説明

非水電解液二次電池用負極及び非水電解液二次電池

【課題】活物質層の表面から不織布が剥がれ難く、活物質層からの活物質の脱落を防止し得る繊維シート付非水電解液二次電池用負極を提供すること。
【解決手段】本発明の繊維シート付非水電解液二次電池用負極100は、集電体11と、その少なくとも一面に形成された活物質層12を備えている。本発明の繊維シート付非水電解液二次電池用負極100は、その活物質層12の表面に、融点が200℃〜380℃であり且つ自己融着性を有する樹脂を含有する繊維を含む繊維シート14を融着一体化して形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム二次電池などの非水電解液二次電池の負極に関する。また本発明は、該負極を用いた非水電解液二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウム二次電池の負極活物質には、一般にグラファイトが使用されている。しかし、近年の電子機器の多機能化に伴いその消費電力が著しく増加しており、大容量の二次電池がますます必要となっていることから、グラファイトを用いている限り、近い将来そのニーズに応えるのは困難である。そこで、グラファイトよりも高容量の材料であるSn系物質やSi系物質等の合金系の材料からなる負極活物質の開発が活発になされている。
【0003】
Sn系物質やSi系物質等からなる負極活物質を含む負極を用いて電池を製造する場合、例えば角型の電池を製造する場合、該負極を正極及びセパレータとともに用いて捲回体を構成し、該捲回体を扁平にプレスした後に電池缶内に収容する。このプレス工程においては、プレスされた捲回体のうち曲率が最も大きい部位に最も大きな歪みが加わり、その歪みに起因して、負極活物質層から活物質が脱落することがある。また、その脱落に起因してセパレータが損傷を受け、電池が短絡することもある。
【0004】
ところで本出願人は先に、シリコン系材料の粒子間に、リチウム化合物の形成能の低い金属材料が浸透して構成されている非水電解液二次電池用負極を提案した(特許文献1参照)。この負極によれば、活物質層の厚み方向全域にわたって活物質を均一に電極反応に寄与させることができるので、該負極を備えた二次電池はその充放電サイクル特性が向上するという利点を有する。しかし、この負極を、前述のように捲回すると、やはり活物質層から活物質が脱落することがある。
【0005】
捲回体のプレスに起因する脱落とは異なるが、負極活物質層からの活物質の脱落を防止するための技術が特許文献2及び特許文献3において提案されている。この技術は、電池の製造工程で電極が搬送されるときに、活物質層がガイドローラ等と接触することに起因する活物質の脱落を防止することを目的とするものである。活物質の脱落を防止するために、特許文献2では、アルミナ等からなる微粒子とポリフッ化ビニリデン等からなる結着剤を含む多孔性保護層を、負極活物質層の表面に形成している。特許文献3では、活物質が正極の表面から脱落しないようにするために、活物質が塗布された面を覆うように不織布を設け、その不織布をローラープレスにより密着一体化している。
【0006】
負極の搬送中に活物質層に加わる力に比べ、捲回体のプレスによって活物質層に加わる力は、圧倒的に大きいものである。特許文献2の記載からは、多孔性保護層における結着剤の部分の厚みは不明であるが、同文献の実施例の記載から見て、結着剤の部分の厚みは極めて薄いと推測されるので、同文献に記載の多孔性保護層では捲回体のプレスに起因する活物質の脱落を防止することはできない。さらに、アルミナ粒子の脱落も起こり得る。
【0007】
特許文献3に記載の正極は、その表面に不織布をローラープレスにより密着しただけであるため、正極の表面から不織布が剥がれ易く、活物質の脱落を防止することはできない。また、特許文献3に記載の不織布の剥がれを防止するために、熱をかけてローラープレスした場合、不織布がフィルム化してしまい、電解液の自由な通過を妨げることがある。また、ローラープレスにより、不織布の弾性が失われてしまいリチウム吸蔵時の負極の膨張を吸収できず、電極の断裂等を引き起こす可能性がある。また、特許文献3に記載の不織布の剥がれを防止するために、接着剤を用いた場合、通過するイオンと副反応を起こしてしまう可能性がある。
【0008】
【特許文献1】国際公開第2007/046327号パンフレット
【特許文献2】特開平7−220759号公報
【特許文献3】特開平2−33861号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、本発明の目的は、負極の活物質層の表面から不織布が剥がれ難く、活物質層からの活物質の脱落を防止し、内部短絡を防ぎ得る繊維シート付非水電解液二次電池用負極及び非水電解液二次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、集電体と、その少なくとも一面に形成された活物質層とを有し、該活物質層の表面に、自己融着性を有する繊維を含む繊維シートを融着一体化したことを特徴とする繊維シート付非水電解液二次電池用負極を提供するものである。
また、本発明は、正極と、負極と、これら両者間に介在配置されたセパレータとを有する非水電解液二次電池において、前記負極が、集電体と、その少なくとも一面に形成された活物質層とを有し、前記負極と前記セパレータとの間に、自己融着性を有する繊維を含む繊維シートが配置され、該繊維シートと該負極の活物質層とが融着一体化されていることを特徴とする非水電解液二次電池を提供するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の繊維シート付非水電解液二次電池用負極によれば、電解液の流通を妨げることなく負極の表面から不織布が剥がれ難いので、活物質層からの活物質の脱落を防止することができる。また、本発明の繊維シート付非水電解液二次電池用負極を用いた非水電解液二次電池によれば、負極活物質層から活物質が脱落し難いので、その脱落に起因するセパレータの損傷を受け難く、電池の短絡を防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき図面を参照しながら説明する。図1には、本発明の繊維シート付非水電解液二次電池用負極(以下、単に「繊維シート付負極」ともいう。)の一実施形態の構造が示されている。本実施形態の繊維シート付負極100は、集電体11と、その少なくとも一面に形成された活物質層12を備えた負極本体10と、繊維シート14とを有している。なお図1においては、便宜的に集電体11の片面にのみ活物質層12が形成されている状態が示されているが、活物質層は集電体の両面に形成されていてもよい。
