説明

非水電解質電池の製造方法、および非水電解質電池

【課題】従来よりも確実に短絡を防止できる非水電解質電池を作製することができる非水電解質電池の製造方法を提供する。
【解決手段】以下の工程α〜γに従って非水電解質電池100を作製する。正極活物質層12を有する正極体を作製する工程α。正極体の上に、アモルファスの固体電解質の粉末を配置し、その固体電解質のガラス転移温度超、結晶化温度未満に加熱した金型でその粉末を加圧成形することで、固体電解質層(SE層3)の一部となる第一固体層31を形成する工程β。第一固体層31の上に、気相法によって固体電解質からなる第二固体層32を形成することで、これら第一固体層31と第二固体層32とからなるSE層3を形成する工程γ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、正極活物質層、負極活物質層、およびこれら活物質層の間に介在される固体電解質層を備える非水電解質電池に関するものである。特に、本発明は、繰り返し充放電しても短絡が生じ難い非水電解質電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
充放電を繰り返すことを前提とした電源として、正極層と負極層とこれら電極層の間に配される電解質層とを備える非水電解質電池が利用されている。この電池に備わる電極層はさらに、集電機能を有する集電体と、活物質を含む活物質層とを備える。このような非水電解質電池のなかでも特に、正・負極体間のLiイオンの移動により充放電を行なう非水電解質電池は、小型でありながら高い放電容量を備える。
【0003】
上述した非水電解質電池において、デンドライトに起因する正・負極間の短絡を抑制するために、電解質層を固体とすることが提案されている。デンドライトは、電池の充放電に伴って負極活物質層の表面に生成する針状のLiの結晶である。このデンドライトの成長をより効果的に抑制する技術として、例えば特許文献1には、固体電解質層をさらに粉末成形体部と表面蒸着膜の2層構造とする技術が開示されている。固体電解質粉末を加圧成形した粉末成形体部は、その内部にデンドライトの成長経路となる空隙ができ易いという欠点がある。しかし、粉末成形体部は割れ難いため、割れによる新たなデンドライトの成長経路が形成され難いという利点がある。一方、気相形成した表面蒸着膜は、緻密であるためデンドライトの成長経路となる空隙を殆ど有さないという利点があるものの、緻密であるが故に割れ易いため、形成後にデンドライトの成長経路ができる可能性があるという欠点がある。これら粉末成形体部と表面蒸着膜とを備える特許文献1の非水電解質電池では、粉末成形体部の欠点を表面蒸着膜の利点でカバーし、表面蒸着膜の欠点を粉末成形体部の利点でカバーすることで、デンドライトの成長を抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−301959号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の技術ではデンドライトの成長を十分に抑制できない場合があった。粉末成形体部の上に表面蒸着膜を形成するときに、粉末成形体部の表面があまりに粗いと、その表面の欠陥を表面蒸着膜で埋めきれない場合があるからである。また、粉末成形体部の表面が粗いと、表面蒸着膜が異常成長し、表面蒸着膜にピンホールなどの欠陥が生じる恐れもある。そうなると、粉末成形体部の欠点を表面蒸着膜で補うことができなくなり、短絡を抑制する効果も減少する。さらに、粉末成形体部の表面が粗いことで、その表面に形成される表面蒸着膜の表面も粗くなると、これら粉末成形体部および表面蒸着膜からなる固体電解質層と、負極活物質層との間に隙間が形成される恐れがある。当該隙間は、短絡の原因となるデンドライトの成長起点となり易い。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的の一つは、従来よりも確実に短絡を防止できる非水電解質電池を作製することができる非水電解質電池の製造方法を提供することにある。また、本発明の別の目的は、本発明非水電解質電池の製造方法により得られた非水電解質電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らが上記課題を鋭意検討した結果、固体電解質粉末を構成する固体電解質粒子が結晶質であることが、粉末成形体部の表面が粗くなる原因であることが分かった。結晶質の固体電解質粒子は塑性変形し難いため、各粒子の粒径や形状が当該表面に反映され易いからである。この知見に基づいて、本発明者らは、固体電解質層を形成するにあたり、塑性変形性に優れるアモルファスの固体電解質粉末を使用すると共に、粉末を加圧成形する際に特定範囲の温度条件で熱処理を施すことを提案する。
