説明

非接触ICカード通信調整板、非接触ICカードケース、および非接触ICカードを収納可能な財布

【課題】外部装置に面した面とは反対側にある非接触ICカードを読み取ってしまう読取りエラーを防止できる量産性の良い非接触ICカード通信調整板を提供する。
【解決手段】非接触ICカード通信調整板1は、電磁波を利用して外部装置40と非接触で通信できる非接触ICカード30の通信状態を調整するために、電磁波を遮断等するシールドシート10の表面に電磁波が透過する並行した帯状の磁性シート20を積層し、磁性シート20は、シールドシート10を非接触ICカード30に重ね合わせた使用状態において、非接触ICカード30の長端に沿う方向にシールドシート10の一方の短辺部11側から他方の短辺部11側まで延設するとともに非接触ICカード30の両側長端に沿うシールドシート10の長辺部13の外縁や前記両短辺部11の外縁まで達しないよう形成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外部装置が発信する電磁波を利用して外部装置と非接触で通信することができる非接触ICカードに重ね合わせて使用する、外部装置と非接触ICカードとの通信状態を調整するための非接触ICカード通信調整板、非接触ICカードを収納したままで使用する非接触ICカードケース、および非接触ICカードを収納可能な財布に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の非接触ICカード通信調整板としては、例えば本願出願人が提案した特許文献1、および特許文献2に示すようなものがある。
すなわち、特許文献1は、電磁シールド効果を有する略四辺形の電磁シール層の片面または両面に該電磁シールド層よりもやや狭い面積を有する高透磁層を積層したものである。そして、高透磁層は、電磁シールド層にほぼ相似の形状を有しており、その周縁外側は電磁シールド層に囲まれるように形成されている。
【0003】
また、特許文献2も特許文献1と同様に、導電性シートに磁性シートを積層したものであり、磁性シートは、導電性シートの形状より小さい形状であり、導電性シートの外周縁部分には積層しないようにしたものである。
【0004】
また、本願出願人は、非接触ICカード通信調整板として、外部装置と非接触ICカードとの間の通信に使用する電磁波を透過させる、並行する帯状の磁性シートをシールドシートの片面ないし両面に積層して設けたものを特許出願している。その非接触ICカード通信調整板の磁性シートは、シールドシートを非接触ICカードに重ね合わせた使用状態において、非接触ICカードの両側長端に沿うようにシールドシートの一方の端縁から他方の端縁まで延設したものとなっている。
【0005】
【特許文献1】特開2006−350748号公報
【特許文献2】特許第3872496号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載された技術では、電磁シールド層の外周縁部を残してその内側全体に高誘磁層が形成されているので、外部装置と非接触ICカードとの通信は良好にすることができるが、高誘磁層の占める面積が大きいので高価になるという問題点があった。
【0007】
また、特許文献2には、導電性シートの外周縁部を残してその近傍内側に磁性シートを積層するようにして形成したもので、磁性シートとして一枚の磁性シートの内側を広い面積に亘ってくり貫いた形状を有するものが開示されている。しかしながら、このような形状の磁性シートを製造するためには、例えば、磁性シートを四辺形に形成してから中央側をくり貫くなどしなければならず、磁性シートに無駄が生じ得るという問題があった。また、中央側をくり貫くことなく製造するには、そのための製造技術が必要になるという問題があった。さらに、このような形状の磁性シートを導電性シートに貼着するには、そのための生産技術が必要であった。
【0008】
また、本出願人が提案した前記の非接触ICカード通信調整板には、帯状に延びる磁性シートの両端側において、外部装置に面した面とは反対側にある非接触ICカードを読み取ってしまう読取りエラーの防止を向上させる余地があった。
【0009】
本発明は、このような従来の技術が有する問題点に着目してなされたもので、磁性シートの生産に際して無駄が生じることなく、安価で容易に製造でき、かつ、外部装置に面した面とは反対側にある非接触ICカードを読み取ってしまう読取りエラーの防止を向上することができるようにした非接触ICカード通信調整板を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
かかる目的を達成するための本発明の要旨とするところは、次の各項の発明に存する。
[1] 外部装置(40)が発信する電磁波を利用して前記外部装置(40)と非接触で通信することができる非接触ICカード(30)に重ね合わせて使用する、前記外部装置(40)と前記非接触ICカード(30)との通信状態を調整するための非接触ICカード通信調整板において、
