説明

非水溶媒及び蓄電装置

【課題】耐還元性に優れ、電解液に適用可能な非水溶媒を提供する。また、幅広い温度範囲で使用でき、電解液に適用可能な非水溶媒を提供する。さらに、高性能な蓄電装置を提供する。
【解決手段】少なくとも一以上の置換基を有する脂環式4級アンモニウムカチオンと、当該脂環式4級アンモニウムカチオンに対するアニオンを有するイオン液体と、凝固点降下剤を、少なくとも含む非水溶媒である。また、当該非水溶媒を電解液として含む蓄電装置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン液体を含む非水溶媒、及び当該非水溶媒を用いた蓄電装置に関する。
【0002】
なお、蓄電装置とは、蓄電機能を有する素子及び装置全般を指すものである。
【背景技術】
【0003】
蓄電装置の一つであるリチウムイオン二次電池は、携帯電話や、電気自動車(EV:Electric Vehicle)などの様々な用途に用いられており、リチウムイオン二次電池に求められる特性として、高エネルギー密度化、サイクル特性の向上及び様々な動作環境での安全性などがある。
【0004】
リチウムイオン二次電池の電解液の多くは、非水溶媒とリチウムイオンを有する電解質塩を含む混合物である。そして、当該非水溶媒としてよく用いられている有機溶媒としては、誘電率が高くイオン伝導性に優れたエチレンカーボネートなどの環状カーボネートがある。
【0005】
しかし、エチレンカーボネートに限らず、有機溶媒の多くは、揮発性及び低引火点を有している。このため、リチウムイオン二次電池の電解液に含まれる非水溶媒として有機溶媒を用いる場合、内部短絡や、過充電等によって内部温度が上昇し、リチウムイオン二次電池の破裂や発火などが起こる可能性がある。
【0006】
上記を考慮し、難燃性であり、難揮発性である常温溶融塩(イオン液体ともいう)を、リチウムイオン二次電池の電解液に含まれる非水溶媒として用いることが検討されている。
【0007】
リチウムイオン二次電池の電解液に含まれる非水溶媒としてイオン液体を用いた場合、イオン液体の耐還元性が低いために、低電位負極材料を用いることが出来ないという問題がある。そこで、4級アンモニウム塩を用いたイオン液体において、イオン液体の耐還元性を向上させることで、添加剤なしに低電位負極材料であるリチウムの溶解及び析出を可能にする技術が開示されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2003−331918号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、このように耐還元性を向上させたイオン液体においても、その還元電位はリチウムの酸化還元電位とほぼ同程度であり、さらなる耐還元性の改良が望まれる。
【0010】
そこで、本発明の一態様は、耐還元性に優れ、電解液に適用可能な非水溶媒を提供することを目的の一とする。
【0011】
また、イオン液体は、難燃性且つ難揮発性であることから使用環境が高温である場合において有利といえる。しかし、蓄電装置は、使用環境が常温(室温ともいえる)より高い高温環境下(概ね常温以上70℃以下)だけではなく、使用環境が常温より低い低温環境下(概ね−30℃以上常温以下)においても正常に動作することが望まれるため、蓄電装置に含まれる電解液の凝固点は低いことが望まれる。
【0012】
例えば、特許文献1に示す四級アンモニウム系カチオンを含むイオン液体の融点は、10℃程度であるため、当該イオン液体を電解液として含む蓄電装置を低温環境下で使用する場合、イオン液体は凝固し、イオン液体の抵抗が上昇するおそれがある。また、低温環境下での蓄電装置の使用が困難となるため、蓄電装置の動作温度範囲が狭くなるといった問題が生じる。
【0013】
そこで、本発明の一態様は、幅広い温度範囲で使用でき、電解液に適用可能な非水溶媒を提供することを目的の一とする。さらに、高性能な蓄電装置を提供することを目的の一とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を鑑み、本発明の一態様は、少なくとも一以上の置換基を有する脂環式4級アンモニウムカチオンと、当該脂環式4級アンモニウムカチオンに対するアニオンを有するイオン液体と、凝固点降下剤を、少なくとも含む非水溶媒である。
【0015】
上記非水溶媒に含まれるイオン液体は、置換基が脂環式4級アンモニウムカチオンの脂肪族環に結合している化合物であってもよい。なお、当該脂肪族環の炭素数は5以下であることが好ましい。
【0016】
上記非水溶媒において、凝固点降下剤は、イオン液体より粘度が低いことが好ましい。また、当該凝固点降下剤は、環式4級アンモニウムカチオンと、当該環式4級アンモニウムカチオンに対するアニオンを有するイオン液体であってもよい。また、当該凝固点降下剤は、非環式4級アンモニウムカチオンと、当該非環式4級アンモニウムカチオンに対するアニオンを有するイオン液体であってもよい。
【0017】
本発明の別の一態様は、少なくとも、一般式(G1)で表されるイオン液体と、凝固点降下剤を含む非水溶媒である。
【0018】
【化1】

【0019】
一般式(G1)中において、R〜Rは、それぞれ独立に、水素原子、又は炭素数が1〜20のアルキル基、メトキシ基、メトキシメチル基、若しくはメトキシエチル基のいずれかを表し、Aは、1価のイミドアニオン、1価のメチドアニオン、パーフルオロアルキルスルホン酸アニオン、テトラフルオロボレート、又はヘキサフルオロホスフェートのいずれかを表す。
【0020】
上記非水溶媒において、凝固点降下剤は、イオン液体より粘度が低いことが好ましい。また、当該凝固点降下剤は、環式4級アンモニウムカチオンと、当該環式4級アンモニウムカチオンに対するアニオンを有するイオン液体であってもよい。また、当該凝固点降下剤は、非環式4級アンモニウムカチオンと、当該非環式4級アンモニウムカチオンに対するアニオンを有するイオン液体であってもよい。
【0021】
また、上記非水溶媒において、凝固点降下剤は、一般式(G1)で表されるイオン液体としてもよい。
【0022】
さらに、上記非水溶媒において、凝固点降下剤は、一般式(G2)で表されるイオン液体としてもよい。
【0023】
【化2】

【0024】
一般式(G2)中において、R〜Rは、それぞれ独立に、水素原子、又は炭素数が1〜20のアルキル基、メトキシ基、メトキシメチル基、若しくはメトキシエチル基のいずれかを表し、Aは、1価のイミドアニオン、1価のメチドアニオン、パーフルオロアルキルスルホン酸アニオン、テトラフルオロボレート、又はヘキサフルオロホスフェートのいずれかを表す。
【0025】
本発明の別の一態様は、上記非水溶媒に加え、少なくとも正極、負極、電解液及びセパレータを有し、上記非水溶媒を電解液とする蓄電装置である。また、電解質塩を含ませた上記非水溶媒を電解液とする蓄電装置である。なお、当該電解質塩は、リチウムイオンを含む電解質塩としてもよい。
【発明の効果】
【0026】
本発明の一態様によれば、より耐還元性に優れ、電解液に適用可能な非水溶媒を提供することができる。また、より広い温度範囲で使用でき、電解液に適用可能な非水溶媒を提供することができる。さらに、当該非水溶媒を電解液に用いることで、高性能な蓄電装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の一態様に係るリチウムイオン二次電池を示す断面図。
【図2】本発明の一態様に係るリチウムイオン二次電池の上面図及び斜視図。
【図3】本発明の一態様に係るリチウムイオン二次電池の作製方法を示す斜視図。
【図4】本発明の一態様に係るリチウムイオン二次電池の作製方法を示す斜視図。
【図5】本発明の一態様に係る蓄電装置を用いた電気機器を説明するための斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下では、本発明の実施の形態について図面を用いて詳細に説明する。ただし、本発明は以下の説明に限定されず、本発明の趣旨及びその範囲から逸脱することなくその形態及び詳細を様々に変更し得ることは、当業者であれば容易に理解される。従って、本発明は、以下に示す実施の形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。なお、図面を用いて発明の構成を説明するにあたり、同じものを指す符号は異なる図面間でも共通して用いる。また、同様のものを指す際にはハッチパターンを同じくし、特に符号を付さない場合がある。また、便宜上、絶縁層は上面図には表さない場合がある。なお、各図面において示す各構成の、大きさ、層の厚さ、又は領域は、明瞭化のために誇張されて表記している場合がある。従って、必ずしもそのスケールに限定されない。
【0029】
(実施の形態1)
本実施の形態では、本発明の一態様に係る非水溶媒ついて説明する。
【0030】
本発明の一態様に係る非水溶媒は、少なくとも一以上の置換基を有する脂環式4級アンモニウムカチオンと、当該脂環式4級アンモニウムカチオンに対するアニオンを有するイオン液体と、凝固点降下剤を、少なくとも含む非水溶媒である。
【0031】
また、上記イオン液体は、窒素原子に構造の異なる置換基が結合している脂環式4級アンモニウムカチオンを有することが好ましい。つまり、非対称な構造を有する脂環式4級アンモニウムカチオンであることが好ましい。当該置換基の一例としては、炭素数が1〜4のアルキル基などがある。なお、当該置換基はこれ限らず、非対称な構造を有する脂環式4級アンモニウムカチオンとなるように様々な置換基を用いることができる。
【0032】
また、上記イオン液体の脂環式4級アンモニウムカチオンは、その脂肪族環に置換基を有することで、置換基との相互作用により効果を発する。例えば、電子供与性である置換基を用いることで誘起効果が生じ、誘起効果により、脂環式4級アンモニウムカチオンの電気的偏りが緩和されるために電子の受容を困難にし、イオン液体の還元電位を低電位化させることができる。なお、還元電位が低電位化することは、耐還元性(還元安定性ともいう)が向上することを意味する。
【0033】
電子供与性の置換基の一例としては、炭素数1〜20のアルキル基、メトキシ基、メトキシメチル基、又はメトキシエチル基などがある。当該アルキル基は、直鎖状又は分岐鎖状のどちらであってもよい。なお、当該置換基は、電子供与性であればこれらに限るものではなく、さらには電子供与性の置換基に限るものでもない。
【0034】
なお、上記イオン液体の脂環式4級アンモニウムカチオンにおいて、脂肪族環の炭素数は、化合物の安定性、粘度及びイオン伝導度、並びに合成の簡易さから、5以下であることが好ましい。つまり、環の長さが6員環より小さい4級アンモニウムカチオンであることが好ましい。
【0035】
イオン液体におけるアニオンは、脂環式4級アンモニウムカチオンとイオン液体を構成する一価のアニオンである。例えば、当該アニオンとしては、1価のイミドアニオン、1価のメチドアニオン、パーフルオロアルキルスルホン酸アニオン、テトラフルオロボレート(BF)又はヘキサフルオロホスフェート(PF)などがある。そして、1価のイミドアニオンとしては、(C2n+1SO(n=0〜3)、又はCF(CFSOなどがある。1価のメチドアニオンとしては、(C2n+1SO(n=0〜3)、又はCF(CFSOなどがある。パーフルオロアルキルスルホン酸アニオンとしては、(C2m+1SO(m=0〜4)などがある。なお、当該アニオンは、これらに限るものではなく、当該脂環式4級アンモニウムカチオンとイオン液体を構成できるアニオンであればよい。
【0036】
上記したイオン液体は一般式(G3)に相当する。
【0037】
【化3】

