説明

非晶質金属材料の加工方法、成形型の製造方法および成形型

【課題】非晶質金属材料に、高い加工精度で効率よく凹部を形成することができる非晶質金属材料の加工方法、かかる加工方法を用いて寸法精度に優れた成形型を効率よく製造する成形型の製造方法、およびこの製造方法により得られる成形型を提供すること。
【解決手段】本発明の非晶質金属材料の加工方法は、非晶質金属材料で構成された母材3に凹部を形成する加工方法であって、母材3の所定領域にレーザー光Lを照射して、母材3のレーザー光Lの照射方向における厚さの一部を溶融する第1の工程と、母材3の溶融部分31を結晶化させることにより、この結晶化に伴って母材3の結晶化部分33(溶融部分31)の体積が減少することを利用して、母材3に凹部21を形成する第2の工程とを有する。また、第1の工程において、レーザー光Lの照射によって溶融する深さDは、母材3の厚さの10%以下であるのが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非晶質金属材料の加工方法、成形型の製造方法および成形型に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特定の金属材料を主成分とし、所定の条件を満たす元素を含む材料とを混合した原材料を、溶融状態から極めて急速に冷却すると、結晶が形成される前のランダムな非晶質状態の合金が形成される場合がある。このような合金は、「非晶質金属」と呼ばれる。
このような非晶質金属は、高強度、低ヤング率、高耐食性等の優れた特性を備えていることから、長寿命の成形型を構成する材料として期待されている。
【0003】
成形型は、一般に、板状またはブロック状をなす母材の1つの面に、キャビティとなる凹部を形成することにより製造することができる。
母材の1つの面に凹部を形成するような加工手段としては、例えば、エッチング加工、ワイヤ放電加工、切削加工等が挙げられる。
特許文献1には、エッチング加工により、非晶質金属材料に加工を施す方法が開示されている。
【0004】
エッチング加工では、非晶質金属材料をレジストマスクで覆い、レジストマスクに形成された開口部を選択的にエッチングすることにより、非晶質金属材料に凹部を形成する。
しかしながら、このようなエッチング加工では、レジストマスクの寸法精度が十分ではなく、また、エッチング液の濃度にバラツキが生じ易いため、エッチングによる加工精度が低いという問題がある。
【0005】
さらに、エッチング加工では、レジストマスクやエッチング液等を用いる煩雑な作業を伴うため、加工効率が低いという問題もある。
また、ワイヤ放電加工では、加工面の寸法精度や表面粗さが低いという問題があり、切削加工では、非晶質金属の優れた機械的特性によって、切削工具の寿命が著しく短くなるという問題がある。
【0006】
【特許文献1】特開平7−191157号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、非晶質金属材料に、高い加工精度で効率よく凹部を形成することができる非晶質金属材料の加工方法、かかる加工方法を用いて寸法精度に優れた成形型を効率よく製造する成形型の製造方法、およびこの製造方法により得られる成形型を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的は、下記の本発明により達成される。
本発明の非晶質金属材料の加工方法は、非晶質金属で構成された材料の所定領域にレーザー光を照射して、前記材料の前記レーザー光の照射方向における厚さの一部を溶融する第1の工程と、
前記溶融した部分を冷却して結晶化させることにより、この結晶化に伴って前記材料の体積が減少することを利用して、前記所定領域に凹部を形成する第2の工程を有することを特徴とする。
これにより、前記材料に、高い加工精度で効率よく凹部を形成することができる。
【0009】
