説明

非白金系燃料電池用電極及び該電極を用いた燃料電池

【課題】空気極での酸化劣化や燃料極での溶解や一酸化炭素の生成による触媒活性の劣化などに耐久性が高くかつ有害物質を生成しない効率的な燃料電池用非白金系電極と燃料電池を提供する。
【解決手段】主成分として、1000〜4000m2/gの比表面積と0.4〜10nmの平均細孔径をもつミクロ・メソポーラス活性炭に担持したジチオオキサミド配位遷移金属錯体とアルデヒド選択酸化触媒から成る複合触媒を含有する燃料電池用電極、及び該電極を用いたアルコール改質型燃料電池。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は非白金系の燃料電池用電極及び該電極を用いた燃料電池に関するものであり、具体的には、高比表面積のミクロ・メソポーラス活性炭に担持したジチオオキサミド配位遷移金属錯体、及びアルデヒド選択酸化触媒から成る複合触媒を主成分とする燃料電池用電極、及び、該電極を用いるアルコール用燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、水素又は炭化水素由来の水素を燃料とする固体高分子型燃料電池、ダイレクトメタノール燃料電池、ジメチルエーテル燃料電池等の電極触媒としては、活性炭に担持した白金、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、イリジウム等の白金族触媒を使用している。しかしながら、これらの白金族触媒は希少資源であることから、上記燃料電池の普及が危ぶまれている。また、白金族触媒は水素、酸素、メタノール、ジメチルエーテル等の小分子に対する特異的な電極触媒能力を有しているので、白金族触媒と代替可能な非白金族触媒に関する報告は非常に少なく、限られた種類の遷移金属化合物が非特許文献及び特許文献において報告されているにすぎない。例えば、非特許文献1では、活性炭に担持したポルフィリン錯体の熱処理物が酸性溶液中で高い酸素還元能(カソード性能)を示すことが報告されている。非特許文献2では、μ-hydroxy遷移金属錯体の熱処理物がメタノール中で高い酸素還元能(カソード性能)を示すことが報告されている。
【0003】
特許文献1では、高価で希少資源である白金の使用量を低減するために活性炭に担持したN,N'-bis(salicylidene)ethylenediamine 、N,N'-mono-8-quinolyl-o-phenylenediamine の遷移金属錯体と白金化合物の混合物の熱処理物を電極触媒として用いることが開示されている。なお、以上の熱処理物は元の金属錯体の化学構造が熱分解し原形を留めていないので、金属錯体ではない。また、以上の熱処理前の金属錯体は酸性条件で容易に分解するので、酸性条件でも使えるように熱処理を行っている。特許文献2では、プロトン伝導性を有するdithiooxamide の複核遷移金属錯体を水素極として用いることが開示されている。以上の遷移金属錯体触媒の発見は、希少資源である白金族触媒に代わる豊富で安価な電極の開発を行なう上で価値ある知見を与えている。
しかしながら、現在、遷移金属錯体及びその熱分解化合物は上記に挙げたいずれの燃料電池用電極触媒としても実用に供されていない。その理由は、白金族触媒に代わるような触媒性能が見出されていないことと、強酸性雰囲気にある燃料極(=アノード)での溶解、酸化雰囲気にある空気極(=カソード)での酸化劣化、燃料極での一酸化炭素の生成による触媒活性の低下、等の耐久性についての問題、及び、燃料極でのアルデヒド等の有害性物質の生成の問題、が大きな障害になっているからである。
【0004】
【非特許文献1】E. Yeager 1, Electrochim. Acta 0, 29, 1527-1537 (1984).
【非特許文献2】T. Okada, Y. Suzuki, T. Hirose, T. Toda, and T. Ozawa, Chemical Communications, 23, 2492-2493 (2001).
