説明

非水電解液電池

【課題】 電池特性に優れ、正極層及び負極層への非水電解液の含浸を短時間で行うことができる非水電解液電池を提供する。
【解決手段】 非水電解液電池は、電極群と、外装材と、非水電解液と、を備えている。電極群は、正極2、負極及びセパレータを具備している。正極2は、正極集電体、並びに正極活物質及び結着剤を含み正極集電体に形成された正極層12を有している。負極は、負極集電体、並びに負極活物質及び結着剤を含み負極集電体に形成された負極層を有している。セパレータは正極層及び負極層間に介在され、正極及び負極とともに捲回されている。正極層12及び負極層の少なくとも一方は、それぞれ表面側に両長辺(S)を結ぶように形成され、他の領域(R)の表面側より結着剤が少なく、領域(R)の表面側より非水電解液の浸透を促進する複数の浸透促進部(13)を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、非水電解液電池に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、非水電解液電池は、電極群と、電極群を収容した外装缶と、外装缶内に収納された非水電解液とを備えている。電極群が収納され非水電解液が注入された外装缶は、封口体により密閉されている。
【0003】
電極群は、正極と、負極と、負極及び正極間に介在されたセパレータとを含んでいる。正極及び負極は、活物質、導電剤及び結着剤等を均一に分散させた合剤ペーストを集電箔へ塗工した後、乾燥及び圧延することにより作製される。正極の正極層及び負極の負極層においては、活物質、導電剤及び結着剤等がほぼ均一に分布した状態となる。電極群は、捲回して形成されている。
【0004】
非水電解液としては有機系の非水電解液が用いられる。有機系の非水電解液は注入してもすぐに活物質に含浸されにくいので、一般的には、時間をかけて徐々に正極層及び負極層中に含浸させる工程を繰り返すことや、外装缶内を減圧するなどの工程が必要である。非水電解液が不足している場合や、非水電解液が正極層及び負極層に十分含浸されていない場合には、電池容量が小さくなり、サイクル特性(充放電特性)も劣るという課題を有している。
【0005】
よって、非水電解液を外装缶内に豊富に入れ、かつ非水電解液を正極層及び負極層に短時間に含浸させることが製造工程上及び電池特性上、重要である。また、捲回された電極群中の正極層及び負極層全てに非水電解液が行き渡るためには、電極群の高さ方向の上部及び下部から電極群の中央部まで非水電解液が浸透する必要がある。しかし、正極層及び負極層中に非水電解液を含浸させると、正極層及び負極層中の結着剤が膨潤することになる。また電極中の結着剤が膨潤しない場合であっても圧延時に表層に浮き上がった結着剤が緻密な膜を形成すると電解液の浸透が阻害される。これにより、電極群の上記中央部までや、集電箔側の正極層及び負極層までの非水電解液の含浸の妨げとなってしまう。
【0006】
このような問題に対して、正極層や負極層の表面側に溝を形成することで、結着剤の膨潤による非水電解液の浸透しにくさを回避する技術が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−27633号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、正極層や負極層の表面に溝を設けるため、溝に当る部分に凸部を設けたローラで圧延する方法を採ると、高密度な正極層や負極層をさらに圧縮することになる。正極層や負極層の破損を招く可能性があるとともに、局所的に正極層や負極層の密度が変わるので電池特性への影響も懸念される。また、正極層や負極層の一部を削り落として溝を形成する場合には、電池容量の低下や削りくずの処理も問題となる。
【0009】
その他、結着剤の膨潤による非水電解液の浸透しにくさを回避するため、正極層や負極層中の結着剤を表面側より集電箔側で多くする技術も考えられる。このような正極層や負極層を形成する場合、例えば、正極層においては、まず、結着剤の添加量を多くした第1正極層を集電箔上に形成し、続いて第1正極層より結着剤の添加量を少なくした第2正極層を第1正極層上に形成することで正極層が形成される。
【0010】
