説明

非水電解質電池用電極シート及びその製造方法並びにそれを用いた非水電解質二次電池

【課題】耐熱性及び難燃性に優れ、更に製造装置等の磨耗を防ぐことができる、耐熱難燃層一体型の非水電解質電池用電極シートを提供すること。
【解決手段】正極活物質又は負極活物質を含む活物質層と、この活物質層の上に積層された耐熱性高分子を含む耐熱性多孔質層とを備えた非水電解質電池用電極シートであって、前記耐熱性多孔質層に、200℃〜700℃の温度で脱水反応を生じる水酸基を含む金属化合物からなる無機フィラーが含まれていることを特徴とする非水電解質電池用電極シート。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性高分子を含む耐熱性多孔質層を有する非水電解質電池用電極シート及びその製造方法、並びにそれを用いた非水電解質二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池等の非水電解質電池は、一般に、正極活物質から構成された正極と、負極活物質から構成された負極と、これらの間に介在するシート状セパレータとを備えている。シート状セパレータは、正極と負極とを電子的に絶縁し、更に電解液を保持する役目を果たす。例えば、従来のリチウムイオン二次電池には、ポリオレフィンの微多孔膜がシート状セパレータとして多用されている。そして、ポリオレフィン樹脂にショート防止のために酸化チタン、酸化アルミニウム、チタン酸カリウム等の無機粉体を含有させたシート状セパレータや(特許文献1)、シリカ、アルミナ、チタニア、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム等の固体微粒子を含む多孔質複合セパレータも提案されている(特許文献2)。また、耐熱性の芳香族ポリアミドの多孔膜を用い、これにホウ酸アルミニウム、チタン酸カリウム、炭化ケイ素等の無機ウイスカーを添加混合した耐熱性のセパレータも知られている(特許文献3)。
【0003】
一方、二次電池、特にリチウムイオン二次電池は、高容量化が進む中、応用分野が拡大しており、セパレータの更なる安全性の向上が望まれている。しかし、セパレータが電極又は電極シートと別体の構成の場合には、その製造工程が煩雑になるという欠点がある。そこで従来、例えば、耐熱性樹脂と無機フィラーからなる層を、電極シート上に直接形成する技術が提案されている。例えば、過充電時の熱的安定性を考慮して、正極活物質層又は負極活物質層の表面に、不織布とアルミナ粉末、シリカ粉末、ポリエチレン樹脂等の絶縁性微粒子からなる多孔性保護膜を形成させたもの(特許文献4)や、酸化チタン、酸化アルミ、酸化亜鉛、酸化ケイ素等の無機酸化物フィラーを含む多孔膜を設けたものも提案されている(特許文献5、特許文献6)。
【0004】
しかし、非水電解質電池、例えば、非水系二次電池の安全性を確保するためには耐熱性は重要な要素であるが、それだけでは不十分で、発火という観点に立てば、更に難燃性を有することも重要である。ところが、上述の特許文献に記載されているような金属酸化物からなる無機フィラーを多孔膜に添加混合しても、電極又は電極シートの難燃性という観点においては殆ど効果が見られない。更に、金属酸化物等を添加混合した電極シートは、金属酸化物粒子が一般的に硬いため、電池の組み上げの際に使用する装置の磨耗が顕著であるといった問題がある。装置が磨耗した場合、セパレータに金属粉等が付着してしまい、これが電池性能を低下させてしまう原因にもなりかねない。
【0005】
【特許文献1】特開平10−50287号公報
【特許文献2】特開平10−106530号公報
【特許文献3】国際公開第01/19906号パンフレット
【特許文献4】特開平7−220759号公報
【特許文献5】特開2006−12788号公報
【特許文献6】国際公開第05/78828号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで本発明は、耐熱性及び難燃性に優れ、更に製造装置等の磨耗を防ぐことができる、耐熱難燃層一体型の非水電解質電池用電極シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は以下の構成を採用する。
(1)正極活物質又は負極活物質を含む活物質層と、この活物質層の上に積層された耐熱性高分子を含む耐熱性多孔質層とを備えた非水電解質電池用電極シートであって、前記耐熱性多孔質層に、200℃〜700℃の温度で脱水反応を生じる水酸基を含む金属化合物からなる無機フィラーが含まれていることを特徴とする非水電解質電池用電極シート。
(2)前記金属化合物は、水酸化アルミニウム、ベーマイト、ダイスポア、水酸化マグネシウム又はこれらの二種以上の混合物であることを特徴とする上記(1)記載の非水電解質電池用電極シート。
(3)前記無機フィラーは、以下の(a)及び(b)式を満足することを特徴とする上記(1)又は(2)記載の非水電解質電池用電極シート。
(a)0.01≦d50≦20(μm)
(b)0<α≦2
(但し、d50は、レーザー回折式における粒度分布において、小さな粒子側から起算した重量累計50重量%の平均粒子直径(μm)を表す。αは、無機フィラーの均一性を示し、α=(d90−d10)/d50で表される。ここで、d90は、レーザー回折式における粒度分布において、小さな粒子側から起算した重量累計90重量%の平均粒子直径(μm)を表し、d10は、レーザー回折式における粒度分布において、小さな粒子側から起算した重量累計10重量%の平均粒子直径(μm)を表す。)
(4)前記耐熱性多孔質膜において、前記無機フィラーは重量分率で50重量%以上95重量%以下含まれていることを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれかに記載の非水電解質電池用電極シート。
(5)前記耐熱性高分子が、芳香族ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルイミドからなる群から選ばれる1種又は2種以上の混合物であることを特徴とする上記(1)〜(4)のいずれかに記載の非水電解質電池用電極シート。
