説明

非破壊検査方法および非破壊検査装置

【課題】超電導量子干渉素子を用いて非導電性材料からなる検査対象における欠陥部の形状や種類を特定可能な非破壊検査方法および非破壊検査装置を提供する。
【解決手段】相対的に磁束密度が高い領域(S極)と相対的に磁束密度が低い領域(N極)とが、検査対象3に存在する欠陥部(クラック20)に対応する長さだけ連続して生じていることがわかる。このように、所定の長さにわたって連続する極値領域が現れた場合には、この極値領域の中間位置に線状の欠陥部が存在していると判断できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、検査対象における劣化現象を検査する非破壊検査方法および非破壊検査装置に関し、特に、超電導量子干渉素子を用いて検出される磁束密度分布の変化に基づいて、欠陥部の形状や種類を特定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、各種の電気機器には、多様な電気絶縁材料が用いられている。このような電気絶縁材料の代表例として、エポキシ樹脂、ポリエチレン、PET(PolyEthyleneTerephthalate:ポリエチレンテレフタレート)、PP(PolyPropylene:ポリプロピレン)などの絶縁性プラスチックスや、酸化亜鉛などのセラミックス材料が知られている。
【0003】
このような電気絶縁材料は、経年要因や環境要因などによって劣化が進行すると、クラックやピンホールといった欠陥が発生する。このような欠陥部から吸湿が生じ、この吸湿の結果、トリーイングやイオンマイグレーションに進展する。このような電気絶縁材料は、定常的に比較的高い電位に維持されている場合が多く、そのため、トリーイングやイオンマイグレーションによって漏れ電流が増大すると、劣化が急速に進行し、最終的に絶縁破壊に至る。そのため、最終的な絶縁破壊に至るまでの劣化過程において、クラックやピンホールといった欠陥の発生を見つけ出すことが要望されている。
【0004】
従来から、電気絶縁材料の電気的劣化を検出する方法として、絶縁抵抗測定法や部分放電検出法が知られており広く適用されている。しかしながら、従来の絶縁抵抗測定法や部分放電検出法では、電気絶縁材料を全体として見た場合の電気的劣化を検出することはできるが、詳細な劣化現象を特定することはできないという課題があった。すなわち、検査対象が比較的大きな表面積などを有している場合などには、いずれの部位に劣化が生じているのかを特定することができず、検査対象の全体を取り替えざるを得ないとか、その劣化原因を特定できないといった課題が生じていた。
【0005】
そこで、本願発明者は、特許第3964274号公報(特許文献1)に開示するように、超電導量子干渉素子(SQUID:Superconducting Quantum Interference Device;以下「SQUID」とも称す。)を用いて、絶縁性プラスチックス材料やセラミクス材料を検査対象として内部欠陥や劣化を検査する発明に想到した。
【特許文献1】特許第3964274号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述の特許第3964274号公報(特許文献1)に記載の発明では、画像データの電流が流れる方向に対して直角にS極とN極とが対になって現われる位置に対応する部分を、劣化した絶縁性樹脂材料およびセラミクス材料における劣化発生位置と判断することができるが、その種類まで特定することはできなかった。
【0007】
そこで、この発明の主たる目的は、超電導量子干渉素子を用いて非導電性材料からなる検査対象における欠陥部の形状や種類を特定可能な非破壊検査方法および非破壊検査装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明のある局面によれば、超電導量子干渉素子を用いて非導電性材料からなる検査対象における劣化現象を非破壊で検査する非破壊検査方法を提供する。非破壊検査方法は、検査対象に導電性溶液を塗布するステップと、導電性溶液の塗布面の二点間に所定の電圧を印加するステップと、超電導量子干渉素子を導電性溶液の塗布面に沿って走査することで、当該塗布面における磁束密度分布を測定するステップと、磁束密度分布においてそれぞれ極大値および極小値をとる一対の極値領域の大きさに基づいて、検査対象における劣化現象を評価するステップとを含む。評価するステップは、一対の極値領域が所定の長さにわたって連続する場合に、当該一対の極値領域の中間位置に線状の欠陥部があると評価するステップを含む。
【0009】
好ましくは、評価するステップは、一対の極値領域が孤立している場合に、当該一対の極値領域の中間位置に点状の欠陥部があると評価するステップを含む。