しかし、この場合、総塗工数が倍になってしまうという生産性の問題が生じてしまう。また、正極層や負極層の表面側に結着剤が少ないことから、活物質同士の結着性が不十分となり、活物質等が脱落する恐れがある。活物質等が脱落した場合、電池容量が小さくなったり、表面側で十分に保液できなくなったり、活物質利用率が低くなってしまう。
この発明は以上の点に鑑みなされたもので、その目的は、電池特性に優れ、正極層及び負極層への非水電解液の含浸を短時間で行うことができる非水電解液電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明の態様に係る非水電解液電池は、
正極集電体並びに正極活物質及び結着剤を含み前記正極集電体に形成された正極層を有した帯状の正極と、負極集電体並びに負極活物質及び結着剤を含み前記負極集電体に形成された負極層を有した帯状の負極と、前記正極層及び負極層間に介在され、前記正極及び負極とともに捲回されたセパレータと、を具備した電極群と、
前記電極群を収容する外装材と、
前記外装材内に収納された非水電解液と、を備え、
前記正極層及び負極層の少なくとも一方は、それぞれ表面側に両長辺を結ぶように形成され、他の領域の表面側より前記結着剤が少なく、前記他の領域の表面側より前記非水電解液の浸透を促進する複数の浸透促進部を有している。
【発明の効果】
【0012】
この発明によれば、電池特性に優れ、正極層及び負極層への非水電解液の含浸を短時間で行うことができる非水電解液電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施の形態に係る非水電解液二次電池を概略的に示す部分切欠斜視図である。
【図2】図1に示した正極が展開された一部を示す平面図である。
【図3】図2に示した正極の線A−Aに沿った断面図である。
【図4】図1に示した負極が展開された一部を示す平面図である。
【図5】図2及び図3に示した正極層の表面を金属顕微鏡等を用いて撮影した図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しながらこの発明の実施の形態に係る非水電解液電池について詳細に説明する。この実施の形態において、非水電解液電池として非水電解液二次電池について説明する。
図1乃至図4に示すように、非水電解液二次電池は、電極群1と、外装材としての外装缶31と、非水電解液50とを備えている。非水電解液二次電池の形状は、角型である。
【0015】
電極群1は、帯状の正極2と、帯状の負極3と、帯状のセパレータ4とを有している。 正極2は、帯状の正極集電体11と、正極集電体11の両面に形成された帯状の正極層12とを有している。正極集電体11は、金属箔で形成されている。正極層12は、正極活物質としてのLiCoO(コバルト酸リチウム)と、導電剤としてのアセチレンブラックと、結着剤としてのPVDF(ポリフッ化ビニリデン)とを含んでいる。この実施の形態において、正極集電体11は、15μmの厚みを有したアルミ箔で形成されている。正極層12の厚みは50μmである。
【0016】
正極層12は、複数の浸透促進部13を有している。この実施の形態において、浸透促進部13は、正極集電体11の両面に形成された正極層12それぞれに形成されている。浸透促進部13は、表面側に両長辺S(長手の両側縁)を結ぶように形成されている。
【0017】
この実施の形態において、浸透促進部13は、両長辺Sを最短距離で結ぶように筋状に形成されている。浸透促進部13の幅は、50μmである。複数の浸透促進部13は、長手方向に200μm間隔で形成されている。各正極層12において、複数の浸透促進部13の総面積は、正極層12の総面積の25%である。浸透促進部13の深さは、浸透促進部13が形成された正極層12の厚みの20%である。
【0018】
浸透促進部13は、浸透促進部13以外の正極層12の領域Rの表面側よりPVDFが少なくなっている。浸透促進部13は、領域Rの表面側より非水電解液50の浸透を促進するものである。
【0019】
負極3は、帯状の負極集電体21と、負極集電体21の両面に形成された帯状の負極層22とを有している。負極集電体21は、金属箔で形成されている。負極層22は、負極活物質としてのチタン酸リチウムと、導電剤としてのアセチレンブラックと、結着剤としてのPVDFとを含んでいる。この実施の形態において、負極集電体21は、15μmの厚みを有したアルミ箔で形成されている。負極層22の厚みは50μmである。
