説明

非線形光学材料製造用の原料溶液、非線形光学材料、及び非線形光学素子

【課題】 作業性に優れ、また長期にわたるポットライフを有し、かつ、優れた非線形光学性能を有する非線形光学材料及び非線形光学素子を得ることができる非線形光学材料製造用の原料溶液を提供すること、また、この原料溶液を活用することによって、優れた非線形光学性能と優れた安定性を有する非線形光学材料、並びに非線形光学素子を低コストにて提供することである。
【解決手段】 少なくとも、加水分解性シリル基を有する非線形光学活性分子(a)、Al(OR1p(R2COCHCOR33-p、Zr(OR1q(R2COCHCOR34-q、及びTi(OR1r(R2COCHCOR34-rで示される化合物うちの少なくとも1種である有機金属化合物(b)、R4COCH2COR5で示される化合物である多座配位子(c)を含むことを特徴とする非線形光学材料製造用の原料溶液である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光通信、光配線、光情報処理、センサー、あるいは画像処理等の分野に適用することが可能な非線形光学材料及び非線形光学素子、及びそれらを製造するための原料溶液に関するものである。
具体的には、2次の非線形光学効果を利用した光スイッチ素子、光変調素子、波長変換素子、位相シフト素子、あるいはフォトリフラクティブ効果を利用したメモリ素子、画像処理素子等の非線形光学素子、及びこれらに適用可能な非線形光学材料、並びにそれらの製造用の原料溶液に関するものである。
【背景技術】
【0002】
単結晶の有機非線形光学材料は、2次高調波発生(SHG)素子などとして広く検討されてきた。上記有機非線形光学材料は、その結晶構造を単結晶とすることで、非線形光学特性を有する有機分子を高配向かつ高密度に並べることができるため、大きい非線形光学定数が得られるなどのメリットがあった。しかし、大きくて欠陥の少ない単結晶を作製することは技術的・コスト的に困難である上に、特に反転対称を有しない非線形光学特性を有する有機分子の分極方向を特定の方向に揃えて結晶化することは容易ではなかった。
【0003】
これらの点を改善するものとして、高分子マトリックス中に非線形光学特性を有する有機化合物を添加した有機非線形光学ポリマーや、高分子の主鎖あるいは側鎖に、非線形光学特性を有する構造(クロモフォア)を導入した主鎖型有機非線形光学ポリマーあるいは側鎖型有機非線形光学ポリマーなどの非線形光学ポリマーが知られている。
【0004】
これら非線形光学ポリマーは、一般の高分子と同様に溶剤などに溶解して塗布、乾燥することで容易に成膜することが可能である。また、成膜した後に、ガラス転移温度(Tg)以上に加熱した状態で電場を印加して配向処理することにより、前記有機非線形光学ポリマーの分極方向、あるいは、前記クロモフォアを有する有機非線形光学ポリマーのクロモフォア部分の分極方向に配向させることが可能である。
【0005】
このようにして得られた配向は、Tg以下に温度を下げた後に電場を取り除くことにより、ある程度安定に維持される。このような配向処理は、一般にポーリング処理と呼ばれている。電場の印加方法としては、非線形光学ポリマーを2つ以上の電極で直接挟み込んで電場を印加する方法、非線形光学ポリマーと電極との間に液体などの媒体を介して電場を印加する方法、あるいは、コロナ放電により間接的な方法で非線形光学ポリマーに対して電場を印加する方法などが公知である。
【0006】
このようなポーリング処理された非線形光学ポリマーは、SHGなど波長変換結晶に代わるものとして検討されたものであったが、同じく2次の非線形光学効果である電気光学効果(Electro−optic効果、EO効果)を利用した光スイッチ素子、光変調素子、波長変換素子、波面変換素子、などへの適用や、フォトリフラクティブ効果を利用したメモリ素子や画像処理素子としての応用も検討されてきた(例えば、非特許文献1参照)。
【0007】
最近では、電気光学係数(EO係数)の大きな材料が開発されるようになり、このような材料を用いたMach−Zehnder干渉計などの導波路型高速光変調素子が提案され、新規光デバイスとして期待されている(例えば、非特許文献2参照)。
【0008】
しかし、ポーリング処理された非線形光学ポリマーでは、Tg以下の温度であっても分子振動などによる分子配向の乱れや再均一化、すなわち、分子配向の緩和が徐々に進行してしまうため、EO係数の経時的及び熱的劣化(EO係数の低下)が大きな問題となっている。また、デバイスで使用するレーザー光のエネルギー密度を高めた場合には、温度上昇による配向緩和に加えて光化学反応による
劣化も問題となっている。
【0009】
これらを改善するものとして、マトリックスに熱硬化性樹脂を用い、ポーリング処理と前後してマトリックスを架橋硬化させる方法や、非線形光学分子自体に反応性置換基を導入して他の反応性化合物(いわゆる架橋剤)によって架橋硬化させる方法、などが検討されている(例えば、非特許文献3参照)。
【0010】
上記いずれの方法においても、マトリックス中に架橋構造を導入することにより分子運動を制限し(すなわち、Tgを高くし)、熱による分子振動などによりクロモフォアの配向が緩和されるのを防止することにより、非線形光学材料としての安定性向上を目指している。また、マトリックス中に架橋構造を導入することでクロモフォアの変形が抑えられ、クロモフォア自体の反応性が低下するため、光化学的劣化に対する安定性も向上すると予想されている。
【0011】
非線形光学分子を、架橋構造を有するマトリックス中に導入する他の方法としては、ゾルゲル法により形成された有機無機複合材料からなるマトリックス中に共有結合を介して非線形光学分子を取り込む方法が知られている。
このような方法としては、例えば、非線形光学分子の複数の部位に加水分解性シリル基を導入し、ゾルゲル法により加水分解及び縮合を行なって架橋構造を形成することにより、分子運動を強く制限し、ポーリング処理により得られた分子配向が緩和してしまうのを防止する方法が提案されている(例えば、非特許文献4参照)。また、上記のような、マトリックス中に光導電性を有する分子も導入したフォトリフラクティブ材料も提案されている(例えば、非特許文献5参照)。
【0012】
これらのゾルゲル法を利用して作製された非線形光学材料は、前記配向緩和の防止という面で有望ではあるが、ゾルゲル法特有の問題点として、原料となるシラン化合物の安定性が一般的に低く、特に原料溶液に触媒を添加した後の溶液のポットライフ(ゲル化が進行するまでの猶予時間)が数分〜数時間と短かいために、作業性が悪いという問題があった。また、固化時の体積収縮などにより、膜やバルク等の形状とした際に微細なクラックが入りやすく、光学素子としての使用に耐えるものを作製するのは困難であった。
【0013】
一方、例えば、ゾルゲル法によりシラン化合物を用いて形成されるマトリックス中に有機非線形化合物を保持する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。この技術は、マトリックスを形成する分子のアルコキシシリル基や、ゾルゲル法による反応方法自体を工夫することでクラックの発生を防止しているものである。しかし、非線形光学分子はマトリックスに対して単にドープされるだけであるため、この非線形光学分子の分子運動を制限するという点ではあまり良好ではなく、配向緩和などによる光学係数の低下が問題となった。
【0014】
本発明者等は、上記問題に対し既に加水分解性シリル基を有する非線形光学分子を含む原料溶液を、固体触媒に接触させて調製されるコーティング液及びそれを用いた非線形光学材料を提案している(例えば、特許文献2参照)。このコーティング液を用いて作製される非線形光学材料は、前記従来の材料に比べ優れた非線形光学特性を示すが、固体触媒との接触後固体触媒を取り除かなければならず取り扱いが不便であり、また液のポットライフの点でも充分とはいえない面があった。
このように、従来のゾルゲル法を用いて作製される非線形光学材料に関しては、種々の問題があった。
【非特許文献1】機能材料,Vol.18,No.7,p.41,1998
【非特許文献2】Appl.Phys.Lett.,Vol.78,p.3136(2001)
【非特許文献3】Appl.Phys.Lett.,Vol.68,p1040(1996)
【非特許文献4】Appl.Phys.Lett.,Vol.65,p2651(1994)
【非特許文献5】Chem.Mater.,Vol.8,p312(1996)