【0010】
好ましくは、電圧を印加するステップは、検査対象の対向する端面に装着された一対の電極を介して電圧を印加する。
【0011】
好ましくは、電圧を印加するステップは、その電圧を印加する二点によって結ばれる線分が、検査対象と超電導量子干渉素子の延長線との交点を含むように、電圧を印加する。
【0012】
この発明の別の局面によれば、超電導量子干渉素子を用いて非導電性材料からなる検査対象における劣化現象を非破壊で検査するための非破壊検査装置を提供する。非破壊検査装置は、導電性溶液を塗布された導電性溶液に対して、その塗布面の二点間に所定の電圧を印加するための電圧印加手段と、超電導量子干渉素子を導電性溶液の塗布面に沿って走査するための走査手段と、走査手段による走査位置と、超電導量子干渉素子による測定値とに基づいて、塗布面における磁束密度分布を取得するための取得手段と、磁束密度分布においてそれぞれ極大値および極小値をとる一対の極値領域の大きさに基づいて、検査対象における劣化現象を評価するための評価手段とを含む。評価手段は、一対の極値領域が所定の長さにわたって連続する場合に、当該一対の極値領域の中間位置に線状の欠陥部があると評価する。
【発明の効果】
【0013】
この発明によれば、超電導量子干渉素子を用いて非導電性材料からなる検査対象における欠陥部の形状や種類を特定可能な非破壊検査方法および非破壊検査装置を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
この発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中の同一または相当部分については、同一符号を付してその説明は繰返さない。
【0015】
<装置構成>
図1は、この発明の実施の形態に従う非破壊検査装置の概略の機能ブロック図である。
【0016】
図1を参照して、本実施の形態に従う非破壊検査装置は、超電導量子干渉素子(SQUID:Superconducting Quantum Interference Device)を用いて、検査対象3の表面に生じる磁束密度を測定し、この測定した磁束密度の分布に基づいて、検査対象3における劣化現象を非破壊で検査する。
【0017】
より具体的には、本実施の形態に従う非破壊検査装置は、SQUIDセンサ1と、クライオスタット2と、XYステージ7と、ステージ駆動部15と、測定用電源6と、ファンクションジェネレータ8と、センサ駆動部10と、ロックインアンプ11と、A/Dコンバータ12と、電源部9と、制御部13と、モニタ14とを含む。
【0018】
SQUIDセンサ1は、直流または交流の10−14T程度までの微弱磁界を非接触かつ非破壊的に計測できる超高感度磁気センサである。このSQUIDセンサ1は、クライオスタット2の下部に設けられており、測定中には、クライオスタット2によって所定温度(代表的に、4.2K)以下に冷却されることで、超電導状態に維持される。
【0019】
検査対象3としては、代表的に、絶縁性プラスチックスやセラミックス材料などの非導電性材料を用いることができる。この検査対象3は、XYステージ7上に載置され、ステージ駆動部15によりXYステージ7がX方向およびY方向にそれぞれ独立に駆動されることで、SQUIDセンサ1による検査対象3の走査が実現される。
【0020】
図2は、この発明の実施の形態に従うSQUIDセンサ1の模式図である。図3は、この発明の実施の形態に従うSQUIDセンサ1における最大電流の外部磁束依存性を示す図である。
【0021】
図2を参照して、SQUIDセンサ1は、超電導線でできた超電導リングR中に量子力学現象を示すジョセフソン接合J1,J2を形成し、測定用の磁束検出コイル(図示しない)を超電導リングRと組合せたものが用いられる。ジョセフソン接合J1,J2は、2つの超電導体の間に薄い絶縁層を挟んだものであり、電圧がゼロでも2つの超電導体間に電流が流れるという量子力学的なトンネル効果を生じる。
【0022】
図2に示すSQUIDセンサ1において、外部から流し得る超電導電流の最大値Imaxは、リングRを通過する外部磁束をφとすると、
Imax=2Icos(πφ/φ
で表される。この式から、最大値Imaxは、外部磁束に対してφを周期とする関数となり、図3に示すような変化を示す。ここで、Iは、ジョセフソン最大電流であり、その値はジョセフソン接合J1,J2における絶縁層の厚さなどで決まる。また、φは、磁束量子と呼ばれ、その値は2.07×10−15Wbである。
【0023】
