説明

非水電解質二次電池

【課題】非水電解質二次電池において、Siを含む負極活物質は充電時の膨張による表面積の増加のために、電解液と合金材料表面の副反応が増加し、その反応過程で生じる成分が合金表面近傍に存在することとなって、充放電反応を阻害し、充放電サイクルが悪化する課題を解決し、サイクル特性の低下を向上させることを目的とする。
【解決手段】リチウムを可逆的に吸蔵放出可能な正極、負極および非水電解質を含む非水電解質二次電池であって、負極活物質が少なくとも異なる2相からなり、Siを主体とするA相と、遷移金属元素とSiとの金属間化合物からなるB相とを有し、かつ前記A相およびB相のどちらか、あるいは両方が微結晶または非晶質であり、前記負極に二重結合を一つ以上持つ脂肪酸あるいはそれらの塩あるいはそれらの無水物から選ばれる少なくとも一つを含有することを特徴とする非水電解質二次電池。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質二次電池の負極の改良に関し、高い電気容量を有し、充放電サイクル特性に優れた非水電解質二次電池を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
非水電解質二次電池の負極として、高電圧で高エネルギー密度を実現可能な金属リチウムを用いる研究開発が多く行われてきた。そして現在、リチウムを可逆的に吸蔵・放出し、サイクル寿命、安全性に優れた黒鉛系の炭素材料を負極に用いたリチウムイオン電池が実用化されている。
【0003】
しかしながら、黒鉛材料を負極に用いた電池では、約350mAh/gと理論容量(372mAh/g)に近い状態ですでに実用化されており、将来の高機能携帯機器のエネルギー源として、さらなる高容量化を実現するためには黒鉛以上の容量を示す負極材料が必要である。
【0004】
そこで現在、注目されているのがケイ素やスズなどの元素を含む合金系負極材料である。ケイ素やスズなどある種の金属元素はリチウムイオンを電気化学的に吸蔵・放出可能であり、さらに黒鉛材料に比べて非常に大きな容量の充放電が可能である。例えばケイ素であれば、その理論放電容量は4199mAh/gと黒鉛の11倍もの高容量を示すことが知られている。しかし、これらの合金材料はリチウムを吸蔵する際に、リチウム−ケイ素、リチウム−スズといった合金を形成し、元々の結晶構造から変化するため大きな膨張を伴う。例えばケイ素においては最大容量充電した場合に理論的に4.1倍の膨張が生じる。なお、現在幅広く用いられている黒鉛負極においてはリチウムが黒鉛層間に挿入されるインターカレーション反応を利用するため1.1倍の膨張となる。
【0005】
合金系負極の場合には、この大きな膨張現象が原因となって、負極中の電気的な導通が悪い状態となり易く、サイクル劣化の大きい負極となる。
【0006】
特許文献1においては、膨張が起こるが、合金材料自身の破壊などが起こらず、この効果によって充放電中の負極の集電性の確保がされやすくなり、サイクル性は大幅に改良できる。
【0007】
しかしながら、膨張による合金材料の表面積の増加のために、電解液と合金材料表面の副反応が増加し、その反応過程で生じる成分が合金表面近傍に存在することとなって、充放電反応を阻害する要因となり、負極インピーダンスを増加させ、充放電サイクルが悪化する課題は解決されていない。
【0008】
また、特許文献2および特許文献3においては、負極体に有機酸を含有させるという観点では、負極活物質材料は異なるが、カルコゲン化合物や酸化物にカルボン酸や塩が含有した負極構成層であり、たとえば、シュウ酸を含んだ塗布液を負極板とすることによってサイクル性を改良することが提案されているが、サイクル性を改良するに至るメカニズムや考察の記載がなく、技術的に詳細な検討が十分になされているとは言い難い。
【特許文献1】特開2004−103340号公報
【特許文献2】特開平9−190819号公報
【特許文献3】特開平9−190820号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述のように、高容量な合金材料を使用する場合には、充電時の合金材料の膨張にともなう合金材料の表面積の増加のために、電解液と合金材料表面の副反応が増加し、その反応過程で生じる成分が合金表面近傍に存在することとなって、充放電反応を阻害する要因となり、負極インピーダンスを増加させ、充放電サイクルが悪化する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明はこれらの欠点を鑑みて、Siを含むLiを電気化学的に吸蔵・放出可能な合金材料を負極活物質として用いた負極であって、かつ、負極に二重結合を一つ以上持つ脂肪酸あるいはそれらの塩あるいはそれらの無水物から選ばれる少なくとも一つを含有することにより、上述のような電池のサイクル特性の低下を抑制するものである。
