で冷やしたアセトンを最終濃度80%になるまで再度添加し、30分攪拌し、遠心分離を行って沈殿物を収集した。得られた組換えゼラチン様融合タンパク質の沈殿物を100ミリリットルの純水中に再懸濁(resuspend)させて、20mM PB、pH7.0、4℃で一晩透析した。
【0090】
透析したゼラチン融合タンパク質溶液を、予め緩衝液A(20m MPB、pH7.0)で平衡化したQ Sepharose FFカラム(GEヘルスケア社製XK26/20、カラム体積50ml)に装填し、その後カラム体積2倍の緩衝液Aで未結合のタンパク質を溶出し、続いて線状勾配、10カラム体積、0〜100%緩衝液B(20mM PB、0.5M NaCl、pH7.0)で溶出した。
【0091】
溶出したrGLK1164を、タンパク質濃度約10mg/mlまで限外ろ過濃縮し(ミリポア社製MWCO10KD使用)、続いてSephadex G25カラム(GEヘルスケア社製XK26/20使用。カラム体積50ml)で脱塩した。緩衝液は10mM PB、pH7.0で、凍結乾燥した。
【0092】
タンパク質濃度の測定にはブラッドフォード法(Bradford method)を用いた。測定の結果、発酵もろみ液1リットルにつき約40mgのrGLK1164が生成された。精製収率は約20%で、RP−HPLC分析によると純度は98%であった。
【実施例2】
【0093】
融合タンパク質rGLK1164/G−CSFの発現、精製及び評価
1.hG−CSF遺伝子の合成
hG−CSF遺伝子(配列についてはSEQ ID NO.4を参照)は上海沢衡生物技術有限公司(Shanghai Zeheng Biotechnology Co.,Ltd.)により合成され、pMD18−Tベクターにクローニングされて、プラスミドpG−CSF−Tを構築した。G−CSFの5'末端はDraIIIの認識部位、3'末端はEcoRIの認識部位とした。
【0094】
2.発現プラスミドpPIC−GLK1164/G−CSFの構築
基本的には実施例1と同様である。発現プラスミドの構築フローは図3に示した。GLK1164/G−CSFのDNAコード配列、及び融合タンパク質GLK1164/G−CSFの成熟アミノ酸配列については、SEQ ID NO.5とSEQ ID NO.6の通りである。
【0095】
3.融合タンパク質rGLK1164/G−CSFを発現する酵母の構築
pPIC−GLK1164/G−CSFのメタノール資化酵母(Pichia pastor)GS115(His‐)の形質転換、プラスミドの線形化処理、GS115形質転換受容性細胞の生成、及び電気的形質転換の方法については、実施例1と同様である。
【0096】
4.融合タンパク質rGLK1164/G−CSFの発現
形質転換した組換え酵母シングルコロニーを10mlのBMGY液体培地へ接種し、発現を誘導する過程は実施例1と同様である。
【0097】
5.融合タンパク質rGLK1164/G−CSFの精製
実施例1を参照して発酵を行い、発酵液を遠心分離によって菌体除去し、遠心分離後に1リットルの上澄みを取り、0.45μmのフィルタでろ過除菌した。除菌後の上澄みをpH3.0に調節し、注射用水でコンダクタンス5ms/cm未満まで希釈した。そして、このように処理した上澄みを予め緩衝液A(20mM NaAc、pH3.0)で平衡化したSP Sepharose FFカラム(GEヘルスケア社製XK26/20。カラム体積50ml)に装填し、装填後にカラム体積2倍の緩衝液Aで未結合のタンパク質を溶出し、続いて緩衝液B(20mM NaAc、0.3M NaCl、pH3.0)で溶出して、溶出ピークを収集した。
【0098】
溶出したrGLK1164/G−CSFをSephadex G25(GEヘルスケア社製XK50/30、カラム体積600ml)で脱塩した。緩衝液は20mM Tris、pH8.5を用いた。脱塩後のGLK1164/G−CSF溶液を、予め緩衝液C(20mM Tris、pH8.5)で平衡化したQ Sepharose FFカラム(GEヘルスケア社製XK16/20、カラム体積20ml)に装填し、装填後にカラム体積2倍の緩衝液Cで未結合のタンパク質を溶出してから、線状勾配、10カラム体積、0〜100%緩衝液D(20mM Tris、0.5M NaCl、pH8.5)でGLK1164/G−CSFを溶出した。
【0099】
溶出したGLK1164/G−CSFを、タンパク質濃度10mg/mlまで限外ろ過濃縮し(ミリポア社製MWCO10KD使用)、続いてSephadex G25カラム(GEヘルスケア社製XK26/20使用。カラム体積50ml)で脱塩した。緩衝液は10mM PB、pH7.0で、凍結乾燥した。
