説明

面発光体並びにこれを組み込んで成る内照式看板

【課題】 LED素子を内蔵した面発光体を、看板だけでなく種々の用途に使用する際の実用的な機能、例えば防水性の向上や見栄え向上あるいは施工性向上等を追求した新規な面発光体と、これを組み込だ内照式看板の開発を課題とする。
【解決手段】 本発明の面発光体1は、電気配線12を有した屈曲可能な基板11と、この基板11上にほぼ規則的に配置される複数のLED素子13と、LED素子13の表面に張設されるトップフィルム14とを具えて成り、このトップフィルム14を基板11上に張設するにあたっては、トップフィルム14をLED素子13の凹凸形状に充分密着させて貼着するようにしたことを特徴とする。具体的にはLED素子13とトップフィルム14との間を真空にして、加熱したトップフィルム14をLED素子13の表面に圧着する真空圧着手法が挙げられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のLED素子を屈曲自在な基板上に取り付けて成る面発光体に関するものであって、特に実使用に直結した機能を格段に向上させ、実製品としての実用性を極めて向上させた新規な面発光体と、これを組み込んで成る内照式看板に係るものである。
【背景技術】
【0002】
ビルの壁面などを利用して設けられる屋外看板(内照式看板)としては、従来、蛍光灯を適用したものが主流となっていた。しかしながら、蛍光灯を適用した看板は、大きな設置スペースを要し、また内部に蛍光灯を収めるだけの大きさ(厚さ)が必要となり、また消費電力も過大であるという欠点があった。このため、このような内照式看板は、消費電力の小さいLED素子を使用したものに徐々に移行しつつある(例えば特許文献1参照)。もちろん、このような内照式看板が蛍光灯タイプからLEDタイプに移行しつつあるのは、上述した省エネルギーという観点だけでなく、青色LEDの実用化による多彩な光色の表現が可能になったことや、LED素子の単価が比較的安価になってきたことも大きな要因と考えられる。
【0003】
ところで、上記特許文献1は、図8に示すように、基板11′上に設けられたLED素子13′の上から、透明のプラスチックフィルム(トップフィルム14′)を張設するものであるが、実際の使用においては、以下のような点において、更なる改良が求められていた。
まず、上記特許文献1の面発光体1′では、図8に併せて示すように、トップフィルム14′を張設する際、LED素子13′を取り付けた基板11′の上に、ホットメルト(接着剤)を付着させたトップフィルム14′(一例として韓国のGMP提供の塩ビホットメルトラミネートフィルム(75ミクロン))を重ね、これらを一対の加圧ローラRで挟み込み、トップフィルム14′を貼る手法であった(以下、これを「ホットラミネータによる加圧施工」と称する)。
【0004】
しかし、LED素子13′は、表面に凹凸を有するため、上記ホットラミネータによる加圧施工では、LED素子13′とトップフィルム14′との間にエアが入り込み(空気ダマリarの発生)、これが外部からの熱によって膨張した場合には、LED素子13′の脱落や、不点灯という事態を招くおそれがあった。
また、ホットラミネータによる加圧施工では、加圧ローラRでトップフィルム14′をLED素子13′に押し付ける際に、LED素子13′の角(ケーシングの角)によってトップフィルム14′を裂いてしまい、防水性を損ねることも懸念された。
【0005】
また、当然、空気ダマリarのエア量は、全てのLED素子13′において均一ではないため、この状態でLED素子13′を点灯させた場合には、LED素子13′の光も均一にならず(LED素子13′の光は、空気ダマリarによって乱反射するが、エアの量が一定ではないため、乱反射の状態も揃わない)、視た人にアンバランス感や違和感を与えることがあった。つまりLED素子13′とトップフィルム14′との間の空気ダマリarは、看板としての見栄えやビジュアル効果という点で必ずしも好ましくないものであり、特に、LED素子13′(基板11′)を筐体に収めず、そのまま照明として使用する場合には、人がLED素子13′からの光を直視することになるため、上記空気ダマリarによる違和感は、より一層際立つものとなっていた。
【0006】
更に、上記特許文献1において各LED素子13′に通電する電気配線12′は、図9に示すように、まず幾つかのLED素子13′が直列状に並べられて一つの回路を形成しており、これを複数、並列状に配置して全回路を構成していた。このため、例えば回路中央部に工事用の孔(欠損部分FC)を開けた場合には、点灯しないLED素子13′が出現してしまい、施工性が低い点においても特許文献1の面発光体1′は改良の余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−33662号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、このような背景を認識してなされたものであって、LED素子を内蔵した面発光体を、看板だけでなく種々の用途に使用する際の実用的な機能、例えば防水性の向上や、宣伝効果に直結する見栄え向上、あるいは内装工事等における施工性向上等を追求した新規な面発光体と、これを組み込んで成る内照式看板の開発を試みたものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち請求項1記載の面発光体は、
