説明

非水電解質二次電池用正極の製造方法及び非水電解質二次電池の製造方法

【課題】サイクル特性に優れた非水電解質二次電池用正極を提供する。
【解決手段】正極集電体1上に、正極活物質と活物質導電剤と活物質結着剤とを有する正極合剤層2を形成する正極合剤層形成工程と、被覆層導電剤と被覆層結着剤とが分散媒中に分散された分散液5に、正極合剤層2が形成された正極集電体1と、対極3と、を浸漬し、前記正極集電体1と前記対極3との間に直流電圧を印加することにより、前記正極合剤層2上に前記被覆層導電剤と前記被覆層結着剤とを堆積させた後、前記分散媒を除去して被覆層を形成する被覆層形成工程と、を備え、前記被覆層導電剤と前記被覆層結着剤とは、前記分散媒中において同一極性に帯電することを特徴とする非水電解質二次電池用正極の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質二次電池の正極の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
非水電解質二次電池は、高いエネルギー密度を有し、高容量であるため、携帯機器の駆動電源として広く利用されている。また、非水電解質二次電池は、電動工具、電動アシスト自転車、電気自動車(EV、HEV)等の高出力を必要とする用途に使用されるようになっている。
【0003】
非水電解質二次電池の正極活物質には、リチウムコバルト複合酸化物等のリチウム遷移金属複合酸化物が用いられているが、リチウムコバルト複合酸化物は導電性が低いため、炭素材料等からなる導電剤を混合させたり、正極表面に導電性の被覆層を形成したりして、正極としての導電性を高めることが行われている。
【0004】
このような被覆層に関する技術としては、下記特許文献1〜5が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007-176070号公報
【特許文献2】特開2006-179320号公報
【特許文献3】特開2002-121697号公報
【特許文献4】特開2000-331686号公報
【特許文献5】特開2000-208135号公報
【0006】
特許文献1は、樹脂粒子と、当該樹脂粒子の表面に付着した導電性粒子とを有する複合粒子が、当該複合粒子の表面の樹脂同士が溶融接着されて、積層構造を形成してある導電性複合膜を開示している。この技術によると、燃料電池に適した高い導電性を有する導電性複合膜を得られるとされる。
【0007】
特許文献2は、少なくとも活物質を含有する活物質層中間体の空隙内に、導電性付与材料を追加することにより電極活物質層を形成することを開示している。この技術によると、電極活物質層内の導電性を向上できるとされる。
【0008】
特許文献3は、電気泳動によって、分散液中に含まれるフッ素樹脂微粒子を主体とするガス拡散電極材料を、導電性基材の表面に析出させたフッ素樹脂含有多孔質体を開示している。この技術によると、燃料電池等に用いられるガス拡散電極に適したフッ素樹脂含有多孔質体を得られるとされる。
【0009】
特許文献4は、正極活物質層や負極活物質層の表面に炭素材料、金属粉末又は導電性セラミックなどからなる導電性材料の層を設けることを開示している。この技術によると、サイクル寿命特性を向上できるとされる。
【0010】
特許文献5は、リチウムイオンを可逆的に吸蔵放出するリチウム遷移金属複合酸化物、導電剤および結着剤を含む合剤を備えた多孔構造中に炭素材料からなる層を設けた非水電解質電池用正極を開示している。この技術によると、正極活物質の充電深度が不均一であることによって負極板表面に金属リチウムが析出することを防止できるとされる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上記特許文献1,3にかかる技術は、燃料及び酸化剤を供給しながら発電する燃料電池に用いる電極に適用する技術であり、電位差を利用して発電する非水電解質二次電池用電極にそのまま適用することはできない。また、上記特許文献2,4,5にかかる技術では、正極表面に均一で且つ厚みの薄い導電性被覆層を形成することが困難であるという問題があった。