説明

非水系電解質二次電池正極活物質用ニッケル−コバルト複合水酸化物およびその製造方法、ならびに該ニッケル−コバルト複合水酸化物を用いた非水系電解質二次電池正極活物質の製造方法

【課題】充填密度を向上させて電池の更なる高エネルギー密度化を図ることができる非水系電解質二次電池正極活物質の製造方法を提供する。さらに、前記非水系電解質二次電池正極活物質用として好適な粒径が大きく高密度で略球状のニッケル-コバルト複合水酸化物と工業的なその製造方法を提供する。
【解決手段】反応槽中でニッケル−コバルト水酸化物一次反応粒子を得る反応工程、成長槽中で該一次反応粒子を更に反応させることにより、ニッケル−コバルト複合水酸化物粒子を得る成長工程を含む製造方法により、略球状で平均粒径15〜50μmであるニッケル−コバルト複合水酸化物を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水系電解質二次電池正極活物質として好適に用いられるリチウムニッケル−コバルト複合酸化物に関するものであり、特に、該リチウムニッケル−コバルト複合酸化物の前駆体として用いられるニッケル−コバルト複合水酸化物およびその製造方法、ならびに該ニッケル−コバルト複合水酸化物を用いた非水系電解質二次電池正極活物質の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子技術の進歩に伴い、電子機器の小型化、軽量化が急速に進んでいる。特に、最近の携帯電話やノートパソコンなどのポータブル電子機器の普及と高機能化により、これらに使用されるポータブル用電源として、高いエネルギー密度を有し、小型で、かつ軽量な電池の開発が強く望まれている。
【0003】
非水系電解質二次電池は、小型で高いエネルギーを有することから、ポータブル電子機器の電源としてすでに利用されている。また、かかる用途に限られず、リチウムイオン二次電池について、ハイブリッド自動車や電気自動車などの大型電源としての利用を目指した研究開発も進められている。
【0004】
非水系電解質二次電池であるリチウムイオン二次電池の正極活物質には、合成が比較的容易なリチウムコバルト複合酸化物(LiCoO)が使用されているが、リチウムコバルト複合酸化物の原料には、希産で高価なコバルト化合物が用いられるため、正極活物質のコストアップの原因となっている。正極活物質のコストを下げ、より安価な非水系電解質二次電池の製造を実現することは、現在普及しているポータブル電子機器の低コスト化や将来の大型電源への非水系電解質二次電池の搭載を可能とすることから、工業的に大きな意義を有しているといえる。
【0005】
非水系電解質二次電池用の正極活物質として適用できる他の正極材料として、コバルトよりも安価なマンガンを用いたリチウムマンガン複合酸化物(LiMn)や、ニッケルを用いたリチウムニッケル複合酸化物(LiNiO)を挙げることができる。
【0006】
リチウムマンガン複合酸化物は原料が安価である上、熱安定性、特に、発火などについての安全性に優れるため、リチウムコバルト複合酸化物の有力な代替材料であると言えるが、理論容量がリチウムコバルト複合酸化物のおよそ半分程度しかないため、年々高まる非水系電解質二次電池の高容量化の要求に応えるのが難しいという欠点を持っている。また、45℃以上では、自己放電が激しく、充放電寿命も低下するという欠点も有している。
【0007】
一方、リチウムニッケル複合酸化物は、現在主流のリチウムコバルト複合酸化物と比べて、高容量であって、原料であるニッケルがコバルトと比べて安価で、かつ、安定して入手可能であるといった利点を有していることから、次世代の正極材料として期待され、リチウムニッケル複合酸化物について、活発に研究および開発が続けられている。
【0008】
しかしながら、リチウムニッケル複合酸化物は、ニッケルを他の元素で置換せずに、純粋にニッケルのみで構成したリチウムニッケル複合酸化物を正極活物質として用いて非水系電解質二次電池を作製した場合、リチウムコバルト複合酸化物に比べサイクル特性が劣
るという問題点がある。リチウムニッケル複合酸化物は、その結晶構造がリチウムを脱離するに伴って六方晶から単斜晶、さらに再び六方晶へと変化していくが、この結晶構造の変化が可逆性に乏しく、充放電反応を繰り返すうちにリチウムを挿入・脱離できるサイトが徐々に失われてしまうことが原因と考えられている。
【0009】
これを解決する方法として、ニッケルの一部をコバルトで置換することが提案されている(例えば特許文献1〜3)。コバルトによる置換でリチウムの脱離に伴う結晶構造の相転移が抑制され、コバルト置換量が大きくなるほど結晶相がより安定化し、サイクル特性が改善される。
【0010】
このように、コバルトの添加は、結晶構造内のニッケルを置換することによる結晶相の安定化にその目的があるから、コバルトとニッケルは原子レベルで均一に混合されている必要がある。これを実現する正極活物質の原料としてニッケル源とコバルト源とを共沈で作成した水酸化物を用いる方法が有効である。例えば、特許文献4にはニッケルコバルト共沈水酸化物の粒子形状、粒子径、比表面積、タップ密度、細孔の空間体積、細孔の占有率を制御することにより、サイクル劣化を防止すると共に、良好な充放電特性を有する電池を得ることができると報告されており、実際このような方法で一定の特性を得ることができている。
【0011】
