説明

非水電解質電池

【課題】電池内部でのガス発生を抑制し、高い安全性を実現する。
【解決手段】負極の少なくとも一部の表面に、ポリ酸およびポリ酸化合物の少なくとも一つの電解により析出した、一種以上のポリ元素を含む非晶質のポリ酸および/またはポリ酸化合物を含むゲル状の被膜が形成され、ポリ酸およびポリ酸化合物の少なくとも一方が、6価のポリ原子イオンと、6価未満のポリ原子イオンとを含むようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ガス発生およびそれに伴う電池膨れを抑制することができる非水電解質電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ビデオカメラやノート型パーソナルコンピュータなどのポータブル機器の普及に伴い、小型高容量の二次電池に対する需要が高まっている。現在使用されている二次電池にはアルカリ電解液を用いたニッケル−カドミウム電池、ニッケル−水素電池があるが、電池電圧が約1.2Vと低く、エネルギー密度の向上は困難である。このため、比重が0.534と固体の単体中最も軽いうえ、電位が極めて卑であり、単位重量当たりの電流容量も金属負極材料中最大であるリチウム金属を使用するリチウム金属二次電池が検討された。
【0003】
ところが、リチウム金属を負極に使用する二次電池では、充電時に負極の表面に樹枝状のリチウム(デンドライト)が析出し、充放電サイクルによってこれが成長する。デンドライトの成長は、二次電池の充放電サイクル特性を劣化させるばかりではなく、最悪の場合には、正極と負極とが接触しないように配置された隔膜(セパレータ)を突き破ってしまう。その結果、内部短絡が生じてしまい、熱暴走して電池を破壊してしまうという問題がある。
【0004】
従来、ヘテロポリ酸を含むようにした電極材料が提案されている。下記の引用文献1に示すように、例えば酸化還元電位を制御するために電極表面にヘテロポリ酸を含むイオン会合体を設けた電極材料が提案されている。また、引用文献2には、炭素にヘテロポリ酸を吸着することにより漏れ電流を減少させ、充電容量を増加させることが記載されている。また、引用文献3には、炭素にヘテロポリ酸を吸着することにより可逆的な酸化還元反応が可能となり、炭素材料の充電能力を減少させず、充電容量を増加させることが記載されている。
【0005】
引用文献4には、ヘテロポリ酸を含むポリマーを用いることで、特性を改善させることが記載されている。引用文献5には、固体電解質にヘテロポリ酸を含有させることにより、高い充電性、高エネルギー密度等を実現することが記載されている。引用文献6には、複合膜にヘテロポリ酸を含有させることで高温でも陽子伝導が可能とすることが記載されている。
【0006】
一方、引用文献7のように、ヘテロポリ酸を凝集させた凝集体を活物質材料として用いる発明も提案されている。引用文献8は、水に不溶化させたヘテロポリ酸を活物質材料として用いることが記載されている。引用文献7および8では、ヘテロポリ酸を熱処理することにより、ヘテロポリ酸が高分子化された溶媒に不溶となっていると考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭59−060818号公報
【特許文献2】米国特許第4630176号明細書
【特許文献3】米国特許第4633372号明細書
【特許文献4】米国特許第5501922号明細書
【特許文献5】特開2002−507310号公報
【特許文献6】特開2007−511873号公報
【特許文献7】特開2002−289188号公報
【特許文献8】特開2004−214116号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
リチウム遷移金属複合酸化物を正極活物質として用いた二次電池においては、電池内部においてガス発生が生じ、電池内圧が上昇しやすい問題があった。特に、外装にラミネートフィルムを用いた電池においては、ガス発生によって、電池が膨張し易い問題があった。特に、ニッケルを主成分とするリチウム遷移金属複合酸化物を正極活物質として用いた二次電池では、上記の問題が生じやすい。
【0009】
また、電池温度が上昇しすぎると、セパレータがさらに収縮してしまう。そして、セパレータが正極および負極の寸法よりも小さくなると正極と負極とが接触してしまうため、上述のような電池の発熱の問題を防ぐことができない。
【0010】
しかしながら、引用文献1ないし8では、上述のような安全性の観点については検討されていない。引用文献1ないし6は、電池における活物質材料の改質や、電解質、セパレータの改質に着目するものである。また、引用文献7および8は、活物質材料自体にヘテロポリ酸を用いるものであり、ヘテロポリ酸を用いて安全性を向上させるものではない。
【0011】
したがって、この発明の目的は、上記問題点を解決し、高い電池特性と安全性とを兼ね備えた非水電解質電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上述した課題を解決するために、第1の発明は、正極集電体の少なくとも一方の表面に、正極活物質を含む正極活物質層が形成された正極と、
負極集電体の少なくとも一方の表面に、負極活物質を含む負極活物質層が形成された負極と、
正極と負極との間に設けられたセパレータと、
電解質とを備え、
負極の少なくとも一部の表面に、ポリ酸およびポリ酸化合物の少なくとも一つの電解により析出した、一種以上のポリ元素を含む非晶質のポリ酸および/またはポリ酸化合物を含むゲル状の被膜が形成され、
ポリ酸およびポリ酸化合物の少なくとも一方が、6価のポリ原子イオンと、6価未満のポリ原子イオンとを含むことを特徴とする。
【0013】
第1の発明では、X線光電子分光法(XPS)により負極に存在するポリ酸またはポリ酸化合物の表面を測定したとき、タングステンの4f7/2の内殻電子に帰属されるスペクトルが、32.0eV以上35.4eV以下と35.4eV以上36.9eV以下の両方の領域にピークを持つことが好ましい。
【0014】
また、第1の発明では、X線光電子分光法(XPS)により負極に存在するポリ酸またはポリ酸化合物の表面を測定したとき、モリブデンの3d5/2の内殻電子に帰属されるスペクトルが、227.0eV以上231.5eV以下と231.5eV以上233.0eV以下の両方の領域にピークを持つことが好ましい。
【0015】
この発明では、電池内部でのガス発生を抑制することができる。また、例えばセパレータが収縮しにくく、収縮しても正極と負極とが抵抗の高い層を挟み、直接接しないようにすることができる。
【発明の効果】
【0016】
この発明によれば、非水電解質電池の膨張を抑制し、高い安全性を得ることができる。
ことができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】この発明の実施の形態による非水電解質電池の一構成例を示す斜視図である。
【図2】図1に示した巻回電極体10のII−II線に沿った断面図である。
【図3】この発明の負極表面のSEM写真である。
【図4】ケイタングステン酸を電池系内に添加することにより析出物が析出した負極表面における飛行時間型二次イオン質量分析法(ToF−SIMS)による二次イオンスペクトルの一例である。
【図5】ケイタングステン酸を電池系内に添加することにより析出物が析出した負極表面におけるX線吸収微細構造(XAFS)解析によるスペクトルをフーリエ変換して得られるW−O結合の動径構造関数の一例である。
【図6】この発明の実施の形態による非水電解質電池の一構成例を示す断面図である。
【図7】図3に示した巻回電極体30の一部を拡大して表す断面図である。
【図8】この発明の実施の形態による非水電解質電池の一構成例を示す断面図である。
【図9】この発明の実施の形態による非水電解質電池の一構成例を示す断面図である。
【図10】XPSによるサンプル1−3の負極表面分析結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、この発明の実施の形態について図面を参照して説明する。以下に説明する実施の形態は、この発明の具体的な例であり、技術的に好ましい種々の限定が付されているが、この発明の範囲は、以下の説明において、特にこの発明を限定する旨の記載がない限り、実施の形態に限定されないものとする。なお、説明は、以下の順序で行う。
1.第1の実施の形態(負極表面にポリ酸およびポリ酸化合物の少なくとも一方の還元物と、ポリ酸およびポリ酸化合物の少なくとも一方の非還元物との双方が存在する非水電解質電池の例)
2.第2の実施の形態(負極および正極表面にポリ酸およびポリ酸化合物の少なくとも一方が析出する非水電解質電池の例)
3.第3の実施の形態(負極とセパレータとがポリ酸およびポリ酸化合物の析出物によって固定される非水電解質電池の例)
4.第4の実施の形態(電解液を用いた非水電解質電池の例)
5.第5の実施の形態(円筒型を有する非水電解質電池の例)
6.第6の実施の形態(角型形状を有する非水電解質電池の例)
7.第7の実施の形態(負極活物質層中にヘテロポリ酸およびヘテロポリ酸化合物の少なくとも一方を含ませることにより、負極表面にポリ酸およびポリ酸化合物の少なくとも一方を析出させる非水電解質電池の製造方法の例)
8.第8の実施の形態(正極活物質層中にヘテロポリ酸およびヘテロポリ酸化合物の少なくとも一方を含ませることにより、負極表面にポリ酸およびポリ酸化合物の少なくとも一方を析出させる非水電解質電池の製造方法の例)
9.第9の実施の形態(積層電極体を用いる非水電解質電池の例)
10.他の実施の形態(変形例)
【0019】
1.第1の実施の形態
第1の実施の形態では、電解質中にポリ酸およびポリ酸化合物の少なくとも一方を含ませることにより、負極の表面に一種以上のポリ元素を含む非晶質のポリ酸および/またはポリ酸化合物を含むゲル状の被膜が形成された非水電解質二次電池について説明する。
【0020】
(1−1)非水電解質電池の構成
図1は、この発明の第1の実施形態による非水電解質電池の一構成例を示す斜視図である。この非水電解質電池は、例えば、非水電解質二次電池である。この非水電解質電池は、正極リード11および負極リード12が取り付けられた巻回電極体10をフィルム状の外装部材1の内部に収納した構成とされており、扁平型の形状を有するものである。
【0021】
正極リード11および負極リード12は、それぞれ例えば短冊状であり、外装部材1の内部から外部に向かい例えば同一方向にそれぞれ導出されている。正極リード11は、例えばアルミニウム(Al)などの金属材料により構成されており、負極リード12は、例えばニッケル(Ni)などの金属材料により構成されている。
【0022】
外装部材1は、例えば、絶縁層、金属層および最外層をこの順に積層しラミネート加工などにより貼り合わせた構造を有するラミネートフィルムである。外装部材1は、例えば、絶縁層の側を内側として、各外縁部が融着あるいは接着剤により互いに密着されている。
【0023】
絶縁層は、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、変性ポリエチレン、変性ポリプロピレンあるいはこれらの共重合体などのポリオレフィン樹脂により構成されている。水分透過性を低くすることができ、気密性に優れているからである。金属層は、箔状あるいは板状のアルミニウム、ステンレス、ニッケルあるいは鉄などにより構成されている。最外層は、例えば絶縁層と同様の樹脂により構成されていてもよいし、ナイロンなどにより構成されていてもよい。破れや突き刺しなどに対する強度を高くすることができるからである。外装部材1は、絶縁層、金属層および最外層以外の他の層を備えていてもよい。
【0024】
外装部材1と正極リード11および負極リード12との間には、正極リード11および負極リード12と、外装部材1の内側との密着性を向上させ、外気の侵入を防止するための密着フィルム2が挿入されている。密着フィルム2は、正極リード11および負極リード12に対して密着性を有する材料により構成されている。正極リード11および負極リード12が上述した金属材料により構成される場合には、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、変性ポリエチレンあるいは変性ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂により構成されることが好ましい。
【0025】
図2は、図1に示した巻回電極体10のII−II線に沿った断面図である。巻回電極体10は、正極13と負極14とをセパレータ15および電解質16を介して積層し、巻回したものであり、最外周部は保護テープ17により保護されている。
【0026】
[正極]
正極13は、例えば、正極集電体13Aと、この正極集電体13Aの両面に設けられた正極活物質層13Bとを有している。正極集電体13Aは、例えば、アルミニウム箔などの金属箔を用いることができる。
【0027】
正極活物質層13Bは、正極活物質と、炭素材料などの導電助剤およびポリフッ化ビニリデンまたはポリテトラフルオロエチレンなどの結着剤を含む。
【0028】
[正極活物質]
正極活物質は、ニッケルおよび/またはコバルトを含むリチウム複合酸化物粒子である。このリチウム複合酸化物粒子を用いることにより、高容量および高い放電電位を得ることができるからである。このリチウム複合酸化物粒子は、例えば、(化1)で平均組成が表される層状岩塩型の構造を有するリチウム複合酸化物粒子である。このリチウム複合酸化物粒子は、一次粒子であってもよく、二次粒子であってもよい。
【0029】
(化1)
LiaCobNicM11-b-cd
(式中、M1は、ホウ素(B)、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、ケイ素(Si)、リン(P)、硫黄(S)、チタン(Ti)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、ガリウム(Ga)、ゲルマニウム(Ge)、イットリウム(Y)、ジルコニウム(Zr)、モリブデン(Mo)、銀(Ag)、バリウム(Ba)、タングステン(W)、インジウム(In)、スズ(Sn)、鉛(Pb)およびアンチモン(Sb)から選ばれる1種以上の元素である。a、b、cおよびdはそれぞれ0.2≦a≦1.4、0≦b≦1.0、0≦c≦1.0、1.8≦d≦2.2の範囲内の値である。なお、リチウムの組成は充放電の状態によって異なり、aの値は完全放電状態における値を表している。)
【0030】
ここで、(式1)において、aの範囲は、例えば、0.2≦a≦1.4である。この値が小さくなると、リチウム複合酸化物の基本的な結晶構造の層状岩塩構造が崩れ、再充電が困難となり、容量が大幅に低下してしまう。この値が大きくなると、リチウムが上述の複合酸化物粒子外に拡散し、次の処理工程の塩基性度の制御の障害となると共に、最終的には、正極ペーストの混練中のゲル化促進の弊害の原因となる。
【0031】
なお、(式1)のリチウム複合酸化物は、従来よりリチウムを過剰に含むようにしてもよいものとなっている。すなわち、(式1)のリチウム複合酸化物のリチウム組成を示すaは、1.2より大きくてもよい。ここで、1.2という値は従来のこの種のリチウム複合酸化物のリチウム組成として開示されているものであり、a=1の場合と同様の結晶構造により、本願における同様の作用・効果を得られる(例えば本出願人の先願である特開2008−251434号公報参照)。
【0032】
(式1)のリチウム複合酸化物のリチウム組成を示すaが、1.2より大きくても、リチウム複合酸化物の結晶構造は、aが1.2以下の場合と同様である。また、式1におけるリチウム組成を示すaが、1.2より大きくても、1.4以下であれば、充放電に伴う酸化還元反応におけるリチウム複合酸化物を構成する遷移金属の化学状態は、aが1.2以下の場合と比して、大幅には変わらない。
【0033】
bおよびcの範囲は、例えば、0≦b≦1.0、0≦c≦1.0である。この範囲外に値が小さくなると、正極活物質の放電容量が減少してしまう。この範囲外に値が大きくなると、複合酸化物粒子の結晶構造の安定性が低下し、正極活物質の充放電の繰返しの容量低下と、安全性の低下の原因となる。
