説明

非架橋型層状ホスホン酸金属化合物及びその製造方法

【課題】結晶性が高く、多成分のホスホン酸が均一に導入され、かつフッ素原子を含まない新規な非架橋型層状ホスホン酸金属化合物及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】所定の条件を備えた2種以上のモノホスホン酸又はその誘導体と、反応時に金属酸化物八面体の中心原子(M)となる6配位金属原子のイオンを生成可能な金属源とを硫酸触媒下で反応させる反応工程を備えた非架橋型層状ホスホン酸金属化合物の製造方法、このような方法により得られる非架橋型層状ホスホン酸金属化合物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非架橋型層状ホスホン酸金属化合物及びその製造方法に関し、さらに詳しくは、吸着材料、イオン交換材料、電解質材料などに用いることができる新規な多成分系の非架橋型層状ホスホン酸金属化合物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
結晶性の有機ホスホン酸6配位金属化合物は、中心原子(M)が6配位金属原子である金属酸化物八面体とホスホン酸の四面体が酸素原子を共有することで繋がった2次元層状構造を持つ。特に、中心原子(M)が6配位金属原子で4価の原子価を採れる場合には、結晶性の有機ホスホン酸6配位金属化合物は、α−型又はγ−型の層構造をとる。
例えば、結晶性の有機ホスホン酸ジルコニウムのα−型の層構造は、平面上に均一に存在するジルコニウム原子がその間の上下に交互に存在するホスホン酸四面体の底面と酸素原子を共有することで2次元的に繋がった層構造を有する。従って、頂点を外側に向けたホスホン酸四面体が並ぶ平面は、ジルコニウム原子が形成する酸化物八面体が並ぶ平面と2:1層の構造を成す。この四面体の外側頂点には、P−C結合で繋がった有機基が存在するので、2:1層の両表面には、ホスホン酸由来の有機基が存在する。
一方、γ−型は、2つの平面上に、均一にかつ交互に存在するジルコニウム原子間がPO4四面体の4つの酸素原子を共有して交互に繋がった平面の2つが、位相をずらして接合した複合平面を持つ。この複合平面のジルコニウム原子が、さらに層表面に存在するホスホン酸四面体と2つの酸素原子を共有して結合することで、ジルコニウム酸化物八面体が形成される層構造を有する。従って、層の両表面には、ホスホン酸由来の有機基が存在する。
理想的には、α−型では、各有機ホスホン酸四面体の3つの頂点は、3つの異なるジルコニウム原子と結合している。また、各ジルコニウム原子は、6つの異なるホスホン酸基の酸素原子と結合して八面体を形成する。
有機ホスホン酸の有機基の種類を最適化すると、層状ホスホン酸ジルコニウムを吸着材料、イオン交換材料、電解質材料などに用いることが可能となる。
【0003】
ホスホン酸の有機基をOH基に置き換えたリン酸は、ZrOCl2・8H2Oなどの金属源とを反応させることによりリン酸ジルコニウムとなる。しかしながら、これらの原料を単に反応させる方法では、2:1層が形成されずに非晶質ゲルとなり、構造の安定性が低いことが以前から知られていた。1964年に、A.Clearfieldにより、12Mリン酸中で長時間還流することで、構造安定性が高く、かつ、結晶性が高い層状リン酸ジルコニウムが初めて得られた。1978年に、G.Albertiは、この反応にHF触媒を用いることで、結晶性が非常に高い層状リン酸ジルコニウムが得られることを見出した。1980年に、M.B.Dinesは、HF触媒を有機ホスホン酸とZrOCl2・8H2Oとの反応に応用して、層状有機ホスホン酸ジルコニウムを得ている。さらに、多種類の有機ホスホン酸とZrOCl2・8H2Oとの反応を、水熱反応やHCl又はHBr触媒反応で行う方法も知られている。水熱反応やHCl又はHBrを触媒として用いる方法は、層構造の結晶性がある程度あり、しかも、2:1層に多種類の有機ホスホン酸を均一に導入できるという利点がある。
【0004】
層状有機ホスホン酸ジルコニウムで、有機基がスルホン酸基を持つものは、電解質として機能する。層状有機ホスホン酸ジルコニウムのスルホン化物は、無機物の二次元(層状)構造を主鎖としてスルホン酸基を側鎖成分に有しているので、ナフィオン(登録商標)に代表されるポリパーフルオロスルホン化物、又は、架橋型ポリスチレンスルホン酸、スルホン化ポリエーテルエーテルケトン(S−PEEK)などの炭化水素系スルホン化物に比べて、燃料電池反応で副生する過酸化水素に対する耐久性が高いという特徴がある。そのため、非架橋型の層状ホスホン酸ジルコニウムのスルホン化物に関し、従来から種々の提案がなされている。
【0005】
例えば、特許文献1には、各種スルホン化ホスホン酸ジルコニウムの単独重合体Zr(O3P−R−SO3H)2が開示されている。同文献には、
(1) ZrOCl2・8H2Oを溶解させた水溶液にHFを加え、これを3−スルホプロピルホスホン酸水溶液に滴下することによって、3−スルホプロピルホスホン酸ジルコニウムが得られる点、
(2) HBrで加水分解された2−スルホエチルホスホン酸に、ZrOCl2・8H2O水溶液を加え、1.5時間還流させることによって、2−スルホエチルホスホン酸ジルコニウムが得られる点、及び、
(3) 2−(スルホフェニル)エチルホスホン酸を含む水溶液を、ZrOCl2・8H2O水溶液及びHFで処理することによって、2−(スルホフェニル)エチルホスホン酸ジルコニウムが得られる点、
が記載されている。
【0006】
また、特許文献2には、スルホン化物ではないが、ZrOCl2・8H2O水溶液にフェニルホスホン酸及びHClを加えることによって、フェニルホスホン酸ジルコニウム(Zr(O3PC65)2)が得られる点が記載されている。
【0007】
また、特許文献3には、ZrOCl2・8H2O、Th(NO3)4・4H2O、PbO2、UCl4、TiCl4、又は、Ce(HSO4)と、クロロメチルホスホン酸((HO)2OPCH2Cl)、2−メルカプトエチルホスホン酸((HO)2OPCH2CH2SH)、2−スルホエチルホスホン酸((HO)2OPCH2CH2SO3H)等のホスホン酸とを反応させることにより得られる、一般式M(O3P−R)2で表される各種層状ホスホン酸金属化合物が開示されている。
また、特許文献4には、2種類のホスホン酸成分を含むホスホン酸ジルコニウムの共重合体が開示されている。
【0008】
さらに、非特許文献1には、フェニレン−3−スルホ−1−ホスホン酸((HO)2OP−C64−SO3H)の合成方法が開示されている。
同文献には、
(1) フェニルホスホン酸((HO)2OP−C65)と2.4当量のSO3とをCH2ClCH2Cl中において84℃×24h反応させ、
(2) 反応液にBaCl2・2H2Oを添加して過剰硫酸をBaSO4として沈殿回収する操作を繰り返し、
(3) イオン交換樹脂により、遊離酸の生成物を再生させる、
ことにより、フェニレン−3−スルホ−1−ホスホン酸を単離できる点が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許第4,235,991号公報
【特許文献2】米国特許第4,267,308号公報
【特許文献3】米国特許第4,436,899号公報
【特許文献4】米国特許第4,429,111号公報
【非特許文献1】G.Alberti, et al., J.Chem.Soc.Dalton Trans., 1819(1989)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
層状ホスホン酸ジルコニウムを合成する場合において、HFを触媒として用いると、可溶性の反応中間体ZrF6が生成して有機ホスホン酸との反応が穏やかに進む。そのため、急激な反応による生成物微粒子の沈殿を回避することができ、層構造の発達が大いに促進されるメリットがある。しかしながら、この方法は、多種類のホスホン酸を用いて反応を行った場合に、それらが均一に導入された多成分系の層状ホスホン酸ジルコニウムを合成するのが難しいという問題がある。即ち、ホスホン酸の仕込み組成を生成物の共重合組成に反映できないので、共重合体の構造設計が難しいという問題がある。その原因は、別種のホスホン酸に対する反応中間体ZrF6の反応性に大きな差があるためと考えられる。その結果、多成分のホスホン酸を含む単一の化合物ではなく、単一のホスホン酸を含む複数の化合物の混合物となりやすい。また、HFを触媒として用いると、フッ素原子の一部がZr−Fとなって化合物内に残留し、環境問題を招くおそれがある。
【0011】
また、水熱反応、HCl触媒反応、又はHBr触媒反応を用いて層状ホスホン酸ジルコニウムを合成する方法は、層構造の結晶性がある程度高く、しかも、多種類のホスホン酸が均一に導入された多成分系の層状ホスホン酸ジルコニウムを合成できるメリットがある。しかしながら、これらの方法は、層構造の結晶性をさほど上げられないという問題がある。特に、水熱反応の場合は、その傾向が顕著である。さらに、HCl触媒反応及びHBr触媒反応の場合には、合成中に酸ミストが発生するという問題がある。
【0012】
さらに、層状ホスホン酸ジルコニウムのスルホン化物を合成する方法には、スルホン酸基を持たない層状ホスホン酸ジルコニウムを合成した後に、ホスホン酸成分をスルホン化する方法(後スルホン化反応法)が知られている。
しかしながら、後スルホン化反応法は、制御が難しく、反応条件が厳しいと層構造の崩壊を招くおそれがある。また、層状ホスホン酸ジルコニウムを合成する際に、後スルホン化反応に対して不安定な置換基を持つモノホスホン酸を用いると、後スルホン化反応の際にモノホスホン酸成分の置換基が失われる場合がある。そのため、構造設計の自由度が低い。
【0013】
この問題を解決するために、出発原料としてスルホン化されたホスホン酸を用いることも考えられる。例えば、脂肪族ホスホン酸のスルホン化物は、高純度化が可能であるので、これを用いてホスホン酸ジルコニウムを合成すると、結晶性の高い生成物が得られる。
しかしながら、スルホン化されたホスホン酸の単離作業は、一般に極めて煩雑である。また、単離操作が確立されていないスルホン化ホスホン酸も多い。例えば、芳香族ホスホン酸のスルホン化物は、高沸点であるために蒸留による単離が困難であり、またイオン交換による単離は煩雑であるため、高純度のスルホン化物を得るのが難しい。そのため、これを用いてホスホン酸ジルコニウムを合成すると、結晶性の低い生成物しか得られない。結晶性の低下は、加水分解に対する安定性を低下させる原因となる。
【0014】
従来の合成法には上述のような問題があるために、2成分を超える多成分系の非架橋型層状ホスホン酸金属化合物の報告例はない。また、スルホン酸基を有するホスホン酸成分を2種以上含む非架橋型層状ホスホン酸金属化合物の報告例もない。
【0015】
本発明が解決しようとする課題は、スルホン酸基を持ち、結晶性が高く、多種類のホスホン酸成分が均一に導入されており、しかも、フッ素原子を含まない新規な非架橋型層状ホスホン酸金属化合物及びその製造方法を提供することにある。
また、本発明が解決しようとする他の課題は、2種類以上のホスホン酸成分にスルホン酸基が導入された新規な非架橋型層状ホスホン酸金属化合物及びその製造方法を提供することにある。
【0016】
また、本発明が解決しようとする他の課題は、スルホン酸基を導入することが容易であり、仕込み組成を共重合組成に反映させることができ、構造設計の自由度が高い非架橋型層状ホスホン酸金属化合物の製造方法を提供することにある。
また、本発明が解決しようとする他の課題は、2種類以上のホスホン酸成分にスルホン酸基を導入することが可能であり、しかも、スルホン酸基を導入する際に、不安定な置換基が失われるおそれのない非架橋型層状ホスホン酸金属化合物の製造方法を提供することにある。
さらに、本発明が解決しようとする他の課題は、複雑な単離操作を経ることなく、多種類のホスホン酸成分であって、その内の少なくとも1種がスルホン酸基を持つものを均一に導入することが可能な非架橋型層状ホスホン酸金属化合物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明に係る非架橋型層状ホスホン酸金属化合物の1番目は、以下の構成を備えていることを特徴とする。
(a) 前記非架橋型層状ホスホン酸金属化合物は、中心原子(M)が6配位金属原子である金属酸化物八面体とホスホン酸の四面体が酸素原子を共有することで繋がった2次元層状構造を持つ。
(b) 前記非架橋型層状ホスホン酸金属化合物は、少なくとも1つのP−O−M結合を介して、層構造中の異なる6配位金属原子と結合する、2種以上のモノホスホン酸成分を含む。
(c) 前記モノホスホン酸成分のいずれか1種は、スルホン酸基又はスルホン酸基に変換可能な基を持ち、残りは持たない。
(d) 前記非架橋型層状ホスホン酸金属化合物は、前記中心原子(M)と結合しているフッ素原子を含まない。
前記非架橋型層状ホスホン酸金属化合物は、さらに以下の条件を満たしているものが好ましい。
(e) 前記非架橋型層状ホスホン酸金属化合物に含まれる前記モノホスホン酸成分の置換基の平均分子断面積は、2次元層状構造の表面ホスホン酸基1個が占める自由面積の7割以下である。
また、前記中心原子(M)は、4価の原子価を採れる6配位金属原子が好ましい。
【0018】
本発明に係る非架橋型層状ホスホン酸金属化合物の2番目は、以下の構成を備えていることを特徴とする。
(a) 前記非架橋型層状ホスホン酸金属化合物は、中心原子(M)が6配位金属原子である金属酸化物八面体とホスホン酸の四面体が酸素原子を共有することで繋がった2次元層状構造を持つ。
(b) 前記非架橋型層状ホスホン酸金属化合物は、少なくとも1つのP−O−M結合を介して、層構造中の異なる6配位金属原子と結合する、2種以上のモノホスホン酸成分を含む。
(c) 前記モノホスホン酸成分の少なくとも2種以上は、スルホン酸基又は前記スルホン酸基に変換可能な基を持ち、残りは持たない。
(d) 前記非架橋型層状ホスホン酸金属化合物は、前記中心原子(M)と結合しているフッ素原子を含まない。
前記非架橋型層状ホスホン酸金属化合物は、さらに以下の条件を満たしているものが好ましい。
(e) 前記非架橋型層状ホスホン酸金属化合物に含まれる前記モノホスホン酸成分の置換基の平均分子断面積は、2次元層状構造の表面ホスホン酸基1個が占める自由面積の7割以下である。
また、前記中心原子(M)は、4価の原子価を採れる6配位金属原子が好ましい。
【0019】
本発明に係る非架橋型層状ホスホン酸金属化合物の製造方法は、以下の条件を備えた2種以上のモノホスホン酸又はその誘導体と、反応時に金属酸化物八面体の中心原子(M)となる6配位金属原子のイオンを生成可能な金属源とを硫酸触媒下で反応させる反応工程を備えていることを特徴とする。
(a) 前記モノホスホン酸又はその誘導体、及び前記金属源の配合比は、ホスホン酸基又はその誘導体中に含まれるP量に対する中心原子(M)のモル比(M/P比)が1/3<M/P<1.0となる配合比である。
この場合、前記モノホスホン酸又はその誘導体は、さらに以下の条件(b)及び/又は(c)を備えているものが好ましい。
(b) 前記モノホスホン酸又はその誘導体の配合比は、前記非架橋型層状ホスホン酸金属化合物を構成するモノホスホン酸成分の置換基の平均分子断面積が、2次元層状構造の表面ホスホン酸基1個が占める自由面積の7割以下となる配合比である。
(c) 前記モノホスホン酸又はその誘導体の少なくとも1つは、スルホン酸基又はスルホン酸基に変換可能な基を持つ。
また、前記反応工程は、
前記モノホスホン酸又はその誘導体の内の少なくとも1つであって、前記スルホン酸基又は前記スルホン酸基に変換可能な基を有するものが硫酸水溶液又は硫酸水溶液と有機溶媒の混合溶液に溶解又は分散している貯蔵液に、
(1) 前記金属源、及び、
(2) 前記モノホスホン酸又はその誘導体の内の残りの成分
を加えて反応させるものが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
金属源、及びモノホスホン酸又はその誘導体を用いて非架橋型層状ホスホン酸金属化合物を合成する場合において、触媒として硫酸を用いると、以下のような効果が得られる。
(1) 層構造の結晶性が向上する。
(2) 多種類のホスホン酸であっても、層構造中に均一に導入することができる。また、仕込み組成を反映した共重合組成が容易に得られる。
(3) 2種以上のモノホスホン酸成分に対しても容易にスルホン酸基を導入することができる。
(4) 出発原料としてスルホン酸基又はスルホン酸基に変換可能な基を有するホスホン酸又はその誘導体を用いると、後スルホン化反応が不要となるので、後スルホン化反応に対して不安定な置換基が失われるおそれが少ない。
(5) 触媒としてHFを使う必要がないので、金属原子と結合したフッ素を含まない非架橋型層状ホスホン酸金属化合物が得られる。
(6) 合成に際してスルホン化有機ホスホン酸の貯蔵液を用いると、単離の必要がないだけでなく、合成に使用するモノホスホン酸の種類に制限がなくなるので、従来の方法では製造困難であったあらゆる組成の非架橋型層状ホスホン酸金属化合物のスルホン化物を合成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】フェニルホスホン酸ジルコニウムのXRDパターンである。(a)ZrP−818、(b)ZrP−839、(c)ZrP−840、(d)ZrP−841
【図2】メチルホスホン酸ジルコニウムのXRDパターンである。(a)ZrP−838、(b)ZrP−854
【図3】フェニルホスホン酸ジルコニウムのスルホン化処理前後のIRスペクトル変化である。
【図4】フェニル基系の単独重合体/共重合体の13C−NMRスペクトルである。{Zr(O3P-C64-SO3H)2x(O3P-Ph)2-2x}: a)ZrP855(比較試料:x=0%); b)ZrP823(PS-法:x=100%); c)ZrP863(2M-法:x=100%); d)ZrP869(2M-法:x=50%)
【図5】フェニルホスホン酸ジルコニウムとそのスルホン化物のXRDパターンである。
【図6】フェニル基及び/又はスルホフェニル基を有する層状ホスホン酸ジルコニウムの31PMAS−NMRスペクトルである。
【図7】置換基Rを有するスルホフェニルホスホン酸ジルコニウム2成分系共重合体の構造モデルと構造式である。
【図8】(非スルホン化)フェニル−/メチル−ホスホン酸ジルコニウム共重合体のXRDパターンである。
【図9】後スルホン化で合成したスルホン化フェニル−/メチル−ホスホン酸ジルコニウム共重合体のXRDパターンである。
【図10】スルホン化貯蔵液で合成したスルホン化フェニル−/メチル−ホスホン酸ジルコニウム共重合体のXRDパターンである。
【図11】フェニル−/メチル−ホスホン酸ジルコニウムの構造モデルである。
【図12】メチル基を有するフェニルホスホン酸ジルコニウム共重合体及びそのスルホン化物の13CMAS−NMRスペクトルである。ZP969:Zr{(O3P-C65)1.3(O3P-CH3)0.7}、ZP972:Zr{(O3P-C64-SO3H)1.3(O3P-CH3)0.7}(後スルホン化で合成)、ZP978:Zr{(O3P-C64-SO3H)1.0(O3P-CH3)1.0}(スルホン化貯蔵液で合成)
【図13】非スルホン化物のフェニルホスホン酸ジルコニウム共重合体の31PMAS−NMRスペクトルである。
【図14】後スルホン化で合成したスルホフェニルホスホン酸ジルコニウム共重合体の31PMAS−NMRスペクトルである。
【図15】スルホン化貯蔵液で合成したスルホフェニルホスホン酸ジルコニウム共重合体の31PMAS−NMRスペクトルである。
【図16】非スルホン化フェニルホスホン酸共重合体のXRDパターンである。
【図17】後スルホン化で合成したスルホン化フェニルホスホン酸共重合体のXRDパターンである。
【図18】スルホン化貯蔵液で合成したスルホン化フェニルホスホン酸共重合体のXRDパターンである。
【図19】水酸基を有するフェニルホスホン酸ジルコニウムのステージ化合物の構造モデルである。
【図20】非スルホン化物のフェニルホスホン酸ジルコニウム共重合体の31PMAS−NMRスペクトルである。
【図21】後スルホン化で合成したスルホフェニルホスホン酸ジルコニウム共重合体の31PMAS−NMRスペクトルである。
【図22】スルホン化貯蔵液で合成したスルホフェニルホスホン酸ジルコニウム共重合体の31PMAS−NMRスペクトルである。
【図23】スルホン化貯蔵液で合成したオクチル基を有するスルホフェニルホスホン酸ジルコニウム共重合体のa)XRDパターン、b)13CMAS−NMRスペクトル、c)31PMAS−NMRスペクトルである。
【図24】種々の置換基を有するスルホフェニルホスホン酸ジルコニウム共重合体とPTFE(20wt%)の複合体のプロトン伝導度(65℃)の相対湿度依存性を示す図である。
【図25】4−ホスホン酸ジフェニルエーテルの各種溶液NMRスペクトル((a)1H NMR、(b)13C NMR、(c)31P NMR)である。
【図26】水素基を有するジフェニルエーテルホスホン酸ジルコニウム共重合体のXRDパターン((a)ZP1685、(b)ZP1687)である。
【図27】水素基を有するジフェニルエーテルホスホン酸ジルコニウム共重合体の31P MAS−NMRスペクトル(DD=デカップリング、数値=ピーク面積比)と、構造式((a)ZP1685、(b)ZP1687)である(X=スピニング サイド バンド)。
【図28】水素基を有するジフェニルエーテルホスホン酸ジルコニウム共重合体の13C MAS−NMRスペクトル((a)ZP1685、(b)ZP1687)である。
【図29】スルホジフルオロメチルホスホン酸の合成反応式である。
【図30】スルホジフルオロメチレンホスホン酸(5)の19F NMRスペクトルである(0ppm=外部標準)。
【図31】スルホフェニル−/スルホジフルオロメチル−ホスホン酸ジルコニウム共重合体(ZP1683)のXRDパターンである。
【図32】スルホフェニル−/スルホジフルオロメチル−ホスホン酸ジルコニウム共重合体の(a)31P MAS−NMRスペクトル(DD=デカップリング、数値=ピーク面積比)と、(b)13C MAS−NMRスペクトルである(X=スピニング サイド バンド)。
【図33】水素基を有するスルホフェニル−/スルホジフルオロメチル−ホスホン酸ジルコニウム共重合体(ZP1717)のXRDパターンである。
【図34】水素基を有するスルホフェニル−/スルホジフルオロメチル−ホスホン酸ジルコニウム共重合体の(a)31P MAS−NMRスペクトル(DD=デカップリング、数値=ピーク面積比)と、(b)13C MAS−NMRスペクトルである(X=スピニング サイド バンド)。
【図35】TiP1217の(a)XRDパターンと、(b)IRスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
初めに、本発明に係る非架橋型層状ホスホン酸金属化合物について説明する。
本発明の第1の実施の形態に係る非架橋型層状ホスホン酸金属化合物は、ホスホン酸成分を2種以上含み、そのうちの1種のみがスルホン酸基又はスルホン酸基に変換可能な基を持つものであり、具体的には、以下の条件(a)〜(d)を備えていることを特徴とする。
【0023】
[1. 第1の実施の形態に係る非架橋型層状ホスホン酸金属化合物の構成]
[1.1. 条件(a)]
本発明に係る非架橋型層状ホスホン酸金属化合物は、中心原子(M)が6配位金属原子である金属酸化物八面体とホスホン酸の四面体が酸素原子を共有することで繋がった2次元層状構造を持つ。
一般に、「有機ホスホン酸」とは、5価のPに結合しているOが3個である有機酸化合物をいい、「有機リン酸」とは、5価のPに結合しているOが4個である有機酸化合物をいう。本発明において、「非架橋型層状ホスホン酸金属化合物」というときは、後述するモノホスホン酸成分の一部が無機リン酸由来の成分であるものを含む。
【0024】
本発明に係る非架橋型層状ホスホン酸金属化合物は、八面体と四面体とが結合してなる層構造に含まれる四面体の全部又は一部が、後述するモノホスホン酸成分に置き換わったものである。
八面体の中心原子(M)となる6配位金属原子としては、具体的には、Zr(IVa)、Ti(IVa)、Hf(IVa)、Th(IVa)、Si(IVb)、Ge(IVb)、Sn(IVb)、Pb(IVb)、Cu(Ib)、Zn(IIb)、Al(IIIb)、Ga(IIIb)、Nb(Va)、Fe(VIII)、Co(VIII)、La(La)、Ce(La)、Mo(VIa)、W(VIa)、Mn(VIIa)などがある。層構造に含まれる八面体は、これらのいずれか1種の6配位金属原子を含むものでも良く、あるいは、2種以上の6配位金属原子を含んでいても良い。また、2種以上の6配位金属原子を含む場合、同一の層内の八面体に2種以上の6配位金属原子が含まれていても良く、あるいは、異なる層内の八面体にそれぞれ異なる6配位金属原子が含まれていても良い。
また、八面体の中心原子(M)が、4価の原子価を採れる6配位金属原子である場合には、非架橋型層状ホスホン酸金属化合物は、α−型又はγ−型の層構造をとることができる。4価の原子価を採れる6配位金属原子としては、具体的には、Zr(IVa)、Ti(IVa)、Hf(IVa)、Th(IVa)、Si(IVb)、Ge(IVb)、Sn(IVb)、Pb(IVb)、Ce(La)、Mo(VIa)、W(VIa)、Mn(VIIa)などがある。
【0025】
後述するように、硫酸を触媒として用いると、結晶性の高い非架橋型層状ホスホン酸金属化合物が得られる。結晶性の程度は、層構造の大きさに比例するものであり、それはCuKαをX線源とするX線粉末回折パターン測定で得られるd(001)ピークの半値幅(°)に反比例することがシェーラー式により示されている。
加水分解に対する耐久性を向上させるためには、結晶性は、d(001)ピークの半値幅が7°以下が好ましく、さらに好ましくは、3°以下である。
【0026】
[1.2. 条件(b)]
非架橋型層状ホスホン酸金属化合物は、2種以上のモノホスホン酸成分を含む。
「モノホスホン酸成分」とは、1つの−PO3基を有するものをいう。モノホスホン酸成分は、−PO3基のP原子が直接又はO原子を介して有機基と結合しているもの(有機モノホスホン酸成分、有機リン酸成分)であっても良く、あるいは、P原子が有機基以外の基(例えば、−H、−OHなど)と結合しているもの(無機ホスホン酸成分、無機リン酸成分)でも良い。すなわち、本発明において「モノホスホン酸成分」というときは、リン酸結合を有するものも含まれる。
【0027】
モノホスホン酸成分の第1の具体例は、次の(A)式で表されるものからなる。
(−O)3P−(O)x−Z1−(A1)r ・・・(A)
(A)式中、Z1は、少なくとも1つのベンゼン環を持つ(1+r)価の有機基、又は、アルキレン鎖を表す。
1は、スルホン酸基、スルホン酸基に変換可能な基、又は、スルホン酸基若しくはスルホン酸基に変換可能な基を持つ脂肪族基を表す。
「スルホン酸基に変換可能な基」とは、層状化合物の層構造を壊さない程度の穏やかな反応(例えば、加水分解など)により、スルホン酸基にすることが可能な基をいう。スルホン酸基に変換可能な基としては、具体的には、−Hal(Hal:ハロゲン)、−SH、−S−R’(−R’:−CH3、又は、−C25)、−SO2Clなどがある。
xは、0又は1である。
rは、Z1が(1+r)価の有機基であるときは、「0」から「(Z1中のベンゼン環の数)×2」までの整数を表す。一方、Z1がアルキレン鎖であるときは、rは、1〜mまでの整数(mは、アルキレン鎖の炭素数)を表す。
【0028】
1を構成する(1+r')価の有機基、及び、アルキレン鎖は、それぞれ、次の(A.1)式及び(A.2)式で表されるものが好ましい。
【0029】
【化1】

