非水電解質二次電池
【課題】ハイレート放電(大電流放電)時における電圧降下を大幅に抑制することが可能な非水電解質二次電池を提供する。
【解決手段】負極活物質2としては、天然黒鉛、人造黒鉛、難黒鉛化性炭素、コークス(木炭)等の炭素材料を用いることができる。また、負極は粒子状の負極活物質2の群を含む活物質層を備え、この活物質層の表面にニッケルが担持される。負極表面3にニッケルを担持する方法の例としては、コーティングによる方法、蒸着法、および非水電解質中にニッケルイオンを存在させることにより負極表面3にニッケルを析出させる方法等が挙げられる。非水電解質に対するニッケルの添加量は、0.0008mol/l以上0.007mol/l以下である。
【解決手段】負極活物質2としては、天然黒鉛、人造黒鉛、難黒鉛化性炭素、コークス(木炭)等の炭素材料を用いることができる。また、負極は粒子状の負極活物質2の群を含む活物質層を備え、この活物質層の表面にニッケルが担持される。負極表面3にニッケルを担持する方法の例としては、コーティングによる方法、蒸着法、および非水電解質中にニッケルイオンを存在させることにより負極表面3にニッケルを析出させる方法等が挙げられる。非水電解質に対するニッケルの添加量は、0.0008mol/l以上0.007mol/l以下である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、正極、負極および非水電解質からなる非水電解質二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、高エネルギー密度の二次電池として、非水電解質を使用し、リチウムイオンを正極と負極との間で移動させて充放電を行うようにした非水電解質二次電池が利用されている。
【0003】
このような非水電解質二次電池として、一般に正極にLiCoO2 等のリチウム遷移金属複合酸化物を用いるとともに、負極にリチウム金属、リチウム合金またはリチウムの吸蔵および放出が可能な炭素材料を用い、非水電解質として、エチレンカーボネート、ジエチルカーボネート等の有機溶媒にLiBF4 、LiPF6 等のリチウム塩からなる電解質塩を溶解させたものが使用されている。
【0004】
また、最近では、非水電解質二次電池の特徴である高重量エネルギー密度および高体積エネルギー密度を活かし、工具およびアシスト自転車用電源として当該非水電解質二次電池を用いることに対する研究が盛んに行われている。
【0005】
これらの用途に用いる上記非水電解質二次電池の正極活物質(正極材料)として、リチウムコバルト複合酸化物、リチウムニッケル複合酸化物およびリチウムマンガン複合酸化物等が検討されている。このうち、資源的に豊富であるとともに、安価なリチウムマンガン複合酸化物が注目されており、商品化に向けて活発的に研究が進められている。リチウムマンガン複合酸化物の中でも、スピネル構造を有するマンガン酸リチウムは、ハイレート放電(大電流放電)特性に優れていることが知られている。
【0006】
しかしながら、スピネル構造を有するマンガン酸リチウムを正極活物質として用いた非水電解質二次電池においては、特に高温における保存特性の低下が大きな課題である。これは、高温保温時に正極からマンガン(Mn)が溶出するためであると言われている。
【0007】
また、スピネル構造を有するマンガン酸リチウムを正極活物質として用いた場合には、高温保存後の放電特性の低下が顕著となり、放電開始とともに電圧が急激に低下することにより放電容量が低下してしまう。そして、上記電圧が放電終止電圧以下になるまで低下する結果、放電を行うことが不可能となる。これは、正極からマンガンが溶出し炭素負極上に析出することにより、負極の充放電特性が悪化するためであると考えられている。
【0008】
そこで、正極活物質を構成するマンガン等の金属元素を非水電解質中に添加することにより、正極活物質中の金属元素が非水電解質内に溶解することを化学平衡的に抑制することが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0009】
しかしながら、マンガン等の金属元素が正極から溶出することを抑制することができても、これらの金属元素が炭素負極に析出することは防止することができない。このため、上述のように、負極の充放電特性が悪化する結果となる。
【0010】
そこで、負極活物質表面にチタン(Ti)、白金(Pt)等の金属を担持することにより、負極の充放電特性の悪化を抑制することが提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0011】
また、非水電解質中にコバルト(Co)等の金属元素または金属イオンを所定の量で含有させることにより負極の充放電特性を向上させることが提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【特許文献1】特開平04−188571号公報
【特許文献2】特開2000−12027号公報
【特許文献3】特開2003−217657号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、特許文献2に記載の非水電解質二次電池では、負極活物質表面にチタン(Ti)、白金(Pt)等の金属を担持する方法では、0.5〜20重量%の上記金属を担持する必要がある。このように、充放電に関与しない材料を多量に用いる結果、放電容量の低下だけでなく、単位重量当りのエネルギー密度が大きく低下する。
【0013】
また、負極活物質表面に上記金属を担持させる工程が必要となり、これによる高コスト化が生じる。なお、このような課題は、高温保温時におけるマンガンの溶出が多いスピネル構造を有するマンガン酸リチウムに限定されるものではなく、構成元素としてマンガンを含む全ての正極活物質においても同様に生じる。
【0014】
さらに、特許文献3に記載の非水電解質二次電池では、ハイレート放電(大電流放電)時における電圧降下を大幅に抑制することが困難である。
【0015】
本発明の目的は、ハイレート放電(大電流放電)時における電圧降下を大幅に抑制することが可能な非水電解質二次電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
(1)本発明に係る非水電解質二次電池は、リチウムイオンを吸蔵および放出することが可能で、マンガンを含む正極活物質を有する正極と、リチウムイオンを吸蔵および放出することが可能で、炭素材料を含む負極活物質を有する負極と、非水電解質とを備える非水電解質二次電池であって、非水電解質は、ニッケルを含み、非水電解質二次電池の組み立て時においてニッケルの量は、0.0008mol/l以上0.007mol/l以下であるものである。
【0017】
本発明に係る非水電解質二次電池においては、非水電解質がニッケルを含むことにより、充放電を行う際に負極の表面上にニッケルが析出される。このように、負極の表面にニッケルを存在させることによって、高温保存時に正極からマンガンが溶出し、溶出したマンガンが負極上に析出しても、ハイレート放電(大電流放電)時における電圧降下を大幅に抑制することが可能となる。それにより、充放電を良好に行うことができる。
【0018】
なお、上記作用については必ずしも明確ではないが、概ね以下のように考えられる。
【0019】
マンガンが負極上に析出する際、負極活物質表面にすでに形成されている良質な固体電解質界面(SEI:Solid Electrolyte Interface)が破壊され劣化することにより、当該SEI中のリチウムイオン移動性が低下し、負極におけるリチウムイオンの吸蔵および放出が阻害されてしまう。その結果、マンガンが負極上に析出し、負極の充放電特性が低下すると考えられる。
【0020】
上述のように、負極表面にニッケルを存在させることにより、マンガンが負極表面に析出しても破壊されない非常に強固なSEIが負極表面に形成される。それにより、負極の充放電特性の低下が抑制されるものと考えられる。
【0021】
また、ニッケルの量を、0.0008mol/l以上0.007mol/l以下とすることによって、ニッケルの量が0.0008mol/l未満となる場合に生じる負極の充放電特性の低下を抑制することができるとともに、ニッケルの量が0.007mol/l以上となる場合に、負極の表面上に析出されたニッケルがリチウムの吸蔵および放出を阻害することにより負極の充放電特性が低下することを防止することができる。
【0022】
(2)ニッケルの量は、0.002mol/l以上0.004mol/l以下であることが好ましい。この場合、負極の充放電特性が低下することがさらに抑制または防止される。
【0023】
(3)正極活物質は、スピネル構造を有するマンガン酸リチウムを含んでもよい。この場合、スピネル構造を有するマンガン酸リチウムがハイレート放電に優れていることにより、ハイレート放電を良好に行うことができる。