【0034】
dの範囲は、例えば、1.8≦d≦2.2である。この範囲外に値が小さくなる場合ならびにこの範囲外に値が大きくなる場合には、複合酸化物粒子の結晶構造の安定性が低下し、正極活物質の充放電の繰返しの容量低下と、安全性の低下の原因となって、正極活物質の放電容量が減少する。
【0035】
また、(化2)で平均組成が表されるスピネル型の構造を有するリチウム複合酸化物粒子を用いることもできる。
【0036】
(化2)
LihMn2-i2ij
(式中、M2は、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、ホウ素(B)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、鉄(Fe)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、モリブデン(Mo)、スズ(Sn)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)およびタングステン(W)からなる群のうちの少なくとも1種を表す。h、iおよびjは、0.9≦h≦1.1、0≦i≦0.6、3.7≦j≦4.1の範囲内の値である。なお、リチウムの組成は充放電の状態によって異なり、hの値は完全放電状態における値を表している。)
【0037】
リチウム複合酸化物としては、ニッケルを主成分として含むリチウム複合酸化物が特に好ましい。ニッケルを主成分として含むとは、リチウム複合酸化物を構成する金属元素(リチウムを除く)のうち、ニッケル成分を最も多く含むことをいう。ニッケルを主成分として含むリチウム複合酸化物は、例えば、(化1)においてニッケル成分がコバルト成分より多く含まれているものであり、cの範囲が0.5<c≦1.0の範囲とされた以下の(化3)で平均組成が表されるものである。
【0038】
(化3)
LiaCobNicM11-b-cd
(式中、M1は、ホウ素(B)、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、ケイ素(Si)、リン(P)、硫黄(S)、チタン(Ti)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、ガリウム(Ga)、ゲルマニウム(Ge)、イットリウム(Y)、ジルコニウム(Zr)、モリブデン(Mo)、銀(Ag)、バリウム(Ba)、タングステン(W)、インジウム(In)、スズ(Sn)、鉛(Pb)およびアンチモン(Sb)から選ばれる1種以上の元素である。a、b、cおよびdはそれぞれ0.2≦a≦1.4、0≦b<0.5、0.5<c≦1.0、1.8≦d≦2.2の範囲内の値である。なお、リチウムの組成は充放電の状態によって異なり、xの値は完全放電状態における値を表している。)
【0039】
この(化3)で平均組成が表されるリチウム複合酸化物は、コバルトを主成分として含むリチウム複合酸化物と、ほぼ同等の高電圧および高エネルギー密度を実現できるリチウム二次電池用のリチウム複合酸化物である。
【0040】
ニッケルを主成分として含むリチウム複合酸化物は、コバルトを主成分として含むリチウム複合酸化物に比較して、資源的に不安定であり高価なコバルトの含有量が少なく経済性が高い。さらに、ニッケルを主成分として含むリチウム複合酸化物は、コバルトを主成分として含むリチウム複合酸化物と比較して電池容量が大きい利点があり、その利点をより増大させることが望まれる。
【0041】
一方、正極活物質としてニッケルを主成分として含むリチウム複合酸化物を用いた二次電池においては、電池内部でのガス発生に伴う内圧上昇が生じるという課題がある。そして、二次電池の外装部材にラミネートフィルムを用いた場合には、電池内部でのガス発生に伴って電池膨れが発生しやすいという課題があり、これらの課題を解決することが要望されている。
【0042】
さらに、この発明では、(化4)で示すオリビン型結晶構造を有する正極活物質材料を用いても良い。
【0043】
(化4)
LiaMnbFecdPO4
(式中、0≦a≦2、b+c+d≦1、0≦b≦1、0≦c≦1、0≦d≦1であり、マンガン(Mg)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、アルミニウム(Al)、タングステン(W)、ニオブ(Nb)、チタン(Ti)、シリコン(Si)、クロム(Cr)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)から選択される少なくとも一種である。)
【0044】
このような正極13は、厚みが250μm以下であることが好ましい。
【0045】
[ガス発生の抑制について]
ここで、この発明の理解を容易にするため、本願発明者等の鋭意検討の結果得られたガス発生、およびガス発生の抑制のメカニズムについて説明する。
【0046】
非水電解質電池のガス発生に対する正極活物質の関与については、以下の(要因1)、および(要因2)が原因であることが通説となっている。
(要因1)正極活物質に含有されている炭酸根が、非水電解液由来の酸成分により炭酸ガスを生成する。
(要因2)充電状態の正極活物質の強い酸化力により、非水電解液等の有機分が酸化され、炭酸ガスまたは一酸化炭素を生成する。
【0047】
そこで、正極活物質の炭酸根含有量を低下させる有効な処理とともに、正極活物質の表面処理により、正極活物質表面の酸化活性を抑制する有効な処理を得ることで達成できると考えられる。そして、従来では、上述の残留炭酸根の量と膨れの対応関係において、残留炭酸根の多い系では膨れが大きく、残留炭酸根の少ない系では膨れが小さい傾向が示唆される状況にあった。
【0048】
これに対して、本願発明者等の鋭意検討の結果によれば、この発明においては、残留炭酸根が多少多くても、それが、直接膨れに反映されない傾向を得るに至った。これは、残留炭酸根は、必ずしも分解してCO2を発生するものではなく、かつ非水電解液等の有機分の酸化を十分に抑制するものであれば、全体的に膨れを抑制できることが示唆された。なお、本願発明においても、膨れを抑制するには、正極の残留炭酸根の含有量が少ない方がより好ましいことは言うまでもない。
【0049】
[粒径]
正極活物質の平均粒径は、2.0μm以上50μm以下であることが好ましい。平均粒径が2.0μm未満であると、正極作製時に正極活物質層をプレスする際に正極活物質層が剥離してしまう。また、正極活物質の表面積が増えるために、導電剤や結着剤の添加量を増やす必要があり、単位重量あたりのエネルギー密度が小さくなってしまう傾向がある。一方、この平均粒径が50μmを超えると、粒子がセパレータを貫通し、短絡を引き起こす傾向がある。
【0050】
[負極]
負極14は、例えば、負極集電体14Aと、この負極集電体14Aの両面に設けられた負極活物質層14Bとを有している。負極集電体14Aは、例えば、銅箔などの金属箔により構成されている。負極の少なくとも一部表面には、一種以上のポリ元素を含む非晶質のポリ酸および/またはポリ酸化合物を含み、非晶質のポリ酸および/またはポリ酸化合物が電解液を含んでゲル状となっている。
【0051】
負極活物質層14Bは、例えば、負極活物質として、リチウムを吸蔵および放出することが可能な負極材料のいずれか1種または2種以上を含んで構成されており、必要に応じて導電助剤および結着剤を含んでいてもよい。
【0052】
リチウムを吸蔵および放出することが可能な負極材料としては、例えば、黒鉛(グラファイト)、難黒鉛化性炭素あるいは易黒鉛化炭素などの炭素材料が挙げられる。炭素材料には、いずれか1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよく、また、平均粒子径の異なる2種以上を混合して用いてもよい。
【0053】
また、リチウムを吸蔵および放出することが可能な負極材料としては、リチウムと合金を形成可能な金属元素または半金属元素を構成元素として含む材料が挙げられる。具体的には、リチウムと合金を形成可能な金属元素の単体、合金、あるいは化合物、またはリチウムと合金を形成可能な半金属元素の単体、合金、あるいは化合物、またはこれらの1種あるいは2種以上の相を少なくとも一部に有する材料が挙げられる。
【0054】
このような金属元素あるいは半金属元素としては、例えば、スズ(Sn)、鉛(Pb)、アルミニウム、インジウム(In)、ケイ素(Si)、亜鉛(Zn)、アンチモン(Sb)、ビスマス(Bi)、カドミウム(Cd)、マグネシウム(Mg)、ホウ素(B)、ガリウム(Ga)、ゲルマニウム(Ge)、ヒ素(As)、銀(Ag)、ジルコニウム(Zr)、イットリウム(Y)またはハフニウム(Hf)が挙げられる。中でも、長周期型周期表における14族の金属元素あるいは半金属元素が好ましく、特に好ましいのはケイ素(Si)あるいはスズ(Sn)である。ケイ素(Si)およびスズ(Sn)はリチウムを吸蔵および放出する能力が大きく、高いエネルギー密度を得ることができるからである。
【0055】
ケイ素(Si)の合金としては、例えば、ケイ素(Si)以外の第2の構成元素として、スズ(Sn)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、マンガン(Mn)、亜鉛(Zn)、インジウム(In)、銀(Ag)、チタン(Ti)、ゲルマニウム(Ge)、ビスマス(Bi)、アンチモン(Sb)およびクロム(Cr)からなる群のうちの少なくとも1種を含むものが挙げられる。スズ(Sn)の合金としては、例えば、スズ(Sn)以外の第2の構成元素として、ケイ素(Si)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、マンガン(Mn)、亜鉛(Zn)、インジウム(In)、銀(Ag)、チタン(Ti)、ゲルマニウム(Ge)、ビスマス(Bi)、アンチモン(Sb)およびクロム(Cr)からなる群のうちの少なくとも1種を含むものが挙げられる。
【0056】
ケイ素(Si)の化合物あるいはスズ(Sn)の化合物としては、例えば、酸素(O)あるいは炭素(C)を含むものが挙げられ、ケイ素(Si)またはスズ(Sn)に加えて、上述した第2の構成元素を含んでいてもよい。
【0057】
[負極被膜]
負極表面に形成された、一種以上のポリ元素を含む非晶質のポリ酸および/またはポリ酸化合物を含むこの発明のゲル状の被膜は、例えば図3に示すように、SEM(Scanning Electron Microscope;走査型電子顕微鏡)で確認することができる。なお、図6は、充電後の負極表面のSEM像であり、電解液を洗浄し、乾燥して撮影したものである。
【0058】
また、非晶質のポリ酸および/またはポリ酸化合物の析出は、負極表面に形成された被膜のX線吸収微細構造(X-ray absorption fine structure;XAFS)解析による構造解析と、飛行時間型二次イオン質量分析法(ToF−SIMS)による分子の化学情報とを基に確認することができる。
【0059】
図4に、ケイタングステン酸を電池系内に添加し、充電することにより、この発明の負極被膜が形成された非水電解質電池の負極表面の飛行時間型二次イオン質量分析法(ToF−SIMS)による二次イオンスペクトルの一例を示す。図4より、タングステン(W)と酸素(O)とを構成元素とする分子が存在することが分かる。
【0060】
また、図5に、ケイタングステン酸を電池系内に添加し、充電することにより、この発明の負極被膜が形成された非水電解質電池の負極表面のX線吸収微細構造(XAFS)解析によるスペクトルをフーリエ変換して得られるW−O結合の動径構造関数の一例を示す。また、図5では、負極被膜の解析結果と共に、この発明で用いることができるポリ酸であるタングステン酸(WO3、WO2)およびヘテロポリ酸であるケイタングステン酸(H4(SiW1240)・26H2O)のW−O結合の動径構造関数の一例を示す。
【0061】
図5より、負極表面の析出物のピークL1と、ケイタングステン酸(H4(SiW1240)・26H2O)、二酸化タングステン(WO2)および三酸化タングステン(WO3)のそれぞれのピークL2、L3およびL4とは異なった位置にピークを有し、異なる構造であることが分かる。典型的なタングステン酸化物の三酸化タングステン(WO3)、二酸化タングステン(WO2)、ならびに、この発明の出発物質であるけいタングステン酸(H4(SiW1240)・26H2O)においては、前記動径構造関数より、1.0〜2.0Åの範囲内において、主要ピークが存在し、また、2.0〜4.0Åの範囲においてもピークを確認することができる
【0062】
これに対して、この発明における正極、負極に析出したタングステン酸を主体とするポリ酸のW−O結合距離の分布は、1.0〜2.0Åの範囲内においてピークが確認されるものの、この範囲外では、ピークL1と同等の明確なピークが見られない。すなわち、3.0Åを超える範囲において、実質的にピークが観測されない。このような状況において、負極表面の析出物が非晶質であることが確認される。
【0063】
なお、第1の実施の形態では、充電あるいは予備充電により負極14の表面に、一種以上のポリ元素を含む非晶質のポリ酸および/またはポリ酸化合物を含むゲル状の被膜が形成される。そして、ポリ酸およびポリ酸化合物の少なくとも一方のうち一部が還元され、ポリ原子の価数が6価未満になっている。一方で、還元されず、ポリ原子イオンの価数にして6価として存在するポリ酸およびポリ酸化合物の少なくとも一方も同時に存在している。
【0064】
例えば負極14表面のポリ酸およびポリ酸化合物のポリ原子が例えばタングステンの場合に、価数が6価未満のタングステンイオンと、価数が6価のタングステンイオンとの双方を共に含んで存在する。同様に、ポリ酸およびポリ酸化合物のポリ原子が例えばモリブデンの場合、価数が6価未満のモリブデンイオンと、価数が6価のモリブデンイオンとの双方を共に含んで存在する。
【0065】
このように、還元状態にあるポリ原子イオンと非還元状態のポリ原子イオンとが混合して存在することにより、ガス吸収効果のあるポリ酸およびポリ酸化合物の安定性が高くなり、電解質に対する耐性の向上が見込まれる。
【0066】
この発明においては、充電あるいは予備充電により、例えばヘテロポリ酸がヘテロポリ酸より溶解性の乏しいポリ酸化合物となって負極14の表面に存在する。そして、充電あるいは予備充電によりヘテロポリ酸が還元され、ヘテロポリ酸より溶解性の乏しいポリ酸化合物となって負極14の表面に存在するものもある。また、負極活物質層14B中、すなわち、負極活物質粒子間に上述のポリ酸およびポリ酸化合物の少なくとも一方が含まれていてもよい。
【0067】
ポリ酸およびポリ酸化合物の少なくとも一方の析出の有無は、充電あるいは予備充電後の非水電解質電池20を分解して負極14を取り出すことで確認できる。例えば、負極集電体14A上に析出した析出物の組成を確認し、ポリ酸およびポリ酸化合物の少なくとも一方が析出していれば、同様に負極活物質層14B上にもポリ酸およびポリ酸化合物の少なくとも一方が析出していることが容易に推測できる。
【0068】
析出したポリ酸およびポリ酸化合物の少なくとも一方の還元状態は、X線光電子分光(XPS)分析により確認することができる。この場合、電池を解体後に、ジメチルカーボネートで洗浄を行う。これは表面に存在する、揮発性の低い溶媒成分と電解質塩を除去するためである。サンプリングは可能な限り、不活性雰囲気下で行うことが望ましい。また、複数のエネルギーに帰属されるピークの重畳が疑われる場合は、測定したスペクトルに対し波形解析を行いピークを分離することで、6価および6価未満のタングステンまたはモリブデンイオンに帰属されるピークの有無を判断することができる。
【0069】
このようなポリ酸およびポリ酸化合物の少なくとも一方を負極14の表面に析出させることにより、正極13と負極14とが接触して急激に大電流が流れることを防止し、二次電池の瞬間的な発熱を抑制することができる。これは、負極14の表面に析出したポリ酸およびポリ酸化合物の少なくとも一方により、負極14と密着しているセパレータ15の強度が高められるためであると考えられる。
