説明

非接触ICラベル

【課題】薄型かつ小型で柔軟性を持ち耐熱性能を備えた非接触ICラベルを提供する。
【解決手段】磁性シート110と、磁性シートの一方の面10a上に配置されたICチップ21と、磁性シートの一方の面上に配置されてICチップに接続され、ICチップとの接続部123、124から延びるように配置された第1のアンテナ部125および第2のアンテナ部126とを備え、第1のアンテナ部が接続部から延びる第1の方向E1、および第2のアンテナ部が接続部から延びる第2の方向E2は、それぞれが磁性シートの一方の面に沿うとともに互いに異なる方向に設定され、磁性シートの厚さが100μm以上400μm以下であり、第1のアンテナ部の第1の方向に直交する方向、および第2のアンテナ部の第2の方向に直交する方向の長さが2mm以上15mm以下であり、磁性シート、接続部、第1のアンテナ部、および、第2のアンテナ部が耐熱性を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、UHF帯およびSHF帯で用いられる非接触ICラベルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、RFIDタグ(非接触ICラベル)とリーダなどとの間で無線通信が行われている。しかし、このRFIDタグを金属製の被接着体(物品)に取り付けたときには通信性能が低下してしまうので、この問題点を解決するために、以下に説明するような様々なRFIDタグの構成が検討されている。
たとえば、13.56MHz帯の電波を用いる電磁誘導方式のRFIDタグでは、アンテナと被接着体の間に高透磁率の磁性体(磁性シート)を設け、アンテナと被接着体との間にロスの少ない磁束のルートを確保することで、金属製の被接着体に取り付けても用いることができるRFIDタグを実現している。なお、通信性能は低下するが磁性体の厚さをたとえば100μmまたは100μm以下と薄くすることもできるので、金属製の被接着体に対応した薄手の金属対応RFIDタグも作ることができる。
【0003】
これに対して、UHF帯およびSHF帯で用いられる電波方式のRFIDタグでは、アンテナと被接着体との間に誘電体また空気層を設けることで、アンテナと被接着体との隙間を確保し、被接着体の影響を抑える方法が一般的に用いられる。
しかしながら、この方法では、アンテナと被接着体との間に、たとえば100μmの厚さの誘電体を用いたり100μmの厚さの空気層を設けたりする場合には、アンテナと被接着体との間隔が狭すぎるため、金属製の被接着体の影響を強く受けてしまい、通信不能となってしまう。よって、現状では、13.56MHz帯で用いられるような薄手(厚さが数百μm以下)のRFIDタグを作ることは難しいとされている。
【0004】
UHF帯およびSHF帯で用いられる電波方式の他のRFIDタグとして、特許文献1に示すように、アンテナと被接着体との間に磁性体を設ける構成も提案されている。このRFIDタグでは、アンテナと金属製の被接着体との間に軟磁性体を配置している。特許文献1では、軟磁性体については克明な記載がある。一方で、使用するアンテナに関してはダイポールアンテナ及びその変形アンテナといった程度の記載に留まっており、また実際の検証においてもアンテナ形状の詳細な記載はなく、磁性体の厚さも1mm(通信距離は15mm)の例しか記載されていない。
【0005】
前述の金属製の被接着体の中には、ボイラー、電気ヒーター、内燃機関、蒸気タービン、モーター、光源などのように、被接着体自体が高温になるものや、高温の乾燥炉を通過する金属部品など一時的に高温環境下に晒されるものが数多く存在し、これらの物品にRFIDタグを取り付ける場合には、RFIDタグとしての前述の通信性能に加え、高温に対する耐熱性能も必須となる。ここでいう高温とは概ね200℃を上限としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−309811号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、UHF帯およびSHF帯で用いられる上記の電波方式のRFIDタグでは、たとえば、ラベルとして用いられるには厚くなりすぎて、実用に耐えなくなるという問題がある。また、RFIDタグをラベルとして用いるためには、扱いやすいように小型のものが望まれている。
【0008】
一般的なRFIDタグでは、アンテナの幅は1mm以下のものが多く、また一部のRFIDタグでは、小型化およびアンテナ利得向上のためにアンテナの幅を細くして、アンテナをメアンダ形状に形成している。発明者が行った実験により、上記特許文献1に記載されたRFIDタグが前述のような一般的なアンテナを備えた場合において、軟磁性体を単に薄くするだけでは充分な通信性能が得られないことが分かった。さらには前述の高温になる被接着体へ使用の配慮もされていない。