(6)前記耐熱性多孔質膜に、熱可塑性樹脂からなる有機フィラーが含まれていることを特徴とする前記(1)〜(5)のいずれかに記載の非水電解質電池用電極シート。
(7)正極活物質又は負極活物質を含む活物質層と、この活物質層の上に積層された耐熱性高分子を含む耐熱性多孔質層とを備えた非水電解質電池用電極シートの製造方法であって、(i)前記活物質層が形成されたシートの当該活物質層上に、前記耐熱性高分子と、有機溶剤と、200℃〜700℃の温度で脱水反応を生じる水酸基を含む金属化合物からなる無機フィラーとを含むスラリーを塗工する工程と、(ii)塗工されたシートを乾燥させ、前記有機溶剤を除去し耐熱性多孔質層を形成させる工程と、を実施することを特徴とする非水電解質電池用電極シートの製造方法。
(8)正極活物質又は負極活物質を含む活物質層と、この活物質層の上に積層された耐熱性高分子を含む耐熱性多孔質層とを備えた非水電解質電池用電極シートの製造方法であって、(i)前記活物質層が形成されたシートの当該活物質層上に、前記耐熱性高分子と、水溶性有機溶剤と、200℃〜700℃の温度で脱水反応を生じる水酸基を含む金属化合物からなる無機フィラーとを含むスラリーを塗工する工程と、(ii)塗工されたシートを、水又は水と前記有機溶剤の混合液からなる凝固液中に浸漬し、前記耐熱性高分子を凝固させ耐熱性多孔質層を形成させる工程と、(iii)シート上に形成された耐熱性多孔質層を水洗及び乾燥する工程と、を実施することを特徴とする非水電解質電池用電極シートの製造方法。
(9)リチウムのドープ・脱ドープにより起電力を得る非水電解質二次電池であって、前記(1)〜(8)のいずれかに記載の電極シートを用いたことを特徴とする非水電解質二次電池。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、従来にはない耐熱性、難燃性および磨耗特性のいずれにも優れた非水電解質電池用電極シートが提供され、リチウムイオン二次電池等の非水電解質電池の安全性及び耐久性を向上させるのに有効である。また、本発明の電極シートを用いると、電池の組み立て時に製造装置などを傷つけるおそれが非常に少なくなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
[非水電解質電池用電極シート]
本発明は、正極活物質又は負極活物質を含む活物質層と、この活物質層の上に積層された耐熱性高分子を含む耐熱性多孔質層とを備えた非水電解質電池用電極シートであって、前記耐熱性多孔質層に、200℃〜700℃の温度で脱水反応を生じる水酸基を含む金属化合物からなる無機フィラーが含まれているものである。
【0010】
一般に非水電解質電池、例えば二次電池は、負極と正極がセパレータを介して対向している電池要素に電解液が含浸され、これが外装に封入された構造となっているものをいう。負極は、負極活物質、導電助剤、バインダーからなる負極合剤(活物質層)が集電体(銅箔、ステンレス箔、ニッケル箔等)上に成形された構造となっている。負極活物質としては、リチウムを電気化学的にドープすることが可能な材料、例えば、炭素材料、シリコン、アルミニウム、スズが用いられる。正極は、正極活物質、導電助剤、バインダーからなる正極合剤(活物質層)が集電体上に成形された構造となっている。正極活物質としては、リチウム含有遷移金属酸化物、例えば、LiCoO、LiNiO、LiMn0.5Ni0.5、LiCo1/3Ni1/3Mn1/3、LiMn、LiFePOが用いられる。本発明において非水電解質電池用電極シートとは、前記活物質層の上に積層された耐熱性高分子を含む耐熱性多孔質層とからなるシート状の電極(単に電極という場合もある)を意味する。
【0011】
本発明で用いられる耐熱性高分子は、融点200℃以上のポリマーあるいは融点を有しないが分解温度が200℃以上のポリマーが適当であり、好ましくは、芳香族ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルイミドからなる群から選ばれる1種又は2種以上ものである。特に、耐久性の観点から全芳香族ポリアミドが好適であり、多孔質膜又は多孔質層を形成し易く耐酸化還元性に優れるという観点から、メタ型全芳香族ポリアミドであるポリメタフェニレンイソフタルアミドが更に好適である。かかる耐熱性高分子にて形成される耐熱性多孔質層とは、内部に多数の微細孔を有し、これら微細孔が連結された構造となっており、一方の面から他方の面へと気体あるいは液体が通過可能となった膜又は層を意味する。該耐熱性多孔質層の空孔率は、60〜90%の範囲が好適である。該耐熱性多孔質層の空孔率が90%を超えると、耐熱性が不十分となる傾向にあり好ましくない。また、60%より低いと、サイクル特性や保存特性、放電性が低下する傾向となり好ましくない。なお、耐熱性多孔質層は、主として、即ち、約90重量%以上が耐熱性高分子からなるものであれば良く、約10重量%以下の、電池特性に影響を与えない他の成分を含んでいても良い。
【0012】
本発明では、無機フィラーとして200℃以上700℃以下の温度で脱水反応が生じる水酸基を含む金属化合物を用いることが大きな特徴である。かかる水酸基を含む金属化合物を用いることで、耐熱性多孔質層を難燃化させ、電池全体の安全性を著しく高めることが可能となる。具体的には、水酸基を含む金属化合物を加熱すると脱水反応が起こり酸化物となり、水が放出される。更に、この脱水反応は大きな吸熱を伴う反応である。この脱水反応時に水を放出することと、この反応の吸熱により、難燃効果が得られる。また、水を放出するため可燃性である電解液を水で希釈し、耐熱性多孔質層だけでなく電解液にも効果があり、電池そのものを難燃化する上で有効である。更に、水酸基を含む金属化合物は、アルミナのような金属酸化物と比較して軟らかいため、従来の電極シートにあるような問題、即ち、耐熱性多孔質層に含まれる無機フィラーによって、製造時の各工程にて使用する部品が磨耗してしまうといったハンドリング性に関する問題が発生しない。
【0013】
