説明

非水電解質二次電池用正極板の製造法及び非水電解質二次電池

【課題】 正極活物質の水性ペーストをアルミニウム箔などの集電用基板に塗布し、塗工層を形成するに当たり、該塗工層により該集電用基板が腐食することなく、該集電用基板に密着した良好な正極板を確実に且つ簡単な作業で且つ低コストで製造し得る非水電解質二次電池用正極板の製造法を提供する。
【解決手段】 所望の正極活物質を水性溶媒を用い合剤と共に混練して成る水性ペーストのpHを測定した後、pH6〜10の水性ペーストを集電用基板上に塗布し、該第一塗工層上にpH11以上の水性ペーストを塗布し、第二塗工層を形成し、次いでこれらの積層塗工層を乾燥する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質二次電池用正極板の製造法及び非水電解質二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、エレクトロニクス分野の急速な進展により、電子機器の高性能化、小型化、ポータブル化が進み、これらに使用される再充電可能な高エネルギー密度二次電池の要求が強まっている。これらの電子機器に搭載される二次電池としては、ニカド電池、ニッケル-水素電池などが挙げられるが、更に高いエネルギー密度を有するものが要求され、最近、その要求に応じるべく、金属リチウムやリチウム合金、或いは電気化学的にリチウムイオンを吸蔵・放出できる炭素材料、リチウム合金などを負極活物質として用いた負極と、リチウム含有複合酸化物、カルコゲン化合物などの正極活物質として用いた正極とを組み合わせた非水電解質二次電池であるリチウム二次電池が研究・開発され、その一部が実用化されている。
この種の電池は電池電圧が高く、また上記従来の電池に比べて重量及び体積当たりのエネルギー密度が大きく今後最も期待される二次電池といわれており、上記の用途の他、最近電力貯蔵用途や電気自動車などの大容量の大型電池への適用も盛んに検討されている。
従来、非水電解質二次電池用正極板は、正極活物質を導電剤などの共に有機溶媒又は水性溶媒で混練し、得られるペーストをアルミニウム箔の集電体に塗布し、乾燥して製造することが一般であるが、有機溶媒を使用した場合は、環境を配慮して有機溶媒を回収しなければならない手間を要すると共に製造コストが高くなり、更には、可燃性であるため、防爆の配慮も必要となり煩わしい。
水性溶媒を使用する場合は、アルミ箔が、その上に塗布される正極活物質の水性ペーストと接触し、腐食するので、下記のように種々の防腐手段が提案されている。例えば、特開平8-69791号公報には、LiCoO2,LiNiO2,LiMnO2又はLiMn2O4から成る正極活物質と増粘剤を混練した水性ペースト中に炭酸ガスを通気させ該ペーストのpH7〜11に中和した後、アルミニウム箔に塗布することにより、塗布時のアルミニウム箔の腐食を軽減するようにした発明が開示されている。
特開2003-157836号公報には、上記の特開平8-69791号公報の発明の課題を解決するため、正極活物質ペーストと水との反応を抑制するカーボン、PTFE又は導電性ポリマーから成る保護被膜を有する正極活物質を用いることにより、正極活物質(LiMexOy)からのリチウムの離脱を抑えることができ、リチウムの離脱によるその組成や結晶構造の変化を防止し、活物質ペーストとリチウム電池用正極の製造法その正極の発明が開示されている。
また、特開2003-157852号公報にも、特開平8-69791号公報の発明の課題を解消するため、正極活物質ペーストとの反応を抑制すると共に電気伝導性を有する酸化アルミニウム、カーボンとバインダー又は導電性高分子から成る保護被膜を表面に有する集電体を用いることにより、正極活物質(LiMexOy)(Me:Ni,Co,Mnの少なくとも1種を含む遷移金属、x,y:任意)のペーストによる集電体の腐食が生じないリチウム電池用正極の製造方法とその正極の発明が開示されている。