【特許文献1】特開2002−329500号公報
【特許文献2】特開2004−031174号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、上記の事情に鑑み、耐久性が高くかつ有害物質を生成しない非白金系の新規触媒を主成分とする燃料電池用電極及び該電極を用いた燃料電池を提供することであり、特にアルコール燃料改質のための電極及び該電極を用いた燃料電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記の目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、高比表面積のミクロ・メソポーラス材料に担持したジチオオキサミド配位遷移金属錯体とアルデヒド選択酸化触媒から成る複合触媒が電極酸化還元反応に有効であることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明は、以下の通りである。
(1)燃料電池用電極触媒の主成分として、1000〜4000m2 /gの比表面積と0.4〜10nmの平均細孔径をもつミクロ・メソポーラス活性炭に担持したジチオオキサミド配位遷移金属錯体とアルデヒド選択酸化触媒から成る複合触媒を含有することを特徴とする燃料電池用電極。
(2)ジチオオキサミド配位遷移金属錯体が、コバルト錯体であることを特徴とする上記(1)に記載の燃料電池用電極。
(3)ジチオオキサミド配位遷移金属錯体が、コバルトイオンとともに、マンガン、鉄、ニッケル及び銅の中から選ばれた少なくとも1種類以上の金属イオンを同一分子内に持つジチオオキサミド配位異核金属錯体であることを特徴とする上記(1)に記載の燃料電池用電極。
(4)アルデヒド選択酸化触媒が、ヘテロポリ酸塩、遷移金属のオキソ酸塩、遷移金属酸化物及びこれらの複合化合物から選ばれた少なくとも1つ以上の化合物であることを特徴とする上記(1)に記載の燃料電池用電極。
(5)上記(1)〜(4)のいずれかの項に記載の燃料電池用電極を用いることを特徴とするアルコール改質型燃料電池。
【発明の効果】
【0007】
本発明のミクロ・メソポーラス活性炭に担持したジチオオキサミド配位遷移金属錯体とアルデヒド選択酸化触媒から成る複合触媒を主成分として含有する電極は、非白金系の燃料電池用電極では非常に困難であったアノード反応とカソード反応をともに行うことができ、有害物質の生成抑制も同時に行うことができる。例えば、比表面積が1500m2 /g、細孔径が0.4〜2nmに分布するミクロ・メソポーラス活性炭に担持したジチオオキサミドコバルト錯体と酸化タングステンから成る複合触媒を含有した電極を燃料極及び空気極として共に用いた燃料電池は、室温でエタノール水溶液から白金触媒と同程度の出力密度で電気を生成することができる。しかも、アセトアルデヒド等の有害物質はほとんど生成しない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明を詳細に説明する。
従来、燃料電池用白金族触媒の担体としては活性炭が用いられている。その理由は、種々の多孔性材料の中で活性炭は、数千m2 /gにも及ぶ非常に大きな比表面積をもつ材料であるからである。また、通常、活性炭には、2nm以下のミクロ細孔、2〜50nmのメソ細孔、50nm以上のマクロ細孔が共存するので、担体としてはオールマイティーであるように思われがちである。しかし、触媒の側からみると、担体が高比表面積であることは触媒を高活性にする上で好ましいことであるが、細孔分布がミクロ乃至マクロサイズに渡る広い分布であることは好ましいことではない。なぜなら、マクロサイズの触媒成分は活性が非常に低いので、活性炭に存在するミクロ領域とミクロ近傍にあるメソ領域の細孔のみが触媒活性を発現する上で有効であり、マクロサイズの細孔は有効ではないからである。したがって、燃料電池用電極触媒の担体として、高比表面積を有しかつ細孔の主分布がミクロ乃至メソ領域にあるような多孔性の材料を用いることができれば非常に効率的であるといえる。
