説明

非球形微粒子およびその製造方法

【課題】三相液滴のような、少なくとも二相を含む液滴を微小空間で拘束して硬化させることによる、形状の揃った非球形微粒子およびその製造方法を提供する。
【解決手段】非重合性相および重合性相から構成される、少なくとも二相を含む液滴を連続的に生成させてマイクロ流路内の液体連続相に導入し、ついで液滴の非重合性相および重合性相の各相重心を結ぶ線が実質的に直線となるように流路の形状およびサイズを制御したマイクロ流路下流部において、マイクロ流路を通過させて液滴の形状を揃えた後に、該マイクロ流路内で液滴を硬化処理して重合性相を重合させて、非球形ポリマー微粒子を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は非球形微粒子およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
非球形の微粒子は,光学フィルム,化粧品,塗料,フォトニック結晶等,幅広い分野において利用が期待されている高機能材料である。このような非球形微粒子の従来の製造方法としては,シード乳化重合,シード分散重合等のバッチ式の化学的合成手法が挙げられるが,使用できる原材料や実現できる構造,形状,サイズは限られていた。
これに対し近年,幅や深さが数μm〜数百μmの微細流路(マイクロ流路)を用いた、様々な形状の非球形微粒子の製造手法がいくつか報告されている。たとえば,マイクロ流路内の変形した液滴に対する硬化処理によって、円盤状、棒状等のポリマー粒子、金属粒子が得られている(D. Dendukuri, et al., Langmuir 2005, 21, 2113; S. Xu, et al., Angew. Chem. Int. Ed. Engl. 2005, 44, 724 )。さらには、マイクロ流路を流れる重合性モノマーに対するフォトリソグラフィにより、2次元マスクパターンを投影した形状の粒子の調製が報告されている(D. Dendukuri, et al., Nat. Mater. 2006, 5, 365; D. C. Pregibon, et al., Science 2007, 315, 1393)。
【0003】
一方、本発明者らは重合相と非重合相からなる二相Janus液滴をマイクロ流路を用いて連続生成し、重合処理を介して半球状の粒子を得た(T. Nisisako, et al., Adv. Mater. 2007, 19, 1489)。
【0004】
類似の手法として、Oil-in-Oil-in-Water(O/O/W)型のコアシェル液滴を二段階の液滴生成を介して調製し、界面エネルギーの最小化によるJanus液滴への形態変化の後に硬化処理を行い、半球状の粒子を得る手法も報告されている(Z. Nie, et al., J. Am. Chem. Soc. 2005, 127, 8058; N. Pannacci, et al., Phys. Rev. Lett. 2008, 101, 164502) 。
【0005】
本発明者らは上記の手法をさらに発展させ、2つの非重合相と1つの重合相から構成される三相複合エマルション滴(三相液滴)の生成を介した非球形粒子の調製方法を提案した(西迫ら,第18回化学とマイクロ・ナノシステム研究会講演要旨集,2008,p.59)。
【0006】
この方法は、2つの非重合相によって型どりされた曲面を2つ有する非球形微粒子を得る方法であり、他の方法では実現困難な形状の粒子を調製でき、その粒子形状および曲面形状を重合相/非重合相の体積比率や界面張力のバランスの制御によって操作できるものと考えられる。しかしながら、得られた三相液滴に対して流路外にて懸濁重合法による硬化処理を行ったところ、2つの凹面を有する粒子が得られたが、2つの凹面の相対位置にばらつきがみられ、均一形状の粒子を得ることはできなかった。これは、硬化処理の際に三相液滴内で2箇所の非重合相の相対位置が固定されていないためと考えられる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】D. Dendukuri, et al., Langmuir 2005, 21, 2113
【非特許文献2】S. Xu, et al., Angew. Chem. Int. Ed. Engl. 2005, 44, 724
【非特許文献3】D. Dendukuri, et al., Nat. Mater. 2006, 5, 365
