説明

非水電解質二次電池

【課題】電池特性に影響を与えることなく、過充電等による電池の内圧変化に対し、より速い応答性を持ち熱暴走を効果的に防止する非水電解質二次電池を提供する。
【解決手段】難燃性成分を有する心材bを、壁材aで覆っている圧力感応性マイクロカプセルを電池缶の内壁に電着塗装する事を特徴とする。前記マイクロカプセルは、電池厚みが5%以上変化した場合に難燃性成分を放出して、異常反応に対し即効的に対処して事故を防止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質二次電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話やノートパソコン等移動情報端末などの発展は目覚しく電気自動車やハイブリッド自動車などの実用化に伴って、一次電池のみならず電源として使用されるニッケル水素電池やリチウムイオン電池などの二次電池も大きく需要を伸ばしている。各種二次電池の中でも、リチウムイオン電池に代表される非水電解質二次電池は、高いエネルギー密度を有し、高容量化が可能であるということから、広く使用されるようになってきている。
【0003】
これらの非水電解質二次電池においては、安全対策が重要であり、特に外部衝撃の短絡による発火事故、あるいは、充電時の充電装置の故障や不適切な急速充電操作によって、電池に過大電圧、過大充電電流、逆接続電圧がかかり、電池内部の温度が上昇することによる電池の破裂事故、などを防止する目的から、バイメタル式サーマルプロテクタやPTC素子が、装着されている。
【0004】
過充電が起こった場合には、電池内部において正極上での電解質溶液の酸化分解が開始してガスが発生し、電池の温度が上昇し始める。そして、発生するガスにより、正極とセパレータとの接着部の剥離が生じ、過電圧が上昇して、単位面積当たりの充電レートが、上昇する結果、部分的にセパレータが、シャットダウンする。このような現象が生じた状態で、更に充電を継続すると、有効電極面積が更に減少して、更なる電流の集中を招くため、部分的に異常な量の熱が発生する。この結果、セパレータが溶融して、電池内でショートが生じるため、電池温度が異常に上昇する。
【0005】
上記のことを考慮して、従来の電池において、電解質中の添加剤を過充電状態で重合させることにより、過充電の対策がなされている。このような構成であれば、正極とセパレータとの接着部の剥離が生じ難くなるので、有効電極面積の減少を抑制し、電流の集中による電池内でのショートの発生を抑えることができる。しかしながら、セパレータの気孔率の低下、あるいは電解質中の添加剤が変化した場合には、負荷特性等の電池特性が低下するという課題を有していた。
【0006】
したがって電池を製造するにあたり、電池特性に影響を与えることなく、過充電、過放電の異常な温度上昇に際して、安全な非水電解液二次電池を提供する方法が求められており、この要求に応えるべく、様々な製造方法が提案されている。例えば特許文献1では、マイクロカプセルは難燃剤を有し、非水電解液に含有されていることにより、電池の異常な温度上昇に際して、破断等が生じない、安全な非水電解液二次電池を提供できることが開示されている。また特許文献2では、電解液に、温度が上昇したときに化学物質を放出するマイクロカプセルを含有させることによって、安全性を保った、リチウム二次電池の作製が可能であることが開示されている。
【0007】
【特許文献1】特開平09−045369号公報
【特許文献2】特開平06−283206号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記特許文献においてマイクロカプセルの壁材には、感熱性物質を使用している。過充電等の異常は、正極上での電解質溶液の酸化分解が開始してガスが発生し、電池内部の反応が開始され、温度が異常上昇する。従って、温度が異常上昇してから難燃性成分であるマイクロカプセルの心材が放出されても、一定温度以上にならないと反応を抑制する効果を発揮しないことになり、速効的に反応を回避できない恐れがある。
【0009】
上述の事情に鑑み本発明の主要な目的は、過充電等による電池内部の内圧変化に対し、より速い応答性をもって対応し、電池反応の熱暴走に伴う事故を効果的に防止する難燃性成分を有する化学物質を放出する非水電解質二次電池を提供することにある。
【0010】
すなわち、本発明の技術的課題は、電池特性に影響を与えることなく、過充電等による電池の内圧変化に対し、より速い応答性を持ち熱暴走による事故発生を効果的に防止する非水電解質二次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の非水電解質二次電池は、リチウムイオンを吸蔵、放出する正極材料および負極材料を有する電極と、前記電極間に介装されたセパレータとを含む電極体を電池缶に収納してなる非水電解質二次電池において、難燃性成分を有する心材を、壁材で覆った感応性マイクロカプセルを前記電池缶の内壁に電着塗装したことを特徴とする。
