説明

非水電解質二次電池の正極の製造方法

【課題】正極活物質層表面に形成される無機粒子スラリー層を均一に形成することで、電池の安全性をより向上させることのできる非水電解質二次電池用正極の製造方法を提供すること。
【解決手段】正極集電体の表面に正極活物質層を形成する工程と、正極活物質層の表面に、無機粒子とカルボキシルメチルセルロースとを含有する無機粒子スラリーを塗布した後、乾燥させて多孔質無機粒子層を形成する工程と、を含む非水電解質二次電池用正極の製造方法であって、無機粒子スラリーには、エーテル化度が0.8以上、かつ、1%水溶液の粘度が800mPa・s以上のカルボキシルメチルセルロースを、無機粒子に対して0.2質量%以上1.0質量%以下の割合で含有させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質二次電池用正極の製造方法に関し、詳しくは、特に正極活物質層表面に形成される無機粒子層を均一に形成することで、電池の安全性をより向上させることのできる非水電解質二次電池用正極の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話、ノートパソコン等の移動情報端末の小型・軽量化が急速に進展しており、その駆動電源としての電池には更なる高容量化が要求されている。特に、リチウムイオン二次電池に代表される非水電解質二次電池は、高いエネルギー密度を有し、高容量であるため、移動情報端末の駆動電源として広く利用されている。このような移動情報端末は、動画再生機能、ゲーム機能といった機能の充実に伴って、更に消費電力が高まる傾向にあり、その駆動電源である非水電解質二次電池には長時間再生や出力改善等を目的として、更なる高容量化や高性能化が強く望まれている。
【0003】
こうした背景の中で、非水電解質二次電池の高容量化を図るために、様々な検討が行われている。例えば、一般的に非水電解質二次電池の正極材料にはコバルト酸リチウムが用いられているが、より高容量を有するニッケル酸リチウムを用いる検討や、電池の充電終止電圧を引き上げることによって高容量化を図ること等である。
【0004】
しかしながら、このような非水電解質二次電池の高容量化、高エネルギー密度化に伴い、電池の安全性が低下する問題が生じている。そこで、近年、電池の安全性向上(内部短絡抑制)を目的として、正極活物質層表面、あるいは負極活物質層表面に多孔質無機粒子層を形成する技術が公開されている。
【0005】
例えば、下記特許文献1には、負極活物質と水溶液系の負極活物質層用結着剤とを含む負極活物質層が負極集電体の表面に形成された非水電解質電池用負極において、上記負極活物質層の表面 には、無機微粒子と非水溶液系の多孔質層用結着剤とを含む多孔質無機粒子層が形成されており、かつ、上記負極活物質層用結着剤には、エーテル化度が0.5以上 0.75以下であるカルボキシルメチルセルロース(CMC)が含まれている非水電解質電池用負極が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−43641号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献1に開示されているように、非水電解質電池用負極の活物質層の表面に形成される多孔質無機粒子層は、酸化チタンや酸化アルミニウムなどの無機酸化物微粒子を溶媒及びバインダーと混合することによって調製された無機粒子スラリーを活物質層の表面に塗布することで形成されている。
【0008】
しかしながら、一般的にサブミクロンサイズの微粒子は、その形状や溶媒組成比によっては凝集しやすい性質を有している。この凝集性によって生じた凝集体を含むスラリーを活物質層の表面に塗布した場合、塗工面が不均一になり、活物質層の表面が一部露出してしまう状態となる。そうすると、この活物質層の露出部分は、導電性の高い異物(例えば集電体片など)が存在した場合には短絡箇所となるため、多孔質無機粒子層の果たすべき絶縁層としての機能が発揮されなくなる。
【0009】
