説明

非常時対応水処理方法及び該システム、並びに車載型電解装置

【課題】機動性が高く災害地においても容易に導入することができ、コンパクトでありながら回収汚泥の窒素成分等の負荷を低減可能で、また造水時に適用した場合には環境への影響を最小限に抑えて効率的に造水を行うことができる非常時対応水処理方法及び該システム、並びに車載型電解装置を提供する。
【解決手段】廃水20を濃縮する汚泥濃縮車1と、電解処理を行う車載型電解装置3とを備え、し尿、浄化槽汚泥若しくは下水を処理する廃水処理施設を備えた地域が被災し、平常時における廃水処理機能が損なわれて量的若しくは質的負荷が超過した廃水20が発生した場合に、該廃水20の性状に応じて汚泥濃縮車1、車載型電解装置3を選択的にライン結合して目的とする廃水処理に対応可能な水質となるように処理し、好適には汚泥濃縮車1にて廃水20を濃縮した後に、濃縮分離液の少なくとも一部を車載型電解装置3にて電解処理する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地震や水害等の天災の発生により地域における平常時の水処理機能が損なわれた場合に、車載型の水処理装置を利用して補助的な処理を行うようにした非常時対応水処理方法及び該システム、並びに車載型電解装置に関する。
【背景技術】
【0002】
地震や水害等の天災が発生した場合に、被災地における廃水処理機能の低下、下水やし尿の氾濫、腐敗物の漂着や散乱等による地域環境の汚染による疾病発生が問題視されている。被災地における廃水の暫定的処理手法として、図11に示すように廃水を汚泥濃縮車50により濃縮し、濃縮汚泥に凝集剤を添加して汚泥脱水車51にて脱水し、濃縮分離液や脱水分離液を被災していない廃水処理場に移送した上で処理を行う方法がある。汚泥濃縮車については、例えば特許文献1(特開平10−34196号公報)や特許文献2(特開2004−100221号公報)等に開示されている。
【0003】
特許文献1では、トラックの荷台にスクリュープレス及びこれに付帯する凝集混和槽等の機器を積載した移動式汚泥脱水車を提案しており、移動式汚泥脱水車にて回収した汚泥を、分散して設置された汚泥の処理場に移動しながら処理を行うようにしている。また、特許文献2には、車両に凝集反応室と汚泥貯留タンクを備えた浄化槽清掃車についての開示があり、一般家庭や事業所などから発生する浄化槽汚泥を広域的に回収する際に、浄化槽汚泥を濃縮して運搬し、コスト削減を図っている。これらの装置は、何れも被災地での使用を前提とした技術ではないが、このような汚泥濃縮車を用いることにより処理が滞っている大量の汚泥を減容化して被災地から廃水処理施設へ運搬することができる。
【0004】
しかしながら、汚泥を濃縮することにより突発的に単位水量あたりの窒素成分等の負荷が増大した液を、被災していない廃水処理施設へ運搬し流入させた場合、生物処理によって除去される汚濁成分を安定して処理することが困難になる場合がある。
また、災害の復旧に時間を要し、中長期的に被災していない廃水処理施設への搬入が行われる場合には慢性的に処理能力が不足することとなり、元来廃水処理施設が持ちうる能力を超えてしまい、設備の増設等の措置を行わない限り、適正処理が不可能になるといった問題が生じる。
【0005】
また、下水やし尿の氾濫、腐敗物の漂着や散乱等による汚染に対しては、石鹸や次亜塩素酸による消毒処理が行われるが、物流の乱れや突発的な需要の高まりが起こるため、災害地において迅速に必要十分な量を確保することは困難である。
さらに、災害時における用水供給装置として、図12に示すように廃水を前処理設備61にて前処理した後に、RO膜分離装置62にて膜分離し、透過水を造水として供給する造水車60がある。RO膜を用いた造水装置については、特許文献3(特開平10−211420号公報)に開示されている。これにより地震や異常渇水などの非常時において生活用水を供給することを可能としている。
【0006】
【特許文献1】特開平10−34196号公報
【特許文献2】特開2004−100221号公報
