説明

非水電解質二次電池

【課題】フィラー層に割れや剥離が生じにくく、品質安定性に優れた非水電解質二次電池を提供する。
【解決手段】
本発明に係る非水電解質二次電池は、正極シート10と負極シートとがセパレータシート40を介して捲回されてなる捲回電極体を備えた非水電解質二次電池であって、セパレータシート40は、多孔質の樹脂シート42と、該樹脂シート42の少なくとも一方の面に積層された多孔質のフィラー層44とを有し、フィラー層44は、無機材料からなるフィラーと、バインダとを含み、樹脂シート42の長手方向に80MPaの引張応力を負荷したときの伸び率が160%以下であり、かつ、フィラー層44を含むセパレータシート40の長手方向に80MPaの引張応力を負荷したときの伸び率が100%〜115%である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は非水電解質二次電池に関するものであり、特に樹脂シート上にフィラー層が設けられたセパレータシートを備えた非水電解質二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、リチウムイオン電池、ニッケル水素電池その他の二次電池は、車両搭載用電源、或いはパソコンおよび携帯端末の電源として重要性が高まっている。特に、軽量で高エネルギー密度が得られるリチウムイオン電池は、車両搭載用高出力電源として好ましく用いられるものとして期待されている。この種のリチウム二次電池の一つの典型的な構成では、シート状電極が渦巻き状に捲回された構造を有する電極体(捲回電極体)を備えている。かかる捲回電極体は、例えば、負極活物質を含む負極活物質層が負極集電体の両面に保持された構造を有する負極シートと、正極活物質を含む正極活物質層が正極集電体の両面に保持された構造を有する正極シートとが、セパレータシートを介して渦巻き状に捲回されることにより形成されている。かかるセパレータシートとしては、正負極間のイオン透過性を確保するため、多数の細孔が形成されたポリエチレン(PE)やポリプロピレン(PP)等からなる樹脂シートが用いられている。
【0003】
しかし、ポリエチレン(PE)やポリプロピレン(PP)等からなる樹脂シートは、電池内が高温になると熱収縮しやすく、それにより局所的な短絡が発生し、そこから更に短絡が拡大するおそれがある。そこで、樹脂シートの熱収縮による短絡を防止するために、樹脂シートの表面に多孔質の耐熱フィラー層を積層することが提案されている。例えば、特許文献1には、多孔質のセパレータ本体(樹脂シート)の表面にフィラー粒子及びバインダを含む被覆層(フィラー層)を形成する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−280911号公報
【特許文献2】特開2006−124652号公報
【特許文献3】国際公開第2006/061940号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、捲回電極体は、一般に正極シートと負極シートとセパレータシートとを引っ張りながら捲回することにより形成されており、この場合、各シートの長手方向に数十MPaの加工テンションが加わることになる。しかし、上記特許文献1のように、樹脂シートの表面にフィラー層を形成したセパレータシートを用いた場合には、樹脂シートとフィラー層との伸展性(伸びやすさ)が著しく異なるため、上記加工テンションによる樹脂シートの伸びにフィラー層が追従しきれずに、フィラー層が割れて亀裂が入ったり、フィラー層が樹脂シートから剥がれ落ちたりすることがあった。
【0006】
そこで本発明は、上述したようなセパレータシートを備えた非水電解質二次電池において、フィラー層に割れや剥離が生じにくく、品質安定性に優れた非水電解質二次電池を提供することを一つの目的とする。また、かかる非水電解質二次電池を製造する方法を提供することを他の一つの目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る非水電解質二次電池は、正極シートと負極シートとがセパレータシートを介して捲回されてなる捲回電極体を備えた非水電解質二次電池である。上記セパレータシートは、多孔質の樹脂シートと、該樹脂シートの少なくとも一方の面に積層された多孔質のフィラー層とを有する。上記フィラー層は、無機材料からなるフィラーと、バインダとを含む。上記樹脂シートの長手方向に80MPaの引張応力を負荷したときの伸び率が160%以下であり、好ましくは150%以下である。さらに、上記フィラー層を含む上記セパレータシートの長手方向に80MPaの引張応力を負荷したときの伸び率が100%〜115%であり、好ましくは100%〜110%である。
【0008】
本発明の構成によれば、樹脂シートの長手方向に80MPaの引張応力を負荷したときの伸び率(以下、単に「伸び率」ともいう。)を160%以下とし、かつ、フィラー層を含むセパレータシートの長手方向に80MPaの引張応力を負荷したときの伸び率(以下、単に「伸び率」ともいう。)を100%〜115%とすることにより、フィラー層の伸展性(伸びやすさ)が樹脂シートに近づくため、加工テンションによる樹脂シートの伸びにフィラー層が十分追従できるようになる。そのため、捲回電極体形成工程においてもフィラー層に割れや剥離が生じにくく、品質安定性に優れた非水電解質二次電池を得ることができる。
【0009】
ここで開示される非水電解質二次電池のある好適な一態様では、上記樹脂シートの単位面積当たりの上記フィラー層の重さ(目付け)が0.4mg/cm〜0.9mg/cmである。フィラー層の重さ(目付け)が小さすぎると、セパレータシートの伸び率を好適な範囲に調整することが難しくなることに加えて、樹脂シートの熱収縮を抑制する効果が小さくなったり、短絡防止効果が低減したりすることがある。一方、フィラー層の重さ(目付け)が大きすぎると、フィラー層が割れやすくなることに加えて、セパレータシートの電気抵抗が大きくなり、電池特性(充放電特性等)が低下するおそれがある。
【0010】
ここで開示される非水電解質二次電池のある好適な一態様では、上記樹脂シートの多孔度が30%〜50%である。樹脂シートの多孔度が大きすぎると、樹脂シートの伸び率を好適な範囲に調整することが難しくなることに加えて、強度が不足し、破膜が起こりやすくなるおそれがある。一方、樹脂シートの多孔度が小さすぎると、セパレータシートに保持可能な電解液量が少なくなり、イオン伝導性が低下する場合がある。
【0011】
ここで開示される非水電解質二次電池のある好適な一態様では、上記樹脂シートがポリオレフィン系樹脂からなる。他の好ましい一態様では、上記樹脂シートが、一軸延伸または二軸延伸された多孔性樹脂シートからなっている。かかる多孔性樹脂シートは、樹脂シートの伸び率を好適な範囲に調整することが容易になることに加えて、適度な強度を備えつつ幅方向の熱収縮が少ないため、特に好ましい。
【0012】
