説明

非水電解質二次電池

【課題】 リン酸鉄リチウムを正極活物質に含む非水電解質二次電池の充放電サイクル特性及び負荷特性を向上させる。
【解決手段】 正極活物質が式LixFePO4(0<x<1.3)で表されるリン酸鉄リチウムを含み、負極活物質が炭素を含み、負極合剤層の密度が1.6〜1.8g/cm3の範囲であり、非水電解質が0.1〜3.0質量%のシクロヘキシルベンゼンまたはtert−アミルベンゼンを含むことを特徴とする非水電解質二次電池を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質二次電池に関し、特にリン酸鉄リチウム正極を備える非水電解質二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
今日、携帯電話、ノートパソコン等の移動情報端末の高性能化及び小型軽量化が急速に進展している。これらの端末の移動電源として、高エネルギー密度及び高容量を有するリチウムイオン二次電池に代表される非水電解質二次電池が広く利用されている。
【0003】
非水電解質二次電池においては、従来より、正極活物質としてリチウムコバルト酸化物が広く使われている。リチウムコバルト酸化物は、作動電圧が高いことに加え、高密度充填し易いので高容量化できるという利点がある。
【0004】
しかし、リチウムコバルト酸化物は、原料であるコバルトの産出量が極めて少なく、高価であり、またコバルト自体の毒性が強いという欠点がある。さらにリチウムコバルト酸化物は、電池内部で短絡が起こったときに、化学構造が壊れて酸素を放出する性質を有するため、発火などの危険性が高いという問題がある。
【0005】
このような問題を解決するために、正極活物質としてリン酸鉄リチウムを用いる方法が提案されている。リン酸鉄リチウムは安価であり、また構造安定性に優れ酸素とリンとの結合が強いため、酸素を放出しにくい。よって、内部短絡を起こした場合における安全性が高いという利点を有している。それゆえ、リン酸鉄リチウムは、リチウムコバルト酸化物よりも、ハイレート(大電流)放電などの高負荷条件で使用する非水電解液電池用の正極活物質としての適性が高い。
【0006】
しかし、リン酸鉄リチウムは、LiCoO2またはLiNiO2などと比べると電子伝導性が低いため、リン酸鉄リチウムを正極活物質として用いた電池では、ハイレート放電を行った場合に内部抵抗が大きくなり、電池の諸特性が劣化するという問題がある。
【0007】
他方、電池の諸特性を向上させる方法としては、正極または負極の活物質の選択以外にも、電解質に適切な有機化合物等を添加することが知られている。
【0008】
例えば特許文献1には、ハロゲン化されたシクロヘキシルベンゼン化合物及びフルオロベンゼン化合物を電解液に添加することによりサイクル特性等の電池特性が改善されたリチウム二次電池が記載されている。
【0009】
【特許文献1】国際公開WO2005/074067
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、リン酸鉄リチウムを正極活物質として用いた非水電解質電池において、ハイレート放電した場合におけるサイクル特性や負荷特性などの電池特性(ハイレート放電特性という)に優れた非水電解質二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明は、正極活物質を有する正極と、負極活物質を含む負極合剤層を有する負極と、非水電解質と、を備える非水電解質二次電池において、前記正極活物質が、式LixFePO4(0<x<1.3)で表されるリン酸鉄リチウムを含み、前記負極活物質が炭素を含み、前記負極合剤層の密度が1.6〜1.8g/cm3の範囲であり、前記非水電解質が0.1〜3.0質量%のシクロヘキシルベンゼンまたはtert−アミルベンゼンを含むことを特徴とする。
【0012】
上記構成では、負極合剤層の密度が1.6〜1.8g/cm3の範囲に規定され、かつ0.1〜3.0質量%のシクロヘキシルベンゼンまたはtert−アミルベンゼンを含む非水電解質が使用されている。この構成によると、これらの要素が関連し合って都合よく作用する結果、リン酸鉄リチウムを含んでなる正極を用いた非水電解質電池のハイレート放電特性が顕著に向上する。それゆえ、上記構成によると、内部短絡時における安全性に優れ、かつハイレート放電特性にも優れた非水電解質電池が得られる。
【0013】
