説明

非接触通信媒体及び電子機器

【課題】通信可能距離内において通信不感帯の発生を防止し、適正な通信特性を有する非接触通信媒体を提供する。
【解決手段】上記非接触通信媒体100は、非接触通信用のアンテナモジュール1と、非接触通信の周波数において実数部(μ’)が120以上であり、虚数部(μ")が7以上且つ21以下である複素比透磁率を有する磁心部材5とを具備する。これによりリーダー/ライターから出力される基本搬送波以外の周波数帯の電磁波(ノイズ)を抑圧し、通信可能距離内において通信不感帯の発生を防止できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、RFID(Radio Frequency IDentification)システム等の非接触データ通信に用いられる非接触通信媒体及びその非接触通信媒体が取り付けられた電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、非接触型ICカード等の非接触通信媒体の需要は益々増加し、鉄道等における改札システム、コンビニエンスストア等における料金支払いシステム、企業等における入退室システム等に広く活用されている。
【0003】
例えば、料金支払いシステムでは、非接触通信媒体に内蔵された非接触型ICモジュールが電子マネー機能を有しており、リーダー/ライターに非接触通信媒体をかざすだけで鉄道の運賃や商品の料金等の支払いを済ませることができる。
【0004】
例えば、13.56MHz帯において電磁誘導方式で非接触データ通信を行う非接触型ICカードの場合、自由空間(周辺に金属体等がない状態)でリーダー/ライターと非接触データ通信を行うことを想定して設計されている。したがって、非接触型ICカードの近傍に金属体が配置される場合、この金属体の表面に誘導される渦電流が非接触型ICカードの非接触データ通信を妨害し、非接触データ通信が可能な距離(以下単に「通信可能距離」という)を著しく低下させることが知られている。
【0005】
一方、このような渦電流を抑え、通信可能距離を改善するために、複素比透磁率の実数部が25以上且つtanδが0.3以下の磁性シートが非接触通信媒体と金属体との間に配置されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−21991号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、この磁性シートによって通信可能距離は改善されるが、通信可能距離内に非接触データ通信のできない領域(以下単に「通信不感帯」という)が発生するという問題がある。
【0008】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、通信可能距離内において通信不感帯の発生を防止し、適正な通信特性を有する非接触通信媒体及びその非接触通信媒体が取り付けられた電子機器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述の課題を解決するため、本発明の一形態に係る非接触通信媒体は、電子機器の外面に取り付けられる非接触通信媒体であって、非接触通信用のアンテナモジュールと、磁心部材とを具備する。
この磁心部材は、非接触通信の周波数において、実数部が120以上であり、虚数部が7以上且つ21以下である複素比透磁率を有する。
この磁心部材は、前記アンテナモジュールに積層される。
【0010】
上記非接触通信媒体において、磁心部材は、非接触通信の周波数において、実数部が120以上であり、虚数部が7以上且つ21以下である複素比透磁率を有している。この構成により、リーダー/ライターから出力される基本搬送波以外の周波数帯の電磁波(ノイズ)を抑圧し、通信可能距離内において通信不感帯の発生を防止できる。
【0011】
また、前記アンテナモジュールが、アンテナコイルと、前記アンテナコイルを支持する支持部材とを有してもよい。
前記アンテナコイルは、前記支持部材の第1の面に配置され、前記磁心部材は、前記支持部材の第2の面に配置されてもよい。
【0012】
この構成により、非接触通信媒体を電子機器の外面に取り付けるとき、アンテナコイルと電子機器の間に磁心部材を配置することができる。したがって、電子機器の外面に取り付けられた非接触通信媒体がリーダー/ライターにかざされたとき、磁心部材はアンテナコイルがリーダー/ライターから出力される電磁波と鎖交しやすくできる。
【0013】
