説明

非焼成色鉛筆芯

【課題】 耐水性が良好で、引張り強度、曲げ強度、衝撃強度等の機械的強度が格段に優れると共に、滑らかな書き味を有する非焼成色鉛筆芯を提供する。
【解決手段】 少なくとも着色材と、体質材と、粘結材を含有する非焼成色鉛筆芯において、上記粘結材がケン化度90mol%以上のポリビニルアルコールであることを特徴とする非焼成色鉛筆芯。
好ましくは、ポリビニルアルコールは、水溶解粘度が300mPa・s(4%/20℃)以下であること、及び/又はそのポリビニルアルコールの重合度が100〜4000であることが望ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として色鉛筆用の芯に利用される非焼成色鉛筆芯に関し、更に詳しくは、耐水性が良好で、引張り強度、曲げ強度、衝撃強度等の機械的強度が格段に優れると共に、滑らかな書き味を有する非焼成色鉛筆芯に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の非焼成色鉛筆芯は、結合材である有機高分子物質を水で溶解、膨潤させてワックス類、体質材、着色剤等と共に混練、押出成形した後に、水を乾燥除去する湿式法で製造されている。
しかしながら、この製法により得られる非焼成色鉛筆芯は、高湿度下において、芯が膨張することによって木軸の割れなどが生じたり、筆記描線が水に濡れると着色材の溶出が起こり、着色性が低下したりするばかりでなく、手や衣服などを汚してしまう可能性があった。
【0003】
この問題を解決する方法として、ワックス類の添加量を増やすことによって、または、水溶性粘結材を減らすことによって耐水性を向上させることができるが、これらの方法では、共に強度が弱くなる点に課題がある。
【0004】
一方、耐水性のある粘結材(結合材)として、ニトロセルロースの使用(例えば、特許文献1参照)や、カルボキシメチルセルロース酸の使用(例えば、特許文献2参照)が知られている。
しかしながら、上記ニトロセルロースを使用するものでは、乾燥状態ではきわめて燃えやすく、また、溶剤を含むと爆発性がなくなるため、運搬や貯蔵の際には20%以上の溶剤を含ませておくことが普通であり、使用性の点で不便であり、また、ニトロセルロースに酸が残っていると自然発火する危険性が少なからずある。
【0005】
また、上記カルボキシセルロース酸を使用するものでは、非焼成色鉛筆芯の原料組成物事態に直接配合させた場合、この物質は水不溶性であることから、非焼成色鉛筆芯における結合材として適切な機能を発揮しえないため、原料組成物中にカルボキシセルロースアンモニウム(=CMCアンモニウム)を配合せしめ、加熱することによって、CMCアンモニウムのアンモニア分子が離脱し、これによってカルボキシセルロース酸が得られるが、この際にアンモニアが発生するため、人体に悪影響を及ぼす可能性がある。
更に、非焼成鉛筆芯において、結合材として用いるニトロセルロースやカルボキシメチルセルロース酸などの有機高分子物質は、焼成鉛筆芯の結合材である粘土、炭化物に較べて機械的強度が劣るという欠点を有している上に、滑らかな筆感と紙に対する付着性を得るために添加されるワックス類が非焼成色鉛筆芯の機械的強度を更に低下させるという課題がある。
【0006】
他方、非焼成色鉛筆芯の機械的強度、即ち、曲げ強度、引張強度、衝撃強度等を上げるために、従来、例えば、短繊維状若しくは針状の結晶構造を有するチタン酸カリウムを添加する方法(例えば、特許文献3参照)や、チタン酸カリウム繊維体を添加する方法(例えば、特許文献4参照)や、繊維状黒鉛、繊維状炭素、又は繊維状顔料を添加する方法(例えば、特許文献5参照)などが知られている。
しかしながら、これらの各文献に記載される方法で繊維状物質等を含有させることにより、機械的強度を増大させることはできても、書き味の点で未だ不満が残るものが多く、また、色相の点で色鉛筆芯に使用できる繊維状物質は限定される点にも課題がある。
【特許文献1】特開2001−200189号公報(特許請求の範囲、実施例等)
【特許文献2】特開平11−335617号公報(特許請求の範囲、実施例等)
【特許文献3】特開昭52−88419号公報(特許請求の範囲、実施例等)
【特許文献4】特開昭56−163171号公報(特許請求の範囲、実施例等)
【特許文献5】特公昭48−18437号公報(特許請求の範囲、実施例等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記従来技術の課題等に鑑み、これを解消しようとするものであり、耐水性が良好で、引張り強度、曲げ強度、衝撃強度等の機械的強度が格段に優れると共に、滑らかな書き味を有する非焼成色鉛筆芯を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記従来の課題等を解決するために、鋭意検討した結果、少なくとも着色材と、体質材と、粘結材を含有する非焼成色鉛筆芯において、上記粘結材として特定物性となるポリビニルアルコールを用いることにより、上記目的の非焼成色鉛筆芯が得られることを見い出し、本発明を完成するに至ったのである。
【0009】
すなわち、本発明は、次の(1)〜(4)に存する。
(1) 少なくとも着色材と、体質材と、粘結材を含有する非焼成色鉛筆芯において、上記粘結材がケン化度90mol%以上のポリビニルアルコールであることを特徴とする非焼成色鉛筆芯。
(2) ポリビニルアルコールは、水溶解粘度が300mPa・s(4%/20℃)以下である上記(1)記載の非焼成色鉛筆芯。
(3) ポリビニルアルコールの重合度が100〜4000である上記(1)又は(2)記載の非焼成色鉛筆芯。
(4) ポリビニルアルコールの含有量が1〜35重量%である上記(1)〜(3)の何れか一つに記載の非焼成色鉛筆芯。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、耐水性が良好で、引張り強度、曲げ強度、衝撃強度等の機械的強度が格段に優れると共に、滑らかな書き味を有する非焼成色鉛筆芯が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に、本発明の実施形態を詳しく説明する。
本発明の非焼成色鉛筆芯は、少なくとも着色材と、体質材と、粘結材を含有する非焼成色鉛筆芯において、上記粘結材がケン化度90mol%以上のポリビニルアルコールであることを特徴とするものである。
【0012】
本発明において、粘結材として用いるポリビニルアルコール(PVOH)は、下記一般式(I)で表されるものである。
【化1】