【0008】
(1)本発明非水電解質電池の製造方法は、正極活物質層と、負極活物質層と、これら活物質層の間に配される固体電解質層を備える非水電解質電池を製造する非水電解質電池の製造方法であって、以下の工程α〜γを備えることを特徴とする。
[工程α]…正極活物質層を有する正極体を作製する。
[工程β]…正極体の上に、アモルファスの固体電解質の粉末を配置し、その固体電解質のガラス転移温度超、結晶化温度未満に加熱した金型でその粉末を加圧成形することで、固体電解質層の一部となる第一固体層を形成する。
[工程γ]…第一固体層の上に、気相法によって固体電解質からなる第二固体層を形成することで、これら第一固体層と第二固体層とからなる固体電解質層を形成する。
【0009】
上記構成によれば、塑性変形性に優れるアモルファスの固体電解質粉末を加圧成形することで、表面が滑らかな第一固体層を形成することができる。また、その加圧成形の際に当該粉末を加圧する金型をガラス転移温度超、結晶化温度未満に加熱することで、当該粉末が過冷却状態(融液状態)となるため、粉末の塑性変形と相まって第一固体層の表面が滑らかに仕上がる(最大高さRz(JIS B0601);0.2〜0.35μm前後)。そして、表面が滑らかな第一固体層の上に第二固体層を形成すれば、ピンホールなどの欠陥が殆どなく、表面が滑らかな第二固体層を形成することができる(Rz;0.1μm以下)。その結果、短絡を効果的に防止できる固体電解質層を備える非水電解質電池とすることができる。
【0010】
なお、固体電解質層全体を気相法により形成しても、その固体電解質層の表面を、本発明の第二固体層の表面よりも滑らかにすることは難しい。気相法で固体電解質層を厚膜化すると、スプラッシュや異常成長によって固体電解質層の表面が粗くなる傾向にあるからである。具体的には、気相法のみで非水電解質電池に必要な厚さの固体電解質層を形成すれば、その表面のRzは0.5μm程度が限界である。
【0011】
(2)本発明非水電解質電池の製造方法の一形態として、粉末を加圧成形する時間は、1〜12時間であることが好ましい。
【0012】
加圧する時間、即ち熱処理を施す時間は、粉体を過冷却状態とするために重要な要件である。加圧時間を1時間以上とすることで、第一固体層の表面全体にわたって固体電解質の粉末を十分に過冷却状態とすることができ、第一固体層の表面を滑らかにすることができる。また、加圧時間を12時間以下とすることで、電池の生産性が低下することを抑制できる。電池の生産性をより向上させることを考慮すれば、加圧時間を4時間以下とすることが好ましい。
【0013】
(3)本発明非水電解質電池の製造方法の一形態として、粉末を加圧成形する際の圧力は、360MPa以上であることが好ましい。
【0014】
加圧の圧力を360MPa以上とすることで、各粒子間の空隙を小さくでき、欠陥の少ない第一固体層を形成することができる。
【0015】
(4)本発明非水電解質電池の製造方法の一形態として、第一固体層と第二固体層を構成する固体電解質は共に、LiS−Pを含む硫化物であることが好ましい。
【0016】
上記硫化物は、高Liイオン伝導性で、かつ低電子伝導性であるため、固体電解質層を構成する固体電解質として好適である。また、硫化物の固体電解質は比較的柔らかく、塑性変形性に優れるため、加圧成形により第一固体層を形成する際、当該第一固体層に空隙などが生じ難い。
【0017】
(5)一方、本発明非水電解質電池は、正極活物質層と、負極活物質層と、これら活物質層の間に配される固体電解質層を備え、当該固体電解質層は、上記本発明非水電解質電池の製造方法により得られたことを特徴とする。
【0018】