【0070】
また、このようなポリ酸およびポリ酸化合物の少なくとも一方を、例えばタングステンまたはモリブデンイオンのようなポリ原子イオンが6価および6価未満という複数の価数として存在するように負極14の表面に析出させる。これにより、活物質表面や、析出したポリ酸およびポリ酸化合物の少なくとも一方表面におけるガス発生による非水電解質電池20の膨れを抑制することができる。これは、ポリ酸およびポリ酸化合物の少なくとも一方が、還元されない状態を有した形で負極活物質表面を十分に被覆するため、電解質の分解反応による二酸化炭素(CO2)等のガスの発生が抑制されるためであると考えられる。
【0071】
[セパレータ]
セパレータ15は、電気的に安定であると共に、正極活物質、負極活物質あるいは溶媒に対して化学的に安定であり、かつ電気伝導性を有していなければどのようなものを用いてもよい。例えば、高分子の不織布、多孔質フィルム、ガラスあるいはセラミックスの繊維を紙状にしたものを用いることができ、これらを複数積層して用いてもよい。特に、多孔質ポリオレフィンフィルムを用いることが好ましく、これをポリイミド、ガラスあるいはセラミックスの繊維などよりなる耐熱性の材料と複合させたものを用いてもよい。
【0072】
[電解質]
電解質16は、電解液と、この電解液を保持する高分子化合物を含む保持体とを含有しており、いわゆるゲル状となっている。電解液は、電解質塩と、この電解質塩を溶解する溶媒とを含んでいる。電解質塩としては、例えば、LiPF6、LiClO4、LiBF4、LiN(SO2CF32、LiN(SO2252、あるいはLiAsF6などのリチウム塩が挙げられる。電解質塩にはいずれか1種を用いてもよいが、2種以上を混合して用いてもよい。そして、この電解液には、非水電解質電池20の充電前の状態において、ケイタングステン酸および/またはケイタングステン酸化合物が添加されている。
【0073】
溶媒としては、例えば、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、δ−バレロラクトンあるいはε−カプロラクトンなどのラクトン系溶媒、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、炭酸ブチレン、炭酸ビニレン、炭酸ジメチル、炭酸エチルメチルあるいは炭酸ジエチルなどの炭酸エステル系溶媒、1,2−ジメトキシエタン、1−エトキシ−2−メトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、テトラヒドロフランあるいは2−メチルテトラヒドロフランなどのエーテル系溶媒、アセトニトリルなどのニトリル系溶媒、スルフォラン系溶媒、リン酸類、リン酸エステル溶媒、またはピロリドン類などの非水溶媒が挙げられる。溶媒は、いずれか1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0074】
また、溶媒として、環状エステルまたは鎖状エステルの水素の一部または全部がフッ素化された化合物を含むことが好ましい。このフッ素化された化合物としては、ジフルオロエチレンカーボネート(4,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン)を用いることが好ましい。負極活物質としてケイ素(Si)、スズ(Sn)、ゲルマニウム(Ge)などの化合物を含む負極14を用いた場合であっても、充放電サイクル特性を向上させることができ、特にジフルオロエチレンカーボネートがサイクル特性改善効果に優れるからである。
【0075】
高分子化合物は、溶媒を吸収してゲル化するものであればよく、例えば、ポリフッ化ビニリデンあるいはビニリデンフルオロライドとヘキサフルオロプロピレンとの共重合体などのフッ素系高分子化合物、ポリエチレンオキサイドあるいはポリエチレンオキサイドを含む架橋体などのエーテル系高分子化合物、ポリアクリロニトリル、ポリプロピレンオキサイドあるいはポリメチルメタクリレートを繰返し単位として含むものなどが挙げられる。高分子化合物には、いずれか1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0076】
特に、酸化還元安定性の点からは、フッ素系高分子化合物が望ましく、中でも、ビニリデンフルオライドとヘキサフルオロプロピレンとを成分として含む共重合体が好ましい。さらに、この共重合体は、モノメチルマレイン酸エステルなどの不飽和二塩基酸のモノエステル、三フッ化塩化エチレンなどのハロゲン化エチレン、炭酸ビニレンなどの不飽和化合物の環状炭酸エステル、またはエポキシ基含有アクリルビニルモノマーなどを成分として含んでいてもよい。より高い特性を得ることができるからである。
【0077】
さらに、負極14の表面にポリ酸およびポリ酸化合物の少なくとも一方を析出させるために、ポリ酸およびポリ酸化合物の少なくとも一方、好ましくはヘテロポリ酸およびヘテロポリ酸化合物の少なくとも一方を予め電解液に加える。非水電解質電池20作製後に充電あるいは予備充電を行うことにより、ポリ酸またはポリ酸化合物を負極14の表面に析出させることができる。
【0078】
[ポリ酸、ポリ酸化合物]
ポリ酸とは、オキソ酸の縮合物である。このポリ酸、ポリ酸化合物は、そのポリ酸イオンが、ケギン構造、アンダーソン構造、またはドーソン構造等の、電池の溶媒に溶解しやすいものが好ましい。
【0079】
この発明のポリ酸および/またはポリ酸化合物は、ヘテロポリ酸および/またはヘテロポリ酸化合物と同様に、元素群(a)から選ばれるポリ原子を有するもの、または
元素群(a)から選ばれるポリ原子を有し、ポリ原子の一部が元素群(b)から選ばれる少なくとも何れかの元素で置換されたものである。
元素群(a):Mo、W、Nb、V
元素群(b):Ti、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Zr、Tc、Rh、Cd、In、Sn、Ta、Re、Tl、Pbである。
【0080】
この発明に用いるポリ酸としては、例えば、タングステン酸(VI)、モリブデン酸(VI)等が挙げられる。具体的には、無水タングステン酸および無水モリブデン酸、ならびにその水和物が挙げられる。水和物の例としては、タングステン酸一水和物(WO3・H2O)であるオルトタングステン酸(H2WO4)、モリブデン酸二水和物(H4MoO5,H2MoO4・H2O、MoO3・2H2O)から、モリブデン酸一水和物(MoO3・H2O)であるオルトモリブデン酸(H2MoO4)を用いることができる。また、上記水和物のイソポリ酸であるメタタングステン酸、パラタングステン酸等より水素含量が少なく究極的に0である無水タングステン酸(WO3)、メタモリブデン酸、パラモリブデン酸等より水素含量が少なく究極的に零である無水モリブデン酸(MoO3)等を用いることもできる。
【0081】
[ヘテロポリ酸、ヘテロポリ酸化合物]
ヘテロポリ酸とは、ヘテロ原子を有する2種以上のオキソ酸の縮合物である。このヘテロポリ酸、ヘテロポリ酸化合物は、そのヘテロポリ酸イオンが、ケギン構造、アンダーソン構造、またはドーソン構造等の、電池の溶媒に溶解しやすいものが好ましい。
【0082】
へテロポリ酸および/またはヘテロポリ酸化合物は、元素群(a)から選ばれるポリ原子を有するもの、または
元素群(a)から選ばれるポリ原子を有し、ポリ原子の一部が元素群(b)から選ばれる少なくとも何れかの元素で置換されたものである。
元素群(a):Mo、W、Nb、V
元素群(b):Ti、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Zr、Tc、Rh、Cd、In、Sn、Ta、Re、Tl、Pbである。
【0083】
また、ヘテロポリ酸および/またはヘテロポリ酸化合物が、元素群(c)から選ばれるヘテロ原子を有するもの、または
元素群(c)から選ばれるヘテロ原子を有し、へテロ原子の一部が元素群(d)から選ばれる少なくとも何れかの元素で置換されたものである。
元素群(c):B、Al、Si、P、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ge、As
元素群(d):H、Be、B、C、Na、Al、Si、P、S、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Ge、As、Se、Zr、Rh、Sn、Sb、Te、I、Re、Pt、Bi、Ce、Th、U、Np
【0084】
この発明に用いるヘテロポリ酸としては、例えば、リンタングステン酸、ケイタングステン酸などのようなヘテロポリタングステン酸、リンモリブデン酸、ケイモリブデン酸などのようなヘテロポリモリブデン酸が挙げられる。
【0085】
また、複数のポリ元素を含む材料としては、リンバナドモリブデン酸、リンタングトモリブデン酸、ケイバナドモリブデン酸、ケイタングトモリブデン酸等の材料を用いることができる。
【0086】
ヘテロポリ酸化合物は、例えばLi+、Na+、K+、Rb+およびCs+、ならびにR4N+、R4P+(なお、式中、RはHあるいは炭素数10以下の炭化水素基である)等の陽イオンを有することが好ましい。また、陽イオンとしては、Li+、テトラ−ノルマル−ブチルアンモニウムあるいはテトラ−ノルマル−ブチルホスホニウムであることがより好ましい。
【0087】
このようなヘテロポリ酸化合物としては、例えば、ケイタングステン酸ナトリウム、リンタングステン酸ナトリウム、リンタングステン酸アンモニウム、ケイタングステン酸テトラ−テトラ−n−ブチルホスホニウム塩などのようなヘテロポリタングステン酸化合物が挙げられる。また、ヘテロポリ酸化合物としては、リンモリブデン酸ナトリウム、リンモリブデン酸アンモニウム、リンモリブデン酸トリ−テトラ−n−ブチルアンモニウム塩などのようなヘテロポリモリブデン酸化合物が挙げられる。さらに、複数のポリ酸を含む化合物として、リンタングトモリブデン酸トリ−テトラ−n−アンモニウム塩などのような材料が挙げられる。これらのヘテロポリ酸およびヘテロポリ酸化合物は、2種類以上混合して用いてもよい。これらのヘテロポリ酸やヘテロポリ酸化合物は、溶媒に溶解しやすく、また電池中において安定しており、他の材料と反応する等の悪影響を及ぼしにくい。
【0088】
正極合剤・負極合剤調整時に用いる溶剤、ならびに電解質に用いる非水溶媒等に対して高い溶解度を示すことから、ヘテロポリ酸および/またはヘテロポリ酸化合物を用いることが好ましい。また、ヘテロ原子を有さないポリ酸および/またはポリ酸化合物は、ヘテロポリ酸および/またはヘテロポリ酸化合物と比較して添加重量あたりの効果はやや劣る傾向にある。しかしながら、極性溶媒への溶解性か低いため、正極および負極に適用する場合においては、塗料粘弾性とその経時変化等の塗料特性において優れた面があり、工業的観点から有用性がある。
【0089】
(1−2)非水電解質電池の製造方法
以下、この発明の非水電解質電池の製造方法について説明する。
【0090】
[正極の製造方法]
正極13を以下のように製造する。まず、正極活物質と、結着剤と、炭素材料などの導電助剤とを混合して正極合剤を調製し、この正極合剤をN−メチル−2−ピロリドンなどの溶剤に分散して正極合剤スラリーを調製する。結着剤は、ポリフッ化ビニリデンまたはポリテトラフルオロエチレンなどを用いる。
【0091】
次に、この正極合剤に対して、さらにN−メチル−2−ピロリドンなどの溶剤を添加し、正極活物質と、結着剤と、導電助剤とを溶剤中に分散させる。これにより、正極合剤スラリーを得る。
【0092】
次に、この正極合剤スラリーを正極集電体13Aに塗布し乾燥させたのち、ロールプレス機などにより圧縮成型して正極活物質層13Bを形成し、正極13を得る。なお、炭素材料などの導電助剤は、正極合剤を調製する際に必要に応じて混合する。
【0093】
[負極の製造方法]
次に、負極14は、以下のようにして作製する。まず、負極活物質と、結着剤とを混合して負極合剤を調製し、この負極合剤をN−メチル−2−ピロリドンなどの溶剤に分散させて負極合剤スラリーとする。次に、この負極合剤スラリーを負極集電体14Aに塗布し溶剤を乾燥させたのち、ロールプレス機などにより圧縮成型して負極活物質層14Bを形成し、負極14を得る。
【0094】
[非水電解質電池の組み立て方法]
この非水電解質電池は、例えば、次のようにして製造することができる。まず、正極13および負極14のそれぞれに、ヘテロポリ酸およびヘテロポリ酸化合物の少なくとも一方を添加した電解液と、高分子化合物と、混合溶剤とを含む前駆溶液を塗布し、混合溶剤を揮発させて電解質16を形成する。そののち、正極集電体13Aの端部に正極リード11を溶接により取り付けると共に、負極集電体14Aの端部に負極リード12を溶接により取り付ける。
【0095】
このとき、ヘテロポリ酸およびヘテロポリ酸化合物は、負極活物質100重量%に対してヘテロポリ酸およびヘテロポリ酸化合物は、負極活物質100重量%に対して0.01重量%以上5.0重量%以下添加することが好ましい。この範囲外に過剰にヘテロポリ酸およびヘテロポリ酸化合物を添加すると、非水電解質電池20の放電容量が低下してしまう。一方、この範囲外に微量にヘテロポリ酸およびヘテロポリ酸化合物を添加すると、この発明の目的である非水電解質電池の膨れ抑制効果や安全性が得られない。
【0096】
次に、電解質16が形成された正極13と負極14とをセパレータ15を介して積層し積層体としたのち、この積層体をその長手方向に巻回して、最外周部に保護テープ17を接着して巻回電極体10を形成する。最後に、例えば、外装部材1の間に巻回電極体10を挟み込み、外装部材1の外縁部同士を熱融着などにより密着させて封入する。その際、正極リード11および負極リード12と外装部材1との間には密着フィルム2を挿入する。これにより、図1および図2に示した非水電解質電池が完成する。
【0097】
また、この非水電解質電池は、次のようにして作製してもよい。まず、上述のようにして正極13および負極14を作製し、正極13および負極14に正極リード11および負極リード12を取り付ける。そして、正極13と負極14とをセパレータ15を介して積層して巻回し、最外周部に保護テープ17を接着して、巻回電極体10の前駆体である巻回電極体を形成する。次に、この巻回電極体を外装部材1に挟み、一辺を除く外周縁部を熱融着して袋状とし、外装部材1の内部に収納する。続いて、電解液と、高分子化合物の原料であるモノマーと、重合開始剤と、必要に応じて重合禁止剤などの他の材料とを含む電解質用組成物を用意し、外装部材1の内部に注液する。
【0098】
電解質用組成物を注入したのち、外装部材1の開口部を真空雰囲気下で熱融着して密封する。次に、熱を加えてモノマーを重合させて高分子化合物とすることによりゲル状の電解質16を形成し、図1および図2に示した非水電解質電池を組み立てる。
【0099】
作製した電池を充電もしくは予備充電することにより、負極14の表面にポリ酸およびポリ酸化合物の少なくとも一方が析出した、この発明の第1の実施の形態の非水電解質電池20が完成する。なお、実施例にて詳細に説明するように、電解液にヘテロポリ酸およびヘテロポリ酸化合物の少なくとも一方を添加しない場合には、析出物が確認されない。このため、負極上に析出する析出物は、ヘテロポリ酸およびヘテロポリ酸化合物の少なくとも一方に由来するものと考えられる。
【0100】
〔効果〕
この発明の第1の実施の形態の非水電解質電池によれば、電池内部でのガス発生を低減できる。また、電池内部でのガス発生を低減できるため、電池の膨れを抑制できる。
【0101】
2.第2の実施の形態
この発明の第2の実施の形態について説明する。この発明の第2の実施の形態による非水電解質電池20は、負極14のみでなく、正極13表面にもヘテロポリ酸およびヘテロポリ酸化合物の少なくとも一方が析出し、かつ正極13の表面における析出物が、負極14表面における析出物よりも酸化状態にあるものである。
【0102】
[正極]