更に、サブミクロンサイズの微粒子は、比表面積が高いことから、安定かつ工程流動性に優れた溶液・スラリーを作製することが困難である。それに起因して、サブミクロンサイズの微粒子を含む溶液・スラリーを活物質層上に塗布する場合には、多孔質無機粒子層が不均一に塗布されてしまうため、充分な安全性向上効果を得ることができないという課題があった。
【0010】
すなわち、本発明は上記の課題を解決するためになされたものであり、正極活物質層の表面に形成される無機粒子スラリー層を均一に形成することができるようにすることで、安全性をより向上させることのできる非水電解質二次電池用正極の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本発明の非水電解質二次電池用正極の製造方法は、
正極集電体の表面に正極活物質層を形成する工程と、
前記正極活物質層の表面に、無機粒子とCMCとバインダーとを含有する無機粒子スラリーを塗布した後、乾燥させて多孔質無機粒子層を形成する工程と、
を含む非水電解質二次電池用正極の製造方法であって、
前記無機粒子スラリーには、エーテル化度が0.8以上、かつ、1%水溶液の粘度が800mPa・s以上のCMCが、前記無機粒子に対して0.2質量%以上1.0質量%以下の割合で含有されていることを特徴とする。
【0012】
本発明の非水電解質二次電池用正極の製造方法によれば、多孔質無機粒子層を形成するために正極活物質層に塗布される無機粒子スラリーについて、凝集の起こり易さを示す沈降性及び、増粘が抑制されるため、均一な塗工が可能となる。従って、本発明の非水電解質二次電池用正極の製造方法によって得られる正極は、絶縁性が充分に確保され、該正極を備えた非水電解質二次電池は、内部短絡などが防止されるためにより安全性が向上したものとなる。なお、CMCのエーテル化度が1.4より大きいものは製造が困難であるので、エーテル値の上限は1.4となる。
【0013】
また、本発明の非水電解質二次電池用正極の製造方法においては、前記無機粒子としては、絶縁性無機酸化物が含まれることが好ましく、特に酸化チタン及び酸化アルミニウムの少なくとも1種を用いることが好ましい。
【0014】
無機粒子スラリーに含まれる無機粒子としては、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、酸化マグネシウム等の絶縁性無機酸化物を利用することが可能である。しかしながら、酸化チタン及び酸化アルミニウムは、リチウムとの反応性が低く、非水電解質二次電池内での安定性に優れ、さらにコスト的にも安価である。そのため、本発明の非水電解質二次電池用正極の製造方法によれば、絶縁性が充分に確保されて、電池の安全性をより向上させることのできる非水電解質二次電池用正極が安価に得られるようになる。
【0015】
また、本発明の非水電解質二次電池用正極の製造方法においては、前記無機粒子スラリーには、前記無機粒子に対して5質量%以下のバインダーが含まれていることが好ましい。
【0016】
バインダーの含有割合が無機粒子に対して5質量%を超えると、バインダーが密に充填されてしまうので、多孔質無機粒子層内における電解液の透過性が極端に悪化する可能性があり、正負電極間のリチウムイオンの移動が妨げられ、電池性能が大幅に低下することがある。
【0017】
また、本発明の非水電解質二次電池用正極の製造方法においては、前記多孔質無機粒子層の厚さは0.5〜3.0μmであることが好ましい。
【0018】
無機粒子は電極反応に関与しないため、多孔質無機粒子層の厚さが3.0μmを超えるとその分だけ充填し得る正極活物質量が減少するので、電池容量が低下するおそれがある。また、多孔質無機粒子層の厚さが0.5μm未満であると、多孔質無機粒子層の厚さが薄すぎて、多孔質無機粒子層を設けることの効果が小さくなることがある。
【0019】
また、本発明の非水電解質二次電池用正極の製造方法においては、前記正極活物質層の表面への前記無機粒子スラリーの塗布方法は、グラビアコート法であることが好ましい。
【0020】
グラビアコート法は特に薄膜形成に適しているため、無機粒子スラリーを正極活物質層の表面へ薄く均一に塗布することができる。そのため、本発明の非水電解質二次電池用正極の製造方法によれば、特に正極活物質層の表面に多孔質無機粒子層を形成しても、電池容量の低下が少なく、しかも安全性の高い非水電解質二次電池が得られるようになる。
