説明

非水系空気電池及び非水系空気電池の製造方法

【課題】非水系空気電池において、不可逆容量をより低減する。
【解決手段】非水系空気電池は、酸素の酸化還元触媒を有する正極23と、負極活物質を有する負極22と、正極23と負極22との間に介在し、Liイオンを伝導する電解液とを備えている。ここで、負極活物質は、Na、K、Rb、Cs、Frのうちのいずれか1以上を含有する被膜が形成されたリチウム系材料である。このリチウム系材料は、スルホキシド基を有する非水系溶媒とこの溶媒に溶存するNa、K、Rb、Cs、Frのうちのいずれか1以上とを含む処理液とリチウム系材料とを接触させ、リチウム系材料にNa、K、Rb、Cs、Frのうちのいずれか1以上を含有する被膜を予め形成したものであることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水系空気電池及び非水系空気電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、負極活物質に金属を用い、正極活物質に空気中の酸素を用いる充放電可能な空気電池が知られている。こうした空気電池では、正極活物質である酸素を電池内に内蔵する必要がないため高容量化が期待される。リチウムを負極活物質とする空気電池では、正極において酸素の電気化学反応が起こり、放電時にリチウム過酸化物やリチウム酸化物が生成し、充電時にこれらの酸化物が分解して酸素ガスが生成する。このような正極での酸素の酸化還元反応を促進するために、正極には触媒を含めることが多い。例えば特許文献1には、触媒としてコバルトフタロシアニンやコバルトポルフィリンなどを正極表面に担持させることが記載されている。また、非特許文献1には電解二酸化マンガンを担持させることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−286414号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】ジャーナル・オブ・アメリカン・ケミカル・ソサイエティ(J.Am.Chem.Soc.)、128巻、1390−1393頁、2006年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、非水系空気電池の二次電池化に向けての課題に、放電電圧に対して、充電電圧が著しく高く、クーロン効率が極めて低いことが挙げられる。例えば、非特許文献1においては、放電電圧が2.7V前後であるのに対して、正極触媒を用いても、充電電圧が4.0V以上であることが例示されている。また、非水系空気電池の二次電池化に向けての課題に、放電容量に対して充電容量が少ない、即ち、不可逆容量が大きいことが挙げられる。そこで、このような不可逆容量をより低減することが望まれていた。
【0006】
本発明は、このような課題に鑑みなされたものであり、不可逆容量をより低減できる非水系空気電池を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した目的を達成するために鋭意研究したところ、本発明者らは、非水系空気電池において、リチウムを含む負極の表面に、NaやK、Rb、Cs、Frなどのアルカリ金属塩を溶存させた有機溶媒に溶解した処理液とLiとが反応して生成する被膜が形成されたものとすると、不可逆容量をより低減することができることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明の非水系空気電池は、酸素の酸化還元触媒を有する正極と、Na、K、Rb、Cs、Frのうちのいずれか1以上を含有する被膜が形成されたリチウム系材料を負極活物質として有する負極と、前記正極と前記負極との間に介在し、リチウムイオンを伝導するイオン伝導媒体と、を備えたものである。
【0009】
また、本発明の非水系空気電池の製造方法は、スルホキシド基を有する非水系溶媒と該非水系溶媒に溶存するNa、K、Rb、Cs、Frのうちのいずれか1以上とを含む処理液とリチウム系材料とを接触させ該リチウム系材料にNa、K、Rb、Cs、Frのうちのいずれか1以上を含有する被膜を形成して負極活物質を作製する負極活物質作製工程と、酸素の酸化還元触媒を有する正極と、前記作製した負極活物質を有する負極と、前記正極と前記負極との間に介在しリチウムイオンを伝導するイオン伝導媒体と、を備えた電池を構成する電池構成工程と、を含むものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の非水系空気電池及び非水系空気電池の製造方法では、不可逆容量をより低減できる。このような効果が得られる理由は明らかではないが、以下のように考えられる。一般に、リチウム系の非水空気電池では、放電時に正極でリチウムと酸素とが反応して、LiO2が生じ、さらにこのLiO2とリチウムとが反応してLi22が生じる。続く充電では、この逆の反応が生じる。このように、充放電反応が可逆反応であるため、空気電池では充放電可能である。しかし、イオン伝導媒体中に水素が存在すると、LiO2と水素とが反応して、LiOHが生じることがある。このLiOHは、空気電池の充電上限電位(例えば4V)では分解しないため、充電に際して不可逆容量が生じる。ところで、この水素は、イオン伝導媒体とリチウムとが反応することによって生じる。本発明のものでは、リチウムの表面がアルカリ金属含有被膜で覆われていることにより、イオン伝導媒体とリチウムとの反応を抑制可能なため、水素の発生を抑制し、不可逆容量をより低減できるものと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】コイン型電池20の構成の概略を表す断面図
【図2】F型電気化学セル30の説明図。
【図3】実施例1の1,2サイクル目の充放電曲線。
【図4】比較例1の1サイクル目の充放電曲線。
【図5】実施例2の1サイクル目の充放電曲線。
【図6】比較例2の1サイクル目の充放電曲線。
【図7】比較例3の1サイクル目の充放電曲線。
【図8】実施例3の1サイクル目の充放電曲線。
【図9】比較例4の1サイクル目の充放電曲線。
【図10】実施例4の1,2サイクル目の充放電曲線。
【図11】実施例5の1,2サイクル目の充放電曲線。
【図12】実施例6の1サイクル目の充放電曲線。
【図13】Cs被膜を形成したリチウム系材料のラマンスペクトル。
