説明

非接触給電用コイル

【課題】車載バッテリへの非接触電力伝送を行う非接触給電用コイルにおいて、軽量化を図り、且つ、放熱効率を高めること。
【解決手段】送電及び受電に用いられる給電用コイルは、中心軸方向に中空部52が形成された管状線材50にて構成することで、軽量化されている。また、中空部52は、給電用コイルのループの内側の肉厚cが、ループの外側の肉厚aよりも厚くなるよう、管状線材50の断面中心Oに対し、ループの外側に偏心した位置に形成される。これは、給電用コイルは、電力伝送時に、表皮効果によって電流がコイル表面を流れるだけでなく、電流密度が、給電用コイルのループの内側ほど高くなって、その部分で発熱するためである。つまり、管状線材50の中空部52を偏心させることで、電力伝送時に発生する熱をコイル表面に分散させて、放熱効果を高めている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非接触電力伝送に用いられる非接触給電用コイルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エンジンとモータとを動力源とするハイブリッド車やモータのみを動力源とする電気自動車に対しバッテリ充電用の電力を供給するシステムとして、送電用コイルと受電用コイルとの間の電磁誘導若しくは磁界/電界の共鳴により、非接触に電力供給を行うシステムが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、この種のシステムにおいては、電力伝送に用いられる給電用コイル(送電用コイルや受電用コイル)の発熱を防止するため、給電用コイルをボビンに巻回して、ボビンの内側からコイルに向けて冷却用の空気を送風する冷却装置を設けることも提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特願2010−068632号公報
【特許文献2】特願2010−284011号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記のような非接触電力伝送システムにおいて、伝送可能な電力を増大するには、送電及び受電に用いられる給電用コイルに大電流を流す必要があるため、給電用コイルを構成する導電性線材の径を太くする必要がある。
【0006】
しかし、このように給電用コイルを構成する導電性線材の径を太くすると、要求電力の伝送時間(延いては、バッテリへの充電時間)を短くすることはできるものの、給電用コイルの重量が増加する。
【0007】
このため、軽量化が要求される車両に搭載するには不適切であった。
また、給電用コイルに大電流を流すようにすると、給電用コイルでの電力損失が大きくなるので、給電用コイルからの発熱量も増大する。
【0008】
このため、給電用コイルにより伝送可能な電力を増大するには、給電用コイル自体の発熱を抑制するため、上記のような冷却装置で外から冷却するだけでなく、給電用コイルを、より放熱し易い構造にすることが要求される。
【0009】
本発明は、こうした問題に鑑みなされたものであり、軽量化し易く、しかも、容易に放熱効率を高めることのできる非接触給電用コイルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
かかる目的を達成するためになされた請求項1に記載の発明は、導電性の線材をループ状に巻回してなる非接触給電用コイルであって、前記線材は、中心軸方向に中空部が形成された管状線材からなることを特徴とする。
【0011】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の非接触給電用コイルにおいて、前記管状線材の断面を見たとき、前記中空部は、前記管状線材の中心位置から偏心した位置に
形成されており、当該非接触給電用コイルは、前記管状線材を巻回することにより、前記管状線材の外周と前記中空部側内周との間の厚みが、当該非接触給電用コイルのループの内側の方がループの外側よりも厚くなるように形成されていることを特徴とする。
【0012】
また、請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の非接触給電用コイルにおいて、前記管状線材は、当該管状線材の外周と前記中空部側内周との間の厚みが、当該非接触給電用コイルのループの外側の厚みに対し、ループの内側の厚みが少なくとも2倍以上になるように形成されていることを特徴とする請求項2に記載の非接触給電用コイル。
【0013】