【0100】
タンパク質濃度の測定にはブラッドフォード法を用い、発酵上澄み1リットルにつき30mgのGLK1164/G−CSFが生成された。精製収率は約28%であった。分析結果は表4に示す。
【実施例3】
【0101】
rGLK1164/G−CSFの分析・同定
1.SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)
8%SDS−PAGE電気泳動で、得られたrGLK1164/G−CSFの純度を分析したところ、見かけ分子量が66KD〜97KDの一本鎖(single band)(図4参照)であることがわかった。
【0102】
2.分子ふるいクロマトグラフィー―高速液体クロマトグラフィー(SEC−HPLC)
SEC−HPLCにはTSK Gel G3000 Swxlカラムを用い、緩衝液を50mM PB、0.25M NaCl、pH7.0とした。結果を図5に示す。見かけ分子量は、約154KD(見かけ分子量:理論分子量=2.8)であった。
【0103】
3.逆相クロマトグラフィー―高速液体クロマトグラフィー(RP−HPLC)
RP−HPLCにはVYDAC protein C4 TP5415カラムを用い、移動相Aを0.1%TFA含有水溶液、移動相Bを0.1%TFA含有アセニトリル水溶液(アセニトリル:水溶液=9:1)とした。図6に結果を示す。
【0104】
4.ウェスタンブロット(Western blot)分析
G−CSFを比較対象とし、使用する一次抗体を抗マウスG−CSFポリクロナル抗体(ANTIGENIX)として、得られたGLK1164/G−CSFに対し免疫ブロット分析を行った。実験結果(図7)より、90KD付近に陽性バンド(Positive band)があった。
【0105】
5.体外活性測定
rGLK1164/G−CSFの体外活性測定にはG−CSF依存性細胞株NFS60を用い、MTT法により生物活性を測定した(『中華人民共和国薬典』,2005版,3部)。
【0106】
うち、代表的な活性測定結果を図8に示した。
【0107】
rGLK1164/G−CSF活性は約3.3×107IU/mgであり、モル比換算でG−CSF生物活性の約146%に相当した。
【0108】
6.体外安定性
rhG−CSF標準品とrGLK1164/G−CSFを、20mM PB、pH6.0の溶液に、タンパク質濃度が1mg/mlになるまで溶解した。無菌ろ過を行って無菌ペニシリン瓶に充填し、40℃で48時間振動させた後、SEC−HPLC法で重合体と含有量を分析した。その結果(表2及び図9参照)、rhG−CSFサンプルについては大量の重合体が現れ、タンパク質の総含有量も著しく低下したが、融合タンパク質rGLK1164/G−CSFについてはこれら指標の変化はわずかであった。これは、GLKと融合後に生物活性タンパク質の体外での安定性が大幅に高まったことを示している。
【0109】
【表2】
【実施例4】
【0110】
rGLK1164と融合タンパク質rGLK1164/G−CSFのマウス体内における免疫原性研究
動物免疫:4群のBalc/Cマウスを用いた。各群は体重約25gの3匹のマウスからなる。マウスの背の一点に、週1回4度の皮下注射を実施した。薬剤量は、融合タンパク質rGLK1164/G−CSF、rGLK1164共に2.5nmolとした。なお、ブランク対照群については同体積の生理食塩水を注射した。免疫第4周及び第8回の免疫終了1週間後に採血し、血清を分離して-70℃で保存した。
【0111】
投薬4回後の血清抗体価分析
タンパク質rGLK1164又はG−CSFを0.2Mの炭酸塩緩衝液(pH9.6)で1μg/mlに調製し、エライサプレートの各孔に100μlずつ充填した後、エライサプレートの各孔を4℃で一晩コーティングした。続いて、PBSTで3回洗浄し(毎回につき、5分間続けた)、5%の脱脂粉乳を用いて1時間振動、密封した後、PBSTで3回洗浄した(毎回につき、5分間続けた)。各群の血清を1:50、1:200、1:800の比率で取り、37℃で1時間インキュベートした後、二次抗体としてHRP標識(HRP−conjugated)ヤギ抗マウス抗体を加えて1時間インキュベートし、脱水後にPBSTで洗浄し、TMB−HCLで発色し、マイクロプレートリーダー(Microplate Reader)を用いて450nm波長で測定を行った。同時に、200ng/mlのウサギ抗ヒトG−CSF抗体を陽性対照とした。
【0112】
結果を図10に示す。G−CSFコーティング群は、融合タンパク質rGLK1164/G−CSF投薬群と陽性対照群のみに高い吸収値がみられ、rGLK1164コーティング群は、全ての血清サンプルで吸収値が低く、投薬4週間後に生成された抗体はいずれも抗G−CSFであり、抗rGLK1164抗体は生成されなかった。このことは、本発明のゼラチン様ユニットに免疫原性がないことを示している。