【特許文献3】特開平10−211420号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1及び特許文献2のような汚泥濃縮車を用いた場合には汚泥の減容化が可能であるが、濃縮により単位水量あたりの窒素成分の負荷が増大した液を、被災していない廃水処理施設へ運搬し流入させた場合、後段の廃水処理が困難になるという問題があった。しかし、廃水処理に広く用いられる生物処理は、処理に長時間を要するとともに設備が大きく車両に積載することは考えられないため、従来は濃縮以外の可搬型の廃水処理装置については提案されていなかった。
また、特許文献3のような車載型造水装置では、造水時に発生する濃縮水を取水点に戻す場合、濃縮水に含まれる成分の濃度が取水時と大きく異なるため、周辺の生態系や環境に影響を及ぼす惧れがあった。
従って、本発明は上記従来技術の問題点に鑑み、機動性が高く災害地においても容易に導入することができ、コンパクトでありながら回収汚泥の窒素成分等の負荷を軽減可能で、また造水時に適用した場合には環境への影響を最小限に抑えて効率的に造水を行うことができる非常時対応水処理方法及び該システム、並びに車載型電解装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そこで、本発明はかかる課題を解決するために、廃水を濃縮する汚泥濃縮車と、電解処理を行う車載型電解装置とを備え、
し尿、浄化槽汚泥若しくは下水を処理する廃水処理施設を備えた地域が被災し、平常時における廃水処理機能が損なわれて量的若しくは質的負荷が超過した廃水が発生した場合に、該廃水の性状に応じて前記汚泥濃縮車、前記車載型電解装置を選択的にライン結合して目的とする廃水処理に対応可能な水質となるように処理することを特徴とする。
【0009】
これは、災害が発生した地域の廃水処理施設が運転停止状態に陥ったり、処理機能が低下するなどして他の廃水処理施設をやむなく利用しなければならない状態となった場合に、廃水の量的、質的負荷が超過する惧れがある。そこで本発明によれば、機動性の高い車載型電解装置を用いることで災害地においても容易に導入することができ、廃水が大量に発生した場合や窒素負荷の高い廃水が発生した場合においても廃水の量的、質的負荷を軽減することができるため、後段の廃水処理施設にて円滑に処理を行うことが可能となる。
また、災害地において廃水を一時貯留する際には、電解による殺菌効果で、病原菌の蔓延や臭気による雰囲気の悪化を防止できる。また、電解装置はコンパクトで且つ処理時間が短いため被災地での処理に適している。
【0010】
また、前記汚泥濃縮車にて前記廃水を濃縮して濃縮分離液と濃縮汚泥に分離し、
前記濃縮分離液の少なくとも一部を前記車載型電解装置にて電解処理することを特徴とする。
本発明によれば、廃水を濃縮して減容化するとともに、濃縮により増大した窒素負荷を低減することができる。
【0011】
さらに、前記汚泥濃縮車にて前記廃水を濃縮して濃縮分離液と濃縮汚泥に分離し、
前記濃縮汚泥の少なくとも一部を、前記車載型電解装置にて塩分含有水を電解処理して生成した次亜塩素酸と混合して脱窒を行うことを特徴とする。
比較的TS濃度の高い濃縮汚泥を処理する場合には、電解装置内に直接濃縮汚泥を流入させると電解反応が阻害される惧れがあるため、別に設けた脱窒素装置内で、電解により生成した次亜塩素酸と濃縮汚泥を混合して脱窒を行うことにより効率よい処理が可能となる。
【0012】
また、電解処理を行う車載型電解装置を備え、
し尿、浄化槽汚泥若しくは下水を処理する廃水処理施設を備えた地域が被災し、海水等の塩分含有水を逆浸透膜による膜分離若しくは電気透析により淡水と塩分濃縮水に分離し、該淡水を用水として利用する場合に、前記塩分濃縮水の少なくとも一部を前記車載型電解装置で電解処理し、該電解処理により生成した次亜塩素酸を廃水処理施設にて脱窒若しくは消毒に用いることを特徴とする。
【0013】
本発明によれば、機動性の高い車載型電解装置を用いることで、災害地においても容易に導入することができ、逆浸透膜による膜分離若しくは電気透析を用いた造水による副生成物である塩分濃縮水を再利用しながら殺菌力の高い次亜塩素酸を廃水処理や周辺環境の消毒に用いることができるため、汎用性の高い消毒薬を現地で製造できる。また、本発明では塩分が濃縮されたままの水を取水先に戻さないため、環境への影響を最小限に抑えることができる。