【0013】
本実施形態の繊維シート付負極100は、活物質層12の表面に繊維シート14を融着一体化していることによって特徴付けられる。繊維シート14を設けることによって、本実施形態の繊維シート付負極100を、正極及びセパレータとともに用いて捲回体を構成し、該捲回体を扁平にプレスしても、活物質層12から活物質が脱落することが効果的に防止できる。また、繊維シート14の持つ空隙により、充電時に膨張の著しいSn、Siのような活物質を負極として用いた場合、その膨張を吸収し、応力緩和して、極板の崩壊を防止できる。さらに、繊維シート14は、電解液保液性を有しており、サイクルを重ねても極板全体が均質に反応し、サイクル寿命向上の効果を有する。
【0014】
繊維シート14は、活物質層12の最表面を、その全域にわたって実質的に連続して被覆している。したがって、活物質層12の最表面は外部に露出していない。つまり、負極100の最外面をなすのは繊維シート14である。繊維シート14の融着一体化は、部分的であっても良く、好ましくは線状、更に好ましくは面で以ってなされていても良い。活物質層12からの活物質の脱落を一層効果的に防止する観点からは、融着一体化は面で以ってなされていることが好ましい。ここで言う「面で以って」とは、繊維シート14と活物質層12との間に非融着部分が全く存在しないことを意味せず、製造条件の振れ等に起因して不可避的にわずかな非融着部分が生じることを許容する趣旨である。
【0015】
繊維シート14はその構成繊維間に空隙を有し、該空隙を通じて非水電解液の流通が可能な構造を有している。繊維シート14を構成する繊維は、自己融着性を有している。ここで「自己融着性」とは、軟化点以上で且つ融点未満の温度範囲において加熱前の繊維形態の維持が可能であり、且つこの温度範囲において繊維の表面が軟化することにより、接触する部位において繊維どうしが結着剤を用いずに結合する性質という狭義に限られず、繊維が他の材料(本発明では活物質層や表面層)と結着剤を用いずに結合する性質という広義に解釈されるべきものである。このような繊維を構成繊維として用いることで、繊維シート14を活物質層12の表面に融着させる場合に、繊維間の空隙が維持され、繊維シート14のフィルム化を防止することが可能となる。詳細には、自己融着性を有する繊維は、これに熱を加えて軟化させても繊維の形態保持性が高いので、フィルム化が起こりづらい。特にかかる繊維として、その融点が好適には後述する範囲のものを用いることで、熱融着時に繊維の軟化に起因して、該繊維の一部が活物質層12の表面に存する微細な凹凸内に入り込む。その結果、繊維が活物質層12の表面の凹凸にアンカー効果で係止され、繊維シート14が活物質層12の表面から剥がれ難くなる。
【0016】
自己融着性を有する繊維は、例えば、自己融着性を有する単一の熱可塑性樹脂から構成されている。繊維の自己融着性を損わない範囲において、自己融着性を有する熱可塑性樹脂に他の熱可塑性樹脂を混合させた混合物から自己融着性を有する繊維を構成してもよい。また、自己融着性を有する繊維として、融点の異なる2種以上の熱可塑性樹脂(この樹脂は自己融着性を有していなくてもよい。)からなる複合繊維、例えば、芯鞘型複合繊維やサイドバイサイド型複合繊維を用いることもできる。特に好ましく用いられる自己融着性を有する繊維は、自己融着性を有する単一の熱可塑性樹脂からなる繊維である。
【0017】
上述した自己融着性を有する熱可塑性樹脂から繊維を形成する場合、該樹脂は、その融点が、200〜380℃、特に240〜380℃であることが好ましい。融点がこの範囲にあることで、融着一体化時における繊維シート14のフィルム化を防止しつつ、繊維シート14を活物質層12の表面に強固に結合させることができる。
【0018】
上述した自己融着性を有する熱可塑性樹脂の代表例としては熱可塑性の液晶ポリマーが挙げられる。液晶ポリマーは、溶融状態で液晶様性質を示す高分子化合物である。本発明においては、従来公知の液晶ポリマーを特に制限なく用いることができる。例えば、サーモトロピック液晶ポリエステルやサーモトロピック液晶ポリエステルアミド等のポリエステル系液晶ポリマー、及びポリアクリレート系液晶ポリマーが挙げられる。液晶ポリマーから繊維を構成し、その繊維から繊維シート14を構成することで、リチウム吸蔵時の負極の膨張を吸収して電池の構造を安定させることができ、また繊維の持つ保液性により電解液を正極及び負極の反応系内に保持できるという有効な効果が奏される。
【0019】
繊維シート14は繊維を素材とするシート状物である。繊維シート14は、前記の自己融着性を有する繊維のみから構成されていてもよく、あるいは該繊維の自己融着性を損なわない範囲において他の種類の繊維が混綿されていてもよい。繊維シート14の例としては、不織布、織布、編み地又はこれらを組み合わせた複合材料等が挙げられる。製造の容易さや非水電解液の流通のしやすさを考慮すると、繊維シート14として不織布を用いることが好ましい。不織布としては、例えばメルトブローン不織布、スパンボンド不織布、スパンレース不織布、エアスルー不織布、ニードルパンチ不織布、レジンボンド不織布など、従来公知の方法で製造されたものを用いることができる。特に、バインダレスの不織布を用いることが、バインダの使用に起因する不都合を防止できる点から好ましい。電池内での繊維の脱落や毛羽立ち等を防止する観点からは、長繊維不織布を用いることが好ましい。これらの観点を総合すると、バインダレスの長繊維不織布であるメルトブローン不織布を用いることが特に好ましい。
【0020】
繊維シート14として不織布を用いる場合、その目付は3〜40g/m2、特に5〜20g/m2であることが、非水電解液の円滑な流通を確保しつつ、活物質の脱落を効果的に防止する点から好ましい。
【0021】