一方、上記の正極板のように、集電用基板上に正極活物質ペーストを塗布した単一の塗工層から成る正極板では、エネルギーに限界があるため、複数種の正極活物質の夫々有機溶剤を用い合剤と共に混練して調製した夫々のペーストを集電用基板上に順次塗工し、その多層塗工層を乾燥し、エネルギーの向上、電池容量の向上をもたらすようにした多層型の正極板の製造方法の発明が、例えば、特開2007-355989号公報に記載されている。
【特許文献1】特開平8-69791号公報
【特許文献2】特開2003-157836号公報
【特許文献3】特開2003-157852号公報
【特許文献4】特開2007-35589号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし乍ら、特許文献1や特許文献2では、正極活物質の表面や集電用基板の表面に上記の保護被膜を夫々形成する加工工程とその煩わしさを要し、製造能率の低下や製造コストの増大をもたらす。
特許文献3及び4は、正極活物質を有機溶媒を用いてペーストを調製するため、前記したような課題を有し、また、これら文献3及び4の実施例で用いられているLMO活物質或いはLCO/LMO混合活物質を有機溶媒に代え、水性溶媒を用いてペーストを調製したものをアルミニウム箔に塗布し、その塗工層を形成したところ、塗布中にアルミニウム箔の腐食をもたらし、アルミニウム箔と正極活物質との界面に形成された不導電体層によりインピーダンスが上昇するなど、電池特性の劣化をもたらすことが判った。
これら水性ペーストのpHを測ったところ、pH12以上の強アルカリ性であった。従って、特許文献1又は2に従って、LMO活物質やLCO活物質に保護被膜を形成し、或いはアルミニウム箔に保護被膜を形成する加工を施せば、その塗布時の腐食問題は解決できるが、上記したように、その加工工程を要し、且つ正極の製造コストの増大をもたらす。
かかる課題に鑑み、本発明は、かかる課題を解消し、正極活物質の水性ペーストをアルミニウム箔などの集電用基板に塗布し、その塗工層が乾燥する迄の間に生ずる腐食を確実に防止し、複数層の塗工層から成る非水電解質二次電池用正極板を円滑且つ確実に製造し得る製造方法と該正極板を用いた電池特性の向上した非水電解質二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
更に本発明は、請求項1に記載の通り、所望の正極活物質を水性溶媒を用い合剤と共に混練して成る水性ペーストのpHを測定した後、pH6〜10の水性ペーストを集電用基板上に塗布し、第一塗工層を形成し、該第一塗工層上にpH11以上の水性ペーストを塗布し第2塗工層を形成し、次いでこれらの積層塗工層を乾燥することを特徴とする多層型の非水電解質二次電池用正極板の製造法に存する。
更に本発明は、請求項2に記載の通り、請求項1に係る発明において、リン酸鉄リチウム系材料又はマンガン酸リチウム系材料から成る正極活物質を水性溶媒を用い合剤と共に混練して成るpH6〜10の水性ペーストを集電用基板上に塗布して第一塗工層を形成し、該第一塗工層の上に、リチウム含有層状酸化物から成る正極活物質を合剤と共に混練して成るpH11以上の水性ペーストを塗布して第二塗工層を形成し、次いで、これらの積層塗工層を乾燥したことを特徴とする請求項2に記載の多層型の非水電解質二次電池用正極板の製造法に存する。
更に本発明は、請求項1〜2のいずれか1つの製造法で製造した正極板を用いた非水電解質二次電池に存する。
【発明の効果】
【0005】
請求項1に係る発明によれば、正極活物質の水性ペーストを集電用基板に塗布する前にそのpHを測定し、pH6〜10の弱アルカリ又は中性の水性ペーストを集電用基板に塗布するようにしたもので、塗布からその塗工層の乾燥までの間に生ずる集電用基板の腐食を防止し得られ、従って、インピーダンスの上昇などの電池特性の劣化を防止し得られ、良好な電池性能を長期に亘り維持する安定良好で安価な正極板を円滑且つ確実に製造することができる。
請求項1又は2に係る発明によれば、上記の効果に加え、pH11以上の強アルカリの水性ペーストを集電用基板を腐食させることなく塗布できると共に、電池容量の増大と放電容量維持率を長期に亘り向上し得る多層型の正極板を容易且つ安価に製造することができる。
