説明

非油性内容物用ポリエチレン製容器

【課題】ケチャップなどの非油性の粘稠な内容物に対して、内容物の倒立落下性に優れたポリエチレン製容器を提供する。
【解決手段】少なくともポリエチレン樹脂層を内面に備えたポリエチレン製容器であって、容器内面のポリエチレン樹脂層は、脂肪族アミドを500ppm以上、4000ppm未満の量で含有していることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非油性内容物、特に粘稠な非油性内容物に適用されるポリエチレン製容器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、ポリエチレン製容器は、成形が容易であり、安価に製造できることなどから、各種の用途に広く使用されており、例えば粘稠なスラリー状或いはペースト状の内容物を収容するための容器としても使用されている。
【0003】
ところで、粘稠な内容物を収容するためのポリエチレン製容器では、容器内に充填されている粘稠な内容物を速やかに排出するため、或いは容器内に残存させることなくきれいに最後まで使いきるために、容器を倒立状態で保存しておかれる場合が多い。従って、容器を倒立させたときには、内容物が容器内壁面に付着残存せず、例えば粘稠な内容物が速やかに落下するという特性が望まれている。
【0004】
内容物の容器内壁面への付着が抑制されたポリエチレン製容器については、種々の提案がなされており、例えば、特許文献1には、界面活性剤を主成分とするシャンプーや液体洗剤に使用される多層ポリエチレン製容器であって、内表面のポリエチレン層に4000ppm以上のエルカ酸アミド或いは1〜5重量%のシリコーンオイルを容器内面への付着防止剤として配合することが提案されている。
【特許文献1】特開平6−99481号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1による提案からも理解されるように、内容物が容器壁面に付着せず、内容物のほぼ全量を速やかに容器外に排出できるようにする検討は、多くは、シャンプーや液体洗剤などのように油分によるべたつき感のある内容物についてであり、例えば粘稠ではあるが油分によるべたつき感のないケチャップなどの非油性物質については、あまり検討されていないのが現状である。
【0006】
従って、本発明の目的は、非油性の粘稠な内容物に対して内容物の倒立落下性に優れたポリエチレン製容器を提供することにある。
本発明の他の目的は、熱間充填された場合にも熱による性能低下がなく、優れた内容物の倒立落下性を示すポリエチレン製容器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、少なくともポリエチレン樹脂層を内面に備えたポリエチレン製容器であって、容器内面のポリエチレン樹脂層は、脂肪族アミドを500ppm以上、4000ppm未満の量で含有していることを特徴とする非油性内容物用ポリエチレン製容器が提供される。
本発明によれば、また、上記のポリエチレン製容器に非油性内容物が熱間充填されて密封されているポリエチレン製容器が提供される。
【0008】
本発明のポリエチレン製容器においては、
(1)前記非油性内容物が、粘稠性食品であること、
(2)前記脂肪族アミドが、不飽和脂肪族アミドであること、
(3)前記不飽和脂肪族アミドが、オレイン酸アミド、エルカ酸アミド、或いはエチレンビスオレイン酸アミドの少なくとも1種であること、
(4)前記ポリエチレン樹脂層は、さらに有機過酸化物がブレンドされていること、
(5)前記ポリエチレン製容器に非油性内容物が熱間充填されて密封されていること、
が好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明のポリエチレン製容器は、容器内面に存在するポリエチレン樹脂層に500ppm以上、4000ppm未満の脂肪族アミドが配合されていることにより、非油性内容物に対して優れた倒立落下性を示し、従って、倒立保存により、ケチャップに代表される粘稠な非油性内容物は容器内壁面に付着残存せず、速やかに下方に落下し、この結果、容器の底部などに粘稠な非油性内容物を残すことなく、きれいに容器外に排出することが可能となる。