【0038】
一般式(G3)中において、R〜Rは、それぞれ独立に、水素原子、又は炭素数が1〜20のアルキル基、メトキシ基、メトキシメチル基、若しくはメトキシエチル基のいずれかを表し、R及びRは、それぞれ独立に、炭素数が1〜4のアルキル基のいずれかを表し、Aは、1価のイミドアニオン、1価のメチドアニオン、パーフルオロアルキルスルホン酸アニオン、テトラフルオロボレート(BF)、又はヘキサフルオロホスフェート(PF)のいずれかを表す。
【0039】
蓄電装置に含まれる電解液(特に電解液に含まれる非水溶媒)の粘度を低くすることで、蓄電装置のレート特性(出力特性)を向上させることができる。そこで、一般式(G3)で表されるイオン液体において、R1〜R5を炭素数1〜20のアルキル基とする場合、炭素数は小さい(例えば炭素数1〜4)方が、当該イオン液体の粘度を低くすることができ、電解液の粘度を低くすることができるため好ましい。
【0040】
本発明の一態様に係る非水溶媒は、上記イオン液体に加えて凝固点降下剤を含んでいる。このことから、本発明の一態様に係る非水溶媒の凝固点は、上記イオン液体のみを含む非水溶媒に比べて低い。つまり、本発明の一態様に係る非水溶媒は、常温より低温下においても凝固することなく電解液の非水溶媒として機能するため、幅広い温度範囲で機能する電解液を実現できる。従って、当該非水溶媒を電解液として含む蓄電装置は、幅広い温度範囲で動作が可能となる。
【0041】
凝固点降下剤は、上記イオン液体に加えて、上記イオン液体の凝固点を降下させることができる物質(例えば、有機塩又は無機塩)とする。蓄電装置に含まれる電解液(特に電解液に含まれる非水溶媒)は、高温下で破裂又は発火など生じないような難燃性及び難揮発性であることが望まれることから、当該凝固点降下剤についても、イオン液体とすることが好ましい。例えば、脂肪族又は芳香族の環式4級アンモニウムカチオン及び当該環式4級アンモニウムカチオンに対するアニオンを有するイオン液体、並びに非環式4級アンモニウムカチオン及び当該非環式4級アンモニウムカチオンに対するアニオンを有するイオン液体などである。この場合、本発明の一態様に係る非水溶媒には、化合物構造が異なる第1のイオン液体及び第2のイオン液体を含まれることになり、第2のイオン液体が凝固点降下剤として機能するといえる。
【0042】
なお、本発明の一態様に係る非水溶媒において、上記イオン液体と凝固点降下剤の混合比は、用いるイオン液体の種類及び凝固点降下剤の種類又は作製する電解液に必要な特性(粘度及びイオン導電性など)を考慮し、適宜選択すればよい。
【0043】
また、本発明の一態様に係る非水溶媒は、一般式(G3)で表され、化合物構造が異なる第1のイオン液体及び第2のイオン液体を含んでいてもよい。この場合、第2のイオン液体が凝固点降下剤として機能するといえる。
【0044】
さらに、凝固点降下剤としては、一般式(G4)で表されるイオン液体であってもよい。この場合、本発明の一態様に係る非水溶媒は、一般式(G3)で表されるイオン液体を第1のイオン液体として、一般式(G4)で表されるイオン液体を第2のイオン液体として含み、第2のイオン液体が凝固点降下剤として機能するといえる。
【0045】
【化4】

【0046】
一般式(G4)中において、R〜Rは、それぞれ独立に、水素原子、又は炭素数が1〜20のアルキル基、メトキシ基、メトキシメチル基、若しくはメトキシエチル基のいずれかを表し、R及びRは、それぞれ独立に、炭素数が1〜4のアルキル基のいずれかを表し、Aは、1価のイミドアニオン、1価のメチドアニオン、パーフルオロアルキルスルホン酸アニオン、テトラフルオロボレート(BF)、又はヘキサフルオロホスフェート(PF)のいずれかを表す。
【0047】
ここで、蓄電装置に含まれる電解液(特に電解液に含まれている非水溶媒)の耐還元性及び耐酸化性について記載する。蓄電装置に含まれる電解液(特に電解液に含まれている非水溶媒)は、耐還元性及び耐酸化性に優れていることが好ましい。耐還元性(還元安定性ともいう)が低い場合、負極から電子を受け取り、電解液に含まれるイオン液体は還元されて分解に至る。その結果、蓄電装置の特性劣化に繋がる。また、イオン液体の還元は、イオン液体が負極から電子を受容することである。それゆえ、イオン液体のうち、特に正電荷を有するカチオンが電子を受容し難くすることで、イオン液体の還元電位を低電位化させることができる。
【0048】
そこで、本発明の一態様に係る非水溶媒に含まれるイオン液体(第1のイオン液体)は、凝固点降下剤より少なくとも耐還元性に優れていることが好ましい。詳細には、当該イオン液体(第1のイオン液体)は、電子供与性の置換基を複数有することが好ましい。これは、電子供与性の置換基により誘起効果が生じ、電子供与性の置換基の数が増えるにつれて、イオン液体(第1のイオン液体)の脂環式4級アンモニウムカチオンにおける電気的な偏りが緩和されるために、電子の受容を困難にし、イオン液体の耐還元性が向上する傾向を有するからである。
【0049】
さらに、本発明の一態様に係る非水溶媒に含まれるイオン液体の還元電位は、代表的な低電位負極材料であるリチウムの酸化還元電位(Li/Li)より低いことが好ましい。
【0050】
しかし、電子供与性の置換基の数が増えるにつれて、イオン液体の粘度も増大する傾向を有する。
【0051】
それゆえ、本発明の一態様に係る非水溶媒に含まれる凝固点降下剤は、イオン液体より粘度が低いことが好ましい。特に、凝固点降下剤をイオン液体とする場合(つまり、当該非水溶媒として第1のイオン液体及び第2のイオン液体を含む場合)、第2のイオン液体の粘度は、第1のイオン液体の粘度より低い方が好ましい。例えば、一般式(G4)で表されるイオン液体であれば、一般式(G4)中のR1〜R5を炭素数1〜20のアルキル基とした場合、炭素数は小さい(例えば炭素数1〜4)方が、合成するイオン液体の粘度を低くすることができる。このようにすることで、耐還元性を向上させると共に、電解液(特に含まれている非水溶媒)の粘度を、第1のイオン液体の粘度より低下させることができ、蓄電装置の電解液(特に含まれている非水溶媒)として好適である。これは、蓄電装置の電解液の粘度が低いほど、当該蓄電装置のレート特性を向上させることができるからである。なお、当該アルキル基の炭素数は小さい方が、イオン液体の脂環式4級アンモニウムカチオンの合成を容易にすることができる。
【0052】
さらに、第1のイオン液体及び第2のイオン液体の混合比は、作製する電解液に必要な特性(粘度及びイオン導電性など)を考慮し、適宜選択すればよい。
【0053】
また、イオン液体の酸化電位は、アニオン種によって変化する。そこで、酸化電位が高電位化したイオン液体を実現するために、本発明の一態様に係る非水溶媒に含まれるイオン液体のアニオンを、(C2n+1SO(n=0〜3)、CF(CFSO又は(C2m+1SO(m=0〜4)から選択した1価のアニオンとすることが好ましい。なお、酸化電位を高電位化することは、耐酸化性(酸化安定性ともいう)が向上することを意味する。なお、耐酸化性の向上は、電子供与性の置換基を有することで電気的な偏りが緩和したカチオンと、上記したアニオンとの相互作用によるものである。
【0054】
本発明の一態様に係る非水溶媒において、望ましい一形態は、電子供与性の置換基を多く有し、耐還元性及び耐酸化性は優れているが粘度の高い第1のイオン液体と、第1のイオン液体より耐還元性は劣っても粘度が低い第2のイオン液体を含む非水溶媒といえる。
【0055】
以上の説明において、本実施の一態様に係る非水溶媒に含まれるイオン液体及び凝固点降下剤は、共に一種であるとしたが、当該イオン液体は異なる化合物構造を有する二種以上のものであってもよい。さらに、当該凝固点降下剤においても、異なる化合物構造を有する二種以上のものであってもよい。
【0056】
以上より、本発明の一態様に係る非水溶媒は、耐還元性及び耐酸化性が向上すること、換言すると、酸化還元の電位窓を拡大することで、電解液に当該非水溶媒を含む蓄電装置において、正極材料及び負極材料の選択肢を多くすることができ、選択した正極材料及び負極材料に対して安定となる。その結果、信頼性に優れた蓄電装置を実現することができる。
【0057】
また、蓄電装置におけるエネルギー密度は、正極材料の酸化電位と、負極材料の還元電位との差に起因していることから、本発明の一態様に係る非水溶媒のように、酸化還元の電位窓が広い非水溶媒を用いることで、より低電位な負極材料及びより高電位な正極材料を選択することができるようになり、エネルギー密度の高い蓄電装置を実現することができる。
【0058】
また、本実施の形態は、他の実施の形態に記載した構成と適宜組み合わせて実施することが可能である。
【0059】
(実施の形態2)
本実施の形態では、実施の形態1に記載した非水溶媒の詳細を説明する。本実施の形態に記載の非水溶媒は、少なくとも一般式(G1)で表されるイオン液体と、凝固点降下剤を含む非水溶媒である。
【0060】
【化5】