【0012】
本発明の非水電解質二次電池は、前記感応性マイクロカプセルは、圧力に感応して前記難燃性成分を放出することを特徴とする。
【0013】
本発明の非水電解質二次電池は、前記難燃性成分がリン酸エステル、ペンタブロモジフェニルエーテル、オクタブロモジフェニルエーテル、デカブロモジフェニルエーテル、テトラブロモビスフェノールA、ヘキサブロモシクロドデカン、塩素化パラフィン、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムから選択される少なくとも一種を有するものからなることを特徴とする。
【0014】
本発明の非水電解質二次電池は、前記感応性マイクロカプセルの前記壁材がメラミン樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、フェノール樹脂から選択される少なくとも一種を有するものからなることを特徴とする。
【0015】
本発明の非水電解質二次電池は、前記感応性マイクロカプセルを、前記電池缶の内壁に1μm以上、100μm以下の厚みで電着塗装することを特徴とする。
【0016】
本発明の非水電解質二次電池は、前記感応性マイクロカプセルが直径1μm以上、100μm以下の大きさであることを特徴とする。
【0017】
本発明の非水電解質二次電池は、前記感応性マイクロカプセルの前記難燃性成分を放出するのは電池厚みが5%以上変化する場合であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明により、電池特性に影響を与えることなく、過充電等による電池の内圧変化に対し、より速い応答性を持ち熱暴走による事故発生を効果的に防止する非水電解質二次電池の提供が可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
熱暴走の原因となり得る電池反応は、電池が膨れることによって電池内の正極とセパレータとの接着部の剥離が生じることに着目し、この電池が膨れた際に難燃性成分を効果的に放出する手段として、感応性マイクロカプセルを電池缶の内壁に電着塗装することが効果的であることを見出したものである。
【0020】
本発明の感応性マイクロカプセルを含む非水電解質二次電池が、過放電や過充電等により電池の膨れから内部圧力上昇を起して、感応性マイクロカプセルの壁材が破壊され、心材の難燃性成分を放出し、電解質溶液中に拡散することで、熱暴走を防ぐ。従って、壁材を有する感応性マイクロカプセルを適切に設計して、電池缶の内壁に電着塗装した状態においては安定であるが、上記異常時に確実に難燃性成分を放出し得るように設計すれば、熱暴走による事故を効果的に防止することが可能になり、安全性が高められる。
【0021】
図1は、感応性マイクロカプセルの断面図である。感応性マイクロカプセルは、心材bを壁材aで覆っており、一定の圧力がかかると壁材aが破壊され、心材bが放出される。
【0022】
心材には難燃性成分の材料が使用されるが、その材料としては燃焼の原因となる酸素を含まず、熱を遮断する材料を選択する必要がある。具体的にはリン酸エステル、ペンタブロモジフェニルエーテル、オクタブロモジフェニルエーテル、デカブロモジフェニルエーテル、テトラブロモビスフェノールA、ヘキサブロモシクロドデカン、塩素化パラフィン、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムが使用できる。
【0023】
壁材の材料としては、電池の電解質溶液に溶解しない材料を選択するのが特性上好ましい。さらに、電池が異常圧力に達したときに壁材が破れるか又は解けて開口し、心材を放出できる材質を使用するのが特性上好ましい。具体的にはメラミン樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、フェノール樹脂が使用できる。
【0024】
電池缶内壁に感応性マイクロカプセルを電着塗装する厚みは、好ましくは1μm以上、100μm以下であり、より好ましくは10μm以上、20μm以下である。厚みが1μm未満では難燃性成分の量が不足して温度上昇反応を抑制できない恐れがあり、100μmを超えると電池容量が低下する恐れがあるためである。なお厚みの決定に当たっては、安全性と電池容量等に関して十分な設計検討がなされる必要がある。
【0025】