200℃〜700℃の温度、好ましくは200℃〜400℃の温度、さらに好ましくは250℃〜350℃の温度に加熱したときに脱水反応を生じる水酸基を含む金属化合物としては、例えば、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化クロム、水酸化ジルコニウム、水酸化ニッケル、水酸化ホウ素、ベーマイト、ダイスポア等、若しくはこれらの2種以上の組合せが挙げられる。特に好ましいのは、水酸化アルミニウム、ベーマイト、ダイスポア、水酸化マグネシウム又はこれらの二種以上の混合物である。なお、水酸化アルミニウムとしては、ギブサイト組成、バイヤライト組成およびこれらの混合組成を有したものが好適であるが、中でもギブサイト組成を有したものが好ましい。
【0014】
非水電解質二次電池では、正極の分解に伴う発熱が最も危険と考えられており、この分解は200℃以上で起こる。故に、水酸基を含む金属化合物の脱水反応の発生温度が、200℃以上の範囲であれば、非水電解質二次電池の発熱を防ぐ上で好ましい。なお、200℃以上においては、負極はほぼ活性を失っているので、生成した水と反応し発熱反応を引き起こすことはなく安全である。また、水酸基を含む金属化合物の発熱反応温度が700℃を超える場合、非水電解質二次電池の発熱の防止は実質的に意味が無いので好ましくない。この点、水酸化アルミニウムは250〜300℃の温度範囲で脱水反応が起こり、水酸化マグネシウムは350〜400℃、ベーマイトは400℃〜600℃、ダイスポアは450〜650℃の温度範囲で脱水反応が起こるため、本発明ではこれらの化合物の少なくともいずれか一つを用いることが好ましいのである。
【0015】
本発明の脱水反応の発生温度は、加熱重量減分析測定(TGA)における重量減発生温度などから求めることが出来る。
なお、非水電解質二次電池において、フッ酸は正極活物質を侵し耐久性を低下させる要因となっているが、水酸化アルミニウムや水酸化マグネシウムはフッ酸を吸着・共沈させる機能があるため、電解液中のフッ酸濃度を低いレベルに維持することが可能であり、本発明の非水電解質電池用電極シートを用いることで、非水電解質二次電池のサイクル特性を改善することも可能となる。このような観点からも、無機フィラーとして水酸化アルミニウムや水酸化マグネシウムは特に好ましい。
【0016】
本発明において、前記金属水酸化物からなる無機フィラーは、以下の(a)及び(b)式を満足するものであるのが好ましい。
(a)0.01≦d50≦20(μm)
(b)0<α≦2
但し、d50は、レーザー回折式における粒度分布において、小さな粒子側から起算した重量累計50重量%の平均粒子直径(μm)を表す。αは、無機フィラーの均一性を示し、α=(d90−d10)/d50で表される。ここで、d90は、レーザー回折式における粒度分布において、小さな粒子側から起算した重量累計90重量%の平均粒子直径(μm)を表し、d10は、レーザー回折式における粒度分布において、小さな粒子側から起算した重量累計10重量%の平均粒子直径(μm)を表す。
【0017】
上記のような粒度分布の範囲内であれば、大小異なる粒子径の無機フィラーが耐熱性多孔質層中に入っているので、無機フィラーの充填密度が高くなり、難燃性等の効果がより顕著に得られるようになる。また、径が小さい粒子は孔形成に寄与し、径が大きい粒子は耐熱性多孔質層の表面に出現し、すべり性が向上するといった効果も得られる。なお、d50の値が、0.01μm未満だと、耐熱性多孔質層を形成するときのスラリーの分散性が悪いため塗工性が悪く、微細孔を均一に作成することができない場合がある。20μmを超えると、フィラー径が耐熱性多孔質層の厚さに近くなってしまい、スラリーからの製膜性が良好でなくなり、筋もでき易く、薄く塗りにくいので不適当である。また、αが0であると均一粒径となってしまい、上述した充填密度の向上等の効果が得られない。αが2を超えると、粗大あるいは極小の粒子が含まれてしまう場合があり、スラリーの塗工性が悪くなる場合がある。
【0018】
本発明においては、前記耐熱性多孔質層において、前記無機フィラーの重量分率が50〜95重量%であることが好ましく、特に70〜85重量%であることが好ましい。無機フィラーの重量分率が50%より低いと、高温における寸法安定性といった耐熱性にかかわる特性が不十分となる。また、95重量%より高いと、該耐熱性多孔質層の強度が不足し粉落ちの問題からハンドリング性が不良となったり、成形性が悪くなるなどの不具合が生じ好ましくない。無機フィラーの量が50〜95重量%の範囲であると、無機フィラーは耐熱性高分子と十分になじみ、分散性も良い。
【0019】
なお、本発明においては、耐熱性多孔質層に含まれる無機フィラーは、主として、具体的には約90重量%以上が、水酸基を含む金属化合物からなるものであれば良く、約10重量%以下の他の無機フィラーが含まれていても良い。かかる他の無機フィラーとしては、アルミナ、チタニア、シリカ、ジルコニアなどの酸化物、炭酸塩、リン酸塩などが挙げられる。
【0020】
本発明においては、前記耐熱性多孔質層に、熱可塑性樹脂からなる有機フィラーが含まれているか、あるいは、前記耐熱性多孔質層の表面上に当該有機フィラーが層状に形成されていても良い。熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)やポリブチレンテレフタレート(PBT)等のポリエステル、脂肪族ポリアミド、ポリプロピレン(PP)やポリエチレン(PE)等のポリオレフィンを挙げることができ、これらは単独で用いることもできるし、これらを混合して用いてもよい。この中でも、電池が異常発熱した場合、融解熱により熱を奪い発熱を抑制する効果が優れていること、また、場合によっては、溶融した熱可塑性樹脂が耐熱性多孔質層の孔を塞いでイオンの移動を防ぐ、いわゆるシャットダウン機能が発現され、電池の更なる発熱を防止することができる点で、PETとPEが好適である。
【0021】
本発明において前記熱可塑性樹脂からなる有機フィラーの形状は特に限定されるものではなく、例えば、微粒子状や繊維状のフィラーとして用いることができる。特に微粒子状のものが好適であり、微粒子の粒径は0.1〜5μmの範囲が好ましい。
【0022】
