説明

非接触IC通信媒体及びその製造方法

【課題】比較的簡素な構造でもデータの改ざんを防止できる非接触IC通信媒体を提供する。
【解決手段】ICタグ10は、例えば樹脂製の蓋部材12,14を組み合わせて収容空間(12a,14a)を形成し、その内部にICインレット16を収容した構造である。ICインレット16には非接触通信用の電子回路が実装されており、その外径は収容空間よりも大きく、基材16aの周縁部が蓋部材12,14の周縁部12b,14bと重なり合っている。蓋部材12,14は周縁部12b,14bを互いに突き合わせにした状態で熱圧着されているが、これらの接合領域(W)内ではインレット16の基材16aと蓋部材12,14の周縁部12b,14bが一体に熱圧着されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非接触通信用の電子回路を有した非接触IC通信媒体及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般にICタグ等の通信媒体は、非接触通信(RF/LF)により内部の電子回路に記録されたID情報を送信したり、電子マネー等の有価情報の記録や更新を行ったりする用途に適している。これらID情報や有価情報は商取引に利用されるため、有価証券と同様にICタグには不正対策が必要となる。
【0003】
このため従来、電子回路が形成されたインレット基材を樹脂ケース等に収容することで、外部から電子回路への直接的なアクセスを阻止し、内部に記録された電子データ(ID情報や有価情報)の不正な書き換えを防止する被覆タイプのICタグに関する先行技術が知られている(例えば、特許文献1参照。)。このコイン形ICタグは、インレット基材上にデータ通信用及びデータ記録用の電子回路を実装するとともに、インレット基材と板状に形成した樹脂材料とを接合してICタグコアを形成し、その表面をコイン状に樹脂材料で被覆した構造を有するものである。
【0004】
上述した先行技術のICタグによれば、インレット基材を予め樹脂材料で固めたICタグコアを形成した上で、さらにその表面を樹脂材料で被覆しているため、単に樹脂ケース内にインレット基材を収容し、樹脂ケースの周縁部を溶接(溶着)しただけの簡易な構造に比較すると、電子データの改ざんに強いという利点がある。すなわち、樹脂ケースの周縁部を溶接しただけの構造では、樹脂ケースを分解すると内部のインレット基材が無傷で取り出せるため、その電子データを改ざんした後で再使用することも可能である。
【0005】
これに対して先行技術(特許文献1)の場合、表面の樹脂材料を除去しただけでは電子回路を露出させることができず、取り出したICタグコアを分解すると、樹脂材料に接合された電子回路も一緒に破壊されてしまうため、電子データの改ざんによる不正な再使用はできなくなると考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−7989号公報(図10)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、先行技術の手法では、先ずICタグコアを形成した上でさらに表面を樹脂材料で被覆する必要があるため、それだけ製造コストが高くなるという問題がある。また、ICタグコアの表面に樹脂材料を射出成型する場合は、高温環境に晒されるためICチップやインレット基材にも相応の耐熱性が要求されるし、ICチップの特性や信頼性に悪影響が現れない程度に射出成型時の樹脂や条件(溶融温度、硬化時間等)を細かく慎重に選定しなければならないという問題がある。
【0008】
そこで本発明は、比較的簡素な構造でもデータの改ざんを防止できる非接触IC通信媒体を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の非接触IC通信媒体は、一対の収容部材の周縁部同士を接合して収容空間を形成し、その内部にインレット基材を収容した簡素な構造である。一対の収容部材は、周縁部を突き合わせた状態で相互に組み合わされるものであり、また、組み合わせられた状態では周縁部の内側に収容空間を形成する。インレット基材は非接触通信用の電子回路を有しており、その周縁部の少なくとも一部分が一対の収容部材の周縁部の間に挟み込まれた状態にある。そして本発明の非接触IC通信媒体は、収容部材の周縁部同士を一体に接合した接合領域において、インレット基材の周縁部の一部分と一対の収容部材の周縁部とを一体に接合した構造である。