【0011】
本発明における非水電解質二次電池は、リチウムを可逆的に吸蔵放出可能な正極、負極および非水電解質を含む非水電解質二次電池であって、負極活物質が少なくとも異なる2相からなり、Siを主体とするA相と、遷移金属元素とSiとの金属間化合物からなるB相とを有し、かつ前記A相およびB相の少なくとも一方が微結晶または非晶質であり、前記負極に二重結合を一つ以上持つ脂肪酸、前記脂肪酸の塩および前記脂肪酸の無水物からなる群より選ばれる少なくとも一つを含有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によると、従来合金材料を負極活物質として用いた電池において、充電時の負極活物質の膨張にともなう電池のサイクル特性の低下を抑制した非水電解質二次電池を実現するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明における非水電解質二次電池用負極は、Liを電気化学的に吸蔵・放出可能なSiを含む合金材料と黒鉛とを少なくとも含み、前記合金材料は少なくともSiを主体としたA相と遷移金属元素とSiを含むケイ化物を含むB相とを少なくとも有し、かつ前記A相およびB相のどちらか、あるいは両方が低結晶または非晶質であり、前記負極に二重結合を一つ以上持つ脂肪酸あるいはそれらの塩あるいはそれらの無水物から選ばれる少なくとも一つを含有することを特徴とする。
【0014】
前記合金材料に含まれるA相はSiを主体とした相であり、特に好ましくはSi単相である。前記A相はLiの吸蔵・放出を行う相であり、電気化学的にLiと反応可能な相であることが必要である。Si単相である場合、重量あたりおよび体積あたりに非常に多量にLiを吸蔵・放出することが可能である。ただしSi自身は半導体であるために電子伝導性に乏しい。その課題を改善するためにPやHなどの微量の添加元素、あるいは遷移金属元素などが5重量%程度まで含まれてもよい。
【0015】
またB相は遷移金属元素とSiとのケイ化物を形成していることがよい。これはケイ化物を形成することにより、A相との親和性が高く、結晶界面での割れなどが生じにくい。
【0016】
またSi単体に比較して電子伝導性が高く、かつ硬度も高い。そのためA相の低い電子伝導度を補い、かつ膨張応力に対して、その形状を維持する保持相としてもB相は働く。
【0017】
またB相は複数存在していても構わない。例えば遷移金属元素MとSiとの組成比が異なる2相以上(例えばMSi2とMSi)が存在していてもよい。
【0018】
また異なる遷移金属元素とのケイ化物によって2相以上存在していてもよい。遷移金属元素として好ましくはTi、Zr、Ni、Co、Mn、Fe、Cuから選ばれる少なくと
も1種であることがよい。特に好ましくはTiおよびZrである。これらの元素はケイ化物を形成した際に他の元素のケイ化物よりも高い電子伝導度を有し、かつ高い強度を有する。
【0019】
上記A相とB相との存在比はA相が10重量%以上95重量%以下であることが望ましい。特に望ましくは15重量%以上85重量%以下である。A相が10重量%より少ないと合金材料自体の容量が低下する。逆に95重量%より多い場合はB相の存在量が圧倒的に少なくなるため、上述の効果が薄くなり電池特性が低下する。
【0020】
本発明で用いられる合金材料の結晶状態は低結晶または非晶質であることが望ましい。結晶質な活物質を用いた場合、Liの吸蔵に伴い粒子割れを引き起こしやすく、急速に集電性が低下し電池特性が低下する。ここで低結晶とはX線回折測定を行った際に得られるスペクトルから最も強度の大きなピークの半価幅を用いて、Scherrerの式によって算出された結晶粒径が50nm以下である場合を言う。また非晶質とはX線回折測定において2θ=15〜40°の範囲においてブロードなピークを有するスペクトルをもつ状態を指す。前記で示した非晶質あるいは低結晶な合金材料を用いることでLiの吸蔵にともなう膨張によって引き起こされる粒子割れが発生しにくい。