【0009】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたものであって、UHF帯およびSHF帯の電波で用いられ、金属製の被接着体に取り付けても通信可能であるとともに、薄型かつ小型で柔軟性を持って形成することができ、さらに耐熱性能をも備えた非接触ICラベルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、この発明は以下の手段を提案している。
本発明の非接触ICラベルは、磁性シートと、前記磁性シートの一方の面上に配置されたICチップと、前記磁性シートの一方の面上に配置されるとともに前記ICチップに接続され、前記ICチップとの接続部から延びるように配置された第1のアンテナ部および第2のアンテナ部と、を備え、前記第1のアンテナ部が前記接続部から延びる第1の方向、および前記第2のアンテナ部が前記接続部から延びる第2の方向は、それぞれが前記磁性シートの一方の面に沿うとともに互いに異なる方向に設定され、前記磁性シートの厚さが100μm以上400μm以下であり、前記第1のアンテナ部の前記第1の方向に直交する方向の長さ、および前記第2のアンテナ部の前記第2の方向に直交する方向の長さがそれぞれ2mm以上15mm以下であり、前記磁性シート、前記接続部、前記第1のアンテナ部、および、前記第2のアンテナ部が耐熱性を有していることを特徴としている。
【0011】
また、上記の非接触ICラベルにおいて、フィルム状に形成され耐熱性を有する基材を備え、前記ICチップおよび前記接続部は、前記基材の主面上に設けられた状態で、前記磁性シートの一方の面上に配置されていることがより好ましい。
また、上記の非接触ICラベルにおいて、前記ICチップは回路部を介して接続部に接続され、前記ICチップと前記回路部とは、超音波接合によって金属溶接されていることがより好ましい。
また、上記の非接触ICラベルにおいて、前記第1の方向と前記第2の方向とは、互いに反対となる方向であることがより好ましい。
また、上記の非接触ICラベルにおいて、前記磁性シートは、磁性粒子または磁性フレークと、バインダーとから形成され、前記バインダーにシリコーン系ゴムまたはフッ素系ゴムが用いられていることがより好ましい。
【0012】
また、上記の非接触ICラベルにおいて、前記接続部は、アルミニウムで形成されていることがより好ましい。
また、上記の非接触ICラベルにおいて、前記第1のアンテナ部および前記第2のアンテナ部は、金属で形成されていることがより好ましい。
また、上記の非接触ICラベルにおいて、データ読み取り装置との間の通信方式に電波方式を用いたことがより好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の非接触ICラベルによれば、金属製の被接着体に取り付けても通信可能であるとともに、薄型かつ小型で柔軟性を持って形成することができ、さらに耐熱性能をも備えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】参考例の非接触ICラベルを模式的に示す側面図である。
【図2】同非接触ICラベルの平面図である。
【図3】同非接触ICラベルを用いた実験の手順を説明する側面図である。
【図4】回路部のインピーダンスが大きいチップストラップを用いた磁性シートの厚さが100μmの場合の実験結果の図である。
【図5】回路部のインピーダンスが大きいチップストラップを用いた磁性シートの厚さが200μmの場合の実験結果の図である。
【図6】回路部のインピーダンスが大きいチップストラップを用いた磁性シートの厚さが400μmの場合の実験結果の図である。
【図7】本発明の一実施形態の非接触ICラベルを模式的に示す側面図である。
【図8】同非接触ICラベルの平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(参考例)
以下、本発明に係る非接触ICラベルの実施形態を説明する前に、参考例となる非接触ICラベルについて、図1から図6を参照しながら説明する。非接触ICラベルは、不図示のデータ読み取り装置との間で非接触にて通信を行うものである。
図1および図2に示すように、参考例の非接触ICラベル201は、磁性シート10と、磁性シート10の一方の面10aに配置された通信部20とを備えている。なお、図2においては、後述する基材30は示していない。
磁性シート10は、磁性粒子、または磁性フレークとプラスチックまたはゴムとの複合材からなる柔軟性に富んだ材料で形成されている。磁性粒子および磁性フレークは、磁性合金とも呼ばれ、具体的には、鉄と他の物質とを組み合わせて組成される合金である。
図2に示すように、磁性シート10の厚さ方向に見た平面視において、磁性シート10は矩形状に形成されている。