請求項3に係る発明によれば、長期に亘り容量維持率を維持する非水電解質二次電池が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
従来、公知の正極活物質としては、リン酸鉄リチウム(LiFePO4)及びリン酸鉄リチウムの鉄の一部を他の遷移金属などの少なくとも1種の遷移金属で置換した複合酸化化合物(LiFe1-xMxPO4、但し、MはAl,Mg,Ti,Nb,Co,Ni,Mnなどの)少なくとも1種の遷移金属、0<x<0.3)から成るリン酸鉄リチウムの系の正極活物質、マンガン酸リチウム(LiMn2O4)及びマンガン酸リチウムのMnの一部をAl,Mg,Tiなどの少なくとも1種の遷移金属で置換した複合酸化物から成るマンガン酸リチウム系の正極活物質、コバルト酸リチウムLCO(LiCoO2)、ニッケル酸リチウムLNO(LiNiO2)、リチウムニッケルマンガンコバルト酸化物LNCMO(LiNiCoMnO)などのLi含有層状酸化層の正極活物質が好ましく使用されている。これら各種正極活物質は、夫々その組成成分に対応する原材料を配合し、公知の任意の湿式方法や乾式法で合成され、夫々合成された正極活物質に、Na又はKの残存の有無、残存量の多寡、正極活物質から遊離したLi量の多寡などにより、水性溶媒で合剤と共に混練して得られる夫々の水性ペーストはpH6の略中性からpH11以上の強アルカリ性までのpH値を異にするものが得られる。
【0007】
本願の発明者は、各種の正極活物質の水性ペーストを常法によりアルミニウム箔に塗布しその塗工層を形成し、乾燥後、該塗工層を観察し、更に該塗工層を除去し、該アルミニウム箔の表面の腐食の有無の検査を行ったところ、正極活物質ペーストのpHが10以下では腐食もなかった。pH11ではいくらか表面の腐食が見られた。pH12以上では多数の気孔の生成、塗工層の部分的浮き上がり、剥離が生じ、表面の腐食が顕著であった。
【0008】
上記の知見に基づき、本発明によれば、正極活物質の種類を問わず、これを水性溶媒で合剤と共に混練して成る水性ペーストをアルミニウム箔などの集電用基板に塗布する前に、予め、そのpHを測定し、pH10以下のものを該集電用基板に塗布するようにしたので、塗工層が集電用基板表面全面に強固に密着した、H2ガスによる気孔や浮き上がり、剥離のない塗工層が得られ、従って、製造ロスなく、円滑に且つ従来に比し短時間で且つ安価に安定良好な正極基板が得られた。かかる本発明の更に詳細な実施例は比較例と共に下記に明らかにする。
【0009】
一般に、正極活物質としては、LiFePO4を用いる場合、その一次粒子の粒径は1μm以下、好ましくは0.5μm以下が好ましい。更には、粒径0.5μm以下の粒子にカーボンをコーティングしたもの、或いは正極活物質とカーボンとのコンポジット(複合体)としたものが更に好ましい。これにより、正極活物質の導電性を良好にし、Liイオンのインターカレーションをし易くすることができる。
【0010】
かかる正極活物質を水性溶剤で導電剤などの合剤と共に混連し水性ペーストとするが、水性溶剤としては、水又は増粘剤を溶解した水を使用する。また、更に、集電用基板に塗布された活物質層の乾燥性や集電用基板との濡れ性を改良する目的で、アルコール系溶剤、アミン系溶剤、カルボン酸系溶剤、ケトン系溶剤などの水溶性溶剤を含んでいてもよい。
導電剤としては、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ファーネスブラック、炭素繊維、グラファイトなどの導電性カーボンや、導電性ポリマー、金属粉末などが挙げられるが、導電性カーボンが特に好ましい。これら導電剤は正極活物質100重量部に対して20重量部以下、好ましくは、10重量部以下を添加する。
