説明

非水電解質二次電池及びその製造方法

【課題】非水電解質とセパレータとの濡れ性が高く、サイクル特性に優れた非水電解質二次電池を提供する。
【解決手段】正極と、負極と、両電極間に介在するセパレータとを有する電極体と、非水溶媒と電解質塩を有する非水電解質と、を備えた非水電解質二次電池の製造方法において、前記非水溶媒は、比誘電率が30以上の溶媒が50体積%以上であり、前記非水電解質に、R−(CH2―CH2―O―)nH(Rはアルキル基誘導体又はフェニル基誘導体であり、nは2以上の整数である)で示される化合物と、イソシアネート化合物とを添加する添加工程と、前記2つの化合物をウレタン結合反応させる反応工程とを備えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サイクル特性及び保存特性の向上を目的とした非水電解質二次電池の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話、ノートパソコン、PDA等の移動情報端末の高機能化が急速に進展しており、その駆動電源として、高いエネルギー密度を有し、高容量である非水電解質二次電池が広く利用されている。
【0003】
このような非水電解質二次電池は、非水電解質用の非水溶媒に比誘電率が高い環状カーボネートが使用され、セパレータにポリオレフィン微多孔膜が使用されている。この系では、両者の濡れ性が悪いために、充放電反応がスムースに進行せず、サイクル特性が低下するという問題があった。
【0004】
ところで、非水電解質に界面活性剤を添加し、両者の濡れ性を改善する技術が提案されている(例えば、特許文献1、2参照。)。
【0005】
【特許文献1】特開平7-263027号公報
【特許文献2】特開平10-12273号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者は、電池のサイクル特性向上のために鋭意研究を行った。その結果、界面活性剤を用いると、セパレータと電解液との濡れ性は向上するものの、サイクル特性が悪いことを知った。この点について、さらに研究を行ったところ、界面活性剤の有する水酸基が、サイクル特性に悪影響を及ぼしており、界面活性剤の有する水酸基を電池内で消失させる手段を採用することにより、上記問題が解決することを知った。
【0007】
本発明は、上記に知見に基づき完成されたものであって、セパレータと電解液との濡れ性が高く、且つサイクル特性や保存特性にも優れた非水電解質二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための非水電解質二次電池の製造方法に係る本発明は、正極と、負極と、両電極間に介在するセパレータとを有する電極体と、非水溶媒と電解質塩を有する非水電解質と、を備えた非水電解質二次電池の製造方法において、前記非水溶媒は、比誘電率が30以上の溶媒が50体積%以上であり、前記非水電解質に、R−(CH2―CH2―O―)nH(Rはアルキル基誘導体又はフェニル基誘導体であり、nは2以上の整数である)で示される化合物と、イソシアネート化合物とを添加する添加工程と、前記2つの化合物をウレタン結合反応させる反応工程と、を備えることを特徴とする。
【0009】
この構成では、非水電解質に親水性のエチレンオキサイド構造と、親油性のアルキル基誘導体又はフェニル基誘導体と、を併せ持つ化合物(R−(CH2―CH2―O―)nH)が添加されており、この化合物によりセパレータと非水電解質との濡れ性が飛躍的に向上する。
【0010】
さらに、イソシアネート化合物(R’−NCO、R’はアルキル基誘導体又はフェニル基誘導体である)を添加し、R−(CH2―CH2―O―)nHとイソシアネート化合物とをウレタン結合反応させることにより、以下の反応式により、電池に有害な副生成物(例えば、水)を生じることなく、水酸基を消失できる。これにより水酸基による悪影響がなくなるので、保存特性やサイクル特性が飛躍的に向上する。
【0011】
反応式 R−(CH2―CH2―O−)nH+R’−N=C=O
→R−(CH2―CH2―O―)nC(O)NHR’
(Rはアルキル基誘導体又はフェニル基誘導体であり、nは2以上の整数である。また、R’は、Rと同一又は異なるアルキル基誘導体又はフェニル基誘導体である。R’の炭素数は15以下であることが好ましく、10以下であることがより好ましい。)
【0012】
また、比誘電率が25℃において30以上の非水溶媒は、非水電解質の安定性を向上させる効果があり、特に過充電を行った場合の安全性を向上させる。この効果を十分に得るためには、比誘電率が30以上の非水溶媒を50体積%以上含ませることが好ましい。