【0016】
通信部20は、磁性シート10の一方の面10aの中心に配置されている。
通信部20は、ICチップ21と、ICチップ21に接続された回路部22と、回路部22に接続されるとともに回路部22を挟むように配置された一対の接続パッド23、24と、接続パッド23に接続された第1のアンテナエレメント25と、接続パッド24に接続された第2のアンテナエレメント26とを有している。
ICチップ21は公知の構成のものが用いられ、ICチップ21内には所定の情報が記憶されている。そして、ICチップ21に設けられた不図示のバンプ(接続端子)から電波方式により電波のエネルギーを供給することで、記憶された情報をこのバンプから外部に電波として伝達させることができる。
【0017】
本実施形態では、回路部22および接続パッド23、24は、PETフィルムなどで形成された基材30(図1参照。)上に銀ペーストインキを印刷することで、一体に形成されている。
回路部22は、所定の形状に蛇行させた配線により形成されている。回路部22は、ICチップ21と接続パッド23との間、およびICチップ21と接続パッド24との間に、互いに等しい所定のインピーダンスおよび抵抗値が生じるように構成されている。回路部22は、ICチップ21のバンプに電気的に接続されている。
接続パッド23、24、アンテナエレメント25、26、およびICチップ21は、基材30の主面上に設けられた状態で、磁性シート10の一方の面10a上に配置されている。
接続パッド23、24は、磁性シート10の一方の面10aに沿う挟み方向Dから回路部22を挟むように配置され、回路部22に電気的に接続されている。接続パッド23、24は、挟み方向Dが磁性シート10の辺10bに平行となるように配置されている。
上記のように一体に形成された回路部22および接続パッド23、24と、ICチップ21とで、いわゆるチップストラップ28を構成する。さらに、チップストラップ28およびアンテナエレメント25、26で、いわゆるダイポールアンテナを構成する。
【0018】
第1のアンテナエレメント25は、一端25aが接続パッド23に電気的に接続されていて、磁性シート10の一方の面10aに沿うとともに挟み方向Dに直交する第1の方向E1に他端25bが延びるように配置されている。同様に、第2のアンテナエレメント26は、一端26aが接続パッド24に電気的に接続されていて、第1の方向E1とは反対方向となる第2の方向E2に他端26bが延びるように配置されている。より詳しく説明すると、磁性シート10を一方の面10a側から見る平面視において、第1のアンテナエレメント25は、他端25bを一端25aから第1の方向E1に見たときに、ICチップ21が左側に位置するように配置されている。同様に、第2のアンテナエレメント26は、他端26bを一端26aから第2の方向E2に見たときに、ICチップ21が左側に位置するように配置されている。アンテナエレメント25、26は、第1の方向E1および第2の方向E2が磁性シート10の辺10bに直交する辺10cに平行となるように配置されている。
第1のアンテナエレメント25および第2のアンテナエレメント26は、本実施形態では同一の矩形状に形成されている。
ICチップ21は、回路部22および接続パッド23、24を介してアンテナエレメント25、26に電気的に接続されていて、回路部22によりインピーダンスおよび抵抗値が調節されている。
【0019】
このように、参考例の非接触ICラベル201は、さほど特徴のない変形ダイポールアンテナとして構成されている。非接触ICラベル201では、図2に示す平面視において、磁性シート10の対角線上にアンテナエレメント25、26が配置されている。
このように構成された非接触ICラベル201の使用温度の上限は、90℃となっている。
なお、ここでいう使用温度とは、被接着体である金属物体の表面温度、および、非接触ICラベルが被接着体に貼られた状態において非接触ICラベルの周辺温度(雰囲気温度)のことを意味する。
【0020】
以上のように構成された参考例の非接触ICラベル201は、磁性シート10の厚さ、アンテナエレメント25、26の第1の方向E1の長さ(以下、単に「長さ」と称する)および挟み方向Dの長さ(以下、「幅」と称する)を所定の範囲内に設定することで、金属製の被接着体に取り付けても好適に通信可能であるとともに、薄型かつ小型に形成することができる。
この目的を達成する磁性シート10の厚さ、アンテナエレメント25、26の幅および長さの範囲を検討するために、以下に説明する実験を行った。
【0021】
(実験)
実験には、下記に示す機材および材料を使用した。
・磁性シート10:竹内工業(株)製 μシート(商品名)
HU02(厚さ200μm)およびHU01(厚さ100μm)
・ICチップ21:NXP社製 UCODE G2iL