【特許文献1】特開平6−235948号公報
【特許文献2】特開2003−344884号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、上記問題点を解決することを課題とする。
すなわち、本発明の目的は、湿式法を用いて非線形光学材料を形成する際の作業性に優れ、また、長期にわたるポットライフを有し、かつ、優れた非線形光学性能を有する非線形光学材料及び非線形光学素子を得ることができる非線形光学材料製造用の原料溶液を提供することである。
また、本発明の他の目的は、優れた非線形光学性能と架橋硬化によるその高い熱安定性とを兼ね備えた非線形光学材料を簡便に提供し、さらにそれを活用することによって、安定性が高く、かつ長寿命の優れた非線形光学素子を安価に提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者等は、前記の課題を解決すべく、加水分解性シリル基を有する非線形光学活性分子の架橋硬化手法及び溶液安定性に関して鋭意検討を行った結果、原料溶液中に特定の有機金属化合物及び多座配位子を存在させることにより、前記の課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0017】
すなわち本発明は、
<1> 少なくとも、加水分解性シリル基を有する非線形光学活性分子(a)、有機金属化合物(b)、及び多座配位子(c)を含有する非線形光学材料製造用の原料溶液であって、
前記有機金属化合物(b)が、Al(OR1p(R2COCHCOR33-p、Zr(OR1q(R2COCHCOR34-q、及びTi(OR1r(R2COCHCOR34-rで示される化合物うちの少なくとも1種であり、多座配位子(c)が、R4COCH2COR5で示される化合物であることを特徴とする非線形光学材料製造用の原料溶液である。
【0018】
前記において、R1は炭素数が1〜10のアルキル基を表し、R2、R3、R4、R5は炭素数が1〜10のアルキル基、炭素数が1〜10のフッ化アルキル基、及び炭素数が1〜10のアルコキシ基のうちのいずれかを表す。なお、R2及びR4、R3及びR5は各々同じであっても異なっていてもよい。また、pは0〜2、q及びrは0〜3の整数を各々表す。
【0019】
<2> 前記加水分解性シリル基を有する非線形光学活性分子(a)が、下記一般式(1)で示される化合物であることを特徴とする<1>に記載の非線形光学材料製造用の原料溶液である。
【0020】
【化1】

【0021】
上記式中、Z1〜Z3は互いに独立に置換基を有してもよい芳香族基であり、Lは置換基を有してもよいπ共役基であり、Aは置換基を有してもよい電子吸引性基であり、mは0または1を表す。なお、Z1〜Z3、L、Aは、各々任意のいずれかと連結して環構造を形成してもよく、また、これらのうち少なくとも1つは必ず1つ以上の加水分解性シリル基を有する。
【0022】
<3> <1>または<2>に記載の原料溶液を用いて製造されることを特徴とする非線形光学材料である。
【0023】
<4> <1>または<2>に記載の原料溶液を用いて製造されることを特徴とする非線形光学素子である。
【0024】
<5> 1つ以上のコア層と、それを挟むクラッド層とを含む導波路構造を有することを特徴とする<4>に記載の非線形光学素子である。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、湿式法を用いて非線形光学材料を形成する際の作業性に優れ、かつ、それを用いて作製される非線形光学材料及び非線形光学素子の非線形光学性能に優れた非線形光学材料製造用の原料溶液を提供することができる。
また、本発明によれば、優れた非線形光学性能と架橋硬化によるその高い熱安定性を兼ね備えた非線形光学材料を簡便に提供でき、さらにそれを活用することによって、安定性が高く、かつ長寿命の優れた非線形光学素子を安価に提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下に本発明を実施の形態に沿って詳しく説明する。
<原料溶液>
本発明の原料溶液は、少なくとも、加水分解性シリル基を有する非線形光学活性分子(a)、有機金属化合物(b)、及び多座配位子(c)を含有することを特徴とする。
【0027】
上記本発明によれば、後述する多座配位子の効果等により、触媒として作用する有機金属化合物(b)と非線形光学活性分子(a)とを共存させても安定した原料溶液とすることができ、しかも、固体触媒と接触させる等の工程を必要としないため作業性に優れ、さらに従来に比べポットライフを長くすることができるため、導波路構造など緻密な構造設計が要求される非線形光学素子に用いる非線形光学材料に関し、形成性が良好である非線形光学材料製造用の原料溶液を得ることができる。
【0028】
本発明の原料溶液を製造する好ましい方法としては、例えば、加水分解性シリル基を有する非線形光学活性分子(a)を適当な溶剤に溶解した後、有機金属化合物(b)、及び加水分解に必要な水を添加して加水分解を進行させた後、多座配位子(c)を添加して原料溶液を安定化させる方法が挙げられる。
【0029】
すなわち、本発明の原料溶液は、少なくとも加水分解性シリル基を有する非線形光学活性分子(a)、有機金属化合物(b)、及び多座配位子(c)を含むものであるが、より具体的には、上記以外に非線形光学活性分子(a)の加水分解物及び/またはその縮合物を含んでいてもよい。
【0030】
以下、本発明の原料溶液の各構成について説明する。
(加水分解性シリル基を有する非線形光学活性分子)
本発明における加水分解性シリル基を有する非線形光学活性分子(a)(以下、単に「非線形光学活性分子(a)」という場合がある)とは、非線形光学特性を有する有機分子に加水分解性シリル基を1つ以上導入したものをいう。上記非線形光学特性を有する有機分子としては、公知のものであれば特に限定されることはなく、例えばDisperse Red類及びDisperse Orange類などのアゾベンゼン系化合物や、4−N,N−ジメチルアミノ−4’−ニトロスチルベン(DANS)などのスチルベン系化合物などが挙げられる。
【0031】
非線形光学活性分子(a)としては、特に下記一般式(1)で示される化合物が、原料溶液の安定性、薄膜にした場合の成膜性、非線形光学特性、その熱安定性などの面から望ましいものである。
【0032】
【化2】

【0033】
上記式中、Z1〜Z3は互いに独立に置換基を有してもよい芳香族基であり、Lは置換基を有してもよいπ共役基であり、Aは置換基を有してもよい電子吸引性基であり、mは0または1を表す。なお、Z1〜Z3、L、Aは、各々任意のいずれかと連結して環構造を形成してもよく、また、これらのうち少なくとも1つは必ず1つ以上の加水分解性シリル基を有する。なお、加水分解性シリル基の数は、1つ以上であれば特に限定されない。
【0034】
後述するように、上記一般式(1)で示される構造の化合物は、大きな非線形光学効果を有するものであるが、本発明によれば、原料溶液がゲル化したり、あるいは沈殿が生じてしまったりすることがなく、優れたポットライフを有する原料溶液が得られ、また、この原料溶液により非線形光学特性に優れた非線形光学材料を作製することができる。
【0035】
前記一般式(1)中のZ1〜Z3は、互いに独立に置換基を有してもよい芳香族基であり、合成の容易さ、化学的安定性等の点で、置換基を有してもよいフェニル基またはフェニレン基であることが好ましい。このようなトリアリールアミン構造をとることにより、化合物の耐酸化性を向上させることができ、熱劣化や光劣化が抑えられる。さらに、トリアリールアミン構造をとることにより、分子間の会合性が抑えられ非線形光学活性有機化合物の架橋膜中での分子分散性が向上し、成膜後の凝集化や結晶化を抑制することができる。
【0036】
また、Lは置換基を有してもよいπ共役基である。Aは置換基を有してもよい電子吸引性基であり、化学的安定性、非線形光学性能等の点で、置換基を有してもよい環構造を含むπ共役系電子吸引性基であることが好ましい。
【0037】
本発明において、前記Z1〜Z3、L、Aは、各々任意のいずれかと連結して環構造を形成していてもよい。環構造を形成しバルキーかつリジッドな構造となることで、分子間の会合性が抑えられるとともに、耐酸化性が向上する。
【0038】