ここに開示される非水電解質二次電池のある好適な一態様では、上記フィラーは、アルミナ、ベーマイト、マグネシア、およびチタニアからなる群から選択される少なくとも1種の材料からなる。これらの無機化合物によると、上記フィラー層を含むセパレータシートの伸び率を好適な範囲に調整することが容易になることに加えて、セパレータシートの耐熱性及び機械的強度を好適に確保することができる。
【0013】
ここに開示される非水電解質二次電池のある好適な一態様では、上記バインダは、水系の溶媒に分散または溶解するポリマーからなる。水系の溶媒に分散または溶解するポリマーは、大気中の水分と反応・硬化しないため、フィラー層の伸展性を容易に(例えば製造時に水分管理を行うことなく)調整し得る点で好ましい。
【0014】
また、本発明の他の側面として、非水電解質二次電池の製造方法が提供される。この製造方法は、樹脂シートの一方の面に、無機材料からなるフィラーとバインダとを含むフィラー層を積層してセパレータシートを形成する工程を包含する。また、上記フィラー層を含むセパレータシートをロール状に巻き取ってセパレータロールを形成する工程を包含する。また、上記セパレータロールから引き出された前記セパレータシートを用いて捲回電極体を構築する工程を包含する。そして、上記フィラー層を含む上記セパレータシートをロール状に巻き取って上記セパレータロールを形成する際、該セパレータシートのフィラー層側の面が上記セパレータロールの内周側を向くように巻き取ることを特徴とする。
【0015】
フィラー層側の面が外周側を向くように巻き取ると、巻き取り時にフィラー層を伸展させる方向に応力が働くため、フィラー層にヒビや剥離等の不具合が起こり得る。かかる不具合は巻き取り直後には発生していなくても、セパレータロールを長期保管すると、発生し易くなる。これに対し、上記構成では、フィラー層側の面がセパレータロールの内周側を向くように巻き取る。このようにフィラー層側の面が内周側を向くように巻き取ることにより、フィラー層を収縮させる方向に応力が働き、伸展させる方向には応力が加わらない。そのため、フィラー層にヒビや剥離等の不具合が生じるのを抑制することができる。
【0016】
ここで開示されるいずれかの非水電解質二次電池は、上述のように、フィラー層の剥がれ等に起因する性能劣化が好適に抑制されることから、車両に搭載される非水電解質二次電池として適した性能を備える。したがって本発明によると、ここに開示される非水電解質二次電池を備える車両が提供される。特に、該非水電解質二次電池を動力源(典型的には、ハイブリッド車両または電気車両の動力源)として備える車両(例えば自動車)が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施形態に係る非水電解質二次電池を模式的に示す斜視図である。
【図2】図1のII−II断面を模式的に示す断面図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る捲回電極体を説明するための模式図である。
【図4】本発明の一実施形態に係る捲回電極体を模式的に示す正面図である。
【図5】本発明の一実施形態に係る捲回電極体の要部を模式的に示す断面図である。
【図6】本発明の一実施形態に係る非水電解質二次電池を搭載した車両を模式的に示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照しながら、本発明による実施の形態を説明する。以下の図面においては、同じ作用を奏する部材・部位には同じ符号を付して説明している。なお、各図における寸法関係(長さ、幅、厚さ等)は実際の寸法関係を反映するものではない。また、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄(例えば、正極および負極を備えた電極体の構成および製法、セパレータや電解質の構成および製法、非水電解液二次電池その他の電池の構築に係る一般的技術等)は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。
【0019】
特に限定することを意図したものではないが、以下では捲回された電極体(捲回電極体)と非水電解質とを角型の容器に収容した形態の非水電解質リチウム二次電池(リチウムイオン二次電池)を例として本発明を詳細に説明する。
【0020】
<リチウム二次電池>
本発明の一実施形態に係るリチウム二次電池の概略構成を図1〜4に示す。このリチウム二次電池100は、長尺状の正極シート10と長尺状の負極シート20が長尺状のセパレータシート40を介して捲回された形態の電極体(捲回電極体)80が、図示しない非水電解質(非水電解液)とともに、該捲回電極体80を収容し得る形状(角型)の容器50に収容された構成を有する。
【0021】
容器50は、上端が開放された有底角型の容器本体52と、その開口部を塞ぐ蓋体54とを備える。容器50を構成する材質としては、アルミニウム、スチール、NiめっきSUS等の金属材料が好ましく用いられる(本実施形態ではNiめっきSUS)。あるいは、PPS、ポリイミド樹脂等の樹脂材料を成形してなる容器50であってもよい。容器50の上面(すなわち蓋体54)には、捲回電極体80の正極10と電気的に接続する正極端子70および捲回電極体80の負極20と電気的に接続する負極端子72が設けられている。
【0022】
本実施形態に係る捲回電極体80は、後述するセパレータシート40の構成を除いては通常のリチウム二次電池の捲回電極体と同様であり、図3に示すように、捲回電極体80を組み立てる前段階において長尺状(帯状)のシート構造を有している。
【0023】
正極シート10は、長尺シート状の箔状の正極集電体12の両面に正極活物質を含む正極活物質層14が保持された構造を有している。ただし、正極活物質層14は正極シート10の幅方向の端辺に沿う一方の側縁(図では上側の側縁部分)には付着されず、正極集電体12を一定の幅にて露出させた正極活物質層非形成部が形成されている。
【0024】
負極シート20も正極シート10と同様に、長尺シート状の箔状の負極集電体22の両面に負極活物質を含む負極活物質層24が保持された構造を有している。ただし、負極活物質層24は負極シート20の幅方向の端辺に沿う一方の側縁(図では下側の側縁部分)には付着されず、負極集電体22を一定の幅にて露出させた負極活物質層非形成部が形成されている。
【0025】
捲回電極体80を作製するに際しては、図3に示すように、正極シート10と負極シート20とがセパレータシート40を介して積層される。このとき、正極シート10の正極活物質層非形成部分と負極シート20の負極活物質層非形成部分とがセパレータシート40の幅方向の両側からそれぞれはみ出すように、正極シート10と負極シート20とを幅方向にややずらして重ね合わせる。このように正極シート10と負極シート20とをセパレータシート40を介して重ね合わせ、各々のシート10、20、40を引っ張りながら該シートの長手方向に捲回することにより捲回電極体80が作製され得る。
【0026】