・アンテナエレメント25、26:厚さ12μmのアルミニウムの薄膜
・チップストラップ(インピーダンス回路(回路部)付き):ICチップ21以外は自社製
PETフィルム(基材30、厚さ50μm)上に銀ペーストインキでパターンを印刷(厚さ8μm)
・UHF帯高出力ハンディリーダー(データ読み取り装置):SAMSUNG社製 VLACG1 最大出力:1W
・金属板:ステンレス製(250mm×250mm×0.5mm)
【0022】
(サンプルの作成)
磁性シート10の大きさは、幅を50mm、長さを80mmとし、厚さを100μm、200μmおよび400μmと3段階に変えた。なお、厚さが400μmの磁性シートは、厚さが200μmの磁性シートを2枚重ねて用いた。また、非接触ICラベルを薄型にすることが目的なので、厚さが400μmを超える磁性シートは実験の対象外とした。
アンテナエレメント25、26は、幅を2mm、5mm、10mmおよび15mmと4段階に変え、長さを20mm、30mmおよび40mmと3段階に変えた。すなわち、幅を4段階、長さを3段階に変えた、合計12種類のアンテナエレメント25、26を用いた。なお、非接触ICラベルを小型にすることが目的なので、アンテナエレメント25、26において、幅が15mmを超えるもの、および長さが40mmを超えるものは、実験の対象外とした。
接続パッド23、24は1辺が5mmの正方形状とし、接続パッド23および接続パッド24の挟み方向Dの間隔を3mmとした。
【0023】
(実験手順)
図3に示すように、ステンレス製の金属板W上に、上記のいずれかの厚さの磁性シート10を配置した。そして、この磁性シート10上の図2に示す位置に上記のいずれかの幅および長さのアンテナエレメント25、26を配置し、さらにその上に、PET上に印刷されたチップストラップ28を接続パッド23、24がアンテナエレメント25、26に電気的に接続されるように配置した。PETフィルム上に不図示の発泡スチロールを載置するとともに、アンテナエレメント25、26と接続パッド23、24との接続が確実になるように、金属板Wから発泡スチロールまでをまとめて、バンドで固定した。
発泡スチロール側からハンディリーダーRを近づけ、電波方式によりICチップ21に記憶された情報を読み取った。そして、ハンディリーダーRが非接触で通信部20から情報を読み取ることができる距離の最大値(通信距離)を求めた。
なお、発泡スチロールおよびPETフィルムは、通信距離の測定結果にはほとんど影響を与えないことが分かっている。
【0024】
1つの仕様の測定が終わると、バンドを取り外し、磁性シート10とPETフィルムとの間に挟まれたアンテナエレメント25、26を取り外し、幅または長さの仕様が異なるアンテナエレメント25、26を磁性シート10とPETフィルムとの間に挟んでバンドで固定し、測定を行った。
アンテナエレメント25、26の幅を2mm、5mm、10mmおよび15mmの4段階に、長さを20mm、30mmおよび40mmの3段階に、磁性シート10の厚さを100μm、200μmおよび400μmの3段階に変えて、通信距離の測定を繰り返した。
【0025】
ハンディリーダーRとしては、非接触ICラベルを含むアイテムタグの読み取りに適した上記のUHF帯高出力ハンディリーダーを用いた。ハンディリーダーRの最高出力は1Wであるが、1dB刻みに出力が可変できる仕様になっている。予め行った予備実験の結果、磁性シート10の厚さが100μmと極端に薄い場合には、ハンディリーダーRの出力が0.5Wではアンテナエレメントの長さによる通信距離の違いが出にくいことが分かったので、以下の実験では磁性シート10の厚さが200μm、400μmの場合については出力を0.5W(27dBm)とし、厚さが100μmの場合については出力を1W(30dBm)とした。
【0026】
(結果)
磁性シート10の厚さが100μm、200μmおよび400μmの場合の実験結果を、図4、図5および図6にそれぞれ示す。
図4に示す磁性シート10の厚さが100μmの場合には、アンテナエレメント25、26の幅が2mmのときには、アンテナエレメント25、26の全ての実験した長さにおいてハンディリーダーRで情報を読み取ることができなかった。一方で、アンテナエレメント25、26の幅が5mm以上のときに、長さが30mmおよび40mmの場合には、所定の距離まで通信できることが分かった。
図5に示す磁性シート10の厚さが200μmの場合には、概ね、アンテナエレメント25、26の幅が広くなるにしたがって通信距離が長くなる傾向が確認された。
図6に示す磁性シート10の厚さが400μmのそれぞれの場合では、磁性シート10の厚さが200μmの対応する場合より通信距離が長くなることが分かった。そして、アンテナエレメント25、26の幅が広くなるにしたがって通信距離が長くなる傾向が、若干ではあるが確認された。また、この場合、アンテナエレメント25、26の長さが40mmのときの通信距離は、この長さが20mmおよび30mmのときの通信距離より短くなることが分かった。