導電性被覆層が不均一な場合には、導電性の高い正極集電体からの距離が遠い正極表面付近の電子伝導性が不均一となるため、正極集電体と水平方向に対して正極内の電気化学反応にばらつきが生じ、局所的に正極活物質が劣化した部分が生じてしまう。そして、劣化した正極活物質により正極の均一な電気化学反応がさらに阻害され、正極活物質の劣化が促進されるので、サイクル劣化が生じやすいという問題がある。また、導電性被覆層が不均一であると、導電性被覆層の非水電解質保持能力が不十分となりやすく、正極の非水電解質不足に起因するサイクル劣化も起き易くなる。さらに、導電性被覆層の厚みが厚いと、正極表面での電気化学反応が阻害されて放電特性を低下させるおそれがある。
【0012】
本発明は、上記に鑑みなされたものであって、均一な導電性被覆層を備える非水電解質二次電池用正極及びこれを用いてなる非水電解質二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するための第1の本発明は、次のように構成されている。
正極集電体上に、正極活物質と活物質導電剤と活物質結着剤とを有する正極合剤層を形成する正極合剤層形成工程と、被覆層導電剤と被覆層結着剤とが分散媒中に分散された分散液に、正極合剤層が形成された正極集電体と、対極と、を浸漬し、前記正極集電体と前記対極との間に直流電圧を印加することにより、前記正極合剤層上に前記被覆層導電剤と前記被覆層結着剤とを堆積させた後、前記分散媒を除去して被覆層を形成する被覆層形成工程と、を備え、前記被覆層導電剤と前記被覆層結着剤とは、前記分散媒中において同一極性に帯電することを特徴とする非水電解質二次電池用正極の製造方法。
【0014】
この構成では、分散媒中で同一極性の電荷を帯びた被覆層導電剤と被覆層結着剤とを、直流電圧の印加により正極合剤層表面に移動(電気泳動)させて堆積させ、その後分散媒を除去することにより、導電性を有する被覆層を形成している。この方法では、印加電圧や印加時間を制御することにより、形成される被覆層の厚みを制御でき、且つ被覆層を均一に形成することができる。均一で厚みの薄い導電性の被覆層を有する正極は、正極合剤層の表面付近、つまり正極集電体からの距離が遠い部分において、正極集電体と水平方向における電子伝導性が均一化するので、正極合剤層表面付近の正極活物質の充電・放電深度にバラツキが生じなくなる。これにより、局所的な正極活物質の劣化が生じることがなくなる。
【0015】
また、均一で厚みの薄い導電性被覆層を有する正極は保液性に優れ、内部に十分に非水電解質を保持することができる。上記構成では、正極活物質表面に十分な量の非水電解質が存在し、正極においてスムーズな電気化学反応が進行するので、正極反応がより均一となる。上記第1の本発明の構成では、正極表面付近の電子伝導性の均一化と、優れた保液性と、が相乗的に作用して、サイクル特性を飛躍的に向上させることができる。また、被覆層の厚みを薄くできるので、正極表面での電気化学反応が阻害されるおそれがない。
【0016】
ここで、電気泳動に伴う電圧や電流によって分散媒が分解すると、均一で厚みの薄い被覆層を形成することが難しくなる。これを防止するため、分散媒として非プロトン系有機溶媒を用いることが好ましい。中でも、アセトン及び/又はN−メチルピロリドンを用いることがより好ましい。
【0017】
また、被覆層導電剤としては、難黒鉛化性炭素、人造黒鉛、天然黒鉛、コークス、ガラス状炭素、炭素繊維、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、またはこれらの焼成体の一種あるいは複数種混合した炭素材料などが使用できる。中でも、アセチレンブラックを用いることがより好ましい。また、活物質導電剤として、被覆層導電剤で例示したものを用いることができる。
【0018】