【0014】
さらに、これらの発明において、前記車載型電解装置が、電解手段とともに廃水の濃縮手段若しくは塩分含有水からの造水手段を備え、該車載型電解装置内にて複数の処理を連続的に行うことを特徴とする。
このように、連続処理を行う複数の装置を同一の車両に積載することで、車両間の接続を廃することができるため装置をコンパクト化でき、装置の機動性をより高めることができる。また、一体型の装置として動作させることで運転人員を削減することができ、装置間の移送に用いる機器若しくは機器の動力を縮小できる。
【0015】
また、廃水を濃縮する汚泥濃縮車と、電解処理を行う車載型電解装置とを備え、
し尿、浄化槽汚泥若しくは下水を処理する廃水処理施設を備えた地域が被災し、平常時における廃水処理機能が損なわれて量的若しくは質的負荷が超過した廃水が発生した場合に、該廃水の性状が、目的とする廃水処理に対応可能な水質となるように前記汚泥濃縮車、前記車載型電解装置を選択的にライン結合した処理ラインを備えることを特徴とする。
さらに、前記処理ラインが、前記廃水を濃縮して濃縮分離液と濃縮汚泥に分離する前記汚泥濃縮車と、前記濃縮分離液の少なくとも一部を電解処理する前記車載型電解装置とからなることを特徴とする。
さらにまた、前記濃縮汚泥を貯留する貯留設備を備え、前記貯留設備と前記車載型電解装置を濃縮汚泥が循環するようにしたことを特徴とする。
また、前記処理ラインが、前記廃水を濃縮して濃縮分離液と濃縮汚泥に分離する前記汚泥濃縮車と、塩分含有水を電解処理して次亜塩素酸を生成する前記車載型電解装置と、前記濃縮汚泥と前記次亜塩素酸を混合して脱窒を行う脱窒素装置とからなることを特徴とする。
【0016】
また、し尿、浄化槽汚泥若しくは下水を処理する廃水処理施設を備えた地域が被災した際に、海水等の塩分含有水を逆浸透膜による膜分離若しくは電気透析して得られた淡水を用水として供給する造水装置を備えた非常時対応水処理システムであって、
前記逆浸透膜による膜分離若しくは電気透析によって得られる塩分濃縮水の少なくとも一部を電解処理する車載型電解装置を備え、該電解処理により生成した次亜塩素酸を廃水処理施設の脱窒若しくは消毒に利用することを特徴とする。
さらに、前記車載型電解装置が、電解手段とともに廃水の濃縮手段若しくは塩分含有水からの造水手段を備え、該車載型電解装置内にて複数の処理を連続的に行うことを特徴とする。
【0017】
また、被処理水の受入槽と、該受入槽から流入する被処理水を電解処理する電解槽と、該電解槽に直流電源を供給する電源装置と、を備えた車載型電解装置であって、
前記受入槽が複数に分割自在な構成であるとともに、該受入槽の下部に前記電解槽が複数配置され、前記受入槽と前記電解槽を被処理水が循環するようにしたことを特徴とする。
本発明によれば、受入槽と電解槽の取合部が車両の側面となるため、受入槽と電解槽の接続を行う際の作業スペースの確保が容易にできる。また、複数の電解槽と分割可能な受入槽とすることで、他種の液を混合することなく同時に処理することができる。
【0018】
さらに、前記車載型電解装置が、し尿、浄化槽汚泥若しくは下水を処理する廃水処理施設を備えた地域が被災し、平常時における廃水処理機能が損なわれて量的若しくは質的負荷が超過した廃水が発生した場合に、該廃水を電解処理により脱窒する装置であることを特徴とする。
さらにまた、前記車載型電解装置が、し尿、浄化槽汚泥若しくは下水を処理する廃水処理施設を備えた地域が被災し、海水等の塩分含有水を逆浸透膜による膜分離若しくは電気透析して得られた淡水を用水として利用する場合に、前記膜分離若しくは電気透析により得られた塩分濃縮水を電解処理して次亜塩素酸を生成する装置であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
