説明

音場シミュレーションシステム

【課題】 本発明は、計算精度の高い虚像法と、計算負荷の低い音線追跡法とを併用することにより、計算量を大幅に削減しつつ、障壁の多い住宅内の音環境を回折現象を補うよう演算し、より実測値に近い良好な結果を得ることのできる音場シミュレーションシステムを提供することを目的としている。
【解決手段】 上記課題を解決するために、本発明に係る音場シミュレーションシステムの代表的な構成は、建物情報および音源情報を入力する入力手段と、音線追跡法および虚像法を用いて音線の反射による経路を演算する経路演算手段と、前記音線の経路に沿って音圧レベルを演算する音圧レベル演算手段とを備え、前記経路演算手段は、前記虚像法における受音点を仮音源の位置としてさらに音線追跡法を用いて経路を演算し、前記音圧レベル演算手段は、前記受音点について虚像法において算出された音圧を仮音源の音圧として、さらに音線追跡法において音圧レベルの演算を行うことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
音線追跡法および虚像法を両方用いる音場シミュレーションシステムであって、住宅などの複雑な形状をした建物における音の伝達を簡易かつ高速に演算するためのシステムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、コンピュータを用いた音の伝達のシミュレーションが行われている。以前は有限要素法や境界要素法などを用いた波動解析が主流であったが、波動解析は膨大な計算量になるため、演算の所要時間が長く、また多くのコンピュータ資源を必要とするという問題がある。
【0003】
そこで近年は、音線法と呼ばれる演算方法が多く用いられている。これは音源から発せられる音を量子化して音線として表現し、反射して到達する音線の音圧を演算することで音の伝達を表現するものである。さらに音線法は、大別して音線追跡法と虚像法とに分けることができる。
【0004】
音線追跡法は、まず音源から基本的には全方位に向けて所定の間隔で多数の音線を設定し、その音線のベクトルと壁との交点を割り出す。そしてベクトルと壁の角度に応じて反射する音線の方向を求め、次の交点を割り出す。反射があらかじめ定めた所定回数に到達していれば、それ以上の反射はさせない(音線の終端は壁との交点になる)。全ての音線について交点と経路が決定すると、距離による減衰と反射による減衰を考慮しつつ、それぞれの経路に沿って音圧レベルを計算する。なお、音圧レベルの計算は、経路の演算が全て終了する前に(例えば一つの音線経路が決定するごとに)行うことでも良い。
【0005】
虚像法は、受音点を設定し、障壁に対称な位置に音源の虚像を作成し、この虚像と受音点を結ぶ音線と障壁の交わる点を交点(反射点)として求める。2回反射、3回反射を考える場合には、まず最初に反射しうる障壁に対称な位置に虚像を設定し、次に反射しうる障壁について虚像の虚像を作成し、このように反射次数に応じて重畳的な虚像を作成する。音圧レベルの計算については、上記と同様である。このように計算することにより、音線密度が安定することから計算精度が向上し、また計算量の大幅な削減を図ることができる。
【0006】
音線追跡法および虚像法は、いずれも音線を用いて計算するものであり、波動解析を行う方法に較べ、計算が比較的簡易であり、かつ計算量も少ないため、音環境のシミュレートを行う上で有効な手段であることが知られている。特に、音線法はホールなど閉空間の解析に向いており、例えば特開平6−11386などのように虚像法との併用で簡易でありかつ良好なシミュレーション結果を得ることが可能となっている。
【0007】
【特許文献1】特開平06−011386号公報
【特許文献2】特開平07−092018号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、音線法の中でも、音線追跡法と虚像法では、それぞれ特性が異なる。音線追跡法は、計算量が少ないために、反射次数を増やしてもさほど演算の負荷は増加しない。しかし、音源から離れるほどに音線の密度が低くなってしまい、また場所によって密度のばらつきが多くなってしまうため、精度が低いという問題がある。虚像法は、受音点に対する音線を演算することから、音線の粗密は生じにくいため音線密度が安定し、計算精度は高くなり、特定の受音点(観測範囲)についてのみ結果を得たい場合には計算量の大幅な削減を図ることができる。しかし住宅の間取り全体について演算をするとなると、波動回析ほどではないものの音線追跡法よりもはるかに計算量が多くなり、また反射次数を増やせば演算の負荷は指数関数的に増大するという問題がある。