【0024】
(4)負極は、粒子状の負極活物質群を含む活物質層を含み、ニッケルは、活物質層の表面に担持されていてもよい。
【0025】
この場合、負極が上記活物質層を有することにより当該活物質層の表面にニッケルを容易に担持させることが可能となる。
【発明の効果】
【0026】
本発明に係る非水電解質二次電池によれば、大電流放電時の電圧降下を大幅に抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本実施の形態に係る非水電解質二次電池について図面を参照しながら説明する。
【0028】
本実施の形態に係る非水電解質二次電池は、正極、負極および非水電解質により構成される。
【0029】
なお、以下に説明する各種材料および当該材料の厚さ、濃度および密度等は以下の記載に限定されるものではなく、適宜設定することができる。
【0030】
(1)正極の構成
正極としては、リチウム(Li)イオンを吸蔵および放出可能であり、構成元素としてマンガン(Mn)を含む材料が用いられる。
【0031】
正極活物質の例としては、LiMnO2 、およびLiMn2 O4 (以下、これらを基本正極活物質と呼ぶ)等が挙げられる。
【0032】
また、正極活物質の他の例としては、上記基本正極活物質におけるリチウム、マンガンおよび酸素の各元素のうち少なくとも1種の元素の一部を他の元素により置換したものが挙げられる。この例として、LiNi0.33 Co0.33 Mn0.33O2 、およびLi1.05 Mn1.9 Al0.05O3.96 S0.04 等が挙げられる。
【0033】
また、正極材料として上記正極活物質が少なくとも1種混合された2種以上の正極活物質からなる混合物を用いることができる。
【0034】
(2)負極の構成
負極活物質としては、天然黒鉛、人造黒鉛、難黒鉛化性炭素、コークス(木炭)等の炭素材料を用いることができる。
【0035】
ここで、本実施の形態の負極について図面を用いて説明する。図1は、負極の構成を示す概略模式図である。
【0036】
図1に示すように、負極集電体1上に粒子状の負極活物質2の群が形成されている。以下、最表層の複数の各負極活物質2における外部に露出した面の連なりを負極表面3と呼ぶ。なお、内部における負極活物質2間の空隙には図示しない結着剤(バインダー)が充填されている。
【0037】
本実施の形態では、負極表面3にニッケル(Ni)を存在させることにより、ハイレート放電(大電流放電)時における電圧降下を大幅に抑制することが可能となる。この作用については必ずしも明確ではないが、概ね以下のように考えられる。なお、負極は粒子状の負極活物質2の群を含む活物質層を備え、ニッケルは活物質層の表面に担持される。
【0038】
マンガンが負極上に析出する際、上記負極活物質2表面にすでに形成されている良質な固体電解質界面(SEI:Solid Electrolyte Interface)が破壊され劣化することにより、当該SEI中のリチウムイオン移動性が低下し、負極におけるリチウムイオンの吸蔵および放出が阻害されてしまう。その結果、マンガンが負極上に析出し、負極の充放電特性が低下すると考えられる。
【0039】
上述のように、負極表面3にニッケルを存在させることにより、マンガンが負極表面3に析出しても破壊されない非常に強固なSEIが負極表面3に形成される。それにより、負極の充放電特性の低下が抑制されるものと考えられる。
【0040】
非水電解質中に溶解したマンガンが負極表面3に集中的に析出していることは、例えばX線光電子分光法(XPS:X-ray Photoelectron Spectroscopy)により確認することができる。これによれば、負極活物質2表面の全体、つまり負極内部にまでニッケルを存在させる必要はなく、負極表面3にニッケルを存在させるのみで上記のような負極の充放電特性の低下抑制効果を得ることができる。なお、当該効果は、構成元素としてマンガンを含む全ての正極活物質において得ることができるが、高温保温時においてマンガンの溶出量が多いスピネル構造を有するマンガン酸リチウムを正極活物質として用いた場合に、特に有効である。
【0041】
ここで、負極表面3にニッケルを存在させる方法の例としては、コーティングによる方法、蒸着法、および非水電解質中にニッケルイオンを存在させることにより負極表面3にニッケルを析出させる方法等が挙げられる。
【0042】
上記方法のうち、非水電解質中にニッケルイオンを存在させることにより負極表面3にニッケルを析出させる方法においては、大幅な設備投資等の必要もなく、容易に負極表面3にニッケルを存在させることができる。非水電解質に対するニッケルの添加量は、0.0008mol/l以上であり、0.003mol/l以上であることがより好ましい。なお、上記添加量が多過ぎると、負極表面3上に析出したニッケルがリチウムイオンの吸蔵および放出を阻害し、負極の充放電特性が低下するので、添加量は0.007mol/l以下である。
【0043】
また、ニッケルの上記添加量は、0.002mol/l以上0.004mol/l以下であることが好ましい。これにより、負極の充放電特性の低下がさらに抑制される。
【0044】
ここで、非水電解質中にニッケルイオンを存在させる方法の例としては、非水電解質中に溶解可能なニッケル化合物を添加する方法、および酸化還元反応により予め非水電解質中にニッケルを溶解させる方法が挙げられる。
【0045】
リチウム金属を負極活物質2として用いた場合には、リチウム金属表面に形成されるSEIが炭素材料とは異なるため、マンガンがリチウム金属上に析出してもSEIが破壊されることがない。そのため、リチウム金属表面にニッケルを存在させても炭素材料で得られるような上述の特異な効果は奏されない。
【0046】
(3)非水電解質の作製
非水電解質としては、非水溶媒に電解質塩を溶解させたものを用いることができる。
【0047】
上記非水溶媒としては、通常電池用の非水溶媒として用いられる環状炭酸エステル、鎖状炭酸エステル、エステル類、環状エーテル類、鎖状エーテル類、ニトリル類、アミド類等およびこれらの組合せからなるものが挙げられる。
【0048】
環状炭酸エステルとしては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート等が挙げられ、これらの水素基の一部または全部がフッ素化されているものも用いることが可能で、例えば、トリフルオロプロピレンカーボネート、フルオロエチルカーボネート等が挙げられる。
【0049】
鎖状炭酸エステルとしては、ジメチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルプロピルカーボネート、エチルプロピルカーボネート、メチルイソプロピルカーボネート等が挙げられ、これらの水素基の一部または全部がフッ素化されているものも用いることが可能である。
【0050】
エステル類としては、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、γ−ブチロラクトン等が挙げられる。環状エーテル類としては、1,3−ジオキソラン、4−メチル−1、3−ジオキソラン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、プロピレンオキシド、1,2−ブチレンオキシド、1,4−ジオキサン、1,3,5−トリオキサン、フラン、2−メチルフラン、1,8−シネオール、クラウンエーテル等が挙げられる。
【0051】
鎖状エーテル類としては、1,2−ジメトキシエタン、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、ジヘキシルエーテル、エチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、メチルフェニルエーテル、エチルフェニルエーテル、ブチルフェニルエーテル、ペンチルフェニルエーテル、メトキシトルエン、ベンジルエチルエーテル、ジフェニルエーテル、ジベンジルエーテル、o−ジメトキシベンゼン、1,2−ジエトキシエタン、1,2−ジブトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、1,1−ジメトキシメタン、1,1−ジエトキシエタン、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチル等が挙げられる。
【0052】
ニトリル類としては、アセトニトリル等が挙げられ、アミド類としては、ジメチルホルムアミド等が挙げられる。
【0053】