しかしながら、近年はポータブル機器の付加価値が大きくなるにしたがって電池に要求される性能は高まる一方であり、限られた体積の中に正極活物質をできるだけ多く詰め込み、より高いエネルギー密度を持つ電池が要求されるようになってきた。
【0012】
電池の電極として成型した際に充填密度を上げるには、正極活物質の粒径を大きくすることが一つの有効な方法である。リチウムコバルト複合酸化物のように高い焼成温度で合成することによって一つ一つの粒子(一次粒子)を大きくすることができるものは充填密度を上げやすいが、リチウムニッケル複合酸化物は、焼成温度が850℃以下と低いために一次粒子を大きくできず、充填密度を上げにくい。
【0013】
そこで、細かい一次粒子が多数集合して略球状の二次粒子を形成した活物質とすることで充填密度を維持することが行われる(例えば特許文献5)。一方で、リチウムニッケル複合酸化物の粉体特性は、基本的に原料に用いるニッケル化合物の粉体特性に大きく影響される。したがって、原料のニッケル化合物の粉体特性を制御することが、リチウムニッケル複合酸化物の充填密度の向上に重要である。
【0014】
しかしながら、サイクル特性の改善を目的として用いられている前述したようなニッケル源とコバルト源とを共沈させて水酸化物を合成するこれまでの方法では、平均粒径で15μm以上に大きくすることが難しく、更なる高充填性を実現するのが困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開昭63−114063号公報
【特許文献2】特開昭63−211565号公報
【特許文献3】特開平8−213015号公報
【特許文献4】特開平9−270258号公報
【特許文献5】特開2000−30693号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、このような問題点に着目してなされたものであり、充填密度を向上させて電池の更なる高エネルギー密度化を図ることのできる、非水系電解質二次電池正極活物質の
製造方法を提供することを目的とするものである。さらに、前記非水系電解質二次電池正極活物質の前駆体として好適な粒径が大きく高密度で略球状のニッケル-コバルト複合水酸化物と量産性を犠牲にすることのない工業的なその製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者は、上記目的を達成するために、非水系電解質二次電池正極活物質の前駆体として用いられるニッケル−コバルト複合水酸化物について鋭意研究を重ねた結果、ニッケル−コバルト複合水酸化物を生成する工程を、ニッケル−コバルト水酸化物一次反応粒子を得る反応工程と該一次反応粒子を成長させてニッケル−コバルト複合水酸化物粒子を得る成長工程に分離するとともに、反応工程と成長工程の晶析条件を特定範囲に制御することにより、粒径が大きく高密度で略球状のニッケル−コバルト複合水酸化物が工業的に効率よく得られることを見出した。
【0018】
さらに、得られたニッケル−コバルト複合水酸化物粒子を原料として用いたところ、充填密度が高く、電池としてきわめて高容量が期待できる非水系電解質二次電池正極活物質が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0019】
すなわち、本発明の非水系電解質二次電池正極活物質用ニッケル−コバルト複合水酸化物の製造方法は、一般式:Ni1−x−yCo(OH)(0.05≦x≦0.95、0≦y≦0.15、x+y≦0.95、Mは、Mg、Al、Ca、Ti、V、Cr、Mn、Zr、Nb、Mo、Wから選択される1種以上の元素)で表されるニッケル−コバルト複合水酸化物の製造方法であって、ニッケル塩およびコバルト塩を含む混合水溶液と、アンモニウムイオン供給体を含む水溶液と、苛性アルカリ水溶液とを、反応槽に供給して反応させ、ニッケル−コバルト水酸化物一次反応粒子を得る反応工程、成長槽中の該一次反応粒子を含む水溶液に、更に前記混合水溶液と、アンモニウムイオン供給体を含む水溶液と、苛性アルカリ水溶液とを供給して反応させることにより、ニッケル−コバルト複合水酸化物粒子を得る成長工程を含み、上記反応工程および成長工程を下記条件(A)および(B)を満たすように制御することを特徴とする。
(A)前記反応工程のpHを11.0〜13.0、前記成長工程のpHを10.5〜12.5の範囲に保持するとともに、成長工程のpHを反応工程以下に制御する。
(B)前記反応工程の温度を20〜70℃、前記成長工程の温度を30〜70℃、反応工程および成長工程のアンモニウムイオン濃度を5〜20g/Lの範囲に保持するとともに、成長工程の温度およびアンモニウムイオン濃度を反応工程以上に制御する。
上記反応工程および成長工程においては、前記混合水溶液と、アンモニウムイオン供給体を含む水溶液とを定量的に連続供給するとともに、苛性アルカリ水溶液の添加量を調整してpHおよびアンモニウムイオン濃度を保持することが好ましく、前記反応工程における反応槽をオーバーフローさせることにより、前記ニッケル−コバルト水酸化物一次反応粒子を前記成長工程の成長槽に連続して供給することが好ましい。
【0020】
また、前記成長工程で得られたニッケル−コバルト複合水酸化物粒子の表面をM水酸化物で被覆することが好ましい。
【0021】
さらに、前記ニッケル塩およびコバルト塩は、硫酸塩、硝酸塩または塩化物の少なくとも1種であることが好ましく、前記アンモニウムイオン供給体は、アンモニア水、硫酸アンモニウムまたは塩化アンモニウムの少なくとも1種であることが好ましい。
