説明

非水電解質二次電池の製造方法

【課題】内部短絡が生じている電池を精度良く検出することができる、非水電解質二次電池の製造方法を提供する。
【解決手段】正極及び負極を有する電極体を形成する電極体形成工程と、電極体及び非水電解液を電池ケース内に収容した非水電解質二次電池を、所定期間放置することにより、電池を自己放電させる自己放電工程とを備える。電極体形成工程(ステップS1)では、正極の容量Aと負極の容量Bとの容量比(B/A)の値Xを1.7〜1.9の範囲内の値とした電極体を形成する。電池の放置を開始するときの電池のSOC(%)である放置開始SOCの値Yを、(50X−35)≦Y≦(50X−5)の関係式を満たす値として、自己放電工程(ステップS7)において電池を自己放電させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質二次電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ハイブリッド自動車やノート型パソコン、ビデオカムコーダなどのポータブル電子機器の駆動用電源として、リチウムイオン二次電池などの非水電解質二次電池が利用されている。
【0003】
ところで、非水電解質二次電池を製造する過程(例えば、電極体形成工程や組み付け工程)において、電池内部(電極体内)に、金属粉などの導電性異物が誤って混入してしまうことがある。このような電池を使用した場合、導電性異物由来のデンドライトが発生し、内部短絡が生じてしまう(セパレータによって電気的に絶縁されている正極と負極とが、デンドライトを通じて電気的に接続する)ことがある。
【0004】
そこで、特許文献1では、電池内部に導電性異物が混入しているか否かを検査する方法を提案している。具体的には、電池を組み立てた後、初期充電等を行い、その後、当該電池を、45℃以上の温度環境下で所定時間放置する。そして、放置期間中の電圧低下量を測定する。すなわち、放置開始時の電池電圧値から放置終了時の電池電圧値を差し引いた電圧低下量を求める。そして、求めた電圧低下量が予め設定された基準値よりも大きいときは、導電性異物が電池内に混入していると判定する。
【0005】
特許文献1には、上記方法は、以下の原理に基づいていると記載されている。正負極とセパレータとの間に導電性異物が存在している場合、リチウムイオン二次電池を45℃以上の環境温度下に所定時間放置すると、導電性異物から導電性結晶(デンドライト)の成長が進行する。このため、短時間で導電性異物がセパレータを貫通して内部短絡を引き起こすので、通常の電圧低下を超える電圧低下が発生する。従って、上記方法により、導電性異物が混入している電池(これによって内部短絡が発生した電池)を検出することができると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−158643号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、近年、正負極の容量比(B/A)を1.7以上とする非水電解質二次電池が開発されている。正負極の容量比(B/A)を1.7以上とすることで、電池の内部抵抗を低減することができる。
【0008】
ところが、正負極の容量比(B/A)を1.7以上とした場合、特許文献1の方法では、電池電圧の変化量(低下量)のバラツキが大きくなり、導電性異物が混入している電池(これによって内部短絡が発生した電池)を精度良く検出することができない虞があった。具体的には、正常電池(導電性異物が混入しておらず、内部短絡が生じない電池をいう)同士の間で、電池電圧の変化量(低下量)のバラツキが非常に大きくなり、内部短絡が生じているか否かを精度良く検出することができない虞があった。詳細には、正常電池のうち放置期間中の電圧低下量が大きな電池では、内部短絡が生じている電池(このうち放置期間中の電圧低下量が小さな電池)と同程度の電圧低下量となり、これらの電池の間
で電圧低下量(電池電圧差ΔVbc)に明確な違いが現れないことがあった。このため、内部短絡が生じている電池を精度良く検出することができない虞があった。
【0009】
本発明は、かかる問題点に鑑みてなされたものであって、内部短絡が生じている電池を精度良く検出することができる、非水電解質二次電池の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様は、正極及び負極を有する電極体を形成する電極体形成工程と、上記電極体及び非水電解液を電池ケース内に収容した非水電解質二次電池を、所定期間放置することにより、上記電池を自己放電させる自己放電工程と、を備える非水電解質二次電池の製造方法において、上記電極体形成工程では、上記正極の容量Aと上記負極の容量Bとの容量比(B/A)の値Xを1.7〜1.9の範囲内の値とした電極体を形成し、上記自己放電工程において上記電池の放置を開始するときの上記電池のSOC(%)である放置開始SOCの値Yを、(50X−35)≦Y≦(50X−5)の関係式を満たす値として、上記自己放電工程において上記電池を自己放電させる非水電解質二次電池の製造方法である。
【0011】
上述の製造方法は、電極体及び非水電解液を電池ケース内に収容した非水電解質二次電池を、所定期間放置することにより、当該電池を自己放電させる自己放電工程を備える。この自己放電工程では、例えば、電池の放置を開始するときの電池電圧値である放置開始電圧値Vbから、所定期間の放置を終えたときの電池電圧値である放置終了電圧値Vcを差し引いた電池電圧差ΔVbcが、所定の閾値以上である場合、当該電池に内部短絡が生じていると判定する。内部短絡が生じていると判定された電池は、例えば、不良品として取り除かれる(例えば、廃棄される)。
【0012】
また、上述の製造方法では、電極体形成工程において、正極の容量Aと負極の容量Bとの容量比(B/A)の値Xを1.7〜1.9の範囲内(1.7≦X≦1.9)とした電極体を作製する。正負極の容量比(B/A)の値Xを1.7以上とすることで、電池の内部抵抗を低減することができる。また、正負極の容量比(B/A)の値Xを1.9以下とすることで、電池容量の低下を抑制することができる。正負極の容量比(B/A)の値Xを1.9より大きくすると、SEI生成反応によって消費されるLi量が多くなり、電池容量が低下することが判明しているからである。
【0013】
ところで、従来(例えば、特許文献1)の方法により、正負極の容量比(B/A)の値Xを1.7〜1.9の範囲内とした電極体を備える電池を自己放電させた場合、正常電池(内部短絡が生じていない電池)であっても、自己放電期間中の電池電圧の変化量(低下量)が大きくなる傾向にあり、電池同士の間で電池電圧の変化量(低下量)の差が大きくなる傾向にあった。
【0014】
このため、従来の方法では、正負極の容量比(B/A)の値Xを1.7〜1.9の範囲内とした電極体を備える電池を自己放電させると、正常電池同士の間でも、電池電圧の変化量(低下量)のバラツキが大きくなり、内部短絡が生じているか否かを精度良く検出することができなかった。具体的には、正常電池のうち電池電圧変化量が大きな電池では、内部短絡が生じている電池(このうち電池電圧変化量が小さな電池)と同程度の電圧低下量となり、これらの電池の間で電圧低下量(電池電圧差ΔVbc)に明確な違いが現れないことがあった。このため、内部短絡が生じている電池を精度良く検出することができなかった。
【0015】
これに対し、上述の製造方法では、自己放電工程における電池の放置開始SOCの値Yを、(50X−35)≦Y≦(50X−5)の関係式を満たす値とする。すなわち、電池のSOCを(50X−35)≦Y≦(50X−5)の関係式を満たす値として、放置による自己放電を開始する。なお、放置開始SOCとは、自己放電工程において電池の放置(自己放電)を開始するときの電池のSOC(State Of Charge)の値である。例えば、電極体形成工程において、正負極容量比(B/A)の値Xを1.8(X=1.8)とした電極体を作製した場合、自己放電工程における電池の放置開始SOCの値Yは、55%(Y=50×1.8−35)以上85%(Y=50×1.8−5)以下の範囲内の値(例えば、80%)とする。