【0010】
例えば、後述する実験例1は、種々の添加剤が配合されたポリエチレン樹脂からなる基板を作成し、この基板上に一定量のケチャップを載せ、これを85度に傾けた状態でケチャップの転落速度を測定したものである(詳細な条件は、実験例1参照)。この実験結果によると、滑剤として代表的な高級脂肪酸やその塩、或いは流動パラフィンやパラフィンワックスなどが配合されたものでは、その転落速度は、添加剤が全く配合されていないブランクのポリエチレン樹脂製基板よりも僅かに向上しているに過ぎないが、本発明にしたがって、脂肪族アミドが配合されているポリエチレン樹脂基板では、その転落速度が著しく増大していることが判る。かかる実験結果から、本発明のポリエチレン樹脂製容器は、非油性内容物、特に粘稠な内容物に対しても優れた倒立落下性を示すことが理解されよう。
【0011】
また、上記の実験例1から理解されるように、本発明においては、脂肪族アミドの中でも特に不飽和脂肪族アミドを用いることにより、倒立落下性を著しく向上することができる。例えば、ステアリン酸アミドを用いた場合のケチャップの転落速度は、約2mm/min程度であるが、オレイン酸アミド等の不飽和脂肪族アミドを用いた場合のケチャップ転落速度は、20mm/minを超えている。
【0012】
本発明において、脂肪族アミドの配合により倒立落下性が向上し、特に不飽和脂肪族アミドを配合した場合には、倒立落下性の著しい向上がもたらされる理由は明確に解明されているわけではないが、本発明者等は次のように推定している。
脂肪族アミド分子は、極性基(アミド基)と非極性基(炭化水素基)とを有する両親媒性分子であり、特にアミド基中の酸素原子と水素原子との間で水素結合が形成可能となっている。従って、図1の模式図に示すように、ポリエチレン樹脂層の表面にブリーディングした脂肪族アミド分子は、水素結合力による極性基間の引力と非極性基間に作用するファンデルワールス力(水素結合力よりもかなり弱い)による引力とにより多分子層を形成するものと考えられる。このため、粘稠な内容物は、このような多分子層上を転落していくこととなるが、この場合、非油性の内容物は、脂肪族アミドの極性基に対して親和性が高いため、内容物の転落に際しては、多分子層内における結合力の弱い非極性基間の部分でへき開を生じることとなる。即ち、本発明では、脂肪族アミドの多分子層中でへき開を生じ、多分子層上部の脂肪族アミド分子を剥離させながら転落していくものとなり、この結果として、転落速度が速く、従って、優れた倒立落下性を示すものと信じられる。例えば、ステアリン酸などの脂肪酸やパラフィンワックスなどは、このような多分子層を形成せず、しかもへき開性を示さないため、転落速度が遅く、倒立落下性が不満足なものとなってしまうのである。
【0013】
また、不飽和脂肪族アミドは、脂肪鎖中に不飽和結合を有しているため、ポリエチレン樹脂層の表面にブリーディングして多分子層を形成したとき、不飽和結合を有していない飽和脂肪族アミドに比して、分子の秩序性が低く、高い分子運動性を示す。このため、上記のような非油性内容物の転落に際して、非極性基間でのへき開を生じ易く、この結果、転落速度が著しく速く、極めて優れた倒立落下性を示すものと考えられる。実際、上記でも述べたように、ステアリン酸アミドの転落速度が約2mm/min程度であるのに対して、これを同じ炭素数を有するオレイン酸アミドの転落速度は20mm/minと著しく速い。
【0014】
さらに、本発明においては、上記のように脂肪族アミドと共に、有機過酸化物を配合することにより、上記のような倒立落下性が安定的に維持されるばかりか、内容物の熱間充填などによって熱履歴を受けた場合にも、優れた倒立落下性を維持することができる。即ち、ブリーディングにより形成される脂肪族アミドの多分子層は、ポリエチレン樹脂層の表面に対する密着性に欠しく、このため、振動などによって外力が作用したとき或いは熱間充填などにより高温に曝された場合には、容易にポリエチレン樹脂層表面から離脱してしまうことが考えられる。しかるに、ポリエチレン樹脂層中に有機過酸化物を配合しておくと、有機過酸化物が脂肪族アミド及び基材であるポリエチレン樹脂と反応し、この結果、ブリーディングした脂肪族アミドがポリエチレン樹脂層表面に強固に固定され、このようなアンカー効果によって、優れた倒立落下性が安定的に維持され、また熱間充填などによる熱履歴を受けた場合にも、優れた倒立落下性が維持されるのである。