本発明の非水系電解質二次電池正極活物質用ニッケル−コバルト複合水酸化物は、上記製造方法によって得られたものであって、一般式:Ni1−x−yCo(OH)(0.05≦x≦0.95、0≦y≦0.15、x+y≦0.95、Mは、Mg、Al、Ca、Ti、V、Cr、Mn、Zr、Nb、Mo、Wから選択される1種以上の元素)で表
され、略球状で平均粒径15〜50μmであることを特徴とする。
【0022】
また、本発明が提供する非水系電解質二次電池正極活物質の製造方法は、上記非水系電解質二次電池用ニッケル−コバルト複合水酸化物とリチウム化合物とを、混合して焼成することを特徴とするものであり、前記リチウム化合物を前記ニッケル−コバルト複合水酸化物中のリチウム以外の金属元素に対して0.95〜1.15の比で混合することが好ましい。
【0023】
さらに、上記非水系電解質二次電池正極活物質の製造方法は、得られる非水系電解質二次電池正極活物質が、一般式:LiNi1−x−yCo(0.95≦t≦1.15、0.05≦x≦0.95、0≦y≦0.15、x+y≦0.95、Mは、Mg、Al、Ca、Ti、V、Cr、Mn、Zr、Nb、Mo、Wから選択される1種以上の元素)で表される層状構造を有する六方晶系リチウム含有複合酸化物により構成され、略球状で平均粒径15〜50μmであるリチウムニッケル-コバルト複合酸化物からなることが好ましい。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、粒径が大きく高密度で略球状の非水系電解質二次電池正極活物質用ニッケル-コバルト複合水酸化物を用いて、充填密度が高く、電池の更なる高エネルギー密度化を図ることのできる非水系電解質二次電池正極活物質を得ることができる。また、その製造方法は、量産性を犠牲にすることのないものであり、工業的価値が極めて大きい。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】実施例1で得られた非水系電解質二次電池正極活物質用ニッケル-コバルト複合水酸化物の走査型電子顕微鏡写真である。
【図2】実施例2で得られた非水系電解質二次電池正極活物質用ニッケル-コバルト複合水酸化物の走査型電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
[非水系電解質二次電池正極活物質用ニッケル−コバルト複合水酸化物]
本発明の非水系電解質二次電池正極活物質用ニッケル−コバルト複合水酸化物(以下、単にニッケル−コバルト複合水酸化物と記載することがある。)は、上記ニッケル−コバルト複合水酸化物の製造方法によって得られたものであって、一般式:Ni1−x−yCo(OH)(0.05≦x≦0.95、0≦y≦0.15、x+y≦0.95、Mは、Mg、Al、Ca、Ti、V、Cr、Mn、Zr、Nb、Mo、Wから選択される1種以上の元素)で表され、略球状で平均粒径15〜50μmであることを特徴とする。
【0027】
上記一般式においてニッケルとコバルトの割合を示すxは0.05〜0.95であり、0.1〜0.9が好ましく、0.1〜0.3がより好ましい。すなわち、xが0.95を超えるとCoの割合が多いため原料コストが増加する。一方、xが0.05未満であると、本発明のニッケル−コバルト複合水酸化物を用いた正極活物質の熱安定性や充放電サイクル特性が悪化する。
【0028】
上記ニッケル−コバルト複合水酸化物においては、熱安定性と出力特性をさらに改善するために、Mg、Al、Ca、Ti、V、Cr、Mn、Zr、Nb、Mo、Wから選択される1種以上の添加元素であるMを、上記一般式におけるyとして0.15以下添加することができる。yが0.15を超えると、ニッケルと置換されるM元素の量が多くなり過ぎ、得られる正極活物質の電池容量が低下する。
【0029】
本発明のニッケル−コバルト複合水酸化物は、略球状であり、その平均粒径は15〜5
0μmである。ニッケル−コバルト複合水酸化物の形骸は、非水系電解質二次電池正極活物質まで維持されるため、略球状で平均粒径15〜50μmとすることにより、本発明のニッケル−コバルト複合水酸化物を用いて得られた非水系電解質二次電池正極活物質の充填密度を高くすることができる。ここで、略球状とは、表面に微細な凹凸を有する真球状、楕円回転体形状を含むものであるが、高充填密度を達成するためには、可能な限り真球状に近似させることが好ましい。
【0030】
[非水系電解質二次電池正極活物質用ニッケル−コバルト複合水酸化物の製造方法]
本発明のニッケル−コバルト複合水酸化物の製造方法は、上記一般式で表されるニッケル−コバルト複合水酸化物の製造方法であって、ニッケル塩およびコバルト塩を含む混合水溶液と、アンモニウムイオン供給体を含む水溶液と、苛性アルカリ水溶液とを、反応槽に供給して反応させ、ニッケル−コバルト水酸化物一次反応粒子を得る反応工程、成長槽中の該一次反応粒子を含む水溶液に、更に前記混合水溶液と、アンモニウムイオン供給体を含む水溶液と、苛性アルカリ水溶液とを供給して反応させることにより、ニッケル−コバルト複合水酸化物粒子を得る成長工程を含み、上記反応工程および成長工程を下記条件(A)および(B)を満たすように制御することを特徴とする。
(A)前記反応工程のpHを11.0〜13.0、前記成長工程のpHを10.5〜12.5の範囲に保持するとともに、成長工程のpHを反応工程以下に制御する。