上記構成によれば、固体電解質層にデンドライトの成長経路となり得る空隙や欠陥が殆どないため、充放電を繰り返しても短絡し難い非水電解質電池とすることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明非水電解質電池の構成によれば、充放電を繰り返しても短絡が生じ難い電池とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】実施形態に係る本発明非水電解質電池の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図に基づいて、本発明の実施の形態を説明する。
【0022】
<非水電解質電池の全体構成>
図1に示す非水電解質電池100は、正極層1、固体電解質層(SE層)3、および負極層2を備える。正極層1はさらに正極集電体11と正極活物質層12を、負極層2はさらに負極集電体21と負極活物質層22とを備える。また、SE層3はさらに、粉末成形により形成された第一固体層31と、気相法により形成された第二固体層32とを備える。このような電池100は、以下に示す非水電解質電池の製造方法により製造することができる。
【0023】
<非水電解質電池の製造方法>
非水電解質電池の製造方法は次の工程を備える。
(A)正極活物質層12を有する正極体(正極層1)を作製する。
(B)正極体の上に、アモルファスの固体電解質粉末を加圧成形することで第一固体層31を形成する。
(C)第一固体層31の上に、気相法により第二固体層32を形成する。
(D)第二固体層32の上に負極層2を形成する。
※ 後述するように、工程Aと工程Bは同時に行うこともできる。
【0024】
≪工程A:正極層の作製≫
正極体の作製は、[1]工程Bの第一固体層31の形成に先立って行っても良いし、[2]後述する工程Bと同時に行っても良い。この工程Aの項では上記[1]について説明し、上記[2]については後述する工程Bの項目で説明する。
【0025】
正極体は、正極活物質層12のみで構成されていても良いし、正極集電体11と正極活物質層12とで構成されていても良い。正極活物質層12のみの正極体を作製する場合、原料となる粉末(正極活物質粉末+必要に応じて固体電解質粉末)を加圧成形すれば良い。この場合、工程Bや工程Cの後など、任意のタイミングで正極集電体11を正極体に設ければ良い。
【0026】
正極集電体11と正極活物質層12とが一体となった正極体を作製するには、まず正極集電体11となる基板を用意し、次にその基板の上に残りの正極活物質層12を形成すれば良い。この場合、正極活物質層12は、原料となる粉末を加圧成形することで作製しても良いし、真空蒸着法やレーザーアブレーション法などの気相法で作製しても良い。
【0027】
上記正極集電体11としては、AlやNi、これらの合金、ステンレスなどの導電材料を用いることができる。また、正極活物質層12に用いられる正極活物質としては、層状岩塩型の結晶構造を有する物質、例えば、Liαβ(1−X)(αはCo,Ni,Mnから選択される1種、βはFe,Al,Ti,Cr,Zn,Mo,Bi,Co,Ni,Mnから選択される1種、α≠β、Xは0.5以上)で表わされる物質を挙げることができる。特に、正極活物質にはLiCoOが好ましい。その他、スピネル型の結晶構造を有する正極活物質や、オリビン型の結晶構造を有する正極活物質を用いることもできる。なお、正極活物質層12は、この層12のLiイオン伝導性を改善する電解質粒子を含有していても良いし、導電助材や結着剤を含有していても良い。
【0028】
≪工程B:第一固体層の形成≫
第一固体層31を形成するには、まず平均粒径0.5〜3μm程度のアモルファスの固体電解質粉末(粒子の集合体)を用意する。固体電解質粉末は、LPONなどの酸化物でも良いし、LiS−Pなどの硫化物でも良い。特に硫化物は、高Liイオン伝導性であるため好ましい。硫化物は、第一固体層31の耐還元性を向上させる効果のあるPなどの酸化物を含んでいても良い。
【0029】
次に、金型の内部に工程Aで作製した正極体を配置し、その正極体の上に固体電解質粉末を載せる。そして、正極体ごと固体電解質粉末を加圧して、正極体の表面に第一固体層31を形成する。加圧圧力は、360〜720MPa、加圧時間は1〜12時間とすることが好ましい。
【0030】