【0010】
上記のように本発明の非接触IC通信媒体は、一対の収容部材の内部にインレット基材を収容した簡素な構造であるため、内部の電子回路を確実にカバーしつつ、製造コストを低く抑えることができる。さらに本発明の非接触IC通信媒体は、インレット基材の少なくとも一部分が収容部材(周縁部)の間に挟み込まれた状態で一体に接合されているため、例えば何らかの方法で周縁部の接合を破壊したとすると、それに伴ってインレット基材も一緒に破壊されることになる。この場合、インレット基材の破壊により電子回路(例えば配線パターン、ICチップ、導電性接着剤、半田付け部分等)も破壊されるため、非接触IC通信媒体を再使用することはできなくなる。
【0011】
本発明の非接触IC通信媒体は、インレット基材に脆弱部を設けてもよい。脆弱部は、インレット基材の少なくとも接合領域の内側に形成されており、外力に対してインレット基材の破断を容易化させるものである。
【0012】
上記のようにインレット基材は、収容部材の接合が破壊されることで一緒に破壊されるものであるが、このときインレット基材に脆弱部を設けておけば、さらにその破壊(破断)を促進することができる。脆弱部は、例えばインレット基材の肉厚を部分的に薄くしたものや、インレット基材に切り込み、切り欠き等を形成したもの、あるいはミシン目状の穿孔列を形成したもの等で構成することができる。このような脆弱部が接合領域の内側に設けられていれば、接合領域が破壊されたとき、その外力によってそのままインレット基材の破断を確実に進行させることができる。
【0013】
また本発明の非接触IC通信媒体は、位置決め手段としての機能を果たす構成を有していてもよい。すなわち位置決め手段は、一対の収容部材の間にインレット基材を収容した状態で、一対の収容部材の周縁部とインレット基材の周縁部の一部分とを互いに重ね合わせるべくインレット基材と一対の収容部材の少なくとも一方を相互に位置決めするものである。
【0014】
上記のように本発明の非接触IC通信媒体は、一対の収容部材(周縁部)の間にインレット基材の周縁部(一部分)を挟み込んで一体に接合した構造であるが、インレット基材は収容部材に収容(内蔵)された状態にあるため、この構造を実現するには、その製造過程でインレット基材と収容部材とを正しく位置合わせした状態でこれらを相互に接合する必要がある。
【0015】
上記の位置決め手段は、非接触IC通信媒体の製造過程で少なくとも一方の収容部材とインレット基材とを確実に位置決めすることにより、これらの接合領域が確実に形成されることに寄与するものである。なお、収容部材同士は一対をなすものであり、元より外部観察によって容易に位置決めできるため、製造過程でインレット基材が少なくとも一方の収容部材と位置決めされていれば、最終的に全体の位置合わせを確実に行うことができる。
【0016】
なお上記の位置決め手段は、ガイド部材とこれに対応する位置決め孔で構成することができる。このうちガイド部材は、一対の収容部材の一方に形成されており、収容空間内をその厚み方向に延びる先細形状のものである。そして位置決め孔は、インレット基材に形成されており、その厚み方向にガイド部材を受け入れることでインレット基材と一対の収容部材の一方との位置決めをなす。
【0017】
この場合、例えば非接触IC通信媒体の製造過程で、ガイド部材が形成された一方の収容部材に対してインレット基材を厚み方向に積載する際、その位置決め孔にガイド部材を挿入することで、ガイド部材と位置決め孔との嵌め合わせによりインレット基材と収容部材との正確な位置決めを容易に実現することができる。これにより、製造過程での位置決め作業を容易化し、作業効率を向上することができる。
【0018】