(B)前記反応工程の温度を20〜70℃、前記成長工程の温度を30〜70℃、反応工程および成長工程のアンモニウムイオン濃度を5〜20g/Lの範囲に保持するとともに、成長工程の温度およびアンモニウムイオン濃度を反応工程以上に制御する。
【0031】
ここで、ニッケル−コバルト複合水酸化物を生成する工程を反応工程と成長工程に分離すること、反応工程と成長工程の晶析条件を特定範囲で制御することが、平均粒径15μm以上の粒子を定常的に得るために重要な意義を持つ。
【0032】
粒径の大きな粒子を得るためには、反応系における晶析条件を新たな核生成が起こりにくい条件にして系内に滞留する粒子数を少なくし、消費される粒子当たりのモノマー量を増加させる必要がある。そのための方法のとして、ニッケル源及びコバルト源の供給速度を低下させることが考えられるが、供給速度の低下は生産性の悪化を招くため工業的に好ましくない。生産性を犠牲にしない方法としては、ニッケル及びコバルトの溶解度を上昇させることが考えられ、具体的にはpHの低下、アンモニウムイオン濃度の上昇、温度の上昇といった手段が考えられる。
【0033】
一般的にオーバーフロー槽を用いた場合には、生成した粒子が連続的に系外に排出されるため、反応系内における核生成を抑制することで系内の粒子数を一定とすることができる。しかし、系内の粒子数が一定値以下になると、モノマーの供給量に対して粒子の成長によるモノマー消費量が小さくなりすぎ、供給されるモノマーのほとんどが核生成に消費されることとなる。その結果、Cycling現象と言われる核の異常発生が起こり、槽内の粒子の粒径はほとんど成長しなり、粒径の大きな粒子は得られない。
【0034】
本発明者は、ニッケル−コバルト複合水酸化物を生成する工程を反応工程と成長工程に分離することで、粒子の生成段階である反応工程と粒子の成長段階である成長工程におけるニッケル及びコバルトの溶解度を個別に制御し、反応工程で生成した粒子を、成長工程において核生成を抑制する条件で成長させ、高い生産性で粒径の大きい粒子を得ることができることを見出した。
【0035】
すなわち、上記製造方法において、反応工程と成長工程を分離するとともに、反応工程はpHを11.0〜13.0、好ましは11.5〜12.5に、成長工程はpHを10.5〜12.5、好ましくは10.5〜11.5に保持するとともに、成長工程のpHを反
応工程以下に制御する必要がある。
【0036】
反応工程のpHが11未満になると、反応工程における粒子数が少なくなり過ぎて、上記核の異常発生が起こる。反応工程のpHが12を超えると、定常的に多くの核が生成して系内の粒子数が増加するため、粒径が大きく成長しない。
【0037】
一方、成長工程のpHが10.5未満になると、ニッケル−コバルト水酸化物粒子がゲル化しやすくなり、また、ハロゲンや硫酸痕等を除去するための洗浄性が悪化する。成長工程のpHが12.5を超えると、成長工程で新たな核生成が顕著になるため粒子が大きく成長しない。
【0038】
さらに、成長工程のpHを反応工程以下に制御することで、成長工程におけるニッケル溶解度を反応工程よりも高くすることができ、成長槽内における微粒子の発生を抑制することができる。
【0039】
また、上記各工程の温度およびアンモニウムイオン濃度を制御することも、ニッケル及びコバルトの溶解度を制御する上で重要である。すなわち、前記反応工程の温度を20〜70℃、前記成長工程の温度を30〜70℃、反応工程および成長工程のアンモニウムイオン濃度を5〜20g/Lの範囲に保持するとともに、成長工程の温度およびアンモニウムイオン濃度を反応工程以上に制御する必要がある。
【0040】
反応工程の温度は20〜70℃、好ましくは40〜70℃とする。温度が20℃未満の場合、ニッケルの溶解度が低いため微粒が発生しやすい。また、季節変動による影響を排除するためにチラー等を導入する必要があり、設備コストが高くなる。温度が70℃を超えると、アンモニアの揮発が激しくなり、系内のアンモニウムイオン濃度の制御が困難になる。
【0041】
さらに、反応工程のアンモニウムイオン濃度は、5〜20g/L、好ましくは10〜15g/Lとする。アンモニウムイオン濃度が5g/L未満の場合、ニッケルの溶解度が低いため微粒が発生しやすく、粒径が小さくなる。また、粒子が成長する際も粒子内部までモノマーが供給されず粒子表面で析出反応が起きることから、低密度の水酸化物粒子しか得られず、それを原料として得られる正極材料もまた低密度となり体積あたりのエネルギー密度が低下する。アンモニウムイオン濃度が20g/Lを超えると液中に残留するニッケル濃度が高くなり、組成のずれやニッケルロス増加によるコスト増加につながるため好ましくない。
一 方、成長工程の温度は30〜70℃、好ましくは50〜70℃とする。温度が30℃未満となると、反応液中のニッケル溶解度が低くなり過ぎて、新たな核生成が顕著となるため粒子が大きく成長しない。温度が70℃を越えると、反応工程と同様にアンモニアの揮発が激しくなり、アンモニウムイオン濃度の制御が困難になる。
【0042】
また、成長工程のアンモニウムイオン濃度は5〜20g/L、好ましくは10〜15g/Lで維持する。アンモニウムイオン濃度が5g/L未満になると、ニッケルの溶解度が低いため微粒が発生しやすく粒径を大きく成長させることができない。アンモニウムイオン濃度が20g/Lを超えると、液中に残留するニッケル濃度が高くなり、組成のずれやニッケルロスが増加してコストが増加する。
【0043】
さらに、成長工程の温度およびアンモニウムイオン濃度を反応工程以上に制御することで、成長工程におけるニッケル溶解度を反応工程よりも高くすることができ、成長工程における微粒子の発生を抑制することができる。