固体電解質粉末の加圧成形は、固体電解質のガラス転移温度超、結晶化温度未満の温度条件で行なう。例えば、LiS−P粉末の場合、そのガラス転移温度は約200℃、結晶化温度は約240℃であるので、210〜230℃の範囲で加圧成形を行なうと良い(因みに、気相法でアモルファスのLiS−P膜を形成した場合、原因は不明であるが、当該膜の結晶化温度は200℃未満となる)。このような特定範囲の温度条件下で加圧成形することで、アモルファスの固体電解質を過冷却状態(融液状態)とすることができる。その結果、出来上がる第一固体層31の表面(正極体とは反対側の表面)を滑らかにすることができる。第一固体層31の表面の滑らかさは、例えば最大高さRz(JIS B0601)で評価することができる。具体的には、Rzが0.35μm以下であれば第一固体層31の表面が滑らかであると判断できる。なお、結晶化温度未満の温度条件で作製された第一固体層31の結晶構造は、アモルファスである。
【0031】
別の第一固体層31の形成方法として、正極活物質層12の原料となる粉末と、第一固体層31の原料となる粉末を層状に金型内に充填し、それらを一度に加圧成形することが挙げられる。これにより、工程Aと工程Bとが同時に行われ、第一固体層31を備える正極体が製造される。その他、正極集電体11となる金属箔を金型内の一番底に配置しておいて、部材11,12,31が一体となったものを一度に作製しても良い。
【0032】
上記第一固体層31の厚さは、SE層3全体の厚さの90〜98%とすることが好ましい。第一固体層31の具体的な厚さは、100〜200μmとすることが好ましい。
【0033】
≪工程C:第二固体層の作製≫
第二固体層32の形成には、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、レーザーアブレーション法などの気相法を利用できる。具体的には、第一固体層31を形成した正極体を真空チャンバーの中に配置し、その真空チャンバー内で固体電解質を蒸発させ、第一固体層31の表面に第二固体層32を形成する。
【0034】
第二固体層32を構成する固体電解質は、第一固体層31と異なる種類の固体電解質で構成されていても良いが、第一固体層31と同じ種類の固体電解質で構成されていることが好ましい。両層31,32が同じ固体電解質でできていれば、SE層3のLiイオン伝導性にムラができ難い。
【0035】
気相法の条件は、第一固体層31が結晶化しない条件であれば特に限定されない。具体的には、気相法を実施する際、基板となる部材(ここでは、正極体上に第一固体層31を形成したもの)を加熱することになるが、その温度が固体電解質の結晶化温度以上とならないようにする。このような条件であれば、第一固体層31はアモルファスの状態を保ち、しかも第一固体層31の上に形成される第二固体層32もアモルファスの状態となる。ここで、第一固体層31と第二固体層32を構成する固体電解質が共通する場合、両層31,32間に実質的に界面は形成されない。
【0036】
気相法における温度以外の条件として、成膜時の成膜室雰囲気中の不純物濃度を低くすることを挙げることができる。成膜雰囲気中の不純物濃度を低くするほど、緻密な第二固体層32を形成することができる。従って、成膜開始前に成膜室の真空度を0.002Pa以下とすることが好ましい。
【0037】
第一固体層31上に形成される第二固体層32の厚さは、SE層3全体の厚さの2〜10%とすることが好ましい。第二固体層32の具体的な厚さは、5〜10μmとすることが好ましい。気相法により形成する第二固体層32の厚さを5μm以上とすることで、気相法のスムージング効果により、第一固体層31よりもRzの小さな第二固体層32を形成することができる。また、第二固体層32の厚さを10μm以下とすることで、スプラッシュや異常成長の可能性を抑制し、Rzの小さな第二固体層32を形成することができる。
【0038】
≪工程D:負極層2の作製≫
負極層2を形成するには、部材11,12,31,32を備える積層体の上に、順次、負極活物質層22と負極集電体21を積層すれば良い。例えば、積層体の第二固体層32上に気相法により負極活物質層22を成膜し、その負極活物質層22の上に、金属箔からなる負極集電体21を貼り合せると良い。
【0039】