以上記載のごとく本発明によれば、機動性が高く災害地においても容易に導入することができ、コンパクトでありながら回収汚泥の窒素成分等の負荷を低減可能であるため、後段の廃水処理を円滑に行うことが可能となる。また造水時に適用した場合には環境への影響を最小限に抑えるとともに、造水により発生する副生成物の塩分濃縮水を再利用しながら殺菌力の高い次亜塩素酸を廃水処理や周辺環境の消毒に用いることができるため、汎用性の高い消毒薬を現地で製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施例を例示的に詳しく説明する。但しこの実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は特に特定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例に過ぎない。
図1乃至図7は、本発明の実施例1乃至5に係る水処理システムの全体構成図、図8は本発明の実施例に係る車載型電解装置の概略構成図、図9及び図10は実施例1乃至実施例2の電解処理を説明する図である。
本実施例は、地震や水害等の天災が発生して地域の水処理機能が損なわれた際に適用される。車載型電解装置を利用し、し尿・浄化槽汚泥処理、下水処理等の廃水処理や造水を行うシステムであって、機動性が高く災害地においても容易に導入することができる非常時対応機能を備える。
【0021】
[システム構成]
(実施例1)
図1及び図2に本実施例1に係る水処理システムを示す。
本システムにおいて処理対象とされる廃水20は塩素イオンを含有する廃水であり、同様に廃水中に含まれる窒素分を、塩素イオンから電解により生成した次亜塩素酸により除去するものである。廃水20としては、例えばし尿、浄化槽汚泥、下水汚泥等である。
本システムは、廃水を濃縮する手段を備えた車両と、電解により脱窒を行う手段を備えた車両とを有し、これらの車両を廃水性状に応じて選択的にライン結合し、後段にて行われる目的の処理に対応可能な程度まで水処理する構成となっている。
尚、本発明における濃縮は、脱水を含む広義の濃縮をいうが、本実施例では濃縮後のTS濃度に基づいて濃縮と脱水の両方の用語を用いる。即ち本実施例では、固液分離後のTS濃度が比較的小さいものを濃縮、高いものを脱水と呼ぶ。
【0022】
図1を参照して本システムの具体的構成の一例につき説明する。
被災時に地域に残留する汚水や非常時に発生する簡易トイレから収集されるし尿や生活廃水等廃水20は、汚泥濃縮車1若しくは汚泥脱水車2に回収されて濃縮、減容化される。汚泥濃縮車1は、廃水20を所定濃度まで固液分離する濃縮手段を積載した車両であり、該濃縮手段としては、遠心濃縮機、多重円板式濃縮機等の機械的濃縮が好適に用いられる。同様に汚泥脱水車1は、廃水20を所定濃度まで固液分離する脱水手段を積載した車両であり、該脱水手段としては遠心脱水機、加圧脱水機、多重円板脱水機、スクリュープレス脱水機等が挙げられる。
【0023】
汚泥濃縮車1からの濃縮分離液21若しくは汚泥脱水車2からの脱水分離液23は、ポンプにより車載型電解装置3に供給され、電解処理される。
車載型電解装置3における作用につき図9を参照して説明する。同図に示されるように、車載型電解装置3が具備する電解装置31は、被処理水を受け入れる処理槽310と、該処理槽310内に浸漬されるように対向配置された陽極311と陰極312からなる電極と、該電極に接続される電源装置32と、を有している。
処理槽310内では、被処理水を電気分解することによって、下記反応式により主として次亜塩素酸系の強酸化物質が生成される。
(陽極) 2Cl → Cl+2e
Cl+HO → HClO+HCl
(陰極) NO+6HO+8e → NH+9OH
2HO+2e → 2OH+H
【0024】
このように、陽極311では塩素(Cl)が発生し、さらにその塩素が水と反応して強力な酸化力を有する次亜塩素酸(HClO)を生成する。一方、陰極312では被処理水中に硝酸イオン(NO)が含まれる場合は、アンモニア(NH)へ還元され、また硝酸イオンが含まれない場合は、水の電解により水素(H↑)が発生する。
被処理水中に含まれるアンモニア、若しくは電気分解によって生成したアンモニアは、陽極311で生成した次亜塩素酸によって、下記反応式により分解、除去される。
2NH+3HClO → N↑+3HCl+3H
よって、電解装置31により、濃縮分離液21若しくは脱水分離液23中に含有される窒素の大部分は分解除去される。