上記電解質塩としては、例えば六フッ化リン酸リチウム(LiPF6 )、四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF4 )、LiCF3 SO3 、LiC4 F9 SO3 、LiN(CF3 SO2 )2 、LiN(C2 F5 SO2 )2 、LiAsF6 、LiN(CF3 SO2 )(C4 F9 SO2 )、LiC(CF3 SO2 )3 、LiC(C2 F5 SO2 )3 、LiClO4 、Li2 B10 Cl10 、LiB(C2 O4 )2 、LiB(C2 O4 )F2 、LiP(C2 O4 )3 、LiP(C2 O4 )2 F2 およびLi2 B12 Cl12 等、ならびにこれらの混合物を用いることができる。
【0054】
本実施の形態では、エチレンカーボネートとジメチルカーボネートとを体積比1:1の割合で混合した非水溶媒に、電解質塩としての六フッ化リン酸リチウム(LiPF6 )を1.0mol/lの濃度になるように添加した後、これに対して0.0008〜0.007mol/lとなるようにニッケルを添加することにより得たものを非水電解質として用いる。
【0055】
(4)非水電解質二次電池の作製
上記の正極および負極を、ポリエチレン製のセパレータを介して対向するように巻き取ることにより巻き取り体を作製し、アルゴン(Ar)雰囲気下のグローボックス中において、作製した上記巻き取り体および非水電解質を電池缶に封入することにより非水電解質二次電池を作製する。
【0056】
(5)本実施の形態における効果
本実施の形態においては、非水電解質が0.0008〜0.007mol/lの量のニッケルを含むことにより、充放電を行う際に、負極表面3にニッケルが析出される。このように、負極表面3にニッケルを存在させることによって、高温保温時に正極からマンガンが溶出し、溶出したマンガンが負極上に析出しても、ハイレート放電(大電流放電)時における電圧降下を大幅に抑制することが可能となる。それにより、充放電を良好に行うことができる。
【実施例】
【0057】
(a)実施例1
(a−1)正極の作製
正極活物質として、スピネル構造を有するマンガン酸リチウムであるLi1.1 Mn1.895 Al0.005 O4 を用いた。
【0058】
上記正極活物質と、導電剤としての繊維状炭素と、結着剤としてのポリフッ化ビニリデンを溶解させたN−メチル−2−ピロリドン溶液とを、上記正極活物質、導電剤および結着剤の重量比が90:5:5となるように調製した後、混練して、正極合剤としてのスラリーを作製した。
【0059】
作製した上記正極合剤としてのスラリーを、正極集電体としてのアルミニウム箔上に塗布し、乾燥させた後、圧延ローラーを用いて圧延した。そして、上記正極集電体上に正極合剤が形成されたものに集電タブを取り付けることにより、正極を完成させた。
【0060】
(a−2)負極の作製
負極活物質2としての黒鉛と、結着剤としてのスチレンブタジエンゴムと、増粘剤としてのカルボキシメチルセルロースとを溶解させて得た水溶液を、上記負極活物質2、結着剤および増粘剤の重量比が98:1:1になるように調製した後、混練して負極合剤としてのスラリーを作製した。
【0061】
作製した上記負極合剤としてのスラリーを、負極集電体1としての銅箔上に塗布し、乾燥させた後、圧延ローラーを用いて圧延した。そして、上記負極集電体1上に負極合剤が形成されたものに集電タブを取り付けることにより、負極を完成させた。
【0062】
(a−3)非水電解質の作製
エチレンカーボネートとジメチルカーボネートとを体積比1:1の割合で混合した非水溶媒に、電解質塩としての六フッ化リン酸リチウム(LiPF6 )を1.0mol/lの濃度になるように添加した後、これに対して0.0008mol/lとなるようにニッケルを添加することにより得たものを非水電解質として用いた。
【0063】
なお、本実施例では、Ni(CH3 COO)2 ・2H2 Oを真空状態の110℃の温度環境下で4時間乾燥させることにより得たNi(CH3 COO)2 粉末を、添加するためのニッケルとして用いた。
【0064】
(a−4)非水電解質二次電池の作製
上記の正極および負極を、ポリエチレン製のセパレータを介して対向するように巻き取ることにより巻き取り体を作製し、アルゴン雰囲気下のグローボックス中において、作製した上記巻き取り体および非水電解質を電池缶に封入することにより、容量が1.1Ahであり、直径18mmおよび高さ65mmの円筒型の非水電解質二次電池を作製した。
【0065】
(b)実施例2
実施例2の非水電解質二次電池の構成が、実施例1の非水電解質二次電池の構成と異なる点は、非水電解質に対するニッケルの添加量を0.0015mol/lとした点である。この点以外は実施例1と同様にして非水電解質二次電池を作製した。
【0066】
(c)実施例3
実施例3の非水電解質二次電池の構成が、実施例1の非水電解質二次電池の構成と異なる点は、非水電解質に対するニッケルの添加量を0.003mol/lとした点である。この点以外は実施例1と同様にして非水電解質二次電池を作製した。
【0067】
(d)比較例1
比較例1の非水電解質二次電池の構成が、実施例1の非水電解質二次電池の構成と異なる点は、非水電解質に対してニッケルを添加しなかった点である。この点以外は実施例1と同様にして非水電解質二次電池を作製した。
【0068】
(e)充放電試験の実施
実施例1〜3および比較例1で作製した非水電解質二次電池において、1.1Aの定電流で電池電圧が4.2Vに達するまで充電を行った後、4.2Vの電池電圧を維持したまま電流が55mAとなるまで定電圧充電をそれぞれ行った。
【0069】
次に、定電圧充電後の各非水電解質二次電池を、60℃の恒温槽に保管し続け、10日後にこれらを恒温槽から取り出して室温で5時間それぞれ放置した。
【0070】
そして、放置後の各非水電解質二次電池において、10Aの定電流で電池電圧が2.5Vに達するまで放電を行った。各非水電解質二次電池の上記充放電試験の測定結果(放電カーブ)を図2に示す。
【0071】
図2の縦軸は電圧(mV)を示し、横軸は放電深度(DOD:Depth of Discharge)(%)を示す。なお、放電深度とは、非水電解質二次電池の容量に対してすでに放電された放電量の比率をいう。例えば、容量が100Ahの非水電解質二次電池において、満充電状態(DODが0%の場合)から50Ahを放電させた場合、放電深度は50%となる。
【0072】
(f)充放電試験の評価
図2からわかるように、ニッケルを非水電解質に添加しなかった比較例1に比べ、ニッケルを非水電解質に添加した実施例1〜3の非水電解質二次電池においては、放電初期における電圧降下が著しく抑制された。
【0073】
特に、非水電解質に対するニッケルの添加量が0.003mol/lである実施例3の非水電解質二次電池においては、電圧降下抑制の効果が大きく現れた。
【0074】
これらの結果、非水電解質に対するニッケルの添加量は、0.0008〜0.015mol/lであることが好ましいことがわかった。
【0075】
(g)実施例4〜7および比較例2
実施例4〜7および比較例2では、負極上に析出するニッケルの量と負極特性との関係を調べるために、後述の測定(ニッケル量の測定)をそれぞれ行うとともに、三電極式セルを作製し、これを用いて充放電試験をそれぞれ行った。
【0076】
最初に、所定量のニッケルおよびマンガンを含有する各正極活物質を含む各正極と、負極活物質2として黒鉛を含む各負極とを用い、上述の実施例1と同様に、容量が1.1Ahであり、直径18mmおよび高さ65mmの円筒型の各非水電解質二次電池をそれぞれ作製した。
【0077】
作製した各非水電解質二次電池において、1.1Aの定電流で電池電圧が4.2Vに達するまで充電を行った後、4.2Vの電池電圧を維持したまま電流が55mAとなるまで定電圧充電をそれぞれ行った。
【0078】
次に、定電圧充電後の各非水電解質二次電池を、60℃の恒温槽に保管し続け、10日後にこれらを恒温槽から取り出して室温で5時間それぞれ放置した。
【0079】
そして、放置後の各非水電解質二次電池において、0.22Aの定電流で電池電圧が2.5Vに達するまで放電を行った後、各非水電解質二次電池を解体して各負極をそれぞれ取り出した。そして、取り出した各負極を2cm×2cmおよび2cm×5cmの大きさにそれぞれ切り出した。
【0080】
2cm×2cmの大きさに切り出した各負極については、誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析法により当該各負極に含まれるニッケルの量をそれぞれ測定した。各測定結果を表1に示す。
【0081】
【表1】
【0082】
ここで、非水電解質二次電池において、非水電解質中に存在する金属イオンは、負極活物質層の表面にほぼ均一に析出することが経験的に知られている。
【0083】