【0015】
例えば、後述する実験例3は、ポリエチレン樹脂製基板を25℃の水中に保持し、1分間の超音波処理を行った後に、実験例1と同様にしてケチャップの転落速度を測定したものであるが、かかる実験によれば、脂肪族アミドのみが配合されているポリエチレン樹脂製基板では、超音波処理後では明らかに転落速度の低下が認められるが、有機過酸化物が配合されたポリエチレン樹脂製基板では、このような転落速度の低下は全く認められない。
【0016】
同様に、後述する実験例4は、ポリエチレン樹脂製基板を85℃の熱水中に30秒間浸漬した後、実験例1と同様にしてケチャップの転落速度を測定したものであるが、かかる実験によれば、脂肪族アミドのみが配合されているポリエチレン樹脂製基板では、熱水中に浸漬後では明らかに転落速度の低下が認められるが、有機過酸化物が配合されたポリエチレン樹脂製基板では、実験例3と同様、このような転落速度の低下は全く認められない。
【0017】
このように、有機過酸化物が併用された本願発明のポリエチレン製容器は、有機過酸化物由来のアンカー効果により、倒立落下性の耐久性にも優れている。特にケチャップなどの粘稠な食品は、容器に熱間充填されるため、このような倒立落下性の耐久性が優れていることは、きわめて大きな利点である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明のポリエチレン製容器は、非油性内容物の収容に適用されるものである。かかる非油性内容物としては、これに限定されるものではないが、ケチャップが代表的であり、これ以外にも、各種のソース、液状糊などを例示することができる。また、このような非油性内容物の中でも、特に粘稠なペースト乃至スラリー状のもの(例えば25℃での粘度が100cps以上)が好適である。このような粘稠な内容物は、特に容器壁に付着残存することなく、容器外に排出し得るような特性が望まれるからである。さらに、本発明では、このような粘稠な非油性内容物の中でも、ケチャップやソースなどの食品類に好適に適用される。このような食品類は、殺菌を兼ねて、熱間充填(通常、80乃至90℃)されるが、前述したように、本発明のポリエチレン製容器は、このような熱履歴を受けた場合にも、優れた内容物の倒立落下性を維持することができるからである。
【0019】
本発明のポリエチレン製容器は、ポリエチレン樹脂を基材樹脂として形成されたものであり、かかるポリエチレン樹脂としては、特に制限されず、従来から容器の分野で使用されているものが使用される。具体的には、低密度ポリエチレン、直鎖低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレンなどの何れでもよく、また、そのメルトフローレート(MFR,190℃)は、一般に、0.1乃至50g/10min程度の範囲にある。
【0020】
また、容器壁が均質である必要はなく、例えば、容器壁の内面側に低密度ポリエチレンや直鎖低密度ポリエチレンなどの層とし、外面側を、印刷適正などを高めるために高密度ポリエチレンの層とすることもできるし、さらに、内面が上述したポリエチレン樹脂の層である限り、適宜、酸変性オレフィン系樹脂などの接着剤樹脂の層を介して中間層として、エチレンビニルアルコール共重合体などのガスバリアー性樹脂の層が形成された多層構造とすることもできる。この場合、外面側の層を、必要により、ポリエチレン樹脂以外の樹脂層とすることも可能である。
【0021】
上記のようなポリエチレン製容器において、本発明では、少なくとも容器内面に位置するポリエチレン樹脂層に、脂肪族アミドが配合されていることが重要であり、既に述べたように、かかる脂肪族アミドを配合しておくことにより、非油性内容物の倒立落下性を向上せしめ、粘稠な内容物であっても、容器壁の内面に内容物を付着残存させることなく、速やかに且つきれいに容器外に排出することが可能となる。