捲回電極体80の捲回軸方向における中央部分には、捲回コア部分82(即ち正極シート10の正極活物質層14と負極シート20の負極活物質層24とセパレータシート40とが密に積層された部分)が形成される。また、捲回電極体80の捲回軸方向の両端部には、正極シート10および負極シート20の電極活物質層非形成部分がそれぞれ捲回コア部分82から外方にはみ出ている。かかる正極側はみ出し部分(すなわち正極活物質層14の非形成部分)84および負極側はみ出し部分(すなわち負極活物質層24の非形成部分)86には、正極リード端子74および負極リード端子76(図4参照)がそれぞれ付設されており、上述の正極端子70および負極端子72とそれぞれ電気的に接続される。
【0027】
かかる捲回電極体80を構成する構成要素は、後述するセパレータシート40を除いて、従来のリチウム二次電池の捲回電極体と同様でよく、特に制限はない。例えば、正極シート10は、長尺状の正極集電体12の上にリチウム二次電池用正極活物質を主成分とする正極活物質層14が付与されて形成され得る。
【0028】
正極集電体12にはアルミニウム箔その他の正極に適する金属箔が好適に使用される。本実施形態では、シート状のアルミニウム製の正極集電体12が用いられる。例えば、厚みが10μm〜30μm程度のアルミニウムシートを好適に用いることができる。
【0029】
正極活物質層14は、正極活物質と、必要に応じて使用される他の正極活物質層形成成分(例えばバインダ、導電材等)とから構成されている。正極活物質としては、従来からリチウム二次電池に用いられる物質の一種または二種以上を特に限定することなく使用することができる。ここに開示される技術の好ましい適用対象として、リチウムニッケル酸化物(LiNiO)、リチウムコバルト酸化物(LiCoO)、リチウムマンガン酸化物(LiMn)等の、リチウムと遷移金属元素とを構成金属元素として含む酸化物(リチウム遷移金属酸化物)を主成分とする正極活物質が挙げられる。中でも、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物(例えばLiNi1/3Co1/3Mn1/3)を主成分とする正極活物質(典型的には、実質的にリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物からなる正極活物質)への適用が好ましい。一般式がLiMPO(MはCo、Ni、Mn、Feのうちの少なくとも一種以上の元素;例えばLiFeO、LiMnPO)で表記されるオリビン型リン酸リチウムを上記正極活物質として用いてもよい。
【0030】
このようなリチウム遷移金属化合物(典型的には粒子状)としては、例えば、従来公知の方法で調製されるリチウム遷移金属化合物粉末をそのまま使用することができる。例えば、平均粒径が凡そ1μm〜25μmの範囲にある二次粒子によって実質的に構成されたリチウム遷移金属化合物粉末を正極活物質として好ましく用いることができる。正極活物質層に含まれる正極活物質の量は適宜選択することができ、例えば、80質量%〜95質量%とすることができる。
【0031】
負極シート20も正極シート10と同様に、長尺シート状の箔状の負極集電体22の両面に負極活物質層24が付着されて形成されている。ただし、負極活物質層24はシート状電極体の幅方向の端辺に沿う一方の側縁には付着されず、負極集電体22を一定の幅にて露出させている。
【0032】
負極集電体22には、銅箔(本実施形態)その他の負極に適する金属箔が好適に使用される。本実施形態では、シート状の銅製の負極集電体22が用いられる。例えば、厚みが5μm〜30μm程度の銅製シートを好適に用いることができる。
【0033】
負極活物質層24は、負極活物質と、必要に応じて使用される他の負極活物質層形成成分(例えばバインダ等)とから構成されている。負極活物質としては、従来からリチウム二次電池に用いられる物質の一種または二種以上を特に限定することなく使用することができる。好適例として、グラファイトカーボン、アモルファスカーボン等の炭素系材料(本実施形態では黒鉛)、リチウム含有遷移金属酸化物や遷移金属窒化物等が挙げられる。負極活物質層に含まれる負極活物質の量は特に限定されないが、好ましくは90質量%〜99質量%程度、より好ましくは95質量%〜99質量%程度である。
【0034】
<セパレータシート>
次に、セパレータシート40について説明する。図5は一実施形態に係る捲回電極体80の捲回軸に沿う断面の一部を拡大して示す模式的断面図であって、セパレータシート40と、該セパレータシート40に対向する正極シート10とを示したものである。図5に示すように、セパレータシート40は、長尺のシート状に形成されている。セパレータシート40は、多孔質の樹脂シート42と、該樹脂シート42の少なくとも一方の面(ここでは片面)に積層された多孔質のフィラー層44とを有する。かかるフィラー層44には、無機材料からなるフィラー(例えばアルミナ)とバインダとが含まれている。かかる樹脂シート42の長手方向(MD方向)に80MPaの引張応力を負荷したときの伸び率が160%以下であり、好ましくは150%以下である。また、フィラー層44を含むセパレータシート40の長手方向(MD方向)に80MPaの引張応力を負荷したときの伸び率が100%〜115%であり、好ましくは100%〜110%である。ここで樹脂シート42の長手方向は、捲回電極体80の捲回方向と同じである。なお、フィラー層44をセパレータシート40の両方の面に設けることも可能である。
【0035】
上記のように、樹脂シート42の長手方向に80MPaの引張応力を負荷したときの伸び率(以下、単に「伸び率」ともいう。)を160%以下とし、かつ、フィラー層44を含むセパレータシート40の長手方向に80MPaの引張応力を負荷したときの伸び率(以下、単に「伸び率」ともいう。)を100%〜115%とすることにより、フィラー層44の伸展性(伸びやすさ)が樹脂シート42に近づくため、加工テンションによる樹脂シート42の伸びにフィラー層44が十分追従できるようになる。そのため、捲回電極体形成工程においてもフィラー層44に割れや剥離が生じにくく、品質安定性に優れた非水電解質二次電池100を得ることができる。
【0036】
例えば、樹脂シート42の長手方向の伸び率としては、160%以下(例えば100%〜160%)を満足するものが好ましく、150%以下(例えば100%〜150%)を満足するものがより好ましく、140%以下(例えば100%〜140%)を満足するものがさらに好ましく、130%以下(例えば100%〜130%)を満足するものが特に好ましい。樹脂シート42の伸び率が160%よりも大きすぎる場合は、樹脂シート42とフィラー層44との伸展性が著しく異なるため、捲回電極体形成工程においてフィラー層44の割れや剥離による不良が発生する場合があり得る。なお、樹脂シート42の伸び率は、以下のようにして算出することができる。樹脂シート42から、長手方向に10cm、幅方向に1cmの矩形状の試験片を採取し、長手方向中央部に所定間隔(L0)の標点を記す。試験片の両端を引張試験機のチャックに固定し、下端に80MPaの引張応力となるように荷重を負荷し、標点間隔(L)を測定する。このとき、樹脂シート42の伸び率は、L/L0×100によって算出することができる。