【0009】
そして、音線法は原則として反射により音の伝達を求めるものであって、音の波動性を無視している。音源に対し壁などの遮音壁の陰になる部分には、現実には回折現象により音が回りこんで伝達されるが、音線法では回折現象を再現することは難しい。このため音線法はホールなどの比較的単純な形状の空間のシミュレーションには適しているが、形状の複雑な住宅において音の伝達を考慮することには不向きであるといえる。音線の反射次数を増やせば陰になる部分にも音線を到達させることは可能であるが、特に虚像法で反射次数を増やすことは計算量が指数的に増加するため、現実的ではない。
【0010】
従来からも、音線法を用いて回折現象の解析を補うための提案はなされている。例えば特許文献2(特開平07−092018)には、音線が壁に衝突した際に二次音線を発生させるのであるが、特に壁のエッジに衝突した場合にのみ二次波を発生させることにより、計算量を大幅に削減しつつ回折現象を再現できるとする提案がなされている。
【0011】
しかし、上記特許文献2に係る提案にあっては、音線追跡法を用いて壁のエッジに衝突する音線は極めて少なく、もしくはその存在すら不確定であり、演算結果の信頼性を担保することは難しい。
【0012】
そこで本発明は、計算精度の高い虚像法と、計算負荷の低い音線追跡法とを併用することにより、計算量を大幅に削減しつつ、障壁の多い住宅内の音環境において音線の到達しない範囲をも大幅に削減し、より実測値に近い良好な結果を得ることのできる音場シミュレーションシステムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、本発明に係る音場シミュレーションシステムの代表的な構成は、建物情報および音源情報を入力する入力手段と、音線追跡法および虚像法を用いて音線の反射による経路を演算する経路演算手段と、前記音線の経路に沿って音圧レベルを演算する音圧レベル演算手段とを備え、前記経路演算手段は、前記虚像法における受音点を仮音源の位置としてさらに音線追跡法を用いて経路を演算し、前記音圧レベル演算手段は、前記受音点について虚像法において算出された音圧を仮音源の音圧として、さらに音線追跡法において音圧レベルの演算を行うことを特徴とする。このように、まず精度の高い虚像法によって演算し、その結果を用いてさらに音線追跡法によって演算することにより、反射次数を増加させても計算量が大幅に増加することはなく、計算負荷を増大させずに良好な結果を得ることができる。
【0014】
また、前記建物情報において、音が衝突する遮音壁のうち音が回折しうる端部を遮音端部とすると、前記仮音源とする受音点は、多数ある受音点のうち、虚像法において前記受音点と音源とを結ぶ音線が前記遮音端部に最も近接するものであることを特徴とする。回折しうる遮音壁の端部とは、すなわち音源から見て、遮音壁の向こう側に空間がある場合の壁の角部や突出部をいう。このように構成することにより、音源から音線が届きやすい部分については精度の高い虚像法により演算し、音源からの音線が届きにくい部分については、届きやすい位置から音線追跡法によって演算を行うことができ、少ない計算量によって音線の届かない範囲を大幅に削減することができる。
【0015】
また、前記仮音源とする受音点は、音源から発せられた音線が反射せずに到達する受音点であることを特徴とする。計算の簡略化、または仮音源の設定の容易化を図るためである。
【0016】
また、前記経路演算手段により、前記仮音源から音線追跡法を用いて演算する音線の経路は、音源から発せられた音線が反射せずに到達する領域を除外することを特徴とする。音源から直接的に音線が到達する部分については、精度の高い虚像法による演算が可能であるため、その部分について音線追跡法を演算することを省略することにより、計算量の削減を図ることができるからである。