【0022】
本発明において、上記のような脂肪族アミドとしては、ブチルアミド、ヘキシルアミド、デシルアミド、ラウリン酸アミド、ミリスチン酸アミド、パルミチン酸アミド、ステアリン酸アミド等の飽和脂肪族アミドや、アクリルアミド、メタクリルアミド、クロトンアミド、イソクロトンアミド、オレイン酸アミド、エルカ酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド、オレイルパルミトアミド、ステアリルエルカミド等の不飽和脂肪族アミドを例示することができ、これらは、1種単独で使用することもできるし、2種以上を併用することもできる。これらの中でも、特に優れた倒立落下性が得られるという点で、不飽和脂肪族アミド、特にオレイン酸アミド、エルカ酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミドが好適であり、オレイン酸アミドが最も好適である。
【0023】
また、本発明においては、上述した脂肪酸アミドは、ポリエチレン樹脂層中に500ppm以上で且つ4000ppm未満、さらに、500ppm以上で且つ3000ppm以下の量で配合されているべきである。即ち、脂肪族アミド(オレイン酸アミド)の配合量と転落速度との関係を示す図3(実験例2の実験結果)から理解されるように、脂肪酸アミドの配合量が上記範囲よりも少ない場合には、ブリーディング量が少なく、十分な多分子層が形成されず、この結果、転落速度が遅く、倒立落下性が不満足となってしまう。一方、図3に示されているように、転落速度は、3000ppm前後で飽和に達してしまい、例えば4000ppm以上の量で脂肪酸アミドを配合したとしても、それ以上の転落速度の向上は得られない。即ち、脂肪族アミドの配合量は、転落速度の向上に寄与し得る程度の多分子層が形成される程度とすればよいのであり、必要量以上の脂肪族アミドの配合は、技術的に意味がないばかりか、むしろコストの増大を招いたり、ブリーディングした脂肪酸アミドの容器内壁面からの離脱を生じ易くなり、特に内容物が食品類である場合には、フレーバー性の低下などを引き起こすおそれも生じてしまう。また、倒立落下性の耐久性の観点からは、脂肪族アミドの配合量は500ppm以上であることが好適である。即ち、500ppm以上の量の脂肪族アミドが配合されている場合には、熱履歴や振動などの物理的外力が作用して一部の脂肪族アミドがポリエチレン樹脂層表面から脱落した場合にも、該表面に、十分な量の多分子層を確保することができるからである。
尚、300ppmの量の脂肪族アミドが配合されている場合においても、倒立落下性の向上が見られるが、本発明者の実験によれば、脂肪族アミドを300ppmの量で含有するポリエチレン樹脂を内面とした容量500mlの多層ボトルの場合、当初の倒立落下性の向上は発現されたが継続的な倒立落下性の向上は発現されず、倒立落下性の耐久性の観点から満足できるものではないことが判明した。
【0024】
尚、前述した特許文献1では、ポリエチレン製容器内面への内容物の付着を防止するために、4000ppm以上もの多量のエルカ酸アミドを配合することが提案されているが、この技術では、内容物がシャンプーなどの界面活性剤を主成分として含む物質であるものに限定されるものであるため、本発明に比して多量のエルカ酸アミドの配合が必要となるものと思われる。即ち、特許文献1では、界面活性剤含有の内容物がエルカ酸アミドに付着し難いという原理によるものであり、内容物とエルカ酸アミドとの非親和性を利用しているに過ぎず、多分子層中のへき開を利用している本発明とは、原理的に全く異なっているものと思われる。
【0025】
また、本発明においては、上述した脂肪酸アミドと共に、有機過酸化物を配合することが好ましい。このような有機過酸化物の配合により、既に述べたように、アンカー効果が発現し、脂肪族アミドの多分子層が部分的に強固にポリエチレン樹脂層表面に固定され、熱履歴等による多分子層の剥離が有効に抑制され、安定して優れた倒立落下性を維持することが可能となる。