【0016】
正負極の容量比(B/A)の値Xを1.7〜1.9の範囲内とした電極体を備える電池について、放置開始SOCの値Yを上述のような範囲内の値にして自己放電を行うことで、正常電池において、自己放電期間中の電池電圧の変化量(低下量)を小さくすることができる。その結果、正常電池同士の間で、電池電圧の変化量(低下量)のバラツキを小さくすることができる。これにより、正常電池と内部短絡電池との間で、電圧低下量(電池電圧差ΔVbc)に明確な差が現れるようになる。これにより、内部短絡が生じている電池を精度良く検出することができる。
【0017】
さらに、上記の非水電解質二次電池の製造方法であって、前記電極体形成工程では、前記負極に含まれる負極活物質として、黒鉛系材料を用いる非水電解質二次電池の製造方法とすると良い。
【0018】
上述の製造方法では、電極体形成工程において、負極活物質として黒鉛系材料を用いて、電極体を形成する。負極活物質として黒鉛系材料を用いた電池(正負極容量比の値Xは1.7〜1.9)について、自己放電工程における放置開始SOCの値Yを、(50X−35)≦Y≦(50X−5)の関係式を満たす値とすることで、正常電池において、自己放電期間中の電池電圧の変化量(低下量)を十分に小さくすることができる。その結果、正常電池同士の間で、電池電圧の変化量(低下量)のバラツキを十分に小さくすることができるので、正常電池と内部短絡電池との間で、電圧低下量(電池電圧差ΔVbc)に明確な差が現れるようになる。これにより、内部短絡が生じている電池を精度良く検出することができる。
【0019】
なお、黒鉛系材料としては、例えば、黒鉛や、粒子が黒鉛と非晶質炭素とからなるもの(例えば、黒鉛の表面を非晶質炭素で被覆したもの)を挙げることができる。
【0020】
さらに、上記いずれかの非水電解質二次電池の製造方法であって、前記自己放電工程より前に、前記非水電解質二次電池を初期充電する初期充電工程と、上記初期充電工程を終えた上記電池を、所定の温度で一定時間安置してエージングするエージング工程と、を備える非水電解質二次電池の製造方法とすると良い。
【0021】
非水電解質二次電池について、自己放電工程に先立って、初期充電工程とエージング工程を行うことで、非水電解質二次電池を活性化させることができる。従って、自己放電工程において、活性化した非水電解質二次電池を自己放電させて、内部短絡が生じている電池を検出することができる。
【0022】
ところで、非水電解質二次電池を製造する過程(例えば、電極体形成工程や組み付け工程)において、電池内部(電極体内)に、金属粉などの導電性異物が誤って混入してしまうことがある。このような電池では、エージング工程において、金属粉などの導電性異物由来のデンドライトが発生し、内部短絡が生じる(セパレータによって電気的に絶縁されている正極板と負極板とが、デンドライトを通じて電気的に接続する)ことがある。
【0023】
これに対し、上述の非水電解質二次電池の製造方法では、エージング工程の後に、自己放電工程を備えている。しかも、自己放電工程では、前述のように、内部短絡が生じている電池を精度良く検出することができる。従って、上述の製造方法では、エージング工程において内部短絡が発生した電池を、適切に検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】実施形態にかかる非水電解質二次電池の斜視図である。
【図2】同非水電解質二次電池の正極の斜視図である。
【図3】同非水電解質二次電池の負極の斜視図である。
【図4】同負極の拡大断面図であり、図3のA−A断面図に相当する。
【図5】実施形態にかかる非水電解質二次電池の製造方法の流れを示すフローチャートである。
【図6】組み付け工程を終えた電池を押圧治具で挟んで拘束状態にした状態を示す斜視図である。
【図7】正負極容量比(B/A)と電池容量との関係、及び、正負極容量比(B/A)と電池内部抵抗との関係を示すグラフである。
【図8】正負極容量比(B/A)の値が異なる電池について、SOCと負極電位(vs.Li)との関係を示すグラフである。
【図9】正負極容量比(B/A)の値が異なる電池について、放置開始SOCと電池電圧差ΔVbcとの関係を示すグラフである。
【図10】放置開始SOCを85%とした自己放電試験における、正負極容量比(B/A)と電池電圧差ΔVbcのバラツキσとの関係を示すグラフである。
【図11】自己放電試験の結果を示す図である。
【図12】従来の方法による自己放電試験の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
まず、本実施形態の製造方法によって製造される非水電解質二次電池100について説明する。
非水電解質二次電池100は、図1に示すように、電極体110と、これを収容する電池ケース180とを備える、リチウムイオン二次電池である。電極体110は、正極130、負極120、及びセパレータ150を備えている。セパレータ150は、ポリエチレンからなり、正極130と負極120との間に介在して、これらを離間させている。このセパレータ150には、リチウムイオンを有する非水電解液160を含浸させている。
【0026】
電池ケース180は、アルミニウムからなり、直方体形状をなしている。この電池ケース180は、電池ケース本体181と封口蓋182を有する。このうち、電池ケース本体181は、有底矩形箱形状をなしている。なお、電池ケース本体181と電極体110との間には、樹脂からなり、箱状に折り曲げた絶縁フィルム(図示しない)を介在させている。この電池ケース180は、互いに背向する一対の幅広側面180b,180cを有している。幅広側面180bは、図1において正面側を向く面であり、幅広側面180cは、図1において裏側を向く面(幅広側面180bの裏側に位置する面)である。
【0027】
また、封口蓋182は、矩形板状であり、電池ケース本体181の開口を閉塞して、この電池ケース本体181に溶接されている。この封口蓋182には、矩形板状の安全弁197が封着されている。
【0028】
また、電極体110の正極130には、クランク状に屈曲した板状の正極接続部材191が溶接されている(図1参照)。さらに、負極120には、クランク状に屈曲した板状の負極接続部材192が溶接されている。正極接続部材191及び負極接続部材192のうち、それぞれの先端に位置する正極端子部191A及び負極端子部192Aは、封口蓋182を貫通して蓋表面182Aから突出している。なお、正極端子部191Aと封口蓋182との間、及び、負極端子部192Aと封口蓋182との間には、それぞれ、電気絶縁性の樹脂からなる絶縁部材195を介在させている。
【0029】
また、非水電解液160は、エチレンカーボネート(EC)とメチルエチルカーボネート(MEC)とジメチルカーボネート(DMC)とを、体積比で3:4:3に調整した混合有機溶媒に、溶質としてLiPF6を添加した非水電解液である。なお、非水電解液160中のLiPF6の濃度は、1mol/Lとしている。
【0030】
電極体110は、帯状の正極130及び負極120が、帯状のセパレータ150を介して扁平形状に捲回されてなる捲回型電極体である(図1参照)。詳細には、長手方向DAに延びる帯状の正極130、負極120、及びセパレータ150を、長手方向DAに捲回して、捲回型の電極体110を形成している(図1〜図4参照)。なお、この電極体110では、セパレータ150を介して、正極130の正極合材層131と負極120の負極合材層121とが対向している(図4参照)。