【0017】
また、所定の観測範囲を設定し、音線追跡法および虚像法のそれぞれの経路演算において前記観測範囲を通過する音線の密度に基づいて、いずれかの方法による演算結果を選択し、または両方の演算結果を合わせることにより、最終的な音圧を演算する調整演算手段を備えたことを特徴とする。いずれの方法においても、音線の数が少ない場合には演算結果の信頼性が低下するため、演算方法を按分することにより、より妥当な結果を得ることができるからである。
【0018】
また、前記調整演算手段は、音線追跡法および虚像法のそれぞれの音線の密度に対し、いずれかの方法による演算結果を選択するか、または両方の演算結果を合わせるかについての設定を保持した方式選択テーブルを備えることを特徴とする。いずれかの方法による演算結果を選択するための構成の例である。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、計算精度の高い虚像法と、計算負荷の低い音線追跡法とを併用することにより、計算量を大幅に削減しつつ、障壁の多い住宅内の音環境において音線の到達しない範囲をも大幅に削減し、より実測値に近い良好な結果を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明に係る音場シミュレーションシステムの実施形態について説明する。図1は本実施例に係る音場シミュレーションシステムの概略構成図、図2は虚像法による音線の到達限界を説明する図、図3は音線追跡法による音線の到達する状態を説明する図、図4は演算方式の選択を説明する図、図5は本実施例の特徴的な動作を説明するフローチャートである。
【0021】
図1に示すように、本システムは、システム本体1、入力手段2、出力手段3から構成されている。入力手段2は演算に必要な情報を入力する手段であって、キーボードやマウスなどの入力装置、および記憶媒体、ネットワークなどが含まれる。出力手段3は演算結果を出力するものであり、画面表示するモニタ、印刷するプリンタ、およびデータとして保存する記録媒体などが含まれる。
【0022】
システム本体1の記憶領域11には、入力手段2から入力された建物情報と、音源情報が格納される。建物情報は、建物の間取り、各部屋の寸法や壁の厚さなどの空間座標情報、および壁の材質や種類などの障壁情報、さらに家具などについての配置や音の吸音率、反射率を含む。音源情報は、音源の空間座標(位置)、音源の特性(周波数特性、指向性、強度)を含む。またシステム本体1は反射率データベース12を備え、壁の材質や種類に対してその反射率を格納している。なお、反射率データベース12は必ずしも本体内に組み込まれている必要はなく、必要に応じてネットワーク型やCDROMなどの記録媒体による供給も可能である。
【0023】
またシステム本体1は、音線の経路を演算する経路演算手段13、仮音源設定手段14、音圧レベル演算手段15、調整演算手段16、方式選択テーブル16aを備える。経路演算手段13は音線の経路を演算し、障壁と音線の交点を算出するものであって、本実施例では音線追跡法および虚像法の両方の方式で経路を演算可能となっている。音圧レベル演算手段15は、算出した音線の経路に沿って、壁との交点(反射点)、音線追跡法における音線の端点、虚像法における受音点の音圧レベルを算出するものであって、音源の強度や壁の反射率を用いて演算する。仮音源設定手段14は音線追跡法における音源としての仮音源を設定するもの、調整演算手段16は虚像法と音線追跡法による計算結果を按分するものであって、詳細な動作については後述する。これらのシステム本体1の各要素はCPU10に接続され、所定の処理が行われる。
【0024】
なお、実際上は、記憶領域11はRAMまたはハードディスクなどの記憶手段であり、反射率データベース12、方式選択テーブル16aは記憶手段に保存されたテーブル(構造データ)である。また経路演算手段13、仮音源設定手段14、音圧レベル演算手段15、および調整演算手段16はプログラムによって実現されるモジュールであって、CPU10に読み込まれてハードウェアとして所定の動作をする。
【0025】
音線追跡法および虚像法の演算手法については、既によく知られているため、ここでは詳細な説明を割愛する。簡略な説明については、従来技術の項に記載したとおりである。
