説明

非水二次電池製造方法

【課題】ハイレート充放電が可能な二次電池の製造方法を提供すること。
【解決手段】負極活物質とカルボキシメチルセルロース(CMC)とスチレンブタジエンゴムとを含む負極スラリーを、負極集電体上に付与し、乾燥させて負極活物質層を形成することを包含する二次電池製造方法が提供される。上記CMCは、重量平均分子量が30×10以上、40×10以下である。上記負極活物質層に含まれるCMCの量は0.6〜0.8質量%の範囲にある。上記負極活物質は、その粒子表面についてX線光電子分光法によって求められる酸素元素と炭素元素との比の値O/C値が1.0以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池その他の非水二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
二次電池は、正極および負極と、それら両電極間に介在された電解質とを備え、該電解質中の導電種(典型的には金属イオン)が両電極間を行き来することにより充放電を行う。負極の典型的な構成として、負極活物質を主成分とする層(負極活物質層)が負極集電体に保持された構成が挙げられる。二次電池の性能(容量、出力等)を向上させるための一手法として、負極性能の向上および安定化が求められている。二次電池用の負極に関する技術文献として特許文献1が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−279995号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
負極活物質層は、導電種の吸蔵・放出に伴い膨張・収縮を繰り返すので、活物質粒子同士および活物質粒子と集電体とを十分に結着させる必要がある。そのため、通常、負極は負極活物質に加えて増粘剤や結着剤を含む。しかしながら、これら添加剤は、負極活物質粒子表面に過剰に付着すると、電気化学反応を阻害し、電池性能(出力、容量)を低下させる要因となり得る。一方で、これら添加剤の量が少なすぎると、負極活物質層形成成分を適当な溶媒に分散させたペーストまたはスラリー状の組成物(負極スラリー)を集電体に塗付して乾燥させることにより負極活物質層を形成する際、乾燥後の負極活物質層にひび割れ等が生じる場合がある。生産性向上のために乾燥速度を高めると、より上記ひび割れ等が起こりやすくなる。また、負極を加工(例えば、所定幅に切断)する際に、負極活物質層が集電体から剥離しやすくなる場合がある。特に、十分な容量を確保しながら、集電体と活物質層表面との距離を短くして(すなわち、活物質層の厚みを小さくして)電気化学反応の効率を高め、例えば車両用電源に求められる高出入力を可能にするためには、これら添加剤の使用量を抑制しつつも十分な結着性を実現することが求められる。
【0005】
本発明は、大電流を一気に流すような高出入力(ハイレート充放電)に適した二次電池を製造する方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によると、非水二次電池の製造方法が提供される。この方法は、負極活物質とカルボキシメチルセルロース(CMC)とスチレンブタジエンゴム(SBR)とを溶媒中に含む負極スラリーを、負極集電体上に付与し、乾燥させて負極活物質層を形成することを包含する。ここで、上記CMCは、重量平均分子量(Mw)が30×10以上、40×10以下である。上記負極活物質層に含まれるCMCの量は、負極活物質層(乾燥後)の合計質量を100%としたとき、0.6〜0.8質量%の範囲にある。上記負極活物質(典型的には粒子状)は、その表面についてX線光電子分光法(XPS:X−ray Photoelectron Spectroscopy)によって求められる酸素(O)と炭素(C)との原子数比の値(O/C値)が1.0以下(例えば0.1以上1.0以下)である。このO/C値は、詳しくは、当該負極活物質粒子のサンプルをXPS装置で分析して得られたC1SおよびO1Sのスペクトルのピーク面積を求め、Cの原子濃度およびOの原子濃度をそれぞれ算出し、それらの原子濃度比(O原子濃度/C原子濃度)(単位:%)から求められる。
【0007】
かかる方法によると、負極スラリー(負極活物質層形成用の分散液)が上記所定のMwを有するCMCを上記所定の割合で含むので、良好な保存性、塗工性および結着性(負極集電体に対する結着性)がバランスよく実現され、負極集電体上に薄く且つ密度ムラの少ない負極活物質層を効率よく形成することができる。かかる負極活物質層を備えた二次電池は、低温(例えば−25℃程度)での内部抵抗がより低く抑制されたものであり得る。負極スラリーの固形分率(NV)を比較的高く(例えば、50質量%以上に)する場合には、上記方法を採用することが特に有意義である。上記負極活物質層に含まれるSBR量は、0.5〜0.9質量%の範囲にあることが好ましい。上記負極活物質としては、高結晶性炭素粒子の表面に低結晶性炭素を有する複合炭素材料(典型的には粒子状)を好ましく採用し得る。
【0008】
好ましい一態様では、上記負極スラリーを、4.0mg/cm以下の目付量で上記負極集電体上に付与する。かかる態様によると、より薄く且つ密度ムラが少ない負極活物質層が形成され得る。かかる負極活物質層および該活物質層を備えた負極は、ハイレートでの充放電が繰り返され得る二次電池の構成要素として好適である。
【0009】
好ましい一態様では、上記負極スラリーのNVが50質量%以上である。かかる態様によると、負極活物質層を形成する際の乾燥工程がより効率よく実施され得る。ここに開示される方法によると、かかる高固形分率の負極スラリーを用いても、薄く且つ密度ムラの少ない負極活物質層をより的確に形成することができる。
【0010】
本発明によるとまた、ここに開示されるいずれかの方法によって構築された非水二次電池(例えばリチウムイオン二次電池)が提供される。かかる非水二次電池は、ハイレート充放電特性等の性能に優れたものとなり得る。
【0011】
本発明によると、さらに、ここに開示されるいずれかの非水二次電池(ここに開示されるいずれかの方法によって構築された非水二次電池であり得る。)を備えた車両が提供される。例えば、図3に示すように、かかる非水二次電池(例えばリチウムイオン二次電池)100を動力源(典型的には、ハイブリッド車両または電気車両の駆動電源)として備える車両(例えば自動車)1が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】一実施形態に係る非水二次電池(リチウムイオン二次電池)の外形を模式的に示す斜視図である。
【図2】図1におけるII−II線断面図である。
【図3】本発明の非水二次電池(リチウムイオン二次電池)を備えた車両(自動車)を模式的に示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
【0014】