【実施例5】
【0113】
融合タンパク質rGLK4/G−CSFの薬効学及び薬物動態学研究
rhG−CSF対象製品(米国アムジェン社製フィルグラスチム)、rHSA/G−CSF(米国特許第5876969号に基づき作成)、rGLK1164/G−CSF及びrGLK1164の4種類のタンパク質についてSDラット体内における薬物代謝及び薬効情況を比較した。
【0114】
中国科学院上海動物試験センターのSPF級成年SDラット(約300〜350グラム)を用い、表3のようにグループ分け、注射を行い、尾静脈から血液をサンプルリングし、白血球数をカウントした。そして、3000rpmで5分間の遠心分離を行って血清を分離し、−20℃で保存した。
【0115】
薬物動態の測定においては、二重抗体サンドイッチエライサ法(double antibody sandwich ELISA method)を用い、サンプル中のrhG−CSF、rGLK1164/G−CSF及びrHSA/G−CSFの血漿中濃度を測定した。具体的な操作については、Human G−CSF Duo Setキット、Human G−CSF ELISA Construction Kit(ANTIGENIX)の操作手順書を参照した。そして、Micro Cal Originの4パラメーター論理曲線を用いて基準曲線を描写し、回帰方程式及び関連統計パラメーターを求めた。また、Microsoft Excel 2003を用い、サンプルデータを基準曲線の回帰方程式に代入して関連数値を算出した。最後に、3P87ソフトウェアで曲線あてはめ(curve fitting)を行い、主要な薬物動態学パラメーターを算出した。
【0116】
【表3】
【0117】
薬効についての結果を図11に示す。フィルグラスチム(Filgrastim)を1回注射した群と比較すると、rGLK1164/G−CSF群とrHSA/G−CSF群は投薬48時間後に白血球が明らかに増加し、且つその増加幅と持続時間はrhG−CSF群を大きく上回った。投薬量の異なるrGLK1164/G−CSF群間では、投薬量の増加に伴って白血球の増え幅は明らかに増加し、白血球増加持続時間も長くなった。これに対し、投薬量を同じとしたrGLK1164/G−CSFとrHSA/G−CSFでは、白血球増加の効果及び持続時間に明らかな違いはなかった。
【0118】
薬物代謝についての結果を図12に示した。血漿中濃度‐時間曲線のグラフから明らかなように、rhG−CSFは皮下注射後に急速に代謝され、24時間後には検出できなくなったが、rGLK1164/G−CSF群とrHSA/G−CSFは72時間経っても検出可能であった。皮下投薬したrGLK1164/G−CSFのラット体内末端における半減期は10時間程度であり、rHSA/G−CSFよりやや長かった。
【実施例6】
【0119】
タンパク質GLK/G−CSFの構造別性質比較
同様の方法を用いて、構造の異なるタンパク質GLK/G−CSFを構築し、その活性、半減期(SDラット)等の関連データを比較した。
【0120】
【表4】
【0121】
うち、GLK420はヒト由来のCOL5A1型コラーゲン配列のうち1150−1569位置から選択した。全配列については、それぞれSEQ ID NO.7、SEQ ID NO.8の通りである。また、GLK420/G−CSFをコードするDNA及びアミノ酸配列については、それぞれSEQ ID NO.9、SEQ ID NO.10の通りである。
【実施例7】
【0122】
融合タンパク質rGLK1164/IFNαの発現と精製
1.インターフェロンα2b(IFNα)遺伝子の合成
IFNα遺伝子は上海沢衡生物有限公司により合成され(配列についてはSEQ ID NO.11参照)、pMD18−Tベクターにクローニングされて、プラスミドpIFNα−Tを構築した。IFNαの5'末端はDraIII認識部位、3'末端はEcoRI認識部位とされた。
【0123】
2.発現プラスミドpPIC−GLK1164/IFNαの構築
構築フローを図13に示す。完全なGLK1164/IFNαのDNA配列及び成熟融合タンパク質rGLK1164/IFNαのアミノ酸配列は、それぞれSEQ ID NO.12及びSEQ ID NO.13の通りである。
【0124】
3.融合タンパク質rGLK1164/IFNαを発現する酵母の構築及びスクリーニング
実施例1種類と同様の方法を用いた。
【0125】
4.融合タンパク質rGLK1164/IFNαのメタノール資化酵母GS115における発現及び精製