本発明の非接触IC通信媒体において、上記の接合領域には、第1接合領域と第2接合領域が含まれている。第1接合領域では、一対の収容部材の周縁部が相互に溶接されている。また第2接合領域では、一対の収容部材の周縁部とインレット基材の周縁部の一部分とが一体に溶接されている。なお「溶接」は、例えば樹脂材料を加熱して溶融又は半溶融の状態にして接合する手法であり、いわゆる「溶着」や「熱圧着」、「融着」等とも称されるものでもよい。
【0019】
この場合、接合領域内では、その第1接合領域において一対の収容部材同士が溶接(溶着)されていることにより、内部のインレット基材を確実にカバーすることができる。また第2接合領域においては、2つの収容部材とインレット基材とが一体に溶接(溶着)されていることにより、外部から収容部材の接合領域を破壊したとすると、これ伴ってインレット基材までもが確実に破壊される。
【0020】
上記のように接合領域を溶接する場合、一対の収容部材とインレット基材とは、いずれも同等の耐熱特性を有する樹脂材料で成形されていることが好ましい。
【0021】
この場合、接合領域において2つの収容部材とインレット基材とを同じ温度条件で溶融させることにより、3つのパーツ(2つの収容部材とインレット基材)を完全に一体のものとして確実に接合することができる。この点、例えばいずれかのパーツだけ耐熱温度が突出していると、全てのパーツが溶融する温度条件まで加熱したときに他のパーツが熱変形等を起こしてしまうが、全パーツの樹脂材料を同等の耐熱特性にすることで、溶接時に熱変形等の不具合が生じるのを確実に抑えることができる。
【0022】
第2に本発明は、以下の工程を有する製造方法を提供するものである。
【0023】
(1)設置工程
この工程では、周縁部の内側に凹部が形成された半ケース状の第1収容部材を、その凹部が上面側に開放された状態で設置する。
【0024】
(2)積載工程
この工程では、上記(1)の工程で設置された第1収容部材に対して、非接触通信用の電子回路が形成されたインレット基材をその周縁部の少なくとも一部分が収容部材の周縁部の上に重なり合う位置に積載する。ここで重ね合わされた領域は、非接触IC通信媒体の完成状態において接合領域となる。
【0025】
(3)積層工程
この工程では、インレット基材が積載された第1収容部材に対して、これと対をなすべく周縁部の内側に凹部が形成された半ケース状の第2収容部材をその周縁部を第1収容部材の周縁部に突き合わせた状態で積層する。すなわちこの工程では、第1収容部材の周縁部と第2収容部材の周縁部とを突き合わせの状態とすることにより、これら周縁部同士の間にインレット基材の周縁部の一部分が挟み込まれた状態となる。
【0026】
(4)溶接工程
この工程では、第1及び第2収容部材の周縁部同士を突き合わせた状態で溶接するとともに、この溶接に伴いインレット基材の周縁部の少なくとも一部分を第1及び第2収容部材の周縁部と一体に溶接する。
【0027】
以上の(1)〜(4)の工程を実行することにより、本発明の非接触IC通信媒体を得ることができる。
【0028】
なお上記(2)の積載工程では、インレット基材に予め形成された位置決め孔に対し、第1収容部材に予め形成されて凹部内をその厚み方向に延びる先細形状のガイド部材をインレット基材の厚み方向に受け入れさせることで、インレット基材の積載に伴ってインレット基材と第1収容部材との位置決めを行うことが好ましい。
【0029】
このような位置決め手法を採用すれば、例えばインレット基材を自動機等で供給(積載)しても、これらの位置決めを確実に行うことができるため、この後(4)の溶接工程で確実にインレット基材と第1及び第2収容部材とを溶接することができるし、その作業効率を向上することができる。
【発明の効果】
【0030】
以上のように本発明によれば、低コストでセキュリティ性の高い非接触IC通信媒体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】ICタグの構成を概略的に示す分解斜視図である。
【図2】ICタグを分解した状態で示す縦断面図である。