また、前記一般式(1)中のZ3−Lmで示される構造は、両端に亘るπ共役系が5個以上の不飽和結合が連なって形成されていることが好ましい。π共役鎖を長くすることが非線形光学性能向上の観点から望ましく、本発明における一般式(1)に示す化合物では、前記π共役系が5個以上連なっていると、特に優れた非線形光学特性が得られる。
【0039】
上記π共役系は7個以上連なっていることがより好ましいが、耐酸化性、耐凝集性の確保の点から、上限は15個程度であることが好ましい。なお、本発明において、前記「π共役系が連なっている」とは、不飽和結合が結合1つおきに存在して連なっていることをいう。
【0040】
本発明における加水分解性シリル基とは、シリル基の水素の一部または全部が、アルコキシ基に代表される加水分解性基により置換されたものをいう。一般式(1)で示される化合物においては、Z1〜Z3、L、Aのうち少なくとも1つは必ず1つ以上の加水分解性シリル基を有する。
【0041】
ここで、本発明における加水分解性シリル基を有する非線型光学活性分子(a)についてより詳細に説明する。
本発明において用いられる加水分解性シリル基を有する非線形光学活性分子(a)は、下記の一般式(2)で示される。
一般式(2)
G(−Y)j
【0042】
但し、一般式(2)中、jは1以上の整数を意味し、Gは例えば前記一般式(1)で示される非線形光学活性有機化合物のいずれかの部位に、Yと接合するための接続手が必要に応じて導入されたものである。
【0043】
この接続手は、GとYとを接合することが可能なものであれば特に限定されないが、具体的には、−Cn2n−、−C(n+1)2n−、−C(n+1)(2n-2)−、で表わされる炭化水素基(但し、nは1〜15の整数を表す);−CO−、−COO−、−NHCO−、−S−、−O−、−N=CH−、−N=N−、フェニレン基、及びこれらに置換基を導入したもの;さらにこれらを組み合わせたもの等が挙げられる。
【0044】
なお、接合手の導入は、例えば前記一般式(1)におけるZ1〜Z3、L、Aのいずれかの部位に導入することができるが、少なくとも、非線形光学特性が損なわれないように、導入する部位と、接合手の構造とが選択されることが好ましい。
【0045】
また、一般式(2)におけるYは、下記の一般式(3)で示される。
一般式(3)
−SiRn(3-n)
【0046】
上記式において、Rは、水素、置換または未置換のアルキル基、置換または未置換のアリール基を表す。アルキル基としては、特に限定されないが、炭素数1〜20のものが好ましく、1〜15のものがより好ましい。前記アリール基としては、芳香環数3以下のものが好ましい。Qは、加水分解性基を表し、nは0〜2の整数を表す。
【0047】
一般式(3)において、加水分解性基であるQが加水分解してヒドロキシシリル基(シラノール基)となり、他のヒドロキシシリル基と脱水縮合して架橋マトリックスを形成する。Qとしてはアルコキシ基、アリールオキシ基、ジアルキルアミノ基、アルキルカルボキシ基、ハロゲン原子等が挙げられるが、アルコキシ基が望ましい。Yの数が多いほど架橋密度が向上し、機械的強度や安定性は向上するが、逆にポーリングによる配向を起こし難くなる。よって、jは1〜3とすることが好ましい。
【0048】
前記加水分解性基Qの数は、1〜3個となるが、加水分解性基Qの数が3個ある場合には、加水分解性シリル基の反応性が高くなる傾向にあるために、原料溶液中で重縮合反応が進行してしまい、ポットライフが短くなってしまう場合がある。このような場合には、加水分解性シリル基が有する加水分解性基Qの数を1個または2個にし、前記のような構造Rを代わりに導入することで反応性を抑えることによりポットライフを向上させることができる。
【0049】
また加水分解性基Qが、アルコキシ基である場合には、上記のような反応性は、メトキシ基>エトキシ基>プロポキシ基の順で嵩高さが大きくなるにつれ低下するため、例えばメトキシ基でポットライフに問題があった場合に、イソプロポキシ基に変更することによってポットライフをより向上させることができる。
【0050】
加水分解性シリル基を有する非線形光学活性分子(a)の具体例としては、好ましく用いられる一般式(1)で示される化合物として下記に示すようなものが挙げられる。これらにおいて、「Me」はメチル基、「Et」はエチル基、「iPr」はイソプロピル基を各々表す(以下の他の構造式においても同様である)。
【0051】
【化3】

【0052】
なお、本発明の原料溶液に用いる加水分解性シリル基を有する非線形光学活性分子(a)は、1種類の化合物を単独で使用してもよいが、複数の化合物を混合して使用してもよい。
【0053】
(有機金属化合物)
本発明の非線形光学材料製造用の原料溶液には、有機金属化合物(b)として、Al(OR1p(R2COCHCOR33-p、Zr(OR1q(R2COCHCOR34-q、Ti(OR1r(R2COCHCOR34-rで示される化合物のうちの少なくとも1種が含有される。
【0054】
上記において、R1は炭素数が1〜10のアルキル基を表し、R2、R3、は炭素数が1〜10のアルキル基、炭素数が1〜10のフッ化アルキル基、及び炭素数が1〜10のアルコキシ基のうちのいずれかを表す。また、pは0〜2、q及びrは0〜3の整数を各々表す。
【0055】
この有機金属化合物(b)は、加水分解性シリル基を有する非線形光学活性分子(a)に作用して加水分解を促進し、非線形光学活性分子(a)の加水分解物を生成するための触媒として作用する。この時、生成した加水分解物は、さらに互いに縮合反応を起こして縮合物を生成する場合もある。すなわち、本発明の非線形光学材料製造用の原料溶液には、実際上、加水分解性シリル基を有する非線形光学活性分子(a)以外に、その加水分解物及び/またはその縮合物が含有されている。
【0056】
反応時間を長くする、あるいは反応温度を高くすると縮合物(オリゴマー、あるいはプレポリマー)の生成量は増加し、原料溶液の粘度も上昇する。そのため、非線形光学材料あるいは非線形光学素子の形成方法(成膜方法など)に応じて、あるいはその形状(膜厚など)に応じて、適切な原料溶液粘度になるように反応時間や反応温度を選ぶことができる。反応温度については、特に制限されないが、0〜100℃、好ましくは10〜70℃、さらに好ましくは15〜50℃の温度で行なうことが好ましい。これより低いと反応の進行が遅くなりすぎてしまい、またこれより高いと反応が急速に進行しすぎてゲル化してしまう場合がある。反応時間は、特に制限されないが、10分から100時間の範囲で行なうことが好ましい。これより短いと十分な加水分解が進行しない場合があり、これより長いと縮合反応が進行しすぎてゲル化してしまう場合がある。
【0057】
本発明においては、特に制限されないが、原料溶液中で前記加水分解物及び/または縮合物が初期の非線形光学活性分子(a)全体量のうちの20〜100モル%の範囲で含まれることが好ましく、さらに、縮合物が20モル%以上含まれることがより好ましい。
【0058】
前記有機金属化合物としては、ジイソプロポキシアルミニウムアセチルアセトネート、ジイソプロポキシアルミニウムエチルアセトアセテート、イソプロポキシアルミニウムビス(エチルアセトアセテート)、sec−ブトキシアルミニウムビス(エチルアセトアセテート)、アルミニウムビス(エチルアセトアセテート)モノアセチルアセトナート、アルミニウムトリス(エチルアセトアセテート)、アルミニウムトリス(トリフルオロアセチルアセトナート)、アルミニウムトリス(ヘキサフルオロアセチルアセトナート)などの有機アルミニウム化合物;n−ブトキシジルコニウムトリス(アセチルアセトナート)、n−ブトキシジルコニウムトリス(エチルアセトアセテート)、ジイソプロポキシジルコニウムビス(アセチルアセトナート)、トリ−n−ブトキシジルコニウムアセチルアセトナート、トリ−n−ブトキシジルコニウムエチルアセトアセテートなどの有機ジルコニウム化合物;ジ−n−ブトキシチタニウムビス(アセチルアセトナート)、ジイソプロポキシチタニウムビス(アセチルアセトナート)、ジイソプロポキシチタニウムビス(エチルアセトアセテート)などの有機チタニウム化合物;等が例示される。
【0059】
これらの化合物は1種類を単独で使用してもよいし、複数を同時に使用してもよい。
この有機金属化合物は、また、本発明の非線形光学材料製造用原料溶液を塗布した後、加熱硬化させる時の硬化触媒としても作用する。
【0060】