前記電子機器の外面に接着される粘着部材と、前記粘着部材と前記磁心部材との間に配置される金属部材とを更に具備してもよい。
【0014】
この構成により、金属部材が、電子機器から非接触通信媒体への影響を防止し、磁心部材が、金属部材から非接触通信媒体への影響を防止できる。
【0015】
前記磁心部材は、フェライトで構成されてもよい。
【0016】
この構成により、磁心部材は、実数部が120以上で、虚数部が7以上且つ21以下の複素比誘電率を有することができる。
【0017】
本発明の一形態に係る電子機器は、本体と、この本体の外面に取り付けられる非接触通信媒体と、この非接触通信媒体を覆い、弾力性を有する保護部材とを具備する。
前記非接触通信媒体は、非接触通信用のアンテナモジュールと、磁心部材とを有する。
前記磁心部材は、前記非接触通信の周波数において、実数部が120以上であり、虚数部が7以上且つ21以下である複素比透磁率を有する。
この磁心部材は、前記アンテナモジュールに積層される。
【0018】
この構成により、非接触通信媒体に加えられる外力等によりアンテナモジュールが破壊されることを防ぐことができる。
【発明の効果】
【0019】
以上のように、本発明によれば、通信可能距離内において通信不感帯の発生を防止し、適正な通信特性を有する非接触通信媒体及びその非接触通信媒体が取り付けられた電子機器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】図1は、本発明の一実施の形態の非接触通信媒体の概略構成を示す分解斜視図である。
【図2】図2は、本発明の一実施の形態の非接触通信媒体が取り付けられた面をリーダー/ライターに向けている電子機器の斜視図である。
【図3】図3は、従来の磁性シートを用いた場合の非接触通信媒体の通信距離特性を示すグラフである。
【図4】図4は、通信不感帯の有無の検討に用いた磁性材料の一例の複素比透磁率のグラフである。
【図5】図5は、実数部113且つ虚数部3.8の複素比透磁率の磁心部材を用いた非接触通信媒体の通信距離特性を示すグラフである。
【図6】図6は、実数部119且つ虚数部6.3の複素比透磁率の磁心部材を用いた非接触通信媒体の通信距離特性を示すグラフである。
【図7】図7は、実数部127且つ虚数部10.4の複素比透磁率の磁心部材を用いた非接触通信媒体の通信距離特性を示すグラフである。
【図8】図8は、実数部135且つ虚数部12.8の複素比透磁率の磁心部材を用いた非接触通信媒体の通信距離特性を示すグラフである。
【図9】図9は、実数部143且つ虚数部20.2の複素比透磁率の磁心部材を用いた非接触通信媒体の通信距離特性を示すグラフである。
【図10】図10は、実数部167且つ虚数部4.0の複素比透磁率の磁心部材を用いた非接触通信媒体の通信距離特性を示すグラフである。
【図11】図11は、本発明の一実施の形態の非接触通信媒体の変形例の概略構成を示す分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照し、本発明の一実施の形態の非接触通信媒体及びその非接触通信媒体が取り付けられた電子機器について説明する。
【0022】
図1は、本発明の一実施の形態の非接触通信媒体の概略構成を示す分解斜視図である。本実施形態の非接触通信媒体100は、アンテナモジュール1と、磁心部材5と、保護部材6と、粘着部材10とを有する。
【0023】
非接触通信媒体100は、電子機器500に貼り付けられる。電子機器500は、外面501を有する筺体502を備え、筺体502には、図示しない電子回路が実装された基板が収納されている。本実施の形態では、図1に示すように、筺体502の裏面501’に非接触通信媒体100が貼り付けられるが、これに限らず外面501の他の位置に非接触通信媒体100が貼り付けられてもよい。
【0024】
[非接触通信媒体]
非接触通信媒体100は、図1に示すように、13.56MHz帯の非接触通信用のアンテナモジュール1を有する。アンテナモジュール1は、ベース基板2と、ベース基板2上に形成されたアンテナコイル3と、アンテナコイル3に電気的に接続される信号処理回路部4とを有している。
【0025】
アンテナコイル3は、リーダー/ライターのアンテナ部と誘導結合されることで非接触通信媒体100とリーダー/ライターとの非接触データ通信が実行される。アンテナコイル3は、例えば、ベース基板2上にパターニングされた銅、アルミニウム等の金属パターンであって、平面内でループ状に巻回するように形成される。このアンテナコイル3の開口面積を大きくすることで、非接触通信媒体100の通信特性を向上させることができる。