【0026】
このような有機過酸化物としては、これに限定されるものではないが、例えばベンゾイルパーオキサイド、p−クロロベンゾイルパーオキサイド、デカノイルパーオキサイド、ラウロイルパーキサイド、アセチルパーキサイド等のジアシルパーキサイド、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシジカーボネート、クミルパーオキシネオデカノエート、t−ブチルパーオキシベンゾエート等のパーオキシエーテル、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ−2−エチルヘキシルパーオキシジカーボネート、ジ−sec−ブチルオキシパーカーボネート等のパーカーボネート等を例示することができ、これらの有機過酸化物は、1種単独で使用することもできるし、2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0027】
本発明において、上記の有機過酸化物は、前述した脂肪族アミドに対して10乃至70重量%、特に10乃至30重量%の量で使用することが好ましい。この量が少ないと、アンカー効果が不満足となり、倒立落下性の耐久性を十分に向上させることが困難となり、また必要以上に多量に配合しても、コスト的に不利となるに過ぎない。
【0028】
本発明のポリエチレン製容器は、内表面側に位置するポリエチレン樹脂層を形成すべきポリエチレンと上述した脂肪族アミド及び必要により有機過酸化物を所定の量比で溶融混練し、多層構造とする場合には、他の層を構成する樹脂等の溶融混練物を併用し、それ自体公知の手段で成形することにより製造することができる。
【0029】
このようにして形成されるポリエチレン製容器は、例えば図2に示されているように、螺条を備えた首部1、肩部3を介して首部に連なる胴部5及び胴部の下端を閉じている底部7を有しており、このような容器に非油性の内容物を充填した後、首部1の上端開口部にアルミ箔等の金属箔9をヒートシールにより施し、所定のキャップ10を装着することにより、包装容器として使用に供される。かかる包装容器では、キャップ10を開封し、シール材が塗布された金属箔9を引き剥がし、容器を傾倒させることにより、内容物の取り出しが行われる。
【0030】
上記のような包装容器は、倒立落下性が優れており、非油性内容物が粘稠なものであっても、これを倒立保持しておくことにより、内容物が容器壁内面に付着せず、首部側に速やかに落下するため、容器を傾けての内容物の取り出し迅速に行うことができ、内容物を容器内に残すことなく、きれいに取り出すことができる。
【0031】
特に、容器内容物が熱間充填される粘稠な食品類、例えばケチャップ等について本発明は著効を有し、本発明の効果を最大限に発揮させることができる。
尚、脂肪族アミドと共に有機過酸化物を配合したときには、倒立落下性の耐久性維持効果が発現する。
【実施例】
【0032】
本発明を次の実験例で説明する。
尚、以下の実験例で内容物の転落速度は、次のようにして測定した。
転落速度測定試験:
ポリエチレン樹脂(低密度ポリエチレン、MFR=22)を基材樹脂とし、各実験例に示す処方にしたがって各種の添加剤が基材樹脂に配合された樹脂組成物を用い、該樹脂組成物を射出成形して、92mm×92mm×1.5mmの大きさの試料基板を作製する。この試料基板の一方側の端部に70mgのケチャップ(23℃での粘度;1740cps)を載せ、これを85度の角度に傾斜させ、ケチャップの転落挙動をカメラで測定し、その転落挙動を解析し、移動距離−時間のプロットから転落速度を算出し、この速度を倒立落下性の指標とした。この速度が大きいほど、内容物の倒立落下性が優れていることを意味する。
【0033】
<実験例1>
表1に示すように、各種の添加剤をポリエチレン樹脂に添加し、2軸押出機を用いて溶融混練し、該溶融混練物を射出成形して試料基板を作製し、ケチャップについての転落速度を測定した。その結果を表1に示す。
【0034】
【表1】

