説明

非C群アデノウイルスベクター

【課題】外来核酸の導入および発現が可能であり、C群アデノウイルスベクターのそれとは異なる感染生理機能を有する、さらなる複製欠損アデノウイルスベクターの提供。
【解決手段】A,B,D,EまたはF群に分類されるアデノウイルスから単離されるか、あるいはアデノウイルスに含まれるDNAセグメントと実質的に相同なアデノウイルスDNAセグメントを含有し、ウイルス複製に必要な領域の少なくとも1つに欠損のあるアデノウイルス遺伝子導入ベクター、および該ベクターの使用方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の技術分野
本発明は、非C群アデノウイルスに見られるDNAセグメント、および通常は細胞内発現用の外来遺伝子を含有する、アデノウイルス遺伝子導入ベクターに関する。また、本発明はこのようなベクターの治療および診断への使用に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
1952〜1953年の冬から春にかけて、国立衛生研究所(NIH)のロウとその同僚らは、ワシントン特別区に住む幼児から外科的に切除されたアデノイド(腺様増殖組織)を取得し、組織培養を行った(Roweら,Proc.Soc.Exp.Biol.Med.84,570-573(1953))。数週間後、該培養の多くが上皮細胞の破壊を特徴とする進行性の変性を示し始めた。この細胞変性効果は培養濾液によって、樹立されたヒト細胞株の組織培養に連続的に伝達することができた。該細胞変性剤は「アデノイド変性」(Ad)剤と呼ばれた。「アデノウイルス」という名前は、最終的にこれらの薬剤に一般的に用いられる名称となった。これら最初の発見に続いて、アデノウイルスの多くの原型株−その中の幾つかは呼吸疾患を引き起こす−が発見された(Roweら,上述;Dingle ら,Am.Rev.Respir.Dis.,97,1-65(1968);Horwitz,"Adenoviridae and Their Replication," in Fundamental Virology(Fieldsら編,Raven Press Ltd.,New York,NY,第2版,1991),pp.771-813)。
【0003】
全てのアデノウイルスは形態的および構造的に類似している。これらのウイルスはエンベロープを持たず、正二十面体で直径が65〜80nm、外部キャプシドと内部コアからなる。キャプシドは20の三角形の表面すなわち切子面と12の頂点からなる(Horneら,J.Mol.Biol.1,84-86(1959))。切子面はヘキソンで、頂点はペントンで構成されている。各頂点からファイバーが突出している。ヘキソン、ペントンおよびファイバーに加えて、8つの微量の構造ポリペプチドがあるが、それらの大多数の正確な位置は不明である。ウイルスコアは、単離物によっては長さが103bp〜163bpと変化することが観察されている逆位末端反復配列(ITR)を有する、直鎖状の二本鎖DNA分子を含有する(Garon ら,Proc.Natl.Acad.Sci.USA69,2391-2394(1972);Wolfson ら,Proc.Natl.Acad.Sci.USA69,3054-3057(1972);Arrandら,J.Mol.Biol.128,577-594(1973);Steenberg ら,Nucleic Acids Res.4, 4371-4389(1977);Tooze, DNA Tumor Viruses(第2版,Cold Spring Harbor,New York: Cold Spring Harbor Laboratory,1981),pp.943-1054)。該ITRはDNAの複製起点を担持する(Garon ら,上述;Wolfson ら,上述;Arrandら,上述;Steenberg ら,上述)。
【0004】
ウイルスDNAは4つのポリペプチド、すなわち、V,VII,μおよび末端ポリペプチド(TP)と結合している。55kdのTPはdCMPを介してDNAの5’末端に共有結合している(Rekoshら,Cell11,283-295(1977);Robinsonら,Virology56,54-69(1973))。他の3つのポリペプチドは、DNAに非共有結合してキャプシドの小さな容量に合うようにDNAを折り畳んでいる。DNAはヌクレアーゼ消化パターンから分かるように、細胞のヌクレオソームに類似した構造にパッケージングされているらしい(Cordenら,Proc.Natl.Acad.Sci.USA73,401-404(1976);Tateら,Nucleic Acids Res.6, 2769-2785(1979);Mirza ら,Biochim.Biophys.Acta696, 76-86(1982))。
【0005】
アデノウイルスに特有の種々の物理的類似性以上に、ある特定の基準、例えば、所定の株の免疫学的反応性、発癌性およびゲノムのGC含量に関して、これらのウイルスは下位区分にはっきりと区別されている。Horwitz,上述の第777頁を参照されたい。例えば、40を越す血清型と4つの血球凝集反応群がヒトアデノウイルス単離物の中で同定されている。Horwitz,上述の第777頁に概説されるヒトアデノウイルスの分類を下表にまとめた。
【0006】
【表1】

【0007】
少なくとも現在まで最も研究されているアデノウイルス血清型、すなわちAd2およびAd5−それらは完全に配列決定されている−に関しては、アデノウイルスゲノムの全体の構成は血清型間で保存されており、特定の機能が同様に位置づけされている。他の血清型は部分的に配列決定されているが、その結果はアデノウイルス間で遺伝子の構成が保存されているとの仮説と一致する。それにもかかわらず、表に示されるように、アデノウイルスは遺伝子レベルでかなりの多様性を示す。例えば、アデノウイルスの異なる群からのウイルス単離物は、それぞれのゲノム中で様々なGC含量を示す。さらに、より厳密な分析により下位ゲノムセグメントを比較すれば保存された配列を検出できることが明らかになってはいるが、DNA−DNAハイブリダイゼーション研究から、異なる群のDNA間では20%未満の相同性しかないことが示されている。例えば、DNAの長さが30マップ単位に達する研究において、DNA配列の少なくとも20〜50%は群間で変化することが観察される(Horwitz,上述,第777頁)。別の研究において、アデノウイルスの6つの群のそれぞれに関連するサブタイプの複製起点の配列は、相関はあるが異なることが観察されている。
【0008】
重要なことに、説明はなされていないが、異なる群のアデノウイルスは、同じ宿主に同時感染すると組換えを起こさない。対照的に、群内ではアデノウイルスは効率よく組換えを起こす(Sambrookら,J.Mol.Biol.97, 369-390(1975))。群間での組換えの失敗はアデノウイルスの群の遺伝的多様性を強く示すものである。
【0009】
アデノウイルス感染の基礎生理学は、主にAd2とAd5について研究されてきた。それらの研究によれば、アデノウイルスは細胞膜上の特異的なレセプターにファイバーが接着することにより細胞に感染し始める(Londberg-Holmら, J.Virol.4, 323-338(1969);Morganら, J.Virol.4, 777-796(1969); Pastanら,"Adenovirus entry into cells: somenew observations on an old problem", in Concepts in Viral Pathogenesis, Notkinsら編,Springer-Verlag,New York,NY,pp.141-146(1987))。次いで、ペントンベースが細胞のインテグリンレセプターに結合する。それから、レセプターに結合したウイルスは原形質膜から、エンドサイトーシス小胞またはレセプトソームを形成する、クラスリンで被覆された窪みに移動し、そこでpHが5.5に落ちる。pHの降下がウイルス表面の外形を変化させ、その結果、レセプトソームが破裂して細胞の細胞質中に放出されると信じられている。
【0010】
ウイルスが核孔に達すると、ウイルスDNAは残りのタンパク質のほとんどを細胞質に残して核に入る(Philipsonら,J.Virol.2,1064-1075(1968))。しかしながら、ウイルスDNAは完全にタンパク質を持たないわけではなく、少なくともウイルスDNAの一部は少なくとも4つのウイルスポリペプチド、すなわち、V,VII,TPおよびμと結合しており、ウイルスDNA−ヒストン複合体に転化される(Tateら,Nucleic Acids Res.6, 2769-2785(1979))。