【0013】
ここで、アルキル基誘導体とは、アルキル基が含まれるのは勿論のこと、アルキル基の水素原子がフェニル基、シクロアルキル基、ハロゲン、スルホニル基等に置換された官能基や、エステル基、カーボネート基、エーテル基等が導入されたものを含むものを意味する。また、フェニル基誘導体とは、フェニル基が含まれるのは勿論のこと、フェニル基の水素原子がアルキル基、シクロアルキル基、ハロゲン、スルホニル基等に置換された官能基や、エステル基、カーボネート基、エーテル基等が導入されたものを含むものを意味する。特に、スルホニル基、エステル基、カーボネート基等の極性の大きい官能基が含まれると、非水電解質と当該化合物との相溶性が向上する効果が得られる。
【0014】
また、エチレンオキサイド構造のnの数は、十分な親水性を得るために2以上であることが好ましい。また、nの数が大きすぎると、親水性が強くなりすぎるとともに、化合物の構造安定性を損なうおそれがある。よって、好ましくはnを2以上30以下とし、さらに好ましくは5以上20以下とする。
【0015】
ここで、電池を常温(約25℃)に放置してもウレタン結合反応は進行するが、この反応をより促進するために40〜60℃で一時間程度電池を加熱してもよい。
【0016】
上記構成において、前記非水溶媒と前記電解質塩との和を100質量部としたとき、前記R−(CH2―CH2―O―)nHで示されるの含有量が、0.1〜3.0質量部であり、前記イソシアネート化合物の含有量が0.1〜3.0質量部である構成とすることができる。
【0017】
前記R−(CH2―CH2―O―)nHで示される化合物の含有量が過少であると十分な界面活性効果が得られず、過大であるとこの化合物自体がサイクル特性等の電池特性を低下させる。また、イソシアネート化合物の含有量が過少であると、十分に水酸基を消失できないためにサイクル特性が劣化し、過大であるとこの化合物自体がサイクル特性等の電池特性を低下させる。よって上記範囲内に規制することが好ましい。
【0018】
上記構成において、前記イソシアネート化合物が、イソシアネート基を2以上有する化合物であり、当該イソシアネート化合物を架橋剤として、非水電解質をゲル状ポリマー化する工程をさらに備える構成とすることができる。
【0019】
イソシアネート化合物として、イソシアネート基を2以上有する化合物を用い、当該イソシアネート化合物を架橋剤として、非水電解質をゲル状ポリマー化させても、本願発明の効果が十分に得られる。この場合、水酸基を2以上有するモノマーを添加することが好ましい。
【0020】
上記課題を解決するための非水電解質二次電池に係る本発明は、正極と、負極と、両電極間に介在するセパレータとを有する電極体と、非水溶媒と電解質塩を有する非水電解質と、を備えた非水電解質二次電池において、前記非水溶媒は、エチレンオキサイド構造と、アルキル基誘導体構造又はフェニル基誘導体構造と、ウレタン構造と、を併せ持つ化合物を有することを特徴とする。
【0021】
この構成によると、親水性のエチレンオキサイド構造と親油性のアルキル基誘導体構造とにより十分な界面活性効果(セパレータとの濡れ性向上効果)が得られ、ウレタン構造によりエチレンオキサイド構造の有する水酸基を消失できる。よって、非水電解質とセパレータとの濡れ性が高く、且つサイクル特性に優れた非水電解質二次電池を実現できる。
【0022】
上記構成において、前記アルキル基誘導体又はフェニル基誘導体の炭素数が4以上11以下である構成とすることができる。
【0023】
アルキル基誘導体又はフェニル基誘導体の炭素数が過少であると、親油性が低くなりすぎるため、十分な界面活性効果が得られない。他方、炭素数が過大であると、親油性が強くなりすぎてこの場合もまた界面活性効果が十分に得られない。よって、上記範囲内に規制することが好ましい。
【0024】
上記構成において、前記外装体が、金属層と樹脂層とを積層したフィルムからなる構成とすることができる。
【0025】
金属層と樹脂層とを積層したフィルムを外装体として用いると、電池の体積及び質量を低減できるので、電池の体積エネルギー密度及び質量エネルギー密度を向上できる。
【発明の効果】
【0026】
非水電解質とセパレータとの濡れ性が高く、サイクル特性に優れた非水電解質二次電池を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