【0026】
次に、図2〜図4を用いて、本発明の特徴的な処理について説明する。図2に示す間取り20は本実施例における住宅の間取りを示しており、全体的に略コの字状となっており、二つの部屋を廊下でつないだイメージである。一方の部屋の角部に音源21を配置している。
【0027】
図2は虚像法による音線の到達限界を説明する図である。ここで虚像法を用いることにより、受音点22を一定間隔(本実施例では1m間隔としている)で設定し、音線23の端部は必ず受音点22となり、壁と音線23との交点(反射点)は受音点22に限られない任意の位置となる。図では音線23が到達する領域を陽部Aとし、到達しない範囲を陰部Bとして斜線にて表している。そして音線23は陽部Aと陰部Bとの境界となるもののみを図示し、陽部A内にあるその他の音線は記載を省略している。
【0028】
図2(a)は、音線23が反射することなく直接到達しうる範囲を表している。図からわかるように、音が衝突する遮音壁のうち、壁20aの端部は現実には音が回折しうる端部であり、これを遮音端部20bと称する。しかし音線法では回折現象は再現できないため、図に示すような陰部Bが発生してしまう。
【0029】
図2(b)は虚像法における反射次数を1とした場合(1回反射させる)の音線の到達範囲を示し、同様に、図2(c)、図2(d)はそれぞれ反射次数を2,3とした場合の到達範囲を示している。これらの図により、反射次数を増やすことにより、複雑な形状の間取り20であっても、到達範囲(陽部A)が広がることがわかる。ただし虚像法においては虚像の設定が煩雑であるため、反射次数を増やすことによって計算量(計算時間)が指数関数的に増加するという問題がある。
【0030】
そこで本実施例では、虚像法における特定の受音点を仮音源として、音線追跡法によって更に演算し、これらの結果を按分して考慮することにより、計算の負荷を増加させることなく、さらに精度の高い結果を得る。
【0031】
図3は、音線追跡法による音線の到達する状態を説明する図である。音線法は音源から一定間隔(角度)で音線を生成させて計算するものであるから、受音点というものは存在せず、所定の観測範囲にどのくらいの音(音線×それぞれの音圧)が伝達されたかを求めるものである。なお観測範囲とは、水平面内において例えば30cm四方の領域として設定することができる。
【0032】
図3(a)は、仮音源の設定を説明する図である。本実施例において仮音源22aは、図2(a)に示したように、多数ある受音点22のうち、虚像法において受音点22と音源21とを結ぶ音線23が遮音端部20bに最も近接するものである。そして仮音源22aにおいて設定する音線24は、陰部Bに向かうもののみとすることが好ましい。
【0033】
図3(b)は、音線24が反射することなく直接到達しうる範囲を表している。仮音源22aが虚像法における1回目の交点であることを考慮すれば図2(c)の2回反射と対比すべきであるが、はるかに到達範囲(陽部A)が広いことがわかる。同様に図3(c)、図3(d)はそれぞれ反射次数を1,2とした場合の到達範囲を示している。本実施例の間取り20においては、図3(d)に示すように、音線追跡法の2回反射によって陰部Bが消滅することがわかる。
【0034】
ここで、虚像法のほうが精度が高いことから、なるべく虚像法で広い範囲を演算した方が好ましいことは明らかである。そこで、本実施例では仮音源を、虚像法において反射することなく直接到達できる受音点としたが、さらに1回反射、2回反射により到達しうる受音点を仮音源とすることでもよい。これにより、回折しうる陰部のさらに奥深い箇所を始点として音線追跡法を開始することが可能となる。ただし反射次数を増やすほどに仮音源の個数が増加するため、音線追跡法といえども計算負荷が増大し、また仮音源の設定漏れなどが生じるおそれがある。
【0035】
また、いずれの受音点22を仮音源とする仮音源設定手段14は、計算により自動的に特定することが考えられる。ただし形状から自動的に仮音源とすべき受音点を決定するためのロジックは、煩雑なものとなってしまう。一方、仮音源の数はそう多いものではない。そこで、仮音源設定手段14は入力手段とし、手作業により仮音源を直接指定したり、または遮音端部20bを手作業で特定してこれに最も近づく音線についての受音点を算出するよう構成することでもよい。