水溶性増粘剤としては、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ポリエチレンオキサイドなどである。これら水溶性増粘剤は正極活物質100重量部に対して、好ましくは0.1〜4.0重量部以下、より好ましくは0.5〜3.0重量部以下添加する。水溶性増粘剤の量が、前記範囲を超えると二次電池の電池抵抗が増大して放電レート特性が低下し、逆に前記範囲が未満であると水性ペーストが凝集してしまう。前記水溶性増粘剤は水溶液の状態で用いてもよく、その際は0.5〜3.0重量%の水溶液にして用いることが好ましい。
また、結着剤として、例えばフッ素系結着剤やアクリルゴム、変性アクリルゴム、スチレン-ブタジエンゴム、アクリル系重合体、ビニル系重合体の単独或いはこれらの2種以上の混合物、又は共重合体として用いることができる。また、耐酸化性、少量で充分な密着性、極板に柔軟性が得られるためアクリル系重合体を用いることが好ましい。
【0011】
本発明は、各種の正極活物質を水性溶媒で上記の各種合剤と共に混練し、その水性ペーストを調製し、その水性ペーストを集電用基板に塗布する前に、夫々のpHを測り、pHが6〜10の範囲である水性ペーストであることを確認した場合には、アルミニウム箔などの集電用基板に塗布し、第一塗工層の形成に用いるようにし、pHが11以上の水性ペーストであることを確認した場合には、該集電用基板上への塗布を回避し、前記の第一塗工層上に塗布し、第二塗工層の形成に用い、更には、第三塗工層、第四塗工層、第五塗工層の形成に用いるようにし、かくして、次いで、乾燥工程を経て集電用基板の腐食を抑制された安定良好な単層型の正極板又は多層型の正極板の製造を簡易且つ低コストで製造することができるようにした。
【0012】
このように、正極活物質を水溶性溶媒で上記の各種の選択された合剤と共に混練するには、プラネタリーミキサー、ディスパーミキサー、ビーズミル、サンドミル、超音波分散機、ホモジナイザー、ヘンシェルミキサーなどのペースト分散機から選択使用する。
【0013】
尚、上記の正極板の製造において、乾燥工程後、その単層又は多層の塗工層の上面を平板プレス若しくはロールプレスでプレスすることが好ましく一般である。
また、多層型の正極板の製造においては、第一塗工層の塗布厚みはできる限り薄くすることが好ましいが、あまり薄くしすぎると、第二塗工層の水性ペーストが浸透し、集電用基板の腐食を誘発することのないように比較的厚めに形成することが好ましい。
また、第二塗工層の塗布量は第一塗工層のそれよりも厚く塗布することが好ましい。高容量化を目的として形成される第二塗工層が薄いと電池エネルギー密度を充分に上げることができない。
多層型の正極板の製造において、塗工層の層数は、特に制限されないが、低コストやハイレート特性が得られ易い観点から五層以下、好ましくは、二層乃至三層であることがより好ましい。
【0014】
集電用基板としては、アルミニウム、銅、ニッケル、ステンレスなどの金属箔が使用でき、公知のように、アルミニウム箔が一般に好ましく使用される。
正極活物質の水性ペーストの該集電用基板上へ或いは第二塗工層以上の塗工には、スロットダイコート、スライドダイコート、ディップコートなどから選択したダイコート法を用いることが一般である。
【0015】
本発明により製造した正極板は、負極板と組み合わせて電池特性の向上した非水電解質二次電池を製造するが、その負極板の活物質としては、リチウムをドープ、脱ドープできるものを使用すればよい。例えば、熱分解炭素類、ピッチコークス、ニードルコークス、石油コークスなどのコークス類、グラファイト類、ガラス状炭素類、有機高分子化合異物焼結体(フェノール樹脂、フラン樹脂などを適当な温度で焼結して炭素貸したもの。)、炭素繊維、活性炭などの炭素繊維、或いは金属リチウム、リチウム合金やSn系化合物などの合金系材料、チタン酸リチウム、その他ポリアセチレン、ポリビニール等のポリマーも使用することができる。
【0016】
これらから選択した所望の負極活物質を用いて負極板を製造するには、その所望の負極活物質を結着剤と必要に応じて導電助剤を分散媒に混練分散させて得られる負極ペーストを集電体に塗布し、乾燥・圧延して負極板を作製する。負極用集電用基板としては、例えばアルミニウム、銅、ニッケル、ステンレスなどの金属箔を用いる。