【0020】
セパレータ4は、正極層12及び負極層22間に介在されている。セパレータ4は、正極2及び負極3とともに捲回されている。より詳しくは、正極2、負極3及びセパレータ4は、菱形状に捲回した後、プレス成形されている。セパレータ4はイオン透過性を有している。この実施の形態において、セパレータ4はポリプロピレンで形成されている。
【0021】
外装缶31は、有底矩形筒状に形成されている。外装缶31は、金属として、例えばアルミニウムで形成されている。外装缶31は、例えば正極端子を兼ねている。外装缶31の底部内面に絶縁体32が配置されている。外装缶31は、電極群1を収容している。
【0022】
非水電解液50は外装缶31内に収納されている。非水電解液50は、電極群1に浸透し、電極群1によって保持されている。この実施の形態において、非水電解液50は、非水溶媒としてのEC(エチレンカーボネート)と、非水溶媒としてのMEC(メチルエチルカーボネート)とを混合した混合溶媒に電解質としての六フッ化リン酸リチウムを溶解して調製されている。
【0023】
電極群1の正極2の正極集電体11には正極リード(図示せず)が接続されている。正極リードの他端は外装缶31に接続されている。中心付近にリード取出穴を有する例えば合成樹脂からなるスペーサ37は、外装缶31内の電極群1上に配置されている。金属製の蓋体38は、外装缶31の上端開口部に、例えばレーザ溶接により気密に接合されている。
【0024】
蓋体38の中心付近には、負極端子の取出穴39が形成されている。蓋体38には、外装缶31内の内圧が極端に上昇したような場合に破れて内圧を開放する安全弁機構(図示せず)が設けられている。負極端子40は、蓋体38の取出穴39にガラス製または樹脂製の絶縁材41を介してハーメティックシールされている。
【0025】
負極端子40の下端面には、負極リード42が接続されている。負極リード42の他端は電極群1の負極3の負極集電体21に接続されている。絶縁封口板43は、蓋体38の上面に配置されている。絶縁性の外装チューブ44は、外装缶31の側面並びに底面周縁と、絶縁封口板43の周縁を被覆している。
【0026】
次に、上記非水電解液二次電池の一層詳しい構成を、その製造方法と併せて説明する。以下、正極の作製方法、負極の作製方法、電極群の作製方法、非水電解液の調製方法、非水電解液二次電池の作製方法ついて順に説明する。
【0027】
(正極の作製方法)
まず、正極活物質としてのLiCoO粉末と、導電剤としてのアセチレンブラックと、結着剤としてのPVDFとを100:3:3の重量比となるように混合した混合物を用意する。続いて、上記混合物をNMP(N−メチル−2−ピロリドン)に懸濁させることにより、正極活物質等が混合された混合ペーストを調製する。
【0028】
次いで、厚さ15μmのアルミ箔の両面に混合ペーストを塗布する。塗布した混合ペーストが乾燥した後、混合ペーストを圧延し、所定の寸法の帯状に裁断する。これにより、アルミ箔からなる正極集電体11の両面にそれぞれ50μmの厚みを有した正極層12が形成される。
【0029】
その後、CWレーザを用い、正極層12の両長辺S間を最短距離で結ぶように、レーザ光を正極層12全面に照射する。この際、正極層12の長手方向に200μm間隔でレーザ光を照射する。なお、レーザ光は、正極集電体11の両面の正極層12に照射される。これにより、レーザ光が照射された領域の正極層12の表面側に複数の浸透促進部13が形成される。ここでは、浸透促進部13は筋状に形成される。レーザ光が照射された領域の正極層12の表面側で、PVDF(結着剤)のみの組成が変質し、他の領域の表面側よりPVDFが少なくなる。
これにより、正極2が作製される。
【0030】
(負極の作製方法)
まず、負極活物質としてのチタン酸リチウム粉末と、導電剤としてのアセチレンブラックと、結着剤としてのPVDFとを100:3:3の重量比となるように混合した混合物を用意する。続いて、上記混合物をNMPに懸濁させることにより、負極活物質等が混合された混合ペーストを調製する。
【0031】
次いで、厚さ15μmのアルミ箔の両面に混合ペーストを塗布する。塗布した混合ペーストが乾燥した後、混合ペーストを圧延し、所定の寸法に裁断する。