本発明を実施するための最良の形態を、実施例を用いて以下に詳細に説明する。
【0028】
(実施例1)
<正極の作製>
正極活物質としてのコバルト酸リチウム(LiCoO2)と、導電剤としてのカーボンブラックと、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)からなる結着剤とを、質量比90:5:5の割合で混合し、これらをN−メチル−2−ピロリドン(NMP)からなる有機溶剤に分散させて、正極活物質スラリーを調製した。
【0029】
次に、厚み15μmのアルミニウム箔からなる正極芯体の両面に、この正極活物質スラリーを均一な厚みで塗布した。この後、この極板を乾燥機中に通過させて、スラリー作製時に必要であった有機溶剤(NMP)を除去して乾燥させた。乾燥後、この乾燥正極板をロールプレス機により圧延して、厚さ125μmの正極板とした。
【0030】
<負極の作製>
負極活物質としての粒径15〜35μmの天然黒鉛と、結着剤としてのポリビニリデンフルオライド(PVDF)をN−メチル−2−ピロリドン(NMP)に分散させた溶液とを、黒鉛:PVDFを質量比で90:10となるように混合して、負極活物質スラリーを調製した。
【0031】
次に、厚さが10μmの銅箔からなる負極芯体の両面に、この負極活物質スラリーを均一な厚さで塗布した。この極板を乾燥機内に通して有機溶剤(NMP)を除去した。その後、この乾燥極板を、ロールプレス機によりその厚みが120μmとなるように圧延した。
【0032】
<電極体の作製>
上記正極と負極と厚み20μmのポリエチレン製微多孔膜からなるセパレータとを、巻き取り機により捲回し、絶縁性の巻き止めテープを取り付け、この後プレスして扁平電極体を完成させた。
【0033】
<非水電解質の調整>(添加工程)
エチレンカーボネート(EC;比誘電率90)とプロピレンカーボネート(PC;比誘電率65)とを25℃、1気圧で体積比50:50の割合で混合した非水溶媒に、電解質塩としてのLiPF6を1.0M(モル/リットル)の割合で溶解して電解液となした。この電解液100質量部に、ビニレンカーボネート(VC)1質量部、ビニルエチレンカーボネート(VEC)1質量部、ポリエチレングリコールオクチルエーテル(PEGOE:エチレンオキサイド化合物)0.5質量部、イソシアン酸フェニル0.5質量部を加えて、非水電解質となした。
【0034】
<電池の作製>(反応工程)
樹脂層(ポリプロピレン)/接着剤層/アルミニウム合金層/接着剤層/樹脂層(ポリプロピレン)の5層構造から成るシート状のラミネート材を用意した後、このアルミラミネート材を折り返されてして底部を形成し、かつ前記底部以外の扁平形状の3方が封止された3方封止構造のアルミニウムラミネート外装体の収納空間内に上記扁平電極体と上記非水電解質とを挿入した。この後、外装体内部を減圧してセパレータ内部に非水電解質を含浸させ、外装体の開口部を封止した。この後、50℃で1時間放置してポリエチレングリコールオクチルエーテルとイソシアン酸フェニルとを反応させて、実施例1にかかる非水電解質二次電池となした。
【0035】
この電池を作製後、電池を解体し、非水電解質の赤外吸収スペクトルを測定したところ、3460−3440cm-1及び3320−3270cm-1付近の吸収を確認した。これは、ポリエチレングリコールオクチルエーテルの水酸基と、イソシアン酸フェニルのイソシアネート基とがウレタン結合して生じたウレタン構造によるものである。
【0036】
(実施例2)
エチレンオキサイド化合物として、ポリエチレングリコールオクチルエーテルに代えて、ポリエチレングリコールパーフルオロオクチルエーテル(PEGPFOE)を用いたこと以外は、上記実施例1と同様にして実施例2にかかる非水電解質二次電池を作製した。
【0037】
(実施例3)
エチレンオキサイド化合物として、ポリエチレングリコールオクチルエーテルに代えて、ポリエチレングリコールブチルフェニルエーテル(PEGBPE)を用いたこと以外は、上記実施例1と同様にして実施例3にかかる非水電解質二次電池を作製した。
【0038】
(実施例4)
エチレンオキサイド化合物として、ポリエチレングリコールオクチルエーテルに代えて、ポリエチレングリコールモノラウレート(PEGML)を用いたこと以外は、上記実施例1と同様にして実施例4にかかる非水電解質二次電池を作製した。
【0039】
(実施例5)
エチレンオキサイド化合物として、ポリエチレングリコールオクチルエーテルに代えて、ポリエチレングリコールプロピルエーテル(PEGPE)を用いたこと以外は、上記実施例1と同様にして実施例5にかかる非水電解質二次電池を作製した。