【0009】
本発明の第1の特徴は、触媒活性成分を担持するための担体として、高比表面積を有するミクロ・メソポーラス活性炭を用いたことである。これによって、担持される触媒の比表面積を飛躍的に高められること、触媒の再凝集を抑制し触媒の均一高分散を図れること、触媒の溶解を抑制できること、などの優れた効果がでてくる。該担体の平均細孔径である0.4〜10nmは、原子及び小分子がちょうど収まる程度のナノスペースであるので、本発明の目的である燃料電池用電極表面での触媒反応を促進するために非常に有効である。
このような微小空間に担持できる触媒粒子は、数十個から最大千個程度の原子から構成される小分子に制約されるので、従来使用されているサブミクロンサイズ乃至ミクロンサイズの触媒粒子と比べると1000倍から10000倍の比表面積を有する。したがって、非常に高い触媒活性が期待できる。比表面積は、特別な事情がない限り高ければ高いほどよい。本発明で用いるミクロ・メソポーラス活性炭の比表面積は1000〜4000m2 /gであり、好ましくは1000〜3000m2 /gである。比表面積が1000m2 /g未満では、触媒の担持量が少なくなるので担持触媒の触媒性能を引き出す上で1000m2 /g以上であることが好ましい。一方、材料強度上の面からは比表面積が4000m2 /g以下であることが好ましい。
【0010】
本発明の第2の特徴は、電極触媒の主成分としてミクロ・メソポーラス活性炭に担持したジチオオキサミド配位遷移金属錯体とアルデヒド選択酸化触媒から成る複合触媒を用いることである。該複合触媒は、それぞれの触媒成分をミクロ・メソポーラス活性炭に共担持した状態の均一系複合材料であってもよいし、あるいはアルデヒド選択酸化触媒とミクロ・メソポーラス活性炭に担持したジチオオキサミド配位遷移金属錯体との不均一系複合材料であってもよいが、反応効率的には均一系複合材料であることが好ましい。ミクロ・メソポーラス活性炭に担持したジチオオキサミド配位遷移金属錯体の電極触媒としての役割は、燃料極での燃料の酸化分解及び空気極でのプロトンの還元であり、アルデヒド選択酸化触媒の役割は、燃料極で生成する少量の一酸化炭素及びアルデヒド等の有害物質を完全酸化することであるので、燃料極には両方の触媒が共存する必要があるが、空気極には必ずしもアルデヒド選択酸化触媒は必要ではない。従来の白金系及び非白金系電極触媒は、燃料極でアルコールを酸化する際に一酸化炭素やアルデヒド等の有害物質を多量に副生し、またこれらの有害物質によって短時間に触媒活性が低下するという問題がある。これに対して本発明の複合触媒はこのような問題がみられないので、アルコール改質型燃料電池用電極として非常に好ましい。
【0011】
本発明のミクロ・メソポーラス活性炭に担持したジチオオキサミド配位遷移金属錯体とは、遷移金属イオンにジチオオキサミドが配位結合したいわゆる配位錯体のことであり、ジチオオキサミドが二つ以上の配位原子を持ちそれらが金属イオンをはさむようにして配位したキレート環構造を持つ化合物であることから、別名、キレート化合物ともいう。なお、本発明におけるジチオオキサミド(旧名ルベアン酸)は、ジチオオキサミドの他にその誘導体も含まれる。誘導体としてはアミノ基の水素原子が有機官能基で置換されたジチオオキサミド誘導体が含まれる。単一の遷移金属錯体としては、ジチオオキサミド配位コバルト錯体が最も高活性であるので好ましい。また、コバルトイオンとともに、コバルト以外の遷移金属イオンを同一分子内にもつジチオオキサミド配位異核金属錯体は、上記コバルト錯体よりもさらに高活性であるので好ましい。中でもマンガン、鉄、ニッケル、銅、モリブデン、タングステン、バナジウムが好ましく、マンガン、鉄、ニッケル、銅、はさらに好ましい。該異核金属錯体におけるコバルトイオンと他種イオンとのモル比は、通常、1:1程度であるが、有害物質生成抑制などの目的を優先する場合にはこの比率に限定するものではない。