これにより、アルミ箔からなる負極集電体21の両面にそれぞれ50μmの厚みを有した負極層22が形成され、負極3が作製される。
【0032】
(電極群の作製方法)
まず、ポリプロピレンで形成されたセパレータ4を用意する。続いて、正極2及び負極3間にセパレータ4を介在させ、正極2、負極3及びセパレータ4を菱形状に捲回させる。その後、捲回した正極2、負極3及びセパレータ4に所定の厚みとなるようプレスを施す。
これにより、電極群1が作製される。
【0033】
(非水電解液の調製方法)
まず、非水溶媒としてのECと、非水溶媒としてのMECとを、1:2の体積比となるように混合した混合溶媒を用意する。続いて、非水溶媒に溶解される電解質としての六フッ化リン酸リチウムを、上記混合溶媒に1mol/L溶解することにより、非水電解液50を調製する。
【0034】
(二次電池の作製方法)
まず、アルミニウムで形成された外装缶31を用意する。続いて、外装缶31内に電極群を収納し、外装缶31内に非水電解液50を注入する。そして、非水電解液50を電極群1に浸透させる。その後、絶縁封口板43等を用いて外装缶31を封口する等する。
これにより、非水電解液二次電池が完成する。
【0035】
ここで、本願発明者は、上記作成した正極2の正極層12を観察した。観察する際、まず、正極2にオスミウム酸や臭素酸で染色を行った後、正極2の断面或いは表面を、金属顕微鏡或いはSEM(走査顕微鏡)にて観察した。
【0036】
図5に示すように、正極層12の表面側のPVDF(結着剤)の分布を観察したところ、浸透促進部13の幅は50μmであった。複数の浸透促進部13の総面積は、浸透促進部13が形成された正極層12の総面積の25%であった。浸透促進部13の深さは、浸透促進部13が形成された正極層12の厚みの20%であった。
【0037】
また、本願発明者は、上記非水電解液二次電池と、比較例の非水電解液二次電池とについて、外装缶31への非水電解液50の注入、及び電極群1への非水電解液50の浸透にかかる時間をそれぞれ調査した。なお、比較例の非水電解液二次電池は、正極層12が浸透促進部13を有していない以外(正極層12がレーザ光の照射無しに形成された以外)、上記非水電解液二次電池と同様に形成されている。
【0038】
調査した結果、上記非水電解液二次電池の製造工程において、非水電解液50の注入及び浸透にかかった時間は約30分であった。一方、比較例の非水電解液二次電池の製造工程において、非水電解液の注入及び浸透にかかった時間は約3時間であった。なお、ここでいう注入及び浸透にかかった時間は、低湿度雰囲気にて、外装缶31を正立させた状態で電極群の上面に電解液が液層状態で残っているか否かを、電解液の注入口から小形のシリンジで電解液吸い上げが可能かどうか見ることで判断した。上記非水電解液二次電池の製造工程における非水電解液50の注入及び浸透は、比較例の非水電解液二次電池のそれに比べて短時間であった。
【0039】
これは、上記非水電解液二次電池の正極層12の表面側に形成された複数の浸透促進部13により、電極群1中央部への非水電解液50の浸透が促進されたためである。別の言い方をすると、浸透促進部13は、浸透促進部13以外の正極層12より非水電解液50を吸収する能力が高いためである。
【0040】
上記非水電解液二次電池の製造工程における非水電解液50の浸透にかかる時間を、比較例の非水電解液二次電池のそれより短縮できることから、上記非水電解液二次電池の製造工程における非水電解液50の注入及び浸透にかかる時間を、比較例の非水電解液二次電池のそれより短縮できるものである。
【0041】
一般に、非水電解液二次電池において、非水電解液を注入し、含浸させる際、正極層の表面及び負極層の表面に非水電解液が浸透し、さらに正極層及び負極層の厚み方向に非水電解液の含浸が進んでいく。しかし、捲回された電極群、特に高エネルギー密度化による緊縛率の高い電極群を用いた非水電解液二次電池では、正極及び負極、並びにセパレータが緊密に接しているか、場合によってはセパレータの厚みを圧縮するほどに正極及び負極がセパレータにめり込むことになる。このような高エネルギー密度化した電池において本発明の効果はさらに顕著に現れる。
【0042】