前記外部装置(40)と前記非接触ICカード(30)との間の電磁波を遮断ないし減衰させる、シールドシート(10)と、
前記シールドシート(10)の片面に積層され、前記外部装置(40)と前記非接触ICカード(30)との間の電磁波を透過させる、少なくとも2つの並行する帯状の磁性シート(20)と、を備え、
前記並行する帯状の磁性シート(20)それぞれは、前記シールドシート(10)を前記非接触ICカード(30)に重ね合わせた使用状態において該非接触ICカード(30)の長端に沿う方向に前記シールドシート(10)の一方の短辺部(11)側から他方の短辺部(11)側まで延設したものであり、前記使用状態において前記非接触ICカード(30)の両側長端に沿う前記シールドシート(10)の長辺部(13)の外縁、前記シールドシート(10)の一方の短辺部(11)の外縁、および他方の短辺部(11)の外縁までは達していないことを特徴とする非接触ICカード通信調整板。
【0011】
[2] 外部装置(40)が発信する電磁波を利用して前記外部装置(40)と非接触で通信することができる非接触ICカード(30)に重ね合わせて使用する、前記外部装置(40)と前記非接触ICカード(30)との通信状態を調整するための非接触ICカード通信調整板(1)において、
前記外部装置(40)と前記非接触ICカード(30)との間の電磁波を遮断ないし減衰させる、シールドシート(10)と、
前記シールドシート(10)の両面に積層され、前記外部装置(40)と前記非接触ICカード(30)との間の電磁波を透過させる、少なくとも2つの並行する帯状の磁性シート(20)と、を備え、
前記並行する帯状の磁性シート(20)それぞれは、前記シールドシート(10)を前記非接触ICカード(30)に重ね合わせた使用状態において該非接触ICカード(30)の長端に沿う方向に前記シールドシート(10)の一方の短辺部側から他方の短辺部側まで延設したものであり、前記使用状態において前記非接触ICカード(30)の両側長端に沿う前記シールドシート(10)の長辺部(13)の外縁、前記シールドシート(10)の一方の短辺部(11)の外縁、および他方の短辺部(11)の外縁までは達していないことを特徴とする非接触ICカード通信調整板(1)。
【0012】
[3] 前記非接触ICカード(30)がICに接続されたアンテナコイル(33)を内蔵し、
前記シールドシート(10)は、前記磁性シート(20)の占める領域および該磁性シート(20)それぞれによって挟まれる中間領域(12)双方の占める大きさが少なくとも前記アンテナコイル(33)の最外周縁が囲む領域よりも大きく、
前記使用状態において、前記中間領域(12)は、前記アンテナコイル(33)全体が収まらない幅に設定したことを特徴とする項[1]または[2]に記載の非接触ICカード通信調整板(1)。
【0013】
[4] 外部装置(40)と非接触で通信することができる非接触ICカード(30)を収納したままで使用する非接触ICカードケース(50)において、
前記非接触ICカード(30)を収納するICカード収納部(51)内に、前記外部装置(40)と前記非接触ICカード(30)との通信状態を調整するための項[1]から[3]の何れか一項に記載の非接触ICカード通信調整板(1)を備え、
前記非接触ICカード通信調整板(1)は、前記ICカード収納部(51)に収納した前記非接触ICカード(30)と重なり合うように取り付けたことを特徴とする非接触ICカードケース(50)。
【0014】
[5] 外部装置(40)と非接触で通信することができる非接触ICカード(30)を収納可能な財布(60)において、
前記非接触ICカード(30)を収納するICカード収納部(61)内に、前記外部装置(40)と前記非接触ICカード(30)との通信状態を調整するための項[1]から[3]の何れか一項に記載の非接触ICカード通信調整板(1)を備え、
前記非接触ICカード通信調整板(1)は、前記ICカード収納部(61)に収納した前記非接触ICカード(30)と重なり合うように取り付けたことを特徴とする財布(60)。
【0015】
前記本発明は次のように作用する。
非接触ICカード通信調整板(1)は、シールドシート(10)の片面に少なくとも2つの磁性シート(20)を備えており、この磁性シート(20)は、非接触ICカード通信調整板(1)を非接触ICカード(30)に重ね合わせたときに非接触ICカード(30)の長端に沿う方向にシールドシート(10)の一方の短辺部(11)から他方の短辺部(11)まで帯状に並行に延設されている。したがって、並行する磁性シート(20)同士の間は、シールドシート(10)が露出している領域となっている。これにより、その分の磁性材が少なく済んでいる。
【0016】
磁性シート(20)は、シールドシート(10)に対してシールドシート(10)を非接触ICカード(30)に重ね合わせた使用状態において非接触ICカード(30)の長端に沿う方向にシールドシート(10)の一方の短辺部(11)側から他方の短辺部(11)側まで延設すればよく、その際、使用状態において非接触ICカード(30)の両側長端に沿うシールドシート(10)の長辺部(13)の外縁、シールドシート(10)の一方の短辺部(11)の外縁、および他方の短辺部(11)の外縁までは達しないようにすればよい。