【0031】
正極130は、図2に示すように、長手方向DAに延びる帯状で、アルミニウム箔からなる正極集電部材138と、この正極集電部材138の両主面上に、それぞれ長手方向DAに延びる帯状に配置された2つの正極合材層131,131とを有している。正極合材層131は、正極活物質137と、アセチレンブラックからなる導電材と、PVdF(結着剤)とを、重量比88:10:2の割合で含んでいる。なお、正極活物質137として、LiNi1/3Mn1/3Co1/32を用いている。
【0032】
また、負極120は、図3に示すように、長手方向DAに延びる帯状で銅箔からなる負極集電部材128と、この負極集電部材128の両主面128F,128F上に、それぞれ長手方向DAに延びる帯状に配置された2つの負極合材層121,121とを有している。負極合材層121は、負極活物質127とSBR(スチレンブタジエンゴム)とCMCと(カルボキシメチルセルロース)を、重量比98:1:1の割合で含んでいる。
【0033】
なお、負極活物質127として、黒鉛系材料を用いている。具体的には、負極活物質の粒子が黒鉛と非晶質炭素とからなるもの(例えば、黒鉛の表面を非晶質炭素で被覆したもの)を用いている。また、負極合材層121の表面には、金属酸化物絶縁層129が設けられている。金属酸化物絶縁層129は、酸化アルミニウム(アルミナ)とポリフッ化ビニリデンとを重量比95:5の割合で含んでいる。
【0034】
負極合材層121は、図3及び図4(図3のA−A断面図)に示すように、セパレータ150を介して正極合材層131と対向する対向部122と、セパレータ150を介して対向する正極合材層131が存在しない非対向部123とからなる。具体的には、負極合材層121は、正極合材層131に比べて大きな面積を有しており、非対向部123が対向部122の周囲に位置する形態となっている。なお、負極合材層121における非対向部123と対向部122との境界の位置は、負極120、セパレータ150及び正極130を捲回して電極体110を形成したときに決まる。また、図4では、参考として、電極体110を形成したときの正極130及びセパレータ150の位置を、二点鎖線で示している。
【0035】
また、本実施形態では、正極130の容量Aと負極120の容量Bとの容量比(負極容量B/正極容量A)の値Xを、1.7〜1.9の範囲内の値としている。後述するように、正負極の容量比(B/A)の値Xを1.7以上とすることで、電池の内部抵抗を低減することができる。また、正負極の容量比(B/A)の値Xを1.9以下とすることで、電池容量の低下を抑制することができる。なお、正極容量Aと負極容量Bとの容量比(B
/A)は、正極合材層131と負極合材層121の対向部122との容量比である。この容量比は、負極合材層121(対向部122)の厚み(すなわち、後述する負極スラリの塗布量)の増減により調整している。
【0036】
次に、本実施形態にかかる非水電解質二次電池の製造方法について説明する。図5は、本実施形態にかかる非水電解質二次電池の製造方法の流れを示すフローチャートである。
まず、ステップS1(電極体形成工程)において、正極130及び負極120を有する電極体110を形成する。具体的には、まず、正極活物質137とアセチレンブラックとPVdF(結着剤)とを、重量比88:10:2の割合で混合し、これにNMP(溶媒)を混合して、正極スラリを作製した。次いで、この正極スラリを、アルミニウム箔からなる正極集電部材138の表面に塗工し、乾燥させた後、プレス加工を施した。これにより、正極130を得た。
【0037】
また、負極活物質127とSBR(スチレンブタジエンゴム)とCMCと(カルボキシメチルセルロース)とを、98:1:1(重量比)の割合で水中で混合して、負極スラリを作製した。次いで、この負極スラリを、銅箔からなる負極集電部材128の両主面128F上に塗工し、乾燥させた後、プレス加工を施した。これにより、負極120を得た。
【0038】
なお、負極活物質127は、例えば、次のようにして作製することができる。球状に成形した黒鉛とピッチ(石油ピッチ)とを混合し、これを焼成する。この焼成により、ピッチ(石油ピッチ)が非晶質炭素となる。その後、この焼成体を粉砕することで、負極活物質127(黒鉛の表面を非晶質炭素で被覆したもの)を得ることができる。
【0039】
なお、負極活物質127として、非晶質炭素の割合(非晶質炭素含有率)が、2.5〜7.1wt%の範囲内である負極活物質を用いるのが好ましい。また、負極活物質127として、負極活物質粒子のBET比表面積が、2.8〜5.2m2/gの範囲内である負極活物質を用いるのが好ましい。本実施形態では、BET比表面積の値として、公知のBET法(詳細には、N2ガス吸着法)により求められた比表面積の値を採用している。
【0040】
また、負極合材層121の表面には、金属酸化物絶縁層129を形成している。具体的には、酸化アルミニウム(アルミナ)とポリフッ化ビニリデンとを重量比95:5の割合で混合し、これに溶媒を混合してペーストにする。このペーストを負極合材層121の表面に塗布し、乾燥させることで、金属酸化物絶縁層129を形成することができる。なお、金属酸化物絶縁層129の厚みは、2〜8μmとするのが好ましい。
【0041】
また、本実施形態では、正極容量Aと負極容量Bとの容量比(負極容量B/正極容量A)の値を、1.7〜1.9の範囲内の値(例えば、1.8)としている。なお、正極容量Aと負極容量Bとの容量比(B/A)の値は、正極合材層131と負極合材層121の対向部122との容量比である。この容量比は、負極合材層121(対向部122)の厚み(すなわち、負極スラリの塗工量)の増減により調整する。
【0042】
その後、負極120と正極130との間に、セパレータ150を介在させて捲回し、電極体110を形成する。なお、負極120の負極合材層121における対向部122に、セパレータ150を介して正極130の正極合材層131が対向するように、セパレータ150、負極120、セパレータ150、正極130の順に重ねて捲回する(図4参照)。このようにして、捲回型の電極体110を形成した。
【0043】
次いで、ステップS2(組み付け工程)に進み、電池ケース180内に電極体110と非水電解液160とを収容した電池を作製する。
具体的には、負極120(負極集電部材128)に負極接続部材192を溶接し、正極130(正極集電部材138)に正極接続部材191を溶接する。次いで、負極接続部材192及び正極接続部材191を溶接した電極体110を、電池ケース本体181内に挿入した後、非水電解液160を注入する。その後、封口蓋182で電池ケース本体181の開口を閉塞した状態で、封口蓋182と電池ケース本体181とを溶接し、非水電解質二次電池の組み付けを完了する。
【0044】
次いで、ステップS3(電池拘束工程)に進み(図5参照)、上述の組み付け工程(ステップS2)において作製された非水電解質二次電池を、押圧治具30,40で挟んで拘束状態にする(図6参照)。具体的には、図6に示すように、電池ケース180の幅広側面180b,180cを押圧治具30,40で押圧するように、押圧治具30,40で非水電解質二次電池100を挟んで、非水電解質二次電池100を拘束状態にする。詳細には、電池ケース180の幅広側面180b側に配置した押圧治具30と、幅広側面180c側に配置した押圧治具40とを、円柱状のロッド51とナット53とを用いて締結することで、押圧治具30,40で非水電解質二次電池100を挟み、電池ケース180の幅広側面180b,180cを押圧治具30,40で押圧する。これにより、電池ケース180に対し、所定の荷重(例えば、400〜800kgf)をかけた状態にする。
【0045】