発酵と精製の方法は実施例1と同様であり、精製した生成物には8%SDS−PAGE電気泳動分析を用いた。図14にその結果を示す。
【0126】
5.体外活性測定
融合タンパク質rGLK1164/IFNαの体外生物活性の測定には、通常の細胞変性抑制法(WISH細胞)を用いた(『中華人民共和国薬典』,2005版,3部)。
【0127】
細胞変性抑制法により測定した融合タンパク質rGLK1164/IFNαの体外活性は、約2.2×107IU/mgIFNαであった。モル比換算すると未融合時の約11%であり、「アルブミン−IFNα」融合タンパク質の体外活性(わずか1.4%)の7倍以上に達した。
【0128】
6.薬効学研究
研究はアカゲザルの体内で行われた。アカゲザルは全15匹で、オス・メス半々とし(3〜4才、4.2〜4.8キログラム)、中国軍事医学研究院動物センターから購入した。各群を3匹とし、5群に分けて皮下注射を行った。サンプルはPBSで希釈した。融合タンパク質rGLK1164/IFNα3群の分量は、それぞれ0.36pmol/kg、1.0pmol/kg、3.6pmol/kgとした。また、IFNα群の分量は0.36pmol/kg、ブランク対照群であるタンパク質rGLK1164の分量は0.36pmol/kgであった。0時間、1時間、2時間、4時間、8時間、10時間、14時間でそれぞれ血清を取り、2',5'−OAS放射性免疫検定キット(日本国東京栄研化学社製)を用いて血清中の2',5'−OAS活性を測定した。
【0129】
図15に示すように、アカゲザル体内の2',5'−OAS濃度には明らかな分量依存性があった。2',5'−OASの体内活性は、2日後にピーク値に達した。融合タンパク質rGLK1164/IFNα群は、体内において14日後でも検出可能であったが、IFNα群は6日後にはブランク値に近くなり、同量のrGLK1164/IFNαの2',5'−OAS活性はIFNαよりも明らかに高かった。このことは、融合タンパク質の半減期が大幅に延長されたことを示している。
【0130】
性質の異なるGLK配列を用い、同様の方法で性質の異なるGLK/IFNα融合タンパク質を構築し、構造上の特徴、半減期(SDラット)等の関連データを比較した結果は、表5に示す通りである。
【0131】
【表5】
【0132】
表中の4本のGLK配列の長さは類似していたが、融合後の最終的な半減期は異なっていた。
GLK1162P−とGLK1162を比較すると、元の配列における全てのProとHypをSerに置換した後、親水性の変化は大きくなかったが、半減期は大きく低減した。
GLK302配列はProとHypを含まず、GGSGGS反復を基本配列とした。GLK1162P−と比較すると、GLK302配列はより多くのGlyを含み(Gly総数とnの比は2.02)、両者の分子量と等電点は近似していたが、GLK302の方が疎水性が強く(GRAVY値が増加)、体内半減期もGLK1162P−より短かった。このことは、Gly総計とnの比は1.5以下が適しており、好ましくは1.15以下であり、より好ましくは1.05以下であることを示している。
【0133】
GLK1162N−とGLK1162を比較すると、元の配列の全てのAsnをGluに置換した後、親水性の変化は大きくないが、等電点は明らかに低減し、体内半減期は大幅に延長された。
【0134】
GLK1162/IFNα、GLK1162P−/IFNα、GLK302/IFNα、GLK1162N−/IFNαの構築方法は実施例1及び実施例2と同様であり、成熟ペプチドのアミノ酸配列は、SEQ ID NO.14〜17に示す通りである。
【実施例8】
【0135】
rExendin−4/rGLKの発現及び精製
GLK1046遺伝子は6つの同じ単量体GLK1041(単量体の配列はSEQ ID NO.18を参照)を直列してなる。うち、単量体はGLK1041と称され、104のアミノ酸(配列はSEQ ID NO.19を参照)をコードする。GLK1076遺伝子は6つの同じ単量体GLK1071(単量体の配列はSEQ ID NO.20を参照)を直列してなる。うち、単量体はGLK1071と称され、107のアミノ酸(配列はSEQ ID NO.21を参照)をコードするDNAは上海英駿馬生物技術有限公司(インビトロジェン社)により合成された。構築方法は実施例1と同様であった。GLK1042とGLK1072をそれぞれpGLK1044−T、pGLK1074−Tに結合すると、6つの単量体GLK1041、GLK1071を含むプラスミドpGLK1046−T、pGLK1074−Tが構築された。
【0136】