【0017】
このようにして製造された非接触ICカード通信調整板(1)のシールドシート(10)は、透過しようとする電磁波を遮蔽することができるものである。また、磁性シート(20)は、電磁波を空気層よりも高密度に透過させることができるものである。
【0018】
したがって、非接触ICカード(30)の表裏両面のうち外部装置(40)に面する側に非接触ICカード通信調整板(1)が重ね合わされているような状態にあるときは、非接触ICカード通信調整板(1)側の面が磁性シート(20)を備える面であるか否かにかかわらず、シールドシート(10)が外部装置(40)からの電磁波を遮断して、非接触ICカード(30)と外部装置(40)との通信を防止することができる。
【0019】
逆に、非接触ICカード通信調整板(1)が外部装置(40)とは反対側で非接触ICカード(30)に重ね合わさった状態にあり、すなわち、非接触ICカード(30)が外部装置(40)に面するような状態にあり、かつ、その重ね合わさった非接触ICカード通信調整板(1)側の面が磁性シート(20)を備えない面であるときは、外部装置(40)からの電磁波は、非接触ICカード(30)を透過した後、シールドシート(10)によって減衰させられるので、この場合にも外部装置(40)との通信を防止することができる。
【0020】
これに対して、非接触ICカード通信調整板(1)に重ね合わさった非接触ICカード(30)が外部装置(40)に面するような状態にあり、かつ、その重ね合わさった非接触ICカード通信調整板(1)側の面が磁性シート(20)を備える面であるときは、外部装置(40)からの電磁波は、非接触ICカード通信調整板(1)に遮られずに直接に非接触ICカード(30)に至る。そして、アンテナコイル(33)が電磁波を受信すると、磁誘導により非接触ICカード(30)内に電流が供給され、これにより、非接触ICカード(30)が動作して電磁波を発信する。このようにして、非接触ICカード通信調整板(1)は、非接触ICカード(30)と外部装置(40)との通信を可能にしたり、防止したりすることができる。
【0021】
そして、磁性シート(20)は、少なくとも2つの単に並行する帯状に設けられており、磁性シート(20)同士の間にシールドシート(10)が露出している中間領域(12)を設けてある。さらに磁性シート(20)は、使用状態において非接触ICカード(30)の両側長端に沿うシールドシート(10)の長辺部(13)の外縁、シールドシート(10)の一方の短辺部(11)の外縁、および他方の短辺部(11)の外縁までは達していない。これにより、非接触ICカード(30)のシールド面積が大きくなり、磁性シート(20)の生産に際して無駄が生じることなく、安価で容易に製造でき、かつ、外部装置(40)に面した面とは反対側にある非接触ICカード(30)を読み取ってしまう読取りエラーの防止機能が向上する。
【0022】
さらにまた、シールドシート(10)のうち、磁性シート(20,20)が占める領域および中間領域(12)が占める部分の大きさを少なくとも非接触ICカード(30)に内蔵されているアンテナコイル(33)の最外周縁が囲む領域よりも大きくし、かつ、磁性シート(20,20)間の中間領域(12)を使用状態においてアンテナコイル(33)全体が収まらない幅にすることにより、外部装置(40)と通信させようとする側の非接触ICカード(30)のアンテナコイル(33)が確実に磁性シート(20)と重なるので、外部装置(40)との通信を確実に行わせることができる。
【0023】
また、非接触ICカード(30)を収納するICカード収納部(51)を有し、該ICカード収納部(51)に収納した非接触ICカード(30)と重なり合うように非接触ICカード通信調整板(1)を取り付けた非接触ICカードケース(50)によれば、非接触ICカード通信調整板(1)の奏する効果を好適に発揮させることができる。
【0024】
また、非接触ICカード(30)を収納するICカード収納部(61)を有し、該ICカード収納部(61)に収納した非接触ICカード(30)と重なり合うように非接触ICカード通信調整板(1)を取り付けた財布(60)によれば、非接触ICカードケース(50)と財布(60)とを別個に所持する必要がなく、利便性にすぐれた財布(60)となる。
【0025】
なお、磁性シート(20)は、非接触ICカード通信調整板(1)の両面に配設するのはなく、片面だけに配設してもよい。
【発明の効果】
【0026】
本発明にかかる非接触ICカード通信調整板によれば、帯状の磁性シートの間にシールドシートが露出した中間領域を有するとともに磁性シートを使用状態において非接触ICカードの両側長端に沿うシールドシートの長辺部の外縁、シールドシートの一方の短辺部の外縁および他方の短辺部の外縁までは達しないように形成したので、逆側の非接触ICカードの情報を読み取ってしまう読取りエラーの防止機能を一層に向上することができる。