また、請求項4に記載の発明は、請求項2又は請求項3に記載の非接触給電用コイルにおいて、前記管状線材は、当該管状線材の外径に対する前記中空部側内径の比率が、少なくとも70%以上となるように形成されていることを特徴とする。
【0014】
また、請求項5に記載の発明は、請求項1〜請求項4の何れか1項に記載の非接触給電用コイルにおいて、前記管状線材の外壁には凹凸が形成されていることを特徴とする。
また、請求項6に記載の発明は、請求項1〜請求項5の何れか1項に記載の非接触給電用コイルにおいて、前記管状線材の中空部には、冷却材が充填されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
請求項1に記載の非接触給電用コイルによれば、当該非接触給電用コイルを構成する線材として、中心軸方向に中空部が形成された管状線材が用いられることから、非接触給電用コイル自体の軽量化を図ることができる。
【0016】
また、このように中空部が形成された管状線材を用いることができるのは、非接触電力伝送では、非接触給電用コイルに高周波信号が供給され、非接触給電用コイルに流れる電流は、表皮効果によって非接触給電用コイルの表面に集中するからである。
【0017】
つまり、本発明の非接触給電用コイルによれば、線材に中空部を有する管状線材を用いることにより、電力伝送能力が低下することはない。
よって、本発明の非接触給電用コイルによれば、伝送可能な電力量を増加するために、線材の外径を太くしても、非接触給電用コイル自体の重量が増加するのを防止することができ、軽量化が要求される車両へも容易に搭載できるようになる。
【0018】
ところで、非接触給電用コイルでは、電力伝送用の電流が表皮効果によってコイル表面に集中するが、非接触給電用コイルは、導電性の線材(本発明では管状線材)を巻回することにより構成されることから、コイル表面での電流密度が均一にならないことが考えられる。
【0019】
そこで、本発明者らが電力伝送時の送電用コイル及び受電用コイルにおけるコイル表面での電流密度を調べたところ、両コイル共、ループの内側が電流密度が高く、ループの外側が電流密度が低くなることが分かった。
【0020】
そして、このように、非接触給電用コイルにおいて、電力伝送時の電流密度がコイル表面で均一にならない場合、電流密度が高い箇所(つまり、非接触給電用コイルのループの内側)程、発熱量が多くなり、その部分の放熱をし易くする必要がある。
【0021】
そこで、請求項2に記載の非接触給電用コイルにおいては、管状線材として、その断面を見たときに、中空部が管状線材の中心位置から偏心した位置になるように形成された管状線材を使用し、この管状線材を、管状線材の外周と中空部側内周との間の厚みが、当該
非接触給電用コイルのループの内側の方がループの外側よりも厚くなるように巻回することで、非接触給電用コイルを形成するようにされている。
【0022】
これは、非接触給電用コイルを構成する管状線材において、非接触給電用コイルのループの内側から外側へ熱を逃がして、非接触給電用コイルの表面全体で放熱させるには、管状線材の肉厚(詳しくは、管状線材の外周と中空部側内周との間の厚み)をどのようにすればよいかを、後述のシミュレーション等によって検討したところ、ループの内側の肉厚をループの外側の肉厚よりも大きくすればよいことが分かったためである。
【0023】
このため、請求項2に記載の非接触給電用コイルによれば、電力伝送時にコイル表面で電流密度が均一にならず、非接触給電用コイルのループの内側で発熱量が多くなっても、その熱を、非接触給電用コイルのループの外側に逃がし、非接触給電用コイルの表面全体で効率よく放熱することができるようになる。
【0024】
なお、後述のシミュレーション結果によれば、非接触給電用コイルにおいて、管状線材のループの内側の肉厚を、ループの外側の肉厚に比べて、2倍以上にすると、良好な放熱効果が得られることが分かった。
【0025】
このため、管状線材は、請求項3に記載のように、当該管状線材の外周と前記中空部側内周との間の厚みが、当該非接触給電用コイルのループの外側の厚みに対し、ループの内側の厚みが少なくとも2倍以上になるように形成することが望ましい。
【0026】
一方、管状線材において、非接触給電用コイルのループの内側の肉厚をループの外側の肉厚に比べて厚くするにしても、その厚みを厚くすればするほど、中空部の径が小さくなり、非接触給電用コイルを構成する線材に中空部を形成することによる軽量化の効果が低減する。
【0027】
そこで、管状線材は、請求項4に記載のように、管状線材の外径に対する中空部側内径の比率が、少なくとも70%以上となるように、上記各部の肉厚を設定することが望ましい。