本発明の非晶質金属材料の加工方法では、前記第1の工程において、前記レーザー光の照射によって溶融する深さは、前記材料における前記厚さの10%以下であることが好ましい。
これにより、前記材料は、その機械的強度を十分に確保することができるので、溶融時または溶融後に、屈曲、湾曲(反り)、破断等の形状不具合が生じるのを確実に防止することができる。
【0010】
本発明の非晶質金属材料の加工方法では、前記溶融する深さは、1〜100μmであることが好ましい。
これにより、極めて浅い凹部を高い加工精度で効率よく形成することができる。すなわち、このような浅い凹部を従来の加工方法で形成した場合、目的とする寸法を実現することは極めて困難であったが、本発明によれば、レーザー光の照射条件を適宜設定することにより、高い寸法精度で極めて浅い凹部を容易に形成することができる。
【0011】
本発明の非晶質金属材料の加工方法では、前記第1の工程において、前記レーザー光を前記材料に対して相対的に走査しつつ照射することにより、該走査の軌跡に沿って前記材料を溶融することが好ましい。
これにより、レーザー光の走査の軌跡に沿って、前記材料を溶融することができる。
本発明の非晶質金属材料の加工方法では、前記第2の工程における冷却は、自然冷却であることが好ましい。
これにより、冷却装置等を用いることなく結晶化させ易い比較的遅い冷却速度で冷却を行うことができるので、製造コストの低減を図ることができる。また、溶融状態の前記材料をムラなく冷却することができるので、冷却速度のバラツキに伴う体積減少率のバラツキを防止することができる。これにより、凹部を複数形成した場合、その形状の均一化を図ることができる。
【0012】
本発明の非晶質金属材料の加工方法では、前記冷却における冷却速度は、0.1〜100K/secであることが好ましい。
このような比較的遅い冷却速度で冷却することにより、溶融状態の前記材料を確実に、かつ効率よく結晶化させることができる。
本発明の非晶質金属材料の加工方法では、不活性雰囲気中で前記レーザー光を照射することが好ましい。
これにより、溶融した前記材料が酸化するのを確実に防止することができ、酸化により、加工後の前記材料の表面が劣化するのを防止することができる。さらに、不活性雰囲気は、爆発したり、人体に害を及ぼすことがなく、減圧手段を用いる必要もないので、取り扱いが容易であるという利点もある。
【0013】
本発明の非晶質金属材料の加工方法では、前記レーザー光の照射領域の外径は、5〜100μmであることが好ましい。
これにより、微小なパターンの凹部を高い加工精度で形成することができる。
本発明の非晶質金属材料の加工方法では、前記レーザー光の発光エネルギーは、1〜100μJ/パルスであることが好ましい。
これにより、前記材料の前記厚さの全部が溶融してしまうのを防止しつつ、前記材料の前記厚さの一部を確実に溶融することができる。
【0014】
本発明の非晶質金属材料の加工方法では、前記レーザー光のピーク波長は、193nm〜10.6μmであることが好ましい。
これにより、レーザー光を前記材料に効率よく吸収させることができ、照射領域を効率よく加熱することができる。その結果、比較的短時間に前記材料を溶融することができる。
【0015】
本発明の成形型の製造方法は、本発明の非晶質金属材料の加工方法を用いて、前記材料の所定領域に、キャビティとなる凹部を形成することを特徴とする。
これにより、寸法精度に優れた成形型を効率よく製造することができる。
本発明の成形型は、本発明の成形型の製造方法により製造されたことを特徴とする。
これにより、寸法精度に優れた成形型が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の非晶質金属材料の加工方法、成形型の製造方法および成形型について、添付図面に示す好適実施形態に基づいて詳細に説明する。
本発明の非晶質金属材料の加工方法は、非晶質金属で構成された材料の被加工面に、所定形状の凹部を形成する方法である。
なお、以下の説明では、代表的に、本発明の非晶質金属材料の加工方法を用いて成形型を製造する方法(本発明の成形型の製造方法)について説明する。