【0037】
上記伸び率の値を満たす樹脂シート42は、例えば、該樹脂シート42の多孔度を調整することにより実現することができる。樹脂シート42の多孔度を大きくすると伸び率は大きくなり、樹脂シート42の多孔度を小さくすると伸び率は小さくなる傾向にある。したがって、樹脂シート42の多孔度を適切に調整することにより、伸び率の値が160%以下を満たす樹脂シートを形成することができる。その他、樹脂シート42の伸び率を制御する方法としては、熱処理方法を変える、樹脂シートを構成する材料(PE、PP等)の密度を変える、等の方法を採用し得る。
【0038】
また、フィラー層44を含むセパレータシート40の長手方向の伸び率としては、115%以下を満足するものが好ましく、111%以下を満足するものがより好ましく、110%以下を満足するものがさらに好ましく、108%以下を満足するものが特に好ましい。セパレータシート40の伸び率が115%よりも大きすぎる場合は、フィラー層44と樹脂シート42との伸展性が著しく異なるため、捲回電極体形成工程においてフィラー層44の割れや剥離による不良が発生する場合があり得る。その一方で、伸び率の値が100%を下回るセパレータシート40は実質的には製造が不可能である。例えば、伸び率の値が100〜115%のセパレータシート40がフィラー層44の滑落防止という観点から適当である。なお、フィラー層44を含むセパレータシート40の伸び率も、樹脂シート42の伸び率と同様にして算出することができる。すなわち、フィラー層44を含むセパレータシート40から、長手方向に10cm、幅方向に1cmの矩形状の試験片を採取し、長手方向中央部に所定間隔(L0)の標点を記す。試験片の両端を引張試験機のチャックに固定し、下端に80MPaの引張応力となるように荷重を負荷し、標点間隔(L)を測定する。このとき、セパレータシート40の伸び率は、L/L0×100によって算出することができる。
【0039】
上記伸び率の値を満たすフィラー層44を含むセパレータシート40は、例えば、樹脂シート42の単位面積あたりのフィラー層44の重さ(目付け)を調整することにより実現することができる。フィラー層44の目付けを大きめに形成すると、フィラー層44を含むセパレータシート40の伸び率は小さくなり、フィラー層44の目付けを小さめに形成すると、フィラー層44を含むセパレータシート40の伸び率は大きくなる傾向にある。したがって、フィラー層44の目付けを適切に調整することにより、伸び率の値が100〜115%を満たすフィラー層44を含むセパレータシート40を形成することができる。その他、フィラー層44を含むセパレータシート40の伸び率を制御する方法としては、フィラー層を構成するバインダの種類を変える、フィラー層の密度を変える、等の方法を採用し得る。
【0040】
樹脂シート42の材料としては、例えば、ポリエチレン(PE)やポリプロピレン(PP)等のポリオレフィン系の樹脂を好適に用いることができる。樹脂シート42の構造は、単層構造であってもよく、多層構造であってもよい。図5は、単層構造の樹脂シート42の一例を表している。ここでは、樹脂シート42はポリエチレン(PE)系樹脂によって構成されている。ポリエチレン(PE)系樹脂としては、エチレンの単独重合体が好ましく用いられる。かかる構成によれば、樹脂シート42の伸び率を好適な範囲に調整することが容易となる。また、ポリエチレン(PE)系樹脂は、エチレンから誘導される繰り返し単位を50質量%以上含有する樹脂であって、エチレンと共重合可能なα‐オレフィンを重合した共重合体、あるいはエチレンと共重合可能な少なくとも一種のモノマーを重合した共重合体であってもよい。α‐オレフィンとして、プロピレン等が例示される。他のモノマーとして共役ジエン(例えばブタジエン)、アクリル酸等が例示される。
【0041】
また、樹脂シート42は、シャットダウン温度が120℃〜140℃(典型的には、125℃〜135℃)程度のPEから構成されることが好ましい。上記シャットダウン温度は、電池100が熱暴走する温度(例えば、約1000℃以上)よりも十分に低い。かかるPEとしては、一般に高密度ポリエチレン、あるいは直鎖状(線状)低密度ポチエチレン等と称されるポリエステルが例示される。あるいは中密度、低密度の各種の分岐ポリエチレンを用いてもよい。また、必要に応じて、各種可塑剤、酸化防止剤等の添加剤を含有することもできる。
【0042】
樹脂シート42として、一軸延伸または二軸延伸された多孔性樹脂シートを好適に用いることができる。中でも、長手方向(MD方向:Machine Direction)に一軸延伸された多孔性樹脂シートは、該樹脂シート42の伸び率を好適な範囲に調整することが容易となることに加えて、適度な強度を備えつつ幅方向の熱収縮が少ないため、特に好ましい。例えば、かかる長手方向一軸延伸樹脂シートを有するセパレータシートを用いると、長尺シート状の正極および負極とともに捲回された態様において、長手方向の熱収縮も抑制され得る。したがって、長手方向に一軸延伸された多孔性樹脂シートは、かかる捲回電極体を構成するセパレータシートの一材料として特に好適である。
【0043】
樹脂シート42の厚みは、10μm〜30μm程度であることが好ましく、15μm〜25μm程度であることがより好ましい。樹脂シート42の厚みが大きすぎると、セパレータシート40のイオン伝導性が低下するおそれがある。一方、樹脂シート42の厚みが小さすぎると、樹脂シート42の伸び率を好適な範囲に調整することが難しくなることに加えて、破膜が生じるおそれがある。なお、樹脂シート42の厚みは、走査型電子顕微鏡(SEM)により撮影した画像を画像解析することによって求めることができる。
【0044】
樹脂シート42の多孔度は、概ね20%〜60%程度であることが好ましく、例えば30%〜50%程度であることがより好ましい。樹脂シート42の多孔度が大きすぎると、樹脂シート42の伸び率を好適な範囲に調整することが難しくなることに加えて、強度が不足し、破膜が起こりやすくなるおそれがある。一方、樹脂シート42の多孔度が小さすぎると、セパレータシート40に保持可能な電解液量が少なくなり、イオン伝導性が低下する場合がある。なお、樹脂シート42の多孔度は、以下のようにして算出することができる。単位面積(サイズ)の樹脂シート42が占める見かけの体積をV1[cm]とし、上記単位面積の樹脂シート42の質量をW[g]とする。この質量Wと上記樹脂シート42を構成する樹脂材料の真密度ρ[g/cm]との比、すなわちW/ρをV0とする。なお、V0は、質量Wの樹脂材料の緻密体が占める体積である。このとき、樹脂シート42の多孔度は、[(V1−V0)/V1]×100によって算出することができる。
【0045】