【0028】
つまり、管状線材の外径に対する中空部側内径の比率を70%以上にすれば、中空部のない線材を使って非接触給電用コイルを形成した場合に比べて、50%程度若しくはそれ以上の軽量化を図ることができる。
【0029】
なお、管状線材の外径に対する中空部側内径の比率の上限は、管状線材の外径や材質等によって異なるため、数値で規定することはできないが、管状線材において非接触給電用コイルのループの外側の肉厚(つまり、管状線材において最も薄くなる肉厚)を、給電用コイルとしての強度を確保し得る肉厚にできるように設定すればよい。
【0030】
また次に、非接触給電用コイルの放熱効果をより高めるには、請求項5に記載のように、管状線材の外壁に凹凸を形成することで、その表面積を増加させるようにしてもよい。
また、請求項6に記載のように、管状線材の中空部に冷却材を充填することで、管状線材の内側から管状線材自体を冷却するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】実施形態の非接触給電システムの構成を表すブロック図である。
【図2】実施形態の送電及び受電用のコイルの外観を表す概略斜視図である。
【図3】実施形態の送電及び受電用のコイルの断面を表す断面図である。
【図4】非接触給電用コイルにおける放熱効果のシミュレーション実施条件を説明する説明図である。
【図5】非接触給電用コイルにおける放熱効果のシミュレーション結果を表す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下に本発明の実施形態を図面と共に説明する。
図1に示すように、本実施形態の非接触給電システムは、車両に搭載された受電装置10に対し、所定の給電場所の路面に埋設された送電装置30から、非接触で電力供給を行うためのものである。
【0033】
ここで、まず、受電装置10は、ハイブリッド車や電気自動車等からなる車両に搭載され、送電装置30から受電した電力にて、車両の動力源となるモータに電源供給を行うバッテリ4を充電するためのものであり、送電装置30からの供給電力を受電するために車両の底部に設けられた受電用コイル12を備える。
【0034】
なお、受電用コイル12及び後述の送電用コイル32は、車幅が1500mm〜1800mm程度の自動車において、車幅の半分から4分の1程度を占有し、且つ、路車間で電力伝送用の高周波信号(例えば、十数MHz帯)を送受信することを想定し、ループの直径が300mm〜600mm程度となるように形成されており、以下の説明で通信若しくは電力伝送に用いられるOFDM変調信号のサブキャリアは、これら各コイル12、32で送受信可能である。
【0035】
また次に、受電装置10には、受電用コイル12が受信した受信信号(電力)を整流し平滑化する整流平滑回路18、整流平滑回路18からの出力に基づきバッテリ4を充電する充電回路20、及び、整流平滑回路18からの出力に基づき、受電した電力量(受電量)を検出する受電量検出部22が備えられている。
【0036】
なお、充電回路20は、外部のプラグイン用電源装置から電源プラグを介して入力される電力でもバッテリ4を充電できるようになっているが、この充電系統については本発明と関係がないので、説明を省略する。
【0037】
また、受電装置10には、受電用コイル12を介して送電装置30との間で無線通信するための無線通信部24、及び、この無線通信部24を介して送電装置30に送電要求を送信したり、送電装置30から送信された情報を取得し、充電回路20を制御する受電制御部28が備えられている。
【0038】
受電制御部28は、CPUを中心とするマイクロコンピュータにて構成されており、車両に搭載されたモータ制御用のECU(電子制御装置)6を始めとする各種ECUとの間で、車内LANを介してデータ通信を行い、車両IDや車両運転者からの充電要求、バッテリ4の残容量等、送電装置30から電力供給を受けるのに必要な各種情報を取得する。
【0039】
そして、受電制御部28は、車両運転者から充電要求を受けると、無線通信部24に車両IDやバッテリ4の残容量等の車両情報を表す送信データを出力することで、受電用コイル12から車両情報を送信させる。
【0040】
また、受電制御部28は、送電装置30から電力供給を受けているときには、送電装置30から通知される送電電力量を、無線通信部24を介して取得し、その取得した送電電力量と受電量検出部22で検出される受電電力量とを比較し、これらの差が閾値を超えた際には、送受電に異常があると判断して、充電回路20による充電を停止したり、その旨を表す異常情報を無線通信部24に出力することで、受電用コイル12から異常情報を送