【0061】
一般式(G1)中において、R〜Rは、それぞれ独立に、水素原子、又は炭素数が1〜20のアルキル基、メトキシ基、メトキシメチル基、若しくはメトキシエチル基のいずれかを表し、Aは、1価のイミドアニオン、1価のメチドアニオン、パーフルオロアルキルスルホン酸アニオン、テトラフルオロボレート、又はヘキサフルオロホスフェートのいずれかを表す。
【0062】
一般式(G1)は、実施の形態1で記載した一般式(G3)において、R及びRがメチル基及びプロピル基である以外は、一般式(G3)と同じである。
【0063】
また、本実施の形態に記載の非水溶媒は、実施の形態1と同様に凝固点降下剤を含んでいる。それゆえ、当該非水溶媒は、一般式(G1)で表されるイオン液体のみを含む非水溶媒に比べて凝固点は低い。つまり、当該非水溶媒は、常温より低温下においても凝固することなく電解液の非水溶媒として機能するため、幅広い温度範囲で機能する電解液を実現できる。従って、当該非水溶媒を電解液として含む蓄電装置は、幅広い温度範囲で動作が可能となる。
【0064】
実施の形態1の記載と同様に、イオン液体の脂環式4級アンモニウムカチオンの脂肪族環が1以上の電子供与性の置換基を有することで、当該イオン液体の還元電位を低電位化させることができる。従って、当該イオン液体を耐還元性が向上したイオン液体とすることができる。
【0065】
電子供与性の置換基の一例としては、炭素数1〜20のアルキル基、メトキシ基、メトキシメチル基、又はメトキシエチル基などがある。当該アルキル基は、直鎖状又は分岐鎖状のどちらであってもよい。なお、当該置換基は、これらに限るものではなく、さらには電子供与性の置換基に限るものでもない。
【0066】
ここで、本発明の一態様に係るイオン液体において、電子供与性を有する置換基との相互作用で還元電位が低電位化する(耐還元性の向上する)ことを下記計算結果にて示す。
【0067】
一般式(G1)において、R〜Rの置換基をメチル基とし、下記構造式(α−1)乃至構造式(α−9)で表される9種類のイオン液体の脂環式4級アンモニウムカチオンについて、量子化学計算から算出した最低空軌道準位(LUMO準位)を表1に示す。また、蓄電装置の負極として用いられるリチウムの酸化還元電位と同程度の還元電位を有するイオン液体であり、下記構造式(α−10)で表される(N−メチル−N−プロピルピペリジニウム)カチオンの最低空軌道準位(LUMO準位)についても、比較例として表1に示す。
【0068】
【化6】

【0069】
【表1】

【0070】
本発明の一態様に係るイオン液体の脂環式4級アンモニウムカチオン、及び(N−メチル−N−プロピルピペリジニウム)カチオンについて、本実施の形態における量子化学計算は、基底状態、三重項状態における最適分子構造を、密度汎関数法(DFT)を用いて計算している。DFTの全エネルギーはポテンシャルエネルギー、電子間静電エネルギー、電子の運動エネルギーと複雑な電子間の相互作用を全て含む交換相関エネルギーの和で表される。DFTでは、交換相関相互作用を電子密度で表現された一電子ポテンシャルの汎関数(関数の関数の意)で近似しているため、計算は高速且つ高精度である。ここでは、混合汎関数であるB3LYPを用いて、交換と相関エネルギーに係る各パラメータの重みを規定している。また、基底関数として、6−311(それぞれの原子価軌道に三つの短縮関数を用いたtriple split valence基底系の基底関数)を全ての原子に適用している。上述の基底関数により、例えば、水素原子であれば、1s〜3sの軌道が考慮され、また、炭素原子であれば、1s〜4s、2p〜4pの軌道が考慮されることになる。さらに、計算精度向上のため、分極基底系として、水素原子にはp関数を、水素原子以外にはd関数を加えている。
【0071】
なお、量子化学計算プログラムとしては、Gaussian09を使用した。計算は、ハイパフォーマンスコンピュータ(SGI社製、Altix4700)を用いて行った。なお、構造式(α−1)乃至構造式(α−10)で表される全てのカチオンにおいて、本量子化学計算は、最安定構造及び真空中として行った。
【0072】
イオン液体を蓄電装置における電解液の非水溶媒とする場合、本発明の一態様に係るイオン液体の耐還元性は、当該イオン液体の脂環式4級アンモニウムカチオンにおける負極からの電子受容の程度に起因している。
【0073】
例えば、脂環式4級アンモニウムカチオンのLUMO準位が負極材料の伝導帯よりも高い場合、該カチオンを有するイオン液体は還元されないことになる。代表的な低電位負極材料であるリチウムの酸化還元電位と同程度の還元電位を有する(N−メチル−N−プロピルピペリジニウム)カチオンのLUMO準位と比較することで、リチウムに対するカチオンの耐還元性を相対的に評価することができる。つまり、本発明の一態様に係るイオン液体の脂環式4級アンモニウムカチオンのLUMO準位が、(N−メチル−N−プロピルピペリジニウム)カチオンのLUMO準位より高ければ、本発明の一態様に係るイオン液体は、耐還元性に優れているといえる。
【0074】
構造式(α−10)で表される比較例の(N−メチル−N−プロピルピペリジニウム)カチオンのLUMO準位は、−3.244eVであるが、本発明の一態様に係るイオン液体の脂環式4級アンモニウムカチオンのLUMO準位は、全てのカチオンにおいても−3.244eVより高い。ゆえに、本発明の一態様に係るイオン液体は、耐還元性に優れている。そして、この耐還元性の向上は、脂環式4級アンモニウムカチオンの炭素水素環に電子供与性の置換基を導入することによる効果である。
【0075】
なお、一般式(G1)中のR1〜R5を炭素数1〜20のアルキル基とした場合、炭素数は小さい(例えば炭素数1〜4)方が、合成するイオン液体の粘度を低くすることができるため、蓄電装置の電解液(特に含まれている非水溶媒)として好適である。これは、蓄電装置の電解液の粘度が低いほど、当該蓄電装置のレート特性を向上させることができるからである。さらに、脂環式4級アンモニウムカチオンの合成を容易にするため、当該アルキル基の炭素数は小さい方が好ましい。
【0076】
イオン液体におけるアニオンは、1価のイミドアニオン、1価のメチドアニオン、パーフルオロアルキルスルホン酸アニオン、テトラフルオロボレート(BF)又はヘキサフルオロホスフェート(PF)である。例えば、1価のイミドアニオンとしては、(C2n+1SO(n=0〜3)、又はCF(CFSOなどがある。1価のメチドアニオンとしては、(C2n+1SO(n=0〜3)、又はCF(CFSOなどがある。パーフルオロアルキルスルホン酸アニオンとしては、(C2m+1SO(m=0〜4)などがある。
【0077】
本実施の形態に記載の非水溶媒に含まれる凝固点降下剤は、一般式(G1)で表されるイオン液体に加えて、当該イオン液体の凝固点を降下させることができる物質(例えば、有機塩又は無機塩)とする。実施の形態1と同様に、当該凝固点降下剤はイオン液体とすることが好ましい。例えば、脂肪族炭素環又は芳香族炭素環を有する環式4級アンモニウムカチオンと、当該環式4級アンモニウムカチオンに対するアニオンを有するイオン液体、及び非環式4級アンモニウムカチオンと、当該非環式4級アンモニウムカチオンに対するアニオンを有するイオン液体などである。この場合、本発明の一態様に係る非水溶媒には、化合物構造が異なる第1のイオン液体及び第2のイオン液体を含まれることになり、第2のイオン液体が凝固点降下剤として機能するといえる。
【0078】
なお、本実施の形態に記載の非水溶媒において、一般式(G1)で表されるイオン液体と凝固点降下剤の混合比は、当該イオン液体の種類及び凝固点降下剤の種類又は作製する電解液に必要な特性(粘度及びイオン導電性など)を考慮し、適宜選択すればよい。
【0079】
本実施の形態に記載の非水溶媒は、一般式(G1)で表され、化合物構造が異なる第1のイオン液体及び第2のイオン液体を含んでいてもよい。この場合、第2のイオン液体が凝固点降下剤として機能するといえる。
【0080】
さらに、凝固点降下剤としては、一般式(G2)で表されるイオン液体であってもよい。この場合、本実施の形態に記載の非水溶媒は、一般式(G1)で表されるイオン液体を第1のイオン液体として、一般式(G2)で表されるイオン液体を第2のイオン液体として含み、第2のイオン液体が凝固点降下剤として機能するといえる。
【0081】
【化7】