実施例4の非水電解質二次電池は、幅5.75cmおよび長さ83cmを有する。このような非水電解質二次電池において、表1に示すように、片面当たり0.25μg/cm2のニッケルが析出する場合(実施例4)は、非水電解質中に0.00084mol/lのニッケルが存在する場合に相当する。表1には、負極上に析出されるニッケルの量を、非水電解質中のニッケルの量に換算した値をイオン濃度として示している。同様にして、実施例5〜7および比較例2におけるイオン濃度も表1に示す。
【0084】
一方、2cm×5cmの大きさに切り出した各負極については、切り出した作用極としての各負極とリチウム金属からなる各対極とを、ポリプロピレン製の多孔膜セパレータを介して対向するように巻き取ることにより各巻き取り体をそれぞれ作製した。
【0085】
そして、作製した上記各巻き取り体、およびエチレンカーボネートとジメチルカーボネートとを体積比1:1の割合で混合した非水溶媒に、電解質塩としての六フッ化リン酸リチウム(LiPF6 )を1.0mol/lの濃度になるように添加することにより得られる各非水電解質を用いて、三電極式セルとしての各非水電解質二次電池をそれぞれ作製した。また、参照極としてリチウム金属を用いた。なお、作製した非水電解質二次電池においては、正極からニッケルが溶出することにより非水電解質中にニッケルが存在する状態をつくった。
【0086】
(h)比較例3
比較例3では、実施例1と同じ負極を作製した後、当該負極を2cm×5cmの大きさに切り出した。
【0087】
切り出した作用極としての負極とリチウム金属からなる対極とを、ポリプロピレン製の多孔膜セパレータを介して対向するように巻き取ることにより巻き取り体を作製した。
【0088】
そして、作製した上記巻き取り体、およびエチレンカーボネートとジメチルカーボネートとを体積比1:1の割合で混合した非水溶媒に、電解質塩としての六フッ化リン酸リチウム(LiPF6 )を1.0mol/lの濃度になるように添加することにより得られる非水電解質を用いて、三電極式セルとしての非水電解質二次電池を作製した。また、参照極としてリチウム金属を用いた。
【0089】
(i)充放電試験の実施およびその評価
ここでは、上記実施例4〜7および比較例2,3で作製した各三電極式セルにおいて、充電を確実にするために、0.5mA/cm2の電流密度で参照極3を基準とする負極の電位が0.0Vに達するまで充電を行った後、0.25mA/cm2の電流密度で上記電位が0.0Vに達するまで充電を行い、さらに、0.1mA/cm2の電流密度で上記電位が0.0Vに達するまで充電を行い、そして、20mA/cm2の電流密度で放電を行った。
【0090】
図3は、実施例4〜7および比較例2,3の三電極式セルを用いて行った充放電試験の結果を示すグラフである。
【0091】
実施例4〜7の各充放電試験結果は、三電極式セルの各負極においてマンガンが析出している(ICP発光分光分析法により確認済み)にも拘わらず、図3に示すように、金属が負極表面に存在しない比較例3の充放電試験結果よりも優れた放電特性を示した。この理由については必ずしも明確ではないが、概ね以下のように考えられる。なお、負極は粒子状の負極活物質2の群を含む活物質層を備え、ニッケルは活物質層の表面に担持される。
【0092】
マンガンが負極上に析出する際、上記負極活物質2表面にすでに形成されている良質な固体電解質界面(SEI:Solid Electrolyte Interface)が破壊され劣化することにより、当該SEI中のリチウムイオン移動性が低下し、負極におけるリチウムイオンの吸蔵および放出が阻害されてしまう。その結果、マンガンが負極上に析出し、負極の放電特性が低下すると考えられる。
【0093】
上述のように、負極表面3にニッケルを存在させることにより、マンガンが負極表面3に析出しても破壊されない非常に強固なSEIが負極表面3に形成される。それにより、負極の放電特性の低下が抑制されるものと考えられる。
【0094】
また、実施例4〜7の各充放電試験結果が、負極表面に金属が存在しない比較例3の充放電試験結果よりも優れた放電特性を示した他の理由として、負極表面にニッケルを存在させた場合に負極表面に形成されるSEIは、負極表面にニッケルが存在していない場合に負極表面に形成されるSEIよりもリチウムイオンが拡散されやすい特性を有するためであると考えられる。
【0095】
比較例2の充放電試験結果は、比較例3の充放電試験結果よりも劣る放電特性を示した。これは、負極表面3に存在するニッケルの量が多過ぎるために、当該ニッケルがリチウムイオンの吸蔵および放出を阻害したことが原因であると考えられる。
【0096】
(j)比較例4〜6
比較例4〜6では、所定量のコバルトおよびマンガンを含有する各正極活物質を含む各正極を用いることを除いて、上述の実施例4〜7および比較例2と同様に、上述したイオン濃度の測定をそれぞれ行うとともに、三電極式セルとしての各非水電解質二次電池をそれぞれ作製した。なお、作製した非水電解質二次電池においては、正極からコバルトが溶出することにより非水電解質中にコバルトが存在する状態をつくった。上記のイオン濃度の測定結果を表2に示す。
【0097】
【表2】
【0098】
比較例4の非水電解質二次電池は、幅5.75cmおよび長さ83cmを有する。このような非水電解質二次電池において、表2に示すように、片面当たり2.0μg/cm2のコバルトが析出する場合(比較例4)は、非水電解質中に0.0064mol/lのコバルトが存在する場合に相当する。表2には、負極上に析出されるコバルトの量を、非水電解質中のコバルトの量に換算した値をイオン濃度として示している。同様にして、比較例5、6におけるイオン濃度も表2に示す。
【0099】
(k)作動電位差の測定
続いて、実施例4〜7および比較例2,4〜6で作製した三電極式セルの各負極の上記比較例3の負極に対する作動電位差をそれぞれ測定した。なお、作動電位差は、ハイレート放電(大電流放電)を行った際に電圧降下が大きく生じる放電深度15%時におけるものである。各例の作動電位差を表3に示す。
【0100】
【表3】
【0101】
表3に示されるように、実施例4〜7では、各作動電位差がそれぞれ負の値となっている。すなわち、実施例4〜7の負極の各電位は、比較例3の負極の電位よりもそれぞれ低くなっている(上述の図3参照)。したがって、電池電圧(正極の電位と負極の電位との差)の低下が抑制されることがわかった。
【0102】
一方、比較例2では、作動電位差が正の値となっている。すなわち、比較例2の負極の電位は、比較例3の負極の電位よりも高くなっている(上述の図3参照)。したがって、電池電圧の低下が抑制されないことがわかった。
【0103】
また、比較例4〜6では、各作動電位差がそれぞれ正の値となっている。すなわち、比較例4〜6の負極の各電位は、比較例3の負極の電位よりもそれぞれ高くなっている。したがって、電池電圧の低下が抑制されないことがわかった。これにより、非水電解質中にコバルトを含有させ、負極の表面上にコバルトを析出させても、電池電圧の低下を抑制することができないことがわかった。
【0104】
(l)まとめ
以上の結果から、非水電解質中に0.0008〜0.007mol/lの量のニッケルを含有させることにより、ハイレート放電(大電流放電)時における電圧降下を大幅に抑制することが可能となることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0105】
本発明に係る非水電解質二次電池は、携帯用電源および自動車用電源等の種々の電源として利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0106】
【図1】負極の構成を示す概略模式図である。
【図2】実施例1〜3および比較例1の非水電解質二次電池の充放電試験の各測定結果(放電カーブ)を示すグラフである。
【図3】実施例4〜7および比較例2,3の三電極式セルを用いて行った充放電試験の結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0107】
1 負極集電体
2 負極活物質
3 負極表面
【技術分野】
【0001】
本発明は、正極、負極および非水電解質からなる非水電解質二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、高エネルギー密度の二次電池として、非水電解質を使用し、リチウムイオンを正極と負極との間で移動させて充放電を行うようにした非水電解質二次電池が利用されている。
【0003】
このような非水電解質二次電池として、一般に正極にLiCoO2 等のリチウム遷移金属複合酸化物を用いるとともに、負極にリチウム金属、リチウム合金またはリチウムの吸蔵および放出が可能な炭素材料を用い、非水電解質として、エチレンカーボネート、ジエチルカーボネート等の有機溶媒にLiBF4 、LiPF6 等のリチウム塩からなる電解質塩を溶解させたものが使用されている。