【0026】
本実施の形態のベース基板2は、例えば、ポリイミド、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等のプラスチックフィルムでなる絶縁性フレキシブル基板で構成されているが、ガラスエポキシ等のリジッド性基板で構成されてもよい。例えば、ベース基板2としてフレキシブル基板が用いられることによって、本体502の裏面501’が曲面であっても、裏面501’に沿って非接触通信媒体100を接着することができる。
【0027】
図1では、本実施の形態のベース基板2の形状は矩形であるが、例えば、円形や多角形であってもよい。また、ベース基板2の大きさも適宜設定可能である。例えば、アンテナコイル3の開口面積が所定の大きさになるように、ベース基板2の形状や大きさ等が適宜設定される。
【0028】
信号処理回路部4は、非接触データ通信に必要な信号処理回路及び情報を格納したICチップ4aや同調用コンデンサ等の電気・電子部品で構成される。信号処理回路部4は、複数の部品群で構成されてもよいし、あるいは単一の部品で構成されてもよい。信号処理回路部4は、ベース基板2上の、例えば、アンテナコイル3の内方側に配置される。
【0029】
ここで、ベース基板2のアンテナコイル3や信号処理回路部4が形成される面を、アンテナモジュール1の第1の面1aとし、反対側の面をアンテナモジュール1の第2の面1bとする。
【0030】
アンテナモジュール1の第2の面1bには、磁心部材5と、粘着部材10とがそれぞれ設けられる。
【0031】
磁心部材5は、シート状の磁性材料で形成される。本実施形態では、磁心部材5はベース基板2よりも大きい矩形シートで形成されているが、大きさはこれに限定されず、例えばベース基板2と同等の大きさで形成されてもよい。
【0032】
磁心部材5は、13.56MHz帯において、実数部(μ’)が120以上であり、虚数部(μ")が7以上且つ21以下である複素比透磁率を有する。これにより、後述するように、リーダー/ライターから出力される基本搬送波以外の周波数帯の電磁波(ノイズ)を抑圧し、通信可能距離内において通信不感帯の発生を防止できる。
【0033】
上記特性を有する磁性材料として、本実施形態では、フェライトが用いられる。磁心部材5は、フェライトシート単独で用いられてもよいが、プラスチックフィルム等でフェライトシートを被覆したものでもよい。この場合、フェライトは定形のシート状に限られず、破片をシート状に敷き詰めたものでもよい。
【0034】
粘着部材10は、例えば、両面粘着シート等からなり、この粘着部材10により非接触通信媒体100が電子機器500の裏面501’に接着される。
【0035】
保護部材6は、アンテナモジュール1の第1の面1aを覆うようにが形成される。保護部材6は、例えば、ウレタン系樹脂、シリコン系樹脂、ポリエステル系樹脂、オレフィン系樹脂、エポキシ系樹脂、又は塩化ビニル系樹脂等からなる液体材料がポッティングされることで形成される。例えば、所定の型に液体材料が充填され固められることで作成された保護部材6が、図示しない粘着シートによりアンテナモジュール1の第1の面1a側に接着されてもよい。または、アンテナモジュール1の第1の面1a側に液体材料が滴下されることで、保護部材6が形成されてもよい。
【0036】
保護部材6は、透明樹脂によって形成されることによって非接触通信媒体100の外部から加飾層が視認可能となる。また、保護部材6は、保護部材6により加飾層が保護されるので、加飾層の劣化が防止され、長期にわたり非接触通信媒体100のデザイン性が維持される。保護部材6は、無色透明に限られず、有色透明、無色半透明、又は有色半透明でもよい。また、保護部材6の内部に加飾用の粉末や着色剤が含有されてもよい。さらに加飾層が保護部材6の内部に埋め込まれてもよい。
【0037】
本実施の形態では、保護部材6がポッティングにより形成されるので、保護部材6の形状、大きさ、厚み等を種々のものに設定することが容易であり、非接触通信媒体100のデザイン性を向上させることができる。また保護部材6を形成するために金型を用いる必要がないので、保護部材6の形状変更等を伴うモデルチェンジの対応に多大なコストを要することがない。この結果、非接触通信媒体100の多品種少ロット生産を容易に実現することができる。
【0038】