電気配線を有した屈曲可能な基板と、この基板上にほぼ規則的に配置される複数のLED素子と、LED素子の表面に張設されるトップフィルムとを具えて成る面発光体において、前記トップフィルムを基板上に張設するにあたっては、トップフィルムをLED素子の凹凸形状に充分密着させて貼着するようにしたことを特徴として成るものである。
【0010】
また請求項2記載の面発光体は、前記請求項1記載の要件に加え、
前記トップフィルムをLED素子の凹凸形状に充分密着させて張設するにあたっては、LED素子とトップフィルムとの間を真空にして、加熱したトップフィルムをLED素子の表面に圧着するようにしたことを特徴として成るものである。
【0011】
また請求項3記載の面発光体は、前記請求項1または2記載の要件に加え、
前記トップフィルムには、強粘着高伸縮塩ビフィルムが適用されることを特徴として成るものである。
【0012】
また請求項4記載の面発光体は、前記請求項1、2または3記載の要件に加え、
前記トップフィルムには、透明フィルムだけでなく、曇りガラスシート、スリガラスシート、内装用の壁紙、印刷物などの透過性の低い素材も適用されることを特徴として成るものである。
【0013】
また請求項5記載の内照式看板は、
看板表面と、側板と、背板とを具えて成る看板ケース内に、面発光体を設置して成る看板において、この面発光体は、前記請求項1、2、3または4記載の面発光体を適用して成ることを特徴として成るものである。
【発明の効果】
【0014】
これら各請求項記載の発明の構成を手段として前記課題の解決が図られる。
すなわち請求項1記載の発明によれば、トップフィルムがLED素子の凹凸形状に充分密着して貼られるため、LED素子とトップフィルムとの間にエアが入り込むこと(空気ダマリ)を防止できる。このため、LED素子の固定力が強化でき、外部からの熱の影響も受けにくい。すなわち、空気ダマリができた場合には、外部からの熱によって空気が膨張し、LED素子の微動(いわゆるガタ)を招きかねない。その場合(ガタが起きた場合)には、LED素子の固定力が弱化し、LED素子が基板から脱落してしまうことも考えられるが、本発明ではその心配がない。また、空気ダマリがないため、エアによる不均一な乱反射を防止でき、面発光体の見栄えも向上させることができる。
【0015】
また請求項2記載の発明によれば、LED素子とトップフィルムとの間を真空にする、いわゆる真空圧着によって、加熱して伸び率を高めたトップフィルムを張設するため、LED素子の凹凸形状に対し、より確実に密着させてトップフィルムを張設することができる。
【0016】
また請求項3記載の発明によれば、トップフィルムに強粘着高伸縮塩ビフィルムが適用されるため、上記真空圧着手法と相まって、トップフィルムをLED素子の凹凸形状に対し、より確実に密着させて張設することができ、面発光体としての防水性を高め、LED素子自体の固定力も一層強化させ得る。
なお、強粘着高伸縮塩ビフィルム(一例として広島化成製の100ミクロン)は、素材中にピンホールがないため、このことが防水性向上に大きく寄与しているものと考えられる。すなわち、該フィルムにはピンホールがないため、張設後に外表面からLED素子側への水の侵入(透過)を高いレベルで防止でき、これにより防水性が格段に向上するものと考えられる。因みに、本出願人が行った試験では、該フィルムを貼った面発光体を水没させた後、4カ月経っても浸水が見られず、高い防水性を示したことが確認できている。また、このため面発光体をケース(筐体)等に収容せず、そのままの状態(露出状態)で、屋外や水が掛かる場所(例えば浴室の壁面等)等に設置することができ、極めて新規且つ幅広い用途を可能ならしめ、面発光体の豊富なバリエーション展開を可能とする。
【0017】
また請求項4記載の発明によれば、トップフィルムとして、一般的な透明フィルムではなく、曇りガラスシート等の透過性の低い素材を適用するため、例えば面発光体を住宅用の内装材などの新たな用途に使用でき、面発光体として豊富なバリエーション展開を可能とする。例えば、トップフィルムとして内装用の壁紙を張った場合には、昼間などの非点灯時にあっては、LED素子がほとんど目立たず、トップフィルムがあたかもLED素子を隠蔽するような作用効果を担う(一種のカムフラージュ効果)が、夜間などにLED素子を点灯させた場合には、トップフィルムとしての壁紙を通してLED素子がぼんやり点灯するため、一種の間接照明のような和やかな光を演出できる(一種のヒーリング効果)。このため、面発光体を単に看板照明として使用するだけでなく、極めて意外性を持った内装用資材(壁紙など)として使用できる。