【0040】
(実施例6)
エチレンオキサイド化合物として、ポリエチレングリコールオクチルエーテルに代えて、ポリエチレングリコールブチルエーテル(PEGBE)を用いたこと以外は、上記実施例1と同様にして実施例6にかかる非水電解質二次電池を作製した。
【0041】
(実施例7)
エチレンオキサイド化合物として、ポリエチレングリコールオクチルエーテルに代えて、ポリエチレングリコールアンデシルエーテル(PEGUE)を用いたこと以外は、上記実施例1と同様にして実施例7にかかる非水電解質二次電池を作製した。
【0042】
(実施例8)
エチレンオキサイド化合物として、ポリエチレングリコールオクチルエーテルに代えて、ポリエチレングリコールトリデシルエーテル(PEGTE)を用いたこと以外は、上記実施例1と同様にして実施例8にかかる非水電解質二次電池を作製した。
【0043】
(実施例9)
イソシアン酸フェニルに代えて、イソシアン酸エチルを用いたこと以外は、上記実施例1と同様にして実施例9にかかる非水電解質二次電池を作製した。
【0044】
(比較例1)
イソシアン酸フェニルを添加しなかったこと以外は、上記実施例1と同様にして比較例1にかかる非水電解質二次電池を作製した。
【0045】
(比較例2)
ポリエチレングリコールオクチルエーテルを添加しなかったこと以外は、上記実施例1と同様にして比較例2にかかる非水電解質二次電池を作製した。
【0046】
(比較例3)
ポリエチレングリコールオクチルエーテル及びイソシアン酸フェニルを、ともに添加しなかったこと以外は、上記実施例1と同様にして比較例3にかかる非水電解質二次電池を作製した。
【0047】
〔セパレータとの濡れ性試験〕
組み立て後の電池を解体し、セパレータの濡れ性を目視で観察した。セパレータが完全に濡れているものは○、ある程度濡れているものは△、ほとんど濡れていないものは×と評価した。この結果を下記表1に示す。
【0048】
〔保存特性試験〕
上記各電池を、定電流1It(600mA)で電圧が4.2Vとなるまで充電し、その後定電圧4.2Vで電流が30mAとなるまで充電した。この充電後の電池を80℃の環境に4日放置し、保存前後の電池厚みを測定した。保存後の電池厚みの増加量を下記表1に示す。
【0049】
〔サイクル特性試験〕
以下に示す条件で充放電サイクルを行い、(500サイクル目放電容量÷1サイクル目放電容量×100)で表される値を、サイクル特性とした。この値を下記表1に示す。
【0050】
〈サイクル条件〉
(1)定電流1It(600mA)で電圧が4.2Vとなるまで充電、その後定電圧4.2Vで電流が30mAとなるまで充電
(2)10分休止
(3)定電流1It(600mA)で電圧が2.75Vとなるまで放電
(4)10分休止
【0051】
【表1】

【0052】
上記表1において、セパレータと非水電解質との濡れ性が×であったものは、充放電を行うことができなかったため、保存特性試験、サイクル特性試験を行っていない。
【0053】
上記表1から、エチレンオキサイド化合物を添加した実施例1〜9及び比較例1は、セパレータと電解液との濡れ性が△〜○と、エチレンオキサイド化合物を添加していない比較例2,3の×よりも優れていることがわかる。これは、エチレンオキサイド化合物がセパレータと非水電解質との濡れ性を改善するように作用したためと考えられる。
【0054】
また、上記表1から、エチレンオキサイド化合物を添加し、イソシアネート化合物を添加しなかった比較例1は、保存後の電池厚みが0.8mmと、実施例1〜9の0.2〜0.5mmよりも大きく膨れていることがわかる。
【0055】
これは、エチレンオキサイド化合物中の水酸基が電解液の分解反応を促進させ、電池内部でガスが発生したためと考えられる。
【0056】
また、上記表1から、エチレンオキサイド化合物としてポリエチレングリコールプロピルエーテル(炭素鎖の炭素数が3)を用いた実施例5は、セパレータと電解液との濡れ性が△であり、炭素鎖の炭素数が4以上である実施例1、実施例6〜8よりも濡れ性が悪いことがわかる。これは、エチレンオキサイド化合物中の炭素鎖の炭素数が過少であるため、エチレンオキサイド化合物の親油性が低く、十分に濡れ性を改善できないためと考えられる。
【0057】
また、上記表1から、エチレンオキサイド化合物としてポリエチレングリコールトリデシルエーテル(炭素鎖の炭素数が13)を用いた実施例8は、保存後厚み増大量が0.5mm、サイクル特性が60%と、炭素鎖の炭素数が4〜11である実施例1,6,7の0.2mm、82〜84%よりも劣っていることがわかる。