【0030】
(A.1)式中、Ar1は単環又は多環の芳香族基を表す。多環の芳香族基としては、
(1) 複数のベンゼン環が単結合によりつながったもの、
(2) 複数のベンゼン環が2価の基を介してつながったもの、
(3) 縮合環(アセン類)、
(4) (1)〜(3)の組み合わせ、
などがある。
Ar1は、特に、次の(A.1.1)〜(A.1.3)式で表されるものが好ましい。
【0031】
【化2】

【0032】
モノホスホン酸成分の第2の具体例は、次の(B)式で表されるものからなる。
(−O)3P−(O)x'−Z2−(A2)r' ・・・(B)
(B)式で表されるモノホスホン酸成分は、(A)式で表されるモノホスホン酸成分と同一の組成式を有している。但し、後述する非架橋型層状ホスホン酸金属化合物の組成式において、(A)式で表されるモノホスホン酸成分と(B)式で表されるモノホスホン酸成分の双方が含まれるときには、(A)式で表されるモノホスホン酸成分と、(B)式で表されるモノホスホン酸成分は、組成の異なるモノホスホン酸成分を表す。
(B)式中のZ2、A2、r’、及びx’は、それぞれ、(A)式中のZ1、A1、r、及びxと同一の内容を表すので、説明を省略する。
【0033】
モノホスホン酸成分の第3の具体例は、次の(C)式で表されるものからなる。
(−O)3P−Y1 ・・・(C)
(C)式中、−Y1は、フルオロアルキレン鎖に置換基が結合したものからなる。−Y1は、特に、次の(C.1)式で表されるものが好ましい。
−(CF2)q−W (q=1〜3) ・・・(C.1)
−Wは、具体的には、−SO3H、−Hal、−SH、−S−R’(R’:−CH3、又は、−C25)、−SO2Cl、−OH、−CN、−CO2Hなどが好ましい。
【0034】
モノホスホン酸成分の第4の具体例は、次の(D)式で表されるものからなる。
(−O)3P−Y2 ・・・(D)
(D)式中、−Y2は、スルホン酸基又はスルホン酸基に変換可能な基を持たない置換基を表す。−Y2は、有機基であっても良く、あるいは、有機基以外の基であっても良い。
−Yを構成する小サイズ置換基としては、−H、−OH、−Cγ2γ+1 (1≦γ≦16)などがある。
【0035】
モノホスホン酸成分は、P−O−M結合を介して6配位金属原子と結合している。層状ホスホン酸金属化合物において、ホスホン酸四面体は、四面体の頂点が層平面の外側を向くように、P−O−M結合を介して6配位金属原子と結合している。この層構造は、金属酸化物の中心原子(M)が6配位金属原子であれば形成されるが、特に、4価の原子価を採れる6配位金属原子である場合には、α−型又はγ−型の構造となることが知られている。
この点は、本発明に係る非架橋型層状ホスホン酸金属化合物も同様であり、モノホスホン酸成分の末端にある四面体の底面は、八面体が並ぶ平面の方に向いている。すなわち、モノホスホン酸成分の末端には、それぞれ、合計3個の酸素原子がある。
α−型の層構造を有する非架橋型層状ホスホン酸金属化合物では、モノホスホン酸成分は、3個のP−O−M結合を介して6配位金属原子と結合している状態(すなわち、3個の酸素原子すべてが異なる八面体と共有されている状態)でも良く、あるいは、1個又は2個のP−O−M結合を介して6配位金属原子と結合している状態(すなわち、1個又は2個の酸素原子が異なる八面体と共有されている状態)でも良い。P−O−M結合に関与しない酸素原子は、Hなどの他の置換基と結合していても良く、あるいは、二重結合を介してPに結合していても良い。
γ−型の層構造を有する非架橋型層状ホスホン酸金属化合物についても、モノホスホン酸成分と八面体の結合の仕方は同じ状況だが、α−型に比べて、P−O−M結合の数がそれぞれ1個ずつ少なくなる。
α−型及びγ−型は、それぞれ、原料の種類、その仕込み組成、及び反応条件の制御によって作り分けることができる。
【0036】
本発明に係る非架橋型層状ホスホン酸金属化合物は、2種類のモノホスホン酸成分が含まれていても良く、あるいは、3種以上が含まれていても良い。また、各モノホスホン酸成分の長さは、同一であっても良く、あるいは、互いに異なっていてもよい。
【0037】
[1.3. 条件(c)]
本実施の形態に係る非架橋型層状ホスホン酸金属化合物において、モノホスホン酸成分のいずれか1種は、スルホン酸基又はスルホン酸基に変換可能な基を持つ。残りのモノホスホン酸成分は、スルホン酸基又はスルホン酸基に変換可能な基を持たない。
なお、モノホスホン酸成分がベンゼン環を持つ場合、反応条件を制御することによって、それぞれ、1分子当たり最大で「ベンゼン環の数×2」に相当する数のスルホン酸基又はスルホン酸基に変換可能な基を持つことができる。
【0038】
[1.4. 条件(d)]
非架橋型層状ホスホン酸金属化合物は、中心原子(M)と結合しているフッ素原子を含まない。
層状ホスホン酸金属化合物を合成する場合において、HFを触媒として用いると、F原子の一部が金属酸化物八面体の中心原子(M)と結合する。これに対し、本発明に係る非架橋型層状ホスホン酸金属化合物は、後述するように、硫酸触媒下で合成されるので、実質的に中心原子(M)と結合しているF原子を含まない。
【0039】
本発明に係る非架橋型層状ホスホン酸金属化合物は、さらに以下の条件を備えているものが好ましい。
[1.5. 条件(e)]
非架橋型層状ホスホン酸金属化合物に含まれるモノホスホン酸成分の置換基の平均分子断面積は、2次元層状構造の表面ホスホン酸基1個が占める自由面積の7割以下である。
この自由面積は、6配位金属原子の種類と結晶構造によって決まるが、格子定数から実験的に求められる。幾つかの6配位金属原子のα−型とγ−型の層構造について、自由面積が求められている("Intercalation Chemistry" Ed. by M.Stanley, Whittingam, Allan, J.Jacobson, Academic Press 1982, p.152; G.Alberti, et al., Adb.Mater., 1996, 8, 291)。α−型:Zr(24Å2(24×10-2nm2))、Ti(21.6Å2(21.6×10-2nm2))、Sn(21.4Å2(21.4×10-2nm2))、Hf(23.7Å2(23.7×10-2nm2))、Pb(21.5Å2(21.5×10-2nm2))であり、γ−型:Zr(35.7Å2(35.7×10-22))、Ti(33.0Å2(33.0×10-2nm2))と報告されている。
ここで、「置換基」とは、Pを中心原子とする四面体の頂点に結合している基をいう。「分子断面積」とは、置換基の最も大きな部分を四面体の底面に対して垂直方向から見たときの断面積をいう。「平均分子断面積」とは、層の表面に結合しているモノホスホン酸成分の各分子断面積(Si)とそのモル分率(Ni)との積の総和(ΣSi×Ni)をいう。
【0040】
平均分子断面積が自由面積の7割を超えると、置換基の立体障害が大きくなり、結晶性の高い2次元層状構造を維持することができにくくなる。
分子断面積は、市販のソフト(例えば、”Chem3D(登録商標)”)で描いたCPKモデルから算出することができる。例えば、モノホスホン酸成分のフェニル基は、14.6Å2(14.6×10-2nm2)であり、スルホフェニル基は、17.2Å2(17.2×10-2nm2)であり、かつ水素基の分子断面積は、4.1Å2(4.1×10-2nm2)である。一方、α−型の架橋型層状ホスホン酸ジルコニウムの自由面積は、24Å2(24×10-2nm2)である。
スルホフェニルホスホン酸の単独重合物であるZr(O3P−Ph−SO3H)2は、どんな触媒を用いても結晶性が低いα−型の層状化合物しか合成できない実験事実が知られている。これは、層構造の安定性が低い物である。この場合に、モノホスホン酸成分の置換基であるスルホフェニル基の分子断面積が上記自由面積の7割の大きさを超えたために、その立体障害の影響が現れたと推察できる。
一方、スルホフェニル基とフェニル基を有する2つのモノホスホン酸成分を1:1モル比で有するα−型の層状ジルコニウム化合物は、平面分子断面積(15.9Å2(15.9×10-2nm2))≦自由面積の7割(=16.8Å2(16.8×10-2nm2))となる。そのために、層構造が安定化し、結晶性の高い層状ホスホン酸ジルコニウム化合物が得られる。
【0041】
[2. 第1の実施の形態に係る非架橋型層状ホスホン酸金属化合物の具体例]
[2.1. 第1の具体例]
本実施の形態に係る非架橋型層状ホスホン酸金属化合物の第1の具体例は、α−型の層構造及び次の(1)式で表される組成を有するものからなる。(1)式で表される非架橋型層状ホスホン酸金属化合物は、スルホン酸基又はスルホン酸基に変換可能な基を持つ芳香族系の置換基(大サイズ置換基)を備えた第1モノホスホン酸成分(O3P−(O)x−Z1−(A1)r)を必須の成分として含む(a>0、r≧1)。また、小サイズ置換基を備えた第2モノホスホン酸成分(O3P−(O)x'−Z2−(A2)r')、第3モノホスホン酸成分(O3P−Y1)、及び、第4モノホスホン酸成分(O3P−Y2)のいずれか1以上を必須の成分として含む(0<b+c+d)。
なお、(1)式中、−Z2−は、(1+r’)価の有機基、又はアルキレン鎖のいずれであっても良いことを意味する。また、(1)式中、−Z1−及び−Z2−の詳細は上述した通りであるので、説明を省略する。
【0042】
【化3】

【0043】
(1)式の中でも、第1モノホスホン酸成分が、スルホフェニルホスホン酸、又は、スルホン化ジフェニルエーテル(モノ)ホスホン酸からなり、第2モノホスホン酸成分が、フェニルホスホン酸からなり、第4モノホスホン酸成分が、無機ホスホン酸、リン酸、又は、メチルホスホン酸からなる化合物(第3モノホスホン酸成分:なし)が好ましい。
【0044】
[2.2. 第2の具体例]
本実施の形態に係る非架橋型層状ホスホン酸金属化合物の第2の具体例は、α−型の層構造及び次の(2)式で表される組成を有するものからなる。(2)式で表される非架橋型層状ホスホン酸金属化合物は、スルホン酸基又はスルホン酸基に変換可能な基を持つ脂肪族系の置換基(小サイズ置換基)を備えた第1モノホスホン酸成分(O3P−(O)x−Z1−(A1)r)を必須の成分として含む(a>0、r≧1)。また、小サイズ置換基を備えた第2モノホスホン酸成分(O3P−(O)x'−Z2−(A2)r')、第3モノホスホン酸成分(O3P−Y1)、及び、第4モノホスホン酸成分(O3P−Y2)のいずれか1以上を必須の成分として含む(0<b+c+d)。
なお、(2)式中、−Z2−は、(1+r’)価の有機基、又はアルキレン鎖のいずれであっても良いことを意味する。また、(2)式中、−Z2−の詳細は上述した通りであるので、説明を省略する。
【0045】
【化4】

【0046】
(2)式の中でも、第1モノホスホン酸成分が、3−スルホプロピレンホスホン酸からなり、第2モノホスホン酸成分が、フェニルホスホン酸からなり、第4モノホスホン酸成分が無機ホスホン酸、リン酸、又は、メチルホスホン酸からなる化合物(第3モノホスホン酸成分:なし)が好ましい。
【0047】
[2.3. 第3の具体例]
本実施の形態に係る非架橋型層状ホスホン酸金属化合物の第3の具体例は、α−型の層構造及び次の(3)式で表される組成を有するものからなる。(3)式で表される非架橋型層状ホスホン酸金属化合物は、スルホン酸基又はスルホン酸基に変換可能な基を持つフルオロカーボン系の置換基(小サイズ置換基)を備えた第3モノホスホン酸成分(O3P−Y1)を必須の成分として含む(c>0)。また、小サイズ置換基を備えた第1モノホスホン酸成分(O3P−(O)x−Z1−(A1)r)、第2モノホスホン酸成分(O3P−(O)x'−Z2−(A2)r')、及び、第4モノホスホン酸成分(O3P−Y2)のいずれか1以上を必須の成分として含む(0<a+b+d)。
なお、(3)式中、−Z1−及び−Z2−は、それぞれ、独立に(1+r)価又は(1+r’)価の有機基、又はアルキレン鎖のいずれを含んでいても良いことを意味するが、第1モノホスホン酸成分と第2モノホスホン酸成分とは互いに異なる(−(O)x−Z1−(A1)r≠−(O)x'−Z2−(A2)r')。また、(3)式中、−Z1−及び−Z2−の詳細は上述した通りであるので、説明を省略する。
【0048】
【化5】

【0049】
(3)式の中でも、第1モノホスホン酸成分が、スルホジフルオロメチレンホスホン酸からなり、第2モノホスホン酸成分が、フェニルホスホン酸からなり、第4モノホスホン酸成分が、無機ホスホン酸、リン酸、又は、メチルホスホン酸からなる化合物(第3モノホスホン酸成分:なし)が好ましい。
【0050】
次に、本発明の第2の実施の形態に係る非架橋型層状ホスホン酸金属化合物について説明する。
本発明の第2の実施の形態に係る非架橋型層状ホスホン酸金属化合物は、2種以上のホスホン酸成分を含み、そのうちの2種以上がスルホン酸基又はスルホン酸基に変換可能な基を持つものであり、具体的には、以下の条件(a)〜(d)を備えていることを特徴とする。
【0051】
[1. 第2の実施の形態に係る非架橋型層状ホスホン酸金属化合物の構成]
(a) 非架橋型層状ホスホン酸金属化合物は、中心原子(M)が6配位金属原子である金属酸化物八面体とホスホン酸の四面体が酸素を共有することで繋がった2次元層状構造を持つ。
(b) 非架橋型層状ホスホン酸金属化合物は、少なくとも1つのP−O−M結合を介して、層構造中の異なる6配位金属原子と結合する、2種以上のモノホスホン酸成分を含む。
(c) モノホスホン酸成分の少なくとも2種以上は、スルホン酸基又はスルホン酸基に変換可能な基を持ち、残りは持たない。
(d) 非架橋型層状ホスホン酸金属化合物は、中心原子(M)と結合しているフッ素原子を含まない。
本実施の形態に係る非架橋型層状ホスホン酸金属化合物は、さらに以下の条件を満たすものが好ましい。
(e) 非架橋型層状ホスホン酸金属化合物に含まれるモノホスホン酸成分の置換基の平均分子断面積は、2次元層状構造の表面ホスホン酸基1個が占める自由面積の7割以下である。
【0052】
本実施の形態に係る非架橋型層状ホスホン酸金属化合物は、モノホスホン酸成分の2種以上がスルホン酸基又はスルホン酸基に変換可能な基を持つ。この点が、第1の実施の形態と異なる。スルホン酸基又はスルホン酸基に変換可能な基は、すべてのホスホン酸成分に含まれていても良い。この場合、条件(e)をさらに満たしているときには、層構造が安定化し、結晶性の高い非架橋型層状ホスホン酸金属化合物が得られる。
本発明に係る非架橋型層状ホスホン酸金属化合物は、硫酸触媒下で合成されるので、仕込み組成を共重合組成に反映させることができ、構造設計の自由度が高い。そのため、スルホン酸基又はスルホン酸基に変換可能な基の導入箇所に制限はない。
条件(a)〜(e)に関するその他の点については、第1の実施の形態と同様であるので、詳細な説明を省略する。
【0053】
[2. 第2の実施の形態に係る非架橋型層状ホスホン酸金属化合物の具体例]
[2.1. 第1の具体例]
本実施の形態に係る非架橋型層状ホスホン酸金属化合物の第1の具体例は、α−型の層構造及び次の(4)式で表される組成を有するものからなる。(4)式で表される非架橋型層状ホスホン酸金属化合物は、第1モノホスホン酸成分(O3P−(O)x−Z1−(A1)r)を必須の成分として含む(a>0)。また、第2モノホスホン酸成分(O3P−(O)x'−Z2−(A2)r')、第3モノホスホン酸成分(O3P−Y1)、及び、第4モノホスホン酸成分(O3P−Y2)のいずれか1以上を必須の成分として含む(0<b+c+d)。
なお、(4)式中、−Z1−及び−Z2−は、それぞれ、独立に(1+r)価又は(1+r’)価の有機基、又はアルキレン鎖のいずれを含んでいても良いことを意味するが、第1モノホスホン酸成分と第2モノホスホン酸成分とは互いに異なる(−(O)x−Z1−(A1)r≠−(O)x'−Z2−(A2)r')。また、(4)式中、−Z1−及び−Z2−の詳細は上述した通りであるので、説明を省略する。
【0054】
【化6】