繊維シート14が融着される活物質層12は、活物質の粒子12aを含んでいる。この粒子12aの存在によって、活物質層12の表面には微細な凹凸が形成されている。活物質としては、Si又はSnを含み、リチウムイオンの吸蔵放出が可能な材料が用いられる。Siを含む負極活物質の例としては、シリコン単体、シリコンと金属との合金、シリコン酸化物、シリコン窒化物、シリコンホウ化物などを用いることができる。これらの材料はそれぞれ単独で、あるいはこれらを混合して用いることができる。前記の合金に用いられる金属としては、例えばCu、Ni、Co、Cr、Fe、Ti、Pt、W、Mo及びAuからなる群から選択される1種類以上の元素が挙げられる。これらの金属のうち、Cu、Ni、Coが好ましく、特に電子伝導性に優れる点、及びリチウム化合物の形成能の低さの点から、Cu、Niを用いることが望ましい。また、負極を電池に組み込む前に、又は組み込んだ後に、Siを含む負極活物質に対してリチウムを吸蔵させてもよい。特に好ましいSiを含む負極活物質は、リチウムの吸蔵量の高さの点からシリコン単体又はシリコン酸化物である。
【0022】
一方、Snを含む負極活物質の例としては、スズ単体、スズと金属との合金などを用いることができる。これらの材料はそれぞれ単独で、あるいはこれらを混合して用いることができる。スズと合金を形成する前記の金属としては、例えばCu、Ni、Co、Cr、Fe、Ti、Pt、W、Mo及びAuからなる群から選択される1種類以上の元素が挙げられる。これらの金属のうち、Cu、Ni、Coが好ましい。合金の一例として、Sn−Co−C合金が挙げられる。また、Snと、Coと、Cと、Ni及びCrのうちの少なくとも一方とを含む合金も好ましく用いられる。
【0023】
活物質層12は、上述の粒子12aが結着剤や溶剤等とともに混合されてなる合剤を集電体11の表面に塗布して形成された塗布層であり得る。好ましくは、活物質層12は、図1に示すように、粒子12の表面の少なくとも一部がリチウム化合物の形成能の低い金属材料13で被覆されているとともに、該金属材料13で被覆された該粒子どうしの間に空隙が形成されている構造であることが好ましい。
【0024】
活物質の粒子12aの表面の少なくとも一部を被覆する金属材料13は、粒子12aの構成材料と異なる材料である。該金属材料13で被覆された該粒子12aの間には空隙が形成されている。つまり該金属材料13は、リチウムイオンを含む非水電解液が粒子12aへ到達可能なような隙間を確保した状態で粒子12aの表面を被覆している。図1中、金属材料13は、粒子12aの周囲を取り囲む太線として便宜的に表されている。なお同図は活物質層12の断面構造を二次元的にみた模式図であり、実際は、活物質の粒子12aは他の粒子12aと直接ないし金属材料13を介して接触している。ここで、「リチウム化合物の形成能の低い」とは、リチウムと金属間化合物若しくは固溶体を形成しないか、又は形成したとしてもリチウムが微量であるか若しくは非常に不安定であることを意味す る。
【0025】
金属材料13は導電性を有するものであり、その例としては銅、ニッケル、鉄、コバルト又はこれらの金属の合金などが挙げられる。特に金属材料13は、活物質の粒子12aが膨張収縮しても該粒子12aの表面の被覆が破壊されにくい延性の高い材料であることが好ましい。そのような材料としては銅を用いることが好ましい。
【0026】
金属材料13は、活物質層12の厚み方向の90%以上、特に全域にわたって活物質の粒子12aの表面に存在していることが好ましい。そして金属材料13のマトリックス中に粒子12aが存在していることが好ましい。これによって、充放電によって粒子12aが膨張収縮することに起因して微粉化しても、その脱落が起こりづらくなる。また、金属材料13を通じて活物質層12全体の電子伝導性が確保されるので、電気的に孤立した粒子12aが生成すること、特に活物質層12の深部に電気的に孤立した粒子12aが生成することが効果的に防止される。このことは、活物質として半導体であり電子伝導性の乏しい材料、例えばSiを含む材料を用いる場合に特に有利である。金属材料13が活物質層12の厚み方向全域にわたって粒子12aの表面に存在していることは、該金属材料13を測定対象とした電子顕微鏡マッピングによって確認できる。
【0027】
金属材料13は、活物質の粒子12aの表面を連続に又は不連続に被覆している。金属材料13が粒子12aの表面を連続に被覆している場合には、金属材料13の被覆に、非水電解液の流通が可能な微細な空隙を形成することが好ましい。金属材料13が粒子12aの表面を不連続に被覆している場合には、粒子12aの表面のうち、金属材料13で被覆されていない部位を通じて該粒子12aへ非水電解液が供給される。
【0028】
活物質の粒子12aの表面を被覆している金属材料13は、その厚みの平均が好ましくは0.05〜2μm、更に好ましくは0.1〜0.25μmという薄いものである。つまり金属材料13は最低限の厚みで以て粒子12aの表面を被覆している。これによって、エネルギー密度を高めつつ、充放電によって粒子12aが膨張収縮して微粉化することに起因する脱落を防止している。ここで言う「厚みの平均」とは、粒子12aの表面のうち、実際に金属材料13が被覆している部分に基づき計算された値である。したがって粒子12aの表面のうち金属材料13で被覆されていない部分は、平均値の算出の基礎にはされない。
【0029】
金属材料13で被覆された活物質の粒子12a間に形成された空隙は、リチウムイオンを含む非水電解液の流通の経路としての働きを有している。この空隙の存在によって非水電解液が活物質層12の厚み方向へ円滑に流通するので、サイクル特性を向上させることができる。更に、粒子12a間に形成されている空隙は、充放電で活物質の粒子12aが体積変化することに起因する応力を緩和するための空間としての働きも有する。充電によって体積が増加した活物質の粒子12aの体積の増加分は、この空隙に吸収される。その結果、該粒子12aの微粉化が起こりづらくなり、また負極本体10及び繊維シート付負極100の著しい変形が効果的に防止される。
【0030】