【0025】
尚、車載型電解装置3は、電解処理を行う際に塩素イオン源やpH調整剤を外添する設備を積載してもよい。
車載型電解装置3にて脱窒された電解処理水25は、正常に稼動しているし尿処理施設や下水処理施設等の廃水処理施設4に送給される。或いは、廃水処理施設に移送することが困難な場合は、仮設タンク等の貯留施設5にて一時貯留してもよい。
一方、汚泥濃縮車1からの濃縮汚泥22及び汚泥脱水車2からの脱水汚泥24は、ごみ焼却施設6若しくは堆肥化施設7に送給されて処理される。
【0026】
本実施例によれば、機動性の高い車載型電解装置3を用いることで、災害地においても容易に導入することができ、後段の廃水処理施設4での窒素成分等の負荷を低減できる。
また、災害地において一時貯留する際には、電解による殺菌効果で、病原菌の蔓延や臭気による雰囲気の悪化を防止できる。
さらに、車載型電解装置3に塩素イオン源やpH調整剤を外添する設備を積載した場合には、次亜塩素酸を生成する効率を高めることができ、処理量を増加させることができる。若しくは一定の処理能力を確保する場合には、電解装置をコンパクト化できる。
【0027】
また、図2に示すように、汚泥濃縮車1にて得られた濃縮分離液21のTS濃度が低く、放流可能な水質であれば汚泥分離液21を放流し、濃縮汚泥22を脱窒する構成としてもよい。本構成では、車載型電解装置3に塩素イオンを含む塩分含有水26を供給し、電解により次亜塩素酸を生成して次亜塩素酸を含むHClO含有水27を脱窒素装置8に供給する。同時に、脱窒素装置8に濃縮汚泥22を供給してHClO含有水27と混合し、該脱窒素装置8にて濃縮汚泥22中に含まれるアンモニアを次亜塩素酸により分解・除去する。
このように、比較的濃度の高い濃縮汚泥21を処理する場合には、電解装置3内に直接濃縮汚泥21を流入させると電解反応が阻害される惧れがあるため、別に設けた脱窒素装置8内で、電解により生成した次亜塩素酸と濃縮汚泥21を混合して脱窒することが好ましい。
【0028】
(実施例2)
図3に本実施例2に係る水処理システムを示す。尚、以下の実施例2乃至実施例5において、上記した実施例1と同様の構成についてはその詳細な説明を省略する。
本実施例2は、非常時における用水の供給手段である造水装置から得られた塩分濃縮水28を車載型電解装置3の電解促進剤として利用する構成となっている。車載型電解装置にて生成された次亜塩素酸HClOは、脱窒、脱臭若しくは消毒等の廃水処理に用いられる。
【0029】
本システムでは、車載型造水装置9と車載型電解装置3を備え、車載型造水装置9に塩分含有水26を供給して塩分濃縮水28と淡水29とに分離する。塩分含有水26は、海水や河川水等を取水して得られた塩素イオンを含む水であるが、特に塩素イオン濃度が高い海水が好ましい。造水装置9は、RO膜分離手段若しくは電気透析手段を車両に積載した構成となっている。造水装置9で得られた淡水29は生活用水や工業用水などの用水として利用される。
塩分濃縮水28は塩分が濃縮され塩素イオンを多く含む水で、車載型電解装置3に供給されて電解促進剤として利用される。
【0030】
車載型電解装置3における作用を図10を参照して説明する。車載型電解装置3が具備する電解装置31の構成は実施例1と同様である。
処理槽310内では、被処理水を電気分解することによって、下記反応式により主として次亜塩素酸系の強酸化物質が生成される。
(陽極) 2Cl → Cl+2e
Cl+HO → HClO+HCl
(陰極) 2HO+2e → 2OH+H
【0031】
このように、陽極311では塩素イオンから塩素が生成され、さらにその塩素が水と反応して強力な酸化力を有する次亜塩素酸を生成する。一方、陰極312では水の電解により水素が発生する。
車載型電解装置3にて得られたHClO含有水27は、廃水処理施設4若しくは貯留施設5に送給され、廃水の脱窒、脱臭若しくは消毒に用いられる。また、HClO含有水27の少なくとも一部を造水に用いられる原水の取水点に添加することが好ましい。
【0032】