【0011】
細胞感染からウイルス粒子産生へのサイクルは1〜2日続き、結果として細胞あたり1万に達する感染性の粒子が産生される(Green ら,Virology13,169-176(1961))。アデノウイルスの感染過程はウイルスDNAの複製によって分けられる、初期(E)および後期(L)の相に区分される。もっとも、初期相の間に起こることのいくつかは後期相の間にも起こり、その逆もある。ウイルス遺伝子の一時的な発現を十分に記載するために、さらに遺伝的領域の下位区分がなされている。
【0012】
初期相の間に、細胞内に存在する全RNAのうちの小さな割合を占めているメッセンジャーRNA(「mRNA」)が、細胞核に存在するアデノウイルスDNAの両方の鎖から合成される。少なくとも、E1,E2,E3,E4およびMLP−L1と称される5つの領域が転写される(Lewis ら,Cell7, 141-151(1976); Sharpら,Virology75,442-456(1976);Sharp,"Adenovirus transcription", in The Adenovirus,Ginsberg編,Plenum Press,New York,NY,pp.173-204)。それぞれの領域は少なくとも1つのはっきりと区別されたプロモーターを有し、プロセッシングされて複数のmRNA種を生じる。
【0013】
初期(E)領域の産物は、(1)他のウイルス成分の発現に制御的な役割を果たし、(2)細胞のDNA複製およびタンパク質合成の一般的な停止に関与し、且つ(3)ウイルスDNAの複製に必要である。初期mRNAの転写を調節する複雑な一連の出来事は、E1A,L1および13.5kd遺伝子を含むある特定の、即時初期領域の発現で始まる(Sharp(1984),上述に総説されている;Horwitz(1990),上述)。遅延初期領域であるE1B,E2A,E2B,E3およびE4の発現はE1A遺伝子産物に依存する。3つのプロモーター--72マップ単位(「mu」)にあるE2プロモーター、タンパク質IXプロモーターおよびIVaプロモーター--は、DNAの複製によりエンハンスされるがそれに依存しない(Wilsonら,Virology94,175-184(1979))。それらの発現はウイルス遺伝子発現の移行期(intermediate phase)を特徴づける。初期遺伝子発現のカスケードの結果、ウイルスDNAの複製が開始される。
【0014】
アデノウイルスDNAの複製は、ゲノムのどちらかの末端にある複製起点から、5’から3’の方向への連続的合成によって親の一本鎖を置換する(Kelly ら,"Initiation of viral DNA replication", in Advances in Virus Research,Maramorosch ら編,Academic Press,Inc.,San Diego,CA,34,1-42(1988);Horwitz ら,in Virology, Raven Press,New York,2,1679-1721(1990);van der Vliet,"Adenovirus DNA replication in vitro,"in The Eukaryotic Nucleus, Straus ら編,Telford Press,Caldwell,NJ,1,1-29(1990))。E2にコードされている3つのタンパク質:(1)一本鎖DNA結合タンパク質(DBP)、(2)アデノウイルスDNAポリメラーゼ(Ad pol)および(3)プレ末端タンパク質(pTP)は、アデノウイルス合成に必須である。これら必須のタンパク質に加えて、インビトロの実験によって多くの宿主細胞因子がDNA合成に必要であることが確認されている。
【0015】
DNA合成はdCMP分子のpTPのセリン残基への共有結合的な接着によって開始する。それから、pTP−DCMP複合体はAd polが伸張するためのプライマーとして機能する。置換された親の一本鎖は、逆位末端反復配列の塩基の対合によってフライパンの柄のような構造を形成することができる。この末端の二重の構造は親ゲノムと同一であり、相補鎖合成の開始の起点として機能できる。ウイルスDNAの複製の開始が後期相に入るのに必須のように思われる。
【0016】
ウイルス感染の後期相は、ウイルス構造ポリペプチドおよびキャプシドの構築に関わる非構造タンパク質の大量生産によって特徴づけられる。主要後期プロモーター(MLP)が十分に活性になり、16.5muで始まってゲノムの末端付近で終結する転写産物を産生する。この長い転写産物の転写後のプロセッシングは後期mRNAの5つの系統をもたらし、それぞれL1からL5と命名される(Shawら,Cell22,905-916(1980))。初期相から後期相への変遷を制御し、また、結果としてそのような転写産物の利用における劇的な変遷を生じる機構は明らかではない。一次感染ウイルスの後期の転写が活性である時は、後期転写は重感染ウイルスからは起こらないので、DNA複製の条件はDNA鋳型のシス特性であるかもしれない(Thomasら,Cell22,523-533(1980))。
【0017】
ウイルス粒子の構築は、個々のポリペプチド鎖から主要な構造単位を組み立てる最初のステップから複雑なプロセスである(Phi lipson,"Adenovirus Assembly",in The Adenovirus, Ginsberg 編,Plenum Press,New York,NY(1984),pp.309-337に総説されている;Horwitz,上述)。ヘキソン、ペントンベースおよびファイバーは細胞質中で合成された後、三量体のホモポリマー形態を構築する。100kdタンパク質はヘキソンの三量体化のための骨格として機能するらしく、得られたヘキソン三量体はヘキソンキャプソマーと呼ばれる。ヘキソンキャプソマーは自己構築して空のキャプシドの殻を形成することができ、ペントンベースとファイバーの三量体は、構成成分が核内に存在するときは、結合してペントンを形成することができる。正二十面体の切子面は3つのヘキソンキャプソマーで構成され、そのことはキャプシドが分離することで分かるが、9群ヘキソン形成の途中のステップは観察されていない。幾つかの構築中間体が温度感受性変異株を用いた実験により示されている。キャプシド構築の進行は、50kdおよび30kdの骨格タンパク質に依存していると考えられる。裸のDNAはおそらく、頂点の1つの開口部を通って完成状態に近いキャプシドに入り込む。該プロセスの最後の段階は、前駆ポリペプチドpVI,pVII,pVIIIおよびpTPの蛋白分解的なトリミングを含んでおり、それはキャプシド構造を安定化させ、該DNAをヌクレアーゼ処理に非感受性とし、成熟したウイルス粒子を産生する。
【0018】
ある種の組換えアデノウイルスベクター、すなわち両者ともC群に分類されるAd2およびAd5が遺伝子治療に用いられている。1つまたはそれ以上の組換え遺伝子を導入するための組換えアデノウイルスベクターの使用は、治療を必要とする器官、組織または細胞への該1つまたはそれ以上の組換え遺伝子の目的とする送達を可能にし、それによって体細胞の遺伝子治療のほとんどの場合に遭遇する送達に関する問題が克服される。さらに、組換えアデノウイルスベクターはアデノウイルスタンパク質の発現に宿主細胞の増殖を必要としない(Horwitz ら,上述;Berkner, BioTechniques6,616(1988))。その上、もし治療が必要な器官が肺であれば、遺伝情報の運び屋としてアデノウイルスを使用することは、アデノウイルスが通常、向気道上皮性であるという点でさらに有利である(Straus,in Adenovirus,Plenum Press,New York,pp.451-496(1984))。
【0019】
ヒトの遺伝子治療用ベクターとしてのアデノウイルスの他の利点は、(i) 組換えが稀である;(ii)ヒトがアデノウイルスに感染することが頻繁であるにもかかわらず、アデノウイルス感染からヒトへの悪影響に関連するものが今のところ無い;(iii) 現在、アデノウイルスゲノム(それは直鎖状の二本鎖DNAである)は長さにして7.0〜7.5kbまでの範囲の外来遺伝子を収容するように操作できる;(iv)アデノウイルスベクターは自身のDNAを細胞の染色体に挿入せず、そのためその効果は一時的であり、細胞の正常な機能を妨げることはありそうにない;(v) アデノウイルスは脳や肺の細胞のような非分裂の、すなわち最終分化を遂げた細胞に感染することができる;(vi)生アデノウイルス−必須の特徴として複製能を有する−が、ヒトのワクチンとして安全に使用されている(Horwitzら,上述;Berkner ら,J.Virol.61, 1213-1220(1987);Straus,上述;Chanock ら,JAMA195, 151(1966);Haj-Ahmad ら,J.Virol.57, 267(1986);Ballayら,EMBO4, 3861(1985))。