本発明の耐熱性多孔質層は、厚さが1〜50μmであるのが好ましく、更に好ましくは5〜30μmである。厚さが50μmを超えると、電池用電極シートとして用いたときに電池容量密度が不十分となったり、イオン伝導度、充電効率が低下することがある。一方、厚さが1μm未満であると、耐熱性や難燃性、サイクル特性が不十分であることがある。この厚さは、2〜6μmであるのが更に好ましい。本発明の電極シートは、全体の厚さが10〜150μmあるのが好ましく、更に好ましくは14〜80μmである。
【0023】
[非水電解質電池用電極シートの製造方法]
本発明の非水電解質電池用電極シートの製造方法は特に限定されないが、好ましい製造方法の一つ(第一の製造方法)は、以下の(i)〜(ii)の工程によって製造する方法である。(i)正極活物質又は負極活物質を含む活物質層が形成されたシートの当該活物質層上に、耐熱性高分子と、水溶性有機溶剤と、200℃〜700℃の温度で脱水反応を生じる金属水酸化物からなる無機フィラーとを含むドープを塗工する工程と、(ii)塗工されたシートを乾燥させ、前記水溶性有機溶剤を除去し耐熱性多孔質層を形成させる工程と、を実施することを特徴とする非水電解質電池用電極シートの製造方法である。
【0024】
そして、もう一つの好ましい製造方法(第二の製造方法)は、(i)正極活物質又は負極活物質を含む活物質層が形成されたシートの当該活物質層上に、耐熱性高分子と、水溶性有機溶剤と、200℃〜700℃の温度で脱水反応を生じる金属水酸化物からなる無機フィラーとを含むドープを塗工する工程と、(ii)塗工されたシートを、水又は水と前記有機溶剤の混合液からなる凝固液中に浸漬し、前記耐熱性高分子を凝固させ耐熱性多孔質層を形成させる工程と、(iii)シート上に形成された耐熱性多孔質層を水洗及び乾燥する工程と、を実施することを特徴とする非水電解質電池用電極シートの製造方法である。
【0025】
前記塗工工程(工程(i))においては、前記したような耐熱性高分子(約10重量%以下の耐熱性高分子以外のポリマーを含んでいても良い)を、N−メチルピロリドン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド等の水溶性有機溶剤に溶解し、得られた溶液に、前記したような200℃〜700℃の温度で脱水反応を生じる金属水酸化物からなる無機フィラーを分散させてスラリー(ドープ)を作成し、これを正極活物質又は負極活物質を含む活物質層が形成されたシートの当該活物質層上に公知の手段・方法で塗工する。
【0026】
非水電解質二次電池の場合、通常、リチウム含有遷移金属酸化物等の正極活物質、アセチレンブラック等の導電助剤、ポリフッ化ビニリデン等のバインダーからなる正極合剤を、N−メチル−2ピロリドン等の溶媒を用いて混練しスラリーを作製し、得られたスラリーをアルミ箔等の上に塗布し、乾燥し、その後プレスして、正極活物質を含む活物質層が形成されたシート(正極又は正極シート)を得る。また、炭素材料等の負極活物質、アセチレンブラック等の導電助剤、ポリフッ化ビニリデン等のバインダーからなる負極合剤を、N−メチル−2ピロリドン等の溶媒を用いて混練しスラリーを作製し、得られたスラリーを銅箔等の上に塗布し、乾燥し、その後プレスして、負極活物質を含む活物質層が形成されたシート(負極又は負極シート)を得る。本発明において、耐熱性高分子等を含むスラリーは、前記活物質層の塗布後完全に乾燥した状態で、その活物質層上に塗工してもよい。あるいは、前記活物質層の塗布後、まだ活物質層がペーストの状態となっているときに、その活物質層上に耐熱性高分子等を含むスラリーを塗工してもよい。後者の場合には、耐熱性多孔質層の乾燥又は凝固・乾燥と同時に活物質層の乾燥又は凝固・乾燥を行うことができるので、製造工程を簡略化できる利点がある。
【0027】
耐熱性高分子として、例えば、芳香族ジカルボン酸と芳香族ジアミンとから得られる芳香族ポリアミドを用いる場合には、前記工程(i)で、芳香族ジカルボン酸と芳香族ジアミンを、生成するポリアミドに対し良溶媒である有機溶媒中で反応せしめて芳香族ポリアミドを製造(溶液重合)し、直接、塗工用の溶液を製造することができる。また、例えば、ポリメタフェニレンイソフタルアミドを用いる場合には、前記工程(i)で、イソフタル酸クロライドとメタフェニレンジアミンを、生成するポリアミドに対し良溶媒でない有機溶媒、例えば、テトラハイドロフラン中で反応せしめて溶液若しくは分散液を作り、これを、炭酸ソーダ等の酸受容剤の水溶液と接触させ反応を完結せしめる、いわゆる界面重合法でポリメタフェニレンイソフタルアミドを製造するのが便利である。
【0028】
上記いずれの場合も、耐熱性高分子の水溶性有機溶剤溶液に、好ましくは、固形分全体の重量分率で50〜95重量%の主として金属水酸化物からなる無機フィラーを分散させ(約10重量%以下の金属水酸化物以外の無機フィラーが含まれていても良い)、塗工用のスラリーを作製すれば良い。無機フィラーの分散性が良好でない場合は、無機フィラーをシランカップリング剤等で表面処理し、分散性を改善する手法も適用可能である。有機フィラーを無機フィラーと共に耐熱性多孔質層中に含有させる場合には、この段階で有機フィラーをスラリーに溶解又は分散させればよい。
【0029】
無機フィラーの添加・混合方法としては、耐熱性高分子の水溶性有機溶剤溶液に無機フィラーを混合する方法であっても、水溶性有機溶剤に無機フィラーを分散させた後、これに耐熱性高分子を溶解する方法であってもよい。無機フィラーの分散は、単純な撹拌槽で実施してもよいが、ボールミルや、ビーズメディアを用いる混練機又はホモミキサー等を用いて行うのが好ましい。無機フィラーの比率が余りに大きくなると、膜の表面性が不良となることがあり、無機フィラーの比率が余りに小さいと、十分な効果が得られないことがある。重量分率で50〜95重量%の、主として金属水酸化物からなる無機フィラーを含有する耐熱性多孔質層層、例えば、ポリメタフェニレンイソフタルアミド系ポリマー多孔質層は、少なくとも一方向について200〜5000Kmの比ヤング率と10〜80%の多孔度とを有する優れた非水電解質電池電極シート用の多孔質層(膜)を与える。
【0030】