本実施例によれば、機動性の高い車載型電解装置を用いることで、災害地においても容易に導入することができ、造水による副生成物である塩分濃縮水28を再利用しながら殺菌力の高いHClO含有水27を廃水処理や周辺環境の消毒に用いることができるため、汎用性の高い消毒薬を現地で製造できる。
また、HClO含有水27の少なくとも一部を造水に用いられる原水の取水点に添加した場合には、原水の取水時点で殺菌や有機物の分解、生物の付着防止を期待することができ、造水装置の簡略化、コンパクト化が可能となる。
【0033】
(実施例3)
図4に本実施例3に係る水処理システムを示す。図4(A)は実施例1に適用できる他の形態、(B)は実施例2に適用できる他の形態、(C)は(A)及び(B)を組み合わせた形態を示す。
図4(A)では、実施例1の構成において、汚泥濃縮機、脱水機の何れかと電解装置を同一の車両に積載する構成となっている。車載型濃縮・電解装置11は汚泥濃縮機と脱水機を一体化し、車載型脱水・電解装置12は脱水機と電解装置を一体化している。何れの装置においても、廃水20をまず濃縮若しくは脱水した後、分離液を隣接する電解装置に供給して電解を行う。濃縮汚泥22若しくは脱水汚泥24は、ごみ焼却施設6若しくは堆肥化施設7にて処理される。一方、電解装置から排出される電解処理水25は廃水処理施設4若しくは貯留施設5に送給される。
【0034】
図4(B)では、実施例2の構成において、造水装置と電解装置を同一の車両に積載する構成となっている。車載型造水・電解装置15では、まず造水装置にて塩分含有水26を塩分濃縮水と淡水に分離し、塩分濃縮水を隣接する電解装置に供給して電解処理する。電解により生成した次亜塩素酸を含むHClO含有水27は廃水処理施設4若しくは貯留施設5に供給され、脱窒、脱臭若しくは消毒に用いられる。
また、図4(C)に示すように、実施例1及び実施例2を組み合わせた車載型濃縮・造水・電解装置13若しくは車載型脱水・造水・電解装置14とすることもできる。
【0035】
本実施例によれば、連続処理を行う複数の装置を同一の車両に積載することで、車両間の接続を廃することができるため装置をコンパクト化でき、装置の機動性をより高めることができる。
また、一体型の装置として動作させることで運転人員を削減することができ、装置間の移送に用いる機器若しくは機器の動力を縮小できる。
さらに、汚泥濃縮機、造水装置、電解装置を同一の車両に積載した場合には、上記の効果に加え、実施例1と実施例2の効果を同時に実施することが可能となる。脱水機、造水装置、電解装置を同一の車両に積載した場合も同様である。
【0036】
(実施例4)
図5に本実施例4に係る水処理システムを示す。本システムは、災害地において廃水処理施設4に移送することが困難な場合に、仮設タンク等の貯留設備16を設置して一時貯留し、貯留設備16から廃水処理設備4に移送する際に汚泥濃縮車1若しくは汚泥脱水車と、車載型電解装置3を用いる構成となっている。
また、図6に示すように、汚泥濃縮車1若しくは汚泥脱水車2により濃縮若しくは脱水された汚泥を貯留する後貯留設備17を備え、後貯留設備17の近傍に車載型電解装置3を停車させて、後貯留設備17と車載型電解装置3を循環させながら分離液を電解処理するようにしてもよい。
【0037】
本実施例によれば、実施例1に記載の効果に加え、貯留設備16の後段でさらに処理を行うことができるため、より高度な処理水を得ることができる。
廃水処理施設4の受入が困難となった場合には、後貯留設備17で電解処理を連続的に実施することにより、オンサイトにて廃水負荷を低減できる。
【0038】
(実施例5)
図7に本実施例5に係る水処理システムを示す。本システムは、廃水20を廃水処理設備4内の処理槽と車載型電解装置3に循環させながら処理する構成となっている。例えば廃水処理施設4が、貯留設備16と、生物処理等の処理を行う主処理設備18と、凝集沈殿、活性炭吸着、消毒等の処理を行う高度処理設備19とから構成される場合、主処理設備18の処理槽と車載型電解装置3を循環させながら脱窒を行ったり、高度処理設備19の処理槽と車載型電解装置3を循環させながら消毒、脱臭を行うなどして、電解装置3にて生成した次亜塩素酸を各種処理に利用する。
【0039】