【0082】
一般式(G2)中において、R〜Rは、それぞれ独立に、水素原子、又は炭素数が1〜20のアルキル基、メトキシ基、メトキシメチル基、若しくはメトキシエチル基のいずれかを表し、Aは、1価のイミドアニオン、1価のメチドアニオン、パーフルオロアルキルスルホン酸アニオン、テトラフルオロボレート(BF)、又はヘキサフルオロホスフェート(PF)のいずれかを表す。
【0083】
実施の形態1で記載したように、蓄電装置に含まれる電解液(特に含まれている非水溶媒)は、耐還元性及び耐酸化性に優れること(つまり電位窓が広いこと)が好ましい。電解液(特に含まれている非水溶媒)に含まれるイオン液体の耐還元性が低いと、実施の形態1に記載したようにイオン液体の分解及び蓄電装置の特性劣化に繋がる。そこで、イオン液体のうち、特に正電荷を有するカチオンが電子を受容し難くすることで、イオン液体の還元電位を低電位化させることができる。
【0084】
そこで、本実施の形態に記載の非水溶媒おいても、当該非水溶媒に含まれるイオン液体(第1のイオン液体)は、凝固点降下剤より少なくとも耐還元性に優れていることが好ましい。詳細には、当該イオン液体(第1のイオン液体)は、電子供与性の置換基を複数有することが好ましい。これは、当該イオン液体において、実施の形態1で記載のように電子供与性の置換基の数が増えるにつれて、イオン液体の耐還元性が向上する傾向を有するからである。
【0085】
さらに、本発明の一態様に係る非水溶媒に含まれるイオン液体の還元電位は、代表的な低電位負極材料であるリチウムの酸化還元電位(Li/Li)より低いことが好ましい。
【0086】
しかし、電子供与性の置換基の数が増えるにつれて、イオン液体の粘度も増大する傾向を有する。
【0087】
それゆえ、本実施の形態に記載の非水溶媒おいても、当該非水溶媒に含まれる凝固点降下剤は、イオン液体より粘度が低いことが好ましい。特に、凝固点降下剤をイオン液体とする場合(つまり、当該非水溶媒として第1のイオン液体及び第2のイオン液体を含む場合)、第2のイオン液体の粘度は、第1のイオン液体の粘度より低い方が好ましい。例えば、一般式(G2)で表されるイオン液体であれば、一般式(G2)中のR1〜R5を炭素数1〜20のアルキル基とした場合、炭素数は小さい(例えば炭素数1〜4)方が、合成するイオン液体の粘度を低くすることができる。このようにすることで、耐還元性を向上させると共に、電解液(特に含まれている非水溶媒)の粘度を、第1のイオン液体の粘度より低下させることができ、蓄電装置の電解液(特に含まれている非水溶媒)として好適なものにすることができる。なお、当該アルキル基の炭素数は小さい方が、イオン液体の脂環式4級アンモニウムカチオンの合成を容易にすることができる。
【0088】
さらに、第1のイオン液体及び第2のイオン液体の混合比は、作製する電解液に必要な特性(粘度及びイオン導電性など)を考慮し、適宜選択すればよい。
【0089】
また、イオン液体の酸化電位は、アニオン種によって変化する。実施の形態1で記載したように、本実施の形態に記載の非水溶媒に含まれるイオン液体のアニオンは、(C2n+1SO(n=0〜3)、CF(CFSO、又は(C2m+1SO(m=0〜4)から選択した1価のアニオンとすることで、当該イオン液体の酸化電位を高電位化させること(耐酸化性を向上させること)ができるため好ましい。
【0090】
ここで、一般式(G1)で表されるイオン液体を第1のイオン液体とし、一般式(G2)で表されるイオン液体を第2のイオン液体とする場合、一般式(G1)で表されるイオン液体の置換基の数に応じて表記した一般式(G5)〜一般式(G22)を以下に示す。一般式(G5)〜一般式(G22)中において、R〜Rとして適用できる置換基及びAとして適用できるアニオンは、一般式(G1)と同様である。なお、当該具体例は、以下の一般式(G5)〜一般式(G22)に限定されない。
【0091】
【化8】

【0092】
【化9】

【0093】
また、一般式(G2)で表されるイオン液体について、有する置換基の数に応じた具体例である一般式(G23)〜一般式(G31)を以下に示す。一般式(G23)〜一般式(G31)中において、R〜Rとして適用できる置換基及びAとして適用できるアニオンは、一般式(G2)と同様である。なお、当該具体例は、以下の一般式(G23)〜一般式(G31)に限定されない。
【0094】
【化10】

【0095】
また、本実施の形態に記載の非水溶媒において、望ましい一形態は、電子供与性の置換基を多く有し、耐還元性及び耐酸化性は優れているが粘度の高い第1のイオン液体と、第1のイオン液体より耐還元性は劣っても粘度が低い第2のイオン液体を含む非水溶媒といえる。
【0096】
以上の説明において、本実施の形態に記載の非水溶媒に含まれるイオン液体及び凝固点降下剤は、共に一種であるとしたが、当該イオン液体は異なる化合物構造を有する二種以上のものであってもよい。さらに、当該凝固点降下剤においても、異なる化合物構造を有する二種以上のものであってもよい。
【0097】
例えば、上記した一般式(G5)〜一般式(G22)のうちから1以上選択され、上記した一般式(G23)〜一般式(G31)のうちから1以上を選択された混合物は、本実施の形態に記載の非水溶媒の一形態である。
【0098】
以上より、本実施の形態に記載の非水溶媒は、耐還元性及び耐酸化性が向上すること、換言すると、酸化還元の電位窓を拡大することで、当該非水溶媒を含む蓄電装置において、正極材料及び負極材料の選択肢を多くすることができ、選択した正極材料及び負極材料に対して安定となる。その結果、信頼性に優れた蓄電装置を実現することができる。
【0099】
また、蓄電装置におけるエネルギー密度は、正極材料の酸化電位と、負極材料の還元電位との差に起因していることから、本実施の形態に記載の非水溶媒のように、酸化還元の電位窓が広い非水溶媒を用いることで、低電位負極材料、及び高電位正極材料を選択することができるようになり、エネルギー密度の高い蓄電装置を実現することができる。
【0100】
〈一般式(G1)で表されるイオン液体の合成方法〉
ここで、本実施の形態に記載のイオン液体の合成方法について説明する。本実施の形態に記載のイオン液体の合成方法としては、種々の反応を適用することができる。例えば、以下に示す合成方法によって、一般式(G1)で表されるイオン液体を合成することができる。ここでは一例として、合成スキーム(S−1)を参照して説明する。なお、本実施の形態に記載のイオン液体の合成方法は、以下の合成方法に限定されない。
【0101】
【化11】