ここに開示される技術は、負極活物質とCMCとSBRとを含む負極を備える二次電池に適用することができる。
負極活物質としては、一般的なリチウムイオン二次電池に用いられる負極活物質を使用することができる。好適な負極活物質として、高結晶性炭素粒子(以下、芯粒子ということもある。)の表面に低結晶性炭素(非晶質炭素であり得る。)を有する複合炭素材料が挙げられる。上記高結晶性炭素粒子としては、グラファイト構造(層状構造)を主体とする粒子状の炭素材料を好ましく用いることができる。かかる負極活物質は、典型的には、芯粒子と非晶質炭素(アモルファスカーボン)膜を形成し得るコート原料とを混合し、該芯粒子表面に付着した該コート原料を炭化させることにより形成することができる。
【0015】
上記芯粒子としては、天然黒鉛、人工黒鉛等の、各種黒鉛材料(芯材)を用いることができる。粒子状(球状)にメカニカル加工(解砕、球状成形等)された黒鉛材料を芯材として好ましく採用し得る。上記芯粒子の平均粒径は、6μm〜20μm(典型的には6μm〜15μm)程度であることが好ましい。その比表面積(被覆前)は、5〜15m/g(典型的には8〜13m/g)程度であることが好ましい。芯材を粒子状に加工する方法としては、従来公知の方法を特に制限なく採用することができる。なお、本明細書中における「平均粒径」とは、特記しない限り、レーザ散乱・回折法に基づく粒度分布測定装置に基づいて測定した粒度分布における積算値50%での粒径(50%体積平均粒子径;以下、D50と略記する場合もある。)を意味するものとする。
【0016】
上記コート原料としては、採用する非晶質炭素コート形成方法に応じて、炭素質の被膜を形成し得る材料を適宜選択して用いることができる。コート形成方法としては、例えば、不活性ガス雰囲気下において芯粒子(黒鉛質粒子)表面に気相中のコート原料を蒸着させるCVD(Chemical Vapor Deposition)法等の気相法;コート原料を適当な溶媒で希釈してなる溶液を芯粒子に混ぜ合わせた後、不活性ガス雰囲気下において、該コート原料を焼成・炭化させる液相法;芯粒子およびコート原料を、溶媒を用いずに混練した後、不活性ガス雰囲気下において焼成・炭化させる固相法;等の、従来公知の方法を適宜採用することができる。
【0017】
CVD法のコート原料としては、熱やプラズマ等により分解されて上記芯粒子表面に炭素膜を形成し得る化合物(ガス)を用いることができる。かかる化合物としては、エチレン、アセチレン、プロピレン等の不飽和脂肪族炭化水素;メタン、エタン、プロパン等の飽和脂肪族炭化水素;ベンゼン、トルエン、ナフタレン等の芳香族炭化水素;等の各種炭化水素化合物が挙げられる。これら化合物は、一種のみを用いてもよく、二種以上の混合ガスとして用いてもよい。CVD処理を施す温度、圧力、時間等は、使用するコート原料の種類や所望のコート量に応じて適宜選択すればよい。
【0018】
液相法のコート原料としては、各種溶媒に可溶であり、且つ熱分解されて上記芯粒子表面に炭素膜を形成し得る化合物を用いることができる。好適例として、コールタールピッチ、石油ピッチ、木タールピッチ等のピッチ類等が挙げられる。これらは、一種のみを単独で、あるいは二種以上を組み合わせて用いることができる。焼成の温度および時間は、非晶質炭素膜が生成されるよう、コート原料の種類等に応じて適宜選択すればよい。典型的には、凡そ800℃〜1600℃(例えば凡そ800℃〜1200℃)の範囲で、例えば5〜20時間程度焼成すればよい。
【0019】
固相法のコート原料としては、液相法と同様のものを、一種または二種以上用いることができる。焼成の温度および時間については、コート原料の種類等に応じて適宜選択すればよく、例えば、液相法と同程度の範囲とすることができる。
【0020】
いずれのコート形成方法を採用する場合においても、必要に応じて、上記コート原料に各種添加剤(例えば、上記コート原料の非晶質炭素化に有効な添加剤等)を配合することができる。
【0021】
上記複合炭素材料に占める非晶質炭素のコート量は、例えば0.5〜8質量%(典型的には2〜8質量%、好ましくは3〜6質量%)程度とすることができる。コート量が少なすぎると、非晶質炭素をコートすることによる特性向上効果(自己放電の抑制等)が十分に発揮されない場合があり得る。コート量が多すぎると、非晶質炭素が有する不可逆容量が増加するため、電池容量が低下傾向となり得る。
芯粒子とコート原料との混合割合は、適用するコーティング法に応じて、適当な後処理(不純物や未反応物の除去等)を行った後のコート量が上記範囲となるように適宜選択すればよい。
【0022】
ここに開示される技術における負極活物質は、その表面のXPS分析によって求められる酸素(O)と炭素(C)との原子数比の値(O/C値)が1.0以下(典型的には0.1以上1.0以下、例えば0.2以上1.0以下)であることによって特徴づけられる。O/C値が大きすぎると、負極スラリーの粘度(調製直後の粘度)が高くなりがちであり、また調製後の負極スラリーの粘度が上昇(増粘)しやすくなる傾向にある。O/C値が1.0未満(例えば0.25以上1.0未満、あるいは0.5以上1.0未満)の負極活物質を用いてもよい。このO/C値は、例えば、芯材や複合炭素材料を粒子状(球状)にメカニカル加工(解砕、球状成形等)する際に、解砕機の回転数を調整すること等により芯粒子や複合炭素粒子にかかる機械的シェアを制御することによって調整することができる。これは、メカニカル加工(解砕)の際、芯粒子(黒鉛粒子)または複合炭素粒子の少なくとも表面に、雰囲気中の酸素や水分に由来する官能基が取り込まれる(結合する)現象を利用することで実現され得る。例えば、該メカニカル加工(解砕)をより強い力および/またはより高い回転速度(回転数)で実施することによって、より多くの官能基(典型的には、Oを有する官能基)が取り込まれ得る。上記官能基の導入には、コート付き芯材の解砕工程を利用することが特に効果的である。ここに開示される技術には、負極活物質として上記複合炭素材料を用いる態様において、負極活物質のO/C値が1.0以下となるように芯材またはコート付芯材(複合炭素)の解砕を実施することを含む非水二次電池製造方法が包含される。
【0023】
上記負極活物質の平均粒径は、例えば、6〜15μm程度であり得る。また、該活物質の比表面積は、例えば、3〜5m/g程度であり得る。比表面積が小さすぎると、充放電時に十分な電流密度が得られないことがある。比表面積が大きすぎると、不可逆容量が増加するなどして電池容量が低下する場合がある。上記比表面積としては、窒素吸着法により測定された値(BET比表面積)を採用するものとする。
【0024】