【0035】
上記の結果から、脂肪族アミド、特に不飽和脂肪族アミドをポリエチレン樹脂に配合することにより、倒立落下性が向上することが判る。
【0036】
<実験例2>
添加剤としてオレイン酸アミドを使用し、ポリエチレン樹脂当りの添加量を種々変更して試料基板を作製した。この試料基板について、転落速度を測定した。添加量と転落速度との関係を図3に示した。
図3の結果から、添加量としては、500ppm以上で且つ4000ppm未満の範囲で転落速度の十分な向上が発現することが判る。
【0037】
<実験例3>
基材のポリエチレン樹脂当り、表2に示す量でオレイン酸アミド及び有機過酸化物(パーヘキシン25B−40,日本油脂(株)製)を配合し、試料基板を作製した。この基板を25℃の水中に1分間、浸漬保持しながら超音波処理した後、転落速度を測定し、超音波処理前の転落速度と比較した。その結果を表2に示した。
【0038】
【表2】

【0039】
上記の結果から、有機過酸化物が配合されていないときには超音波処理により転落速度が低下するが、有機過酸化物の配合により、超音波処理による転落速度の低下を回避、或いは向上することが判る。すなわち、有機過酸化物を配合することで、ブリーディングにより形成された脂肪族アミドの多分子層が安定に維持されていることが確認できる。
【0040】
<実験例4>
基材のポリエチレン樹脂当り、表3に示す量でオレイン酸アミド及び有機過酸化物(パーヘキシン25B−40,日本油脂(株)製)を配合し、試料基板を作製した。この基板を85℃の熱水中に30秒間浸漬保持した後、転落速度を測定し、このような熱水処理前の転落速度と比較した。その結果を表3に示した。
【0041】
【表3】

【0042】
上記の結果から、有機過酸化物が配合されていないときには熱水処理により転落速度が低下するが、有機過酸化物の配合により、熱水処理による転落速度の低下を回避、或いは向上することが判る。すなわち、高温に曝された場合においても、有機過酸化物を配合することで、ブリーディングにより形成された脂肪族アミドの多分子層が安定に維持されていることが確認できる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の原理を説明するための説明図。
【図2】本発明のポリエチレン製容器をキャップと共に示す図。
【図3】脂肪族アミドの添加量とケチャップ転落速度との関係を示す図。
【符号の説明】
【0044】
1:首部
5:胴部
7:底部
10:キャップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともポリエチレン樹脂層を内面に備えたポリエチレン製容器であって、容器内面のポリエチレン樹脂層は、脂肪族アミドを500ppm以上、4000ppm未満の量で含有していることを特徴とする非油性内容物用ポリエチレン製容器。
【請求項2】
前記非油性内容物が、粘稠性食品である請求項1に記載のポリエチレン製容器。
【請求項3】
前記脂肪族アミドが、不飽和脂肪族アミドである請求項1または2に記載のポリエチレン製容器。
【請求項4】
前記不飽和脂肪族アミドが、オレイン酸アミド、エルカ酸アミド、或いはエチレンビスオレイン酸アミドの少なくとも1種である請求項3に記載のポリエチレン製容器。
【請求項5】
前記ポリエチレン樹脂層は、さらに有機過酸化物がブレンドされている請求項1乃至4の何れかに記載のポリエチレン製容器。
【請求項6】
請求項1乃至5の何れかのポリエチレン製容器に非油性内容物が熱間充填されて密封されているポリエチレン製容器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−222291(P2008−222291A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−66491(P2007−66491)
【出願日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【出願人】(000003768)東洋製罐株式会社 (1,150)
【Fターム(参考)】