【0020】
発現ベクターとして使用するために、外来遺伝子をC群アデノウイルスゲノムの2つの主要な領域、すなわちE1およびE3領域に挿入して、単一欠損アデノウイルスおよびそれから派生するベクターを得ている。E1領域への挿入は、相補的な細胞内での増殖または完全なヘルパーウイルスの存在を必要とする欠損のある子孫を生み出す。それらは損傷を受けたか、あるいは消失したE1領域の機能を代替する(Berkner ら,上述;Davidsonら,J.Virol.61, 1226-1239(1987);Mansour ら,Mol.Cell Biol.6,2684-2694(1986))。現在のところ、単一欠損アデノウイルスに欠けている必須機能を相補する細胞株は2、3存在するのみである。そのような細胞株の例としては、HEK−293(Grahamら,Cold Spring Harbor Symp.Quant.Biol., 39,637-650(1975))として知られているヒト胚腎細胞、W162(Weinbergら,Proc.Natl.Acad.Sci.,USA80, 5383-5386(1983))およびgMDBP(Klessig ら,Mol.Cell.Biol.4, 1354-1362(1984);Broughら,Virology190, 624-634(1992))が挙げられる。
【0021】
外来核酸の発現には、ゲノムのE1領域が最も頻繁に使用されている。E1領域に挿入された遺伝子は種々のプロモーターの制御下に置かれ、たいていは発現カセットによっては大量に外来遺伝子産物を産生する。
【0022】
外来核酸の挿入によく使用されるものとして上述したもう1つの領域であるE3領域は、組織培養中でのウイルス増殖に必須でないので、この領域を外来核酸発現カセットで置換すると非相補的な細胞株においても生産的に増殖できるウイルスが得られる。例えば、Ad5血清型ウイルスのE3領域内へのB型肝炎表面抗原の挿入および発現、それに続くハムスターへの接種および抗体の形成が報告されている(Morinら,Proc.Natl.Acad.Sci.,USA84, 4626-4630(1987))。Ad4およびAd7血清型に創られた類似のE3欠損の報告もまたなされている(Ad4については、Chengalvala ら,Vaccine9,485-490(1991);Ad7については、Lindley ら,Gene138, 165-170(1994)およびChengalvala ら,J.Gen.Virol.75, 125-131(1994))。
【0023】
アデノウイルス遺伝子治療の分野では、現在のところ、前記の2つのC群血清型、すなわちAd2およびAd5しか臨床研究に使用されていない。このような研究の例としては、Davidsonら,Nature3, 219(1993)およびMastrangeli ら,J.Clin.Invest.91,225-234(1993)を参照されたい。C群血清型に関する現在の研究の焦点は、このアデノウイルスの特性解析の基礎研究の圧倒的多数がAd2およびAd5に向けられていることを考慮すれば理解されよう。Fields,上述;また、The Adenoviruses(Ginsberg編,Plenum Press,New York,NY,1984)を参照されたい。これらの研究により、C群アデノウイルスが、気道上皮を含む様々な標的組織への送達媒体として例外的に有効であることが分かっている。例えば、Bajocchiら,Nature Genetics3,229-234(1993)を参照されたい。
【0024】
しかしながら、C群アデノウイルス遺伝子治療ベクターの使用には制限がある。遺伝子治療開始前に同タイプのアデノウイルスに宿主が自然曝露された結果、あるいは遺伝子治療自体の間に宿主がアデノウイルスベクターに曝露される結果、宿主は遺伝子治療に使用される特定のアデノウイルスベクターに対して免疫応答を起こすことがある。細胞性免疫応答はアデノウイルスベクターに感染した細胞の寿命を縮め、それによって外来核酸の発現を減少させる可能性があり、遺伝子治療の全体の有効性が逓減する。実際、現在使用されているC群アデノウイルス遺伝子治療系の大きな制限が、それによって得られる遺伝子発現が短期間しか持続しないことであることが経験的に分かっている。例えば、Crystal ら,Nature Genetics8,42-51(1994)を参照されたい。さらに、結果として抗体が産生される体液性免疫応答は、特定のアデノウイルスベクターを使用する遺伝子治療の有効性を著しく減少させる。
【0025】
したがって、C群アデノウイルスベクターとは異なる、さらなる複製欠損アデノウイルスベクターが必要である。特に、外来核酸の導入および発現が可能であり、C群アデノウイルスベクターのそれとは異なる感染生理機能を有する、さらなる複製欠損アデノウイルスベクターが必要である。本発明は、このようなベクター、並びにこのようなベクターの使用方法を提供しようとするものである。本発明のこれらのおよび他の目的並びに利点また発明の付加的な特徴は、以下の本発明の説明から明らかとなるだろう。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0026】
発明の簡単な要約
本発明は、A,B,D,EまたはF群に分類されるアデノウイルスから単離されるか、あるいはアデノウイルスに含まれるDNAセグメントと実質的に相同なアデノウイルスDNAセグメントを含有し、ウイルス複製に必要な領域の少なくとも1つに欠損のあるアデノウイルス遺伝子導入ベクターを提供する。本発明はまた、このようなベクターの使用方法を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
発明の詳細な説明
本発明は、少なくとも部分的には、非C群アデノウイルスが複製欠損アデノウイルス遺伝子導入ベクターを調製するのに用いることができること、およびこのようなベクターが複製欠損C群アデノウイルスベクター用に設計された相補的な細胞株中で増殖し得ることの発見に基づいている。非C群アデノウイルスとC群アデノウイルスのE1AおよびE1B遺伝子産物の間の類似性が比較的小さいことに例示されるように、非C群アデノウイルスとC群アデノウイルスの間の実質的な相違を考慮すると、この発見は予期せぬものであった。
【0028】
本発明は、非C群アデノウイルス、例えば、A,B,D,EまたはF群のアデノウイルスから単離されるか、あるいは該アデノウイルスに含まれる核酸セグメントと実質的に相同なアデノウイルス核酸セグメントを含有するアデノウイルス遺伝子導入ベクターを提供する。さらに、本発明のアデノウイルス遺伝子導入ベクターは、複製欠損、すなわちウイルス複製に必要な領域の少なくとも1つに欠損がある。通常、本発明のアデノウイルスベクターは、一般的に、ウイルス複製に必要な欠失した領域の少なくとも1つの領域の代わりに、治療および/または予防上の利用性を有する産物をコードする外来核酸をさらに含有するだろう。
【0029】
本発明において使用されるアデノウイルスの分類は、上述され且つHorwitz,上述,に記載された通りのものである。故に、「非C群アデノウイルスベクター」は血清型の定義に基づき、例えば、このようなアデノウイルスベクターの好ましくは全てのキャプシドタンパク質が非C群アデノウイルス起源である。そうして、「非C群アデノウイルス」という用語はA,B,D,EまたはF群のアデノウイルスを含む。本発明の非C群アデノウイルス遺伝子導入ベクターの構築に使用される好ましいアデノウイルスとしては、Ad12(A群),Ad7(B群),Ad30およびAd36(D群),Ad4(E群)およびAd41(F群)が挙げられる。本発明の非C群アデノウイルス遺伝子導入ベクターの構築に使用されるより好ましいアデノウイルスには、B群のアデノウイルス、とりわけAd7が挙げられる。
【0030】