また、被覆層導電剤のみでも被覆層の形成自体は可能であるが、被覆層と正極合剤層との密着性が十分ではなく、被覆層の崩落が生じてしまう。このため、被覆層導電剤に加えて被覆層結着剤を用いる必要がある。被覆層結着剤は、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフロオロエチレン(PTFE)、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、またはこれらの共重合体等のフッ素系樹脂を単独又は複数種混合して使用できる。中でも、ポリフッ化ビニリデンを用いることがより好ましい。また、活物質結着剤として、被覆層結着剤で例示したものを用いることができる。
【0019】
ポリフッ化ビニリデンは、分子量が小さすぎると極板との密着性が低下し、また分子量が大きすぎると溶媒との膨潤性が低下する。このため、重量平均分子量が12万から100万のものを用いることが好ましい。
【0020】
また、電気泳動により、正極合剤層表面に均一に被覆層導電剤と被覆層結着剤とを堆積させるためには、被覆層導電剤と被覆層結着剤との分散性の高い分散液を用いることが好ましい。例えば、被覆層結着剤を膨潤させた分散媒に被覆層導電剤を加えて、高速で攪拌する手法や超音波照射を行う手法では、互いを均一に分散させることが難しい。これに対し、ビーズミルやボールミルのように、機械的に互いを衝突させ剪断応力を加える混合手法を用いると、被覆層導電剤と被覆層結着剤とがより均一に分散されたスラリー状の分散液を作製することが容易となる。この手法を用いる場合、分散媒に膨潤させた被覆層結着剤と被覆層導電剤とを混合(湿式混合)することが好ましく、湿式混合における固形分比率は高い方が好ましい。その後、電気泳動時には、正極合剤層に被覆層を形成するために最適な固形分比率となるように、適宜分散媒を追加して固形分比率を下げる。ここで、被覆層結着剤と被覆層導電剤とを混合、均一分散させる際には、分散液全体(分散媒+被覆層結着剤+被覆層導電剤)に対する固形分(被覆層結着剤+被覆層導電剤)の質量比率は、が8〜30質量%であることが好ましい。その後、電気泳動堆積時には、固形分比率が0.4〜2質量%になるように、分散媒を加えることが好ましい。
【0021】
また、被覆層結着剤と被覆層導電剤との質量混合比は、1:0.5〜1:2であることが好ましい。
【0022】
また、電気泳動の際に用いる対極には、容易にイオン化しない金属、合金等を用いることが好ましく、たとえば白金や黒鉛を用いる。
【0023】
また、印加電圧は、分散媒の分解抑制の観点から、直流電圧で10〜200Vであることが好ましい。また、極板間距離が近すぎると接触のおそれがあり、遠すぎると電気泳動の効率が低下するため、極板間距離は5〜50mmであることが好ましい。電気泳動時の温度は、泳動を一定にするために、0〜30℃で均一に保つことが好ましい。
【0024】
また、電気泳動の電圧印加時間は10秒から100分であることが好ましい。また、形成される被覆層の厚みが薄過ぎると、均一に正極合剤層表面を覆うことが出来ず、被覆層の効果が十分に得られない。また、被覆層が厚すぎると、正極表面での電気化学反応を阻害するおそれがある。よって、被覆層の厚みは、0.1〜10μmであることが好ましい。
【0025】
ここで、正極合剤層が形成された正極集電体(非水電解質二次電池用正極)を、分散媒中の被覆層結着剤及び被覆層導電剤とは逆の極性となるように、対極との間に電圧を印加することにより、正極合剤層上に電気泳動堆積による被覆層を形成することができる。しかしながら、非水電解質二次電池用正極側がマイナスとなるように電圧をかけて電気泳動を行うと、正極材料にダメージを及ぼすおそれがある。このため、非水電解質二次電池用正極にはプラスの電圧を印加し、被覆層結着剤、被覆層導電剤及び分散媒は、被覆層結着剤及び被覆層導電剤が分散媒中においてマイナスに帯電するものを用いることが好ましい。具体的には、被覆層結着剤としてのフッ素系樹脂と、被覆層導電剤とを、剪断応力を加えながら非プロトン系有機溶媒からなる分散媒中に均一に分散させた分散溶液を使用すると、被覆層結着剤及び被覆層導電剤が分散媒中でマイナスに帯電することになる。このため、被覆層結着剤としてはフッ素系樹脂を使用することが特に好ましい。
【0026】