【0058】
これは、エチレンオキサイド化合物中の炭素鎖の炭素数が過大であるため、エチレンオキサイド化合物の親油性が高すぎるようになり、濡れ性は改善できるものの、スムースな充放電反応が妨げられたためと考えられる。
【0059】
(実施例10)
非水溶媒として、エチレンカーボネート(EC)40体積部と、プロピレンカーボネート(PC)40体積部と、ジエチルカーボネート(DEC;比誘電率2.8)20体積部とを混合したものを用いたこと以外は、上記実施例1と同様にして実施例10にかかる非水電解質二次電池を作製した。
【0060】
(実施例11)
非水溶媒として、エチレンカーボネート(EC)30体積部と、プロピレンカーボネート(PC)20体積部と、ジエチルカーボネート(DEC)50体積部とを混合したものを用いたこと以外は、上記実施例1と同様にして実施例10にかかる非水電解質二次電池を作製した。
【0061】
(比較例4)
非水溶媒として、エチレンカーボネート(EC)30体積部と、ジエチルカーボネート(DEC)70体積部とを混合したものを用いたこと以外は、上記実施例1と同様にして比較例4にかかる非水電解質二次電池を作製した。
【0062】
(比較例5)
ポリエチレングリコールオクチルエーテル及びイソシアン酸フェニルを、ともに添加しなかったこと以外は、上記実施例10と同様にして比較例5にかかる非水電解質二次電池を作製した。
【0063】
(比較例6)
ポリエチレングリコールオクチルエーテル及びイソシアン酸フェニルを、ともに添加しなかったこと以外は、上記実施例11と同様にして比較例6にかかる非水電解質二次電池を作製した。
【0064】
(比較例7)
ポリエチレングリコールオクチルエーテルを添加しなかったこと以外は、上記比較例4と同様にして比較例7にかかる非水電解質二次電池を作製した。
【0065】
(比較例8)
ポリエチレングリコールオクチルエーテル及びイソシアン酸フェニルを、ともに添加しなかったこと以外は、上記比較例4と同様にして比較例8にかかる非水電解質二次電池を作製した。
【0066】
上記実施例1、10、11、及び比較例3〜8にかかる電池について、上記濡れ性試験、保存特性試験、サイクル特性試験を行った。この結果を下記表2に示す。
また、下記条件にて過充電試験を行い、電池温度が140℃未満であるものを良(○)、140℃以上となったものを不良(×)と評価した。この結果を下記表2に示す。
【0067】
〔過充電試験〕
(条件1) 定電流0.6It(360mA)で12Vまで、その後定電圧12Vで電流が30mAとなるまで充電
(条件2) 定電流1.2It(720mA)で12Vまで、その後定電圧12Vで電流が30mAとなるまで充電
(条件3) 定電流2.0It(1200mA)で12Vまで、その後定電圧12Vで電流が30mAとなるまで充電
【0068】
【表2】

【0069】
上記表2おいて、セパレータと非水電解質との濡れ性が×であったものは、充放電を行うことができなかったため、保存特性試験、サイクル特性試験を行っていない。
【0070】
上記表2から、比誘電率が低いジエチルカーボネート(DEC)の配合量が増加するに従い、ポリエチレングリコールオクチルエーテルを添加していなくても、濡れ性が向上する傾向にあることがわかる(比較例3,5,6,8参照)。また、比誘電率が低いジエチルカーボネート(DEC)の配合量が70体積%にまで達すると、ポリエチレングリコールオクチルエーテルを添加したものと添加していないものとの濡れ性に差がないことがわかる(比較例7,8参照)。
【0071】
このことは比誘電率の低いジエチルカーボネートは、極性の高いカーボネート基と、極性の低いエチル基とを有するため、この化合物自体が、セパレータとの濡れ性を向上させるように作用するためと考えられる。
【0072】
また、表2から、比誘電率が低いジエチルカーボネート(DEC)の配合量が増加するに従い、過充電安全性が低下する傾向にあることがわかる(実施例1,10,11,比較例4参照)。
【0073】
このことは次のように考えられる。ジエチルカーボネートは、比誘電率が低いため、その配合量が増大するに伴い、非水電解質の安定性が低下する。このため、1.2It以上の高レートで過充電を行うと、電池温度が異常に上昇して、電池の安全性を損なわせる。よって、高誘電率溶媒の配合量は50体積%以上であることが好ましい。
【0074】