【0021】
また、前記、前記遷移元素はTi,Zr、Ni、Co、Mn、Fe、Cuから選ばれる少なくとも1つであることが好ましい。より好ましくはTi、Zrである。
【0022】
本発明で用いられる脂肪酸やそれらの塩あるいはそれらの無水物は、二重結合を1つ以上持つことを特徴とする。上記のように、充電時に膨張したSiを含む負極活物質表面では、電解液との副反応が発生しやすいが、負極中に脂肪酸やそれらの塩あるいはそれらの無水物が存在することによって、これらの物質が負極活物質表面に特異的に作用することにより、電解液との副反応を抑制し、負極活物質表面を充放電に適した状態に維持し、さらには、有機物であるが故に、負極活物質が膨張した場合においてもその体積変化にもある程度追随して良好に作用すると考えている。
【0023】
中でも、前記脂肪酸としては、オレイン酸、リノール酸およびリノレン酸からなる群より選ばれる少なくとも一つを含有することが好ましい。いずれも優れた効果を有し、使用することができるが、これらは、構造中のHが2個づつ減少し、二重結合が1個ずつ増えた構造を有している。特に好ましくは、オレイン酸を挙げることができる。これについては、物質構造中の二重結合が少なすぎると、負極活物質への作用が不充分なものとなり、一方、過度に二重結合が多い場合には、電解液中や充放電の電気化学状態において不安定な状態が生じ始めることに要因があると考えられる。
【0024】
また、本発明で用いられる前記脂肪酸塩はリチウム塩あるいはナトリウム塩から選ばれる少なくとも1つであることを特徴とする。
【0025】
作用としては上記と同様であるが、負極の製造方法において、有機酸よりもその塩を用いる方が、電極塗布工程での安定性などのメリットが出る場合があり、使用することができる。
【0026】
また、本発明で用いられる前記脂肪酸の無水物は、ステアリン酸無水物、オレイン酸無水物、リノール酸無水物およびリノレン酸無水物からなる群より選ばれる少なくとも一つであることを特徴とする。負極活物質表面での電解液との副反応の抑制効果は同様であるが、酸無水物の場合には、その作用に加えて、負極活物質や負極中で、酸無水物による加水分解反応による吸水作用が働き、負極活物質や負極中や電池内部で、不要な水分を消費することによって、電解液との水分との副反応などの課題を軽減できる。
【0027】
特に、ステアリン酸無水物が好ましい。これについては、物質構造中の二重結合が適度な割合で存在することによると思われる。少なすぎると、負極活物質への作用が不充分なものとなり、一方、過度に二重結合が多い場合には、電解液中や充放電の電気化学状態において不安定な状態が生じ始めることに要因があると考えられる。
【0028】
また、前記脂肪酸や脂肪酸の塩や脂肪酸の無水物は単一成分に限定するものではなく、混合物であってもよい。
【0029】
本発明に用いられる脂肪酸、脂肪酸の塩あるいは脂肪酸の無水物の前記負極活物質に対する含有量は0.001〜20wt%の範囲であることが好ましく、特に好ましくは、0.01〜10wt%である。
【0030】
この含有量が少なすぎると、負極活物質表面での上記のような作用が十分ではなく、過度に多すぎると負極活物質表面の充放電反応を阻害するような状態となり、容量が低下する。
【0031】
上記負極中には、黒鉛材料および合金材料、そして導電剤などを一定の形状に保持する結着剤が含まれる。結着剤は負極の使用電位範囲においてLiに対して電気化学的に不活性であり、他の物質に影響を及ぼさない材料であればどのような材料であっても構わない。例えばスチレン−ブチレン−共重合ゴム、ポリアクリル酸、ポリエチレン、ポリウレタン、ポリメタクリル酸メチル、ポリフッ化ビニリデン、ポリ4フッ化エチレン、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロースなどが適している。その添加量は多ければ多いほどその電極構造面で、強固な電極状態となる可能性があるが、逆にLiと反応しない材料が負極中に増えるため電池容量が低下する欠点を有する。また複数の結着剤を組み合わせて用いてもよい。
【0032】
集電体は主としてCuを含み、その含有率は90重量%以上であることが好ましい。また集電体の強度あるいは柔軟性を向上させるためにP、Ag、Crなどの元素が含まれていても構わない。
【0033】