【0017】
図1は、本発明の成形型の製造方法により製造された成形型を示す斜視図、図2は、図1に示す成形型のA−A線断面図、図3は、図2に示す成形型の製造方法を説明するための図である。なお、以下の説明では、図2および図3中の上側を「上」、下側を「下」と言う。
図1および図2に示す成形型1は、透光性の材料で構成された基板の表面に、微小なレンズ(マイクロレンズ)を多数形成してなるマイクロレンズ基板を製造するための成形型である。
この成形型1は、基板2を有しており、この基板2の一方の表面に、形成すべきマイクロレンズ基板の表面形状に対応する形状の複数の凹部21が形成されたものである。
【0018】
かかる成形型1は、非晶質金属材料で構成されている。非晶質金属材料は、その内部に結晶粒が存在せず、また結晶粒同士の境界(結晶粒界)も存在しない。このような結晶粒界や結晶粒内の転位(原子レベルでの位置ズレ)のような不連続部位は、材料の破壊や腐食の起点となり易い。これに対し、非晶質金属材料は、かかる不連続部位を含まないため、高強度、低ヤング率および高耐食性等の優れた機械的特性を備える。したがって、非晶質金属材料で構成された成形型は、優れた機械的特性を備えた長寿命の成形型となる。
【0019】
ところで、このように非晶質金属材料に凹部を形成するような加工を施す場合、従来は、エッチング加工、ワイヤ放電加工、切削加工等の方法により加工が行われていた。
しかしながら、これらの加工方法は、加工精度が低かったり、煩雑な作業を伴うといった問題を有していた。
そこで、本発明の非晶質金属材料の加工方法は、非晶質金属材料の被加工面の所定領域にレーザー光を照射して、非晶質金属材料のレーザー光の照射方向における厚さの一部を溶融する第1の工程と、溶融した非晶質金属材料中の非晶質金属を結晶化させることにより、この結晶化に伴って非晶質金属材料の体積が減少することを利用して、所定領域の被加工面に凹部を形成する第2の工程とを有することを特徴とした。
【0020】
これにより、非晶質金属材料の表面に、高い加工精度で、かつ効率よく凹部を形成することができる。
また、この方法で製造された成形型1は、前述したような非晶質金属材料の優れた機械的特性を有するとともに、高い寸法精度の凹部21を備えたものとなる。その結果、この成形型1は、寸法精度に優れたマイクロレンズ基板(成形品)を、長期にわたって安定的に製造し得る成形型となる。
【0021】
以下、本発明の非晶質金属材料の加工方法の各工程について、順次説明する。
[1]まず、図3(a)に示すように、成形型1を形成するための非晶質金属で構成された母材(材料)3を用意する。
母材3を構成する非晶質金属としては、例えば、Fe基、Co基、Ni基、Cu基、Ti基、Zr基、Hf基、Mg基、Ca基、La基、Y基、Pt基、Pd基等の金属ガラス合金やアモルファス金属等が挙げられる。
【0022】
母材3のレーザー光の照射方向における厚さ、すなわち、図3(a)に示す母材3の上下方向における厚さ(以下、省略して「母材3の厚さ」とも言う。)は、特に限定されないが、50μm以上であるのが好ましく、500μm以上であるのがより好ましく、2〜3mm程度であるのがさらに好ましい。母材3の厚さが前記範囲内であれば、後述する工程において、母材3にレーザー光を照射した際に、母材3の厚さの一部のみを溶融するようにレーザー光の照射条件を容易に制御することができる。換言すれば、制御し得る最低エネルギーかつ最短時間で母材3にレーザー光を照射したにもかかわらず、母材3の厚さの全部が溶融してしまうのを確実に防止することができる。
また、母材3の厚さが前記範囲内であれば、加工後の母材3を、例えば成形型として用いる場合、肉厚で十分な機械的強度を備えた成形型を得ることができる。
【0023】
非晶質金属で構成された母材3には、いかなる方法で製造されたものを用いてもよく、例えば、鋳造法、単ロール急冷法、双ロール急冷法等の方法で製造されたものを用いることができるが、特に、鋳造法により製造されたものが好適に用いられる。鋳造法によれば、前述のような比較的厚さの厚い母材3を効率よく製造することができる。