また、表2から、比誘電率が低いジエチルカーボネート(DEC)の配合量が20体積%、50体積%であり、エチレンオキサイド化合物が添加されていない比較例5,6は、電池厚み増大量が0.5〜0.6mmと、大きく膨れていることがわかる。
【0075】
このことは、ジエチルカーボネート(DEC)の配合量が20体積%、50体積%であり、エチレンオキサイド化合物が添加されていない比較例5,6は、セパレータと電解液との濡れ性が十分ではない(評価が△)であるため、スムースな充放電反応が阻害されて、電解液が分解されたためと考えられる。
【0076】
(実施例12)
ポリエチレングリコールオクチルエーテル(PEGOE)の添加量を0.01質量%としたこと以外は、上記実施例1と同様にして実施例12にかかる非水電解質二次電池を作製した。
【0077】
(実施例13)
ポリエチレングリコールオクチルエーテル(PEGOE)の添加量を0.1質量%としたこと以外は、上記実施例1と同様にして実施例13にかかる非水電解質二次電池を作製した。
【0078】
(実施例14)
ポリエチレングリコールオクチルエーテル(PEGOE)の添加量を1質量%としたこと以外は、上記実施例1と同様にして実施例14にかかる非水電解質二次電池を作製した。
【0079】
(実施例15)
ポリエチレングリコールオクチルエーテル(PEGOE)の添加量を3質量%としたこと以外は、上記実施例1と同様にして実施例15にかかる非水電解質二次電池を作製した。
【0080】
(実施例16)
ポリエチレングリコールオクチルエーテル(PEGOE)の添加量を5質量%としたこと以外は、上記実施例1と同様にして実施例16にかかる非水電解質二次電池を作製した。
【0081】
上記実施例1、12〜16及び比較例2にかかる電池について、上記濡れ性試験、保存特性試験、サイクル特性試験を行った。この結果を下記表3に示す。
【0082】
【表3】

【0083】
上記表3において、セパレータと非水電解質との濡れ性が×であったものは、充放電を行うことができなかったため、保存特性試験、サイクル特性試験を行っていない。
【0084】
上記表3から、ポリエチレングリコールオクチルエーテル(PEGOE)の添加量が0.01質量%以下である比較例2、実施例12は、十分に濡れ性を向上できず、サイクル特性も低下していることがわかる。
【0085】
このことは、エチレンオキサイド化合物(PEGOE)の添加量が過少であると、十分にセパレータと電解質との濡れ性を向上できないため、サイクル特性を低下させるためと考えられる。
【0086】
また、表3から、ポリエチレングリコールオクチルエーテル(PEGOE)の添加量が5.0質量%である実施例16は、濡れ性は十分であるものの、サイクル特性が65%と、PEGOEの添加量が0.1〜3.0質量%である実施例1、13〜15の80〜85%よりも低下していることがわかる。
【0087】
このことは、エチレンオキサイド化合物(PEGOE)の添加量が過大であると、この化合物自体が充放電を阻害するように作用し、サイクル特性を低下させるためと考えられる。
【0088】
(実施例17)
イソシアン酸フェニルの添加量を0.01質量%としたこと以外は、上記実施例1と同様にして実施例17にかかる非水電解質二次電池を作製した。
【0089】
(実施例18)
イソシアン酸フェニルの添加量を0.1質量%としたこと以外は、上記実施例1と同様にして実施例18にかかる非水電解質二次電池を作製した。
【0090】
(実施例19)
イソシアン酸フェニルの添加量を1質量%としたこと以外は、上記実施例1と同様にして実施例19にかかる非水電解質二次電池を作製した。
【0091】
(実施例20)
イソシアン酸フェニルの添加量を3質量%としたこと以外は、上記実施例1と同様にして実施例20にかかる非水電解質二次電池を作製した。
【0092】
(実施例21)
イソシアン酸フェニルの添加量を5質量%としたこと以外は、上記実施例1と同様にして実施例21にかかる非水電解質二次電池を作製した。
【0093】
上記実施例1、17〜21及び比較例1にかかる電池について、上記濡れ性試験、保存特性試験、サイクル特性試験を行った。この結果を下記表4に示す。
【0094】
【表4】

【0095】
上記表4から、イソシアン酸フェニルの添加量が0.01質量%以下である比較例1、実施例17は、サイクル特性が52%、62%と、イソシアン酸フェニルの添加量が0.1〜3.0質量%である実施例1、18〜20の80〜84%よりも低下していることがわかる。
【0096】
このことは、イソシアン酸フェニルの添加量が過少であると、エチレンオキサイド化合物が有する水酸基を十分に消失できないため、残存した水酸基がサイクル特性を低下させるためと考えられる。