使用されるアデノウイルスの少なくとも1つは非C群アデノウイルスでなければならず、また、例えば、このようなアデノウイルスベクターのキャプシドタンパク質はすべて非C群アデノウイルス起源であるというように、アデノウイルスベクターは血清型で定義すると非C群アデノウイルスベクターのままでなければならないが、いかなるサブタイプ、サブタイプの混合物またはキメラアデノウイルスも、本発明のアデノウイルスベクターを生成するための核酸のソースとして使用することができる。したがって、例えば、特定の非C群アデノウイルスのある領域、例えばAd7のE4領域を、ある野生型C群ウイルスのある領域、例えばAd2またはAd5のE4領域で置換することができる。このような組み合わせは、野生型アデノウイルスおよび現在使用されているアデノウイルスベクターと、本発明において生成されるアデノウイルスベクターの両方について、免疫学的には視認できない一連の組換えアデノウイルスを提供することが予測される。したがって、継続した遺伝子治療を必要とする宿主を、より早いアデノウイルスの自然感染および/または他のベクターを用いたより早い遺伝子治療処置に応答して宿主中に誘導された抗体によって中和されない、異なるアデノウイルス遺伝子治療ベクターを連続で使用して治療することができる。
【0031】
本発明のアデノウイルスベクターの一部を形成するアデノウイルス核酸セグメントは、好ましくはアデノウイルスから単離されたものであるが、該アデノウイルス核酸セグメントはまた、このようなアデノウイルスに含まれる核酸セグメントと実質的に相同なものであってもよい。「核酸セグメント」という用語はDNAまたはRNAのポリマー、すなわちポリヌクレオチドを意味し、一本鎖または二本鎖であってもよく、また合成、非天然、あるいは変化したヌクレオチドを任意で含んでもよい。このようなヌクレオチドのいかなる組み合わせもDNAまたはRNAポリマーに組み入れることができる。
【0032】
ここで使用する「実質的に相同な」という用語は、2つの核酸が少なくとも適度にストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下でハイブリダイズし得ることを意味する。ハイブリダイゼーションのストリンジェンシーは、相補的な一本鎖の核酸同士がお互いに接合して、ある程度のミスマッチを有する二本鎖核酸を形成するハイブリダイゼーション反応に使用される条件を意味する技術用語であり、そのミスマッチの程度は使用されるストリンジェンシーの関数である。特に、ストリンジェンシーは反応させられる核酸鎖のサイズと組成、許容されるミスマッチの程度、所望の交叉反応性等によって決まる。当該分野で周知の通り、ストリンジェンシーの程度は、とりわけ使用されるイオン条件および温度に影響され得る(Sambrookら,Molecular Cloning: A Laboratory Manual(第2版,1989))。
【0033】
本発明において用いられる際、指定されたハイブリダイゼーションのストリンジェンシーが、部分的には本発明の核酸の範囲を限定する。したがって、ハイブリダイゼーションの条件は、少なくとも適度にストリンジェントであるか、あるいはストリンジェントであるよう適当にデザインされる。前者の場合、塩、温度、反応混合物および核酸反応物のサイズの適当な条件は、核酸のヌクレオチド配列のミスマッチが約45%から約80%となるように、慣用の知識に従って設定される。好ましくは、適度にストリンジェントなハイブリダイゼーション条件は約55%から約75%のミスマッチを与えるように設定され、より好ましくは、このような条件は約60%から約70%のミスマッチを与えるように設定される。後者の場合、ハイブリダイゼーションにふさわしい条件は、約10%から約40%のミスマッチを与えるように、慣用の知識に従って設定される。好ましくは、ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件は、約20%から約40%のミスマッチを与えるように設定され、より好ましくは、このような条件は約30%から約40%のミスマッチを与えるように設定される。ミスマッチとは、他の部分は二重の核酸である中に、非相補的な塩基対がお互いに向かい合って見られる程度を意味し、それによってバブル構造が形成され、同じ長さで同じ塩基組成の100%マッチングした二重物と比較して、二重物の融解温度が低くなる。
【0034】
本発明のアデノウイルスベクターは、好ましくは、治療および/または予防上の利用性を有する産物を通常コードし、それを宿主細胞内で発現する外来の核酸をさらに含有する。「外来の核酸」という用語は、ここでは本発明のベクター中に挿入された、アデノウイルスゲノムにとって外来のDNAまたはRNAのいずれかの配列、特にDNAの意味で使用される。このような外来の核酸は、遺伝子、遺伝子の一部、もしくは他のいかなる核酸配列も構成することができ、RNA、アンチセンスRNA、合成オリゴヌクレオチドおよび/またはポリペプチドをコードする配列を含むがそれらに限定されない。治療上の利用性を有する外来の核酸には、例えば、嚢胞性線維症(CF)に関連する嚢胞性線維症膜貫通調節因子(CFTR)遺伝子等の、消失するか、もしくは損なわれた遺伝子機能をコードする遺伝子が含まれる。予防上の利用性を有する外来の核酸には、例えば自身に対する免疫応答を引き出すポリペプチドまたは他の抗原のソースを提供するなどして、直接的または間接的に疾患を防止する能力を有する遺伝子産物をコードする遺伝子が含まれる。
【0035】
アデノウイルスは多くの領域を含む。アデノウイルスゲノムの領域は1つまたはそれ以上の遺伝子を含む(Horwitz,上述)。このような遺伝子は、例えば接着、侵入、脱外皮、複製、コアタンパク質、ヘキソン、ファイバー、ヘキソン付随タンパク等の、アデノウイルスの種々の構成成分または活性を仲介、促進、惹起するか、あるいはそのものである遺伝子産物をコードする。例えば、前記の構成成分または活性のいくつかもしくは全てに関与するかもしれない欠損領域による1つの影響は、アデノウイルスが増殖できないことである。前記の構成成分または活性を、ここでは遺伝子機能と称する。ここで用いられる、遺伝子あるいは遺伝子機能における欠損、すなわち欠損した遺伝子、遺伝子領域または領域とは、ウイルスゲノムの遺伝的材料の欠失として定義され、核酸配列が全体にもしくは部分的に欠失した遺伝子の機能を減じるかあるいは抹消するように、また外来の核酸を挿入するためにウイルスゲノムに余地、すなわち容量を提供するように働く。このような欠損は、非相補的な細胞宿主の組織培養中でのアデノウイルスの増殖に必須な遺伝子内にあっても、また、必須でない遺伝子内にあってもよい。
【0036】
本発明の複製欠損アデノウイルスベクターは、ウイルス複製に必要な領域のいずれか1つまたはそれ以上、例えば、初期もしくは後期領域中のいずれかの領域を欠損することができる。好ましくは、本発明のアデノウイルスベクターは、ウイルス複製に必要な初期領域の少なくとも1つの領域に欠損のあるもの、特にE1領域、就中E1A領域のみもしくはE1AとE1B領域の両方に欠損のあるものである。該アデノウイルスベクターは、ウイルス複製に必要な領域における欠損に加えて少なくとも1つの領域に欠損のあること、例えば、初期領域1A(E1A)および/または初期領域1B(E1B)を含む初期領域1(E1)、初期領域2A(E2A)および/または初期領域2B(E2B)を含む初期領域2(E2)、初期領域3(E3)および初期領域4(E4)のような別の初期領域と、あるいはアデノウイルスゲノムの後期領域における欠損とでも組み合わせて、E1A領域のような初期領域に欠損のあることがより好ましい。付加的な領域の欠損は、E3領域のようにウイルス複製に必要でない領域にあってもよいが、付加的な領域の欠損はウイルス複製に必要な別の領域にあることが望ましい。しかしながら、このような付加的な欠損は、ウイルス複製に必要または不必要な領域にさらにまた欠損を伴ってもよい。特に関心のあるのは、E1欠損C群アデノウイルスベクターの増殖を可能にする複製に不可欠なE1領域を供給するのに以前に利用されているHEK−293細胞株において増殖することができる、本発明のアデノウイルスベクターである。
【0037】
いずれの欠失領域も、外来の遺伝子産物、すなわちアデノウイルスにとって外来の遺伝子産物を産生させるために、プロモーター可変の発現カセットのような外来の核酸で置換することができる。例えば、E2A領域への外来の核酸の挿入はユニークな制限部位を導入することにより容易になされ、外来核酸産物はE2Aプロモーターから発現され得る。
【0038】