ここで、上記構成においては、負極合剤層の密度を、1.6〜1.8g/cm3に規定するが、密度がこの範囲より低い場合には、負極のLi吸蔵量が少なくなるため、吸収しきれないLiが負極上に析出する。Liの析出は、電流の担体であるリチウムイオンがそれだけ減少することになると共に、デンドライトの原因となるので好ましくない。他方、密度がこの範囲より高い場合は、負極の電解質浸透性が悪くなるため、電池特性の低下を招く。よって、負極合剤層の密度は1.6〜1.8g/cm3の範囲とする必要がある。
【0014】
また、上記構成においては、シクロヘキシルベンゼンまたはtert−アミルベンゼンの電解質への添加量を、0.1〜3.0質量%に規定するが、これらの物質の添加量が0.1質量%未満の場合は、添加量が過小になるため、これらの物質の添加効果が不十分になる。他方、3.0質量%を超える場合には、ハイレート放電した場合の放電容量の減少(高負荷特性の低下)が見られる。これは、添加剤が増えることで、電解質が必要とする他の溶媒の配合量が相対的に減少するためであると考えられる。
【0015】
ところで、活物質量を増やすには負極合剤層を高密度とすればよいが、上記のごとく負極合剤層の密度を高めると、電解質の負極への浸透が悪くなるため、設計どおりの容量が得られないことになる。上記構成では、シクロヘキシルベンゼンまたはtert−アミルベンゼンを添加することにより、負極合剤層を高密度としても、容量の低下しない非水電解質二次電池が得られる。これは、シクロヘキシルベンゼンまたはtert−アミルベンゼンを加えることで、電解質の浸透性が改善されるからだと考えられる。
【0016】
また、1.6〜1.8g/cm3の負極合剤層の密度が好ましい理由としては次のように考えられる。上記範囲においては負極内に若干不可逆的なLiが残留し、このLiが負極の導電性が向上させ、充電初期の過電圧によって負極電位がLi析出の電位よりも低くなるのを防止する。この結果、Liが負極上に析出するようになる密度の下限が下がるので、負極合剤層の密度1.6g/cm3における電池特性の低下が防止される。
【0017】
なお、負極合剤層の密度1.8g/cm3においては、上記したとおり、シクロヘキシルベンゼンまたはtert−アミルベンゼンを添加したことによる電極への電解質浸透性の向上が機能することになる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、正極活物質としてリン酸鉄リチウムを用いることで安全性を確保しつつ、ハイレート放電においてもサイクル特性及び負荷特性に優れた非水電解質二次電池が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
実施例に基づいて、本発明を実施するための最良の形態を実施例において説明する。なお、本発明は、下記の実施例に限定されるものではない。その要旨を変更しない範囲において適宜変更して実施することができる。
【0020】
〔第1実施例群〕
実施例1〜9及び比較例1〜12においては、非水電解質にシクロヘキシルベンゼン(CHB)を添加した場合について記載した。
【0021】
(実施例1)
1.電池の作製
<正極の作製>
正極活物質としてのリン酸鉄リチウム(LiFePO4)(平均粒径:100nm)80質量部と、導電剤としての炭素粉末10質量部と、結着剤としてのポリフッ化ビニリデン10質量部とを混合し、さらにN−メチルピロリドン(NMP)と混合してスラリーを調製した。このスラリーを集電体としてのアルミニウム箔(厚さ:20μm)の上にドクターブレード法により塗布した。その後、乾燥し、圧延ローラーを用いて圧延し、正極板を作製した。正極板の短辺の長さは55mm、長辺の長さは700mmであった。
【0022】
<負極の作製>
負極活物質としての天然黒鉛粉末95質量部と、ポリフッ化ビニリデン5質量部とを混合し、さらにN−メチルピロリドン(NMP)と混合してスラリーを調製した。このスラリーを集電体としての銅箔(厚さ:10μm)にドクターブレード法により塗布し、銅箔両面に負極合剤層を形成させた。圧延ローラーを用いて、負極合剤層の密度が1.6(g/cm3)となるまで圧縮し、負極板を作製した。負極板の短辺の長さは57mm、長辺の長さは750mmであった。
【0023】
<非水電解質の作製>
エチレンカーボネート(EC)と、ジエチルカーボネート(DEC)との混合物である非水電解質溶媒(25℃における体積%比 EC:DEC=1:1)を電解液として調製した。この溶媒にLiPF6を1.0mol/Lとなるように溶解させ、非水電解質とした。さらに、得られた非水電解質にシクロヘキシルベンゼンを0.1質量%添加した。
【0024】
<電池の作製>