【0027】
磁性シート10の厚さが100μm以上400μm以下の場合には、アンテナエレメント25、26の長さによらず、アンテナエレメント25、26の幅が広くなるにしたがって通信距離が長くなる傾向にあることが分かった。また、この傾向は、磁性シート10の厚さが薄いほど顕著に現れることも確認された。
一方で、磁性シート10の厚さが厚くなるのにしたがって、アンテナエレメント25、26の長さによる通信距離の差は小さくなる傾向にあることも分かった。
【0028】
空気中において電界の作用で動作しているダイポールアンテナ型の一般的なRFIDタグでは、通信距離に及ぼす影響はアンテナエレメントの長さが支配的であり、アンテナエレメントの幅はその帯域を広げる程度の作用しかないことが知られている。今回行った実験の層構成では、この傾向とは異なり、通信距離に及ぼす影響はアンテナエレメントの幅を広げることにより通信距離を大きく改善できることが確認された。
なお、前記の実験において、ハンディリーダーRで情報を読み取ることができなかった条件であっても、たとえば、磁性シート10の電気的な物性値(透磁率、磁性損失、誘電率、誘電損失など)を好適なものにすることと、回路部のインピーダンスをとりつつ、アンテナエレメント25、26の幅および長さを最適化することで、ハンディリーダーRで情報を読み取ることができるようになると考えられる。
【0029】
以上説明したように、参考例の非接触ICラベル201によれば、磁性シート10の厚さを100μm以上400μm以下に設定し、アンテナエレメント25、26の幅をそれぞれ2mm以上15mm以下に設定する。このような構成にすることにより、非接触ICラベル201が薄型かつ小型であっても、ハンディリーダーRとの間で通信を行うことができる。
また、アンテナエレメント25、26の長さを20mm以上40mm以下に設定することで、ハンディリーダーRとの間の通信をより確実に行うことができる。
【0030】
磁性シート10の厚さが100μm以上400μm以下であれば、非接触ICラベル201のアンテナエレメントの長さを短くしても通信距離の低下がそれほどないことから、通信距離を維持したまま、非接触ICラベル201を第1の方向E1に小型化することができる。この小型化により、非接触ICラベル201の製造コストを低減させることができる。
そして、磁性シート10の厚さ、アンテナエレメント25、26の幅および長さを目的の通信距離に合わせて設計することで、本発明の目的である小型で薄い非接触ICラベルを構成すことができる。
【0031】
(実施形態)
以上は、使用温度の上限が90℃である参考例の非接触ICラベル201の通信性能に関する実験内容と結果である。
次に、本発明の非接触ICラベルの使用温度について説明する。
【0032】
本発明の非接触ICラベルは、その使用温度の上限が200℃であり、ラベルとしてこの上限温度下において、変形、変色、変質、ラベル剥がれ、通信性能の劣化がないことなどを目的としている。ただし、この上限温度下における通信性能については本発明では対象外としている。たとえば、稼動していて約200℃の高温になっている被接着体に本発明の非接触ICラベルを貼り付け、非接触ICラベルが約200℃になっている状態では、非接触ICラベルとデータ読み取り装置などとの間の通信は行わないものとする。
【0033】
従来の耐熱RFIDタグでは、ICインレットを樹脂などで覆う耐熱保護加工をしたり、ガラスなどの中に封止加工したりすることなどで耐熱性を高めている。しかし、これら耐熱保護加工や封止加工を行うと、耐熱RFIDタグが厚くなったり、耐熱RFIDタグの柔軟性が低下したりするという問題がある。
本発明の非接触ICラベルは、薄型で柔軟性を持ちかつ耐熱性能をも備えるために、前述の参考例の非接触ICラベル201に対して基本構造は変えず、各構成部材の耐熱温度の引き上げをおこなうことで、非接触ICラベルとしての耐熱性を高めることとした。その内容を以下に詳しく説明する。
【0034】
非接触ICラベル201のチップストラップ28では、回路部22をPETフィルム上に銀ペーストインキでパターン印刷して形成している。しかし、前述の使用温度の上限である200℃の環境下においては、チップストラップ28を構成する全ての部材の耐熱温度が低すぎるためにこの構成では全く使えない。このことより、下記に示すチップストラップの構成部材の耐熱温度の引き上げをおこなった。
【0035】
図7および図8に示すように、本実施形態の非接触ICラベル1は、参考例の非接触ICラベル201の磁性シート10、基材30、チップストラップ28、および、アンテナエレメント25、26に代えて、磁性シート110、基材130、チップストラップ128、および、アンテナエレメント125、126を備えている。なお、図8では基材130は示していない。