【図14】Cs被膜を形成したリチウム系材料のTOF−SIMS正イオンスペクトル。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の非水系空気電池は、酸素の酸化還元触媒を有する正極と、負極活物質を有する負極と、正極と負極との間に介在し、リチウムイオンを伝導するイオン伝導媒体と、を備えたものである。
【0013】
本発明の非水系空気電池において、負極は、Na、K、Rb、Cs、Frのうちのいずれか1以上を含有する被膜(以下、アルカリ金属含有被膜とも称する)が形成されたリチウム系材料を負極活物質として有するものである。
【0014】
ここで、リチウム系材料とは、リチウムを含む材料をいい、金属リチウムやリチウム合金のほか、リチウム酸化物、リチウム複合酸化物、リチウム硫化物、リチウム複合硫化物などが挙げられる。リチウム合金としては、例えば、アルミニウムやシリコン、スズ、マグネシウム、インジウム、カルシウムなどとリチウムとの合金が挙げられる。このリチウム系材料は、リチウムを吸蔵放出可能なものであることが好ましく、リチウムを主成分とする材料であることが好ましい。主成分とは、含まれる成分全体のうち原子量比が最も多い成分をいうものとすることができるが、例えば、50at%以上含まれる成分や、70at%以上含まれる成分、90at%以上含まれる成分などを主成分としてもよい。リチウム系材料は、上述したものであれば特に限定されないが、金属リチウムであることが好ましい。金属リチウムを負極として用いると、理論電圧や電気化学当量を高めることが可能であり、高容量化を図ることができると考えられるからである。
【0015】
リチウム系材料に形成されたアルカリ金属含有被膜は、リチウム系材料の表面に形成されていることが好ましく、リチウム系材料の表面を覆うように形成されていることが好ましいが、表面の一部が覆われていなくてもよい。例えば、リチウム系材料の表面に網状や島状に形成されていもよい。リチウム系材料の表面が覆われていれば、リチウムとイオン伝導媒体との接触をより抑制できると考えられる。
【0016】
このアルカリ金属含有被膜は、Na、K、Rb、Cs、Frのうちのいずれか1以上を含有するものであればよい。なかでも、Na、K、Csのうちのいずれか1以上を含むものが好ましい。また、このアルカリ金属含有被膜は、さらにLiを含んでもよい。
【0017】
このアルカリ金属含有被膜は、レーザーラマン分光測定で得られるラマンスペクトルに、非水系溶媒の分解により生じたメチル基を示す明瞭なピークが存在しないことが好ましい。特に、後述する処理液とリチウム系材料とを接触させて被膜を形成する場合に、処理液に含まれる非水系溶媒の分解により生じたメチル基を示すピークが存在しないことが好ましい。例えば、非水系溶媒としてジメチルスルホキシド(DMSO)を用いた場合に、2900〜3000cm-1の間にピークが存在しないことが好ましい。このようなピークは、Na、K、Rb、Cs、Frのいずれも含まない被膜の形成を示唆すると考えられるからである。
【0018】
このアルカリ金属被膜は、非行時間型二次イオン質量分析法(Time-of-flight Secondary Ion Mass Spectrometry;TOF−SIMS)で得られる正スペクトルに、Na、K、Rb、Cs、Frのうちのいずれか1以上を示すピークが存在すると考えられる。このとき、例えば、アルカリ金属被膜がCsを含むものである場合には、Cs+のピークが存在することが好ましい。また、Li+のピークが存在することが好ましい。なお、Li+のピークは、アルカリ金属含有被膜が形成されるリチウム系材料に由来するものと考えられる。この他に、例えば、Cs2+のピークや、Cs2+、Cs3+、Cs32+などのピークや、Cs3CO3+のピークなどが存在してもよい。また、リチウムとの化合物であることを示唆するCsLiO+、Cs2CO3Li+などのピークが存在してもよい。また、Cs2Cl+、Cs2ClO4+、Cs3ClO+、などのピークが存在してもよい。また、これら以外のピークが存在してもよい。なお、アルカリ金属被膜がNa、K、Rb、Frなどを含むものである場合も同様である。
【0019】
負極活物質は、処理液と上述したリチウム系材料とを接触させてアルカリ金属含有被膜を予め形成したものであることが好ましい。被膜を形成していないリチウム系材料を用い、電解液に処理液を用いて電池を構成して電池内で被膜を形成することも可能であるが、この場合、電解液に含まれるNa、K、Rb、Cs、Frなどにより副反応が生じ、充放電特性が劣化することが考えられる。これに対し、被膜を予め形成しておけば、Na、K、Rb、Cs、Frなどを含まない電解液を用いることができるため、副反応などを抑制できると考えられるからである。ここで、処理液は、非水系溶媒と、この非水系溶媒に溶存するNa、K、Rb、Cs、Frのうちのいずれか1以上とを含むものである。この処理液の詳細や、リチウム系材料と処理液とを接触させる際の条件については、後述する非水系空気電池の製造方法の説明で詳述するから、ここでは記載を省略する。
【0020】
本発明の非水系空気電池の負極は、例えば、上述した負極活物質と導電材と結着材とを混合し、適当な溶剤を加えてペースト状の負極材としたものを、集電体の表面に塗布乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して形成してもよい。集電体としては、銅、ニッケル、ステンレス鋼、チタン、アルミニウム、焼成炭素、導電性高分子、導電性ガラス、Al−Cd合金などのほか、接着性、導電性及び耐還元性向上の目的で、例えば銅などの表面をカーボン、ニッケル、チタンや銀などで処理したものも用いることができる。これらについては、表面を酸化処理することも可能である。集電体の形状については、箔状、フィルム状、シート状、ネット状、パンチ又はエキスパンドされたもの、ラス体、多孔質体、発泡体、繊維群の形成体などが挙げられる。なお、負極は、導電材や結着材、集電体を用いなくてもよい。
【0021】