【0004】
また、最近では、非水電解質二次電池の特徴である高重量エネルギー密度および高体積エネルギー密度を活かし、工具およびアシスト自転車用電源として当該非水電解質二次電池を用いることに対する研究が盛んに行われている。
【0005】
これらの用途に用いる上記非水電解質二次電池の正極活物質(正極材料)として、リチウムコバルト複合酸化物、リチウムニッケル複合酸化物およびリチウムマンガン複合酸化物等が検討されている。このうち、資源的に豊富であるとともに、安価なリチウムマンガン複合酸化物が注目されており、商品化に向けて活発的に研究が進められている。リチウムマンガン複合酸化物の中でも、スピネル構造を有するマンガン酸リチウムは、ハイレート放電(大電流放電)特性に優れていることが知られている。
【0006】
しかしながら、スピネル構造を有するマンガン酸リチウムを正極活物質として用いた非水電解質二次電池においては、特に高温における保存特性の低下が大きな課題である。これは、高温保温時に正極からマンガン(Mn)が溶出するためであると言われている。
【0007】
また、スピネル構造を有するマンガン酸リチウムを正極活物質として用いた場合には、高温保存後の放電特性の低下が顕著となり、放電開始とともに電圧が急激に低下することにより放電容量が低下してしまう。そして、上記電圧が放電終止電圧以下になるまで低下する結果、放電を行うことが不可能となる。これは、正極からマンガンが溶出し炭素負極上に析出することにより、負極の充放電特性が悪化するためであると考えられている。
【0008】
そこで、正極活物質を構成するマンガン等の金属元素を非水電解質中に添加することにより、正極活物質中の金属元素が非水電解質内に溶解することを化学平衡的に抑制することが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0009】
しかしながら、マンガン等の金属元素が正極から溶出することを抑制することができても、これらの金属元素が炭素負極に析出することは防止することができない。このため、上述のように、負極の充放電特性が悪化する結果となる。
【0010】
そこで、負極活物質表面にチタン(Ti)、白金(Pt)等の金属を担持することにより、負極の充放電特性の悪化を抑制することが提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0011】
また、非水電解質中にコバルト(Co)等の金属元素または金属イオンを所定の量で含有させることにより負極の充放電特性を向上させることが提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【特許文献1】特開平04−188571号公報
【特許文献2】特開2000−12027号公報
【特許文献3】特開2003−217657号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、特許文献2に記載の非水電解質二次電池では、負極活物質表面にチタン(Ti)、白金(Pt)等の金属を担持する方法では、0.5〜20重量%の上記金属を担持する必要がある。このように、充放電に関与しない材料を多量に用いる結果、放電容量の低下だけでなく、単位重量当りのエネルギー密度が大きく低下する。
【0013】
また、負極活物質表面に上記金属を担持させる工程が必要となり、これによる高コスト化が生じる。なお、このような課題は、高温保温時におけるマンガンの溶出が多いスピネル構造を有するマンガン酸リチウムに限定されるものではなく、構成元素としてマンガンを含む全ての正極活物質においても同様に生じる。
【0014】
さらに、特許文献3に記載の非水電解質二次電池では、ハイレート放電(大電流放電)時における電圧降下を大幅に抑制することが困難である。
【0015】
本発明の目的は、ハイレート放電(大電流放電)時における電圧降下を大幅に抑制することが可能な非水電解質二次電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
(1)本発明に係る非水電解質二次電池は、リチウムイオンを吸蔵および放出することが可能で、マンガンを含む正極活物質を有する正極と、リチウムイオンを吸蔵および放出することが可能で、炭素材料を含む負極活物質を有する負極と、非水電解質とを備える非水電解質二次電池であって、非水電解質は、ニッケルを含み、非水電解質二次電池の組み立て時においてニッケルの量は、0.0008mol/l以上0.007mol/l以下であるものである。
【0017】
本発明に係る非水電解質二次電池においては、非水電解質がニッケルを含むことにより、充放電を行う際に負極の表面上にニッケルが析出される。このように、負極の表面にニッケルを存在させることによって、高温保存時に正極からマンガンが溶出し、溶出したマンガンが負極上に析出しても、ハイレート放電(大電流放電)時における電圧降下を大幅に抑制することが可能となる。それにより、充放電を良好に行うことができる。
【0018】
なお、上記作用については必ずしも明確ではないが、概ね以下のように考えられる。
【0019】
マンガンが負極上に析出する際、負極活物質表面にすでに形成されている良質な固体電解質界面(SEI:Solid Electrolyte Interface)が破壊され劣化することにより、当該SEI中のリチウムイオン移動性が低下し、負極におけるリチウムイオンの吸蔵および放出が阻害されてしまう。その結果、マンガンが負極上に析出し、負極の充放電特性が低下すると考えられる。
【0020】
上述のように、負極表面にニッケルを存在させることにより、マンガンが負極表面に析出しても破壊されない非常に強固なSEIが負極表面に形成される。それにより、負極の充放電特性の低下が抑制されるものと考えられる。
【0021】
また、ニッケルの量を、0.0008mol/l以上0.007mol/l以下とすることによって、ニッケルの量が0.0008mol/l未満となる場合に生じる負極の充放電特性の低下を抑制することができるとともに、ニッケルの量が0.007mol/l以上となる場合に、負極の表面上に析出されたニッケルがリチウムの吸蔵および放出を阻害することにより負極の充放電特性が低下することを防止することができる。
【0022】
(2)ニッケルの量は、0.002mol/l以上0.004mol/l以下であることが好ましい。この場合、負極の充放電特性が低下することがさらに抑制または防止される。
【0023】
(3)正極活物質は、スピネル構造を有するマンガン酸リチウムを含んでもよい。この場合、スピネル構造を有するマンガン酸リチウムがハイレート放電に優れていることにより、ハイレート放電を良好に行うことができる。
【0024】
(4)負極は、粒子状の負極活物質群を含む活物質層を含み、ニッケルは、活物質層の表面に担持されていてもよい。
【0025】
この場合、負極が上記活物質層を有することにより当該活物質層の表面にニッケルを容易に担持させることが可能となる。
【発明の効果】
【0026】
本発明に係る非水電解質二次電池によれば、大電流放電時の電圧降下を大幅に抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本実施の形態に係る非水電解質二次電池について図面を参照しながら説明する。
【0028】
本実施の形態に係る非水電解質二次電池は、正極、負極および非水電解質により構成される。
【0029】
なお、以下に説明する各種材料および当該材料の厚さ、濃度および密度等は以下の記載に限定されるものではなく、適宜設定することができる。
【0030】
(1)正極の構成
正極としては、リチウム(Li)イオンを吸蔵および放出可能であり、構成元素としてマンガン(Mn)を含む材料が用いられる。
【0031】
正極活物質の例としては、LiMnO2 、およびLiMn2 O4 (以下、これらを基本正極活物質と呼ぶ)等が挙げられる。
【0032】
また、正極活物質の他の例としては、上記基本正極活物質におけるリチウム、マンガンおよび酸素の各元素のうち少なくとも1種の元素の一部を他の元素により置換したものが挙げられる。この例として、LiNi0.33 Co0.33 Mn0.33O2 、およびLi1.05 Mn1.9 Al0.05O3.96 S0.04 等が挙げられる。
【0033】
また、正極材料として上記正極活物質が少なくとも1種混合された2種以上の正極活物質からなる混合物を用いることができる。
【0034】
(2)負極の構成
負極活物質としては、天然黒鉛、人造黒鉛、難黒鉛化性炭素、コークス(木炭)等の炭素材料を用いることができる。
【0035】
ここで、本実施の形態の負極について図面を用いて説明する。図1は、負極の構成を示す概略模式図である。
【0036】