【0102】
上記スキーム(S−1)において、一般式(β−1)から一般式(β−2)の反応は、ヒドリド存在下で、アミン化合物とカルボニル化合物から、アミンのアルキル化を行う反応である。例えば、過剰のギ酸を用いることで、ヒドリド源とすることができる。ここでは、カルボニル化合物としてCHOを用いている。
【0103】
上記スキーム(S−1)において、一般式(β−2)から一般式(β−3)の反応は、3級アミン化合物とハロゲン化アルキル化合物とで、アルキル化を行い、4級アンモニウム塩を合成する反応である。ここでは、ハロゲン化アルキル化合物としてプロパンハライドを用いている。Xはハロゲンであり、反応性の高さから、好ましくは臭素又はヨウ素とし、より好ましくはヨウ素とする。
【0104】
一般式(β−3)で表される4級アンモニウム塩と、Aを含む所望の金属塩とでイオン交換をさせることにより、一般式(G1)で表されるイオン液体を得ることができる。当該金属塩としては、例えば、リチウム金属塩を用いることができる。
【0105】
〈一般式(G2)で表されるイオン液体の合成方法〉
次に、一般式(G2)で表されるイオン液体も種々の反応を適用することができる。ここでは一例として、合成スキーム(S−2)を参照して説明する。なお、本実施の形態に記載のイオン液体の合成方法は、以下の合成方法に限定されない。
【0106】
【化12】