【0012】
本発明は、配位子であるジチオオキサミドのアミノ基の水素原子を有機官能基で置換したジチオオキサミド誘導体の配位遷移金属錯体を用いることができるが、その理由は、該ジチオオキサミド誘導体よって錯体の層間隔の制御、配位結合した遷移金属イオンの電荷の制御、及びアルコール親和性の制御、等を行うことができるからである。置換数は、最大4まで許容される。置換のための有機官能基としては、アルキル基(−R)、アルコキシ基(−OR)、ヒドロキシアルキル基(−ROH)、フェニル基(−Ph)、フェノキシ基(−OPh)、アミノ基(−NH2 、−NH−、>N−)、シアノ基(−C≡N)、イソシアノ基(−N≡C−)、シアノアミノ基(−NH−C≡N)、カルボジイミド基(−N=C=N−)、シアン酸基(−O−C≡N)、チオシアン酸基(−S−C≡N)、イソシアネート基(−N=C=O)、チオイソシアネート基(−N=C=S)、カルバミン酸基(−O−CO−NH2 )、チオカルバミン酸基(−S−CS−NH2 )、ジチゾン基(−NH−NH−CS−N=N−)、チオカルボニル基(>C=S)、カルボニル基(>C=O)、カルボキシル基(−CO2 −)、シュウ酸基(−CO2 −CO2 −)、ビピリジル基、メチン基、エチニル基、エチレン基、シクロペンタジエン、第3級ホスフィン、亜リン酸基、エーテル基(−O−)、チオエーテル基(−S−)、チオール基(−SH)、アゾ基(−N=N−)、ジアゾ基(−N≡N)、ニトロ基、スルホ基、スルホアミド基、水酸基、ハロゲン基、Schiffの塩基(−CH=N−)、オキシム基(>C=NOH)、等を挙げることができるがこれらに限定するものではない。これらの中で、アルキル基、アルコキシ基、ヒドロキシアルキル基、アミノ基、等の置換基は、錯体の層間隔を広げ、アルコール親和性を増すので好ましい。
【0013】
本発明に用いるアルデヒド選択酸化触媒としては、通常、アルデヒド選択酸化触媒として公知であるヘテロポリ酸塩、遷移金属のオキソ酸塩、遷移金属酸化物、遷移金属酸化物、及びこれらの複合化合物を用いるが、これらに限定するものではない。
ヘテロポリ酸塩としては、タングストリン酸、モリブドリン酸、タングストケイ酸、及びバナドモリブドリン酸の金属塩を好ましい化合物として挙げることができる。
遷移金属のオキソ酸塩としては、鉄(VI)酸、タングステン酸、モリブデン酸、及びバナジウム酸の金属塩を好ましい化合物として挙げることができる。
遷移金属酸化物としては、酸化コバルト、酸化マンガン、酸化モリブデン、及び五酸化バナジウムを好ましい化合物として挙げることができる。
これらのアルデヒド選択酸化触媒と上記ジチオオキサミド配位遷移金属錯体とから成る複合触媒におけるそれぞれの成分のモル比は、特に限定するものではないが、通常、ジチオオキサミド配位遷移金属錯体1に対してアルデヒド選択酸化触媒を1〜0.1に設定する。有害物質の除去を優先する時など場合によってはアルデヒド選択酸化触媒を1〜10に設定することもできる。
本発明燃料電池の燃料として利用できる物質は水素、酸素、アルコール、エーテル等であるが、特に燃料がアルコール水溶液の場合には、室温付近から電極触媒反応が開始するのでアルコール改質型燃料電池用に適している。
【0014】
以下では、燃料として好ましいアルコールの場合について電極触媒反応を説明する。