上記負極活物質は、JIS K 5101−13−2に準じて煮あまに油法により測定された吸油量が、52〜62mL/100g程度であり得る。当該吸油量は、負極活物質のCMCに対する親和性を示す指標となり得る。該吸油量が小さすぎると、負極スラリーの粘度が低くなり、保存性が低下傾向となる(例えば、沈降しやすくなる)場合がある。該吸油量が大きすぎると、負極スラリーの粘度が高くなりすぎて塗工性や保存性が低下傾向となる(例えば、増粘しやすくなる)場合があり、あるいは、スラリーを塗工性の良い粘度に調製するために使用し得るCMCの量が少なくなる場合がある。ポリマーによる増粘が少ない負極スラリーは、負極活物質(典型的には粒子状)によるダイラタンシ現象が顕著に発現して塗工性(レベリング性等)が低くなりがちであり、塗工時にスジ引き等を起こしやすい。
【0025】
上記吸油量の測定は、JIS K 5101−13−2に準じて実施する。詳しくは、測定対象たる負極活物質のサンプルと煮あまに油を少しずつ混練し、ヘラを用いてらせん状に巻くことができる状態になったときの、サンプル100g当たりの煮あまに油使用量を求める。
【0026】
CMC(典型的にはナトリウム塩)は、セルロースの誘導体であって、典型的には負極スラリーの増粘剤として用いられる。一種のCMCを使用してもよく、二種以上のCMCを適宜組み合わせて用いてもよい。CMCは、水酸基を有する高分子であるので、負極スラリーにおいて、分散安定剤としても機能し得る。負極スラリーの調製において、溶媒に添加するCMCは粉末状であり得る。かかる態様は、負極スラリーのNVを比較的高く(典型的には50%以上、例えば50%〜55%程度に)設定した場合に特に好ましく採用することができる。負極活物質層に含まれるCMCの量は、0.6〜0.8質量%程度が好ましい。CMC量が多すぎると、得られる二次電池の内部抵抗(特に、低温(例えば、−25℃)における内部抵抗)が高くなりすぎる場合がある。
ここに開示される技術では、Mwが30×10以上40×10以下のCMCを好ましく使用し得る。なお、本明細書におけるCMCのMwは、特記しない限り、GPC(Gel Permiation Chromatography)−LALLS(Low−angle laser light scattering;低角度光散乱高度計)法により測定された値を指すものとする。
【0027】
SBRは、スチレンとブタジエンとの共重合体であって、典型的には活物質粒子や導電材粒子の結着剤として用いられる。一種のSBRを用いてもよく、二種以上のSBRを適宜組み合わせて用いてもよい。スチレンおよびブタジエン以外のモノマーが共重合されたSBRであってもよい。スチレンとブタジエンとの合計量がモノマー総量の50質量%以上(典型的には75質量%以上、例えば90質量%以上)を占めることが好ましい。負極スラリーの調製において、SBRは、SBRが水性溶媒(典型的には水)に分散した水性エマルション(ラテックス)の態様で使用され得る。かかる態様のSBRとしては、ポリマー中にカルボキシル基が導入されたSBRを好ましく採用することができる。あるいは、スチレンとブタジエン以外のモノマーが実質的に共重合されていない(スチレンおよびブタジエン以外のモノマーの含有率がモノマー総量の5質量%以下、さらには1質量%以下である)SBRを使用してもよい。負極活物質層に含まれるSBRの量は、0.5〜0.9質量%(例えば、0.5〜0.8質量%)程度が好ましい。
【0028】
負極活物質層は、これら構成材料を水性溶媒(典型的には水であり、水の他にアルコール等の水溶性有機溶媒を含む混合溶媒であってもよい。)と混合して得られる負極スラリーを負極集電体上に付与し、乾燥・圧延することによって形成することができる。ここに開示される技術によると、負極スラリーのNVを比較的高く(典型的には50%以上、例えば50%〜55%程度に)設定しても、薄くて密度ムラの少ない(好ましくは、密度ムラが実質的に認められない)負極活物質層を効率よく形成することができる。また、負極スラリーに含まれる溶媒量がより少ないので、乾燥時間を短縮して、より効率よく(生産性よく)二次電池を構築することができる。溶媒量が少ない(NVが高い)ことは、乾燥にかかるエネルギーコスト低減の観点からも有利である。
【0029】
負極スラリーの調製は、例えば以下の手順で行うことができる。まず、負極活物質とCMCとを乾式混合する(乾式混合工程)。この乾式混合品に、最終的な目標NVよりも少ない量の水(例えばイオン交換水)を加えて混練し、高粘度の中間混合物を調製する(一次混練工程)。次いで、上記高粘度の中間混合物に、さらに水(例えばイオン交換水)を加えて混練し、低粘度の中間混合物を調製する(二次混練工程)。その後、上記低粘度の中間混合物にSBRを投入し、混合して分散させる(結着剤投入・分散工程)。そして、混合容器を減圧にして混合物中の気泡を除去し、目的とする負極スラリーを得る。
【0030】
上記負極スラリーの粘度は、500〜1500mPa・s程度であり得る。例えば、600〜1000mPa・s程度が好ましい。該粘度としては、E型粘度計により、20rpm、30℃の条件で測定される値を採用するものとする。粘度が高すぎると、時間の経過に伴い粘度がさらに増加して、スラリーの取扱いが困難になったり、一定の(高精度の)目付量で負極集電体へ塗工することが困難になったりすることがある。粘度が低すぎると、時間の経過に伴い沈降が起こって、保存容器中の負極スラリーの上部と下部とで粘度に差が生じ、塗工時の目付量を一定に維持することが困難になることがあり得る、また、負極集電体に負極スラリーが結着しにくくなることがあり得る。
【0031】
好ましい一態様において、上記負極スラリーは、上述した数値範囲の粘度に調製したスラリーを温度25℃、相対湿度50%にて密閉容器中で3日間保存した際、3日経過時点における粘度が上述の数値範囲内に収まっている(例えば、初期粘度(スラリー調製直後の粘度)および3日経過後の粘度がいずれも500〜1500mPa・s、好ましくは600〜1000mPa・sの範囲にある)程度の保存性を示し得る。また、3日間経過後に容器の上部から採取したスラリーのNVに対して、容器の下部から採取したスラリーのNVの変化率が1.5%以内となる地度の保存性を示し得る。
【0032】
上記負極スラリーを負極集電体上に付与する方法は特に制限されず、従来公知の方法を適宜採用することができる。好ましい方法としては、スリットダイによる塗工法が例示される。負極集電体に上記負極スラリーを塗工する場合、該集電体片面への塗工量を4mg/cm以下とすることができる。ここに開示される技術によると、負極スラリーのNVを比較的高く(50%以上、例えば、50%〜55%程度;典型的には、54%)設定し、かつ4mg/cm以下という低い目付量であっても、塗工時にスジ引きやダマ形成等が起こり難く、薄くて密度バラツキの少ない負極活物質層を形成することができる。乾燥・圧延後の負極活物質層密度は、例えば1.3g/mL以下(典型的には、1.05g/mL以上1.20g/mL以下)であり得る。
【0033】
上記負極スラリーは、負極集電体上に上記目付量で付与した場合、例えば、炉長9m、温度150℃、ライン速度30m/分の条件で乾燥させた場合であっても、ひび割れを起こすことなく、密度バラツキの抑制された負極活物質層を形成可能なものであり得る。このようにして形成された乾燥後の負極活物質層に含まれる水の量は、300ppm以下であり得る。この水分量は、例えば、カールフィッシャー法によって測定することができる。
