説明

非常用消火ポンプへの給水システム

【課題】 船体形状を太らせることなく、したがって船舶の推進性能を低下させることのない非常用消火ポンプへの給水システムを提供する。
【解決手段】 機関室及びポンプ室等の火災を消火するための水を、船内に設置された船内タンク4または船上に設置された船上タンクから非常用消火ポンプ1に供給する構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非常用消火ポンプへの給水システムに関する。
【背景技術】
【0002】
船舶の消防設備に関してはSOLASで国際的に基準が定められている。そのうち機関室についてはSOLASでは機関室内の消火ポンプが使用不能の場合に備えて、国際航海に従事する2,000GT以上の貨物船(タンカーを含む)には非常用消火ポンプ(EFP:Emergency Fire Pump)の装備が要求されている。非常用消火ポンプは、現状では船底から汲み上げた海水を使用している。しかし最近、SOLASの規則に則って定められる船級協会(IACS:International Association of Classification Society)の規則であるところの「IACS UI SC178」(以下、IACS規則という)の改正の動きがあり、荒天航行中でも問題なく海水を吸引することが要求されようとしている。
【0003】
荒天航行中には大きな縦揺れ(Pitching)や横揺れ(Rolling)が船舶に発生し、船尾のシーチェスト(海水吸引口)設置位置では相対波面が大きく変動する。このような状況で、船体に対して相対波面が最も低い状態になっても、シーチェストの給水口が相対波面よりも下にあることが必要になる。そうでないと、シーチェストの給水口が海面上に露出し、海水を吸入できなくなる危険性がある。また非常用消火ポンプと海面との相対距離が大きくなると、非常用消火ポンプに求めれる性能を発揮できない可能性もある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のように、IACS規則改正の要求を満たすためには、シーチェストを船底近くに、すなわち今までよりもさらに低い位置に設置することが必要になり、それに伴って非常用消火ポンプも船体内の従来よりも低い高さ位置に設置する必要がでてくる。そうすると、図3に示すような問題が生じる。
図3(a)に示すように、IACS規則改正の要求を満たすために、シーチェスト3および非常用消火ポンプ1の設置位置を下げた場合、同図(b)に示すように、ポンプ室2の底面位置が下がるために、船体形状を従来の最適線図から拡幅線図のように太くしなければならなくなる。その結果、船舶の推進性能が低下(例えば検討に供した大型バラ積貨物船の場合、約3%の馬力増加)することになる。なお、本発明に関連する先行文献は見当たらなかった。
【0005】
本発明は、上述のような課題を解決するためになされたもので、船体形状を太らせることなく、したがって船舶の推進性能を低下させることのない非常用消火ポンプへの給水システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る非常用消火ポンプへの給水システムは、機関室及びポンプ室等の火災を消火するための水を、船内に設置された船内タンクまたは船上に設置された船上タンクから非常用消火ポンプに供給する構成としたものである。
【0007】
また、船内タンクとして、バラストタンクまたは船尾タンクを利用するものである。
【0008】
また、船内タンクまたは船上タンクは、海水、真水もしくはその中間の液体、または泡消火に利用できる液体のいずれかを貯留するタンクである。
【0009】
また、非常用消火ポンプを、船内タンクまたは船上タンクに自動開閉弁を介して配管接続するとともに、シーチェストに自動開閉弁を介して配管接続する構成とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、例えば機関室消火時には非常用消火ポンプに船内タンクまたは船上タンクから給水されるので、荒天航行中でもIACS規則にて要求される機関室消火に必要な容量と射水に必要な容量を十分に確保することができる。したがって、非常用消火ポンプを船体形状に影響を及ぼさない範囲で船内に設置することができるため、船体形状を太らせる必要はなくなり、船舶の推進性能の低下は生じない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
図1は本発明の実施の形態の一例を示す非常用消火ポンプへの給水システムの概要図である。また、図2は本発明の給水システムと図3に示した従来の給水システムとの比較のための説明図である。
【0012】
本発明の給水システムでは、船内に設置された船内タンク4から機関室消火に必要な海水を非常用消火ポンプ1に供給する。この目的のために、船内タンク4として、船尾空間に専用のバラストタンクを設置するか、もしくは既に設置されている船尾タンク(Aft Peak Tank)内の海水等を利用する。