信させる。
【0041】
また、無線通信部24は、OFDM変調部25とOFDM復調部26とから構成されており、受電制御部28から入力される送信情報をOFDM変調部25にて変調して、方向性結合器14を介して受電用コイル12に出力し、OFDM復調部26には、受電用コイル12から方向性結合器14、16を介して受信信号を入力するようにされている。
【0042】
なお、方向性結合器14は、受電用コイル12からの受信信号を方向性結合器16側に伝送し、OFDM変調部25からの送信信号を受電用コイル12側に伝送するためのものであり、方向性結合器16は、方向性結合器14を介して入力される受信信号の殆どを整流平滑回路18側に伝送し、その受信信号の一部(−50dB〜−60dB程度)をOFDM復調部26側に伝送する。
【0043】
次に、送電装置30は、図3に示すように、車両2の受電装置10に設けられた受電用コイル12との間で送受信するための送電用コイル32と、外部の管理装置との間で通信を行うための有線通信部34と、CPUを中心とするマイクロコンピュータにて構成された送電制御部36と、送電用コイル32を介して受電装置10との間で無線通信をしたり、受電装置10への電力供給量を制御したりするための無線通信部38と、送電用電源回路48から電力供給を受けて、無線通信部38からの出力を送電用に電力変換(例えば、D級増幅)する電力変換部44と、電力変換部44での電力変換により発生する歪成分(換言すれば不要な信号成分)を相殺するために、無線通信部38から電力変換部44に出力される送信信号(詳しくはOFDM変調信号)を補正する歪補償部42と、電力変換部44からの出力(送信信号)を送電用コイル32側に伝送し、送電用コイル32にて受信された受信信号を無線通信部38側に伝送する方向性結合器46と、から構成されている。
【0044】
ここで、送電用電源回路48は、商用電源等の外部電源から電源供給を受けて、電力変換部44駆動用の電源電圧を生成するものであり、送電制御部36や無線通信部38等に電源供給を行う定電圧電源回路(図示せず)とは別に、大電力送電用の電源回路として設けられている。
【0045】
また、無線通信部38は、OFDM変調部40とOFDM復調部41とから構成されており、OFDM変調部40は、送電制御部36からの指令に従い、送信に用いる電波の波数や各電波の変調方式を切り換え可能に構成されている。
【0046】
そして、送電制御部36は、送電用コイル32で受信され、OFDM復調部41にて復調された受電装置10からの車両情報(詳しくは、車両IDやバッテリ4の残容量等)に基づき、受電装置10を搭載した車両が電力供給可能なエリア内に侵入したことを検知し、受電装置10に供給すべき送電電力量を算出する。
【0047】
そして、送電制御部36は、その算出した送電電力量に基づき、OFDM変調部40から送信させるOFDM信号のサブキャリアの波数及びその変調方式(BPSK、QPSK等の位相変調の何れか)を設定し、OFDM変調部40にOFDM変調信号を生成させる。また、サブキャリアの変調用のデータとして、現在の送電電力量等を表す情報を出力する。
【0048】
この結果、OFDM変調部40からは、送電電力量を表す情報にて変調された所定波数のOFDM変調信号が出力され、その信号が歪補償部42を介して電力変換部44に入力され、電力変換部44にて例えばD級増幅されて、送電用コイル32から受電用コイル12へと非接触伝送される。
【0049】
なお、受電装置10において、受電用コイル12は車両の底部に設けられているため、送電装置30の送電用コイル32は、低損失で電力伝送を行うために、車両を停車可能な路面に埋設されている。
【0050】
このように構成された本実施形態の非接触給電システムによれば、送電装置30が、OFDM変調部40により多数のサブキャリアからなるOFDM変調信号を発生させ、そのOFDM変調信号を、電力変換部44にて電力増幅して、送電用コイル32から送電させる。
【0051】
このため、単一のキャリアで電力伝送する場合に比べて、OFDM変調信号を構成しているサブキャリア1波当たりの送信電力を少なくして、給電時の各波の電界強度を小さくすることができる。
【0052】
つまり、本実施形態の送電装置30によれば、OFDM変調信号を構成するサブキャリア毎の電界強度を許容範囲内に制限しつつ、サブキャリアの数を変化させることにより、受電装置10に供給可能な電力量を制御することができ、受電装置10に対し必要な電力を効率よく供給することができる。
【0053】