本発明の非水系空気電池において、正極は、酸素の酸化還元触媒を含んでいるものが好ましい。正極での反応をより効率よく行うことができるからである。この正極は、気体からの酸素を正極活物質とするものである。気体としては、空気であってもよいし酸素ガスであってもよい。酸素の酸化還元触媒としては、二酸化マンガン、四酸化三コバルトなどの金属酸化物であってもよいし、Pt、Pd、Coなどの金属であってもよいし、金属ポルフィリン、金属フタロシアニン、イオン化フラーレン、カーボンナノチューブなどの有機及び無機化合物であってもよい。このうち、電解二酸化マンガンであれば、容易に入手することができる点で好ましい。また、酸素の酸化還元触媒としては、安定なラジカル骨格を含む構造を有する安定ラジカル化合物であってもよい。ここで、安定なラジカル骨格とは、ラジカルとして存在している時間の長いものをいい、例えば電子スピン共鳴分析で測定されたスピン密度が1019spins/g以上、好ましくは1021spins/g以上のものとしてもよい。安定なラジカル化合物としては、例えば、ニトロキシルラジカルを有する骨格、オキシラジカルを有する骨格、窒素ラジカルを有する骨格、硫黄ラジカルを有する骨格、炭素ラジカルを有する骨格及びホウ素ラジカルを有する骨格からなる群より選ばれたラジカル骨格を有するものが好ましい。具体的には、式(1)〜(9)に示すようなニトロキシルラジカルを有する骨格、式(10)に示すようなフェノキシラジカル(オキシラジカル)を有する骨格、式(11)〜(13)に示すようなヒドラジルラジカル(窒素ラジカル)を有する骨格、式(14),(15)に示すような炭素ラジカルを有する骨格を含むものなどが挙げられる。このうち、特にニトロキシルラジカルを有する骨格を含むものが好ましく、式(1),(2),(4)に示すような骨格を有するものがより好ましい。安定ラジカル化合物は、上述した骨格単独のものであってもよいが、多環式芳香環が安定なラジカル骨格に連結した構造を有する化合物であってもよいし、ポリマーが安定なラジカル骨格に連結した構造を有する化合物であってもよい。前者の場合には、正極中で個々に分散して存在しやすいため還元触媒機能を十分発揮することができ、後者の場合には、正極から流出しにくいため長期にわたって還元触媒機能を発揮することができる。多環式芳香環としては、例えばナフタレンやフェナレン、トリフェニレン、アントラセン、ペリレン、フェナントレン、ピレンなどが挙げられる。ポリマーとしては、例えばポリエチレンやポリプロピレンなどが挙げられる。ポリマーや多環式芳香環は、ラジカル骨格に直接連結していてもよいし、エステル結合、アミド結合、ウレア結合、ウレタン結合、カルバミド結合、エーテル結合及びスルフィド結合からなる群より選ばれたものをスペーサとし該スペーサを介してラジカル骨格に連結していてもよい。式(16)は多環式芳香環(ピレン)がスペーサ(アミド結合)を介して安定なラジカル骨格に連結した構造を有する化合物の一例であり、式(17)はポリマー(ポリプロピレン)がスペーサ(エステル結合)を介して安定なラジカル骨格に連結した構造を有する化合物の一例である。なお、ポリマーは数平均分子量が5千以上50万以下であることが好ましく、重量平均分子量が1万以上100万以下であることが好ましい。酸化還元触媒は正極合材あたり2重量%以上60重量%以下であることが好ましく、50重量%以上60重量%以下であることがより好ましい。2重量%以上であれば酸素の酸化還元を行うのに少なすぎず、60重量%以下であれば、後述する導電材や結着剤が少なくなりすぎず電気伝導性や強度を確保することができる。
【0022】
【化1】

【0023】
【化2】

【0024】
本発明の非水系空気電池の正極は、例えば上述した酸化還元触媒と導電材と結着剤とを混合し、適当な溶剤を加えてペースト状の正極材としたものを、集電体の表面に塗布乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して形成してもよい。集電体としては、酸素の拡散を速やかに行わせるため、網状やメッシュ状など多孔体であることが好ましく、ステンレス鋼やニッケル、アルミニウム、銅などの多孔体の金属板であってもよい。なお、この集電体は、酸化を抑制するためにその表面に耐酸化性の金属または合金の被膜を被覆したものでもよい。また、InSnO2、SnO2、ZnO、In23等の透明導電材又はフッ素ドープ酸化錫(SnO2:F)、アンチモンドープ酸化錫(SnO2:Sb)、錫ドープ酸化インジウム(In23:Sn)、アルミニウムドープ酸化亜鉛(ZnO:Al)、ガリウムドープ酸化亜鉛(ZnO:Ga)等の不純物がドープされた材料の単層又は積層を、ガラスや高分子上に形成させたものでもよい。その膜厚は、特に限定されるものではないが、3nm以上10μm以下であることが好ましい。なお、ガラスや高分子の表面はフラットなものでもよいし、表面に凹凸を有しているものでもよい。
【0025】
本発明の非水系空気電池において、正極及び負極に用いられる導電材は、電池性能に悪影響を及ぼさない電子伝導性材料であれば特に限定されず、例えば、天然黒鉛(鱗状黒鉛、鱗片状黒鉛)や人造黒鉛などの黒鉛、アセチレンブラック、カーボンブラック、ケッチェンブラック、カーボンウィスカ、ニードルコークス、炭素繊維、金属(銅、ニッケル、アルミニウム、銀、金など)などの1種又は2種以上を混合したものを用いることができる。これらの中で、導電材としては、電子伝導性及び塗工性の観点より、カーボンブラック及びアセチレンブラックが好ましい。結着剤は、活物質粒子及び導電材粒子を繋ぎ止める役割を果たすものであり、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、フッ素ゴム等の含フッ素樹脂、或いはポリプロピレン、ポリエチレン、ポリアクリロニトリル等の熱可塑性樹脂、エチレン−プロピレン−ジエンマー(EPDM)、スルホン化EPDM、天然ブチルゴム(NBR)等を単独で、あるいは2種以上の混合物として用いることができる。また、水系バインダであるセルロース系やスチレンブタジエンゴム(SBR)の水分散体等を用いることもできる。バインダ量としては、触媒を担持した導電材100重量部に対し3重量部以上15重量部以下であることが好ましい。3重量部以上であれば、正極の強度を保つために十分であり、15重量部以下であれば、酸化還元触媒や導電材の量が少なくなりすぎず、電池反応の進行を阻害しないと考えられるからである。負極活物質や酸化還元触媒と、導電材、結着剤などを分散させる溶剤としては、例えばN−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸メチル、アクリル酸メチル、ジエチルトリアミン、N,N−ジメチルアミノプロピルアミン、エチレンオキシド、テトラヒドロフランなどの有機溶剤を用いることができる。また、水に分散剤、増粘剤等を加え、SBRなどのラテックスで活物質をスラリー化してもよい。増粘剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロースなどの多糖類を単独で、あるいは2種以上の混合物として用いることができる。塗布方法としては、例えば、アプリケータロールなどのローラコーティング、スクリーンコーティング、ドクターブレイド方式、スピンコーティング、バーコータなどが挙げられ、これらのいずれかを用いて任意の厚さ・形状とすることができる。