感応性マイクロカプセルは、好ましくは1μm以上、100μm以下の大きさであり、より好ましくは10μm以上、30μm以下の大きさである。大きさが1μm未満では難燃性成分を効果的に放出できない恐れがあり、100μmを超えると電池容量が低下する恐れがあるためである。
【0026】
また、感応性マイクロカプセルの難燃性成分を放出するのは電池厚みが5%以上変化する場合であり、より好ましくは10%以上変化する場合である。電池の通常使用状態において電池厚みが5%未満変化することは起こりうることであり、電池厚みが5%未満の変化で難燃性成分が放出されると、電池の通常使用を阻害する恐れがあるためである。
【実施例】
【0027】
以下に本発明の実施例を詳述する。
【0028】
(実施例1)
コバルト酸リチウムを94質量部と、PVdFを3質量部と、導電性カーボン3質量部を混合して、正極材料とした。この正極材料をN−メチル−2−ピロリドンに分散させてスラリー状とした。得られたスラリーを厚さ15μmのアルミ箔上に塗布し、乾燥後、厚さ160μmの正極を得た。
【0029】
炭素材料粉末を96質量部と、PVdFを3質量部と、導電性カーボン1質量部を混合して、負極材料とした。この負極材料をN−メチル−2−ピロリドンに分散させてスラリー状とした。得られたスラリーを厚さ10μmの銅箔上に塗布し、乾燥後、厚さ110μmの負極を得た。
【0030】
図2は、本発明の非水電解質二次電池の電極体を示す図である。電極体は、正極タブ5を溶接した正極板2と負極タブ6を溶接した負極板3を、セパレータ4を介して巻回し捲き止めテープ1を重ねてなる。正極、負極を使用して電極体を作製した。
【0031】
エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)が、体積比で2:1の割合で混合された非水溶媒に電解質塩である六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)を1.0mol/lの濃度になるように溶解させた非水電解質溶液を調製した。
【0032】
難燃性成分を心材として、以下の手法で感応性マイクロカプセルを調製した。難燃性成分としてリン酸トリメチルを、エチルアルコール中に滴下してマイクロカプセルのコロイドエチルアルコール溶液を調製した。得られたコロイド溶液を分離ろ過した後、減圧乾燥して難燃性成分を含有した感応性マイクロカプセルを調製した。感応性マイクロカプセルの大きさは5μmであった。
【0033】
上記のとおり調製した感応性マイクロカプセルを電着塗料とした電着槽に浸漬し、陰極として電池缶を、陽極として電着槽内の隔膜室内に極版を設置した。この間に直流電流を流すことで電池缶の内壁に感応性マイクロカプセルを電着塗装した。
【0034】
電池缶内壁へ電着塗装した感応性マイクロカプセルの厚みは5μmであった。すなわち、大きさが5μmの感応性マイクロカプセルを1層だけ電着塗装した。
【0035】
次に、電極体を電着塗装した電池缶に収納して非水電解質二次電池を作製した。
【0036】
(実施例2)
大きさが15μmの感応性マイクロカプセルを1層だけ電着塗装した以外は実施例1と同様にして、非水電解質二次電池を作製した。
【0037】
(実施例3)
大きさが15μmの感応性マイクロカプセルを3層だけ電着塗装した以外は実施例1と同様にして、非水電解質二次電池を作製した。
【0038】
(実施例4)
大きさが15μmの感応性マイクロカプセルを10層だけ電着塗装した以外は実施例1と同様にして、非水電解質二次電池を作製した。
【0039】
(比較例)
感応性マイクロカプセルを電着塗装しない以外は実施例1と同様にして、非水電解質二次電池を作製した。
【0040】
(サイクル試験)
得られた実施例1〜4および比較例の非水電解質二次電池について、400mAの定電流で1時間かけて4.2Vまで充電した後、1.5時間かけて4.2Vの定電圧で充電後、400mAの電流で3.0Vまで放電する充放電を繰り返し行い、1サイクル目及び300サイクル目の放電容量を測定した。実施例1〜4および比較例の感応性マイクロカプセル電着塗装厚みと放電容量を表1に示す。
【0041】
【表1】

【0042】
表1からも分かるように、実施例1〜4と比較例を比較すると、放電容量は同等であることがわかる。したがって、感応性マイクロカプセルを電着塗装しても放電容量は損なわれないことがわかった。
【0043】
(吸光度測定)
得られた実施例1〜4および比較例の非水電解質二次電池について、電池の厚みが5%増大する代替試験として、平板端子により電池全体に0.3kNの荷重で外部衝撃を加えた。これにより感応性マイクロカプセルの壁材が破れて開口し、心材が放出されているかどうかを確認するために遠心分離機を使用して電池内の電解液を取り出した。この電解液の吸光度を測定し、電解液中の、難燃性成分として使用したリン酸トリメチルの量を測定した。