【0021】
また、本発明の非水電解質二次電池用正極の製造方法においては、前記正極集電体の表面に前記正極活物質層を形成する工程は、正極活物質スラリーを前記正極集電体の表面に塗布した後、乾燥する工程を含み、前記正極活物質スラリーは非水溶媒で正極活物質を分散したものであり、前記無機粒子スラリーは水で前記無機粒子を分散したものとすることが好ましい。
【0022】
非水電解質二次電池用の正極活物質は、水分に触れると活性が低下する。そのため、正極活物質スラリーの溶媒を非水溶媒とすると、正極活物質層の特性劣化が抑制されるとともに、無機粒子スラリーの溶媒を水とすると、正極活物質層の表面に多孔質無機粒子層を形成する際に正極活物質層と多孔質無機粒子層の混和が抑制され、正極活物質層へのダメージを最小限に抑えることができるようになる。加えて、本発明の非水電解質二次電池によれば、多孔質無機粒子層が均一に形成されているために、表面の絶縁性が充分に確保された正極極板が得られるので、内部短絡等が抑制されて、より安全性の向上した非水電解質二次電池が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】図1Aは実施例4の、図1Bは比較例4の、それぞれ多孔質無機粒子層表面の走査型電子顕微鏡画像である。
【図2】各実施例及び比較例で各種電池特性の測定に用いた円筒形の非水電解質二次電池を縦方向に切断して示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明を実施するための形態を実施例及び比較例を用いて詳細に説明する。ただし、以下に示す実施例は、本発明の技術思想を具体化するための非水電解質二次電池を例示するものであって、本発明をこの実施例に特定することを意図するものではなく、本発明は特許請求の範囲に示した技術思想を逸脱することなく種々の変更を行ったものにも均しく適用し得るものである。
【0025】
[正極活物質の作製]
出発原料としてのリチウム源には炭酸リチウム(LiCO)を用い、コバルト源には、炭酸コバルト(CoCO)を550℃で焼成し、熱分解反応によって得られた四酸化三コバルト(Co)を用いた。これらをリチウムとコバルトのモル比が1:1となるように秤量してから乳鉢で混合し、この混合物を空気雰囲気下において850℃で20時間焼成することで得られたコバルト酸リチウム(LiCoO)を、乳鉢で平均粒径15μmとなるまで粉砕し、正極活物質としてのコバルト酸リチウム粉末を得た。
【0026】
[正極極板の作製]
上述のようにして得られた正極活物質としてのコバルト酸リチウム粉末が96質量部、導電剤としての炭素粉末が2質量部、結着剤としてのポリフッ化ビニリデン(PVDF)粉末が2質量部となるように混合し、これをN−メチル−2−ピロリドン(NMP)に溶解・分散させて正極活物質スラリーを調整した。
【0027】
このスラリーをドクターブレード法により、厚さが15μm、長さが625mmのアルミニウム製集電体の両面に均一に塗布部分が550mm(未塗布部分が75mm)となるように塗布した。その後乾燥機中を通過させて乾燥させることによりNMPを除去した後、厚さが175μmとなるようにロールプレス機を用いて圧縮することにより、各実施例及び比較例に用いる正極極板を作製した。
【0028】
[無機粒子スラリーの調製]
無機粒子としての酸化チタン又は酸化アルミニウムに対して、所定組成のCMCと、純水とを所定組成となるように混合し、混練機(PRIMIX社製TKハイピスミクス)にて混練した。得られたスラリーをビーズミル(浅田鉄工製ナノミル分散装置)にて分散させた。分散条件は、内容積:0.3L、ビーズ径:0.5φ、スリット:0.15mm、ビーズ充填量:90%、周速40Hz、処理流量:1.0kg/minとした。なお、酸化チタンとしては、実施例1〜6及び比較例1〜5の全てについて、CREL(商品名:石原産業株式会社製)を用いた。また、酸化アルミニウムとしては、実施例7ではAK3000、実施例8ではAKP20、実施例9ではAKP30(いずれも商品名:住友化学株式会社製)を用いた。