【0055】
(4)式の中でも、第1モノホスホン酸成分、第2モノホスホン酸成分、及び第3モノホスホン酸成分のいずれか2以上が、
(1) スルホフェニル基、スルホン化ビフェニル基、スルホン化ジフェニルエーテル基などのスルホン化芳香族基、
(2) スルホプロピル基などのスルホン化脂肪族基、
(3) スルホジフルオロメチル基などのスルホン化(フッ素化)脂肪族基、又は、
(4) スルホフェニルエチル基などのスルホン化芳香族脂肪族基、
を備えたものからなり、残りのモノホスホン酸成分が、立体的にコンパクトな基(例えば、水素基、メチル基、フェニル基など)を備えたものからなる層状化合物が好ましい。
【0056】
[2.2. 第2の具体例]
本実施の形態に係る非架橋型層状ホスホン酸金属化合物の第2の具体例は、α−型の層構造及び次の(4.1)式で表される組成を有するものからなる。(4.1)式で表される非架橋型層状ホスホン酸金属化合物は、スルホン酸基又はスルホン酸基に変換可能な基を持つ芳香族系の置換基(大サイズ置換基)を備えた第1モノホスホン酸成分(O3P−(O)x−Z1−(A1)r)及び第2モノホスホン酸成分(O3P−(O)x'−Z2−(A2)r')を必須の成分として含む(a>0、r≧1、b>0、r’≧1)。
また、第1モノホスホン酸成分及び第2モノホスホン酸成分の立体障害を緩和するために、小サイズ置換基を備えた第3モノホスホン酸成分(O3P−Y1)、及び、第4モノホスホン酸成分(O3P−Y2)のいずれか1以上を必須の成分として含む(0<c+d)。
なお、(4.1)式中、第1モノホスホン酸成分と第2モノホスホン酸成分とは互いに異なる(−(O)x−Z1−(A1)r≠−(O)x'−Z2−(A2)r')。また、(4.1)式中、−Z1−及び−Z2−の詳細は上述した通りであるので、説明を省略する。
【0057】
【化7】

【0058】
(4.1)式の中でも、第1モノホスホン酸成分が、スルホフェニルホスホン酸からなり、第2モノホスホン酸成分が、スルホン化ジフェニルエーテル(モノ)ホスホン酸からなり、第4モノホスホン酸成分が、無機ホスホン酸、リン酸、又は、メチルホスホン酸からなる化合物(第3モノホスホン酸成分:なし)が好ましい。
【0059】
[2.3. 第3の具体例]
本実施の形態に係る非架橋型層状ホスホン酸金属化合物の第3の具体例は、α−型の層構造及び次の(4.2)式で表される組成を有するものからなる。(4.2)式で表される非架橋型層状ホスホン酸金属化合物は、スルホン酸基又はスルホン酸基に変換可能な基を持つ芳香族系の置換基(大サイズ置換基)を備えた第1モノホスホン酸成分(O3P−(O)x−Z1−(A1)r)を必須の成分として含む(a>0、r≧1)。また、スルホン酸基又はスルホン酸基に変換可能な基を備えた小サイズ置換基を持つことが可能な第2モノホスホン酸成分(O3P−(O)x'−Z2−(A2)r')、及び、第3モノホスホン酸成分(O3P−Y1)のいずれか1以上を必須の成分として含む(0<b+c)。第4モノホスホン酸成分(O3P−Y2)は、任意成分である。
なお、(4.2)式中、−Z2−は、(1+r’)価の有機基、又はアルキレン鎖のいずれを含んでいても良いことを意味する。また、(4.2)式中、−Z1−及び−Z2−の詳細は上述した通りであるので、説明を省略する。
【0060】
【化8】

【0061】
(4.2)式の中でも、第1モノホスホン酸成分が、スルホフェニルホスホン酸、又は、スルホン化ジフェニルエーテル(モノ)ホスホン酸からなり、第3モノホスホン酸成分が、スルホジフルオロメチレンホスホン酸からなり、第4モノホスホン酸成分が、無機ホスホン酸、リン酸、又は、メチルホスホン酸からなる化合物(第2モノホスホン酸成分:なし)が好ましい。
【0062】
[2.4. 第4の具体例]
本実施の形態に係る非架橋型層状ホスホン酸金属化合物の第4の具体例は、α−型の層構造及び次の(4.3)式で表される組成を有するものからなる。(4.3)式で表される非架橋型層状ホスホン酸金属化合物は、スルホン酸基又はスルホン酸基に変換可能な基を持つ脂肪族系の置換基(小サイズ置換基)を備えた第1モノホスホン酸成分(O3P−(O)x−Z1−(A1)r)を必須の成分として含む(a>0、r≧1)。また、スルホン酸基又はスルホン酸基に変換可能な基を備えた小サイズ置換基を持つことが可能な第2モノホスホン酸成分(O3P−(O)x'−Z2−(A2)r')、及び、第3モノホスホン酸成分(O3P−Y1)のいずれか1以上を必須の成分として含む(0<b+c)。第4モノホスホン酸成分(O3P−Y2)は、任意成分である。
なお、(4.3)式中、−Z2−は、(1+r’)価の有機基、又はアルキレン鎖のいずれを含んでいても良いことを意味するが、第1モノホスホン酸成分と第2モノホスホン酸成分とは互いに異なる(−(O)x−Z1−(A1)r≠−(O)x'−Z2−(A2)r')。また、(4.2)式中、−Z2−の詳細は上述した通りであるので、説明を省略する。
【0063】
【化9】

【0064】
(4.3)式の中でも、第1モノホスホン酸成分が、3−スルホプロピレンホスホン酸からなり、第2モノホスホン酸成分が、スルホフェニルホスホン酸、又は、スルホン化ジフェニルエーテル(モノ)ホスホン酸からなり、第3モノホスホン酸成分が、なし又はスルホジフルオロメチレンホスホン酸からなり、第4モノホスホン酸成分が、無機ホスホン酸、リン酸、又は、メチルホスホン酸からなる化合物が好ましい。
【0065】
次に、本発明に係る非架橋型層状ホスホン酸金属化合物の製造方法について説明する。
本発明に係る非架橋型層状ホスホン酸金属化合物の製造方法は、2種以上のモノホスホン酸又はその誘導体と、金属源とを硫酸触媒下で反応させる反応工程を備えている。
【0066】
[1. モノホスホン酸及びその誘導体]
「モノホスホン酸」とは、1つのホスホン酸基(−PO(OH)2)を有するものをいう。モノホスホン酸は、ホスホン酸基のP原子が直接又はO原子を介して有機基と結合しているもの(有機モノホスホン酸、有機リン酸)であっても良く、あるいは、P原子が有機基以外の基(例えば、−H、−OHなど)と結合しているもの(無機ホスホン酸、無機リン酸)でも良い。すなわち、本発明において、「モノホスホン酸」というときは、リン酸結合を有するものも含まれる。「モノホスホン酸の誘導体」とは、ホスホン酸基のH原子の全部又は一部が他の置換基に置換されているものをいう。有機基及び置換基の種類は、特に限定されるものではなく、目的に応じて任意に選択することができる。
【0067】
モノホスホン酸又はその誘導体としては、具体的には、次の(a)式〜(d)式で表されるものが好ましい。
なお、(a)〜(d)式において、ホスホン酸基(−PO(OH)2)中の2個のHは、それぞれ、独立に、Cat又は−X1〜−X4に置換されていても良いことを意味する。また、(a)式で表されるモノホスホン酸と(b)式で表されるモノホスホン酸とは、同一の組成式で表されるが、双方を出発原料に用いるときには、互いに異なるモノホスホン酸を表す。(a)式〜(d)式中、使用した各符号の意味の詳細は上述した通りであるので、説明を省略する。
【0068】
【化10】