さらに、本願発明者は、本実施の形態の非水電解液二次電池と、比較例の非水電解液二次電池とについて、初期の放電容量試験を実施した。なお注液から封口までの時間は実施例、比較例とも3時間とし、その後に24時間、45℃の環境で放置、さらに25℃で24時間の放置を実施して電解液の浸透をはかった。
【0043】
放電容量試験を実施する際、まず、各非水電解液二次電池に、25℃の環境で、充電終止電圧を2.8Vとして0.2C−CCCV充電を行い、電流が0.05Cに減衰したところで充電を停止する。続いて、各非水電解液二次電池を30分間放置した後、0.2C放電により各非水電解液二次電池の出力電圧が1.8Vに低下するまでの各非水電解液二次電池の放電容量を測定する。そして、各非水電解液二次電池の放電容量を比較することにより、放電容量試験は終了する。
【0044】
放電容量試験を実施した結果、本実施の形態の非水電解液二次電池の電池容量(放電容量)を100%とした場合、比較例の非水電解液二次電池の電池容量(放電容量)は93%であった。比較例の非水電解液二次電池より電池容量(放電容量)の大きい非水電解液二次電池が得られており、所定の注液後の処理のなかで、電解液の浸透がより確実に達成されていることを示す結果となった。
【0045】
さらにまた、本願発明者は、本実施の形態の非水電解液二次電池と、比較例の非水電解液二次電池とについて、サイクル試験を実施した。サイクル試験も、注液から初充放電までを上記プロセスで作製したものを用いている。
【0046】
上記サイクル試験を実施する際、まず、各非水電解液二次電池に、25℃の環境で、1C−2.8VのCCCV充電(電流が0.05Cに減衰したところで充電を停止)と、1C−1.8VのCC放電と、を繰り返し行った。上記充電及び放電は、各非水電解液二次電池の電池容量が初期の80%に低下するまで繰り返した。また、各非水電解液二次電池の電池容量が初期の80%に低下するまでに繰り返した上記充電及び放電のサイクル数をカウントした。続いて、各非水電解液二次電池においてカウントしたサイクル数を比較することにより、サイクル試験は終了する。
【0047】
サイクル試験を実施した結果、本実施の形態の非水電解液二次電池のサイクル数を100%とした場合、比較例の非水電解液二次電池のサイクル数は76%であった。比較例の非水電解液二次電池は、本実施の形態の非水電解液二次電池に比べ、76%のサイクルで電池容量が初期の80%に低下することが分かる。このため、本実施の形態において、比較例の非水電解液二次電池より劣化の少ない非水電解液二次電池を得ることができるものである。
【0048】
上記のように構成された本実施の形態の非水電解液二次電池によれば、非水電解液二次電池は、電極群1と、電極群1を収容した外装缶31と、外装缶31内に収納された非水電解液50とを備えている。電極群1は、帯状の正極2と、帯状の負極3と、セパレータ4とを具備している。正極2は、正極集電体11及び正極集電体11の両面に形成された正極層12を有している。負極3は、負極集電体21及び負極集電体21の両面に形成された負極層22を有している。正極2、負極3及びセパレータ4は、捲回されている。
【0049】
正極層12は、非水電解液50の浸透を促進する複数の浸透促進部13を有している。浸透促進部13は、正極層12の表面側に両長辺Sを結ぶように形成されている。浸透促進部13は、正極層12の他の領域の表面側よりPVDF(結着剤)が少なく、上記他の領域の表面側より非水電解液50の浸透を促進するものである。
【0050】
浸透促進部13は、途中で途切れることなく正極層12の両長辺Sを結ぶように形成されている。浸透促進部13は、結着剤の膨潤による非水電解液の浸透の妨げを抑制するように形成されているため、両長辺Sから正極層12の中央部まで非水電解液50をスムーズに浸透させることができる。
【0051】
浸透促進部13から正極層12全体に非水電解液50を含浸させることができる。負極層22においては、正極層12の浸透促進部13からセパレータ4を介して負極層22全体に非水電解液50を含浸させることができる。上記のことから、本実施の形態の非水電解液二次電池の製造工程において、正極層が上記浸透促進部13を有していない非水電解液二次電池の製造工程に比べ、正極層12及び負極層22への非水電解液50の含浸を大幅に短縮でき、短時間で行うことができる。