なお、ここでは樹脂シート42は、PE層の単層構造によって構成されているが、多層構造の樹脂シートであってもよい。例えば、PP層と、PP層上に積層されたPE層と、PE層上に積層されたPP層との3層構造により構成してもよい。この場合、フィラー層は、PP層上に積層することができる。多層構造の樹脂シートの層数は3に限られず、2であってもよく、4以上であってもよい。
【0046】
上記樹脂シート42の一方の面に積層されたフィラー層44は、無機材料からなるフィラーと、バインダとを含んでいる。次に、フィラー層44について説明する。この実施形態では、フィラー層44は、正極シート10の正極活物質層14と対向する領域に形成されている。
【0047】
フィラー層44に用いられるフィラー(充填材)としては、電気絶縁性が高く、樹脂シート42よりも融点が高い(例えば190℃以上)無機材料を好適に用いることができる。その材質は、例えば、金属の酸化物、水酸化物、窒化物等であり得る。無機材料の形態は、粒子状、繊維状、フレーク状等であり得る。通常は、粒子状の無機材料の使用が好ましい。無機酸化物または無機水酸化物からなる粒子を好適に用いることができる。例えば、アルミナ、ベーマイト、マグネシア、チタニア、シリカ、ジルコニア、酸化亜鉛、酸化鉄、セリア、イットリア等から選択される一種または二種以上の無機酸化物を粒子状に調製したものが使用され得る。特に好ましい無機化合物として、アルミナ、ベーマイト、マグネシア、チタニアが例示される。これらの無機化合物によると、フィラー層44を含むセパレータシート40の伸び率を好適な範囲に調整することが容易になることに加えて、セパレータシート40の耐熱性及び機械的強度を好適に確保することができる。上記無機化合物粒子の一次粒径は、例えば0.15μm〜2μm程度とすることができ、比表面積は2〜13m/g程度とすることができる。
【0048】
上記フィラー層44に用いられるバインダは、後述するフィラー層形成用塗料が水系の溶媒(バインダの分散媒として水または水を主成分とする混合溶媒を用いた溶液)の場合には、水系の溶媒に分散または溶解するポリマーを用いることができる。水系溶媒に分散または溶解するポリマーとしては、例えば、アクリル系樹脂が挙げられる。アクリル系樹脂としては、アクリル酸、メタクリル酸、アクリルアミド、メタクリルアミド、2‐ヒドロキシエチルアクリレート、2‐ヒドロキシエチルメタクリレート、メタアクリレート、メチルメタアクリレート、エチルヘキシルアクリレート、ブチルアクリレート等のモノマーを1種類で重合した単独重合体が好ましく用いられる。また、アクリル系樹脂は、2種以上の上記モノマーを重合した共重合体であってもよい。さらに、上記単独重合体及び共重合体の2種類以上を混合したものであってもよい。上述したアクリル系樹脂のほかに、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリエチレン(PE)等のポリオレフィン系樹脂、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等を用いることができる。これらポリマーは、一種のみを単独で、あるいは二種以上を組み合わせて用いることができる。中でも、アクリル系樹脂、スチレンブタジエンゴム、およびポリオレフィン系樹脂を用いることが好ましい。これらの水系バインダは、大気中の水分と反応・硬化しないため、フィラー層の伸展性を容易に(例えば製造時に水分管理を行うことなく)調整し得る点で好ましい。バインダの平均粒径は、例えば0.09μm〜0.15μm程度である。バインダの形態は特に制限されず、粒子状(粉末状)のものをそのまま用いてもよく、溶液状あるいはエマルション状に調製したものを用いてもよい。二種以上のバインダを、それぞれ異なる形態で用いてもよい。
【0049】
また、上記フィラー層44に用いられるバインダは、後述するフィラー層形成用塗料が溶剤系の溶媒(バインダの分散媒が主として有機溶媒である溶液)の場合には、溶剤系の溶媒に分散または溶解するポリマーを用いることができる。溶剤系溶媒に分散または溶解するポリマーとしては、例えばポリフッ化ビニリデン系樹脂組成物が挙げられる。ポリフッ化ビニリデン系樹脂としては、フッ化ビニリデンの単独重合体が好ましく用いられる。さらに、ポリフッ化ビニリデン系樹脂は、フッ化ビニリデンと共重合可能なビニル系単量体との共重合体も好ましく用いられる。フッ化ビニリデンと共重合可能なビニル系単量体としては、ヘキサフルオロプロピレン、テトラフルオロエチレンおよび三塩化フッ化エチレン等が例示される。あるいは、溶剤系溶媒に分散または溶解するポリマーとして、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリアクリロニトリル、ポリメタクリル酸メチル、等も好ましく用いられる。これらの溶剤系バインダは、フィラー層44の伸展性を好適に向上し得る点で好ましい。ただし、上記溶剤系バインダは、大気中の水分と反応して硬化するため、製造時に水分管理を行う必要がある。
【0050】
特に限定するものではないが、フィラー層44全体に占めるフィラーの割合は凡そ90質量%以上(典型的には95質量%〜99質量%)であることが好ましく、凡そ97質量%〜99質量%であることが好ましい。また、フィラー層44中のバインダの割合は凡そ7質量%以下とすることが好ましく、凡そ5質量%以下(例えば凡そ0.5質量%〜3質量%)とすることが好ましい。また、フィラー及びバインダ以外のフィラー層形成成分(例えば増粘材等)を含有する場合は、それら任意成分の合計含有割合を凡そ3質量%以下とすることが好ましく、凡そ2質量%以下(例えば凡そ0.5質量%〜1質量%)とすることが好ましい。上記バインダの割合が少なすぎると、フィラー層44を含むセパレータシート40の伸び率を好適な範囲に調整することが難しくなってくることに加えて、上記フィラー層44の投錨性や上記フィラー層44自体の強度(保形性)が低下して、ヒビや剥落等の不具合が生じることがある。上記バインダの割合が多すぎると、フィラー層44の多孔性が不足し、フィラー層44を含むセパレータシート40のイオン透過性が低下する(延いては該セパレータシート40を用いて構築された二次電池の抵抗が上昇する)場合がある。
【0051】
フィラー層44の厚みは、1μm〜12μm程度であることが好ましく、2μm〜8μm程度であることがより好ましい。フィラー層44の厚みが小さすぎると、フィラー層44を含むセパレータシート40の伸び率を好適な範囲に調整することが難しくなることに加えて、短絡防止効果が低減したり、保持可能な電解液量が低下したりする場合がある。一方、フィラー層44の厚みが大きすぎると、フィラー層の割れが発生しやすくなることに加えて、セパレータシートの電気抵抗が大きくなり、電池特性(充放電特性等)が低下するおそれがある。フィラー層44の厚みは、走査型電子顕微鏡(SEM)により撮影した画像を画像解析することにより求めることができる。
【0052】