【0029】
その後、得られたスラリーに、無機粒子に対して3.75質量%のバインダー(アクリルゴム系バインダー)を加え、更に純水を加えて、最終的に全スラリー量に対する無機粒子の割合が25質量%となるようにし、再度上述の混練機にて混練することにより、各実施例及び比較例に用いる無機粒子スラリーを調製した。
【0030】
[無機粒子スラリーの各種特性の測定]
上記得られた各無機粒子スラリーについては、それぞれ下記の物理特性について測定を行った。
・分散状態:レーザー回折式粒度分布計(島津製作所製:SALD−2200)
・粘度:スパイラル粘度計(マルコム社製:PC−1LT)、測定条件;40rpm
・無機粒子の沈降性:スラリーを直径45mm、高さ80mmの円筒容器に封入して25℃で3日間静置した後、スラリーが分離してできた上澄み部分の厚みを測定して、沈降性の指標とした。
・安定性:TKハイビスミクス2P−1型にスラリーを投入し、20rpmで12時間連続撹拌して、撹拌前後でのスラリーの粘度の増加量を算出して、安定性の指標とした。
【0031】
なお、CMCについては、実施例1についてはダイセル化学工業株式会社製「1290」、実施例2及び3については同じく「1280」、実施例4及び7〜9については同じく「1380」、実施例5については同じく「1390」、実施例6については日本製紙ケミカル株式会社製「F800HC」を用いた。また、それぞれのCMCについて、予め粘度とエーテル化度を測定しておいた。粘度については、1%水溶液を調製して、25℃、60rpmにてB型粘度計で測定し、エーテル化度については、硝酸メタノール法を用いて測定した。
【0032】
[多孔質無機粒子層の形成]
正極極板の両面の正極活物質層の表面に、上述のようにして得られた無機粒子スラリーをグラビアコート法によって塗布し、多孔質無機粒子層を厚さ2.0μmとなるように形成した。なお、実施例4及び比較例5に用いる正極極板については、多孔質無機粒子層について走査型電子顕微鏡にて表面の状態を観察した。その結果を図1に示した。なお、図1Aが実施例4の場合であり、図1Bが比較例5の場合であり、何れも倍率は1500倍である。
【0033】
[負極極板の作製]
負極活物質としての黒鉛97.5質量部と、増粘剤としてのCMC1.0質量部と、バインダーとしてのスチレンブタジエンゴム(SBR)1.5質量部とを、水と混合させて負極活物質スラリーとした。この負極活物質スラリーをドクターブレード法により厚さ10μm、長さ650mmの銅製集電体の両面に、塗布部分が590mm(未塗布部分が60mm)となるように均一に塗布した。その後、乾燥機中を通過させて乾燥させた後、厚さが145μmとなるようにロールプレス機を用いて圧縮して、各実施例及び比較例に用いる負極極板を作製した。
【0034】
なお、充電時の黒鉛の電位はLi基準で約0.1Vであり、正極極板及び負極極板のそれぞれの活物質塗布量は、設計基準となる充電電圧において、正極極板と負極極板とが対向する部分での充電容量比(負極充電容量/正極充電容量)が1.0〜1.1となるように調整した。
【0035】
[非水電解液の調製]
エチレンカーボネート(EC)とメチルエチルカーボネート(MEC)を体積比で30:70の割合(1気圧、25℃換算)で混合した非水溶媒に、電解質塩としてのLiPFを1.0mol/Lの割合で溶解させることにより、各実施例及び比較例に用いる非水電解液を調製した。
【0036】
[電極体の作製]
上記正極極板にはアルミニウム製の正極集電タブを、上記負極極板にはニッケル製の負極集電タブをそれぞれ溶接した後、ポリエチレン製微多孔膜から成るセパレータを介して各集電タブが溶接された正極極板及び負極極板を巻回して、各実施例及び比較例に用いる渦巻状電極体を作製した。
【0037】
[電池の作製]
上述のようにして得られた電極体の上面及び下面に絶縁板を配置し、円筒形電池缶に挿入した。次いで、負極リード線を上記電池缶内壁に溶接し、正極リード線に封口板を溶接した。その後、Arを満たしたグローブボックス内にて、電池缶に上記得られた非水電解液を注液し、続いて封口板の周囲に絶縁ガスケットを配置して封口することで、各実施例及び比較例に係る非水電解質二次電池(直径18mm、高さ65mm、1It=2000mA)を作製した。