このような方法で得られた母材3における本発明の加工方法を適用する面(被加工面)に対し、必要に応じて、被加工面を平滑化する平滑化処理を施してもよい。
かかる平滑化処理としては、例えば、研削、研磨等の物理的処理、エッチング等の化学的処理等が挙げられる。
【0024】
[2]次に、図3(b)に示すように、母材3の上面(被加工面)の所定領域に、レーザー光Lを照射する。そして、母材3のレーザー光Lを照射した領域に存在する非晶質金属のうち、レーザー光Lの照射方向における厚さ、すなわち、本実施形態では母材3の図2の上下方向における厚さの一部を図3(b)に示すように溶融する(第1の工程)。
ここでは、図3(b)に示すように、母材3の上面の等間隔で離間した複数の照射位置Pを通過するようにレーザー光源Sを走査させつつ、レーザー光Lを断続的(間欠的)に照射する。このとき、各照射位置Pでは、それぞれ所定の照射時間で照射するとともに、各照射位置P間を移動させる際には、レーザー光源SをOFFにして、レーザー光Lの照射を停止する。これにより、図3(b)に示すように、各照射位置Pを中心にほぼ半球状に拡がる領域に存在する非晶質金属が溶融し、溶融部分31が形成される。
なお、母材3の上面をレーザー光源Sを走査させつつ、レーザー光Lを連続的に照射するようにしてもよい。これにより、レーザー光Lの走査の軌跡に沿って、母材3を溶融することができるので、溝形状の凹部を形成することができる。
【0025】
ここで、レーザー光Lは、その発光エネルギー、ピーク波長、照射時間等の照射条件を適宜設定することにより、母材3の溶融深さD(図3(b)参照)、換言すれば、溶融部分31の厚さを調整することができる。具体的には、発光エネルギーを大きくすること、ピーク波長を小さくすること、照射時間を長くすること等により、母材3の溶融深さDを大きくするとともに、母材3の上面の溶融する領域の面積を拡大することができる。
【0026】
このとき、溶融深さDが、母材3の厚さの10%以下となるように前記照射条件を設定するのが好ましく、5%以下となるように設定するのがより好ましく、1%以下となるように設定するのがさらに好ましい。溶融深さDが前記範囲内であれば、母材3は、その機械的強度を十分に確保することができるので、溶融時または溶融後に、屈曲、湾曲(反り)、破断等の形状不具合が生じるのを確実に防止することができる。
【0027】
具体的に、この溶融深さDは、1〜100μm程度であるのが好ましく、5〜50μm程度であるのがより好ましい。溶融深さDが前記範囲になるようにレーザー光Lの照射条件を設定することにより、例えば深さ100nm程度の極めて浅い凹部21を高い加工精度で効率よく形成することができる。すなわち、このような浅い凹部21を従来の加工方法で形成した場合、目的とする寸法を実現することは極めて困難であったが、本発明によれば、レーザー光Lの照射条件を適宜設定することにより、高い寸法精度で極めて浅い凹部21を容易に形成することができる。
【0028】
レーザー光Lの発光エネルギーは、非晶質金属の組成、母材3の厚さ等によって若干異なるが、パルス発振の場合、1〜100μJ/パルス程度に設定されるのが好ましく、5〜80μJ/パルス程度に設定されるのがより好ましい。これにより、母材3の厚さの全部が溶融してしまうのを防止しつつ、母材3の厚さの一部を確実に溶融することができる。なお、発光エネルギーが前記上限値を超えると、母材3が爆発的に溶融(爆飛)したり、溶融した母材3が照射領域からはみ出し、加工精度が低下するおそれがある。
【0029】
また、レーザー光Lの発振モードがパルス発振である場合、その発振周波数は、0.1〜10kHz程度であるのが好ましく、1〜10kHz程度であるのがより好ましい。