【0044】
上記反応工程および成長工程において、前記混合水溶液と、アンモニウムイオン供給体を含む水溶液とを定量的に連続供給するとともに、苛性アルカリ水溶液は添加量を調整して供給して、各工程におけるpHおよびアンモニウムイオン濃度を所定の値に保持しながら変動を抑制することが好ましい。該変動を抑制することで、反応工程と成長工程における粒子生成と粒子成長を、上記状態に精度よく制御することができる。また、各工程におけるpHおよびアンモニウムイオン濃度は、上記両工程で相対的な数値に制御する必要があることから、上記変動を抑制することで相対的な制御が容易となるため、連続的に供給することが好ましい。
【0045】
本発明の製造方法は、前記反応工程で得られたニッケル−コバルト水酸化物一次反応粒子(以下、単に一次反応粒子と記載することがある。)を、前記成長工程に供給して成長させることが本発明の特徴であり、単一槽で反応工程から成長工程の条件に切替えて成長させても良く、反応工程および成長工程でそれぞれ別のバッチ槽を使用して回分式のバッチ法で成長させても良い。
【0046】
しかしながら、上記両工程でオーバーフロー槽を用いて反応工程から成長工程に一次反応粒子を連続して供給するとともに成長工程から得られた複合水酸化物粒子を連続的に排出することで、反応工程では系内に新たに生成した粒子数分を、成長工程では反応工程から供給された粒子数分を連続的に排出して系内の粒子数を保持できる。すなわち、各工程の系内に滞留する粒子数を少ない状態で一定に制御して、消費される粒子当たりのモノマー量を増加させることができる。したがって、前記反応工程における反応槽をオーバーフローさせることにより、該一次反応粒子を連続して前記成長工程の成長槽に供給することが好ましい。また、オーバーフローによる連続法は生産性もよいことから、コスト面でも有利である。なお、例えば、反応工程をオーバーフローによる連続法とし、成長工程をバッチ法とするなど連続法とバッチ法を組み合わせてもよい。
以下、本発明の製造方法を詳細に説明する。
【0047】
上記製造方法において、ニッケル塩およびコバルト塩を含む混合水溶液は、ニッケル及びコバルトの供給源である。また、アンモニウムイオン供給体を含む水溶液は、錯形成剤として、生成するニッケル−コバルト水酸化物粒子の粒径と形状を制御する役割を担う。しかも、アンモニウムイオンは生成するニッケル−コバルト水酸化物粒子内に取り込まれないので、不純物の無いニッケル−コバルト複合水酸化物粒子を得るために好ましい錯形成剤である。また、苛性アルカリ水溶液は中和反応のpH調整剤である。
【0048】
上記混合水溶液中のニッケル及びコバルトの濃度は、特に限定されるものではないが、0.5〜2.2mol/Lとすることが好ましい。0.5mol/l未満では、各工程における液量が多くなり過ぎ生産性が低下するため好ましくない。2.2mol/lを超えると、気温が低下した場合に混合水溶液中でニッケル塩あるいはコバルト塩が再結晶化して配管等を詰まらせる虞がある。
【0049】
一方、前記反応槽および成長槽へのニッケル及びコバルトの供給量は、特に限定されるものではないが、上記両槽中の液量に対してニッケル及びコバルトの合計で0.0005〜0.01mol/l・分とすることが好ましい。0.0005mol/l・分未満では、生産性が低下するため好ましくない。0.015mol/l・分を超えると、各工程において核生成が生じやすくなり、得られる水酸化物に混入する微粒子が増加する虞がある。ニッケル及びコバルトの供給量は、粒子の生成と成長を安定化するために、一定量を連続的に供給することが好ましい。
【0050】
上記ニッケル塩およびコバルト塩は、硫酸塩、硝酸塩または塩化物の少なくとも1種であることが好ましく、ハロゲンによる汚染のない硫酸塩がより好ましい。例えば、硫酸マ
ンガン、硫酸ニッケルが好ましく用いられる。また、混合水溶液を調整する際に、ニッケル塩およびコバルト塩は、混合水溶液中に存在する金属イオンの原子数比で目的とする複合水酸化物中のニッケルとコバルトの原子数比と一致するように調整される。
【0051】
上記アンモニウムイオン供給体を含む水溶液は、特に限定されるものではないが、アンモニア水、硫酸アンモニウム又は塩化アンモニウムの水溶液が好ましく、ハロゲンによる汚染のないアンモニア水、硫酸アンモニウム水溶液がより好ましい。また、アンモニウムイオン供給体の濃度は、特に限定されるものではなく、各工程におけるアンモニウムイオンの濃度が維持可能な範囲で調整すればよい。
【0052】
上記苛性アルカリ水溶液は、特に限定されるものではなく、例えば水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物水溶液を用いることができる。アルカリ金属水酸化物の場合、各工程におけるpH値制御の容易さから、水溶液として各工程の反応系に添加することが好ましい。
【0053】
本発明のニッケル−コバルト複合水酸化物においては、上記添加元素MとしてMg、Al、Ca、Ti、V、Cr、Mn、Zr、Nb、Mo、Wから選択される1種以上の元素を添加することができる。M元素は、前記混合水溶液中にM元素の化合物として添加することができる。該M元素化合物としては、特に限定されるものではないが、例えば、硫酸マグネシウム、硝酸カルシウム、硝酸バリウム、硝酸ストロンチウム、硫酸チタン、ペルオキソチタン酸アンモニウム、シュウ酸チタンカリウム、硫酸バナジウム、バナジン酸アンモニウム、硫酸クロム、クロム酸カリウム、硫酸ジルコニウム、硝酸ジルコニウム、シュウ酸ニオブ、モリブデン酸アンモニウム、タングステン酸ナトリウム、タングステン酸アンモニウム等を用いることができる。