有機金属化合物の総添加量は、非線形光学活性分子(a)の総量に対して0.1〜20質量%の範囲が好ましく、0.1〜10質量%の範囲がより好ましい。添加量が0.1質量%より少ないと加水分解反応や加熱硬化の際の触媒作用が得られなくなる可能性があり、また、20質量%より多過ぎると原料溶液の安定性が逆に低下してしまう場合や、硬化して得られる非線形光学材料の機械的性質や非線形光学特性に問題が発生する場合がある。
【0061】
(多座配位子)
多座配位子(c)は、前記有機金属化合物(b)とともに用いることで、本発明の非線形光学材料製造用の原料溶液の安定性を高める作用を有する。詳細なメカニズムは不明であるが、非線形光学活性分子(a)の加水分解物における−SiOH部分と、有機金属化合物(b)及び/または多座配位子(c)とが安定な錯体を形成し、それ以上の縮合反応が進行するのを防止する反応停止剤として機能していることが考えられる。
【0062】
あるいは、有機金属化合物(b)における配位子(R2COCHCOR3)よりも、後から添加した多座配位子(c)の方が金属に対する配位力が強い場合、配位子交換が起こることによって有機金属化合物(b)の加水分解に対する触媒能力が低下し、反応停止剤として機能しているとも考えられている。この場合、有機金属化合物(b)における(R2COCHCOR3)と、多座配位子(c)である、R4COCH2COR5とは、異なるものを用いることになる。
【0063】
多座配位子(c)の具体例としては、アセチルアセトン、トリフルオロアセチルアセトン、ヘキサフルオロアセチルアセトンなどのβ−ジケトン類;アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル等のアセト酢酸エステル類;ビピリジン及びその誘導体;グリシン及びその誘導体;エチレンジアミン及びその誘導体;8−オキシキノリン及びその誘導体;サリチルアルデヒド及びその誘導体;カテコール及びその誘導体;2−オキシアゾ化合物等の2座配位子;ジエチルトリアミン及びその誘導体;ニトリロトリ酢酸及びその誘導体等の3座配位子;エチレンジアミンテトラ酢酸(EDTA)及びその誘導体等の6座配位子;等を挙げることができる。特に、アセチルアセトンは、原料溶液の安定性、塗布後の熱硬化性などの面から好ましいものである。
【0064】
これら多座配位子は単独で使用してもよいし、複数同時に使用してもよい。
前記多座配位の添加量は、有機金属化合物(b)の総添加量1モルに対し、0.1〜20モルの範囲とするのが好ましく、1〜10モルの範囲とするのがより好ましい。添加量が1モルより少ないと本発明の原料溶液の安定性が低下する場合があり、20モルより多いと原料溶液の安定性が低下する場合がある。
【0065】
(その他の構成材料)
本発明の非線形光学材料製造用の原料溶液には、必要に応じて、非線形光学活性分子(a)と同様に加水分解物及び/または縮合物を生成し、その加水分解物及び/またはその縮合物とともに架橋硬化して非線形光学材料を形成し得るもの、すなわちマトリックス形成化合物を添加してもよい。このマトリックス形成化合物は、硬化後の非線形光学材料における非線形光学活性分子(a)の濃度を調整したり、形成時(成膜時)の機械的特性を調整したり、あるいは原料溶液の安定性や粘度などを調整するなどの目的で添加される。
【0066】
このような目的で添加されてるマトリックス形成化合物としては、非線形光学活性分子(a)と同様、一般式(3)で示されるような加水分解性シリル基を1つ以上有するものであり、非線形光学活性分子(a)と同時に加水分解及び/または縮合が進行し、非線形光学活性分子(a)とともに架橋硬化膜を形成し得るものであれば特に制限されず、通常のゾルゲル法において用いられる公知の化合物が利用可能である。
【0067】
特に、下記一般式(4)で示されるマトリックス形成化合物は、その架橋性の高さと柔軟性のバランスがよく、好ましく用いられるものである。
一般式(4)
T(−X)i
【0068】
上記一般式(4)中、Tは、炭素数が2〜20の枝分かれ、環構造、不飽和結合、ヘテロ原子を含んでもよい脂肪族炭化水素基;置換または未置換の芳香族基;置換または未置換のヘテロ原子含有芳香族基;または、それらの組み合わせから構成され、−NH−、−CO−、−O−、−S−、−Si−から選ばれる基の少なくとも1つ以上を含んでもよい。また、Xは前記一般式(3)で示される加水分解性シリル基を表す(ただし、非線形光学活性分子(a)に含まれるものと同じでも異なっていてもよい)。また、iは1以上の整数を意味する。iの上限は、特に限定されないが、4以下であることが好ましい。iが4を超える場合には、形成される架橋マトリックスの柔軟性が悪くなりクラックが発生したり、未架橋で残存してしまうヒドロキシシリル基が多くなったりしてしまう、等の問題が生じる場合がある。
【0069】
前記一般式(4)におけるTで表される構造は、加水分解性シリル基を有するマトリックス形成化合物に適度な柔軟性を与えるため、これを含む本発明の原料溶液を用いて架橋硬化膜を形成する際に、架橋硬化に伴い生ずる収縮歪みを吸収してクラックの発生を防止する、未架橋で残存してしまうヒドロキシシリル基の濃度を低減する、等の好ましい効果を発揮する。この効果は、加水分解性シリル基を有するマトリックス形成化合物に含まれる加水分解性シリル基が1つのものでも得ることができるが、Tが置換基を有してもよい炭素数が2以上の有機基であり、且つその末端に2つ以上の加水分解性シリル基を有する場合に、特に顕著となる。このような加水分解性シリル基含有マトリックス形成化合物としては、例えば、下記のようなものが挙げられる。
【0070】
【化4】

【0071】
前記マトリックス形成化合物としては、上記の例に限定されず、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン等を挙げることができる。
【0072】
このようなマトリックス形成化合物の添加量は、非線形光学活性を低下させない程度に、必要最小限の添加であることが望ましい。具体的には、加水分解性シリル基を有する非線形光学活性分子(a)に対して0〜5000質量%の範囲、さらには0〜1000質量%の範囲で使用することが好ましい。あるいは、架橋硬化後の非線形光学材料の総量に占める非線形光学活性部分の重量比が、10質量%以上になるように添加することが望ましい。
【0073】
本発明に用いる溶剤としては、非線形光学活性分子(a)、有機金属化合物(b)、及び多座配位子(c)を良好に溶解し、加水分解及び/またはその後の縮合反応を進行させ得るものであれば特に規定されないが、アルコール類(例えばメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等)、ケトン類(例えばアセトン、メチルエチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン等)、エーテル類(例えばテトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジオキサン等)、エステル類(例えば酢酸エチル、酢酸イソプロピル)、芳香族類(例えばベンゼン、トルエン、キシレン、クロロベンゼン、テトラヒドロナフタレン)、アミド類(例えばジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド)、ジメチルスルホキシド等を、単独、あるいは2種以上を混合して用いることができる。
【0074】
原料溶液中に含まれる溶媒の量は、特に限定されないが、少なすぎると固形物が析出しやすくなるため、原料溶液中の溶媒以外の構成成分が0.5〜50質量%の範囲となるように調整することが好ましい。
【0075】
また、加水分解のために添加する水の量は特に限定されないが、原料溶液の保存安定性や原料溶液中の有機成分の沈降や相分離を抑える観点から、前記溶液中に含まれる加水分解性シリル基をすべて加水分解するのに必要な理論量に対して、30〜500モル%の範囲とすることが好ましく、50〜300モル%の範囲とすることがより好ましい。
【0076】
水の量が、500モル%よりも多いと、原料溶液の保存安定性が悪くなったり、有機成分の沈殿が析出しやすくなる場合がある。なお、これらの問題は、アルコール類を混合することによって軽減される場合がある。一方、水の量が、30モル%より少ないと、加水分解性シリル基の大半が加水分解されずに残存するため、架橋硬化が進行し難くなる場合がある。
なお、添加した水は、加水分解反応を終えた後に、残存分を蒸留や吸着処理等によって一部あるいは全てを除去してもよい。
【0077】