1.Exendin−4遺伝子のクローン
Exendin−4遺伝子は上海沢衡生物技術有限公司により合成された。そのDNA配列は、SEQ ID NO.22の通りである。
【0137】
合成後にpMD18−Tベクターにクローニングし、プラスミドpExendin−4−Tを構築した。Exendin−4の5'末端はα因子シグナルペプチド配列(XhoI部位を含む)を持ち、3'末端はDraIII認識部位とされた。
【0138】
2.発現プラスミドpPIC−Exendin−4/GLK1046とpPIC−Exendin−4/GLK1076の構築を図16に示した
SEQ ID NO.23〜26は、それぞれExendin−4/GLK1046とExendin−4/GLK1076のDNA配列及び成熟融合タンパク質のアミノ酸配列である。
【0139】
3.融合タンパク質rExendin−4/GLK1046、rExendin−4/GLK1076を発現する酵母の構築及びスクリーニング
実施例1に同じである。
【0140】
4.融合タンパク質rExendin−4/GLK1046、rExendin−4/GLK1076の発酵と精製
発酵方法と精製方法は実施例1と同様であり、溶出、精製によって得たrExendin−4/GLK1046とrExendin−4/GLK1076は、それぞれタンパク質濃度10mg/mlとなるまで限外ろ過濃縮され(ミリポア社製MWCO 10KD使用)、続いてSephadex G25カラム(GEヘルスケア社製XK26/20使用。カラム体積50ml)で脱塩した。緩衝液は10mM PB、pH7.0で、凍結乾燥した。電気泳動の分析結果は図17に示した。
【実施例9】
【0141】
融合タンパク質rExendin−4/GLK1046とrExendin−4/GLK1076の生物活性
GLP−1Rを安定導入されたBHK細胞(babyhamster kidney cell)は、GLP−1及びアゴニストの信号刺激を受容して細胞内のcAMP含有量を増加させることが可能である。よって、cAMPの放出量を測定することは、間接的に融合タンパク質rExendin−4の生物活性を反映することになる。BHK−GLP−1R細胞の培養方法は、前述のLi Yらの方法(Li Y et al.,J Biol Chem.,278:471−478,2003)の通りである。
【0142】
結果として、rExendin−4/GLKは、BHK−GLP−1Rにおいて分量依存的に細胞内のcAMPの発生を刺激可能であり、Exendin−4標準品と類似の体外受容体結合活性を備えることがわかった(図18において、Exendin−4 EC50=0.017nM、rExendin−4/GLK1046 EC50=0.095nM、rExendin−4/GLK1076 EC50=0.113nM)。
【実施例10】
【0143】
rExendin−4/GLK1046とrExendin−4/GLK1076の薬物動態学
融合タンパク質の薬物動態学研究はアカゲザルの体内で行われた。アカゲザルは全6匹で、オス・メス各3匹とし(3〜4才、4.2〜4.8キログラム)、中国軍事医学研究院動物センターから購入した。動物は、実験動物に対する通常の方法で飼育した(浙江大学実験動物センター)。各群は3匹からなり、皮下注射を行った。サンプルは、PBSで4mg/kgに希釈した。そして、0.5時間、1時間、4時間、8時間、12時間、24時間、48時間、72時間、96時間、120時間、144時間、192時間、240時間、288時間、336時間でそれぞれ血液をサンプリングし、予めEDTAを充填した採取管に採集した。高感度Ex−4RIAキット(米国Phoenix pharmaceuticals社製)を用い、血漿中の融合タンパク質の濃度を測定した。実験では、ブランク血漿を用いて希釈調整した。
【0144】
結果は図19に示すように、rExendin−4/GLK1046とrExendin−4/GLK1076の皮下注射後、サル体内の末端半減期はそれぞれ70.4時間及び45.4時間であった。rExendin−4/rGLK1046を皮下注射して48時間後には最高濃度に達し、この時の濃度は36,980ng/mlであった。半減期は15倍以上となった(注:Exendin−4の半減期はわずか2.4時間にとどまった)。
【実施例11】
【0145】
rEPO/GLK1074融合タンパク質の発現と精製
1.EPO遺伝子のクローンニング
EPO遺伝子は上海沢衡生物技術有限公司により合成された。そのDNA配列はSEQ ID NO.27に示す通りである。
【0146】