【0026】
本発明の非水系空気電池において、非水系イオン伝導媒体は、非水系電解液としてもよい。この非水系電解液は、例えばリチウムを有する支持塩を非水系溶媒に溶解させたものであってもよい。リチウムを有する支持塩は、特に限定されるものではないが、例えば、ヘキサフルオロホスフェート塩(LiPF6),パークロレート塩(LiClO4),テトラフルオロボレート塩(LiBF4),ペンタフルオロアルシン塩(LiAsF5),ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド塩(Li(CF3SO22N),ビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミド塩(LiN(C25SO22),トリフルオロメタンスルホン酸塩(Li(CF3SO3)),ノナフルオロブタンスルホン酸塩(Li(C49SO3))、などの公知の支持塩を用いることができる。このうち、パークロレート塩、テトラフルオロボレート塩、イミド塩であることが好ましく、Li(CF3SO22Nがより好ましい。また、ペンタフルオロアルシン塩(LiAsF5)も好ましい。この支持塩の濃度としては、0.1mol/L以上2.0mol/L以下であることが好ましく、0.5mol/L以上1.2mol/L以下であることがより好ましい。リチウムを有する支持塩は、単独で用いてもよいし、複数を組み合わせて用いてもよい。
【0027】
非水系電解液の溶媒には、エチレンカーボネート,プロピレンカーボネート,ブチレンカーボネート,ビニレンカーボネートなどの環状カーボネート、ジエチルカーボネート,ジメチルカーボネート,エチルメチルカーボネートなどの鎖状カーボネート、ガンマブチロラクトン,ガンマバレロラクトンなどの環状エステルカーボネート、テトラヒドロフラン,2−メチルテトラヒドロフランなどの環状エーテル、ジメトキシエタン,エチレングリコールジメチルエーテルなどの鎖状エーテルなどのほか、クロロエチレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、3−メトキシプロピオニトリル、リン酸トリメチル、リン酸トリフェニル、スルホラン、ジメチルスルホキシドなどの公知の有機溶媒を用いることができる。また、N,N−ジエチル−N−エチル‐N−(2−メトキシエチル)アンモニウムビス(トリフルオロスルホニル)イミド、N−メチル−N−プロピルピペリジウムビス(トリフルオロスルホニル)イミド、1−メチル−3−プロピルイミダゾリウムビス(トリフルオロスルホニル)イミド、1−エチル−3−ブチルイミダゾリウムテトラフルオロボレート、などのイオン液体を用いてもよい。また、3−メトキシプロピオニトリルやジメチルスルホキシド、アセトニトリルの重水素化溶媒、例えば、ジメチルスルホキシド−d6、アセトニトリル−d3のいずれかの重水素化溶媒など、重水素を含む非水溶媒を用いてもよい。これらの有機溶媒は、単独で用いてもよいが、2以上を混合して用いてもよい。また、ゲル電解質として用いてもよい。例えば、ポリフッ化ビニリデンやポリエチレングリコール、ポリアクリロニトリルなどの高分子、アミノ酸誘導体、ソルビトール誘導体などの糖類に、上記支持塩を含む非水系電解液を含ませてなるゲル電解質が挙げられる。
【0028】
本発明の非水系空気電池は、正極と負極との間にセパレータを備えていてもよい。セパレータとしては、非水系空気電池の使用に耐え得る組成であれば特に限定されないが、例えば、ポリプロピレン製不織布やポリフェニレンスルフィド製不織布などの高分子不織布、ポリエチレンやポリプロピレンなどのオレフィン系樹脂の微多孔フィルムが挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、複合して用いてもよい。
【0029】
本発明の非水系空気電池の形状は、特に限定されないが、例えばコイン型、ボタン型、シート型、積層型、円筒型、偏平型、角型などが挙げられる。また、電気自動車等に用いる大型のものなどに適用してもよい。
【0030】
次に、非水系空気電池の製造方法について説明する。この製造方法は、負極に用いるリチウム系材料に上述したアルカリ金属含有被膜を形成して負極活物質を作製する負極活物質作製工程と、電池を構成する電池構成工程とを含む。
【0031】
(a)負極活物質作製工程
この工程では、処理液とリチウム系材料とを接触させ、リチウム系材料にアルカリ金属含有被膜を形成する。ここで、処理液は、非水系溶媒と、該非水系溶媒に溶存するNa、K、Rb、Cs、Frのうちのいずれか1以上とを含むものである。非水系溶媒は特に限定されないが、スルホキシド基を有することが好ましい。ここで、スルホキシド基とは、2つの炭化水素基が結合した硫黄と酸素との二重結合を有する硫黄化合物におけるS=O部位である。つまり、非水系溶媒は、スルホキシド及びスルホンの少なくとも一方であることが好ましい。丈夫で安定な被膜を形成可能と考えられるからである。このようなものとしては、例えば、ジメチルスルホキシド(式(18))、ジエチルスルホキシド、ジフェニルスルホキシド(式(19))、ジエチルサルファイド(式(20))、テトラメチレンスルホキシド(式(21))、ジメチルスルホン(式(22))、スルホラン(式(23))、3−メチルスルホラン(式(24))などが挙げられる。このうち、ジメチルスルホキシド、テトラメチレンスルホキシド、テトラメチレンスルホン が好ましい。より丈夫で安定な被膜を形成可能と考えられるからである。このほか、例えば、エチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)及びプロピレンカーボネート(PC)などのカーボネート類、ジメトキシエタン(DME)、トリグライム及びテトラグライムなどのエーテル類、ジオキソラン(DOL)、テトラヒドロフランなどの環状エーテル及び、それらの混合物などを用いてもよい。