【0034】
本発明によると、ここに開示されるいずれかの方法によって製造されたリチウムイオン二次電池が提供される。
【0035】
以下、かかる方法について、電極体および非水電解液を角型形状の電池ケースに収容した構成のリチウムイオン二次電池100(図1)を例にして詳細に説明するが、ここに開示される技術はかかる実施形態に限定されない。すなわち、ここに開示される方法によって得られるリチウムイオン二次電池の形状は特に限定されず、その電池ケース、電極体等は、用途や容量に応じて、素材、形状、大きさ等を適宜選択することができる。例えば、電池ケースは、直方体状、扁平形状、円筒形状等であり得る。なお、以下の図面において、同じ作用を奏する部材・部位には同じ符号を付し、重複する説明は省略又は簡略化することがある。また、各図における寸法関係(長さ、幅、厚さ等)は実際の寸法関係を反映するものではない。
【0036】
リチウムイオン二次電池100は、図1および図2に示されるように、捲回電極体20を、電解液90とともに、該電極体20の形状に対応した扁平な箱状の電池ケース10の開口部12より内部に収容し、該ケース10の開口部12を蓋体14で塞ぐことによって構築することができる。また、蓋体14には、外部接続用の正極端子38および負極端子48が、それら端子の一部が蓋体14の表面側に突出するように設けられている。
【0037】
上記非水電解液に含まれる支持塩としては、一般的なリチウムイオン二次電池に支持塩として用いられるリチウム塩を、適宜選択して使用することができる。かかるリチウム塩として、LiPF、LiBF、LiClO、LiAsF、Li(CFSON、LiCFSO等が例示される。かかる支持塩は、一種のみを単独で、または二種以上を組み合わせて用いることができる。特に好ましい例として、LiPFが挙げられる。上記非水電解液は、例えば、上記支持塩の濃度が0.7〜1.6mol/Lの範囲内となるように調製することが好ましい。
【0038】
上記非水溶媒としては、一般的なリチウムイオン二次電池に用いられる有機溶媒を適宜選択して使用することができる。特に好ましい非水溶媒として、エチレンカーボネート(EC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、プロピレンカーボネート(PC)等のカーボネート類が例示される。これら有機溶媒は、一種のみを単独で、または二種以上を組み合わせて用いることができる。例えば、ECとEMCとDMCとを適当な体積比で混合した溶媒を用いることができる。
【0039】
上記電極体20は、長尺シート状の正極集電体32の表面に正極活物質層34が形成された正極シート30と、長尺シート状の負極集電体42の表面に負極活物質層44が形成された負極シート40とを、2枚の長尺シート状のセパレータ50と共に重ね合わせて捲回し、得られた捲回体を側面方向から押しつぶして拉げさせることによって扁平形状に成形されている。
【0040】
上記正極シート30の長手方向に沿う一方の端部は、正極集電体32が露出している。すなわち、該端部には、正極活物質層34が形成されていないか、形成後に除去されている。同様に、捲回される負極シート40の長手方向に沿う一方の端部は、負極集電体42が露出している。そして、正極集電体32の該露出端部に正極端子38が、負極集電体42の該露出端部には負極端子48がそれぞれ接合され、上記扁平形状に形成された捲回電極体20の正極シート30または負極シート40と電気的に接続されている。正負極端子38,48と正負極集電体32,42とは、例えば超音波溶接、抵抗溶接等によりそれぞれ接合することができる。
【0041】
また、上記負極活物質層44は、上述した方法により好ましく作製することができる。負極集電体42としては、導電性の良好な金属からなる導電性部材が好ましく用いられる。例えば、銅または銅を主成分とする合金を用いることができる。また、負極集電体42の形状は、リチウムイオン二次電池の形状等に応じて異なり得るため、特に制限はなく、棒状、板状、シート状、箔状、メッシュ状等の種々の形態であり得る。本実施形態のように捲回電極体20を備えるリチウムイオン二次電池100では、シート状の銅製の負極集電体42が好ましく使用され得る。かかる実施形態では、負極集電体として、例えば、厚みが5μm〜30μm程度の銅製シートが好ましく使用され得る。
【0042】
上記正極活物質層34は、例えば、正極活物質を、必要に応じて導電材、結着剤(バインダ)等とともに適当な溶媒に分散させたペーストまたはスラリー状の組成物(正極スラリー)を正極集電体32に付与し、該組成物を乾燥させることにより好ましく作製することができる。
【0043】
正極活物質としては、リチウムを吸蔵および放出可能な材料が用いられ、従来からリチウムイオン二次電池に用いられる物質(例えば層状構造の酸化物やスピネル構造の酸化物)の一種または二種以上を特に限定することなく使用することができる。例えば、リチウムニッケル系複合酸化物、リチウムコバルト系複合酸化物、リチウムマンガン系複合酸化物等のリチウム含有複合酸化物が挙げられる。
ここで、リチウムニッケル系複合酸化物とは、リチウム(Li)とニッケル(Ni)とを構成金属元素とする酸化物のほか、リチウムおよびニッケル以外に他の少なくとも一種の金属元素(すなわち、LiとNi以外の遷移金属元素および/または典型金属元素)を、原子数換算でニッケルと同程度またはニッケルよりも少ない割合(典型的にはニッケルよりも少ない割合)で構成金属元素として含む酸化物をも包含する意味である。上記LiおよびNi以外の金属元素は、例えば、コバルト(Co),アルミニウム(Al),マンガン(Mn),クロム(Cr),鉄(Fe),バナジウム(V),マグネシウム(Mg),チタン(Ti),ジルコニウム(Zr),ニオブ(Nb),モリブデン(Mo),タングステン(W),銅(Cu),亜鉛(Zn),ガリウム(Ga),インジウム(In),スズ(Sn),ランタン(La)およびセリウム(Ce)からなる群から選択される一種または二種以上の金属元素であり得る。なお、リチウムコバルト系複合酸化物およびリチウムマンガン系複合酸化物についても同様の意味である。
また、一般式がLiMPO(MはCo、Ni、Mn、Feのうちの少なくとも一種以上の元素;例えばLiFePO、LiMnPO)で表記されるオリビン型リン酸リチウムを上記正極活物質として用いてもよい。
正極スラリーに含まれる正極活物質の量は、適宜選択することができ、例えば、80〜95質量%程度とすることができる。
【0044】
導電材としては、カーボン粉末やカーボンファイバー等の導電性粉末材料が好ましく用いられる。カーボン粉末としては、種々のカーボンブラック、例えば、アセチレンブラック、ファーネスブラック、ケッチェンブラック、グラファイト粉末等が好ましい。導電材は、一種のみを単独で、または二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0045】