【0027】
また、シールドシートのうち、磁性シートが積層されている領域と中間領域双方との占める部分の大きさを少なくとも非接触ICカードに内蔵されているアンテナコイルの最外周縁が囲む領域よりも大きくし、中間領域をアンテナコイル全体が収まらない幅にしたので、外部装置と通信させようとする側の非接触ICカードのアンテナコイルが確実に磁性シートと重なり、もって非接触ICカードと外部装置との通信を確実に行わせることができる。
【0028】
本発明にかかる非接触ICカードケースによれば、非接触ICカード通信調整板の奏する効果を好適に発揮させることができる。
【0029】
本発明にかかる財布によれば、ICカード収納部に取り付けた非接触ICカード通信調整板がICカード収納部に収納した非接触ICカードと重なり合い、非接触ICカード通信調整板の奏する効果を好適に発揮させることができるので、非接触ICカードケースと財布とを別個に所持する必要がなくなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下、図面に基づき本発明の好適な各種の実施の形態を説明する。
図1から図4までは、本発明の第1の実施の形態を示している。
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る非接触ICカード通信調整板を示す平面図であり、図2は、図1の非接触ICカード通信調整板の長辺側から見た側面図であり、図3は、図1における1−1断面図である。図4は、本発明の第1の実施の形態に係る非接触ICカード通信調整板の作用を説明する図である。また、図7は、非接触ICカードを示す斜視図であり、図8は、非接触ICカードの使用状態を示す概略図である。
【0031】
図7に示すように、非接触ICカード通信調整板1を使用する非接触ICカード30は、カード型の本体31にICチップ32と該ICチップ32に接続されたアンテナコイル33とが埋設されたものであり、電磁波を利用して無線で非接触に外部装置40との間でデータやプログラムの読み書きを行うものである。外部装置40はカードリーダ・ライタ等である。
【0032】
図8に示すように、外部装置40側から非接触ICカード30に誘導電磁波を照射すると、非接触ICカード30側ではアンテナコイル33が誘導電磁波を受信して、アンテナコイル33に誘導起電力が生じる。この誘導起電力が非接触ICカード30の駆動電力となるとともに誘導電磁波に重畳された電磁波によりICチップ32に記憶されたデータが読み取られる。
【0033】
このような非接触ICカード30に重ね合わせて使用する非接触ICカード通信調整板1は、外部装置40と通信する非接触ICカード30が外部装置40と通信するのを防止するために、非接触ICカード30と外部装置40との間の電磁波を遮断ないし減衰させる作用を発揮することができるものである。
【0034】
図1から図4に示すように、非接触ICカード通信調整板1は、電磁波を遮断ないし減衰させるためのシールドシート10に電磁波が透過する磁性シート20を配設したものである。この非接触ICカード通信調整板1は、図8に示すように外部装置40と非接触ICカード30との間で行われる非接触の通信状態を調整するために使用するものである。
【0035】
シールドシート10は、略四辺形の平面形状に形成されており、その大きさは、非接触ICカード30と重ね合わせたときに非接触ICカード30に内蔵されるアンテナコイル33より大きいものであることが好ましい。これにより、非接触ICカード通信調整板1を非接触ICカード30に重ね合わせたときに、非接触ICカード通信調整板1の周縁からの電磁波の回り込みを減少させて、外部装置40と非接触ICカード30との間の電磁波を確実に遮断ないし減衰させるようにすることができる。
【0036】
非接触ICカード30のアンテナコイル33は、送信と受信を兼用するものであるが、これには限定されず、送信用、受信用に別個のアンテナを備えていてもよい。送信用と受信用に別個のアンテナを備えている場合には、いずれか一方のアンテナをシールドシート10により遮蔽することができれば、非接触ICカード30と外部機器40との通信を防止することができる。
【0037】
このシールドシート10は、導電性を備えることにより電磁シールド効果が得られる物質を用いて形成されている。金属であれば、例えば、金、銀、白金、銅、アルミニウム、鉄、ニッケル等である。また、金属以外の物質としては、例えば導電性セラミックなどを用いることができる。これら金属等は、メッシュ状、ラティス状、箔状、あるいは板状等に形成したものが使用される。
【0038】
シールドシート10は、所定の媒体から成る基体(Base)に前記のように形成した金属等を貼付等して設けたものであってもよい。基体の素材としては、例えば、シート状のプラスチック、布、紙等を使用することができる。
【0039】