樹脂シート42の単位面積あたりのフィラー層44の重さ(目付け)は、0.4g/cm〜0.9g/cm程度であることが好ましく、0.5g/cm〜0.8g/cm程度であることがより好ましい。フィラー層44の重さ(目付け)が小さすぎると、フィラー層44を含むセパレータシート40の伸び率を好適な範囲に調整することが難しくなることに加えて、樹脂シート42の熱収縮を抑制する効果が小さくなったり、短絡防止効果が低減したりすることがある。一方、フィラー層44の重さ(目付け)が大きすぎると、セパレータシート40の電気抵抗が大きくなり、電池特性(充放電特性等)が低下するおそれがある。
【0053】
次に、本実施形態に係るフィラー層44の形成方法について説明する。フィラー層44を形成するためのフィラー層形成用塗料としては、フィラー、バインダおよび溶媒を混合分散したペースト状(スラリー状またはインク状を含む。以下同じ。)のものが用いられる。このペースト状の塗料を、樹脂シート42の表面に適当量塗布し、さらに乾燥することによって、フィラー層44を形成することができる。
【0054】
フィラー層形成用塗料に用いられる溶媒としては、水または水を主体とする混合溶媒が挙げられる。かかる混合溶媒を構成する水以外の溶媒としては、水と均一に混合し得る有機溶媒(低級アルコール、低級ケトン等)の一種または二種以上を適宜選択して用いることができる。あるいは、N‐メチルピロリドン(NMP)、ピロリドン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクサヘキサノン、トルエン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、等の有機系溶媒またはこれらの2種以上の組み合わせであってもよい。フィラー層形成用塗料における溶媒の含有率は特に限定されないが、塗料全体の40〜90質量%、特には50質量%程度が好ましい。
【0055】
上記フィラー層形成用塗料は、フィラー及びバインダのほかに、必要に応じて使用され得る一種または二種以上の材料を含有することができる。そのような材料の例として、無機フィラー層形成用塗料の増粘剤として機能するポリマーが挙げられる。特に水系溶媒を使用する場合、上記増粘剤として機能するポリマーを含有することが好ましい。該増粘剤として機能するポリマーとしてはカルボキシメチルセルロース(CMC)やポリエチレンオキサイド(PEO)が好ましく用いられる。
【0056】
上記フィラー及びバインダを溶媒に混合させる操作は、ディスパーミル、クレアミックス、フィルミックス、ボールミル、ホモディスパー、超音波分散機などの適当な混練機を用いて行うことができる。フィラー層形成用塗料を樹脂シート42の表面に塗布し乾燥させることによって、フィラー層44を形成することができる。
【0057】
フィラー層形成用塗料を樹脂シート42の表面に塗布する操作は、従来の一般的な塗布手段を特に限定することなく使用することができる。例えば、適当な塗布装置(グラビアコーター、スリットコーター、ダイコーター、コンマコーター、ディップコート等)を使用して、上記樹脂シートの一方の面に所定量の上記フィラー層形成用塗料を均一な厚さにコーティングすることにより塗布され得る。その後、適当な乾燥手段で塗布物を乾燥(典型的には樹脂シートの融点よりも低い温度、例えば110℃以下、例えば30〜80℃)することによって、フィラー層形成用塗料中の溶媒を除去する。フィラー層形成用塗料から溶媒を除去することによって、フィラーとバインダを含むフィラー層44が形成され得る。このようにして、樹脂シート42の一方の面に、無機材料からなるフィラーとバインダとを含むフィラー層44が形成されたセパレータシート40を得ることができる。
【0058】
このようにしてフィラー層44を含むセパレータシート40を形成した後、該セパレータシート40を巻芯の軸周りにロール状に巻き取る。これにより、セパレータロールを作製する。このセパレータロールは、セパレータシート40をロール状に巻き取ったものであり、その状態で後工程(捲回電極体形成工程)に供したり長期保管したりし得る。この実施形態では、樹脂シート42の表面にフィラー層44を連続的に形成した後、連続して同じ製造ラインで巻芯に巻き取る。また、その際、セパレータシート40のフィラー層44側の面がセパレータロールの内周側を向くように巻き取る。
【0059】
ここで、フィラー層44側の面がセパレータロールの外周側を向くように巻き取ると、巻き取り時にフィラー層44を伸展させる方向に応力が働くため、フィラー層44にヒビや剥離等の不具合が起こり得る。かかる不具合は巻き取り直後には発生していなくても、セパレータロールを長期保管すると、発生し易くなる。これに対し、本実施形態では、フィラー層44側の面がセパレータロールの内周側を向くように巻き取る。このようにフィラー層44側の面が内周側を向くように巻き取ることにより、フィラー層44を収縮させる方向に応力が働き、伸展させる方向には応力が加わらない。そのため、フィラー層44にヒビや剥離等の不具合が生じるのを抑制することができる。
【0060】
このようにして得られたセパレータロールは、次の捲回電極体形成工程に供される。捲回電極体形成工程では、セパレータロールから連続的に引き出された2枚のセパレータシート40(フィラー層44を含むセパレータシート40)と、別途用意した正極シート10と負極シート20とを、図3に示すように重ね合わせて捲回型のリチウム二次電池用捲回電極体80を構築する。而して、図1及び図2に示すように、容器本体52の上端開口部から該本体52内に捲回電極体80を収容するとともに適当な電解質を含む電解液を容器本体52内に配置(注液)する。電解質は例えばLiPF等のリチウム塩である。例えば、適当量(例えば濃度1M)のLiPF等のリチウム塩をエチレンカーボネートとエチルメチルカーボネートとジメチルカーボネートとの混合溶媒(例えば質量比3:4:3)のような非水電解質(非水電解液)に溶解して電解液として使用することができる。
【0061】
その後、上記開口部を蓋体54との溶接等により封止し、本実施形態に係るリチウム二次電池100の組み立てが完成する。容器50の封止プロセスや電解質の配置(注液)プロセスは、従来のリチウム二次電池の製造で行われている手法と同様でよく、本発明を特徴付けるものではない。このようにして本実施形態に係るリチウム二次電池100の構築が完成する。
【0062】
このようにして構築されたリチウム二次電池100は、上記のようにフィラー層44の剥離や亀裂に起因する性能劣化が好適に抑制されることから、優れた電池性能を示すものである。例えば、品質安定性に優れる、安全性が高い、IV抵抗が低い、のうちの少なくとも一方(好ましくは全部)を満たす電池を提供することができる。
【0063】
以下、本発明に関する実施例を説明するが、本発明を以下の試験例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0064】
<例1>
