説明

非水電解質電池

【課題】電池の外周縁部近傍における電流集中を緩和することで負極活物質層の外周縁部近傍におけるデンドライトの成長を抑制し、電池の充放電に伴う電池の短絡を効果的に抑制できる非水電解質電池を提供する。
【解決手段】正極活物質層12、負極活物質層22、及びこれら両活物質層12,22の間に介在される固体電解質層(SE層30)を備える非水電解質電池100である。この非水電解質電池100はさらに、SE層30と負極活物質層22との間にSi層40を備える。Si層40は、外周縁部を含む外周領域40hと、その外周領域40hの内部に位置する中央領域40cとで構成され、外周領域40hの厚さを中央領域40cよりも厚くする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、正極活物質層、負極活物質層、およびこれら活物質層の間に介在される固体電解質層を備える非水電解質電池に関するものである。特に、本発明は、繰り返しの充放電にも短絡が生じ難い非水電解質電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
充放電を繰り返すことを前提とした電源として、正極体と負極体とこれら電極体の間に配される電解質層とを備える非水電解質電池が利用されている。この電池に備わる電極体はさらに、集電機能を有する集電体と、活物質を含む活物質層とを備える。このような非水電解質電池のなかでも特に、正・負極体間のLiイオンの移動により充放電を行なう非水電解質電池は、小型でありながら高い放電容量を備える。
【0003】
Liイオンを用いた非水電解質電池では、電池の充放電に伴って、負極活物質層の表面にデンドライト(針状のLi結晶)が析出し、そのデンドライトが成長して正極活物質層に到達することで、短絡が生じることがある。この問題点を解決するために、例えば特許文献1などに記載のように、電解質層を固体とすることでデンドライトの成長を物理的に抑制することが提案されている。この特許文献1ではさらに、負極活物質層と固体電解質層との間にSiなどの界面層を形成し、その界面層によって正極活物質層から固体電解質層を経て移動してきたLiを負極活物質層に拡散させることが提案されている。そうすることで、負極活物質層と固体電解質層との接合を良好に保ち、電池の充放電に伴う放電容量の低下を抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−277381号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1の非水電解質電池であっても、電池の使用態様によっては短絡を防止できない場合がある。
【0006】
固体電解質層を備える非水電解質電池では、充放電時に電池の外周縁部側に電流が集中し易い傾向にあり、この電流集中によって負極活物質層の外周縁部側でのデンドライトの析出量が中央部分に比べて多くなる。そのため、充電時に析出したデンドライトを放電によって十分に溶解しないうちに再び充電を行なう、といったことを繰り返すと、デンドライトが負極活物質層の外周縁部から固体電解質層の側面を伝って正極活物質層に到達し、短絡が発生してしまう場合がある。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的の一つは、電池の外周縁部近傍における電流集中を緩和することで負極活物質層の外周縁部近傍におけるデンドライトの成長を抑制し、電池の充放電に伴う電池の短絡を効果的に抑制できる非水電解質電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)本発明の非水電解質電池は、正極活物質層、負極活物質層、及びこれら両活物質層の間に介在される固体電解質層を備える。この本発明非水電解質電池は、固体電解質層と負極活物質層との間にSi層を備え、当該Si層は、その外周縁部を含む環状の外周領域と、その外周領域の内部に位置する中央領域とで構成される。そして、当該外周領域の厚さが、中央領域に比べて厚いことを特徴とする。
【0009】
固体電解質層と負極活物質層との間に設けたSi層を、厚みに差のある外周領域と中央領域とに分け、かつ外周領域を中央領域よりも厚くすることで、Si層の外周縁部近傍におけるLiイオン伝導性を低下させ、非水電解質電池の外周縁部近傍における電流集中を緩和できる。特に、外周領域と中央領域の厚さを調整することで、電池面内の電流密度を均一的にすることもできる。その結果、負極活物質層の外周縁部近傍におけるデンドライトの成長を抑制でき、電池の短絡を効果的に防止できる。
【0010】