もちろん、面発光体を内装用資材として壁面に設ける形態は、壁面に照明機能を持たせる思想、言い換えれば照明を極めて薄く形成する薄型照明という新たな技術思想にもつながるものである。このため、従来、蛍光灯などを壁面に嵌め込む施工において、蛍光灯を埋め込むための壁厚を要していたが、このような厚みは不要となり、また、蛍光灯を取り付けるために要していた照明ボックス等も不要となる。更には、蛍光灯を取り付けるために壁に孔を開けるなどの細工(工事の手間)そのものも不要となり、極めて容易に施工が行える。もちろん照明を薄型なものとする思想(着想)は、天井面に取り付けられた従来の照明(天井照明)においても適用できる思想である。
また、曇りガラスシート、スリガラスシート等は、透過性が低いものの、それほど光(日光)を遮らないため、これらを適用した面発光体を、例えば通常の窓ガラス、明かり取り用の天窓、スケルトン調の床などに取り付け、昼間の採光と、夜間の電飾とを両立させることもできる。
なお、請求項4に記載した「印刷物」としては、予めトップフィルムに適宜の模様などが印刷されたフィルムはもちろん、真空圧着後にトップフィルムの表面に適宜の印刷を施す場合も含むものとする。
【0018】
また請求項5記載の発明によれば、請求項1〜4記載の面発光体を組み込んで内照式看板を形成するため、見た目に綺麗で、且つ薄い内照式看板(薄型電飾)を製作することができる。すなわちLED素子のドットが見えず、明るさも均一で綺麗な薄型電飾が得られる。なお、薄型電飾であれば、例えば歩行の邪魔にならず、子供の頭に当たることもないため安全性が高く、どこにでも設置することができるものである。また、面発光体自体の防水性が高いため、例えば看板を設置するビル壁面の形状等によって、看板ケースの防水性がとりづらい場合であっても、防水性の高い薄型電飾を設置することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の面発光体を組み込んだ内照式看板を示す斜視図(a)、並びに内照式看板を矢視A方向から視た拡大断面図(b)である。
【図2】面発光体を構成する一つのユニット(単位)を示す正面図(a)並びに骨格的な側面断面図(b)である。
【図3】トップフィルムを基板に対して密着状態に張設する際の真空圧着手法を段階的に示す説明図である。
【図4】欠損部分があっても、欠損部分を迂回して残ったLED素子に通電させる網目状回路の一例を示す説明図である。
【図5】網目状回路の他の実施例を示す説明図である。
【図6】網目状回路の更に他の実施例を示す説明図である。
【図7】本発明の面発光体を、グリッド天井システムを構成するパネルとして適用した実施例を示す説明図である。
【図8】従来の面発光体において、トップフィルムの張設手法(ホットラミネータによる加圧施工)を示す説明図である。
【図9】従来の面発光体において、その一部をカットした場合に、残ったLED素子の点灯状況を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明を実施するための最良の形態は、以下の実施例に述べるものをその一つとするとともに、更にその技術思想内において改良し得る種々の手法を含むものである。
なお説明にあたっては、面発光体1の一般的な構成についてまず説明し、その後、本発明の特徴的事項について説明するものであり、次いで、この面発光体1を組み込んで成る内照式看板SBや面発光体1の他の用途について説明する。
【実施例】
【0021】
本発明の面発光体1は、一例として図1、2に示すように、電気配線12を有した屈曲可能な基板11と、この基板11上にほぼ規則的に配置される複数のLED素子13と、LED素子13を被覆するように基板11の上から張設されるトップフィルム14とを具えて成るものである。以下、各構成部材について説明する。
【0022】
まず基板11について説明する。基板11は、LED素子13が規則的に取り付けられる(マウントされる)ベース部材となるものであり、フィルム状またはシート状を成し、絶縁性及び屈曲性を有する種々の素材が適用され得る。一般には、取り扱いの利便性や加工のし易さ等の点から、プラスチック(合成樹脂)が適用され、特に耐熱性、耐光性、機械的強度等に優れたポリエチレンテレフタレート、ポリエステル、ポリイミド、塩化ビニル、エポキシ樹脂等の適用が望ましく、特に本実施例では白色PETフィルムが適用される。
【0023】