負極活物質層22に用いられる負極活物質としては、C、Si、Ge、Sn、Al、Li合金、又はLiTi12などのLiを含む酸化物を利用することができる。負極活物質層22は、電解質粒子や導電助材、結着剤などを含んでいても良い。また、負極集電体21としては、Cu、Ni、Fe、Cr、及びこれらの合金(例えば、ステンレスなど)などの導電材料を好適に利用できる。
【0040】
≪非水電解質電池の効果≫
以上説明した工程を経て得られた非水電解質電池100は、従来構成の電池(粉末成形体部と表面蒸着膜とを備える電池)よりも短絡が生じ難い。それは、粉末を加圧成形することで第一固体層31を形成する際、特定範囲の温度条件で熱処理を施すことで、第一固体層31の表面を滑らかにすることができ、その結果として、第一固体層31の上に気相法で形成される第二固体層32にピンホールなどの欠陥が殆ど生じなくなるからである。また、滑らかな表面の第一固体層31上に気相法で第二固体層32を形成すれば、その第二固体層32の表面も滑らかになるため、第一固体層31および第二固体層32からなるSE層3と負極活物質層22との間にデンドライトの成長起点となる隙間が形成され難くなることも、非水電解質電池100に短絡が生じ難い原因と考えられる。
【0041】
(実施例)
図1の構成を備える非水電解質電池100(試料1〜11)を実際に作製した。各試料は、SE層3の形成条件が異なる以外、共通である。共通する部分は以下の通りである。
正極集電体11…Al板
正極活物質層12…LiCoO:LiS−P:アセチレンブラック:VT470(ダイキン工業株式会社製の正極用バインダ)=44:48:2:6(体積%);厚み100μm
負極集電体21…SUS板
負極活物質層22…金属Li;厚み1.0μm
【0042】
一方、各試料のSE層3は、次のようにして形成した。まず、平均粒径5μmの結晶質の固体電解質粉末(LiS−P)と、同じく平均粒径3μmのアモルファスの固体電解質粉末(LiS−P)を用意した。そして、用意した固体電解質粉末のいずれか一方を正極層1の上に配置し、ホットプレス(加圧成形)によって正極層1上に平均厚さ100μmの第一固体層31を形成した。各試料で使用した粉末の種類、およびホットプレスの圧力(MPa)、プレス金型の温度(℃)、時間(h)は、表1に示す。
【0043】
異なる条件で形成された第一固体層31上に、気相蒸着法で厚さ約5μmの第二固体層32を形成した。気相蒸着法の条件は各試料で共通であり、形成される第二固体層32はアモルファスであった。気相蒸着法の条件は以下の通りである。
ターゲット…LiS−Pのペレット
雰囲気圧力…0.01Pa
【0044】
作製した各試料について、第一固体層31を形成した時点での第一固体層31の表面状態、第二固体層32を形成した時点での第二固体層32の表面状態、第一固体層31上に第二固体層32を形成した時点での第一固体層31と第二固体層32との粒界の有無を調べた。表面状態は、レーザー顕微鏡にて第一固体層31(第二固体層32)の表面における任意の五つの領域(300×300μm)での最大高さRzを測定し、その平均値で評価した。また、粒界の有無は、試料をSEM観察したときに目視にて確認した。その結果を表1に示す。
【0045】
【表1】

【0046】
表1に示すように、アモルファスの固体電解質粉末を使用し、かつ加圧成形時の温度が200℃(ガラス転移温度)超、240℃(結晶化温度)未満の範囲にある試料5,6の第一固体層31は、Rzが0.35μm以下の滑らかな表面を有していた。そのため、第一固体層31の上に、ピンホールなどの欠陥が殆どなく、Rzが0.1μm以下の第二固体層32を形成できた。また、第一固体層31と第二固体層32との間に粒界が認められなかった。
【0047】
また、試料5,6と同様に、加圧成形時の温度が200℃超、240℃未満の範囲にある試料8〜11の第一固体層31のRzは0.35μm以下であった。そのため、測定していないが、試料5,6の結果から推察するに、第一固体層31の上に形成した第二固体層32の表面も滑らか(Rzが0.1μm以下)であると予想される。
【0048】
一方、試料1,2は、結晶質の固体電解質粉末を利用しているため、加圧成形時に210℃の熱処理を施しても粉末を構成する粒子の形状が維持されるため、第一固体層31の表面が粗くなっていた(Rz=0.64μm,0.55μm>0.35μm)。また、第一固体層31の表面の粗さを反映して、第二固体層32の表面も粗くなっていた(Rz≧0.5)。
【0049】