上記課題を解決するための第2の本発明は、上記第1の本発明にかかる非水電解質二次電池用正極の製造方法を備える非水電解質二次電池の製造方法である。
【発明の効果】
【0027】
上記で説明したように、本発明によると、サイクル特性に優れた非水電解質二次電池を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】図1は、電気泳動堆積方法を説明する図面である。
【図2】図2は、実施例1にかかる非水電解質二次電池の概略図であって、図2(a)は電極体の極板構成を示し、図2(b)非水電解質二次電池の外観を示す。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明を実施するための形態を、以下の実施例を通じて、詳細に説明する。なお、本発明は下記の形態に限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲において適宜変更して実施することができる。
【0030】
(実施例)
[実施例1]
〔正極の作製〕
正極活物質としてのリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物(LiNi0.5Co0.25Mn0.25)90質量部と、活物質導電剤としての炭素粉末5質量部と、活物質結着剤としてのポリテトラフルオロエチレン5質量部と、N−メチル−2−ピロリドンとを混合して、正極活物質スラリーとした。この正極活物質スラリーをドクターブレード法により厚み15μmのアルミニウム製集電体の両面に塗布し、乾燥させた後、ローラプレス機により圧延し、10×50mmのサイズに裁断して、正極集電体1と正極合剤層2とを有する正極板を得た。
【0031】
(被覆層形成工程)
被覆層結着剤としての重量平均分子量が30万のポリフッ化ビニリデン(PVDF)が分散媒としてのアセトン中に分散された分散溶液(ポリフッ化ビニリデン濃度が7質量%)を、400rpmの回転速度で攪拌しながら、被覆層導電剤としての比表面積が80m/gのアセチレンブラックを徐々に加えて混合した。このとき、PVDFとアセチレンブラックとの質量比が1:1となるようにした。その後、上記混合液を、ビーズミルを用いて剪断応力を加えながら混合することにより、PVDFとアセチレンブラックが均一に分散された電気泳動堆積用のプレ溶液を得た。プレ溶液の固形分比率(プレ溶液全体に対するPVDFとアセチレンブラックとの合計比率)は11質量%とした。
【0032】
その後、固形分比率が0.8質量%になるようにアセトンを加えて薄めて、電気泳動堆積用分散液5を調製した。そして、図1に示すように、上記分散液5を浴槽4内に入れ、正極と対極3とを分散液に浸漬した。このとき、正極板の正極合剤層2が形成されている部分のみが分散液5に漬かるようにした。この後、正極集電体1及び対極(白金電極)3と、直流電源6とを接続し、直流電圧を印加して電気泳動堆積を行った。電気泳動堆積条件は、正極集電体1がプラス、対極3がマイナスとなるように電圧を印加し、印加電圧を100V、印加時間を120秒、正極合剤層2と対極3との距離を10mmとした。アセトン中では、PVDF及びアセチレンブラックはともにマイナスに帯電するので、プラスに帯電した正極合剤層2表面にPVDF及びアセチレンブラックが堆積する。この後、分散液から正極板を引き上げ、110℃で2分間処理して分散媒としてのアセトンを除き、表面に被覆層が形成された正極11を得た。なお、被覆層の厚みは、4μmであった。
【0033】
〔負極の作製〕
天然黒鉛粉末95質量部と、ポリフッ化ビニリデン5質量部と、N−メチル−2−ピロリドンと、を混合して、負極活物質スラリーとした。この負極活物質スラリーをドクターブレード法により厚み15μmの銅製集電体の両面に塗布し、乾燥させた後、ローラプレス機により圧延し、20×60mmのサイズに裁断して負極12を得た。なお、この負極は、1つの電池あたり2枚用いる。
【0034】
なお、充電時の黒鉛の電位はLi基準で0.1Vである。また、正極及び負極の活物質充填量は、設計基準となる正極活物質の電位において、正極と負極の充電容量比(負極充電容量/正極充電容量)が1.20となるように調製した。