【0054】
上記M元素化合物を混合水溶液中に添加する場合、混合水溶液の濃度および供給量は、上記条件に維持される。また、M元素の添加量は、混合水溶液中に存在する金属イオンの原子数比で目的とする複合水酸化物中の金属の原子数比と一致するように調整される。
【0055】
一方、M元素は、必ずしも混合水溶液中に添加してニッケル−コバルト複合水酸化物粒子と共沈させる必要はなく、たとえば、ニッケルとコバルトを共沈させ、ニッケル−コバルト複合水酸化物粒子を得て、その後、ニッケル−コバルト複合水酸化物粒子の表面にM元素の水酸化物、あるいは酸化物等の化合物を湿式中和法により析出させてもよい。さらに、複数の種類のM元素を添加する場合、上記添加方法を組み合わせることにより、目的とするニッケル−コバルト複合水酸化物を得てもよい。
【0056】
上記製造方法において用いられる反応槽および成長槽は、特に限定されるものではないが、撹拌機、オーバーフロー口、及び温度制御手段を備える容器を用いることが好ましい。
【0057】
上記製造方法によって、錯形成剤やハロゲン等の混入が無い、非水系電解質二次電池正極活物質用の前駆体として好適な組成を有する大粒径で高密度の略球状のニッケル−コバルト複合水酸化物を得ることができる。
【0058】
[非水系電解質二次電池正極活物質の製造方法]
本発明の非水系電解質二次電池正極活物質の製造方法は、上記ニッケル−コバルト複合水酸化物とリチウム化合物とを、混合して焼成することを特徴とする。
【0059】
ニッケル−コバルト複合水酸化物は、水酸化物の状態でリチウム化合物と混合してもよいが、該複合水酸化物を、非還元性雰囲気中で酸化焙焼してニッケル−コバルト複合酸化
物に転換した後、リチウム化合物と混合してもよい。前記酸化焙焼の条件は、特に限定されるものではなく、通常に用いられる条件とすることができる。例えば、大気雰囲気中で600〜900℃の範囲で上記複合水酸化物粒子の形骸が維持されるように酸化焙焼すればよい。また、用いられる装置も、通常に用いられるものでよく、電気炉、キルン、管状炉、プッシャー炉等が用いられる。
【0060】
上記混合は、前記リチウム化合物と前記ニッケル−コバルト複合水酸化物中のリチウム以外の金属元素に対して0.95〜1.15の比で混合することが好ましい。
【0061】
前記リチウム化合物は、特に限定されるものではなく、リチウムの水酸化物、オキシ水酸化物、酸化物、炭酸塩、硝酸塩及びハロゲン化物からなる群から選ばれる少なくとも1種が用いられる。ハロゲン等の不純物による汚染のないリチウムの水酸化物、オキシ水酸化物、酸化物、炭酸塩がより好ましい。
【0062】
混合方法としては、通常用いられる方法でよく、ニッケル−コバルト複合水酸化物もしくは複合酸化物とリチウム化合物を固体状のまま各種粉体混合機で混合する方法が用いられる。いずれの方法を用いてもよいが、シェーカーなどを用いて上記複合水酸化物粒子あるいは複合酸化物粒子の形骸が破壊されない程度で十分に混合してやればよい。
【0063】
上記混合物を焼成することで、非水系電解質二次電池正極活物質が得られる。焼成は、通常用いられる条件によって行われ、例えば、焼成時の雰囲気としては、酸素を十分に供給するため、酸素濃度を60容量%以上とすることが好ましく、酸素は、窒素あるいは不活性ガスと混合することが好ましい。60容量%未満では、酸素分圧が不足し、前述のような酸素不足の状態となり、リチウムニッケル複合酸化物の生成が不十分となることがある。
【0064】
また、焼成温度としては、650〜800℃の範囲とすることが好ましい。650℃未満では、得られるリチウムニッケル複合酸化物の結晶成長が、十分でなく電池性能に悪影響を与えることがある。また、800℃を超えると、得られるリチウムニッケル複合酸化物が分解を開始し、正極活物質としてもちいたときの電池反応時に、リチウムイオンの移動を妨げる結晶が混入し始め、電池性能の低下を招くことがある。
【0065】
焼成に用いる炉は、雰囲気が制御できる各種の炉が使用可能であるが、排気ガスが発生することがない電気炉をもちいることが好ましく、工業的生産においては、特にプッシャー炉やローラーハース炉などのように、連続的に焼成可能な炉を使用することが好ましい。
【0066】
上記非水系電解質二次電池正極活物質の製造方法によって、一般式:LiNi1−x−yCo(0.95≦t≦1.15、0.05≦x≦0.95、0≦y≦0.15、x+y≦0.95、Mは、Mg、Al、Ca、Ti、V、Cr、Mn、Zr、Nb、Mo、Wから選択される1種以上の元素)で表される層状構造を有する六方晶系リチウム含有複合酸化物により構成され、略球状で平均粒径15〜50μmであるリチウムニッケル-コバルト複合酸化物からなる非水系電解質二次電池正極活物質が得られる。得られる非水系電解質二次電池正極活物質は、充填密度が高く、電池の更なる高エネルギー密度化を図ることができ、非水系電解質二次電池用として好適なものとなる。
【実施例】
【0067】
以下に本発明の実施例及び比較例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によってなんら限定されるものではない。なお、実施例及び比較例で用いたニッケル−コバルト水酸化物の評価方法は、以下の通りである。