また、レーザー光Lのピーク波長は、193nm〜10.6μm程度に設定されるのが好ましく、500〜600nm程度に設定されるのがより好ましい。このようなピーク波長のレーザー光Lは、金属に対する吸収率が比較的高いので、照射領域を効率よく加熱することができる。その結果、比較的短時間に母材3を溶融することができる。
【0030】
また、レーザー光Lの照射時間は、レーザー光Lの発光エネルギーや、非晶質金属の組成や、母材3の厚さ等によって若干異なるが、0.01〜1秒程度に設定されるのが好ましく、0.05〜0.5秒程度に設定されるのがより好ましい。これにより、母材3の厚さの全部が溶融してしまうのを防止しつつ、母材3の厚さの一部を確実に溶融することができる。
【0031】
また、レーザー光Lを照射する雰囲気としては、例えば、不活性雰囲気、還元性雰囲気、減圧雰囲気等が挙げられるが、特に、不活性雰囲気が好適に用いられる。不活性雰囲気では、溶融した非晶質金属が酸化するのを確実に防止することができ、酸化により、加工後の母材3の表面が劣化するのを防止することができる。これにより、例えば、母材3から成形型1を形成した際に、キャビティの表面が滑らかな成形型1が得られる。さらに、不活性雰囲気は、爆発したり、人体に害を及ぼすことがなく、減圧手段を用いる必要もないので、取り扱いが容易であるという利点もある。
【0032】
また、レーザー光Lの照射領域の外径(ビーム径)は、特に限定されないが、5〜100μm程度であるのが好ましく、10〜50μm程度であるのがより好ましい。これにより、微小なパターンの凹部21を高い加工精度で形成することができる。
なお、レーザー光Lとしては、特に、YAGレーザーを用いるのが好ましい。YAGレーザーは、そのレーザー光Lのピーク波長が1064nmであるが、波長変換光学素子等を通過させることにより、ピーク波長を、532nm(第2高調波)に容易に変換することができる。このピーク波長のレーザー光は、前述したように、金属に対する吸収率が比較的高いので、本発明に用いるレーザー光として好適である。
【0033】
[3]次に、母材3の少なくとも溶融部分31を冷却する。これにより、母材3の溶融部分31を結晶化され、図3(c)に示す結晶化部分33が形成される。そして、この結晶化に伴って母材3の結晶化部分33(溶融部分31)の体積が減少することを利用して、図3(c)に示すように、母材3の被加工面を凹ませる。その結果、母材3の被加工面に凹部21を形成し、図3(d)に示すような成形型1を製造することができる(第2の工程)。なお、図3(c)および図3(d)では、体積の減少量を強調して描いている。
【0034】
図4は、母材の温度と体積との関係を模式的に示すグラフである。なお、図4中の横軸は、母材の温度を示し、縦軸は、母材の体積を示す。
図4は、母材3が融点Tmより高温側にある状態から、融点Tmより低温側に冷却される際の体積の変化を示している。
母材3は、その温度が融点Tmより高温側にあるときは、溶融状態にあり、その体積は図4の(I)に示す関係にある。母材3の溶融部分31は、温度の変化により、熱膨張率に基づいた体積変化を示すため、母材3の温度と体積との関係は、図4の(I)に示すような右肩上がりの直線的なものとなる。
このような溶融状態から冷却すると、母材3の溶融部分31は固化するが、その冷却速度によって、母材3の温度と体積との関係は、図4の(II)に示す関係をとる場合と、図4の(III)に示す関係をとる場合とに分かれる。
【0035】
具体的には、母材3を融点Tmの高温側から低温側に冷却する際の冷却速度が比較的遅い場合は、融点Tmより低温側において、母材3の温度と体積との関係が図4の(II)に示す関係をとる。これは、溶融状態の母材3が、融点Tmより低温側において結晶状態に移行したことに起因している。
すなわち、母材3は、溶融状態にあるとき、含まれる原子の配列に秩序性を有しないのに対し、結晶状態にあるときには、原子の配列に秩序性を有している。原子が秩序をもって配列すると、その原子が占める体積は、無秩序に配列した原子に比べて小さくなる。このため、図4の(I)に示す溶融状態の母材3を冷却したとき、温度の低下により、前述の熱膨張率に基づいた体積減少に加え、結晶化に伴う体積減少が生じることとなる。その結果、母材3の温度と体積との関係は、図4の(II)に示す関係をとることになる。