さらに集電体の厚みは6μm以上40μm以下であることが好ましい。6μmより薄い集電体では取り扱いに困難でプロセス上の課題が多く出現する。また、集電体に必要な強度も保ちにくく、充放電反応にともなう活物質層の膨張・収縮によって負極が切れたり、シワがよることで電池特性が低下する。逆に40μmより厚い集電体では電池内で集電体が占める体積が大きくなり、容量が低下する。また分厚い集電体となることで逆に曲げにくいなど取り扱いが困難にもなる。
【0034】
また負極合剤部分の厚みは集電体表面から合剤表面までの距離において、10μm以上100μm以下であることが好ましい。10μmより薄いと集電体の占める体積比率が大きくなり、高容量化に向かない。また100μmより厚い合剤厚みでは、集電体近傍まで電解液が浸み渡りにくく、高率放電特性に課題を有する。
【0035】
上述の手法で作製した負極と、正極および非水電解液とを用いてリチウム二次電池を製造する。前記正極を製造する手法は一般的な製造法で構わない。代表的な例としては正極活物質とカーボンブラックなどの導電剤、およびポリフッ化ビニリデンなどの結着剤とを溶剤中で混合し、Alなどの正極集電体上に塗布・乾燥および圧延することによって得られる。
【0036】
前記正極活物質としては一般的にリチウム二次電池に用いられるリチウム含有遷移金属
化合物であることが好ましく、その代表的な例としてはLiCoO2、LiNiO2、LiMn24、LiMnO2などであり、これら前記の化合物の遷移金属元素を異種の金属元素に置換した化合物であってもいっこうに構わない。例えば代表的な例としてLiCo1-xMgx2、LiNi1-yCoy2、LiNi1-y-zCoyMnz2(x、y、zは全て正数)などがあげられる。
【0037】
前記非水電解液としては、一般的にリチウム二次電池に用いられる有機溶媒と、この有機溶媒に可溶なリチウム塩で構成された電解液を使用することが望ましい。前記有機溶媒としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネートなどの環状カーボネート類とジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネートなどの鎖状カーボネート類との混合溶媒が一般的に用いられる。さらにはγ−ブチルラクトンやジメトキシエタンなどが混合されていても構わない。また前記リチウム塩としては無機リチウムフッ化物やリチウムイミド化合物などがあげられる。前者としてはLiPF6、LiBF4があげられ、後者としてはLiN(CF3SO23などがあげられる。さらにはLiClO4やLiCF3SO3などが混入してもよい。また、ゲルなどの固体電解質を用いてもよい。
【0038】
さらに正極および負極の内部短絡を防ぐため、その間にはセパレータが設置される。セパレータの材質としては非水電解液を適度に通過させ、かつ正極・負極が接触しないようなものであればどのようなものでも構わない。一般的に用いられるものとしては多孔性のポリエチレン、ポリプロピレンなどの高分子フィルムであり、その厚みは10μm以上30μm以下のものが望ましい。
【0039】
また本発明で述べるリチウム二次電池は、その形状として円筒型、扁平型、コイン型、角形などがあげられるが、その形状については特に限定しない。またその外装についても金属製の缶中に封止させるもの、あるいはラミネートフィルムで封止させるものであってもいっこうに構わない。
【0040】
以下、本発明の好ましい実施例について記載する。しかし下記の実施例は本発明の好ましい一実施例であり、本発明が下記の実施例に限られるわけではない。
【実施例1】
【0041】
以下に、本発明を実施例に基づいて具体的に説明する。まず、以下の実施例において、負極の作製方法、サイクル寿命の測定に用いた円筒型電池、ならびに放電容量とサイクル寿命の測定方法について説明する。
【0042】
(負極の作製方法)
負極活物質としての合金材料は、以下の方法で合成した。まず、金属Ti(純度99.99% 高純度化学製 −20μm品)と金属Si(純度99.999% 関東化学製 −20μm品)をそれぞれ混合比がTi:Si=9.2:90.8(重量比)になるように秤量して混合した。このときさらに、本発明で示した脂肪酸やそれらの塩あるいはそれらの無水物を、負極活物質に対して、0.0005〜30wt%の範囲でそれぞれ混合した。
【0043】
この混合物を振動ミル装置(中央化工機(株)製 FV−20)に3.5kg投入し、さらにステンレス製ボール(直径2cm)をミル装置内容量の70体積%を占めるように投入した。