【0017】
負極活物質としては、リチウムをドープ、脱ドープできるものを使用すればよい。例えば、熱分解炭素類、ピッチコークス、ニードルコークス、石油コークスなどのコークス類、グラファイト類、ガラス状炭素類、有機高分子化合異物焼結体(フェノール樹脂、フラン樹脂などを適当な温度で焼結して炭素化したもの。)、炭素繊維、活性炭などの炭素繊維、或いは金属リチウム、リチウム合金やSn系化合物などの合金系材料、チタン酸リチウム、その他ポリアセチレン、ポリビニール等のポリマーも使用することができる。これらの負極活物質と結着剤、必要に応じて導電助剤を水性溶媒で混練させて負極用ペーストを調製し、これを集電用基板に塗布し、乾燥、圧延して負極板を作製する。
【0018】
負極用集電用基板としては、例えば銅、ニッケル、ステンレスなどがあるが銅箔やアルミニウム箔が好ましい。
【0019】
非水電解質としては、特に制限されないが、非水電解液が好ましい。非水電解液は、従来から一般的にリチウム二次電池に使用されているものが制限なく使用される。例えば、LiClO4、LiBF4、LiPF6、LiAsF6、LiCl、LiBr等の無機リチウム塩、LiBOB、LiB(C6H5)4、LiN(SO2CF3)2、LiC(SO2CF3)3、LiOSO2CF3等の有機リチウム塩の少なくとも一種を、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、γ-ブチロラクトン、ビニレンカーボネート、2メチル-γ-ブチロラクトン、アセチル-γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン等の環状エステル類、テトラヒドロフラン、アルキルテトラヒドロフラン、ジアルキルテトラヒドロフラン、アルコキシテトラヒドロフラン、ジアルコキシテトラヒドロフラン、1,3-ジオキソラン、アルキル-1,3-ジオキソラン、1,4-ジオキソラン等の環状エーテル類、1,2-ジメトキシエタン、1,2-ジエトキシエタン、ジエチルエーテル、エチレングリコールジアルキルエーテル、ジエチレングリコールジアルキルエーテル、トリエチレングリコールジアルキルエーテル、テトラエチレングリコールジアルキルエーテル等の鎖状エーテル類、ジメチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、ジエチルカーボネート、プロピオン酸アルキルエステル、マーロン酸ジアルキルエステル、酢酸アルキルエステル等の鎖状エステル類から選択した少なくとも一種の溶媒に溶解したものが挙げられる。特に、LiBF4、LiPF6又はLiBOB、或いはこれらの混合物を上記の少なくとも一種以上の有機溶媒に溶解したものが好ましい。
【0020】
セパレータとしては、上記の非水電解液成分に不溶であれば特に限定されないが、ポリプロピレン、ポリエチレンなどのポリオレフィン系の微多孔性フィルムの単層体、或いは多層体が用いられるが、特に多層体が好ましい。
【0021】
上記の本発明の製造法で製造した正極板を用い、これに上記から選択した所望の非水電解液用の負極、非水電解液、セパレータなどを組み合わせることで非水電解質二次電池を製作する。該電池の形状は特に限定されるものではなく、コイン型、ボタン型、ラミネート型、円筒型、角型、扁平型など何でもよい。
【0022】
次に、本発明の実施例を比較例と共に詳述する。
実施例1
カーボンコーティングされた二次粒子から成る粒径1μm以上のオリビン型リン酸鉄リチウム100重量部と導電剤としてアセチレンブラック10重量部とを密閉容器の中で乾式混合した。この混合粉体に、水溶性増粘剤として、2重量%のカルボキシメチルセルロース水溶液100重量部を添加し、これをプラネタリーミキサーで充分に混合した後、更に、水分散バインダーを固形分で5重量部となるように添加して充分に混合し水性ペーストを調製した。水分散バインダーとしてはアクリル重合体(固形分濃度40wt.%)を用いた。この水性ペーストのpH値をpH試験紙で調べ、pH値9であることを確認した。