アルコールとしては、通常、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、等の脂肪族アルコールを用いる。これらのアルコールは、単一成分でもよいし混合アルコールでもよい。通常、燃料極で用いるアルコールは、アルコールの完全酸化の目的ために含水アルコールである。アルコールと水のモル比は、通常、アルコールの完全酸化のための化学量論比を基準にして設定される。例えば、メタノールの場合にはメタノール:水=1:1であり、エタノールの場合にはエタノール:水=1:3である。しかし実際にはアルコールのクロスオーバー等による無駄な消費を考慮して、上記基準値よりもアルコール量を多少高めに設定するのが好ましい。
【0015】
電極での理想的な触媒反応は、従来の白金触媒の場合、燃料極ではアルコールの電極酸化によって電子とプロトンが生成し、空気極ではプロトン、電子、及び酸素の反応によって水が生成する。したがって、生成電子とプロトンの速やかな移動のために白金触媒の担体として、通常、導電性を有する活性炭を用いている。電子は、活性炭を介してメッシュ状グラファイト(カーボンクロスともいう)等の集電体に輸送される。生成プロトンは、高分子電解質膜を通してカソードに輸送される。本発明においても担体として用いるミクロ・メソポーラス活性炭は、少なくとも従来の活性炭と同程度の導電性を有することが好ましい。集電体としては、従来のメッシュ状グラファイトを用いることができる。また、プロトンの輸送についても従来と同様に高分子電解質膜を用いて行うことができる。
【0016】
本発明のミクロ・メソポーラス活性炭に担持のジチオオキサミド配位遷移金属錯体とアルデヒド選択酸化触媒から成る複合触媒の製造方法は、特に限定するものではなく、以下の様に従来の方法を応用して製造することができる。例えば、ミクロ・メソポーラス活性炭は、ゼオライト、メソポーラスシリカ等のミクロ、メソポーラス材料に炭素前駆物質の溶液又は気体を流通させ熱あるいは化学蒸着法(CVD法)によって細孔内に炭素を析出させた後、フッ化水素あるいはアルカリエッチングによってゼオライト、メソポーラスシリカ等を溶解除去することで製造することができる。
【0017】
このような方法によって作成されたミクロ・メソポーラス活性炭へのジチオオキサミド配位遷移金属錯体の担持は、例えば、ミクロ・メソポーラス活性炭にジチオオキサミドの溶液を含浸した後、これを遷移金属化合物の水溶液に入れ、化学反応によってジチオオキサミド配位遷移金属錯体として定着させることによって行う。この時、複数の遷移金属化合物の水溶液を用いるとミクロ・メソポーラス活性炭に担持したジチオオキサミド異核金属錯体を製造することができる。続いて、アルデヒド選択酸化触媒原料の水溶液を含浸後、乾燥又は熱処理によってアルデヒド選択酸化触媒として定着させることによって、ミクロ・メソポーラス活性炭に共担持した状態のジチオオキサミド配位遷移金属錯体とアルデヒド選択酸化触媒から成る複合触媒を製造することができる。ミクロ・メソポーラス活性炭にアルデヒド選択酸化触媒を担持した後、続いて、ジチオオキサミド配位遷移金属錯体を担持してもよい。
【実施例】
【0018】
以下に実施例などを挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれら実施例などにより何ら限定されるものではない。
なお、以下では、ジチオオキサミドの代表として、未置換のジチオオキサミドを用いた実施例を挙げる。
「製造例1」ミクロ・メソポーラス活性炭の製造
細孔径0.54nmの合成ゼオライト(ZSM−5)20gに1%の塩化第二鉄水溶液200mlを加え1昼夜放置し、濾過後120℃で2時間真空乾燥することによって、鉄イオンを吸着したZSM−5を調整した。これを石英管に入れ1500℃に加熱し、ベンゼン蒸気を流通することによって、細孔内に活性炭を析出させた。粉末を取り出しテフロン容器に入れこれにフッ化水素酸を加えZSM−5を溶解除去し、残った活性炭微粉末を水洗、アルカリ中和、水洗、120℃で1昼夜真空乾燥した。細孔分布及び比表面積の測定の結果、主として0.4〜2.0nmの範囲の細孔分布をもち、比表面積が1500m2 /g、細孔容積が1.36cm3 /gであった。