活物質層12に形成されている空隙について本発明者らが検討したところ、活物質層12の空隙率を好ましくは15〜45%、更に好ましくは20〜40%、一層好ましくは25〜35%に設定すると、活物質層12内における非水電解液の流通が極めて良好になり、また活物質の粒子12aの膨張収縮に伴う応力緩和に極めて有効であることが判明した。特に、上限を35%とすることで活物質層内の導電性の向上と強度維持に極めて効果的であり、下限を25%とすることで電解液の選択の幅を広げることができる。このような高空隙率の活物質層を備えた負極本体10及び繊維シート付負極100を用いることで、従来は用いることが困難であると考えられてきた高粘度の非水電解液を用いることが可能になる。
【0031】
活物質層12の空隙量は、水銀圧入法(JIS R 1655)で測定される。水銀圧入法は、固体中の細孔の大きさやその容積を測定することによって、その固体の物理的形状の情報を得るための手法である。水銀圧入法の原理は、水銀に圧力を加えて測定対象物の細孔中へ圧入し、その時に加えた圧力と、押し込まれた(浸入した)水銀体積の関係を測定することにある。この場合、水銀は活物質層12内に存在する大きな空隙から順に浸入していく。測定は、繊維シート付負極100から繊維シート14を剥離して得られた負極本体10を対象として行われる。
【0032】
本発明においては、圧力90MPaで測定した空隙量を全体の空隙量とみなしている。本発明において、活物質層12の空隙率(%)は、前記の方法で測定された単位面積当たりの空隙量を、単位面積当たりの活物質層12の見かけの体積で除し、それに100を乗じることにより求める。
【0033】
活物質層12は、好適には粒子12a及び結着剤を含むスラリーを集電体上に塗布し乾燥させて得られた塗膜に対し、所定のめっき浴を用いた電解めっきを行い、粒子12a間に金属材料13を析出させることで形成される。金属材料13の析出の程度は、活物質層12の空隙率の値に影響を及ぼす。所望の空隙率を達成するためには、前記の塗膜中に、めっき液の浸透が可能な空間が形成されている必要がある。めっき液の浸透が可能な空間を塗膜内に必要且つ十分に形成するためには、活物質の粒子12aの粒度分布が大きな要因となっていることが本発明者らの検討の結果判明した。詳細には、活物質の粒子12aとしてD10/D90で表される粒度分布が好ましくは0.05〜0.5、更に好ましくは0.1〜0.3であるものを採用することで、塗膜内に所望とする程度の空間が形成され、 めっき液の浸透が十分となることが判明した。また電解めっき時に塗膜の剥がれ落ちを効果的に防止し得ることが判明した。D10/D90が1に近ければ近いほど、粒子12aの粒径が単分散に近くなるから、前記の範囲の粒度分布はシャープなものであることが判る。つまり本実施形態においては粒度分布がシャープな粒子12aを用いることが好ましい。粒度分布がシャープな粒子12aを用いることで、該粒子12aを高密度充填した場合に、粒子間の空隙を大きくすることができる。逆に粒度分布がブロードな粒子を用いると、大きな粒子間に小さな粒子が入り込み易くなり、粒子間の空隙を大きくすることが容易でない。また、粒度分布がシャープな粒子12aを用いると、反応にばらつきが生じにくくなるという利点もある。
【0034】
サイクル特性に優れた負極を得るためには、活物質の粒子12aの粒度分布が上述の範囲内であることに加えて該粒子12a自体の粒径も重要である。活物質の粒子12aの粒径が過度に大きい場合には、粒子12aが膨張収縮を繰り返すことで微粉化しやすくなり、それによって電気的に孤立した粒子12aの生成が頻発する。また活物質の粒子12aの粒径が小さすぎる場合には、該粒子12a間の空隙が小さくなりすぎて、後述する浸透めっきによって空隙が埋められてしまうおそれがある。このことはサイクル特性の向上の点からはマイナスに作用する。そこで本実施形態においては、活物質の粒子12aとしてその平均粒径がD50で表して0.1〜5μm、特に0.2〜3μmであることが好ましい。
【0035】
活物質の粒子12aの粒度分布D10/D90及び平均粒径D50の値は、レーザー回折散乱式粒度分布測定や、電子顕微鏡観察(SEM観察)によって測定される。
【0036】
活物質層12の空隙率を前記の範囲内とするためには、前記の塗膜内にめっき液を十分浸透させることが好ましい。これに加えて、該めっき液を用いた電解めっきによって金属材料13を析出させるための条件を適切なものとすることが好ましい。めっきの条件にはめっき浴の組成、めっき浴のpH、電解の電流密度などがある。めっき浴のpHに関しては、これを7超11以下、特に7.1以上11以下に調整することが好ましい。pHをこの範囲内とすることで、活物質の粒子12aの溶解が抑制されつつ、該粒子12aの表面が清浄化されて、粒子表面へのめっきが促進され、同時に粒子12a間に適度な空隙が形成される。pHの値は、めっき時の温度において測定されたものである。
【0037】
めっきの金属材料13として銅を用いる場合には、ピロリン酸銅浴を用いることが好ましい。また該金属材料としてニッケルを用いる場合には、例えばアルカリ性のニッケル浴を用いることが好ましい。特に、ピロリン酸銅浴を用いると、活物質層12を厚くした場合であっても、該層の厚み方向全域にわたって、前記の空隙を容易に形成し得るので好ましい。また、活物質の粒子12aの表面には金属材料13が析出し、且つ該粒子12a間では金属材料13の析出が起こりづらくなるので、該粒子12a間の空隙が首尾良く形成されるという点でも好ましい。ピロリン酸銅浴を用いる場合、その浴組成、電解条件及びpHは次のとおりであることが好ましい。
・ピロリン酸銅三水和物:85〜120g/l
・ピロリン酸カリウム:300〜600g/l
・硝酸カリウム:15〜65g/l
・浴温度:45〜60℃
・電流密度:1〜7A/dm2
・pH:アンモニア水とポリリン酸を添加してpH7.1〜9.5になるように調整する。
【0038】
ピロリン酸銅浴を用いる場合には特に、P27の重量とCuの重量との比(P27/Cu) で定義されるP比が5〜12であるものを用いることが好ましい。P比が5未満のものを用いると、活物質の粒子12aを被覆する金属材料13が厚くなる傾向となり、粒子12a間に所望の空隙を形成させづらい場合がある。また、P比が12を超えるものを用いると、電流効率が悪くなり、ガス発生などが生じやすくなることから生産安定性が低下する場合がある。更に好ましいピロリン酸銅浴として、P比が6.5〜10.5であるものを用いると、活物質の粒子12a間に形成される空隙のサイズ及び数が、活物質層12内での非水電解液の流通に非常に有利になる。