次に、ステップS4(初期充電工程)に進み(図5参照)、押圧治具30,40で拘束した状態(図6に示す状態)の非水電解質二次電池100について、初期充電を行う。詳細には、1C(5A)の定電流で、電池電圧値が4.1Vに至るまで充電し、その後、電池電圧値を4.1Vに保持しつつ充電を行い、充電電流値が0.1Aに低下した時点で充電を終了する。これにより、電池100をSOC100%にする。
【0046】
なお、1Cは、定格容量値(公称容量値)の容量を有する電池を定電流放電して、1時間で放電終了となる電流値である。非水電解質二次電池100の定格容量(公称容量)は5.0Ahであるので、1C=5.0Aとなる。
【0047】
次いで、ステップS5(エージング工程)に進み、初期充電(ステップS4の処理)を終えた拘束状態(図6に示す状態)の非水電解質二次電池100を、所定の温度(例えば、60℃)で、一定時間(例えば、20時間)安置してエージングする。
【0048】
ところで、ステップS1(電極体形成工程)や組み付け工程(ステップS2)において、電極体110内に金属粉(Cu粉など)などが誤って混入してしまうことがある。このような電池では、エージング工程において、金属粉由来のデンドライトが発生し、内部短絡が生じる(セパレータ150によって電気的に絶縁されている正極130と負極120とが、デンドライトを通じて電気的に接続する)ことがある。このため、後述するステップS7(自己放電工程)において、内部短絡が生じた電池を検出し、出荷しないようにしている(不良品として取り除く)。
【0049】
次に、ステップS6(SOC調整工程)に進み、エージング(ステップS5の処理)を終えた拘束状態(図6に示す状態)の非水電解質二次電池100について、SOCを所定範囲内の値に調整する。これにより、次のステップS7(自己放電工程)において電池100の放置による自己放電を開始するときのSOCの値(放置開始SOCの値)を、所定範囲内の値とすることができる。
【0050】
具体的には、非水電解質二次電池100の正負極容量比(B/A)の値をXとすると、ステップS6では、非水電解質二次電池100のSOCを、(50X−35)以上(50X−5)以下の範囲内の値に調整する。例えば、ステップS1(電極体形成工程)において、正負極容量比(B/A)の値Xを1.8(X=1.8)とした電極体110を作製した場合、非水電解質二次電池100のSOCを、55%(Y=50×1.8−35)以上85%(Y=50×1.8−5)以下の範囲内の値(例えば、80%)に調整する。
【0051】
ここで、正負極容量比(B/A)の値Xを1.8(X=1.8)とした場合において、SOCを80%に調整する場合について、具体的なSOC調整方法を説明する。まず、1C(5A)の定電流で、電池電圧値が3.833V(電池100のSOCが75%であるときの電池電圧値に相当する)に達するまで、電池100を放電する。次いで、電池電圧値が3.873V(電池100のSOCが80%であるときの電池電圧値に相当する)に至るまで充電し、その後、電池電圧値を3.873Vに保持しつつ充電を行い、充電電流値が0.1Aに低下した時点で充電を終了する。これにより、電池100をSOC80%にする。
【0052】
このようにして、次のステップS7(自己放電工程)における放置開始SOCの値Yを、(50X−35)≦Y≦(50X−5)の関係式を満たす値とすることができる。これにより、次のステップS7(自己放電工程)では、電池100について、そのSOCを(50X−35)≦Y≦(50X−5)の関係式を満たす値として、放置による自己放電を開始することができる。
【0053】
なお、放置開始SOCとは、ステップS7(自己放電工程)において電池100の放置(自己放電)を開始するときの電池100のSOC(State Of Charge)の値である。例えば、ステップS1(電極体形成工程)において、正負極容量比(B/A)の値Xを1.8(X=1.8)とした電極体110を作製した場合、ステップS7(自己放電工程)における電池の放置開始SOCの値Yは、55%(Y=50×1.8−35)以上85%(Y=50×1.8−5)以下の範囲内の値(例えば、80%)に調整される。
【0054】
また、電池100のSOCを放置開始SOCの値に調整したときの電池電圧値が、次のステップS7(自己放電工程)における放置開始電圧値Vbとなる。放置開始電圧値Vbとは、ステップS7(自己放電工程)において非水電解質二次電池100の放置を開始するときの電池電圧値である。例えば、放置開始SOCを80%に調整したときは、このときの電池電圧値=3.873Vが放置開始電圧値Vbとなる。
【0055】
次に、ステップS7(自己放電工程)に進み、SOC調整(ステップS6の処理)を終えた拘束状態(図6に示す状態)の非水電解質二次電池100を、25℃の温度環境下で、所定期間(例えば、5日間)放置することにより自己放電させる。
【0056】
ステップS7(自己放電工程)では、非水電解質二次電池100について所定期間の放置を終えたときの電池電圧値(放置終了電圧値Vc)を測定する。さらに、ステップS7(自己放電工程)では、放置開始電圧値Vbから放置終了電圧値Vcを差し引いた電池電圧差ΔVbc(=Vb−Vc)を算出し、電池電圧差ΔVbcが、所定の閾値Tbc以上であるか否かを判定する。電池電圧差ΔVbcが閾値Tbc以上である場合、当該電池100には内部短絡が生じていると判定する。
【0057】
内部短絡が生じている電池では、内部短絡が生じていない電池(正常な電池)に比べて、放置による自己放電量が大きくなるので、電池電圧値が小さくなり、放置前後の電池電圧差ΔVbcも大きくなる。従って、放置前後の電池電圧差ΔVbcに基づいて、電池に内部短絡が生じているか否かを判断することできる。そこで、ステップS7(自己放電工程)では、電池電圧差ΔVbcが所定の閾値Tbc以上であるか否かによって、非水電解質二次電池100に内部短絡が生じているか否かを判定する。内部短絡が生じていると判定された電池は、不良品として取り除かれる(例えば、廃棄される)。
【0058】
なお、閾値Tbcは、例えば、予め、内部短絡が生じている電池と生じていない電池とについて、それぞれの電池電圧差ΔVbcを調査しておき、両電池の電池電圧差ΔVbcの間の値とすれば良い。
【0059】
ところで、従来(例えば特許文献1)の方法により、正負極の容量比(B/A)の値Xを1.7〜1.9の範囲内とした電極体を備える電池を自己放電させた場合、正常電池(内部短絡が生じていない電池)であっても、自己放電期間中の電池電圧の変化量(低下量)が大きくなる傾向にあり、電池同士の間で電池電圧の変化量(低下量)の差が大きくなる傾向にあった。このため、正負極の容量比(B/A)の値Xを1.7〜1.9の範囲内とした電極体を備える電池を自己放電させると、正常電池同士の間でも、電池電圧の変化量(低下量)のバラツキが大きくなり、内部短絡が生じているか否かを精度良く検出することができなかった。具体的には、正常電池のうち電池電圧変化量が大きな電池では、内部短絡が生じている電池(このうち電池電圧変化量が小さな電池)と同程度の電圧低下量となり、これらの電池の間で電圧低下量(電池電圧差ΔVbc)に明確な違いが現れないことがあった。このため、内部短絡が生じている電池を精度良く検出することができなかった。
【0060】
これに対し、本実施形態では、上述のように、自己放電工程における電池の放置開始SOCの値Yを、(50X−35)≦Y≦(50X−5)の関係式を満たす値とする。すなわち、電池100のSOCを(50X−35)≦Y≦(50X−5)の関係式を満たす値として、放置による自己放電を開始する。後述するように、正負極の容量比(B/A)の値Xを1.7〜1.9の範囲内とした電極体110を備える電池100について、放置開始SOCの値Yを上述のような範囲内の値にして自己放電を行うことで、正常電池において、自己放電期間中の電池電圧の変化量(低下量)を小さくすることができる。その結果、正常電池同士の間で、電池電圧の変化量(低下量)のバラツキを小さくすることができる。これにより、正常電池と内部短絡電池との間で、電圧低下量(電池電圧差ΔVbc)に明確な差が現れるようになる。これにより、内部短絡が生じている電池を精度良く検出することができる。