用いるポリビニルアルコールのケン化度{〔m/(m+n)〕×100}は、溶解性の点で90mol%以上であることが必要であり、好ましくは、95mol%以上、更に好ましくは、ケン化度97mol%以上であることが望ましい。
ポリビニルアルコールのケン化度が90mol%未満のものでは、耐水性が悪くなり、高湿度下で芯が膨張したり、筆記描線が水に濡れると着色材の溶出が生じたりし、好ましくない。
【0013】
用いるケン化度が90mol%以上のポリビニルアルコールにおいて、更なる機械的強度の向上の点から、好ましくは、水溶解粘度(20℃、濃度4%の水溶解粘度、以下、「4%/20℃」という)が300mPa・s以下、更に好ましくは、3〜150mPa・s、特に好ましくは、5〜100mPa・sであることが望ましい。
この水溶解粘度(4%/20℃)が300mPa・sを超えるものでは、分散効率が悪くなり、均一に撹拌しづらくなるため、強度のバラツキが発生し、非焼成色鉛筆芯の機械的強度、即ち引張強度、曲げ強度、衝撃強度等が著しく損なわれ、一定形状の色鉛筆芯体を得ることが難しくなることがあり、好ましくない。
【0014】
更に、上記ケン化度、水溶解粘度のポリビニルアルコールにおいて、筆感、着色性を損なうことなく、更なる機械的強度の向上の点から、その重合度(m+n)は、好ましくは、100〜4000、更に好ましくは、200〜3500、特に好ましくは、400〜3000が望ましい。
この重合度が100未満であると、滑らかな筆感、優れた着色性への効果は大きくなるが、強度の低下も大きく、強度、書き味のバランスのとれた非焼成色鉛筆芯は得られなくなり、一方、重合度が4000を超えると、分散効率が悪くなり、均一に撹拌しづらくなるため、強度のバラツキが発生し、非焼成色鉛筆芯の機械的強度、即ち引張強度、曲げ強度、衝撃強度等が著しく損なわれ、一定形状の色鉛筆芯体を得ることが難しくなることがあり、好ましくない。
【0015】
このような特性を有するポリビニルアルコールの含有量は、原料組成物全量に対して、好ましくは、1〜35重量%、更に好ましくは、3〜30重量%、特に好ましくは、5〜25重量%であることが望ましい。
この含有量が1重量%未満では、一定形状の色鉛筆芯を得ることが難しく、一方、35重量%を越えると、強度は高くなるが、摩耗しづらくなるなどの弊害を生じることがあり、好ましくない。
【0016】
本発明の非焼成色鉛筆芯において、粘結材が上記特性のポリビニルアルコールを用いることを必須とする以外、体質材、着色材、その他の成分は本発明の効果を損なわない範囲で、特に限定されることなく、用いることができる。
使用される体質材としては、炭酸カルシウム、クレー、カオリン、タルク、二酸化チタン、沈降性硫酸バリウム、マイカ、チタン酸カリウムウィスカー、マグネシウムオキシサルフェートウィスカー、ホウ酸アルミニウムウィスカー等の公知の体質材をすべて用いることができる。その他に、ワラストナイト、アタパルジャイト、セピオライト等も併用して用いることができる。
この体質材の含有量としては、原料組成物全量に対して、好ましくは、10〜80重量%である。
【0017】
用いることができる着色材としては、公知の顔料、染料などが任意に使用できる。例えば顔料としては、酸化チタン、亜鉛華、カーボンブラック、黒鉛、鉄黒、弁柄、紺青、群青、ブロンズ粉、雲母チタン等の公知の無機顔料、及びパーマネントレッド4R、リソールレッド(Ba)、レーキレッドC、ピラゾロンオレンジ、ブリリアントボルドー10B、ブリリアントカーミン6B、ジスアゾイエローAAA、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン、ビクトリアルブルーレーキ、メチルバイオレットレーキ、合成樹脂固溶型昼光蛍光顔料等の公知の有機顔料をすべて用いることができる。
この着色材の含有量としては、原料組成物全量に対して、好ましくは、5〜40重量%である。
【0018】
また、本発明において、粘結材として上記特性のポリビニルアルコールを用いるものであるが、本発明の効果を損なわない範囲で、プルラン、カルボキシルメチルセルロース、メチルセルロース等の水溶性セルロース誘導体、トラガカントガム、アラビアガム、グアーガム、ダンマルガム、ローカストビーンガム等合成、天然の粘結材を適宜量必要に応じて単独あるいは混合して使用してもよいものである。