結着剤(正極スラリーの増粘剤としても機能し得る。)としては、例えば、水に溶解する水溶性ポリマーや、水に分散するポリマー、非水溶媒(有機溶媒)に溶解するポリマー等から適宜選択して用いることができる。また、一種のみを単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
水溶性ポリマーとしては、例えば、カルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース(MC)、酢酸フタル酸セルロース(CAP)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート(HPMCP)、ポリビニルアルコール(PVA)等が挙げられる。
水分散性ポリマーとしては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重含体(PFA)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)等のフッ素系樹脂、酢酸ビニル共重合体、スチレンブタジエンブロック共重合体(SBR)、アクリル酸変性SBR樹脂(SBR系ラテックス)、アラビアゴム等のゴム類等が挙げられる。
非水溶媒(有機溶媒)に溶解するポリマーとしては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)、ポリエチレンオキサイド(PEO)、ポリプロピレンオキサイド(PPO)、ポリエチレンオキサイド−プロピレンオキサイド共重合体(PEO−PPO)等が挙げられる。
【0046】
正極集電体32には、導電性の良好な金属からなる導電性部材が好ましく用いられる。例えば、アルミニウムまたはアルミニウムを主成分とする合金を用いることができる。正極集電体32の形状は、リチウムイオン二次電池の形状等に応じて異なり得るため、特に制限はなく、棒状、板状、シート状、箔状、メッシュ状等の種々の形態であり得る。本実施形態のように捲回電極体20を備えるリチウムイオン二次電池100では、シート状のアルミニウム製の正極集電体32が好ましく使用され得る。かかる実施形態では、正極集電体として、例えば、厚みが10μm〜30μm程度のアルミニウムシートが好ましく使用され得る。
【0047】
上記セパレータ50は、正極シート30および負極シート40の間に介在するシートであって、正極シート30の正極活物質層34と、負極シート40の負極活物質層44とにそれぞれ接するように配置される。そして、正極シート30と負極シート40における両電極活物質層34,44の接触に伴う短絡防止や、該セパレータ50の空孔内に上記電解液を含浸させることにより電極間の伝導パス(導電経路)を形成する役割を担っている。かかるセパレータ50としては、従来公知のものを特に制限なく使用することができる。例えば、樹脂からなる多孔性シート(微多孔質樹脂シート)を好ましく用いることができる。ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン等の多孔質ポリオレフィン系樹脂シートが好ましい。特に、PP/PE/PP三層シートその他PE層とPP層とが積層された多層構造シート、PEシート、PPシート等を好適に使用し得る。セパレータの厚みは、例えば、凡そ10μm〜40μmの範囲内で設定することが好ましい。
【0048】
以下、本発明に関するいくつかの実施例を説明するが、本発明をかかる実施例に示すものに限定することを意図したものではない。以下の説明において「部」および「%」は、特に断りがない限り質量基準である。なお、以下の全ての例において、CMC(ナトリウム塩)としては粉末状のものを使用した。
【0049】
<例1>
天然黒鉛を解砕し、球形化および篩分けを行って、球状天然黒鉛を調製した。この球状天然黒鉛と石炭ピッチとを含む混合物を、温度860℃に8時間保持して、アモルファスカーボンからなる層によって被覆された天然黒鉛(5質量%のアモルファスカーボンを含む複合炭素材料)を得た。これをピンミル式の解砕装置を用い、所定の解砕回転数にて解砕した後、篩分して、表1に示す平均粒径を有する負極活物質(複合炭素粒子)A1を得た。該負極活物質A1につき、JIS K 5101−13−2に準じて煮あまに油法により測定された吸油量(以下、単に吸油量と称する場合もある。)を表1に示す。また、比表面積測定装置(Mountech社製、型式「Macsorb HM model−1208」)を用いて窒素吸着法により測定された比表面積を表1に示す。XPSスペクトル(アルバック・ファイ社製、型式「PHI−5700」を用いて測定した。)から算出されたO/C値を表1に示す。
【0050】
負極活物質A1とCMC(ナトリウム塩,Mw=30×10)とSBRとを、これらの合計質量を100%としてCMCの割合が0.7%、SBRの割合が0.7%であり且つNVが54%となるようにイオン交換水とともに攪拌装置(プライミクス株式会社製の商品名「T.K.ハイビスミックス」)に投入し、攪拌速度50rpmにて60分間混練して、E型粘度計により測定された混練完了直後の粘度(回転数20rpm,測定温度30℃;以下、初期粘度ということもある。)が2540mPa・sの負極スラリーを得た。このスラリーを、スリットダイを用い、塗工速度30m/秒および目付量(各面)4mg/cmの条件にて、厚さ10μmの銅箔の片面毎に塗工し、炉長9m、温度150℃、ライン速度30m/分の乾燥ラインに通して乾燥させた。その後、圧延して、活物質層密度が1.2g/cmの負極シートを得た。
【0051】
<例2>
Mwが25×10のCMC(ナトリウム塩)を用いた他は例1と同様にして、混練完了直後の粘度(初期粘度)が2070mPa・sのスラリーを得た。この負極スラリーを用いた他は例1と同様にして負極シートを得た。
【0052】
<例3>
アモルファスカーボン層を形成した後の解砕工程における解砕回転数を、負極活物質A1の製造時の4/5(すなわち80%)の回転数とした。その他の点については例1と同様にして、表1に示す平均粒径、吸油量、比表面積およびO/C値を有する負極活物質A3を得た。負極活物質A3およびMwが42×10のCMC(ナトリウム塩)を用いた他は例1と同様にして、初期粘度1600mPa・sのスラリーを得た。この負極スラリーを用いた他は例1と同様にして負極シートを得た。
【0053】
<例4>
Mwが40×10のCMC(ナトリウム塩)を用いた他は例3と同様にして、初期粘度950mPa・sのスラリーを得た。この負極スラリーを用いた他は例1と同様にして負極シートを得た。
【0054】
<例5>
Mwが30×10のCMC(ナトリウム塩)を用いた他は例3と同様にして、初期粘度760mPa・sのスラリーを得た。この負極スラリーを用いた他は例1と同様にして負極シートを得た。