前記塗工工程において、水溶性有機溶剤に耐熱性高分子に対して貧溶剤又は非溶剤となる溶剤も一部混合して用いることもできる。このような溶剤を適用することで、ミクロ相分離構造が誘発され、耐熱性多孔質層を形成する上で多孔化が容易となる。貧溶剤又は非溶剤としては、水又はアルコールの類が好適であり、特にグリコールのような多価アルコールが好適である。
【0031】
本発明においては、塗工のためのスラリーの固形分全体の濃度は、3〜30重量%程度が好ましい。塗工する方法は、ナイフコーター法、グラビアコーター法、スクリーン印刷法、マイヤーバー法、ダイコーター法、リバースロールコーター法、インクジェット法、スプレー法、ロールコーター法などが挙げられる。塗膜を均一に塗布するという観点において、特にリバースロールコーター法が好適である。なお、塗工する際のスラリーの温度については、特に制限がないが、スラリーの粘度が1〜10,000センチポイズの間になるように選択するのが好ましく、5〜5,000センチポイズの間になるように選択するのがさらに好ましい。
【0032】
前記凝固工程((第二の製造方法の工程(ii))では、塗工されたシートを、そのまま水又は水と前記有機溶剤の混合液からなる凝固液中に浸漬し、シート上で前記耐熱性高分子を凝固させることによって、耐熱性多孔質層を形成させる。凝固液中に浸漬させる方法としては、凝固液をスプレーで吹き付ける方法や、凝固液の入った浴(凝固浴)中に浸漬する方法などが挙げられる。凝固液は、耐熱性高分子を凝固できるものであれば特に限定されないが、水又は塗工のためのスラリーに用いた有機溶剤に水を適当量混合させたものが好ましい。ここで、水の混合量は、凝固液に対して40〜80重量%が好適である。水の量が40重量%より少ないと耐熱性高分子を凝固するのに必要な時間が長くなったり、凝固が不十分になるという問題が生じる。また、80重量%より多いと溶剤回収においてコスト高となったり、凝固液と接触する表面の凝固が速すぎ表面が十分に多孔化されないという問題が生じる。凝固液中には、得られる多孔質膜の孔径を調整する目的で、金属塩を凝固浴全体に対して1〜10重量%の量で添加することもできる。かかる金属塩の具体例としては、塩化カルシウム、塩化リチウム、硝酸リチウム、塩化マグネシウム等が挙げられる。凝固液の温度は0〜98℃であるのが好ましく、より好ましくは20〜90℃である。なお、所望により、凝固処理後、得られた耐熱性多孔質層を、非溶剤を含む前記有機溶剤溶液中に浸漬処理して、結晶化を促進してもよい。
【0033】
水洗及び乾燥工程(第二の製造方法の工程(iii))は、前記凝固工程に引き続き、シート上に形成された耐熱性多孔質層を、水洗及び乾燥する工程である。先ず、耐熱性多孔質層から水洗で凝固液を除去し、次いで乾燥する。乾燥方法は特に限定されないが、乾燥温度は50〜80℃が適当であり、高い乾燥温度を適用する場合は、熱収縮による寸法変化が起こらないようにするために、ロールに接触させるような方法を適用することが好ましい。第一の製造方法の場合には、塗工工程に引き続いて、直接、前記の乾燥工程を実施すればよい。
【0034】
本発明において、耐熱性多孔質層の表面部分に有機フィラーを偏在させる態様の場合には、前記耐熱性多孔質層の凝固工程後又は凝固・水洗・乾燥後の耐熱性多孔質層の表面に、有機フィラーの溶液又は分散液を塗布する方法等で、有機フィラーが層の表面部分に偏在した非水電解質電池用電極シートが得られる。
【0035】
[非水電解質電池]
本発明の非水電解質電池用電極シートは、公知のいかなる構成の非水電解質電池にも適用することができ、安全性に優れた電池が得られる。適用される非水電解質電池は、一次電池であっても二次電池であってもよく、その種類や構成は、何ら限定されるものではないが、本発明の非水電解質電池用電極シートは、リチウムのドープ・脱ドープにより起電力を得る非水電解質二次電池に好適に応用することができる。中でも、リチウムイオン二次電池への適用が好ましい。
【0036】
一般に非水電解質二次電池とは、負極と正極がセパレータを介して対向している電池要素に電解液が含浸され、これが外装に封入された構造となっているものをいう。負極は、負極活物質、導電助剤、バインダーからなる負極合剤が集電体(銅箔、ステンレス箔、ニッケル箔等)上に成形された構造となっている。負極活物質としては、リチウムを電気化学的にドープすることが可能な材料、例えば、炭素材料、シリコン、アルミニウム、スズが用いられる。正極は、正極活物質、導電助剤、バインダーからなる正極合剤が集電体上に成形された構造となっている。正極活物質としては、リチウム含有遷移金属酸化物、例えば、LiCoO、LiNiO、LiMn0.5Ni0.5、LiCo1/3Ni1/3Mn1/3、LiMn、LiFePOが用いられる。電解液は、リチウム塩、例えば、LiPF、LiBF、LiClOを非水系溶媒に溶解した構成である。非水系溶媒としては、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、γ−ブチロラクトン、ビニレンカーボネートなどが挙げられる。外装材は金属缶またはアルミラミネートパック等が挙げられる。電池の形状は角型、円筒型、コイン型などがある。本発明の電極シートはいずれの形状においても好適に適用することが可能である。しかも、前述したごとく、本発明の電極シートを用いると、特にセパレータを用いなくても非水電解質二次電池を構成できる。
【0037】
本発明の非水電解質電池用電極シートを、前記のようなリチウムイオン二次電池に適用した場合の電池構成の例について、図1〜4に示した。図1は、活物質層の上に、無機フィラーを含む耐熱性多孔質層が積層された電極シートを、正負極として用いた構成を示している。具体的には、図1に示すリチウムイオン二次電池は、負極集電シート1上に負極活物質層2が形成された負極シート3と、正極集電シート4上に正極活物質層5が形成された正極シート6と、これらシート3,6の対向面上のそれぞれに形成された無機フィラーを含む耐熱性多孔質層7と、を備えた構造となっている。図2は、図1の耐熱性多孔質層7の中に有機フィラー8を分散させた構成を示している。図3は、図1の正極活物質層5の上に形成された耐熱性多孔質層7の上に、さらに有機フィラーを含む層9が積層された構成を示している。図4は、図1の一対の耐熱性多孔質層7の間に熱可塑性樹脂からなる多孔質膜10を配置した構成を示している。