また、この基板11上には、LED素子13に通電させ、これを点灯・点滅させるための電気配線12が形成され、特に本実施例では基板11(面発光体1)に工事用の孔などを開けて、回路の途中を部分的に切断しても、残った全てのLED素子13を点灯・点滅させる配線パターンを採るものであり、これについては後述する。
そして、基板11上に電気配線12を形成するにあたっては、例えばフィルムまたはシート状部材の一方の面に、予め設定された適宜の配線パターンをプリントしておき(これをプリント配線と称し、電気配線と同じ符号12を付す)、このプリント配線12を基板11に重ね合わせるように貼着する等して、所望の電気配線12を形成する。より具体的には、例えばシート状部材に導電性銀ペーストをスクリーン印刷して、所望のプリント配線12を得るものであり、これを基板12に接合して基板11上に電気配線12を形成するものである。もちろん、基板11上に電気配線12を形成するには、このような印刷(プリント)手法のみならず、蒸着やエッチングなど種々の方法が採り得る。
【0024】
次に、光源となるLED素子13について説明する。LED素子13は、このような基板11に対して複数、規則的に配設されるものであり、特にここでは、図2に示すように、縦・横ともに一定の間隔で複数のLED素子13が配置された基板11を1ユニットとし、このユニットを複数連結(接続)したり、カットしたりして実際の使用に供するものである。ここで複数のLED素子13を縦・横方向ともに一定の間隔で配置するのは、ユニットとしての汎用性(施工性)を高めるためであり、またユニットを看板に使用した場合に、LED素子13のドットや、光のムラを生じさせないためである。
なお、面発光体1をユニット化することによって、配線や取り付けを簡便にする効果も挙げられる。
【0025】
1ユニットの面発光体1としては、例えば基板11を450mm×450mmの正方形の大きさとし、ここに12個×12個(計144個)のLED素子13を均等にマウントするものである(一例として1ユニット当たり約280g)。因みに1ユニットの面発光体1をカット等して看板等に用いる場合でも、LED素子13は少なくとも24個程度(例えば最低2列)用いることが望ましい。なお、1ユニットの面発光体1を列状(例えば2列、3列等)にカットして用いる場合、カットされた基板11の外縁から、最も外縁寄りのLED素子13までの距離は、LED素子13どうしの間隔の半分程度にすることが見栄え等の点から好ましい。
もちろん面発光体1としては、必ずしも上記450×450(12列)のユニットを適宜カットして用いるだけでなく、予め幾つかのユニットでパターン化しておく製品展開が可能である。例えば、本出願人が標準的なパターンとして想定しているものとして、上記450×450(12列)以外に、450×225(6列)、450×187.5(5列)、450×150(4列)、450×112.5(3列)、450×75(2列)等がある。
【0026】
また、LED素子13としては、一例として日亜製のNSSW100Cが適用され、発光角度(いわゆるビュー角)としては約60度〜約120度程度である。またLED素子13の形状(ケーシング形状)としては、平面丸型または角形が好ましい。なお、上述した実施例において、1ユニットの面発光体1は、LED素子13の縦・横の間隔が、概ね37.5mm程度になるが(450mm÷12)、この間隔は例えば10mm〜60mmの範囲で適宜変更し得るものである。更に、電気配線12を形成した基板11上に、LED素子13をマウントするにあたっては、ハンダ付けや接着剤等による固定手法(接合手法)が採用できる。
因みに、LED素子13は、同じ色でも製造ロットによって発色の違いが多少生じ得るため、同一の面発光体1に使用する複数のLED素子13には、同一ロットのものを使用することが好ましい。
【0027】
次にトップフィルム14について説明する。トップフィルム14は、LED素子13が取り付けられた基板11の上から、これらをラミネート状に被覆するものであり、主に面発光体1の防水性を高める作用・目的を担う。もちろん、このような目的の他に、上記トップフィルム14は、LED素子13(面発光体1)を外力や太陽光から保護・強化する作用等も担っている。
【0028】
トップフィルム14としては、透過性に優れた透明プラスチックシートだけでなく、曇りガラスシート、スリガラスシート、内装用クロス、印刷物などの透過性の低い素材も適用でき、これらは主に面発光体1の使用形態(用途)によって適宜選択され得る(使い分けられる)。すなわち、従来の面発光体1は、専ら看板(内照式看板SB)に組み込むことを前提としていたため、トップフィルム14としても、LED素子13の光をほぼそのまま透過させる透明プラスチックシートに限定されていたが、本発明では、面発光体1を看板だけでなく、直接屋外に設けたり(筐体に収めることなく)、店舗や居室内における壁面や床面あるいは衝立、タペストリー等の電飾、更には窓面の電飾等の用途も想定しており、このために種々のトップフィルム14を想定している。言い換えれば、本発明において面発光体1の防水性を格段に向上させたのは、面発光体1を看板(内照式看板SB)以外の用途にも使用できるようにしたためとも言え、これにより屋内において水が掛かる浴室や水滴が付着する窓等への使用、あるいはプール、池、水槽などの底面や側面への使用も可能となったものである。因みに、面発光体1を内装材として壁面に設けた場合には、もはや面発光体1という概念よりは、むしろ光る壁(内装材)、つまり「照明機能を具えた壁面」あるいは「電飾機能を具えた内装材」という概念に近く、極めて新規な内装材(面発光体1)と言える。