このように、本実施形態の非接触給電システムによれば、送電用コイル32及び受電用コイル12を使って非接触電力伝送を行うことができ、しかも、その電力伝送に多数のサブキャリアにて構成されるOFDM信号を利用するので、各サブキャリアを合成した大電力を伝送することができるが、その電力伝送に用いられる送電用コイル32及び受電用コイル12には、大電流が流れることになる。
【0054】
そこで、本実施形態では、これら送電用コイル32及び受電用コイル12に大電流を流すことができるように、図2に示すように、これら各コイル32、12を、外径が数cmの極太の線材を使ってループ状に形成し、その両端に共振用のコンデンサを設けることにより構成している。
【0055】
ところで、このように、非接触給電用コイル(つまり、送電用コイル32及び受電用コイル12、以下、単に給電用コイルともいう)を用いて非接触伝送可能な電力量を増加するために、給電用コイルを構成する線材の径を大きくすると、給電用コイルの重量が増加する。
【0056】
また、この場合、特に、車両に搭載される受電用コイル12では、車両の重量が増加することになるので、車両のエネルギ消費効率を悪化させてしまう。
一方、給電用コイルを構成する線材の径を大きくして、大電流(高周波信号)を流すと、表皮効果によって、コイル表面に電流が分布する。
【0057】
そこで、本実施形態では、図3に示すように、給電用コイルを構成する線材に、その線材の中心軸(図に示す断面中心O)に沿って中空部52が形成された管状線材50を使用することで、給電用コイル(送電用コイル32、受電用コイル12)を軽量化している。
【0058】
また、このように給電用コイルを管状線材50を用いて構成する場合、給電用コイルの軽量化を図るだけであれば、一般的なパイプのように、管状線材50の断面中心Oと中空部52の中心Pとを一致させればよい。
【0059】
しかし、給電用コイルは、管状線材50をループ状に巻回することにより構成されることから、大電流(高周波信号)を流すと、単に、表皮効果によってコイル表面に電流が分
布するだけでなく、その電流密度が、図2に示すように、給電用コイルのループの内側ほど高くなることがわかった。
【0060】
そして、このように、電力伝送時の電流密度が、給電用コイルのループの内側で高くなると、それに伴い、コイル表面での発熱量もループの内側部分で多くなり、給電用コイル全体では発熱量が不均一になり、コイル表面からの放熱を効率よく行うことができない。
【0061】
そこで、電力伝送時に給電用コイルに発生する熱を効率よく放熱するには、給電用コイルをどのように構成すればよいのか検討したところ、下記のシミュレーション結果から、図3に示すように、管状線材50の外周と中空部側内周との間の厚みが、給電用コイルのループの外側の厚みaに比べ、ループの内側の厚みcの方が大きくなるよう、中空部52の中心Pを、管状線材50の断面中心Oに対し、給電用コイルのループの外側に偏心させるとよいことが判った。
【0062】
そこで、本実施形態では、中空部52の中心Pを管状線材50の断面中心Oに対し偏心させた管状線材50をループ状に巻回することにより、給電用コイル(送電用コイル32、受電用コイル12)を形成し、しかも、管状線材50をループ状に巻回する際には、給電用コイル(送電用コイル32、受電用コイル12)のループの内側の方が、ループの外側よりも肉厚になるよう、管状線材50を配置するようにしている。
【0063】
従って、本実施形態の給電用コイル(送電用コイル32、受電用コイル12)によれば、給電用コイル自体の軽量化を図り、しかも、電力伝送時に送電用コイル32及び受電用コイル12に発生する熱を、各コイル32、12から効率よく放熱させることができるようになる。
[シミュレーション結果]
次に、給電用コイル(送電用コイル32、受電用コイル12)を上記のように構成するに当たって行ったシミュレーションについて説明する。
【0064】
図4に示すように、このシミュレーションは、実施条件として、管状線材50を、その断面中心Oに沿った面にて2分割し、その2分割した外周の一端に熱源を配置し、その外周の他端を観測点とする給電用コイルの熱観測モデルを構築し、給電用コイルの温度を20°C、熱源の温度を50°Cとして、熱源からの熱が観測点に伝わり、給電用コイルの温度が均一(49°C)になるまでの時間を測定した。
【0065】
また、その測定(シミュレーション)は、管状線材50の外径を40mm、観測点側の管状線材50の外周と中空部52の内周との間の肉厚をa、熱源側の管状線材50の外周と中空部52の内周との間の肉厚をc、中空部52の内径をbとし、これら各パラメータa、b、cを変化させることにより行った。