【0038】
なお、本発明の非水電解質電池においては、正極と負極の少なくとも一方に本発明の電極シートを用いる必要があるが、両極とも本発明の電極シートを用いるのが好ましい。
また、前記正極シートと負極シートの間に、ポリオレフィン等の熱可塑性樹脂からなる多孔質膜をセパレータとして追加して用いて、電池を組み立ててもよい。この場合、例えば、電池が異常発熱して生じる高い温度で、熱可塑性樹脂が溶融又は変形して多孔質膜の孔を閉塞する、いわゆるシャットダウン機能を発現することができる。
【0039】
かかるポリオレフィン等からなる多孔質膜の製造方法としては、ポリオレフィン溶液をダイ押し出しし、これを冷却して得られるゲル状組成物を延伸により多孔質化させる方法が簡便である(例えば、特公平2−232242号公報、特公平5−56251号公報、特公平3−643344号公報等を参照)。かかる熱可塑性ポリマーの多孔質膜は、厚さが5〜50μmであるのが好ましく、更に好ましくは7〜30μmである。また、多孔度は30〜70%であるのが好ましく、更に好ましくは40〜65%である。また、熱可塑性樹脂としては、上述した熱可塑性樹脂からなる有機フィラーと同様の材料を使用することができる。
【実施例】
【0040】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに説明するが、本発明はこれらの例により何らの限定されるものではない。なお、この明細書で記述する諸特性は、下記の方法により求めたものである。
【0041】
[膜厚]
接触式の膜厚計(ミツトヨ社製)にて20点測定し、これを平均することで求めた。ここで接触端子は底面が直径0.5cmの円柱状のものを用い、接触端子に1.2kg/cmの荷重が印加されるような条件で測定した。
【0042】
[空孔率]
多孔質膜を塗布する前の電極シートを乾燥後、A(mm)×B(mm)の大きさにカットし、厚みC(mm)、重量D(g)を測定する(A、B、C、Dは適宜選択する)。続いて多孔質膜を塗布した後の電極シートを乾燥後、A(mm)×B(mm)の大きさにカットし、厚みC(mm)、重量D(g)を測定する(A、B、C、Dは適宜選択する)。以上より、多孔質層の真密度は、以下の式により求められる。
ρtrue=ρ1×R1+ρ2×R2+ρ3×R3+・・・+ρn×Rn
ここで、ρtrueは多孔質層の真密度を意味し、ρnは多孔質層を構成する各成分1,2,3,・・・nの密度(g/cm)を意味し、Rnは多孔質層を構成する各成分1,2,3,・・・nの、多孔質層重量に占める重量比率(−)を意味する。
続いて、多孔質層の空孔率ε(%)を以下の式により求める。
ε=(1−((D/(A・B)−D/(A・B))/((C−C)×ρtrue)×100
【0043】
[無機フィラーの平均粒子径]
レーザー回折式粒度分布測定装置を用いて測定を行った。分散媒としては水を用い、分散剤として非イオン性界面活性剤「Triton X−100」を微量用いた。体積粒度分布における中心粒子径(D50)を平均粒子径とした。
【0044】
[目付]
サンプルを10cm×10cmに切り出しこの重量を測定し、これを1m当たりの重量に変換することで目付を求めた。
また、多孔質層の目付けは、多孔質層を塗工した後の電極シートの目付けから、多孔質層を塗工する前の電極シートの目付けを引いて求めた。
【0045】
[実施例1]
1)正極シートの作製
以下のようにして正極シートを作製した。コバルト酸リチウム(LiCoO;日本化学工業社製)粉末89.5重量部、アセチレンブラック(電気化学工業社製;商品名デンカブラック)4.5重量部、ポリフッ化ビニリデン(クレハ化学社製)6重量部となるようにN−メチル−2ピロリドン溶媒を用いてこれらを混練し、スラリーを作製した。得られたスラリーを厚さが20μmのアルミ箔上に塗布乾燥後プレスし、100μmの正極を得た。
【0046】
2)負極シートの作製
負極シートは、メソフェーズカーボンマイクロビーズ(MCMB:大阪瓦斯化学社製)粉末87重量部、アセチレンブラック(電気化学工業社製;商品名デンカブラック)3重量部、ポリフッ化ビニリデン(クレハ化学社製)10重量部となるようにN−メチル−2ピロリドン溶媒を用いてこれらを混練し、スラリーを作製した。得られたスラリーを厚さが18μmの銅箔上に塗布乾燥後プレスし、全体の厚さが90μmの負極を得た。
【0047】
3)ポリメタフェニレンイソフタルアミドの作製
イソフタル酸クロライド160.5gをテトラヒドロフラン1120mlに溶解し、撹拌しながら、メタフェニレンジアミン85.2gをテトラヒドロフラン1120mlに溶解した溶液を、細流として徐々に加えていくと白濁した乳白色の溶液が得られた。撹拌を約5分間継続した後、更に撹拌しながら炭酸ソーダ167.6g、食塩317gを3400mlの水に溶かした水溶液を速やかに加え、5分間撹拌した。反応系は数秒後に粘度が増大後、再び低下し、白色の懸濁液が得られた。これを静置し、分離した透明な水溶液層を取り除き、ろ過によってポリメタフェニレンイソフタルアミドの白色重合体185.3gが得られた。
【0048】
4)本発明の正負電極シートの作製
上記3)で得られたポリメタフェニレンイソフタルアミドとN−メチル−2−ピロリドン(NMP)とを、それぞれ10:90の重量比で混合して溶液とし、これに、平均粒子径0.8μmの水酸化アルミニウム(昭和電工社製;H−43M、d50=0.75μm、α=0.89)を、ポリマーとの重量比が25:75となるように添加し攪拌して塗工用のスラリーを作製した。そして、このスラリーを、前記正極シートおよび負極シートのそれぞれの活物質層表面に、塗工厚20μmで塗工、乾燥し、耐熱性多孔質層を形成した。次いで、この耐熱性多孔質層が表面に形成された活物質層を、ローラプレス機により圧縮成形して、帯状の正極シート及び負極シートを作成した。
正極シートの厚みは114μm、多孔質層の空孔率は75%であり、負極シートの厚みは104μm、多孔質層の空孔率は75%であった。
【0049】
5)リチウムイオン二次電池の作製