【非特許文献4】D. C. Pregibon, et al., Science 2007, 315, 1393
【非特許文献5】T. Nisisako, et al., Adv. Mater. 2007, 19, 1489
【非特許文献6】Z. Nie, et al., J. Am. Chem. Soc. 2005, 127, 8058
【非特許文献7】N. Pannacci, et al., Phys. Rev. Lett. 2008, 101, 164502
【非特許文献8】西迫ら,第18回化学とマイクロ・ナノシステム研究会講演要旨集,2008,p.59
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記状況に鑑みて,三相液滴のような、少なくとも二相を含む液滴を微小空間で拘束して硬化させることによる、形状の揃った非球形微粒子およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明は、上記の課題を解決するために以下の発明を提供する。
(1)非重合性相および重合性相から構成される、少なくとも二相を含む液滴を連続的に生成させてマイクロ流路内の液体連続相に導入し、ついで液滴の非重合性相および重合性相の各相重心を結ぶ線が実質的に直線となるように流路の形状およびサイズを制御したマイクロ流路下流部において、マイクロ流路を通過させて液滴の形状を揃えた後に、該マイクロ流路内で液滴を硬化処理して重合性相を重合させて、非球形ポリマー微粒子を得ることを特徴とする非球形微粒子の製造方法。
(2)液滴が2つの非重合性相および1つの重合性相、または1つの非重合性相および2つの重合性相から構成される三相液滴である場合において、液滴の液体連続相への導入は、非重合性相および重合性相の3つの流れを合流させるための三叉路、ならびにこれらの3つの相の流れの両脇から液体連続相が導入されるシースフロー構造、が連結したマイクロ流路により行われる上記(1)に記載の非球形微粒子の製造方法。
(3)液滴が2つの非重合性相および1つの重合性相、または1つの非重合性相および2つの重合性相から構成される三相液滴である場合において、液滴の液体連続相への導入は、非重合性相および重合性相の3つの流れを合流させるための三叉路を液体連続相が流れるマイクロ流路と連結してクロスフローさせて行われる上記(1)に記載の非球形微粒子の製造方法。
(4)三相液滴は、1つの重合性相が2つの非重合性相に挟まれるか、1つの非重合性相が2つの重合性相に挟まれるか、または1つの重合性相がもう1つの重合性相と1つの非重合性相に挟まれる、構造を有する上記(1)〜(3)のいずれかに記載の非球形微粒子の製造方法。
(5)液滴サイズがサブミクロン〜10mmである上記(1)〜(4)のいずれかに記載の非球形微粒子の製造方法。
(6)非重合性相が液体または気体であり、かつ重合性相が液体である上記(1)〜(5)のいずれかに記載の非球形微粒子の製造方法。
(7)マイクロ流路下流部が2つ以上に分岐されている上記(1)〜(6)のいずれかに記載の非球形微粒子の製造方法。
(8)硬化処理が熱または光により行われる上記(1)〜(7)のいずれかに記載の非球形微粒子の製造方法。
(9)重合性相を重合させた後に、洗浄処理して非球形ポリマー微粒子を得る上記(1)〜(8)のいずれかに記載の非球形微粒子の製造方法。
(10)非重合性相、重合性相および液体連続相の少なくとも1つの相に界面活性剤を添加する上記(1)〜(9)のいずれかに記載の非球形微粒子の製造方法。
(11)非球形微粒子の形状または曲面の形状が界面張力のバランス制御により制御される上記(10)に記載の非球形微粒子の製造方法。
(12)非球形微粒子の形状または曲面の形状が非重合性相と重合性相の体積比率の調節により制御される上記(1)〜(11)のいずれかに記載の非球形微粒子の製造方法。
(13)非球形ポリマー微粒子の非重合性相との界面の形状が、凹面、凸面または平面である上記(1)〜(12)のいずれかに記載の非球形微粒子の製造方法。
(14)2つの非重合性相または2つの重合性相が、同一または異なる材料からなる上記(1)〜(13)のいずれかに記載の非球形微粒子の製造方法。
(15)上記(1)〜(14)のいずれかに記載の製造方法により得られた、非球形ポリマー微粒子。