本発明の原料溶液には、例えば、非線形光学活性有機化合物の酸化劣化を抑制する目的で、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、ヒドロキノン等の公知の酸化防止剤を、非線形光学活性有機化合物の紫外線劣化を抑制する目的で、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン等の公知の紫外線吸収剤を添加することができる。さらに、塗布膜の表面平滑性を改善する目的で、シリコーンオイル等の公知のレベリング剤を、ポットライフを向上させるために公知の重縮合阻害剤を、架橋硬化を促進させる目的で公知の硬化助剤を、あるいは非線形光学機能以外の機能を付与するために公知の機能性材料、等を添加してもよい。
【0078】
このようにして作製される本発明の原料溶液は、触媒を含んでいても前記多座配位子の作用により安定であり、従来の均一触媒系だけでなく、固体触媒処理系に比べても著しく優れたポットライフを有する。特に、分子サイズが大きかったり、平面性の高い非線形光学活性分子を含む場合にはこれらが凝集しやすいため、本発明の構成からなる原料溶液が有効である。
【0079】
また、反応処理の終了した原料溶液中では実際上、既に加水分解性シリル基が加水分解されており重縮合性のヒドロキシシリル基となっているため、溶剤を除去した後に室温以上、好ましくは80℃以上の温度に加熱すれば、容易に脱水縮合が起こり、架橋硬化が進行する。したがって、前記技術によれば、このように室温における溶液状態での優れたポットライフと、溶剤を除去した後の電界ポーリング時(電界ポーリングは、後述するように、少なくとも100℃以上の工程を含むことが望ましい)における高い架橋硬化性が両立される。
【0080】
さらに上記技術において、非線形光学活性分子(a)として前記一般式(1)で示される化合物を用いることにより、より高濃度で安定した原料溶液を作製することができ、また、この原料溶液を用いて成膜した場合にも、凝集化や結晶化が発生することなく、所望とする厚膜の非線形光学材料が安定して得られることが判明した。そして、一般式(1)で示される化合物は優れた非線形光学性能を有するため、素子にした場合でも、動作電圧、サイズ等の点で、これまでにない優れた特性が示されることが明らかとなり、後述するようにその応用領域が拡大された。
【0081】
<非線形光学材料>
次に、本発明の原料溶液を用いた非線形光学材料について説明する。
本発明の非線形光学材料は、前記本発明の原料溶液を用いて作製されるものであれば、その作製方法及び形態は特に限定されず、例えば、鋳型に原料溶液を流し込んで架橋硬化することによりバルク状の非線形光学材料を形成したり、あるいは、板状やファイバー状等の任意の形状を有する基材表面に原料溶液を塗布し、架橋硬化させることにより膜状の非線形光学材料を形成することができる。
【0082】
以下の説明においては、基板表面に原料溶液を塗布し薄膜とする場合を前提として、非線形光学材料及びその製造方法について説明する。
原料溶液の塗布方法としては、特に限定されないが、スピンコート法、スプレーコート法、ブレードコート法、浸漬塗布法、インクジェット等の公知の湿式塗布法を用いることができる。
【0083】
基材表面に原料溶液を塗布した後、架橋硬化処理を行う。架橋硬化処理は、自然乾燥によって溶媒を除去し自然硬化させる方法であってもよいが、減圧乾燥等により溶媒を除去した後、原料溶液中に予め添加しておいた硬化触媒を利用して加熱や紫外線照射等を行うことによって硬化反応を生起させる方法が好ましい。
【0084】
非線形光学材料において2次の非線形光学活性を誘起させるには、上述のように、何らかの配向処理を行うことによって非線形光学活性分子(a)を配向させる必要がある。
【0085】
上記非線形光学活性分子(a)を配向させる配向法としては、原料溶液を、表面に配向膜を有する基板上に塗布し、該配向膜の配向性により、非線形光学材料中の非線形光学活性有機化合物の配向を誘起する方法がある。また、光ポーリング法、光アシスト電界ポーリング法、電界ポーリング法等の公知のポーリング法も有効に利用できる。これらの中でも、電界ポーリング法は、装置の簡便性、得られる配向度合いの高さ、等の点で特に好ましい。
【0086】
電界ポーリング法は、非線形光学活性有機化合物の双極子モーメントと印加電界とのクーロン力によって、非線形光学活性有機化合物を印加電界方向に配向させる配向法である。電界ポーリング法においては、一般的に、電界を印加した状態で、加熱することによって、非線形光学活性有機化合物の電界方向への配向移動を促進させ十分な配向が誘起された後、印加電界を除去する。本発明の架橋硬化系の非線形光学材料では、電界ポーリングを架橋硬化と同時、またはその前に行うことによって、電界ポーリングによって誘起される配向状態が架橋硬化によって凍結され安定なものとなる。
【0087】
このように、架橋硬化前の柔軟な段階で配向処理を行い、そのまま架橋硬化することによって、配向状態を安定に保持することが可能となり、高い配向度の実現と、その安定性の両立とが達成される。但し、全く架橋硬化を行わない状態で電界ポーリングによる配向処理を行おうとすると、膜の抵抗が低すぎ、有効なポーリング電界が掛からず、低い配向度しか得られない場合がある。この問題は、電界ポーリング処理の前に部分的に架橋硬化反応を進行させておいたり、あるいは配向法として、光アシスト電界ポーリング法や光ポーリング法を用いたりすることによって回避できる。
【0088】
加熱による硬化処理と電界ポーリング処理とを同時に行なう場合には、電界を印加しながら硬化反応温度まで一気に昇温してもよいが、その場合、十分な配向が起こる前に硬化反応が進行してしまい非線形光学活性有機化合物が動き難くなってしまい、有効な配向処理が行えない場合がある。
従って、上記のような場合には、電界を印加した状態で温度を徐々に連続的に昇温させる方法、あるいは、段階的に昇温させる方法が有効である。
【0089】
電界ポーリング処理の際に印加する電界強度は、一定であってもよいし、連続的あるいは段階的に変化させてもよい。また、その際に周期的に変化する電界を重畳してもよい。
電界ポーリング処理における非線形光学材料への電界の印加方法としては、公知の方法を採用することができ、針状、ワイヤ状、ノコギリ歯状、板状等の電極、あるいは、これらの電極にグリッド電極を組み合わせたもの等によって非線形光学材料に放電電荷を供給する放電法や、非線形光学材料に電極対を設け電界を印加するコンタクト電極法、等を用いることができる。
【0090】
上記コンタクト電極法の場合、非線形光学材料表面に直接電極を形成してもよいし、電界ポーリング処理の際のみ電極を近接あるいは接触させてもよい。膜表面に直接形成し得る電極材料としては、金、アルミニウム、ニッケル、クロム、パラジウム等の各種金属、及びこれらの合金、あるいは導電性金属酸化物や導電性高分子等を用いることができる。
【0091】
膜表面に直接電極を形成する方法としては、一般的な蒸着法やスパッタリング法を用いることができる。また、膜に近接あるいは接触させる電極としては、上記と同じものや、ガラスやプラスチック等の非導電性基体表面に導電性の膜を形成したものが使用できる。
【0092】
電界ポーリング処理は大気中で行うこともできるが、窒素、アルゴン等の不活性ガス中、あるいは、減圧環境(真空、吸引下)にて行うことが好ましい。このような環境下にて行うことによって、前記放電法においては、空気中の酸素や放電生成物等による非線形光学材料の劣化を防止できる場合があったり、また、電極法においては、高電界を印加する場合に発生する不要な火花放電を防止する効果が得られたりする。
【0093】
<非線形光学素子>
以上のようにして得られる本発明の非線形光学材料は、非線形光学機能を利用する如何なる素子にも、任意の形態にて適用することが可能であり、例えば、透明基板上の薄膜として波長変換素子等に適用できる。また、導波路構造を有する電気光学素子のコア層等に適用することもできる。
【0094】
以下に、本発明の好ましい適用例である、本発明の非線形光学材料から形成したコア層を有する導波路型電気光学素子について詳述する。
本発明の非線形光学素子の一つである導波路型電気光学素子の構成としては、特に制限されず、種々の構成を採ることができる。また、例えば、複数の層から構成されてなる素子においては、各層のうちの少なくとも1層が、前記本発明の原料溶液を用いて形成されていればよいが、光が伝播するコア層を本発明の原料溶液を用いて形成することが好ましい。この場合、その他の層に用いられる材料は特に制限されない。
