説明

非水電解質二次電池

【課題】正極活物質としてのリチウム含有ニッケルコバルトマンガン複合酸化物〔LiNiaCobMncO2〕の高温サイクル特性を向上させ、低コストでもって高電圧、高容量で高温サイクル特性に優れた非水電解質二次電池を提供する。
【解決手段】リチウムイオンを吸蔵放出することのできる正極活物質を有する正極と、リチウムイオンを吸蔵放出することのできる負極活物質を有する負極と、非水電解質を備えた非水電解質二次電池において、正極活物質は、水溶性アルカリ量が0.4質量%以下であるLiNiaCobMnc2(但しa+b+c=1、0.3≦a≦0.6、0.3≦b≦0.6、0.1≦c≦0.4)であり、非水電解質は、LiPF6を主電解質塩とし、LiBF4を0.01質量%以上0.5質量%以下の範囲で含み、更に1.5〜5質量%のビニレンカーボネートを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオンを吸蔵放出することのできるリチウム含有ニッケルコバルトマンガン複合酸化物を正極活物質とする非水電解質二次電池の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオンを吸蔵放出することのできるコバルト酸リチウムは、非水電解質二次電池用の正極活物質材料として有用性が高い。しかし、コバルトは埋蔵量が少なく資源的な制約がある。
【0003】
リチウム含有ニッケルコバルトマンガン複合酸化物は、コバルト酸リチウムに比較しコバルトの使用量を低減でき、しかも高電圧、高容量という特性を備えているので、コバルト酸リチウムに代替できる正極活物質として期待されている。
【0004】
然るに、リチウム含有ニッケルコバルトマンガン複合酸化物は、その合成過程において反応生成物中に水溶性アルカリが残留し易いという問題を抱えている。
【0005】
リチウム含有ニッケルコバルトマンガン複合酸化物に含まれる水溶性アルカリは、電池内で悪作用する。このため、リチウム含有ニッケルコバルトマンガン複合酸化物を正極活物質として用いた非水電解質二次電池は、コバルト酸リチウムを用いた電池に比較し、高温サイクル特性が悪くなる。その一方、残存する水溶性アルカリ量を低減するために、合成反応で使用するリチウム源としてのリチウム源量を減らすと、反応生成物の充放電反応性が悪くなり、このものを正極活物質として用いると、表面近傍の充放電反応性の悪さに起因して電解液の分解という副反応が起こり易くなる。このため、やはり高温サイクル特性が低下する。
【0006】
このようなことから、合成反応時に使用するアルカリ量を調整する手法のみでは、リチウム含有ニッケルコバルトマンガン複合酸化物の高温サイクル特性を十分に向上させることができない。
【0007】
リチウムイオンを吸蔵放出可能な正極活物質を用いた非水電解質二次電池に関する先行技術としては、下記先行技術文献に記載の技術が上げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平10-208728号公報
【特許文献2】特開平5-74455号公報
【特許文献3】特開2005-56841号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、正極活物質としてのリチウム含有ニッケルコバルトマンガン複合酸化物の高温サイクル特性を向上させ、もって高電圧、高容量で高温サイクル特性にも優れた非水電解質二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するための本発明は次のように構成されている。リチウムイオンを吸蔵放出することのできる正極活物質を有する正極と、リチウムイオンを吸蔵放出することのできる負極活物質を有する負極と、非水電解質を備えた非水電解質二次電池において、前記正極活物質は、水溶性アルカリ量が0.4質量%以下であるLiNiaCobMnc2(但しa+b+c=1、0.3≦a≦0.6、0.3≦b≦0.6、0.1≦c≦0.4)であり、前記非水電解質は、LiPF6を主電解質塩として含み、更にLiBF4を0.01質量%以上0.5質量%以下の範囲で含むことを特徴とする。
【0011】
本発明では、元素組成比がa+b+c=1、0.3≦a≦0.6、0.3≦b≦0.6、0.1≦c≦0.4に規制され、含有する水溶性アルカリ量が0.4以下に規制されたLiNiaCobMnc2を正極活物質として用い、且つLiPF6を主電解質塩とし、LiBF4を0.01質量%以上0.5質量%以下の範囲で含む非水電解質を用いて二次電池を構成する。この構成であると、各要素が都合よく作用し合って、リチウム含有ニッケルコバルトマンガン複合酸化物の高温サイクル特性が悪いという欠点を改善する。よって、上記構成にかかる本発明によると、高電圧、高容量で高温サイクル特性にも優れた非水電解質二次電池を実現できる。