更に、その他の成分として、流動パラフィンやシリコーンオイル、硬化ひまし油、ワセリン等の公知の油脂類やワックス類;、アニオン性、カチオン性、非イオン性、両性の公知の界面活性剤;、エチレングリコール、メチルエチルケトン、トルエン、キシレン、水等の溶媒;、帯電防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、顔料分散剤、防腐剤、防カビ剤等を適宜量含有することも可能である。
【0019】
本発明の非焼成鉛筆芯は、少なくとも、粘結材としてケン化度90mol%以上のポリビニルアルコール、着色材、体質材などの原料組成物を混練、成形した後、乾燥することなどにより製造することができる。
具体的には、上記原料組成物をヘンシェルミキサーで混合し、更に原料組成物と同重量に相当する水を加えてニーダーで混合、分散させた後に二本ロールで混練しながら水分調整し、この混練物をペレット化して単軸スクリュー型押出機にて押出成形した後、50℃で3日間乾燥して水分を除去することにより目的の非焼成鉛筆芯を得ることができる。
【0020】
このように構成される非焼成色鉛筆芯では、少なくとも着色材と、体質材と、粘結材を含有する非焼成色鉛筆芯において、上記粘結材としてケン化度90mol%以上のポリビニルアルコールを用いることにより、耐水性が良好で、引張り強度、曲げ強度、衝撃強度等の機械的強度が格段に優れると共に、滑らかな書き味を有するものが得られるものとなる。
好ましくは、ポリビニルアルコールの水溶解粘度が300mPa・s(4%/20℃)以下、及び/又はその重合度が100〜4000であるものを用いると、更に耐水性が良好で、機械的強度が更に格段に優れると共に、更に滑らかな書き味を有する非焼成色鉛筆芯が得られるものとなる。
【0021】
本発明において、上記特性のポリビニルアルコールを用いると、何故、耐水性が良好で、引張強度、曲げ強度、衝撃強度等の機械的強度が格段に優れると共に、滑らかな書き味を有する非焼成色鉛筆芯が得られるかは下記に作用等によるものと推察される。
すなわち、ケン化度90mol%以上のポリビニルアルコールは分子間及び分子内で強い水素結合を持つため、水溶解性が阻害され、耐水性が良好になり、また、機械的強度に優れるものと考えられる。また、紙表面の水酸基との水素結合も少なくなるため、滑らかな書き味になるものと考えられる。
【実施例】
【0022】
次に、実施例及び比較例により本発明を詳細に説明するが、本発明は下記実施例に限定うるものではない。
【0023】
〔実施例1〜7及び比較例1〜5〕
下記表1に示される各ケン化度、水溶解粘度、重合度のポリビニルアルコールA〜Kを用いて下記表2及び表3に示す配合組成となる原料組成物をヘンシェルミキサーで混合し、更に原料組成物と同重量に相当する水を加えてニーダーで混合、分散させた後に二本ロールで混練しながら水分調整し、この混練物をペレット化して単軸スクリュー型押出機にて押出成形した後、50℃で3日間乾燥して水分を除去すること各非焼成色鉛筆芯を製造した。
【0024】
得られた各非焼成色鉛筆芯について、下記各評価方法により、耐水性、膨潤性、曲げ強度、書き味、着色性について評価した。
これらの結果を下記表2及び表3に示す。
【0025】
(耐水性の評価方法)
25℃、湿度65%環境下で、水中に各非焼成色鉛筆芯を入れ、1週間放置後の着色材の溶け具合を下記評価基準で評価した。
評価基準:
○:着色材の溶出なし
×:着色材の溶出あり
【0026】
(膨潤性の評価方法)
25℃、湿度65%環境下で、水中に各非焼成色鉛筆芯を入れ、1週間放置後の芯径の膨潤具合を水中に入れる前の初期と比較して下記評価基準で評価した。
評価基準:
◎:芯径の増加が5%以下
○:芯径の増加が10%未満
×:芯径の増加が10%以上
【0027】
(曲げ強度の評価方法)
JIS−S−6005−1992に準拠して曲げ強度(MPa)を評価した。
【0028】
(書き味の評価方法)
25℃、湿度65%環境下で、上質紙面に筆記して下記評価基準で官能評価した。
評価基準:
◎:大変良好
○:良好
△:やや悪い
×:悪い
【0029】
(着色性の評価方法)
JIS−S−6005−1992に準拠して筆記描線の濃度(単位:D)を測定した。
【0030】
【表1】