【0068】
金属成分の分析:ICP発光分析法で行った。
アンモニウムイオン濃度の分析:JIS標準による蒸留法によって測定した。
平均粒径の測定:レーザー回折式粒度分布計(日機装株式会社製、マイクロトラックHRA)を用いて行った。
形態の観察:走査型電子顕微鏡(日本電子株式会社製、JSM−6360LA)を用いて、形状と外観の観察を行った。
【0069】
(実施例1)
硫酸ニッケル6水和物(工業用)と硫酸コバルト7水和物(工業用)を、ニッケル:コバルトがモル比で84:16となり、ニッケルとコバルトが合わせて2mol/lとなるように純水に溶解させて混合水溶液を調製した。
【0070】
[反応工程]
オーバーフロー口までの容量が34lであるオーバーフロー反応槽に純水を上限まで入れ、槽内をウォーターバスにより50℃に加温した。反応槽内を撹拌しながら前記混合水溶液、25質量%アンモニア水(工業用)、25質量%水酸化ナトリウム水溶液(工業用)を連続的に反応槽内へ供給した。ここで、供給流量は混合水溶液60ml/分(0.00352mol/l・分)、アンモニア水4.8ml/分であった。また、槽内スラリーのpHは、反応槽内に設置したpHコントローラーを用い、上記水酸化ナトリウム水溶液の流量を調整して12.2となるように調整した。反応中は反応槽内に3.5l/分で窒素を導入し、槽内を不活性雰囲気に保持した。
【0071】
この状態で32時間運転後、槽内のpHが12.2、温度が50℃、アンモニウムイオン濃度が10g/lで安定したことを確認し、その後、32時間後から60時間後まで反応槽に上記各水溶液を供給した。スラリーから回収したニッケル−コバルト水酸化物一次反応粒子は略球状で、平均粒径は13.5μmであった。
【0072】
[成長工程]
反応工程と同様のオーバーフロー槽である成長槽に純水を上限まで入れ、反応槽よりオーバーフローさせたニッケル−コバルト水酸化物一次反応粒子スラリーを成長槽内に導入した。ウォーターバスにより60℃に加温した成長槽内を撹拌しながら、上記混合水溶液、アンモニア水、水酸化ナトリウム水溶液を連続的に成長槽内へ供給した。
【0073】
ここで、供給量は、混合水溶液30ml/分(0.00176mol/l・分)、アンモニア水2.4ml/分であった。また、槽内スラリーのpHは、反応槽内に設置したpHコントローラーを用い、前記水酸化ナトリウム水溶液の流量を調整して11.8となるように調整した。反応中は、成長槽内に3.5l/分で窒素を導入し、槽内を不活性雰囲気に保持した。この状態で32時間運転後、槽内のpHが11.8、温度が60℃、アンモニウムイオン濃度が10g/lで安定したことを確認し、反応槽における反応時間が32時間後から60時間後まで成長槽から排出されるニッケル−コバルト複合水酸化物粒子をスラリーとして回収した。回収したスラリーを固液分離し、乾燥させてニッケル−コバルト複合水酸化物を得た。
【0074】
得られたニッケル−コバルト複合水酸化物を走査型電子顕微鏡(以下、SEMと記載することがある。)で観察したところ、略球状でであり、平均粒径は30.1μmであった。得られたニッケル−コバルト複合水酸化物のSEM像を図1に示す。
【0075】
(実施例2)
実施例1と同様にしてオーバーフロー型の反応槽で得られたニッケル−コバルト水酸化物
一次反応粒子を回収して固液分離した。乾燥重量で3kgの該ニッケル−コバルト水酸化物一次反応粒子を、を容量50lの邪魔板付きSUS製の成長槽(回分式)に入れ、純水を5.7l添加して槽内をウォーターバスにより60℃に加温した。槽内に10L/分の流量で30分間窒素ガスを流して窒素雰囲気とした後、25質量%アンモニア水(和光純薬製一級試薬)及び64質量%硫酸(和光純薬製一級試薬)を添加してアンモニウムイオン濃度を15g/lに、pHを11.3に調整した。
【0076】
次に、槽内を撹拌しながら、0.95mol/lの混合水溶液(実施例1の混合水溶液を純水で希釈)、前記アンモニア水、5質量%水酸化ナトリウム水溶液(上記25質量%水酸化ナトリウム水溶液を純水水で希釈)を連続的に反応槽内へ供給した。ここで、供給流量は混合水溶液70ml/分(0.00111mol/l・分)、アンモニア水10.3ml/分であった。また、槽内スラリーのpHは、反応槽内に設置したpHコントローラーを用い、上記5質量%水酸化ナトリウム水溶液の流量を調整して11.3となるように調整した。
【0077】
pHおよびアンモニウムイオン濃度を上記数値で一定に保ちながら、混合水溶液を16.8l供給した後、撹拌を止めて粒子を沈降させ、反応槽内の上澄液35lを排出した。排出後、撹拌を再開し、さらにpHおよびアンモニウムイオン濃度を一定に保ちながら、混合水溶液をさらに16.8l添加した。添加終了後、固液分離後し、乾燥させてニッケル−コバルト複合水酸化物を得た。
【0078】
得られたニッケル−コバルト複合水酸化物は略球状であり、平均粒径は21.5μmであった。得られたニッケル−コバルト複合水酸化物のSEM像を図2に示す。
【0079】
(比較例1)
成長槽内のpHを12.0、温度を50℃、アンモニウムイオン濃度を5g/lとした以外は実施例1と同様にしてニッケル−コバルト複合水酸化物を得た。得られたニッケル−コバルト複合水酸化物は略球状であったが、平均粒径は14.3μmであり、反応槽で得られた該ニッケル−コバルト水酸化物一次反応粒子と比較してほとんど成長しなかった。
【0080】
(比較例2)