図1に示すように、負極集電体1上に粒子状の負極活物質2の群が形成されている。以下、最表層の複数の各負極活物質2における外部に露出した面の連なりを負極表面3と呼ぶ。なお、内部における負極活物質2間の空隙には図示しない結着剤(バインダー)が充填されている。
【0037】
本実施の形態では、負極表面3にニッケル(Ni)を存在させることにより、ハイレート放電(大電流放電)時における電圧降下を大幅に抑制することが可能となる。この作用については必ずしも明確ではないが、概ね以下のように考えられる。なお、負極は粒子状の負極活物質2の群を含む活物質層を備え、ニッケルは活物質層の表面に担持される。
【0038】
マンガンが負極上に析出する際、上記負極活物質2表面にすでに形成されている良質な固体電解質界面(SEI:Solid Electrolyte Interface)が破壊され劣化することにより、当該SEI中のリチウムイオン移動性が低下し、負極におけるリチウムイオンの吸蔵および放出が阻害されてしまう。その結果、マンガンが負極上に析出し、負極の充放電特性が低下すると考えられる。
【0039】
上述のように、負極表面3にニッケルを存在させることにより、マンガンが負極表面3に析出しても破壊されない非常に強固なSEIが負極表面3に形成される。それにより、負極の充放電特性の低下が抑制されるものと考えられる。
【0040】
非水電解質中に溶解したマンガンが負極表面3に集中的に析出していることは、例えばX線光電子分光法(XPS:X-ray Photoelectron Spectroscopy)により確認することができる。これによれば、負極活物質2表面の全体、つまり負極内部にまでニッケルを存在させる必要はなく、負極表面3にニッケルを存在させるのみで上記のような負極の充放電特性の低下抑制効果を得ることができる。なお、当該効果は、構成元素としてマンガンを含む全ての正極活物質において得ることができるが、高温保温時においてマンガンの溶出量が多いスピネル構造を有するマンガン酸リチウムを正極活物質として用いた場合に、特に有効である。
【0041】
ここで、負極表面3にニッケルを存在させる方法の例としては、コーティングによる方法、蒸着法、および非水電解質中にニッケルイオンを存在させることにより負極表面3にニッケルを析出させる方法等が挙げられる。
【0042】
上記方法のうち、非水電解質中にニッケルイオンを存在させることにより負極表面3にニッケルを析出させる方法においては、大幅な設備投資等の必要もなく、容易に負極表面3にニッケルを存在させることができる。非水電解質に対するニッケルの添加量は、0.0008mol/l以上であり、0.003mol/l以上であることがより好ましい。なお、上記添加量が多過ぎると、負極表面3上に析出したニッケルがリチウムイオンの吸蔵および放出を阻害し、負極の充放電特性が低下するので、添加量は0.007mol/l以下である。
【0043】
また、ニッケルの上記添加量は、0.002mol/l以上0.004mol/l以下であることが好ましい。これにより、負極の充放電特性の低下がさらに抑制される。
【0044】
ここで、非水電解質中にニッケルイオンを存在させる方法の例としては、非水電解質中に溶解可能なニッケル化合物を添加する方法、および酸化還元反応により予め非水電解質中にニッケルを溶解させる方法が挙げられる。
【0045】
リチウム金属を負極活物質2として用いた場合には、リチウム金属表面に形成されるSEIが炭素材料とは異なるため、マンガンがリチウム金属上に析出してもSEIが破壊されることがない。そのため、リチウム金属表面にニッケルを存在させても炭素材料で得られるような上述の特異な効果は奏されない。
【0046】
(3)非水電解質の作製
非水電解質としては、非水溶媒に電解質塩を溶解させたものを用いることができる。
【0047】
上記非水溶媒としては、通常電池用の非水溶媒として用いられる環状炭酸エステル、鎖状炭酸エステル、エステル類、環状エーテル類、鎖状エーテル類、ニトリル類、アミド類等およびこれらの組合せからなるものが挙げられる。
【0048】
環状炭酸エステルとしては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート等が挙げられ、これらの水素基の一部または全部がフッ素化されているものも用いることが可能で、例えば、トリフルオロプロピレンカーボネート、フルオロエチルカーボネート等が挙げられる。
【0049】
鎖状炭酸エステルとしては、ジメチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルプロピルカーボネート、エチルプロピルカーボネート、メチルイソプロピルカーボネート等が挙げられ、これらの水素基の一部または全部がフッ素化されているものも用いることが可能である。
【0050】
エステル類としては、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、γ−ブチロラクトン等が挙げられる。環状エーテル類としては、1,3−ジオキソラン、4−メチル−1、3−ジオキソラン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、プロピレンオキシド、1,2−ブチレンオキシド、1,4−ジオキサン、1,3,5−トリオキサン、フラン、2−メチルフラン、1,8−シネオール、クラウンエーテル等が挙げられる。
【0051】
鎖状エーテル類としては、1,2−ジメトキシエタン、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、ジヘキシルエーテル、エチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、メチルフェニルエーテル、エチルフェニルエーテル、ブチルフェニルエーテル、ペンチルフェニルエーテル、メトキシトルエン、ベンジルエチルエーテル、ジフェニルエーテル、ジベンジルエーテル、o−ジメトキシベンゼン、1,2−ジエトキシエタン、1,2−ジブトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、1,1−ジメトキシメタン、1,1−ジエトキシエタン、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチル等が挙げられる。
【0052】
ニトリル類としては、アセトニトリル等が挙げられ、アミド類としては、ジメチルホルムアミド等が挙げられる。
【0053】
上記電解質塩としては、例えば六フッ化リン酸リチウム(LiPF6 )、四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF4 )、LiCF3 SO3 、LiC4 F9 SO3 、LiN(CF3 SO2 )2 、LiN(C2 F5 SO2 )2 、LiAsF6 、LiN(CF3 SO2 )(C4 F9 SO2 )、LiC(CF3 SO2 )3 、LiC(C2 F5 SO2 )3 、LiClO4 、Li2 B10 Cl10 、LiB(C2 O4 )2 、LiB(C2 O4 )F2 、LiP(C2 O4 )3 、LiP(C2 O4 )2 F2 およびLi2 B12 Cl12 等、ならびにこれらの混合物を用いることができる。
【0054】
本実施の形態では、エチレンカーボネートとジメチルカーボネートとを体積比1:1の割合で混合した非水溶媒に、電解質塩としての六フッ化リン酸リチウム(LiPF6 )を1.0mol/lの濃度になるように添加した後、これに対して0.0008〜0.007mol/lとなるようにニッケルを添加することにより得たものを非水電解質として用いる。
【0055】
(4)非水電解質二次電池の作製
上記の正極および負極を、ポリエチレン製のセパレータを介して対向するように巻き取ることにより巻き取り体を作製し、アルゴン(Ar)雰囲気下のグローボックス中において、作製した上記巻き取り体および非水電解質を電池缶に封入することにより非水電解質二次電池を作製する。
【0056】
(5)本実施の形態における効果
本実施の形態においては、非水電解質が0.0008〜0.007mol/lの量のニッケルを含むことにより、充放電を行う際に、負極表面3にニッケルが析出される。このように、負極表面3にニッケルを存在させることによって、高温保温時に正極からマンガンが溶出し、溶出したマンガンが負極上に析出しても、ハイレート放電(大電流放電)時における電圧降下を大幅に抑制することが可能となる。それにより、充放電を良好に行うことができる。
【実施例】
【0057】
(a)実施例1
(a−1)正極の作製
正極活物質として、スピネル構造を有するマンガン酸リチウムであるLi1.1 Mn1.895 Al0.005 O4 を用いた。
【0058】