【0055】
<例6>
Mwが25×10のCMC(ナトリウム塩)を用いた他は例3と同様にして、初期粘度620mPa・sのスラリーを得た。この負極スラリーを用いた他は例1と同様にして負極シートを得た。
【0056】
<例7>
アモルファスカーボン層を形成した後の解砕工程における解砕回転数を、負極活物質A1の製造時の3/5の回転数とした。その他の点については例1と同様にして、表1に示す平均粒径、吸油量、比表面積およびO/C値を有する負極活物質A7を得た。負極活物質A7およびMwが40×10のCMC(ナトリウム塩)を用いた他は例1と同様にして、初期粘度830mPa・sのスラリーを得た。この負極スラリーを用いた他は例1と同様にして負極シートを得た。
【0057】
<例8>
Mwが30×10のCMC(ナトリウム塩)を用いた他は例7と同様にして、初期粘度640mPa・sのスラリーを得た。この負極スラリーを用いた他は例1と同様にして負極シートを得た。
【0058】
<例9>
Mwが25×10のCMC(ナトリウム塩)を用いた他は例7と同様にして、初期粘度410mPa・sのスラリーを得た。この負極スラリーを用いた他は例1と同様にして負極シートを得た。
【0059】
<例10>
アモルファスカーボン層を形成した後の解砕工程における解砕回転数を、負極活物質A1の製造時の1/2の回転数とした。その他の点については例1と同様にして、表1に示す平均粒径、吸油量、比表面積およびO/C値を有する負極活物質A10を得た。負極活物質A10およびMwが40×10のCMC(ナトリウム塩)を用いた他は例1と同様にして、初期粘度750mPa・sのスラリーを得た。この負極スラリーを用いた他は例1と同様にして負極シートを得た。
【0060】
<例11>
Mwが30×10のCMC(ナトリウム塩)を用いた他は例10と同様にして、初期粘度570mPa・sのスラリーを得た。この負極スラリーを用いた他は例1と同様にして負極シートを得た。
【0061】
<例12>
Mwが25×10のCMC(ナトリウム塩)を用いた他は例10と同様にして、初期粘度360mPa・sのスラリーを得た。この負極スラリーを用いた他は例1と同様にして負極シートを得た。
【0062】
<例13>
CMC量を0.6%とした他は例10と同様にして、初期粘度620mPa・sのスラリーを得た。この負極スラリーを用いた他は例1と同様にして負極シートを得た。
【0063】
<例14>
CMC量を0.5%とした他は例10と同様にして、初期粘度510mPa・sのスラリーを得た。この負極スラリーを用いた他は例1と同様にして負極シートを得た。
【0064】
<例15>
CMC量を0.6%とした他は例11と同様にして、初期粘度520mPa・sのスラリーを得た。この負極スラリーを用いた他は例1と同様にして負極シートを得た。
【0065】
<例16>
CMC量を0.5%とした他は例11と同様にして、初期粘度440mPa・sのスラリーを得た。この負極スラリーを用いた他は例1と同様にして負極シートを得た。
【0066】
[保存性評価]
(沈降性)
温度25℃、相対湿度50%にて、各例に係る負極スラリー500mLを密閉容器中に3日間(72時間)保存した。その後、各負極スラリーの上部から採取したサンプル(空気を吸い込まないように注意しながら容器最上部のスラリーを数mL採取した。)および下部から採取したサンプル(容器下部に設けられたスラリー排出口から数十mLのスラリーを排出し、そのなかから数mLを採取した。)のNVを測定し、NVの変化率を算出した。
(増粘性)
3日間保存後のスラリーを軽く撹拌した後にサンプルを採取し、初期粘度の測定と同様の条件で保存後粘度を測定した。
これらの結果から、各負極スラリーの保存性を以下のとおり評価した。
良:保存後粘度が500〜1000mPa・sの範囲にあった。
増粘:保存後粘度が1500mP・sよりも高かった(保存性不良)。
沈降:保存後における上部と下部とのサンプルのNV変化率が1.5%以上であった(保存性不良)。
【0067】
[塗工性評価]
負極スラリーを銅箔に塗付した際、目付量にバラツキが認められなかった場合(得られた負極シートの目付量を、該負極シートの長手方向の2点(塗工始めと塗工終わり)について、それぞれ幅方向の3点で実測した。それら6点の実測値のうちの最大値と最小値との差が±0.1mg/cmの範囲内にあった場合)には塗工性を良とし、バラツキが認められた場合(最大値と最小値との差が上記範囲外であった場合)には塗工性を不良として評価した。
【0068】
[結着性評価]
得られた負極シートを、市販のスリッターを用い、負極シートの長手方向に沿って、負極活物質層のほぼ幅中央で二本に切断した。その切断部を目視で観察し、負極活物質層が集電体(銅箔)から剥離(脱落)した部分が認められなかった場合は結着性良、かかる剥離部分が認められた場合は結着性不良と評価した。
【0069】
負極活物質A1,A3,A7,A10の特性を表1に示す。例1〜16に係る各負極スラリーおよび該スラリーを用いて作製した負極シートにつき行った上記評価試験の結果を表2に示す。
【0070】
【表1】

【0071】
【表2】

【0072】
表2に示されるとおり、平均粒径および比表面積が同程度である4種の負極活物質のうち、O/C値が1.0を超える負極活物質A1を用いてなる例1,2の各負極スラリーは、Mwの比較的低いCMCを用いてもなお初期粘度が非常に高く、保存により更なる増粘が認められ、塗付時の目付量にバラツキが生じた。これらの結果から、負極活物質のO/C値が1.0を超える負極活物質を含む負極スラリーは、保存性および塗工性がいずれも不十分となりやすいことが確認された。
O/C値が1.0以下の負極活物質A3,A7またはA10を用い、且つMwが30×10〜40×10の範囲にあるCMCを少なくとも0.6〜0.7%程度の割合で含む例4,5,7,8,10,11,13,15の各負極スラリーは、保存性、塗工性、結着性ともに良好であった。
負極活物質のO/C値が1.0以下であっても、Mwが30×10未満のCMCを用いた例6,9,12の各負極スラリー、Mwが40×10超のCMCを用いた例3の負極スラリー、および、CMC(Mw=30×10〜40×10)の割合(固形分基準)が0.6%未満の例14,16の負極スラリーは、いずれも保存性、塗工性、および結着性のうち少なくとも一つの特性が不十分であった。
これらの結果から、O/C値が1.0以下の負極活物質を用い、且つMwが30×10〜40×10の範囲にあるCMCを少なくとも0.6〜0.7%程度の割合で含む負極スラリーは、NVが比較的高くても(ここでは54%)、保存性(保存時の粘度安定性)に優れ、また銅箔に薄く塗付する場合にも目付量が一定の(場所によるバラツキの少ない)優れた塗工性を示し、且つ銅箔に対する十分な結着性が実現されることが確認された。
【0073】
次に、O/C値が1.0以下の負極活物質A3を用い、且つMwが30×10〜40×10の範囲にあるCMCを0.6〜1.0%の割合で含む負極スラリーを調製し、上記と同様に評価した。さらに、これらの負極スラリーを用いて形成した負極シートを含む角型電池を構築して、各電池の低温性能を評価した。