本発明は、ゲノムの初期領域においてのみ遺伝子機能を欠損したアデノウイルスベクターに限定されない。ゲノムの後期領域に欠損のある複製欠損アデノウイルスベクター、ゲノムの初期および後期領域に欠損のあるアデノウイルスベクター、並びに本質的に全てのゲノムが取り除かれたベクターもまた、本発明に包含される。この場合、少なくともウイルスの逆位末端反復配列およびパッケージングシグナルは完全な状態で残っていることが好ましい。当業者は、取り除かれるアデノウイルスゲノムの領域が大きいほど、より大きな外因性DNA断片がゲノムに挿入できるということを理解するだろう。例えば、36kbのアデノウイルスゲノムであれば、ウイルス逆位末端反復配列および幾つかのプロモーターを完全な形で残すと、アデノウイルスの許容量はおよそ35kbである。あるいは、ITRと1つのパッケージングシグナルのみを含むアデノウイルスベクターを作製することもできる。これにより該ベクターから37〜38kbの外来核酸の発現が効果的に予測されよう。
【0039】
一般的に、ウイルスベクターは細胞内でのアデノウイルスDNA断片間の高レベルの組換えを期待して構築される。断片間で類似(またはオーバーラップ)している領域を含みゲノムの完全長を構成している、アデノウイルスDNAの2つまたは3つの断片を細胞にトランスフェクションする。宿主細胞の組換え機構は、前記の断片を組換えることによってウイルスベクターゲノムを構築する。さまざまな単一領域における改変を含む、ウイルスを構築するための他の好適な手法が以前に記載されており(Berkner ら,Nucleic Acids Res.12,925-941(1984);Berkner ら,Nucleic Acids Res.11,6003-6020(1983);Broughら,Virol.,190,624-634(1992))、これらは多重欠損ウイルスを構築するのに使用することができる。さらに好適な手法は、例えば、インビトロでの組換えおよびライゲーションを含む。
【0040】
ウイルスベクター構築の最初の段階は、標準の分子生物学的技術を用いて、プラスミドカセット中でアデノウイルスゲノムの特定の領域の欠失または修飾を構築することである。この変化させたDNA(欠失または修飾を含む)は、それからアデノウイルスゲノムの1/2までを含むもっと大きなプラスミドに移される。次の段階は、該プラスミドDNA(欠失または修飾を含む)およびアデノウイルスゲノムの大きな断片を受容細胞内にトランスフェクションすることである。これら2つのDNA断片を一緒にすると、アデノウイルスゲノムと類似領域の全てを包含する。この類似領域内で組換えが起こり、欠失または修飾を含む組換えウイルスゲノムが造られる。複製欠損ベクターの場合、受容細胞は組換え機能だけでなく、トランスフェクションされたウイルスゲノムに含まれない失われたウイルス機能の全てを提供し、そうして組換えウイルスゲノムの全ての欠損を相補して複製欠損ベクターの増殖を可能にする。
【0041】
本発明の複製欠損アデノウイルスベクターの増殖を可能にする相補的な細胞株は、好ましくは目的の複製欠損アデノウイルスベクターから消失した機能を特異的に相補するものである。このような細胞株はまた、複製能のあるアデノウイルスベクターが得られるベクターの組換えが起こる可能性を排除しないまでも最小限にするように、相補遺伝子をオーバーラップしないように含有するのが好ましい。
【0042】
相補的な細胞株は、組換えアデノウイルスベクターの高力価ストックを作製するためには、複製に必要な欠損したアデノウイルス遺伝子機能の産物を、それらの産物にとって適切なレベルで発現し得るものでなければならない。例えば、アデノウイルスDNAの複製のためには、E2A産物であるDBPは化学量論的なレベル、すなわちかなり高レベルで発現する必要があるが、E2B産物であるAd polは、アデノウイルスDNAの複製のためには触媒的レベル、すなわち比較的低レベルでのみ発現する必要がある。組換えアデノウイルスベクターの高力価ストックを確実にするためには、産物のレベルを適切にしなければならないだけでなく、産物の時間的な発現を、細胞の通常のウイルス感染において見られるものと矛盾がないようにしなければならない。例えば、ウイルスDNAの複製に必要な構成成分は、ウイルス粒子の構築に必要な構成成分よりも前に発現しなければならない。ウイルス産物の高レベルの発現にしばしば付随する細胞毒性を避け、また、産物の時間的な発現を調節するために、誘導プロモーター系が使用される。例えば、ヒツジのメタロチオネイン誘導プロモーター系が、完全なE4領域、E4領域のオープンリーディングフレーム6およびE2A領域を発現させるのに使用することができる。他の適当な誘導プロモーター系の例としては、細菌のlacオペロン、テトラサイクリンオペロン、T7ポリメラーゼ系、並びに真核および原核の転写因子、リプレッサーおよび他の成分を組み合わせたものやキメラ構築物があるが、それらに制限されない。もし、発現されるべきウイルス産物に高い毒性があるときは、2つに分かれた誘導系を使用することが望ましく、ここでインデューサーはウイルスベクター中に保持され、誘導産物が相補的な細胞株のクロマチン内に保持される。テトラサイクリン発現系およびlac発現系のような抑制/誘導発現系もまた使用することができる。
【0043】
トランスフェクションされた細胞のうちの小さな割合に入り込むDNAは、2、3のこのような細胞内で安定に維持されるようになる。1つまたはそれ以上のトランスフェクションされた遺伝子を発現する細胞株の単離は、例えば、抗生物質、薬剤または他の化合物に対する抵抗性を付与する第二の遺伝子(マーカー遺伝子)を同じ細胞に導入することにより達成される。この選抜は、抗生物質、薬剤または他の化合物の存在下では、導入された遺伝子を有しない細胞は死滅するが、他方、導入された遺伝子を含む細胞は生き残るという事実に基づく。そして、生き残った細胞はクローン単離され、個々の細胞株として拡大される。これらの細胞株では、マーカー遺伝子と目的の1またはそれ以上の遺伝子の両方を発現するものが含まれる。細胞の増殖は親細胞株と選抜方法に依存している。細胞のトランスフェクションもまた細胞種に依存している。トランスフェクションに用いられる最も一般的な技術は、リン酸カルシウム沈殿、リポソーム、あるいはDEAEデキストランを介したDNA導入である。
【0044】
ここで具体的に説明されるDNA配列およびプラスミドの多くの修飾および変異が可能である。例えば、遺伝コードの縮重により、コードされたポリペプチドコード配列の変更なしに、ポリペプチドのコード全領域にわたる、また、翻訳終止シグナル内でのヌクレオチドの置換が見込まれる。このような置換可能な配列は、所定の遺伝子の既知のアミノ酸またはDNA配列から演繹することができ、慣用の合成または部位特異的突然変異誘発の手法により構築することができる。合成DNA法は、Itakura ら,Science198,1056(1977)およびCreaら,Proc.Natl.Acad.Sci.,USA75,5765(1978)の方法に実質的に従って行うことができる。部位特異的突然変異誘発の方法は、Maniatisら,Molecular Cloning: A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor,NY(第2版,1989年)に記載されている。従って、本発明は、ここで特に例示されたDNA配列およびプラスミドに決して限定されない。例示されたベクターは、マーカー遺伝子クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)用のもの、および嚢胞性線維症の遺伝子治療用のものであるので、ここで記載された特定のベクターは、CAT遺伝子および嚢胞性線維症膜貫通調節因子(CFTR)遺伝子を含有し且つ発現する。しかしながら、ここで記載されたベクターは、例えば気腫、喘息、成人呼吸窮迫症候群および慢性気管支炎等の他の慢性肺疾患、並びに癌、冠動脈心疾患および遺伝子治療、ワクチン接種などにより好適に治療または予防されるその他の疾患を含むがそれらに限定されない様々な疾患を治療するために容易に改造できる。したがって、いかなる遺伝子もしくはDNA配列も非C群アデノウイルス遺伝子導入ベクター中に挿入することができる。遺伝子もしくはDNA配列の選択は、例えば、遺伝子治療、ワクチン接種などの状況において治療および/または予防効果を達成するものである。
【0045】
当業者であれば、本発明のアデノウイルスベクターを治療または予防、例えば遺伝子治療、ワクチン接種等(例えば、Rosenfeld ら,Science252,431-434(1991);Jaffe ら,Clin.Res.39(2), 302A(1991);Rosenfeld ら,Clin.Res.39(2), 311A(1991);Berkner, BioTechniques6, 616-629(1988))の目的で動物に投与する適当な方法があることが理解できよう。また、ベクターの投与には複数の経路を用いることができるが、ある特定の経路が別の経路に比べてより迅速且つ効果的な反応を可能にするということがわかるだろう。医薬上許容される賦形剤もまた当業者に周知であり、容易に入手可能である。賦形剤の選択は、組成物を投与するのに用いられる特定の方法によって幾分は決定される。したがって、本発明の医薬組成物の好適な製剤は広く多様である。以下の製剤および方法は単なる例示であって何らこれに限定されるものではない。しかしながら、経口、注射およびエアロゾル製剤が好ましい。