【0097】
また、表4から、イソシアン酸フェニルの添加量が5.0質量%である実施例21は、濡れ性は十分であるものの、サイクル特性が60%と、イソシアン酸フェニルの添加量が0.1〜3.0質量%である実施例1、18〜20の80〜84%よりも低下していることがわかる。
【0098】
このことは、イソシアン酸フェニルの添加量が過大であると、この化合物自体が充放電を阻害するように作用し、サイクル特性を低下させるためと考えられる。
【0099】
(実施例22)
上記非水電解質にポリエチレングリコールジアクリレート5質量部、重合開始剤としてのt−ヘキシルパーオキシピバレート0.5質量部を更に加えて、プレポリマー非水電解質となし、このプレポリマー非水電解質を外装体内に注液し、減圧・封止後、60℃で5時間重合反応させたこと以外は、上記実施例1と同様にして、実施例22にかかる非水電解質二次電池を作製した。
【0100】
(実施例23)
イソシアン酸フェニルに代えて、ヘキサメチレンジイソシアネートを添加し、ポリエチレングリコールジアクリレートに代えてポリビニルホルマール樹脂を添加し、重合開始剤を加えなかったこと以外は、上記実施例22と同様にして、実施例23にかかる非水電解質二次電池を作製した。なお、重合開始剤は特に加えていないが、ヘキサメチレンジイソシアネート(ジイソシアネート化合物)が架橋剤としてポリマー形成に寄与している。
【0101】
(実施例24)
ヘキサメチレンジイソシアネートに代えて、ノルボルネンジイソシアネート(ジイソシアネート化合物)を添加したこと以外は、上記実施例23と同様にして、実施例24にかかる非水電解質二次電池を作製した。
【0102】
(実施例25)
ポリエチレングリコールオクチルエーテルに代えて、ポリエチレングリコールパーフルオロオクチルエーテルを添加したこと以外は、上記実施例23と同様にして、実施例25にかかる非水電解質二次電池を作製した。
【0103】
(比較例9)
イソシアン酸フェニルを添加しなかったこと以外は、上記実施例22と同様にして、比較例9にかかる非水電解質二次電池を作製した。
【0104】
(比較例10)
イソシアン酸フェニル及びポリエチレングリコールオクチルエーテルを、ともに添加しなかったこと以外は、上記実施例22と同様にして、比較例10にかかる非水電解質二次電池を作製した。
【0105】
(比較例11)
ポリエチレングリコールオクチルエーテルを添加しなかったこと以外は、上記実施例23と同様にして、比較例11にかかる非水電解質二次電池を作製した。
【0106】
上記実施例22〜25及び比較例9〜11にかかる電池を解体したところ、非水電解質がゲル化していることが確認された。
【0107】
上記実施例22〜25及び比較例9〜11にかかる電池について、上記濡れ性試験、保存特性試験、サイクル特性試験を行った。この結果を下記表5に示す。なお、濡れ性試験は、重合反応前に行った。
【0108】
【表5】

【0109】
上記表5おいて、セパレータと非水電解質との濡れ性が×であったものは、充放電を行うことができなかったため、保存特性試験、サイクル特性試験を行っていない。
【0110】
上記表5から、ゲル状ポリマー非水電解質を用いた電池に本発明を適用した場合にも、液状非水電解質を用いた電池と同様の効果が得られることがわかる。
【0111】
(追加事項)
本発明にかかる非水電解質二次電池で用いる正極活物質としては、上記コバルト酸リチウム以外にも、例えばニッケル酸リチウム(LiNiO2)、スピネル型マンガン酸リチウム(LiMn24)、層状マンガン酸リチウム(LiMnO2)、鉄酸リチウム(LiFeO2)、またはこれらの酸化物に含まれる遷移金属の一部を他の元素で置換した酸化物等のリチウム含有遷移金属複合酸化物を単独で、あるいは二種以上を混合して用いることができる。
【0112】
また、負極材料としては、例えば天然黒鉛、人造黒鉛、カーボンブラック、コークス、ガラス状炭素、炭素繊維、あるいはこれらの焼成体等の炭素質物、または前記炭素質物と、リチウム、リチウム合金、およびリチウムを吸蔵・放出できる金属酸化物からなる群から選ばれる1種以上との混合物を用いることができる。
【0113】