【0035】
〔電極体の作製〕
上記正極11及び負極12に、それぞれ集電タブ11a、12aを取り付けた。図2(a)に示すように、正極11と、2枚の負極12と、2枚のポリプロピレン製微多孔膜からなるセパレータ13と、2枚のガラス板14とを、ガラス板14/負極12/セパレータ13/正極11/セパレータ13/負極12/ガラス板14の順で重ね合わせて電極体を作製した。
【0036】
〔非水電解質の調整〕
エチレンカーボネートとジメチルカーボネートを質量比3:7で混合し、電解質塩としてのLiPFを1.0M(モル/リットル)となるように溶解して、非水電解質となした。
【0037】
〔電池の組み立て〕
上記電極体16を、ラミネート樹脂フィルムからなる外装体15に挿入し、上記の電解液を注液し、外装缶の開口部分を超音波溶着により封止して封止部15aを形成して、実施例1に係る電池を作製した(図2(b)参照)。なお、実施例1に係る非水電解質二次電池の設計容量は40mAhである。
【0038】
[実施例2]
被覆層形成工程を次のように行ったこと以外は、上記実施例1と同様にして、実施例2にかかる非水電解質二次電池を作製した。
【0039】
(被覆層形成工程)
被覆層結着剤としての重量平均分子量が30万のポリフッ化ビニリデン(PVDF)が分散媒としてのN−メチルピロリドン(NMP)中に分散された分散液(ポリフッ化ビニリデン濃度が10質量%)を400rpmの回転速度で攪拌しながら、被覆層導電剤としての比表面積が80m/gのアセチレンブラックを徐々に加えて混合した。このとき、PVDFとアセチレンブラックとの質量比が1:1となるようにした。その後、上記混合液を、ビーズミルを用いて剪断応力を加えながら混合することにより、PVDFとアセチレンブラックが均一に分散された電気泳動堆積用のプレ溶液を得た。その際、固形分比(プレ溶液全体に対するPVDFとアセチレンブラックとの合計比率)は17質量%とした。
【0040】
その後、固形分比率が0.8質量%になるようにNMPを加えて薄めて、電気泳動堆積用分散液5を調製した。そして、図1に示すように、上記分散液5を浴槽4内に入れ、正極と対極3とを分散液に浸漬した。このとき、正極板の正極合剤層2が形成されている部分のみが分散液5に漬かるようにした。この後、正極集電体1及び対極(白金電極)3と、直流電源6とを接続し、直流電圧を印加して電気泳動堆積を行った。電気泳動堆積条件は、正極集電体1がプラス、対極3がマイナスとなるように電圧を印加し、印加電圧を110V、印加時間を100秒、正極合剤層2と対極3との距離を10mmとした。NMP中では、PVDF及びアセチレンブラックはともにマイナスに帯電するので、プラスに帯電した正極合剤層2表面にPVDF及びアセチレンブラックが堆積する。この後、分散液から正極板を引き上げ、110℃で2分間処理して分散媒としてのNMPを除き、表面に被覆層が形成された正極11を得た。なお、被覆層の厚みは、4μmであった。
【0041】
[比較例1]
電気泳動堆積用のプレ溶液を、ドクターブレードを用いて正極合剤層表面に塗布し、アセトンを揮発除去して被覆層を形成したこと以外は、上記実施例1と同様にして、比較例1にかかる非水電解質二次電池を作製した。なお、被覆層の厚みは、4μmとした。
【0042】
[比較例2]
電気泳動堆積用のプレ溶液を、ドクターブレードを用いて正極合剤層表面に塗布し、NMPを揮発除去して被覆層を形成したこと以外は、上記実施例2と同様にして、比較例2にかかる非水電解質二次電池を作製した。なお、被覆層の厚みは、4μmとした。
【0043】
[比較例3]
被覆層を形成していない正極板を正極として用いたこと以外は、上記実施例1と同様にして、比較例3にかかる非水電解質二次電池を作製した。
【0044】
[表面粗さ測定]
上記実施例1,2、比較例1,2と同一の条件でそれぞれ正極を作製し、キーエンス製レーザー顕微鏡(VK−9700)を用いて、被覆層表面の表面粗さを測定した。この結果を下記表1に示す。表面粗さのパラメータとしては、算術平均粗さRa(基準面から測定曲面までの偏差の絶対値を合計し平均した値)を用いた。