【0046】
経口投与に好適な製剤は、(a) 水、食塩水またはオレンジジュースのような希釈液に有効量の化合物を溶解させた液状製剤、(b) 各々、特定量の有効成分を固体や顆粒として含んでいるカプセル剤、(c) 適当な液体での懸濁液剤および(d)好適な乳剤からなる。錠剤には、ラクトース、マンニトール、トウモロコシデンプン、馬鈴薯デンプン、微晶性セルロース、アラビアゴム、ゼラチン、コロイド性シリカ、クロスカルメロースナトリウム、タルク、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸およびその他の賦形剤、着色剤、希釈剤、緩衝剤、給湿剤、防腐剤、芳香剤および薬理学上適合し得る賦形剤を1つまたはそれ以上含めることができる。ロゼンジ剤は有効成分を通常シュクロースやアラビアゴムまたはトラガカントといった香味料に含めることができ、また、ゼラチンやグリセリン、あるいはシュクロースやアラビアゴムのような不活性な基剤に、有効成分を含めている香錠剤や、乳剤、ゲル剤などは有効成分に加えてこの分野で公知の賦形剤が含められる。
【0047】
本発明のベクターは、単独であるいは他の適当な成分と組み合わせて、吸入によって投与されるエアロゾル製剤に製せられる。これらのエアロゾル製剤は、ジクロロジフロロメタン、プロパン、窒素などのような圧縮された許容される推進薬内に入れることができる。それらはまた、ネブライザーやアトマイザーのような非圧縮性製剤用医薬品として製剤化してもよい。
【0048】
非経口的な投与に好適な製剤としては、水性および非水性の等張な無菌の注射液剤があり、これには抗酸化剤、緩衝液、静菌剤および予定された被投与体の血液と製剤とを等張にするための溶質が含まれていてもよく、また、水性および非水性の無菌の懸濁液剤があり、これには懸濁化剤、可溶化剤、肥厚剤、安定化剤および防腐剤が含まれていてもよい。製剤はアンプルやバイアルのような単位用量あるいは多用量で容器に封入され、フリーズドライ(凍結乾燥)され、注射するためには使用直前に例えば水のような注射用の無菌の液体の希釈液を添加するだけでよい状態で保存することができる。即席の注射液剤や懸濁液剤は前述の種類の無菌の粉末、顆粒および錠剤から調製される。
【0049】
さらに、本発明において用いられるベクターは、乳化基剤や水溶性基剤のような種々の基剤と混合することにより坐剤に製することができる。膣内投与に好適な製剤には、ペッサリー、タンポン、クリーム、ゲル、パスタ、泡またはスプレー形態が挙げられ、それらには有効成分に加え、当該分野で適当であることが知られている担体が含められる。
【0050】
本発明において、動物、特にヒトに投与される用量は、目的の遺伝子または他の配列、用いた組成、投与方法並びに治療すべき特定の部位および生物によって変化する。用量は望ましい応答、例えば治療または予防応答を、望ましい時間枠内でもたらすに十分であるべきである。
【0051】
本発明の非C群アデノウイルス遺伝子導入ベクターはまた、インビトロでの利用性がある。例えば、種々の群のアデノウイルスについてアデノウイルスの遺伝子機能および構築を研究するのに使用できる。あるいは、本発明のベクターを用いて好適な標的細胞における外来核酸の発現を研究することができる。当業者であれば、本発明のアデノウイルスベクターでトランスフェクションされ得る、および/またはアデノウイルス粒子に感染し得る細胞であって、結果としてそれによって挿入されたアデノウイルスDNA相補成分を発現する細胞を選択することによって、好適な標的細胞を同定することができる。好ましくは、好適な標的細胞はアデノウイルスの接着および細胞内への侵入のためのレセプターを有するものが選択される。このような細胞はすべての哺乳類からはじめに単離されたものを含むが、それらに限定されない。いったん好適な細胞を選択すれば、該標的細胞を、外来の核酸を含有する本発明の組換えアデノウイルスベクターまたはアデノウイルス粒子に接触させることにより、それぞれトランスフェクションまたは感染させる。発現、毒性並びに標的細胞における外来核酸の挿入および活性に関連するその他のパラメーターは、当該分野でよく知られている通常の方法を用いて測定する。その際、研究者らは、種々の生物から外植され組織培養で研究されている種々の細胞種における本発明のベクターによって導入された外来核酸の種々の配列の発現の効能や効果と同様に、アデノウイルス感染に関する現象論について学び、解明することができる。
【0052】
さらに、遺伝子治療によって好適に治療される疾患を有する患者から外植あるいは除去された細胞が、本発明において有用にインビトロで操作される。例えば、インビトロで培養されたそのような個体由来の細胞を本発明のアデノウイルスベクターと、トランスフェクションするのに好適な条件下で接触させるが、その条件は当業者であれば容易に決定できるものであり、該ベクターは好適な外来核酸を含む。そのような接触は好適には培養細胞へのベクターのトランスフェクションをもたらし、トランスフェクションされた細胞は適当なマーカーおよび選択的な培養条件によって選択される。その際、標準的な方法を用いて細胞の生存性、すなわち毒性を測定し、目的のベクターの外来核酸の遺伝子産物の存在を調べ、すなわち発現を測定し、個々の細胞について外来核酸を含む目的のベクターとの適合性、その発現およびその毒性について調べる。それによって、そのようにして調べたベクター/外来核酸系を用いて個体の治療の妥当性や効能についての情報が得られる。そのような外植またはトランスフェクションされた細胞は、用いた遺伝子治療の型のあり得る効能/毒性を調べるのに役立つのに加えて、個体内のインビボの位置に戻すこともできる。そのような個体に戻される細胞は、インビトロでのトランスフェクション以外は変化も修飾もせずに戻すか、あるいは個体体内の他の組織もしくは細胞と隔てるマトリックスで包むかもしくはその中に埋め込んで戻すことができる。そのようなマトリックスは、コラーゲンやセルロースなどのいずれの生体適合材料であってもよい。もちろん、それとは別に、あるいはそれに加えて、インビトロの試験でいったん陽性の反応を観察したら、上に詳述した投与方法によって生体内のそのままの位置でトランスフェクションを実行することもできる。
【0053】
以下の実施例で本発明をさらに説明するが、もちろん、それらは本発明の範囲を決して限定するものと解釈すべきではない。本実施例で言及される酵素類は、特に指定して示さない限りBethesda Research Laboratories(BRL),Gaithersburg,MD 20877,New England Biolabs Inc.(NEB),Beverly,MA 01915 またはBoehringer Mannheim Biochemicals(BMB),7941 Castleway Drive,Indianapolis,IN 46250より入手可能であり、製造元の推奨に実質的に従って用いる。ここで用いる技術の多くは当業者によく知られたものである。分子生物学的技術は、Sambrookら,Molecular Cloning: A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor,NY(第2版,1989)およびCurrent Protocols in Molecular Biology(Ausubel ら編(1987))のような好適な実験マニュアルに詳細に記載されている。当業者であれば、以下に示した種々の方法をそれに代わる別の方法で置き換えられることを理解するだろう。
【実施例】
【0054】
実施例1
本実施例では、B群のAd7aウイルスのアデノウイルスDNAからE1A領域を欠失させることによる、ウイルスの大きなフラグメントの作製について説明する。
【0055】