【0029】
なお、上記数種のトップフィルム14のうち、透明プラスチックシートは、ほぼ、そのままLED素子13の光を透過させる思想であるため、上述したように主に面発光体1を看板(内照式看板SB)に組み込む形態が主に想定される。
これに対し、曇りガラスシートやスリガラスシートは、太陽光をそれほど遮らないため、例えば商業店舗の窓ガラスに面発光体1を設ける場合等に適し、昼間は店舗内に充分光を取り込みながら、夜間は窓ガラス面を電飾として利用できるものである。もちろん、このような曇りガラスシート等は、LED素子13の存在をぼやけさせるものであるから、非点灯時にはLED素子13が目立たなくなり、窓ガラスや壁面等に設置されるLED素子13を、店舗や居室の雰囲気とマッチさせ、違和感のない空間演出を実現するものである。
更に、一般の壁紙や印刷物は、LED素子13の存在をほぼ完全に隠蔽するものと言え、点灯時にはLED素子13の光を柔らかく透過させ、言わば幻想的な光を演出するトップフィルム14と言える。なお、壁紙や印刷物としては長尺シートの適用が可能である。
【0030】
このようなトップフィルム14の材質としては、機械的強度が大きく、耐候性(耐水性、耐熱性及び耐光性等)に優れ、加工性に良いものが好ましく、例えばポリスチレン、ポリエステル、塩化ビニル、ABS等が挙げられる。特に、ここでは強粘着高伸縮塩ビフィルム(一例として広島化成製の100ミクロン)を用いることが好ましく、この強粘着高伸縮塩ビフィルムは、素材中にピンホールがないため、このことが防水性向上に大きく寄与するものと考えられる。
更に、トップフィルム14を基板11(LED素子13)に張設する際には、フィルムをLED素子13の凹凸に密着させて貼り、LED素子13とトップフィルム14との間にエアが入り込まないようにするものであり、この具体的手法については後述する。
【0031】
また面発光体1には、このような主要部材以外にも、他の部材を設けることが可能であり、以下このような他の構成部材について説明する(図2参照)。
例えば面発光体1には、基板11におけるLED素子13と反対側の面(裏側とする)に、粘着剤(両面)を挟んで板厚0.5 mm程度のアルミ板15を設けることが可能であり、更にその裏側に粘着フィルムを設けることが可能である。なお、板厚0.5 mm程度のアルミ板15は、面発光体1の安定化、施工性の向上を図る目的で設けられるものであり、特に面発光体1を内装材として用いる場合には、アルミ箔(アルミテープ)等で代用するのが現実的である。また粘着剤は、アルミ板15を貼るための接合剤(接着剤)として設けられ、粘着フィルムは、錆止め保護の目的で設けられる。因みに、図中符号16は定電流回路である。
【0032】
面発光体1は、以上のような基本構造を有するものであり、以下、このような面発光体1に関し、本発明の特徴的事項について説明する。
(1)トップフィルムの密着接合
本発明では、LED素子13の凹凸形状に合わせてトップフィルム14を密着状態に張設するものであり、具体的にはLED素子13とトップフィルム14との間を真空状態にしてフィルムを張設する(真空圧着)。このような真空圧着を行うには、一例として図3に示すような真空圧着装置4を適用するものである。なお上記図3は、真空圧着の施工の様子を分かり易く示したものであり、接合処理を受ける基板11等と、装置との縮尺は同一ではない。また、本明細書において「(トップフィルム14を)密着状態に張設する」とは、LED素子13とトップフィルム14との間にエアが入り込まないようにする、つまりこれらの間に空気ダマリarを生じさせずにトップフィルム14を貼ることを意味する。以下、真空圧着装置4について説明する。
【0033】
上記図3に示す真空圧着装置4は、いわゆる「次世代成形法(Next Generation Forming;NGF)」の一種であり、上下に密閉可能な一組のボックスを設けて成る。ここで上側のボックスを41A、下側のボックスを41Bとし、上側ボックス41Aは下方が開口される一方、下側ボックス41Bは、上方が開口されて成り、上下のボックス41A、41Bを当接させた際に、張設するトップフィルム14を挟んで内部が密閉空間となる。ここで各ボックス内に形成される密閉空間を各々、41AR、41BRとする。