【0036】
一方、母材3を融点Tmの高温側から低温側に冷却する際の冷却速度が比較的速い場合は、融点Tmより低温側において、母材3の温度と体積との関係が図4の(III)に示す関係をとる。これは、母材3が融点Tmより低温側で非晶質状態に移行したことに起因している。
すなわち、母材3は、溶融状態にあるときと、非晶質状態にあるときのいずれも、含まれる原子は無秩序に配列している。このため、図4の(I)に示す溶融状態の母材3を冷却したとき、温度の低下により、前述の熱膨張率に基づいた体積減少のみが生じることとなる。その結果、母材3の温度と体積との関係は、図4の(III)に示す関係をとることになる。
【0037】
したがって、本発明では、母材3の温度と体積との関係が、図4の(II)に示す関係をとるように、すなわち、溶融状態の母材3が結晶化するように冷却する。これにより、凹部21を形成する。
なお、本実施形態では、母材3の一部を半球状に溶融し、溶融部分31を形成している。この溶融部分31は、結晶化したときに、周辺部に比べて中央部の体積減少量が大きいので、凹部21は、図3(c)および図3(d)に示すように、半球を上下に若干圧縮したような湾曲形状となる。
【0038】
このように冷却する冷却方法としては、特に限定されないが、自然冷却の他、冷却液、冷却ガスを用いた強制冷却等が挙げられる。
このうち、冷却方法としては、特に自然冷却が好ましい。自然冷却によれば、冷却装置等を用いることなく結晶化させ易い比較的遅い冷却速度で冷却を行うことができるので、製造コストの低減を図ることができる。
【0039】
また、自然冷却によれば、母材3の溶融部分31をムラなく冷却することができるので、冷却速度のバラツキに伴う体積減少率のバラツキを防止することができる。これにより、凹部21を複数形成した場合、その形状の均一化を図ることができる。
また、冷却速度は、母材3の組成によっても若干異なるが、0.1〜100K/sec程度であるのが好ましく、1〜10K/sec程度であるのがより好ましい。このような比較的遅い冷却速度で冷却することにより、母材3の溶融部分31を確実に、かつ効率よく結晶化させることができる。
以上のようにして形成された成形型1は、凹部21で構成されたキャビティを備えたものとなる。
【0040】
次に、本発明の成形型を用いた成形方法について説明する。なお、以下の説明では、図1に示す成形型を用いてマイクロレンズ基板を製造する場合について説明する。
図5は、マイクロレンズ基板の製造方法を説明するための図である。なお、図5中の上側を「上」、下側を「下」と言う。
まず、図5(a)に示すように、成形型1を用意する。
【0041】
次に、成形型1を、例えば、凹部(キャビティ)21が鉛直上方に開放するように設置する。
次に、凹部21が形成された面に、樹脂層711を構成することとなる未硬化の樹脂71(未硬化原料)を供給する。
なお、未硬化の樹脂中には、光拡散剤が添加されていてもよい。拡散剤として、例えばガラスビーズ、シリカ、無機系酸化物、無機系炭酸化物、無機系硫酸化物、有機系樹脂ビーズ等が挙げられる。
【0042】
次に、図5(b)に示すように、かかる樹脂71に透明基板72を接合し、押圧・密着させる。
次に、樹脂71を硬化させる。この硬化方法は、樹脂の種類によって適宜選択され、例えば、紫外線照射、加熱、電子線照射等が挙げられる。
これにより、樹脂層711が形成され、また、凹部21内に充填された樹脂により、マイクロレンズ8が形成される。
次に、成形型1をマイクロレンズ8から剥離する。
その後、必要に応じ、透明基板72の厚さを研削、研磨等により調整してもよい。
以上のようにして、図5(c)に示すようなマイクロレンズ基板7が得られる。
【0043】