(16)非重合性相および重合性相から構成される、少なくとも二相を含む液滴を連続的に生成させてマイクロ流路内の液体連続相に導入し、液滴の非重合性相および重合性相の各相重心を結ぶ線が実質的に直線となるように流路の形状およびサイズを制御したマイクロ流路下流部において、マイクロ流路を通過させて液滴の形状を揃えた後に、該マイクロ流路内で液滴を硬化処理して重合性相を重合させて、非球形ポリマー微粒子を得る方法において、重合性相が無機微粒子を懸濁させたものであり、得られる無機微粒子含有非球形ポリマー微粒子を熱処理してポリマー成分を除去し、ついで焼成して非球形ポリマー微粒子の形状に近似した無機微粒子焼成体を得ることを特徴とする無機微粒子焼成体の製造方法。
(17)無機微粒子がシリカ、アルミナ、ジルコニア、チタニアまたは窒化ケイ素である上記(16)に記載の無機微粒子焼成体の製造方法。
(18)上記(16)または(17)に記載の製造方法により得られた、無機微粒子焼成体。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、三相液滴のような、少なくとも二相を含む液滴を微小空間で拘束して硬化させることによる、形状の揃った非球形微粒子およびその製造方法を提供し得る。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】(a)三相液滴を用いる両凹面型非球形ポリマー微粒子の作成を示す概念図。(b)界面張力バランスの概念図。
【図2】(a)他のマイクロ流路の態様を示す概念図。(b)三相液滴生成を示す図。
【図3】実施例1におけるガラスキャピラリ内で、三相液滴が管内で向きを揃えた状態で並ぶことを示す図。
【図4】実施例1で得られた非球形ポリマー微粒子のSEM写真(走査電子顕微鏡写真)。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の非球形微粒子の製造方法においては、非重合性相および重合性相から構成される、少なくとも二相を含む液滴を連続的に生成させてマイクロ流路内の液体連続相に導入される。
【0013】
非重合性相としては、液体または気体が用いられる。液体としては、重合性相または液体連続相と容易に混和するものでなければ、水相(水性相を含む。)または各種の有機化合物を含む有機相が挙げられるが、好適にはシリコーンオイル、フッ素系オイル、ミネラルオイル、動物性もしくは植物性オイル等が挙げられる。他の有機相としては、デカン、オクタン等のアルカン類、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素類、トルエン等の芳香族炭化水素類、オレイン酸等の脂肪酸類等から選ばれ得る。2つの非重合性相を用いる場合、それらは同一または異なる材料であってもよい。
【0014】
非重合性相の少なくとも一相として気相(すなわち、気泡)を用いる場合には、空気、窒素、アルゴン、ヘリウム等が好適である。
【0015】
本発明においては、液滴が非重合性相として一または二相の気相を用い、かつ重合性相が一相である場合も、少なくとも二相を含む液滴と呼ぶ。しかしながら、液滴は好適には三相〜四相、最適には三相が作成の容易さ等の点から選ばれる。したがって、以下は主として三相液滴の場合について説明するが、それに限定されるものではない。
【0016】
一方、重合性相としては、特に制限されず、目的に応じてアクリル酸モノマー、メタクリル酸モノマー、スチレンモノマー、ジビニルベンゼンモノマー、等が好適に使用される。これらのモノマーは変性されていてもよい。また、重合性であれば、オリゴマー、ポリマーであってもよい。2つの重合性相を用いる場合、それらは同一または異なる材料であってもよい。
【0017】
液滴を連続的に生成させるためのマイクロ流路の分岐構造としては、特に制限されないが、好適には十字路、T字路から選ばれる。マイクロ流路のサイズは、目的とする非球形微粒子の大きさ等に応じて適宜決定し得るが、通常0.1μm〜10mm程度、好ましくは10μm〜1mm程度から選ばれる。マイクロ流路を形成する材料の材質は、たとえばプラスチック、セラミック、金属等のいずれでもよく、たとえばマイクロ流路の壁面を疎水性とする場合にはアクリル樹脂、シリコーン樹脂等が好適であり、一方、親水性にする場合には石英ガラス、シリコン、ホウケイ酸ガラス(たとえば「パイレックス(登録商標)」(商標))等が好適である。マイクロ流路を形成する材料の形状、大きさは目的とする用途等により適宜選定し得、たとえば、加工した流路を有する板状体(たとえば〜数センチ角)が挙げられる。このように、ガラスキャピラリのような出来合いのものでもよいし,基板上に加工されたマイクロ流路の利用(単一の流路や並列化流路)もできる。断面形状は円に限られず、正方形,長方形等であってもよい。