【0019】
「製造例2」活性炭に担持したジチオオキサミドコバルト錯体の製造
製造例1のミクロ・メソポーラス活性炭10gにジチオオキサミドの溶液(50質量%のメタノール水溶液10mlにジチオオキサミドを0.5g溶解した溶液)を室温で加え、スチームバス上、蒸発乾固する。これを0.1モルの硝酸コバルト水溶液100mlに室温で加え、30分攪拌する。沈殿物を減圧濾過、水洗、50℃で真空乾燥することによってミクロ・メソポーラス活性炭に担持したジチオオキサミドコバルト錯体を得た。該コバルト錯体の担持率は約10質量%であった。
「製造例3」活性炭に担持したジチオオキサミドコバルトニッケル錯体の製造
製造例2の硝酸コバルト水溶液の代わりに0.05モルの硝酸コバルト水溶液50mlと0.05モルの硝酸ニッケル水溶液50mlの混合溶液を用いて、製造例2と同様の方法によって、ミクロ・メソポーラス活性炭に担持したジチオオキサミドコバルトニッケル錯体を得た。該コバルトニッケル錯体の担持率は約10質量%であった。
【0020】
「製造例4」活性炭に担持したジチオオキサミドコバルト鉄錯体の製造
製造例2の硝酸コバルト水溶液の代わりに0.05モルの硝酸コバルト水溶液50mlと0.05モルの硝酸第一鉄水溶液50mlの混合溶液を用いて、製造例2と同様の方法によって、ミクロ・メソポーラス活性炭に担持したジチオオキサミドコバルト鉄錯体を得た。該コバルト鉄錯体の担持率は約10質量%であった。
「製造例5」活性炭に担持したジチオオキサミドコバルト銅錯体の製造
製造例2の硝酸コバルト水溶液の代わりに0.05モルの硝酸コバルト水溶液50mlと0.05モルの硫酸銅水溶液50mlの混合溶液を用いて、製造例2と同様の方法によって、ミクロ・メソポーラス活性炭に担持したジチオオキサミドコバルト銅錯体を得た。該コバルト銅錯体の担持率は約10質量%であった。
【0021】
「製造例6」活性炭に担持したジチオオキサミドコバルトマンガン錯体の製造
製造例2の硝酸コバルト水溶液の代わりに0.05モルの硝酸コバルト水溶液50mlと0.05モルの酢酸マンガン(II)水溶液50mlの混合溶液を用いて、製造例2と同様の方法によって、ミクロ・メソポーラス活性炭に担持したジチオオキサミドコバルトマンガン錯体を得た。該コバルトマンガン錯体の担持率は約10質量%であった。
「製造例7」活性炭に共担持したコバルト錯体・アルデヒド選択酸化触媒の製造
製造例2で製造した活性炭に担持のジチオオキサミドコバルト錯体10gに0.25モルのリンモリブデン酸セシウム水溶液10gを室温で加え、スチームバス上で蒸発乾固後、50℃で1時間真空加熱することによって、ミクロ・メソポーラス活性炭に共担持したコバルト錯体・アルデヒド選択酸化触媒を得た。該アルデヒド選択酸化触媒の担持率は約5%であった。
【0022】
「製造例8」活性炭に共担持したコバルトニッケル錯体・アルデヒド選択酸化触媒の製造
製造例3で製造した活性炭に担持のジチオオキサミドコバルトニッケル錯体10gを用いて、製造例7と同様の方法によって、ミクロ・メソポーラス活性炭に共担持したジチオオキサミドコバルトニッケル錯体・アルデヒド選択酸化触媒を得た。該アルデヒド選択酸化触媒の担持率は約5%であった。
「製造例9」活性炭に共担持したコバルト鉄錯体・アルデヒド選択酸化触媒の製造
製造例4で製造した活性炭に担持のジチオオキサミドコバルト鉄錯体10gを用いて、製造例7と同様の方法によって、ミクロ・メソポーラス活性炭に共担持したジチオオキサミドコバルト鉄錯体・アルデヒド選択酸化触媒を得た。該アルデヒド選択酸化触媒の担持率は約5%であった。
【0023】