正極13は、例えば、正極集電体13Aと、この正極集電体13Aの両面に設けられた正極活物質層13Bとを有している。正極集電体13Aは、例えば、アルミニウム箔などの金属箔を用いることができる。正極活物質層13Bは、正極活物質と、炭素材料などの導電助剤およびポリフッ化ビニリデンまたはポリテトラフルオロエチレンなどの結着剤を含む。この構成は、第1の実施の形態と同様である。
【0103】
第2の実施の形態では、第1の実施の形態と同様に、負極14の表面にポリ酸およびポリ酸化合物の少なくとも一方が析出している。また、析出したポリ酸およびポリ酸化合物の少なくとも一方のうちの一部が還元され、ポリ原子の価数が6価未満になっている。一方で、還元されず、ポリ原子イオンの価数にして6価として存在するポリ酸およびポリ酸化合物の少なくとも一方も同時に存在している。
【0104】
また、正極13の表面にもポリ酸およびポリ酸化合物の少なくとも一方が析出している。そして、正極13の表面に析出したポリ酸、ポリ酸化合物のポリ酸原子イオンは、負極14に析出したポリ酸およびポリ酸化合物の少なくとも一方に含まれるポリ原子イオンに比較して酸化状態となっている。すなわち、正極13の表面に析出したポリ酸、ポリ酸化合物のポリ酸原子イオンの平均価数は、負極14に析出したポリ酸およびポリ酸化合物の少なくとも一方に含まれるポリ原子イオンの平均価数に比較して大きくなっている。
【0105】
〔効果〕
第2の実施の形態のように、非還元状態と還元状態のポリ原子イオンを含むポリ酸および/またはポリ酸化合物が析出した負極14と、負極14における析出物よりも酸化状態にあるポリ原子イオンを含むポリ酸および/またはポリ酸化合物が析出した正極13とを備えることにより、ガス発生を低下させることができる。
【0106】
3.第3の実施の形態
この発明の第3の実施の形態について説明する。この発明の第3の実施の形態による非水電解質電池20は、負極14とセパレータ1とが析出物によって固定されることにより、さらに高い安全性を有する。
【0107】
第3の実施の形態における非水電解質電池20は、第1の実施の形態と同様にして扁平型の巻回電極体10を作製し、外装部材1で外装する。この後、例えば巻回電極体10の上面及び底面から型押しして、充電時に非水電解質電池20が膨張しない状態で予備充電を行うことにより製造することができる。なお、外部から型押ししながら予備充電を行うことにより、負極14とセパレータ15とがより強く固定される。このため、セパレータ15の収縮がより起こりにくくなる。なお、第1の実施の形態と同様に、負極14上に析出する析出物は、ヘテロポリ酸およびヘテロポリ酸化合物の少なくとも一方の電解によるものである。
【0108】
〔効果〕
第3の実施の形態のように、析出したポリ酸および/またはポリ酸化合物により負極14とセパレータ15とが固定されることにより、セパレータ15の収縮を抑制することができる。これにより、電池が異常発熱した場合でも、正極13と負極14とが接触して急激に大電流が流れることを防止し、非水電解質電池20の瞬間的な発熱を抑制することができる。また、負極表面に析出したこの発明のヘテロポリ酸および/またはヘテロポリ酸化合物により、ガス発生を抑制することもできる。
【0109】
4.第4の実施の形態
この発明の第4の実施の形態について説明する。この発明の第4の実施の形態による非水電解質電池20は、第1実施の形態の非水電解質電池20において、ゲル状の電解質16に代えて電解液を用いるものである。この場合、電解液はセパレータ15に含浸される。電解液としては、上述の第1の実施形態と同様のものを用いることができる。
【0110】
このような構成を有する非水電解質電池20は、例えば以下のようにして作製することができる。まず、正極13および負極14を作製する。正極13および負極14の作製は、第1の実施の形態の説明と同様であるので、ここでは詳細な説明を省略する。
【0111】
次に、正極13および負極14に、正極リード11および負極リード12を取り付けたのち、正極13と負極14とをセパレータ15を介して積層して巻回し、最外周部に保護テープ17を接着する。
【0112】
これにより、巻回電極体10の構成において、電解質16を省略した構成の巻回電極体を得る。この巻回電極体を外装部材1の間に挟み込んだのち、電解液を注入して外装部材1を密閉する。作製した電池を充電もしくは予備充電することにより、負極14の表面にポリ酸およびポリ酸化合物の少なくとも一方が析出した、この発明の第4の実施の形態の非水電解質電池20が完成する。
【0113】
〔効果〕
この発明の第4の実施形態では、上述の第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。すなわち、この発明の第4の実施の形態では、電解液のガス発生を抑制し、電池の膨れを抑制できる。
【0114】
5.第5の実施の形態
次に、図6〜図7を参照しながら、この発明の第5の実施の形態による非水電解質電池20の構成について説明する。図6は、この発明の第5の実施の形態による非水電解質電池20の構成を示す。
【0115】
(5−1)非水電解質電池の構成
この非水電解質電池20は、いわゆる円筒型といわれるものであり、ほぼ中空円柱状の電池缶21の内部に、帯状の正極31と帯状の負極32とがセパレータ33を介して巻回された巻回電極体30を有している。
【0116】
セパレータ33には、液状の電解質である電解液が含浸されている。電池缶21は、例えばニッケル(Ni)のめっきがされた鉄(Fe)により構成されており、一端部が閉鎖され他端部が開放されている。電池缶21の内部には、巻回電極体30を挟むように巻回周面に対して垂直に一対の絶縁板22、23がそれぞれ配置されている。
【0117】
電池缶21の開放端部には、電池蓋24と、この電池蓋24の内側に設けられた安全弁機構25および熱感抵抗(PTC:Positive Temperature Coefficient)素子26とが、ガスケット27を介してかしめられることにより取り付けられている。これにより、電池缶21の内部は密閉されている。
【0118】
電池蓋24は、例えば、電池缶21と同様の材料により構成されている。安全弁機構25は、熱感抵抗素子26を介して電池蓋24と電気的に接続されている。安全弁機構25は、内部短絡あるいは外部からの加熱などにより電池の内圧が一定以上となった場合にディスク板25Aが反転して電池蓋24と巻回電極体30との電気的接続を切断するようになっている。
【0119】
熱感抵抗素子26は、温度が上昇すると抵抗値の増大により電流を制限し、大電流による異常な発熱を防止するものである。ガスケット27は、例えば、絶縁材料により構成されており、表面にはアスファルトが塗布されている。
【0120】
巻回電極体30は、例えば、センターピン34を中心に巻回されている。巻回電極体30の正極31にはアルミニウム(Al)などよりなる正極リード35が接続されており、負極32にはニッケル(Ni)などよりなる負極リード36が接続されている。正極リード35は安全弁機構25に溶接されることにより電池蓋24と電気的に接続されており、負極リード36は電池缶21に溶接され電気的に接続されている。
【0121】
図7は、図6に示した巻回電極体30の一部を拡大して表す断面図ある。巻回電極体30は、正極31と負極32とをセパレータ33を介して積層し、巻回したものである。
【0122】
正極31は、例えば、正極集電体31Aと、この正極集電体31Aの両面に設けられた正極活物質層31Bとを有している。負極32は、例えば、負極集電体32Aと、この負極集電体32Aの両面に設けられた負極活物質層32Bとを有している。正極集電体31A、正極活物質層31B、負極集電体32A、負極活物質層32B、セパレータ33および電解液の構成はそれぞれ、上述の第1の実施形態における正極集電体13A、正極活物質層13B、負極集電体14A、負極活物質層14B、セパレータ15および電解液と同様である。
【0123】
(5−2)非水電解質電池の製造方法
次に、この発明の第5の実施の形態による非水電解質電池20の製造方法について説明する。正極31は、以下のようにして作製する。まず、正極活物質と、結着剤を混合して正極合剤を調製し、この正極合剤をN−メチル−2−ピロリドンなどの溶剤に分散さあて正極合剤スラリーを調製する。次に、この正極合剤スラリーを正極集電体31Aに塗布しを乾燥させたのち、ロールプレス機などにより圧縮成型して正極活物質層31Bを形成し、正極31を得る。
【0124】
負極32は、以下のようにして作製する。まず、負極活物質と、結着剤とを混合して負極合剤を調製し、この負極合剤をN−メチル−2−ピロリドンなどの溶剤に分散させて負極合剤スラリーとする。次に、この負極合剤スラリーを負極集電体32Aに塗布し溶剤を乾燥させたのち、ロールプレス機などにより圧縮成型して負極活物質層32Bを形成し、負極32を得る。
【0125】
次に、正極集電体31Aに正極リード35を溶接などにより取り付けると共に、負極集電体32Aに負極リード36を溶接などにより取り付ける。その後、正極31と負極32とをセパレータ33を介して巻回し、正極リード35の先端部を安全弁機構25に溶接すると共に、負極リード36の先端部を電池缶21に溶接する。
【0126】
そして、巻回した正極31および負極32を一対の絶縁板22、23で挟み、電池缶21の内部に収納する。正極31および負極32を電池缶21の内部に収納したのち、ヘテロポリ酸およびヘテロポリ酸化合物の少なくとも一方を含む電解質を電池缶21の内部に注入し、セパレータ33に含浸させる。なお、ヘテロポリ酸およびヘテロポリ酸化合物の少なくとも一方の混合量等は、第1の実施の形態と同様であるので詳細な説明を省略する。
【0127】
その後、電池缶21の開口端部に電池蓋24、安全弁機構25および熱感抵抗素子26を、ガスケット27を介してかしめることにより固定する。作製した電池を充電もしくは予備充電することにより、負極14の表面にポリ酸およびポリ酸化合物の少なくとも一方が析出した、この発明の第5の実施の形態の非水電解質電池20が完成する。
【0128】
〔効果〕
この発明の第5の実施の形態による非水電解質電池20では、ガス発生を抑制し、内圧の上昇による破損を防止できる。
【0129】
6.第6の実施の形態
この発明の第6の実施の形態による非水電解質電池20の構成例について説明する。この発明の第6の実施の形態による非水電解質電池20は、図8に示すように、角型の形状を有する。
【0130】
この非水電解質電池20は、以下のようにして作製する。図8に示すように、まず、巻回電極体53を例えばアルミニウム(Al)、鉄(Fe)などの金属よりなる角型缶である外装缶51内に収容する。
【0131】
そして、電池蓋52に設けられた電極ピン54と、巻回電極体53から導出された電極端子55とを接続した後、電池蓋52にて封口し、電解液注入口56から電解液を注入して封止部材57にて封止する。作製した電池を充電もしくは予備充電することにより、負極14の表面にポリ酸およびポリ酸化合物の少なくとも一方が析出した、この発明の第6の実施の形態の非水電解質電池20が完成する。
【0132】
なお、巻回電極体53は、正極および負極をセパレータを介して積層し、巻回することによって得られる。正極、負極、セパレータおよび電解液は、第1の実施の形態と同様であるので、詳細な説明を省略する。
【0133】
[効果]
この発明の第6の実施の形態による非水電解質電池20では、電解液のガス発生を抑制し、ガス発生によって生じる内圧の上昇による破損を防止できる。
【0134】
7.第7の実施の形態
この発明の第7の実施の形態について説明する。この発明の第7の実施の形態では、第1の実施の形態の非水電解質電池20において、ヘテロポリ酸および/またはヘテロポリ酸化合物を電解質ではなく負極活物質層14Bに混合させる例を説明する。なお、第7の実施の形態では、第1の実施の形態と異なる点のみ説明する。
【0135】
(7−1)非水電解質電池の構成
[負極]
負極活物質層14Bは、例えば、負極活物質としてリチウムを吸蔵および放出することが可能な負極材料のいずれか1種または2種以上と、上述のヘテロポリ酸およびヘテロポリ酸化合物の少なくとも一方とを含んで構成されており、必要に応じて導電助剤および結着剤を含んでいてもよい。ヘテロポリ酸およびヘテロポリ酸化合物の少なくとも一方は、電解により分解する。そして、価数が6価のポリ原子イオンと、価数が6価未満のポリ原子イオンの双方を共に含むポリ酸およびポリ酸化合物の少なくとも一方が負極14の表面に析出する。また、ポリ酸およびポリ酸化合物が負極活物質粒子間に含まれていてもよい。また、ポリ酸およびポリ酸化合物の析出量の最適範囲は、負極活物質の100重量%に対して、0.01重量%以上5.0重量%以下であることが好ましい。ポリ酸およびポリ酸化合物の析出量は、NMRにより検出することができる。なお、ポリ酸の重量は、ポリ酸が有する結合水の重量を除いた値とする。また、同様に、ポリ酸化合物の重量は、ポリ酸化合物が有する結合水の重量を除いた値とする。
【0136】
なお、負極14の表面に析出したポリ酸またはポリ酸化合物は、第1の実施の形態と同様に、負極集電体14A上に析出した析出物の組成を検出することにより確認することができる。また、析出したポリ酸およびポリ酸化合物の還元状態は、第1の実施の形態と同様に、X線光電子分光(XPS)分析により確認することができる。
【0137】
[電解質]
電解質は、電解質塩と、この電解質塩を溶解する溶媒とを含んだ電解液である。第7の実施の形態では、電解質にヘテロポリ酸およびヘテロポリ酸化合物の少なくとも一方を添加しないようにする。
【0138】
(7−2)非水電解質電池の製造方法
以下、この発明の非水電解質電池の製造方法について説明する。第7の実施形態の製造方法では、ゲル電解質を用いる場合について説明する。
【0139】
[負極の製造方法]
負極14は、以下のようにして作製する。まず、負極活物質と、結着剤と、必要に応じて導電助剤とを混合する。また、ヘテロポリ酸およびヘテロポリ酸化合物の少なくとも一方を、N−メチル−2−ピロリドンなどの溶剤に溶解して溶液を調製する。このとき、ヘテロポリ酸およびヘテロポリ酸化合物は、負極活物質100重量%に対して0.01重量%以上5.0重量%以下添加することが好ましい。なお、ヘテロポリ酸の重量は、ヘテロポリ酸が有する結合水の重量を除いた値とする。また、同様に、ヘテロポリ酸化合物の重量は、ヘテロポリ酸化合物が有する結合水の重量を除いた値とする。この範囲外に過剰にヘテロポリ酸およびヘテロポリ酸化合物を添加すると、非水電解質電池20の放電容量が低下してしまう。一方、この範囲外に微量にヘテロポリ酸およびヘテロポリ酸化合物を添加すると、この発明の目的である非水電解質電池の膨れ抑制効果や安全性が得られない。
【0140】
次に、この溶液と、上記の混合物とを混合して負極合剤を調製し、この負極合剤をN−メチル−2−ピロリドンなどの溶剤に分散させて負極合剤スラリーとする。次に、この負極合剤スラリーを負極集電体14Aに塗布し溶剤を乾燥させたのち、ロールプレス機などにより圧縮成型して負極活物質層14Bを形成し、負極14を得る。
【0141】
[電解質および非水電解質電池の製造方法]
電解質は、以下のようにして作製する。まず、非水溶媒と、電解質塩とを混合して電解液を作製する。そして、作製した電解液と高分子化合物と希釈溶剤とを混合してゾル状の前駆溶液を調製する。続いて、ゾル状の前駆溶液を正極活物質層11Bおよび負極活物質層12Bのそれぞれの表面に塗布し、その後、前駆溶液中の希釈溶剤を揮発させる。これにより、ゲル状の電解質層を形成する。
【0142】
続いて、ゲル電解質層を形成した正極13および負極14のそれぞれについて、正極集電体13Aの端部に正極リード11を溶接により取り付けると共に、負極集電体14Aの端部に負極リード12を溶接により取り付ける。
【0143】
次に、ゲル電解質層が形成された正極13と負極14とをセパレータ15を介して積層し積層体としたのち、この積層体をその長手方向に巻回して巻回電極体10を形成する。最後に、例えば、外装部材1の間に巻回電極体10を挟み込み、外装部材1の外縁部同士を熱融着などにより密着させて封入する。その際、正極リード11および負極リード12と外装部材1との間には密着フィルム2を挿入する。さらに、作製した電池を充電もしくは予備充電する。これにより、負極14の表面にポリ酸およびポリ酸化合物の少なくとも一方の還元物が析出した、この発明の第7の実施の形態の非水電解質電池20が完成する。なお、第1の実施の形態と同様に、負極上に析出する析出物は、ヘテロポリ酸およびヘテロポリ酸化合物の少なくとも一方に由来するものと考えられる。