【0018】
また、液体連続相は、非重合性相または重合性相と容易に混和するものでなければ、水相(水性相を含む。)または各種の有機化合物を含む有機相からなり、特に制限されない。非重合性相が有機相である場合には、水相が好適であり、たとえばSDS水溶液が使用される。
【0019】
たとえば、図1(a)、図2(a)に示される構造が好適に採用される。図1(a)は、三相液滴の水性連続相への導入が、2つの非重合性有機相と1つの重合性モノマー相の流れを合流させるための三叉路、ならびにこれらの3つの相の流れの両脇から水性相が導入されるシースフロー構造、が連結した流路により行われる場合を示す。
【0020】
図2(a)は、三相液滴の水性連続相への導入が、2つの非重合性有機相と1つの重合性モノマー相の流れを合流させるための三叉路を水性連続相が流れるマイクロ流路と連結してクロスフローさせて行われる場合を示す。
【0021】
これらの構造は、均一サイズの三相液滴を連続生成するためのマイクロ流路の液滴生成部として,さらには分散相として三相並行流を連続相中に導入できる形状に好適に用いられる。三相液滴の場合には、1つの重合性相が2つの非重合性相に挟まれるか、1つの非重合性相が2つの重合性相に挟まれるか、または1つの重合性相がもう1つの重合性相と1つの非重合性相に挟まれる、構造を有する。
【0022】
液滴サイズは、目的により、通常サブミクロン〜10mmである。
【0023】
ついで、液滴の非重合性相および重合性相の各相重心を結ぶ線が実質的に直線となるように流路の形状およびサイズを制御したマイクロ流路下流部において、マイクロ流路を通過させて液滴の形状を揃えた後に、該マイクロ流路内で液滴を硬化処理して重合性相を重合させて、非球形ポリマー微粒子を得る。すなわち、生成された三相液滴のサイズに近いサイズを有するマイクロ流路を下流部に用意しておき,三相液滴をマイクロ流路下流部に導入することで,三相の向きを揃える(三相液滴生成部分のマイクロ流路も生成された三相液滴のサイズに近いサイズを有していてもよいが、下流部でサイズを絞るのが好適である)。マイクロ流路下流部は、2つ以上、好ましくは2〜100、に分岐させて用いることができる。
【0024】
液滴の非重合性相および重合性相の各相重心を結ぶ線が実質的に直線となるように流路形状およびサイズを制御したマイクロ流路下流部において、三相液滴のような、少なくとも二相を含む液滴は、微小空間で拘束され形状を揃えられる(液滴の非重合性相および重合性相の各相重心を結ぶ線が実質的に直線となる。)。ここでは、マイクロ流路下流部は、生成された三相液滴のサイズに近いサイズに絞られている(すなわち、マイクロ流路の壁面は生成された三相液滴と接触、または非接触であっても近接しており、液滴は微小空間で拘束されているといえる。)。
【0025】
三相の向きを揃えられた液滴は、マイクロ流路を下流部において硬化処理され、重合性相を重合される。硬化処理は熱または光により、重合性相の材料に適した条件下でラジカル重合させる常法を採用し得る。
【0026】
重合性相を重合させた後に、洗浄処理して形状の揃った非球形ポリマー微粒子を得ることができる。
【0027】
本発明方法においては、粒子の形状や曲面の形状(曲率)は,界面張力のバランスの操作(たとえば各相への界面活性剤の添加)および重合相と非重合相の体積比率の制御によって可能である。すなわち、非重合性相、重合性相および連続相の少なくとも1つの相に界面活性剤を添加し、非球形微粒子の形状または曲面の形状が各相の界面張力の調節により制御され得る。
【0028】
図1(b)は界面張力のバランスの概念図であり、界面活性剤を用いて各相の表面張力を適宜低下させて、所望の非球形微粒子の形状または曲面の形状を容易に得ることができる。
【0029】
また、非球形微粒子の形状または曲面の形状が非重合性相と重合性相の体積比率の調節により制御され得る。たとえば、体積比率は1/10〜10の範囲で選定され得る。
【0030】
非球形ポリマー微粒子の非重合性相との界面の形状が、凹面、凸面または平面である。
【0031】