【図3】ICタグを完成状態で示した縦断面図である。
【図4】ICタグの製造工程を順に示した連続図である。
【図5】ICタグの第2実施形態を示す水平断面図である。
【図6】ICタグの第3実施形態を示す水平断面図である。
【図7】ICタグの第4実施形態を示す水平断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0033】
〔第1実施形態〕
図1は、非接触IC通信媒体の第1実施形態であるICタグ10の構成を概略的に示す分解斜視図である。このICタグ10は、例えば主に3つのパーツから構成されている。3つのパーツは、上下で一対をなす蓋部材12,14、そしてICインレット16である。これら3つのパーツを厚み方向に積層して接合することにより、第1実施形態としてトークン型(コイン形状)のICタグ10が構成される。以下、具体的に説明する。
【0034】
〔収容部材〕
上下の蓋部材12,14は、基本的な形状が共通している。すなわち上下の蓋部材12,14は、いずれも円形の半ケース形状をなしており、これらが上下に組み合わされることで中空なコイン形状のケース体を構成する。
【0035】
上下の蓋部材12,14には、それぞれ中央に円形状の凹部12a,14aが形成されている。また、これら凹部12a,14aの周囲には、それぞれ周縁部12b,14bが形成されている。周縁部12b,14bは、それぞれ凹部12a,14aの外縁から厚み方向に立ち上がり、その内周面にて凹部12a,14aの内壁面を構成している。なお周縁部12b,14bの外周面は、そのまま蓋部材12,14の外周面となっている。なお蓋部材12,14は、例えばABS、PET、PVC、PC、PEN等の樹脂材料で成形されている。
【0036】
〔インレット基材〕
ICインレット16は、例えばPETやPEN等の樹脂材料で成形された基材16a(フィルム基板)に非接触通信用の電子回路を形成したものである。電子回路は、例えばスパイラル状のアンテナパターン18や図示しないICチップ等で構成されている。なおICチップには、例えばマイクロプロセッサやEEPROM、RF回路等が集積されている。
【0037】
ICインレット16は、その基材16aの外径が凹部12a,14aの直径よりも大きく設定されている。このため図1中に二点鎖線で示されているように、間にICインレット16を挟み込むようにして上下の蓋部材12,14を組み合わせると、ICインレット16が蓋部材12,14の周縁部12b,14bに重なり合った状態となる。ただしICインレット16の外径は、周縁部12b,14bの外径よりも小さい。
【0038】
〔ICインレットの位置決め〕
図1中で下方に位置する蓋部材14には、その凹部14aの底面上に2本のガイドピン14c(ガイド部材)が形成されている。これらガイドピン14cは例えば円錐形状をなしており、凹部12aの底面から厚み方向(図1では上方向)に突出して延びている。
【0039】
一方、ICインレット16の基材16aには、ガイドピン14cに対応して2箇所に位置決め孔16bが形成されている。ICインレット16が上下の蓋部材12,14の間に収容された状態では、各ガイドピン14cが対応する位置決め孔16b内に受け入れられる。このときガイドピン14cと位置決め孔16bとの嵌め合わせにより、ICインレット16が蓋部材12,14(特に下方の蓋部材14)に対して位置決めされる。
【0040】
図2は、ICタグ10を分解した状態で示す縦断面図である。上記のように、ICインレット16の外径Diは、凹部12a,14aの直径Dcよりも大きく設定されている。このため、蓋部材12,14に対してICインレット16を正しく位置決めした状態(例えば、同心に配置した状態)では、ICインレット16の周縁部が全周でほぼ均等のラップ代Lをもって蓋部材12,14の周縁部12b,14bと重なり合う。
【0041】
次に図3は、ICタグ10を完成状態で示した縦断面図である。上述したICインレット16の正しい位置決めは、上記の各ガイドピン14cを対応する位置決め孔16b内に挿通させることで行われる。すなわち、上記のように各ガイドピン14cは円錐形状をなしており、ガイドピン14cを対応する位置決め孔16b内に挿通させると、その外面(テーパー面)に沿って位置決め孔16bの内縁が案内される。