【0144】
また、ゲル電解質層は次のようにして作製してもよい。まず、上述のようにして正極13および負極14を作製し、正極13および負極14に正極リード11および負極リード12を取り付ける。そして、正極13と負極14とをセパレータ15を介して積層して巻回し、巻回電極体10を形成する。次に、この巻回電極体10を外装部材1に挟み、一辺を除く外周縁部を熱融着して袋状とし、外装部材1の内部に収納する。続いて、電解液と、高分子化合物の原料であるモノマーと、重合開始剤と、必要に応じて重合禁止剤などの他の材料とを含む電解質用組成物を用意し、外装部材1の内部に注液する。
【0145】
電解質用組成物を注入したのち、外装部材1の開口部を真空雰囲気下で熱融着して密封する。次に、熱を加えてモノマーを重合させて高分子化合物とすることによりゲル電解質を形成する。
【0146】
〔効果〕
この発明の第7の実施の形態では、上述の第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。すなわち、この発明の第7の実施の形態では、正極13および負極14の接触を抑制し、瞬間的に大電流が流れて電池温度が急激に上昇することを抑制する。さらに、電解液の分解によるガス発生に伴う電池の膨れを抑制できる。
【0147】
8.第8の実施の形態
この発明の第8の実施の形態について説明する。この発明の第8の実施の形態では、第1の実施の形態の非水電解質電池20において、ヘテロポリ酸およびヘテロポリ酸化合物の少なくとも一方を電解質ではなく正極活物質層11Bに混合させる例を説明する。なお、第8の実施の形態では、第1の実施の形態と異なる点のみ説明する。
【0148】
(8−1)非水電解質電池の構成
[正極]
正極13は、例えば、正極集電体13Aと、この正極集電体13Aの両面に設けられた正極活物質層13Bとを有している。正極集電体13Aは、例えば、アルミニウム箔などの金属箔を用いることができる。正極活物質層13Bは、正極活物質と、炭素材料などの導電助剤およびポリフッ化ビニリデンまたはポリテトラフルオロエチレンなどの結着剤と、上述のヘテロポリ酸およびヘテロポリ酸化合物の少なくとも一方とを含んで構成されている。
【0149】
[負極]
負極活物質層14Bは、例えば、負極活物質としてリチウムを吸蔵および放出することが可能な負極材料のいずれか1種または2種以上を含んで構成されており、必要に応じて導電助剤および結着剤を含んでいてもよい。正極に添加したヘテロポリ酸およびヘテロポリ酸化合物の少なくとも一方の一部は、電解により6価および6価未満のポリ原子イオンの双方を含むポリ酸およびポリ酸化合物として、負極14の表面に析出する。また、ポリ酸やポリ酸化合物が負極活物質粒子間に含まれていてもよい。
【0150】
ポリ酸およびポリ酸化合物析出量の最適範囲は、負極活物質の100重量%に対して、0.01重量%以上5.0重量%以下であることが好ましい。ポリ酸およびポリ酸化合物の析出量はNMRにより検出することができる。なお、ポリ酸の重量は、ポリ酸が有する結合水の重量を除いた値とする。また、同様に、ポリ酸化合物の重量は、ポリ酸化合物が有する結合水の重量を除いた値とする。
【0151】
なお、負極14の表面に析出したポリ酸およびポリ酸化合物は、第1の実施の形態と同様に、負極集電体14A上に析出した析出物の組成を検出することにより確認することができる。また、析出したポリ酸およびポリ酸化合物の還元状態は、第1の実施の形態と同様に、X線光電子分光(XPS)分析により確認することができる。
【0152】
[電解質]
電解質は、電解質塩と、この電解質塩を溶解する溶媒とを含んだ電解液である。第8の実施の形態では、電解質にヘテロポリ酸およびヘテロポリ酸化合物の少なくとも一方を添加しないようにする。
【0153】
(8−2)非水電解質電池の製造方法
以下、この発明の非水電解質電池の製造方法について説明する。第8の実施形態の製造方法では、ゲル電解質を用いる場合について説明する。
【0154】
[正極の製造方法]
正極13を以下のように製造する。まず、正極活物質と、結着剤と、炭素材料などの導電助剤と、ヘテロポリ酸およびヘテロポリ酸化合物の少なくとも一方とを混合して正極合剤を調製し、この正極合剤をN−メチル−2−ピロリドンなどの溶剤に分散して正極合剤スラリーを調製する。結着剤は、ポリフッ化ビニリデンまたはポリテトラフルオロエチレンなどを用いる。
【0155】
より具体的には、例えば、まず、正極活物質と、結着剤と、導電助剤とを混合する。また、ヘテロポリ酸およびヘテロポリ酸化合物の少なくとも一方を、N−メチル−2−ピロリドンなどの溶剤に溶解して溶液を調製する。次に、この溶液と、上記の混合物とを混合して正極合剤を調製する。
【0156】
次に、この正極合剤に対して、さらにN−メチル−2−ピロリドンなどの溶剤を添加し、正極活物質と、結着剤と、導電助剤と、ヘテロポリ酸およびヘテロポリ酸化合物の少なくとも一方とを溶剤中に分散させる。これにより、正極合剤スラリーを得る。
【0157】
次に、この正極合剤スラリーを正極集電体13Aに塗布し乾燥させたのち、ロールプレス機などにより圧縮成型して正極活物質層13Bを形成し、正極13を得る。なお、炭素材料などの導電助剤は、正極合剤を調製する際に必要に応じて混合する。
【0158】
[負極の製造方法]
負極14は、以下のようにして作製する。まず、負極活物質と、結着剤と、必要に応じて導電助剤とを混合する。
【0159】
次に、この溶液と、上記の混合物とを混合して負極合剤を調製し、この負極合剤をN−メチル−2−ピロリドンなどの溶剤に分散させて負極合剤スラリーとする。次に、この負極合剤スラリーを負極集電体14Aに塗布し溶剤を乾燥させたのち、ロールプレス機などにより圧縮成型して負極活物質層14Bを形成し、負極14を得る。
【0160】
[電解質および非水電解質電池の製造方法]
電解質は、以下のようにして作製する。まず、非水溶媒と、電解質塩とを混合して電解液を作製する。そして、作製した電解液と高分子化合物と希釈溶剤とを混合してゾル状の前駆溶液を調製する。続いて、ゾル状の前駆溶液を正極活物質層11Bおよび負極活物質層12Bのそれぞれの表面に塗布し、その後、前駆溶液中の希釈溶剤を揮発させる。これにより、ゲル状の電解質層を形成する。
【0161】
続いて、ゲル電解質層を形成した正極13および負極14のそれぞれについて、正極集電体13Aの端部に正極リード11を溶接により取り付けると共に、負極集電体14Aの端部に負極リード12を溶接により取り付ける。
【0162】
次に、ゲル電解質層が形成された正極13と負極14とをセパレータ15を介して積層し積層体としたのち、この積層体をその長手方向に巻回して巻回電極体10を形成する。最後に、例えば、外装部材1の間に巻回電極体10を挟み込み、外装部材1の外縁部同士を熱融着などにより密着させて封入する。その際、正極リード11および負極リード12と外装部材1との間には密着フィルム2を挿入する。さらに、作製した電池を充電もしくは予備充電する。これにより、負極14の表面にポリ酸およびポリ酸化合物の少なくとも一方の還元物が析出した、この発明の第8の実施の形態の非水電解質電池20が完成する。なお、第1の実施の形態と同様に、負極上に析出する析出物は、ヘテロポリ酸およびヘテロポリ酸化合物の少なくとも一方に由来するものと考えられる。
【0163】
また、ゲル電解質層は次のようにして作製してもよい。まず、上述のようにして正極13および負極14を作製し、正極13および負極14に正極リード11および負極リード12を取り付ける。そして、正極13と負極14とをセパレータ15を介して積層して巻回し、巻回電極体10を形成する。次に、この巻回電極体10を外装部材1に挟み、一辺を除く外周縁部を熱融着して袋状とし、外装部材1の内部に収納する。続いて、電解液と、高分子化合物の原料であるモノマーと、重合開始剤と、必要に応じて重合禁止剤などの他の材料とを含む電解質用組成物を用意し、外装部材1の内部に注液する。
【0164】
電解質用組成物を注入したのち、外装部材1の開口部を真空雰囲気下で熱融着して密封する。次に、熱を加えてモノマーを重合させて高分子化合物とすることによりゲル電解質を形成する。
【0165】
〔効果〕
この発明の第8の実施の形態では、上述の第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。すなわち、この発明の第8の実施の形態では、正極13および負極14の接触を抑制し、瞬間的に大電流が流れて電池温度が急激に上昇することを抑制する。さらに、電解液の分解によるガス発生に伴う電池の膨れを抑制できる。
【0166】
9.第9の実施の形態
この発明の第9の実施の形態による非水電解質電池について説明する。第6の実施の形態における非水電解質電池は、電極体が正極および負極が積層されてラミネートフィルムで外装されたラミネートフィルム型非水電解質電池であり、電極体の構成以外は第3の実施の形態と同様である。このため、以下では、第9の実施の形態の電極体についてのみ説明する。
【0167】
[正極および負極]
図9に示すように、正極61は、矩形状の正極集電体の両面に正極活物質層を形成することにより得られる。正極61の正極集電体は、正極端子と一体に形成されていることが好ましい。また負極62も同様に、矩形状の負極集電体上に負極活物質層が形成されてなる。
【0168】
正極61および負極62は、正極61、セパレータ63、負極62およびセパレータ63の順に積層され、積層電極体60とされる。積層電極体60は、絶縁テープ等を貼着することにより電極の積層状態を維持するようにしても良い。積層電極体60は、ラミネートフィルム等に外装され、非水電解液と共に電池内に密封される。また、非水電解液の代わりにゲル電解質を用いてもよい。
【0169】
10.他の実施の形態(変形例)
この発明は、上述した。この発明の実施形態に限定されるものでは無く、この発明の要旨を逸脱しない範囲内で様々な変形や応用が可能である。例えば、非水電解質電池の形状は、上述のものに限定されるものではない。例えば、コイン型などであってもよい。
【0170】
また、例えば、イオン伝導性高分子材料から構成される高分子固体電解質、またはイオン伝導性を有する無機材料から構成される無機固体電解質などを、電解質として用いてもよい。イオン伝導性高分子材料としては、例えば、ポリエーテル、ポリエステル、ポリフォスファゼン、あるいはポリシロキサンなどを挙げることができる。また、無機固体電解質としては、例えばイオン伝導性セラミックス、イオン伝導性結晶あるいはイオン伝導性ガラスなどを挙げることができる。
【実施例】
【0171】
以下、実施例によりこの発明を具体的に説明するが、この発明はこれらの実施例のみに
限定されるものではない。なお、ヘテロポリ酸の重量は、ヘテロポリ酸が有する結合水の重量を除いた値とする。また、同様に、ヘテロポリ酸化合物の重量は、ヘテロポリ酸化合物が有する結合水の重量を除いた値とする。
【0172】
[実施例1:正極にケイタングステン酸を添加して負極表面にポリ酸およびポリ酸化合物の少なくとも一方を析出させる場合]
<サンプル1−1>
まず、平均組成がLi0.98Co0.15Ni0.80Al0.052である複合酸化物粒子からなる正極活物質90質量部と、導電剤であるグラファイト5質量部と、結着剤であるポリフッ化ビニリデン5質量部とを混合した。
【0173】
続いて、ケイタングステン酸(H4(SiW1240))をN−メチル−2−ピロリドンに溶解し、10重量%ケイタングステン酸溶液を作製した。そして、ケイタングステン酸の添加量が上記正極活物質の0.005重量%に対応するケイタングステン酸溶液を、上述の混合物に添加した。さらに、この混合物に分散媒であるN−メチル−2−ピロリドンを所望量添加し、分散させてスラリー状の正極合剤を作製した。
【0174】
この正極合剤スラリーを、厚み20μmのアルミニウム箔よりなる正極集電体の両面に均一に塗布して乾燥させ、ロールプレス機で圧縮成型して正極活物質層を形成し、正極を
作製した。続いて、正極の正極集電体露出部分に正極リードを取り付けた。
【0175】
次に、負極活物質として粉砕した黒鉛粉末95質量部と、結着剤としてポリフッ化ビニリデン5質量部とを混合して負極合剤を調製し、さらにこれを分散媒であるN−メチル−2−ピロリドンに分散させて負極合剤スラリーとした。次に、この負極合剤スラリーを、厚み15μmの銅箔よりなる負極集電体の両面に均一に塗布して乾燥させ、ロールプレス機で圧縮成型して負極活物質層を形成し、負極を作製した。続いて、負極の負極集電体露出部分に負極リードを取り付けた。
【0176】
次に、作製した正極および負極を、厚み25μmの微孔性ポリエチレンフィルムよりなるセパレータを介して密着させ、長手方向に巻回して、最外周部に保護テープを貼り付けることにより、巻回電極体を作製した。続いて、この巻回電極体を外装部材の間に装填し、外装部材の3辺を熱融着し、一辺は熱融着せずに開口を有するようにした。外装部材には、最外層から順に25μm厚のナイロンフィルムと、40μm厚のアルミニウム箔と、30μm厚のポリプロピレンフィルムとが積層されてなる防湿性のアルミラミネートフィルムを用いた。
【0177】
続いて、質量比がエチレンカーボネート(EC):エチルメチルカーボネート(EMC)=5:5となるようにして混合した溶媒に、電解質塩として六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)を1mol/lとなるように溶解させて電解液を作製した。この電解液を外装部材の開口から注入し、外装部材の残りの1辺を減圧下において熱融着し、密封して二次電池を作製した。
【0178】
次に、作製された電池を100mAで3.2Vまで予備充電し、ケイタングステン酸の電解還元を行なった。このとき、電池を解体することにより、負極表面にゲル状の被膜が形成されていることが確認できた。なお、この段階における正極の容量変化は無視できる微量である。これにより、負極上に、タングステン化合物が析出した試験用二次電池を作製した。
【0179】
<サンプル1−2>
ケイタングステン酸の添加量を正極活物質の0.20重量%とした以外は、サンプル1−1と同様にして二次電池を作製した。
【0180】
<サンプル1−3>
ケイタングステン酸の添加量を正極活物質の0.50重量%とした以外は、サンプル1−1と同様にして二次電池を作製した。
【0181】
<サンプル1−4>
ケイタングステン酸の添加量を正極活物質の1.0重量%とした以外は、サンプル1−1と同様にして二次電池を作製した。
【0182】
<サンプル1−5>
ケイタングステン酸の添加量を正極活物質の3.0重量%とした以外は、サンプル1−1と同様にして二次電池を作製した。
【0183】
<サンプル1−6>
ケイタングステン酸の添加量を正極活物質の5.0重量%とした以外は、サンプル1−1と同様にして二次電池を作製した。
【0184】
<サンプル1−7>
ケイタングステン酸の添加量を正極活物質の7.0重量%とした以外は、サンプル1−1と同様にして二次電池を作製した。
【0185】
<サンプル1−8>
ケイタングステン酸の添加を行わなかった以外は、サンプル1−1と同様にして二次電池を作製した。
【0186】
<サンプル1−9>
平均組成がLi1.02Co0.98Mg0.01Al0.012である正極活物質を用い、ケイタングステン酸の添加量を正極活物質の0.005重量%とした以外は、サンプル1−1と同様にして二次電池を作製した。なお、サンプル1−1と同様にして予備充電を行った後、電池を解体したところ、負極表面には析出物等が確認されなかった。
【0187】
<サンプル1−10>
ケイタングステン酸の添加量を正極活物質の0.2重量%とした以外は、サンプル1−9と同様にして二次電池を作製した。
【0188】
<サンプル1−11>
ケイタングステン酸の添加量を正極活物質の0.5重量%とした以外は、サンプル1−9と同様にして二次電池を作製した。