厚さ20μm、多孔度33%、80MPa伸び率114%のポリエチレンからなる樹脂シートを、例1の樹脂シートとした。フィラーとしてのアルミナ粉末(住友化学株式会社製、「AKP3000」)と、アクリル系バインダと、増粘剤としてのCMC(第1工業製薬株式会社製、「BSH6」)とを固形分質量比が98:1.3:0.7であり且つ固形分率(NV)が50質量%となるように水中に加え、混練機(ROBO MICS社製の「ディスパーミル」)で混練し、フィラー層形成用塗料を調製した。混練時間については、5000rpmで15分とした。
【0065】
グラビア塗工方法を用いて上記樹脂シートの片面に上記塗料を塗布し、乾燥させてフィラー層を形成した。グラビア塗工では、樹脂シートのライン速度は3m/min、グラビアロール速度は3.8m/min、速比(グラビア速度/ライン速度)は1.27とした。乾燥温度は70℃とした。乾燥後のフィラー層の目付け(樹脂シートの単位面積当たりのフィラー層の重さ)は0.82mg/cmとした。また、フィラー層の厚みは4μmとした。得られたセパレータシートをロール状に巻き取ってセパレータロールを作製した。その際、フィラー層側の面がセパレータロールの内周側を向くように巻き取った。セパレータシートの巻き長は200mとした。
【0066】
<例2>
フィラー層の目付けが0.96mg/cm、厚みが5μmであること以外は例1と同様にして、セパレータロールを作製した。
【0067】
<例3>
フィラー層の目付けが0.49mg/cm、厚みが2.5μmであり、かつ、多孔度38%、80MPa伸び率128%のポリエチレンからなる樹脂シートを用いたこと以外は例1と同様にして、セパレータロールを作製した。
【0068】
<例4>
フィラー層側の面がセパレータロールの外周側を向くように巻き取ったこと以外は例3と同様にして、セパレータロールを作製した。
【0069】
<例5>
フィラー層の目付けが0.51mg/cm、厚みが2.5μmであり、かつ、多孔度44%、80MPa伸び率141%のポリエチレンからなる樹脂シートを用いたこと以外は例1と同様にして、セパレータロールを作製した。
【0070】
<例6>
フィラー層側の面がセパレータロールの外周側を向くように巻き取ったこと以外は例5と同様にして、セパレータロールを作製した。
【0071】
<例7>
フィラー層の目付けが0.47mg/cm、厚みが2.5μmであり、かつ、多孔度48%、80MPa伸び率153%のポリエチレンからなる樹脂シートを用い、さらにフィラーとしてマグネシアを用いたこと以外は例1と同様にして、セパレータロールを作製した。
【0072】
<例8>
フィラー層の目付けが0.5mg/cm、厚みが2.5μmであり、かつ、多孔度48%、80MPa伸び率153%のポリエチレンからなる樹脂シートを用い、さらにフィラーとしてチタニアを用いたこと以外は例1と同様にして、セパレータロールを作製した。
【0073】
<例9>
フィラー層の目付けが0.49mg/cm、厚みが2.5μmであり、かつ、多孔度48%、80MPa伸び率153%のポリエチレンからなる樹脂シートを用いたこと以外は例1と同様にして、セパレータロールを作製した。
【0074】
<例10>
フィラー層側の面がセパレータロールの外周側を向くように巻き取ったこと以外は例9と同様にして、セパレータロールを作製した。
【0075】
<例11>
フィラー層の目付けが0.47mg/cm、厚みが2.5μmであり、かつ、多孔度48%、80MPa伸び率158%のポリエチレンからなる樹脂シートを用いたこと以外は例1と同様にして、セパレータロールを作製した。
【0076】
<例12>
フィラー層側の面がセパレータロールの外周側を向くように巻き取ったこと以外は例11と同様にして、セパレータロールを作製した。
【0077】
<例13>
フィラー層の目付けが0.33mg/cm、厚みが1.5μmであり、かつ、多孔度38%、80MPa伸び率128%のポリエチレンからなる樹脂シートを用いたこと以外は例1と同様にして、セパレータロールを作製した。
【0078】
(性能評価)
例1〜例13のセパレータロールを乾燥機に投入し、80℃にて24時間放置した。かかる熱履歴後のセパレータシートから、長手方向に10cm、幅方向に1cmの矩形状の試験片を採取し、長手方向中央部に所定間隔(L0=80mm)の標点を記した。試験片の両端を引張試験機(IMADA社製の「SV−55C−20M」装置)のチャックに固定し、下端に80MPaの引張応力となるように荷重を負荷し、標点間隔(L)を測定した。このときのセパレータシートの伸び率を、L/L0×100によって算出した。なお、上記引張試験で負荷した80MPaの引張応力は、捲回電極体形成工程においてセパレータシートに付与される標準的な加工テンションに相当する。また、上記引張試験後の試験片の表面を観察し、フィラー層の亀裂・剥離の有無を確認した。その結果を表1に示す。表1では、亀裂・剥離が全くなかったものを「○」、目視で確認できる小さな亀裂があったものの、品質にはほとんど影響がなく問題ないレベルのものを「△」、目視で確認できる大きな亀裂があり、かつ一部に剥離があったものを「×」と表記している。
【0079】
【表1】

【0080】
表1に示すように、樹脂シートの伸び率が160%以下であり、かつ、フィラー層を含むセパレータシート全体の伸び率が100%〜111%である例1〜例9では、亀裂や剥離が全く観察されず、良好な結果が得られた。例10、11では、小さな亀裂は若干あったもの、品質にはほとんど影響がなく問題ないレベルであった。これに対し、フィラー層を含むセパレータシート全体の伸び率が115%を上回った例12、13では、大きな亀裂が発生し、かつ一部に剥離が観察された。フィラー層の亀裂を抑制する観点からは、フィラー層を含むセパレータシート全体の伸び率を100%〜115%程度にすることが適当であり、好ましくは100%〜111%程度であり、特に好ましくは100%〜110%程度である。また、例9と例10との比較から、フィラー層側の面がセパレータロールの内周側を向くように巻き取る方が、外周側を向くように巻き取る場合に比べて、亀裂・剥離をより効果的に抑制し得ることが確認できた。
【0081】
例1〜11のセパレータシートを用いた試験用リチウム二次電池を作製し、IV抵抗の測定を行った。試験用リチウム二次電池の構築は以下のようにして行った。
【0082】
(正極シート)
正極活物質としてのリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物(LiNi1/3Co1/3Mn1/3)粉末と導電材としてのアセチレンブラック(AB)とバインダとしてのポリフッ化ビニリデン(PVdF)とを、これらの材料の質量比が85:10:5となり且つ固形分率が56質量%となるようにN−メチルピロリドン(NMP)中で混合して、正極活物質層用ペーストを調製した。この正極活物質層用ペーストを厚み15μmの長尺シート状のアルミニウム箔(正極集電体)の両面に帯状に塗布して乾燥することにより、正極集電体の両面に正極活物質層が設けられた正極シートを作製した。正極活物質層用ペーストの塗布量は、両面合わせて約16.8mg/cm(固形分基準)となるように調節した。乾燥後、正極活物質層の密度が2.3g/cm、正極シート全体の厚みが88μmとなるようにプレスした。