【0069】
【化11】

【0070】
【化12】

【0071】
【化13】

【0072】
出発原料には、2種類のモノホスホン酸又はその誘導体を用いても良く、あるいは、3種以上を用いても良い。また、各モノホスホン酸又はその誘導体の長さは、同一であっても良く、あるいは、互いに異なっていても良い。
【0073】
[2. 金属源]
「金属源」とは、反応時に金属酸化物八面体の中心原子(M)となる6配位金属原子のイオンを生成可能な化合物をいう。
金属源としては、具体的には、
(1) ZrOCl2・8H2O、TiOCl2・nH2O、HfOCl2などのオキシ塩化物、
(2) Zr(SO4)2、Ti(SO4)2、Hf(SO4)2などの硫酸塩、
(3) Zr(OCOCH3)4、Cu(OCOCH3)2、Pb(OCOCH3)4などの酢酸塩、
(4) Zr(OPr)4、Ti(OPr)4などのアルコキシド、
(5) ZrCl4、TiCl4、HfCl4、WCl4、MoCl4、CeCl4、CuCl2、AlCl3、SnCl4、PbCl4などの塩化物、
(6) Zr(NO3)4、Ti(NO3)4、Al(NO3)3などの硝酸塩、
(7) TiOSO4・nH2Oなどのオキシ硫酸化物、
などがある。これらは、それぞれ単独で用いても良く、あるいは、2種以上を組み合わせて用いても良い。
金属源の種類は、層状化合物の結晶性や粒子サイズに影響を与える場合がある。例えば、Zrの場合、金属源の種類に応じて層状化合物の結晶性に差がある。層状化合物の結晶性の程度は、Zr(OCOCH3)4>Zr(OPr)4>Zr(SO4)2>ZrOCl2・8H2Oの順となる。
【0074】
[3. 出発原料の条件]
出発原料には、以下の条件を満たすものを用いる。
[3.1 条件(a)]
モノホスホン酸又はその誘導体、及び金属源の配合比は、モノホスホン酸基又はその誘導体中に含まれるP量に対する中心原子(M)のモル比(M/P比)が1/3<M/P<1.0となる配合比である。
層状ホスホン酸金属化合物のM/P比は、理想的には1/2となる。しかしながら、合成条件によっては、四面体の一部が欠損したり、あるいは、金属酸化物八面体の一部が欠損する場合もある。従って、M/P比は、1/2から多少ずれていても良い。
但し、M/P比のずれが大きくなりすぎると、結晶性の高い層状構造を維持するのが困難となる。従って、M/P比は、1/3<M/P<1.0が好ましい。
【0075】
出発原料には、以下の条件(b)及び/又は(c)をさらに満たすものを用いるのが好ましい。
[3.2 条件(b)]
モノホスホン酸又はその誘導体の配合比は、非架橋型層状ホスホン酸金属化合物を構成するモノホスホン酸成分の置換基の平均分子断面積が、2次元層状構造の表面ホスホン酸基1個が占める自由面積の7割以下となる配合比である。
「非架橋型層状ホスホン酸金属化合物を構成するモノホスホン酸成分」とは、例えば、スルホン酸基を持たない層状化合物を合成後に、後スルホン化法によりスルホン酸基を導入する場合には、スルホン酸基が導入された後のモノホスホン酸成分を表す。
本発明においては、硫酸を触媒としているので、仕込み組成がそのまま共重合組成に反映される。従って、M/P比に加えて、出発原料(又は、層状化合物の合成後に後処理をする場合には、後処理後のモノホスホン酸成分)の平均分子断面積が自由面積の7割以下となるように出発原料の配合比を最適化すれば、これらが均一に層表面に導入されるので、立体障害によって結晶性が低下するおそれが少ない。
【0076】
[3.3 条件(c)]
モノホスホン酸又はその誘導体の少なくとも1つは、スルホン酸基又はスルホン酸基に変換可能な基を持つ。
本発明に係る非架橋型層状ホスホン酸金属化合物の一部は、後スルホン化法によっても製造することができる。しかしながら、後スルホン化法では、スルホン化の際に不安定な基が失われる場合がある。これに対し、予めスルホン酸基又はスルホン酸基に変換可能な基を持つモノホスホン酸を出発原料に用いると、スルホン化に対して不安定な基を持つ非架橋型層状ホスホン酸金属化合物を合成することができる。
上述した条件(a)を満たす限りにおいて、スルホン酸基又はスルホン酸基に変換可能な基は、2種以上の出発原料に含まれていても良く、あるいは、すべての出発原料に含まれていても良い。また、結晶性の高い層状化合物を得るためには、さらに条件(b)を満たしていることが好ましい。
【0077】
[4. 硫酸触媒]
本発明においては、触媒として硫酸を用いる。この点が、従来の方法とは異なる。合成の際には、単離されたモノホスホン酸又はその誘導体に硫酸を加えても良く、あるいは、後述する貯蔵液に含まれる硫酸をそのまま触媒として用いても良い。特に、貯蔵液を用いる方法は、単離操作が不要となるので、合成に使用するモノホスホン酸の種類に制限がなくなり、あらゆる組成の非架橋型層状ホスホン酸金属化合物を合成することが可能となる。
反応液中の硫酸の濃度は、中心原子(M)の種類に応じて最適なものを選択する。例えば、中心原子(M)がZrである場合、硫酸濃度が高くなるほど、結晶性の高い層状化合物が得られる。この場合、硫酸濃度は、具体的には、5N以上が好ましく、さらに好ましくは、9N以上である。
一方、中心原子(M)がTiである場合、硫酸濃度が5N以下であっても、結晶性の高い層状化合物が得られる。
【0078】
なお、硫酸は、層状化合物の合成触媒となるだけでなく、ホスホン酸エステルをホスホン酸に加水分解するための触媒としても機能する。従って、硫酸触媒を用いると、層状化合物を合成するための出発原料としてホスホン酸エステルを用いることも可能となる。すなわち、出発原料として必ずしもホスホン酸を用いる必要がないので、ホスホン酸エステルを加水分解する工程が不要となる。
【0079】
[6. 反応方法]
モノホスホン酸又はその誘導体、及び、金属化合物を所定の比率で配合し、硫酸触媒下でこれらを反応させると、本発明に係る非架橋型層状ホスホン酸金属化合物が得られる。この時、原料液を加熱攪拌しながら反応させると、結晶性の高い層状化合物が得られる。
反応時間は、出発原料の種類や組成、反応温度に応じて、最適な時間を選択する。他の方法を用いた場合、反応時間は、通常、24時間程度である。これに対し、硫酸触媒を用いると、反応時間を5〜1時間に短縮することができる。そのため、小粒子でありながら、層構造の結晶性が高く、しかも仕込み組成が反映された共重合組成を有する多成分の非架橋型層状ホスホン酸金属化合物を合成することができる。
【0080】
反応は、所定の比率で配合された出発原料を、硫酸触媒下で同時に反応させることにより行う。この場合、単離された出発原料の混合物に硫酸を加えても良い。
あるいは、予め貯蔵液を作製し、これに、
(1) 金属源、並びに、
(2) モノホスホン酸又はその誘導体の内の残りの成分、
を加えても良い。
【0081】
「貯蔵液」とは、目的とする非架橋型層状ホスホン酸金属化合物を合成するためのモノホスホン酸又はその誘導体の内の少なくとも1つであって、スルホン酸基又はスルホン酸基に変換可能な基を有するものが硫酸水溶液又は硫酸水溶液と有機溶媒の混合溶液に溶解又は分散しているものをいう。
貯蔵液には、スルホン酸基又はスルホン酸基に変換可能な基を有する1種類のホスホン酸又はその誘導体が含まれていても良く、あるいは、2種以上が含まれていても良い。また、貯蔵液には、スルホン酸基又はスルホン酸基に変換可能な基を有する1種又は2種以上のホスホン酸又はその誘導体に加えて、スルホン酸基又はスルホン酸基に変換可能な基を持たない1種又は2種以上のホスホン酸又はその誘導体が含まれていても良い。
さらに、合成には、1種類の貯蔵液を用いても良く、あるいは、溶解しているホスホン酸又はその誘導体の種類が異なる2種以上の貯蔵液を組み合わせて用いても良い。
【0082】
なお、出発原料として用いるホスホン酸又はその誘導体のいずれかが少なくとも1つのベンゼン環を持つ場合、層状化合物を合成するための出発原料として、スルホン酸基又はスルホン酸基に変換可能な基を持たないホスホン酸又はその誘導体を用いることができる。この場合、硫酸触媒下でスルホン酸基又はスルホン酸基に変換可能な基を持たないホスホン酸又はその誘導体を用いて層状化合物を合成した後、後スルホン化法によりベンゼン環にスルホン酸基又はスルホン酸基に変換可能な基を導入する。
【0083】
次に、本発明に係る貯蔵液について説明する。
本発明に係る貯蔵液は、スルホン酸基又はスルホン酸基に変換可能な基を有するモノホスホン酸及びその誘導体から選ばれるいずれか1種以上が硫酸水溶液又は硫酸水溶液と有機溶媒の混合溶液に溶解又は分散しているものからなる。
貯蔵液には、スルホン酸基又はスルホン酸基に変換可能な基を有する1種類のホスホン酸又はその誘導体が含まれていても良く、あるいは、2種以上が含まれていても良い。また、貯蔵液には、スルホン酸基又はスルホン酸基に変換可能な基を有する1種又は2種以上のホスホン酸又はその誘導体に加えて、スルホン酸基又はスルホン酸基に変換可能な基を持たない1種又は2種以上のホスホン酸又はその誘導体が含まれていても良い。
さらに、貯蔵液は、硫酸水溶液に加えて、DMSO、スルホラン、ジグライムなどの有機溶媒が含まれていても良い。ある種の有機溶媒は、金属源とモノホスホン酸又はその誘導体との反応を促進させる作用がある。
貯蔵液に含まれる硫酸の濃度、有機溶媒の濃度、及びホスホン酸又はその誘導体の濃度は、特に限定されるものではなく、目的に応じて任意に選択することができる。
スルホン酸基に変換可能な基、モノホスホン酸及びその誘導体に関する詳細は、上述した通りであるので、説明を省略する。
【0084】
次に、本発明に係る貯蔵液の製造方法について説明する。
本発明に係る貯蔵液の製造方法は、スルホン化工程と、希釈工程とを備えている。
スルホン化工程は、少なくとも1種のモノホスホン酸又はその誘導体にスルホン化剤を加えてスルホン化する工程である。スルホン化工程は、窒素気流下などの非水条件下で行う必要がある。
スルホン化剤には、濃硫酸、発煙硫酸(H2SO4・nSO3)、無水硫酸(SO3)、クロルスルホン酸(ClSO3H)などを用いることができる。
スルホン化剤と反応させるホスホン酸又はその誘導体は、脂肪族系の化合物でも良いが、分子内に少なくとも1つのベンゼン環を持つものが好ましい。このようなホスホン酸又はその誘導体とスルホン化剤とを反応させると、ベンゼン環に容易にスルホン酸基又はスルホン酸基に変換可能な基を導入することができる。また、反応条件を最適化すると、ベンゼン環に導入されるスルホン酸基又はスルホン酸基に変換可能な基の個数を制御することができる。
【0085】
希釈工程は、スルホン化工程で得られた反応液に水を加えて希釈する工程である。
反応液に水を加えると、過剰のスルホン化剤が硫酸となる。この時に、水の希釈量を調節すると、貯蔵液中の硫酸濃度及びホスホン酸又はその誘導体の濃度を制御することができる。また、必要に応じて、水で希釈した後に、さらにDMSO、スルホラン、ジグライムなどの有機溶媒を加えても良い。
貯蔵液を必要量だけ小分けし、これに必要に応じてさらに水を加えて希釈した後、貯蔵液に金属源、及び、必要に応じて他のホスホン酸若しくはその誘導体(貯蔵液になっているものを含む)を加えて、これらを反応させれば、本発明に係る非架橋型層状ホスホン酸金属化合物が得られる。
【0086】
次に、本発明に係る非架橋型層状ホスホン酸金属化合物及びその製造方法の作用について説明する。
非架橋型層状ホスホン酸金属化合物を合成する場合において、HFを触媒として用いると、結晶性の高い層状化合物が得られる。これは、HFを触媒として用いると、可溶性の反応中間体ZrF6が生成し、ホスホン酸との反応が穏やかに進むためと考えられる。しかしながら、この方法は、多種類のホスホン酸を層構造中に均一に導入することができないという欠点がある。これは、反応中間体ZrF6とホスホン酸との反応性が、ホスホン酸の種類によって異なるためと考えられる。また、HFを触媒に用いると、合成された化合物中にF原子が取り込まれるという欠点がある。
一方、水熱反応やHCl又はHBrを触媒として用いる方法は、多種類のホスホン酸が均一に導入された層状化合物が得られるという利点がある。また、合成された化合物中にF原子が取り込まれることもない。しかしながら、これらの方法で得られる層状化合物の結晶性は、HFを触媒に用いた場合に比べて非常に低いという欠点がある。
【0087】
これに対し、硫酸を触媒として用いると、F原子の取り込みがないだけでなく、結晶性が高く、かつ、仕込み組成を反映した共重合組成が得られる。この反応メカニズムは解明されていないが、おそらく、
(1) 中心原子(M)のイオンがSO42-と水溶性の錯塩を形成し、これがホスホン酸と穏やかに反応するため、及び、
(2) 反応時に種類が異なるホスホン酸が存在していても、F-に比べてSO42-はサイズが大きい陰イオンであるので、中心原子(M)のイオンとホスホン酸との反応性に顕著な差が現れないため、
と考えられる。
【0088】
また、非架橋型層状ホスホン酸金属化合物を合成する場合において、貯蔵液を用いると、
(1) スルホン化有機ホスホン酸の単離が不要となる、
(2) スルホン酸基の導入部位を自由に選択でき、2種以上のモノホスホン酸成分に対しても容易にスルホン酸基を導入することができる、
(3) 貯蔵液は、ホスホン酸をスルホン化した際の副生成物である硫酸を含むものであり、この硫酸を金属源との反応触媒として利用するものである。従って、単離方法が未確立であるホスホン酸成分のスルホン化物を容易に導入できるだけでなく、これとホスホン酸成分の非スルホン化物とを任意の割合で導入することができる。さらには、後スルホン化反応に対して不安定な置換基を有するホスホン酸成分であっても導入することができる、
(4) 貯蔵液の合成条件を制御すると、スルホン化率の異なる種々のモノホスホン酸のスルホン化物(例えば、モノスルホン化したジフェニルエーテル基やジスルホン化したジフェニルエーテル基を持つモノホスホン酸)が得られるので、これらを出発原料に用いることによって、層状化合物のスルホン化率を自由に制御できる、
という効果がある。
【0089】
さらに、多種類のホスホン酸成分を均一に導入するのが容易であるので、従来の方法に比べて材料設計の自由度が高い。
例えば、構造の異なる複数のホスホン酸を出発原料に用いると、層状化合物中のスルホン酸基の配列やこれを取り巻く環境を制御できる。例えば、スルホフェニル基は、大サイズ置換基であるので、層構造中のホスホン酸四面体のすべてをスルホフェニル基を持つホスホン酸成分に置換すと、層状化合物の結晶性が低下する。しかしながら、スルホフェニル基のような大サイズ置換基を持つホスホン酸と、小サイズ置換基(−Y)を持つホスホン酸とを組み合わせて用いると、大サイズ置換基が持つ立体障害を緩和することができるので、層状化合物の結晶性を低下させることなく、スルホン酸基の導入位置を比較的自由に制御することができる。
【0090】
このようにして得られた非架橋型層状ホスホン酸金属化合物は、無機物の二次元層状構造を主鎖とするので、従来の高分子電解質に比べて、過酸化水素に対する耐久性が高い。また、水熱反応やHCl触媒反応で得られたものに比べて結晶性がより高くなるので、加水分解に対する耐久性も高い。さらに、HFを触媒として用いないので、環境問題を招くおそれがあるF原子を取り込むおそれがない。
【実施例】
【0091】
(実施例1)
[フェニルホスホン酸ジルコニウム及びメチルホスホン酸ジルコニウムの合成条件の検討: 濃い硫酸水溶液の触媒反応」
[1. 試料の合成]
フェニルホスホン酸(PPA)とジルコニルクロライド八水和物(ZrOCl2・8H2O)との反応を、3つの方法(表1:(1)−(3))で行い、粗生成物を濾別後に水洗・乾燥して生成物を定量的に得た。合成法(1)では、PPAとZrOCl2・8H2Oを水中で混合して得られたゲルを、濾別して水洗した後に、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)内筒型オートクレーブ中にとり水分散して静置加熱により反応させた。合成法(2)では、冷却管を備えた200mLナスフラスコに両反応物をとり12N HClに分散して100℃に加熱して撹拌することで反応させた。合成法(3)では、分散媒に12N H2SO4を用いて反応させた。
【0092】
【表1】