【0012】
また、上記構成において、前記非水電解質は、1.5〜5質量%のビニレンカーボネートを含むものとすることができる。
【0013】
この構成であると、リチウム含有ニッケルコバルトマンガン複合酸化物〔LiNiaCobMncO2〕を正極活物質とする非水電解質二次電池の高温サイクル特性を一層向上させることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によると、各構成要素が都合よくバランスし作用し合ってリチウム含有ニッケルコバルトマンガン複合酸化物〔LiNiaCobMncO2〕の高温サイクル特性が悪いという欠点を解消し、リチウム含有ニッケルコバルトマンガン複合酸化物〔〔LiNiaCobMncO2〕の長所を引き出すことができる。よって、本発明によると、コバルト酸リチウムに比較しより安価に高電圧、高容量で高温サイクル特性にも優れた非水電解質二次電池を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明にかかる非水電解質二次電池を含む種々の実験例電池(No.1〜28、No.30〜32、No.40〜43、No.50〜54)と、その高温サイクル維持率(%)の関係を明らかにすることを通して、本発明を実施するための形態を説明する。
【0016】
本発明を実施するための形態にかかる技術内容を明らかにするため、上記実験例電池No.1〜28を第1実験群、実験例電池No.30〜32を第2実験群、実験例電池No.40〜43を第3実験群、実験例電池No.50〜54を第4実験群に別ける。そして、第1実験群では、正極活物質〔LiNiaCobMncO2〕の元素組成比と高温サイクル維持率(%)の関係を明らかにし、第2実験群では、正極活物質の水溶性アルカリ量と高温サイクル維持率(%)の関係を明らかにし、第3実験群では、非水電解質へのLiBF4加量と高温サイクル維持率(%)の関係を明らかにする。また、第4実験群では、非水電解質へのビニレンカーボネート添加量と高温サイクル維持率(%)の関係を明らかにする。
【0017】
〈第1実験群〉
第1実験群では、正極活物質の水溶性アルカリ量を0.1質量%(一定)とし、正極活物質〔LiNiaCobMncO2〕の元素組成比a:b:cを28通りに変化させた実験例電池No.1〜28(表1参照)を作製した。そして、これらの電池の高温サイクル維持率(%)を調べ、元素組成比と高温サイクル維持率(%)との関係性を明らかにした。初めに実験例電池の作製方法を説明する。
【0018】
1.正極活物質の作製
先ず、目的とする組成比となるように各々の量を調整した、Ni、Co、Mnの3つの金属元素を硫酸に溶解した。この硫酸溶液に炭酸水素ナトリウムを加えて、これら金属の炭酸塩を共沈させた。この共沈物を熱分解反応させ、Ni、Mnを含む四酸化三コバルトを得た。
【0019】
次に、上記Ni、Mnを含む四酸化三コバルトと適量の炭酸リチウムとを乳鉢で混合し、この混合物を空気雰囲気下850℃で20時間焼成し、焼成体を得た。この焼成体を乳鉢中で粉砕し、平均粒径が10μmのリチウム含有ニッケルコバルトマンガン複合酸化物を得た。このようにして、No.1〜28の28通りのリチウム含有ニッケルコバルトマンガン複合酸化物〔LiNiaCobMncO2〕を作製した。
【0020】
(元素組成比の測定)
上記で合成したリチウム含有ニッケルコバルトマンガン複合酸化物中のLi,Ni、Co、Mnの量をプラズマ発光分析(Inductively Coupled Plasma)により測定し、各々の元素組成比(a:b:c)を求めた。その結果、第1実施群の電池の元素組成比は表1の通りであった。
【0021】
(水溶性アルカリ量の測定)
上記で合成したリチウム含有ニッケルコバルトマンガン複合酸化物中の水溶性アルカリ量を中和滴定法(warder法)で測定した。具体的には、リチウム含有ニッケルコバルトマンガン複合酸化物〔LiNiaCobMncO2〕5gを50mlの純水に入れ、1時間撹拌した後、ろ過して固形分を取り除き、得られた抽出液に既知濃度の塩酸液を、溶液pHがpH8.4となるまで滴下し、このときの塩酸量αを測定した。引き続いて同上塩酸液を、溶液pHがpH4.0となるまでの滴下し、このときの塩酸量βを測定した。
【0022】
この測定における2βの塩酸量が、炭酸リチウム(Li2CO3)量に対応し(等価であり)、〔α‐β〕が水酸化リチウム(LiOH)全量に対応することになるので、活物質質量に対する炭酸リチウム量、水酸化リチウム量の総和量を、正極活物質中に存在する水溶性アルカリ量とした。この測定の結果、第1実施群電池の水溶性アルカリ量は全て0.1質量%であった。