【0061】
次に、ステップS8(容量測定工程)に進み、ステップS7において内部短絡が生じていない(正常である)と判定された非水電解質二次電池100について、25℃の温度環境下で電池容量を測定する。
【0062】
この容量測定工程(ステップS8)は、ステップS2(組み付け工程)における正極合材層131及び負極合材層121の塗工量が適切であるか否かを確認するための工程である。具体的には、電極合材層(正極合材層131及び負極合材層121)の塗工量が基準値から大きく外れている(過剰または過少である)場合、電池容量が基準値から大きく外れる(許容範囲から外れる)ことになる。従って、容量測定工程(ステップS8)では、電池容量の測定値が、許容範囲内であるか否かを判定し、測定値が許容範囲外である場合、当該電池は電極合材層(正極合材層131及び負極合材層121)の塗工不良(塗工量が不適切)であると判定する。
【0063】
具体的には、まず、電池100について、1C(5A)の定電流で、電池電圧値が4.1V(SOC100%)に至るまで充電し、その後、電池電圧値を4.1Vに保持しつつ充電を行い、充電電流値が0.1Aに低下した時点で充電を終了する。次いで、電池100について、1Cの定電流で電池電圧値が3.0V(SOC0%)に至るまで放電する。このときの放電電気量Q1を、電池容量として測定する。放電電気量Q1(電池容量)が許容範囲から外れている電池は、塗工不良と判定され、不良品として取り除かれる(例えば、廃棄される)。
【0064】
なお、ステップS8(容量測定工程)でも、非水電解質二次電池100は、押圧治具30,40で拘束した状態(図6に示す状態)のままである。
【0065】
次いで、ステップS9(内部抵抗測定工程)に進み、容量測定工程(ステップS8)を終えた拘束状態(図6に示す状態)の非水電解質二次電池100について、その内部抵抗(IV抵抗)を測定する。具体的には、非水電解質二次電池100を充電して、その電池電圧値を3.6V(SOC40%)にする。その後、この非水電解質二次電池100を、20Aの定電流で4秒間だけ放電させ、放電終了時(終了した瞬間)の電池電圧値Vgを測定する。次いで、放電により変化した電池電圧変化量ΔV(=3.6−Vg)を電流値20Aで除した値(=ΔV/20)を、IV抵抗値(内部抵抗値)として取得する。IV抵抗値が許容範囲から外れている電池は、不良品として取り除かれる(例えば、廃棄される)。
【0066】
その後、ステップSA(拘束解除工程)に進み、内部抵抗測定工程(ステップS9)を終えた非水電解質二次電池100の拘束状態を解除する。具体的には、非水電解質二次電池100を挟んで押圧していた押圧治具30,40を取り外す。このようにして、非水電解質二次電池100が完成する。
なお、本実施形態の非水電解質二次電池100は、例えば、ハイブリッド自動車や電気自動車の駆動用電源として使用される。
【0067】
(内部抵抗測定試験)
正負極容量比(B/A)と電池内部抵抗との関係を調査するため、内部抵抗測定試験を行った。具体的には、まず、前述のステップS1〜S5の処理を行って、正負極容量比(B/A)の異なるサンプル電池を、10個ずつ用意する。具体的には、ステップS1において、正負極容量比(B/A)を、1.2、1.4、1.6、1.7、1.8、1.9、2.0と異ならせた7種類の電極体を、10個ずつ作製した。
【0068】
なお、これらのサンプル電池は、いずれも、内部短絡が生じていない正常電池であることを確認している。さらに、これらのサンプル電池は、いずれも、塗工不良でない電池(電極合材層が適量塗工された電池)であることを確認している。
【0069】
次いで、前述のステップS9と同様にして、それぞれのサンプル電池について、内部抵抗(IV抵抗)を測定する。具体的には、それぞれのサンプル電池を充電して、その電池電圧値を3.6V(SOC40%)にする。その後、それぞれのサンプル電池を、20Aの定電流で4秒間だけ放電させ、放電終了時(終了した瞬間)の電池電圧値Vgを測定する。次いで、放電により変化した電池電圧変化量ΔV(=3.6−Vg)を電流値20Aで除した値(=ΔV/20)を、IV抵抗値(内部抵抗値)として取得した。その結果を、図7に示す。なお、図7では、各正負極容量比にかかる内部抵抗値として、10個の電池の測定平均値を示している。
【0070】
図7より、正負極の容量比(B/A)の値Xを1.7以上とすることで、電池の内部抵抗を小さくすることができるといえる。
【0071】
(電池容量測定試験)
また、正負極容量比(B/A)と電池容量との関係を調査するため、電池容量測定試験を行った。
具体的には、上述の内部抵抗測定試験で用いたサンプル電池を用意した。次いで、前述のステップS8と同様にして、それぞれのサンプル電池について電池容量を測定した。具体的には、まず、それぞれのサンプル電池について、1C(5A)の定電流で、電池電圧値が4.1V(SOC100%)に至るまで充電し、その後、電池電圧値を4.1Vに保持しつつ充電を行い、充電電流値が0.1Aに低下した時点で充電を終了する。次いで、それぞれのサンプル電池について、1Cの定電流で電池電圧値が3.0V(SOC0%)に至るまで放電する。このときの放電電気量Q1を、電池容量として測定した。その結果を、図7に示す。なお、図7では、各正負極容量比にかかる電池容量として、10個の電池の測定平均値を示している。
【0072】
図7に示すように、正負極の容量比(B/A)の値が1.2〜1.9の範囲では、電池容量に大きな差が生じないことがわかる。ところが、正負極の容量比(B/A)を1.9より大きくすると、電池容量が急激に小さくなることがわかる。正負極の容量比(B/A)を1.9より大きくすると、SEI生成反応によって消費されるLi量が多くなり、その結果、電池容量が小さくなると考えられる。この結果より、正負極の容量比(B/A)の値Xを1.9以下とすることで、電池容量の低下を抑制することができるといえる。
【0073】
以上の結果より、正極容量Aと負極容量Bとの容量比(負極容量B/正極容量A)の値を、1.7〜1.9の範囲内の値とすることで、電池の内部抵抗を小さくすることができ、且つ、電池容量の低下を抑制することができるといえる。
【0074】
(自己放電試験1)
また、正負極容量比(B/A)と自己放電期間中における電池電圧変化量(電池電圧差ΔVbc)との関係を調査するため、自己放電試験を行った。
具体的には、まず、前述のステップS1〜S5の処理を行って、正負極容量比(B/A)の異なるサンプル電池を、10個ずつ用意する。具体的には、ステップS1において、正負極容量比(B/A)を、1.2、1.4、1.6、1.7、1.8、1.9、2.0と異ならせた7種類の電極体を、10個ずつ作製した。
【0075】
なお、これらのサンプル電池は、いずれも、内部短絡が生じていない正常電池であることを確認している。さらに、これらのサンプル電池は、いずれも、塗工不良でない電池(電極合材層が適量塗工された電池)であることを確認している。
【0076】
次いで、従来の方法で、それぞれのサンプル電池を自己放電させた。具体的には、ステップS1〜S5の処理を行った後、SOC調整(ステップS6の処理)を行うことなく、それぞれのサンプル電池を、25℃の温度環境下で、所定期間(具体的には、5日間)放置することにより自己放電させた。
【0077】
なお、この自己放電試験を行うサンプル電池は、ステップS4(初期充電工程)において、それぞれのサンプル電池をSOC100%に調整した後、ステップS5(エージング工程)の処理のみを行っている。従って、放置(自己放電)を開始するときのそれぞれのサンプル電池の電池電圧値(放置開始電圧値Vb)は、いずれも、SOC100%に対応する電池電圧値(4.1V)またはこれに近い電池電圧値となっている。