チップストラップ128は、回路部122、接続部123、124、および前述のICチップ21を有している。
非接触ICラベル1の磁性シート110、基材130、アンテナエレメント125、126の外形および配置は、参考例の非接触ICラベル201の磁性シート10、基材30、アンテナエレメント25、26の外形および配置とそれぞれ同一に設定されている。
【0036】
基材130は、ポリイミド、ポリエーテルイミドなどの耐熱温度が200℃を超えるフィルム材料で形成されていて、基材130自体が、いわゆる耐熱基材となっている。なお、参考例の基材30がPETフィルムで形成されていて、基材130を用いることで基材の誘電率の値が変わることから、非接触ICラベル1においては回路部122のインピーダンス整合回路の最適化をおこなう必要がある。
【0037】
基材130の主面上には、不図示の接着剤を介して、回路部122、第1のアンテナエレメント(第1のアンテナ部)125、第2のアンテナエレメント(第2のアンテナ部)126、および接続部123、124が形成されている。
接着剤は、耐熱温度が200℃を超えるアクリル系またはシリコーン系のものを好適に用いることができる。
回路部122、アンテナエレメント125、126、および接続部123、124は、基材130の主面上に数μmの厚さで塗布された前述の接着剤上にアルミニウムの薄膜または銅の薄膜を接着し、その薄膜をエッチング(腐食)法により加工することで、一体化して形成される。このように、本実施形態では、回路部122、アンテナエレメント125、126、および接続部123、124は、同一の金属で形成されている。
このように構成することで、基材130、接着剤、回路部122、アンテナエレメント125、126、および接続部123、124の使用温度の上限を、200℃まで引き上げることができる。
なお、回路部122、アンテナエレメント125、126、接続部123、124、およびICチップ21は、基材130の主面上に設けられた状態で、磁性シート110の一方の面10a上に配置される。
【0038】
参考例の非接触ICラベル201を用いた前述の実験では、ICチップ21のバンプと回路部22との接続には、接合材料であるACPによるフリップチップ実装接合法を用いて、そのACP材料の接着効果により、バンプと回路部22とを電気的に接続していた。
しかしながらこの実装方法では、使用温度の上限である200℃の環境下においては、ACPの耐熱温度が低すぎるためICチップ21と回路部22との電気的な接続が保証できない。
【0039】
この課題を解決する接合法としては、ACPなどの耐熱温度の低い接合材料などを全く使用しない超音波溶接法(超音波接合による金属溶接法。)があげられる。ICチップ21のバンプは、一般的に、電気的に接触抵抗の低い金(Au)で形成されている。この超音波溶接法では、ICチップ21のバンプと回路部122とを、超音波によってこれら異種金属同士を溶接することができる。
従来、RFIDタグにおいては、この超音波溶接法は高度な電気的な接触信頼性得るための手法であったが、本発明では非接触ICラベル1の使用温度の上限である200℃の環境での電気的な接続信頼性得るためにこの手法を用いた。
【0040】
なお、回路部122を構成する薄膜は、厚さが10〜20μmと非常に薄く形成される。このため、使用温度の上昇による膨張も少ないことから、回路部122の形状は安定しており、ICチップ21のバンプと回路部122との接合箇所において、機械的な内部応力の発生はほとんどない。
よって、超音波溶接法にて金属溶接されたICチップ21のバンプと回路部122との接合は、使用温度の上限である200℃の環境下においても電気的な接続信頼性を有しており、不測の外部応力が掛からなければ接合箇所が外れることはない。
【0041】
参考例の非接触ICラベル201に用いられた磁性シート10は、磁性粒子または磁性フレークとプラスチックまたはゴムとの複合材で形成されている。上述の実験に使用した磁性シート10の使用温度の上限は90℃(メーカー推奨値)である。磁性シート10が持つ固有の物性値の中で、アンテナ特性(アンテナ感度)に大きく影響するパラメーターとしては透磁率、磁性損失の値であり、一方の誘電率、誘電損失の値はそれに比べると小さいことがわかっている。
磁性シートの透磁率、磁性損失の値は、使用している磁性粒子または磁性フレークの造形、方向、密度などによって決まる。一方の誘電率、誘電損失の値は、磁性粒子または磁性フレークの造形、方向、密度に加え、バインダー(結合剤)自身の誘電率、誘電損失によって決まる。
【0042】