【0044】
次に、容器内部を真空にした後、Ar(純度 99.999% 日本酸素)を置換して1気圧になるようにした。これらの条件で、メカニカルアロイング操作を行った。条件は
1300rpm、60時間で行った。
【0045】
この操作によって作製したTi−Si合金を回収し、粒度分布を調べたところ、0.5μm〜80μmまで広く粒度を有することが判明した。
【0046】
また、フーリエ変換赤外分光光度計(FTIR)で調べたところ、投入した脂肪酸やそれらの塩あるいはそれらの無水物が含有されていることを確認した。
【0047】
また、熱重量分析で調べたところ、脂肪酸やそれらの塩あるいはそれらの無水物が投入した重量比率と同量であることを確認した。
【0048】
このように得られた合金粉体を10μmアンダーのフルイで分級することによって最大粒径8μm、平均粒径5μmの合金材料を得た。
【0049】
この合金材料をX線回折によって測定すると、低結晶な合金材料であり、Scherrerの式に基づいて最もピーク強度と大きなピークの半価幅から結晶粒径を算出すると10nmと得られた。またX線回折の結果から構造を推定するとSi単相とTiSi2と推定される相とが存在しており、この合金中にこの2相のみが存在すると仮定して混合比から計算すると、Si:TiSi2=80:20(重量比)ということが判明した。この合金材料を透過電子顕微鏡(TEM)で観察したところ、非晶質または10nm前後の結晶を有するSi相と15〜20nm程度の結晶を有するTiSi2相がそれぞれ存在していることが判明した。
【0050】
上記で作製した合金材料と黒鉛材料と結着剤を用いて負極を作製した。黒鉛材料としては、KS−44(ティムカル社製)を用い、この黒鉛は平均粒径20μmの鱗片状黒鉛である。また、結着剤としては、ポリアクリル酸(分子量 15万 和光純薬工業製)を用いて充分に混練することで、負極合剤ペーストを得た。このときの混合比率は、合金材料:黒鉛材料:結着剤=20:80:5とした。また、混合方法としては、まずTi−Si合金とポリアクリル酸を2.5gで混練を行い、その後、黒鉛と残りのポリアクリル酸を添加して混練することで行った。
【0051】
このペーストを厚み10μmの電解Cu箔(古河サーキットフォイル製)上の両面に塗布し、乾燥、圧延することで負極を得た。この負極の合剤密度は1.3〜1.4g/ccであり、その空孔率は40〜45%であった。
【0052】
本発明の負極の比較例として上記黒鉛のみで作製した負極、および上記合金材料と導電剤としてアセチレンブラック(商品名:デンカブラック 電気化学工業製)を混合比100:10(重量比)で作製した負極を用いた。どちらも結着剤は活物質100重量%に対して上述のポリアクリル酸を5重量%添加して用いた。
【0053】
(正極の作製方法)
まず、正極活物質であるLiCoO2は、Li2CO3とCoCO3とを所定のモル比で混合し、950℃で加熱することによって合成した。さらに、これを45μm以下の大きさに分級したものを用いた。正極活物質100gに対して、導電剤としてアセチレンブラックを5g、結着剤としてポリフッ化ビニリデン4g(樹脂成分、N―メチル−2−ピロリドン溶液として使用)を加え、充分に混合し、正極合剤ペーストを得た。このペーストをAl芯材上に任意の量で塗布し、乾燥し、圧延して正極を得た。
【0054】
(円筒型電池の作製方法)
図1に示す円筒型電池を作製した。帯状の電極体は電極体端部にスポット溶接にて取り
付けたAlからなる正極リード14を有する正極板11と同様にスポット溶接にて取り付けたNiからなる負極リード15を有する負極板12間に両極板より幅の広い帯状のポリエチレン製セパレータ13を介して全体を渦巻状に捲回して構成する。さらに、上記電極体の上下それぞれにポリプロピレン製の絶縁板16、17を配して電槽18に挿入し、電槽18の上部に段部を形成させた後、非水電解液として、1モル/lの六フッ化リン酸リチウムを溶解したエチレンカーボネートとジエチルカーボネートの等比体積混合溶液を注入し、封口板19で密閉して電池とした。
【0055】
(放電容量・サイクル寿命の測定方法)