また保護部材6としては、弾力性を有するものが用いられる。これにより非接触通信媒体100に加えられる外力等により、アンテナモジュール1が破壊されることを防ぐことができる。例えば、約20℃程度の常温状態において、ショア硬度A0以上A90以下の範囲となるように、保護部材6の硬度が適宜設定される。例えば、保護部材6がショア硬度A0以下の硬度となると、保護部材6の強度が不十分となる。一方、保護部材6がショア硬度A90以上の硬度となると、外力等を吸収することができなくなる。いずれにしても、保護部材6によりアンテナモジュール1を十分に保護することが難しくなる。
【0039】
また、弾力性を有する保護部材6が用いられることで、電子機器500の裏面501’の形状に沿って非接触通信媒体100を接着することができる。さらに、保護部材6により、部品等が配置されているアンテナモジュール1の第1の面1a上を、配置されている部品の形状に沿って覆うことができる。
【0040】
なお、本実施の形態の非接触通信媒体100は、何度でも貼り替えて用いることが可能である。従って、新しい電子機器を購入した場合でも、その電子機器に非接触通信媒体100を装着することで、非接触データ通信を行うことができる。しかしながら、例えば、非接触通信媒体100が無断で剥がされて他人に使用されることを防ぐために、剥がされたときにアンテナモジュール1の非接触データ通信の機能が停止するようにしてもよい。
【0041】
図2は、本発明の一実施の形態の非接触通信媒体が取り付けられた面をリーダー/ライターに向けている電子機器の斜視図である。
【0042】
上記構成を有する非接触通信媒体100が接着された電子機器500を用いて、外部のリーダー/ライター300と非接触データ通信を行う際には、図2に示すように、電子機器500の裏面501’をリーダー/ライター300のアンテナ部に接近させる。そして、リーダー/ライター300のアンテナ部から出力された電磁波あるいは高周波磁界が、アンテナモジュール1のアンテナコイル3と鎖交することによって、アンテナコイル3に電磁波あるいは高周波磁界の強さに応じて誘導電流が発生する。この誘導電流は信号処理回路部4において整流され、ICチップ4aに記録された情報の読出し電圧に変換される。読み出された情報は、信号処理回路部4において変調され、アンテナコイル3を介して300のアンテナ部へ送信される。
【0043】
(磁心部材の複素比透磁率の評価)
通信妨害部材となる金属面の近傍で用いることができるようにするため、非接触通信媒体は、通信妨害部材との間に磁性シートが配置される。磁性シートは、一般的には、複素比透磁率の実数部μ’が大きい材料から成り、磁力線が磁性シートを集中して通り、近傍に存在する通信妨害部材内を通らないか、又は通りにくくしている。
【0044】
例えば、通信妨害部材の代わりに電子機器が非接触通信媒体の近傍に配置された(又は電子機器の外部に非接触通信媒体が取り付けられた)状態で、アンテナコイルと電子機器の間に磁性シートが設けられていない場合、磁力線が電子機器の金属筺体の表面近傍を通り、磁界の変化に伴って電子機器の金属筺体の表面に渦電流が誘導されるため、渦電流損によって磁界のエネルギーが熱エネルギーに変換され、磁界のエネルギーが吸収される。また、渦電流による逆向きの磁界が非接触データ通信を妨害することになる。
【0045】
また、従来の磁性シートには、通常、複素比透磁率の虚数部μ"が小さい材料が用いられており、この磁性シートの中を磁束が通過しても通過に伴う磁性シート内でのエネルギーの損失を小さく抑えている。
【0046】
図3は、従来の磁性シート(μ’=105、μ"=3)を用いた場合の非接触通信媒体の通信距離特性を示すグラフである。
【0047】
図3の通信距離特性は、非接触通信媒体100を電子機器500の外面に取り付けた状態で、遠い距離から徐々にリーダー/ライター300に近づけたときのものである。
なお、磁心部材の複素比透磁率の評価に用いた電子機器、非接触通信媒体、及び保護部材は以下の通りである。
電子機器: ソフトバンクモバイル株式会社製「iPhone3G(商品名)」
非接触通信媒体: アンテナコイルと、
FeliCa(ソニー株式会社の登録商標)チップと、が搭載されたモジュール
保護部材: ウレタン系部材
【0048】
図3のグラフの横軸の数値は、リーダー/ライター300から出力される電磁波の周波数を示し、縦軸の数値は、非接触通信媒体100とリーダー/ライター300の間の距離を示している。
【0049】
ここで、図3のグラフに示した通信正答率を次のように定義する。