また、1−メチル−3−プロピルイミダゾリウムビス(トリフルオロスルホニル)イミド、1−エチル−3−ブチルイミダゾリウムテトラフルオロボレートなどのイオン液体を用いることもできる。なお、このような溶媒として、上述したイオン伝導媒体の溶媒などを用いてもよい。この場合、イオン伝導媒体に含まれる支持塩をも含むものとしてもよいが、支持塩を含まないものが好ましい。副生成物を生じにくいと考えられるからである。この処理液は、非水系溶媒に、Na、K、Rb、Cs、Frのいずれか1以上を単体で添加したものでもよいし、これらの塩を添加したものでもよい。塩の種類は特に限定されず、例えば、ヘキサフルオロホスフェート塩,パークロレート塩,テトラフルオロボレート塩,ペンタフルオロアルシン塩,ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド塩,ビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミド塩,トリフルオロメタンスルホン酸塩,ノナフルオロブタンスルホン酸塩、などの塩を用いることができる。このうち、パークロレート塩であることが好ましい。パークロレート塩を用いるとイオン伝導媒体の導電率をより高めることができるからである。また、この塩は、1種類でもよいし複数種類でもよい。
【0032】
【化3】

【0033】
処理液における、Na、K、Rb、Cs、Frの濃度や量は特に限定されない。例えば、処理液におけるNa、K、Rb、Cs、Frの濃度は、合計で0.01mol/L以上が好ましく、0.02mol/L以上がより好ましく、0.06mol/L以上がさらに好ましい、このとき、飽和濃度以下であることが好ましく、2.0mol/L以下がより好ましく、1.2mol/L以下がさらに好ましい。0.01mol/L以上であれば被膜の形成に十分であり、飽和濃度以下であれば副生成物などが生じにくいと考えられるからである。なお、これらが過飽和に含まれていてもよい。また、処理液におけるNa、K、Rb、Cs、Frの量は、合計でリチウム系材料の重量あたり0.01mol/g以上が好ましく、0.05mol/g以上がより好ましく、0.1mol/g以上がさらに好ましく、このとき、0.5mol/g以下が好ましく、0.2mol/g以下がより好ましく、0.15mol/g以下がさらに好ましい。0.01mol/g以上であれば、被膜の形成に十分であり、0.5mol/g以下であれば副生成物などが生じにくいと考えられるからである。また、処理液におけるNa、K、Rb、Cs、Frの量は、合計でリチウム系材料の表面積あたり、0.1mmol/cm2以上が好ましく、0.5mmol/cm2以上がより好ましく、1.0mmol/cm2以上がさらに好ましく、このとき、5mmol/cm2以下が好ましく、2mmol/cm2以下がより好ましく、1.5mmol/cm2以下がさらに好ましい。0.1mmol/cm2以上であれば被膜の形成に十分であり、5mmol/cm2以下であれば副生成物などが生じにくいと考えられるからである。また、処理液は、Liを含んでもよいが、この場合、処理液におけるLiの濃度は、1mol/L以下が好ましく、0.06mol/L以下がより好ましく、0.03mol/L以下がより好ましい。処理液がLiを含む場合、形成される被膜表面にもLiが存在し、このLiがイオン伝導媒体中の水素と反応することが考えられるが、この被膜表面に存在するLiが十分に少ないと考えられるからである。
【0034】
処理液とリチウム系材料とを接触させる際の条件は、処理液の種類や、Na、K、Rb、Cs、Frの濃度や量に応じて経験的に定めることができる。処理液とリチウム系材料とを接触させる際には、リチウム系材料に処理液を塗布してもよいし、処理液にリチウム系材料を浸漬させてもよい。このうち、処理液にリチウム系材料を浸漬することが好ましい。被膜が均一に形成されると考えられるからである。接触時間は、特に限定されないが、例えば1分以上が好ましく、10分以上がより好ましく、30分以上がさらに好ましい。1分以上であれば被膜が形成されると考えられるからである。また、接触時間は、24時間以下が好ましく、12時間以下がより好ましく、3時間以下がさらに好ましい。24時間以下であれば被膜が厚くなりすぎず、充放電反応を阻害しにくいと考えられるからである。接触させる際の温度は、処理液が凍結する温度以上揮発する温度以下であればよいが、例えば、5℃以上80℃以下としてもよいし、10℃以上60℃以下としてもよいし、20℃以上30℃以下としてもよい。
【0035】
この負極活物質作製工程では、Na、K、Rb、Cs、Frのうちのいずれか1以上を含有する被膜が形成されたリチウム系材料である負極活物質を得ることができる。この被膜は、処理液とリチウムとの反応により形成されたものであると考えられる。具体的には、最も卑な金属であるリチウム表面に処理液が接触することで、リチウム表面にNa、K、Rb、Cs、Frなどのカチオンと非水系溶媒との反応生成物が被膜として形成されたものと考えられる。
【0036】
(b)電池構成工程
この工程では、正極と、負極と、イオン伝導媒体とを備えた電池を構成する。構成する電池の形状は、特に限定されないが、例えばコイン型、ボタン型、シート型、積層型、円筒型、偏平型、角型などが挙げられる。また、電気自動車等に用いる大型のものなどに適用してもよい。ここでは、図1に示すコイン型電池を構成する場合について、電池構成工程の一例として説明する。図1はコイン型電池20の構成の概略を表す断面図である。この電池構成工程では、まず、カップ形状の電池ケース21を準備し、この電池ケース21の内部に負極22を配設する。この負極22は、上述した負極活物質作製工程で作製した負極活物質を有するものである。次に、イオン伝導媒体27を電池ケース21に注入しながら、セパレータ24を負極22に重ねて配置する。注入するイオン伝導媒体27は、正極23と負極22との間に介在する。このイオン伝導媒体は、上述した非水系空気電池のイオン伝導媒体と共通するから、ここでは詳細な説明を省略する。続いて、負極22に対してセパレータ24を介して対向する位置に正極23を配設する。ここで、正極23は、酸素の酸化還元触媒を有するものである。この正極は、上述した非水系空気電池の正極と共通するから、ここでは詳細な説明を省略する。続いて、絶縁材により形成されたガスケット25を配設し、必要に応じてイオン伝導媒体27を追加注入する。最後に、電池ケース21の開口部にガスを流通可能な封口板26を配置し、電池ケース21の端部をかしめ加工することにより、コイン型電池20を作成する。なお、上述の方法は電池構成工程の一例であり、電池構成工程は、ここに例示したものに限定されない。