Ad7aウイルスを用いて5%馬血清含有改変イーグル培地中のHEK−293細胞に感染多重度100で接種し、Falck-Pedersen,in Cell Biology: A Laboratory Manual(Spector ら編,Cold Spring Harbor Laboratory,New York,1994)に記載される方法を用いて、回収したAd7aウイルスからDNAを単離した。それからAd7a DNAをDijkema ら,Gene12,287(1980)にしたがってAatII で制限エンドヌクレアーゼ切断することにより、1.483kbの左手の小さなフラグメント(図1Aのフラグメント1)、ゲノムの中央に位置するおよそ30kbの大きなフラグメント(図1Aのフラグメント2)および右手の5kbの二番目に大きなフラグメント(図1Aのフラグメント3)を生成した。小さなフラグメントには複製起点およびパッケージング配列、並びにDNA複製に必要な初期E1A領域が含まれている。大きなフラグメントには他の初期領域および新しいウイルス粒子の産生に必要な後期遺伝子が含まれている。
【0056】
大きなフラグメント2および3をショ糖密度勾配遠心により一緒に精製し、小さなフラグメントから別個に単離した。10%から20%までの連続ショ糖勾配を40%ショ糖のクッションとともにAatII 消化したAd7a DNAに重層した。遠心した後、グラジエントを分画した。精製された大きなフラグメントを含むフラクションをアガロースゲル電気泳動により測定した。エチジウムブロマイド染色したゲルの写真を図1Bに示す。フラクション1〜10には検出可能な小フラグメントが含まれていない。
【0057】
フラクション1〜5、6〜10および11〜19をプールし、沈殿およびそれに続くより少量での再構成により濃縮した。再度ゲル電気泳動を用いて各プールフラクション中のDNAフラグメントのサイズを分析した。その結果を図1Cに示す。大きなフラグメント(2および3)が存在し、E1A領域を含むことがわかっている小さなフラグメント(1)が存在しなかったので、プール2(フラクション6〜10)をAd7a複製欠損ウイルス調製の次の工程に使用した。
【0058】
実施例2
本実施例では、図2に示されるプラスミドpAd7aCMV-CATgDの作製について述べる。プラスミドpAd7aCMV-CATgDを3つの連続する工程におけるダイレクショナルクローニングにより調製した。
【0059】
第一に、オリゴヌクレオチドプライマーとポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を用いて、Ad7aゲノムの左端の475塩基対まで(Ad7aゲノム上の0および1.3マップ単位(mu)間に位置する)を増幅、単離した。使用したプライマーは、
【0060】
【化1】

【0061】
であった。増幅されたDNAは不可欠な起点(ori)とパッケージング配列(pkg)を含んでいた。1.3と7.7muの間に位置する初期領域E1AおよびE1Bの一部がそれによって欠失した。それからpBSベクター(Stratagene Cloning Systems,La Jolla,CA)をSacI-NotI で開環し、そこにPCRフラグメントSacI-ori/pkg-NotI を挿入した。
第二に、標準的な方法を用いて、該pBSベクターをNotI-SalI で開環し、サイトメガロウイルスプロモーター(CMV)をoriとpkgエレメントに連結し、その後に細菌のクロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ配列(CAT)およびマウスのB−majグロビンポリ(A)部位を続けた。
【0062】
第三に、Ad7aゲノムとの重複組換えのための2.8〜4.0kbの領域を、以下のプライマーを用いたPCRにより作製した。
【0063】
【化2】

【0064】
この重複組換えフラグメントは、Ad7aゲノム上の7.7〜11.1muに位置している。次いで該pBSベクターをSalI-KpnI で開環し、そこにPCRフラグメントSalI-Ad7重複DNA 2.8-4.0 kb-KpnI を挿入して、すなわち、前記DNA構築物のポリ(A)部位の後に連結して、その結果pAd7aCMV-CATgDプラスミドが製せられた。
【0065】
実施例3
本実施例では、組換えAd7aアデノウイルスの作製について述べ、該組換えAd7aアデノウイルスがHEK−293細胞内で複製され、該細胞によって相補され得ることを示す。
【0066】
実施例1に従って調製されたウイルスの大きなフラグメントと実施例2に従って調製されたプラスミドpAd7aCMV-CATgDとを種々のマイクログラム比で、リン酸カルシウム沈殿によりHEK−293細胞の単層(60mmディッシュあたり106細胞)にトランスフェクションした。1週間後、細胞を回収し、ウイルス溶解物を凍結融解サイクルを繰り返して作製した。得られた溶解物の10%(0.5ml)を用いてHEK−293細胞の新鮮な単層を感染させた。24時間後、これらの細胞を回収して溶解物を調製した。Gormanら,Mol.Cell Biol.2,1044-1051(1982)およびGormanら,PNAS79,6777-6781(1982)に開示された方法を用いて、該溶解物のリポーター遺伝子活性、すなわちクロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)活性を調べた。
【0067】
環状および線状化プラスミドを用いたトランスフェクションの結果を図3に示すが、これはドットブロットであり、CAT濃度が高いほど発色がより強い。大きなウイルスフラグメント2.4〜4.8μgと環状プラスミド5.0μgの組み合わせが得られた溶解物の中で最高のCAT活性を産生した(レーン2および3を参照)。線状化プラスミドについては、大きなフラグメント2.4μgとプラスミド2.5μg(レーン7)の組み合わせが最高の結果を出した。陽性および陰性対照はそれぞれレーン10および11に位置する。
【0068】
実施例4
本実施例では、組換えAd7aアデノウイルスの生成および該組換えAd7aアデノウイルスがHEK−293細胞内で複製され、該細胞によって相補され得ることをさらに確認する。特に、本実施例では、CAT遺伝子発現に関する二次ウイルス溶解物の試験について述べる。
【0069】
実施例3に従って作製された一次溶解物のアリコート1.0mlを用いて60mmディッシュのHEK−293細胞を感染させた。1週間インキュベーションした後細胞を回収し、実施例3のようにして溶解物を作製した。次いで各溶解物の10%を用いてHEK−293細胞の新鮮な単層を感染させ、それから得られた溶解物のCAT活性を試験した。
【0070】
その結果を図4Aに示す。溶解物番号は、図3の対応する番号のそれと同じトランスフェクションのパラメーターを示している。この結果から、大きなフラグメント4.8μgとほぼ等量の環状プラスミド(つまり5μg)を組み合わせたトランスフェクションパラメーターが二次溶解物において強いCAT活性を生じることが分かるが、これは最初に回収された組換えウイルス粒子の子孫のウイルス活性の結果である。
【0071】
選択した細胞溶解物(2および3)を、HEK−293細胞に感染させ、改変Hirt法(Falck-Pedersen,上述)でウイルスDNAを回収することによりさらに特性を解析した。組換えDNAの性質を特徴づけるために、図4Bに示すように、この手法で精製されたウイルスDNAを制限エンドヌクレアーゼAatII で消化した。対照DNAは野生型Ad7aおよび野生型Ad5アデノウイルスから取った。診断の目安となるバンドを矢印で強調してある。レーン2および3は各々、対照のAd7およびAd5のレーン中に表れたAatII 制限フラグメントに比べてより短い同一のDNA AatII 制限フラグメントを有する。したがって、組換えAd7aで処理した溶解物のCAT活性は、予想通り遺伝的変化と相関がある。
【0072】
実施例5
本実施例では、C群アデノウイルスに対する非C群アデノウイルスの類似性について評価する。
【0073】
種々のアデノウイルスの群間での類似点および相違点を、Ad2(C群)、Ad5(C群)、Ad7(B群)、Ad12(A群)およびAd40(F群)アデノウイルスのE1AおよびE1B遺伝子産物間のアミノ酸の類似性および同一性を比較することによって調べた。同一群内のウイルス、特にC群中のAd2およびAd5間に関しては、Ad2とAd5のE1AおよびE1B遺伝子産物間で99%の類似性と98%の同一性があった。対照的に、異なる群のウイルスを比較してみると、類似性が大いに減少し、同一性も減少していた。例えば、Ad7、Ad12およびAd40のE1AおよびE1B遺伝子産物をAd2およびAd5のE1AおよびE1B遺伝子産物と比較すると、63〜75%の類似性と40〜53%の同一性があった。
【0074】