【0044】
図3は、リン酸トリメチルの波長と吸光度の関係を示す図である。X軸には波長(nm)を、Y軸には吸光度(−)を表示した。実施例1〜4で製作した電池では、電解液中にリン酸トリメチルが放出されていることがわかった。また、感応性マイクロカプセルの電着塗装の厚みが厚いほどリン酸トリメチルの量が多いことがわかった。比較例で製作した電池からは、リン酸トリメチルが検出されなかった。
【0045】
(過充電試験)
得られた実施例1〜4および比較例の非水電解質二次電池について、端子電圧が5.0V、カットオフで24時間充電して、電池温度の上昇を確認した。実施例1〜4では、電池温度が上昇しても発煙しないことを確認した。しかし、比較例においては、実施例1〜4で製作した電池に比較して異常な温度上昇が認められた。また比較例で製作した電池20個のうち1個に異常発熱が認められた。
【0046】
実施例1〜4においては、過充電が発生した場合でも、電池の内圧変化により感応性マイクロカプセルから心材が放出され、難燃性成分が効果的に機能しており、熱暴走を防止できることがわかった。
【0047】
実施例の結果を総合して考慮すれば、電池特性に影響を与えることなく、過充電等による電池の内圧変化に対し、より速い応答性を持ち熱暴走による事故発生を効果的に防止する非水電解質二次電池が得られることがわかった。
【0048】
以上、実施例を用いて、この発明の実施の形態を説明したが、この発明は、これらの実施例に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更があっても本発明に含まれる。すなわち、当業者であれば、当然なしえるであろう各種変形、修正もまた本発明に含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】感応性マイクロカプセルの断面図。
【図2】本発明の非水電解質二次電池の電極体を示す図。
【図3】リン酸トリメチルの波長と吸光度の関係を示す図。
【符号の説明】
【0050】
1 捲き止めテープ
2 正極板
3 負極板
4 セパレータ
5 正極タブ
6 負極タブ
a 壁材
b 心材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオンを吸蔵、放出する正極材料および負極材料を有する電極と、前記電極間に介装されたセパレータとを含む電極体を電池缶に収納してなる非水電解質二次電池において、難燃性成分を有する心材を、壁材で覆った感応性マイクロカプセルを前記電池缶の内壁に電着塗装したことを特徴とする非水電解質二次電池。
【請求項2】
前記感応性マイクロカプセルは、圧力に感応して前記難燃性成分を放出することを特徴とする請求項1に記載の非水電解質二次電池。
【請求項3】
前記難燃性成分がリン酸エステル、ペンタブロモジフェニルエーテル、オクタブロモジフェニルエーテル、デカブロモジフェニルエーテル、テトラブロモビスフェノールA、ヘキサブロモシクロドデカン、塩素化パラフィン、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムから選択される少なくとも一種を有するものからなることを特徴とする請求項1または2に記載の非水電解質二次電池。
【請求項4】
前記感応性マイクロカプセルの前記壁材がメラミン樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、フェノール樹脂から選択される少なくとも一種を有するものからなることを特徴とする請求項1または2に記載の非水電解質二次電池。
【請求項5】
前記感応性マイクロカプセルを、前記電池缶の内壁に1μm以上、100μm以下の厚みで電着塗装することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池。
【請求項6】
前記感応性マイクロカプセルが直径1μm以上、100μm以下の大きさであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池。
【請求項7】
前記感応性マイクロカプセルの前記難燃性成分を放出するのは電池厚みが5%以上変化する場合であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−73595(P2010−73595A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−241994(P2008−241994)
【出願日】平成20年9月22日(2008.9.22)
【出願人】(000134257)NECトーキン株式会社 (1,832)
【Fターム(参考)】