【0038】
なお、図2は、各実施例及び比較例に係る円筒形の非水電解質二次電池を縦方向に切断して示す斜視図である。この非水電解質二次電池10は、正極11と負極12とがセパレータ13を介して巻回された巻回電極体14が用いられており、この巻回電極体14の上下にそれぞれ絶縁板15及び16が配置され、この巻回電極体14が負極端子を兼ねるスチール製の円筒形の電池外装缶17の内部に収容されている。そして、負極12の集電タブ12aが外装缶17の内側底部に溶接されているとともに、正極11の集電タブ11aが安全装置が組み込まれた電流遮断封口体18の底板部に溶接され、この電池外装缶17の開口部から所定の非水電解液が注入された後、電流遮断封口体18によって電池外装缶17が密閉された構成を有している。
【0039】
[強制内部短絡試験]
以上のようにして各実施例及び比較例の電池をそれぞれ5個ずつ作製して、各電池を電池電圧が4.20Vとなるまで充電した後、電池外装缶を解体して電極体を取り出した。その後、セパレータと正極極板との間に2mm×2mmのL字型ニッケル片を挿入し、その部分を押し込むことで正負極を強制的に短絡させた。上記強制短絡試験は、環境温度を50℃とし、押し込みの圧力は1Nから徐々に上昇させて最大800Nとなるようにして行い、電極体が燃焼するかどうかで判定した。この強制短絡試験の結果を、測定された正極無機粒子スラリー及びCMCの各種物性とCMCの配合比と共に表1に纏めて示した。
【0040】
【表1】

【0041】
表1に示した結果から、多孔質無機粒子層を形成するための無機粒子スラリーの調製にあたっては、CMCの配合比と物性についての考慮が必要であることがわかる。すなわち、実施例4と比較例4及び5との比較より、無機粒子に対するCMCの配合比には最適範囲があり、無機粒子に対する質量比で0.1%より大きく1.2%より小さい範囲とすることで、充分な安全性向上効果が得られることが分かる。
【0042】
また、実施例1及び6と比較例3との比較より、CMCの配合比が上述の最適範囲内であっても、CMCのエーテル化度が低すぎる場合、すなわちCMCのエーテル化度が0.6以下の場合には、安全性向上効果が不充分となることが分かる。
【0043】
また、実施例2と比較例1及び2との比較により、CMCの配合比が上述の最適化範囲内であり、かつ、CMCのエーテル度が0.6を超えている場合であっても、CMCの粘度が低すぎる場合、すなわちCMCの粘度が250以下の場合には、安全性向上効果が不充分となることが分かる。
【0044】
従って、充分な安全性向上効果を得るためには、無機粒子スラリーを調製する際に、エーテル化度が0.6を超え、かつ、粘度が250より大きいCMCを選択し、無機粒子に対して、質量比で0.1〜1.2%の間とする必要があることが分かる。
【0045】
また、実施例3と比較例4の比較により、CMCの配合比については、1.0質量%以下であることがより好ましく、実施例6と比較例5との比較により、CMCの配合比については0.2%以上であることがより好ましく、実施例6と比較例3との比較により、CMCのエーテル化度については0.8以上であることがより好ましく、実施例3と比較例1との比較により、CMCの粘度については800mPa・s以上であることが好ましいことがわかる。
【0046】
上記のCMCの配合比及び物性の違いに基づく、安全性向上効果の差については、以下のように説明される。すなわち、多孔質無機粒子層を形成するための無機粒子スラリーの状態としては、無機粒子が充分に分散し、粒子同士の相互作用による構造ネットワークが適度に保たれていることが望ましい。エーテル化度の高いCMCは無機粒子に吸着し易く、粒子同士の凝集を抑制する効果があるため、スラリーの安定化に寄与する。
【0047】
一方、エーテル化度の低いCMCを用いた場合、無機粒子への吸着が少なく、バインダーを介した粒子同士の相互作用が強まり、必要以上に構造ネットワークを構成することで、粘度が増加してしまう。比較例3の場合がこの粘度が増加した状態に相当する。また、比較例5のように、CMCの添加量が少な過ぎる場合にも同様にして粘度が増加してしまう。このような増粘し易いスラリーは、スラリーとしての安定性に欠け、長期生産において均一な多孔質無機粒子層を形成することが困難となる。