【0095】
図1〜図4に、本発明の非線形光学素子の一つである導波路型電気光学素子の構成の例を、模式断面図として示す。
前記導波路型電気光学素子は、基板表面に少なくとも下部クラッド層とコア層とを有する構成とすることが望ましく、さらに図1に示す構成のように、上部クラッド層2を設けた構成とすることが好ましい。
【0096】
本発明の非線形光学材料は、導波路型電気光学素子のコア層として用いることによって、得られる素子の非線形光学性能が優れたものとなり、かつ高い安定性が保証される。さらに、本発明の非線形光学材料は架橋硬化しており耐溶剤性に優れているため、それをコア層に用いた場合には、その上に上部クラッド層を形成する時や、後述するコア層や上部電極に対してパターニングを行うときに、コア層が侵食されてしまうという問題が回避される。
【0097】
本発明の非線形光学素子を用いた導波路型電気光学素子においては、素子を駆動するために、少なくとも本発明の非線形光学材料を含む層に電界が掛かるように電極対を設ける必要がある。電極対としては、図1に示すように、下部電極5及び上部電極1が、下部クラッド層4、コア層3、上部クラッド層2からなる導波路層を挟み込む構成が好ましい。
【0098】
基板6を構成する材料としては、アルミニウム、金、鉄、ニッケル、クロム、チタン等の金属;シリコン、ガリウム−ヒ素、インジウム−燐、酸化チタン、酸化亜鉛等の半導体;ガラス等のセラミックス;ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリカーボネート、ポリスルフォン、ポリエーテルケトン、ポリイミド等のプラスチック;等を用いることができる。
【0099】
これらの基板材料の表面には、導電性膜が形成されていてもよく、該導電性膜の材料としては、アルミニウム、金、ニッケル、クロム、チタン等の金属;酸化スズ、酸化インジウム、ITO(酸化スズ−酸化インジウム複合酸化物)等の導電性酸化物;ポリチオフェン、ポリアニリン、ポリパラフェニレンビニレン、ポリアセチレン等の導電性高分子;等が用いられる。これらの導電性膜は、蒸着、スパッタリング等の公知の乾式成膜法や、スプレー塗布法、浸漬塗布法、電解析出法等の公知の湿式成膜法を利用して形成され、必要に応じてパターンが形成されていてもよい。なお、導電性基板、あるいは、基板上に形成された導電性膜は、電界ポーリングや素子駆動用の電極(図1等における下部電極5)として利用される。
【0100】
基板6の表面には、さらに必要に応じて、その上に形成される膜と基板6との接着性を向上させるための接着層、基板表面の凹凸を平滑化するためのレベリング層、あるいはこれらの機能を一括して提供する何らかの中間層が形成されていてもよい。
【0101】
このような層を形成する材料としては、特に限定されないが、例えば、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、アミド樹脂、塩化ビニル樹脂、酢酸ビニル樹脂、フェノール樹脂、ウレタン樹脂、ビニルアルコール樹脂、アセタール樹脂等及びそれらの共重合物;ジルコニウムアルコキシド化合物、チタンアルコキシド化合物、シランカップリング剤等の架橋物及びそれらの共架橋物;等の公知のものを用いることができる。
【0102】
前記のように、本発明の非線形光学素子は、一つ以上のコア層と、それを挟むクラッド層とを含む導波路構造を有するものとして形成することが好ましく、前記本発明の非線形光学材料を、導波路のコア層に含有させることが特に好ましい。
【0103】
本発明の非線形光学材料を含有するコア層3と基板6との間には、下部クラッド層4を形成することが好ましい。この下部クラッド層4としては、コア層3よりも屈折率が低く、コア層形成の際に侵されないものであれば如何なるものでもよい。このようなものとして、アクリル系、エポキシ系、シリコーン系等のUV硬化性あるいは熱硬化性の樹脂;ポリイミド;SiO2等が好ましく使用される。また、本発明の非線形光学材料も用いることができる。但し、その場合、非線形光学活性有機化合物の構造、含有量等を調整して、コア層3に用いる非線形光学材料よりも屈折率を小さくする必要がある。
【0104】
本発明の非線形光学材料を用いたコア層を形成した後、さらにその表面に上部クラッド層7を下部クラッド層4と同様にして形成してもよい。これにより、図1に示す、下部クラッド層/コア層/上部クラッド層という構成のスラブ型導波路が形成される。
【0105】
また、コア層3を形成した後、反応性イオンエッチング(RIE)、湿式エッチング、フォトリソグラフィー、電子線リソグラフィー等の半導体プロセス技術を用いた公知の方法により、コア層3をパターニングし、チャネル型導波路(図2)あるいはリッジ型導波路(図3)を形成することもできる。また、コア層3の一部に、UV光、電子線等をパターン化して照射することにより、照射部分の屈折率を変化させてチャネル型またはリッジ型導波路を形成することもできる。さらにまた、予め、下部クラッド層4を、反応性イオンエッチング(RIE)、湿式エッチング、フォトリソグラフィー、電子線リソグラフィー等の半導体プロセス技術を用いた公知の方法によりパターニングしておき、その上にコア層3を形成することによって、逆リッジ型導波路を形成することもできる。
【0106】
上部クラッド層2の表面には、素子を駆動するための上部電極1を、前記上部クラッド層2の所望の領域に形成することで基本的な電気光学素子を形成することができる。
【0107】
前記クラッド層及びコア層3の成膜方法としては、スピンコート法、スプレーコート法、ブレードコート法、浸漬塗布法、インクジェット法等の公知の塗布方法が利用できる。溶剤の除去は、自然蒸発を待ってもよいが、加熱乾燥機等で加熱する、あるいは真空乾燥機等で減圧することによって強制的に行ってもよい。
【0108】
本発明の非線形光学材料などの架橋硬化性材料からクラッド層やコア層3を形成する場合、各層の形成時に加熱処理やUV処理によって完全に架橋硬化させてもよいし、他の層を積層塗布する時に侵食されない程度に架橋硬化を部分的なものに留めておいてもよい。特に、他の層を積層塗布する際にハジキ等が起こったり、両層の接着性が悪い場合には、架橋硬化を部分的に留めておくことによって、これらの問題が改善されることがある。また、下部クラッド層4の架橋硬化を部分的に留めて抵抗値を低くしておくと、コア層3を電界ポーリング処理する際に、コア層3に有効にポーリング電界が掛かり、高い配向度が得られる場合がある。
【0109】
下部クラッド層4の膜厚は、利用する光の波長やモード等に依存するが、0.1〜2000μm程度の範囲が好ましく、1〜100μm程度の範囲とすることがより好ましい。
また、コア層3の膜厚は、利用する光の波長やモード等に依存するが、0.1〜500μm程度の範囲であることが好ましく、0.5〜50μm程度の範囲であることがより好ましい。
【0110】
本発明の非線形光学材料によってコア層3を形成する場合、原料溶液を塗布し、溶剤を除去した後に、加熱硬化処理とポーリング処理とを同時に行なうことが望ましい。溶剤除去と硬化処理は同時に行ってもよい。ポーリング処理の方法等は、本発明の非線形光学材料において説明したものと同じ方法が適用できる。
【0111】
電界ポーリング処理の場合、加熱温度は、最終段階ではコア層3がほぼ完全に架橋硬化する温度にすることが望ましく、具体的には100〜200℃の範囲内に0.1〜10時間程度保持することが望ましい。ポーリング温度を室温から最終的な温度まで段階的に上昇させる場合、各ステップの上昇温度は5〜50℃程度の範囲、各ステップの時間は5〜120分間程度が望ましく、それらは終始同じでも異なってもよい。連続的に上昇させる場合の昇温速度は、0.1〜20℃/分程度とすることが望ましく、前記の段階的に温度を上昇させるステップと組み合わせてもよい。
【0112】
前記放電法では、電極、グリッド、サンプル表面の位置関係はこの順であれば任意であるが、電極とサンプル表面との距離は5〜100mm程度の範囲、グリッドとサンプル表面との最短距離は1〜30mm程度の範囲とすることが好ましい。グリッドを使用することにより放電を安定化できる場合があり、さらにサンプル表面に必要以上のイオン流が流れ込むのを防止することができるため、サンプル表面の放電生成物によるダメージを抑制する効果もある。
【0113】