上記4)で得られた正極シート及び負極シートを対向させ、これに電解液を含浸させアルミラミネートフィルムからなる外装に封入してリチウムイオン二次電池を作製した。ここで、電解液には1M LiPF エチレンカーボネート/エチルメチルカーボネート(3/7重量比)(キシダ化学社製)を用いた。
なお、この試作電池の正極面積は2×1.4cm、負極面積は2.2×1.6cmで、設定容量は8mAh(4.2V−2.75Vの範囲)である。
【0050】
[実施例2]
水酸化アルミニウムを平均粒子径0.8μmの水酸化マグネシウム(協和化学工業社製;キスマ5A、d50=0.8、α=0.8)に変更した以外は、実施例1と同様に電極シートおよび電池を作製した。なお、正極シートの厚さは115μm、空孔率は77%、負極シートの厚さは105μm、空孔率は77%であった。
【0051】
[実施例3]
撹拌翼と還流管の付いたセパラブルフラスコに窒素気流下で脱水NMP500mlを入れ、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル19.8gを加えて完全に溶解した。これを5℃以下に冷却しながら。3,3’−4,4’−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物17.9gおよびエチレングリコールビストリメリテート二無水物17.7gを添加し、更に3時間撹拌した。続いてピリジン32gと無水酢酸122gを加えて1時間撹拌した後、100℃に加熱して3時間撹拌した。室温に冷却後、得られたポリイミド溶液を取り出し、イソプロピルアルコール中で凝固させ粉末を得た。これを水洗、乾燥させてポリイミド樹脂50gを得た。
ポリメタフェニレンイソフタルアミドポリマーを上記のポリイミド樹脂に変更した以外は実施例1と同様にして電極シートおよび電池を作製した。
正極シートの厚さは112μm、多孔質層の空孔率は70%、負極シートの厚さは102μm、多孔質層の空孔率は70%であった。
【0052】
[実施例4]
実施例1にて作製した正極シートおよび負極シートのそれぞれ耐熱多孔質層側に、粒径0.6μmのポリエチレン(PE)微粒子の水分散スラリー(商品名:ケミパールW4005三井化学製)を、純水にて75体積%に薄めて作製したスラリーを、ローラーで塗布した後、80℃にて乾燥してPE微粒子を付着させた。
得られた正極シートの厚さは126μm、多孔質層の空孔率は63%、負極シートの厚さは116μm、多孔質層の空孔率は63%であった。
【0053】
[比較例1]
水酸化アルミニウムを、平均粒子径0.6μmのアルミナ(昭和電工社製;AL160SG−3)に変えたこと以外は実施例1と同様に電極シートと電池を作製した。正極シートの厚さは115μm、空孔率は74%、負極シートの厚さは105μm、空孔率74%であった。
【0054】
[比較例2]
水酸化アルミニウム粉末を添加しないこと以外は実施例1と同様に電極シートと電池を作製した。正極シートの厚さは115μm、空孔率は74%、負極シートの厚さは105μm、空孔率74%であった。
【0055】
[サイクル特性評価]
上記のような方法で作製した実施例1〜4及び比較例1,2の電池を用いてサイクル特性評価を実施した。先ず、1.6mA、4.2Vで8時間定電流・定電圧充電、1.6mA、2.75Vで定電流放電という充放電サイクルを10サイクル実施し、10サイクル目に得られた放電容量をこの電池の放電容量とした。続いて、同様の充放電サイクルを100サイクル繰り返し、このときの放電容量の低下が10%以下のものを○、10〜20%のものを△、20%以上のものを×とした。
【0056】
[オーブンテスト]
上記のような方法で作製した実施例1〜4及び比較例1,2の電池を、4.2Vまで充電した。電池をオーブンに入れ、5kgの錘をのせた。この状態で電池温度が2℃/分で昇温するようにオーブンを設定し電池を200℃まで加熱した。実施例1〜3及び比較例1、2は200℃まで加熱してもほとんど電圧降下が認められず、耐熱性に優れているがシャットダウン特性(SD特性)は有していないことが分かった。一方、実施例4においては150℃から急激な電圧降下が見られたが、電池の著しい発熱は無く安全にシャットダウンすることが分かった。このことから、実施例4は耐熱性に優れている上、シャットダウン特性も有することが分かった。なお、以下の表1において、耐熱性に優れている場合は○、耐熱性に優れいていない場合は×と記載し、シャットダウン機能を有する場合は○、シャットダウン機能を有していない場合は×と記載した。
【0057】
[DSC分析]
実施例1〜4、比較例1,2の各電極シートについてDSC(示差走査熱量測定)分析を行った。測定装置にはTAインスツルメントジャパン株式会社製のDSC2920を用いた。測定サンプルは、各電極シートをアルミパンに入れてかしめることにより作製した。測定は、窒素ガス雰囲気下で、昇温速度5℃/min、温度範囲30〜350℃で行った。
【0058】
実施例1〜4では、250〜400℃において水酸化アルミニウムまたは水酸化マグネシウムの脱水反応による大きな吸熱ピークが観察された。このことから高温に曝されると水酸化アルミニウムあるいは水酸化マグネシウムが大きな吸熱反応を伴って脱水反応が生じ、本発明の電極シートが難燃性に優れていることが分かった。一方、比較例1、2においては250℃以上の有意な吸熱ピークは観察されず、比較例1、2の電極シートは難燃特性を備えていないことが分かった。なお、以下の表1において、250℃以上の有意な吸熱ピークが観察された場合は○、当該ピークが観察されなかった場合は×と記載した。
【0059】
[磨耗性]
東洋精機社製のカード摩擦試験機を用いて評価した。具体的に、サンプルとなる電極シートを1kgの重り(76mm角)に貼り付け、耐熱性多孔質層面を下向きにし、これをSUS製ステージの上に置いた。そして、重りを速度90cm/分で10cm滑らせた。SUS製ステージと接触していた側のサンプル表面を観察し、黒くなっているか否かを確認した。黒くなっている場合はステージ材料のSUSが研磨されていると判断し×と判定した。また、黒くなっていない場合はSUSが研磨されていないと判断し○と判定した。
【0060】