【0074】
<例17>
CMC量を1.0%とした他は例4と同様にして、初期粘度1820mPa・sのスラリーを得た。この負極スラリーを用いた他は例1と同様にして負極シートを得た。
LiNi1/3Co1/3Mn1/3(正極活物質)とアセチレンブラック(導電材)とPVDF(結着剤)とを、これらの質量比が87:10:3となるように混合し、NVが50%となるようにNMPに分散させて、正極スラリーを得た。この正極スラリーを、厚さ15μmのアルミニウム箔(正極集電体)の両面に塗布して乾燥させた後、プレスして正極シートを得た。
ECとEMC(MEC(メチルエチルカーボネート)と称されることもある。)とDMCとを体積比3:3:4の割合で含む混合溶媒中に、LiPFを1mol/Lの濃度となるように溶解して非水電解液を調製した。
適当な大きさに切り出した上記正極シートおよび負極シートを、上記電解液を含浸させたセパレータ(ポリプロピレン/ポリエチレン/ポリプロピレン三層シート)とともに重ね合わせて捲回し、得られた捲回電極体を扁平形状に押しつぶして角型容器に収容した。この容器に上記電解液を注入し、該容器を封止して容量が4Ahの角型電池を構築した。
【0075】
<例18>
CMC量を0.9%とした他は例4と同様にして、初期粘度1400mPa・sのスラリーを得た。この負極スラリーを用いた他は例1と同様にして負極シートを得た。この負極シートを用い、例17と同様にして角型電池を構築した。
【0076】
<例19>
CMC量を0.8%とした他は例4と同様にして、初期粘度1130mPa・sのスラリーを得た。この負極スラリーを用いた他は例1と同様にして負極シートを得た。この負極シートを用い、例17と同様にして角型電池を構築した。
【0077】
<例20>
例4の負極シートを用い、例17と同様にして角型電池を構築した。
【0078】
<例21>
CMC量を1.0%とした他は例5と同様にして、初期粘度1290mPa・sのスラリーを得た。この負極スラリーを用いた他は例1と同様にして負極シートを得た。この負極シートを用い、例17と同様にして角型電池を構築した。
【0079】
<例22>
CMC量を0.9%とした他は例5と同様にして、初期粘度1140mPa・sのスラリーを得た。この負極スラリーを用いた他は例1と同様にして負極シートを得た。この負極シートを用い、例17と同様にして角型電池を構築した。
【0080】
<例23>
CMC量を0.8%とした他は例5と同様にして、初期粘度920mPa・sのスラリーを得た。この負極スラリーを用いた他は例1と同様にして負極シートを得た。この負極シートを用い、例17と同様にして角型電池を構築した。
【0081】
<例24>
例5の負極シートを用い、例17と同様にして角型電池を構築した。
【0082】
[電池のコンディショニング]
例17〜24の各電池に対して、1/10Cのレートで3時間の定電流(CC)充電を行い、次いで、1/3Cのレートで4.1Vまで充電する操作と、1/3Cのレートで3.0Vまで放電させる操作とを3回繰り返した。なお、1Cは、当該電池を1時間で満充放電できる電流値を指す。
【0083】
[低温IV抵抗の測定]
コンディショニングした後にSOC(State of Charge;充電状態)を30%に調整した例17〜24の各電池を、温度−25℃において7.5C(ここでは30A)のレートで10秒間放電させ、10秒経過時点での電圧降下から電池抵抗(低温IV抵抗)を算出した。その結果を表3に示す。
【0084】
【表3】

【0085】
表3に示されるとおり、負極活物質のO/C値およびCMCのMwが好ましい範囲であっても、CMCの割合が0.9%以上の負極スラリーによると、保存性および塗工性が不十分となったり、低温での内部抵抗が35mΩ以上と高くなったりする場合があることがわかった。これらの結果から、O/C値が1.0以下の負極活物質を用い、且つMwが30×10〜40×10の範囲にあるCMCを0.6〜0.8%の範囲で含む負極スラリーによると、良好な保存性、塗工性、および結着性が実現されるだけでなく、低温における内部抵抗が十分に抑制された非水二次電池の構成部材として好ましい負極シートが実現され得ることが確認された。
【0086】
次に、上記で調製した例19の負極スラリーの目付量(各面)が3mg/cmとなるように塗工条件を調整し、その他の点については例1と同様にして塗付・乾燥を行った。そして、上記の各例に係る負極スラリーの塗工速度をそれぞれ3.5/3倍(目標目付量3.5mg/cm)、4/3倍(目標目付量4mg/cm)、4.2/3倍(目標目付量4.2mg/cm)に変更して同様に塗付・乾燥を行い、実際の目付量を測定した。そして、各目標目付量について、使用した負極スラリー間での目付量(実測値)の差を、それらの負極スラリー間の粘度差500mPa当たりの値に換算することにより、負極スラリーの粘度に対する目付量の感度(目付量の粘度依存性)を評価した。得られた結果を表4に示す。
【0087】
【表4】

【0088】
表4に示されるとおり、目付量が大きくなる(塗工量が多くなる)につれて、粘度に対する目付量の相違(感度)が大きくなることが確認された。特に、目付量が4.0mg/cmを超えると、粘度の違いが目付量に及ぼす影響が顕著に増大することがわかった。上記感度が大きすぎると、使用時(塗工時)における負極スラリーの粘度の非意図的な相違(バッチの違い、保存期間の違い等により生じ得る。)によって実際の目付量がバラツキやすくなり、あるいは塗工条件の調整が煩雑になる等の不都合が発生し得る。したがって、目付量の精度の高い負極シートを安定して且つ効率よく作製するという観点からは、目付量を4.0mg/cmとすることが有利である。
【0089】
次に、負極活物質のO/C値、CMCのMw、およびCMC量がいずれも低く設定された態様(負極スラリーの結着性が相対的に低くなりやすい態様)につき、SBR量が結着性に及ぼす影響を評価した。
【0090】
<例25>
SBR量を0.4%とした他は例15と同様にしてスラリーを調製した。この負極スラリーを用いた他は例1と同様にして負極シートを得た。この負極シートを用い、例17と同様にして角型電池を構築した。
【0091】
<例26>
SBR量を0.5%とした他は例15と同様にしてスラリーを調製した。この負極スラリーを用いた他は例1と同様にして負極シートを得た。この負極シートを用い、例17と同様にして角型電池を構築した。
【0092】
<例27>
SBR量を0.75%とした他は例15と同様にしてスラリーを調製した。この負極スラリーを用いた他は例1と同様にして負極シートを得た。この負極シートを用い、例17と同様にして角型電池を構築した。
【0093】
<例28>
SBR量を0.9%とした他は例15と同様にしてスラリーを調製した。この負極スラリーを用いた他は例1と同様にして負極シートを得た。この負極シートを用い、例17と同様にして角型電池を構築した。