また、非水溶媒としては、上記実施例の組み合わせに限定されるものではなく、例えばブチレンカーボネート、γ−ブチロラクトン等の比誘電率が50以上の高誘電率溶媒を用いることができる。また、上記高誘電率溶媒に加えて、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、1,2−ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、アニソール、1,4−ジオキサン、4−メチル−2−ペンタノン、シクロヘキサノン、アセトニトリル、プロピオニトリル、ジメチルホルムアミド、スルホラン、蟻酸メチル、蟻酸エチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、プロピオン酸エチル等の低粘性溶媒とを混合させて用いることができる。なお、高誘電率溶媒の含有量は、非水溶媒全体の50体積%以上であることが好ましい。さらに、前記高誘電率溶媒や低粘性溶媒をそれぞれ二種以上の混合溶媒とすることもできる。また、電解質塩としては、LiPF6以外にも、例えばLiN(C25SO22、LiN(CF3SO22、LiClO4またはLiBF4等を単独で、あるいは2種以上混合して用いることができる。
【0114】
また、ビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネートは、本発明の必須の構成要素ではないが、これらを添加すると、電極表面に良質な被膜が形成され、電解液の分解が抑制される効果が得られる。なお、ビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネートに代えて、これらの化合物の水素原子をアルキル基に置換したものを用いることもできる。
【産業上の利用可能性】
【0115】
以上説明したように、本発明によると、非水電解質とセパレータとの濡れ性が高く、サイクル特性に優れた非水電解質二次電池を提供できる。よって、産業上の意義は大きい。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極と、負極と、両電極間に介在するセパレータとを有する電極体と、非水溶媒と電解質塩を有する非水電解質と、を備えた非水電解質二次電池の製造方法において、
前記非水溶媒は、比誘電率が30以上の溶媒が50体積%以上であり、
前記非水電解質に、R−(CH2―CH2―O―)nH(Rはアルキル基誘導体又はフェニル基誘導体であり、nは2以上の整数である)で示される化合物と、イソシアネート化合物とを添加する添加工程と、
前記2つの化合物をウレタン結合反応させる反応工程と、
を備えることを特徴とする非水電解質二次電池の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の非水電解質二次電池の製造方法において、
前記非水溶媒と前記電解質塩との和を100質量部としたとき、前記R−(CH2―CH2―O―)nHで示される化合物の含有量が、0.1〜3.0質量部であり、前記イソシアネート化合物の含有量が0.1〜3.0質量部であること特徴とする非水電解質二次電池の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の非水電解質二次電池の製造方法において、
前記イソシアネート化合物が、イソシアネート基を2以上有する化合物であり、
当該イソシアネート化合物を架橋剤として、非水電解質をゲル状ポリマー化する工程をさらに有することを特徴とする非水電解質二次電池の製造方法。
【請求項4】
正極と、負極と、両電極間に介在するセパレータとを有する電極体と、非水溶媒と電解質塩を有する非水電解質と、を外装体内に挿入した非水電解質二次電池において、
前記非水溶媒は、比誘電率が30以上の溶媒が50体積%以上であり、
前記非水電解質は、アルキル基誘導体構造又はフェニル基誘導体構造と、エチレンオキサイド構造と、ウレタン構造と、を併せ持つ化合物を有することを特徴とする非水電解質二次電池。
【請求項5】
請求項4に記載の非水電解質二次電池において、
前記アルキル基誘導体又はフェニル基誘導体に含まれる炭素数が4以上11以下であることを特徴とする非水電解質二次電池。
【請求項6】
請求項4又は5に記載の非水電解質二次電池において、
前記外装体が、金属層と樹脂層とを積層したフィルムからなることを特徴とする非水電解質二次電池。


【公開番号】特開2007−200695(P2007−200695A)
【公開日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−17478(P2006−17478)
【出願日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【Fターム(参考)】