【0093】
[2. 試料の評価]
生成物のXRDパターンを図1に示す。いずれも明瞭な(00l)反射とプリズム型の(hk)反射及び2.65Å付近のd(020)ピークが認められ、生成物がα−タイプのラメラ(層)構造を有するホスホン酸ジルコニウムであることを示唆する。15Å付近に観測されるd(001)ピークの強度は、(1)の生成物ZP818が最も小さく、(2)の生成物(ZP839,ZP840)では、反応時間が長くなるほど(24h→112h)その強度が大きくなったが、(3)の生成物ZP841では、反応時間が長くなくても(24h)、最大の強度を示した。d(001)ピークの強度の半値幅は層構造の広がりサイズに逆比例するので、この結果は生成物の層構造の結晶性が上がったことを示唆する。即ち12N H2SO4中でホスホン酸(PPA)とジルコニルクロライド八水和物(ZrOCl2・8H2O)とを反応させると、その触媒作用により結晶性が高い層構造の生成物が得られることが判った。
【0094】
(2)の方法ではホスホン酸だけでなくホスホン酸エステルを原料に用いることができることが知られている。メチルホスホン酸ジメチルエステル(MPM)とジルコニルクロライド八水和物(ZrOCl2・8H2O)との反応を、(2)と(3)の方法で同様に100℃で24時間行い、得られた生成物(ZP838, ZP854)のXRDパターンを比較した。図2に示すd(001)ピークの強度の違いから、12N H2SO4中ではホスホン酸エステル(MPM)を原料に用いてもジルコニルクロライド八水和物(ZrOCl2・8H2O)との反応により、結晶性がより高い層構造の生成物が得られることが判った。
以上の結果より、ホスホン酸又はホスホン酸エステルを出発原料に用いて金属(塩)化合物との反応を濃硫酸水溶液中で行うことで、金属原子に結合したフッ素原子を持たないで、結晶性が高い層構造の生成物を得ることができることが判った。
【0095】
(実施例2)
[スルホフェニルホスホン酸ジルコニウム及びフェニル基を有するスルホフェニルホスホン酸ジルコニウム共重合体の合成: スルホフェニル基の立体障害による層構造の不安定化と、フェニル基導入による緩和]
[1. 試料の合成]
二つの方法でスルホフェニルホスホン酸ジルコニウムを合成した。一つは予め合成した層状化合物のフェニルホスホン酸ジルコニウムを後反応でスルホン化する方法であり、もう一つはフェニルホスホン酸をスルホン化した後に12N硫酸の溶液(“貯蔵液”)として、この貯蔵液を用いてZrOCl2・8H2Oとの12N硫酸中での反応を行い、層状化合物のスルホン化物を合成する方法である。そして、この2番目の方法を利用してフェニル基を有するスルホフェニルホスホン酸ジルコニウム共重合体を合成した。
【0096】
(1) 実施例1の合成法(3)と同様にして合成したフェニルホスホン酸ジルコニウム(ZP855)5gを冷却管を備えた100mLナスフラスコにとり25%発煙硫酸25mLを加えて窒素気流下に室温で3日間撹拌して反応させた。反応混合物を、蒸留水100mLからの氷を含むビーカ中へ注ぐことで未反応のSO3を加水分解させて、半透明な分散液を得た。この分散液を水40Lを用いて透析して、含まれる硫酸を除去した。得られた分散液に濃塩酸を約6N濃度となる量で加えて生成物を沈殿させ、この分散液を100℃で1時間撹拌して残留硫酸の除去を行った。遠心分離で固形分を回収して、その水分散液の透析を水20Lを用いて行い、凍結乾燥により生成物ZP823を得た。
【0097】
(2−1) フェニルホスホン酸40gを冷却管を備えた100mLナスフラスコにとり60%発煙硫酸77.3gを加えて窒素気流下に80℃で1日間撹拌して反応させた。反応混合物を、蒸留水60gを凍結させた氷を含むビーカ中へ注ぎ、更に水16gでナスフラスコ内の反応混合物を全て洗い出した。最終的に添加する水の全量を86.0gにすることで、32wt%のスルホフェニルホスホン酸の12N硫酸水溶液を得て、貯蔵液(SPPA−1600)とした。この貯蔵液14.9gを冷却管を備えた100mLナスフラスコにとりZrOCl2・8H2O(4.83g)と12N硫酸水溶液17.5mLを加えて100℃で24時間加熱撹拌して反応させた。反応混合物を水200mLを含むビーカ中へ注ぎ、半透明な分散液を得た。その後処理は上記(1)と同様に行い、凍結乾燥により生成物ZP863を得た。
【0098】
(2−2) 上記貯蔵液(SPPA−1600)7.43g(15mmol)とフェニルホスホン酸2.37g(15mmol)と12N硫酸水溶液21.2mLを冷却管を備えた100mLナスフラスコにとり100℃に加熱撹拌した。その中へZrOCl2・8H2O(4.83g,15mmol)を水4mLに溶かした水溶液を20分間で滴下して加えて、その温度で24時間撹拌して反応させた。反応混合物を水200mLを含むビーカ中へ注ぎ、白濁分散液を得た。固形分を遠心分離で回収した後に、約6N塩酸中加熱処理と透析を上記(1)と同様に行い、凍結乾燥により生成物ZP869を得た。
【0099】
[2. 試料の評価]
生成物のスルホン化はIRスペクトル測定で610cm-1付近に観測される芳香族スルホン酸に由来するνC-Sの吸収の存在で確認した(図3)。また13C MAS−NMR測定(図4)では、約132,128ppmのフェニル基ピークと約142,130ppmのスルホフェニル基ピークによりスルホン化を確認できて、同時に生成物ZP869がスルホフェニル基とフェニル基の両方を有することを確認した。
スルホン酸基定量を中和滴定により行った。約50μeq.のスルホン酸基を有する試料量を密封容器に取り2M NaCl水溶液25mLを加えて室温で一晩撹拌した。この溶液を水20mLで希釈してMetrohm社製自動的定装置“Tinet”により0.05M KOH水溶液を一定速度で滴下して滴定曲線を得た。その微分曲線におけるpH≒4付近で極大を示す値から中和当量を求めた。ZP823とZP863の値は共に3.5meq/gであり仕込み組成と一致した。ZP869の値1.2meg/gは仕込み組成の約6割のスルホン酸量に相当する。
【0100】
XRDパターン(図5)を比較すると、二つの合成方法で得られたスルホフェニルホスホン酸ジルコニウムZP823(17.8Å)とZP863(17.3Å)はフェニルホスホン酸ジルコニウムZP855(15.0Å)に比べて共にd(001)ピーク強度が大きく低下している。しかしフェニル基を導入したスルホフェニルホスホン酸ジルコニウム共重合体ZP869は、17.4Åに大きい強度でd(001)ピークを示した。これらのXRDの結果は、嵩高いスルホン酸基を有するスルホフェニル基を100%有するホスホン酸ジルコニウムは構造が不安定となるために、いずれの合成方法からも結晶性が高い層構造の生成物を得ることが難しいことを示唆する。
一方フェニルホスホン酸を導入した2成分系化合物ZP869では、スルホフェニル基の立体障害が緩和されて結晶性が高い層構造が得られたことが示唆される。またd(001)ピークが17.4Åに一本だけ存在することは、2成分のホスホン酸が一様に反応して均一な層間距離を与えたことを示す。即ち貯蔵液を用いる方法によって、後スルホン化反応に対して不安定な置換基を有するフェニルホスホン酸を、スルホフェニルホスホン酸と均一に共重合させた層状ホスホン酸ジルコニウムを合成できることが判った。
【0101】
嵩高いスルホフェニル基の立体障害がフェニル基の導入で緩和される状況は、31P MAS−NMRスペクトル(図6)で詳細に観測される。立体障害が無いフェニルホスホン酸ジルコニウムZP791は、3つのZr原子とO原子を介して結合したP原子に基づく約−5ppmのピークのみを示す。スルホン酸基が100%導入されたスルホフェニルホスホン酸ジルコニウムZP823,ZP863は、そのピーク(約−4ppm)と一緒に2つのZr原子とO原子を介して結合したP原子に基づく約+3ppmのピークも示す。
一方、フェニルホスホン酸を導入した2成分系化合物ZP869では、この約+3ppmのピークは小さい肩となるまで弱まって、−4ppmのピークが主になることから、フェニル基の導入によりスルホフェニル基の立体障害を緩和できることを確認できる。
【0102】
以上の結果より、濃い硫酸水溶液中で反応を行うことで、金属原子に結合したフッ素原子を持たない(単独重合物の)スルホフェニルホスホン酸ジルコニウムを合成できるが、結晶性が高い層構造の生成物を得ることは難しいことが判る。この場合に濃い硫酸水溶液中で反応を行うメリットとして、フェニルホスホン酸をスルホン化した後にスルホフェニルホスホン酸を貯蔵液として用いることができる為に、煩雑な単離操作を必要としないことが挙げられる。更にその貯蔵液を用いる方法により、後スルホン化反応に対して不安定な置換基であるフェニル基を導入したスルホフェニルホスホン酸ジルコニウムの共重合体を合成できて、しかも結晶性が高い層構造を有する物を合成できることをそのメリットに挙げられる。図7には、実施例2〜6で合成した各種置換基Rを有する2成分系のスルホフェニルホスホン酸ジルコニウム共重合体の構造モデルと構造式をまとめて示す。
【0103】
(実施例3)
[メチル基を有するスルホフェニルホスホン酸ジルコニウム共重合体の合成: 疎水性で分子サイズが小さいメチル基を導入した共重合体]
[1. 試料の合成]
前述の二つの方法に従ってメチル基を有するスルホフェニルホスホン酸ジルコニウム共重合体を合成した。
(1) 後スルホン化の方法では、実施例1の反応操作に準じて、初めに所定量のフェニルホスホン酸とメチルホスホン酸ジメチルとを12N 硫酸中でZrOCl2・8H2Oと100℃で24時間反応させてフェニル−/メチル−ホスホン酸ジルコニウム共重合体を合成した。次に実施例2の(1)の反応操作に準じて、そのフェニル−/メチル−ホスホン酸ジルコニウム共重合体をスルホン化した。なお反応混合物を氷上へ投入した際には粗生成物が沈殿したので濾別により分離して、約6N塩酸中での処理を同様に行い、80℃での減圧乾燥により生成物を得た。
(2) スルホン化ホスホン酸の貯蔵液による方法では、実施例2の(2−1)で調製したスルホフェニルホスホン酸の12N硫酸溶液を貯蔵液として用いて、所定量のメチルホスホン酸ジメチルを加えて12N硫酸中でZrOCl2・8H2Oと100℃で24時間反応させてスルホフェニル−/メチル−ホスホン酸ジルコニウム共重合体を直接合成した。反応操作は実施例2の(2−2)の方法に準じるが、透析後に水を除いてから80℃での減圧乾燥により生成物を得た。
【0104】
[2. 試料の評価]
Zr:P=1:2(原子比)の仕込み組成で、全ホスホン酸に対するフェニルホスホン酸又はスルホフェニルホスホン酸(以後この両者をフェニル系ホスホン酸と呼ぶ)のモル分率(x)をx=0.50, 0.65,0.75と変えて合成を行った。即ちフェニル系ホスホン酸:メチルホスホン酸ジメチルの仕込み組成モル比(2x:2−2x)を1.0:1.0, 1.3: 0.7, 1.5:0.5とした。得られたフェニル−/メチル−ホスホン酸ジルコニウム共重合体及びそのスルホン化物のXRDパターンを図8〜図10に示す。
【0105】
図8のスルホン化されていないフェニル−/メチル−ホスホン酸ジルコニウム共重合体では、x=0.50の場合(ZP870)に14.7Å,11.9Å, 9.1Åの3つのピークが観測されるので、2種類のホスホン酸は均一に共重合しないで、図11の構造式Zr(O3P−Ph)α(O3P−CH3)βで表される3つの構造の物(α>β、α<β、(α=0)β=2)が共存すると考えられる。しかしフェニルホスホン酸の割合をx≧0.65に増やすと(ZP969,ZP974)、約15Åピークのみとなったことから、α>βの構造だけとなると考えられる。図9に示す様に、これらを後スルホン化すると、x=0.50の物(ZP872)は19Åピークのみをシャープに示すことから、再反応が起きて(α>βの構造だけとなり、又同時に)層構造の結晶性が向上したと考えられる。x=0.65の物(ZP972)は19Åピークのみを示すがその強度が低下することから、スルホフェニル基の立体障害が大きいと考えられる。貯蔵液を用いる方法で合成した物でもx=0.50(ZP891)とx=0.65 (ZP978)の場合に層構造の結晶性について同様の傾向が見られる(図10)。
【0106】
これらの共重合体の13C MAS−NMRスペクトルを図12に示す。フェニル基のピークを127と131ppmに、スルホフェニル基のピークを約130ppmと約140ppmに、そしてメチル基のピークを約11ppmに観測でき、構造を確認できる。
これらの共重合体の31P MAS−NMRスペクトルを図13〜図15に示す。フェニル−/メチル−ホスホン酸ジルコニウム共重合体では、フェニル基由来の約−4〜−5ppmピークと、メチル基由来の約5〜6ppmピークが観測され、スルホフェニル−/メチル−ホスホン酸ジルコニウム共重合体ではスルホフェニル基由来の約−5〜−6ppmピークと、メチル基由来の約8〜10ppmピークが観測されることから、構造を再度確認できる。
【0107】
更にこれらのピークの面積比を求めることで、生成物共重合体中の組成を検討した。フェニル−/メチル−ホスホン酸ジルコニウム共重合体ではピーク面積比は1.0:0.9(ZP870)、1.3:0.7(ZP969)、1.5:0.5(ZP974)であり、生成物組成比と仕込み組成比が良い対応を示す。一方、これを後スルホン化法で処理すると、ピーク面積比は1.0:1.3(ZP 872)、1.3:1.5(ZP972)、1.5:0.6(ZP975)となり、いずれもメチル基の含有量が増加した生成物組成比となった。これは後スルホン化の反応過程で再反応が起きた際に、(層構造の結晶性は向上したが同時に)水溶性のスルホフェニルホスホン酸の溶出がある程度生じた為と推察される。一方貯蔵液を用いて合成したスルホフェニル−/メチル−ホスホン酸ジルコニウム共重合体では、ピーク面積比は1.0:1.1(ZP891)、1.3:0.7(ZP978)となり、仕込み組成比に良く対応する共重合組成比が得られた。
【0108】
実施例2と同様にして中和による滴定曲線を求めて、その微分曲線におけるpH≒4付近で極大を示す値から中和当量を求めた。ZP872,ZP972,ZP975の値はそれぞれ2.1,2.5,4.0meq/gであり、仕込み組成に対して0.9倍,0.9倍,1.3倍のスルホン酸量に相当する。ZP891,ZP978の値は2.8,2.2meq/gであり、仕込み組成に対して1.2倍,0.8倍のスルホン酸量に相当する。
【0109】
以上の結果より、第2成分ホスホン酸の置換基が疎水性で分子サイズが小さいメチル基の場合に、濃い硫酸水溶液中で反応を行うことで、金属原子に結合したフッ素原子を持たないで、仕込み組成が反映された共重合組成を有するフェニルホスホン酸ジルコニウムの共重合体を合成できることが判る。また、このようなメチル基を有して、金属原子に結合したフッ素原子を持たないで、仕込み組成が反映された共重合組成を有するスルホフェニルホスホン酸ジルコニウムの共重合体を合成するには、後スルホン化法よりもスルホン化ホスホン酸の貯蔵液を用いる方法が優れることが判った。なおX=0.50の仕込み組成ではいずれの方法からも結晶性が高い層構造を有する物を合成できることが判った。
【0110】
(実施例4)
[水酸基又はカルボキシエチル基を有するスルホフェニルホスホン酸ジルコニウム共重合体の合成: 親水性の置換基で分子サイズが小さいOH基又は分子サイズが大きいC25CO2H基を導入した共重合体]
[1. 試料の合成]
メチル基以外の置換基として、水酸基又はカルボキシエチル基を有するスルホフェニルホスホン酸ジルコニウム共重合体(x=0.50)の合成を、第2成分ホスホン酸として、リン酸、カルボキシエチルホスホン酸を用いて、Zr:P=1:2の仕込み組成で、前例と同じ二つの方法で実施した。
【0111】
[2. 試料の評価]
得られたフェニルホスホン酸ジルコニウム共重合体及びそのスルホン化物のXRDパターンを図16〜図18に示す。図16のスルホン化されていないフェニルホスホン酸ジルコニウム共重合体では、R=OHの場合(ZP961)に24.9Å,14.3Å(肩),12.5Åの3つのピークが観測されるので、2種類のホスホン酸は均一に共重合していないと考えられる。具体的には、14.3Å(肩),12.5Åの2つのピークは、Zr(O3P−Ph)α(O3P−OH)βで、α>β、α<βの2つの構造に対応する物に由来すると考えられる。24.9Åピークは、文献(W.R.Leenstra,Inorg.Chem.,1998,37,5317)を参考にすると、Zr(O3P−Ph)α(O3P−OH)βで、α>βと(α=0)β=2とから構成される”staged compound(ステージ化合物)”に由来するもの(図19参照)と考えられる。
【0112】
R=C24CO2Hの場合(ZP820)には、約15Åのピークのみが得られ、2種類のホスホン酸は均一に共重合したと考えられる。これらの共重合体を後スルホン化法で処理して得たスルホフェニルホスホン酸共重合体(ZP970,ZP958;図17)、及びスルホフェニルホスホン酸の貯蔵液を用いて合成したスルホフェニルホスホン酸共重合体(ZP004,ZP005;図18)は、実施例3と同様に、いずれも(約17Åの)均一な層間距離を示す物となった。
【0113】
これらの共重合物の31P MAS−NMRスペクトルを図20〜図22に示す。各ピークの面積比から求めた共重合組成比(各図中に記載)は、いずれも仕込み組成比1:1に近い値であった。
【0114】
実施例2と同様にして中和による滴定曲線を求めて、その微分曲線におけるpH≒4付近で極大を示す値から求めた中和当量は、ZP970,ZP958では2.6,1.3meq/gであり、ZP004,ZP005では2.1,1.3meq/gであった。 これらの微分曲線ではpH≒8付近にも極大が観測された。その値から求めた2番目の中和当量は、ZP970,ZP958では4.7,3.5meq/gであり、ZP004,ZP005では4.0,3.5meq/gであった。pH≒4付近で求めた中和当量はスルホン酸に由来し、またpH≒8付近で求めた中和当量はより弱酸である水酸基やカルボン酸基の酸量とスルホン酸量の総和量に由来すると考えられる。従って、ZP970,ZP958とZP004,ZP005は、スルホン酸量が仕込み組成に対して1.1倍,0.6倍と0.9倍,0.6倍であり、全酸量が仕込み組成に対して1.0倍,0.85倍と0.85倍,0.85倍であった。
【0115】
これらの結果は、第2成分ホスホン酸の置換基の極性が高い親水性のR=OH,又はR=C24CO2Hの場合にも、濃い硫酸水溶液中で反応を行うことで、金属原子に結合したフッ素原子を持たないで、仕込み組成が反映された共重合組成を有するスルホフェニルホスホン酸ジルコニウム共重合体を合成できることを示す。
【0116】
(実施例5)
[オクチル基を有するスルホフェニルホスホン酸ジルコニウム共重合体の合成: 疎水性で分子サイズが大きいC817基を有する共重合体]
[1. 試料の合成]
メチル基以外の置換基として、オクチル基を有するスルホフェニルホスホン酸ジルコニウム共重合体(x=0.50)の合成を、第2成分ホスホン酸をオクチルホスホン酸として、スルホフェニルホスホン酸の貯蔵液を用いる方法で実施した。