正極極板と負極極板との間にセパレータを介在させ、捲回して電極体とした。セパレータは、ポリエチレン製微多孔膜を使用した。この電極体を外装缶に収納した後、上記で作製した非水電解質を注液し、円筒形リチウムイオン二次電池(高さ65mm、直径18mm;設計容量800mAh)を完成させた。
【0025】
2.試験・測定
<電池初期容量の測定>
なお、電池の初期容量を求めた。測定手順は次の通りである。25℃において、作製した電池を800mAの定電流で電池電圧が4.2Vに達するまで充電した。さらに4.2Vとしたまま電流値が16mAになるまで充電した後、800mAの定電流で、電圧が2.0Vになるまで放電した。この放電における電池容量を測定して、初期容量とした。
【0026】
<サイクル特性試験>
電池のサイクル特性試験を次のように行なった。25℃において、作製した電池を800mAの定電流で電池電圧が4.2Vに達するまで充電した。さらに4.2Vとしたまま電流値が16mAになるまで充電した。次いで、ハイレート放電となる4000mAの定電流で、電圧が2.0Vになるまで放電した。この充放電の過程を1サイクルとし、300サイクルまで充放電を繰り返した。1サイクル目及び300サイクル目の放電容量を測定し、以下の計算式に基づいて、サイクル特性値として求めた。
サイクル特性値(%)=(300サイクル目の放電容量/1サイクル目の放電容量)×100
【0027】
<高負荷特性の評価>
電池の高負荷特性試験を次のように行なった。25℃において、作製した電池を800mAの定電流で電池電圧が4.2Vに達するまで充電し、さらに4.2Vとしたまま電流値が16mAになるまで充電した。次いで、800mAの定電流で、電圧が2.0Vになるまで放電し、この充放電の過程を1サイクル目とした。その後、25℃において、作製した電池を800mAの定電流で電池電圧が4.2Vに達するまで充電し、さらに25℃において、電池を4.2Vとしたまま電流値が16mAになるまで充電した。次いで、高負荷のハイレート放電である8000mAの定電流で、電圧が2.0Vになるまで放電し、この充放電の過程を2サイクル目とした。1サイクル目の放電容量及び2サイクル目の放電容量をそれぞれ測定し、以下の計算式に基づいて、電池負荷特性を示す値を求めた。
高負荷特性値(%)=(2サイクル目の放電容量/1サイクル目の放電容量)×100
【0028】
(実施例2)
非水電解質に添加したシクロヘキシルベンゼンの量を1.0質量%とした以外は、実施例1と同様にして、電池を作製し、電池特性を調べた。
【0029】
(実施例3)
非水電解質に添加したシクロヘキシルベンゼンの量を3.0質量%とした以外は、実施例1と同様にして、電池を作製し、電池特性を調べた。
【0030】
(実施例4)
負極合剤層の密度を1.7g/cm3とした以外は、実施例1と同様にして、電池を作製し、電池特性を調べた。
【0031】
(実施例5)
負極合剤層の密度を1.7g/cm3とし、非水電解質に添加したシクロヘキシルベンゼンの量を1.0質量%とした以外は、実施例1と同様にして、電池を作製し、電池特性を調べた。
【0032】
(実施例6)
負極合剤層の密度を1.7g/cm3とし、非水電解質に添加したシクロヘキシルベンゼンの量を3.0質量%とした以外は、実施例1と同様にして、電池を作製し、電池特性を調べた。
【0033】
(実施例7)
負極合剤層の密度を1.8g/cm3とした以外は、実施例1と同様にして、電池を作製し、電池特性を調べた。
【0034】
(実施例8)
負極合剤層の密度を1.8g/cm3とし、非水電解質に添加したシクロヘキシルベンゼンの量を1.0質量%とした以外は、実施例1と同様にして、電池を作製し、電池特性を調べた。
【0035】
(実施例9)
負極合剤層の密度を1.8g/cm3とし、非水電解質に添加したシクロヘキシルベンゼンの量を3.0質量%とした以外は、実施例1と同様にして、電池を作製し、電池特性を調べた。
【0036】
(比較例1)
負極合剤層の密度を1.5g/cm3とした以外は、実施例1と同様にして、電池を作製し、電池特性を調べた。
【0037】
(比較例2)
負極合剤層の密度を1.5g/cm3とし、非水電解質に添加したシクロヘキシルベンゼンの量を1.0質量%とした以外は、実施例1と同様にして、電池を作製し、電池特性を調べた。
【0038】
(比較例3)
負極合剤層の密度を1.5g/cm3とし、非水電解質に添加したシクロヘキシルベンゼンの量を3.0質量%とした以外は、実施例1と同様にして、電池を作製し、電池特性を調べた。
【0039】
(比較例4)