【0066】
なお、管状線材50の外径を40mmとしたのは、自動車における普通充電では2kw〜4kW程度の電力伝送が要求され、急速充電では最大50kWの電力伝送が要求される、と考えられ、この電力伝送を実現するには、コイル線径は最低でも20mmは必要になるからである。
【0067】
図5は、給電用コイルのループの外側を想定した観測点側の肉厚aを、それぞれ、5mm、3mm、1mmとし、給電用コイルのループの内側を想定した熱源側の肉厚cを、肉厚aの1倍、2倍、3倍…と変化させて、各条件下で熱源からの熱が観測点に伝わるまでの時間を測定したシミュレーション結果を表している。
【0068】
そして、このシミュレーション結果から、給電コイルのループの外側の肉厚aとループ
の内側の肉厚cとを同一にした標準的なパイプ形状では、肉厚aが5mm、3mm、1mmのいずれであっても、熱源から観測点に熱が伝わるまでの時間が30秒以上かかっているのに対し、給電コイルのループの外側の肉厚aに対するループの内側の肉厚cを2倍以上にすれば、熱源から観測点に熱が伝わるまでの時間を、約25%以上短縮でき、コイル表面からの放熱効率を改善できることが判る。
【0069】
また、肉厚aに対する肉厚cの比率を、2倍から4倍程度まで増加させれば、熱源から観測点に熱が伝わるまでの伝導時間が短くなるので、放熱効率を改善することはできるが、その比率が4倍を超えると伝導時間の改善傾向が少なくなるので、肉厚aに対する肉厚cの比率は、4倍程度にするとよいことが判る。
【0070】
なお、このシミュレーションにおける熱解析には、米国ソリッドワークス社の熱流体解析ソフト「SolidWorks Flow Simulation (ver.2010)」(登録商標) を利用した。
一方、管状線材50において、給電用コイルのループの内側の肉厚cをループの外側の肉厚aに比べて厚くするにしても、基準となる肉厚aが厚く、肉厚aに対する肉厚cの比率が大きいほど、中空部52の径bが小さくなる。そして、中空部52の径bが小さくなるほど、給電用コイルを管状線材50にて形成することによる軽量化の効果が低減する。
【0071】
給電用コイルの軽量化のためには、管状線材50全体の断面積に対する中空部52の面積の比率を確保した上で、管状線材50における肉厚a及び肉厚aに対する肉厚cの比率を設定することが望ましい。
【0072】
つまり、中空部52の偏心位置によって中空部52の中心軸方向の長さが変化するので、管状線材50全体の断面積に対する中空部52の面積の比率と、給電用コイルの重量とは、必ずしも比例するものではないが、中空部52の偏心位置の変化に伴う中空部52の長さの変化は小さいことから、その変化を無視すれば、管状線材50全体の断面積に対する中空部52の面積の比率と給電用コイルの重量とは比例するといえる。
【0073】
そして、このようにこれらが比例するとして、管状線材50の重量を、中空部52を形成していない線材の重量に比べ、略半分に削減するには、管状線材50の外径に対する中空部52側内径の比率を70%以上にすればよい。
【0074】
つまり、管状線材50の半径をrとすると、管状線材50の断面積は、「πr2 」となる。
そして、管状線材50の重量を、中空部52を形成していない線材の重量の約半分にするには、管状線材50の断面積に対する中空部52の断面積の比率を約50%にすればよく、そのためには、管状線材50の半径rに対する中空部52の半径の比率xを次式の通り、約70%にすればよい。
【0075】
0.5×πr2 =π(xr)2
0.5=x2
∴x=0.707107
この結果、中空部52を備えた管状線材50を利用することで、給電用コイルの重量を50%程度若しくはそれ以上軽減するには、管状線材50の外径に対する中空部52側内径bの比率を70%以上にすればよいことになる。
【0076】
なお、管状線材50の外径に対する中空部52側内径bの比率の上限は、管状線材50の外径や材質等によって設定条件が異なることから、数値で規定することは困難であるが、管状線材50において給電用コイルのループの外側の肉厚(つまり、管状線材50において最も薄くなる肉厚)を、給電用コイルとしての強度を確保し得る肉厚にできるように
設定すればよい。
【0077】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内にて種々の態様を採ることができる。