また、上側ボックス41Aは、ボックス自体が上下動自在に形成され、該ボックス内には電気ヒータ42が内蔵される。更に下側ボックス41Bは、不動状態に形成されるものの、その内部には、上下動可能な昇降テーブル43が設けられる。なお、図中符号44は圧空タンク、符号45は真空タンク、符号46は切換バルブである。
以下、この真空圧着装置4によって、トップフィルム14を密着状態に張設する作動態様について説明する。
【0034】
〔1〕準備作業
実質的な処理作業に先立ち、以下のような準備作業を行う。これには、まず図3(a)に示すように、離間開放状態にある下側ボックス41B内の昇降テーブル43に、LED素子13を取り付けた状態の基板11(これを中間製品1aとする)を載置する。次いで、下側ボックス41Bの上方を、枠Fに保持させたトップフィルム14によって覆うようにセットする。
【0035】
〔2〕加熱(真空)
その後、図3(b)に示すように、上側ボックス41Aを下降させて、トップフィルム14を上下のボックス41A、41Bで挟み込む。この状態で、上下のボックス41A、41B内には、トップフィルム14を挟んで各々独立した密閉空間41AR、41BRが形成される。また切換バルブ46を操作して、真空タンク45が密閉空間41ARにも作用するようにした後、両密閉空間41AR、41BRを同時に真空状態にする。
そして、両密閉空間41AR、41BRが、一定の真空度に達した後、上側ボックス41A内の電気ヒータ42を作動させ、トップフィルム14を加熱する。
【0036】
〔3〕一次成形
加熱によってトップフィルム14が所望の成形温度に達すると(フィルムの伸び率が最高となる温度が望ましい)、図3(c)に示すように、下側ボックス41B内の昇降テーブル43を上昇させて一次成形を行う。この一次成形において、トップフィルム14は、図示するように中間製品1aの最も高い位置(トップ面)に付着した状態となる。
【0037】
〔4〕二次成形
次に、上側ボックス41Aの内部(密閉空間41AR)のみ、真空を解除する。これには、図3(d)に示すように、切換バルブ46を操作して、密閉空間41ARを大気開放状態に切り換えた後、ここに大気を導入して、上側ボックス41A内を大気圧状態にする。このとき下側ボックス41B内すなわち中間製品1aが存在するトップフィルム14よりも下側の空間は、依然として真空状態であるため、上側ボックス41A内に導入した大気圧により、言い換えればトップフィルム14の上下に形成される圧力差によって、トップフィルム14が中間製品1aに押し付けられ、角部にも確実に密着する。
【0038】
このように、本発明では、トップフィルム14と中間製品1aとの間を真空状態にしてフィルムを張設するため、フィルムとLED素子13との間にエアが侵入することがない(空気ダマリarができない)ものである。また張設時にトップフィルム14を加熱しているためフィルムがよく伸びて、皺が発生することがなく、トップフィルム14をLED素子13の凹凸形状に密着させることができる。また、空気ダマリarができないことから、LED素子13が外部からの熱影響を受けにくい。逆に言えば、空気ダマリarができてしまった場合には、外部からの熱により閉じ込められた空気が膨張してLED素子13の脱落に繋がることが懸念されるが、本発明では空気ダマリarを発生させないため、LED素子13が抜け落ちてしまう心配もない。もちろん、本手法は、トップフィルム14自体を直接ローラ等により加圧してLED素子13に押し付ける手法ではないため、張設時にフィルムを裂いてしまう恐れもない。
【0039】
(2)トップフィルムとして強粘着高伸縮塩ビフィルムを適用
また本発明では、トップフィルム14に強粘着高伸縮塩ビフィルム(一例として広島化成製の100ミクロン)を適用することが好ましく、これにより上記真空圧着手法と相まって、トップフィルム14をLED素子13の凹凸形状に対し、ほぼ完全に密着させることができる。すなわち、上記トップフィルム14は、厚手のフィルムであり(一例として従来の約4/3倍程度の厚さ)、且つ伸縮性においても格段に優れているため、フィルムを高い伸び率で施工する上記真空圧着に好適であり、LED素子13の凹凸形状に充分に密着させることができるものである。
この点、従来のトップフィルム14′(図8参照)では、フィルム厚が薄く、また伸縮性(収縮性)も低いため、これをそのまま基板11に真空圧着しても、LED素子13の凹凸形状に密着させることは不可能である。その意味では、従来のトップフィルム14′は、あくまでもホットラミネータによる加圧施工を前提としたものと言える。なお、従来のトップフィルム14′をそのまま適用して、上記真空圧着を行った場合には、真空圧着の際にLED素子13の凹凸形状によってトップフィルム14′を裂いてしまう可能性が非常に高く、製品完成率も極めて低いものである。