以上、本発明の非晶質金属材料の加工方法、成形型の製造方法および成形型について、好適な実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。
例えば、前記実施形態では、マイクロレンズ基板を成形するための成形型を例に説明したが、本発明の加工方法は、非晶質金属材料で構成された母材に、単に凹部を形成する加工を施す場合にも適用することができる。
また、本発明の成形型の製造方法で製造される成形型は、凹部を備える種々の成形型の製造にも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の成形型の製造方法により製造された成形型を示す斜視図である。
【図2】図1に示す成形型のA−A線断面図である。
【図3】図2に示す成形型の製造方法を説明するための図である。
【図4】母材の温度と体積との関係を模式的に示すグラフである。
【図5】マイクロレンズ基板の製造方法を説明するための図である。
【符号の説明】
【0045】
1……成形型 2……基板 21……凹部 3……母材 31……溶融部分 33……結晶化部分 7……マイクロレンズ基板 71……樹脂 711……樹脂層 72……透明基板 8……マイクロレンズ L……レーザー光 S……レーザー光源 P……照射位置 D……溶融深さ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非晶質金属で構成された材料の所定領域にレーザー光を照射して、前記材料の前記レーザー光の照射方向における厚さの一部を溶融する第1の工程と、
前記溶融した部分を冷却して結晶化させることにより、この結晶化に伴って前記材料の体積が減少することを利用して、前記所定領域に凹部を形成する第2の工程を有することを特徴とする非晶質金属材料の加工方法。
【請求項2】
前記第1の工程において、前記レーザー光の照射によって溶融する深さは、前記材料における前記厚さの10%以下である請求項1に記載の非晶質金属材料の加工方法。
【請求項3】
前記溶融する深さは、1〜100μmである請求項2に記載の非晶質金属材料の加工方法。
【請求項4】
前記第1の工程において、前記レーザー光を前記材料に対して相対的に走査しつつ照射することにより、該走査の軌跡に沿って前記材料を溶融する請求項1ないし3のいずれかに記載の非晶質金属材料の加工方法。
【請求項5】
前記第2の工程における冷却は、自然冷却である請求項1ないし4のいずれかに記載の非晶質金属材料の加工方法。
【請求項6】
前記冷却における冷却速度は、0.1〜100K/secである請求項1ないし5のいずれかに記載の非晶質金属材料の加工方法。
【請求項7】
不活性雰囲気中で前記レーザー光を照射する請求項1ないし6のいずれかに記載の非晶質金属材料の加工方法。
【請求項8】
前記レーザー光の照射領域の外径は、5〜100μmである請求項1ないし7のいずれかに記載の非晶質金属材料の加工方法。
【請求項9】
前記レーザー光の発光エネルギーは、1〜100μJ/パルスである請求項1ないし8のいずれかに記載の非晶質金属材料の加工方法。
【請求項10】
前記レーザー光のピーク波長は、193nm〜10.6μmである請求項1ないし9のいずれかに記載の非晶質金属材料の加工方法。
【請求項11】
請求項1ないし10のいずれかに記載の非晶質金属材料の加工方法を用いて、前記材料の所定領域に、キャビティとなる凹部を形成することを特徴とする成形型の製造方法。
【請求項12】
請求項11に記載の成形型の製造方法により製造されたことを特徴とする成形型。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−36651(P2008−36651A)
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−211444(P2006−211444)
【出願日】平成18年8月2日(2006.8.2)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】