【0037】
以上詳述した本実施形態の非水系空気電池および非水系空気電池の製造方法では、不可逆容量をより抑制することができる。この理由は、明らかではないが、以下のように推察される。一般に、リチウム系の非水空気電池では、放電時に正極でリチウムと酸素とが反応して、LiO2が生じ、さらにこのLiO2とリチウムとが反応してLi22が生じる。続く充電では、この逆の反応が生じる。このように、充放電反応が可逆反応であるため、空気電池では充放電可能である。しかし、イオン伝導媒体中に水素が存在すると、LiO2と水素とが反応して、LiOHが生じることがある。このLiOHは、空気電池の充電上限電位(例えば4V)では分解しないため、電池の充放電において不可逆容量が生じる。ところで、この水素は、イオン伝導媒体とリチウムとが反応することによって生じる。本発明のものでは、リチウムの表面がアルカリ金属含有被膜で覆われていることにより、イオン伝導媒体とリチウムとの反応を抑制可能なため、水素の発生を抑制し、不可逆容量をより低減できるものと推察される。また、水素以外でも、同様に不可逆容量を生じさせるものがある。さらに、電解液中に二酸化炭素が存在すると、LiO2とリチウムとが反応してLi22が生じる反応が阻害されることがある。本発明のものでは、このような不可逆容量を生じさせるような反応も抑制するため、不可逆容量をより低減できるものと推察される。
【0038】
なお、本発明は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【0039】
例えば、上述した実施形態では、非水系空気電池について説明したが、非水系空気電池に限られない。例えば、リチウム硫黄電池、リチウム塩化チエニル電池、リチウムイオン電池などに適用してもよい。
【0040】
上述した実施形態では、本発明の非水系空気電池の製造方法は、負極活物質作製工程と、電池構成工程とを含むものとしたが、本発明の非水系空気電池は、この製造方法に限定されない。例えば、酸素の酸化還元触媒を有する正極と、アルカリ金属含有被膜を形成していないリチウム系材料を有する負極と、前記正極と前記負極との間に介在しリチウムイオンを伝導し上述した処理液を含むイオン伝導媒体と、を備えた電池を構成し、所定時間放置し、又は充放電を行うものとしてもよい。こうしても、リチウム系材料の表面にアルカリ金属含有被膜を形成することができる。
【実施例】
【0041】
以下には、本発明の非水系空気電池を具体的に作成した例を示す。
【0042】
(1)充放電試験
[実施例1]
正極は次のようにして作製した。触媒として電解二酸化マンガンを10重量部、導電助剤としてケッチェンブラック(三菱化学製ECP−600JD)を85重量部、バインダーとしてテフロンパウダー(ダイキン工業製、テフロンは登録商標)を5重量部の比率で、乳鉢を用いて混合かつ練り合わせた後、薄膜状に成形した合材を5mg、ステンレス製のメッシュ(ニラコ製SUS304)に圧着して、真空乾燥を行い、非水電解液空気二次電池の正極とした。負極は次のようにして作製した。まず、直径10mm、厚さ0.4mmの金属リチウム(本城金属製)を用意した。この金属リチウムを、1mol/Lのリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)を溶解したジメチルスルホキシド(DMSO,和光純薬工業製)溶液3mLと、1mol/Lの過塩素酸セシウム(CsClO4、アルドリッチ製)を溶解したジメチルスルホキシド溶液2mLとを混合した処理液に15時間浸漬して、Li表面にセシウムを含む被膜を形成させた。電解液としては、1mol/Lのリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドを溶解したジメチルスルホキシド溶液(東京化成製)5mLを用いた。
【0043】
このようにして得られた正極、負極、電解液を用いて、図1に示すF型電気化学セル30を作製した。図1は充放電試験に使用したF型電気化学セル30(北斗電工製)の断面図である。F型電気化学セル30はアルゴン雰囲気下のグローブボックス内で次のようにして組み立てた。まず、SUS製のケーシング32に負極34を設置し、正極36と負極34とを対向するようにセットし、電解液38を5mL注入した。その後、正極36に発泡ニッケル板42を載せ、その上に、空気が正極36側へ流通可能なガス溜め44を配置し、セルを固定して実施例1の電気化学セルを得た。なお、F型電気化学セル30のガス溜め44にはドライ酸素を充填した。
【0044】
作製したF型電気化学セルを、北斗電工製の充放電装置(HJ1001SM8A)に接続し、正極と負極の間で正極材料あたり20mA/gの電流を流して、最大で正極合材あたり800mAh/gまで放電し、その後10mA/gの電流で4.0Vまで充電した。このサイクルを1サイクルとして充放電を行い、各サイクルごとに不可逆容量を求めた。不可逆容量は放電容量と充電容量との差分値を放電容量で除算して算出した百分率で表記した。図3は、実施例1の1,2サイクル目の充放電曲線であり、上段が1サイクル目、下段が2サイクル目の充放電曲線である。この実施例1の1サイクル目の不可逆容量は6.0%、2サイクル目の不可逆容量は9.8%であった。表1には、実施例1の負極、電解液及び不可逆容量を示す。表1には、後述する実施例2〜6及び比較例1〜4についても示した。
【0045】
【表1】

【0046】
[比較例1]
負極として金属リチウムをそのまま用いたこと以外は実施例1と同様の工程を経て比較例1の評価セルを作製し、充放電試験を行った。図4は、比較例1の1サイクル目の充放電曲線である。比較例1の1サイクル目の不可逆容量は、27.6%であった。
【0047】
[実施例2]
負極の作製に際して、金属リチウムを、1mol/Lの過塩素酸セシウムを溶解したジメチルスルホキシド溶液2mLに1時間浸漬して、Li表面にセシウムを含む被膜を形成させた。このように負極を作製した以外は実施例1と同様の工程を経て実施例2の評価セルを作製し、充放電試験を行った。図5は、実施例2の1サイクル目の充放電曲線である。実施例2の1サイクル目の不可逆容量は7.0%であった。