非水電解質にシクロヘキシルベンゼンを全く添加しなかったこと以外は、実施例1と同様にして、電池を作製し、電池特性を調べた。
【0040】
(比較例5)
非水電解質に添加したシクロヘキシルベンゼンの量を4.0質量%とした以外は、実施例1と同様にして、電池を作製し、電池特性を調べた。
【0041】
(比較例6)
負極合剤層の密度を1.7g/cm3とし、非水電解質にシクロヘキシルベンゼンを全く添加しなかったこと以外は、実施例1と同様にして、活物質の分析を行い、電池を作製し、電池特性を調べた。
【0042】
(比較例7)
負極合剤層の密度を1.7g/cm3とし、非水電解質に添加したシクロヘキシルベンゼンの量を4.0質量%とした以外は、実施例1と同様にして、電池を作製し、電池特性を調べた。
【0043】
(比較例8)
負極合剤層の密度を1.8g/cm3とし、非水電解質にシクロヘキシルベンゼンを全く添加しなかったこと以外は、実施例1と同様にして、活物質の分析を行い、電池を作製し、電池特性を調べた。
【0044】
(比較例9)
負極合剤層の密度を1.8g/cm3とし、非水電解質に添加したシクロヘキシルベンゼンの量を4.0質量%とした以外は、実施例1と同様にして、電池を作製し、電池特性を調べた。
【0045】
(比較例10)
負極合剤層の密度を1.9g/cm3とした以外は、実施例1と同様にして、電池を作製し、電池特性を調べた。
【0046】
(比較例11)
負極合剤層の密度を1.9g/cm3とし、非水電解質に添加したシクロヘキシルベンゼンの量を1.0質量%とした以外は、実施例1と同様にして、電池を作製し、電池特性を調べた。
【0047】
(比較例12)
負極合剤層の密度を1.9g/cm3とし、非水電解質に添加したシクロヘキシルベンゼンの量を3.0質量%とした以外は、実施例1と同様にして、電池を作製し、電池特性を調べた。
【0048】
以上の実施例1〜9及び比較例1〜12のデータを表1にまとめた。
【表1】

【0049】
<負極合剤層の密度の影響>
シクロヘキシルベンゼンの添加量を同じとした場合、負極合剤層の密度が1.6〜1.8g/cm3の範囲にあることで、サイクル特性が良好であった。この範囲未満の負極合剤層の密度では、リチウムの析出があり、これが特性に良くない影響を与えていると考えられる。密度を1.6g/cm3以上とすると、リチウムの析出がなくなった。
【0050】
密度を1.6g/cm3以上とすると、リチウムの析出がなくなった理由としては、密度を高めることで、負極にトラップされる不可逆リチウムが増加し、この負極内の不可逆リチウムにより、負極自体の導電性が高まり、これにより、充電初期の過電圧によって、負極電位がリチウム析出電位よりも低い電位となる現象を防いでいるのではないかと推察される。ただし、密度が1.9g/cm3以上では、電解質の浸透が阻害されるため逆に特性が低下してしまう結果となった。
【0051】
<シクロヘキシルベンゼンの添加量の影響>
負極合剤層の密度が同じ場合、シクロヘキシルベンゼンが0.1〜3.0質量%含まれているのが好ましいことが分かった。特にシクロヘキシルベンゼンを全く加えない比較例(比較例4、6及び8)では、サイクル特性及び初期容量の低下が顕著であった。これは、高密度下の負極における電解質の浸透をサポートするとされるシクロヘキシルベンゼンの効果が得られないからだと考えられる。逆に、シクロヘキシルベンゼンを4.0質量%添加した場合(比較例5、7及び9)では、サイクル特性の低下に加えて、高負荷特性も悪くなった。
【0052】
〔第2実施例群〕
実施例10〜12及び比較例13、14においては、非水電解質にtert−アミルベンゼンまたは1−クロロ−4−シクロヘキシルベンゼンを添加した場合について記載した。
【0053】
(実施例10)
負極合剤層の密度を1.7g/cm3とし、シクロヘキシルベンゼンの代わりにtert−アミルベンゼンを0.1質量%添加したこと以外は、実施例1と同様にして、電池を作製し、電池特性を調べた。
【0054】
(実施例11)
負極合剤層の密度を1.7g/cm3とし、シクロヘキシルベンゼンの代わりにtert−アミルベンゼンを1.0質量%添加したこと以外は、実施例1と同様にして、電池を作製し、電池特性を調べた。
【0055】
(実施例12)
負極合剤層の密度を1.7g/cm3とし、シクロヘキシルベンゼンの代わりにtert−アミルベンゼンを3.0質量%添加したこと以外は、実施例1と同様にして、電池を作製し、電池特性を調べた。
【0056】
(比較例13)