以上の実施例1〜4及び比較例1,2に係る電極シート構成(耐熱樹脂の種類、無機フィラーの種類、ポリエチレンフィラー層の有無、耐熱性多孔質層中の耐熱樹脂と無機フィラーとの重量比、電極シート厚み、多孔質層の空孔率)と、各特性(サイクル特性、耐熱性、シャットダウン特性、250℃以上の吸熱ピークの有無、磨耗性)の測定結果を、以下の表1にまとめて示す。
【0061】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】活物質層の上に、無機フィラーを含む耐熱性多孔質層が積層された本発明の電極シートを正負極として用いた、リチウムイオン二次電池の構成を模式的に示す図である。
【図2】活物質層の上に、無機フィラーと有機フィラーを含む耐熱性多孔質層が積層された本発明の電極シートを正負極として用いた、リチウムイオン二次電池の構成を模式的に示す図である。
【図3】正極として、有機フィラーが無機フィラーを含む耐熱性多孔質層の片面に偏在したものを用いた、本発明のリチウムイオン二次電池の構成を模式的に示す図である。
【図4】活物質層の上に、無機フィラーを含む耐熱性多孔質層が積層された本発明の電極シートを正負極として用い、その間に、熱可塑性樹脂からなる多孔質膜をセパレータとして挟み込んだ、リチウムイオン二次電池の構成を模式的に示す図である。
【符号の説明】
【0063】
1 負極集電シート
2 負極活物質層
3 負極シート
4 正極集電シート
5 正極活物質層
6 正極シート
7 耐熱性多孔質層
8 有機フィラー
9 有機フィラーを含む層
10 熱可塑性樹脂からなる多孔質膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極活物質又は負極活物質を含む活物質層と、この活物質層の上に積層された耐熱性高分子を含む耐熱性多孔質層とを備えた非水電解質電池用電極シートであって、
前記耐熱性多孔質層に、200℃〜700℃の温度で脱水反応を生じる水酸基を含む金属化合物からなる無機フィラーが含まれていることを特徴とする非水電解質電池用電極シート。
【請求項2】
前記金属化合物は、水酸化アルミニウム、ベーマイト、ダイスポア、水酸化マグネシウム又はこれらの二種以上の混合物であることを特徴とする請求項1記載の非水電解質電池用電極シート。
【請求項3】
前記無機フィラーは、以下の(a)及び(b)式を満足することを特徴とする請求項1又は2記載の非水電解質電池用電極シート。
(a)0.01≦d50≦20(μm)
(b)0<α≦2
(但し、d50は、レーザー回折式における粒度分布において、小さな粒子側から起算した重量累計50重量%の平均粒子直径(μm)を表す。αは、無機フィラーの均一性を示し、α=(d90−d10)/d50で表される。ここで、d90は、レーザー回折式における粒度分布において、小さな粒子側から起算した重量累計90重量%の平均粒子直径(μm)を表し、d10は、レーザー回折式における粒度分布において、小さな粒子側から起算した重量累計10重量%の平均粒子直径(μm)を表す。)
【請求項4】
前記耐熱性多孔質層において、前記無機フィラーは重量分率で50重量%以上95重量%以下含まれていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載の非水電解質電池用電極シート。
【請求項5】
前記耐熱性高分子が、芳香族ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルイミドからなる群から選ばれる1種又は2種以上の混合物であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項記載の非水電解質電池用電極シート。
【請求項6】
前記耐熱性多孔質層に熱可塑性樹脂からなる有機フィラーが含まれているか、あるいは、前記耐熱性多孔質層の表面上に当該有機フィラーが層状に形成されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項記載の非水電解質電池用電極シート。
【請求項7】
正極活物質又は負極活物質を含む活物質層と、この活物質層の上に積層された耐熱性高分子を含む耐熱性多孔質層とを備えた非水電解質電池用電極シートの製造方法であって、
(i)前記活物質層が形成されたシートの当該活物質層上に、前記耐熱性高分子と、有機溶剤と、200℃〜700℃の温度で脱水反応を生じる水酸基を含む金属化合物からなる無機フィラーとを含むスラリーを塗工する工程と、
(ii)塗工されたシートを乾燥させ、前記有機溶剤を除去し耐熱性多孔質層を形成させる工程と、
を実施することを特徴とする非水電解質電池用電極シートの製造方法。
【請求項8】
正極活物質又は負極活物質を含む活物質層と、この活物質層の上に積層された耐熱性高分子を含む耐熱性多孔質層とを備えた非水電解質電池用電極シートの製造方法であって、
(i)前記活物質層が形成されたシートの当該活物質層上に、前記耐熱性高分子と、水溶性有機溶剤と、200℃〜700℃の温度で脱水反応を生じる水酸基を含む金属化合物からなる無機フィラーとを含むスラリーを塗工する工程と、
(ii)塗工されたシートを、水又は水と前記有機溶剤の混合液からなる凝固液中に浸漬し、前記耐熱性高分子を凝固させ耐熱性多孔質層を形成させる工程と、
(iii)シート上に形成された耐熱性多孔質層を水洗及び乾燥する工程と、
を実施することを特徴とする非水電解質電池用電極シートの製造方法。
【請求項9】
リチウムのドープ・脱ドープにより起電力を得る非水電解質二次電池であって、請求項1〜8のいずれか1項記載の電極シートを用いたことを特徴とする非水電解質二次電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−56037(P2010−56037A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−222523(P2008−222523)
【出願日】平成20年8月29日(2008.8.29)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【Fターム(参考)】