【0023】
なお、炭酸リチウムは、合成反応時に添加された炭酸リチウムに由来するものであり、水酸化リチウムは、リチウム源が空気中の水分と反応して生じるものであると考えられる。上記中和滴定法により、リチウム含有ニッケルコバルトマンガン複合酸化物中の炭酸リチウム量と水酸化リチウム量とを知ることができるので、その結果を参考して合成反応の際にリチウム源として使用する炭酸リチウムの量を増減することによって、所望の水溶性アルカリ量(ここでは0.1%)を有するリチウム含有ニッケルコバルトマンガン複合酸化物を得ることができる。
【0024】
2.正極の作製
上記で作製したリチウム含有ニッケルコバルトマンガン複合酸化物〔LiNiaCobMncO2〕を正極活物質とし、これが85質量部,導電剤としての炭素粉末が10質量部,結着剤としてのポリフッ化ビニリデン粉末が5質量部となるよう混合し,これをn−メチルピロリドン(NMP)溶液に混合してスラリーを調製した。このスラリーを厚さ20μmのアルミニウム製の集電体の両面にドクターブレード法により塗布して,正極集電体の両面に活物質層を形成した。その後,圧縮ローラーを用いて160μmに圧縮し,短辺の長さが55mm、長辺の長さが500mmの正極を作製した。
【0025】
3.負極の作製
天然黒鉛粉末が95質量部と,ポリフッ化ビニリデン粉末が5質量部となるよう混合し,これをのNMP溶液と混合してスラリーを調製し、このスラリーを厚さ18μmの銅製の集電体の片面にドクターブレード法により塗布して活物質層を形成した。その後,圧縮ローラーを用いて155μmに圧縮し,短辺の長さが57mm,長辺の長さが550mmの負極を作製した。
【0026】
ここで、上記黒鉛の電位はLi基準で0.1Vであり、正極及び負極の活物質充填量は、設計基準となる正極活物質の電位において、正極と負極の理論充電容量比(負極充電容量/正極充電容量)が1.1となるように調整した。
【0027】
4.非水電解質の作製
エチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ビニレンカーボネート(VC)の混合溶媒に、LiPF6とLiBF4を溶解し、総質量100に対するそれぞれの質量割合が、EC 30%:DEC 55.3%:VC 2.5%:LiPF6 12%:LiBF4 0.2% である非水電解質(電解液ともいう)を作製した。
【0028】
5.電池の作製
上記正極及び負極の間に、セパレータとしてポリプロピレン製微多孔膜を挟み、巻回して電極体となし、これを高さ65mm、直径18mmの有底円筒缶に収容した後、上記非水電解質を注液した。このようにして、表1に示す第1実験例電池No.1〜28を作製した。
【0029】
[高温サイクル試験]
上記各実験例電池について高温サイクル維持率(%)を求める高温サイクル試験を行った。高温サイクル試験は、70℃の温度環境で電池を、1600mAの定電流で電圧が4.2Vになるまで充電し、この後、4.2Vの定電圧で電流値が30mAになるまで充電した。次いで、同様な温度環境下において電流値1600mAで2.7Vまで放電し、この充放電サイクルを300回繰り返すというものである。この高温サイクル試験における1サイクル目の放電容量に対する300サイクル目の放電容量の比率(%)を、高温サイクル維持率(%)とした。
【0030】
表1に第1実験群における結果を一覧表示した。表1において、正極活物質〔LiNiaCobMncO2〕の元素組成比と高温サイクル維持率(%)の関係を明らかにする。
【0031】
【表1】

【0032】
表1の実験例電池No.1〜7は、Coの比率bを0.2(一定)とし、NiとMnの比率(a、c)を変化させ、他の条件を全て一定にして作製した非水電解質二次電池である。実験例電池No.1〜7の高温サイクル維持率は、70〜74%と低い値であった。
【0033】
表1の実験例電池No.8〜13は、Coの比率bを0.3(一定)とし、NiとMnの比率a、cを変化させ、他の条件を全て一定にして作製した非水電解質二次電池である。実験例電池No.8〜13において、aが0.3〜0.6の実験例電池No.9〜12は高温サイクル維持率が83%で良好であるのに対し、aが0.2の実験例電池No.8、及びcが0(a=7)の実験例電池No.13の高温サイクル維持率は72%と低い値であった。
【0034】
表1の実験例電池No.14〜18は、Coの比率bを0.4(一定)とし、NiとMnの比率a、cを変化させ、他の条件を全て一定にして作製した非水電解質二次電池である。実験例電池No.14〜18において、aが0.3〜0.5の実験例電池No.15〜17は高温サイクル維持率が84〜85%で良好であるのに対し、aが0.2の実験例電池No.14、及びcが0(a=6)の実験例電池No.18の高温サイクル維持率は、何れも74%と低い値であった。