負極合剤層の密度を1.7g/cm3とし、シクロヘキシルベンゼンの代わりにtert−アミルベンゼンを4.0質量%添加した以外は、実施例1と同様にして、活物質の分析を行い、電池を作製し、電池特性を調べた。
【0057】
(比較例14)
負極合剤層の密度を1.7g/cm3とし、シクロヘキシルベンゼンの代わりに1−クロロ−4−シクロヘキシルベンゼンを1.0質量%添加したこと以外は、実施例1と同様にして、電池を作製し、電池特性を調べた。
【0058】
以上の実施例10〜12及び比較例13〜14のデータを表2にまとめた。
【表2】

【0059】
実施例10〜12において、tert−アミルベンゼンを0.1〜3質量%添加したものは、シクロヘキシルベンゼンを添加した場合と同等の良好な電池特性が得られた。
【0060】
しかし、比較例13が示すようにtert−アミルベンゼンを4質量%添加したものは、サイクル特性及び高負荷特性が低下した。
【0061】
また、本発明の添加剤に含まれない1−クロロ−4−シクロヘキシルベンゼンを添加した場合は、添加量が1質量%であってもサイクル特性及び初期容量が悪くなった。これより、1−クロロ−4−シクロヘキシルベンゼンには電解液の浸透を促進する効果があまりないと考えられる。
【0062】
〔第3実施例群〕
比較例15〜19においては、非水電解質電池において広く使われているコバルト酸リチウムを正極活物質とした場合を記載した。電池は、以下の条件で作製した。非水電解質にはシクロヘキシルベンゼン(CHB)を添加した。
【0063】
(比較例15)
1.電池の作製
<正極の作製>
正極活物質としてのコバルト酸リチウム(LiCoO2)(平均粒径:11μm)90質量部と、導電剤としての炭素粉末5質量部と、結着剤としてのポリフッ化ビニリデン5質量部とを混合し、さらにN−メチルピロリドン(NMP)と混合してスラリーを調製した。このスラリーを集電体としてのアルミニウム箔(厚さ:20μm)の上にドクターブレード法により塗布した。その後、乾燥し、圧延ローラーを用いて圧延し、正極板を作製した。正極板の短辺の長さは55mm、長辺の長さは700mmであった。
【0064】
<負極の作製>
負極合剤層の密度を1.5g/cm3とし、設計容量が1500mAhとなるようにした以外は、実施例1と同様の方法で負極を作製した。
【0065】
<非水電解質の作製>
非水電解質に添加したシクロヘキシルベンゼンの量を1.0質量%とした以外は、実施例1と同様の方法で非水電解質を作製した。
【0066】
<電池の作製>
実施例1と同様の方法で、円筒形リチウムイオン二次電池(設計容量1500mAh)を完成させた。
【0067】
2.試験・測定
<電池初期容量の測定>
電池の初期容量を求めた。測定手順は次の通りである。25℃において、作製した電池を1500mAの定電流で電池電圧が4.2Vに達するまで充電した。さらに4.2Vとしたまま電流値が30mAになるまで充電した後、1500mAの定電流で、電圧が2.75Vになるまで放電した。この放電における電池容量を測定して、初期容量とした。
【0068】
<サイクル特性試験>
電池のサイクル特性試験を次のように行なった。25℃において、作製した電池を1500mAの定電流で電池電圧が4.2Vに達するまで充電した。さらに4.2Vとしたまま電流値が30mAになるまで充電した。次いで、ハイレート放電となる7500mAの定電流で、電圧が2.75Vになるまで放電した。この充放電の過程を1サイクルとし、300サイクルまで充放電を繰り返した。1サイクル目及び300サイクル目の放電容量を測定し、以下の計算式に基づいて、サイクル特性値として求めた。
サイクル特性値(%)=(300サイクル目の放電容量/1サイクル目の放電容量)×100
【0069】
<高負荷特性の評価>
電池の高負荷特性試験を次のように行なった。25℃において、作製した電池を1500mAの定電流で電池電圧が4.2Vに達するまで充電し、さらに4.2Vとしたまま電流値が30mAになるまで充電した。次いで、1500mAの定電流で、電圧が2.0Vになるまで放電し、この充放電の過程を1サイクル目とした。その後、25℃において、作製した電池を1500mAの定電流で電池電圧が4.2Vに達するまで充電し、さらに25℃において、電池を4.2Vとしたまま電流値が30mAになるまで充電した。次いで、かなり高負荷のハイレート放電となる15000mAの定電流で、電圧が2.75Vになるまで放電し、この充放電の過程を2サイクル目とした。1サイクル目の放電容量及び2サイクル目の放電容量をそれぞれ測定し、以下の計算式に基づいて、電池負荷特性を示す値を求めた。
高負荷特性値(%)=(2サイクル目の放電容量/1サイクル目の放電容量)×100