【0042】
この例では、位置決め孔16bとガイドピン14cとの嵌め合わせが以下の関係で成り立っている。すなわち蓋部材14の厚み方向(図3中の高さ方向)でみて、周縁部14bの上面と同じ高さの位置でガイドピン14cを水平に輪切りにした場合、その断面の直径が位置決め孔16bの内径Dhにほぼ等しいか、もしくは僅かに小さい。これにより、各ガイドピン14cが対応する位置決め孔16b内に挿通された状態で、ICインレット16を自然に周縁部14bの上面に位置付ける(積載する)ことが可能となる。
【0043】
〔接合領域〕
また図3に示される完成状態では、上下の蓋部材12,14について、これらの周縁部12b,14bが互いの突き合わせ部分(接合領域W)において溶接(例えば超音波接合)されている。これにより、接合領域W内で蓋部材12,14の周縁部12b,14b同士が接合される(第1接合領域W1)とともに、ICインレット16の基材16aの周縁部と蓋部材12,14の周縁部12b,14bとが接合されることになる(第2接合領域W2)。
【0044】
なお、図3の断面では便宜上、ICインレット16の基材16aが上側の蓋部材12に埋め込まれたような状態で示されているが、実際には熱溶着により、これら3つのパーツ(蓋部材12,14及びICインレット16の基材16a)は完全に一体のものとして接合(溶融接合)されている。また上下の蓋部材12,14についても、互いの突き合わせ部分では周縁部12b,14bが完全に一体のものとして接合(溶融接合)されている。
【0045】
〔収容空間〕
また図3に示される完成状態では、上下の蓋部材12,14が組み合わされた状態で、それぞれの凹部12a,14aにより収容空間(参照符号なし)が形成されている。ICインレット16は、周縁部12b,14bとのラップ代(第2接合領域W2)を除く内側の大部分が収容空間内に収容されている。また図3には示されていないが、ICインレット16の電子回路(特にICチップや導電性接着剤、半田付け部分等)は収容空間内に位置している。
【0046】
〔製造方法〕
図4は、ICタグ10の製造工程を順に示した連続図である。以下、ICタグ10の製造方法について説明する。
【0047】
〔工程1〕
図4中(A):例えば、図1中で下側に位置する蓋部材14を、その凹部14aが上面側に開放した状態で設置する。このとき、ガイドピン14cは先端(円錐の頂点)が上方を向いた状態にある。より実用的には、例えば図示しないステージ上に複数の蓋部材14をマトリクス状に配列して設置するものとする。
【0048】
〔工程2〕
図4中(B):設置された蓋部材14に対し、1枚ずつICインレット16を供給する。ICインレット16は、例えば図示しないロボットを用いて自動的に行うことができる。この図示しないロボットには、例えば複数のサクションノズル19がマトリクス状に配列して設けられており、これらサクションノズル19でICインレット16を1枚ずつ吸着しつつ、複数のICインレット16を同時に複数の蓋部材14に対して供給することができる。
【0049】
図4中(C):ICインレット16の供給は、蓋部材14の直上からサクションノズル19を下降させることで行われる。このとき、ICインレット16の位置決め孔16bをそれぞれ対応するガイドピン14cに対向させておけば、サクションノズル19の下降に伴い、ガイドピン14cがそれぞれ対応する位置決め孔16b内に相対的に受け入れられる。この状態でサクションノズル19の吸着を解除すると、ICインレット16が自重により下降して、蓋部材14(周縁部14b)の上面に積載される。このとき、ガイドピン14cと位置決め孔16bとの嵌め合わせにより、上記のように正確な位置決めが行われ、ICインレット16の基材16aの周縁部が蓋部材14の周縁部14bに重ね合わせられる。
【0050】
〔工程3〕