【0035】
表1の実験例電池No.19〜22は、Coの比率bを0.5(一定)とし、NiとMnの比率a、cを変化させ、他の条件を全て一定にして作製した非水電解質二次電池である。実験例電池No.19〜22において、aが0.3〜0.4の実験例電池No.20〜21は高温サイクル維持率が84〜85%で良好であるのに対し、aが0.2の実験例電池No.19、及びcが0(a=5)の実験例電池No.22の高温サイクル維持率は、それぞれ77%、76%と低い値であった。
【0036】
表1の実験例電池No.23〜25は、Coの比率bを0.6(一定)とし、NiとMnの比率a、cを変化させ、他の条件を全て一定にして作製した非水電解質二次電池である。これらの実験例電池において、aが0.3の実験例電池No.24は高温サイクル維持率が84%と良好であるのに対し、aが0.2の実験例電池No.23、及びcが0(a=4)の実験例電池No.25の高温サイクル維持率は、それぞれ77%、76%と低い値であった。
【0037】
表1の実験例電池No.26〜27は、Coの比率bを0.7(一定)とし、NiとMnの比率a、cを変化させ、他の条件を全て一定にして作製した非水電解質二次電池である。これらの実験例電池においては、aが0.2の実験例電池No.26、及びcが0(a=3)の実験例電池No.27の高温サイクル維持率はそれぞれ77%、76%と低い値であった。
【0038】
表1の実験例電池No.28は、Coの比率bを0.8、Niの比率aを0.2、Mnの比率cを0とし、他の条件を上記No.1〜27と同様にして作製した非水電解質二次電池である。この実験例電池No.28は、高温サイクル維持率が76%と低い値であった。
【0039】
表1に示す以上の結果から、正極活物質として使用するリチウム含有ニッケルコバルトマンガン複合酸化物〔LiNiaCobMncO2〕のa、b、cを、a+b+c=1、0.3≦a≦0.6、0.3≦b≦0.6、0.1≦c≦0.4とすることにより、高温サイクル維持率を高めることができることが明らかになった。
【0040】
〈第2実験群〉
第2実験群では、元素組成及び非水電解質を実験例電池No.15と同じとし、水溶性アルカリ量が異なる3通りの〔LiNi0.3Co0.4Mn0.3O2〕を用いて非水電解質二次電池(No.30〜32)を作製した。そして、これらの電池及び実験例電池No.15を用いて、正極活物質の水溶性アルカリ量と高温サイクル維持率(%)の関係を調べた。
【0041】
その結果を表2に示した。なお、実験例電池No.15は上記第1実験群で作製した電池であり、実験例電池No.30〜32は、合成反応時にリチウム源としての水溶性リチウム添加量を異ならせたこと以外は実験例電池No.15と同様な条件・方法で作製されている。
【0042】
【表2】

【0043】
表2において、水溶性アルカリ量が0.5質量%の実験例電池No.32の高温サイクル維持率が76%と低かったが、他の電池は何れも良好であった。なお、各表における水溶性アルカリ量は、水溶性アルカリを含む正極活物質全量を100とした場合における質量%で表示されている。
【0044】
表2の結果から、リチウム含有ニッケルコバルトマンガン複合酸化物〔LiNiaCobMncO2〕に含まれる水溶性アルカリ量を0.4質量%以下とする必要があることが明らかになった。
【0045】
〈第3実験群〉
第3実験群では、元素組成及び水溶性アルカリ量が実験例電池No.15と同じで、非水電解質中のLiBF4添加量(全量に対する質量%)のみを違えた実験例電池No.40〜43を作製した。これらの電池及び実験例電池No.15を用いて、非水電解質へのLiBF4添加量と高温サイクル維持率(%)の関係を調べた。その結果を表3に示した。なお、LiBF4の増減分は、LiPF6を増減することにより調整し他の成分割合に影響しないようにした。
【0046】
【表3】

【0047】
表3において、LiBF4添加量が0の実験例電池No.40とLiBF4添加量が0.6質量%の実験例電池No.43の高温サイクル維持率は、それぞれ70%、77%と低かった。これに対しLiBF4添加量が0.01〜0.5質量%の実験例電池No.41〜42の高温サイクル維持率は、83〜85%であり良好であった。
【0048】
以上の結果から、非水電解質へのLiBF4添加量は、0.01〜0.5質量%とする必要があることが明らかになった。
【0049】
〈第4実験群〉