【0048】
また、比較例1及び2に示すように、低粘度のCMCを用いて無機粒子スラリーを調製した場合、スラリーが分散状態を長時間に亘って維持することができないため、無機粒子がすぐに沈降してしまう。このような沈降しやすいスラリーを用いた場合、やはりスラリーとしての安定性に欠け、均一な多孔質無機粒子層を形成することが困難となる。
【0049】
また、比較例4のようにCMCが過剰に存在する場合には、スラリーの粘度が高過ぎることとなり、スラリーの沈降性が低くかつ安定性が充分であっても、スラリーを均一に分散させることが難しく、また塗工を均一に行うことが困難となる。
【0050】
また、実施例7〜9の結果より、無機粒子を酸化アルミニウムに代えても、酸化チタンの場合と同様に良好な多孔質無機粒子層が得られているため、強制内部短絡試験の結果も良好であることが分かる。
【0051】
なお、上記各実施例では、正極活物質層の表面に形成する多孔質無機粒子層の厚さを1.0μmとなるようにした例を示した。しかしながら、多孔質無機材料層は、電極反応に関与しないため、厚さが厚くなるとその分だけ充填し得る正極活物質量が減少するので、電池容量が低下してしやすくなる。また、厚さが薄すぎると多孔質無機材料層を設けることの効果が小さくなるため、多孔質無機粒子層の厚さは0.5〜3.0μmとするとよい。
【0052】
なお、上記各実施例では、正極活物質としてLiCoOを用いたが、従来から普通に使用されているリチウムイオンを可逆的に吸蔵・放出することが可能なリチウム遷移金属複合酸化物、すなわち、LiCoO、LiNiO、LiNixCo1−x(x=0.01〜0.99)、LiMnO、LiMn、LiCoMnNi(x+y+z=1)又はLiFePOなどを一種単独もしくは複数種を混合して用いることができる。
【0053】
更に、正極電位をリチウム基準で4.4〜4.6Vまで充電終止電圧を引き上げることによって高容量化を図る場合には、正極活物質として層状ニッケルマンガンコバルト酸リチウムと、マグネシウム、アルミニウム、ジルコニウム含有コバルト酸リチウムとの混合物を用いることができる。この層状ニッケルマンガンコバルト酸リチウムとしては、LiMnNiCoM1(0≦a≦1.2、0.1≦s≦0.5、0.1≦t≦0.5、M1は必須ではなく、添加する場合はMg、Zr、Al、Ti、Snから選択される少なくとも1種であり、u≧0、0.0001≦v≦0.03、s+t+u+v=1)と、コバルト酸リチウムとして、LiCo1−x−y−zZrMgM2(M2はAl、Ti、Snから選択される少なくとも1種であり、0≦b≦1.1、x≧0.0001、y≧0.0001、z≧0、0.0002≦x+y+z≦0.03)との混合物を用いることができる。また、層状ニッケルマンガンコバルト酸リチウムとコバルト酸リチウムの混合比は、質量比で層状ニッケルマンガンコバルト酸リチウム:コバルト酸リチウム=49:51〜10:90、好ましくは30:70〜20:80である。
【0054】
また、上記各実施例では、負極活物質として黒鉛を用いたが、リチウムイオンを可逆的に吸蔵・放出することが可能な天然黒鉛、人造黒鉛、コークスなどの炭素質物質、ケイ素、スズなどを含む合金や酸化物、これらの混合物などを用いることができる。
【0055】
また、非水電解質を構成する非水溶媒(有機溶媒)としては、カーボネート類、ラクトン類、エーテル類、エステル類などを使用することができ、これら溶媒の2種類以上を混合して用いることができるが、中でもカーボネート類が好ましい。
【0056】