図4中(D):ICインレット16が供給(積載)された蓋部材14に対して、その上方から上側の蓋部材12を積層する。これにより、上下の蓋部材12,14の周縁部12b,14b同士が突き合わせの状態となる。
【0051】
〔工程4〕
この後、例えば図示しない超音波ウェルダー等を用いて周縁部12b,14bを溶接する。これにより、接合領域Wの外側では周縁部12b,14bが一体に接合されるとともに、内側では周縁部12b,14bとICインレット16の基材16aが一体に接合された状態となる。
【0052】
〔材料特性〕
ICインレット16の基材16aには、一般的にPETやPEN等の樹脂材料が適しているが、ここでは蓋部材12,14と基材16aの耐熱特性(溶融温度)をほぼ同じに設定している。これにより、周縁部12b,14bを溶接する際、上下の蓋部材12,14とともにICインレット16の基材16aを一体に溶接することができる。
【0053】
上述した製造方法を用いて第1実施形態のICタグ10を得ることができる。第1実施形態のICタグ10は、ICインレット16を蓋部材12,14に収容しただけの簡素な構造であるため、それだけ低コストで製造することができる。
【0054】
また第1実施形態のICタグ10は、上下の蓋部材12,14の接合部分を何らかの方法で破壊したとすると、これに伴って内部の基材16aも一緒に破壊されるため、ICインレット16を無傷で取り出すことは極めて困難である。
【0055】
このとき、例えば図1に示されるアンテナパターン18の一部は、基材16aとともに周縁部12b,14bに溶接されているものとする。これにより、蓋部材12,14の接合部分が破壊されると、アンテナパターン18もまた同時に破断されるため、電子回路はその通信機能を喪失することとなる。これにより、物理的に基材16aが破壊されるだけでなく、電子回路そのものの構成が破壊されるため、ICインレット16を不正に再使用することはできなくなる。
【0056】
〔第2実施形態〕
図5は、ICタグ10の第2実施形態を示す水平断面図である。第2実施形態では、ICインレット16の基材16aに切り込み20又は切り欠き(ノッチ)22を形成するものとする。その他の構成については、特に言及がない限り第1実施形態と同様であるため、ここでは重複した説明を省略する。
【0057】
図5中(A):この例では、基材16aの周縁部のうち、蓋部材12,14との接合領域よりも内側に切り込み20を設けている。各切り込み20は、基材16aをせん断することで形成されている。また各切り込み20は、基材16aの外縁から中心方向に延びており、接合領域より内側の位置で途切れている。ここでは図示していないが、基材16a上ではアンテナパターン18や配線パターンを避けた位置に切り込み20を形成するものとする。
【0058】
図5中(B):この例では、基材16aの周縁部のうち、蓋部材12,14との接合領域よりも内側に切り欠き22を設けている。各切り欠き22は、基材16aを部分的に切り欠くことで形成されている。また各切り欠き22は、基材16aの外縁から中心方向に延びており、接合領域より内側の位置で途切れている。ここでも同様に、基材16a上ではアンテナパターン18や配線パターンを避けた位置に切り欠き22を形成するものとする。
【0059】
第2実施形態の場合、蓋部材12,14の接合部分が破壊されたとき、切り込み20や切り欠き22が基材16aの破断をさらに促進することができる。具体的には、外力によって切り込み20や切り欠き22の位置から基材16aの破断が進行しやすくなるため、ICインレット16がより確実に破壊され、電子回路の修復は不可能となる。
【0060】
また、切り込み20や切り欠き22が周方向に間隔をおいて設けられているため、蓋部材12,14を全周のどの方向から破壊しても、確実に基材16aの破断を進行させることができる。
【0061】
〔第3実施形態〕
次に図6は、ICタグ10の第3実施形態を示す水平断面図である。この第3実施形態では、ICインレット16の基材16aが円形ではない点が第1,第2実施形態と異なっている。すなわち第3実施形態では、基材16aを部分円形状とすることにより、その周縁部の一部分を蓋部材12,14の周縁部12b,14bと接合している。