【0045】
[保液性の測定]
上記実施例1,2、比較例1〜3と同一の条件で正極を作製した。この正極を、ジエチルカーボネートを用いて洗浄し、その後乾燥させた。この後、それぞれの正極の質量を一定にそろえ、上記非水電解質に完全に液を吸うまで浸漬させ、このときの質量を測定した。その後、5kN/cmの一定圧力で30秒加圧して液を染み出させ、このときの質量を測定した。そして、以下の式により保液性を算出した。この結果を下記表1に示す。
【0046】
保液性(%)=加圧後に残存している液量÷完全に液を吸わせた時の液量×100
【0047】
[高負荷サイクル特性試験]
上記実施例1,2、比較例1〜3と同一の条件で電池を作製した。その後、各電池を、25℃の温度環境で、定電流充電(電流40mA、終止電圧4.2V)−定電圧充電(電圧4.2V、終止電流0.8mA)した後、電流値400mAで2.50Vまで放電した。この充放電サイクルを500サイクル行った。そして、以下の式により高負荷サイクル特性を算出した。この結果を下記表1に示す。
【0048】
高負荷サイクル特性(%)=1サイクル目放電容量÷500サイクル目放電容量×100
【0049】
【表1】

【0050】
表1に示すように、電気泳動堆積により被覆層を形成した実施例1,2は、保液性が71%、68%、高負荷サイクル特性が75%、70%と、ドクターブレードを用いて被覆層を塗布形成した比較例1,2の保液性53%、55%、高負荷サイクル特性59%、61%よりも高いことがわかる。また、被覆層を設けない正極を用いた比較例3は、保液性が49%、高負荷サイクル特性が51%と、比較例1,2よりもさらに劣っていることがわかる。
【0051】
このことは、次のように考えられる。被覆層を形成していない比較例3は、被覆層による保液性向上効果が得られないため、保液性が顕著に低くなる。また、被覆層導電剤を有する被覆層を形成していないため、正極合剤層の表面付近(正極集電体からの距離が遠い部分)の導電性が低いため、正極合剤層の表面付近において、正極集電体と水平方向の電子伝導性がばらつき、充電・放電深度にバラツキが生じ易くなる。このため、局所的に正極活物質が劣化した部分が生じてしまう。劣化した正極活物質により正極の均一な充放電反応が阻害され、正極の劣化がさらに促進される。高負荷放電を行う場合には、このような正極の劣化が生じやすいため、高負荷サイクル特性が顕著に低下する。
【0052】
また、電気泳動堆積法を用いて正極表面に被覆層を形成した実施例1,2は、被覆層の算術平均粗さ(Ra)が0.7,0.6と、ドクターブレード法を用いて被覆層を塗布した比較例1,2の1.3,1.4よりも小さい。算術平均粗さ(Ra)が小さいことは、表面が平滑で均一であることを意味する。表面が平滑で均一な被覆層は、被覆層導電剤と被覆層結着剤との間の隙間空隙が均一に存在するため、正極の保液性が向上する。また、表面が平滑で均一な被覆層により正極合剤層の表面付近の導電性が向上するため、正極合剤層の表面付近において、正極集電体と水平方向の電子伝導性がばらつくことがない。このため、上記比較例3のような問題が生じることがなく、且つ正極内部に十分に保持された非水電解質により、スムーズな充放電反応が行われる。これらの相乗作用により、高負荷サイクル特性が飛躍的に向上する。
【0053】
これに対し、比較例1,2では、被覆層の表面が実施例1,2よりも粗いために、保液性及び正極合剤層の表面付近の導電性向上効果が実施例1,2よりも小さくなる。このため、高負荷サイクル特性は、比較例3よりは優れるものの、実施例1,2よりも劣ったものとなる。
【0054】
(追加事項)
正極活物質としては、リチウム遷移金属複合酸化物やオリビン構造を有するリチウム遷移金属リン酸化合物等を用いることが好ましい。リチウム遷移金属複合酸化物としては、リチウムコバルト複合酸化物、リチウムニッケル複合酸化物、スピネル型リチウムマンガン複合酸化物や、これらの化合物に含まれる遷移金属元素の一部を他の金属元素に置換した化合物が好ましい。また、オリビン構造を有するリチウム遷移金属リン酸化合物としては、リン酸鉄リチウムが好ましい。これらを単独で用いることができ、又は複数種混合して用いることもできる。また、正極に炭酸リチウム等の公知の添加剤を添加してもよい。