【0039】
アルカリ性のニッケル浴を用いる場合には、その浴組成、電解条件及びpHは次のとおりであることが好ましい。
・硫酸ニッケル:100〜250g/l
・塩化アンモニウム:15〜30g/l
・ホウ酸:15〜45g/l
・浴温度:45〜60℃
・電流密度:1〜7A/dm2
・pH:25重量%アンモニア水:100〜300g/lの範囲でpH8〜11となるように調整する。
このアルカリ性のニッケル浴と前述のピロリン酸銅浴とを比べると、ピロリン酸銅浴を用いた場合の方が活物質層12内に適度な空隙が形成される傾向があり、負極の長寿命化を図りやすいので好ましい。
【0040】
前記の各種めっき浴に、タンパク質、活性硫黄化合物、セルロース等の銅箔製造用電解液に用いられる各種添加剤を加えることにより、金属材料13の特性を適宜調整することも可能である。
【0041】
本実施形態の負極本体10においては、水銀圧入法で測定された活物質層12の空隙量から算出された空隙率が前記の範囲内であることに加えて、10MPaにおいて水銀圧入法で測定された活物質層12の空隙量から算出された空隙率が10〜40%であることが好ましい。また、1MPaにおいて水銀圧入法で測定された活物質層12の空隙量から算出された空隙率が0.5〜15%であることが好ましい。更に、5MPaにおいて水銀圧入法で測定された活物質層12の空隙量から算出された空隙率が1〜35%であることが好ましい。上述したとおり、水銀圧入法による測定では、水銀の圧入条件を次第に高くしていく。そして低圧の条件下では大きな空隙に水銀が圧入され、高圧の条件下では小さな空隙に水銀が圧入される。したがって圧力1MPaにおいて測定された空隙率は、主として大きな空隙に由来するものである。一方、圧力10MPaにおいて測定された空隙率は、小さな空隙の存在も反映されたものである。これらの測定は、繊維シート付負極100から繊維シート14を剥離して得られた負極本体10を対象として行われる。
【0042】
先に述べたとおり、活物質層12は、好適には粒子12a及び結着剤を含むスラリーを塗布し乾燥させて得られた塗膜に対し、所定のめっき浴を用いた電解めっきを行い、粒子12a間に金属材料13を析出させることで形成されるものである。したがって、上述した大きな空隙は、主として粒子12a間の空間に由来するものであり、一方、上述した小さな空隙は、主として粒子12aの表面に析出する金属材料13の結晶粒間の空間に由来するものであると考えられる。大きな空隙は、主として粒子12aの膨張収縮に起因する応力を緩和するための空間としての働きを有している。一方、小さな空隙は、主として非水電解液を粒子 12aに供給する経路としての働きを有している。これら大きな空隙と小さな空隙の存在量をバランスさせることで、サイクル特性が一層向上する。
【0043】
負極全体に対する活物質の量が少なすぎると電池のエネルギー密度を十分に向上させにくく、逆に多すぎると強度が低下し活物質の脱落が起こりやすくなる傾向にある。これらを勘案すると、活物質層12の厚みは好ましくは10〜40μm、更に好ましくは15〜30μm、一層好ましくは18〜25μmである。
【0044】
繊維シート付負極100の負極本体10においては、活物質層12の表面に薄い表面層(図示せず)が形成されていてもよい。また負極本体10はそのような表面層を有していなくてもよい。表面層の厚みは、0.25μm以下、好ましくは0.1μm以下という薄いものである。表面層の厚みの下限値に制限はない。表面層を形成することで、微粉化した活物質の粒子12aの脱落を一層防止することができる。尤も、本実施形態においては、活物質層12の空隙率を上述した範囲内に設定することによって、表面層を用いなくても、充放電に伴い微粉化した活物質の粒子12aの脱落を十分に防止することが可能である。
【0045】
負極本体10が前記の厚みの薄い表面層を有するか又は該表面層を有していないことによって、繊維シート付負極100を用いて二次電池を組み立て、当該電池の初期充電を行うときの過電圧を低くすることができる。このことは、二次電池の充電時に活物質層12の表面でリチウムが還元することを防止できることを意味する。リチウムの還元は、両極の短絡の原因となるデンドライトの発生につながる。
【0046】
負極本体10が表面層を有している場合、該表面層は活物質層12の表面を連続又は不連続に被覆している。表面層が活物質層12の表面を連続に被覆している場合、該表面層は、その表面において開孔し且つ活物質層12と通ずる多数の微細空隙(図示せず)を有していることが好ましい。微細空隙は表面層の厚さ方向へ 延びるように表面層中に存在していることが好ましい。微細空隙は非水電解液の流通が可能なものである。微細空隙の役割は、活物質層12内に非水電解液を供給することにある。微細空隙は、負極本体10の表面を電子顕微鏡観察により平面視したとき、金属材料13で被覆されている面積の割合、即ち被覆率が95%以下、特に80%以下、とりわけ60%以下となるような大きさであることが好ましい。被覆率が95%を超えると、高粘度な非水電解液が浸入しづらくなり、非水電解液の選択の幅が狭くなるおそれがある。
【0047】
表面層は、リチウム化合物の形成能の低い金属材料から構成されている。この金属材料は、活物質層12中に存在している金属材料13と同種でもよく、あるいは異種でもよい。また表面層は、異なる2種以上の金属材料からなる2層以上の構造であってもよい。負極本体10の製造の容易さを考慮すると、活物質層12中に存在している金属材料13と、表面層を構成する金属材料とは同種であることが好ましい。
【0048】
負極本体10及び繊維シート付負極100における集電体11としては、非水電解液二次電池用負極の集電体として従来用いられているものと同様のものを用いることができる。集電体11は、先に述べたリチウム化合物の形成能の低い金属材料から構成されていることが好ましい。そのような金属材料の例は既に述べたとおりである。特に、銅、ニッケル、ステンレス等からなることが好ましい。また、コルソン合金箔に代表されるような銅合金箔の使用も可能である。集電体11の厚みは、負極本体10及び繊維シート付負極100の強度維持と、エネルギー密度向上とのバランスを考慮すると、9〜35μmであることが好ましい。なお、集電体11として銅箔を使用する場合には、クロメート処理や、トリアゾール系化合物及びイミダゾール系化合物などの有機化合物を用いた防錆処理を施しておくことが好ましい。