再度、図1を参照して、本実施の形態では、検査対象3の対向する端面に一対の電極4,5が装着されており、この一対の電極4,5を介して測定用電源6から所定の電圧が印加される。この測定用電源6から印加される電圧は、検査対象3の電気的特性あるいは劣化状態などに応じて適切に設定される。具体的には、100V〜550kVの範囲から選択される。なお、測定用電源6から検査対象3に印加される電圧の種類は、直流であってもよいし、交流であってもよい。検査対象3に交流電圧を印加する場合には、必要な周波数成分を選択的に抽出するために、ロックインアンプ11に同期した電圧がファンクションジェネレータ8を介して測定用電源6から供給される。一方、直流電圧を印加する場合には、ファンクションジェネレータ8を用いることなく、測定用電源6から直接的に印加される。
【0024】
SQUIDセンサ1は、電源部9からの電源電圧を受けて作動するセンサ駆動部10によって駆動され、ステージ駆動部15により駆動されるXYステージ7上の検査対象3の上を連続的に走査することにより磁束密度分布の測定が行なわれる。
【0025】
SQUIDセンサ1によって測定された磁束密度の信号は、センサ駆動部10を介してロックインアンプ11に与えられて増幅される。ロックインアンプ11は、ノイズ成分に埋もれた信号を高感度で取出すアンプであり、取出された信号成分はA/Dコンバータ12によりデジタルデータに変換される。得られた磁束密度のデータは、制御部13に送られてデータ保存された上で、後述する本実施形態に従う処理が実行される。すなわち、制御部13は、ステージ駆動部15によるXYステージ7の位置と、各位置において測定された磁束密度の値とを対応付けることで、磁束密度分布を取得する。
【0026】
また、制御部13は、取得した磁束密度分布を画像処理することで可視化し、その内容をモニタ14に表示する。すなわち、制御部13は、取得した磁束密度分布を示す立体的な画像をモニタ14に表示する。
【0027】
なお、制御部13は、代表的に、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、HDD(Hard Disk Drive)などを主体とするパーソナルコンピュータによって実現される。そして、本実施の形態に従う各種処理は、予めHDDに格納されるプログラムがRAMなどに読み出されてCPUで実行されることで実現される。
【0028】
<前処理>
特に、本実施の形態に従う非破壊検査方法を実施する場合には、検査対象3に導電性溶液が塗布される。この導電性溶液は、非導電性材料(代表的に、電気絶縁材料)である検査対象3に電流を流すための媒体(キャリア)を提供するものである。具体的には、導電性溶液としては、ナトリウム(Na)やカリウム(K)など容易に電離する媒質を含む電解液を用いることができる。さらに、導電性溶液の欠陥部への浸透を促進するために、界面活性剤を混合された溶液を用いることが好ましい。すなわち、ナトリウム(Na)やカリウム(K)などの溶液と界面活性剤とを混合した導電性溶液を用いることで、ヘアクラックと呼ばれる材料同士のずれや剥離までは生じていないような劣化現象についても、検出することができる。これは、電気絶縁性材料の表面はもともと撥水性が高い上に、さらにアルミナなどのセラミック粒子を充填材として混入してあったりするため、塗布した液体は容易に水滴状になり、被測定対象物の表面に一様に存在できないためである。本実施の形態では、この一様に塗布できない状態を、界面活性剤を混入することで導電性溶液の表面張力を下げることにより解決を図っている。
【0029】
図4は、この発明の実施の形態に従う検査対象3に導電性溶液を塗布した場合の状態を説明するための図である。図4(a)は、導電性溶液の塗布前の検査対象3についての模式的断面図を示し、図4(b)は、導電性溶液の塗布後の検査対象3についての模式的断面図を示す。
【0030】
図4(a)に示すように、検査対象3の表面から内部に向けてクラック20が発生している場合を考えると、検査対象3に導電性溶液30を塗布することで、検査対象3の表面に加えて、クラック20の内部まで導電性溶液30が浸透することになる。このクラック20への導電性溶液30の浸透によって、検査対象3の表面には、そこに生じているクラック(すなわち、欠陥部)に対応した電流経路が形成されることになる。すなわち、クラック20内に浸透した導電性溶液30によって電気抵抗値が部分的に低下する。この結果、上述したように、電極4,5を介して検査対象3に対して印加される電圧によって、検査対象3の表面および欠陥部には検査電流が流れることになる。
【0031】
<検査処理>
図5は、検査対象3の表面にクラック20が生じている場合に流れる電流経路を説明するための図である。なお、検査対象3には、紙面左右端に一対の電極が装着されているものとする(図示しない)。
【0032】