本実施例によれば、収集形態の都合や収集車の確保が十分にできず、廃水20を直接廃水処理施設4に投入する場合においても、廃水処理施設4の能力を補完することができ、廃水処理施設4の流入負荷の安定化を図ることができる。車載型電解装置3を一定の場所に据え置くことができるので、電解処理の稼動時間を多く確保でき、処理効率がよい。
【0040】
[電解装置の構成]
上記した水処理システムに好適に採用可能な電解装置を図8に示す。
車載型電解装置3は、複数に分割可能な被処理水の受入槽35と、該受入槽35の下部に設けられた複数の電解槽31と、該電解槽31に直流電源を供給する電源装置32と、これらの制御を行う制御盤33と、受入槽35と電解槽31の間で被処理水を循環させる循環ポンプ34と、を備える。電解槽31は、横型電解槽を車両進行方向に対し垂直方向に配置することことが好ましく、このような構成とすることで重量バランスが良好となる。
【0041】
本構成によれば、受入槽35と電解槽31の取合部が車両の側面となるため、受入槽35と電解槽31の接続を行う際の作業スペースの確保が容易にできる。
また、複数の電解槽31と分割可能な受入槽35とすることで、他種の液を混合することなく同時に処理することができる。大量の被処理水を電解する際には、分割機能を有さない一の受入槽35としてもよい。
さらに、複数の電解槽31の入口側と出口側との向きを交互に配置することが好適で、これにより電解槽31と電解槽31を接続することができ、循環ポンプ34を削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の実施例1に係る水処理システムの全体構成図である。
【図2】図1の他の形態に係る水処理システムの全体構成図である。
【図3】本発明の実施例2に係る水処理システムの全体構成図である。
【図4】本発明の実施例3に係る水処理システムの全体構成図である。
【図5】本発明の実施例4に係る水処理システムの全体構成図である。
【図6】図5の他の形態に係る水処理システムの全体構成図である。
【図7】本発明の実施例5に係る水処理システムの全体構成図である。
【図8】本発明の実施例に係る車載型電解装置の概略構成を示し、(a)は平面図、(b)は側面図である。
【図9】本実施例1の電解処理を説明する図である。
【図10】本実施例2の電解処理を説明する図である。
【図11】従来の車載型水処理システムを示す全体構成図である。
【図12】従来の車載型造水装置を示す全体構成図である。
【符号の説明】
【0043】
1 汚泥濃縮車
2 汚泥脱水車
3 車載型電解装置
8 脱窒素装置
9 車載型造水装置
11 車載型濃縮・電解装置
12 車載型脱水・電解装置
13 車載型濃縮・造水・電解装置
14 車載型脱水・造水・電解装置
16 前貯留設備
17 後貯留設備
20 廃水
21 濃縮分離液
22 濃縮汚泥
23 脱水分離液
24 脱水汚泥
25 電解処理水
26 塩分含有水
27 HClO含有水
28 塩分濃縮水
29 淡水

【特許請求の範囲】
【請求項1】
廃水を濃縮する汚泥濃縮車と、電解処理を行う車載型電解装置とを備え、
し尿、浄化槽汚泥若しくは下水を処理する廃水処理施設を備えた地域が被災し、平常時における廃水処理機能が損なわれて量的若しくは質的負荷が超過した廃水が発生した場合に、該廃水の性状に応じて前記汚泥濃縮車、前記車載型電解装置を選択的にライン結合して目的とする廃水処理に対応可能な水質となるように処理することを特徴とする非常時対応水処理方法。
【請求項2】
前記汚泥濃縮車にて前記廃水を濃縮して濃縮分離液と濃縮汚泥に分離し、
前記濃縮分離液の少なくとも一部を前記車載型電解装置にて電解処理することを特徴とする請求項1記載の非常時対応水処理方法。
【請求項3】
前記汚泥濃縮車にて前記廃水を濃縮して濃縮分離液と濃縮汚泥に分離し、
前記濃縮汚泥の少なくとも一部を、前記車載型電解装置にて塩分含有水を電解処理して生成した次亜塩素酸と混合して脱窒を行うことを特徴とする請求項1記載の非常時対応水処理方法。
【請求項4】
電解処理を行う車載型電解装置を備え、