【0023】
一方、リチウムニッケルコバルトマンガン酸化物(LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2)100重量部と導電剤としてアセチレンブラック5重量部とを密閉容器の中で乾式混合した。この混合粉体に、2重量%のカルボキシメチルセルロース水溶液50重量部を添加し、これをプラネタリーミキサーで充分に混合した後、更に、水分散バインダーを固形分で1重量部となるように添加して充分に混合し水性ペーストを調製した。この水性ペーストのpH値をpH試験紙で調べ、pH値11であることを確認した。
【0024】
予備実験として、上記の2種類の水性ペーストの夫々をアルミニウム箔にドクターブレード法にて同じ厚さに塗布し、同じ温度で乾燥し、夫々乾燥重量10mg/cm2を有する塗工層を形成したところ、pH11のリチウムニッケルコバルトマンガン酸化物の水性ペーストは、アルミニウム箔上に塗布した直後から該アルミニウム箔と反応しH2ガスの発生によりその乾燥した該塗工層には無数の気孔が見られた。また、該塗工層を剥がし、アルミニウム箔の表面を顕微鏡により観察したところ、各所に腐食が見られた。これに対し、pH9のリン酸鉄リチウムの水性ペーストは、アルミニウム箔との反応はなく、円滑且つ良好にその塗工層が形成された。
【0025】
上記から明らかなように、pH9のリン酸鉄リチウムの水性ペーストをアルミニウム箔などの集電用基板に塗布、乾燥すれば、集電用基板に腐食なく、円滑に安定良好な単層型の正極板が得られる。上記以外のリン酸鉄リチウム系活物質及び上記以外のリチウム含有層状化合物活物質につき、水性溶媒で合剤と共に混練して水性ペーストを調製し、これらのpH値を調べたところ、リン酸鉄リチウム系活物質の水性ペーストはpH6〜10の範囲、リチウム含有層状化合物の活物質の水性ペーストはpH11以上であることを確認した。
【0026】
上記から明らかなように、本発明により多層型の正極板を製造するには、上記の調製した2種類の正極活物質の水性ペーストを次のようにアルミニウム箔の上に次のように二層の塗工層を順次形成して製造する。
即ち、アルミニウム箔上に、リン酸鉄リチウムの水性ペーストを乾燥重量で5mg/cm2となるように塗布して第一塗工層を形成し、その上にリチウムニッケルコバルトマンガン酸化物の水性ペーストを乾燥重量で15mg/cm2となるように塗布して第二塗工層を形成し、全体として、単位面積当たりの塗布量が乾燥後の総重量で20mg/cm2となるように塗布し、次いで、乾燥し、その後、ロールプレスにてプレスし、二層から成る多層型の正極板を製造した。
実施例2
実施例1で用いたリチウムニッケルコバルトマンガン酸化物に代え、コバルト酸リチウム(LiCoO2)を用い、実施例1と同様にしてその水性ペーストを調製した。そのpHは11であることを確認し、この水性ペーストを用い実施例1と同様にして第二塗工層を形成した以外は、実施例1と同様にして二層から成る多層型の正極板を製造した。
実施例3
実施例1で用いたリチウムニッケルコバルトマンガン酸化物に代え、ニッケル酸リチウム(LiNiO2)を用い、実施例1と同様にしてその水性ペーストを調製した。そのpHは11であることを確認し、この水性ペーストを用い実施例1と同様にして第二塗工層を形成した以外は、実施例1と同様にして二層から成る多層型の正極板を製造した。
実施例4
実施例1で用いたリン酸鉄リチウムに代え、マンガン酸リチウム(LiMn2O4)を用い、実施例1と同様にしてその水性ペーストを調製した。そのpHは9であることを確認し、この水性ペーストを用い実施例1と同様にして第一塗工層を形成した以外は、実施例1と同様にして二層から成る多層型の正極板を製造した。
実施例5
実施例2に用いたコバルト酸リチウム(LiCoO2)の水性ペーストを乾燥重量で7.5mg/cm2となるように塗布し、更にその上に実施例3で用いたニッケル酸リチウム(LiNiO2)の水性ペーストを乾燥重量で7.5mg/m2となるように塗布し、第三塗工層を形成した以外は、実施例1と同様にして三層から成る多層型の正極板を製造した。