例えば、上記実施形態では、受電用コイル12及び送電用コイル32を管状線材50にて構成し、しかも管状線材50の中空部52を、管状線材50の断面中心から各コイル12,32のループの内側に偏心させることで、受電用コイル12及び送電用コイル32の放熱効率を高め、電力伝送時に、これら各コイル12、32に大電流を流せるようにしたが、これら各コイル12、32の放熱効率を更に高めるには、各コイル12、32の外壁に凹凸を形成することで、表面積を増加させるようにしてもよい。
【0078】
また、例えば、各コイル12、32を構成する管状線材50の中空部52に冷却材を充填することで、管状線材50の内側から管状線材50自体を冷却するようにしてもよい。
一方、上記実施形態では、受電用コイル12及び送電用コイル32は、断面円形の管状線材50にて構成されるものとして説明したが、管状線材50は、断面が三角形若しくはそれ以上の多角形であっても、給電用コイル(受電用コイル12、送電用コイル32)のループの内側で電流密度が高くなって発熱し易くなるので、上記実施形態と同様に、管状線材50の中心軸からループの内側に偏心させて中空部52を形成すれば、上記実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0079】
また、同様に、管状線材50の中空部52についても、必ずしも断面円形にする必要はなく、三角形若しくはそれ以上の多角形であってもよい。
また、上記実施形態では、非接触給電用コイル(受電用コイル12、送電用コイル32)は、巻き数が1回の1ターンコイルであるものとして説明したが、これは説明を簡単にするためであり、非接触給電用コイルの巻き数については、必要に応じて適宜増加させてもよい。
【0080】
そして、この場合、管状線材50の巻き方については、ループ状であっても、二重螺旋状に巻かれたヘリカルコイルのようなものであってもよい。
また次に、上記実施形態では、非接触給電用コイル(受電用コイル12、送電用コイル32)は、OFDM変調された多数のサブキャリアを送受信することで、電力伝送する非接触給電システムに適用されるものとして説明したが、本発明の非接触給電用コイルは、一定周波数の電力伝送用高周波信号を電磁誘導若しくは磁界/電界の共鳴により非接触伝送するシステムであれば、適用することができる。
【符号の説明】
【0081】
2…車両、4…バッテリ、10…受電装置、12…受電用コイル、14,16…方向性結合器、18…整流平滑回路、20…充電回路、22…受電量検出部、24…無線通信部、28…受電制御部、30…送電装置、32…送電用コイル、34…有線通信部、36…送電制御部、38…無線通信部、42…歪補償部、44…電力変換部、46…方向性結合器、48…送電用電源回路、50…管状線材、52…中空部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性の線材をループ状に巻回してなる非接触給電用コイルであって、
前記線材は、中心軸方向に中空部が形成された管状線材からなることを特徴とする非接触給電用コイル。
【請求項2】
前記管状線材の断面を見たとき、前記中空部は、前記管状線材の中心位置から偏心した位置に形成されており、
当該非接触給電用コイルは、前記管状線材を巻回することにより、前記管状線材の外周と前記中空部側内周との間の厚みが、当該非接触給電用コイルのループの内側の方がループの外側よりも厚くなるように形成されていることを特徴とする請求項1に記載の非接触給電用コイル。
【請求項3】
前記管状線材は、
当該管状線材の外周と前記中空部側内周との間の厚みが、当該非接触給電用コイルのループの外側の厚みに対し、ループの内側の厚みが少なくとも2倍以上になるように形成されていることを特徴とする請求項2に記載の非接触給電用コイル。
【請求項4】
前記管状線材は、
当該管状線材の外径に対する前記中空部側内径の比率が、少なくとも70%以上となるように形成されていることを特徴とする請求項2又は請求項3に記載の非接触給電用コイル。
【請求項5】
前記管状線材の外壁には凹凸が形成されていることを特徴とする請求項1〜請求項4の何れか1項に記載の非接触給電用コイル。
【請求項6】
前記管状線材の中空部には、冷却材が充填されていることを特徴とする請求項1〜請求項5の何れか1項に記載の非接触給電用コイル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−77752(P2013−77752A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−217673(P2011−217673)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【出願人】(000113665)マスプロ電工株式会社 (395)
【Fターム(参考)】