【0107】
上記スキーム(S―2)において、一般式(β−4)から一般式(β−5)の反応は、トリアルキルホスフィン等の三置換ホスフィンとハロゲン源を用いたハロゲン化を経由するアミノアルコールの閉環反応である。PR’は、三置換ホスフィンを表し、Xはハロゲン源を表す。ハロゲン源には、四塩化炭素、四臭化炭素、ヨウ素、ヨードメタン等を用いることができる。ここでは、三置換ホスフィンとしてトリフェニルホスフィン、ハロゲン源に四塩化炭素を用いている。
【0108】
上記スキーム(S−2)において、一般式(β−5)から一般式(β−6)の反応は、ヒドリド存在下で、アミン化合物とカルボニル化合物から、アミンのアルキル化を行う反応である。例えば、過剰のギ酸を用いることで、ヒドリド源とすることができる。ここでは、カルボニル化合物としてCHOを用いている。
【0109】
上記スキーム(S−2)において、一般式(β−6)から一般式(β−7)の反応は、3級アミン化合物とハロゲン化アルキル化合物とで、アルキル化を行い、四級アンモニウム塩を合成する反応である。ここでは、ハロゲン化アルキル化合物としてプロパンハライドを用いている。また、Xはハロゲンを表す。ハロゲンとしては、反応性の高さから、臭素又はヨウ素が好ましく、ヨウ素がより好ましい。
【0110】
一般式(β−7)で表される四級アンモニウム塩と、Aを含む所望の金属塩とでイオン交換をさせることにより、一般式(G2)で表されるイオン液体を得ることができる。当該金属塩としては、例えば、リチウム金属塩を用いることができる。
【0111】
また、本実施の形態は、他の実施の形態に記載した構成と適宜組み合わせて実施することが可能である。
【0112】
(実施の形態3)
本実施の形態では、本発明の一態様に係る非水溶媒を用いた蓄電装置について説明する。
【0113】
本発明の一態様に係る蓄電装置は、少なくとも、正極、負極、セパレータ、電解液で構成される。当該電解液は、先の実施の形態に記載した非水溶媒及び電解質塩を含む。そして、当該電解質塩は、キャリアイオンであるアルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、ベリリウムイオン、又はマグネシウムイオンを含む電解質塩であればよい。アルカリ金属イオンとしては、例えば、リチウムイオン、ナトリウムイオン、又はカリウムイオンがある。アルカリ土類金属イオンとしては、例えばカルシウムイオン、ストロンチウムイオン、又はバリウムイオンがある。本実施の形態において、当該電解質塩は、リチウムイオンを含んだ電解質塩(以下、含リチウム電解質塩という)とする。
【0114】
上記構成とすることで、リチウムイオン二次電池又はリチウムイオンキャパシタとすることができる。また、上記構成において、電解質塩を用いずに、本発明の一態様に係るイオン液体のみを電解液として用いることで、電気二重層キャパシタとすることができる。
【0115】
本実施の形態では、先の実施の形態に記載したイオン液体及び含リチウム電解質塩を含む電解液を用いた蓄電装置と、その作製方法について図1を用いて説明する。以下、蓄電装置の一例として、リチウムイオン二次電池の場合について説明する。
【0116】
図1(A)に蓄電装置100の構造の例を示す。蓄電装置100は、正極集電体101及び正極活物質層102を有する正極103と、負極集電体104及び負極活物質層105を有する負極106を有する。また、蓄電装置100は、正極103及び負極106との間にセパレータ108を有し、正極103、負極106、セパレータ108を筐体109中に設置し、筐体109中に電解液107を有する蓄電装置である。
【0117】
正極集電体101には、例えば導電材料などを用いることができ、導電材料としては、例えばアルミニウム(Al)、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、又はチタン(Ti)を用いることができる。また、正極集電体101としては、上記導電材料のうち複数からなる合金材料を用いることもでき、合金材料としては、例えばAl−Ni合金、又はAl−Cu合金などを用いることもできる。また、別途基板上に成膜することにより設けられた導電層を剥離して正極集電体101として用いることもできる。
【0118】
正極活物質層102としては、例えばキャリアとなるイオン及び遷移金属を含む材料を用いることができる。キャリアとなるイオン及び遷移金属を含む材料としては、例えば、一般式APO(h>0、i>0、j>0)で表される材料を用いることができる。ここでAは、例えば、リチウム、ナトリウム若しくはカリウムなどのアルカリ金属、又はカルシウム、ストロンチウム若しくはバリウムなどのアルカリ土類金属、ベリリウム、又はマグネシウムである。Mは、例えば、鉄、ニッケル、マンガン若しくはコバルトなどの遷移金属である。一般式APO(h>0、i>0、j>0)で表される材料としては、例えばリン酸鉄リチウム、リン酸鉄ナトリウムなどが挙げられる。Aで表される材料及びMで表される材料は、上記のいずれか一又は複数を選択すればよい。
【0119】
又は、一般式A(h>0、i>0、j>0)で表される材料を用いることができる。ここでAは、例えば、リチウム、ナトリウム、若しくはカリウムなどのアルカリ金属、カルシウム、ストロンチウム若しくはバリウムなどのアルカリ土類金属、ベリリウム、又はマグネシウムである。Mは、例えば、鉄、ニッケル、マンガン、若しくはコバルトなどの遷移金属である。一般式A(h>0、i>0、j>0)で表される材料としては、例えばコバルト酸リチウム、マンガン酸リチウム又はニッケル酸リチウムなどが挙げられる。Aで表される材料及びMで表される材料は、上記のいずれか一又は複数を選択すればよい。
【0120】
本実施の形態では、リチウムイオン二次電池であるため、正極活物質層102は、リチウムを含む材料を選択することがよい。つまり、上記一般式APO(h>0、i>0、j>0)、又は一般式A(h>0、i>0、j>0)におけるAを、リチウムとする。
【0121】
また、正極活物質層102は、正極活物質材料と導電助剤(例えばアセチレンブラック(AB))やバインダ(例えばポリフッ化ビニリデン(PVDF))などを混合させてペースト化して正極集電体101上に塗布して形成したものを用いてもよいし、スパッタリング法により形成したものを用いてもよい。
【0122】
なお、導電助剤としては、蓄電装置中で化学変化を起こさない電子伝導性材料であればよい。例えば、黒鉛、炭素繊維などの炭素系材料、銅、ニッケル、アルミニウム若しくは銀などの金属材料又はこれらの混合物の粉末や繊維などを用いることができる。
【0123】
バインダとしては、澱粉、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、再生セルロース、又はジアセチルセルロースなどの多糖類があり、他には、ポリビニルクロリド、ポリビニルピロリドン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリエチレン、ポリプロピレン、EPDM(Ethylene Propylene Diene Monomer)、スルホン化EPDM、スチレンブタジエンゴム、ブタジエンゴム、フッ素ゴムなどのビニルポリマー、ポリエチレンオキシドなどのポリエーテルなどがある。
【0124】
また、正極活物質層102は、導電助剤及びバインダの代わりにグラフェン又は多層グラフェンを混合させてペースト化させてもよい。なお、本明細書において、グラフェンとは、sp結合を有する1原子層の炭素分子のシートのことをいう。また、多層グラフェンとは、2乃至100枚のグラフェンが積み重なっているものであり、グラフェン又は多層グラフェンには、水素と炭素以外の元素の比率を15原子%以下、あるいは炭素以外の元素の比率を30原子%以下とすることが好ましい。なお、グラフェン又は多層グラフェンは、カリウムなどのアルカリ金属が添加されたものでもよい。
【0125】
このように、導電助剤及びバインダの代わりにグラフェン又は多層グラフェンを用いることで、正極103中の導電助剤及びバインダの含有量を低減させることできる。つまり、正極103の重量を低減させることができ、結果として、電極の重量あたりにおけるリチウムイオン二次電池の容量を増大させることができる。
【0126】
なお、厳密には「活物質」とは、キャリアであるイオンの挿入及び脱離に関わる物質のみを指す。ただし本明細書では、塗布法を用いて正極活物質層102を形成した場合、便宜上、正極活物質層102の材料、すなわち、本来「正極活物質」である物質に、導電助剤やバインダなどを含めて正極活物質層102と呼ぶこととする。
【0127】
負極集電体104には、銅(Cu)、アルミニウム(Al)、ニッケル(Ni)、チタン(Ti)等の単体又はこれらの化合物を用いることができる。
【0128】
負極活物質層105には、リチウムの溶解・析出又はリチウムイオンのドープ・脱ドープが可能であれば特に限定されるものではなく、リチウム金属、炭素系材料、シリコン、シリコン合金、スズなどがある。リチウムイオンの挿入及び脱離が可能な炭素としては、粉末状若しくは繊維状の黒鉛、又はグラファイト等の黒鉛系炭素を用いることができる。
【0129】
なお、負極活物質層105にリチウムをプレドープしてもよい。リチウムのプレドープ方法としては、スパッタリング法により負極活物質層105表面にリチウム層を形成すればよい。又は、負極活物質層105の表面にリチウム箔を設けることでも、負極活物質層105にリチウムをプレドープすることができる。
【0130】
また、負極活物質層105の表面をグラフェン又は多層グラフェンで形成してもよい。このようにすることで、リチウムの溶解・析出又はリチウムイオンのドープ・脱ドープによって生じる負極活物質層105の膨張及び収縮が与える影響(負極活物質層105の微粉化及び負極活物質層105の剥離)を抑制することができる。なお、負極活物質層105の表面にグラフェン又は多層グラフェンを形成するには、酸化グラフェンが含まれる溶液に負極活物質層105を設けた負極集電体104を浸し、当該溶液を電気泳動することで実施できる。また、当該溶液を用いたディップコート法でも実施できる。
【0131】
電解液107は、先の実施の形態に記載したイオン液体を非水溶媒とし、電解質塩として、含リチウム電解質塩を用いる。さらに、電解液107において、含リチウム電解質塩を融解させる非水溶媒は、先の実施の形態に記載した非水溶媒だけに限定されるものではない。例えば、先の実施の形態に記載した非水溶媒に、他のイオン液体及び他の非水溶媒の一方又は双方を混合させた混合溶媒としてもよい。
【0132】
蓄電装置に用いられる電解液は、還元電位が低く且つ酸化電位が高いほど、言い換えると、酸化還元の電位窓が広いほど、正極及び負極に用いる材料の選択肢を増やすことができる。また、酸化還元の電位窓が広いほど、選択した正極材料及び負極材料に対して安定となる。広い電位窓を有する本発明の一態様に係るイオン液体を電解液の非水溶媒として用いることにより、リチウムイオン二次電池の信頼性を向上させることができる。
【0133】
含リチウム電解質塩としては、例えば、塩化リチウム(LiCl)、フッ化リチウム(LiF)、過塩素酸リチウム(LiClO)、硼弗化リチウム(LiBF)、LiAsF、LiPF、Li(CFSONなどがある。なお、先の実施の形態記載した非水溶媒に溶解させる電解質塩は、キャリアイオンを含み、正極活物質層102に対応した電解質塩であればよい。本実施の形態では、正極活物質層102にリチウムを含む材料を用いているため、電解質塩を含リチウム電解質塩としているが、例えば、正極活物質層102にナトリウムを含む材料と用いれば、電解質塩はナトリウムを含む電解質塩とすることが好ましい。なお、先の実施の形態記載した非水溶媒に溶解させる電解質塩を混合させることによって、凝固点降下が起こるため、電解液107は先の実施の形態記載した非水溶媒よりさらに凝固点降下する。従って、電解液107を含む蓄電装置は、低温環境下での動作が可能となり、幅広い温度範囲で動作可能である。
【0134】
セパレータ108として、紙、不織布、ガラス繊維、あるいは、ナイロン(ポリアミド)、ビニロン(ポリビニルアルコール系繊維)、ポリエステル、アクリル、ポリオレフィン、ポリウレタンといった合成繊維等を用いればよい。ただし、上記電解液に溶解しない材料を選ぶ必要がある。
【0135】
より具体的には、セパレータ108の材料として、例えば、フッ素系ポリマー、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド等のポリエーテル、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリアクリロニトリル、ポリ塩化ビニリデン、ポリメチルメタクリレート、ポリメチルアクリレート、ポリビニルアルコール、ポリメタクリロニトリル、ポリビニルアセテート、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンイミン、ポリブタジエン、ポリスチレン、ポリイソプレン、ポリウレタン系高分子及びこれらの誘導体、セルロース、紙、不織布、ガラス繊維から選ばれる一種を単独で、又は二種以上を組み合せて用いることができる。
【0136】
次に、図1(A)と構造が異なる蓄電装置110について図1(B)を参照して説明する。図1(B)に示した蓄電装置110は、正極集電体101及び正極活物質層102を有する正極103と、負極集電体104及び負極活物質層105を有する負極106と、セパレータ111、電解液、及び筐体109を有する点においては、蓄電装置100と同様である。セパレータ111は、正極103及び負極106との間に設けられ、当該電解液を含んでいる。
【0137】
図1(B)における負極集電体104、負極活物質層105、正極集電体101、正極活物質層102は、蓄電装置100で示したものと同様とすればよい。
【0138】
セパレータ111は多孔質膜であることが好ましい。該多孔質膜の材料としては、ガラス繊維、合成樹脂材料又はセラミック材料などを用いればよい。
【0139】
セパレータ111に含まれている電解液は、蓄電装置100で説明した電解液107と同様とすればよい。
【0140】
ここで、本発明の一態様に係る蓄電装置の作製方法について説明する。まず、正極活物質層102を正極集電体101上に有する正極103の作製方法について説明する。
【0141】
正極集電体101及び正極活物質層102の材料ついては上記列挙した材料から選択する。
【0142】
正極集電体101上に、正極活物質層102を形成する。また正極活物質層102の形成方法は、塗布法又はスパッタリング法により形成すればよい。正極活物質層102を塗布法によって形成する場合は、正極活物質層102の材料に、導電助剤やバインダなどを混合させてペースト化して正極集電体101上に塗布して乾燥させて形成する。正極活物質層102を塗布法により形成した場合、必要に応じて加圧成形するとよい。以上により、正極集電体101上に正極活物質層102が形成された正極103が形成される。
【0143】
次に、負極集電体104及び負極活物質層105を有する負極106の作製方法について説明する。
【0144】
負極集電体104及び負極活物質層105の材料については上記列挙した材料から選択する。
【0145】
負極集電体104上に負極活物質層105を形成する。本実施の形態では、リチウム箔を用いる。先の実施の形態に記載したイオン液体は、耐還元性に優れており、最も低電位な負極材料のリチウムに対しても安定であるため、該イオン液体を電解液の非水溶媒とすることで、高いエネルギー密度を有し、信頼性に優れたリチウムイオン二次電池とすることができる。
【0146】
また、負極活物質層105にリチウム箔以外を用いる場合は、正極活物質層102と同様の方法で作製することができる。例えば、負極活物質層105にシリコンを用いる場合には、微結晶シリコンを負極集電体104上に形成し、微結晶シリコン中に存在する非結晶シリコンをエッチングにより除去したものを用いてもよい。微結晶シリコン中に存在する非結晶シリコンを除去すると、残った微結晶シリコンの表面積が大きくなる。微結晶シリコンの形成方法としては、化学気相成長法や物理気相成長法を用いることができる。例えば、化学気相成長法としてプラズマCVD法、物理気相成長法としては、スパッタリング法を用いることができる。なお、負極106に導電助剤及びバインダを用いる場合は、適宜、上記列挙した材料から選択し用いることができる。
【0147】
電解液107及びセパレータ111に含まれている電解液の作製方法は、先の実施の形態で記載の方法でイオン液体を合成し、当該イオン液体にキャリアイオンを含む電解質塩を混合すればよい。本実施の形態では、Li(CFSONを含リチウム電解質塩とし、当該イオン液体に混合する。
【0148】
次に、図1(A)に示す蓄電装置100の構成をラミネート型としたときの具体的な構造の上面図を図2(A)に示す。