さらに、本発明においては、非重合性相および重合性相から構成される、少なくとも二相を含む液滴を連続的に生成させてマイクロ流路内の液体連続相に導入し、液滴の非重合性相および重合性相の各相重心を結ぶ線が実質的に直線となるように流路の形状およびサイズを制御したマイクロ流路下流部において、マイクロ流路を通過させて液滴の形状を揃えた後に、該マイクロ流路内で液滴を硬化処理して重合性相を重合させて、非球形ポリマー微粒子を得る方法において、重合性相が無機微粒子を懸濁させたものであり、得られる無機微粒子含有非球形ポリマー微粒子を熱処理してポリマー成分を除去し、ついで焼成して非球形ポリマー微粒子の形状に近似した無機微粒子焼成体を、形状を容易に制御でき、簡易に効率よく得ることができる。
【0032】
無機微粒子としては、シリカ、アルミナ、ジルコニア、チタニア、窒化ケイ素等が挙げられる。その粒径は通常、数nm〜10μmであり、重合性相への配合割合は通常、重合性相全体の20〜60体積%である。懸濁は撹拌により常法によることができる。無機微粒子含有非球形ポリマー微粒子の熱処理は、ポリマー成分を分解除去するに必要な温度以上で行われ、通常500〜700℃程度である。ついで、ポリマー成分を除去された無機微粒子集合体は、焼成されて、非球形ポリマー微粒子の形状に近似した無機微粒子焼成体が得られる。焼成温度は、無機微粒子の種類により異なるが、溶融すると非球形ポリマー微粒子の形状に近似した形状が消失するので、通常は焼結温度領域で溶融温度未満から選ばれる。たとえば、シリカの場合には通常1000℃程度で行われる。
【0033】
得られる非球形無機微粒子焼成体は、超微小光学レンズ等に有用である。
【実施例】
【0034】
(実施例1)
ガラス基板(合成石英)にマイクロ流路を加工して,三相液滴の生成試験を行った.液滴を生成するためのマイクロ流路の分岐構造はT字形状とし(図2(a)),サイズを幅100 μm, 深さ100 μmとした。マイクロ流路の加工は反応性イオンエッチング(Deep RIE)によって行い,ガラス基板の熱溶着により封をして,流路の形成を行った.三相液滴の向きを揃え,形状の揃った非球形微粒子を得るために,液滴生成用チップとは別にガラスキャピラリ(外形0.5 mm,内径0.13 mm)を用意し,液滴生成部の下流部に接続した.
重合相としてアクリルモノマー(1, 6-ヘキサンジオールジアクリレート,新中村化学工業)に光重合開始剤(Darocur 1173, チバ・ジャパン)を1 wt%,界面活性剤としてTween80(和光純薬工業)を0.1 wt%添加したものを用い,非重合相としてシリコーンオイル(SH-200, 10CS, 東レ・ダウコーニング)を用いた.連続相としてドデシル硫酸ナトリウム(SDS)の0.3 wt%水溶液を用いた.分散相(非重合相および重合相),連続相の送液にはシリンジポンプ(KD Scientific社製,KDS200)を用いた.
アクリルモノマーの流量を0.167 mL/h,2つのシリコーンオイル流れの流量をともに0.167 mL/h,連続相流量を1.5 mL/hとしたところ,T字部において,毎秒約130個の規則正しい周期で均一サイズ(約1.1 nL)の三相液滴が連続生成される様子を観察することができた(図 2(b)).また,分散相および連続相の流量を変化させることで,液滴サイズおよび液滴生成速度を変化させることができた.生成された三相液滴は下流部に設置されたガラスキャピラリ内に導入されたが,この際に三相液滴が管内で向きを揃えた状態で並ぶ様子を確認した(図3).ガラスキャピラリへの紫外線照射処理により,互いに向かい合った凹面を有する,形状の揃ったアクリル粒子を得ることができた(図4はSEM写真を示す。)。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明によれば、三相液滴のような、少なくとも二相を含む液滴を微小空間で拘束して硬化させることによる、形状の揃った非球形微粒子およびその製造方法を提供し得る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非重合性相および重合性相から構成される、少なくとも二相を含む液滴を連続的に生成させてマイクロ流路内の液体連続相に導入し、ついで液滴の非重合性相および重合性相の各相重心を結ぶ線が実質的に直線となるように流路の形状およびサイズを制御したマイクロ流路下流部において、マイクロ流路を通過させて液滴の形状を揃えた後に、該マイクロ流路内で液滴を硬化処理して重合性相を重合させて、非球形ポリマー微粒子を得ることを特徴とする非球形微粒子の製造方法。