オクチルホスホン酸の合成は、文献(G.M.Kosolapoff,"Organic Reactions", Vol.6,p.286,John Wiley(1951))の方法を参考にして実施した。
【0117】
冷却管を備えた300mLナスフラスコに、トリエチルホスファイト66.5g(0.4mol)と1−ブロモオクタン77.3g(0.4mol)をとり、窒素気流下で100℃に8時間加熱撹拌して反応させた。放冷後に装置を蒸留用に組み直してから、10Torr(1.33×103Pa)の減圧下に120℃まで穏やかに昇温・加熱して、未反応原料及び反応副生成物を除去することで、無色透明状のオクチルホスホン酸ジエチル83.7g(84%)を得た。Dean−Starkトラップと冷却管を備えた100mLナスフラスコに、オクチルホスホン酸ジエチル5.0gと48%臭酸22mLをとり、160℃まで徐々に加熱してその温度で2.5時間撹拌した。反応混合物を冷却すると、無色透明の板状晶が析出したので、濾別乾燥して、生成物2.7g(70%)を得た。
【0118】
スルホフェニルホスホン酸の貯蔵液(SPPA−1600)とオクチルホスホン酸を用いて、ZrOCl2・8H2Oの仕込み組成がZr:P=1:2となる条件で、実施例2(2)に準じてオクチル基を有するスルホフェニルホスホン酸ジルコニウム共重合体(x=0.50;ZP977)を合成した。
【0119】
[2. 試料の評価]
生成物について実施例2と同様にして中和による滴定曲線を求めて、その微分曲線におけるpH≒4付近で極大を示す値から中和当量1.2meq/gを求めた。この値は仕込み組成に対して0.6倍のスルホン酸量に相当する。図23に示したXRDパターン、13C MAS−NMRスペクトル、31P MAS−NMRスペクトルの結果は、疎水性が強くまた分子サイズが大きいオクチル基を有するオクチルホスホン酸を第2成分に用いても、スルホフェニレンホスホン酸の貯蔵液を用いる方法で、金属原子に結合したフッ素原子を持たないで、仕込み組成が反映された共重合組成を有するスルホフェニル−/オクチル−ホスホン酸ジルコニウム共重合体を合成できることを示唆する。
【0120】
(実施例6)
[種々の置換基を有するスルホフェニルホスホン酸ジルコニウム共重合体とポリテトラフルオロエチレン(PTFE)との複合体ディスクのプロトン伝導性の評価]
[1. 試料の合成]
種々の置換基を導入したスルホフェニルホスホン酸ジルコニウム共重合体として、前述の実施例で報告した、1:1の仕込み組成で合成した、メチル基を有する共重合体ZP891,水酸基を有する共重合体ZP004,カルボキシエチル基を有する共重合体ZP005,及びオクチル基を有する共重合体ZP977を用いた。またスルホフェニルホスホン酸の貯蔵液を用いる方法で無機ホスホン酸(H3PO3)との反応を仕込み組成0.7:1.3(スルホフェニル基のモル割合:x=0.35)で行って、水素基を有する共重合体ZP1423を新たに合成して用いた。なお共重合体中の水素基の存在は、νP-Hに基づく2469cm-1のIR吸収と、P−Hに基づく−16ppmの31P MAS−NMRピークにより確認した。
【0121】
[2. 試験方法]
これらのスルホフェニルホスホン酸ジルコニウム共重合体約0.2gを20mLのサンプル瓶にとり精秤後に、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)の5.6wt%水分散液を加えて、共重合体:PTFE=80:20(wt/wt)の分散液を調製した。この分散液をよくかき混ぜてから、130℃に保った乾燥炉中に静置して水分を蒸発させた。得られた粉体をメノー中で粉砕することにより、パテ状の固体混合物を得た。このパテ状固体混合物を電動ミルで小片に粉砕してから圧粉成型により、直径10mmで厚さ約0.4mmの円板状ディスクを調製した。このディスクの両面の中央に直径6mmの円板Pt電極をスパッター法により塗布して、約65℃で相対湿度を約20%から約90%まで変えて、交流インピーダンス法により伝導度を測定した。
【0122】
[3. 結果]
相対湿度を変化させた時に測定された複合体ディスクの伝導度は、スルホフェニルホスホン酸ジルコニウム共重合体の有する置換基の種類によって異なる挙動を示すことが判った(図24)。この結果は、スルホフェニルホスホン酸ジルコニウム共重合体が電解質として作用できることを示しており、また第2成分の置換基の種類やそれとスルホフェニル基との共重合組成などを変えることで、その伝導挙動を制御できることを示唆する。
このような種々の置換基を有して、金属原子に結合したフッ素原子を持たないで、仕込み組成が反映された共重合組成を有するスルホフェニルホスホン酸ジルコニウムの共重合体を電解質素材として利用する際には、その材料を廃棄する段階でダイオキシンなどの有害なフッ素化合物の副生の心配が無い利点がある。なお本実施例では製膜する為にポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を用いて上記電解質素材と複合化したが、これを他の炭化水素系の有機高分子に置き換えることは技術上問題ないので、このようにして得られる電解質複合体も廃棄する段階で有害なフッ素化合物の副生の心配が無い。
【0123】
(実施例7)
[水素基を有するスルホジフェニルエーテルホスホン酸ジルコニウム共重合体の合成:別種のスルホン化芳香族基を有する共重合体]
[1. 試料の合成]
フェニル基以外の芳香族基を有するホスホン酸として、ジフェニルエーテル(モノ)ホスホン酸を合成して、2種類のスルホン化剤(発煙硫酸又は濃硫酸)を用いることでスルホン化率の異なるスルホジフェニルエーテル(モノ)ホスホン酸の貯蔵液を2種類調製した。これらの貯蔵液と併せて第2成分ホスホン酸に無機ホスホン酸(H3PO3)を用いて、水素基を有するスルホジフェニルエーテルホスホン酸ジルコニウム共重合体(仕込み組成:x=0.33)をそれぞれ合成した。
【0124】
ジフェニルエーテルホスホン酸の合成は、文献(A.Clearfield,et al.,J.Am.Chem.Soc.,2003,125,103754)の方法を参考にして、実施した。冷却管を備えた200mL三口フラスコに、4−ブロモジフェニルエーテル9.96g(0.04mol)と1,3−ジイソプロピルベンゼン50mLをとり、窒素気流下で180℃に加熱撹拌して、その中へ臭化ニッケル0.50gを投入してから、トリエチルホスファイト10mLを6時間掛けて滴下混合して、その温度で加熱攪拌を18時間続けた。再度臭化ニッケル0.25gを投入してから、トリエチルホスファイト5mLを3時間掛けて滴下混合して、180℃で加熱攪拌を21時間続けて反応させた。放冷後に反応混合物をロート上のセライトを通過させて黒色粉末の触媒を除き、濾液を加熱下に減圧蒸留して過剰のトリエチルホスファイトを除くことで、ジフェニルエーテル−4−ホスホン酸ジエチルエステルを得た。この物を冷却管を備えた200mLフラスコ中で48%臭化水素酸10.0gと108℃で10時間加熱攪拌して加水分解を行った。アセトンとn−ヘキサンとから再結晶することで白色粉体の生成物ジフェニルエーテル−4−ホスホン酸7.1g(71%)を得た。この生成物の各種溶液NMR測定結果は、図25に示すように、目的化合物の生成を示唆する。
【0125】
発煙硫酸をスルホン化剤とする場合のホスホン酸ジルコニウム共重合体の合成は、実施例2の(2)で説明したスルホフェニルホスホン酸の貯蔵液を用いる方法に準じるが、4−ホスホン酸ジフェニルエーテルの場合は合成した量が少ないので、一回ごとにin situでスルホン化を行う方法とした。4−ホスホン酸ジフェニルエーテル0.65g(2.60mmol)を冷却管を備えた100mLナスフラスコにとり25%発煙硫酸5.0gと濃硫酸2.55gを加えて窒素気流下に100℃で1日間撹拌して反応させた。氷浴にナスフラスコを浸けて反応混合物を冷却してから、蒸留水9.18gを加えて、スルホン化したジフェニルエーテル−4−ホスホン酸の12N硫酸水溶液を調整した(貯蔵液に相当する)。この中にジメチルスルホキシド(DMSO)8mLとホスホン酸50wt%水溶液0.85g(5.19mmol)を加えて、100℃に加熱しながら激しく撹拌して、その中へジルコニウムテトラアセテートの酢酸溶液(Zr:15−16%)2.37g(3.9mmol)と水0.5gの混合溶液を約10分間で滴下混合した。この温度で24時間攪拌して反応させた。反応混合物を水200mLを含むビーカ中へ注ぎ、白濁分散液を得た。固形分を遠心分離で回収した後に、約6N塩酸中及び水中での加熱攪拌処理を行い、凍結乾燥により生成物ZP1685(1.3g)を得た。
一方、濃硫酸をスルホン化剤とする場合のホスホン酸ジルコニウム共重合体の合成は、上記合成での25%発煙硫酸5.0gと濃硫酸2.55gの代わりに、濃硫酸9.08gのみを用いて、同様に反応を行った。凍結乾燥により生成物ZP1687 (1.7g)を得た。
【0126】
[2. 試料の評価]
これらの生成物について実施例2と同様にして中和による滴定曲線を求めて、その微分曲線におけるpH≒4付近で極大を示す値から中和当量2.6 meq/gと2.4meq/gを求めた。これらの生成物について、XRDパターンを図26に、31P MAS−NMRスペクトルを図27に、そして13C MAS−NMRスペクトルを図28に示す。
XRDパターンはα−タイプのラメラ(層)構造を有する均一なホスホン酸ジルコニウム共重合体の生成を示唆する。31P MAS−NMRスペクトルのピーク面積比から求めた共重合組成は0.6:1.4及び0.7:1.3であり、共に仕込み組成((x=0.33→)0.66:1.33)に近い値である。この共重合組成を用いた構造式で、上記中和当量からジフェニルエーテル基のスルホン化率を算出すると、ZP1685で2.0であり、ZP1687で1.5と求まる。スルホン化される位置はO3P−基に対してジフェニルエーテル基の4’−位が最初で次に3−位と推測されるので、各推定構造式を図27に記した。両生成物の3−位のスルホン化率の違いが、13C MAS−NMRスペクトル(図28)で120ppmのピーク強度の差に反映されると推察する。
【0127】
フェニルホスホン酸以外の芳香族ホスホン酸でも、スルホン化物の貯蔵液を用いる方法で第2成分ホスホン酸との共重合を行うことができて、金属原子に結合したフッ素原子を持たないで、仕込み組成が反映された共重合組成を有するスルホン化ジフェニルエーテル−/ヒドロ−ホスホン酸ジルコニウム共重合体であり、かつスルホン化率が異なる物を2種類合成できることが示唆される。なお水素基はフェニル基と同様に後スルホン化反応に不安定な置換基である。
【0128】
(実施例8)
[スルホフェニル−/スルホジフルオロメチル−ホスホン酸ジルコニウム共重合体の合成:2種類のスルホン酸基を有する共重合体]
[1. 試料の合成]
[1.1. スルホジフルオロメチルホスホン酸の合成]
スルホフェニル基及びスルホジフルオロメチル基を有するホスホン酸ジルコニウム共重合体(仕込み組成:x=0.50)の合成を、スルホフェニルホスホン酸の貯蔵液を用いる方法で実施した。
【0129】
スルホジフルオロメチルホスホン酸の合成は文献(J.Am.Chem.Soc.,1989,111, 1773)の方法を参考にして行った。
(1) 化合物(1)の合成: 亜リン酸トリエチル88.5g(0.532mol)とジブロモジフルオロメタン120g(0.572mol)の混合物を0.5Lのオートクレーブに仕込み、室温で23時間反応させた。反応混合物を減圧濃縮し、得られた残渣を減圧蒸留して無色オイル状の化合物(1)を124.2g(収率87.4%)得た。bp 75℃/1mmHg。
(2) 化合物(2)の合成: 反応容器に炭酸水素ナトリウム63g(0.749mol)、ハイドロサルファイトナトリウム(Na224)130g(0.749mol)、蒸留水200mLを量り取り、室温で5分間激しく攪拌した。23時間後に、反応混合物を減圧濃縮し、化合物(2)と無機塩の混合物をアセトンに懸濁し、ろ過して無機塩を取り除いた。濾液を減圧濃縮し、析出した固体を再度、酢酸エチルエステルに懸濁し、ろ過して無機塩を取り除いた。濾液を減圧濃縮し、化合物(2)を141g(>100%)得た。
【0130】
(3) 化合物(3)の合成: 反応容器に化合物(2)を141g(0.515mol)量り取り、蒸留水350mLに溶解した。0℃に冷却し、30%過酸化水素水120mL(1.16mol)を加えて、室温まで徐々に昇温し、5時間攪拌した。反応混合物をトルエン(300mLx2)で洗浄した。水層を0℃まで冷却し、化合物(3)と無機塩の混合物をアセトンに懸濁し、ろ過して無機塩を取り除いた。この操作を3回繰り返し、化合物(3)を60g(55%(2段階))得た。
(4) 化合物(4)の合成: 反応容器に化合物(3)を60g(0.21mol)量り取り、濃塩酸100mLを加えた。120℃まで昇温し、17時間攪拌した。反応混合物を放冷し、減圧濃縮し、化合物(4)を58g(66%(3段階))得た。
(5) 化合物(5)の合成: 化合物(4)(58g)をイオン交換樹脂600gで処理し、化合物(5)を38g(48%(4段階))得た。得られた生成物の固形分は90.5wt%であった。生成物の構造は、19F NMR(図30)により原料由来のピークが消失して生成物由来の110ppmピークが出現することで確認した。
【0131】
[1.2. 共重合体の合成]
実施例2の(2)で説明したスルホフェニルホスホン酸の貯蔵液を用いる方法に準じるが、スルホジフルオロメチルホスホン酸はそのまま用いて共重合体を合成した。実施例2の(2−1)で調製したスルホフェニルホスホン酸の(32wt%)12N硫酸溶液を貯蔵液(5.52g,7.4mmol)として用いて、スルホジフルオロメチルホスホン酸(1.73g,7.4mmol)とDMSO(10ml)を加えて12N 硫酸−DMSO中でZr(O2CCH3)4酢酸溶液(Zr15−16wt%含:4.50g,7.4mmol)と100℃で24時間反応させた。合成操作は実施例2の(2−2)の方法に準じるが、凍結乾燥により生成物ZP1683(3.3g)を得た。
【0132】
[2. 試料の評価]
この生成物について実施例2と同様にして中和による滴定曲線を求めて、その微分曲線におけるpH≒4付近で極大を示す値から中和当量2.6meq/gを求めた。
この生成物について、XRDパターンを図31に、31P MAS−NMRスペクトル及び13C MAS−NMRスペクトルを図32に示す。XRDパターンはα−タイプのラメラ(層)構造を有する均一なホスホン酸ジルコニウム共重合体の生成を示唆する。31P MAS−NMRスペクトルでは、スルホフェニルホスホン酸とスルホジフルオロメチルホスホン酸に由来する大きなピーク以外に、無視できない−16ppmのピークが観測された。それらのピーク面積比から求めた共重合組成は0.8:1.1:0.1であった。この共重合組成の2つの主成分の比は仕込み組成((x=0.50→)1.0:1.0)に近い値であるが、原料のスルホジフルオロメチルホスホン酸に含まれる少量の無機ホスホン酸(H3PO3)が取り込まれて3成分系共重合体となったと推察される。この共重合組成を用いた構造式を図32中に記した。この式によるスルホン酸量は3.6 meq/gとなるので、中和当量による酸量はその理論量の7割強となる。
【0133】
スルホン化物の貯蔵液を用いる方法で第2成分スルホン化ホスホン酸との共重合を行うことができて、(金属原子に結合したフッ素原子を持たないで、)仕込み組成が反映された共重合組成で2種類のスルホン酸基を有するスルホフェニル−/スルホジフルオロメチル−ホスホン酸ジルコニウム共重合体を合成できることを示唆する。なお、スルホジフルオロメチルホスホン酸の代わりに3−スルホプロピルホスホン酸などを用いると、全くフッ素原子を含まないで2種類のスルホン酸基を有するホスホン酸ジルコニウム共重合体を合成できる。
【0134】
(実施例9)
[水素基を有するスルホフェニル−/スルホジフルオロメチル−ホスホン酸ジルコニウム共重合体の合成:2種類のスルホン酸基を有する3成分系共重合体]
[1. 試料の合成]
実施例8で説明したスルホジフルオロメチルホスホン酸とスルホフェニルホスホン酸の貯蔵液を用いる方法に準じるが、無機ホスホン酸(H3PO3)を新たに加えて3成分系共重合体を合成した。実施例2の(2−1)で調製したスルホフェニルホスホン酸の(32wt%)12N硫酸溶液を貯蔵液(3.36g,4.5mmol)として用いて、スルホジフルオロメチルホスホン酸(1.06g,4.5mmol)と無機ホスホン酸50wt%水溶液(1.48g,9.0mmol)をとり、DMSO(5ml)を加えて溶解させた。更に12N 硫酸10mLを加えてから、Zr(O2CCH3)4酢酸溶液(Zr15−16wt%含:5.47g,9.0mmol)を添加して、100℃で24時間反応させた。合成操作は実施例2の(2−2)の方法に準じるが、凍結乾燥により生成物ZP1717(3.3g)を得た。
【0135】
[2. 試料の評価]
この生成物について実施例2と同様にして中和による滴定曲線を求めて、その微分曲線におけるpH≒4付近で極大を示す値から中和当量1.9meq/gを求めた。
この生成物について、XRDパターンを図33に、31P MAS−NMRスペクトル及び13C MAS−NMRスペクトルを図34に示す。XRDパターンはα−タイプのラメラ(層)構造を有する均一なホスホン酸ジルコニウム共重合体の生成を示唆する。31P MAS−NMRスペクトルのピーク面積比から求めた共重合組成は0.5:0.7:0.8であった。この共重合組成は仕込み組成(0.5:0.5:1.0)に近い値である。この共重合組成を用いた構造式を図34中に記した。この式によるスルホン酸量は2.8meq/gとなるので、中和当量による酸量はその理論量の7割弱となる。
【0136】
スルホン化物の貯蔵液を用いる方法で第2成分スルホン化ホスホン酸及び第3成分ホスホン酸との共重合を行うことができて、(金属原子に結合したフッ素原子を持たないで、)仕込み組成が反映された共重合組成で水素基と2種類のスルホン酸基を有するスルホフェニル−/スルホジフルオロメチル−/ヒドロ−ホスホン酸ジルコニウム共重合体を合成できることを示唆する。なお、スルホジフルオロメチルホスホン酸の代わりに3−スルホプロピルホスホン酸などを用いると、全くフッ素原子を含まないで2種類のスルホン酸基を有する3成分系ホスホン酸ジルコニウム共重合体を合成できる。
【0137】
(実施例10)
[フェニル基を有するスルホフェニルホスホン酸チタニウムの合成条件検討:Ti−源種及び溶媒種の反応への影響]
[1. 試料の合成]
フェニル基を有するスルホフェニルホスホン酸チタニウム共重合体(x=0.50)の合成を、スルホフェニルホスホン酸の貯蔵液を用いる方法で実施した。表2に示す合成条件で、硫酸チタニル,四塩化チタン,チタンテトラプロポキシド,硫酸チタンのTi−源の影響、及び12N硫酸,9N塩酸,水の溶媒の影響を検討した(表2)。
【0138】
【表2】