具体例としては、実施例で用いたEC、MECの他、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、シクロペンタノン、スルホラン、3−メチルスルホラン、2,4−ジメチルスルホラン、3−メチル−1,3オキサゾリジン−2−オン、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ビニレンカーボネート(VC)、メチルプロピルカーボネート、メチルブチルカーボネート、エチルプロピルカーボネート、エチルブチルカーボネート、ジプロピルカーボネート、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、1,2−ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、1,3−ジオキソラン、酢酸メチル、酢酸エチル、1,4−ジオキサンなどを挙げることができる。
【0057】
また、本発明の非水電解質二次電池で使用する非水電解質の溶質としては、非水電解質二次電池において一般に溶質として用いられるリチウム塩を用いることができる。このようなリチウム塩としては、実施例で用いたLiPFの他に、LiBF、LiCFSO、LiN(CFSO、LiN(CSO、LiN(CFSO)(CSO)、LiC(CFSO、LiC(CSO、LiAsF、LiClO、Li10Cl10、Li12Cl12など及びそれらの混合物が例示される。前記非水溶媒に対する溶質の溶解量は、0.5〜2.0mol/Lとするのが好ましい。
【符号の説明】
【0058】
10…円筒形非水電解質二次電池 11…正極 11a…正極の集電タブ 12…負極 12a…負極の集電タブ 13…セパレータ 14…巻回電極体 17…電池外装缶 18…電流遮断封口体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極集電体の表面に正極活物質層を形成する工程と、
前記正極活物質層の表面に、無機粒子とカルボキシルメチルセルロースとバインダーとを含有する無機粒子スラリーを塗布した後、乾燥させて多孔質無機粒子層を形成する工程と、
を含む非水電解質二次電池用正極の製造方法であって、
前記無機粒子スラリーには、エーテル化度が0.8以上、かつ、1%水溶液の粘度が800mPa・s以上のカルボキシルメチルセルロースが、前記無機粒子に対して0.2質量%以上1.0質量%以下の割合で含有されていることを特徴とする非水電解質二次電池用正極の製造方法。
【請求項2】
前記無機粒子は絶縁性無機酸化物を含んでいることを特徴とする請求項1に記載の非水電解質二次電池用正極の製造方法。
【請求項3】
前記無機粒子は酸化チタン及び酸化アルミニウムの少なくとも1種を含んでいることを特徴とする請求項1に記載の非水電解質二次電池用正極の製造方法。
【請求項4】
前記無機粒子スラリーは前記無機粒子に対して5質量%以下のバインダーを含んでいることを特徴とする請求項1に記載の非水電解質二次電池用正極の製造方法。
【請求項5】
前記多孔質無機粒子層の厚さは0.5〜3.0μmであることを特徴とする請求項1に記載の非水電解質二次電池用正極の製造方法。
【請求項6】
前記正極活物質層の表面への前記無機粒子スラリーの塗布方法はグラビアコート法であることを特徴とする請求項1に記載の非水電解質二次電池用正極の製造方法。
【請求項7】
前記正極集電体の表面に前記正極活物質層を形成する工程は、正極活物質スラリーを前記正極集電体の表面に塗布した後、乾燥する工程を含み、
前記正極活物質スラリーは非水溶媒で正極活物質を分散したものであり、前記無機粒子スラリーは水で前記無機粒子を分散したものであることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の非水電解質二次電池用正極の製造方法。

【図2】
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【図1】
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【公開番号】特開2011−138621(P2011−138621A)
【公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−295866(P2009−295866)
【出願日】平成21年12月25日(2009.12.25)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【Fターム(参考)】