実施例6
実施例4において第二塗工層の形成に用いたリチウムニッケルコバルトマンガン酸化物に代え、コバルト酸リチウム(LiCoO2)の水性ペーストを用い、第二塗工層を形成した以外は、実施例1と同様にして二層から成る多層型の正極板を製造した。
実施例7
実施例6において第二塗工層の形成に用いたコバルト酸リチウムに代え、ニッケル酸リチウム(LiNiO2)の水性ペーストを用い、第二塗工層を形成した以外は、実施例1と同様にして二層から成る多層型の正極板を製造した。
実施例8
実施例1において第一塗工層形成に用いたリン酸鉄リチウムの水性ペーストに代え、リン酸鉄リチウムとマンガン酸リチウムを1対1の割合で混合して成る活物質を実施例1と同様にしてその水性ペーストを調製した。そのpHは9であった。この水性ペーストを用いて第一塗工層を形成し、第二塗工層の形成は実施例6で用いたと同じコバルト酸リチウム(LiCoO2)の水性ペーストで形成した以外は、実施例1と同様にして二層から成る多層型の正極板を製造した。
実施例9
実施例8において第二塗工層形成に用いたコバルト酸リチウム(LiCoO2)の水性ペーストに代え、ニッケル酸リチウム(LiNiO2)の水性ペーストを用い第二塗工層を形成した以外は、実施例1と同様にして二層から成る多層型の正極板を製造した。
実施例10
実施例8において第二塗工層形成に用いたコバルト酸リチウムの水性ペーストに代え、リチウムニッケルコバルトマンガン酸化物の水性ペーストを用いて第二塗工層を形成した以外は、実施例1と同様にして二層から成る多層型の正極板を製造した。
【0027】
比較例1
実施例1と同様にして、リチウムニッケルコバルトマンガン酸化物(LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2)の水性ペーストを調製し、この水性ペーストをアルミニウム箔上に乾燥重量で20mg/cm2となるように塗布し、以下実施例1と同様に乾燥、ブレスして単層型の正極板を製造した。
比較例2
比較例1で用いたリチウムニッケルコバルトマンガン酸化物に代え、コバルト酸リチウムの水性ペーストを用いた以外は、比較例1と同様にして単層型の正極板を製造した。
比較例2
比較例1で用いたリチウムニッケルコバルトマンガン酸化物に代え、ニッケル酸リチウムの水性ペーストを用いた以外は、比較例1と同様にして単層型の正極板を製造した。
【0028】
上記の夫々の正極板の正極活物質の組成及び層状の構成を分かり易くするため、下記表1に表した。
【0029】
【表1】

【0030】
上記のように製造した実施例1〜10の正極板及び比較例1〜3の正極板につき、JIS K 6854-1(接着剤-はく離接着強さ試験方法-第一部:90度はく離)に準拠して、ピール試験を行った。その結果を表2に表す。
【0031】
【表2】

【0032】
表2から明らかなように、集電用基板上にpH10以下である正極活物質の水性ペーストの塗工層を形成したものは、pH11以上の強アルカリ性である正極活物質ペーストの塗工層に比し剥離強度が著しく大きいことが確認された。また、顕微鏡観察において、pH11以上の乾燥塗工層は無数の気孔が見られると共に、また、塗工層がアルミニウム箔の表面に部分的に腐食が見られた。
【0033】
次に、実施例1〜10及び比較例1〜3で製造した正極板の夫々につき、コイン型に打ち抜き、常法によりその各正極板と金属リチウムから成るコイン型負極板とをコイン型セパレータを介し積層し、電槽缶に収容し、非水電解液として1.0M LiPF6 EC/EMC(3:7)を注入し、施蓋し、7.5mAhのコイン型非水電解質二次電池を夫々作製し、各電池につき、4.1〜2.75Vの電位範囲で充放電試験を実施した。