【0139】
[2. 試料の評価]
得られた生成物のXRDパターン(例えば図35a;表2)では、いずれも明瞭な(00l)反射とプリズム型の(hk)反射及び2.55Å付近のd(020)ピークが認められ、生成物がα−タイプのホスホン酸チタニウムのラメラ(層)構造を有することが示唆される。15Å付近に観測されるd(001)ピークの強度は、その半値幅が層構造の広がりサイズに逆比例するので、生成物の層構造の結晶性の高さを示す。それらの比較から、12N H2SO4中でフェニル基を有するスルホフェニルホスホン酸チタニウム共重合体を合成すると、層構造の結晶性が高いものが得られることが判る。生成物がスルホフェニル基とフェニル基の両者を有することは、IRスペクトル測定(図35b)でスルホフェニル基に由来の吸収(800cm-1,686cm-1,615cm-1)及びフェニル基に由来の吸収(751cm-1,728m-1付近)が観測されることで確認した。従って金属原子がチタニウムの場合であっても、スルホフェニルホスホン酸の貯蔵液を用いる方法でフェニルホスホン酸とから共重合を行うことができて、(金属原子に結合したフッ素原子を持たない)スルホン酸基を有する2成分系のスルホフェニル−/フェニル−ホスホン酸チタニウム共重合体を合成できることが判る。
【0140】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の改変が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0141】
本発明に係る非架橋型層状ホスホン酸金属化合物は、吸着材料、イオン交換材料、電解質材料及びその製造方法として用いることができる。
また、貯蔵液及びその製造方法は、非架橋型層状ホスホン酸金属化合物を合成するための出発原料及びその製造方法として用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の構成を備えた非架橋型層状ホスホン酸金属化合物。
(a) 前記非架橋型層状ホスホン酸金属化合物は、中心原子(M)が6配位金属原子である金属酸化物八面体とホスホン酸の四面体が酸素を共有することで繋がった2次元層状構造を持つ。
(b) 前記非架橋型層状ホスホン酸金属化合物は、少なくとも1つのP−O−M結合を介して、層構造中の異なる6配位金属原子と結合する、2種以上のモノホスホン酸成分を含む。
(c) 前記モノホスホン酸成分のいずれか1種は、スルホン酸基又はスルホン酸基に変換可能な基を持ち、残りは持たない。
(d) 前記非架橋型層状ホスホン酸金属化合物は、前記中心原子(M)と結合しているフッ素原子を含まない。
【請求項2】
以下の条件をさらに備えた請求項1に記載の非架橋形層状ホスホン酸金属化合物。
(e) 前記非架橋型層状ホスホン酸金属化合物に含まれる前記モノホスホン酸成分の置換基の平均分子断面積は、2次元層状構造の表面ホスホン酸基1個が占める自由面積の7割以下である。
【請求項3】
前記中心原子(M)は、4価の原子価を採れる6配位金属原子である請求項1又は2に記載の非架橋型層状ホスホン酸金属化合物。
【請求項4】
α−型の層構造及び次の(1)式で表される組成を有する請求項3に記載の非架橋型層状ホスホン酸金属化合物。
【化1】