【0031】
【表2】

【0032】
【表3】

【0033】
上記表1〜表3の結果から明らかなように、本発明の範囲となる実施例1〜7は、本発明の範囲外となる比較例1〜5に較べて、膨潤もなく、耐水性が良好で、機械的強度に優れると共に、滑らかな書き味、着色性を有する非焼成色鉛筆芯が得られることが判明した。
特に、ケン化度が97mol%以上で、水溶解粘度が5〜100mPa・sで、かつ、重合度が400〜3000であるポリビニルアルコールを用いた実施例7では、膨潤もなく、耐水性が更に良好で、機械的強度に更に優れると共に、滑らかな書き味、着色性を有する非焼成色鉛筆芯が得られることが判った。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも着色材と、体質材と、粘結材を含有する非焼成色鉛筆芯において、上記粘結材がケン化度90mol%以上のポリビニルアルコールであることを特徴とする非焼成色鉛筆芯。
【請求項2】
ポリビニルアルコールは、水溶解粘度が300mPa・s(4%/20℃)以下である請求項1記載の非焼成色鉛筆芯。
【請求項3】
ポリビニルアルコールの重合度が100〜4000である請求項1又は2記載の非焼成色鉛筆芯。
【請求項4】
ポリビニルアルコールの含有量が1〜35重量%である請求項1〜3の何れか一つに記載の非焼成色鉛筆芯。

【公開番号】特開2006−182968(P2006−182968A)
【公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−380043(P2004−380043)
【出願日】平成16年12月28日(2004.12.28)
【出願人】(000005957)三菱鉛筆株式会社 (692)
【Fターム(参考)】