【0094】
<例29>
SBR量を1%とした他は例15と同様にしてスラリーを調製した。この負極スラリーを用いた他は例1と同様にして負極シートを得た。この負極シートを用い、例17と同様にして角型電池を構築した。
なお、これら例25〜29に係る負極スラリーの初期粘度は、いずれも、例15の負極スラリーの初期粘度とほぼ同程度であった。
【0095】
例25〜29により得られた各負極シートおよび角形電池について、上記結着性評価および低温IV抵抗測定を行った。得られた結果を、対応する負極スラリーに係る結着性評価結果と併せて表5に示す。
【0096】
【表5】

【0097】
表5に示されるとおり、この態様では、SBR量が0.5%未満(より詳しくは、0.4%)である例25では負極活物質層の結着不良が認められた。また、SBR量が0.9%を超える例29は、負極活物質層の結着性は十分であったが、常温での内部抵抗は40mΩを超える値を示した。これらの結果から、かかる態様では、SBR量を0.5〜0.9%程度とすることにより、負極活物質のO/C値、CMCのMw、およびCMC量をいずれも比較的低く設定しても良好な結着性が発揮され、且つ常温における内部抵抗が40mΩ以下に抑制された電池が実現され得ることが確認された。さらに、SBR量を0.5〜0.8%程度とすることにより、常温における内部抵抗が35mΩ以下に抑制された、より高性能な電池が実現され得ることが確認された。
【0098】
次に、負極活物質のO/C値およびCMCのMwは低い設定のまま、CMC量およびSBR量を比較的高く設定した態様につき、乾燥・圧延後の負極シートに係る活物質層密度を異ならせた場合の電池性能(ハイレート充放電サイクル特性)を評価した。なお、活物質層密度は、圧延時における上下のプレスロール間のギャップを異ならせることにより調整した。
【0099】
<例30>
CMC量を0.8%、SBR量を0.9%とした他は例15と同様にして、初期粘度920mPa・sのスラリーを得た。この負極スラリーを用いて、活物質層密度を1.1g/cmに調整した他は例1と同様にして負極シートを得た。この負極シートを用い、例17と同様にして角型電池を構築した。
【0100】
<例31>
例30の負極スラリーを用いて、活物質層密度を1.2g/cmに調整した他は例1と同様にして負極シートを得た。この負極シートを用い、例17と同様にして角型電池を構築した。
【0101】
<例32>
例30の負極スラリーを用いて、活物質層密度を1.3g/cmに調整した他は例1と同様にして負極シートを得た。この負極シートを用い、例17と同様にして角型電池を構築した。
【0102】
<例33>
例30の負極スラリーを用いて、活物質層密度を1.4g/cmに調整した他は例1と同様にして負極シートを得た。この負極シートを用い、例17と同様にして角型電池を構築した。
【0103】
[ハイレート充放電サイクル特性]
コンディショニングの後にSOCを60%に調整した例30〜33の各電池を、温度25℃において25C(100A)のレートで10秒間放電させ、10秒経過時点で測定された電圧降下から電池抵抗(常温IV抵抗)を算出した。次いで、SOCを再び60%に調整して、下記条件の充放電サイクルを1000サイクル繰り返し、1000サイクル終了時点で同様に常温IV抵抗を測定した。1000サイクル終了後の常温IV抵抗(R1000)とサイクル試験開始前の常温IV抵抗(R)との差の開始前の常温IV抵抗に対する百分率((R1000−R)/R×100(%))を、サイクル試験後の常温IV抵抗増加率(%)として算出した。
充放電サイクル条件:
温度 : 0℃
充電レート : 2.5C(10A)
充電後休止時間: 600秒
放電レート : 25C(100A)
放電後休止時間: 600秒
【0104】
【表6】

【0105】
表6に示されるとおり、負極活物質O/C値およびCMCのMwを低く設定し、CMC量およびSBR量を高く設定した態様では、該負極スラリーを銅箔に塗付した後乾燥・圧延して負極シートを形成する際の活物質層密度を1.4g/cm未満とすることにより、25Cという極めて高いレートでの放電と2.5Cという比較的高いレートでの充電を繰り返しても、常温IV抵抗の増加率が10%以下に抑制され得ることが確認された。
【0106】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、請求の範囲を限定するものではない。請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【符号の説明】
【0107】
1 車両
20 捲回電極体
30 正極シート
32 正極集電体
34 正極活物質層
38 正極端子
40 負極シート
42 負極集電体
44 負極活物質層
48 負極端子
50 セパレータ
90 非水電解液
100 リチウムイオン二次電池

【特許請求の範囲】
【請求項1】
負極集電体上に負極活物質層を有する負極を備えた非水二次電池を製造する方法であって、
負極活物質とカルボキシメチルセルロースとスチレンブタジエンゴムとを溶媒中に含む負極スラリーを負極集電体上に付与し、乾燥させて負極活物質層を形成することを包含し、
ここで、前記カルボキシメチルセルロースは、重量平均分子量が30×10以上、40×10以下であり、
前記負極活物質層に含まれるカルボキシメチルセルロースの量が0.6〜0.8質量%の範囲にあり、かつ、
前記負極活物質は、その表面についてX線光電子分光法によって求められる酸素(O)の量と炭素(C)の量との原子数比の値(O/C値)が1.0以下である、非水二次電池製造方法。
【請求項2】
前記負極活物質層に含まれるスチレンブタジエンゴムの量が0.5〜0.9質量%の範囲にある、請求項1に記載の非水二次電池製造方法。
【請求項3】
前記負極活物質が、高結晶性炭素粒子の表面に低結晶性炭素を有する複合炭素材料である、請求項1または2に記載の非水二次電池製造方法。
【請求項4】
前記負極スラリーを、4.0mg/cm以下の目付量で前記負極集電体上に付与する、請求項1から3のいずれか一項に記載の非水二次電池製造方法。
【請求項5】
前記負極スラリーの固形分率が50質量%以上である、請求項1から4のいずれか一項に記載の非水二次電池製造方法。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項に記載の方法により製造された、非水二次電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−45714(P2013−45714A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−183891(P2011−183891)
【出願日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】