「製造例10」活性炭に共担持したコバルトマンガン錯体・アルデヒド選択酸化触媒の製造
製造例5で製造した活性炭に担持のジチオオキサミドコバルトマンガン錯体10gを用いて、製造例7と同様の方法によって、ミクロ・メソポーラス活性炭に共担持したジチオオキサミドコバルトマンガン錯体・アルデヒド選択酸化触媒を得た。該アルデヒド選択酸化触媒の担持率は約5%であった。
「製造例11」活性炭に共担持したコバルト銅錯体・アルデヒド選択酸化触媒の製造
製造例8で製造した活性炭に担持のジチオオキサミドコバルト銅錯体10gを用いて、製造例7と同様の方法によって、ミクロ・メソポーラス活性炭に共担持したジチオオキサミドコバルト銅錯体・アルデヒド選択酸化触媒を得た。該アルデヒド選択酸化触媒の担持率は約5%であった。
【0024】
「製造例12」コバルト錯体・アルデヒド選択酸化触媒のMEAフィルムの製造
製造例7で製造した活性炭に共担持したコバルト錯体・アルデヒド選択酸化触媒10gと5質量%ナフィオン溶液10ml、及びメタノール10mlを混合し、超音波ホモジナイザーによってペースト状に加工した。カーボンクロスを高分子電解質膜(デュポン社製造品:ナフィオン)の両面に敷設したフィルムを用意し、このフィルムに上記ペーストを両面塗布した後、乾燥、圧延プレスによって150℃で1時間加熱圧縮することによって、活性炭共担持コバルト錯体・アルデヒド選択酸化触媒のMEA(Membrane Electronic Assembly)フィルムを作製した。
【0025】
「製造例13」コバルトニッケル錯体・アルデヒド選択酸化触媒のMEAフィルムの製造
製造例8で製造した活性炭に共担持したコバルトニッケル錯体・アルデヒド選択酸化触媒を10g用いて、製造例12と同様の方法によって、活性炭共担持コバルトニッケル錯体・アルデヒド選択酸化触媒のMEAフィルムを作製した。
「製造例14」コバルト鉄錯体・アルデヒド選択酸化触媒のMEAフィルムの製造
製造例9で製造した活性炭に共担持したコバルト鉄錯体・アルデヒド選択酸化触媒を10g用いて、製造例12と同様の方法によって、活性炭共担持コバルト鉄錯体・アルデヒド選択酸化触媒のMEAフィルムを作製した。
【0026】
「製造例15」コバルトマンガン錯体・アルデヒド選択酸化触媒のMEAフィルムの製造
製造例10で製造した活性炭に共担持したコバルトマンガン錯体・アルデヒド選択酸化触媒を10g用いて、製造例12と同様の方法によって、活性炭共担持コバルトマンガン錯体・アルデヒド選択酸化触媒のMEAフィルムを作製した。
「製造例16」コバルト銅錯体・アルデヒド選択酸化触媒のMEAフィルムの製造
製造例11で製造した活性炭に共担持したコバルト銅錯体・アルデヒド選択酸化触媒を10g用いて、製造例12と同様の方法によって、活性炭共担持コバルト銅錯体・アルデヒド選択酸化触媒のMEAフィルムを作製した。
【0027】
[実施例1]コバルト錯体・アルデヒド選択酸化触媒のMEAフィルムの出力密度
製造例12のMEAフィルムを5cm角にカットしたものを、燃料電池用電極性能測定用の単セル装置にセットした後、燃料室にエタノール水溶液(モル比でエタノール:水=1:2の水溶液)を毎分1ml供給し、空気室に空気を毎分100ml供給した。約1時間運転し、電気計測装置によって1時間後の電流と電圧を測定し、MEAフィルムの単位面積当たりの出力密度を求めた。その結果、出力密度は30mW/cm2 であった。また、1時間運転後の燃料室にある燃料成分をガスクロマトグラフィー分析した結果、アセトアルデヒド及び酢酸の濃度はそれぞれ10ppm以下であった。
【0028】
[実施例2]コバルトニッケル錯体・アルデヒド選択酸化触媒のMEAフィルムの出力密度