【0149】
図2(A)に示すラミネート型蓄電装置200は、上記に示した正極集電体101と正極活物質層102を有する正極103と、負極集電体104と負極活物質層105を有する負極106を有している。また、図2(A)に示すラミネート型蓄電装置200は、正極103及び負極106との間にセパレータ108を有する。つまり、ラミネート型蓄電装置200は、正極103、負極106、セパレータ108を筐体109中に設置し、筐体109中に電解液107を有する蓄電装置である。
【0150】
図2(A)では、下から順に負極集電体104、負極活物質層105、セパレータ108、正極活物質層102、正極集電体101が配置されている。負極集電体104、負極活物質層105、セパレータ108、正極活物質層102、正極集電体101は、筐体109内に設けられる。また筐体109内は電解液107で満たされている。
【0151】
図2(A)の正極集電体101及び負極集電体104は、外部との電気的接触を得る端子の役割も兼ねている。そのため、正極集電体101の一部及び負極集電体104の一部は、筐体109から外側に露出するように配置される。
【0152】
なお、ラミネート型蓄電装置200は、図2(A)に示した構造に限定されるものではなく、他の構造を有するものであってもよい。
【0153】
次に、図1(B)に示す蓄電装置110をボタン型としたときの具体的な構造の斜視図を図2(B)に示す。また、図3(A)、(B)及び図4を用いて、図2(B)に示すボタン型蓄電装置210の具体的な構造及びその組み立て方を説明する。
【0154】
図2(B)に示すボタン型蓄電装置210は、正極103及び負極106との間に設けられ、電解液を含んでいるセパレータ111を有する。
【0155】
まず、第1の筐体201を用意する。第1の筐体201の底面は円であり、横から見た形状は長方形である。すなわち、第1の筐体201は円柱状の皿であるといえる。また第1の筐体201は、外部と正極103を電気的に接続するため導電性材料である必要がある。例えば、第1の筐体201は、金属材料で形成されていればよい。第1の筐体201の内部に正極集電体101及び正極活物質層102を有する正極103を設ける(図3(A)参照)。
【0156】
また、第2の筐体202を用意する。第2の筐体202の底面は円であり、横から見た形状は上辺より下辺が長い台形状である。すなわち、第2の筐体202は、下に行くほど径が大きくなる円柱状の皿であるといえる。ただし、第2の筐体202の径は、第1の筐体201の底面の径よりも小さい。この理由については後述する。
【0157】
また、第2の筐体202は、外部と負極106を電気的に接続するため導電性材料である必要がある。例えば、第2の筐体202は、金属材料で形成されていればよい。第2の筐体202の内部に負極集電体104及び負極活物質層105を有する負極106を設ける。
【0158】
第1の筐体201に設けられた正極103の外側を覆うようにして、リング状絶縁体203を設ける(図4参照)。リング状絶縁体203は、負極106と正極103を絶縁する機能を有する。また、リング状絶縁体203は、絶縁性樹脂を用いて作製されているものが好適である。
【0159】
あらかじめ電解液を含ませたセパレータ111を介して、図3(B)に示された負極106が設けられた第2の筐体202をリング状絶縁体203が設けられた第1の筐体201の内部に設置する(図4参照)。第2の筐体202の径は、第1の筐体201の底面の径よりも小さいので、第2の筐体202を第1の筐体201の内部にはめ込むことができる(図4参照)。
【0160】
上述のように、正極103及び負極106は、リング状絶縁体203により絶縁されているために短絡しない。
【0161】
なお、ボタン型蓄電装置210は、図2(B)に示した構造に限定されるものではなく、他の構造を有するものであってもよい。例えば、スペーサーやワッシャーなどの部材を適宜用いることができる。
【0162】
図1乃至図4において、リチウムイオン二次電池の構造及び作製方法について説明したが、本発明の一態様に係る蓄電装置はこれに限定されない。少なくとも正極、負極、セパレータ、及び本発明の一態様に係る非水溶媒を用いることでキャパシタとすることができる。例えば、当該非水溶媒を電解液として用いる電気二重層キャパシタや、当該非水溶媒と含リチウム電解質塩を電解液として用いるリチウムイオンキャパシタなどがある。
【0163】
蓄電装置100、110、200、210をリチウムイオンキャパシタとして用いる場合、正極活物質層102としては、リチウムイオン及びアニオンの一方又は双方を可逆的に吸着(挿入)・脱離できる材料を用いればよい。正極活物質層102及び負極活物質層105としては、例えば、活性炭、黒鉛、導電性高分子、ポリアセン有機半導体(PAS)などを用いることができる。
【0164】
本発明の一態様に係る非水溶媒は、広い電位窓を有し、優れた電気化学安定性を有するため、選択した正極材料及び負極材料に対して安定となる。従って、本発明の一態様に係る非水溶媒を、リチウムイオンキャパシタの電解液として用いることにより、リチウムイオンキャパシタの信頼性を向上させることができる。
【0165】
また、本発明の一態様に係る非水溶媒は、凝固点が低いため、当該非水溶媒をリチウムイオンキャパシタにおける電解液の非水溶媒として用いることにより、低温環境下でも動作可能な幅広い動作温度範囲を有するリチウムイオンキャパシタを実現することができる。
【0166】
蓄電装置100、110、200、210を電気二重層キャパシタとして用いる場合、正極活物質層102及び負極活物質層105として、活性炭、黒鉛、導電性高分子、ポリアセン有機半導体(PAS)などを用いることができる。
【0167】
また、本明細書に記載した蓄電装置を電気二重層キャパシタとして用いる場合、電解液は、本発明の一態様に係る非水溶媒のみで構成することができる。
【0168】
本発明の一態様に係る非水溶媒は、広い電位窓を有し、優れた電気化学安定性を有するため、選択した正極材料及び負極材料に対して安定となる。従って、本発明の一態様に係る非水溶媒を、電気二重層キャパシタの電解液として用いることにより、電気二重層キャパシタの信頼性を向上させることができる。
【0169】
また、本発明の一態様に係る非水溶媒は、凝固点が低いため、当該非水溶媒を電気二重層キャパシタにおける電解液の非水溶媒として用いることにより、低温環境下でも動作可能な幅広い動作温度範囲を有する電気二重層キャパシタを実現することができる。
【0170】
本実施の形態では、ラミネート型の蓄電装置及びボタン型の蓄電装置の例を示したが、本発明の一態様に係る蓄電装置はこれに限定されない。例えば、積層型、筒型など様々な構造の蓄電装置とすることができる。
【0171】
以上のように、本実施の形態によれば、エネルギー密度が高く、信頼性に優れた高性能な蓄電装置とすることができる。
【0172】
また、本実施の形態は、他の実施の形態に記載した構成と適宜組み合わせて実施することが可能である。
【0173】
(実施の形態4)
本発明の一態様に係る蓄電装置は、電力により駆動する様々な電気機器の電源として用いることができる。
【0174】
本発明の一態様に係る蓄電装置を用いた電気機器の具体例として、表示装置、照明装置、デスクトップ型或いはノート型のパーソナルコンピュータ、DVD(Digital Versatile Disc)などの記録媒体に記憶された静止画又は動画を再生する画像再生装置、携帯電話、携帯型ゲーム機、携帯情報端末、電子書籍、ビデオカメラ、デジタルスチルカメラ、電子レンジ等の高周波加熱装置、電気炊飯器、電気洗濯機、エアコンディショナーなどの空調設備、電気冷蔵庫、電気冷凍庫、電気冷凍冷蔵庫、DNA保存用冷凍庫、透析装置などが挙げられる。また、蓄電装置からの電力を用いて電動機により推進する移動体なども、電気機器の範疇に含まれるものとする。上記移動体として、例えば、電気自動車、内燃機関と電動機を併せ持った複合型自動車(ハイブリッドカー)、電動アシスト自転車を含む原動機付自転車などが挙げられる。
【0175】
なお、上記電気機器は、消費電力の殆ど全てを賄うための蓄電装置(主電源と呼ぶ)として、本発明の一態様に係る蓄電装置を用いることができる。或いは、上記電気機器は、上記主電源や商用電源からの電力の供給が停止した場合に、電気機器への電力の供給を行うことができる蓄電装置(無停電電源と呼ぶ)として、本発明の一態様に係る蓄電装置を用いることができる。或いは、上記電気機器は、上記主電源や商用電源からの電気機器への電力の供給と並行して、電気機器への電力の供給を行うための蓄電装置(補助電源と呼ぶ)として、本発明の一態様に係る蓄電装置を用いることができる。
【0176】
図5に、上記電気機器の具体的な構成を示す。図5において、表示装置5000は、本発明の一態様に係る蓄電装置5004を用いた電気機器の一例である。具体的に、表示装置5000は、TV放送受信用の表示装置に相当し、筐体5001、表示部5002、スピーカー部5003、蓄電装置5004等を有する。本発明の一態様に係る蓄電装置5004は、筐体5001の内部に設けられている。表示装置5000は、商用電源から電力の供給を受けることもできるし、蓄電装置5004に蓄積された電力を用いることもできる。よって、停電などにより商用電源から電力の供給が受けられない時でも、本発明の一態様に係る蓄電装置5004を無停電電源として用いることで、表示装置5000の利用が可能となる。
【0177】
表示部5002には、液晶表示装置、有機EL素子などの発光素子を各画素に備えた発光装置、電気泳動表示装置、DMD(Digital Micromirror Device)、PDP(Plasma Display Panel)、FED(Field Emission Display)などの、半導体表示装置を用いることができる。
【0178】
なお、表示装置には、TV放送受信用の他、パーソナルコンピュータ用、広告表示用など、全ての情報表示用表示装置が含まれる。
【0179】
図5において、据え付け型の照明装置5100は、本発明の一態様に係る蓄電装置5103を用いた電気機器の一例である。具体的に、照明装置5100は、筐体5101、光源5102、蓄電装置5103等を有する。図5では、蓄電装置5103が、筐体5101及び光源5102が据え付けられた天井5104の内部に設けられている場合を例示しているが、蓄電装置5103は、筐体5101の内部に設けられていても良い。照明装置5100は、商用電源から電力の供給を受けることもできるし、蓄電装置5103に蓄積された電力を用いることもできる。よって、停電などにより商用電源から電力の供給が受けられない時でも、本発明の一態様に係る蓄電装置5103を無停電電源として用いることで、照明装置5100の利用が可能となる。
【0180】
なお、図5では天井5104に設けられた据え付け型の照明装置5100を例示しているが、本発明の一態様に係る蓄電装置は、天井5104以外、例えば側壁5105、床5106、窓5107等に設けられた据え付け型の照明装置に用いることもできるし、卓上型の照明装置などに用いることもできる。
【0181】
また、光源5102には、電力を利用して人工的に光を得る人工光源を用いることができる。具体的には、白熱電球、蛍光灯などの放電ランプ、LEDや有機EL素子などの発光素子が、上記人工光源の一例として挙げられる。
【0182】
図5において、室内機5200及び室外機5204を有するエアコンディショナーは、本発明の一態様に係る蓄電装置5203を用いた電気機器の一例である。具体的に、室内機5200は、筐体5201、送風口5202、蓄電装置5203等を有する。図5では、蓄電装置5203が、室内機5200に設けられている場合を例示しているが、蓄電装置5203は室外機5204に設けられていても良い。或いは、室内機5200と室外機5204の両方に、蓄電装置5203が設けられていても良い。エアコンディショナーは、商用電源から電力の供給を受けることもできるし、蓄電装置5203に蓄積された電力を用いることもできる。特に、室内機5200と室外機5204の両方に蓄電装置5203が設けられている場合、停電などにより商用電源から電力の供給が受けられない時でも、本発明の一態様に係る蓄電装置5203を無停電電源として用いることで、エアコンディショナーの利用が可能となる。
【0183】
なお、図5では、室内機と室外機で構成されるセパレート型のエアコンディショナーを例示しているが、室内機の機能と室外機の機能とを1つの筐体に有する一体型のエアコンディショナーに、本発明の一態様に係る蓄電装置を用いることもできる。
【0184】
図5において、電気冷凍冷蔵庫5300は、本発明の一態様に係る蓄電装置5304を用いた電気機器の一例である。具体的に、電気冷凍冷蔵庫5300は、筐体5301、冷蔵室用扉5302、冷凍室用扉5303、蓄電装置5304等を有する。図5では、蓄電装置5304が、筐体5301の内部に設けられている。電気冷凍冷蔵庫5300は、商用電源から電力の供給を受けることもできるし、蓄電装置5304に蓄積された電力を用いることもできる。よって、停電などにより商用電源から電力の供給が受けられない時でも、本発明の一態様に係る蓄電装置5304を無停電電源として用いることで、電気冷凍冷蔵庫5300の利用が可能となる。
【0185】
なお、上述した電気機器のうち、電子レンジ等の高周波加熱装置、電気炊飯器などの電気機器は、短時間で高い電力を必要とする。よって、商用電源では賄いきれない電力を補助するための補助電源として、本発明の一態様に係る蓄電装置を用いることで、電気機器の使用時に商用電源のブレーカーが落ちるのを防ぐことができる。
【0186】
また、電気機器が使用されない時間帯、特に、商用電源の供給元が供給可能な総電力量のうち、実際に使用される電力量の割合(電力使用率と呼ぶ)が低い時間帯において、蓄電装置に電力を蓄えておくことで、上記時間帯以外において電力使用率が高まるのを抑えることができる。例えば、電気冷凍冷蔵庫5300の場合、気温が低く、冷蔵室用扉5302、冷凍室用扉5303の開閉が行われない夜間において、蓄電装置5304に電力を蓄える。そして、気温が高くなり、冷蔵室用扉5302、冷凍室用扉5303の開閉が行われる昼間において、蓄電装置5304を補助電源として用いることで、昼間の電力使用率を低く抑えることができる。
【0187】
また、本実施の形態は、他の実施の形態に記載した構成と適宜組み合わせて実施することが可能である。
【符号の説明】
【0188】
100 蓄電装置
101 正極集電体
102 正極活物質層
103 正極
104 負極集電体
105 負極活物質層
106 負極
107 電解液
108 セパレータ
109 筐体
110 蓄電装置
111 セパレータ
201 第1の筐体
202 第2の筐体
203 リング状絶縁体
200 ラミネート型蓄電装置
210 ボタン型蓄電装置
5000 表示装置
5001 筐体
5002 表示部
5003 スピーカー部
5004 蓄電装置
5100 照明装置
5101 筐体
5102 光源
5103 蓄電装置
5104 天井
5105 側壁
5106 床
5107 窓
5200 室内機
5201 筐体
5202 送風口
5203 蓄電装置
5204 室外機
5300 電気冷凍冷蔵庫
5301 筐体
5302 冷蔵室用扉
5303 冷凍室用扉
5304 蓄電装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一以上の置換基を有する脂環式4級アンモニウムカチオンと、前記脂環式4級アンモニウムカチオンに対するアニオンを有するイオン液体と、
凝固点降下剤を、少なくとも含むことを特徴とする非水溶媒。
【請求項2】
請求項1において、
前記置換基は、前記脂環式4級アンモニウムカチオンの脂肪族環に結合していることを特徴とする非水溶媒。
【請求項3】
請求項1又は請求項2において、
前記脂環式4級アンモニウムカチオンの脂肪族環の炭素数は、5以下であることを特徴とする非水溶媒。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか一において、
前記凝固点降下剤は、前記イオン液体より粘度が低いことを特徴とする非水溶媒。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか一において、
前記凝固点降下剤は、脂環式4級アンモニウムカチオンと、前記脂環式4級アンモニウムカチオンに対するアニオンを有するイオン液体であることを特徴とする非水溶媒。
【請求項6】
請求項1乃至請求項4のいずれか一において、
前記凝固点降下剤は、非環式4級アンモニウムカチオンと、前記非環式4級アンモニウムカチオンに対するアニオンを有するイオン液体であることを特徴とする非水溶媒。
【請求項7】
少なくとも、一般式(G1)で表されるイオン液体と、
凝固点降下剤を含むことを特徴とする非水溶媒。
【化1】