また、シールドシート10は、平板状に形成した基体に粉状の金属等を塗布したものであってもよい。また、粉状のプラスチックに金属粉を含有させ、これを層状に成形したものであってもよい。さらに、層状の基体に金属等を貼付したり、縫い込んだりしてシールドシート10を構成するようにしてもよい。
【0040】
基体に使用するプラスチックは、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)等の任意の樹脂材料を用いることができる。これら樹脂材料を基体とする場合、シールドシート10は、基体中に導電性パウダーが混入されたプラスチックフィルム状に形成されたもの、表面に金属薄膜が蒸着されたプラスチックフィルム状に形成されたもの、表面に金属箔が貼り付けられたプラスチックフィルム状に形成されたもの、表面に導電性樹脂が塗布されたプラスチックフィルム状に形成されたもの、内部に金属線又は金属製の網が埋め込まれたプラスチックフィルム状に形成されたもの等にすることができる。
【0041】
以上のようにして形成したシールドシート10は、透過しようとする電磁波を遮蔽することができる。
【0042】
このシールドシート10に積層する磁性シート20は、非接触により外部装置40と通信する非接触ICカード30が当該外部装置40と通信するのを誘導する役割を果たすものであり、シールドシート10との組み合わせにより、非接触ICカード30の通信状態を好適に調整するものである。
【0043】
図1から図4までに示すように、本実施の形態の非接触ICカード通信調整板1が備える磁性シート20は、シールドシート10の両面に積層されている。磁性シート20は、シールドシート10の両面それぞれに、並行する2本の帯状に形成されており、シールドシート10の両側長辺部13,13それぞれに沿うように延設されている。この磁性シート20それぞれは、シールドシート10の長辺部13の外縁までは達していない。また、磁性シート20は、その延びる方向の両端がシールドシート10の一方の短辺部11の外縁まで、および他方の短辺部11の外縁までは達していない。
【0044】
また、非接触ICカード通信調整板1を非接触ICカード30に重ね合わせた使用状態では、磁性シート20それぞれは、非接触ICカード30の両側長端に沿うように位置する。
【0045】
磁性シート20それぞれ自身が占める領域および磁性シート20それぞれによって挟まれる中間領域12双方の占める大きさは、少なくともアンテナコイル33の最外周縁が囲む領域よりも大きくなっている。なお、中間領域12は、磁性シート20の積層されていない領域であるので、シールドシート10が露出している領域となっている。
【0046】
また、磁性シート20の幅は、非接触ICカード通信調整板1を非接触ICカード30に重ね合わせた使用状態において、アンテナコイル33のうち磁性シート20の延びる方向と略同方向に延びる部分の幅よりも広くなっている。さらに、中間領域12は、前記使用状態において、アンテナコイル33全体が収まらない幅となるように形成されている。これにより、使用状態においてアンテナコイル33が磁性シート20とは重ならずに、アンテナコイル33の全体が中間領域12のみと重なってしまうようなことはない。したがって、使用状態においては、磁性シート20とアンテナコイル33とは、必ず重なる部分がある。
【0047】
このように形成される磁性シート20は、透磁率μに優れた材料が使用される。例えば、使用する電磁波の周波数において、比透磁率は100以上のものが好ましく、より好ましくは1000以上のものである。具体的には、パーマロイ、フェライト、センダスト、方向性ケイ素鋼等を使用することができる。これにより、磁性シート20は、電磁波を空気層よりも高密度に透過させることができる。
【0048】
磁性シート20は、プラスチックフィルム等に前記の材料を蒸着等させることによって形成することができる。また、前記の材料を公知の方法によりシールドシート10上に層状に形成してもよい。
【0049】
なお、シールドシート10と磁性シート20とを積層する方法としては、特に制限はなく、公知の方法を使用することができ、例えば、それぞれ単独で形成されたシールドシート10と磁性シート20を接着剤や粘着剤を介して接着する等の手段により、両者を積層し、一体化させてもよい。
【0050】
このようにして製造した非接触ICカード通信調整板1は、非接触ICカード30と略同じ大きさであってもよいし、ある程度余裕のある大きさであっても良い。
【0051】
次に作用を説明する。
図4は、本実施の形態の非接触ICカード通信調整板1の両面に非接触ICカード30a,30bを重ね合わせた使用状態での非接触ICカード通信調整板1の作用を説明する図である。図示したように、使用状態では、非接触ICカード通信調整板1のシールドシート10に磁性シート20を積層した両面に非接触ICカード30a,30bが重ね合わせられている。
【0052】
図4において、矢印は、非接触ICカード30a,30bの情報を読み取るための電磁波(信号)を示している。また、「○」印は、通信が正常に行われることを示し、「×」印は、通信が正常に行われないことを示す。
【0053】