【0083】
(負極シート)
黒鉛粒子の表面にアモルファスカーボンがコートされた炭素質粉末とバインダとしてのスチレンブタジエンゴム(SBR)と増粘剤としてのカルボキシルメチルセルロース(CMC)とを、これらの材料の質量比が98:1:1となり且つ固形分率が39質量%となるように水中に分散させて負極活物質層用ペーストを調製した。この負極活物質層用ペーストを厚み10μmの長尺シート状の銅箔(負極集電体)の両面に塗布し、負極集電体の両面に負極活物質層が設けられた負極シートを作製した。負極活物質層形成用ペーストの塗布量は、両面合わせて約10.5mg/cm(固形分基準)となるように調節した。乾燥後、負極活物質層の密度が1.4g/cm、負極シート全体の厚みが85μmとなるようにプレスした。
【0084】
(リチウム二次電池)
正極シート及び負極シートを2枚のセパレータをと重ね合わせて円筒状に捲回し、側面方向から押しつぶすことによって、扁平形状の巻回電極体を得た。その際、セパレータシートのフィラー層が正極シートと対向するように配置した。このようにして得られた捲回電極体を非水電解質(非水電解液)とともに角型の電池容器に収容し、電池容器の開口部を気密に封口した。非水電解液としてはエチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)とジメチルカーボネート(DMC)とを3:4:3の体積比で含む混合溶媒に支持塩としてのLiPFを約1.1mol/リットルの濃度で含有させた非水電解液を使用した。このようにして試験用リチウム二次電池を組み立てた。なお、このリチウム二次電池の理論容量は5.2Ahである。
【0085】
(IV抵抗の測定)
例1〜11のセパレータシートを用いた各電池について、IV抵抗値を測定した。まず、25℃の環境雰囲気下において、1Cの定電流充電によって各電池を4.1Vまで充電した後、1Cの定電流放電によって3Vまで放電して容量を確認した。その後、1Cの定電流充電によって各電池を3.537Vまで充電し、定電圧充電によって電流値が0.05Cになるまで充電した。その後、20Aの電流値で10秒間の放電を行い、放電開始から10秒後の電圧値を測定し、そのときの電圧変化からIV抵抗を算出した。その結果を表1に示す。
【0086】
表1に示すように、フィラー層の目付けが小さいほどIV抵抗が低下傾向となり、電池特性は良好であった。IV抵抗を下げる観点からは、フィラー層の目付けは0.9mg/cm以下が好ましく(例1,3〜11)、0.8mg/cm以下がより好ましい(例3〜11)。その一方で、フィラー層の目付けが小さすぎると、セパレータシートの伸び率が115%を超えてしまい、フィラー層に亀裂や剥離が生じ易くなる(例13)。亀裂や剥離を抑制する観点からは、フィラー層の目付けが0.4mg/cm以上を満足するものが好ましい。例えば、フィラー層の目付けが0.4mg/cm〜0.9mg/cm、好ましくは0.5mg/cm〜0.8mg/cmを満足するものがIV抵抗を小さく抑えつつフィラー層の亀裂・剥離を抑制し得る観点から好適である。
【0087】
以上、本発明を詳細に説明したが、上記実施形態および試験例は例示にすぎず、ここで開示される発明には上述の具体例を様々に変形、変更したものも含まれる。
【0088】
なお、ここに開示されるいずれかの二次電池100は、車両に搭載される電池として適した性能を備える。したがって本発明によると、図6に示すように、ここに開示されるいずれかの二次電池100を備えた車両1が提供される。特に、該二次電池100を動力源(典型的には、ハイブリッド車両または電気車両の動力源)として備える車両1(例えば自動車)が提供される。
【符号の説明】
【0089】
10 正極シート
12 正極集電体
14 正極活物質層
20 負極シート
22 負極集電体
24 負極活物質層
40 セパレータシート
42 樹脂シート
44 フィラー層
50 容器
52 容器本体
54 蓋体
70 正極端子
72 負極端子
74 正極リード端子
76 負極リード端子
80 捲回電極体
82 捲回コア部分
100 非水電解質二次電池


【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極シートと負極シートとがセパレータシートを介して捲回されてなる捲回電極体を備えた非水電解質二次電池であって、
前記セパレータシートは、多孔質の樹脂シートと、該樹脂シートの少なくとも一方の面に積層された多孔質のフィラー層と、を有し、
前記フィラー層は、無機材料からなるフィラーと、バインダとを含み、
前記樹脂シートの長手方向に80MPaの引張応力を負荷したときの伸び率が160%以下であり、かつ、
前記フィラー層を含む前記セパレータシートの長手方向に80MPaの引張応力を負荷したときの伸び率が100%〜115%である、非水電解質二次電池。
【請求項2】
前記樹脂シートの単位面積当たりの前記フィラー層の重さが0.4mg/cm〜0.9mg/cmである、請求項1に記載の非水電解質二次電池。
【請求項3】
前記樹脂シートの長手方向に80MPaの引張応力を負荷したときの伸び率が150%以下であり、かつ、
前記フィラー層を含む前記セパレータシートの長手方向に80MPaの引張応力を負荷したときの伸び率が100%〜110%である、請求項1または2に記載の非水電質二次電池。
【請求項4】
前記樹脂シートは、ポリオレフィン系樹脂からなる、請求項1〜3の何れか一つに記載の非水電解質二次電池。
【請求項5】
前記フィラーは、アルミナ、ベーマイト、マグネシア、およびチタニアからなる群から選択される少なくとも1種の材料からなる、請求項1〜4の何れか一つに記載の非水電解質二次電池。
【請求項6】
前記バインダは、水に分散または溶解するポリマーからなる、請求項1〜5のいずれか一つに記載の非水電解質二次電池。
【請求項7】
請求項1〜6の何れか一つに記載の非水電解質二次電池の製造方法であって:
樹脂シートの一方の面に、無機材料からなるフィラーとバインダとを含むフィラー層を積層してセパレータシートを形成する工程;
前記フィラー層を含む前記セパレータシートをロール状に巻き取ってセパレータロールを形成する工程;および、
前記セパレータロールから引き出された前記セパレータシートを用いて捲回電極体を構築する工程;
を包含し、
前記フィラー層を含む前記セパレータシートをロール状に巻き取って前記セパレータロールを形成する際、該セパレータシートのフィラー層側の面が前記セパレータロールの内周側を向くように巻き取ることを特徴とする、非水電解質二次電池の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−182084(P2012−182084A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−45550(P2011−45550)
【出願日】平成23年3月2日(2011.3.2)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】