成長槽内のpHを9.5とした以外は実施例1と同様にしてニッケル−コバルト複合水酸化物を得た。成長槽内の溶液はゲル化して固液分離が困難であった。また、得られたニッケル−コバルト複合水酸化物は粒子形状が不定形であり、非水系電解質二次電池正極活物質用の原料として好適な粒子を得ることはできなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式:Ni1−x−yCo(OH)(0.05≦x≦0.95、0≦y≦0.15、x+y≦0.95、Mは、Mg、Al、Ca、Ti、V、Cr、Mn、Zr、Nb、Mo、Wから選択される1種以上の元素)で表されるニッケル−コバルト複合水酸化物の製造方法であって、ニッケル塩およびコバルト塩を含む混合水溶液と、アンモニウムイオン供給体を含む水溶液と、苛性アルカリ水溶液とを、反応槽に供給して反応させ、ニッケル−コバルト水酸化物一次反応粒子を得る反応工程、成長槽中の該一次反応粒子を含む水溶液に、更に前記混合水溶液と、アンモニウムイオン供給体を含む水溶液と、苛性アルカリ水溶液とを供給して反応させることにより、ニッケル−コバルト複合水酸化物粒子を得る成長工程を含み、上記反応工程および成長工程を下記条件(A)および(B)を満たすように制御することを特徴とする非水系電解質二次電池正極活物質用ニッケル−コバルト複合水酸化物の製造方法。
(A)前記反応工程のpHを11.0〜13.0、前記成長工程のpHを10.5〜12.5の範囲に保持するとともに、成長工程のpHを反応工程以下に制御する。
(B)前記反応工程の温度を20〜70℃、前記成長工程の温度を30〜70℃、反応工程および成長工程のアンモニウムイオン濃度を5〜20g/Lの範囲に保持するとともに、成長工程の温度およびアンモニウムイオン濃度を反応工程以上に制御する。
【請求項2】
反応工程および成長工程において、前記混合水溶液と、アンモニウムイオン供給体を含む水溶液とを定量的に連続供給するとともに、苛性アルカリ水溶液の添加量を調整してpHおよびアンモニウムイオン濃度を保持することを特徴とする請求項1に記載の非水系電解質二次電池正極活物質用ニッケル−コバルト複合水酸化物の製造方法。
【請求項3】
前記反応工程における反応槽をオーバーフローさせることにより、前記ニッケル−コバルト水酸化物一次反応粒子を前記成長工程の成長槽に連続して供給することを特徴とする請求項1または2に記載の非水系電解質二次電池正極活物質用ニッケル−コバルト複合水酸化物の製造方法。
【請求項4】
前記成長工程で得られたニッケル−コバルト複合水酸化物粒子の表面をM水酸化物で被覆することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の非水系電解質二次電池正極活物質用ニッケル−コバルト複合水酸化物の製造方法。
【請求項5】
前記ニッケル塩およびコバルト塩は、硫酸塩、硝酸塩または塩化物の少なくとも1種であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の非水系電解質二次電池正極活物質用ニッケル−コバルト複合水酸化物粒子の製造方法。
【請求項6】
前記アンモニウムイオン供給体は、アンモニア、硫酸アンモニウムまたは塩化アンモニウムの少なくとも1種であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の非水系電解質二次電池正極活物質用ニッケル−コバルト複合水酸化物の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の製造方法で得られたものであって、一般式:Ni1−x−yCo(OH)(0.05≦x≦0.95、0≦y≦0.15、x+y≦0.95、Mは、Mg、Al、Ca、Ti、V、Cr、Mn、Zr、Nb、Mo、Wから選択される1種以上の元素)で表され、略球状で平均粒径15〜50μmであることを特徴とする非水系電解質二次電池正極活物質用ニッケル−コバルト複合水酸化物。
【請求項8】
請求項7に記載の非水系電解質二次電池用ニッケル−コバルト複合水酸化物とリチウム化合物とを、混合して焼成することを特徴とする非水系電解質二次電池正極活物質の製造方法。
【請求項9】
前記リチウム化合物を前記ニッケル−コバルト複合水酸化物中のリチウム以外の金属元素に対して0.95〜1.15の比で混合することを特徴とする請求項8に記載の非水系電解質二次電池正極活物質の製造方法。
【請求項10】
得られる非水系電解質二次電池正極活物質が、一般式:LiNi1−x−yCo(0.95≦t≦1.15、0.05≦x≦0.95、0≦y≦0.15、x+y≦0.95、Mは、Mg、Al、Ca、Ti、V、Cr、Mn、Zr、Nb、Mo、Wから選択される1種以上の元素)で表される層状構造を有する六方晶系リチウム含有複合酸化物により構成され、略球状で平均粒径15〜50μmであるリチウムニッケル-コバルト複合酸化物からなることを特徴とする請求項8または9に記載の非水系電解質二次電池正極活物質の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−181193(P2011−181193A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−41376(P2010−41376)
【出願日】平成22年2月26日(2010.2.26)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】