図4においてシールドシート10の左側から非接触ICカード30aに向かう電磁波は、非接触ICカード30aの裏面に配置されている磁性シート20によってシールドシート10の影響が軽減される。これにより、非接触ICカード30aは、外部からの電磁波を問題なく受信することができ、また、非接触ICカード30aから電磁波を発信することができる。これは、高透磁率の磁性シート20中は磁界が集中しやすいため、非接触ICカード30aも磁界の中に置かれることになるからである。このため、非接触ICカード30aは、外部からの電磁波を受信し、また、電磁波を発信することができる。したがって、シールドシート10の左側から非接触ICカード30aに向かう方向に外部装置40が電磁波を発信したときには、非接触ICカード30aと外部装置40との間で通信をすることができる。
【0054】
一方、同じシールドシート10の左側から非接触ICカード30aに向かう電磁波は、シールドシート10の右側に重ね合わせられた非接触ICカード30bに対しては、非接触ICカード通信調整板1のシールドシート10によって遮蔽されるので、非接触ICカード30bに到達することはない。このため、非接触ICカード30bが非接触ICカード通信調整板1を挟んで反対側から来る電磁波を受信してしまうことはなく、外部装置40と非接触ICカード30bとの間の不所望の通信を防止することができる。
【0055】
このような作用は、シールドシート10の右側から非接触ICカード30bに向かう電磁波についても全く同様である。
【0056】
一般に、導体(シールドシート10)の内部には電磁波が存在せず、また、空気と導体との境界面でも境界条件より電磁波が充分に存在しない性質を有する。このため、例えば図4に示すように非接触ICカード30bを読み取るための電磁波が右側から発信されても、非接触ICカード30bの裏面に配置されるシールドシート10のために電磁波が減衰してしまう。これにより、非接触ICカード30bは、非接触ICカード30bに対して電磁波を発信した外部装置40と通信することができない。
【0057】
また、非接触ICカード30aに対してシールドシート10の右側から進行して来る電磁波は、非接触ICカード30bに対してシールドシート10の左側から進行して来る電磁波がシールドシート10に遮断されてしまうのと同様にシールドシート10によって遮断されるので、非接触ICカード30aに到達することがない。このため、非接触ICカード30aによる電磁波の受信は行われず、シールドシート10の右側にある外部装置40は、非接触ICカード30aとの通信を妨げられる。
【0058】
このように、本実施の形態に係る非接触ICカード通信調整板1によれば、非接触ICカード30a,30bと非接触ICカード通信調整板1との重ね合わせ方および非接触ICカード通信調整板1に重ね合わせた非接触ICカード30a,30bを外部装置40が発する電磁波が来る方向に対してどのように位置させるかによって、非接触ICカード30a,30bと外部装置40との通信を好適に調整することができる。
【0059】
また、帯状の磁性シート20,20が並行して設けられており、それら磁性シート20,20の間の中間領域12ではシールドシート10が露出しているので、非接触ICカード通信調整板1のシールド面積が大きくなり、逆側の非接触ICカードの情報を読み取ってしまう読取りエラーの防止機能が向上する。
【0060】
さらにまた、シールドシート10を少なくとも非接触ICカード30に内蔵されているアンテナコイル33の最外周縁が囲む領域よりも大きくし、中間領域12を使用状態において、アンテナコイル33全体が収まらない幅にすることにより、外部装置40と通信させようとする側の非接触ICカード30のアンテナコイル33が確実に磁性シート20と重なるので、外部装置40との通信を確実に行わせることができる。
【0061】
また、磁性シート20を使用状態において非接触ICカード30の両側長端に沿うシールドシート10の長辺部13の外縁までは達しないように形成するとともに磁性シート20の延びる方向の両端がシールドシート10の一方の短辺部11の外縁まで、および他方の短辺部11の外縁までは達しないように形成することにより、逆側のカードの情報を読み取ってしまう読取りエラーの防止機能を一層に向上することができる。
【0062】
なお、磁性シート20は、シールドシート10の両面に積層するのではなく、片面だけに積層してもよい。この場合は、磁性シート20を積層していない面に重ねた非接触ICカード30は、外部装置40による読み取りはできない。
【0063】
また、シールドシート10の両面に配設された磁性シート20は、シールドシート10の面上で配設されている領域が同じになっている。ただし、磁性シート20を配設する領域は、両面を同じにする必要はない。例えば、両面それぞれの磁性シート20と磁性シート20との間に形成されている中間領域12の幅は、非接触ICカード30と非接触ICカード通信調整板1とを重ね合わせた使用状態において、アンテナコイル33全体が中間領域12に収まらない程度に狭ければ、両面で異なっていてもよい。また、磁性シート20の材質は両面ともに同一のものであってもよいし、異なるものであってもよい。