(式中、R〜Rは、それぞれ独立に、水素原子、又は炭素数が1〜20のアルキル基、メトキシ基、メトキシメチル基、若しくはメトキシエチル基のいずれかを表し、Aは、1価のイミドアニオン、1価のメチドアニオン、パーフルオロアルキルスルホン酸アニオン、テトラフルオロボレート、又はヘキサフルオロホスフェートのいずれかを表す。)
【請求項8】
請求項7において、
前記凝固点降下剤は、前記一般式(G1)で表される前記イオン液体より粘度が低いことを特徴とする非水溶媒。
【請求項9】
請求項7又は請求項8において、
前記凝固点降下剤は、脂環式4級アンモニウムカチオンと、前記脂環式4級アンモニウムカチオンに対するアニオンを有するイオン液体であることを特徴とする非水溶媒。
【請求項10】
請求項7又は請求項8において、
前記凝固点降下剤は、非環式4級アンモニウムカチオンと、前記非環式4級アンモニウムカチオンに対するアニオンを有するイオン液体であることを特徴とする非水溶媒。
【請求項11】
請求項7乃至請求項9のいずれか一において、
前記凝固点降下剤は、前記一般式(G1)で表される前記イオン液体であることを特徴とする非水溶媒。
【請求項12】
請求項7乃至請求項9のいずれか一において、
前記凝固点降下剤は、一般式(G2)で表されるイオン液体であることを特徴とする非水溶媒。
【化2】

(式中、R〜Rは、それぞれ独立に、水素原子、又は炭素数が1〜20のアルキル基、メトキシ基、メトキシメチル基、若しくはメトキシエチル基のいずれかを表し、Aは、1価のイミドアニオン、1価のメチドアニオン、パーフルオロアルキルスルホン酸アニオン、テトラフルオロボレート、又はヘキサフルオロホスフェートのいずれかを表す。)
【請求項13】
少なくとも正極、負極、電解液及びセパレータを有する蓄電装置であって、
前記電解液は、請求項1乃至請求項12のいずれか一に記載の前記非水溶媒を含むことを特徴する蓄電装置。
【請求項14】
少なくとも正極、負極、電解液及びセパレータを有する蓄電装置であって、
前記電解液は、請求項1乃至請求項12のいずれか一に記載の前記非水溶媒及びリチウムイオンを含む電解質塩を含むことを特徴とする蓄電装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2013−30473(P2013−30473A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−138939(P2012−138939)
【出願日】平成24年6月20日(2012.6.20)
【出願人】(000153878)株式会社半導体エネルギー研究所 (5,264)
【Fターム(参考)】