【請求項5】
α−型の層構造及び次の(2)式で表される組成を有する請求項3に記載の非架橋型層状ホスホン酸金属化合物。
【化2】

【請求項6】
α−型の層構造及び次の(3)式で表される組成を有する請求項3に記載の非架橋型層状ホスホン酸金属化合物。
【化3】

【請求項7】
以下の構成を備えた非架橋型層状ホスホン酸金属化合物。
(a) 前記非架橋型層状ホスホン酸金属化合物は、中心原子(M)が6配位金属原子である金属酸化物八面体とホスホン酸の四面体が酸素原子を共有することで繋がった2次元層状構造を持つ。
(b) 前記非架橋型層状ホスホン酸金属化合物は、少なくとも1つのP−O−M結合を介して、層構造中の異なる6配位金属原子と結合する、2種以上のモノホスホン酸成分を含む。
(c) 前記モノホスホン酸成分の少なくとも2種以上は、スルホン酸基又は前記スルホン酸基に変換可能な基を持ち、残りは持たない。
(d) 前記非架橋型層状ホスホン酸金属化合物は、前記中心原子(M)と結合しているフッ素原子を含まない。
【請求項8】
以下の条件をさらに備えた請求項6に記載の非架橋型層状ホスホン酸金属化合物。
(e) 前記非架橋型層状ホスホン酸金属化合物に含まれる前記モノホスホン酸成分の置換基の平均分子断面積は、2次元層状構造の表面ホスホン酸基1個が占める自由面積の7割以下である。
【請求項9】
前記中心原子(M)は、4価の原子価を採れる6配位金属原子である請求項7又は8に記載の非架橋型層状ホスホン酸金属化合物。
【請求項10】
α−型の層構造及び次の(4)式で表される組成を有する請求項9に記載の非架橋型層状ホスホン酸金属化合物。
【化4】

【請求項11】
以下の条件を備えた2種以上のモノホスホン酸又はその誘導体と、反応時に金属酸化物八面体の中心原子(M)となる6配位金属原子のイオンを生成可能な金属源とを硫酸触媒下で反応させる反応工程を備えた非架橋型層状ホスホン酸金属化合物の製造方法。
(a) 前記モノホスホン酸又はその誘導体、及び前記金属源の配合比は、ホスホン酸基又はその誘導体中に含まれるP量に対する中心原子(M)のモル比(M/P比)が1/3<M/P<1.0となる配合比である。
【請求項12】
前記モノホスホン酸又はその誘導体は、さらに以下の条件を備えている請求項11に記載の非架橋型層状ホスホン酸金属化合物の製造方法。
(b) 前記モノホスホン酸又はその誘導体の配合比は、前記非架橋型層状ホスホン酸金属化合物を構成するモノホスホン酸成分の置換基の平均分子断面積が、2次元層状構造の表面ホスホン酸基1個が占める自由面積の7割以下となる配合比である。
【請求項13】
前記モノホスホン酸又はその誘導体は、さらに以下の条件を備えている請求項11又は12に記載の非架橋型層状ホスホン酸金属化合物の製造方法。
(c) 前記モノホスホン酸又はその誘導体の少なくとも1つは、スルホン酸基又はスルホン酸基に変換可能な基を持つ。
【請求項14】
前記モノホスホン酸又はその誘導体は、次の(a)式〜(d)式で表される
請求項11から13までのいずれかに記載の非架橋型層状ホスホン酸金属化合物の製造方法。
但し、−(O)x−Z1−(A1)r≠−(O)x'−Z2−(A2)r'
【化5】

【化6】

【化7】

【化8】

【請求項15】
前記反応工程は、
前記モノホスホン酸又はその誘導体の内の少なくとも1つであって、前記スルホン酸基又は前記スルホン酸基に変換可能な基を有するものが硫酸水溶液又は硫酸水溶液と有機溶媒の混合溶液に溶解又は分散している貯蔵液に、
(1) 前記金属源、及び、
(2) 前記モノホスホン酸又はその誘導体の内の残りの成分
を加えて反応させるものである
請求項11から14までのいずれかに記載の非架橋型層状ホスホン酸金属化合物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【公開番号】特開2013−56920(P2013−56920A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−253644(P2012−253644)
【出願日】平成24年11月19日(2012.11.19)
【分割の表示】特願2007−233625(P2007−233625)の分割
【原出願日】平成19年9月10日(2007.9.10)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】