電界ポーリング処理の際に、電極やグリッドに印加する電圧は一定でもよいし、連続的あるいは段階的に変化させてもよく、温度上昇や下降のタイミングに合わせても合わせなくてもよい。例えば、電極に印加する電圧は1〜20kV程度の範囲、グリッドを使用する場合のグリッド電圧は0.1〜2kV程度の範囲とすることが好ましい。
【0114】
また、電極法の電極に印加する電圧としては、0.1〜2kV程度の範囲とすることが好ましい。電極の極性は正負どちらでもよいが、放電法の場合には、サンプル表面側を正、すなわち正極放電にした方が放電に伴うオゾンや窒素酸化物等の発生量が少なく、サンプルへのダメージを小さくすることが可能である。
なお、温度を下げる行程まで含んだポーリングの総時間は、24時間以内程度とすることが好ましい。
【0115】
上部クラッド層2としては、前記の下部クラッド層用材料と同じもの以外に、一般にポリマー導波路用として使用されている各種の熱可塑性樹脂を使用することもできる。これらの熱可塑樹脂としては、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリアリレート、ポリメチル(メタ)アクリレート、ポリイミド、ポリアミド、ポリスチレン、ポリ環状オレフィン等がある。架橋硬化されている本発明におけるコア層3は、配向安定性及び耐溶剤性に優れているため、上部クラッド層材料及びこれを塗布する溶剤、並びに塗布方法の選択肢が非常に広いという長所がある。
【0116】
コア層3の表面に上部クラッド層2を形成する場合、ポーリング処理は上部クラッド層2を形成した後でもよい。例えば、コア層3を塗布し、必要に応じて溶剤を除去したり部分的に架橋硬化した後、上部クラッド層2を形成した状態、さらには上部電極1を形成した状態で、ポーリング処理を行ってもよい。
【0117】
上部クラッド層2の膜厚は、利用する光の波長やモード等に依存するが、0.1〜2000μm程度の範囲が好ましく、1〜100μm程度の範囲とすることがより好ましい。
【0118】
本発明の非線形光学素子を前記のように導波路型の構成とする場合には、光を屈折率差によってコア層3に閉じ込めるために、コア層3の屈折率に比べ、クラッド層の屈折率を小さくする必要がある。コア層3とクラッド層との屈折率の差は、モード等によって異なるが、例えば、シングルモードの導波路として用いる場合には、上記コア層3とクラッド層との屈折率の差は、コア層3の屈折率に対して0.01〜30%の範囲であることが好ましく、より好ましくは0.1〜10%の範囲である。
【0119】
上述のパターン化したUV光を照射しコア層3をパターニングする方法は、一般に、フォトブリーチング法として知られる。この場合、上記UV光源としては、(高圧)水銀ランプ、キセノンランプ、(メタル)ハロゲンランプ、ブラックライト、D2ランプ、各種レーザーなど、公知のものが使用できる。例えば、高圧水銀ランプを使用する場合、照射強度が5〜1000mW程度で1分〜200時間程度照射すればよい。パターン化の手段としてマスクパターンを使用する場合は、金属マスク法等、公知の方法をそのまま使用できる。
【0120】
上記フォトブリーチング法でコア層3のパターニングを行う工程は、コア層3を塗布した後であればポーリング処理前でも可能であるが、架橋硬化及びポーリング処理の後の方が好ましい。あるいは、さらに上部クラッド層2や上部電極1を形成した後でも可能である。
【0121】
前記のようにしてチャネル型導波路やリッジ型導波路を形成する際、コア層3のパターンとしては、直線型、Y分岐型、方向性結合器型、Mach−Zehnder型等の公知のデバイス構造を用いることができ、このような構成により、本発明の非線形光学素子は、光スイッチ、光変調器、位相シフト器等の公知の光情報通信用デバイスへの適用が可能である。
【実施例】
【0122】
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はそれらによって制限されるものではない。なお、以下の説明において、特に断りのない限り「部」は「質量部」を意味する。
【0123】
(実施例1)
−原料溶液Aの作製−
下記組成物を混合し、室温で撹拌して2時間反応させた後、多座配位子としてアセチルアセトン0.3部(有機金属化合物に対して約1.8モル)を添加し、シリンジフィルター(PVDF製、0.45μm)でフィルタリングし、原料溶液Aを得た。なお、この溶液中では、初期の非線形光学活性分子及びマトリックス形成化合物それぞれの90%以上が加水分解物となっていた。
【0124】
・下記構造式(I)に示す加水分解性シリル基を有する非線形光学活性分子:1部
・例示化合物(4−6)に示す加水分解性シリル基を有するマトリックス形成化合物:5部
・有機金属化合物(sec−ブトキシアルミニウムビス(エチルアセトアセテート)):0.6部
・シクロペンタノン:12部
・テトラヒドロフラン:6部
・蒸留水:3部
【0125】
【化5】

【0126】
得られた原料溶液Aを直ちに密封容器に移し、塗布を行うまでの間、大気下、室温にて保管した。なお、この密封状態でのポットライフを、目視による液状態の観察から評価したところ、10日を経ても粘度変化や固形物の析出等が認められず、非常に安定であった。
【0127】
−非線形光学材料の作製−
溶融石英ガラス(20mm×25mm×1mm)の表面中央部に、5mm×25mmの大きさで、膜厚が50nmの金電極をスパッタリング法によって形成した。その上に、前記の原料溶液Aをスピンコート(2000rpm)し、10分間風乾した後、室温にて12時間減圧乾燥し乾燥膜Aを得た。この時の膜厚は約2μmであった。
【0128】
この膜に対し、次の条件で加熱硬化及びコロナ放電によるポーリングを行なった。
図5にコロナ放電法によりポーリングを行う装置の概略図を示す。この装置においてはワイヤ電極11として40μm径のタングステン線を用い、サンプル膜13(乾燥膜A)の表面との距離を10mmとした。サンプル膜13は、ワイヤ電極11のワイヤの方向と金電極14の方向とがそろうように配置した。サンプル膜13とワイヤ電極11との間にはグリッド12を設置し、グリッド12とサンプル膜表面のと距離は2mmとした。
【0129】
図に示すように、サンプル部分はオーブン22内に設置し、常に導入口20から乾燥窒素を導入(排気口21から排気)しながらポーリングを行なった。ワイヤ電極11、グリッド12には各々ワイヤ電源16、外部電源17を接続して電圧を供給できるようにした。サンプルにおける基板15表面の金電極14は電流計18を挟んで接地した。
【0130】
ポーリングは、まず、一切の電圧を印加しない状態でオーブン22の温度を60℃に設定し、1時間保持した。続けて、ワイヤ電極11に+4.5kV、グリッド12に+500Vの電圧を印加して30分保持した。その後、オーブン22の温度を80、100、120、140℃に順次設定し、それぞれの温度で30分間ずつ保持した。その後、オーブン22の温度を2時間かけて室温まで下げ、ワイヤ電源16及びグリッド電源17からの電圧印加をOFFとした。ポーリングの最中は、オーブン温度、ワイヤ電極11への印加電圧及び流入電流、グリッド電極12への印加電圧及び流入電流、サンプル膜13からの電流をパソコン19で制御及びモニターした。
【0131】
このようなポーリングで得られた非線形光学材料(架橋硬化膜A)のHe−Neレーザー光(633nm)に対する電気光学特性を、「J. Opt. Soc. Am. B, 8, 2311 (1991)」や「J. Opt. Soc. Am. B, 17, 805 (2000)」に示されるような一般的なATR法によって測定したところ、電気光学効果によるシグナルが得られ、電気光学係数r33 として約4pm/Vという値が得られた。
【0132】
さらに、架橋硬化膜Aを120℃の高温環境に1時間保持した後に、再度前記と同様にして電気光学特性を調べたところ、電気光学係数r33は約4pm/Vと初期と同等レベルであることが確認でき、本発明の非線形光学材料が高い耐熱性を有することが確認できた。
【0133】
(実施例2)
下記組成物を混合し、室温で撹拌して2時間反応させた後、多座配位子としてアセチルアセトン0.05部(有機金属化合物に対して約2モル)を添加し、シリンジフィルター(PVDF製、0.45μm)でフィルタリングし、原料溶液Bを得た。なお、この溶液中では、初期の非線形光学活性分子のうちの約90%以上が加水分解物となっていた。
【0134】
・下記構造式(II)に示す加水分解性シリル基を有する非線形光学活性分子:1部
・有機金属化合物(トリ−n−ブトキシジルコニウムアセチルアセトナート):0.1部