だが、重要なことは、例えば、非C群およびC群アデノウイルスのE1AおよびE1B遺伝子産物間のような、異なる群のウイルスの中で特定のドメインが保存されているのがわかったことである。したがって、特定の非C群ウイルス間の相違はC群アデノウイルスに比べると類似していることがわかり、例えば、B群アデノウイルスにある能力があれば、それは他の非C群アデノウイルスも同じ能力を有するということを示唆するものである。特に、(実施例3に示したように)E1欠損B群アデノウイルス、例えばAd7に、HEK−293細胞によって相補され得る能力があるということは、他の非C群アデノウイルスにHEK−293細胞によって相補され得る能力があるという証拠となる。
【0075】
ここで述べられた刊行物および特許を含めた全ての引例は、ここに言及したことで、引用により組み込まれるべく、個々に、詳細に示され、ここにその全てが明示されたと同程度に明細書中に組み込まれるものである。
【0076】
本発明は好適な態様を強調して記載したものであるが、好適な態様は変更され得るものであることは当業者には明白である。同様に、ここで詳細に記載された以外の方法で本発明を実施することもできる。したがって、本発明は添付の請求の範囲の精神および範囲内に包含される全ての変更を含むものである。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】図1Aは、AatII 制限エンドヌクレアーゼ部位の位置が表示されたAd7aゲノムの物理的地図である。図1Bは、Ad7a DNAのAatII 制限断片を分離するのに用いたショ糖勾配の画分の染色ゲル電気泳動アッセイの写真である。図1Cは、同じショ糖勾配で分離された制限断片のプールされ濃縮された画分の染色ゲル電気泳動アッセイの第二写真である。
【図2】図2は、pAd7aCMV-CATgDプラスミドの模式図である。
【図3】図3は、ウイルスの大型断片とプラスミドDNAの組み合わせを変えながら用いて行ったトランスフェクションの後の、HEK−293細胞溶解物のアリコートにおけるクロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ活性測定の写真である。
【図4】図4Aは、感染後のHEK−293細胞の二次ウイルス溶解物のアリコートにおけるクロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ活性測定の写真である。図4Bは、ゲル分離され染色された、同じ溶解物から採ったDNAのAatII 制限エンドヌクレアーゼ断片の写真である。
【0078】
配列表
(1)一般情報:
(i)出願人:コーネル リサーチ ファウンデーション、インコーポレイティッド
(ii)発明の名称:非C群アデノウイルスベクター
(iii)配列の数:4
(iv)コンピューターリーダブル形式:
(A)媒体の種類:フロッピーディスク
(B)コンピューター:IBM PC互換機
(C)オペレーティングシステム:PC−DOS/MS−DOS
(D)ソフトウェア:パテントイン リリース #1.0, バージョン
#1.25
(v)出願の現在のデータ:
(A)出願番号:WO
(B)出願日:1996年9月24日
(C)分類:
(vi)先の出願のデータ:
(A)出願番号:US 537402
(B)出願日:1995年10月2日
(C)分類:

(2)配列番号1に関する情報
(i)配列の特徴:
(A)配列の長さ:30塩基対
(B)配列の型:核酸
(C)鎖の数:一本鎖
(D)トポロジー:直鎖状
(ii)配列の種類:DNA(ゲノミック)


(xi)配列:配列番号1:
GAGCTCACCG GTCTCTCTAT ATAATATACC 30
(2)配列番号2に関する情報
(i)配列の特徴:
(A)配列の長さ:35塩基対
(B)配列の型:核酸
(C)鎖の数:一本鎖
(D)トポロジー:直鎖状
(ii)配列の種類:DNA(ゲノミック)


(xi)配列:配列番号2:
TCTAGAGCGG CCGCAGCGAT CAGCTGACAC CTACG 35
(2)配列番号3に関する情報
(i)配列の特徴:
(A)配列の長さ:29塩基対
(B)配列の型:核酸
(C)鎖の数:一本鎖
(D)トポロジー:直鎖状
(ii)配列の種類:DNA(ゲノミック)


(xi)配列:配列番号3:
GCTAGCGTCG ACGAAGAAAT GCATGTTTG 29
(2)配列番号4に関する情報
(i)配列の特徴:
(A)配列の長さ:27塩基対
(B)配列の型:核酸
(C)鎖の数:一本鎖
(D)トポロジー:直鎖状
(ii)配列の種類:DNA(ゲノミック)


(xi)配列:配列番号4:
GGGCCCGGTA CCCAATGATC GAAACCG 27

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アデノウイルスから単離されるか、あるいはアデノウイルスに含まれるDNAセグメントと実質的に相同なアデノウイルスDNAセグメントを含有するアデノウイルス遺伝子導入ベクター(ここで該アデノウイルスはA,B,D,EまたはF群アデノウイルスであり、該ベクターは複製欠損である)。
【請求項2】
該アデノウイルスがB群アデノウイルスである請求の範囲1のベクター。
【請求項3】
該アデノウイルスがAd7アデノウイルスである請求の範囲2のベクター。
【請求項4】
該ベクターが、哺乳動物において治療または予防剤を発現し得る外来の核酸をさらに含む請求の範囲1のベクター。
【請求項5】
該ベクターが、少なくともアデノウイルスゲノムのE1A領域を欠損したものである請求の範囲1のベクター。
【請求項6】
該ベクターがHEK−293細胞株内で複製し得るものである請求の範囲5のベクター。
【請求項7】
該ベクターが、哺乳動物において治療または予防剤を発現し得る外来の核酸をさらに含む請求の範囲5のベクター。
【請求項8】
該ベクターが、少なくともアデノウイルスゲノムの別の領域をさらに欠損したものである請求の範囲5のベクター。
【請求項9】
該ベクターが、哺乳動物において治療または予防剤を発現し得る外来の核酸をさらに含む請求の範囲8のベクター。
【請求項10】
該ベクターが、少なくともウイルス複製に必要なアデノウイルスゲノムの別の領域をさらに欠損したものである請求の範囲5のベクター。
【請求項11】
該ベクターが、哺乳動物において治療または予防剤を発現し得る外来の核酸をさらに含む請求の範囲10のベクター。
【請求項12】
該ベクターが、アデノウイルスゲノムのE1,E2,E3およびE4領域からなる群より選択される領域をさらに欠損したものである請求の範囲5のベクター。
【請求項13】
該ベクターが、アデノウイルスゲノムの後期領域からなる群より選択される領域をさらに欠損したものである請求の範囲5のベクター。
【請求項14】
遺伝子治療を必要とするヒトに、治療上有効な量の請求の範囲4のベクターを投与することを含む遺伝子治療方法。
【請求項15】
遺伝子治療を必要とするヒトに、治療上有効な量の請求の範囲7のベクターを投与することを含む遺伝子治療方法。
【請求項16】
遺伝子治療を必要とするヒトに、治療上有効な量の請求の範囲9のベクターを投与することを含む遺伝子治療方法。
【請求項17】
遺伝子治療を必要とするヒトに、治療上有効な量の請求の範囲11のベクターを投与することを含む遺伝子治療方法。
【請求項18】
遺伝子治療を必要とするヒトの細胞における、外来核酸を含む請求の範囲4のベクターの発現または毒性を試験する方法であって、(a) 該ヒトから標的細胞のアリコートを取り出して培養し、(b) 該細胞に該ベクターを接触させ、(c)該外来核酸の発現と該培養標的細胞の生存性を測定することを含む方法。
【請求項19】
標的細胞へのトランスフェクション後に、外来核酸を含むベクターの外来核酸発現を試験する方法であって、(a) 標的細胞を選択し、(b) 該標的細胞に外来核酸を含む請求の範囲4のベクターを接触させ、(c) 該標的細胞内での該外来核酸の発現を測定する方法。

【図2】
image rotate

【図1】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2009−28040(P2009−28040A)
【公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2008−179643(P2008−179643)
【出願日】平成20年7月9日(2008.7.9)
【分割の表示】特願平9−514303の分割
【原出願日】平成8年9月24日(1996.9.24)
【出願人】(500201266)コーネル リサーチ ファウンデーション、インコーポレイティッド (1)
【Fターム(参考)】