本実施の形態では、図1に示すように、既設の船尾タンク4と非常用消火ポンプ1とを通常閉の自動開閉弁5を介して吸入管6で接続して機関室消火時には船尾タンク4から必要量の海水を非常用消火ポンプ1に供給可能としている。自動開閉弁5は通常は閉じており、機関室消火装置(図示せず)の作動時に自動的に開くようになっている。
【0013】
非常用消火ポンプ1の送水管7は、機関室内に設置された図示しない機関室泡消火装置及び射水消火栓に接続され、機関室の消火に備えている。
また、非常用消火ポンプ1は、従来通り船外から海水を吸引するように、IACS規則にて要求される条件下での船底付近に設置されたシーチェスト3に通常開の自動開閉弁8を介して吸入管9により接続されている。この自動開閉弁8は通常は開いており、機関室消火装置(図示せず)の作動時に自動的に閉まるようになっている。
【0014】
したがって、本給水システムの構成によれば、荒天航行中には非常用消火ポンプ1に求められる海水等の供給量を全て船内タンク4、例えば船尾タンク4a(図2)や専用のバラストタンク、あるいは船上に設置された船上タンク(図示せず)から供給することができる。これは、IACS規則にて要求される容量で機関室消火に必要な容量+射水に必要な容量である。例えば検討に供した大型バラ積貨物船の場合、機関室消火に必要な給水量は161m3であるが、本船の船尾タンク容量は2,700m3である。
機関室消火に必要な容量は、IACS規則にて時間、量が決められているのでそれを満足するタンク容量とする。
一方、射水は時間が決められていないので、機関室消火が終了した後に射水に必要な小容量(72m3/h)の海水を、従来型のシーチェスト3からの海水吸引システムを用いて船外から吸引する。
【0015】
また、図示のように従来型のシーチェスト3からの海水吸引システムを併設しておくことにより、通常の喫水条件(静穏海面時)および機関室消火に必要な小容量(72m3/h)の射水量であれば、船底のシーチェスト3から海水を汲み上げても非常用消火ポンプ1は十分な性能を発揮できる。すなわち、海面が平穏なときにはシーチェスト3から汲み上げた海水で、荒天時には船内タンク4や船上タンクの海水等で、機関室消火を行うことが可能となる。
【0016】
また、図2に示すように、本発明の給水システムでは、荒天航行中でもIACS規則にて要求される容量を船内タンク4あるいは船上タンクから非常用消火ポンプ1に供給することができるので、非常用消火ポンプ1を船体形状に影響を及ぼさない範囲で船内に設置することが可能となる。そのため、図3のように船体形状を太らせる必要はなくなり、船舶の推進性能の低下をまねくことはない。
【0017】
なお、上記の船内タンク4や船上タンクには、海水のほか、真水もしくはその中間の液体、または泡消火に利用できる液体のいずれかが貯留されていればよい。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施の形態を示す非常用消火ポンプへの給水システムの概要図。
【図2】本発明の給水システムと従来の給水システムとの比較のための説明図。
【図3】非常用消火ポンプの設置位置を下げることによる問題点を説明するための説明図。
【符号の説明】
【0019】
1 非常用消火ポンプ
2 ポンプ室
3 シーチェスト
4 船内タンク
4a 船尾タンク
5 自動開閉弁
6 吸入管
7 送水管
8 自動開閉弁
9 吸入管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
機関室及びポンプ室等の火災を消火するための水を、船内に設置された船内タンクまたは船上に設置された船上タンクから非常用消火ポンプに供給する構成としたことを特徴とする非常用消火ポンプへの給水システム。
【請求項2】
船内タンクとして、バラストタンクまたは船尾タンクを利用することを特徴とする請求項1記載の非常用消火ポンプへの給水システム。
【請求項3】
船内タンクまたは船上タンクは、海水、真水もしくはその中間の液体、または泡消火に利用できる液体のいずれかを貯留するタンクであることを特徴とする請求項1または2記載の非常用消火ポンプへの給水システム。
【請求項4】
非常用消火ポンプを、船内タンクまたは船上タンクに自動開閉弁を介して配管接続するとともに、シーチェストに自動開閉弁を介して配管接続してなることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の非常用消火ポンプへの給水システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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