【0189】
<サンプル1−12>
ケイタングステン酸の添加量を正極活物質の1.0重量%とした以外は、サンプル1−9と同様にして二次電池を作製した。
【0190】
<サンプル1−13>
ケイタングステン酸の添加を行わなかった以外は、サンプル1−9と同様にして二次電池を作製した。
【0191】
[二次電池の評価:電池の膨れ量]
各サンプルの二次電池を、23℃の環境下において880mAの定電流で電池電圧が4.2Vに達するまで定電流充電を行ったのち、4.2Vの定電圧で電流値が1mAに達するまで定電圧充電を行った。この後、満充電状態の二次電池を80℃の環境下で4日間保存した。このときの二次電池の厚みの変化量を高温保存時の電池の膨れ量として測定した。
【0192】
[二次電池の評価:放電容量]
正極活物質としてLi0.98Co0.15Ni0.80Al0.052を用いたサンプル1−1ないし1−8の二次電池について、放電容量の測定を行った。まず、23℃の環境下において880mAの定電流で各二次電池の電池電圧が4.2Vに達するまで定電流充電を行ったのち、4.2Vの定電圧で電流値が1mAに達するまで定電圧充電を行った。続いて、0.2Cでの放電を行い、電池電圧が3.0Vに達するまでの放電容量を測定した。
【0193】
[二次電池の評価:タングステンイオンの価数]
各サンプルの二次電池を、23℃の環境下において880mAの定電流で各二次電池の電池電圧が4.2Vに達するまで定電流充電を行ったのち、4.2Vの定電圧で電流値が1mAに達するまで定電圧充電を行った。続いて、電池電圧が3.0Vに達するまで0.2Cでの放電を行ったのち、不活性雰囲気中で電池を解体し、取り出した正極および負極をジメチルカーボネートで30秒間洗浄した。その後、正極および負極表面のXPS(X-ray Photoelectron Spectroscopy;X線光電子分光法)分析を行い、6価のタングステンイオンおよび6価未満のタングステンイオンが存在するかどうかを調査した。
【0194】
具体的には、測定したスペクトルに対し市販のソフトウェアを用いた波形解析を行うことで、タングステンの4f7/2と4f5/2、さらに共存元素であるフッ素の2sの内殻電子に帰属されるピークを分離し、4f7/2の内殻電子に帰属されるピークが存在するエネルギー位置を確認した。この際、4f7/2と4f5/2のピーク面積比を、スピン軌道相互作用分裂からの理論値である4:3という値とした。そして32.0以上35.4eV以下の結合エネルギー範囲に4f7/2のピークが存在する場合には6価未満のタングステンイオンが、35.4以上36.9eV以下の結合エネルギー範囲に4f7/2のピークが存在する場合には6価のタングステンイオンが存在するものとした。
【0195】
この際、XPS分析装置として、アルバックファイ社製のQUANTERA SXMを用いた。また、分析条件としては、モノクロ化したAl−kα線(1486.6eV,ビームサイズ約100μmΦ)を照射し、光電子スペクトルを測定した。帯電中和処理は行っていない。スペクトルのエネルギー補正にはフッ素1sピークを用いた。具体的には、サンプルのF1sスペクトルを測定し、波形解析を行い、最低束縛エネルギー側に存在する主ピークの位置を685.1eVとした。波形解析には市販のソフトウェアを用いた。
【0196】
参考までに、図10に、XPSを用いたサンプル1−3の正負極表面のXPS分析結果を示した。
【0197】
以下の表1に、評価の結果を示す。
【0198】
【表1】

【0199】
サンプル1−1ないし1−7、およびサンプル1−9ないし1−12は、正極にケイタングステン酸を添加して作製された二次電池である。表1に示すXPS分析の結果から、これらの二次電池においては、正負極の表面にタングステン化合物が存在していることが確認された。また、タングステンイオンの価数は正極では6価としてのみ存在したのに対し、負極では価数が6価未満のタングステンイオンと、価数が6価のタングステンイオンとが共に含まれていた。したがって、正極に添加したケイタングステン酸の一部が溶出することで、負極表面に正極と比べ平均的に還元されたタングステン化合物が析出して存在することが確認された。
【0200】
表1に示すように、正極にケイタングステン酸を添加し、負極表面にタングステン化合物が析出するように構成された二次電池は、ケイタングステン酸を含有しないサンプル1−8および1−13の二次電池と比較して電池膨れが抑制できることが分かった。特に、負極表面に、6価および6価未満のタングステンイオンを共に有するようにタングステン化合物が析出するように構成された二次電池は、価数が6価未満のタングステンイオンのみが存在するサンプル1−1および1−9の二次電池と比較して、顕著に電池膨れが抑制できることが分かった。
【0201】
サンプル1−1ないし1−8は、正極活物質としてLi0.98Co0.15Ni0.80Al0.052を用いたものである。表1に示すように、価数が6価および6価未満のタングステンイオンを共に有するようにタングステン化合物を析出させることにより、ケイタングステン酸を添加しないサンプル1−8および、6価のタングステンイオンが存在しないサンプル1−1と比べ、電池の膨れ量が小さくなることが分かった。そして、ケイタングステン酸の添加量が多くなるほど電池膨れを抑制する効果が高くなり、添加量が1.0重量%以上の場合には略同等の効果を維持することが分かった。さらに、ケイタングステン酸の添加量が増えるにつれて放電容量が低下し、例えば添加量7.0重量%では放電容量が急激に低下した。
【0202】
サンプル1−9ないし1−13は、正極活物質としてLi1.02Co0.98Mg0.01Al0.012を用いたものであり、サンプル1−1ないし1−8と同様に、価数が6価および6価未満のタングステンイオンを共に有するようにタングステン化合物を析出させた場合において、電池膨れを抑制することができた。
【0203】
サンプル1−8および1−13を比較して分かるように、ニッケル(Ni)の含有量が
多い正極活物質を用いた場合、ガス発生量が多く電池膨れが大きくなる。しかしながら、同量のケイタングステン酸を添加したサンプル1−4および1−12では、電池膨れ量は略同等であり、ニッケル(Ni)含有量が多い正極活物質を用いた二次電池に対して特に顕著な電池膨れ抑制効果があることが分かった。
【0204】
[実施例2:正極にリンモリブデン酸を添加して負極表面にポリ酸およびポリ酸化合物の少なくとも一方を析出させる場合]
【0205】
<サンプル2−1>
添加剤としてリンモリブデン酸(H3(PMo1240)を正極活物質の0.005重量%添加した。これ以外は、サンプル1−1と同様にして二次電池を作製した。
【0206】
<サンプル2−2>
リンモリブデン酸の添加量を正極活物質の0.20重量%とした以外は、サンプル2−1と同様にして二次電池を作製した。
【0207】
<サンプル2−3>
リンモリブデン酸の添加量を正極活物質の0.50重量%とした以外は、サンプル2−1と同様にして二次電池を作製した。
【0208】
<サンプル2−4>
リンモリブデン酸の添加量を正極活物質の1.0重量%とした以外は、サンプル2−1と同様にして二次電池を作製した。
【0209】
<サンプル2−5>
リンモリブデン酸の添加量を正極活物質の3.0重量%とした以外は、サンプル2−1と同様にして二次電池を作製した。
【0210】
<サンプル2−6>
リンモリブデン酸の添加量を正極活物質の5.0重量%とした以外は、サンプル2−1と同様にして二次電池を作製した。
【0211】
<サンプル2−7>
リンモリブデン酸の添加量を正極活物質の7.0重量%とした以外は、サンプル2−1と同様にして二次電池を作製した。
【0212】
<サンプル2−8>
リンモリブデン酸の添加を行わなかった以外は、サンプル2−1と同様にして二次電池を作製した。
【0213】
<サンプル2−9>
平均組成がLi1.02Co0.98Mg0.01Al0.012である正極活物質を用い、リンモリブデン酸の添加量を正極活物質の0.005重量%とした以外は、サンプル2−1と同様にして二次電池を作製した。
【0214】
<サンプル2−10>
リンモリブデン酸の添加量を正極活物質の0.2重量%とした以外は、サンプル2−9と同様にして二次電池を作製した。
【0215】
<サンプル2−11>
リンモリブデン酸の添加量を正極活物質の0.5重量%とした以外は、サンプル2−9と同様にして二次電池を作製した。
【0216】
<サンプル2−12>
リンモリブデン酸の添加量を正極活物質の1.0重量%とした以外は、サンプル2−9と同様にして二次電池を作製した。
【0217】
<サンプル2−13>
リンモリブデン酸の添加を行わなかった以外は、サンプル2−9と同様にして二次電池を作製した。
【0218】
[試験用電池の評価]
上述の各試験用電池について、実施例1と同様の電池の膨れ量評価試験、放電容量試験を行った。
【0219】
[二次電池の評価:モリブデンイオンの価数]
各サンプルの二次電池を、23℃の環境下において880mAの定電流で各二次電池の電池電圧が4.2Vに達するまで定電流充電を行ったのち、4.2Vの定電圧で電流値が1mAに達するまで定電圧充電を行った。続いて、電池電圧が3.0Vに達するまで0.2Cでの放電を行ったのち、不活性雰囲気中で電池を解体し、取り出した正極および負極をジメチルカーボネートで30秒間洗浄した。その後、正極および負極表面のXPS(X-ray Photoelectron Spectroscopy;X線光電子分光法)分析を行い、6価のモリブデンイオンおよび6価未満のモリブデンイオンが存在するかどうかを調査した。
【0220】
具体的には、測定したスペクトルに対し市販のソフトウェアを用いた波形解析を行うことで、各価数のモリブデンの3d5/2と3d3/2の内殻電子に帰属されるピークを分離し、3d5/2の内殻電子に帰属されるピークが存在するエネルギー位置を確認した。この際、3d5/2と3d3/2のピーク面積比を、スピン軌道相互作用分裂からの理論値である3:2という値とした。そして227.0以上231.5eV以下の結合エネルギー範囲に3d5/2のピークが存在する場合には6価未満のモリブデンイオンが、231.5以上233.0eV以下の結合エネルギー範囲に3d5/2のピークが存在する場合には6価のモリブデンイオンが存在するものとした。
【0221】
この際、XPS分析装置、分析条件および分析方法は、実施例1と同様にした。
【0222】
以下の表2に、評価の結果を示す。
【0223】
【表2】

【0224】
サンプル2−1ないし2−7、およびサンプル2−9ないし2−12は、正極にリンモリブデン酸を添加して作製された二次電池である。表2に示すXPS分析の結果から、これらの二次電池においては、正負極の表面にモリブデン化合物が存在していることが確認された。また、モリブデンイオンは正極では6価のモリブデンイオンのみが存在したのに対し、負極では価数が6価未満のモリブデンイオンが含まれていた。したがって、正極に添加したリンモリブデン酸の一部が溶出することで、負極表面に正極と比べ平均的に還元されたモリブデン化合物が析出して存在することが確認された。
【0225】
表2に示すように、正極にリンモリブデン酸を添加し、負極表面にモリブデン化合物が析出するように構成された二次電池は、リンモリブデン酸を含有しないサンプル2−8および2−13の二次電池と比較して電池膨れが抑制できることが分かった。特に、価数が6価および6価未満のモリブデンイオンを共に有するモリブデン化合物を負極表面に析出させた二次電池は、価数が6価未満のモリブデンイオンのみが存在するサンプル2−1および2−9の二次電池と比較して、顕著に電池膨れが抑制できることが分かった。
【0226】
サンプル2−1ないし2−8は、正極活物質としてLi0.98Co0.15Ni0.80Al0.052を用いたものである。表2に示すように、価数が6価および6価未満のモリブデンイオンを共に有するようにモリブデン化合物を析出させることにより、リンモリブデン酸を添加しないサンプル2−8および、6価のモリブデンイオンが存在しないサンプル2−1と比べ、電池の膨れ量が小さくなることが分かった。そして、リンモリブデン酸の添加量が多くなるほど電池膨れを抑制する効果が高くなり、添加量が1.0重量%以上の場合には略同等の効果を維持することが分かった。さらに、リンモリブデン酸の添加量が増えるにつれて放電容量が低下し、例えば添加量7.0重量%では放電容量が急激に低下した。
【0227】
サンプル2−9ないし2−13は、正極活物質としてLi1.02Co0.98Mg0.01Al0.012を用いたものであり、サンプル2−1ないし2−8と同様に、価数が6価および6価未満のモリブデンイオンを共に有するようにモリブデン化合物を析出させた場合において、電池膨れを抑制することができた。
【0228】
サンプル2−8および2−13を比較して分かるように、ニッケル(Ni)の含有量が
多い正極活物質を用いた場合、ガス発生量が多く電池膨れが大きくなる。しかしながら、同量のリンモリブデン酸を添加したサンプル2−4および2−12では、電池膨れ量は略同等であり、ニッケル(Ni)含有量が多い正極活物質を用いた二次電池に対して特に顕著な電池膨れ抑制効果があることが分かった。
【0229】
[実施例3:正極にリンタングステン酸を添加して負極表面にポリ酸およびポリ酸化合物の少なくとも一方を析出させる場合]
【0230】
<サンプル3−1>
添加剤としてリンタングステン酸(H3(PW1240)を正極活物質の0.005重量%添加した。これ以外は、サンプル1−1と同様にして二次電池を作製した。
【0231】
<サンプル3−2>
リンタングステン酸の添加量を正極活物質の0.20重量%とした以外は、サンプル3−1と同様にして二次電池を作製した。
【0232】
<サンプル3−3>
リンタングステン酸の添加量を正極活物質の0.50重量%とした以外は、サンプル3−1と同様にして二次電池を作製した。
【0233】
<サンプル3−4>
リンタングステン酸の添加量を正極活物質の1.0重量%とした以外は、サンプル3−1と同様にして二次電池を作製した。
【0234】
<サンプル3−5>
リンタングステン酸の添加量を正極活物質の3.0重量%とした以外は、サンプル3−1と同様にして二次電池を作製した。
【0235】
<サンプル3−6>
リンタングステン酸の添加量を正極活物質の5.0重量%とした以外は、サンプル3−1と同様にして二次電池を作製した。
【0236】
<サンプル3−7>
リンタングステン酸の添加量を正極活物質の7.0重量%とした以外は、サンプル3−1と同様にして二次電池を作製した。
【0237】
<サンプル3−8>
リンタングステン酸の添加を行わなかった以外は、サンプル3−1と同様にして二次電池を作製した。
【0238】
<サンプル3−9>
平均組成がLi1.02Co0.98Mg0.01Al0.012である正極活物質を用い、リンタングステン酸の添加量を正極活物質の0.005重量%とした以外は、サンプル3−1と同様にして二次電池を作製した。
【0239】
<サンプル3−10>
リンタングステン酸の添加量を正極活物質の0.2重量%とした以外は、サンプル3−9と同様にして二次電池を作製した。
【0240】
<サンプル3−11>
リンタングステン酸の添加量を正極活物質の0.5重量%とした以外は、サンプル3−9と同様にして二次電池を作製した。
【0241】
<サンプル3−12>
リンタングステン酸の添加量を正極活物質の1.0重量%とした以外は、サンプル3−9と同様にして二次電池を作製した。
【0242】
<サンプル3−13>
リンタングステン酸の添加を行わなかった以外は、サンプル3−9と同様にして二次電池を作製した。
【0243】
[試験用電池の評価]
上述の各試験用電池について、実施例1と同様の電池の膨れ量評価試験、放電容量試験、XPS分析を行った。
【0244】
以下の表3に、評価の結果を示す。
【0245】
【表3】

【0246】