【0052】
また、従来のように、正極層の表面に機械的に溝を形成することや、結着剤の添加量を互いに異ならせた積層構造にて正極層を形成することはない。このため、機械的に溝を形成した場合に生じる正極層の破損、局所的な正極層の密度の変化、電池容量の低下等を防止することができる。結着剤の添加量を互いに異ならせた積層構造にて正極層を形成した場合に生じる総塗工数の増大、LiCoO(正極活物質)等の脱落等を防止することができる。
【0053】
上記のことから、電池容量が低下、正極層12の表面側での非水電解液50の保液量の低下、正極活物質の利用率の低下を抑制できるため、電池特性に優れた非水電解液二次電池を得ることができる。
【0054】
浸透促進部13を形成する方法としては、正極層12の表面へのレーザ加工による結着剤の除去が好ましい。レーザ光の照射により、正極層12の表面側において、ゴム系やフッ素系の高分子材料である結着剤のみの組成を変質させればよい。結着剤組成の変質で、結着剤が存在した部分の体積変化により、正極活物質が破壊されていない程度において、浸透促進部13が溝のように窪んでいてもいなくてもよい。電池特性の観点では、浸透促進部13が窪んでいない方が好ましい。
レーザとしては、気体レーザ、固体レーザ、半導体レーザ、色素レーザ、エキシマレーザ、自由電子を放出する放出源を使用することが可能である。
【0055】
浸透促進部13の幅は、50μmである。各正極層12において、複数の浸透促進部13の総面積は、正極層12の総面積の25%である。このため、上述した効果を一層得ることができる。なお、この効果は、複数の浸透促進部13の幅が10μm乃至200μmであり、複数の浸透促進部13の総面積が、複数の浸透促進部13が形成された正極層12の総面積の20%乃至60%である場合に得ることができる。
【0056】
浸透促進部13の幅が10μm未満、或いは複数の浸透促進部13の総面積が正極層12の総面積の20%未満では、正極層12及び負極層22への非水電解液50の含浸を十分に短縮することができなくなる。浸透促進部13の幅が200μmを超え、或いは複数の浸透促進部13の総面積が正極層12の総面積の60%を超えた場合では、浸透促進部13のLiCoO(正極活物質)等の結着が十分でなく、LiCoO等の脱落が起こりやすくなる。
【0057】
浸透促進部13の深さは、浸透促進部13が形成された正極層12の厚みの20%である。このため、上述した効果を一層得ることができる。なお、この効果は、浸透促進部13の深さが正極層12の厚みの5%乃至50%である場合に得ることができる。
【0058】
浸透促進部13の深さが正極層12の厚みの5%未満では、正極層12及び負極層22への非水電解液50の含浸を十分に短縮することができなくなる。浸透促進部13の深さが正極層12の厚みの50%を超えた場合では、浸透促進部13のLiCoO(正極活物質)等の結着が十分でなく、LiCoO等の脱落が起こりやすく、非水電解液50の保液量が低下することになる。
上記したことから、電池特性に優れ、正極層12及び負極層22への非水電解液50の含浸を短時間で行うことができる非水電解液二次電池を得ることができる。
【0059】
なお、この発明は上記実施の形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化可能である。また、上記実施の形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。
【0060】
浸透促進部13は、正極層12の表面側に両長辺を結ぶように形成されていれば上述した効果を得ることができる。浸透促進部13の形状は、筋状に限らず、種々変形可能であり、例えば波形状であってもよい。浸透促進部13は、正極層12の両長辺Sを最短距離で結ぶように形成しなくともよい。
【0061】
正極2は、正極集電体11と、正極集電体11の片面又は両面に形成された正極層12とを有していればよい。負極3は、負極集電体21と、負極集電体21の片面又は両面に形成された負極層22とを有していればよい。浸透促進部13は、セパレータ4を介して互いに対向した正極層12及び負極層22の少なくとも一方が有していればよい。
電極群1を収容する外装材としては、外装缶31に限定されるものではなく種々変形可能であり、例えば、樹脂層間に金属層を介在したラミネートフィルムを利用することができる。