合成後、pMD18−Tにクローニングし、プラスミドpEPO−Tを構築した。EPO5'末端はNheI認識部位とKozak配列を持ち、3'末端はDraIII認識部位を持った。なお、イタリック部分はEPOの天然シグナルペプチド配列である。
【0147】
2.GLK1074遺伝子のクローンニング
GLK1074遺伝子配列に基づき、プライマーGLK1074/P1(SEQ ID NO.28)、GLK1074/P2(SEQ ID NO.29)を合成した。プライマーGLK10741はDraIII認識部位を持ち、プライマーGLK10742はNotI認識部位を持った。pGLK1074−Tを鋳型とした。また、通常のPCRを用いて増幅産物を得た。
【0148】
3.発現プラスミドpCEP4−EPO/GLK1074の構築
構築フローは図20に示す通りである。rEPO/GLK1074のDNA配列と成熟融合タンパク質のアミノ酸配列とは、それぞれSEQ ID NO.30とSEQ ID NO.31に示す通りである。
【0149】
4.組換えタンパク質rEPO/GLK1074の発現細胞株の構築
pCEP4−EPO/GLK1074プラスミドは、超高純度プラスミド抽出キット(Marligen社より購入)を用いて抽出した。中国キヌゲネズミの卵巣細胞(Chinese Hamster Ovary,CHO)を宿主細胞として、通常のリポフェクションを行った。その後、エライサ法でEPO活性を測定した。陽性クローンは、メトトレキサート加圧(MTX selective pressure)によってスクリーニングされた。うち、陽性細胞を1株取り、CD CHO無血清培地(GIBCO社から購入)で徐々に培養した(Debeljak N et al.,Anal Biochem.,359:216-223,2006)。
【0150】
5.組換えタンパク質rEPO/GLK1074の発現
ステップ4で得た発現細胞株を無血清培地で蘇生させると、細胞は、細胞培養用回転瓶125ml、500ml、1000mlの順で増殖した。これをB.Braun Biostart培養槽に接種し、細胞密度が1.5×106/mlを超えると、毎日10%の10倍濃縮培地を補充し、15日程度培養した。そして、毎日サンプリングして細胞密度をカウントし、ローリー法(lowry method)で目的タンパク質の発現量を測定した。発酵培養終了後、組換え発現細胞を収集し、6000r/minで遠心分離を5分間行い、上澄みを収集した。そして、8%SDS−PAGE電気泳動分析を行った。
【0151】
6.組換えタンパク質rEPO/GLK1074の精製
精製方法は実施例1と同様である。
【実施例12】
【0152】
融合タンパク質rEPO/GLK1074の正常なマウス体内における赤血球生成増進作用
マウス体内において、融合タンパク質rEPO/GLK1074とrEPO標準品(アムジェン社製EPOGENR)の赤血球生成増進活性を比較した。実験では、中国科学院上海動物試験センターからのBALB/cマウス(オス、6〜8週齢、18〜20g/匹)を用いた。下表のようにグループ分け、注射、尾静脈血サンプリングを行った。比色法で、ヘモグロビン(Hb)含有量を分析した。
【0153】
【表6】
【0154】
週1度の皮下投薬によって、rEPO/GLK1074の赤血球生成増進作用を研究した。結果は図21に示すように、rEPO/GLK1074の分量を変えた群間で、分量の増加に応じてHbレベルも上がることが分かった。同様に、rEPOも赤血球生成増進作用を示したが、モル数が近い条件下では、活性は明らかにrEPO/GLK1074よりも低かった。即ち、rEPOに比べて、rEPO/GLK1074は投薬周期を延長可能なだけでなく、赤血球生成増進作用の強化も可能であった。
【実施例13】
【0155】
薬用組成物
以下のように、融合タンパク質rGLK1164/G−CSFを含有する注射用水を生成した。
【0156】
タンパク質濃度が15.5mg/mLで且つ10mmol/Lリン酸緩衝液(pH6.5)を含むrGLK1164/G−CSF融合タンパク質原液を200ミリリットル採取した。次に、7.13グラムのグリシンを原液中に完全に溶解させ、更にpHが6.5の0.5mol/Lリン酸緩衝液を2.2ミリリットル加え、10%Na0Hでph6.5まで調節した。最後に、適量の注射用水を310ミリリットルまで加え、均一になるまで混合した後、0.22ミクロンのろ過膜を使って当該調合剤を無菌ろ過し、ペニシリン瓶に充填した。最終的な調合剤成分は、融合タンパク質rGLK1164/G−CSF濃度10mg/mL、リン酸緩衝液濃度10mmol/L、pH6.5、グリシン含有量2.3%(重量比)となった。
【0157】
【表6】
【0158】