【0040】
また、上記強粘着高伸縮塩ビフィルムは、素材中にピンホールがないため、このことが防水性向上に大きく寄与しているものと考えられる。すなわち、上記フィルムにはピンホールがないため、張設後に外表面からLED素子13側への水の侵入(透過)を高いレベルで防止でき、これにより防水性が格段に向上するものと考えられる。因みに、本出願人が行った試験では、上記フィルムを張設した面発光体1を水没させた後、4カ月経っても浸水が見られず、高い防水性を示したことが確認できている。また、このため面発光体1をケース等に収容せず、そのままの状態(露出状態)で、屋外や水が掛かる場所(例えば浴室の壁面等)にも設置することができ、極めて新規且つ幅広い用途を可能にし、面発光体1の豊富なバリエーション展開を可能とする。
【0041】
なお、上記トップフィルム14(強粘着高伸縮塩ビフィルム)は、「IP58」を取得したものであり、この「IP58」の「5」は第一特性数字の「5級」の意味であり、固形物に対する保護等級、いわゆる「防塵」についての保護等級を示している。因みに、この「5級」とは「有害な影響が発生するほどの粉塵が中に入らない(防塵形)」というものである。また、「IP58」の「8」は第二特性数字の「8級」の意味であり、水に対する保護等級を示している。この水に対する耐性レベルは、0〜8の等級が規定されており、6級までの場合は少なからず内部への浸水の可能性があり、8級は「防水」の最高レベルを示している。因みに、「防水の8級」とは「継続的に水没しても内部に浸水することがない(水中形)」というものである。
【0042】
(3)網目状の電気配線
更にまた本発明では、電気配線12は、一部がカットされても、そのカット(フリーカット)された欠損部分FCを迂回して残った各LED素子13に電流が流入するような回路(これを本明細書では「網目状回路」と称している)を形成することが好ましい(図4〜図6参照)。これにより、例えば面発光体1を内装材として施工する際、コンセント等のために面発光体1の一部を部分的にカットしても、残留したLED素子13を全て点灯させることが可能であり、極めて高い施工性を獲得することができる。
【0043】
なお、図6の電気配線12では、円形にカットされた欠損部分FCの右側に位置する三つのLED素子13が点灯しないが、これら三つのLED素子13は、ユニットの最外縁に位置するため、見栄え等に悪影響を及ぼさないことが多い。言い換えれば、現実にカットされた欠損部分FCと、実際に点灯しないLED素子13とに差があっても、点灯しないLED素子13(欠損部分FC以外)が最外縁であれば、暗がりの中では、その差が目立たず、これを意識する人も少ないと考えられる。また、たとえこのような欠損部分FCが、大きな発光面の中央に位置した場合でも、別のユニットを隣に並べる場合には、見た目の影響は極めて少ないと考えられる。つまり、このような場合、暗がりで面発光体1を視た人には、あたかも最初から九つのLED素子13を点灯させない正方形状にカットされた欠損部分FCに視え、点灯時の違和感を、それ程、感じさせないものと考えられる。
【0044】
また、電気配線12においては、このような欠損部分FCがどの部位に形成(開口)されていても、残留したLED素子13を、全て同じ明るさに点灯させることが望ましく、そのためには例えば各LED素子13に予め制御体を設けておき、これにより各LED素子13に流入する電流をほぼ均一に制御する手法(個別制御手法)が考えられる。
一方、このような個別制御に対し、例えば前記網目状回路の電流流入点の前段に、LED素子13に流れ込む電流を制御する安定器を予め設けておき、網目状回路が部分的にカットされた場合、この安定器によって、各LED素子13に流入する電流を一括制御する手法も考えられる。
【0045】
以下、このような面発光体1を組み込んで成る内照式看板SBについて説明する。内照式看板SBは、面発光体1の最も一般的な利用形態(用途)であって、図1に併せて示すように、看板表面21、側板22、背板23から成る看板ケース2内に、上記面発光体1を設置して成るものである。
看板表面21としては、強度のある繊維でできた部材の両面を半透明樹脂層で挟持した(一体化形成した)繊維シート(FFシート)やアクリルが好ましい。なお、LED素子13の縦・横の間隔が上述した約37.5mm程度であり、且つビュー角が約105度〜110度程度である場合、看板表面21がFFシートであれば、表示面とLED素子13との間隔は、約50mm程度で、LED素子13のドットが出ない(LED素子13からの発散光が均一になる)ことが本出願人によって確認されており、これは約50mm程度の薄い内照式看板SB(薄型電飾)の製作を可能にしたものと言える。また、看板表面21が5mm程度のアクリルであれば(上記と同じ設定)、内照式看板SBは更に薄い約40mm程度の寸法(35〜38mm)に抑え得ることが本出願人によって確認されている。