【0064】
さらに、磁性シート20は、並行する2本とすることに限られず、図5に示すように3本でもよいし、図6に示すように4本としてもよい。
【0065】
次に、本発明の第2の実施の形態について説明する。
図9は、本発明の第2の実施の形態に係る非接触ICカードケース50を示す斜視図である。
非接触ICカードケース50は、非接触ICカード30を収納したままで非接触ICカード30と外部装置40とを非接触で通信することができるようにしたものである。この非接触ICカードケース50は、断面が略矩形状のICカード収納部51が形成され、その内部には、該内部を2つに仕切るように前記した第1の実施の形態に係る非接触ICカード通信調整板1が取り付けられている。この非接触ICカード通信調整板1は、ICカード収納部51から脱落しないように、接着、溶着、縫付け等によって取り付けられている。
【0066】
ICカード収納部51は、非接触ICカード30を収容したときに、非接触ICカード通信調整板1と重ね合わさった非接触ICカード30のアンテナコイル33の一部が必ず磁性シート20と重なるような大きさおよび形状に形成されている。
【0067】
非接触ICカード30は、非接触ICカード通信調整板1によって2つの部分に仕切られたICカード収納部51の何れの部分にも収容することができる。ICカード収納部51内に取り付けられたものが磁性シート20を片面だけに配設した非接触ICカード通信調整板である場合には、2つに仕切られた部分の何れに非接触ICカード30を収納するかによって非接触ICカード通信調整板の作用効果が異なるので、適宜に判断して非接触ICカード30を収納すればよい。なお、ICカード収納部51の内に取り付けられたものが磁性シートを片面だけに配設した非接触ICカード通信調整板である場合には、ICカード収納部51の内部を2つに仕切るのではなく、非接触ICカード通信調整板をICカード収納部51の内壁の一部に沿うように取り付けてもよい。
【0068】
ICカード収納部51内に取り付けられたものが磁性シート20を両面に配設した非接触ICカード通信調整板1である場合には、2つに仕切られた部分の何れに非接触ICカード30を収納しても非接触ICカード通信調整板1の作用効果は同じである。
【0069】
以上のように構成された非接触ICカードケース50は、ICカード収納部51に非接触ICカード30を収納したままで非接触ICカード30と外部装置40との通信を可能にしたり、防止したりの調整をすることができる。
【0070】
なお、図示した非接触ICカードケース50は、断面が略矩形状のICカード収納部51を有するものであるが、カード状のベース部材に、空間的な遊びが殆どないポケットを備え、該ポケット内のベース部材側に非接触ICカード通信調整板1を取り付けて、そのポケットに非接触ICカード30を差し込むようにしたものでもよい。
【0071】
次に、本発明の第3の実施の形態について説明する。
図10は、本発明の第3の実施の形態に係る財布60を示す斜視図であり、二つ折の財布60を開いたときの見開き面側を示している。
財布60は、札入れタイプのものであり、非接触ICカード30を収納したままで非接触ICカード30と外部装置40とを非接触で通信することができるようにしたものである。この財布60は、各種カードを収納することができるカード収納部61、紙幣を収納しておくための紙幣収納部62、および非接触ICカード30を収納することができるICカード収納部63が設けられている。
【0072】
ICカード収納部63の内部には、非接触ICカード通信調整板1が縫い付けるなどして固定されている。ICカード収納部63は、その内部に非接触ICカード30を収容したときに、非接触ICカード通信調整板1と重ね合わさった非接触ICカード30のアンテナコイル33の一部が必ず磁性シート20と重なるような大きさおよび形状に形成されている。
【0073】
このように構成された財布60は、矢印で示したように非接触ICカード30をICカード収納部63に収納したときに非接触ICカード通信調整板1が前記の説明のように作用するので、非接触ICカード30を財布60から取り出さず、財布60に収納したままで非接触ICカード30と外部装置40との通信を可能にしたり、防止したりの調整をすることができる。
【0074】
また、非接触ICカード30を利用する場合、非接触ICカード30を収納しておく非接触ICカードケース50を別個に所持する必要がなく、利便性にすぐれた財布60となる。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る非接触ICカード通信調整板を示す平面図である。
【図2】図1の非接触ICカード通信調整板の長辺側から見た側面図である。
【図3】図1における1−1断面図である
【図4】本発明の第1の実施の形態に係る非接触ICカード通信調整板の作用を説明する図である。