【0070】
(比較例16)
負極合剤層の密度を1.6g/cm3とした以外は、比較例15と同様にして、電池を作製し、電池特性を調べた。
【0071】
(比較例17)
負極合剤層の密度を1.7g/cm3とした以外は、比較例15と同様にして、電池を作製し、電池特性を調べた。
【0072】
(比較例18)
負極合剤層の密度を1.8g/cm3とした以外は、比較例15と同様にして、電池を作製し、電池特性を調べた。
【0073】
以上の比較例15〜18のデータと、シクロヘキシルベンゼンを同一配合とした比較例2及び実施例2、5及び8を表3にまとめた。
【0074】
【表3】

【0075】
表3からわかるように、LiCoO2を正極活物質に使った場合、リン酸鉄リチウムの場合に比べて、全体的にサイクル特性は良好ではない。また、いずれの特性も、負極合剤層の密度を増やせば、それだけ低下する傾向にあった。
【0076】
したがって、負極合剤層の密度を制御し、一定量のシクロヘキシルベンゼン等を添加することで、高いサイクル特性が得られるという本発明の効果は、正極活物質にリン酸鉄リチウムを用いた場合に特異的に発揮されることがわかった。
【0077】
(追加事項)
本発明の二次電池の非水電解質で用いられる電解質塩については、特に制限されない。例えば、LiPF6、LiBF4、LiCF3SO3、LiN(CF3SO22、LiN(C25SO22、LiN(CF3SO2)(C49SO2)、LiC(CF3SO33、LiC(C25SO23、LiAsF6、LiClO4、Li210Cl10、Li212Cl12など、及びこれらの混合物を用いることができる。
【0078】
本発明の二次電池の非水電解質溶媒については、特に制限されない。例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ビニレンカーボネート、ジメチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルプロピルカーボネート、メチルブチルカーボネート、エチルプロピルカーボネート、エチルブチルカーボネート、ジプロピルカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、1,2−シクロヘキシルカーボネート、シクロペンタノン、スルホラン、3−メチルスルホラン、2,4−ジメチルスルホラン、3−メチル−1,3−オキサゾリジン−2−オン、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、1,2−ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、1,3−ジオキソラン、酢酸メチル、酢酸エチル、及びこれらの混合物を用いることができる。
【0079】
本発明で使用する負極活物質としては、実施例で使用した天然黒鉛に限られず、リチウムを吸蔵及び放出することが可能な炭素材料やその他の材料を用いることができる。
【0080】
また、本発明で使用されるセパレータは、公知の材質が広い範囲で使用でき、特に限定されない。
【0081】
また、本発明は非水電解質二次電池の正極活物質に特徴を有するものであり、円筒形電池の他、角形電池またはコイン形電池等、電池の形状及び用途などは限定されない。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明によれば、安全性が高く、サイクル特性及び高負荷特性に優れた非水電解質二次電池が得られる。よって、その産業上の利用可能性は大きい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極活物質を有する正極と、負極活物質を含む負極合剤層を有する負極と、非水電解質と、を備える非水電解質二次電池において、
前記正極活物質が、式LixFePO4(0<x<1.3)で表されるリン酸鉄リチウムを含み、
前記負極活物質が炭素を含み、
前記負極合剤層の密度が1.6〜1.8g/cm3の範囲であり、
前記非水電解質が、0.1〜3.0質量%のシクロヘキシルベンゼンまたはtert−アミルベンゼンを含む、
ことを特徴とする非水電解質二次電池。

【公開番号】特開2009−245866(P2009−245866A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−93226(P2008−93226)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【Fターム(参考)】