【0036】
また、仮音源22aの位置は受音点22を選択することにより定まるが、その音圧は虚像法による音圧レベルの演算をしてからでないと決定できない。そのため、少なくとも音線追跡法による音圧レベルを計算する前に、虚像法による音圧レベルを計算する必要がある。
【0037】
また、図2および図3においては音線の到達する範囲のみを図示しているが、陽部Aの中にも粗密が発生している。そこで本実施例では、虚像法においても複数回の反射次数を設定し、音線追跡法を重ねて計算している。そして、所定の観測範囲内に到達した音線の本数により、いずれかの方法による演算結果を選択し、または両方の演算結果を合わせることとしている。
【0038】
図4(a)は、所定の残響室にて音響実験を行い、虚像法と音線追跡法によってシミュレート計算を行い、音線密度と計算結果を実測値と比較したグラフである。音線の本数の違いは、部位により音線の粗密が生じるために生じるものである。図からわかるように、実測値は一定して60.5dBであるのに対し、虚像法は音線を5本程度要し、それ以後はほぼ安定して実測値と一致している。音線追跡法は、実測値に近づくまでに音線7本程度を要し、しかもそれ以上増えた場合は実測値と誤差を生じてしまっている。これらのことから、音線が少ない(足りない)場合にあっても虚像法の方が信頼性が高く、十分な数の音線がある場合には虚像法の結果のみがあれば足りることがわかる。
【0039】
そこで本実施例では、同一の観測範囲内に存在する虚像法および音線追跡法による本数に応じて、いずれの計算結果を採用するかにつき、図4(b)に示すように定めている。すなわち、虚像法による音線の本数が5本以上ある場合には、虚像法の結果のみを採用する。虚像法による音線が1本もない場合には、音線追跡法の結果を採用する。虚像法による音線の本数が4本以下である場合には、両方の計算結果を按分する。例えば、((虚像法による音圧×虚像法による音線本数)+(音線追跡法による音圧×音線追跡法による音線本数))/音線の総本数 とすることにより、双方の信頼性を考慮した結果を得ることができる。
【0040】
このような判断基準は、方式選択テーブル16aとしてあらかじめ設定しておくことが好ましく、調整演算手段16(プログラム)がこれを読み込むことにより、最終的な音圧レベルを出力する。
【0041】
上記説明したシステムの動作を、図5に示すフローチャートを用いて説明する。まずは入力手段2を用いて、住宅の建物情報(間取りおよび壁などの吸音率、反射率、家具の種類や配置情報など)を入力し(S1)、音源情報および反射次数を入力する(S2)。反射次数は、虚像法と音線追跡法のそれぞれについて設定する。このとき、あわせて受音点22を設定し、さらに仮音源22aとなる受音点(または遮音端部20b)を特定する。
【0042】
そして経路演算手段13により、虚像法による経路計算を行う(S3)。計算は、設定反射次数に至るまで繰り返す(S4)。上述したように、仮音源22aは反射せずに到達しうる受音点22に設定するが、虚像法による計算はさらに高次の反射次数に設定している。次に、再び経路演算手段13により、音線追跡法による経路計算を行う(S5)。計算は、設定反射次数に至るまで繰り返す(S6)。
【0043】
そして、音圧レベル演算手段15は、虚像法における受音点の音圧を計算する(S7)。このとき仮音源22aの音圧レベルも算出されるので、これを用いて音線追跡法の音圧レベルも算出する(S8)。
【0044】
調整演算手段16は、各観察範囲につき、方式選択テーブル16aを参照して演算結果を選択し、または按分して、最終的な音圧レベルを算出する(S9)。計算結果は、CPU10が出力手段3によって出力する(S10)。
【0045】
上記説明した如く構成したことにより、計算負荷を増大させることなく、音線の全く届かない陰部を消滅させることができる。
【0046】
すなわち、虚像法のみを用いて陰部を消滅させるために反射次数を増やすと指数関数的に計算負荷が増大するところを、音線追跡法をあわせて計算したことにより、虚像法における反射次数をある程度に抑えたとしても陰部を消滅させることができる。また、音線追跡法のみを用いて計算した場合に比べて、虚像法をあわせて計算したことにより、計算精度を向上させることが可能となっている。