製造例13のMEAフィルムを5cm角にカットしたものを、燃料電池用電極性能測定用の単セル装置にセットした後、実施例1と同様にして電極性能を測定した。その結果、出力密度は50mW/cm2 であった。また、1時間運転後の燃料室にある燃料成分をガスクロマトグラフィー分析した結果、アセトアルデヒド及び酢酸の濃度はそれぞれ10ppm以下であった。
[実施例3]コバルト鉄錯体・アルデヒド選択酸化触媒のMEAフィルムの出力密度
製造例14のMEAフィルムを5cm角にカットしたものを、燃料電池用電極性能測定用の単セル装置にセットした後、実施例1と同様にして電極性能を測定した。その結果、出力密度は40mW/cm2 であった。また、1時間運転後の燃料室にある燃料成分をガスクロマトグラフィー分析した結果、アセトアルデヒド及び酢酸の濃度はそれぞれ10ppm以下であった。
【0029】
[実施例4]コバルトマンガン錯体・アルデヒド選択酸化触媒のMEAフィルムの出力密度
製造例15のMEAフィルムを5cm角にカットしたものを、燃料電池用電極性能測定用の単セル装置にセットした後、実施例1と同様にして電極性能を測定した。その結果、出力密度は40mW/cm2 であった。また、1時間運転後の燃料室にある燃料成分をガスクロマトグラフィー分析した結果、アセトアルデヒド及び酢酸の濃度はそれぞれ10ppm以下であった。
[実施例5]コバルト銅錯体・アルデヒド選択酸化触媒のMEAフィルムの出力密度
製造例16のMEAフィルムを5cm角にカットしたものを、燃料電池用電極性能測定用の単セル装置にセットした後、実施例1と同様にして電極性能を測定した。その結果、出力密度は40mW/cm2 であった。また、1時間運転後の燃料室にある燃料成分をガスクロマトグラフィー分析した結果、アセトアルデヒド及び酢酸の濃度はそれぞれ10ppm以下であった。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明のミクロ・メソポーラス活性炭に担持のジチオオキサミド配位遷移金属錯体とアルデヒド選択酸化触媒から成る複合触媒を含有する電極は、燃料電池用電極として有用であり、また、該電極はアルコール改質型燃料電池のために有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池用電極触媒の主成分として、1000〜4000m2 /gの比表面積と0.4〜10nmの平均細孔径をもつミクロ・メソポーラス活性炭に担持したジチオオキサミド配位遷移金属錯体とアルデヒド選択酸化触媒から成る複合触媒を含有することを特徴とする燃料電池用電極。
【請求項2】
ジチオオキサミド配位遷移金属錯体が、コバルト錯体であることを特徴とする請求項1に記載の燃料電池用電極。
【請求項3】
ジチオオキサミド配位遷移金属錯体が、コバルトイオンとともに、マンガン、鉄、ニッケル及び銅の中から選ばれた少なくとも1種類以上の金属イオンを同一分子内に持つジチオオキサミド配位異核金属錯体であることを特徴とする請求項1に記載の燃料電池用電極。
【請求項4】
アルデヒド選択酸化触媒が、ヘテロポリ酸塩、遷移金属のオキソ酸塩、遷移金属酸化物及びこれらの複合化合物から選ばれた少なくとも1つ以上の化合物であることを特徴とする請求項1に記載の燃料電池用電極。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかの項に記載の燃料電池用電極を用いることを特徴とするアルコール改質型燃料電池。

【公開番号】特開2008−204892(P2008−204892A)
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−41963(P2007−41963)
【出願日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(000000033)旭化成株式会社 (901)
【出願人】(000173924)財団法人野口研究所 (108)
【Fターム(参考)】