【0078】
この自己放電試験では、放置(自己放電)を開始するときの電池電圧値(放置開始電圧値Vb)と、所定期間(5日間)の放置を終えたときの電池電圧値(放置終了電圧値Vc)を測定した。さらに、放置開始電圧値Vbから放置終了電圧値Vcを差し引いた電池電圧差ΔVbc(=Vb−Vc)を算出した。また、各正負極容量比にかかるサンプル電池について、電池電圧差ΔVbcのバラツキσ(標準偏差)を算出した。その結果を図12に示す。
【0079】
なお、図12では、各正負極容量比にかかる電池電圧差ΔVbcとして、10個の電池の平均値を示している。また、図12では、正負極容量比(B/A)を1.2とした電池のデータを●(黒丸)印で、正負極容量比(B/A)を1.4とした電池のデータを▲(黒三角)印で、正負極容量比(B/A)を1.6とした電池のデータを○(白丸)印で、正負極容量比(B/A)を1.7とした電池のデータを△(白三角)印で、正負極容量比(B/A)を1.8とした電池のデータを□(白四角)印で、正負極容量比(B/A)を1.9とした電池のデータを◇(白菱形)印で、正負極容量比(B/A)を2.0とした電池のデータを×(バツ)印で示している。
【0080】
図12に示すように、正負極容量比(B/A)を1.2〜1.6とした電池(内部短絡が生じていない正常電池)では、電池電圧差ΔVbcが小さくなった。具体的には、5日間の放置(自己放電)による電池電圧差ΔVbcが、いずれも5mV以下であった。このため、電池電圧差ΔVbcのバラツキσ(標準偏差)も極めて小さくなった。従って、従来の方法でも、正常電池と内部短絡電池との間で、電池電圧差ΔVbcに明確な差が現れることになり、内部短絡が生じている電池を精度良く検出することが可能となる。
【0081】
一方、正負極容量比(B/A)を1.7以上とした電池(内部短絡が生じていない正常電池)では、正負極容量比(B/A)を1.2〜1.6とした電池(内部短絡が生じていない正常電池)に比べて、電池電圧差ΔVbcが大きくなった。具体的には、5日間の放置(自己放電)による電池電圧差ΔVbcが、いずれも5mVより大きくなった。特に、正負極容量比(B/A)を1.8以上とした電池(内部短絡が生じていない正常電池)では、電池電圧差ΔVbcが30mV以上と大きくなった。このため、電池電圧差ΔVbcのバラツキσ(標準偏差)が大きくなった。
【0082】
従って、正負極容量比(B/A)を1.7以上とした電池については、従来の方法では、内部短絡が生じているか否かを精度良く検出することができない虞があった。具体的には、正常電池のうち電池電圧変化量が大きな電池では、内部短絡が生じている電池(このうち電池電圧変化量が小さな電池)と同程度の電圧低下量となり、これらの電池の間で電圧低下量(電池電圧差ΔVbc)に明確な違いが現れない虞があった。このため、内部短絡が生じている電池を精度良く検出することができない虞があった。
【0083】
(自己放電試験2)
さらに、別途、自己放電試験を行った。具体的には、前述のステップS1〜S5の処理を行って、正負極容量比(B/A)の異なるサンプル電池を、10個ずつ用意した。具体的には、ステップS1において、正負極容量比(B/A)を、1.6、1.7、1.8、1.9、2.0と異ならせた5種類の電極体を、70個ずつ作製した。そして、各容量比(B/A)の電池について、10個ずつの7つのグループに分け、グループごとに放置開始SOCを異ならせて、25℃の温度環境下で、所定期間(具体的には、5日間)放置することにより自己放電させた。具体的には、グループごとに、放置開始SOCを、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%と異ならせて、自己放電を行った。
【0084】
なお、これらのサンプル電池は、いずれも、内部短絡が生じていない正常電池であることを確認している。さらに、これらのサンプル電池は、いずれも、塗工不良でない電池(電極合材層が適量塗工された電池)であることを確認している。
【0085】
この自己放電試験でも、放置(自己放電)を開始するときの電池電圧値(放置開始電圧値Vb)と、所定期間(5日間)の放置を終えたときの電池電圧値(放置終了電圧値Vc)を測定した。さらに、放置開始電圧値Vbから放置終了電圧値Vcを差し引いた電池電圧差ΔVbc(=Vb−Vc)を算出した。さらに、放置開始SOCを85%とした場合について、電池電圧差ΔVbcのバラツキσ(標準偏差)を算出した。
これらの試験結果を図9〜図11に示す。なお、図9〜図11には、先の自己放電試験1の結果を、放置開始SOCの値を100%としたデータとして記載している。
【0086】
図9は、正負極容量比(B/A)の値が異なる各電池について、放置開始SOCと電池電圧差ΔVbcとの関係を示したグラフである。但し、図9では、放置開始SOCを65%以上とした試験結果を示している。図9では、正負極容量比(B/A)を1.6とした電池のデータを○(白丸)印で、正負極容量比(B/A)を1.7とした電池のデータを△(白三角)印で、正負極容量比(B/A)を1.8とした電池のデータを□(白四角)印で、正負極容量比(B/A)を1.9とした電池のデータを◇(白菱形)印で、正負極容量比(B/A)を2.0とした電池のデータを×(バツ)印で示している。さらに、図9では、各放置開始SOCにかかる電池電圧差ΔVbcの値として、10個の電池の平均値を示している。
【0087】
また、図10は、放置開始SOCを85%とした自己放電試験における、正負極容量比(B/A)と電池電圧差ΔVbcのバラツキσ(標準偏差)との関係を示すグラフである。
【0088】
また、図11は、自己放電試験の結果を示す図であり、電池電圧差ΔVbc(10個の電池の平均値)が5mV以下となったものを○印で、電池電圧差ΔVbc(平均値)が5mVより大きくなったものを×印で示している。正常電池(内部短絡が生じていない電池)において、電池電圧差ΔVbcが5mV以下と小さくなったもの(図11において○印で示す)は、電池電圧差ΔVbcのバラツキσ(標準偏差)も小さくなるといえる。このため、正常電池と内部短絡電池との間で、電池電圧差ΔVbcに明確な差が現れることになり、内部短絡が生じている電池を精度良く検出することができるといえる。
【0089】
ここで、試験結果について検討する。
まず、正負極容量比(B/A)を1.6とした電池について検討する。図11に示すように、正負極容量比(B/A)を1.6とした電池(正常電池)では、放置開始SOCを45%〜75%の範囲内の値または100%とした場合に、電池電圧差ΔVbcが5mV以下と小さくなった。一方、放置開始SOCを40%または80〜95%の範囲内の値とした場合には、電池電圧差ΔVbcが5mVより大きくなった。例えば、放置開始SOCを85%とした場合は、電池電圧差ΔVbcの平均値が11mV程度と大きくなり(図9参照)、その結果、電池電圧差ΔVbcのバラツキσも0.5以上と大きくなった(図10参照)。この結果より、正負極容量比(B/A)を1.6とした電池については、放置開始SOCを45%〜75%の範囲内の値または100%とすることで、正常電池と内部短絡電池との間で、電池電圧差ΔVbcに明確な差が現れることになり、内部短絡が生じている電池を精度良く検出することができるといえる。
【0090】