図5を参照して、検査対象3には、電極を介して印加される電圧によって、紙面左側から右側に向けて電流(以下「検査電流」とも称す。)が定常的に流れている。さらに、電流の流れる方向に対して所定の角度をもつクラック20が生じている場合には、このクラック20の隙間にも導電性溶液が浸透し、電流経路が形成される。その結果、検査対象3の表面には、紙面左側から右側に流れる定常成分に加えて、クラック20に沿って流れる電流が生じ得る。
【0033】
ここで、検査対象3にクラック20が存在しない場合には、検査対象3の表面を流れる検査電流の電流密度はほぼ一様となるため、検査電流によって生じる磁束密度分布もほぼ一様となる。これに対して、クラック20が存在し、このクラック20に沿ってより多くの検査電流が流れるようになると、その増分によって磁束密度分布に不均一が生じる。そこで、本実施の形態に従う画像処理装置は、このような磁束密度分布の不均一を検出することで、欠陥部を検出および評価する。
【0034】
図6は、図5に示すクラック20を流れる検査電流によって生じる磁場を示す図である。
【0035】
図6に示すようにクラック20に沿って流れる検査電流によって、磁束密度分布の不均一、すなわち検査電流の流れる方向に対して左側に相対的に磁束密度が高い領域(S極)が生じ、その右側に相対的に磁束密度が低い領域(N極)が生じる。このように、欠陥部を流れる検査電流によって、磁束密度分布において極大値(S極)および極小値(N極)をとる一対の極値領域が生じる。したがって、極値領域(S極およびN極)が所定の長さにわたって連続する場合には、S極の領域とN極の領域の中間位置に、線状の欠陥部が存在していると判断することができる。
【0036】
図7は、図5に示す検査対象3によって生じる磁束密度分布を立体的に表現した立体画である。なお、図7は、取得されたX−Y方向における磁束分布密度について、その大きさをZ方向の大きさとして表わしたものである。
【0037】
図7に示すように、相対的に磁束密度が高い領域(S極)と相対的に磁束密度が低い領域(N極)とが、検査対象3に存在する欠陥部(クラック20)に対応する長さだけ連続して生じていることがわかる。このように、所定の長さにわたって連続する極値領域が現れた場合には、この極値領域の中間位置に線状の欠陥部が存在していると判断できる。
【0038】
次に、検査対象3にピンホールといった点状の欠陥部が存在している場合について説明する。
【0039】
図8は、検査対象3の表面に孔25が生じている場合に流れる電流経路を説明するための図である。なお、検査対象3には、紙面左右端に一対の電極が装着されているものとする(図示しない)。
【0040】
図8を参照して、検査対象3には、電極を介して印加される電圧によって、紙面左側から右側に向けて検査電流が定常的に流れている。検査対象3に孔25が生じている場合には、孔25の周囲をより多くの検査電流が流れるようになる。この検査電流の増分によって、孔25の周囲には磁束密度分布の不均一が生じる。
【0041】
すなわち、検査電流の流れる方向に対して左側に相対的に磁束密度が高い領域(S極)が生じ、同じく右側に相対的に磁束密度が低い領域(N極)が生じる。したがって、孔25の両側には、磁束密度分布において極大値(S極)および極小値(N極)をとる一対の極値領域が生じる。
【0042】
図9は、図8に示す検査対象3によって生じる磁束密度分布を立体的に表現した立体画である。なお、図9は、取得されたX−Y方向における磁束分布密度について、その大きさをZ方向の大きさとして表わしたものである。
【0043】
図9に示すように、検査対象3に孔25が形成されていれば、磁束密度分布において、検査対象3に存在する欠陥部(孔25)を挟んで、相対的に磁束密度が高い領域(S極)と相対的に磁束密度が低い領域(N極)とが孤立した状態で現れる。このように、一対の極値領域が孤立して現れた場合には、この極値領域の中間位置に点状の欠陥部が存在していると判断できる。
【0044】
<処理手順>
以上のような検査処理における処理手順をまとめると、以下のようになる。
【0045】
図10は、この発明の実施の形態に従う非破壊検査方法の処理手順を示すフローチャートである。
【0046】
図10を参照して、まず、ユーザは、検査対象3をXYステージ7上に載置するとともに、検査対象3の表面に導電性溶液を塗布する(ステップS100)。また、ユーザは、検査対象3の対向する端面に一対の電極を装着し(ステップS102)、測定用電源6から一対の電極を介して検査対象3へ所定の電圧の印加を開始する(ステップS104)。なお、ステップS100における導電性溶液を塗布と、ステップS102における電極の装着とは、その順序を入れ替えてもよい。また、導電性溶液の塗布は、装置を用いて自動的に実行されるようにしてもよい。
【0047】