本発明が提示した全ての文献は、各文献が単独で参考引用されるように、本願において参考のために引用した。なお、当業者は、本発明の上述の内容を読了後、本発明に各種の変更又は修正を加えてもよく、これら等価形態は同様に本願の特許請求の範囲が限定する範囲に含まれると解釈すべきである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンパク質の体内半減期を延長するための組換えゼラチン様ユニットであって、
当該組換えゼラチン様ユニットは、(Gly−X−Y)n構造を持つポリペプチドであり、うち、Glyはグリシン残基であり、XとYはそれぞれ20種類の天然アミノ酸のうちCysを除く任意のアミノ酸残基であり、nは20〜300であり、
且つ、上記組換えゼラチン様ユニットは、
(a)当該組換えゼラチン様ユニットのうち、親水性アミノ酸Asn、Asp、Gln、Glu、Lys、Pro、Ser、Hyp、Argのアミノ酸含有量パーセンテージの総和は、40%〜2/3(66.7%)であり、
(b)前記組換えゼラチン様ユニットのうち、Pro数とHyp数の和とnとの比は0.6以上であり、
(c)Gly数の和とnの比は1.15以下であり、
付加条件として、前記ゼラチンユニットは天然のゼラチンタンパク質ではないことを特徴とする、組換えゼラチン様ユニット。
【請求項2】
前記組換えゼラチン様ユニットは、
(d)等電点が3〜7であり、
(e)コラスカー及びトンガオンカー法で算出した平均抗原指数が0.98以下であり、
(f)ProtParam式で計算した場合、親水性を表すGRAVY値が−1.1より小さいことを特徴とする、請求項1に記載の組換えゼラチン様ユニット。
【請求項3】
前記組換えゼラチン様ユニットの分子量が10〜100kDaであることを特徴とする、請求項1に記載の組換えゼラチン様ユニット。
【請求項4】
組換え融合タンパク質であって、前記組換え融合タンパク質は生物活性ポリペプチド、及び請求項1に記載の組換えゼラチン様ユニットを融合してなることを特徴とする、組換え融合タンパク質。
【請求項5】
前記組換えゼラチンユニットを含有しない生物活性ポリペプチドに比べ、前記融合タンパク質の体内半減期は少なくとも2倍であることを特徴とする、請求項4に記載の組換え融合タンパク質。
【請求項6】
前記組換えゼラチンユニットは前記融合タンパク質のアミノ末端、カルボキシル末端、両端、又は中間に位置することを特徴とする、請求項4に記載の組換え融合タンパク質。
【請求項7】
前記組換え融合タンパク質は、下記化学式(1)に示す単量体又はその重合体であり、
{GLK}p−R−{GLK}q 式1
うち、GLKは請求項1に記載の組換えゼラチン様ユニットを表し、pとqは各々が0又は1であり、且つpとqは同時に0とはならず、Rは前記ゼラチンユニットを含有しない、生物学的機能を持つタンパク質であり、且つ前記Rはゼラチンタンパク質ではなく、“−”はペプチド結合を表すことを特徴とする、請求項4記載の組換え融合タンパク質。
【請求項8】
前記組換え融合タンパク質は重合体であり、且つ化学式(1)における各RとGLKは同じであっても異なっていてもよいことを特徴とする、請求項7記載の組換え融合タンパク質。
【請求項9】
請求項4に記載の組換え融合タンパク質をコードすることを特徴とする、ポリヌクレオチド。
【請求項10】
請求項9に記載のポリヌクレオチド配列を含む、発現ベクター。
【請求項11】
請求項10に記載の発現ベクターを含むか、或いは染色体に請求項9に記載のポリヌクレオチドを組み込んでいることを特徴とする、組換え宿主細胞。
【請求項12】
請求項4に記載の組換え融合タンパク質を生成する方法であって、
(1)請求項11に記載の組換え宿主細胞を培養して、請求項4に記載の組換え融合タンパク質を発現するステップと、
(2)前記組換え融合タンパク質を分離するステップと、
を含むことを特徴とする。
【請求項1】
タンパク質の体内半減期を延長するための組換えゼラチン様ユニットであって、
当該組換えゼラチン様ユニットは、(Gly−X−Y)n構造を持つポリペプチドであり、うち、Glyはグリシン残基であり、XとYはそれぞれ20種類の天然アミノ酸のうちCysを除く任意のアミノ酸残基であり、nは20〜300であり、
且つ、上記組換えゼラチン様ユニットは、
(a)当該組換えゼラチン様ユニットのうち、親水性アミノ酸Asn、Asp、Gln、Glu、Lys、Pro、Ser、Hyp、Argのアミノ酸含有量パーセンテージの総和は、40%〜2/3(66.7%)であり、
(b)前記組換えゼラチン様ユニットのうち、Pro数とHyp数の和とnとの比は0.6以上であり、
(c)Gly数の和とnの比は1.15以下であり、