(2)本発明非水電解質電池の一形態として、外周領域はその全域にわたってほぼ均一な厚さを有し、中央領域はその全域にわたってほぼ均一な厚さを有していることが好ましい。
【0011】
ほぼ均一な厚さの領域を形成することは、厚さが漸次変化する領域を形成するよりも容易である。つまり、厚さのほぼ均一な外周領域と内周領域を備える非水電解質電池は、その作製が容易な電池であると言える。
【0012】
(3)Si層を、厚みに差のある外周領域と中央領域とに分ける構成において、外周領域は、中央領域よりも40〜100nm厚いことが好ましい。
【0013】
厚みの差が40〜100nmあれば、電池面内における電流密度を均一的にすることができる。その結果、より層間剥離が生じ難い非水電解質電池、即ち、サイクル特性に優れた非水電解質電池とすることができる。
【0014】
(4)Si層を、厚みに差のある外周領域と中央領域とに分ける構成とする場合、Si層を平面視したときの外周領域の幅は、外周領域の全周に亘ってほぼ等しいことが好ましい。
【0015】
Si層の外周縁部からの幅が全周に亘ってほぼ等しい帯状の外周領域とすることで、負極活物質層の外周縁部近傍における電流の集中を効果的に緩和できる。
【0016】
(5)本発明非水電解質電池の一形態として、前記Si層を平面視したときの前記外周領域の面積割合は、50%以下であることが好ましい。
【0017】
Si層に占める外周領域の面積割合を50%以下とすることで、非水電解質電池の放電容量を低下させることなく、負極活物質層の外周縁部におけるデンドライトの成長を効果的に抑制できる。
【発明の効果】
【0018】
本発明非水電解質電池の構成によれば、充放電を繰り返しても電池の短絡が生じ難い電池とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】(A)は実施形態に係る本発明非水電解質電池の概略断面図、(B)は非水電解質電池に備わるSi層と固体電解質層の形成状態をデフォルメして示した概略断面図である。
【図2】実施形態に係る本発明非水電解質電池における各電極体の接合前の状態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図に基づいて、本発明の実施の形態を説明する。
【0021】
<非水電解質電池の全体構成>
図1(A)に示す非水電解質電池100は、正極集電体11、正極活物質層12、固体電解質層(SE層)30、Si層40、負極活物質層22、及び負極集電体21とを備える。この非水電解質電池100の最も特徴とするところは、電池100に備わるSi層40の厚さが、外周縁部で最も厚くなっていることである(図1(B)を参照)。以下、各部の詳細について順次説明すると共に、製造方法の一例も示す。
【0022】
≪正極集電体≫
正極集電体11は、導電材料のみから構成されていても良いし、絶縁基板上に導電材料の膜を形成したもので構成されていても良い。後者の場合、導電材料の膜が集電体として機能する。導電材料としては、AlやNi、これらの合金、ステンレスから選択される1種が好適に利用できる。
【0023】
≪正極活物質層≫
正極活物質層12は、電池反応の主体となる正極活物質粒子を含む層である。正極活物質としては、層状岩塩型の結晶構造を有する物質、例えば、Liαβ(1−X)(αはCo,Ni,Mnから選択される1種、βはFe,Al,Ti,Cr,Zn,Mo,Bi,Co,Ni,Mnから選択される1種、α≠β、Xは0.5以上)で表わされる物質を挙げることができる。その具体例としては、LiCoOやLiNiO,LiMnO,LiNi0.5Mn0.5,LiCo0.5Fe0.5,LiCo0.5Al0.5,LiNi1/3Mn1/3Co1/3、LiNi0.8Co0.15Al0.05等を挙げることができる。その他、正極活物質として、スピネル型の結晶構造を有する物質(例えば、LiMnなど)や、オリビン型の結晶構造を有する物質(例えば、LiFePO(0<X<1))を用いることもできる。
【0024】
上記正極活物質層12は、この層12のLiイオン伝導性を改善する電解質粒子を含有していても良い。上記電解質粒子としては、例えば、LiS−Pなどの硫化物を好適に利用することができる。硫化物は、さらにPなどの酸化物を含有していても良い。その他、正極活物質層12は、導電助剤や結着剤を含んでいても良い。
【0025】
≪SE層≫
SE層30は、高Liイオン伝導性で、かつ低電子伝導性の固体電解質を含む層である。固体電解質としては、例えば、LiPONなどの酸化物や、LiS−P(必要に応じてPなどの酸化物を含有していても良い)を挙げることができる。特に、高Liイオン伝導性で、かつ低電子伝導性の硫化物からなる固体電解質を用いることが好ましい。SE層30を構成する固体電解質は、非晶質(アモルファス)でも良いし、結晶質でも良いが、SE層30に求められる高Liイオン伝導性、低電子伝導性の要件を満たすには、結晶質の固体電解質であることが好ましい。