磁性シート110は、磁性シート10の磁性粒子または磁性フレークはそのままで、バインダーのみをシリコーン系ゴムやフッ素系ゴムなどの耐熱温度が200℃を超える耐熱バインダーに変更したものである。このように構成することで、磁性シート110そのものを耐熱磁性シートとすることができる。
磁性シート110において、使用しているバインダーを磁性シート10から変更することで、磁性シートとしての誘電率、誘電損失の値も変わってしまう。しかし、この二つのパラメーターは前述のとおりアンテナ特性への影響は少ないことと、回路部122のインピーダンス整合回路の最適化をおこなうことで、耐熱バインダーへの変更に伴う非接触ICラベルとしての通信性能の低下はほとんどないと考えられる。
【0043】
すなわち、以上のように構成された本発明の非接触ICラベル1は、上述し図4から6に示した参考例の非接触ICラベル201のような実験は行わないが、非接触ICラベル201とほぼ同じ通信距離の実験結果が得られると考える。
【0044】
以上説明したように、本実施形態の非接触ICラベル1によれば、非接触ICラベル1を構成する全ての部材、特に、磁性シート110、接続部123、124、およびアンテナエレメント125、126の耐熱温度を高めることで、薄型で柔軟性をもち、さらに使用温度の上限である200℃の環境でも耐えることが可能となった。
磁性シート110の厚さを100μm以上400μm以下に設定し、アンテナエレメント125、126の幅をそれぞれ2mm以上15mm以下に設定する。このような構成にすることにより、非接触ICラベル1が薄型かつ小型であっても、ハンディリーダーRとの間で通信を行うことができる。
【0045】
回路部122、アンテナエレメント125、126、接続部123、124、およびICチップ21は、基材130の主面上に設けられた状態で、磁性シート110の一方の面10a上に配置される。このように、予め基材130上に複数の部品を設けることで、非接触ICラベル1の製造効率を高めることができる。
ICチップ21のバンプと回路部122とは、超音波溶接法を用いて接合されているため、非接触ICラベル1の使用温度の上限においてもバンプと回路部122とを確実に電気的に接続することができる
第1の方向E1と第2の方向E2とは、互いに反対となる方向であるので、非接触ICラベル1とハンディリーダーRとの間の通信を精度良く行うことができる。
【0046】
磁性シート110は、磁性粒子または磁性フレークと、シリコーン系ゴムまたはフッ素系ゴムが用いられたバインダーとから形成されている。これにより、磁性シート110の耐熱温度を使用温度の上限である200℃まで高めることができる。
接続部123、124がアルミニウムの薄膜または銅の薄膜で形成されているため、接続部123、124の耐熱温度を使用温度の上限まで高めることができる。
アンテナエレメント125、126はアルミニウムまたは銅で形成されているため、非接触ICラベル1の耐熱温度を高めることができる。
【0047】
本発明では、使用温度の上限の目標値を200℃としているが、使用している構成部材の中で耐熱温度の最も低い部材が支障になっているので、その部材の耐熱温度を上げることができれば、非接触ICラベル1としての使用温度の上限値を引き上げることができるのは言うまでもない。
一方、使用温度が上限に満たないような使われ方である場合は、構成部材の中で耐熱温度引き上げによってコストアップになった部材、たとえば基材130を形成した高価なポリイミドフィルムを、耐熱温度は下がってしまうが、安価なポリエステルフィルムに変更するなどして、コストダウンを図ることもできる。
また、本発明では前述のとおり上限温度下における通信性能については対象外としているが、非接触ICラベル1で使用しているICチップ21の使用温度の上限が上がれば、非接触ICラベル1としての上限温度下における通信性能も保証できようになる。
【0048】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の構成の変更なども含まれる。
たとえば、前記実施形態では、アンテナエレメント125、126の平面視した形状を矩形状とした。しかし、アンテナエレメントの形状はこれに限定されず、チップストラップ128を中心にアンテナエレメント125、126が対角に配置されていれば、平面視した形状は、円形、楕円形、多角形状、アレーアンテナ形状、メアンダ形状などでもよい。さらに、第1のアンテナエレメント125および第2のアンテナエレメント126が互いに異なる形状であってもよい。
【0049】
また、前記実施形態では、第1のアンテナエレメント125が延びる第1の方向E1と第2のアンテナエレメント126が延びる第2の方向E2とが反対方向となるように、アンテナエレメント125、126を配置した。しかし、アンテナエレメント125、126は、第1の方向E1と第2の方向E2とが同じ方向になることなく、互いに異なる方向となるように配置されていれば、特に配置は限定されない。