次に、正負極容量比(B/A)を1.7とした電池について検討する。図11に示すように、正負極容量比(B/A)を1.7とした電池(正常電池)では、放置開始SOCを50%〜80%の範囲内の値とした場合には、電池電圧差ΔVbcが5mV以下と小さくなった。一方、放置開始SOCを40〜45%または85〜100%の範囲内の値とした場合には、電池電圧差ΔVbcが5mVより大きくなった。例えば、放置開始SOCを85%とした場合は、電池電圧差ΔVbcの平均値が13mV程度と大きくなり(図9参照)、その結果、電池電圧差ΔVbcのバラツキσも0.5以上と大きくなった(図10参照)。この結果より、正負極容量比(B/A)を1.7とした電池については、放置開始SOCを50%〜80%の範囲内の値とすることで、正常電池と内部短絡電池との間で、電池電圧差ΔVbcに明確な差が現れることになり、内部短絡が生じている電池を精度良く検出することができるといえる。
【0091】
次に、正負極容量比(B/A)を1.8とした電池について検討する。図11に示すように、正負極容量比(B/A)を1.8とした電池(正常電池)では、放置開始SOCを55%〜85%の範囲内の値とした場合には、電池電圧差ΔVbcが5mV以下と小さくなった。例えば、放置開始SOCを85%とした場合は、電池電圧差ΔVbcの平均値が3mV程度と小さくなり(図9参照)、その結果、電池電圧差ΔVbcのバラツキσも0.05以下と小さくなった(図10参照)。一方、放置開始SOCを40〜50%または90〜100%の範囲内の値とした場合には、電池電圧差ΔVbcが5mVより大きくなった。この結果より、正負極容量比(B/A)を1.8とした電池については、放置開始SOCを55%〜85%の範囲内の値とすることで、正常電池と内部短絡電池との間で、電池電圧差ΔVbcに明確な差が現れることになり、内部短絡が生じている電池を精度良く検出することができるといえる。
【0092】
次に、正負極容量比(B/A)を1.9とした電池について検討する。図11に示すように、正負極容量比(B/A)を1.9とした電池(正常電池)では、放置開始SOCを60%〜90%の範囲内の値とした場合には、電池電圧差ΔVbcが5mV以下と小さくなった。例えば、放置開始SOCを85%とした場合は、電池電圧差ΔVbcの平均値が3mV程度と小さくなり(図9参照)、その結果、電池電圧差ΔVbcのバラツキσも0.05以下と小さくなった(図10参照)。一方、放置開始SOCを40〜55%または95〜100%の範囲内の値とした場合には、電池電圧差ΔVbcが5mVより大きくなった。この結果より、正負極容量比(B/A)を1.9とした電池については、放置開始SOCを60%〜90%の範囲内の値とすることで、正常電池と内部短絡電池との間で、電池電圧差ΔVbcに明確な差が現れることになり、内部短絡が生じている電池を精度良く検出することができるといえる。
【0093】
次に、正負極容量比(B/A)を2.0とした電池について検討する。図11に示すように、正負極容量比(B/A)を2.0とした電池(正常電池)では、放置開始SOCを65%〜95%の範囲内の値とした場合には、電池電圧差ΔVbcが5mV以下と小さくなった。例えば、放置開始SOCを85%とした場合は、電池電圧差ΔVbcの平均値が3mV程度と小さくなり(図9参照)、その結果、電池電圧差ΔVbcのバラツキσも0.05以下と小さくなった(図10参照)。一方、放置開始SOCを40〜60%の範囲内の値または100%とした場合には、電池電圧差ΔVbcが5mVより大きくなった。この結果より、正負極容量比(B/A)を2.0とした電池については、放置開始SOCを65%〜95%の範囲内の値とすることで、正常電池と内部短絡電池との間で、電池電圧差ΔVbcに明確な差が現れることになり、内部短絡が生じている電池を精度良く検出することができるといえる。
【0094】
ところで、本実施形態では、正負極容量比(B/A)の値を、1.7〜1.9の範囲内の値とする。これにより、電池の内部抵抗を小さくすることができ、且つ、電池容量の低下を抑制することができる。そこで、正負極容量比(B/A)の値を1.7〜1.9の範囲内の値とした場合について、放置開始SOCの好ましい範囲を検討する。
【0095】
前述のように、正負極容量比(B/A)を1.7とした電池については、放置開始SOCを50%〜80%の範囲内の値とすることで、内部短絡が生じている電池を精度良く検出することができるといえる。従って、放置開始SOCの好ましい範囲は、50%〜80%の範囲内である。
【0096】
また、正負極容量比(B/A)を1.8とした電池については、放置開始SOCを55%〜85%の範囲内の値とすることで、内部短絡が生じている電池を精度良く検出することができるといえる。従って、放置開始SOCの好ましい範囲は、55%〜85%の範囲内である。
【0097】
また、正負極容量比(B/A)を1.9とした電池については、放置開始SOCを60%〜90%の範囲内の値とすることで、内部短絡が生じている電池を精度良く検出す
ることができるといえる。従って、放置開始SOCの好ましい範囲は、60%〜90%の範囲内である。
【0098】
以上の結果をまとめると、正負極容量比(B/A)の値を1.7〜1.9の範囲内の値とした場合、放置開始SOCの値Yは、図11において、Y=50X−35で表される直線とY=50X−5で表される直線とによって挟まれる領域内の値とするのが好ましいといえる。なお、Xの値は、正負極容量比(B/A)の値である。
従って、正負極容量比(B/A)の値を1.7〜1.9の範囲内の値とした場合、放置開始SOCの値Yは、以下の関係式(1)を満たす値とするのが好ましいといえる。
(50X−35)≦Y≦(50X−5)・・・(1)
【0099】
換言すれば、横軸に正負極容量比(B/A)の値X、縦軸に放置開始SOCの値Yとした座標系において、(1.7,50)、(1.7,80)、(1.9,90)、(1.9,60)の4点で囲まれる四角領域内(図11においてドットのハッチングで示す四角領域内)の値となるように、正負極容量比(B/A)の値Xと放置開始SOCの値Yを設定して、電池を製造するのが好ましいといえる。
【0100】
ところで、本実施形態では、負極活物質127として、黒鉛系材料を用いている。具体的には、負極活物質の粒子が黒鉛と非晶質炭素とからなるもの(例えば、黒鉛の表面を非晶質炭素で被覆したもの)を用いている。ここで、このような負極活物質127を用いた電池100の負極の電位曲線を、図8に示す。
【0101】
図8は、正負極容量比(B/A)の値が異なる電池について、SOCと負極電位(vs.Li)との関係を示すグラフ(負極電位曲線)である。なお、図8では、正負極容量比(B/A)の値を1.7とした電池の負極電位曲線を二点鎖線で、正負極容量比(B/A)の値を1.8とした電池の負極電位曲線を一点鎖線で、正負極容量比(B/A)の値を1.9とした電池の負極電位曲線を破線で示している。また、参考として、正負極容量比(B/A)の値を1.6とした電池の負極電位曲線を太実線で、正負極容量比(B/A)の値を2.0とした電池の負極電位曲線を細実線で示している。
【0102】
なお、負極電位は、次のようにして測定した。まず、先の自己放電試験で用いた電池を用意し、これを基に、作用極を正極、対極を負極、参照極をリチウム金属とした3極式セルを作製する。次いで、正極と負極との間の電圧が4.1Vになるまで充電し、その後、0.02Cの電流値で、正負極間電圧が4.1Vから3.0Vに低下するまで放電し、放電中、正負極間の電圧と負極参照極間の電圧(これが負極電位である)と放電量を測定する。このときの放電量を電池容量(SOC100%の電気容量)とし、正負極間電圧値が4.1Vであるときを電池SOC100%、3.0Vであるときを電池SOC0%として、電池SOCと負極電位との相関を負極の電位曲線として作成した。これを図8に示している。
【0103】
図8に示すように、正負極容量比(B/A)の値を1.7とした電池では、SOC50%〜80%の範囲内において、負極電位の変動が小さくなる。負極電位の変動が小さい範囲では、電池電圧値の変動も小さくなる。従って、負極活物質として黒鉛系材料を用いて、正負極容量比(B/A)の値を1.7とした電池の場合、自己放電工程において、放置開始SOCの値を50%〜80%の範囲内の値とすることで、正常電池において、自己放電期間中の電池電圧の変化量(低下量)を十分に小さくすることができるといえる。