し尿、浄化槽汚泥若しくは下水を処理する廃水処理施設を備えた地域が被災し、海水等の塩分含有水を逆浸透膜による膜分離若しくは電気透析により淡水と塩分濃縮水に分離し、該淡水を用水として利用する場合に、前記塩分濃縮水の少なくとも一部を前記車載型電解装置で電解処理し、該電解処理により生成した次亜塩素酸を廃水処理施設にて脱窒若しくは消毒に用いることを特徴とする非常時対応水処理方法。
【請求項5】
前記車載型電解装置が、電解手段とともに廃水の濃縮手段若しくは塩分含有水からの造水手段を備え、該車載型電解装置内にて複数の処理を連続的に行うことを特徴とする請求項1若しくは4記載の非常時対応水処理方法。
【請求項6】
廃水を濃縮する汚泥濃縮車と、電解処理を行う車載型電解装置とを備え、
し尿、浄化槽汚泥若しくは下水を処理する廃水処理施設を備えた地域が被災し、平常時における廃水処理機能が損なわれて量的若しくは質的負荷が超過した廃水が発生した場合に、該廃水の性状が目的とする廃水処理に対応可能な水質となるように前記汚泥濃縮車、前記車載型電解装置を選択的にライン結合した処理ラインを備えることを特徴とする非常時対応水処理システム。
【請求項7】
前記処理ラインが、前記廃水を濃縮して濃縮分離液と濃縮汚泥に分離する前記汚泥濃縮車と、前記濃縮分離液の少なくとも一部を電解処理する前記車載型電解装置とからなることを特徴とする請求項6記載の非常時対応水処理システム。
【請求項8】
前記濃縮汚泥を貯留する貯留設備を備え、前記貯留設備と前記車載型電解装置を濃縮汚泥が循環するようにしたことを特徴とする請求項7記載の非常時対応水処理システム。
【請求項9】
前記処理ラインが、前記廃水を濃縮して濃縮分離液と濃縮汚泥に分離する前記汚泥濃縮車と、塩分含有水を電解処理して次亜塩素酸を生成する前記車載型電解装置と、前記濃縮汚泥と前記次亜塩素酸を混合して脱窒を行う脱窒素装置とからなることを特徴とする請求項6記載の非常時対応水処理システム。
【請求項10】
し尿、浄化槽汚泥若しくは下水を処理する廃水処理施設を備えた地域が被災した際に、海水等の塩分含有水を逆浸透膜による膜分離若しくは電気透析して得られた淡水を用水として供給する造水装置を備えた非常時対応水処理システムであって、
前記膜分離若しくは電気透析により得られる塩分濃縮水の少なくとも一部を電解処理する車載型電解装置を備え、該電解処理により生成した次亜塩素酸を廃水処理施設の脱窒若しくは消毒に利用することを特徴とする非常時対応水処理システム。
【請求項11】
前記車載型電解装置が、電解手段とともに廃水の濃縮手段若しくは塩分含有水からの造水手段を備え、該車載型電解装置内にて複数の処理を連続的に行うことを特徴とする請求項6若しくは10記載の非常時対応水処理システム。
【請求項12】
被処理水の受入槽と、該受入槽から流入する被処理水を電解処理する電解槽と、該電解槽に直流電源を供給する電源装置と、を備えた車載型電解装置であって、
前記受入槽が複数に分割自在な構成であるとともに、該受入槽の下部に前記電解槽が複数配置され、前記受入槽と前記電解槽を被処理水が循環するようにしたことを特徴とする車載型電解装置。
【請求項13】
前記車載型電解装置が、し尿、浄化槽汚泥若しくは下水を処理する廃水処理施設を備えた地域が被災し、平常時における廃水処理機能が損なわれて量的若しくは質的負荷が超過した廃水が発生した場合に、該廃水を電解処理により脱窒する装置であることを特徴とする請求項12記載の車載型電解装置。
【請求項14】
前記車載型電解装置が、し尿、浄化槽汚泥若しくは下水を処理する廃水処理施設を備えた地域が被災し、海水等の塩分含有水を逆浸透膜による膜分離若しくは電気透析して得られた淡水を用水として利用する場合に、前記膜分離若しくは電気透析により得られた塩分濃縮水を電解処理して次亜塩素酸を生成する装置であることを特徴とする請求項12記載の車載型電解装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2007−105613(P2007−105613A)
【公開日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−298398(P2005−298398)
【出願日】平成17年10月13日(2005.10.13)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】