【0026】
SE層30の厚さは、5〜10μmとすることが好ましい。この厚さのSE層30であれば、非水電解質電池100が厚くなることを回避しつつ、正極活物質層12と負極活物質層22との間を確実に絶縁することができる。
【0027】
≪Si層≫
Si層40は、電池の充電時に正極活物質層12からSE層30を経て移動してきたLiを負極活物質層22に拡散するためのものである。このSi層40により負極活物質層22にデンドライトが析出し難くなる。
【0028】
このSi層40の外周縁部の厚みは、それ以外の部分に比べて最も厚くする。Si層40を厚くすると、その分だけ電池100の厚み方向にLiイオンの伝導性が低下する。その結果、電池100の外周縁部近傍における電流の集中を緩和することができ、負極活物質層22の外周縁部近傍におけるデンドライトの成長を抑制できる。
【0029】
Si層40は、その外周縁部で厚みが最大となっていれば良く、例えば、Si層40の中心部分に向かって漸次厚みが薄くなるようにしたすり鉢状とすることができる。その他、図1(B)に示すように、Si層40を、厚さが異なる外周領域40hと中央領域40cとに分けても良い。以下、外周領域40hと中央領域40cとに分けた構成を中心に説明する。なお、図1(B)は、Si層40とSE層30の形成状態をデフォルメしたものであって、実際にはSE層30の方がSi層40の約1000倍以上厚い。
【0030】
[外周領域と中央領域]
図1(B)のSi層40では、負極活物質層22側(図面上側、図1(A)参照)が平面で、SE層30側に段差が形成されている。このようになっているのは、後述する非水電解質電池の製造方法において、負極活物質層22に対してSi層40を積層しているためである。従って、SE層30側に対してSi層40を積層する場合、Si層40のうち、SE層30に対向する面が平坦で、負極活物質層22に対向する面に段差が形成されるようにしても良い。
【0031】
Si層40の外周領域40hは、Si層40の外周縁部を含む環状の領域である。その厚さは90〜200nmの範囲とすることが好ましい。外周領域40hを90nm以上とすることで、電池100の充電時に正極活物質層12から移動してきたLiを効果的に負極活物質層22に分散させることができる。また、外周領域40hの厚さを200nm以下とすることで、外周領域40hにおけるLiイオン伝導性が低下し過ぎることを回避できる。
【0032】
中央領域40cは、外周領域40hの内方に位置する領域であり、外周領域40hと中央領域40cとの境界部分には段差が形成される。中央領域40cの厚さは50〜100nmの範囲とすることが好ましい。中央領域40cの厚さを上記範囲とすることで、電池100の充電時に正極活物質層12から移動してきたLiを効果的に負極活物質層22に分散できるし、中央領域40cにおけるLiイオン伝導性が低下し過ぎることも回避できる。
【0033】
上記外周領域40hの厚さと中央領域40cの厚みとの差(両領域40h,40c間の段差)は、40〜100nmの範囲とすることが好ましい。段差が大きすぎると、今度は中央領域40cに対応する部分でのデンドライトの析出量が、外周領域40hに対応する部分でのデンドライトの析出量よりも多くなり、前者の部分で層間剥離の恐れがある。
【0034】
厚さの異なる外周領域40hと中央領域40cとに分けることで、電池100の面内における電流密度を平均化することができ、負極活物質層22の面内におけるデンドライトの析出量も均一化することができる。その結果、局所的にデンドライトの析出量が多くなることを回避でき、層間剥離が生じ難くなる。
【0035】
外周領域40hの幅、即ち、Si層40の外周縁部から中央領域40cとの境界部までの長さは、当該外周領域40hの全周に亘ってほぼ均一であることが好ましい。局所的に幅が狭いところがあると、その部分に電流が集中する恐れがあるからである。
【0036】
Si層40を平面視したときの外周領域40hの面積割合は、50%以下とすることが好ましい。外周領域40hの面積割合を50%以下とすることで、電池100全体のLiイオン伝導性を確保することができる。ここで、外周領域40hの面積割合が小さくなるほど、電池100全体のLiイオン伝導性が向上するので、電池100の放電容量も向上する。但し、電流集中を効果的に緩和し、もって電池100のサイクル特性を改善するという観点からすれば、外周領域40hの面積割合は、20%以上とすることが好ましい。
【0037】