上記正極活物質と、導電剤としての繊維状炭素と、結着剤としてのポリフッ化ビニリデンを溶解させたN−メチル−2−ピロリドン溶液とを、上記正極活物質、導電剤および結着剤の重量比が90:5:5となるように調製した後、混練して、正極合剤としてのスラリーを作製した。
【0059】
作製した上記正極合剤としてのスラリーを、正極集電体としてのアルミニウム箔上に塗布し、乾燥させた後、圧延ローラーを用いて圧延した。そして、上記正極集電体上に正極合剤が形成されたものに集電タブを取り付けることにより、正極を完成させた。
【0060】
(a−2)負極の作製
負極活物質2としての黒鉛と、結着剤としてのスチレンブタジエンゴムと、増粘剤としてのカルボキシメチルセルロースとを溶解させて得た水溶液を、上記負極活物質2、結着剤および増粘剤の重量比が98:1:1になるように調製した後、混練して負極合剤としてのスラリーを作製した。
【0061】
作製した上記負極合剤としてのスラリーを、負極集電体1としての銅箔上に塗布し、乾燥させた後、圧延ローラーを用いて圧延した。そして、上記負極集電体1上に負極合剤が形成されたものに集電タブを取り付けることにより、負極を完成させた。
【0062】
(a−3)非水電解質の作製
エチレンカーボネートとジメチルカーボネートとを体積比1:1の割合で混合した非水溶媒に、電解質塩としての六フッ化リン酸リチウム(LiPF6 )を1.0mol/lの濃度になるように添加した後、これに対して0.0008mol/lとなるようにニッケルを添加することにより得たものを非水電解質として用いた。
【0063】
なお、本実施例では、Ni(CH3 COO)2 ・2H2 Oを真空状態の110℃の温度環境下で4時間乾燥させることにより得たNi(CH3 COO)2 粉末を、添加するためのニッケルとして用いた。
【0064】
(a−4)非水電解質二次電池の作製
上記の正極および負極を、ポリエチレン製のセパレータを介して対向するように巻き取ることにより巻き取り体を作製し、アルゴン雰囲気下のグローボックス中において、作製した上記巻き取り体および非水電解質を電池缶に封入することにより、容量が1.1Ahであり、直径18mmおよび高さ65mmの円筒型の非水電解質二次電池を作製した。
【0065】
(b)実施例2
実施例2の非水電解質二次電池の構成が、実施例1の非水電解質二次電池の構成と異なる点は、非水電解質に対するニッケルの添加量を0.0015mol/lとした点である。この点以外は実施例1と同様にして非水電解質二次電池を作製した。
【0066】
(c)実施例3
実施例3の非水電解質二次電池の構成が、実施例1の非水電解質二次電池の構成と異なる点は、非水電解質に対するニッケルの添加量を0.003mol/lとした点である。この点以外は実施例1と同様にして非水電解質二次電池を作製した。
【0067】
(d)比較例1
比較例1の非水電解質二次電池の構成が、実施例1の非水電解質二次電池の構成と異なる点は、非水電解質に対してニッケルを添加しなかった点である。この点以外は実施例1と同様にして非水電解質二次電池を作製した。
【0068】
(e)充放電試験の実施
実施例1〜3および比較例1で作製した非水電解質二次電池において、1.1Aの定電流で電池電圧が4.2Vに達するまで充電を行った後、4.2Vの電池電圧を維持したまま電流が55mAとなるまで定電圧充電をそれぞれ行った。
【0069】
次に、定電圧充電後の各非水電解質二次電池を、60℃の恒温槽に保管し続け、10日後にこれらを恒温槽から取り出して室温で5時間それぞれ放置した。
【0070】
そして、放置後の各非水電解質二次電池において、10Aの定電流で電池電圧が2.5Vに達するまで放電を行った。各非水電解質二次電池の上記充放電試験の測定結果(放電カーブ)を図2に示す。
【0071】
図2の縦軸は電圧(mV)を示し、横軸は放電深度(DOD:Depth of Discharge)(%)を示す。なお、放電深度とは、非水電解質二次電池の容量に対してすでに放電された放電量の比率をいう。例えば、容量が100Ahの非水電解質二次電池において、満充電状態(DODが0%の場合)から50Ahを放電させた場合、放電深度は50%となる。
【0072】
(f)充放電試験の評価
図2からわかるように、ニッケルを非水電解質に添加しなかった比較例1に比べ、ニッケルを非水電解質に添加した実施例1〜3の非水電解質二次電池においては、放電初期における電圧降下が著しく抑制された。
【0073】
特に、非水電解質に対するニッケルの添加量が0.003mol/lである実施例3の非水電解質二次電池においては、電圧降下抑制の効果が大きく現れた。
【0074】
これらの結果、非水電解質に対するニッケルの添加量は、0.0008〜0.015mol/lであることが好ましいことがわかった。
【0075】
(g)実施例4〜7および比較例2
実施例4〜7および比較例2では、負極上に析出するニッケルの量と負極特性との関係を調べるために、後述の測定(ニッケル量の測定)をそれぞれ行うとともに、三電極式セルを作製し、これを用いて充放電試験をそれぞれ行った。
【0076】
最初に、所定量のニッケルおよびマンガンを含有する各正極活物質を含む各正極と、負極活物質2として黒鉛を含む各負極とを用い、上述の実施例1と同様に、容量が1.1Ahであり、直径18mmおよび高さ65mmの円筒型の各非水電解質二次電池をそれぞれ作製した。
【0077】
作製した各非水電解質二次電池において、1.1Aの定電流で電池電圧が4.2Vに達するまで充電を行った後、4.2Vの電池電圧を維持したまま電流が55mAとなるまで定電圧充電をそれぞれ行った。
【0078】
次に、定電圧充電後の各非水電解質二次電池を、60℃の恒温槽に保管し続け、10日後にこれらを恒温槽から取り出して室温で5時間それぞれ放置した。
【0079】
そして、放置後の各非水電解質二次電池において、0.22Aの定電流で電池電圧が2.5Vに達するまで放電を行った後、各非水電解質二次電池を解体して各負極をそれぞれ取り出した。そして、取り出した各負極を2cm×2cmおよび2cm×5cmの大きさにそれぞれ切り出した。
【0080】
2cm×2cmの大きさに切り出した各負極については、誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析法により当該各負極に含まれるニッケルの量をそれぞれ測定した。各測定結果を表1に示す。
【0081】
【表1】
【0082】
ここで、非水電解質二次電池において、非水電解質中に存在する金属イオンは、負極活物質層の表面にほぼ均一に析出することが経験的に知られている。
【0083】
実施例4の非水電解質二次電池は、幅5.75cmおよび長さ83cmを有する。このような非水電解質二次電池において、表1に示すように、片面当たり0.25μg/cm2のニッケルが析出する場合(実施例4)は、非水電解質中に0.00084mol/lのニッケルが存在する場合に相当する。表1には、負極上に析出されるニッケルの量を、非水電解質中のニッケルの量に換算した値をイオン濃度として示している。同様にして、実施例5〜7および比較例2におけるイオン濃度も表1に示す。
【0084】
一方、2cm×5cmの大きさに切り出した各負極については、切り出した作用極としての各負極とリチウム金属からなる各対極とを、ポリプロピレン製の多孔膜セパレータを介して対向するように巻き取ることにより各巻き取り体をそれぞれ作製した。
【0085】
そして、作製した上記各巻き取り体、およびエチレンカーボネートとジメチルカーボネートとを体積比1:1の割合で混合した非水溶媒に、電解質塩としての六フッ化リン酸リチウム(LiPF6 )を1.0mol/lの濃度になるように添加することにより得られる各非水電解質を用いて、三電極式セルとしての各非水電解質二次電池をそれぞれ作製した。また、参照極としてリチウム金属を用いた。なお、作製した非水電解質二次電池においては、正極からニッケルが溶出することにより非水電解質中にニッケルが存在する状態をつくった。
【0086】
(h)比較例3
比較例3では、実施例1と同じ負極を作製した後、当該負極を2cm×5cmの大きさに切り出した。
【0087】
切り出した作用極としての負極とリチウム金属からなる対極とを、ポリプロピレン製の多孔膜セパレータを介して対向するように巻き取ることにより巻き取り体を作製した。
【0088】
そして、作製した上記巻き取り体、およびエチレンカーボネートとジメチルカーボネートとを体積比1:1の割合で混合した非水溶媒に、電解質塩としての六フッ化リン酸リチウム(LiPF6 )を1.0mol/lの濃度になるように添加することにより得られる非水電解質を用いて、三電極式セルとしての非水電解質二次電池を作製した。また、参照極としてリチウム金属を用いた。
【0089】
(i)充放電試験の実施およびその評価