【0049】
次に、本実施形態の繊維シート付負極100の好ましい製造方法について、図2を参照しながら説明する。同図には、負極本体10を製造する工程が順次示されている。本製造方法では、活物質の粒子及び結着剤を含むスラリーを用いて集電体11上に塗膜を形成し、次いでその塗膜に対して電解めっきを行い、活物質層を形成する。
【0050】
先ず図2(a)に示すように集電体11を用意する。そして集電体11上に、活物質の粒子12aを含むスラリーを塗布して塗膜15を形成する。集電体11における塗膜形成面の表面粗さは、輪郭曲線の最大高さで0.5〜4μmであることが好ましい。最大高さが4μmを超えると塗膜15の形成精度が低下する上、凸部に浸透めっきの電流集中が起こりやすい。最大高さが0.5μmを下回ると、活物質層12の密着性が低下しやすい。活物質の粒子12aとしては、好適に上述した粒度分布及び平均粒径を有するものを用いる。
【0051】
スラリーは、活物質の粒子の他に、結着剤及び希釈溶媒などを含んでいる。またスラリーはアセチレンブラックやグラファイトなどの導電性炭素材料の粒子を少量含んでいてもよい。特に、活物質の粒子12aがシリコン系材料から構成されている場合には、該活物質の粒子12aの重量に対して導電性炭素材料を1〜3重量%含有することが好ましい。導電性炭素材料の含有量が1重量%未満であると、スラリーの粘度が低下して活物質の粒子12aの沈降が促進されるため、良好な塗膜15及び均一な空隙を形成しにくくなる。また導電性炭素材料の含有量が3重量%を超えると、該導電性炭素材料の表面にめっき核が集中し、良好な被覆を形成しにくくなる。
【0052】
結着剤としてはスチレンブタジエンラバー(SBR)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリエチレン(PE)、エチレンプロピレンジエンモノマー(EPDM)などが用いられる。希釈溶媒としてはN−メチルピロリドン、シクロヘキサンなどが用いられる。スラリー中における活物質の粒子12aの量は30〜70重量%程度とすることが好ましい。結着剤の量は0.4〜4重量%程度とすることが好ましい。これらに希釈溶媒を加えてスラリーとする。
【0053】
形成された塗膜15は、粒子12a間に多数の微小空間を有する。塗膜15が形成された集電体11を、リチウム化合物の形成能の低い金属材料を含むめっき浴中に浸漬する。めっき浴への浸漬によって、めっき液が塗膜15内の前記微小空間に浸入して、塗膜15と集電体11との界面にまで達する。その状態下に電解めっきを行い、めっき金属種を粒子12aの表面に析出させる(以下、このめっきを浸透めっきともいう)。浸透めっきは、集電体11をカソードとして用い、めっき浴中にアノードとしての対極を浸漬し、両極を電源に接続して行う。
【0054】
浸透めっきによる金属材料の析出は、塗膜15の一方の側から他方の側に向かって進行させることが好ましい。具体的には、図2(b)ないし(d)に示すように、塗膜15と集電体11との界面から塗膜の表面に向けて金属材料13の析出が進行するように電解めっきを行う。金属材料13をこのように析出させることで、活物質の粒子12aの表面を金属材料13で首尾よく被覆することができるとともに、金属材料13で被覆された粒子12a間に空隙を首尾よく形成することができる。しかも、該空隙の空隙率を前述した好ましい範囲にすることが容易となる。
【0055】
前述のように金属材料13を析出させるための浸透めっきの条件には、めっき浴の組成、めっき浴のpH、電解の電流密度などがある。このような条件については既に述べたとおりである。
【0056】
図2(b)ないし(d)に示されているように、塗膜15と集電体11との界面から塗膜の表面に向けて金属材料13の析出が進行するようにめっきを行うと、析出反応の最前面部においては、ほぼ一定の厚みで金属材料13のめっき核からなる微小粒子13aが層状に存在している。金属材料13の析出が進行すると、隣り合う微小粒子13aどうしが結合して更に大きな粒子となり、更に析出が進行すると、該粒子どうしが結合して活物質の粒子12aの表面を連続的に被覆するようになる。
【0057】
浸透めっきは、塗膜15の厚み方向全域に金属材料13が析出した時点で終了させる。めっきの終了時点を調節することで、活物質層12の上面に表面層(図示せず)を形成することができる。活物質の粒子12aの表面を被覆する金属材料13と、表面層を構成する材料が相違する場合には、塗膜15の厚み方向全域に金属材料13が析出した時点で、浸透めっきを一旦終了する。そして、金属材料13とは異なる金属材料を含むめっき液を用いて再び浸透めっきを行い、表面層を形成する。このようにして、図2(d)に示すように、目的とする活物質層12が得られる。
【0058】
このようにして負極本体10が得られたら、活物質層12の表面に繊維シート14を融着一体化する。繊維シート14が融着一体化される前の状態における活物質層12の表面(表面層が存在する場合には、その表面)は、JIS B0601に従い測定された表面粗さRaが0.1〜5μm、特に0.3〜3μmであることが好ましい。Raが5μm以下の表面粗さを有する活物質層12の表面に繊維シート14を形成することで、該繊維シート14と活物質層12との良好な密着性を確保することができる。また表面粗さRaが0.1μm以上の活物質層12の表面に繊維シート14を形成することで、アンカー効果を十分に発現させることができる。
【0059】