【図5】本発明の第1の実施の形態の一つの変形例を示す平面図である。
【図6】図5とは異なる変形例を示す平面図である。
【図7】非接触ICカードを示す斜視図である。
【図8】非接触ICカードの使用状態を示す概略図である。
【図9】本発明の第2の実施の形態に係る非接触ICカードケースを示す斜視図である。
【図10】本発明の第3の実施の形態に係る財布を示す簡略図である。
【符号の説明】
【0076】
1…非接触ICカード通信調整板
10…シールドシート
11…短辺部
12…中間領域
13…長辺部
20…磁性シート
30…非接触ICカード
30a…非接触ICカード
30b…非接触ICカード
31…本体
32…ICチップ
33…アンテナコイル
40…外部装置
50…非接触ICカードケース
51…ICカード収納部
60…財布
61…カード収納部
62…紙幣収納部
63…ICカード収納部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外部装置が発信する電磁波を利用して前記外部装置と非接触で通信することができる非接触ICカードに重ね合わせて使用する、前記外部装置と前記非接触ICカードとの通信状態を調整するための非接触ICカード通信調整板において、
前記外部装置と前記非接触ICカードとの間の電磁波を遮断ないし減衰させる、シールドシートと、
前記シールドシートの片面に積層され、前記外部装置と前記非接触ICカードとの間の電磁波を透過させる、少なくとも2つの並行する帯状の磁性シートと、を備え、
前記並行する帯状の磁性シートそれぞれは、前記シールドシートを前記非接触ICカードに重ね合わせた使用状態において該非接触ICカードの長端に沿う方向に前記シールドシートの一方の短辺部側から他方の短辺部側まで延設したものであり、前記使用状態において前記非接触ICカードの両側長端に沿う前記シールドシートの長辺部の外縁、前記シールドシートの一方の短辺部の外縁、および他方の短辺部の外縁までは達していないことを特徴とする非接触ICカード通信調整板。
【請求項2】
外部装置が発信する電磁波を利用して前記外部装置と非接触で通信することができる非接触ICカードに重ね合わせて使用する、前記外部装置と前記非接触ICカードとの通信状態を調整するための非接触ICカード通信調整板において、
前記外部装置と前記非接触ICカードとの間の電磁波を遮断ないし減衰させる、シールドシートと、
前記シールドシートの両面に積層され、前記外部装置と前記非接触ICカードとの間の電磁波を透過させる、少なくとも2つの並行する帯状の磁性シートと、を備え、
前記並行する帯状の磁性シートそれぞれは、前記シールドシートを前記非接触ICカードに重ね合わせた使用状態において該非接触ICカードの長端に沿う方向に前記シールドシートの一方の短辺部側から他方の短辺部側まで延設したものであり、前記使用状態において前記非接触ICカードの両側長端に沿う前記シールドシートの長辺部の外縁、前記シールドシートの一方の短辺部の外縁、および他方の短辺部の外縁までは達していないことを特徴とする非接触ICカード通信調整板。
【請求項3】
前記非接触ICカードがICに接続されたアンテナコイルを内蔵し、
前記シールドシートは、前記磁性シートの占める領域および該磁性シートそれぞれによって挟まれる中間領域双方の占める大きさが少なくとも前記アンテナコイルの最外周縁が囲む領域よりも大きく、
前記使用状態において、前記中間領域は、前記アンテナコイル全体が収まらない幅に設定したことを特徴とする請求項1または2に記載の非接触ICカード通信調整板。
【請求項4】
外部装置と非接触で通信することができる非接触ICカードを収納したままで使用する非接触ICカードケースにおいて、
前記非接触ICカードを収納するICカード収納部内に、前記外部装置と前記非接触ICカードとの通信状態を調整するための請求項1から3の何れか一項に記載の非接触ICカード通信調整板を備え、
前記非接触ICカード通信調整板は、前記ICカード収納部に収納した前記非接触ICカードと重なり合うように取り付けたことを特徴とする非接触ICカードケース。
【請求項5】
外部装置と非接触で通信することができる非接触ICカードを収納可能な財布において、
前記非接触ICカードを収納するICカード収納部内に、前記外部装置と前記非接触ICカードとの通信状態を調整するための請求項1から3の何れか一項に記載の非接触ICカード通信調整板を備え、
前記非接触ICカード通信調整板は、前記ICカード収納部に収納した前記非接触ICカードと重なり合うように取り付けたことを特徴とする財布。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−238018(P2009−238018A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−84681(P2008−84681)
【出願日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【出願人】(303025870)
【Fターム(参考)】