ここでは、上記実施例4〜7および比較例2,3で作製した各三電極式セルにおいて、充電を確実にするために、0.5mA/cm2の電流密度で参照極3を基準とする負極の電位が0.0Vに達するまで充電を行った後、0.25mA/cm2の電流密度で上記電位が0.0Vに達するまで充電を行い、さらに、0.1mA/cm2の電流密度で上記電位が0.0Vに達するまで充電を行い、そして、20mA/cm2の電流密度で放電を行った。
【0090】
図3は、実施例4〜7および比較例2,3の三電極式セルを用いて行った充放電試験の結果を示すグラフである。
【0091】
実施例4〜7の各充放電試験結果は、三電極式セルの各負極においてマンガンが析出している(ICP発光分光分析法により確認済み)にも拘わらず、図3に示すように、金属が負極表面に存在しない比較例3の充放電試験結果よりも優れた放電特性を示した。この理由については必ずしも明確ではないが、概ね以下のように考えられる。なお、負極は粒子状の負極活物質2の群を含む活物質層を備え、ニッケルは活物質層の表面に担持される。
【0092】
マンガンが負極上に析出する際、上記負極活物質2表面にすでに形成されている良質な固体電解質界面(SEI:Solid Electrolyte Interface)が破壊され劣化することにより、当該SEI中のリチウムイオン移動性が低下し、負極におけるリチウムイオンの吸蔵および放出が阻害されてしまう。その結果、マンガンが負極上に析出し、負極の放電特性が低下すると考えられる。
【0093】
上述のように、負極表面3にニッケルを存在させることにより、マンガンが負極表面3に析出しても破壊されない非常に強固なSEIが負極表面3に形成される。それにより、負極の放電特性の低下が抑制されるものと考えられる。
【0094】
また、実施例4〜7の各充放電試験結果が、負極表面に金属が存在しない比較例3の充放電試験結果よりも優れた放電特性を示した他の理由として、負極表面にニッケルを存在させた場合に負極表面に形成されるSEIは、負極表面にニッケルが存在していない場合に負極表面に形成されるSEIよりもリチウムイオンが拡散されやすい特性を有するためであると考えられる。
【0095】
比較例2の充放電試験結果は、比較例3の充放電試験結果よりも劣る放電特性を示した。これは、負極表面3に存在するニッケルの量が多過ぎるために、当該ニッケルがリチウムイオンの吸蔵および放出を阻害したことが原因であると考えられる。
【0096】
(j)比較例4〜6
比較例4〜6では、所定量のコバルトおよびマンガンを含有する各正極活物質を含む各正極を用いることを除いて、上述の実施例4〜7および比較例2と同様に、上述したイオン濃度の測定をそれぞれ行うとともに、三電極式セルとしての各非水電解質二次電池をそれぞれ作製した。なお、作製した非水電解質二次電池においては、正極からコバルトが溶出することにより非水電解質中にコバルトが存在する状態をつくった。上記のイオン濃度の測定結果を表2に示す。
【0097】
【表2】
【0098】
比較例4の非水電解質二次電池は、幅5.75cmおよび長さ83cmを有する。このような非水電解質二次電池において、表2に示すように、片面当たり2.0μg/cm2のコバルトが析出する場合(比較例4)は、非水電解質中に0.0064mol/lのコバルトが存在する場合に相当する。表2には、負極上に析出されるコバルトの量を、非水電解質中のコバルトの量に換算した値をイオン濃度として示している。同様にして、比較例5、6におけるイオン濃度も表2に示す。
【0099】
(k)作動電位差の測定
続いて、実施例4〜7および比較例2,4〜6で作製した三電極式セルの各負極の上記比較例3の負極に対する作動電位差をそれぞれ測定した。なお、作動電位差は、ハイレート放電(大電流放電)を行った際に電圧降下が大きく生じる放電深度15%時におけるものである。各例の作動電位差を表3に示す。
【0100】
【表3】
【0101】
表3に示されるように、実施例4〜7では、各作動電位差がそれぞれ負の値となっている。すなわち、実施例4〜7の負極の各電位は、比較例3の負極の電位よりもそれぞれ低くなっている(上述の図3参照)。したがって、電池電圧(正極の電位と負極の電位との差)の低下が抑制されることがわかった。
【0102】
一方、比較例2では、作動電位差が正の値となっている。すなわち、比較例2の負極の電位は、比較例3の負極の電位よりも高くなっている(上述の図3参照)。したがって、電池電圧の低下が抑制されないことがわかった。
【0103】
また、比較例4〜6では、各作動電位差がそれぞれ正の値となっている。すなわち、比較例4〜6の負極の各電位は、比較例3の負極の電位よりもそれぞれ高くなっている。したがって、電池電圧の低下が抑制されないことがわかった。これにより、非水電解質中にコバルトを含有させ、負極の表面上にコバルトを析出させても、電池電圧の低下を抑制することができないことがわかった。
【0104】
(l)まとめ
以上の結果から、非水電解質中に0.0008〜0.007mol/lの量のニッケルを含有させることにより、ハイレート放電(大電流放電)時における電圧降下を大幅に抑制することが可能となることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0105】
本発明に係る非水電解質二次電池は、携帯用電源および自動車用電源等の種々の電源として利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0106】
【図1】負極の構成を示す概略模式図である。
【図2】実施例1〜3および比較例1の非水電解質二次電池の充放電試験の各測定結果(放電カーブ)を示すグラフである。
【図3】実施例4〜7および比較例2,3の三電極式セルを用いて行った充放電試験の結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0107】
1 負極集電体
2 負極活物質
3 負極表面
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオンを吸蔵および放出することが可能で、マンガンを含む正極活物質を有する正極と、リチウムイオンを吸蔵および放出することが可能で、炭素材料を含む負極活物質を有する負極と、非水電解質とを備える非水電解質二次電池であって、
前記非水電解質は、ニッケルを含み、
前記非水電解質二次電池の組み立て時において前記ニッケルの量は、0.0008mol/l以上0.007mol/l以下であることを特徴とする非水電解質二次電池。
【請求項2】
前記ニッケルの量は、0.002mol/l以上0.004mol/l以下であることを特徴とする請求項1記載の非水電解質二次電池。
【請求項3】
前記正極活物質は、スピネル構造を有するマンガン酸リチウムを含むことを特徴とする請求項1または2記載の非水電解質二次電池。
【請求項4】
前記負極は、粒子状の負極活物質群を含む活物質層を含み、
前記ニッケルは、前記活物質層の表面に担持されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の非水電解質二次電池。
【請求項1】
リチウムイオンを吸蔵および放出することが可能で、マンガンを含む正極活物質を有する正極と、リチウムイオンを吸蔵および放出することが可能で、炭素材料を含む負極活物質を有する負極と、非水電解質とを備える非水電解質二次電池であって、
前記非水電解質は、ニッケルを含み、
前記非水電解質二次電池の組み立て時において前記ニッケルの量は、0.0008mol/l以上0.007mol/l以下であることを特徴とする非水電解質二次電池。
【請求項2】
前記ニッケルの量は、0.002mol/l以上0.004mol/l以下であることを特徴とする請求項1記載の非水電解質二次電池。
【請求項3】
前記正極活物質は、スピネル構造を有するマンガン酸リチウムを含むことを特徴とする請求項1または2記載の非水電解質二次電池。
【請求項4】
前記負極は、粒子状の負極活物質群を含む活物質層を含み、
前記ニッケルは、前記活物質層の表面に担持されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の非水電解質二次電池。
【図1】
【図2】
【図3】
【図2】
【図3】
【公開番号】特開2007−123246(P2007−123246A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−245507(P2006−245507)
【出願日】平成18年9月11日(2006.9.11)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年9月11日(2006.9.11)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【Fターム(参考)】
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