【0104】
上述の正負極容量比(B/A)の値X(1.7)に対する放置開始SOCの値Y(50%〜80%の範囲内の値)は、(50X−35)≦Y≦(50X−5)の関係式を満たすものである。このことは、図11に示す自己放電試験の結果にも一致する。従っ
て、負極電位の変動が小さいSOC範囲内で自己放電させる(正負極容量比B/Aの値を1.7とした場合に、放置開始SOCの値を50%〜80%の範囲内の値とする)ことで、電池電圧差ΔVbcを十分に小さくすることができるといえる。
【0105】
また、正負極容量比(B/A)の値を1.8とした電池では、SOC55%〜85%の範囲内において、負極電位の変動が小さくなる。負極電位の変動が小さい範囲では、電池電圧値の変動も小さくなる。従って、負極活物質として黒鉛系材料を用いて、正負極容量比(B/A)の値を1.8とした電池の場合、自己放電工程において、放置開始SOCの値を55%〜85%の範囲内の値とすることで、正常電池において、自己放電期間中の電池電圧の変化量(低下量)を十分に小さくすることができるといえる。
【0106】
上述の正負極容量比(B/A)の値X(1.8)に対する放置開始SOCの値Y(55%〜85%の範囲内の値)は、(50X−35)≦Y≦(50X−5)の関係式を満たすものである。このことは、図11に示す自己放電試験の結果にも一致する。従って、負極電位の変動が小さいSOC範囲内で自己放電させる(正負極容量比B/Aの値を1.8とした場合に、放置開始SOCの値を55%〜85%の範囲内の値とする)ことで、電池電圧差ΔVbcを十分に小さくすることができるといえる。
【0107】
また、正負極容量比(B/A)の値を1.9とした電池では、SOC60%〜90%の範囲内において、負極電位の変動が小さくなる。負極電位の変動が小さい範囲では、電池電圧値の変動も小さくなる。従って、負極活物質として黒鉛系材料を用いて、正負極容量比(B/A)の値を1.8とした電池の場合、自己放電工程において、放置開始SOCの値を55%〜85%の範囲内の値とすることで、正常電池において、自己放電期間中の電池電圧の変化量(低下量)を十分に小さくすることができるといえる。
【0108】
上述の正負極容量比(B/A)の値X(1.9)に対する放置開始SOCの値Y(60%〜90%の範囲内の値)は、(50X−35)≦Y≦(50X−5)の関係式を満たすものである。このことは、図11に示す自己放電試験の結果にも一致する。従って、負極電位の変動が小さいSOC範囲内で自己放電させる(正負極容量比B/Aの値を1.9とした場合に、放置開始SOCの値を60%〜90%の範囲内の値とする)ことで、電池電圧差ΔVbcを十分に小さくすることができるといえる。
【0109】
以上より、負極活物質として黒鉛系材料を用いた電池(正負極容量比の値Xは1.7〜1.9)について、自己放電工程における放置開始SOCの値Yを、(50X−35)≦Y≦(50X−5)の関係式を満たす値とすることで、正常電池において、自己放電期間中の電池電圧の変化量(低下量)を十分に小さくすることができるといえる。その結果、正常電池同士の間で、電池電圧の変化量(低下量)のバラツキを十分に小さくすることができるので、正常電池と内部短絡電池との間で、電圧低下量(電池電圧差ΔVbc)に明確な差が現れるようになる。これにより、内部短絡が生じている電池を精度良く検出することができる。
【0110】
以上において、本発明を実施形態に即して説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で、適宜変更して適用できることは言うまでもない。
【0111】
例えば、実施形態では、エージング工程(ステップS5)の後、自己放電工程(ステップS7)の前に、SOC調整工程(ステップS6)を設け、非水電解質二次電池100のSOCを、(50X−35)以上(50X−5)以下の範囲内の値に調整するようにした。これにより、自己放電工程(ステップS7)における放置開始SOCの値Yを、(50X−35)≦Y≦(50X−5)の関係式を満たす値とした。
【0112】
しかしながら、SOC調整工程を、初期充電工程の後、エージング工程の前に設けて、非水電解質二次電池100のSOCを調整するようにしても良い。但し、この場合において、エージング期間中に非水電解質二次電池100のSOCが変動する場合は、予め、エージング期間中のSOC変動量を把握しておき、このSOC変動量を考慮して、放置開始SOCの値Yが(50X−35)≦Y≦(50X−5)の関係式を満たす値となるように、SOC調整工程において電池100のSOCを調整すると良い。すなわち、SOC調整工程において、放置開始SOCの値Yに対しSOC変動量を加えた値に、電池100のSOCを調整すると良い。具体的には、例えば、エージング期間中のSOC変動量(減少量)が0.5%である場合において、放置開始SOCの値Yを80%にしたい場合は、SOC調整工程では、電池100のSOCを80.5%に調整すると良い。
【0113】
また、実施形態では、ステップS3(電池拘束工程)及びステップSA(拘束解除工程)を設けたが、これらの工程を設けることなく、非水電解質二次電池を製造するようにしても良い。すなわち、組み付け工程(ステップS2)において作製された非水電解質二次電池100を押圧治具30,40で挟んで拘束状態にすることなく、ステップS4〜S9の処理を行うようにしても良い。
【符号の説明】
【0114】
100 非水電解質二次電池
110 電極体
120 負極
121 負極合材層
127 負極活物質
128 負極集電部材
130 正極
131 正極合材層
137 正極活物質
138 正極集電部材
150 セパレータ
160 非水電解液
180 電池ケース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極及び負極を有する電極体を形成する電極体形成工程と、
上記電極体及び非水電解液を電池ケース内に収容した非水電解質二次電池を、所定期間放置することにより、上記電池を自己放電させる自己放電工程と、を備える
非水電解質二次電池の製造方法において、
上記電極体形成工程では、上記正極の容量Aと上記負極の容量Bとの容量比(B/A)の値Xを1.7〜1.9の範囲内の値とした電極体を形成し、
上記自己放電工程において上記電池の放置を開始するときの上記電池のSOC(%)である放置開始SOCの値Yを、(50X−35)≦Y≦(50X−5)の関係式を満たす値として、上記自己放電工程において上記電池を自己放電させる
非水電解質二次電池の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の非水電解質二次電池の製造方法であって、
前記電極体形成工程では、前記負極に含まれる負極活物質として、黒鉛系材料を用いる
非水電解質二次電池の製造方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の非水電解質二次電池の製造方法であって、
前記自己放電工程より前に、
前記非水電解質二次電池を初期充電する初期充電工程と、
上記初期充電工程を終えた上記電池を、所定の温度で一定時間安置してエージングするエージング工程と、を備える
非水電解質二次電池の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−252839(P2012−252839A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−123672(P2011−123672)
【出願日】平成23年6月1日(2011.6.1)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】