試料3,4は、アモルファスの固体電解質粉末を使用しているものの、熱処理温度がガラス転移温度を下回っているため、粉末を構成する粒子の形状が維持され、第一固体層31の表面が粗くなっていた(Rz=0.68μm,0.50μm>0.35μm)。また、第一固体層31の表面の粗さを反映して、第二固体層32の表面も粗くなっていた(Rz≧0.43μm)。
【0050】
試料7は、アモルファスの固体電解質粉末を使用しているものの、熱処理温度が結晶化温度を上回っているため、粉末を構成する粒子が融液状態となって第一固体層31が平坦になる前に、粒子の形状が維持された状態で粒子が結晶化する。そのため、第一固体層31の表面が粗くなっていた(Rz=2.24μm>0.35μm)。しかも、試料7の第一固体層31にはクラックが生じていた。なお、第二固体層32のRzは測定していないが、試料3,4の結果を考慮すれば、1.0μmを大きく超えると予想される。
【0051】
以上のようにして作製した非水電解質電池をコインセルに仕込んで、カットオフ電圧3.0V−4.1V、0.2Cの条件で30サイクルの充放電試験を行ったところ、試料5,6,8〜11の非水電解質電池は、全サイクルを通じて充電終止電圧の4.2Vまで充電することができた。一方、試料1〜4,7の非水電解質電池は全て、30サイクルに満たないうちに短絡した。
【0052】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるわけではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明の非水電解質電池は、充放電を繰り返すことを前提とした電気機器の電源、例えば各種電子機器の電源に好適に利用できる他、ハイブリッド自動車、電気自動車の電源としての利用も期待できる。
【符号の説明】
【0054】
100 非水電解質電池
1 正極層 11 正極集電体 12 正極活物質層
2 負極層 21 負極集電体 22 負極活物質層
3 固体電解質層(SE層) 31 第一固体層 32 第二固体層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極活物質層と、負極活物質層と、これら活物質層の間に配される固体電解質層を備える非水電解質電池を製造する非水電解質電池の製造方法であって、
前記正極活物質層を有する正極体を作製する工程αと、
前記正極体の上に、アモルファスの固体電解質の粉末を配置し、その固体電解質のガラス転移温度超、結晶化温度未満に加熱した金型でその粉末を加圧成形することで、前記固体電解質層の一部となる第一固体層を形成する工程βと、
前記第一固体層の上に、気相法によって固体電解質からなる第二固体層を形成することで、これら第一固体層と第二固体層とからなる前記固体電解質層を形成する工程γと、
を備えることを特徴とする非水電解質電池の製造方法。
【請求項2】
前記加圧成形の時間は、1〜12時間であることを特徴とする請求項1に記載の非水電解質電池の製造方法。
【請求項3】
前記加圧成形の圧力は、360MPa以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の非水電解質電池の製造方法。
【請求項4】
前記第一固体層と第二固体層を構成する固体電解質は共に、LiS−Pを含む硫化物であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の非水電解質電池の製造方法。
【請求項5】
正極活物質層と、負極活物質層と、これら活物質層の間に配される固体電解質層を備える非水電解質電池であって、
前記固体電解質層は、請求項1〜4のいずれか一項に記載の非水電解質電池の製造方法により得られたことを特徴とする非水電解質電池。

【図1】
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【公開番号】特開2013−89470(P2013−89470A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−229292(P2011−229292)
【出願日】平成23年10月18日(2011.10.18)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】