≪負極活物質層≫
負極活物質層22は、電池反応の主体となる負極活物質粒子を含む層である。負極活物質としては、C、Si、Ge、Sn、Al、Li合金、又はLiTi12などのLiを含む酸化物を利用することができる。
【0038】
上記負極活物質層22は、この層22のLiイオン伝導性を改善する電解質粒子を含有していても良い。上記電解質粒子としては、例えば、LiS−Pなどの硫化物(必要に応じて酸化物を含んでいても良い)を好適に利用することができる。その他、負極活物質層22は、導電助剤や結着剤を含んでいても良い。
【0039】
≪負極集電体≫
負極集電体21は、導電材料のみから構成されていても良いし、絶縁基板上に導電材料の膜を形成したもので構成されていても良い。後者の場合、導電材料の膜が集電体として機能する。導電材料としては、例えば、Cu、Ni、Fe、Cr、及びこれらの合金(例えば、ステンレスなど)から選択される1種が好適に利用できる。
【0040】
≪その他の構成≫
SE層30が硫化物の固体電解質を含むと、この硫化物の固体電解質が30に隣接する正極活物質層12に含まれる酸化物の正極活物質と反応して、正極活物質層12とSE層30との界面近傍が高抵抗化し、非水電解質電池100の放電容量を低下させる虞がある。そこで、上記界面近傍の高抵抗化を抑制するために、正極活物質層12とSE層30との間に中間層(図示略)を設けても良い。この中間層に用いる材料としては、非晶質のLiイオン伝導性酸化物、例えばLiNbOやLiTaOなどを利用できる。特にLiNbOは、正極活物質層12とSE層30との界面近傍の高抵抗化を効果的に抑制できる。
【0041】
<非水電解質電池の効果>
以上説明した非水電解質電池100は、充放電を繰り返しても短絡し難い。それは、Si層40において外周縁部を含む外周領域40hを設けることで、電池100の外周縁部近傍における電流集中を緩和でき、もって当該外周縁部近傍におけるデンドライトの成長を抑制できるからである。また、電池100における外周縁部近傍の電流集中を緩和することで、電池100の充放電に伴うデンドライトの生成に面内分布が生じることを抑制できるので、Si層40を介した負極活物質層22とSE層30との接合状態を良好に保つことができる。その結果、本発明非水電解質電池100は、サイクル特性に優れた電池100となる。
【0042】
<非水電解質電池の製造方法>
この非水電解質電池100は、正極集電体11側から順次各層を積層することで作製しても良いし、負極集電体21側から順次各層を積層することで作製しても良いし、正極活物質層12を備える正極体1と、負極活物質層22を備える負極体2とを別個に作製し、これら電極体1,2を貼り合わせることで作製しても良い。以下、図2の説明図を参照して電極体1,2を別個に作製する場合を説明する。
【0043】
別個に作製した電極体1,2を貼り合わせて非水電解質電池100を作製する場合、例えば、次の工程(A)〜(C)を備える作製方法を用いることができる。
(A)正極体1を作製する。
(B)負極体2を作製する。
(C)正極体1と負極体2とを重ね合わせ、加圧しながら熱処理を施して、正極体1と負極体2とを接合する。
※工程(A),(B)の順序は入れ替え可能である。
【0044】
≪工程A:正極体の作製≫
例示する正極体1は、正極集電体11の上に、正極活物質層12と正極側固体電解質層(PSE層)13を積層した構成を有する。この正極体1を作製するには、正極集電体11となる基板を用意し、その基板の上に残りの層12,13を順次形成すれば良い。正極集電体11は、正極体1と負極体2とを接合する工程Cの後に、正極活物質層12におけるPSE層13とは反対側の面に形成しても良い。
【0045】
正極活物質層12は、例えば、加圧成形法により形成することができる。その場合、正極活物質粒子からなる活物質粉末と、電解質粒子からなる電解質粉末とを含む混合粉末を用意する。そして、金型内に配置した正極集電体11上に混合粉末を配置して、加圧成形する。この加圧成形の条件は、適宜選択することができる。例えば、室温〜300℃の雰囲気下、面圧100〜400MPaで加圧成形すると良い。また、加圧成形される正極活物質粒子の平均粒径は、1〜20μmが好ましい。さらに電解質粒子を利用するのであれば、その電解質粒子の平均粒径は、0.5〜2μmが好ましい。
【0046】
正極側固体電解質層(PSE層)13は、後の工程Cを経て後述する負極側固体電解質層23と一体化し、図1(A)に示す完成した電池100のSE層30の一部となる。このPSE層13の形成には、気相法を利用することができる。気相法としては、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、レーザーアブレーション法などを利用できる。