【0048】
[比較例2]
負極として金属リチウムをそのまま用いたこと、及び、電解液として1mol/Lのリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド溶解したジメチルスルホキシド溶液(東京化成製)4.5mLとフルオロエチレンカーボネート(FEC)0.5mLとを混合したものを用いた以外は、実施例1と同様の工程を経て比較例2の評価セルを作製し、充放電試験を行った。図6は、比較例2の1サイクル目の充放電曲線である。比較例2の1サイクル目の不可逆容量は、93.5%であった。
【0049】
[比較例3]
負極の作製に際して、金属リチウムを、ビニレンカーボネート(VC,アルドリッチ製)10mLに10時間浸漬して、Li表面にVCの分解生成物被膜を形成させた以外は実施例1と同様の工程を経て比較例3の評価セルを作製し、充放電試験を行った。図7は、比較例3の1サイクル目の充放電曲線である。比較例3の1サイクル目の不可逆容量は、25.8%であった。
【0050】
[実施例3]
負極の作製に際して、金属リチウムを、1mol/Lの過塩素酸ナトリウム(NaClO4、関東化学製)を溶解したジメチルスルホキシド溶液2mLに1時間浸漬して、Li表面にナトリウムを含む被膜を形成させた以外は、実施例1と同様の工程を経て実施例3の評価セルを作製し、充放電試験を行った。図8は、実施例3の1サイクル目の充放電曲線である。実施例3の1サイクル目の不可逆容量は、0%であった。
【0051】
[比較例4]
負極の作製に際して、金属リチウムを、1mol/Lの過塩素酸ナトリウムを溶解したエチレンカーボンネート/ジエチルカーボネート(EC/DEC、体積混合比3:7)溶液2mLに1時間浸漬してLi表面にナトリウムを含む被膜を形成させた以外は、実施例3と同様の工程を経て比較例4の評価セルを作製し、充放電試験を行った。図9は、比較例4の1サイクル目の充放電曲線である。比較例4の1サイクル目の不可逆容量は、29.3%であった。
【0052】
[実施例4]
負極の作製に際して、金属リチウムを、1mol/Lの過塩素酸カリウム(KClO4、アルドリッチ製)を溶解したジメチルスルホキシド溶液2mLに1時間浸漬してLi表面にカリウムを含む被膜を形成させた以外は、実施例1と同様の工程を経て実施例4の評価セルを作製し、充放電試験を行った。図10は、実施例4の1,2サイクル目の充放電曲線である。実施例4の1サイクル目、2サイクル目の不可逆容量はいずれも0%であった。
【0053】
[実施例5]
負極の作製に際して、金属リチウムを、1mol/Lの過塩素酸セシウムを溶解したテトラメチレンスルホキシド(TMSO)溶液2mLに1時間浸漬してLi表面にセシウムを含む被膜を形成させた以外は、実施例1と同様の工程を経て実施例5の評価セルを作製し、充放電試験を行った。図11は、実施例5の1,2サイクル目の充放電曲線である。実施例5の1サイクル目、2サイクル目の不可逆容量はいずれも0%であった。
【0054】
[実施例6]
負極の作製に際して、金属リチウムを、1mol/Lの過塩素酸セシウムを溶解したテトラメチレンスルホン(スルホラン)溶液2mLに1時間浸漬してLi表面にセシウムを含む被膜を形成させた以外は、実施例1と同様の工程を経て実施例6の評価セルを作製し、充放電試験を行った。図12は、実施例6の1サイクル目の充放電曲線である。実施例6の1サイクル目の不可逆容量は18.7%であった。
【0055】
(2)発生ガス量測定
上述した実施例1及び比較例1,2について、充放電時に発生した充電電気量あたりのガス発生量(L/Ah)を調べた、表2にはその結果を示す。セシウムを含む被膜が形成された実施例1では、このような被膜が形成されていない比較例1,2のものと比較して、水素の発生が抑制されることがわかった。また、比較例2の評価セルでは二酸化炭素が多く発生することがわかった。この理由は、以下のように推察された。一般に、リチウム系の非水空気電池では、放電時に正極でリチウムと酸素とが反応して、反応性の高いLiO2が生じ、さらにこのLiO2とリチウムとが反応してLi22が生じる。ところで、この水素は、イオン伝導媒体とリチウムとが反応することによって生じる。実施例1のものでは、リチウムの表面がCs含有被膜で覆われていることにより、イオン伝導媒体とリチウムとの反応を抑制可能なため、水素の発生が抑制されたものと推察された。また、比較例2のものでは、イオン伝導媒体に反応性の高いFECが含まれており、リチウムとLiO2との反応よりも優先してFECとLiO2との反応が生じ、この反応により、LiO(COOR)(Rはフッ素を含むことのある炭化水素基)とともに二酸化炭素が生じたものと推察された。
【0056】
【表2】

【0057】
発生ガス量と、不可逆容量との関係について検討した。まず、電解液に水素が存在すると、リチウムとLiO2との反応よりも優先して水素とLiO2との反応が生じ、この反応により、LiOHが生じる。このLiOHは、空気電池の充電上限電位(例えば4V)では分解しないため、充放電における不可逆容量が発生する。実施例1のものでは、セシウムを含む被膜により水素の発生が抑制されたため、不可逆容量をより低減できたものと推察された。また、上述したLiO(COOR)も、空気電池の充電上限電位(例えば4V)では分解しないため、電池の充放電において不可逆容量が生じる。さらに、二酸化炭素は、LiO2とリチウムとが反応してLi22が生じる反応を阻害すると考えられる。これらにより、比較例2では、特に不可逆容量が大きくなったものと推察された。実施例2〜6も、実施例1と同様の理由で不可逆容量をより低減できたものと推察された。
【0058】
(3)ラマンスペクトル分析
金属リチウムを比較例1の電解液に15時間浸漬しトルエンで洗浄して比較例5のリチウム材を得た。また、金属リチウムを実施例1の負極の作製に用いた処理液に15時間浸漬しトルエンで洗浄して実施例7のリチウム材を得た。また、金属リチウムを実施例2の負極の作製に用いた処理液に1時間浸漬しトルエンで洗浄して実施例8のリチウム材を得た。この比較例5及び実施例7,8のリチウム材について、表面をラマン分光法で分析した。ラマンスペクトル分析は、レーザラマン分光システム(日本分光(株)製、NRS−3300)を用い、波長532nmの励起光でラマン分光測定を行った。
【0059】