繊維シート14の融着一体化には、例えば、一対の平滑ロールを用いたロールプレス法を用いることができる。プレスの温度は、繊維を構成する樹脂の融点(mp)を基準として、mp−50℃以上とすることが繊維形状を維持する上で好ましい。繊維シート14が液晶ポリマーを含む繊維から構成されている場合には、ロールプレス法のほか平面プレス法を用いることもできる。この場合、平面プレスの温度は液晶ポリマーの軟化点以上が好ましい。特に、液晶ポリマーの軟化点以上であり且つ、mp−120℃以上の温度範囲でプレスを行うことが確実な融着を行う観点から好ましい。加圧時間にもよるが、繊維のフィルム化防止の観点から、加熱温度の上限は融点未満とすることが好ましい。金属材料13で被覆された活物質の粒子12a,12aどうし間に形成された空隙に、アンカー効果を目的に樹脂を入り込ませるためには、繊維シート14の構成繊維が液晶ポリマーからなるか否かを問わず、プレスを好ましくは100kPa〜3000kPa、更に好ましくは500kPa〜1500kPaの圧力で行う。
【0060】
図3には、液晶ポリマーを含む繊維から構成された繊維シート14を、負極本体10に融着一体化させるために好適に用いられる平面プレス装置が模式的に示されている。同図は、集電体の一方の面にのみ活物質層が形成されている負極本体10に繊維シート14を融着一体化させる場合の状態を示している。同図に示す平面プレス装置200は、対向配置された矩形状の一対の熱板201,202を備えている。熱板201,202は所定温度に加熱可能になっている。熱板201,202の間に、繊維シート14と負極本体10とを配置し、加熱下に押圧する。この場合、繊維シート14と負極本体10の活物質層とが対向するように両部材を配置する。加熱下の押圧によって、繊維シート14の構成繊維が軟化して、負極本体10の活物質層表面に形成されている微細な凹凸内に入り込む。これによって繊維シート14と負極本体10とが一体化し、繊維シート付負極100が形成される。尚、負極本体10として集電体の両面に活物質層が形成されたものを用いる場合には、図3において、熱板201と負極本体10との間の配置構成を、熱板202と負極本体10との間にも採用すればよい。
【0061】
繊維シート14と負極本体10とを均一な圧力で面で以って融着一体化するために、熱板201と繊維シート14との間に、繊維シート14との対向面が鏡面仕上げされた、金属等の良伝熱材からなる鏡板203を配置することが好ましい。同様の目的のために、熱板202と負極本体10との間に、負極本体10との対向面が鏡面仕上げされた、金属等の良伝熱材からなる鏡板204を配置することが好ましい。鏡面の程度は、通常のバフ仕上げの程度でよい。
【0062】
繊維シート14及び負極本体10を一層密着させ、熱板201の熱を効率よく繊維シート14へ伝導させる観点から、平面プレス装置200で押圧する際には、鏡板203と繊維シート14との間に、金属箔205を配置することが好ましい。同様の目的のために、鏡板204と負極本体10との間に、金属箔205と同種又は異種の金属箔206を配置することが好ましい。金属箔205,206は、例えば銅やアルミニウムが挙げられる。
【0063】
押圧完了後に金属箔205と繊維シート14とをスムーズに剥離させることを目的として、金属箔205と繊維シート14との間に、耐熱性及び離型性を有するシート材料207を介在させることも好ましい。そのようなシート材料207としては、ポリイミド製フィルム等が挙げられる。尚、集電体の両面に活物質層が形成されている負極本体10に二枚の繊維シート14,14を融着一体化させる場合には、前述のシート材料207と同様なシート材料を、金属箔206と繊維シート14との間にも、介在させることが好ましい。
【0064】
このようにして得られた繊維シート付負極100は、公知の正極、セパレータ及び非水電解液とともに用いられ、非水電解液二次電池を構成する。二次電池の形態に特に制限はないが、負極、セパレータ及び正極の捲回体をプレスするときの負極からの活物質層の脱落が防止されるという観点からは、積層形又は円筒型の二次電池であることが好ましい。尤も、角型やコイン型等の形態であっても何ら差し支えない。
【0065】
二次電池における正極としては、例えばリチウム遷移金属複合酸化物の粒子を、アセチレンブラック等の導電剤及びポリフッ化ビニリデン等の結着剤とともに適当な溶媒に懸濁し、正極合剤を作製し、これをアルミニウム箔等からなる集電体の少なくとも一面に塗布、乾燥した後、ロール圧延、プレスすることにより得られる。
【0066】
セパレータとしては、合成樹脂製不織布、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン、又はポリテトラフルオロエチレンの多孔質フィルム等が好ましく用いられる。
【0067】
非水電解液は、支持電解質であるリチウム塩を有機溶媒に溶解した溶液からなる。リチウム塩としては、CF3SO3Li、(CF3SO22NLi、(C25SO22NLi、LiClO4、LiA1Cl4、LiPF6、LiAsF6、LiSbF6、LiCl、LiBr、LiI、LiC49SO3等が例示される。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0068】
以上、本発明をその好ましい実施形態に基づき説明したが、本発明は前記実施形態に制限されない。例えば、前記実施形態においては、繊維シート付負極100を、正極及びセパレータ等と組み合わせて二次電池を構成したが、これに代えて、負極本体10、繊維シート14、正極、セパレータを用意し、二次電池を構成するに先立ち、負極本体10と繊維シート14とを融着一体化し、しかる後に、これを正極及びセパレータと共に用いて二次電池を組み立ててもよい。
【実施例】
【0069】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。特に断らない限り、「%」はそれぞれ「重量%」を意味する。
【0070】
〔実施例1〕
厚さ18μmの電解銅箔からなる集電体を室温で30秒間酸洗浄した。処理後、15秒間純水洗浄した。集電体の両面上にSiからなる粒子を含むスラリーを膜厚15μmになるように塗布し塗膜を形成した。スラリーの組成は、粒子:スチレンブタジエンラバー(結着剤):アセチレンブラック=100:1.7:2(重量比)であった。粒子の平均粒径D50は2μmであった。平均粒径D50は、日機装(株)製のマイクロトラック粒度分布測定装置(No.9320−X100)を使用して測定した。
【0071】