【0047】
≪工程B:負極体の作製≫
負極体2は、負極集電体21の上に、負極活物質層22と、Si層40と、負極側固体電解質層(NSE層)23を積層した構成を有する。この負極体2を作製するには、負極集電体21となる基板を用意し、その基板の上に残りの層22,40,23を順次形成すれば良い。なお、負極集電体21は、工程Cの後に、負極活物質層22におけるNSE層23とは反対側の面に形成しても良い。
【0048】
負極活物質層22は、正極活物質層12と同様に、加圧成形法により作製することができる。例えば、負極活物質粒子からなる負極活物質粉末と、上記固体電解質粉末とを混合し、金型内に配置した負極集電体21上でこの混合粉末を加圧成形する。この加圧成形の条件は、適宜選択することができる。例えば、室温〜300℃の雰囲気下、面圧100〜400MPaで加圧成形すると良い。また、加圧成形される負極活物質粒子の平均粒径は、1〜20μmが好ましい。さらに電解質粒子を利用するのであれば、その電解質粒子の平均粒径は、0.5〜2μmが好ましい。
【0049】
負極活物質層22の上に形成するSi層40は、厚さの異なる外周領域40hと中央領域40cに分けられる。両領域40h,40cに厚みの差を形成するには、例えば、負極活物質層22上に、気相法で厚みのほぼ均一なSiを成膜し、次いで中央領域40cとなる部分にマスクを施し、さらに気相法でSiを成膜すると良い。このSi層40はナノオーダーの厚さであるため、実質的に気相法以外の方法で形成することは難しい。
【0050】
負極側固体電解質層(NSE層)23は、上述したPSE層13と同様に、次の工程Cを経てSE層30の一部となる。このNSE層23と上述したPSE層13とは組成や作製方法などを同じとしておくことが好ましい。そうすることで、NSE層23とPSE層13とが次の工程Cを経ることで一層のSE層30となったときに、SE層30の厚み方向にLiイオン伝導性にばらつきが生じ難い。
【0051】
≪工程C:正極体と負極体との接合≫
次に、PSE層13とNSE層23とが互いに対向するように正極体1と負極体2とを積層して積層体を作製する。その際、PSE層13とNSE層23とを圧接させつつ熱処理を施して、PSE層13とNSE層23とを一体化させる。
【0052】
工程Cにおける熱処理条件は、PSE層13とNSE層23の組成などの影響を受けて変化するが、概ね150〜300℃×1〜60分で行なうことが好ましい。より好ましい熱処理条件は、180〜250℃×30〜60分である。
【0053】
また、工程Cでは熱処理時にPSE層13とNSE層23とを近づける方向に加圧する。加圧の圧力は、非常に小さくともPSE層13とNSE層23との一体化を促進する効果はあるものの、高くする方が当該一体化を促進し易い。但し、加圧の圧力を高くすると、正極体1と負極体2に備わる各層に割れなどの不具合が生じる虞がある。特に、粉末成形体である正極活物質層12や負極活物質層22には割れが生じ易い。PSE層13とNSE層23との一体化はあくまで熱処理により生じるものであるので、加圧の圧力は10〜20MPaで十分である。
【0054】
工程Cを行なうことにより、図1(A)に示すように、一層のSE層30を備える非水電解質電池100が形成される。この一層のSE層30は、上述したようにPSE層13とNSE層23とを一体化させることで形成されたものでありながら、PSE層13とNSE層23との界面がほとんど残らない。そのため、このSE層30は、当該界面に起因するLiイオン伝導性の低下がなく、高Liイオン伝導性で、かつ低電子伝導性のSE層30となる。
【0055】
以上、例示した工程A〜Cを備える非水電解質電池の製造方法によれば、図1を参照して説明した本発明非水電解質電池100を作製することができる。
【0056】
<試験例>
以下の構成を備える正極体1、負極体2を用いて非水電解質電池100を作製した。そして、得られた電池に対して、後述する条件にて充放電サイクル試験を行った。
【0057】
正極体1として、次の1種類を作製した。
≪正極体A≫
・正極集電体11…直径15mm、厚さ500μmAl箔
・正極活物質層12…直径15mm、厚さ100μmのLiCoO粉末とLiS−P粉末との加圧成形体(LiCoO:LiS−P=70質量%:30質量%)
・PSE層13…直径10mm、厚さ10μmのアモルファスLiS−P膜(真空蒸着法)
【0058】
一方、負極体2として、Si層40の構成が異なる4種類の負極体2を作製した。各負極体2の相違点は、Si層40を構成する中央領域40cと外周領域40hの厚さが異なることである。
≪負極体2≫