円筒型電池の充放電サイクル試験を20℃に設定した恒温槽の中で以下のように行った。まず、円筒型電池の定電流充電を、充電電流0.2C(1Cは1時間率電流)で電池電圧が4.05Vになるまで行い、次いで、定電圧充電を4.05Vとし、電流値が0.01Cになるまで行った。その後、円筒型電池の放電を、0.2Cの電流で電池電圧が2.5Vになるまで行った。このときの放電容量を初回の放電容量とした。次の回から充電電流を1Cで電池電圧が4.05Vになるまで行い、次いで定電圧充電を4.05V、電流値が0.05Cになるまで行った。その後、円筒型電池の放電を、1Cの電流で電池電圧が2.5Vになるまで行った。この充放電サイクルを繰り返し、2サイクル目の放電容量に対する100サイクル目の放電容量の比を求め、その値に100をかけて容量維持率(%)とした。容量維持率が100に近いほどサイクル寿命が良好であることを示す。
【0056】
まず、負極活物質に含有される脂肪酸の種類について検討した。
【0057】
検討した脂肪酸の種類を表1に示す。すなわち、負極活物質に対する重量比を1wt%に固定し、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸のそれぞれの場合、および、負極活物質に対する重量比を0.5wt%ずつに固定したときの、オレイン酸+ステアリン酸、リノール酸+ステアリン酸、リノレン酸+ステアリン酸、オレイン酸+ステアリン酸の場合を検討した。また、脂肪酸を含有しない場合について、同様の評価を行った結果も合わせて表1に示す。
【0058】
【表1】

【0059】
本実施例における負極は、いずれの脂肪酸を含有した場合にも、比較例1に比べてサイクル寿命が大幅に向上することが明らかとなった。
【0060】
本発明で用いられる脂肪酸やそれらの塩あるいはそれらの無水物は、二重結合を1つ以上持つことを特徴とする。上記のように、充電時に膨張したSiを含む負極活物質表面では、電解液との副反応が発生しやすいが、負極中に脂肪酸やそれらの塩あるいはそれらの無水物が存在することによって、これらの物質が負極活物質表面に特異的に作用することにより、電解液との副反応を抑制し、負極活物質表面を充放電に適した状態に維持し、さ
らには、有機物であるが故に、負極活物質が膨張した場合においてもその体積変化にもある程度追随して良好に作用すると考えている。
【0061】
中でも、前記脂肪酸としては、オレイン酸、リノール酸およびリノレン酸からなる群より選ばれる少なくとも一つを含有することが好ましく、いずれも優れた効果を有し、使用することができるが、これらは、構造中のHが2個づつ減少し、二重結合が1個ずつ増えた構造を有している。特に好ましくは、オレイン酸を挙げることができる。これについては、物質構造中の二重結合が少なすぎると、負極活物質への作用が不充分なものとなり、一方、過度に二重結合が多い場合には、電解液中や充放電の電気化学状態において不安定な状態が生じ始めることに要因があると考えられる。
【0062】
次に、負極活物質に含有する脂肪酸塩の種類について検討した。
【0063】
検討した脂肪酸塩の種類を表2に示す。すなわち、負極活物質に対する重量比を1wt%に固定し、オレイン酸リチウム塩、リノール酸リチウム塩、リノレン酸リチウム塩、オレイン酸リチウム塩のそれぞれの場合、およびオレイン酸ナトリウム塩、リノール酸ナトリウム塩、リノレン酸ナトリウム塩、オレイン酸ナトリウム塩のそれぞれの場合を検討した。
【0064】
また、脂肪酸塩を含有しない場合について、同様の評価を行った結果をあわせて表2に示す。
【0065】
【表2】

【0066】
本実施例における負極は、いずれの脂肪酸塩を含有した場合にも、比較例2に比べてサイクル寿命が大幅に向上することが明らかとなった。
【0067】
次に、負極活物質に含有する脂肪酸無水物の種類について検討した。
【0068】
検討した脂肪酸塩の種類を表3に示す。すなわち、負極活物質に対する重量比を1wt%に固定し、ステアリン酸無水物、オレイン酸無水物、リノール酸無水物、リノレン酸無水物のそれぞれの場合を検討した。また、脂肪酸無水物を含有しない場合について、同様の評価を行った結果を合わせて表3に示す。
【0069】
【表3】

【0070】
本実施例における負極は、いずれの脂肪酸塩を含有した場合にも、比較例3に比べてサイクル寿命が大幅に向上することが明らかとなった。
【0071】
次に、オレイン酸とステアリン酸無水物のそれぞれの場合に固定し、負極活物質に対するそれぞれの含有量について検討した。表4に示すとおり、検討した含有量の範囲は0.0005wt%〜30wt%とした。
【0072】
【表4】

【0073】