【0062】
第3実施形態においても、蓋部材12,14の接合部分を破壊すると、結果的にICインレット16の基材16aが破壊される。このためICインレット16を無傷で取り出すことは極めて困難であることから、第1実施形態と同様に不正な再使用を防止することができる。その他の構成については特に言及がない限り第1実施形態と同様であり、ここでは重複した説明を省略する。
【0063】
第3実施形態において、ICインレット16の基材16aの周縁部に第2実施形態と同様の切り込みや切り欠きが設けられていてもよい。例えば、基材16aの周縁部のうち、蓋部材12,14の周縁部12b,14bとの接合領域から内側に切り込みや切り欠きを設けることで、破壊時に基材16aの破断を促進することができる。
【0064】
〔第4実施形態〕
図7は、ICタグ10の第4実施形態を示す水平断面図である。この第4実施形態では、蓋部材12,14の周縁部12b,14bに拡張部12d,14dが設けられている点が第1〜第3実施形態と異なっている。その他の構成については、特に言及がない限り第1実施形態と同様であるため、ここでは重複した説明を省略する。
【0065】
拡張部12d,14dは、周縁部12b,14bの内周面から中心方向に突き出るようにして延びており、接合領域より内側の位置で途切れている。このような拡張部12d,14dは、周縁部12b,14bとともに基材16aと一体に接合されており、その分、接合領域を基材16aの内側にまで拡張したものとなっている。ここでは図示していないが、第4実施形態の場合、拡張部12d,14dを基材16a上のアンテナパターン18や配線パターンを避けた位置に形成する必要はなく、敢えてこれらと拡張部12d,14dとが重なり合う配置とすることができる。
【0066】
第4実施形態によれば、拡張部12d,14dによって接合領域が基材16aの内部に拡張されている分、蓋部材12,14の接合を破壊したときに基材16aが破壊する範囲をさらに拡張することができる。また、接合領域を拡張している分、逆に蓋部材12,14の破壊に対する強度(耐性)を向上することができるため、不正を意図する者に対して破壊を断念させる抑止効果となる。
【0067】
〔その他の実施形態〕
例えば第1実施形態において、ガイドピン14cは円錐形状のものに限らず、角錐形状であってもよいし、スタッド形状(水平断面が十字形状)であってもよい。また、ガイドピン14c及び位置決め孔16bの配置や個数は図示のものに限らず、適宜に変更することができる。
【0068】
第2実施形態において、切り込み20や切り欠き22の配置は放射状のものに限らず、適宜に配置を変更してもよい。また、切り込み20や切り欠き22を設ける個数は任意であり、適宜に増減してもよい。さらに、これら切り込み20や切り欠き22だけでなく、基材16aの肉厚を部分的に減少させてハーフカット線を設けたり、ミシン目状の穿孔列を形成したりしてもよい。
【0069】
また第3実施形態において、ICインレット16の形状は部分円形状の他に、半円形状や多角形状のものであってもよい。
【0070】
第4実施形態において、拡張部12d,14dの配置や形状は特に図示のものに限らず、その他の配置や形状を採用してもよい。
【0071】
また上述した各実施形態では、ICタグ10をトークン型(コイン形状)としているが、これに限られるものではなく、ICタグ10はカード形状やスティック形状、カプセル形状であってもよい。
【0072】
またICタグ10は、RFID用のタグや有価媒体(電子マネー等)としての用途だけでなく、身分証明書や免許証等にも適用することができる。
【0073】
その他、本発明は「ICタグ」としての用途に限らず、ICを内蔵した各種の通信媒体として広く実施することができる。
【符号の説明】
【0074】
10 ICタグ
12,14 蓋部材
12a,14a 凹部
12b,14b 周縁部
14c ガイドピン
12d,14d 拡張部
16 ICインレット
16a 基材
16b 位置決め孔
18 アンテナパターン
20 切り込み
22 切り欠き