【0055】
負極活物質としては、炭素材料、チタン酸化物、半金属元素、合金等を用いることが好ましい。炭素材料としては、天然黒鉛、人造黒鉛、難黒鉛化性炭素等が好ましい。チタン酸化物としては、LiTiO、TiO等が好ましい。半金属元素としては、ケイ素・スズ等が好ましい。合金としては、Sn−Co合金等が好ましい。これらを単独で用いることができ、又は複数種混合して用いることもできる。
【0056】
更に、非水電解質の溶媒としては、プロピレンカーボネート・エチレンカーボネート・ブチレンカーボネート・ビニレンカーボネートに代表される環状カーボネート、γ−ブチロラクトン・γ−バレロラクトンに代表されるラクトン、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、メチルエチルカーボネートに代表される鎖状カーボネート、テトラヒドロフラン・1,2−ジメトキシエタン・ジエチレングリコールジメチルエーテル・1,3−ジオキソラン・2−メトキシテトラヒドロフラン・ジエチルエーテルに代表されるエーテル等を単独で、あるいは二種以上混合して用いることができる。また、非水電解質の電解質塩としては、LiPF、LiAsF、LiClO、LiBF、LiCFSO、LiN(CFSO等を用いることができる。
【産業上の利用可能性】
【0057】
以上に説明したように、本発明によれば、正極表面に良好な導電性と非水電解質保持機能とを有する被覆層を形成でき、これにより電池のサイクル特性を飛躍的に高めることができる。よって、産業上の利用可能性は大きい。
【符号の説明】
【0058】
1:正極集電体
2:正極合剤層
3:対極(白金電極)
4:浴槽
5:分散液
6:直流電源
11:正極
11a:正極タブ
12:負極
12a:負極タブ
13:セパレータ
14:ガラス板
15:ラミネート外装体
15a:封止部
16:電極体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極集電体上に、正極活物質と活物質導電剤と活物質結着剤とを有する正極合剤層を形成する正極合剤層形成工程と、
被覆層導電剤と被覆層結着剤とが分散媒中に分散された分散液に、正極合剤層が形成された正極集電体と、対極と、を浸漬し、前記正極集電体と前記対極との間に直流電圧を印加することにより、前記正極合剤層上に前記被覆層導電剤と前記被覆層結着剤とを堆積させた後、前記分散媒を除去して被覆層を形成する被覆層形成工程と、
を備え、
前記被覆層導電剤と前記被覆層結着剤とは、前記分散媒中において同一極性に帯電する、
ことを特徴とする非水電解質二次電池用正極の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の非水電解質二次電池用正極の製造方法において、
前記分散媒が非プロトン性有機溶媒であり、
前記被覆層導電剤が炭素材料であり、
前記被覆層結着剤がフッ素系樹脂である
ことを特徴とする非水電解質二次電池用正極の製造方法。
【請求項3】
請求項2に記載の非水電解質二次電池用正極の製造方法において、
前記非プロトン性有機溶媒は、アセトン及び/又はN−メチルピロリドンであり、
前記炭素材料がアセチレンブラックであり、
前記フッ素系樹脂がポリフッ化ビニリデンである、
ことを特徴とする非水電解質二次電池用正極の製造方法。
【請求項4】
請求項1、2又は3に記載の非水電解質二次電池用正極の製造方法を備える非水電解質二次電池の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−216242(P2011−216242A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−81375(P2010−81375)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【Fターム(参考)】