負極活物質に対する含有量としては、表4に示すとおり、0.001wt%〜20t%の範囲で、高容量でサイクル容量維持率が高いことがが明らかとなった。充分に高容量なものという点を考慮すると、特に好ましくは、0.01〜10wt%である。これについては、0.0001wt%より小さい場合には、脂肪酸の負極活物質に対する作用が不充分で、サイクル特性に対する効果が十分ではないと考えられる。また、20wt%よりも多い場合には、過剰な状態となり、負極活物質表面に必要以上に存在し、その結果、充放電反応を阻害することとなり、容量が低下したと考えられる。
【0074】
次に、上記は合金材料の前記遷移元素がTiの場合について説明したが、本実施例では、表5に示すとおり Zr、Ni、Co、Mn、Fe、Cuのそれぞれの場合について検討した。
【0075】
合金材料の合成方法は上記の遷移金属がTiの場合と同様にして行い、原料としてTi粉末のかわりに、Zr、Ni、Co、Mn、Fe、Cuのそれぞれの粉末(いずれも、純度99.99% 高純度化学製 −20μm品)を用いて作製した。
【0076】
【表5】

【0077】
本実施例における負極は、いずれの遷移金属元素を用いた場合にも、サイクル寿命が大幅に向上することが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明の非水電解質二次電池は、高容量および良好な充放電サイクル特性を両立する優れた非水電解質二次電池を与えるものである。本発明は全ての形態の非水電解質二次電池に適用可能であり、例えば実施例であげた円筒型のみでなく、コイン型、角型、扁平型などの形状を有し、かつ捲回型、積層型などの電極体構造を有する電池にも適用可能である。本発明の非水電解質二次電池は、移動体通信機器、携帯電子機器などの主電源に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】本発明の一実施例における円筒型電池の縦断面図
【符号の説明】
【0080】
11 正極板
12 負極板
13 セパレータ
14 正極リード
15 負極リード
16 絶縁板
17 絶縁板
18 電槽
19 封口板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムを可逆的に吸蔵放出可能な正極、負極および非水電解質を含む非水電解質二次電池であって、負極活物質が少なくとも異なる2相からなり、Siを主体とするA相と遷移金属元素とSiとの金属間化合物からなるB相とを有し、かつ前記A相およびB相の少なくとも一方が微結晶または非晶質であり、前記負極に二重結合を一つ以上持つ脂肪酸、前記脂肪酸の塩および前記脂肪酸の無水物からなる群より選ばれる少なくとも一つを含有することを特徴とする非水電解質二次電池。
【請求項2】
前記脂肪酸がオレイン酸、リノール酸およびリノレン酸からなる群より選ばれる少なくとも一つを含有することを特徴とする請求項1記載の非水電解質二次電池。
【請求項3】
前記脂肪酸の塩がリチウム塩あるいはナトリウム塩から選ばれる少なくとも1つであることを特徴とする請求項1あるいは2に記載の非水電解質二次電池。
【請求項4】
前記脂肪酸の無水物がステアリン酸無水物、オレイン酸無水物、リノール酸無水物およびリノレン酸無水物からなる群より選ばれる少なくとも一つであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の非水電解質二次電池。
【請求項5】
前記負極活物質量に対する前記脂肪酸、前記脂肪酸の塩および前記脂肪酸の無水物の含有量が、0.001〜20wt%の範囲であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の非水電解質二次電池。
【請求項6】
前記遷移金属元素がTi、Zr、Ni、Co、Mn、FeおよびCuからなる群より選ばれる少なくとも一つであることを特徴とする請求項1記載の非水電解質二次電池。

【図1】
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【公開番号】特開2006−236887(P2006−236887A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−52814(P2005−52814)
【出願日】平成17年2月28日(2005.2.28)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】