サンプル3−1ないし3−7、およびサンプル3−9ないし3−12は、正極にリンタングステン酸を添加して作製された二次電池である。表3に示すXPS分析の結果から、これらの二次電池においては、正負極の表面にタングステン化合物が存在していることが確認された。また、タングステンイオンの価数は正極では6価としてのみ存在したのに対し、負極では価数が6価未満のモリブデンイオンが含まれていた。したがって、正極に添加したリンタングステン酸の一部が溶出することで、負極表面に正極と比べ平均的に還元されたタングステン化合物が析出して存在することが確認された。
【0247】
表3に示すように、正極にリンタングステン酸を添加し、負極表面にタングステン化合物が析出するように構成された二次電池は、リンタングステン酸を含有しないサンプル3−8および3−13の二次電池と比較して電池膨れが抑制できることが分かった。特に、負極表面に、価数が6価および6価未満のタングステンイオンを共に有するタングステン化合物が析出するように構成された二次電池は、価数が6価未満のタングステンイオンのみ存在するサンプル3−1および3−9の二次電池と比較して、顕著に電池膨れが抑制できることが分かった。
【0248】
サンプル3−1ないし3−8は、正極活物質としてLi0.98Co0.15Ni0.80Al0.052を用いたものである。表3に示すように、価数が6価および6価未満のタングステンイオンを共に有するようにタングステン化合物を析出させることにより、リンタングステン酸を添加しないサンプル3−8および、6価のタングステンイオンが存在しないサンプル3−1と比べ、電池の膨れ量が小さくなることが分かった。そして、リンタングステン酸の添加量が多くなるほど電池膨れを抑制する効果が高くなり、添加量が1.0重量%以上の場合には略同等の効果を維持することが分かった。さらに、リンタングステン酸の添加量が増えるにつれて放電容量が低下し、例えば添加量7.0重量%では放電容量が急激に低下した。
【0249】
サンプル3−9ないし3−13は、正極活物質としてLi1.02Co0.98Mg0.01Al0.012を用いたものであり、サンプル3−1ないし3−8と同様に、価数が6価および6価未満のタングステンイオンを共に有するようにタングステン化合物を析出させた場合において、電池膨れを抑制することができた。
【0250】
サンプル3−8および3−13を比較して分かるように、ニッケル(Ni)の含有量が
多い正極活物質を用いた場合、ガス発生量が多く電池膨れが大きくなる。しかしながら、同量のリンタングステン酸を添加したサンプル3−4および3−12では、電池膨れ量は略同等であり、ニッケル(Ni)含有量が多い正極活物質を用いた二次電池に対して特に顕著な電池膨れ抑制効果があることが分かった。
【0251】
[実施例4:正極にケイモリブデン酸を添加して負極表面にポリ酸およびポリ酸化合物の少なくとも一方を析出させる場合]
【0252】
<サンプル4−1>
添加剤としてケイモリブデン酸(H4(SiMo1240)を正極活物質の0.005重量%添加した。これ以外は、サンプル1−1と同様にして二次電池を作製した。
【0253】
<サンプル4−2>
ケイモリブデン酸の添加量を正極活物質の0.20重量%とした以外は、サンプル4−1と同様にして二次電池を作製した。
【0254】
<サンプル4−3>
ケイモリブデン酸の添加量を正極活物質の0.50重量%とした以外は、サンプル4−1と同様にして二次電池を作製した。
【0255】
<サンプル4−4>
ケイモリブデン酸の添加量を正極活物質の1.0重量%とした以外は、サンプル4−1と同様にして二次電池を作製した。
【0256】
<サンプル4−5>
ケイモリブデン酸の添加量を正極活物質の3.0重量%とした以外は、サンプル4−1と同様にして二次電池を作製した。
【0257】
<サンプル4−6>
ケイモリブデン酸の添加量を正極活物質の5.0重量%とした以外は、サンプル4−1と同様にして二次電池を作製した。
【0258】
<サンプル4−7>
ケイモリブデン酸の添加量を正極活物質の7.0重量%とした以外は、サンプル4−1と同様にして二次電池を作製した。
【0259】
<サンプル4−8>
ケイモリブデン酸の添加を行わなかった以外は、サンプル4−1と同様にして二次電池を作製した。
【0260】
<サンプル4−9>
平均組成がLi1.02Co0.98Mg0.01Al0.012である正極活物質を用い、ケイモリブデン酸の添加量を正極活物質の0.005重量%とした以外は、サンプル4−1と同様にして二次電池を作製した。
【0261】
<サンプル4−10>
ケイモリブデン酸の添加量を正極活物質の0.2重量%とした以外は、サンプル4−9と同様にして二次電池を作製した。
【0262】
<サンプル4−11>
ケイモリブデン酸の添加量を正極活物質の0.5重量%とした以外は、サンプル4−9と同様にして二次電池を作製した。
【0263】
<サンプル4−12>
ケイモリブデン酸の添加量を正極活物質の1.0重量%とした以外は、サンプル4−9と同様にして二次電池を作製した。
【0264】
<サンプル4−13>
ケイモリブデン酸の添加を行わなかった以外は、サンプル4−9と同様にして二次電池を作製した。
【0265】
[試験用電池の評価]
上述の各試験用電池について、実施例2と同様の電池の膨れ量評価試験、放電容量試験、XPS分析を行った。
【0266】
以下の表4に、評価の結果を示す。
【0267】
【表4】

【0268】
サンプル4−1ないし4−7、およびサンプル4−9ないし4−12は、正極にケイモリブデン酸を添加して作製された二次電池である。表4に示すXPS分析の結果から、これらの二次電池においては、正負極の表面にモリブデン化合物が存在していることが確認された。また、正極では価数が6価のモリブデンイオンのみが存在したのに対し、負極では価数が6価未満のモリブデンイオンが含まれていた。したがって、正極に添加したケイモリブデン酸の一部が溶出することで、負極表面に正極と比べ平均的に還元されたモリブデン化合物が析出して存在することが確認された。
【0269】
表4に示すように、正極にケイモリブデン酸を添加し、負極表面にモリブデン化合物が析出するように構成された二次電池は、ケイモリブデン酸を含有しないサンプル4−8および4−13の二次電池と比較して電池膨れが抑制できることが分かった。特に、負極表面に、価数が6価および6価未満のモリブデンイオンを共に有するモリブデン化合物が析出するように構成された二次電池は、価数が6価未満のモリブデンイオンのみ存在するサンプル4−1および4−9の二次電池と比較して、顕著に電池膨れが抑制できることが分かった。
【0270】
サンプル4−1ないし4−8は、正極活物質としてLi0.98Co0.15Ni0.80Al0.052を用いたものである。表4に示すように、価数が6価および6価未満のモリブデンイオンを共に有するようにモリブデン化合物を析出させることにより、ケイモリブデン酸を添加しないサンプル4−8および、6価のモリブデンイオンが存在しないサンプル4−1と比べ、電池の膨れ量が小さくなることが分かった。そして、ケイモリブデン酸の添加量が多くなるほど電池膨れを抑制する効果が高くなり、添加量が1.0重量%以上の場合には略同等の効果を維持することが分かった。さらに、ケイモリブデン酸の添加量が増えるにつれて放電容量が低下し、例えば添加量7.0重量%では放電容量が急激に低下した。
【0271】
サンプル4−9ないし4−13は、正極活物質としてLi1.02Co0.98Mg0.01Al0.012を用いたものであり、サンプル4−1ないし4−8と同様に、価数が6価および6価未満のモリブデンイオンを共に有するようにモリブデン化合物を析出させた場合において、電池膨れを抑制することができた。
【0272】
サンプル4−8および4−13を比較して分かるように、ニッケル(Ni)の含有量が
多い正極活物質を用いた場合、ガス発生量が多く電池膨れが大きくなる。しかしながら、同量のケイモリブデン酸を添加したサンプル4−4および4−12では、電池膨れ量は略同等であり、ニッケル(Ni)含有量が多い正極活物質を用いた二次電池に対して特に顕著な電池膨れ抑制効果があることが分かった。
【0273】
[実施例5:電解液にヘテロポリ酸を添加して負極表面にポリ酸およびポリ酸化合物の少なくとも一方を析出させる場合]
【0274】
<サンプル5−1>
[正極の作製]
ケイタングステン酸の添加を行わなかった以外は、サンプル1−1と同様にして正極を作製した。
【0275】
[負極の作製]
負極活物質としての人造黒鉛91重量%と、結着剤としての粉状ポリフッ化ビニリデン9重量%とを、N−メチル−2−ピロリドンに分散させてスラリー状の負極合剤を調製した。次に、この負極合剤スラリーを負極集電体となる銅箔の両面に均一に塗布し、120℃で24時間減圧乾燥することにより負極活物質層を形成した。そして、これをロールプレス機で加圧成形することにより負極シートとし、当該負極シートを50mm×310mmの帯状に切り出して負極とした。最後に、負極端部の負極集電体露出部分にニッケルリボンからなる負極リードを溶接した。
【0276】
[電解液の作製]
電解液は、次のようにして作製した。まず、エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)を重量比4:6で混合して混合溶媒とした。続いて、六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)を1.0mol/kgの割合で混合溶媒に溶解させて調製し、さらにケイタングステン酸(H4(SiW1240))を0.005重量%溶解させた。
【0277】
[巻回電極体の作製]
次に、上述のようにして作製された帯状の正極と帯状の負極とを、厚さ20μmの多孔質ポリエチレンセパレータを介して積層し、その長手方向に巻回して扁平型の巻回電極体を得た。正極、負極およびセパレータは、正極の端部から負極の端部がはみ出し、負極端部の外側にセパレータの端部がはみ出す構造となっている。はみ出し幅は両側に均等にはみ出すように組み立てた。この巻回電極体を、アルミニウム箔の両面に樹脂層が形成されたラミネートフィルムで挟み、ラミネートフィルムの外周縁部を一辺を残し熱融着した。
【0278】
続いて、ラミネートフィルムの開口部から電解液を注入し、残りの一辺を減圧下で封止し、巻回電極体をラミネートフィルム中に密閉した。なお、正極リードおよび負極リードの一部に樹脂辺を配置し、この部分にラミネートフィルムが対向して封止されるようにした。
【0279】
次に、作製された電池を100mAで3.2Vまで予備充電し、ケイタングステン酸の電解還元を行なった。なお、この段階における正極の容量変化は無視できる微量である。これにより、負極上に、タングステン化合物が析出した試験用二次電池を作製した。
【0280】
<サンプル5−2>
ケイタングステン酸の添加量を0.20重量%とした以外は、サンプル5−1と同様にして二次電池を作製した。
【0281】
<サンプル5−3>
ケイタングステン酸の添加量を0.50重量%とした以外は、サンプル5−1と同様にして二次電池を作製した。
【0282】
<サンプル5−4>
ケイタングステン酸の添加量を1.0重量%とした以外は、サンプル5−1と同様にして二次電池を作製した。
【0283】
<サンプル5−5>
ケイタングステン酸の添加量を3.0重量%とした以外は、サンプル5−1と同様にして二次電池を作製した。
【0284】
<サンプル5−6>
ケイタングステン酸の添加量を5.0重量%とした以外は、サンプル5−1と同様にして二次電池を作製した。
【0285】
<サンプル5−7>
ケイタングステン酸の添加を行わなかった以外は、サンプル5−1と同様にして二次電池を作製した。
【0286】
<サンプル5−8>
ヘテロポリ酸としてリンモリブデン酸を0.005重量%添加した。これ以外は、サンプル5−1と同様にして二次電池を作製した。
【0287】
<サンプル5−9>
リンモリブデン酸の添加量を0.20重量%とした以外は、サンプル5−8と同様にして二次電池を作製した。
【0288】
<サンプル5−10>
リンモリブデン酸の添加量を0.50重量%とした以外は、サンプル5−8と同様にして二次電池を作製した。
【0289】
<サンプル5−11>
リンモリブデン酸の添加量を1.0重量%とした以外は、サンプル5−8と同様にして二次電池を作製した。
【0290】
<サンプル5−12>
リンモリブデン酸の添加量を3.0重量%とした以外は、サンプル5−8と同様にして二次電池を作製した。
【0291】
<サンプル5−13>
リンモリブデン酸の添加量を5.0重量%とした以外は、サンプル5−8と同様にして二次電池を作製した。
【0292】
<サンプル5−14>
ヘテロポリ酸としてリンタングステン酸を0.005重量%添加した。これ以外は、サンプル5−1と同様にして二次電池を作製した。
【0293】
<サンプル5−15>
リンタングステン酸の添加量を0.20重量%とした以外は、サンプル5−14と同様にして二次電池を作製した。
【0294】
<サンプル5−16>
リンタングステン酸の添加量を0.50重量%とした以外は、サンプル5−14と同様にして二次電池を作製した。
【0295】
<サンプル5−17>
リンタングステン酸の添加量を1.0重量%とした以外は、サンプル5−14と同様にして二次電池を作製した。
【0296】
<サンプル5−18>
リンタングステン酸の添加量を3.0重量%とした以外は、サンプル5−14と同様にして二次電池を作製した。
【0297】
<サンプル5−19>
リンタングステン酸の添加量を5.0重量%とした以外は、サンプル5−14と同様にして二次電池を作製した。
【0298】
<サンプル5−20>
ヘテロポリ酸としてケイモリブデン酸を0.005重量%添加した。これ以外は、サンプル5−1と同様にして二次電池を作製した。
【0299】
<サンプル5−21>
ケイモリブデン酸の添加量を0.20重量%とした以外は、サンプル5−20と同様にして二次電池を作製した。
【0300】
<サンプル5−22>
ケイモリブデン酸の添加量を0.50重量%とした以外は、サンプル5−20と同様にして二次電池を作製した。
【0301】
<サンプル5−23>
リンタングステン酸の添加量を1.0重量%とした以外は、サンプル5−20と同様にして二次電池を作製した。
【0302】
<サンプル5−24>
リンタングステン酸の添加量を3.0重量%とした以外は、サンプル5−20と同様にして二次電池を作製した。
【0303】
<サンプル5−25>
リンタングステン酸の添加量を5.0重量%とした以外は、サンプル5−20と同様にして二次電池を作製した。
【0304】
[試験用電池の評価]
上述の各試験用電池について、実施例1と同様の電池の膨れ量評価試験を行った。また、実施例1・2と同様のXPS分析を負極について行った。また、次のような安全性評価試験を行った。
【0305】
(a)加熱試験
試験用電池を室温環境下に配置し、1Cで定電流充電を行った後、電池電圧が4.5Vに達した時点で定電圧充電に切り替え、過充電状態となるように充電した。その後、試験用電池を室温の恒温槽に入れて5℃/分で昇温し、150℃に到達した時点で定温を保ち、その時点から1時間保特した。
【0306】
(b)釘差し試験
試験用電池を60℃環境下に配置し、1Cで定電流充電を行った後、電池電圧が4.5Vに達した時点で定電圧充電に切り替え、過充電状態となるように充電した。この後、60℃環境下において試験用電池に直径2.5mmの釘を貫通させた。
【0307】
(c)過充電試験
放電状態の試験用電池を室温環境下に配置し、試験用電池を放電状態から5Cの大電流で上限24Vで過充電した。
【0308】
上述の各試験の結果を表5に示す。なお、加熱試験、釘差し試験、過充電試験において何も起こらないのを「O」とした。一方、発熱によってラミネートフィルムが膨らんだものを「1」、穏やかな発煙が生じたものを「2」、ガス噴出が生じたものを「3」とした

【0309】
【表5】

【0310】
表5に示すように、負極表面にポリ酸化合物が析出するように構成された二次電池は、ケイタングステン酸を含有しないサンプル5−7の二次電池と比較して電池膨れが抑制できることが分かった。特に、負極表面に、価数が6価および6価未満のモリブデンイオンを共に有するモリブデン化合物、または価数が6価および6価未満のタングステンイオンを共に有するタングステン化合物が析出するように構成された二次電池は、タングステンまたは価数が6価未満のモリブデンイオンのみ存在するサンプル5−1、5−8、5−14、5−20の二次電池と比較して、顕著に電池膨れが抑制できることが分かった。