・シクロペンタノン:1部
・テトラヒドロフラン:1.5部
・メタノール:0.15部
・蒸留水:0.3部
【0135】
【化6】

【0136】
得られた原料溶液Bを直ちに密封容器に移し、塗布を行うまでの間、大気下、室温にて保管した。なお、この密封状態でのポットライフを、目視による液状態の観察から評価したところ、10日を経ても粘度変化や固形物の析出等が認められず、非常に安定であった。
【0137】
上記原料溶液Bを用い、実施例1と全く同様に成膜、ポーリングを行なって非線形光学材料(架橋硬化膜B)を作製し、同様にしてHe−Neレーザー光に対する電気光学係数r33を測定したところ、約9pm/Vという値が得られた。また、架橋硬化膜Bを120℃の高温環境に1時間保持した後に、再度前記と同様にして電気光学特性を調べたところ、電気光学係数r33は約9pm/Vと初期と同等レベルであることが確認できた。
【0138】
(実施例3)
下記組成物を混合し、室温で撹拌して2時間反応させた後、多座配位子としてアセチルアセトン0.05部(有機金属化合物に対して約2モル)を添加し、シリンジフィルター(PVDF製、0.45μm)でフィルタリングし、原料溶液Cを得た。なお、この溶液中では、初期の非線形光学活性分子のうちの約90モル%以上が加水分解物となっていた。
【0139】
・下記構造式(III)に示す加水分解性シリル基を有する非線形光学活性分子:1部
・有機金属化合物(トリ−n−ブトキシジルコニウムアセチルアセトナート):0.1部
・シクロペンタノン:1部
・テトラヒドロフラン:1.5部
・メタノール:0.12部
・蒸留水:0.12部
【0140】
【化7】

【0141】
得られた原料溶液Cを直ちに密封容器に移し、塗布を行うまでの間、大気下、室温にて保管した。なお、この密封状態でのポットライフを、目視による液状態の観察から評価したところ、10日を経ても粘度変化や固形物の析出等が認められず、非常に安定であった。
【0142】
上記原料溶液Cを用い、実施例1と全く同様に成膜、ポーリングを行なって非線形光学材料(架橋硬化膜C)を作製し、同様にして波長1310nmの半導体レーザーを用いて電気光学係数r33を測定したところ、約18pm/Vという値が得られた。
【0143】
また、架橋硬化膜Cを120℃の高温環境に1時間保持した後に、再度前記と同様にして1310nmの半導体レーザー光に対する電気光学特性を調べたところ、電気光学係数r33は約18pm/Vと初期と同等レベルであることが確認できた。
【0144】
(実施例4)
本発明の非線形光学材料を用い、図4に示した基本的なMach−Zhender型光変調素子(非線形光学素子)を作製した。
まず、シリコンの基板6の表面に金電極5をエッチングで形成し、この上に下部クラッド層4としてナガセケムテックス社製紫外線硬化型エポキシ樹脂を膜厚5μmとなるように形成した。次いで、下部クラッド層4の表面に、幅4μm、深さ1μmの導波路チャネルとなる2つの溝を反応性イオンエッチングにより形成した。
【0145】
この下部クラッド層4の表面に、実施例3で用いた原料溶液Cをスピンコートして、厚さ2μmのコア層3を形成し乾燥後、実施例1と同様の方法で加熱硬化及びコロナ放電法によるポーリングを行なった。その後、コア層3の表面に下部クラッド層4と同じ紫外線硬化型エポキシ樹脂を用いて厚さ3μmの上部クラッド層2を形成し、さらに上部電極1として金をスパッタ法で形成した。なお、素子長(相互作用長)は20mmとした。
【0146】
この光変調素子に対し、波長1310nmの半導体レーザー光を入力し、上部電極1にDC駆動電圧を印加して出力光強度の変調を確認した。その結果、駆動電圧に応じて出力光強度の変調する電気光学特性が確認できた。なお、DC駆動での半波長電圧Vπは約5V、消光比は約15dBであった。
また、本光変調器を120℃に1時間保持した後に、再度、光変調特性を評価したところ、初期と同等の特性を示し、本光変調器が非常に高い熱安定性を有することが確認できた。
【0147】
(比較例1)
実施例2の原料溶液の作製において、多座配位子であるアセチルアセトンを添加しなかった以外は全く同様にして、原料溶液B2を得た。
得られた原料溶液B2を直ちに密封容器に移して保管したが、24時間後にはゲル化してしまった。
【0148】
(比較例2)
実施例2の原料溶液の作製において、有機金属化合物及び多座配位子の代わりに、無機酸触媒を用いた以外は同様にして原料溶液を作製した。すなわち、下記の組成物を混合後、撹拌しながら濃塩酸1部を室温でゆっくり滴下することにより加水分解を進行させた後、シリンジフィルター(PVDF製、0.45μm)でフィルタリングし、原料溶液B3を得た。
【0149】
・前記構造式(II)に示す加水分解性シリル基を有する非線形光学活性分子:1部
・シクロペンタノン:1部
・テトラヒドロフラン:1.5部
・メタノール:0.15部
・蒸留水:0.3部
【0150】
得られた原料溶液B3を直ちに密封容器に移して保管したが、24時間後には微少な凝集物が多量に析出してしまっていた。
【図面の簡単な説明】
【0151】
【図1】本発明の非線形光学素子である導波路型電気光学素子の構成の1例を示す模式断面図である。
【図2】本発明の非線形光学素子である導波路型電気光学素子の構成の他の1例を示す模式断面図である(チャネル型導波路構造)。
【図3】本発明の非線形光学素子である導波路型電気光学素子の構成の他の1例を示す模式断面図である(リッジ型導波路構造)。
【図4】本発明の非線形光学素子の一例である光変調器の模式断面図である。
【図5】ポーリング処理装置の構成を示す概略図である。
【符号の説明】
【0152】
1、15 基板
2 下部電極
3 下部クラッド層
4 コア層
5 上部クラッド層
6 上部電極
11 ワイヤ電極
12 グリッド
13 サンプル膜
14 金電極
16 ワイヤ電源、
17 グリッド電源
18 電流計
19 パソコン
20 導入口
21 排気口
22 オーブン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、加水分解性シリル基を有する非線形光学活性分子(a)、有機金属化合物(b)、及び多座配位子(c)を含有する非線形光学材料製造用の原料溶液であって、
前記有機金属化合物(b)が、Al(OR1p(R2COCHCOR33-p、Zr(OR1q(R2COCHCOR34-q、及びTi(OR1r(R2COCHCOR34-rで示される化合物うちの少なくとも1種であり、多座配位子(c)が、R4COCH2COR5で示される化合物であることを特徴とする非線形光学材料製造用の原料溶液。
(前記において、R1は炭素数が1〜10のアルキル基を表し、R2、R3、R4、R5は炭素数が1〜10のアルキル基、炭素数が1〜10のフッ化アルキル基、及び炭素数が1〜10のアルコキシ基のうちのいずれかを表す。なお、R2及びR4、R3及びR5は各々同じであっても異なっていてもよい。また、pは0〜2、q及びrは0〜3の整数を各々表す。)
【請求項2】
前記加水分解性シリル基を有する非線形光学活性分子(a)が、下記一般式(1)で示される化合物であることを特徴とする請求項1に記載の非線形光学材料製造用の原料溶液。
【化1】

(上記式中、Z1〜Z3は互いに独立に置換基を有してもよい芳香族基であり、Lは置換基を有してもよいπ共役基であり、Aは置換基を有してもよい電子吸引性基であり、mは0または1を表す。なお、Z1〜Z3、L、Aは、各々任意のいずれかと連結して環構造を形成してもよく、また、これらのうち少なくとも1つは必ず1つ以上の加水分解性シリル基を有する。)
【請求項3】
請求項1または2に記載の原料溶液を用いて製造されることを特徴とする非線形光学材料。
【請求項4】
請求項1または2に記載の原料溶液を用いて製造されることを特徴とする非線形光学素子。
【請求項5】
1つ以上のコア層と、それを挟むクラッド層とを含む導波路構造を有することを特徴とする請求項4に記載の非線形光学素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−10956(P2006−10956A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−186553(P2004−186553)
【出願日】平成16年6月24日(2004.6.24)
【出願人】(000005496)富士ゼロックス株式会社 (21,908)
【Fターム(参考)】