リーダー/ライター300の電磁波の周波数と、非接触通信媒体100からリーダー/ライター300までの距離を変え、各位置及び周波数でリーダー/ライター300が非接触通信媒体100に対して予め設定された回数の非接触データ通信を行う。そして、一回の失敗もせずに非接触データ通信を行ったとき、通信正答率100%と定義する。
指定された位置及び周波数において同様に予め設定された回数の非接触データ通信を繰り返し、通信正答率を評価している。
【0050】
図3の通信距離特性では、一点破線で示す領域、すなわち(非接触通信媒体100のアンテナの共振周波数13.56MHzを含む)13.11MHzから13.81MHzにおいてリーダー/ライター300の近傍に通信不感帯が存在することを示している。
【0051】
ここで、通信可能距離及び通信不感帯を以下のように定義する。
非接触通信媒体100とリーダー/ライター300の間の距離を変え、各距離でリーダー/ライター300が非接触通信媒体100に対して複数回の非接触データ通信を行う。そして、通信正答率100%で非接触データ通信を行った距離を通信可能距離と定義する。
非接触通信媒体100とリーダー/ライター300の間の距離を離散的に変え、各距離でリーダー/ライター300が非接触通信媒体100に対して複数回の非接触データ通信を行う。そして、通信可能距離の範囲内で通信正答率100%未満、すなわち一回以上非接触データ通信が失敗に終わった位置又はその区間を通信不感帯と定義する。
【0052】
この通信距離特性のようにリーダー/ライター300の近傍に通信不感帯が存在している場合、ユーザが非接触通信媒体100をリーダー/ライター300にかざしても、非接触通信媒体100がリーダー/ライター300の電磁波に反応しないことも考えられる。
【0053】
また、(機種によって格差はあるが)リーダー/ライター300は、基本搬送波の13.56MHz以外の周波数帯の電磁波(例えば、基本搬送波の高調波成分)も発生しているため、リーダー/ライター300の近傍においては、たとえ微弱な高調波成分(非接触データ通信には必要のない成分)であっても、高調波成分が非接触通信媒体100に影響を及ぼし、非接触データ通信を失敗させている可能性が高いと考えられる。
【0054】
また、リーダー/ライター300の種類も年々増加傾向にあり、用途・目的に応じて設計されているため、リーダー/ライター300と非接触通信媒体の組合せによって多様な通信不感帯が発生すると考えられる。したがって、通信可能距離内において通信不感帯の発生を防止できる磁心部材が必要とされている。
【0055】
次に、本実施の形態の非接触通信媒体を構成する磁心部材の複素比透磁率について説明する。
【0056】
図4は、通信距離特性の通信不感帯の有無の検討に用いた磁性材料の複素比透磁のグラフである。
【0057】
実際には、複素比透磁率の異なる多数のフェライトシートについて通信不感帯の有無を調査/評価しているが、図4に例示したのは下記複素比透磁率を有するフェライトシートである。
サンプル番号 虚数部μ’ 実数部μ"
No.1 113 3.8
No.2 119 6.3
No.3 127 10.4
No.4 135 12.8
No.5 143 20.2
【0058】
なお、磁心部材の複素比透磁率は、16454A磁性材料測定電極を用いた透磁率の測定システムで測定している(アジレント社、アプリケーション・ノート1369‐1「インピーダンス測定技術を用いた誘電体、磁性体材料測定」、第15〜18頁参照)。
【0059】
また、図4のグラフの横軸の数値は複素比透磁率の実数部を示し、縦軸の数値は複素比透磁率の虚数部を示している。
【0060】
図5乃至10は、複素比透磁率の異なる複数のフェライトシートを用いて磁心部材を構成したときの通信距離特性を示すグラフである。
図5は、μ’=113、μ"=3.8のフェライトシート(サンプル1)を用いた場合の通信特性である。
図6は、μ’=119、μ"=6.3のフェライトシート(サンプル2)を用いた場合の通信特性である。
図7は、μ’=127、μ"=10.4のフェライトシート(サンプル3)を用いた場合の通信特性である。
図8は、μ’=135、μ"=12.8のフェライトシート(サンプル4)を用いた場合の通信特性である。
図9は、μ’=143、μ"=20.2のフェライトシート(サンプル5)を用いた場合の通信特性である。
図10は、μ’=167、μ"=4.0のフェライトシート(サンプル6)を用いた場合の通信特性である。
【0061】
これらのフェライトシートを評価するため、非接触通信媒体100とリーダー/ライター300の間の距離を変え、距離毎にリーダー/ライター300が非接触通信媒体100に対して複数回の非接触データ通信を行って、通信正答率100%か否を判定している。