塗膜が形成された集電体を、以下の浴組成を有するピロリン酸銅浴に浸漬させ、電解により、塗膜に対して銅のめっきを行い、活物質層を形成した。電解の条件は以下のとおりとした。陽極にはDSEを用いた。電源は直流電源を用いた。電解めっきは、塗膜の厚み方向全域にわたって銅が析出した時点で終了させた。このようにして活物質層を形成した。JIS B0601に従い測定された活物質層の表面粗さRaは2.4μmであった。また、上述の方法で測定された活物 質層全体の空隙率は24.8%であった。
・ピロリン酸銅三水和物:105g/l
・ピロリン酸カリウム:450g/l
・硝酸カリウム:30g/l
・浴温度:50℃
・電流密度:3A/dm2
・pH:アンモニア水とポリリン酸を添加してpH8.2になるように調整した。
【0072】
株式会社クラレから入手した不織布(商品名「ベクルス:MBBK」目付け8.5g/m2、融点350℃)を用いた。この不織布は、液晶ポリマーからなる繊維から構成されたものである。この不織布を二枚用意し、平面プレス装置(株式会社小平製作所製 加熱冷却成形機PY−30EA型)によって、集電体の表面及び裏面に形成された活物質層の表面それぞれに不織布を融着一体化した。一対の熱板を備えた平面プレス装置で押圧する際には、集電体の表面側において、一方の熱板と不織布との間に、バフ仕上げした鏡板を配置し、その鏡板と不織布との間に厚み35μmの銅箔を配置し、その銅箔と不織布との間に厚み25μmのポリイミド製フィルムを配置した。集電体の表面側と同様に、集電体の裏面側においても、他方の熱板と不織布との間に、バフ仕上げした鏡板を配置し、その鏡板と不織布との間に厚み35μmの銅箔を配置し、その銅箔と不織布との間に厚み25μmのポリイミド製フィルムを配置した。平面プレス装置の条件は、温度250℃、プレス圧1200kPa、加圧時間3分であった。このようにして集電体の両面の活物質層に繊維シートを融着一体化した繊維シート付負極を得た。
【0073】
〔比較例1〕
実施例1において、集電体上の活物質層に繊維シートを融着一体化しない以外は実施例1と同様にして負極を得た。
【0074】
〔評価〕
実施例及び比較例で得られた負極を用いて非水電解液二次電池を作製し、各負極の性能を評価した。二次電池を次の手順で作製した。正極活物質としてLi1.03Mn0.06Co0.912を用いた。これを、アセチレンブラック及びポリフッ化ビニリデンとともに、溶媒であるN−メチルピロリドンに懸濁させ正極合剤を得た。配合の重量比は、正極活物質:アセチレンブラック:ポリフッ化ビニリデン=88:6:6とした。この正極合剤をアルミニウム箔(厚さ20μm)からなる集電体にアプリケータを用いて塗布し、120℃で乾燥した後、荷重0.5ton/cmのロールプレスを行い、正極を得た。電解液として、エチレンカーボネートとジエチルカーボ ネートの1:1体積比混合溶媒に1mol/lのLiPF6を溶解した溶液に対して、ビニレンカーボネートを2体積%外添したものを用いた。セパレータとして、ポリプロピレン製多孔質フィルムを用いた。実施例及び比較例で得られた負極を、上述の正極及び上述のセパレータとともに用いて筒状の捲回体を構成し、該捲回体を扁平にプレスした後にアルミニウムラミネート製の電池缶内に収容して各10個ずつ角型の二次電池を作製した。これらについて充放電を行った。初回の充電曲線を図3及び図4に示す。図3に示すように、実施例の二次電池では、10個のうち短絡した電池が無かったのに対し、図4に示すように、比較例の二次電池では、10個のうち2個の電池が短絡した。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】本発明の繊維シート付負極の一実施形態の断面構造を示す模式図である。
【図2】負極本体の製造方法を示す工程図である。
【図3】平面プレス装置の模式図である。
【図4】実施例1の負極を用いた電池の初回の充電曲線である。
【図5】比較例1の負極を用いた電池の初回の充電曲線である。
【符号の説明】
【0076】
100 非水電解液二次電池用繊維シート付負極
10 負極本体
11 集電体
12 活物質層
12a活物質の粒子
13 金属材料
14 繊維シート
200 平面プレス装置
201,202 熱板
203,204 鏡板
205,206 金属箔
207 シート材料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
集電体と、その少なくとも一面に形成された活物質層とを有し、該活物質層の表面に、自己融着性を有する繊維を含む繊維シートを融着一体化したことを特徴とする繊維シート付非水電解液二次電池用負極。
【請求項2】
前記繊維が、200℃〜380℃の融点を有する樹脂からなる請求項1に記載の繊維シート付非水電解液二次電池用負極。
【請求項3】
前記融着一体化が面で以ってなされている請求項1又は2に記載の繊維シート付非水電解液二次電池用負極。
【請求項4】
前記活物質層が、Si又はSnを含む活物質の粒子を含有し、該粒子の表面の少なくとも一部がリチウム化合物の形成能の低い金属材料で被覆されているとともに、該金属材料で被覆された該粒子どうしの間に空隙が形成されているものである請求項1〜3の何れかに記載の繊維シート付非水電解液二次電池用負極。
【請求項5】
前記繊維が、熱可塑性の液晶ポリマーを含有する請求項2〜4の何れかに記載の繊維シート付非水電解液二次電池用負極。
【請求項6】
請求項1〜5の何れかに記載の非水電解液二次電池用負極を備えることを特徴とする非水電解液二次電池。
【請求項7】
正極と、負極と、これら両者間に介在配置されたセパレータとを有する非水電解液二次電池において、
前記負極が、集電体と、その少なくとも一面に形成された活物質層とを有し、
前記負極と前記セパレータとの間に、自己融着性を有する繊維を含む繊維シートが配置され、該繊維シートと該負極の活物質層とが融着一体化されていることを特徴とする非水電解液二次電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−283315(P2009−283315A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−134607(P2008−134607)
【出願日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【出願人】(000006183)三井金属鉱業株式会社 (1,121)
【Fターム(参考)】