【特許請求の範囲】
【請求項1】
周縁部を突き合わせた状態で相互に組み合わされ、その内側に収容空間を形成する一対の収容部材と、
非接触通信用の電子回路を有し、その周縁部の少なくとも一部分が前記一対の収容部材の周縁部の間に挟み込まれた状態で前記収容空間内に収容されるインレット基材と、
前記一対の収容部材の周縁部同士を一体に接合するとともに、前記インレット基材の周縁部の少なくとも一部分と前記一対の収容部材の周縁部とを一体に接合する接合領域と
を備えた非接触IC通信媒体。
【請求項2】
請求項1に記載の非接触IC通信媒体において、
前記インレット基材の少なくとも前記接合領域の内側に形成され、外力に対して前記インレット基材の破断を容易化させる脆弱部をさらに備えた非接触IC通信媒体。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の非接触IC通信媒体において、
前記一対の収容部材の間に前記インレット基材を収容した状態で、前記一対の収容部材の周縁部と前記インレット基材の周縁部の一部分とを互いに重ね合わせるべく、前記インレット基材と前記一対の収容部材の少なくとも一方を相互に位置決めする位置決め手段をさらに備えた非接触IC通信媒体。
【請求項4】
請求項3に記載の非接触IC通信媒体において、
前記位置決め手段は、
前記一対の収容部材の一方に形成され、前記収容空間内をその厚み方向に延びる先細形状のガイド部材と、
前記インレット基材に形成され、その厚み方向に前記ガイド部材を受け入れることで前記インレット基材と前記一対の収容部材の一方との位置決めをなす位置決め孔と
を有することを特徴とする非接触IC通信媒体。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の非接触IC通信媒体において、
前記接合領域は、
前記一対の収容部材の周縁部が相互に溶接された第1溶接領域と、
前記一対の収容部材の周縁部と前記インレット基材の周縁部の一部分とが一体に溶接された第2溶接領域とを含むことを特徴とする非接触IC通信媒体。
【請求項6】
請求項5に記載の非接触IC通信媒体において、
前記一対の収容部材と前記インレット基材とは、いずれも同等の耐熱特性を有する樹脂材料で成形されていることを特徴とする非接触IC通信媒体。
【請求項7】
周縁部の内側に凹部が形成された半ケース状の第1収容部材を、前記凹部が上面側に開放された状態で設置する設置工程と、
前記第1収容部材に対して、非接触通信用の電子回路が形成されたインレット基材をその周縁部の少なくとも一部分が前記収容部材の周縁部の上に重なり合う位置に積載する積載工程と、
前記インレット基材が積載された前記第1収容部材に対して、これと対をなすべく周縁部の内側に凹部が形成された半ケース状の第2収容部材をその周縁部を前記第1収容部材の周縁部に突き合わせた状態で積層する積層工程と、
前記第1及び第2収容部材の周縁部同士を突き合わせた状態で溶接するとともに、この溶接に伴い前記インレット基材の周縁部の少なくとも一部分を前記第1及び第2収容部材の周縁部と一体に溶接する溶接工程と
を有する非接触IC通信媒体の製造方法。
【請求項8】
請求項7に記載の非接触IC通信媒体の製造方法において、
前記積載工程では、
前記インレット基材に予め形成された位置決め孔に対し、前記第1収容部材に予め形成されて前記凹部内をその厚み方向に延びる先細形状のガイド部材を前記インレット基材の厚み方向に受け入れさせることで、前記インレット基材の積載に伴って前記インレット基材と前記第1収容部材との位置決めを行うことを特徴とする非接触IC通信媒体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−262515(P2010−262515A)
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−113510(P2009−113510)
【出願日】平成21年5月8日(2009.5.8)
【出願人】(000162113)共同印刷株式会社 (488)
【Fターム(参考)】