【0062】
また、図5乃至10のグラフは"Y−10","X−10","XY0","X+10","Y+10"の5つの異なる条件下の通信距離特性を示している。
【0063】
(1)"Y−10"の通信距離特性は、リーダー/ライター300の不図示のアンテナコイルの中心軸に対してY軸方向に非接触通信媒体のアンテナコイルが−10mmずれた状態で、非接触通信媒体を遠い距離から徐々にリーダー/ライター300に近づけたときのものである。
(2)"X−10"の通信距離特性は、リーダー/ライター300の不図示のアンテナコイルの中心軸に対してX軸方向に非接触通信媒体のアンテナコイルが−10mmずれた状態で、非接触通信媒体を遠い距離から徐々にリーダー/ライター300に近づけたときのものである。
(3)"XY0"の通信距離特性は、リーダー/ライター300の不図示のアンテナコイルの中心軸と非接触通信媒体のアンテナコイルの中心軸が一致する状態で、非接触通信媒体を遠い距離から徐々にリーダー/ライター300に近づけたときのものである。
(4)"X+10"の通信距離特性は、リーダー/ライター300の不図示のアンテナコイルの中心軸に対してX軸方向に非接触通信媒体のアンテナコイルが+10mmずれた状態で、非接触通信媒体を遠い距離から徐々にリーダー/ライター300に近づけたときのものである。
(5)"Y+10"の通信距離特性は、リーダー/ライター300の不図示のアンテナコイルの中心軸に対してY軸方向に非接触通信媒体のアンテナコイルが+10mmずれた状態で、非接触通信媒体を遠い距離から徐々にリーダー/ライター300に近づけたときのものである。
【0064】
図5乃至10の"Y−10","X−10","XY0","X+10","Y+10"の通信距離特性では、非接触通信媒体とリーダー/ライター300との間で非接触データ通信を複数回繰り返し、一度でも通信不能になった領域を通信不感帯として記録している。
【0065】
サンプル1(図5)では、"Y−10"の通信距離特性の4mm付近と"X+10"の通信距離特性の3mm付近に通信不感帯が発生している。サンプル2(図6)では、"Y−10"の通信距離特性の4mm付近と"X+10"の通信距離特性の3mm付近に通信不感帯が発生している。サンプル6(図10)では、複素比透磁率の実数部が大きいにもかかわらず、"Y−10"の通信距離特性の4mm付近に通信不感帯が発生している。
【0066】
サンプル1,2の結果より、μ’が120未満で、μ"が7以下の磁心部材では、通信不感帯領域の発生により安定した通信特性を確保できないことが確認された。また、サンプル6に関しては、μ’が120以上であるものの、μ"が4と小さいため、限られた領域で通信不感帯が確認された。
【0067】
これに対して、サンプル3〜5(図7乃至9)では、"Y−10","X−10","XY0","X+10","Y+10"の何れの通信距離特性にも通信不感帯は発生していない。すなわち、複素比透磁率の実数部(μ’)が120以上であり、虚数部(μ")が7以上且つ21以下である場合、通信不感帯を生じさせることなく安定した通信特性が確保されることが確認される。
【0068】
以上の結果から、磁心部材の複素比透磁率の実数部が大きいだけでは、通信不感帯の発生を防止することはできないことが明らかとなった。すなわち、リーダー/ライターの基本搬送波の13.56MHz以外の周波数帯の電磁波(例えば、基本搬送波の高調波成分)の影響を阻止するため、磁心部材には、複素比透磁率の実数部だけでなく、虚数部もある程度の大きな磁性材料を選択する必要がある。
【0069】
なお、複素比透磁率の虚数部が大きいと磁性部材による電力損失も大きくなるので、複素比透磁率の虚数部を適切な範囲に限定することが重要である。
【0070】
なお、サンプル3〜5について、ソニー株式会社が定めるFeliCa性能検定及びビットワレット株式会社が定めるEdyカード技術検定の全対象機種において検定基準を満足することが確認された。
【0071】
以上、本実施の形態によれば、通信可能距離内において通信不感帯の発生を防止し、電子機器の外部に取り付けられた非接触通信媒体が適正な通信特性を有することができる。
【0072】
<変形例>
本発明は上述の実施形態にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更され得る。
【0073】