付加条件として、前記ゼラチンユニットは天然のゼラチンタンパク質ではないことを特徴とする、組換えゼラチン様ユニット。
【請求項2】
前記組換えゼラチン様ユニットは、
(d)等電点が3〜7であり、
(e)コラスカー及びトンガオンカー法で算出した平均抗原指数が0.98以下であり、
(f)ProtParam式で計算した場合、親水性を表すGRAVY値が−1.1より小さいことを特徴とする、請求項1に記載の組換えゼラチン様ユニット。
【請求項3】
前記組換えゼラチン様ユニットの分子量が10〜100kDaであることを特徴とする、請求項1に記載の組換えゼラチン様ユニット。
【請求項4】
組換え融合タンパク質であって、前記組換え融合タンパク質は生物活性ポリペプチド、及び請求項1に記載の組換えゼラチン様ユニットを融合してなることを特徴とする、組換え融合タンパク質。
【請求項5】
前記組換えゼラチンユニットを含有しない生物活性ポリペプチドに比べ、前記融合タンパク質の体内半減期は少なくとも2倍であることを特徴とする、請求項4に記載の組換え融合タンパク質。
【請求項6】
前記組換えゼラチンユニットは前記融合タンパク質のアミノ末端、カルボキシル末端、両端、又は中間に位置することを特徴とする、請求項4に記載の組換え融合タンパク質。
【請求項7】
前記組換え融合タンパク質は、下記化学式(1)に示す単量体又はその重合体であり、
{GLK}p−R−{GLK}q 式1
うち、GLKは請求項1に記載の組換えゼラチン様ユニットを表し、pとqは各々が0又は1であり、且つpとqは同時に0とはならず、Rは前記ゼラチンユニットを含有しない、生物学的機能を持つタンパク質であり、且つ前記Rはゼラチンタンパク質ではなく、“−”はペプチド結合を表すことを特徴とする、請求項4記載の組換え融合タンパク質。
【請求項8】
前記組換え融合タンパク質は重合体であり、且つ化学式(1)における各RとGLKは同じであっても異なっていてもよいことを特徴とする、請求項7記載の組換え融合タンパク質。
【請求項9】
請求項4に記載の組換え融合タンパク質をコードすることを特徴とする、ポリヌクレオチド。
【請求項10】
請求項9に記載のポリヌクレオチド配列を含む、発現ベクター。
【請求項11】
請求項10に記載の発現ベクターを含むか、或いは染色体に請求項9に記載のポリヌクレオチドを組み込んでいることを特徴とする、組換え宿主細胞。
【請求項12】
請求項4に記載の組換え融合タンパク質を生成する方法であって、
(1)請求項11に記載の組換え宿主細胞を培養して、請求項4に記載の組換え融合タンパク質を発現するステップと、
(2)前記組換え融合タンパク質を分離するステップと、
を含むことを特徴とする。
【図1】
【図2】
【図3】
【図5】
【図6】
【図13】
【図15】
【図16】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図4】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図14】
【図17】
【図2】
【図3】
【図5】
【図6】
【図13】
【図15】
【図16】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図4】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図14】
【図17】
【公表番号】特表2013−511263(P2013−511263A)
【公表日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−539158(P2012−539158)
【出願日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際出願番号】PCT/CN2009/075039
【国際公開番号】WO2011/060583
【国際公開日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【出願人】(512130648)浙江大学 (1)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際出願番号】PCT/CN2009/075039
【国際公開番号】WO2011/060583
【国際公開日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【出願人】(512130648)浙江大学 (1)
【Fターム(参考)】
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