・負極集電体21…直径16mm、厚さ100μmのステンレス箔
・負極活物質層22…直径10mm、厚さ200μmのLi膜(真空蒸着法)
・Si層40…直径8mmの中央領域40c、内径8mm−外径10mmの環状の外周領域(スパッタリング法);各領域40c,40hの厚さは試料によって異なる(表1に示す)
・NSE層23…直径10mm、厚さ10μmのアモルファスLiS−P膜(真空蒸着法)
【0059】
次に、露点温度−50℃の大気中で、用意した正極体1と負極体2とを互いのPSE層13、NSE層23同士が接触するように重ね合わせ、加圧加熱処理を施すことにより、非水電解質電池(試料α〜δ)を作製した。
【0060】
次に、作製した試料α〜δの電池に対して10サイクルの充放電サイクル試験を行った。試験条件は、電流密度0.05mA/cm、カットオフ電圧3.0V−4.1Vとした。試料α〜δのSi層40の構成と、充放電10サイクル後の容量維持率(10サイクル時の放電容量/最大放電容量)・放電容量(mAh/cm)を表1に示す。
【0061】
【表1】

【0062】
表1に示すように、Si層40が厚さの異なる中央領域40cと外周領域40hとからなる試料β〜δの容量維持率(58〜86%)は、Si層40の厚みが均一な試料αの容量維持率(55%)よりも大きかった。これは、Si層を厚さの異なる外周領域40hと中央領域40cとに分けた試料β〜δでは、電池面内の電流密度を均一的にでき、負極活物質層22の面内におけるデンドライトの析出量の差も小さくできたからであると推察される。デンドライトの析出量に面内分布があると、デンドライトの析出量が多い箇所で層間剥離が生じ易い。
【0063】
また、試料β〜δを比較すると、外周領域40hの厚みを中央領域40cの厚みよりも40〜100nmの範囲で厚くした試料γの容量維持率(86%)は、他の試料β,δの容量維持率に比べて高かった。即ち、外周領域40hの厚みを中央領域40cの厚みよりも厚くするだけでなく、所定範囲で厚くすることで、非水電解質電池100の容量維持率を大幅に向上させることができることがわかった。これは、外周領域40hと中央領域40cの相対的な厚みを調整することで、電池面内の電流密度をより均一的にできたからであると推察される。
【0064】
なお、本発明は上述の実施形態に限定されるわけではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明の非水電解質電池は、充放電を繰り返すことを前提とした電気機器の電源、例えば各種電子機器の電源に好適に利用できる他、ハイブリッド自動車、電気自動車の電源としての利用も期待できる。
【符号の説明】
【0066】
100 非水電解質電池
1 正極体
11 正極集電体
12 正極活物質層
13 正極側固体電解質層(PSE層)
2 負極体
21 負極集電体
22 負極活物質層
23 負極側固体電解質層(NSE層)
30 固体電解質層(SE層)
40 Si層 40h 外周領域 40c 中央領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極活物質層、負極活物質層、及びこれら両活物質層の間に介在される固体電解質層を備える非水電解質電池であって、
前記固体電解質層と負極活物質層との間にSi層を備え、
前記Si層は、その外周縁部を含む環状の外周領域と、その外周領域の内部に位置する中央領域とで構成され、
前記外周領域の厚さが、前記中央領域に比べて厚いことを特徴とする非水電解質電池。
【請求項2】
前記外周領域はその全域にわたってほぼ均一な厚さを有し、
前記中央領域はその全域にわたってほぼ均一な厚さを有していることを特徴とする請求項1に記載の非水電解質電池。
【請求項3】
前記外周領域は、前記中央領域よりも40〜100nm厚いことを特徴とする請求項2に記載の非水電解質電池。
【請求項4】
前記Si層を平面視したときの前記外周領域の幅は、外周領域の全周に亘ってほぼ等しいことを特徴とする請求項2または3に記載の非水電解質電池。
【請求項5】
前記Si層を平面視したときの前記外周領域の面積割合は、50%以下であることを特徴とする請求項2〜4のいずれか一項に記載の非水電解質電池。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−54949(P2013−54949A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−192889(P2011−192889)
【出願日】平成23年9月5日(2011.9.5)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】