例えば非接触通信媒体は、金属部材をさらに有してもよい。図11は、上述の一実施の形態の非接触通信媒体の変形例の概略構成を示す斜視図である。
非接触通信媒体200は、図11に示すように、13.56MHz帯の非接触通信用のアンテナコイル201を有する。アンテナモジュール1は、ベース基板2と、ベース基板2上に形成されたアンテナコイル3と、アンテナコイル3に電気的に接続される信号処理回路部4とを有している。アンテナモジュール1の第2の面1bには、磁心部材5と、金属部材15と、粘着部材10とがこの順で設けられ、図示しない両面粘着シート等によりそれぞれ接着される。金属部材15は、ステンレス板やアルミニウム板などの金属板で形成される。
【0074】
金属部材15が磁心部材5と粘着材10との間に配置されることで、電子機器500への取付け前と取付け後における非接触通信媒体の通信特性の変化を抑制することができる。また電子機器の種類によらず、非接触通信媒体の安定した通信特性を確保することができる。
【0075】
上記の各実施形態で説明した非接触通信媒体が取り付けられる電子機器としては、例えば、デジタルカメラ及びデジタルビデオカメラ等の撮像装置、携帯電話及び携帯型オーディオビジュアル機器等の端末装置、携帯ゲーム機器、PDA(Personal Digital Assistance)、オンスクリーンキーボード、電子辞書、ディスプレイ装置、オーディオ/ビジュアル機器、プロジェクタ、ゲーム機器、ロボット機器、その他の電化製品等が挙げられる。
【0076】
また以上の実施形態では、電子機器に取り付けられる非接触通信媒体を例に挙げて説明したが、例えばICカードのように、電子機器に取り付けられない非接触通信媒体にも同様に適用可能である。
【符号の説明】
【0077】
1…アンテナモジュール
1a…アンテナモジュールの第1の面
1b…アンテナモジュールの第2の面
5…取付け媒体
5a…磁性部材
5b…金属部材
5c…粘着部材
6…保護部材
100、200…非接触通信媒体
300…リーダー/ライター
500…電子機器
501…電子機器の外面
501’…電子機器の裏面
502…電子機器の本体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非接触通信用のアンテナモジュールと、
前記非接触通信の周波数において、実数部が120以上であり、虚数部が7以上且つ21以下である複素比透磁率を有し、前記アンテナモジュールに積層される磁心部材と
を具備する非接触通信媒体。
【請求項2】
請求項1に記載の非接触通信媒体であって、
前記アンテナモジュールは、アンテナコイルと、第1の面と第2の面とを有する支持部材とを有し、
前記アンテナコイルは、前記支持部材の前記第1の面に配置され、
前記磁心部材は、前記支持部材の前記第2の面に配置される非接触通信媒体。
【請求項3】
請求項2に記載の非接触通信媒体であって、
前記電子機器の外面に接着される粘着部材と、
前記粘着部材と前記磁心部材との間に配置される金属部材と
を更に具備する非接触通信媒体。
【請求項4】
請求項1に記載の非接触通信媒体であって、
前記磁心部材はフェライトで構成される非接触通信媒体。
【請求項5】
本体と、
非接触通信用のアンテナモジュールと、前記非接触通信の周波数において、実数部が120以上であり、虚数部が7以上且つ21以下である複素比透磁率を有し、前記アンテナモジュールに積層される磁心部材とを有し、前記本体の外面に取り付けられる非接触通信媒体と、
前記非接触通信媒体を覆い、弾力性を有する保護部材と
を具備する電子機器。
【請求項6】
請求項5に記載の電子機器であって、
前記アンテナモジュールは、アンテナコイルと、第1の面と第2の面とを有する支持部材とを有し、
前記アンテナコイルは、前記支持部材の前記第の1面に配置され、
前記磁心部材は、前記支持部材の前記第2の面に配置される電子機器。
【請求項7】
請求項5に記載の電子機器であって、
前記本体の外面に接着される粘着部材と、
前記粘着部材と前記磁心部材との間に配置される金属部材と
を更に具備する電子機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−134808(P2012−134808A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−285762(P2010−285762)
【出願日】平成22年12月22日(2010.12.22)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】