前記実施形態では、チップストラップ128、およびアンテナエレメント125、126からなる通信部は磁性シート110の一方の面10aに配置されていたが、磁性シート110の一方の面10aと通信部との間もしくは磁性シート110の一方の面10aとは反対の面に樹脂などで形成された耐熱部材を配置したり、空気層を設けたりしてもよい。
【0050】
なお、前記非接触ICラベル1が実際に用いられる際には、図には示さないが、目視または機械読み取りのための文字、図形などの情報が記載された耐熱フィルム、耐熱紙類が、ICチップの保護も兼ねて、通信部に対する磁性シートとは反対側に設けられてもよい。なお、この情報は、非接触ICラベルに耐熱フィルムなどを設けた後に、プリンタ等により耐熱フィルムに記載しても構わない。また、磁性シートの他方の面には、被接着体である金属面に貼り付けるための耐熱接着層が設けられてもよい。なおここでいう耐熱フィルム、耐熱紙類および耐熱接着層は、前述のとおり使用温度の上限である200℃に耐えられるものである。
【符号の説明】
【0051】
1 非接触ICラベル
10a 一方の面
21 ICチップ
110 磁性シート
122 回路部
123、124 接続部
125 第1のアンテナエレメント(第1のアンテナ部)
126 第2のアンテナエレメント(第2のアンテナ部)
130 基材
E1 第1の方向
E2 第2の方向
R ハンディリーダー(データ読み取り装置)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性シートと、
前記磁性シートの一方の面上に配置されたICチップと、
前記磁性シートの一方の面上に配置されるとともに前記ICチップに接続され、前記ICチップとの接続部から延びるように配置された第1のアンテナ部および第2のアンテナ部と、
を備え、
前記第1のアンテナ部が前記接続部から延びる第1の方向、および前記第2のアンテナ部が前記接続部から延びる第2の方向は、それぞれが前記磁性シートの一方の面に沿うとともに互いに異なる方向に設定され、
前記磁性シートの厚さが100μm以上400μm以下であり、
前記第1のアンテナ部の前記第1の方向に直交する方向の長さ、および前記第2のアンテナ部の前記第2の方向に直交する方向の長さがそれぞれ2mm以上15mm以下であり、
前記磁性シート、前記接続部、前記第1のアンテナ部、および、前記第2のアンテナ部が耐熱性を有していることを特徴とする非接触ICラベル。
【請求項2】
フィルム状に形成され耐熱性を有する基材を備え、
前記ICチップおよび前記接続部は、前記基材の主面上に設けられた状態で、前記磁性シートの一方の面上に配置されていることを特徴とする請求項1に記載の非接触ICラベル。
【請求項3】
前記ICチップは回路部を介して接続部に接続され、
前記ICチップと前記回路部とは、超音波接合によって金属溶接されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の非接触ICラベル。
【請求項4】
前記第1の方向と前記第2の方向とは、互いに反対となる方向であることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の非接触ICラベル。
【請求項5】
前記磁性シートは、磁性粒子または磁性フレークと、バインダーとから形成され、
前記バインダーにシリコーン系ゴムまたはフッ素系ゴムが用いられていることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の非接触ICラベル。
【請求項6】
前記接続部は、アルミニウムで形成されていることを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の非接触ICラベル。
【請求項7】
前記第1のアンテナ部および前記第2のアンテナ部は、金属で形成されていることを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載の非接触ICラベル。
【請求項8】
データ読み取り装置との間の通信方式に電波方式を用いたことを特徴とする請求項1から7のいずれか一項に記載の非接触ICラベル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−80330(P2013−80330A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−219242(P2011−219242)
【出願日】平成23年10月3日(2011.10.3)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】