【0062】
正極層12及び負極層22に含まれる結着剤としては、PVDFに限定されるものではなく種々変形可能である。結着剤としては、PVDFに加えて、変性アクリルゴム(2−エチルヘキシルアクリレートとアクリル酸およびアクリロニトリルの共重合体など)、フッ素系樹脂(ジエン系ゴムなど)、SBR(スチレンブタジエンゴム)などを単独、或いは2種以上混合して用いることができる。
【0063】
さらには、正極層12や負極層22の作製に用いる上記混合ペーストに、CMC(カルボキシメチルセルロース)などの増粘剤や、各種分散剤(界面活性剤、安定剤など)を必要に応じて添加することも可能である。
【0064】
非水電解液50の調製に用いる非水溶媒としては、EC、MECに加え、例えば、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、DMC(ジメチルカーボネート)、DEC(ジエチルカーボネート)、γ−BL(γ−ブチルラクトン)、1,2−ジメトキシメタン、1,2−ジクロロエタン、1,3−ジメトキシプロパン、4−メチル−2−ペンタノン、1,4−ジオキサン、アセトニトリル、プロピオニトリル、ブチロニトリル、ベンゾニトリル、スルホラン、3−メチル−スルホラン、テトラヒドロフラン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル等を単独、或いは2種以上の混合溶媒として使用することができる。
【0065】
さらに、非水電解液50の調製に用いる電解質としては、六フッ化リン酸リチウムに加え、例えば、過塩素酸リチウム、ホウフッ化リチウム、六フッ化砒素リチウム、トリフルオロメタスルホン酸リチウム等のリチウム塩を用いることができる。
この発明は上記非水電解液二次電池に限らず、各種非水電解液電池に適用することが可能である。
【符号の説明】
【0066】
1…電極群、2…正極、3…負極、4…セパレータ、11…正極集電体、12…正極層、13…浸透促進部、21…負極集電体、22…負極層、31…外装缶、50…非水電解液、S…長辺。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極集電体並びに正極活物質及び結着剤を含み前記正極集電体に形成された正極層を有した帯状の正極と、負極集電体並びに負極活物質及び結着剤を含み前記負極集電体に形成された負極層を有した帯状の負極と、前記正極層及び負極層間に介在され、前記正極及び負極とともに捲回されたセパレータと、を具備した電極群と、
前記電極群を収容する外装材と、
前記外装材内に収納された非水電解液と、を備え、
前記正極層及び負極層の少なくとも一方は、それぞれ表面側に両長辺を結ぶように形成され、他の領域の表面側より前記結着剤が少なく、前記他の領域の表面側より前記非水電解液の浸透を促進する複数の浸透促進部を有している非水電解液電池。
【請求項2】
前記複数の浸透促進部は、それぞれ筋状に形成されている請求項1に記載の非水電解液電池。
【請求項3】
前記複数の浸透促進部は、前記両長辺を最短距離で結ぶように形成されている請求項1に記載の非水電解液電池。
【請求項4】
前記複数の浸透促進部の幅は10μm乃至200μmであり、前記複数の浸透促進部の総面積は、前記複数の浸透促進部が形成された前記正極層又は負極層の総面積の20%乃至60%である請求項2に記載の非水電解液電池。
【請求項5】
前記複数の浸透促進部の深さは、前記複数の浸透促進部が形成された前記正極層又は負極層の厚みの5%乃至50%である請求項1に記載の非水電解液電池。
【請求項6】
前記正極層に含まれる結着剤及び前記負極層に含まれる結着剤は、ポリフッ化ビニリデンである請求項1に記載の非水電解液電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−171020(P2011−171020A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−31826(P2010−31826)
【出願日】平成22年2月16日(2010.2.16)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】