【0311】
また、ヘテロポリ酸を電解液に添加し、価数が6価および6価未満のポリ原子イオンを共に有するように負極上にポリ酸化合物を析出させたサンプル5−2ないし5−6、5−9ないし5−13、5−15ないし5−19、5−21ないし5−25は、各試験において問題が生じないか、もしくはラミネートフィルムが膨らむ程度であった。これに対し、ポリ酸を電解液に添加しなかった、もしくは負極上に析出したポリ酸化合物のイオンの価数が全て6価未満であったサンプル5−1、5−7、5−8、5−14、5−20では、試験用電池の緩やかな発煙もしくはガス噴出が生じてしまった。
【0312】
したがって、価数が6価および6価未満のポリ原子イオンを共に有するように負極上にポリ酸化合物を析出させる構成の二次電池において、電池膨れの抑制および安全性の向上が確認された。
【0313】
[実施例6:負極活物質層にヘテロポリ酸を添加して負極表面にポリ酸およびポリ酸化合物の少なくとも一方を析出させる場合]
【0314】
<サンプル6−1>
[正極の作製]
実施例1−1と同様にして正極を作製した。
【0315】
[負極の作製]
負極活物質としての人造黒鉛91重量%と、結着剤としての粉状ポリフッ化ビニリデン9重量%とを乾式混合した。続いて、この混合物にN−メチル−2−ピロリドンを調整添加してスラリー状の負極合剤を調製した。一方、ケイタングステン酸(H4(SiW1240))をN−メチル−2−ピロリドンに溶解し、濃度が5.0質量%のケイタングステン酸溶液を作製した。そして、ケイタングステン酸の添加量が負極活物質に対して0.005質量%に対応するケイタングステン酸溶液を、負極合剤スラリーに添加した。これ以外は実施例2−1と同様にして負極を作製した。
【0316】
[電解液の作製]
ケイタングステン酸を添加しなかった以外は、実施例5−1と同様にして電解液を作製した。
【0317】
[巻回電極体の作製]
上述の正極、負極および電解質を用いて、実施例5−1と同様にして試験用電池を作製した。作製された電池を100mAで3.2Vまで予備充電し、ケイタングステン酸の電解還元を行なった。なお、この段階における正極の容量変化は無視できる微量である。これにより、負極上に、少なくとも一部のタングステンイオンが還元されたタングステン化合物が析出した試験用二次電池を作製した。
【0318】
<サンプル6−2>
ケイタングステン酸の添加量を負極活物質に対して0.20重量%とした以外は、サンプル6−1と同様にして二次電池を作製した。
【0319】
<サンプル6−3>
ケイタングステン酸の添加量を負極活物質に対して0.50重量%とした以外は、サンプル6−1と同様にして二次電池を作製した。
【0320】
<サンプル6−4>
ケイタングステン酸の添加量を負極活物質に対して1.0重量%とした以外は、サンプル6−1と同様にして二次電池を作製した。
【0321】
<サンプル6−5>
ケイタングステン酸の添加量を負極活物質に対して3.0重量%とした以外は、サンプル6−1と同様にして二次電池を作製した。
【0322】
<サンプル6−6>
ケイタングステン酸の添加量を負極活物質に対して5.0重量%とした以外は、サンプル6−1と同様にして二次電池を作製した。
【0323】
<サンプル6−7>
ケイタングステン酸の添加を行わなかった以外は、サンプル6−1と同様にして二次電池を作製した。
【0324】
<サンプル6−8>
ヘテロポリ酸としてリンモリブデン酸を負極活物質に対して0.005重量%添加した。これ以外は、サンプル6−1と同様にして二次電池を作製した。
【0325】
<サンプル6−9>
リンモリブデン酸の添加量を負極活物質に対して0.20重量%とした以外は、サンプル6−8と同様にして二次電池を作製した。
【0326】
<サンプル6−10>
リンモリブデン酸の添加量を負極活物質に対して0.50重量%とした以外は、サンプル6−8と同様にして二次電池を作製した。
【0327】
<サンプル6−11>
リンモリブデン酸の添加量を負極活物質に対して1.0重量%とした以外は、サンプル6−8と同様にして二次電池を作製した。
【0328】
<サンプル6−12>
リンモリブデン酸の添加量を負極活物質に対して3.0重量%とした以外は、サンプル6−8と同様にして二次電池を作製した。
【0329】
<サンプル6−13>
リンモリブデン酸の添加量を負極活物質に対して5.0重量%とした以外は、サンプル6−8と同様にして二次電池を作製した。
【0330】
<サンプル6−14>
ヘテロポリ酸としてリンタングステン酸を負極活物質に対して0.005重量%添加した。これ以外は、サンプル6−1と同様にして二次電池を作製した。
【0331】
<サンプル6−15>
リンタングステン酸の添加量を負極活物質に対して0.20重量%とした以外は、サンプル6−14と同様にして二次電池を作製した。
【0332】
<サンプル6−16>
リンタングステン酸の添加量を負極活物質に対して0.50重量%とした以外は、サンプル6−14と同様にして二次電池を作製した。
【0333】
<サンプル6−17>
リンタングステン酸の添加量を負極活物質に対して1.0重量%とした以外は、サンプル6−14と同様にして二次電池を作製した。
【0334】
<サンプル6−18>
リンタングステン酸の添加量を負極活物質に対して3.0重量%とした以外は、サンプル6−14と同様にして二次電池を作製した。
【0335】
<サンプル6−19>
リンタングステン酸の添加量を負極活物質に対して5.0重量%とした以外は、サンプル6−14と同様にして二次電池を作製した。
【0336】
<サンプル6−20>
ヘテロポリ酸としてケイモリブデン酸を負極活物質に対して0.005重量%添加した。これ以外は、サンプル6−1と同様にして二次電池を作製した。
【0337】
<サンプル6−21>
ケイモリブデン酸の添加量を負極活物質に対して0.20重量%とした以外は、サンプル6−20と同様にして二次電池を作製した。
【0338】
<サンプル6−22>
ケイモリブデン酸の添加量を負極活物質に対して0.50重量%とした以外は、サンプル6−20と同様にして二次電池を作製した。
【0339】
<サンプル6−23>
リンタングステン酸の添加量を負極活物質に対して1.0重量%とした以外は、サンプル6−20と同様にして二次電池を作製した。
【0340】
<サンプル6−24>
リンタングステン酸の添加量を負極活物質に対して3.0重量%とした以外は、サンプル6−20と同様にして二次電池を作製した。
【0341】
<サンプル6−25>
リンタングステン酸の添加量を負極活物質に対して5.0重量%とした以外は、サンプル6−20と同様にして二次電池を作製した。
【0342】
[試験用電池の評価]
上述の各試験用電池について、実施例5と同様の電池の膨れ量評価試験、負極表面のXPS分析、安全性評価試験を行った。
【0343】
以下の表6に、評価の結果を示す。
【0344】
【表6】

【0345】
表6に示すように、負極表面にポリ酸化合物が析出するように構成された二次電池は、ケイタングステン酸を含有しないサンプル6−7の二次電池と比較して電池膨れが抑制できることが分かった。特に、負極表面に、価数が6価および6価未満のモリブデンイオンを共に有するモリブデン化合物、または価数が6価および6価未満のタングステンイオンを共に有するタングステン化合物が析出するように構成された二次電池は、タングステンまたは価数が6価未満のモリブデンイオンのみ存在するサンプル6−1、6−8、6−14、6−20の二次電池と比較して、顕著に電池膨れが抑制できることが分かった。
【0346】
また、ヘテロポリ酸を電解液に添加し、価数が6価および6価未満のポリ原子イオンを共に有するように負極上にポリ酸化合物を析出させたサンプル6−2ないし6−6、6−9ないし6−13、6−15ないし6−19、6−21ないし6−25は、各試験において問題が生じないか、もしくはラミネートフィルムが膨らむ程度であった。これに対し、ポリ酸を電解液に添加しなかったもしくは負極上に析出したタングステンまたはモリブデンイオンの価数が全て6価未満であったサンプル6−1、6−7、6−8、6−14、6−20では、試験用電池の緩やかな発煙もしくはガス噴出が生じてしまった。
【0347】
したがって、価数が6価および6価未満のポリ原子イオンを共に有するように負極上にポリ酸化合物を析出させる構成の二次電池において、電池膨れの抑制および安全性の向上が確認された。
【0348】
以上説明したように、ヘテロポリ酸の添加により、価数が6価および6価未満のポリ原子イオンを共に有するように、負極上にタングステンまたはモリブデン化合物が析出された構成の非水電解質電池では、ガス発生や正極と負極との短絡を抑制して、電池膨れが小さく、安全性が高い非水電解質電池を得ることができる。このような効果は、どのような電池構成であっても得ることができる。
【符号の説明】
【0349】
1・・・外装部材
2・・・密着フィルム
10、30、53・・・巻回電極体
11、35・・・正極リード
12、36・・・負極リード
13、31・・・正極
13A、31A・・・正極集電体
13B、31B・・・正極活物質層
14、32・・・負極
14A、32A・・・負極集電体
14B、32B・・・負極活物質層
15、33・・・セパレータ
16・・・電解質
17・・・保護テープ
21・・・電池缶
22、23・・・絶縁板
24・・・電池蓋
25・・・安全弁機構
25A・・・ディスク板
26・・・熱感抵抗素子
27・・・ガスケット
34・・・センターピン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極集電体の少なくとも一方の表面に、正極活物質を含む正極活物質層が形成された正極と、
負極集電体の少なくとも一方の表面に、負極活物質を含む負極活物質層が形成された負極と、
上記正極と上記負極との間に設けられたセパレータと、
電解質とを備え、
上記負極の少なくとも一部の表面に、ポリ酸およびポリ酸化合物の少なくとも一つの電解により析出した、一種以上のポリ元素を含む非晶質のポリ酸および/またはポリ酸化合物を含むゲル状の被膜が形成され、
該ポリ酸およびポリ酸化合物の少なくとも一方が、6価のポリ原子イオンと、6価未満のポリ原子イオンとを含む
非水電解質電池。
【請求項2】
上記ゲル状の被膜が、3次元網目構造となるように析出した上記非晶質のポリ酸および/またはポリ酸化合物が上記電解質を吸収して構成される
請求項1に記載の非水電解質電池。
【請求項3】
上記ポリ酸および上記ポリ酸化合物が、ヘテロポリ酸およびヘテロポリ酸化合物である
請求項1および請求項2に記載の非水電解質電池。
【請求項4】
X線光電子分光法(XPS)により上記負極に存在するポリ酸またはポリ酸化合物の表面を測定したとき、タングステンの4f7/2の内殻電子に帰属されるスペクトルが、32.0eV以上35.4eV以下と35.4eV以上36.9eV以下の両方の領域にピークを持つ
請求項1に記載の非水電解質電池。
【請求項5】
X線光電子分光法(XPS)により上記負極に存在するポリ酸またはポリ酸化合物の表面を測定したとき、モリブデンの3d5/2の内殻電子に帰属されるスペクトルが、227.0eV以上231.5eV以下と231.5eV以上233.0eV以下の両方の領域にピークを持つ
請求項1に記載の非水電解質電池。
【請求項6】
上記へテロポリ酸および上記ヘテロポリ酸化合物が、元素群(a)から選ばれるポリ原子を有するもの、
または元素群(a)から選ばれるポリ原子を有し、ポリ原子の一部が元素群(b)から選ばれる少なくとも何れかの元素で置換されたものである
請求項2および請求項3に記載の非水電解質電池。
元素群(a):Mo、W、Nb、V
元素群(b):Ti、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Zr、Tc、Rh、Cd、In、Sn、Ta、Re、Tl、Pbである。
【請求項7】
また、ヘテロポリ酸およびヘテロポリ酸化合物が、元素群(c)から選ばれるヘテロ原子を有するもの、または
元素群(c)から選ばれるヘテロ原子を有し、へテロ原子の一部が元素群(d)から選ばれる少なくとも何れかの元素で置換されたものである
請求項2および請求項3に記載の非水電解質電池。
元素群(c):B、Al、Si、P、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ge、As
元素群(d):H、Be、B、C、Na、Al、Si、P、S、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Ge、As、Se、Zr、Rh、Sn、Sb、Te、I、Re、Pt、Bi、Ce、Th、U、Np
【請求項8】
上記正極および上記負極のそれぞれの少なくとも一部の表面に、ヘテロポリ酸およびヘテロポリ酸化合物の少なくとも一方の電解により析出したポリ酸およびポリ酸化合物の少なくとも一方が存在し、
上記正極に析出したポリ酸およびポリ酸化合物の少なくとも一方に含まれるポリ原子イオンの平均価数が、上記負極に析出したポリ酸およびポリ酸化合物の少なくとも一方に含まれるポリ原子イオンの平均価数に比較して、酸化状態である、
請求項1に記載の非水電解質電池。
【請求項9】
上記負極の少なくとも一部の表面に、ヘテロポリ酸およびヘテロポリ酸化合物の少なくとも一方の電解により析出したポリ酸およびポリ酸化合物の少なくとも一方が存在し、
上記負極の少なくとも一部の表面に析出したポリ酸およびポリ酸化合物の少なくとも一方が、上記負極と該負極と対向する上記セパレータの間に介在して、該負極と該セパレータとを相互に固定している
請求項1に記載の非水電解質電池。
【請求項10】
上記正極活物質の平均組成が、化1または化2で表される
請求項1に記載の非水電解質電池。
(化1)
LiaCobNicM11-b-cd
(式中、M1は、ホウ素(B)、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、ケイ素(Si)、リン(P)、硫黄(S)、チタン(Ti)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、ガリウム(Ga)、ゲルマニウム(Ge)、イットリウム(Y)、ジルコニウム(Zr)、モリブデン(Mo)、銀(Ag)、バリウム(Ba)、タングステン(W)、インジウム(In)、スズ(Sn)、鉛(Pb)およびアンチモン(Sb)から選ばれる1種以上の元素である。a、b、cおよびdはそれぞれ0.2≦a≦1.4、0≦b≦1.0、0≦c≦1.0、1.8≦d≦2.2の範囲内の値である。なお、リチウムの組成は充放電の状態によって異なり、aの値は完全放電状態における値を表している。)
(化2)
LihMn2-i2ij
(式中、M2は、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、ホウ素(B)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、鉄(Fe)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、モリブデン(Mo)、スズ(Sn)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)およびタングステン(W)からなる群のうちの少なくとも1種を表す。h、iおよびjは、0.9≦h≦1.1、0≦i≦0.6、3.7≦j≦4.1の範囲内の値である。なお、リチウムの組成は充放電の状態によって異なり、hの値は完全放電状態における値を表している。)

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−181355(P2011−181355A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−44805(P2010−44805)
【出願日】平成22年3月2日(2010.3.2)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】