【0046】
なお、本発明の面発光体1は、このような内照式看板SBだけでなく、種々の用途が可能であり、例えばトップフィルム14として曇りガラスシート、スリガラスシート、内装用の壁紙、印刷物等を用いれば、住宅用の内装材として使用でき、また看板ケース2に収容せず、そのまま屋外で面発光体1を使用することも可能となる。また高い防水性を有することから、浴室などの水が掛かる場所での使用も可能となる。特に、屋内の壁面、窓、床面、衝立等を光らせる発想は、極めて新規な着想と言え、このような看板以外の用途は、従来には想到し得なかった面発光体1の全く新たな用途であり、本発明において特に顕著な効果の一つと言える。もちろん、屋内外を問わず、避難誘導ライン、手摺り誘導としての製品展開も可能である。
また本発明の面発光体1は、例えば図7に示すように大型オフィスビル等の天井照明にも適用できる。すなわち図7に示す実施例は、複数のパネルを縦・横に並べて天井面を構成するいわゆるグリッド天井システムであり、この際のパネルとしてLED素子13を適宜配置した本発明の面発光体1を用いるものである。これにより、壁面に設ける壁紙(面発光体1)の場合と同様に、照明ボックスが不要であること等から、厚みのない天井照明が実現でき、従ってスッキリとした且つ開放的な室内空間を形成することができる。
なお、グリッド天井システムにあっては、通常、照明機能を有したパネル(面発光体1)が、照明機能を持たないパネルと混在し、ある一定の間隔をあけて均等に配置されるものであるが、全てのパネルに照明機能を付すことも可能である。また、照明機能を付加するパネル(一枚のパネル)には、当該パネルの中央部を除いた周縁部分にLED素子13を配置するのが一般的であり、このためLED素子13が配置されないパネル中央部分にスピーカー、非常灯、煙感知器、空調用ディフューザー等を適宜組み込むことが可能である(図7の拡大図参照)。
因みにグリッド天井システムにおいて照明(照明機能を有したパネル)を均等配置する利点は、室内の明るさを調整し易く、室内のどこであっても適正照度を確保し易いことが挙げられる。また、フロアを間仕切って使用する場合等に、照明が邪魔にならず、またどのように間仕切っても適正照度が確保し易いという利点が挙げられる。
【符号の説明】
【0047】
1 面発光体
1a 中間製品
2 看板ケース
4 真空圧着装置
11 基板
12 電気配線(プリント配線)
13 LED素子
14 トップフィルム
15 アルミ板
16 定電流回路
21 看板表面
22 側板
23 背板
41A 上側ボックス
41AR 密閉空間
41B 下側ボックス
41BR 密閉空間
42 電気ヒータ
43 昇降テーブル
44 圧空タンク
45 真空タンク
46 切換バルブ
ar 空気ダマリ
F 枠
FC 欠損部分
R 加圧ローラ
SB 内照式看板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気配線を有した屈曲可能な基板と、この基板上にほぼ規則的に配置される複数のLED素子と、LED素子の表面に張設されるトップフィルムとを具えて成る面発光体において、
前記トップフィルムを基板上に張設するにあたっては、トップフィルムをLED素子の凹凸形状に充分密着させて貼着するようにしたことを特徴とする面発光体。
【請求項2】
前記トップフィルムをLED素子の凹凸形状に充分密着させて張設するにあたっては、LED素子とトップフィルムとの間を真空にして、加熱したトップフィルムをLED素子の表面に圧着するようにしたことを特徴とする請求項1記載の面発光体。
【請求項3】
前記トップフィルムには、強粘着高伸縮塩ビフィルムが適用されることを特徴とする請求項1または2記載の面発光体。
【請求項4】
前記トップフィルムには、透明フィルムだけでなく、曇りガラスシート、スリガラスシート、内装用の壁紙、印刷物などの透過性の低い素材も適用されることを特徴とする請求項1、2または3記載の面発光体。
【請求項5】
看板表面と、側板と、背板とを具えて成る看板ケース内に、面発光体を設置して成る看板において、この面発光体は、前記請求項1、2、3または4記載の面発光体を適用して成ることを特徴とする内照式看板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−215641(P2011−215641A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−157492(P2011−157492)
【出願日】平成23年7月19日(2011.7.19)
【分割の表示】特願2008−532515(P2008−532515)の分割
【原出願日】平成20年3月25日(2008.3.25)
【出願人】(507349938)株式会社アムクルー (3)
【Fターム(参考)】