第4実験群では、〔LiNiaCobMncO2〕の水溶性アルカリ量を0.1質量%、〔LiNiaCobMncO2〕のa/b/cを0.3/0.4/0.3とし、非水電解質中のLiBF4量を0.2質量%(一定)とし、非水電解質へのビニレンカーボネートの配合量(質量%)を1、1.5、2.9、5、6質量%に変化させた実験例電池No.50〜54を作製した。これらの電池を用いて、非水電解質へのビニレンカーボネート添加量と高温サイクル維持率(%)の関係を調べた。その結果を表4に示した。なお、ビニレンカーボネートの増減分は、ジエチルカーボネートを増減することにより調整し他の成分割合に影響しないようにした。
【0050】
【表4】

【0051】
表4から、何れの実験例電池も良好な高温サイクル維持率が得られたが、ビニレンカーボネート添加量が1.5〜5質量%である実験例電池No.51〜53において特に良好な良好な高温サイクル維持率が得られた。この結果から、ビニレンカーボネート添加量は、1.5〜5質量%とするのが好ましいことが明らかになった。
【0052】
以上により、a+b+c=1、0.3≦a≦0.6、0.3≦b≦0.6、0.1≦c≦0.4)であって、その水溶性アルカリ量が0.4質量%以下であるLiNiaCobMnc2を正極活物質として用い、かつLiPF6を主電解質塩とし、LiBF4を0.01質量%以上0.5質量%以下の範囲で含む非水電解質を用いて非水電解質二次電池を構成することにより、高温サイクル維持率に優れた電池を実現することができることを実証できた。また、上記非水電解質に1.5〜5質量%のビニレンカーボネートを含めると、顕著に高温サイクル維持率が高まることが実証できた。
【0053】
本発明は、これらの実験結果に基づいて完成されたものである。よって、上記実験例電池No.9〜12、15〜17、20〜21、24,30〜31、41〜42、50〜54が本発明にかかる実施例に該当し、上記実験例電池No1〜8、13〜14、18〜19、22〜23,25〜28、32,40,43が比較例に該当することになる。
【0054】
そして完成電池における正極活物質〔LiNiaCobMncO2〕中の水溶性アルカリ量は、除湿雰囲気中で完成電池を解体して正極から活物質を取り出し、これをジエチルカーボネートで洗浄した後、乾燥し、この乾燥物を秤量して、上記した中和滴定法を適用することにより知ることができ、この値が本発明構成要素にかかる正極活物質〔LiNiaCobMncO2〕中の水溶性アルカリ量となる。
【0055】
また、本発明にかかる負極は、リチウムイオンを吸蔵放出することのできる負極活物質を有する負極であればよく、負極活物質の種類は特に限定されるものではないが、リチウムイオンを吸蔵放出することのできる炭素質物を用いるのが好ましい。特にLi基準で0.1V程度以下の炭素質物を用いるのが好ましい。電位の低い炭素質物を用いると、電池電圧を高めることができ、正極活物質の利用率及び電池容量を高めることができるからである。
【0056】
炭素質物としては、天然黒鉛、人造黒鉛、カーボンブラック、コークス、ガラス状炭素、炭素繊維、またはこれらの焼成体の一種あるいは複数種混合したものなどが例示できる。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明によると、コバルト酸リチウムに比較しより安価に、高電圧、高容量で高温サイクル特性にも優れた非水電解質二次電池を提供することができる。よって、本発明の産業上の利用可能性は大きい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオンを吸蔵放出することのできる正極活物質を有する正極と、リチウムイオンを吸蔵放出することのできる負極活物質を有する負極と、非水電解質を備えた非水電解質二次電池において、
前記正極活物質は、水溶性アルカリ量が0.4質量%以下であるLiNiaCobMnc2(但しa+b+c=1、0.3≦a≦0.6、0.3≦b≦0.6、0.1≦c≦0.4)であり、
前記非水電解質は、LiPF6を主電解質塩として含み、更にLiBF4を0.01質量%以上0.5質量%以下の範囲で含む、
ことを特徴とする非水電解質二次電池。
【請求項2】
請求項1に記載の非水電解質二次電池において、
前記非水電解質は、1.5〜5質量%のビニレンカーボネートを含む、
ことを特徴とする非水電解質二次電池。

【公開番号】特開2011−76797(P2011−76797A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−225317(P2009−225317)
【出願日】平成21年9月29日(2009.9.29)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【Fターム(参考)】