【請求項2】
液滴が2つの非重合性相および1つの重合性相、または1つの非重合性相および2つの重合性相から構成される三相液滴である場合において、液滴の連続水性分散相への導入は、非重合性相および重合性相の3つの流れを合流させるための三叉路、ならびにこれらの3つの相の流れの両脇から液体連続相が導入されるシースフロー構造、が連結したマイクロ流路により行われる請求項1に記載の非球形微粒子の製造方法。
【請求項3】
液滴が2つの非重合性相および1つの重合性相、または1つの非重合性相および2つの重合性相から構成される三相液滴である場合において、液滴の水性連続相への導入は、非重合性相および重合性相の3つの流れを合流させるための三叉路を液体連続相が流れるマイクロ流路と連結してクロスフローさせて行われる請求項1に記載の非球形微粒子の製造方法。
【請求項4】
三相液滴は、1つの重合性相が2つの非重合性相に挟まれるか、1つの非重合性相が2つの重合性相に挟まれるか、または1つの重合性相がもう1つの重合性相と1つの非重合性相に挟まれる、構造を有する請求項1〜3のいずれかに記載の非球形微粒子の製造方法。
【請求項5】
液滴サイズがサブミクロン〜10mmである請求項1〜4のいずれかに記載の非球形微粒子の製造方法。
【請求項6】
非重合性相が液体または気体であり、かつ重合性相が液体である請求項1〜5のいずれかに記載の非球形微粒子の製造方法。
【請求項7】
マイクロ流路下流部が2つ以上に分岐されている請求項1〜6のいずれかに記載の非球形微粒子の製造方法。
【請求項8】
硬化処理が熱または光により行われる請求項1〜7のいずれかに記載の非球形微粒子の製造方法。
【請求項9】
重合性相を重合させた後に、洗浄処理して非球形ポリマー微粒子を得る請求項1〜8のいずれかに記載の非球形微粒子の製造方法。
【請求項10】
非重合性相、重合性相および液体連続相の少なくとも1つの相に界面活性剤を添加する請求項1〜9のいずれかに記載の非球形微粒子の製造方法。
【請求項11】
非球形微粒子の形状または曲面の形状が界面張力のバランス制御により制御される請求項10に記載の非球形微粒子の製造方法。
【請求項12】
非球形微粒子の形状または曲面の形状が非重合性相と重合性相の体積比率の調節により制御される請求項1〜11のいずれかに記載の非球形微粒子の製造方法。
【請求項13】
非球形ポリマー微粒子の非重合性相との界面の形状が、凹面、凸面または平面である請求項1〜12のいずれかに記載の非球形微粒子の製造方法。
【請求項14】
2つの非重合性相または2つの重合性相が、同一または異なる材料からなるる請求項1〜13のいずれかに記載の非球形微粒子の製造方法。
【請求項15】
請求項1〜14のいずれかに記載の製造方法により得られた、非球形ポリマー微粒子。
【請求項16】
非重合性相および重合性相から構成される、少なくとも二相を含む液滴を連続的に生成させてマイクロ流路内の液体連続相に導入し、液滴の非重合性相および重合性相の各相重心を結ぶ線が実質的に直線となるように流路の形状およびサイズを制御したマイクロ流路下流部において、マイクロ流路を通過させて液滴の形状を揃えた後に、該マイクロ流路内で液滴を硬化処理して重合性相を重合させて、非球形ポリマー微粒子を得る方法において、重合性相が無機微粒子を懸濁させたものであり、得られる無機微粒子含有非球形ポリマー微粒子を熱処理してポリマー成分を除去し、ついで焼成して非球形ポリマー微粒子の形状に近似した無機微粒子焼成体を得ることを特徴とする無機微粒子焼成体の製造方法。
【請求項17】
無機微粒子がシリカ、アルミナ、ジルコニア、チタニアまたは窒化ケイ素である請求項16に記載の無機微粒子焼成体の製造方法。
【請求項18】
請求項16または17に記載の製造方法により得られた、無機微粒子焼成体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−116901(P2011−116901A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−277011(P2009−277011)
【出願日】平成21年12月4日(2009.12.4)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】