次に、制御部13がステージ駆動部15に対して位置指令を順次送出することで、ステージ駆動部15は、XYステージ7を当該位置指令に従って移動させる。同時に、制御部13は、XYステージ7の位置に対応付けて、SQUIDセンサ1で測定される磁束密度の値を順次格納することで、磁束密度分布を取得する(ステップS106)。なお、取得される磁束密度分布の対象は、検査対象3における導電性溶液の塗布面のすべてであってもよいし、その一部であってもよい。
【0048】
続いて、制御部13は、取得した磁束密度分布において極大値および極小値を探索する(ステップS108)。そして、制御部13は、探索した極大値および極小値のうち、隣接する一対の極値領域(極大値および極小値)の組合せを取得する(ステップS110)。なお、「隣接する」とは、代表的に、2つの極値領域の間が所定のしきい値以下である場合を意味する。
【0049】
続いて、制御部13は、隣接する一対の極値領域の組合せが存在するか否かを判断する(ステップS112)。隣接する一対の極値領域の組合せが存在する場合(ステップS112においてYESの場合)には、制御部13は、取得した一対の極値領域が所定の長さにわたって連続しているか否かを判断する(ステップS114)。一対の極値領域が所定の長さにわたって連続している場合(ステップS114においてYESの場合)には、制御部13は、当該一対の極値領域の中間位置に線状の欠陥部があると評価する(ステップS116)。ここで、制御部13は、欠陥部の位置についても併せて取得する。
【0050】
一方、一対の極値領域が所定の長さにわたって連続していない場合(ステップS114においてYESの場合)には、制御部13は、取得した一対の極値領域が孤立しているか否かを判断する(ステップS118)。一対の極値領域が孤立している場合(ステップS118においてYESの場合)には、制御部13は、当該一対の極値領域の中間位置に点状の欠陥部があると評価する(ステップS120)。ここで、制御部13は、欠陥部の位置についても併せて取得する。
【0051】
一連の判断が終了すると、制御部13は、極値領域の組合せのうち、未だ評価処理が完了していないものが存在するか否かを判断する(ステップS122)。評価処理が完了していない極値領域の組合せが存在する場合(ステップS122においてNO)には、上述のステップS114以下の処理を繰返す。これに対して、隣接する一対の極値領域の組合せが存在しない場合(ステップS112においてNOの場合)、あるいはすべての極値領域の組合せに対する評価処理が完了している場合(ステップS122においてYES)には、処理は終了する。
【0052】
なお、制御部13は、検出した欠陥部の形状(線状あるいは点状)と、その位置情報とをモニタ14や図示しない外部装置へ出力する。
【0053】
<本実施の形態における効果>
実施の形態によれば、検査対象3から取得された磁束分布密度において現れる一対の極値領域に基づいて欠陥部を検出するとともに、その大きさに基づいて、当該欠陥部が線状であるか点状であるかが評価される。そのため、非導電性材料からなる検査対象における欠陥部の形状や種類を非接触で特定することができる。
【0054】
<変形例>
上述の実施の形態においては、検査対象3の対向する端面に一対の電極4,5を装着し、この一対の電極4,5を介して検査対象3の全体に所定の検査電流が流れるように構成した。一方、SQUIDセンサ1が検査対象3を走査する際には、SQUIDセンサ1の測定範囲だけに検査電流が流れれば十分であるので、検査対象3の全面ではなく、一部に検査電流を流すようにしてもよい。以下、このような構成について例示する。
【0055】
図11は、この発明の実施の形態の変形例に従う非破壊検査装置の概略の機能ブロック図である。
【0056】
図11を参照して、本実施の形態の変形例に従う非破壊検査装置では、検査対象3に電極4,5が装着されておらず、それに代えて、SQUIDセンサ1の近傍の二点間に測定用電源6から所定の電圧が印加される。すなわち、測定用電源6からの電圧は、その印加される二点によって結ばれる線分が、検査対象3とSQUIDセンサ1の延長線との交点を含むように構成される。なお、SQUIDセンサ1と、測定用電源6からの電圧を印加するための電極との相対的な位置関係は、XYステージ7の位置にかかわらず一定に維持される。そのため、SQUIDセンサ1の測定範囲における検査電流は、検査対象3の大きさにかかわらず略一定に保たれる。
【0057】
したがって、SQUIDセンサ1による検査対象3の走査に際して、安定して磁束密度分布を取得できるとともに、検査対象3が複雑な形状を有していても劣化現象を検査することができる。
【0058】