図13は、このときのラマンスペクトルである。比較例5のもののみに、2900〜3000cm-1の範囲にシグナルが観測された(点線内)。このシグナルは、DMSOが分解して生成した被膜を示すものと推察された。これに対し、実施例7,8のものでは、このシグナルは観測されなかった。この理由は明らかではないが、実施例7,8では、CsClO4の分解やこれに伴う負極表面の被膜形成が優先的に生じるなどして、DMSOの分解が抑制されたためと推察された。このことから、実施例7,8のものでは、負極表面にCsを含む被膜が形成されているものと推察された。なお、0〜1000cm-1の範囲のシグナルはDMSOのスルホキシド基(S=O)を示し、1700〜1900cm-1の範囲のシグナルは、リチウムアセチリドを示すものであると推察された。
【0060】
(4)二次イオン質量分析
比較例5及び実施例7,8のリチウム材と、比較のための金属リチウムとを用意し、非行時間型二次イオン質量分析法(Time-of-flight Secondary Ion Mass Spectrometry;TOF−SIMS)によって、金属リチウムの表面に形成された被膜の分析を行った。分析には、TOF−SIMS装置(ION−TOF社製、TOF−SIMS5)を用いた。
【0061】
図14は、このときのTOF−SIMS正イオンスペクトルである。実施例7,8のものでは、130〜132Mass(u)の間にCs+を示すピークが確認された。また、Cs化合物を示すピークが複数確認された。例えば、実施例7のものでは、Cs+のピークやCs2+のピークや、Cs2+、Cs3+、Cs32+などのピークや、Cs3CO3+のピークなどが確認された。また、リチウムとの化合物であることを示唆するCsLiO+、Cs2CO3Li+などのピークが確認され。また、Cs2Cl+、Cs2ClO4+、Cs3ClO+などのピークが確認された。また、実施例8のものでは、Cs+のピークや、Cs2+のピークなどが確認された。また、Cs2Cl+、Cs2ClO4+などのピークが確認された。このことから、実施例7,8のものでは、負極表面にCsを含む被膜が形成されていることが確認された。
【0062】
以上より、実施例1,2の処理液に金属リチウムを浸漬することで、金属リチウムの表面にCsを含有する被膜が形成されることが分かった。このことから、実施例1〜6では、リチウム系材料の表面にK,Na,Csのいずれかを含む被膜が形成されているものと推察された。そして、このような被膜が形成されていることにより、いずれも不可逆容量が低減されることが分かった。なお、被膜はK,Na,Csに限定されず、例えば、Rb,Frでもよいと推察された。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明の非水系空気電池は、主に電気化学産業に利用可能であり、例えばハイブリッド車や電気自動車の動力源、携帯電話やパソコンなど民生用家電機器の電源、ロードレベリング(負荷平準化)などへの電気化学的デバイスに利用することができる。
【符号の説明】
【0064】
20 コイン型電池、21 電池ケース、22 負極、23 正極、24 セパレータ、25 ガスケット、26 封口板、27 イオン伝導媒体、30 F型電気化学セル、32 ケーシング、34 負極、36 正極、38 電解液、42 発泡ニッケル板、44 ガス溜め。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素の酸化還元触媒を有する正極と、
Na、K、Rb、Cs、Frのうちのいずれか1以上を含有する被膜が形成されたリチウム系材料を負極活物質として有する負極と、
前記正極と前記負極との間に介在し、リチウムイオンを伝導するイオン伝導媒体と、
を備えた、非水系空気電池。
【請求項2】
前記負極活物質は、スルホキシド基を有する非水系溶媒と該非水系溶媒に溶存するNa、K、Rb、Cs、Frのうちのいずれか1以上とを含む処理液とリチウム系材料とを接触させ、該リチウム系材料にNa、K、Rb、Cs、Frのうちのいずれか1以上を含有する被膜を予め形成したものである、
請求項1に記載の非水系空気電池。
【請求項3】
前記負極は、Na、K、Csのうちのいずれか1以上を含有する被膜が形成されたリチウム系材料を負極活物質として有し、該負極活物質は、ジメチルスルホキシド、テトラメチレンスルホキシド、テトラメチレンスルホンのいずれか1以上を含む非水系溶媒と該非水系溶媒に溶存するNa、K、Csのうちのいずれか1以上とを含む処理液とリチウム系材料とを接触させ、該リチウム系材料にNa、K、Csのうちのいずれか1以上を含有する被膜を予め形成したものである、
請求項1又は2に記載の非水系空気電池。
【請求項4】
スルホキシド基を有する非水系溶媒と該非水系溶媒に溶存するNa、K、Rb、Cs、Frのうちのいずれか1以上とを含む処理液とリチウム系材料とを接触させ該リチウム系材料にNa、K、Rb、Cs、Frのうちのいずれか1以上を含有する被膜を形成して負極活物質を作製する負極活物質作製工程と、
酸素の酸化還元触媒を有する正極と、前記作製した負極活物質を有する負極と、前記正極と前記負極との間に介在しリチウムイオンを伝導するイオン伝導媒体と、を備えた電池を構成する電池構成工程と、
を含む非水系空気電池の製造方法。
【請求項5】
前記負極活物質作製工程において、前記スルホキシド基を有する非水系溶媒は、ジメチルスルホキシド、テトラメチレンスルホキシド、テトラメチレンスルホンのいずれか1以上を含むものである、請求項4に記載の非水系空気電池の製造方法。
【請求項6】
前記負極活物質作製工程では、スルホキシド基を有する非水系溶媒と該非水系溶媒に溶存するNa、K、Csのうちのいずれか1以上とを含む処理液とリチウム系材料とを接触させ該リチウム系材料にNa、K、Csのうちのいずれか1以上を含有する被膜を形成して負極活物質を作製する、
請求項4又は5に記載の非水系空気電池の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−156114(P2012−156114A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−16880(P2011−16880)
【出願日】平成23年1月28日(2011.1.28)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】