【0047】
さらに、単に2つの方法で計算した場合に比べて、虚像法における途中の受音点を仮音源として音線追跡法を行うことにより、虚像法では音線が届きにくい部分を集中的に音線追跡法によって計算することができる。特に、遮音壁のうち音が回折しうる遮音端部に音線が近接する受音点を仮音源とすることにより、陰部を極めて少ない反射回数で消滅させることができ、計算負荷を飛躍的に軽くすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明は、住宅など障壁の多い建物内の音場シミュレーションシステムに利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】実施例に係る音場シミュレーションシステムの概略構成図である。
【図2】虚像法による音線の到達限界を説明する図である。
【図3】音線追跡法による音線の到達する状態を説明する図である。
【図4】演算方式の選択を説明する図である。
【図5】本実施例の特徴的な動作を説明するフローチャートである。
【符号の説明】
【0050】
A …陽部
B …陰部
1 …システム本体
2 …入力手段
3 …出力手段
10 …CPU
11 …記憶領域
12 …反射率データベース
13 …経路演算手段
14 …仮音源設定手段
15 …音圧レベル演算手段
16 …調整演算手段
16a …方式選択テーブル
20 …間取り
20a …壁
20b …遮音端部
21 …音源
22 …受音点
22a …仮音源
23 …音線
24 …音線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物情報および音源情報を入力する入力手段と、
音線追跡法および虚像法を用いて音線の反射による経路を演算する経路演算手段と、
前記音線の経路に沿って音圧レベルを演算する音圧レベル演算手段とを備え、
前記経路演算手段は、前記虚像法における受音点を仮音源の位置としてさらに音線追跡法を用いて経路を演算し、
前記音圧レベル演算手段は、前記受音点について虚像法において算出された音圧を仮音源の音圧として、さらに音線追跡法において音圧レベルの演算を行うことを特徴とする音場シミュレーションシステム。
【請求項2】
前記建物情報において、音が衝突する遮音壁のうち音が回折しうる端部を遮音端部とすると、
前記仮音源とする受音点は、多数ある受音点のうち、虚像法において前記受音点と音源とを結ぶ音線が前記遮音端部に最も近接するものであることを特徴とする請求項1記載の音場シミュレーションシステム。
【請求項3】
前記仮音源とする受音点は、音源から発せられた音線が反射せずに到達する受音点であることを特徴とする請求項1記載の音場シミュレーションシステム。
【請求項4】
前記経路演算手段により、前記仮音源から音線追跡法を用いて演算する音線の経路は、音源から発せられた音線が反射せずに到達する領域を除外することを特徴とする請求項1記載の音場シミュレーションシステム。
【請求項5】
所定の観測範囲を設定し、
音線追跡法および虚像法のそれぞれの経路演算において前記観測範囲を通過する音線の密度に基づいて、
いずれかの方法による演算結果を選択し、または両方の演算結果を合わせることにより、最終的な音圧を演算する調整演算手段を備えたことを特徴とする請求項1記載の音場シミュレーションシステム。
【請求項6】
前記調整演算手段は、音線追跡法および虚像法のそれぞれの音線の密度に対し、いずれかの方法による演算結果を選択するか、または両方の演算結果を合わせるかについての設定を保持した方式選択テーブルを備えることを特徴とする請求項5記載の音場シミュレーションシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−208273(P2006−208273A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−22745(P2005−22745)
【出願日】平成17年1月31日(2005.1.31)
【出願人】(303046244)旭化成ホームズ株式会社 (703)
【Fターム(参考)】