その他の部位については、上述の図1に示す非破壊検査装置と同様であるので、詳細な説明は繰返さない。
【0059】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した説明ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】この発明の実施の形態に従う非破壊検査装置の概略の機能ブロック図である。
【図2】この発明の実施の形態に従うSQUIDセンサの模式図である。
【図3】この発明の実施の形態に従うSQUIDセンサにおける最大電流の外部磁束依存性を示す図である。
【図4】この発明の実施の形態に従う検査対象に導電性溶液を塗布した場合の状態を説明するための図である。
【図5】検査対象3の表面にクラックが生じている場合に流れる電流経路を説明するための図である。
【図6】図5に示すクラックを流れる検査電流によって生じる磁場を示す図である。
【図7】図5に示す検査対象によって生じる磁束密度分布を立体的に表現した立体画である。
【図8】検査対象の表面に孔が生じている場合に流れる電流経路を説明するための図である。
【図9】図8に示す検査対象によって生じる磁束密度分布を立体的に表現した立体画である。
【図10】この発明の実施の形態に従う非破壊検査方法の処理手順を示すフローチャートである。
【図11】この発明の実施の形態の変形例に従う非破壊検査装置の概略の機能ブロック図である。
【符号の説明】
【0061】
1 SQUIDセンサ、2 クライオスタット、3 検査対象、4,5 電極、6 測定用電源、7 XYステージ、8 ファンクションジェネレータ、9 電源部、10 センサ駆動部、11 ロックインアンプ、12 A/Dコンバータ、13 制御部、14 モニタ、15 ステージ駆動部、20 クラック、25 孔、30 導電性溶液、J1,J2 ジョセフソン接合、R 超電導リング。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超電導量子干渉素子を用いて非導電性材料からなる検査対象における劣化現象を非破壊で検査する非破壊検査方法であって、
前記検査対象に導電性溶液を塗布するステップと、
前記導電性溶液の塗布面の二点間に所定の電圧を印加するステップと、
前記超電導量子干渉素子を前記導電性溶液の塗布面に沿って走査することで、当該塗布面における磁束密度分布を測定するステップと、
前記磁束密度分布においてそれぞれ極大値および極小値をとる一対の極値領域の大きさに基づいて、前記検査対象における劣化現象を評価するステップとを含み、
前記評価するステップは、前記一対の極値領域が所定の長さにわたって連続する場合に、当該一対の極値領域の中間位置に線状の欠陥部があると評価するステップを含む、非破壊検査方法。
【請求項2】
前記評価するステップは、前記一対の極値領域が孤立している場合に、当該一対の極値領域の中間位置に点状の欠陥部があると評価するステップを含む、請求項1に記載の非破壊検査方法。
【請求項3】
前記電圧を印加するステップは、前記検査対象の対向する端面に装着された一対の電極を介して電圧を印加する、請求項1または2に記載の非破壊検査方法。
【請求項4】
前記電圧を印加するステップは、その電圧を印加する二点によって結ばれる線分が、前記検査対象と前記超電導量子干渉素子の延長線との交点を含むように、電圧を印加する、請求項1または2に記載の非破壊検査方法。
【請求項5】
超電導量子干渉素子を用いて非導電性材料からなる検査対象における劣化現象を非破壊で検査するための非破壊検査装置であって、
導電性溶液を塗布された前記導電性溶液に対して、その塗布面の二点間に所定の電圧を印加するための電圧印加手段と、
前記超電導量子干渉素子を前記導電性溶液の塗布面に沿って走査するための走査手段と、
前記走査手段による走査位置と、前記超電導量子干渉素子による測定値とに基づいて、前記塗布面における磁束密度分布を取得するための取得手段と、
前記磁束密度分布においてそれぞれ極大値および極小値をとる一対の極値領域の大きさに基づいて、前記検査対象における劣化現象を評価するための評価手段とを備え、
前記評価手段は、前記一対の極値領域が所定の長さにわたって連続する場合に、当該一対の極値領域の中間位置に線状の欠陥部があると評価する、非破壊検査装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−38718(P2010−38718A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−201635(P2008−201635)
【出願日】平成20年8月5日(2008.8.5)
【出願人】(000156938)関西電力株式会社 (1,442)
【Fターム(参考)】