更に詳細には、各電池につき、0.1CAの充放電レートで活性化充放電を3サイクル行い、その後レート特性の評価として、充電レートを0.1CAとして4.1Vまで充電し、その後、0.2、0.5、1.0、2.0、3.0、5.0の各放電レートで放電特性を評価し、0.2CA放電時の容量との維持率を比較しレート特性評価とした。その後0.5CAの充放電レートでサイクル特性評価を実施した。
下記表3は、各電池につき、0.2CA放電時の容量を100%としたときの容量維持率を示す。
【0034】
【表3】

【0035】
表3から明らかなように、本発明の実施例1〜10の正極を用いた電池は、比較例1〜3の正極を用いた電池に比し、放電容量維持率が向上することが確認された。これらの値は、アルミニウム箔に対するpH10以上の塗工層とpH11以上の塗工層の密着性の良否に伴う電気抵抗の低下と上昇に関連するものと思われる。
図1は、上記表3の容量維持率を放電レート(CA)と放電容量維持率(%)の関係を示す図である。
【0036】
次に、実施例1〜10の正極板及び比較例1〜3の正極板を具備した上記の各電池につき、サイクル特性試験を行った。サイクル特性試験は、充電0.5CA、放電0.5CA、4.1-2.75Vの範囲で行った。その結果を下記表4乃至表5及び図2に示す。
【0037】
【表4】

【0038】
【表5】

【0039】
表4,5及び図2から明らかなように、実施例1〜10の正極を用いた電池は、比較例1〜3の正極を用いた電池に比し、サイクル特性が著しく優れていることが確認された。換言すれば、pH10以下の正極活物質の水性ペーストを集電用基板に塗布して成る正極板は、集電用基板の腐食やこれに伴うH2ガスによる塗工層二気孔を生ずること、浮き上がりや剥離を未然に防止し、基板に密着して単層又は多層型の正極板が円滑、確実に安定して得られるので、これを用いた非水電解質二次電池の電池特性の向上をもたらす。
【0040】
尚、第三塗工層、第四層及び第五層の塗工層を形成するに用いる正極活物質の水性ペーストは、pH値を問わず、所望のものが使用できる。
多層型の正極板は、製造工程上二層型が一般であるが、全体の厚さ、製造コストなどを考慮し、三〜五層型の正極板の製造にとどめることが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の実施例の正極板と比較例の正極板を夫々用いた非水電解質二次電池の放電レート特性の比較グラフ。
【図2】上記の本発明の実施例の電池と比較例の電池のサイクル特性の比較グラフ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所望の正極活物質を水性溶媒を用い合剤と共に混練して成る水性ペーストのpHを測定した後、Ph6〜10の水性ペーストを集電用基板上に塗布し、第一塗工層を形成し、該第一塗工層上にpH11以上の水性ペーストを塗布し第2塗工層を形成し、次いでこれらの積層塗工層を乾燥することを特徴とする多層型の非水電解質二次電池用正極板の製造法。
【請求項2】
リン酸鉄リチウム系材料又はマンガン酸リチウム系材料から成る正極活物質を水性溶媒を用い合剤と共に混練して成るpH6〜10の水性ペーストを集電用基板上に塗布して第一塗工層を形成し、該第一塗工層の上に、リチウム含有層状酸化物から成る正極活物質を合剤と共に混練して成るpH11以上の水性ペーストを塗布して第二塗工層を形成し、次いで、これらの積層塗工層を乾燥したことを特徴とする請求項1に記載の多層型の非水電解質二次電池用正極板の製造法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の製造法で製造した正極板を用いた非水電解質二次電池。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−108624(P2010−108624A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−276702(P2008−276702)
【出願日】平成20年10月28日(2008.10.28)
【出願人】(000005382)古河電池株式会社 (314)
【Fターム(参考)】